説明

磁気記録媒体の製造方法

【課題】磁気記録媒体を製造する場合に、量産性を損なうことなく、温度分布の偏りに起因する磁気特性のばらつきを抑える。
【解決手段】基板12と、磁気記録を行うために基板上に成膜された磁性層とを少なくとも備える磁気記録媒体の製造方法において、磁性層を成膜する前、途中あるいは成膜後に基板12の両主表面を加熱する加熱工程を備え、加熱工程は、基板12の一方の主表面と対向する面内に所定の配列で配置されたヒータ304Aを有する第1加熱部302Aと、基板12の他方の主表面と対向する面内に第1加熱部302Aと異なる配列で配置されたヒータ304Bを有する第2加熱部302Bとを備える加熱装置202を用いて基板を加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばHDD用長手磁気記録媒体等の磁気記録媒体は、ガラス基板や金属基板などの非磁性の基板の主表面上に少なくとも磁性層、保護層、及び潤滑層がこの順に積層された構造になっている。これらの層(薄膜)は、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法などにより形成される。これらの層の成膜前又は成膜の途中の工程においては、所望の磁気特性を得るために、ヒータによる基板加熱が行われる。
【0003】
また、近年、磁気記録媒体として、外径寸法が3.5インチや3.0インチから2.5インチ、更には、1.0インチ以下のものが採用されるようになっている。このような磁気記録媒体のうち、外径寸法が比較的小径のものを製造する場合、上記の層の成膜を複数の基板に対して同時に行うことが検討されている。また、このために、複数の基板を保持する基板ホルダを用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2001−11625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の基板加熱を行う場合に、基板を所望の温度に加熱できないと、所望の磁気特性が得られないこととなる。そのため、例えば、各基板の面内に温度分布の偏りが生じた場合、基板の面内の位置によって磁気特性がばらつくこととなる。
【0005】
また、例えば複数の基板を保持する基板ホルダを用いた場合、基板加熱を複数の基板に対して一括して行うこととなる。この場合、基板ホルダ上の基板位置により、温度分布の偏りが生じるおそれがある。そのため、この温度分布に起因して、基板個々の磁気特性にばらつきが発生するおそれがある。
【0006】
ここで、この問題点の解決策としては、例えば、スループットを落として基板加熱の時間を長くし、基板の温度分布の偏りを抑える方法も考えられる。しかし、この方法を用いた場合、量産性が大きく損なわれてしまうこととなる。本発明では、量産性を損なうことなく上記の課題を解決できる磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
(構成1)基板と、磁気記録を行うために基板上に成膜された磁性層とを少なくとも備える磁気記録媒体の製造方法において、磁性層を成膜する前、途中あるいは成膜後に基板の両主表面を加熱する加熱工程を備え、加熱工程は、基板の一方の主表面と対向する面内に所定の配列で配置されたヒータを有する第1加熱部と、基板の他方の主表面と対向する面内に第1加熱部と異なる配列で配置されたヒータを有する第2加熱部とを備える加熱装置を用いて基板を加熱する。加熱工程は、例えば、下地層、磁性層、又は磁性層上に形成される層(保護層等)の特性を制御するために、基板を加熱する。
【0008】
このようにした場合、第1加熱部及び第2加熱部は、基板の表面側及び裏面側のそれぞれにおいて、異なる分布で熱を発生する。そのため、基板が受ける熱の分布が平均化され、温度分布の偏りが生じにくい。従って、このようにすれば、磁気特性のばらつきを適切に抑えることができる。また、両主表面から基板を加熱することにより、短時間で適切に基板を加熱できる。そのため、量産性を損なうことなく、温度分布の偏りに起因する磁気特性のばらつきを抑えることができる。また、例えば複数の基板を同時に加熱する場合も、同様に、各基板の位置による温度分布の偏りに起因する磁気特性のばらつきを抑えることができる。更に、例えば、磁性層を成膜後にその上に成膜する保護層についても、温度分布の偏りに起因する硬さや密度等の膜質の基板間及び基板内のばらつきを抑制できる。尚、磁気記録媒体は、例えば、長手磁気記録方式用の磁気ディスクである。この場合、加熱工程は、例えば、磁性層の成膜前に基板の両主表面を加熱する。加熱工程は、磁性層の成膜前から成膜後までの期間、基板の両主表面を加熱してもよい。
【0009】
また、この磁気記録媒体は、垂直磁気記録方式用の磁気ディスクであってもよい。この場合、磁気記録媒体は、磁性層として、例えば、軟磁性裏打ち層(SUL)及び垂直磁気記録層を備える。加熱工程は、例えば、軟磁性裏打ち層の成膜途中に、基板の両主表面を加熱する。加熱工程は、垂直磁気記録層の成膜途中に、基板の両主表面を加熱してもよい。軟磁性裏打ち層の成膜前から垂直磁気記録層の成膜後までの期間、基板の両主表面を加熱してもよい。また、垂直磁気記録層は、例えば、グラニュラー構造に形成される。垂直磁気記録層をグラニュラー構造とした場合、磁性粒子を微細化する必要がある。この場合、構成1のようにすれば、垂直磁気記録層を安定して形成することができるため、結晶粒径に対して高い精度を実現できる。そのため、磁気特性のばらつきを適切に抑えることができる。また、基板と磁性層との間に形成される軟磁性裏打ち層の磁化容易軸制御のための加熱処理においても、軟磁性裏打ち層を均一な温度に保てることにより、基板間及び基板内の磁区制御のばらつきを抑えることができる。
【0010】
(構成2)加熱工程は、複数の基板を保持する基板ホルダを用いて、複数の基板を同時に加熱する。このようにすれば、基板ホルダ上の基板位置による温度分布の偏りが生じにくくなる。そのため、基板個々の磁気特性のばらつきを抑えることができる。
【0011】
(構成3)第1加熱部は、基板の主表面と平行な第1の方向に延伸する複数のヒータを有し、第2加熱部は、基板の主表面と平行、かつ第1の方向と垂直な第2の方向に延伸する複数のヒータを有する。
【0012】
このようにすれば、基板の表面側及び裏面側に、異なる配列のヒータを適切に設けることができる。第1加熱部の各ヒータ、及び第2加熱部の各ヒータは、ヒータ毎に個別(独立)に出力制御可能であることが望ましい。このようにすれば、基板表面の温度分布を高い精度で調整できる。
【0013】
(構成4)磁性層は、インライン型の成膜装置で成膜され、加熱装置は、成膜装置内の加熱室に設けられており、第1の方向は、加熱室内で基板が運搬される移動方向であり、第1加熱部は、当該移動方向に並べられた、当該移動方向と垂直な方向に延伸する複数のヒータを有し、第2加熱部は、当該移動方向と垂直な方向に並べられた、当該移動方向に延伸する複数のヒータを有し、加熱工程は、第1加熱部の複数のヒータを同じ出力に制御し、第2加熱部の複数のヒータを、並びの中央のヒータに比べて外側のヒータの出力が大きくなるように制御する。
【0014】
このようにした場合、加熱室内において、基板は、第1加熱部の各ヒータを順次横切るように運搬される。この場合、ヒータの延伸する方向と基板の移動方向とが垂直になるため、移動方向について温度分布の偏りは生じにくい。
【0015】
しかし、例えば上記の第1加熱部のみを設けた場合を考えると、移動方向と垂直な方向については、ヒータの形状等の影響により、温度分布が生じるおそれがある。例えば、基板において、各ヒータの中央付近を横切る部分と比べ、ヒータの両端付近を横切る部分の温度が低くなるおそれがある。これに対し、構成4のようにすれば、基板表面における温度分布のばらつきを適切に抑えることができる。
【0016】
(構成5)磁性層は、静止対向型の成膜装置で成膜され、第1加熱部のヒータ、及び第2加熱部のヒータは、共通の一定の間隔で並べられており、加熱工程は、第1加熱部において隣接する2つのヒータ、及び第2加熱部において隣接する2つのヒータに囲まれる正方形領域の頂点又は中心と基板の中心とが重なるように基板を保持して、基板を加熱する。
【0017】
このようにすれば、基板の面内における温度分布の偏りが生じにくくなる。また、これにより、磁気特性を基板の面内で均一化できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、磁気記録媒体を製造する場合に、量産性を損なうことなく、温度分布の偏りに起因する磁気特性のばらつきを抑えることができる。また、磁性層を成膜後にその上に成膜する保護層についても、温度分布の偏りに起因する硬さや密度等の膜質の基板間及び基板内のばらつきを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法で製造される磁気記録媒体10の構成の一例を示す。図1(a)は、磁気記録媒体10を示す平面図である。図1(b)は、磁気記録媒体10の概略断面図である。磁気記録媒体10は、HDD(ハードディスクドライブ)用の磁気ディスクであり、非磁性の基板12の主表面上に第1の下地層14、第2の下地層16、磁性層18、保護層20、及び潤滑層22をこの順に積層した構造を有している。尚、磁気記録媒体10は、上記以外の層を更に備えてもよい。また、例えば複数の磁性層18を備えてもよい。更に多くの下地層を備えてもよい。
【0020】
基板12は、中心穴を有する円形の基板であり、例えば、アルミノシリケートガラス等の化学強化ガラスからなる。また、基板12は、外径が3.5インチ径以下(例えば、3.5、3.0、2.5、1.8、1.0、0.85インチ径)の小径基板である。
【0021】
下地層14、16は、磁性層18の結晶構造を制御するための層である。磁性層18は、磁気記録を行うための層である。下地層14、下地層16、及び磁性層18は、例えばDCマグネトロンスパッタリング法などの物理気相成長法により、基板12の主表面上に順次成膜される。保護層20は、耐摩耗性を向上させて磁性層18を保護するための層である。保護層20は、例えばアモルファスのダイヤモンドライクカーボンからなり、磁性層18上に、例えばDCマグネトロンスパッタリング法あるいはプラズマCVD法で成膜される。潤滑層22は、磁気記録媒体10と磁気ヘッドとが接触した場合の衝撃を緩和するための層である。保護層20は、例えばパーフルオロポリエーテルの層であり、ディップ法やスピンコート法あるいは真空蒸着法で形成される。
【0022】
図2は、磁気記録媒体10の各層の成膜方法を説明する図である。図2(a)は、各層を成膜するための成膜装置100の構成の第1の例を示す。成膜装置100は、基板12を直線搬送しつつ成膜を行うインライン型の成膜装置であり、仕込室102、加熱室104、反応室106、カーボンスパッタ室108、及び取出室110を備える。
【0023】
仕込室102は、基板ホルダ50に保持された基板12を成膜装置100に取り入れるためのチャンバである。仕込室102は、基板ホルダ50が設置された後に真空排気される。加熱室104は、各層の成膜前の加熱工程を行うためのチャンバである。本例において、加熱室104には、基板12の両主表面を加熱するための加熱装置202が設けられている。
【0024】
反応室106は、DCマグネトロンスパッタリング法で磁気記録媒体10の各層を成膜するためのチャンバである。本例において、反応室106には、下地層14、下地層16、及び磁性層18のそれぞれに対応するターゲット204A〜Cが設けられている。これにより、基板12が反応室106内を搬送される間に、基板12上に、下地層14、下地層16、及び磁性層18が順次成膜される。
【0025】
カーボンスパッタ室108は、DCマグネトロンスパッタリング法で保護層20を成膜するためのチャンバである。取出室110は、各層が成膜された後の基板12を大気中に取り出すためのチャンバである。尚、潤滑層22は、例えばカーボンスパッタ室108又は取出室110内等の成膜装置100内で形成されてもよく、成膜装置100から基板12を取り出した後に形成されてもよい。以上のようにすれば、磁気記録媒体10を適切に形成できる。
【0026】
図2(b)は、成膜時に基板12を保持するための基板ホルダ50の一例を示す。本例において、基板ホルダ50は、各行10枚づつ計5行(R1〜R5)に並べた基板12を保持する四角板状体である。これにより、基板ホルダ50は、全50枚の2.5インチ径の基板12を同時に保持する。そのため、成膜装置100は、50枚の基板12に対して同時に成膜を行う。また、成膜装置100に設けられた加熱装置202は、50枚の基板12を同時に加熱する。尚、必要な品質と量産性とを両立させる観点等から、基板ホルダ50は、例えば10〜200個、より好ましくは50〜100個の基板12を同時に保持することが好ましい。
【0027】
図3は、加熱装置202の構成の一例を示す。図3(a)は、加熱装置202の上面図である。この上面図は、基板12の主表面と平行かつ成膜装置100での基板ホルダ50の移動方向と垂直な方向から見た加熱装置202を示す。図3(b)は、加熱装置202を構成する第1加熱部302A及び第2加熱部302Bの構成を示す正面図である。この正面図は、第1加熱部302A及び第2加熱部302Bにおいて基板12の主表面と対向する面を示す。
【0028】
第1加熱部302Aは、基板12の一方の主表面(表面)と対向する側に設けられており、基板ホルダ50の移動方向と垂直な方向(以下、V方向という)に延伸する複数のヒータ304Aを有する。これらのヒータ304Aは、基板12の表面と対向する面内において、基板ホルダ50の移動方向(以下、H方向という)に並べられている。尚、このH方向は、加熱室104(図2参照)内で基板12が運搬される移動方向である。
【0029】
第2加熱部302Bは、基板12の他方の主表面(裏面)と対向する側に設けられており、H方向に延伸する複数のヒータ304Bを有する。これらのヒータ304Bは、基板12の裏面と対向する面内において、V方向に並べられている。尚、以下の説明において、並べられたヒータ304Bのそれぞれを、図の上側から順にH1〜H7とする。
【0030】
以上の構成により、基板ホルダ50に保持された基板12は、表裏で90度角度を変えて配列されたヒータ304A、304Bにより加熱される。そのため、各基板12が受ける熱の分布は平均化され、温度分布の偏りが生じにくい。従って、このようにすれば、加熱後に成膜される磁性層18(図1参照)の磁気特性のばらつきを適切に抑えることができる。
【0031】
尚、本例において、ヒータ304A、304Bは、個別に出力制御可能である。加熱工程において、第1加熱部302Aのヒータ304Aは、例えば、同じ出力に制御される。また、第2加熱部302Bのヒータ304Bは、並びの中央のヒータ304B(例えばH4等)に比べて外側のヒータ304B(例えばH1、H7等)の出力が大きくなるように制御される。このようにすれば、温度分布の偏りをより適切に抑えることができる。
【0032】
また、第1加熱部302Aのヒータ304Aは、例えば、第2加熱部302Bの中央のヒータ304Bよりも高い出力に制御される。このようにすれば、第1加熱部302Aのヒータ304Aをメインのヒータとして用い、第2加熱部302Bのヒータ304Bを補助的なヒータとして用いることにより、温度分布の制御が行いやすくなる。
【0033】
ここで、本発明を、実施例及び比較例を用いて更に詳しく説明する。
(実施例1)
50枚の基板12を装着した基板ホルダ50を仕込室102に設置して、仕込室102を真空排気した後、基板ホルダ50を加熱室104に移動させた。加熱室104において、等間隔に配置された6本のヒータ304Aを有する第1加熱部302A、及び等間隔に配置された7本のヒータ304Bを有する第2加熱部302Bを用いて加熱工程を行った。
【0034】
【表1】

表1は、各ヒータ304A、304Bの電圧設定値(最大設定値に対する割合、%)を示す。ヒータ304A、304Bとしては、同じランプヒータを用いた。ヒータ304A、304Bの出力電圧の最大設定値は等しい。
【0035】
実施例1においては、第1加熱部302Aの全てのヒータ304Aの電圧設定値を35%とした。また、第2加熱部302Bのヒータ304Bのうち、並びの中央のヒータ304B(H3〜H5)電圧設定値を0%とし、その他のヒータ304B(H1、H2、H6、H7)の電圧設定値を15%とした。
【0036】
加熱工程を行った後、反応室106において、基板12の主表面上に、NiAl層、CrW層、NiAl層、CrV層、CoCr層、CoCrPtTa層、CoCrPtB層、及びCoCrPtTaB層を順次成膜した。これらの層のうち、NiAl層、CrW層、NiAl層、及びCrV層は、下地層14、16(図1参照)に相当する層である。また、CoCr層、CoCrPtTa層、CoCrPtB層、及びCoCrPtTaB層は磁性層18(図1参照)に相当する層である。
【0037】
続いて、カーボンスパッタ室108において、保護層20となるC層(炭素層)を更に成膜した。また、潤滑層22を更に形成した。以上の工程により、実施例1に係る磁気記録媒体を作製した。
【0038】
(比較例2、3)
加熱工程における各ヒータ304A、304Bの電圧設定値以外は実施例1と同様にして、比較例2、3に係る磁気記録媒体を作製した。比較例1においては、第1加熱部302Aの全てのヒータ304Aの電圧設定値を35%とした。また、第2加熱部302Bの全てのヒータ304Bの電圧設定値を0%とした。これにより、比較例1においては、V方向に延伸するヒータ304Aのみを用いて、基板12を片面から加熱した。
【0039】
また、比較例2においては、第1加熱部302Aの全てのヒータ304Aの電圧設定値を0%とした。また、第2加熱部302Bの全てのヒータ304Bの電圧設定値を15%とした。これにより、比較例2においては、H方向に延伸するヒータ304Bのみを用いて、基板12を片面から加熱した。
【0040】
図4は、実施例1、及び比較例1、2の評価結果を示すグラフである。実施例1、及び比較例1、2について、基板ホルダ50の各行(R1〜R5)毎に、行の中心に保持されていた2枚の磁気記録媒体に対して、磁気特性である媒体保磁力Hrを測定した。そして、各行(R1〜R5)について、2枚の磁気記録媒体10の測定結果の平均値を、その行の測定値とした。尚、グラフにおいては、実施例1、及び比較例1、2のそれぞれについて、全ての行の測定値の平均値を基準として、各行での値を相対値(%)にて示してある。
【0041】
V方向又はH方向のヒータのみを用いた比較例1、2では、基板ホルダ50の最下部R1、及び最上部R5での値が、中央部に比べて小さくなっている。また、磁気特性のばらつきは、平均値±3〜4%になった。一方、V方向のヒータ、及びH方向のヒータの両方を用いた実施例1では、各行(R1〜R5)での磁気特性のばらつきは、平均値±0.7%以下になった。このように、実施例1では、基板ホルダ50での基板位置の違いによる磁気特性のばらつきが解消されていた。
【0042】
図5は、成膜装置100の構成の第2の例を示す。本例において、成膜装置100は、基板12を回転搬送しつつ成膜を行う静止対向型のスパッタリング成膜装置であり、加熱室104、及び反応室106を備える。また、基板12(図1参照)は、円板状の基板ホルダ50に保持されている。
【0043】
加熱室104は、各層の成膜前の加熱工程を行うためのチャンバである。本例において、加熱室104には、基板12の両主表面を加熱するための加熱装置202が設けられている。反応室106は、DCマグネトロンスパッタリング法で磁気記録媒体10の各層を成膜するためのチャンバである。本例において、反応室106には、下地層14、下地層16、及び磁性層18のそれぞれに対応するターゲット204A〜Cが設けられている。これにより、基板12が反応室106内を搬送される間に、基板12上に、下地層14、下地層16、及び磁性層18が順次形成される。尚、本例において、保護層20及び潤滑層22(図1)は、成膜装置100での成膜の後に別途成膜される。以上のようにすれば、磁気記録媒体10を適切に形成できる。
【0044】
図6は、加熱工程を説明する図である。図6(a)は、基板ホルダ50の構成の一例を示す。本例において、基板ホルダ50は、一枚の基板12を保持する。そのため、成膜装置100(図5参照)は、一枚の基板12毎に、加熱工程を行う。また、一枚の基板12毎に、各ターゲット204A〜Cと対向するように基板12を静止配置させて、各層の成膜プロセスを行う。この場合は、基板ホルダ50は、常時成膜装置の中を循環し、真空中の基板交換室において基板の装着、交換を行うことにより、特性の安定した量産が可能となる。
【0045】
図6(b)は、加熱装置202の構成の一例を示す。尚、本図においては、ヒータ304A、304Bと基板12との位置関係を分かりやすく示すため、第1加熱部302A及び第2加熱部302Bにおけるヒータ304A、304B以外の構成要素は省略している。
【0046】
本例において、第1加熱部302Aは、基板12の一方の主表面(表面)と対向する側に設けられており、所定の方向に延伸する複数のヒータ304Aを有する。これらのヒータ304Aは、基板12の表面と対向する面内において、一定の間隔で並べられている。第2加熱部302Bは、基板12の他方の主表面(裏面)と対向する側に設けられており、ヒータ304Aと直行する方向に延伸する複数のヒータ304Bを有する。これらのヒータ304Bは、基板12の裏面と対向する面内において、ヒータ304Aと同じ間隔で並べられている。これにより、ヒータ304A、304Bは、基板12の表面及び裏面にマトリクス状に配列される。この場合も、基板12の面内における温度分布の偏りが生じにくくなる。また、これにより、磁気特性を基板12の面内で均一化できる。
【0047】
尚、基板ホルダ50は、例えば、第1加熱部302Aのヒータ304Aと第2加熱部302Bのヒータ304Bとが交差する位置と基板12の中心とが重なるように、基板12を保持する。また、本例のように、ヒータ304Aの間隔とヒータ304Bの間隔とが等しい場合、基板ホルダ50は、隣接する2つのヒータ304A、及び隣接する2つのヒータ304Bに囲まれる正方形領域の頂点と基板12の中心とが重なるように、基板12を保持する。このようにすれば、温度分布の偏りをより適切に抑えることができる。基板ホルダ50は、上記正方形領域の中心と基板12の中心とが重なるように基板12を保持してもよい。
【0048】
また、本例においても、ヒータ304A、304Bは、個別に出力制御可能であることが好ましい。このようにすれば、基板12の面内の磁気特性を更に均一にできる。ヒータ304A、304Bの制御方法としては、例えば、基板12の中心で交差するヒータ304A、304Bの出力を、他のヒータ304A、304Bよりも低くする方法が考えられる。このように、ヒータの出力比を変更することにより、基板面内の温度分布を制御できる。
【0049】
また、この場合、基板12は周辺領域からゆっくりと加熱されることとなるため、温度分布の均一性をより高めることができる。尚、ヒータの制御方法は、適宜変更可能である。例えば、上記と出力の高低を反対にして、基板12の中心で交差するヒータ304A、304Bの出力を、他のヒータ304A、304Bよりも高くする方法も考えられる。いずれにしても、各ヒータの出力(温度)を適宜制御することで、基板両面における面内の温度分布の偏りを抑制することができ、磁気特性を基板12の面内で均一化できる。
【0050】
図7は、基板ホルダ50及び加熱装置202の変形例を示す。図7(a)は、4枚の基板12を保持する基板ホルダ50の構成を示す。この基板ホルダ50は、4枚の基板12を円周方向に並べて保持する。図7(b)は、図7(a)に示した基板ホルダ50を用いる場合の加熱装置202の構成の一例を示す。本例においても、ヒータ304A、304Bは、各基板12の表面及び裏面にマトリクス状に配列される。また、基板ホルダ50は、各基板12の中心上でヒータ304Aとヒータ304Bとが交差するように、各基板12を保持している。そのため、本例においても、温度分布の偏りを適切に抑えることができる。また、これにより、基板間及び基板内の磁気特性、及び磁性層上の保護層の膜質を均一化できる。
【0051】
図7(c)は、5枚の基板12を保持する基板ホルダ50の構成を示す。この基板ホルダ50は、四角板状であり、四角形の中心、及び中心と各頂点を結ぶ各対角線上にそれぞれ基板12を保持する。図7(d)は、図7(c)に示した基板ホルダ50を用いる場合の加熱装置202の構成の一例を示す。本例においても、ヒータ304A、304Bは、各基板12の表面及び裏面にマトリクス状に配列される。また、基板ホルダ50は、各基板12の中心上でヒータ304Aとヒータ304Bとが交差するように、各基板12を保持している。そのため、本例においても、温度分布の偏りを適切に抑えることができる。また、これにより、磁気特性を均一化できる。
【0052】
尚、図7を用いて説明した構成において、基板12は、例えば1.0インチ径以下等の小径基板である。また、これらの構成においても、ヒータ304A、304Bは、個別に出力制御可能であることが好ましい。このようにすれば、各基板12の面内の磁気特性をより均一に制御できる。
【0053】
以上、本発明を実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、例えば、HDD(ハードディスクドライブ)用の磁気ディスク等の磁気記録媒体に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法で製造される磁気記録媒体10の構成の一例を示す図である。 図1(a)は、磁気記録媒体10を示す平面図である。 図1(b)は、磁気記録媒体10の概略断面図である。
【図2】磁気記録媒体10の各層の成膜方法を説明する図である。 図2(a)は、各層を成膜するための成膜装置100の構成の第1の例を示す。 図2(b)は、成膜時に基板12を保持するための基板ホルダ50の一例を示す。
【図3】加熱装置202の構成の一例を示す図である。 図3(a)は、加熱装置202の上面図である。 図3(b)は、加熱装置202を構成する第1加熱部302A及び第2加熱部302Bの構成を示す正面図である。
【図4】実施例1、及び比較例1、2の評価結果を示すグラフである。
【図5】成膜装置100の構成の第2の例を示す。
【図6】加熱工程を説明する図である。 図6(a)は、基板ホルダ50の構成の一例を示す。 図6(b)は、加熱装置202の構成の一例を示す。
【図7】基板ホルダ50及び加熱装置202の変形例を示す図である。 図7(a)は、4枚の基板12を保持する基板ホルダ50の構成を示す。 図7(b)は、図7(a)に示した基板ホルダ50を用いる場合の加熱装置202の構成の一例を示す。 図7(c)は、5枚の基板12を保持する基板ホルダ50の構成を示す。 図7(d)は、図7(c)に示した基板ホルダ50を用いる場合の加熱装置202の構成の一例を示す。
【符号の説明】
【0056】
10・・・磁気記録媒体、12・・・基板、14・・・下地層、16・・・下地層、18・・・磁性層、20・・・保護層、22・・・潤滑層、50・・・基板ホルダ、100・・・成膜装置、102・・・仕込室、104・・・加熱室、106・・・反応室、108・・・カーボンスパッタ室、110・・・取出室、202・・・加熱装置、204A、B、C・・・ターゲット、302A・・・第1加熱部、302B・・・第2加熱部、304A、B・・・ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、磁気記録を行うために前記基板上に成膜された磁性層とを少なくとも備える磁気記録媒体の製造方法において、
前記磁性層を成膜する前、途中あるいは成膜後に前記基板の両主表面を加熱する加熱工程を備え、
前記加熱工程は、
前記基板の一方の主表面と対向する面内に所定の配列で配置されたヒータを有する第1加熱部と、
前記基板の他方の主表面と対向する面内に前記第1加熱部と異なる配列で配置されたヒータを有する第2加熱部と
を備える加熱装置を用いて前記基板を加熱することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程は、複数の前記基板を保持する基板ホルダを用いて、前記複数の基板を同時に加熱することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
第1加熱部は、前記基板の主表面と平行な第1の方向に延伸する複数のヒータを有し、
前記第2加熱部は、前記基板の主表面と平行、かつ前記第1の方向と垂直な第2の方向に延伸する複数のヒータを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記磁性層は、インライン型の成膜装置で成膜され、
前記加熱装置は、前記成膜装置内の加熱室に設けられており、
前記第1の方向は、前記加熱室内で前記基板が運搬される移動方向であり、
前記第1加熱部は、前記移動方向に並べられた、前記移動方向と垂直な方向に延伸する複数のヒータを有し、
前記第2加熱部は、前記移動方向と垂直な方向に並べられた、前記移動方向に延伸する複数のヒータを有し、
前記加熱工程は、
前記第1加熱部の前記複数のヒータを同じ出力に制御し、
前記第2加熱部の前記複数のヒータを、並びの中央のヒータに比べて外側のヒータの出力が大きくなるように制御することを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記磁性層は、静止対向型の成膜装置で成膜され、
前記第1加熱部のヒータ、及び前記第2加熱部のヒータは、共通の一定の間隔で並べられており、
前記加熱工程は、前記第1加熱部において隣接する2つのヒータ、及び前記第2加熱部において隣接する2つのヒータに囲まれる正方形領域の頂点又は中心と前記基板の中心とが重なるように前記基板を保持して、前記基板を加熱することを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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