説明

磁気記録媒体の製造方法

【課題】磁気記録層を形成する際の表面となる結晶配向制御層にダメージを与えることなしに、優れた磁気特性を有する磁気記録層を得ることができるディスクリートトラック媒体およびパターンド媒体の製造方法の提供。
【解決手段】基板上に軟磁性層を形成する工程と;軟磁性層上に第1結晶配向制御層を形成する工程と:第1結晶配向制御層の少なくとも一部に凹部を設ける工程と;第1結晶配向制御層を熱処理する工程と;第2結晶配向制御層の上に、磁気記録層を形成する工程とを具えたことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法に関する。詳細には、本発明は、垂直磁気記録媒体の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、高記録密度における良好な電磁変換特性および優れた生産性を有する、ディスクリートトラック媒体あるいはパターンド媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高度情報化社会を支える情報の記録装置の1つに磁気記憶装置がある。情報の大量化に伴って、磁気記憶装置に用いられる磁気記録媒体の記録密度の向上が要求されている。高記録密度を実現するためには、磁化反転が生じる単位を小さくしなければならない。そのためには、磁性粒子のサイズの微細化と同時に、磁化反転する単位(記録単位)を明確に分離して区切ることで、隣接する記録単位間の磁気的な相互作用を低減することが重要である。
【0003】
記録密度の向上を実現する技術として、従来の長手磁気記録方式に代えて、垂直磁気記録方式が検討されてきている。現在、垂直磁気記録方式の媒体において用いられる磁気記録層の材料としては、主として、六方最密充填構造(hcp構造)を有し、そのc軸が膜面に垂直(すなわちc面が膜面に平行)になるように結晶配向を制御されたCoCr系合金結晶質膜が検討されている。また、記録密度のさらなる向上に対応するために、このCoCr系合金結晶質膜を構成する結晶粒の微細化、粒径分布の狭小化(結晶粒の粒度分散の減少)、粒間の磁気的な相互作用の低減などが検討されている。
【0004】
記録密度のさらなる向上のための1つの方法として、一般にグラニュラー磁性層と呼ばれる、磁性結晶粒の周囲を酸化物または窒化物のような非磁性非金属物質で囲んだ構造を有する磁気記録層を用いることが検討されてきている。グラニュラー磁性層は、非磁性非金属物質によって構成される粒界相が磁性結晶粒を物理的に分離するため、磁性結晶粒間の磁気的な相互作用が低下する。これによって、記録単位の遷移領域に生じるジグザグ磁壁の形成が抑制され、低ノイズ特性が得られる。たとえば、Ruからなる下地層の上に、グラニュラー構造をもつCoPtCrO合金からなる磁気記録層を積層した垂直磁気記録媒体が提案されている(非特許文献1参照)。この垂直磁気記録媒体においては、下地層であるRu層の膜厚を増加させるにしたがって、グラニュラー構造を有する磁気記録層のc軸配向性が向上する。換言すれば、Ru層の膜厚の増加に伴い、優れた磁気特性と電磁変換特性とを有する垂直磁気記録媒体が得られている。また、SiO2等の酸化物が添加されたCoNiPtターゲットを用いてRFスパッタリング成膜によって、各々の磁性結晶粒が非磁性の酸化物で囲まれて個々に分離された構造を持つグラニュラー構造の磁気記録層を形成し、磁気記録媒体の低ノイズ化を実現することが報告されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、グラニュラー構造の磁気記録層の直下に、磁気記録層材料と同様のhcp結晶構造を有する材料を用いて結晶配向制御層を設けることが提案されている(特許文献2および3参照)。この構成においては、結晶配向制御層の結晶質領域(結晶粒子)に対応する位置に磁気記録層中のCo粒子が成長し、結晶配向制御層の結晶粒界、多孔質領域または非晶質領域に対応する位置に磁気記録層中の酸化物が析出および成長する。換言すれば、結晶配向制御層の結晶粒子上に磁気記録層中の磁性結晶粒がエピタキシャル成長し、それによって結晶配向制御層の結晶配向性が磁気記録層の結晶配向性に反映される。同時に、磁気記録層の磁性結晶粒の周囲に、非晶質相の結晶粒界が形成される。このようにして、グラニュラー構造の磁気記録層の結晶状態を制御することが可能であるとされている。
【0006】
グラニュラー構造の磁気記録層を用いることによって、比較的良好な磁気特性および電磁変換特性を有する垂直磁気記録媒体が得られている。しかしながら、従来の垂直磁気記録媒体のグラニュラー構造の磁気記録層は、連続膜(いわゆるベタ膜)であった。垂直磁気記録媒体の記録密度のさらなる向上のためには、隣接する記録トラックへの書きにじみの防止、ランダムに配置された粒子によるジグザグ磁壁の形成の低減、結晶粒の微細化に伴う熱揺らぎの影響の低減、および、磁性結晶粒間の磁気的な相互作用の低減などを推進する必要がある。
【0007】
上記の必要性に関連して、ディスクリートトラック媒体およびパターンド媒体が提案されている。ディスクリートトラック媒体は、磁気的に完全に分離された複数の磁性体列から磁気記録層を構成し、該複数の磁性体列を記録トラックとして用いることによって、隣接する記録トラックの境界が人工的に形成され、磁化反転する単位が明確に区分された垂直磁気記録媒体を意味する。ディスクリートトラック媒体においては、前述の隣接する記録トラックへの書きにじみ、ならびにランダムに配置された粒子によるジグザグ磁壁の形成を防止することができる。一方、パターンド媒体とは、形状および大きさを人工的に揃え、単一磁区を形成する複数の「島」から磁気記録層を構成し、その「島」のそれぞれを1つの磁化反転する単位(記録単位、ビット)として用いる、究極の垂直磁気記録媒体を意味する。
【0008】
ディスクリートトラック媒体およびパターンド媒体の製造方法として、各種の方法が提案されている。たとえば、エッチングによって磁気記録層を物理的に分離する方法が提案されている(特許文献4参照)。この方法の変形として、エッチングによって磁気記録層およびその下の結晶配向制御層の一部を除去して、除去した部分を非磁性材で充填することによって、磁気的に独立した複数の部分からなる磁気記録層を形成する方法が提案されている(特許文献5参照)。あるいは、エッチングによって基板表面に凹部を形成し、その凹部に磁気記録層を埋め込む方法が提案されている(特許文献6参照)。さらに、基板上に形成された軟磁性層の一部を除去し、その上に磁性材料を積層することによって、磁気的に独立した複数の部分からなる磁気記録層を形成する方法が提案されている(特許文献7参照)。また、基板上に形成された軟磁性層の一部と結晶配向制御層の一部を除去し、その上に磁性材料を積層することによって、磁気的に独立した複数の部分からなる磁気記録層を形成する方法が提案されている(特許文献8参照)。
【0009】
【特許文献1】米国特許第5679473号明細書
【特許文献2】特開2003−123239号公報
【特許文献3】特開2003−242623号公報
【特許文献4】特開平4−310621号公報
【特許文献5】特開2006−12285号公報
【特許文献6】特開昭56−119934号公報
【特許文献7】特開平1−158617号公報
【特許文献8】特開2003−16622号公報
【非特許文献1】IEEE Trans., Mag., Vol. 36, 2393 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように、これまでに提案されているディスクリートトラック媒体およびパターンド媒体の製造方法においては、それぞれ、磁気記録層、磁気記録層および結晶配向制御層、基板、軟磁性層、または、軟磁性層および結晶配向制御層を積極的に除去して、磁気的に独立した複数の部分からなる磁気記録層を形成している(特許文献4〜8参照)。
【0011】
しかしながら、磁気記録層、あるいは、磁気記録層および結晶配向制御層を除去する場合、磁気記録層そのものの直接エッチングを伴う。そのため、エッチングによる磁気記録層のダメージ、エッチング剤の残留成分による磁気記録層の腐食などの原因に基づいて、磁気記録媒体の磁気特性が劣化する。
【0012】
また、基板を除去する場合、微細な凹部(溝)の中に良好な結晶配向性および垂直異方性を有する磁気記録層を形成するのは困難である。したがって、得られる磁気記録媒体の良好な磁気特性は望めない。
【0013】
さらに、軟磁性層、あるいは、軟磁性層および結晶配向制御層を除去する場合、それによって形成された凹部に非磁性材料を充填し、化学的機械研磨法(Chemical Mechanical Polishing)などを用いて表面を平滑にするという平坦化工程が必要である。なぜなら、表面に大きな凹凸が存在する場合、磁気ヘッドの浮上安定性が低下するからである。しかしながら、高アスペクト比(開口部寸法に対する奥行きの比)かつ微小な凹部を、空隙なく均一に充填することは困難である。さらに、高アスペクト比(開口部寸法に対する奥行きの比)かつ微小な凹部の場合、充填前の凹凸に応じて、充填後の表面の凹凸が大きくなってしまう可能性がある。そのため、充填後の表面にCMPを適用しても、完全な平滑面を得ることは困難である。また、研磨量が多くなり、膜厚コントロールができなくなる可能性もある。
【0014】
したがって、前述のような問題点を発生させることなしに、磁気的に独立した複数の部分からなる磁気記録層を有するディスクリートトラック媒体およびパターンド媒体の製造方法に関する要求が、依然として存在する。特に、磁気記録層を形成する際の表面となる結晶配向制御層にダメージを与えることなしに、優れた磁気特性を有する磁気記録層を得ることができるディスクリートトラック媒体およびパターンド媒体の製造方法に関する要求が、依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述の課題を解決するための本発明の垂直磁気記録媒体の製造方法は:(a)基板上に軟磁性層を形成する工程と;(b)軟磁性層上に結晶配向制御層を形成する工程と;(c)第1結晶配向制御層の少なくとも一部に凹部を設ける工程と;(d)第1結晶配向制御層を熱処理する工程と;(e)第1結晶配向制御層の上に、磁気記録層を形成する工程とを具えたことを特徴とする。本発明の垂直磁気記録媒体の製造方法の変形例においては、前述の工程(d)と工程(e)との間に、(d2)第1結晶配向制御層の上に、第2結晶配向制御層を形成する工程をさらに含み、工程(e)において磁気記録層が第2結晶配向制御層に接して形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上の構成を採ることによって、従来提案されているディスクリートトラック媒体およびパターンド媒体の製造方法に比較して、作製時における磁気記録層の磁気特性の劣化を起こすことなく、簡便な方法によってディスクリートトラック媒体およびパターンド媒体を製造することが可能となる。また、本発明の製造方法において磁気的に分離されたトラックまたはビットを得るために必要な凹凸の高さは、従来提案されている方法において必要とされている高さよりも小さい。したがって、本発明の製造方法は、平坦化工程そのものを不要とし、同時に優れたヘッド浮上性能を有する磁気記録媒体を提供することができる。また、必要に応じて平坦化工程を行う場合においても、凹凸の高さが小さいことによって、平坦化工程における生産性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の垂直磁気記録媒体の製造方法を説明するための図であり、(a)〜(f)は、本発明の方法の主要な工程を説明するための図である。本発明の方法によって得られる垂直磁気記録媒体は、非磁性基体である基板10上に、軟磁性層20、第1結晶配向制御層31および第2結晶配向制御層32で構成される結晶配向制御層、グラニュラー構造部41および非グラニュラー構造部42で構成される磁気記録層40を少なくとも含む。
【0018】
本発明において用いられる基板10は、通常の磁気記録媒体に用いられるNiPメッキを施したAl合金、強化ガラス、あるいは、結晶化ガラスなどを用いて形成することができる。
【0019】
本発明の方法の第1の工程(a)は、基板10上に軟磁性層20を形成する工程である。軟磁性層20は、磁気ヘッドが発生する磁束を集中させて、磁気記録層40に急峻な磁場勾配を形成するための層である。軟磁性層20は、スパッタ法を用いて、NiFe系合金、センダスト(FeSiAl)合金、あるいは非晶質のCo合金(たとえば、CoNbZr、CoTaZrなど)を積層することによって形成することができる。特に、良好な電磁変換特性を得ることができるという観点から、非晶質Co合金を用いることが望ましい。また、軟磁性層20の膜厚の最適値は、磁気記録に使用する磁気ヘッドの構造および特性に依存する。しかしながら、生産性の観点からは、10nm以上300nm以下の膜厚を有する軟磁性層20を形成することが望ましい。
【0020】
本発明の方法の第2の工程(b)は、軟磁性層20上に第1結晶配向制御層31を形成する工程である。第1結晶配向制御層31は、磁気記録層40(特にグラニュラー構造部41)の結晶配向性、結晶粒径、および粒界偏析を好適に制御するための層である。第1結晶配向制御層31は、スパッタ法を用いて、六方最密充填(hcp)結晶構造を有する材料を積層することによって形成することができる。たとえば、NiFeNb、Ru、またはRuを含む合金を用いることができる。磁気記録層40の結晶配向を好適に制御する観点からは、RuまたはRuを含む合金を用いて第1結晶配向制御層31を形成することが特に望ましい。第1結晶配向制御層31は、単一の層であってもよいし、複数の異なる材料の層の積層構造を有してもよい。積層構造の第1結晶配向制御層31を用いる場合、積層構造の最上層をRuまたはRuを含む合金を用いて形成することが望ましい。
【0021】
本発明の方法の第3の工程(c)は、第1結晶配向制御層31の少なくとも一部に凹部を設ける工程である。
【0022】
本工程の第1の態様は、(c1)第1結晶配向制御層31の上にレジスト層60を形成する工程と、(c2)ナノインプリント法を用いてレジスト層60をパターニングする工程と、(c3)パターニングされたレジスト層60を用いて、第1結晶配向制御層31をエッチングする工程と、(c4)レジスト層60を除去する工程とを含む。
【0023】
最初に、工程(c1)において、図1(a)に示すように、第1結晶配向制御層31の上にレジスト層60を形成する。レジスト層60は、塗布法を用いて、UV硬化型レジスト材料を塗布することによって形成することができる。塗布方法としては、スピンコート法、ナイフコート法、ディップコート法などの当該技術において知られている任意の方法を用いることができる。
【0024】
次いで工程(c2)において、図1(b)に示すように、レジスト層60のパターニングを実施する。本発明において、得られる磁気記録媒体において磁気記録を行うトラック(ディスクリートトラック媒体の場合)または単一磁区を形成するビット(パターンド媒体の場合)に相当する位置、ならびにサーボ信号を記録する部分に相当する位置にレジスト層60が残存するように、パターニングされる。具体的には、石英などのレジスト層60の効果に用いられる化学線(UV光など)に対して透明な材料から形成され、レジスト層60を残存させる位置に凹部を有するモールドをレジスト層60に押圧し、押圧した状態で化学線を照射してレジスト層60を硬化させ、その後にモールドを離型して、所望のパターンを有するレジスト層60を得ることができる。
【0025】
次いで工程(c3)において、図1(c)に示すように、パターニングされたレジスト層60をマスクとする第1結晶配向制御層31のエッチングを行う。本工程におけるエッチングにより、ディスクリートトラック媒体の場合には、トラックの間隙、およびサーボ信号記録領域のパターン間隙に相当する位置に、第1結晶配向制御層31の凹部を形成する。同様に、パターンド媒体の場合には、ビット間隙、およびサーボ信号記録領域のパターン間隙に相当する位置に、第1結晶配向制御層31の凹部を形成する。
【0026】
エッチング方法としては、反応性イオンエッチング(RIE)、イオンビームエッチングなどを用いることができる。O2を含むガス(たとえば、O2およびArの混合ガス)を用いる反応性イオンエッチングによって、本工程を実施することが好ましい。O2およびArの混合ガス)を用いる反応性イオンエッチングを実施する場合、たとえば、ガス流量10〜1000sccm、圧力0.1〜20Pa、ソースパワー100〜1000W、およびバイアスパワー100〜500W程度の条件を用いることができる。
【0027】
エッチングによって形成される凹部の深さは、その上に形成される磁気記録層40がグラニュラー構造とならないような深さであることが必要である。凹部は、通常1nm以上、好ましくは1〜12nmの深さを有する。なお、エッチングにより形成される凹部において、第1結晶配向制御層31を完全に除去してもよいが、軟磁性層20がエッチングされることによるコロージョンの発生を防止するという観点からは、形成される凹部の底面に第1結晶配向制御層31が残るようにすること(すなわち、エッチングを第1結晶配向制御層31中で停止すること)が望ましい。
【0028】
エッチングによって形成される凹部の配置間隔は、製造する磁気記録媒体に求められる記録密度に依存して変化する。たとえば、50Gbit/平方インチの記録密度のディスクリートトラック媒体を形成する場合、トラック間隙となる部分の凹部は60nmピッチで配置される。あるいはまた、1Tbit/平方インチの記録密度のパターンド媒体を形成する場合、ビット間隙となる部分の凹部は25nmピッチで配置される。
【0029】
最後に工程(c4)において、図1(d)に示すように、マスクとして用いたレジスト層60を除去し、第1結晶配向制御層31の凸部を露出させる。第1結晶配向制御層31の凸部は、ディスクリートトラック媒体におけるトラック、およびサーボ信号記録領域、あるいは、パターンド媒体におけるビットおよびサーボ信号記録領域に相当する位置に形成される。レジスト層60の除去は、O2アッシング、または硫酸過水(硫酸と過酸化水素水との混合物)による洗浄によって実施することができる。第1結晶配向制御層31の膜厚の減少および第1結晶配向制御層31へのダメージを最小限にするため、レジスト層60の除去は、可能な限り穏和な条件で実施することが望ましい。たとえば、O2アッシングを用いてレジスト層60の除去を実施する場合、たとえば、ガス流量10〜1000sccm、圧力0.1〜10Pa、およびソースパワー50〜300W程度の条件を用いることができる。
【0030】
あるいはまた、本工程の第2の態様は、所定のパターン形状を有するモールドを高圧力で第1結晶配向制御層31に押圧するナノインプリント法を用いて、第1結晶配向制御層31に凹部を形成して、図1(d)に示す構造を得る工程を含む。モールドとしては、Ni電鋳モールドまたはSiモールドを用いることができる。
【0031】
本発明の方法の第4の工程(d)は、図1(e)に示すように、第1結晶配向制御層31に、熱処理を施す工程である。本工程は、第1結晶配向制御層31を100〜230℃の範囲内の設定温度に加熱し、該設定温度を1〜30分間にわたって維持することによって実施することができる。熱処理を行う際の雰囲気は、常圧における空気、またはN2などの不活性雰囲気であってもよい。あるいはまた、減圧状態の空気または不活性雰囲気中で熱処理を実施してもよい。特に、設定温度を200℃以上とする場合には、不活性雰囲気または減圧状態の雰囲気を用いることが望ましい。熱処理を施すことによって、工程(c)におけるレジスト層60の除去(c4)またはモールドの高圧力押圧による第1結晶配向制御層31の凸部のダメージを補償することが可能となる。
【0032】
第1結晶配向制御層31の膜厚の最適値は、その上に形成される磁気記録層40の材料において所望される結晶構造、たとえばグラニュラー構造の結晶粒径および取り巻く非磁性粒界の厚さに依存する。一般的には、第1結晶配向制御層31の膜厚を、5nm以上50nm以下の範囲で制御することが望ましい。
【0033】
本発明の方法の第5の工程(e)は、図1(f)に示すように、第2結晶配向制御層32の上に磁気記録層40を形成する工程である。磁気記録層40は、強磁性結晶粒を構成する材料と非磁性粒界を構成する材料とを同時にスパッタリングすることによって形成することができる。強磁性結晶粒を構成する材料としては、CoCr系合金が好適に用いられる。特に、優れた磁気特性および記録再生特性を得るために、CoCr合金に対してPt、Ni、Ta、およびBからなる群から選択される少なくとも1つの元素を添加した合金を用いることが望ましい。また、上記の強磁性結晶粒を構成する材料とともに安定なグラニュラー構造を形成するために、非磁性粒界を構成する材料として、Cr、Co、Si、Al、Ti、Ta、HfおよびZrからなる群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物を用いることが望ましい。
【0034】
磁気記録層4の膜厚は、通常、10nm以上60nm以下であることが望ましい。この範囲内の膜厚の磁気記録層40を形成することによって、磁気記録媒体における充分な信号特性および優れた記録再生分解能を実現することができる。
【0035】
磁気記録層40は、結晶配向制御層30の凸部の上に形成されるグラニュラー構造部41と、結晶配向制御層30の凹部の上に形成される非グラニュラー構造部42から構成される。グラニュラー構造部41においては、強磁性結晶粒が非磁性粒界によって取り巻かれ、および強磁性結晶粒の磁化容易軸が垂直配向している。グラニュラー構造部41は、垂直磁気記録に適した通常の強磁性特性を有し、ディスクリートトラック媒体におけるトラックおよびサーボ信号記録領域、またはパターンド媒体におけるビットおよびサーボ信号記録領域となる。一方、非グラニュラー構造部42は、強磁性結晶粒と非磁性粒界とが混在するが、強磁性結晶粒が非磁性粒界によって取り巻かれていない構造を有する。その結果、非グラニュラー構造部42は、低透磁率の軟磁気的な特性を有する。隣接するグラニュラー構造部41は、その間に存在する非グラニュラー構造部42によって磁気的に分離される。この磁気的な分離によって、得られる磁気記録媒体において、隣接トラックへの書きにじみを防止すると同時に、ジグザグ磁壁の形成、熱揺らぎの影響、および磁性粒子間の磁気的な相互作用などを低減することができる。
【0036】
また、本発明の製造方法によって得られる磁気記録媒体の表面の凹凸(工程(c)によって形成される)は、従来の方法において形成される凹凸(たとえば、磁気記録層または軟磁性層の全体の除去、あるいは基板に対する凹凸の付与による)に比べて小さく、従来の方法において必要であった平坦化の工程を省略することが可能となる。
【0037】
本発明の方法の変形例を図2に示す。本変形例の工程(a)〜(d)(図2(a)〜(e)に相当)は、前述の方法の工程(a)〜(d)(図1(a)〜(e)に相当)と同様に実施することができる。
【0038】
工程(d)に引き続いて、図2(f)に示すように、熱処理された第1結晶配向制御層31の上に、第2結晶配向制御層32を形成する工程(d2)を実施する。第2結晶配向制御層32は、第1結晶配向制御層31と同様に、スパッタ法を用いて、六方最密充填(hcp)結晶構造を有する材料を積層することによって形成することができる。積層する材料の例は、Ru、およびRuを含む合金を含む。第2結晶配向制御層32は、第1結晶配向制御層31と同一の材料で形成することが望ましい。
【0039】
本変形例における第1結晶配向制御層31および第2結晶配向制御層32から構成される結晶配向制御層30の膜厚の最適値は、その上に形成される磁気記録層40の材料において所望される結晶構造、たとえばグラニュラー構造の結晶粒径および取り巻く非磁性粒界の厚さに依存する。一般的には、結晶配向制御層30の膜厚を、5nm以上50nm以下の範囲で制御することが望ましい。このうち、第2結晶配向制御層32は、工程(c)におけるレジスト層60の除去(c4)またはモールドの高圧力押圧による第1結晶配向制御層31の凸部のダメージを工程(d)の熱処理と協調して補償するのに十分であり、かつ第1結晶配向制御層31の凹部に形成される磁気記録層40が非グラニュラー構造部42となるようにする膜厚を有することが望ましい。通常の場合、第2結晶配向制御層32の膜厚は1〜12nmの範囲内であることが望ましい。
【0040】
工程(d2)に引き続いて、図2(g)に示す工程(e)を、前述の方法における工程(e)と同様に実施して、磁気記録層40を形成する。
【0041】
任意選択的に、磁気記録層40の上に保護層(不図示)を形成してもよい。保護層は、たとえば、カーボンを主体とする材料などの当該技術において知られている任意の材料を用いて形成することができる。保護層は1nm以上10nm以下の膜厚を有することが望ましい。この範囲内の膜厚を有することによって、ピンホールの発生および耐久性の低下を防止すると同時に、高密度記録/再生に必要なヘッド−磁気記録層40間の距離(短いことが望ましい)を確保することを可能にする。さらに、任意選択的に、保護層の上に液体潤滑剤層(不図示)を形成することが望ましい。液体潤滑剤層は、たとえば、パーフルオロポリエーテル系の潤滑剤などの当該技術において知られている任意の材料を用いて形成することができる。液体潤滑剤層の膜厚などの条件は、通常の磁気記録媒体で用いられる諸条件をそのまま用いることができる。
【0042】
以上に説明した本発明の磁気記録媒体の製造方法の変形例として、磁気記録層40の非グラニュラー構造部42の上の凹部に非磁性材料を充填する工程、ならびに磁気記録層40および充填された非磁性材料の表面を平坦化する工程をさらに有してもよい。あるいはまた、工程(d)と工程(e)との間に、結晶配向制御層30の凹部に非磁性材料を充填する工程、ならびに結晶配向制御層30および充填された非磁性材料の表面を平坦化する工程をさらに有してもよい。これらの変形例においては、非磁性材料の充填および平坦化の工程が増加することによるプロセスの複雑化および生産性の低下のデメリットと引き替えに、得られる磁気記録媒体の表面がより平坦になるという利点がある。これらの変形例は、得られる磁気記録媒体を用いて磁気記録装置において、ヘッドの浮上量を可能な限り小さくすることが要求される場合、あるいは浮上性の悪い小型ヘッドを用いることが要求される場合に有用である。また、本発明の製造方法の工程(c)によって形成される凹凸は、従来法によって形成される凹凸よりも小さいので、この変形例における非磁性材料の充填および平坦化における制御がより容易になる。
【実施例】
【0043】
以下に、具体的な例をもって本発明をさらに説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するための例に過ぎず、本発明をなんら限定するものではない。また、以下の実施例では、ディスクリートトラック媒体の作製を説明するが、同様の方法でパターンド媒体を形成できることは、当業者であれば理解できるであろう。
【0044】
(実施例1)
表面が平滑な化学強化ガラス基板(例えば、HOYA社製N‐5ガラス基板)である基板10に対して、スパッタ法を用いてCoZrNbを積層して、膜厚200nmの軟磁性層20を得た。
【0045】
次に、スパッタ法を用いて、軟磁性層20の上に、膜厚3nmのNiFeNb層、および膜厚15nmのRu層を成膜して、第1結晶配向制御層31を得た。
【0046】
次に、スピンコーターを用いてUV硬化性レジストを塗布し、第1結晶配向制御層31の上にレジスト層を形成した。続いて、100nmピッチの同心円状のトラックの反転パターン(すなわち、トラックに相当する位置が凹部であり、トラック間隙に相当する位置が凸部である)に相当するライン・アンド・スペースからなる凹凸パターンと、サーボ部の反転パターンに相当する島状の凹凸パターンを持つ石英モールドを準備した。この石英モールドをレジスト層60に押圧し、その状態で石英モールドを通してUVを照射することでレジスト層60を充分硬化させ、続いて石英モールドを離型して、レジスト層60をパターニングした。この工程により、所望のトラックおよびサーボ部のパターンを有するレジスト層60を得た。
【0047】
次に、パターニングされたレジスト層60をマスクとし、O2を含むガスを用いたRIEを実施して、第1結晶配向制御層31に深さ10nmの凹部を形成した。この際に、ガス流量100sccm、圧力1Pa、ソースパワー500W、およびバイアスパワー250Wの条件を用いた。
【0048】
次に、RIE装置内で、ガス流量300sccmおよび真空度1PaのO2ガスおよび100Wのソースパワーを用いるO2アッシングを行って、マスクとして用いたレジスト層60を除去した。
【0049】
次に、減圧雰囲気下(圧力10Pa)において、レジストを除去した積層体を200℃に加熱し、200℃の温度を1分間にわたって維持することによって、熱処理を実施した。引き続いて、スパッタ法を用いてCoCrPt−SiO2を積層し、膜厚30nmの磁気記録層40を得た。
【0050】
さらに、スパッタ法を用いてカーボンを積層して膜厚5nmの保護層を形成した。最後に、ディップ法を用いてパーフルオロポリエーテルを塗布し、膜厚2nmの液体潤滑剤層を形成して、ディスクリートトラック媒体を得た。
【0051】
(比較例1)
2アッシングにおけるソースパワーを250Wに変更したこと、およびO2アッシング後の熱処理を実施しなかったことを除いて実施例1の手順を繰り返して、ディスクリートトラック媒体を得た。
【0052】
(比較例2)
2アッシング後の熱処理を実施しなかったことを除いて実施例1の手順を繰り返して、ディスクリートトラック媒体を得た。
【0053】
(参考例1)
第1結晶配向制御層31の形成後、パターニングを行うことなしに、直ちに磁気記録層40、保護層および液体潤滑剤層を形成したことを除いて実施例1の手順を繰り返して、垂直磁気記録媒体を得た。本参考例は、結晶配向制御層のパターニングの影響を受けていない磁気記録層の特性を評価することを目的とする。
【0054】
(評価)
カー効果測定により、実施例1、比較例1および2、ならびに参考例1で得られた媒体の磁気記録層の磁気特性を評価した。結果を図2に示す。なお、図2において、磁場Hは参考例1の媒体の磁気記録層の保磁力Hcを1とした相対値で示し、磁化Mは参考例1の媒体の磁気記録層の残留磁化Msを1とした相対値で示した。
【0055】
図2(b)に示した比較例1のディスクリートトラック媒体の磁気記録層40のHcおよびMsのいずれも、図2(d)に示した参考例1の媒体の磁気記録層のHcおよびMsよりも小さいものであった。この結果は、O2アッシングの際のソースパワーが大きく、かつ熱処理を実施しなかったために、O2アッシングの際に膜厚減少またはダメージを受けた第1結晶配向制御層31の表面に磁気記録層40が直接積層され、そのことによって、グラニュラー構造が十分に形成されず、かつその配向制御も十分になされなかったためと考えられる。
【0056】
図2(c)に示した比較例2のディスクリートトラック媒体の磁気記録層40は、比較例1の磁気記録層40よりも大きなHcおよびMsを有した。しかしながら、比較例2のHcおよびMsは、依然として参考例1の磁気記録層40のHcおよびMsよりも小さいものであった。これは、O2アッシングの際のソースパワーを低下させることによって、第1結晶配向制御層31の膜厚減少およびダメージを低減させることが可能であるものの、その効果が十分ではないことを示す。
【0057】
以上の比較例の結果とは対照的に、図1に示した本発明の方法にしたがって作製された実施例1のディスクリートトラック媒体の磁気記録層40は、参考例1の媒体の磁気記録層とほぼ同等のHcおよびMsを示した。この結果は、O2アッシングのソースパワーを低下させるとともに熱処理を実施したことにより、O2アッシングによって受けた第1結晶配向制御層31の膜厚減少およびダメージを十分に補償できたことを示す。
【0058】
また、実施例1で作製したディスクリートトラック媒体を、市販の垂直磁気記録用ヘッドを具えた磁気記録装置に装着して、ヘッド浮上性能を確認した。その結果、ヘッドと媒体との接触およびヘッドの共振などが発生することがなく、安定したヘッド浮上性能を示すことが確認された。
【0059】
さらに、実施例1、比較例1および比較例2で作製したディスクリートトラック媒体の記録再生特性を評価した。トラック方向の線記録密度が254kTPIの信号を、トラック部(グラニュラー構造部41に相当)およびトラック間隙(非グラニュラー構造部42に相当)の両方に記録し、その後に、記録信号を再生した。実施例1のディスクリートトラック媒体においては、トラック部とトラック間隙との間で明らかな信号特性の差が得られ、隣接するトラックが磁気的に分離されていることを確認することができた。この結果から、第1結晶配向制御層31に形成されるパターン(すなわち、磁気記録層40に形成されるパターン)を微細化することによって、高密度記録に対応することが可能になると考えられる。一方、比較例1および比較例2で作製したディスクリートトラック媒体においては、トラック部とトラック間隙との間における信号特性の差を得ることはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の磁気記録媒体の製造方法の一例を説明するための図であり、(a)〜(f)は各工程を示す図である。
【図2】本発明の磁気記録媒体の製造方法の別の例を説明するための図であり、(a)〜(g)は各工程を示す図である。
【図3】実施例1、比較例1〜2および参考例1の媒体の磁気記録層の磁気特性を示す図であり、(a)は実施例1の媒体の磁気記録層の磁気特性を示す図であり、(b)は比較例1の媒体の磁気記録層の磁気特性を示す図であり、(c)は比較例2の媒体の磁気記録層の磁気特性を示す図であり、(d)は参考例1の媒体の磁気記録層の磁気特性を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
10 基板
20 軟磁性層
30 結晶配向制御層
31 第1結晶配向制御層
32 第2結晶配向制御層
40 磁気記録層
41 グラニュラー構造部
42 非グラニュラー構造部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 基板上に軟磁性層を形成する工程と、
(b) 軟磁性層上に結晶配向制御層を形成する工程と、
(c) 第1結晶配向制御層の少なくとも一部に凹部を設ける工程と、
(d) 第1結晶配向制御層を熱処理する工程と、
(e) 第1結晶配向制御層の上に、磁気記録層を形成する工程と
を具えたことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
工程(d)と工程(e)との間に、
(d2) 第1結晶配向制御層の上に、第2結晶配向制御層を形成する工程
をさらに含み、工程(e)において磁気記録層が第2結晶配向制御層に接して形成されることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−117013(P2009−117013A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292346(P2007−292346)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】