説明

磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録再生装置

【課題】磁性層の表面を酸化またはハロゲン化させることなく、かつ、ダストによって表面が汚染されず、製造工程が複雑にならない磁気的に分離した磁気記録パターンが形成された磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法であって、非磁性基板1上に磁性層2を形成する工程と、磁性層2の上に磁気記録パターンを形成するためのカーボンからなるマスク層3を形成する工程と、磁性層2のマスク層3に覆われていない部位7に水素化カーボンイオンを含むイオンビーム10を照射し、磁性層2に非磁性体である炭化コバルトを形成する工程と、マスク層3を除去する工程と、をこの順で有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置、フレキシブルディスク装置、磁気テープ装置等の磁気記録装置の適用範囲は著しく増大されその重要性が増すと共に、これらの装置に用いられる磁気記録媒体について、その記録密度の著しい向上が図られつつある。特に、MRヘッドおよびPRML技術の導入以来面記録密度の上昇はさらに激しさを増し、近年ではさらにGMRヘッド、TMRヘッドなども導入され、1年に約50%ものペースで増加を続けている。
【0003】
これらの磁気記録媒体については、今後更に高記録密度を達成することが要求されており、そのために磁性層の高保磁力化と高信号対雑音比(SNR)、高分解能を達成することが要求されている。また、近年では線記録密度の向上と同時にトラック密度の増加によって面記録密度を上昇させようとする努力も続けられている。
【0004】
最新の磁気記録装置においてはトラック密度が320kTPIにも達している。しかし、トラック密度を上げていくと、隣接するトラック間の磁気記録情報が互いに干渉し合い、その境界領域の磁化遷移領域がノイズ源となりSNRを損なうという問題が生じやすくなる。このことはそのままBit Error rateの悪化につながるため記録密度の向上に対して障害となっている。
【0005】
また、面記録密度を上昇させるためには、磁気記録媒体上の各記録ビットのサイズをより微細なものとし、各記録ビットに可能な限り大きな飽和磁化と磁性膜厚を確保する必要がある。しかし、記録ビットを微細化していくと、1ビット当たりの磁化最小体積が小さくなり、熱揺らぎによる磁化反転で記録データが消失するという問題が生じる。
【0006】
また、トラック間距離が近づくために、磁気記録装置は極めて高精度のトラックサーボ技術を要求されると同時に、記録は幅広く実行し、再生は隣接トラックからの影響をできるだけ排除するために記録時よりも狭く実行する方法が一般的に用いられている。この方法ではトラック間の影響を最小限に抑えることができる反面、再生出力を十分得ることが困難であり、そのために十分なSNRを確保することがむずかしいという問題がある。
【0007】
このような熱揺らぎの問題やSNRの確保、あるいは十分な出力の確保を達成する方法の一つとして、記録媒体表面にトラックに沿った凹凸を形成し、記録トラック同士を物理的に分離することによってトラック密度を上げようとする試みがなされている。このような技術を以下にディスクリートトラック法、それによって製造された磁気記録媒体をディスクリートトラック媒体と呼ぶ。
また、同一トラック内のデータ領域を更に分割した、いわゆるパターンドメディアを製造しようとする試みもある。
【0008】
ディスクリートトラック媒体の一例として、表面に凹凸パターンを形成した非磁性基板に磁気記録媒体を形成して、物理的に分離した磁気記録トラック及びサーボ信号パターンを形成してなる磁気記録媒体が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
この磁気記録媒体は、表面に複数の凹凸のある基板の表面に軟磁性層を介して強磁性層が形成されており、その表面に保護膜を形成したものである。この磁気記録媒体では、凸部領域に周囲と物理的に分断された磁気記録領域が形成されている。
【0010】
この磁気記録媒体によれば、軟磁性層での磁壁発生を抑制できるため熱揺らぎの影響が出にくく、隣接する信号間の干渉もないので、ノイズの少ない高密度磁気記録媒体を形成できるとされている。
【0011】
ディスクリートトラック法には、何層かの薄膜からなる磁気記録媒体を形成した後にトラックを形成する方法と、あらかじめ基板表面に直接、あるいはトラック形成のための薄膜層に凹凸パターンを形成した後に、磁気記録媒体の薄膜形成を行う方法がある(例えば、特許文献2,特許文献3参照。)。
【0012】
また、ディスクリートトラック媒体の磁気トラック間領域を、あらかじめ形成した磁性層に窒素、酸素等のイオンを注入し、または、レーザを照射することにより、その部分の磁気的な特性を変化させて形成する方法が開示されている(特許文献4〜6参照。)。
【0013】
以上のように、磁気的に分離した磁気記録パターンを有する、いわゆる、ディスクリートトラックメディアやパターンドメディアの製造に際し磁気記録パターンを形成する方法を大別すると、(1)酸素やハロゲンを用いた反応性プラズマもしくは反応性イオンを磁性層の一部に晒すことにより磁性層の磁気特性を改質し磁気記録パターンを形成する方法と、(2)磁性層の一部をイオンミリングにより加工して磁気記録パターンを形成し加工箇所に非磁性材料を充填して表面を平滑化する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−164692号公報
【特許文献2】特開2004−178793号公報
【特許文献3】特開2004−178794号公報
【特許文献4】特開平5−205257号公報
【特許文献5】特開2006−209952号公報
【特許文献6】特開2006−309841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、上述した(1)の製造方法は磁性層を物理的に加工する必要がないためダストの発生が少なく清浄で平滑な表面を得やすい利点があるが、磁性層の表面が酸化またはハロゲン化するという欠点がある。そして、この酸化またはハロゲン化した部位を起点として、磁気記録媒体の腐食(磁性層に含まれるコバルト等の磁性粒子のマイグレーション)が発生する問題がある。
【0016】
また、(2)の製造方法では、磁性層を物理的に加工するためダストが発生し磁気記録媒体の表面が汚染されるという問題がある。加えて、加工時のダストが表面に付着し、これが原因で磁気記録媒体の表面の平滑性が低下するという問題もある。更に、磁性層の加工箇所に非磁性材料を充填する必要があり製造工程が複雑となるという問題点もある。
【0017】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、磁性層の表面を酸化またはハロゲン化させることなく、かつ、ダストによって表面が汚染されず、製造工程が複雑にならず、磁気的な分離性能をより向上させた磁気記録パターンが形成された磁気記録媒体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、以下の手段を提供する。
(1)磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法であって、非磁性基板上に磁性層を形成する工程と、前記磁性層の上に磁気記録パターンを形成するためのカーボンから成るマスク層を形成する工程と、前記磁性層の前記マスク層に覆われていない部位に水素化カーボンイオンを含むイオンビームを照射し前記磁性層に非磁性体である炭化コバルトを形成する工程と、前記マスク層を除去する工程と、をこの順で有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(2)前記マスク層に覆われていない部位における前記磁性層中の全コバルト量のうち、80原子%以上を炭化コバルトとすることを特徴とする(1)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(3)前記イオンビームが、ハロゲンを含まないことを特徴とする(1)または(2)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(4)(1)ないし(3)のいずれかに記載の製造方法により得られた磁気記録媒体と、該磁気記録媒体に情報を記録再生する磁気ヘッドと具備してなることを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、イオンビームとして水素化カーボンイオンを含んだイオンを用いるので、磁性層のイオン照射部の非磁性化を高い効率で行うことができる。
【0020】
また、本発明では、磁気記録媒体の磁気記録パターンが非磁性体である炭化コバルトで形成されるので、磁気記録パターンの磁気的な分離性の信頼性が向上する。
【0021】
また、本発明では、マスク層としてカーボンを、イオンビーム照射には水素化カーボンイオンを含んだイオンを用いており、マスク層と注入するイオンとが類似物質であるため、質量、原子・分子サイズが似ている。そのため、イオンビームを照射する際、マスク層がダメージを受けにくく、マスク層の遮蔽性が向上し、炭化コバルトの形成部位と非形成部位との境界が明瞭になり、磁気記録パターンを明確に形成することが可能となる。
【0022】
また、本発明では、イオンビームがハロゲンを含まず、また還元性であるため、磁性層でハロゲン化物が生成することがなく、また磁性層を酸化させることがない。よって、磁気記録媒体が大気と触れることでハロゲン化物が基点となって腐食するということがなくなり、また磁気記録媒体の製造工程で磁性層が酸化されることもなくなった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の磁気記録媒体の製造方法を示す断面工程図である。
【図2】図2は、本発明の製造方法によって製造された磁気記録媒体が適用された磁気記録再生装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、本実施形態の磁気記録媒体は、非磁性基板の表面に軟磁性層、中間層、磁気パターンが形成された磁性層、保護膜を積層した構造を有し、さらに表面には潤滑膜が形成されている。もっとも、非磁性基板及び磁性層以外は適宜設けて構わない。
【0025】
本実施形態の磁気記録媒体の製造方法は、図1に示すように、非磁性基板1に磁性層2を形成する工程Aと、磁性層2の上にマスク層3を形成する工程Bと、マスク層3の上にレジスト層4を形成する工程Cと、レジスト層4に磁気記録パターンのネガパターンを、スタンプ5を用いて転写する工程Dと、マスク層3で磁気記録パターンのネガパターンに対応する部位6を除去する工程Eと、レジスト層4側の表面から磁性層2のマスク層3に覆われていない部位7にイオンビームを照射し、磁性層2に非磁性体である炭化コバルトを形成し、磁気記録パターンを形成する工程Fと、レジスト層4及びマスク層3をドライエッチングで除去する工程Gと、磁性層2の表面を保護膜9で覆う工程Hとを、この順で有している。以下これらの工程について詳細に説明する。
【0026】
まず、非磁性基板1に磁性層2を形成する(工程A)。
通常、磁性層2を形成する方法としてはスパッタ法を用いるが、適宜の方法で構わない。
本実施形態で使用する非磁性基板1としては、Alを主成分とした例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、各種樹脂からなる基板など、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。中でもAl合金基板や結晶化ガラス等のガラス製基板又はシリコン基板を用いることが好ましい。
また、これら基板の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下であることが好ましく、0.5nm以下であることがより好ましく、0.1nm以下であることが最も好ましい。
【0027】
また、本実施形態で非磁性基板1に形成される磁性層2は、面内磁性層でも垂直磁性層でもかまわないが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁性層が好ましい。これら磁性層2は主としてCoを主成分とする合金から形成するのが好ましい。
【0028】
面内磁気記録媒体用の磁性層2としては、例えば、非磁性のCrMo下地層と強磁性のCoCrPtTa磁性層からなる積層構造が利用できる。
【0029】
垂直磁気記録媒体用の磁性層2としては、例えば、軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等からなる裏打ち層と、Pt、Pd、NiCr、NiFeCrなどの配向制御膜と、必要によりRu等の中間膜、及び60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金からなる記録層を積層したものを利用することがきる。
【0030】
記録層の厚さの範囲は、下限が3nmであることが好ましく、5nmであることがより好ましく、上限が20nmであることが好ましく、15nmであることがより好ましい。
また、記録層は使用する磁性合金の種類と積層構造に合わせて、十分なヘッド出入力が得られるように形成すればよい。
記録層の膜厚は、再生の際に一定以上の出力を得るためにはある程度以上の厚さであることが必要であり、一方で記録再生特性を表す諸パラメーターは出力の上昇とともに劣化するのが通例であるため、最適な膜厚に設定する必要がある。
【0031】
次に、磁性層2の上にマスク層3を形成する(工程B)。
本願発明ではマスク層3としてカーボンを用いる。また、マスク層3はスパッタリング法、またはCVD法により成膜することができるが、より緻密性の高いマスク層3を成膜するためにはCVD法を用いることが特に好ましい。
【0032】
マスク層3の膜厚は5nm〜40nmの範囲内とすることが好ましく、10nm〜30nmの範囲内とすることがより好ましい。
マスク層3の膜厚が5nmより薄い場合は、マスク層3の角部が丸まった形状となり、磁性層2に対する加工精度が低下してしまう。また、後述する工程Fにおいて、レジスト層4とマスク層3を透過したイオンが磁性層2に侵入して、磁性層2のパターニング精度を悪化させてしまう。
一方、マスク層3が40nmよりも厚くなると、後述する工程Eにおいて、マスク層3をエッチングする際、エッチングに要する時間が長くなってしまい、生産性が低下する。また、マスク層3をエッチングする際の残渣が磁性層2表面に残留しやすくなってしまう。
【0033】
また、カーボンからなるマスク層3は、後述する工程Gにおける、ドライエッチングによって容易にエッチングすることができる。そのため、ドライエッチングによる残留物を減らし、磁気記録媒体21表面の汚染を減少させることができる。
【0034】
次に、マスク層3を形成した後、マスク層3の上にレジスト層4を形成し(工程C)、レジスト層4に磁気記録パターンのネガパターンを、スタンプ5を用いて転写する(工程D)。
この際、レジスト層4に磁気記録パターンのネガパターンを転写した後の、レジスト層4のネガパターンに対応する部位11の厚さlを、0〜10nmの範囲内とするのが好ましい。
レジスト層4の部位11の厚さlをこの範囲とすることにより、マスク層3のエッチング工程(工程E)において、マスク層3のエッジの部分のダレを無くし、マスク層3のミリングイオンに対する遮蔽性を向上させ、また、マスク層3による磁気記録パターン形成特性を向上させることができる。
【0035】
また、レジスト層4には、放射線照射により硬化性を有する材料を用い、レジスト層4にスタンプ5を用いてパターンを転写する工程の際、又は、パターン転写工程の後に、レジスト層4に放射線を照射するのが好ましい。
ここでいう放射線とは、熱線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線等の広い概念の電磁波である。また、放射線照射により硬化性を有する材料とは、例えば、熱線に対しては熱硬化樹脂、紫外線に対しては紫外線硬化樹脂である。
【0036】
このような製造方法を用いることにより、レジスト層4に、スタンプ5の形状を精度良く転写することが可能となり、マスク層3のエッチング工程(工程E)において、マスク層3のエッジの部分のダレを無くし、マスク層3のミリングイオンに対する遮蔽性を向上させ、また、マスク層3による磁気記録パターン形成特性を向上させることができる。
【0037】
特に、レジスト層4の流動性が高い状態でレジスト層4にスタンプ5を押圧し、その押圧した状態で放射線を照射することでレジスト層4を硬化させ、その後、スタンプ5をレジスト層4から離すことにより、スタンプ5の形状を精度良くレジスト層4に転写することが可能となる。
【0038】
レジスト層4にスタンプ5を押圧した状態でレジスト層4に放射線を照射する方法としては、スタンプ5の反対側すなわち非磁性基板1側から放射線を照射する方法、スタンプ5の材料として放射線を透過できる物質を選択し、スタンプ5側から放射線を照射する方法、スタンプ5の側面から放射線を照射する方法、熱線のように固体に対して伝導性の高い放射線を用いて、スタンプ5材料または非磁性基板1からの熱伝導により放射線を照射する方法を用いることができる。
【0039】
また、レジスト層4の材料としてノボラック系樹脂、アクリル酸エステル類、脂環式エポキシ類等の紫外線硬化樹脂を用い、スタンプ5の材料として紫外線に対して透過性の高いガラスもしくは樹脂を用いるのが好ましい。
【0040】
また、スタンプ5は、金属プレートに電子線描画などの方法を用いて微細なトラックパターンを形成したものが使用でき、材料としてはプロセスに耐えうる硬度、耐久性が要求される。例えば、Niなどが使用できるが、前述の目的に合致するものであれば材料は問わない。スタンプ5には、通常のデータを記録するトラックの他にバーストパターン、グレイコードパターン、プリアンブルパターンといったサーボ信号のパターンも形成できる。
【0041】
レジスト層4に磁気記録パターンのネガパターンを転写した後は、レジスト層4のネガパターンに対応する部位11とマスク層3のネガパターンに対応する部位6とを、エッチングによって除去する(工程E)。
【0042】
その後、レジスト層4側表面から磁性層2のマスク層3に覆われていない部位7に水素化カーボンイオンを含むイオンビーム10を照射する。これにより、部位7の磁性層2に水素化カーボンイオンを含むイオンが注入され、非磁性体である炭化コバルトが形成される(工程F)。
【0043】
この際、磁性層2の上層部が水素化カーボンイオンを含むイオン注入により僅かに除去される場合がある。この除去される深さが15nmより大きくなると、磁気記録媒体の表面平滑性が悪化し、磁気記録再生装置を製造した際の磁気ヘッドの浮上特性が悪くなる。
【0044】
イオンビーム10により注入する水素化カーボンイオンは、例えば、CH4+、CH3+、CH2+やCHを用いるとよい。また、イオンビーム10の照射による炭化コバルトの形成量については、イオン注入部である磁性層2の下層部8の全コバルト量のうち、80原子%以上を炭化コバルトとすることが好ましい。80原子%より少ないと、非磁性化が不十分となるため好ましくない。
【0045】
また、イオンビーム10の加速電圧の範囲としては、下限が、0.3keVが好ましく、0.45keVがより好ましく、0.8keVが最も好ましく、上限が、3.5keVが好ましく、2.5keVがより好ましく、2.2keVが最も好ましい。
0.3keVより小さいと、水素化カーボンイオンの注入深さが低下することとなり、不都合がある。また、3.5keVより大きいと、マスク耐性不良となって不都合となる。
【0046】
以上の工程により、磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁性層2が形成される。そして、磁気的に分離した磁気記録パターンが形成されたことで、磁気記録媒体に磁気記録を行う際の書きにじみをなくし、高い面記録密度の磁気記録媒体を提供することが可能となる。
【0047】
その後、レジスト層4及びマスク層3をドライエッチングで除去し(工程G)、磁性層2の表面を保護膜9で覆う(工程H)。
【0048】
なお、本実施形態では、レジスト層4及びマスク層3の除去としてドライエッチングを用いたが、反応性イオンエッチング、イオンミリング、湿式エッチング等の手法を用いても構わない。
【0049】
また、保護膜9の形成は、一般的にはDiamond Like Carbonの薄膜をP−CVDなどを用いて成膜する方法が行われるが特に限定されるものではない。
保護膜9としては、炭素(C)、水素化炭素(HxC)、窒素化炭素(CN)、アルモファスカーボン、炭化珪素(SiC)等の炭素質層やSiO2、Zr23、TiNなど、通常用いられる保護膜材料を用いることができる。
【0050】
また、保護膜9が2層以上の層から構成されていてもよい。
ただし、保護膜9の膜厚は10nm未満とする必要がある。保護膜9の膜厚が10nmを超えるとヘッドと磁性層2との距離が大きくなり、十分な出入力信号の強さが得られなくなるからである。
【0051】
本実施形態では、保護膜9の上には潤滑層を形成することが好ましい。潤滑層に用いる潤滑剤としては、フッ素系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤及びこれらの混合物等が挙げられ、通常1〜4nmの厚さで潤滑層を形成する。
【0052】
以上の工程により、磁気的に分離した磁気記録パターンが形成された磁気記録媒体21が得られる。
なお、本実施形態でいう磁気的に分離した磁気記録パターンとは、磁気記録媒体を表面側から見た場合、磁性層2が非磁性化した領域12により分離された状態を指す。すなわち、磁気記録媒体の表面側から見て、磁性層2が、領域12に形成された非磁性体である炭化コバルトにより分離されていれば、磁性層2の底部において分離されていなくともよく、磁気的に分離した磁気記録パターンの概念に含まれる。
【0053】
また、本実施形態でいう磁気記録パターンは、領域12が完全に非磁性である必要はない。すなわち、領域12が僅かに保磁力や飽和磁化を有している場合であっても、磁気ヘッドが磁気記録パターン部に読み書きを行うことが可能であれば磁気的に分離した磁気記録パターンとすることができる。
【0054】
また、本実施形態でいう磁気記録パターンとは、磁気記録パターンが1ビットごとに一定の規則性をもって配置された、いわゆるパターンドメディアや、磁気記録パターンが、トラック状に配置されたメディアや、その他、サーボ信号パターン等を含んでいる。
この中で特に、磁気的に分離した磁気記録パターンが、磁気記録トラック及びサーボ信号パターンである、いわゆる、ディスクリート型磁気記録媒体に適用するのが、その製造における簡便性から好ましい。
【0055】
本実施形態では、磁性層2のマスク層3に覆われていない部位7にイオンビーム10を照射し、照射部位7の磁気特性を非磁性化する工程を採用した。これにより、表面が清浄で平滑な磁気記録媒体が得られる。
【0056】
また、イオンビーム10として水素化カーボンイオンを含んだイオンを用いるので、磁性層2に含まれるコバルトの炭化を高い効率で行うことができる。
【0057】
また、磁性層2のイオン注入部には非磁性体である炭化コバルトが形成されるため、磁気記録パターンの磁気的な分離性を確保することができる。
【0058】
また、イオンビーム照射で用いる水素化カーボンイオンは活性が高いため、炭化コバルトを形成しやすく、磁気記録パターンの磁気的な分離性の信頼性をより向上させることができる。
【0059】
さらに、マスク層3と注入するイオンとが類似物質であるため、質量、原子・分子サイズが似ている。そのため、イオンビームを照射する際、マスク層3がダメージを受けにくく、マスク層3の遮蔽性が向上し、磁気記録パターンを明確に形成することが可能となる。
さらに、マスク層3に用いるカーボンは、反応性ガスを用いたドライエッチングが容易であるため、ドライエッチングした際(工程G)の、残留物を減らし、磁気記録媒体表面の汚染を減少させることができる。
【0060】
また、イオンビーム10が酸素及びハロゲンを含まないので、磁性層2が酸化またはハロンゲン化することがない。特にハロゲンを含まないことにより、ハロゲン化物が生成することがなく、これにより、大気と触れることでハロゲン化物が基点となって腐食するということもなくなった。
【0061】
図2は、上述した磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置の一例を示すものである。
図2に示す磁気記録再生装置は、上述した磁気記録媒体21と、これを記録方向に駆動する媒体駆動部22と、記録部と再生部からなる磁気ヘッド23と、磁気ヘッド23を磁気記録媒体21に対して相対運動させるヘッド駆動部24と、磁気ヘッド23への信号入力と磁気ヘッド23からの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を組み合わせた記録再生信号系25とを具備して構成されている
【0062】
このような構成を採用したことにより、記録密度の高い磁気記録装置を得ることが可能となる。
磁気記録媒体21の記録トラックを磁気的に不連続に加工したことによって、従来はトラックエッジ部の磁化遷移領域の影響を排除するために再生ヘッド幅を記録ヘッド幅よりも狭くして対応していたものを、両者をほぼ同じ幅にして動作させることができる。これにより十分な再生出力と高いSNRを得ることができるようになる。
【0063】
さらに磁気ヘッド23の再生部をGMRヘッドあるいはTMRヘッドで構成することにより、高記録密度においても十分な信号強度を得ることができ、高記録密度を持った磁気記録装置を実現することができる。
また、この磁気ヘッド23の浮上量を0.005μm〜0.020μmと、従来より低い高さで浮上させると、出力が向上して高い装置SNRが得られ、大容量で高信頼性の磁気記録装置を提供することができる。更に、最尤復号法による信号処理回路を組み合わせるとさらに記録密度を向上できる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
HD用ガラス基板をセットした真空チャンバをあらかじめ1.0×10−5Pa以下に真空排気した。ここで使用したガラス基板はLi2Si25、Al23−K2O、Al23−K2O、MgO−P25、Sb23−ZnOを構成成分とする結晶化ガラスを材質とし、外径65mm、内径20mm、平均表面粗さ(Ra)は2オングストロームである。
【0065】
このガラス基板にDCスパッタリング法を用いて、軟磁性層としてFeCoB、中間層としてRu、記録層として70Co−5Cr−15Pt−10SiO2合金の順に薄膜を積層した。それぞれの層の膜厚は、FeCoB軟磁性層は60nm、Ru中間層は10nm、記録層は15nmとした。
【0066】
記録層の上に、スパッタ法を用いてマスク層を形成した。マスク層にはカーボンを用いて膜厚は20nmとした。
続いて、マスク層の上に、レジストをスピンコート法により塗布し、レジスト層を形成した。レジストには、紫外線硬化樹脂であるノボラック系樹脂を用いた。また膜厚は60nmとした。
【0067】
次に、レジスト層の上に、磁気記録パターンのネガパターンを有するガラス製のスタンプを用いて、スタンプを1MPa(約8.8kgf/cm2)の圧力で、レジスト層に押圧した。その状態で、波長250nmの紫外線を、紫外線の透過率が95%以上であるガラス製のスタンプの上部から10秒間照射し、レジストを硬化させた。その後、スタンプをレジスト層から分離し、磁気記録パターンを転写した。レジスト層に転写した磁気記録パターンは、レジスト層の凸部が幅64nmの円周状、レジスト層の凹部(ネガパターンに対応する部位)が幅30nmの円周状であり、レジスト層の凸部の厚さは65nm、レジスト層の凹部の厚さは約15nmであった。また、レジスト層の凹部の基板面に対する角度は、ほぼ90度であった。
【0068】
その後、レジスト層及びマスク層のネガパターンに対応する部位をドライエッチングで除去した。ドライエッチング条件は、レジスト層のエッチングに関しては、O2ガスを40sccm、圧力0.3Pa,高周波プラズマ電力300W、DCバイアス30W、エッチング時間10秒とした。マスク層のエッチングに関しては、O2ガスを50sccm、圧力0.6Pa、高周波プラズマ電力500W、DCバイアス60W、エッチング時間30秒とした。
【0069】
その後、記録層でマスク層に覆われていない箇所について、その表面に水素化カーボンイオンを含むイオンビームを照射した。水素化カーボンイオンはメタンガスと水素ガスとの10:1の混合ガスを用いてRFプラズマによって生成した。そして、生成したRFプラズマの発光分光によりプラズマ中のCH4+、CH3+、CH2+、CH、C、Hイオンを確認し、RF投入電力を調整してC、Hイオンに対する、CH4+、CH3+、CH2+、CHイオンのシグナル強度比が高まるように調整した。この水素化カーボンイオンを用いて、注入エネルギー11keV、ドーズ量2.8×1016原子/cmのイオンビームを形成した。このイオンビームによる記録層へのイオン注入時間は30秒とした。
なお、マスク層を設けない磁気記録媒体を用いた予備実験により、このイオン注入による記録層に含まれるCoの炭化で記録層の飽和磁化(Ms)が注入前の0.8%となることを確認した。
【0070】
その後、レジスト層及びマスク層をドライエッチングにより除去し、その表面にCVD法にてカーボン保護膜を4nm成膜し、その後、潤滑剤を1.5nm塗布して磁気記録媒体を製造した。
【0071】
以上の方法で製造した磁気記録媒体の電磁変換特性(SNRおよび3T−squash)、ヘッド浮上高さ(グライドアバランチ)を測定した。電磁変換特性の評価はスピンスタンドを用いて実施した。このとき評価用のヘッドには、記録には垂直記録ヘッド、読み込みにはTuMRヘッドを用いて、750kFCIの信号を記録したときのSNR値および3T−squashを測定した。
製造された磁気記録媒体は、SNRが13.8dB、3T−squashが89 %でありRW特性に優れ、また、ヘッド浮上特性も安定していた。すなわち、磁気記録媒体表面の平滑性が高く、磁性層のトラック間の非磁性部による分離特性が優れていた。
【符号の説明】
【0072】
1・・・非磁性基板、2・・・磁性層、3・・・マスク層、7・・・磁性層のマスク層に覆われていない部位、8・・・下層部、10・・・イオンビーム、21・・・磁気記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法であって、
非磁性基板上に磁性層を形成する工程と、
前記磁性層の上に磁気記録パターンを形成するためのカーボンから成るマスク層を形成する工程と、
前記磁性層の前記マスク層に覆われていない部位に水素化カーボンイオンを含むイオンビームを照射し、前記磁性層に非磁性体である炭化コバルトを形成する工程と、
前記マスク層を除去する工程と、をこの順で有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記マスク層に覆われていない部位における前記磁性層中の全コバルト量のうち、80原子%以上を炭化コバルトとすることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記イオンビームが、ハロゲンを含まないことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の製造方法により得られた磁気記録媒体と、該磁気記録媒体に情報を記録再生する磁気ヘッドと具備してなることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−89220(P2012−89220A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237570(P2010−237570)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】