説明

磁気記録媒体及び磁気記録装置

【課題】十分な被ライト性能と再生/記録特性を有し、且つ低コストであり、高記録密度で高いデータ信号品質を得ることができる磁気記録媒体及び磁気記録装置を提供する。
【解決手段】非磁性基板1と、この非磁性基板1の上に形成された軟磁性裏打層3と、
軟磁性裏打層3の上に形成された中間層5,6と、中間層の上に形成された垂直磁気異方性を有する記録層9と、記録層9の上に形成された保護膜10と、を有し、軟磁性裏打層3の膜厚t、飽和磁化Bs、飽和磁界Hsの関係を示すt・Bs/Hsが、0.15T・nm/Oe≧t・Bs/Hs≧0.05T・nm/Oeの関係を満たすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体及び磁気記録装置に関し、より詳しくは、主として垂直磁気記録に用いられる磁気記録媒体及び磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータ等で処理される情報量は目覚しい勢いで増大しており、そのコンピュータと共に使用される記録装置に対して、更なる高記録密度が求められている。数ある記録媒体の中で、磁気ディスク等の磁気記録媒体は、他の種類の記録媒体に比べて歴史的には古く、一般に広く普及している。
【0003】
現在まで市場に供給されている磁気記録媒体の大部分は、記録層に記録される磁化の方向が記録層の面に対して平行に向ける面内磁気記録媒体と呼ばれるものである。面内磁気記録媒体において高記録密度を得る方法としては、例えば、記録層を薄くするとともにこの記録層を構成する磁性結晶粒を微細化し、磁性結晶粒同士の相互作用を低減する方法がある。
【0004】
しかしながら、このように磁性結晶粒を微細化すると、その磁性結晶粒の熱安定性が低下し、磁気ディスクに熱が加わったときに情報が消失する現象が起きてしまう。このように情報が消失する現象は、熱揺らぎ現象と呼ばれ、高記録密度化を阻む一つの要因となっている。
【0005】
そこで、磁性結晶粒を微細化せずに高記録密度を達成する磁気記録媒体として、記録層における磁化の方向を、記録層の面に対して垂直方向に向ける垂直磁気記録媒体が、近年実用化されてきている。
【0006】
この垂直磁気記録媒体は、面内磁気記録媒体と比較して、記録層の表面における一つ一つの磁区の面積が小さくなるので、より大きな記録密度を達成することが可能となる。更に、記録層の膜面に対して垂直方向に磁化が向いているので、記録層を厚くすることが可能となり、しかも、記録層を薄膜化した場合に発生する熱揺らぎ現象が起き難い。
【0007】
垂直磁気記録媒体の記録層として最近注目されているものに、グラニュラー記録層がある。グラニュラー記録層は、記録層の垂直方向に長い柱状の磁性結晶粒同士が、酸化物又は窒化物によって互いに分離されて構成され、例えばコバルトプラチナ(CoPt)合金等がその磁性結晶粒として用いられる。
【0008】
このような垂直磁気記録媒体においても、より高い記録密度で高品質の記録再生信号を得るためには、記録層の保磁力を高める必要がある。また、垂直磁気記録媒体は高いデータ書き込み磁化を発生させる必要があるために、垂直記録磁界を還流させる役割を担う軟磁性裏打層が設けられるが、軟磁性裏打層を構成する材料とその磁気特性によって書き込み易さが異なってくる。
【0009】
軟磁性裏打層は、単層の軟磁性膜から構成される場合や、或いは、下記の特許文献1、2に記載のように、反強磁性膜又は非磁性金属膜を間に介在させる2層以上の軟磁性膜から構成される構造もある。
【0010】
軟磁性裏打層はライトヘッド(書込みヘッド)機能の一部を担っており、その飽和磁化強度Bsと膜厚tの積tBsの値が大きいほどライト(書込み)能力が高くなり、より高い保磁力の垂直磁気記録媒体に情報を書き込むことが可能となる。しかし、この軟磁性裏打層の膜厚tについては、量産性の観点から増大することを極力避けたいために、tBsのうちBsの値を高くするのが有効な手段と考えられる。
【特許文献1】特開2004―272957号公報
【特許文献2】特開2005―285149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、飽和磁化強度Bsの値を高くすると、軟磁性の裏打層から発生するノイズが増える。一方、軟磁性裏打層の膜厚tと、飽和磁化強度Bsを減らしすぎると十分な磁気記録ができなくなってしまう。
【0012】
本発明の目的は、量産性の低下を抑制しつつ軟磁性裏打層による磁気記録能力をより高くすることができる磁気記録媒体及び磁気記録装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、非磁性の基材の上に形成された軟磁性材料からなる裏打層と、裏打層の上に形成された中間層と、中間層の上に形成された垂直磁気異方性を有する記録層と、記録層の上に形成された保護膜とを有し、軟磁性裏打層の膜厚t、飽和磁化Bs、飽和磁界Hsの関係が、0.15テスラ・ナノメートル/エルステッド(T・nm/Oe)≧t・Bs/Hs≧0.05T・nm/Oeを満たす磁気記録媒体、又は、そのような磁気記録媒体を備えた磁気記録装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明にしたがって裏打層を構成する軟磁性層の膜厚t、飽和磁化Bs、飽和磁界Hsの関係が、0.15T・nm/Oe>t・Bs/Hs>0.05T・nm/Oeを満たすように磁気記録媒体をすることにより、十分な被ライト性能と、再生/記録特性を有し、且つ低コストであり、高記録密度で高いデータ信号品質を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1A〜1Fは、本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の製造工程を示す断面図であり、この磁気記録媒体は、記録層における磁化の方向が面に対して垂直方向に向いた垂直磁気記録媒体である。
【0016】
まず、図1Aに示すように、非磁性の基材1の上、例えば表面の化学処理によって剛性が高められたガラス基板等の上に、成膜圧力を約0.3Pa〜約0.8Paとする条件でスパッタ法により例えばクロムチタン(CrTi)合金層を第1シード層2として約3nmの厚さに形成する。なお、第1シード層2の成長レートは、特に限定されないが、本実施形態では例えば5nm/秒とする。
【0017】
第1シード層2は、後の工程でその上に積層される積層膜に対して基材1の表面状態を伝えないようにする役割を担うととともに、その積層膜と基材1の表面とを密着させる密着層としても機能する。ただし、第1シード層2を形成しなくてもその上の膜の結晶性に問題が無い場合には、第1シード層2を省略してもよい。
【0018】
非磁性の基材1としては、上述したガラス基板に限定されるものではなく、磁気記録媒体がハードディスクのような固いソリッドな媒体である場合には、プラスチック基板、ニッケルリン(NiP)めっきアルミ合金基板、シリコン基板等を採用してもよい。
【0019】
また、磁気記録媒体が可撓性のテープ状の媒体である場合には、その基材1としてPET(Poly Ethylene Telephtharate)基材、PEN(Ploy Ethylene Naphthalate)基材、ポリイミド基材等の可撓性非磁性材料を使用してもよい。
【0020】
次に、図1Bに示す構造を形成するまでの工程を説明する。
まず、下側軟磁性裏打層3aとして例えばスパッタ法により軟磁性のアモルファス鉄コバルトジルコニウムタンタル(FeCoZrTa)層を第1シード層2の上に約20nmの厚さに形成する。アモルファスFeCoZrTa層は、例えば、成膜圧力を0.3Pa〜0.8Pa、成長レートを5nm/秒とする条件のスパッタ法により形成される。
【0021】
なお、下側軟磁性裏打層3aを構成する軟磁性のアモルファス材料はFeCoZrTaに限定されるものではなく、FeかCoのいずれかを含む合金であってニッケル、炭素、タンタルニオブ等の1種類以上の元素を添加したアモルファス材料で下側軟磁性裏打層3aを構成してもよい。
【0022】
続いて、下側軟磁性裏打層3aの上に、極薄い非磁性層、例えば厚さ約0.4nm〜3nmのルテニウム(Ru)層をスパッタ法により形成し、この非磁性層を磁区制御層3bとする。
なお、磁区制御層3bとして、Ru層に代えて、ロジウム(Rh)層、イリジウム(Ir)層、銅(Cu)層を形成してもよい。
【0023】
さらに、既述の下側軟磁性裏打層3aと同じ成膜条件を採用するスパッタ法を用いて、上側軟磁性裏打層3cとして、例えば厚さ約20nmのアモルファスFeCoZrTa層を磁区制御層3bの上に形成する。なお、上側軟磁性裏打層3cは、アモルファスFeCoZrTa層の他、既述の下側軟磁性裏打層3aと同様のアモルファス材料で構成されれば良い。
【0024】
以上のように第1シード層2の上に順に形成された下側軟磁性裏打層3a、磁区制御層3b、及び上側軟磁性裏打層3cは、全体で裏打層3となる。なお、裏打層3は、磁区制御層3bを介して2以上の軟磁性層を積層した構造であってもよいし、磁区制御層を介さずに1層の軟磁性層だけで構成してもよい。
そのような構造の裏打層3では、磁区制御層3bを介して下側軟磁性裏打層3aと上側軟磁性裏打層3cが反強磁性結合をするため、下側軟磁性裏打層3aと上側軟磁性裏打層3cの磁化Mは、互いに反並行の状態で安定する。
【0025】
また、上側軟磁性裏打層3cと下側軟磁性裏打層3aのそれぞれにおいて、膜面内方向に隣り合う磁化Mが互いに反対方向を向く場合に見られる「突合せ」が存在しても、そこから膜厚方向に漏れる磁束は、磁化が反並行状態にある他方の下側軟磁性裏打層3a又は上側軟磁性裏打層3cを介して裏打層3内で還流する。
【0026】
その結果、上側軟磁性裏打層3cと下側軟磁性裏打層3aにおいて磁壁を発生源とする磁束が裏打層3の上方に延び難くなるため、後述する磁気ヘッドがその磁束を拾わなくなるので、磁壁からの磁束に起因して読み取り時に発生するスパイクノイズ、を減少させることが可能となる。
【0027】
なお、スパイクノイズを減少させる構造としては、その他に、反強磁性体層の上に単層の軟磁性の裏打層を形成する構造もあり、これを採用してもよい。この場合の反強磁性層は、例えばイリジウムマンガン(IrMn)や鉄マンガン(FeMn)等の材料で構成される。
【0028】
ところで、裏打層3において、上側軟磁性裏打層3cと下側軟磁性裏打層3aの双方の合計の膜厚をtとし、上側軟磁性裏打層3cと下側軟磁性裏打層3aを構成する軟磁性層の飽和磁化をBsとし、飽和磁界をHsとすると、t・Bs/Hsは0.15T・nm/Oe以下であり、0.05T・nm/Oe以上であるという条件を満たすように構成される。その詳細は後述する。
【0029】
次に、図1Cに示す構造を形成する工程を説明する。
まず、裏打層3の上に、第2シード層4として例えばTa層をスパッタ法により1nm〜3nmの厚さに形成する。なお、第2シード層4の形成は省略されてもよい。
【0030】
続いて、第2シード層4を介して裏打層3の上に配向制御層5として、例えば、成膜圧力を0.3Pa〜0.8Pa、成長レートを2nm/秒とする条件のスパッタ法により軟磁性のニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)層を約5nmの厚さに形成する。
【0031】
配向制御層5を構成するNiFeCr層は、その下地として例えばFeCo合金基のアモルファス材料からなる上側軟磁性裏打層3cを用いることにより、良好なfcc(face-centered cubic:面心立方格子)構造の結晶構造となる。
【0032】
このようなfcc構造を持つ配向制御層5は、NiFeCrの他に、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、NiFe、ニッケル鉄シリコン合金(NiFeSi)、アルミニウム(Al)、Cu、及びインジウム(In)のいずれか、若しくはこれらの合金でも構成され得る。
【0033】
配向制御層5をそのようなNiFe等の軟磁性材料から構成すると、配向制御層5が上側軟磁性裏打層3cの機能をも兼ねるようになって、磁気ヘッドから上側軟磁性裏打層3cまでの距離が見かけ上短くなり、磁気ヘッドは磁気情報を感度良く拾うことができる。
【0034】
次に、図1Dに示すように、成膜圧力を4Pa〜10Paとするスパッタ法により、非磁性層6として例えばRu層を配向制御層5の上に約10nmの厚さに形成する。そのRu層の成長レートは、後述するようにその表面の凹凸の制御性からなるべく低いのが好ましく、本実施形態では0.5nm/秒とする。
【0035】
非磁性層6を構成するRu層の結晶構造はhcp(hexagonal close-packed:六方最密充填)構造であるが、この非磁性層6のhcp構造は、配向制御層5の結晶構造であるfcc構造と格子マッチングが良い。さらに、配向制御層5は、その下の第2シード層4の上面の凹凸を吸収するようにも機能する。このような配向制御層5の作用によって、配向が一方向に揃えられて良好な結晶性を有する非磁性層6が配向制御層5上に成長する。
【0036】
なお、hcp構造の非磁性層6については、Ru層に代えて、Co、Cr、タングステン(W)、及びレニウム(Re)のいずれかとRuよりなるRu合金により構成してもよい。
【0037】
ここまで説明した工程により、基材1の上には、第1シード層2、裏打層3、第2シード層4、配向制御層5及び非磁性層6を積層してなる下地層12が形成されたことになる。また、裏打層3は、下側軟磁性裏打層3aと、上側軟磁性裏打層3cと、それらの間に介在する磁区制御層3bとから構成されている。
【0038】
次に、図1Eに示す構造を形成する工程について説明する。
まず、スパッタ装置のチャンバ内に、Co70Cr14Pt20ターゲットと二酸化シリコン(SiO2)ターゲットとを配置し、さらに、下地層12が形成された非磁性の基材1をその中に入れる。また、微量のO2、例えば流量比で0.2%〜2%のO2をアルゴン(Ar)ガスに添加してなる混合ガスをスパッタガスとしてチャンバ内に導入し、チャンバ内部圧力を比較的高い約3Pa〜約7Paに安定させるとともに、基材1の温度を比較的低い10℃〜80℃に保持する。
【0039】
このような状態で、上記のCo70Cr14Pt20ターゲット、SiO2ターゲットと基材1との間に、パワーが400W〜1000Wの高周波電力を印加することにより、Co66Cr14Pt20とSiO2のスパッタを開始する。
【0040】
なお、高周波電力の周波数は特に限定されず、例えば13.56MHzとする。さらに、そのような高周波電力に代えて、パワーが400W〜1000W程度の直流電力を用いてチャンバ内で放電を生じさせてもよい。
【0041】
上記のようなスパッタ法において、成膜圧力を約3Pa〜約7Paと比較的高くし且つ成膜温度を約10℃〜約80℃と比較的低くする条件を採用すると、低圧且つ高温の成膜条件と比較して疎な膜ができる。
【0042】
このため、下地層12の上では、ターゲット材料のCo66Cr14Pt20とSiO2とが互いに混ざり合わず、SiO2よりなる非磁性材料層7a中に、Co66Cr14Pt20よりなる柱状の磁性粒子7bが分散されてなるグラニュラー構造の主記録層7が形成される。即ち、磁性粒子7bは、非磁性材料により分離された構造となっている。
【0043】
グラニュラー構造の主記録層7では、非磁性材料層7aの含有率が全体の約5mol%〜15mol%であるのが好ましく、本実施形態では、その含有率が7mol%の (Co66Cr14Pt20)93(SiO2)7層が主記録層7として形成される。
主記録層7の厚さは特に限定されないが、本実施形態では例えば12nmであり、その成長レートを例えば5nm/秒とする。
【0044】
ところで、hcp構造の非磁性層6は、主記録層7内の磁性粒子7bの配向を膜面に対して垂直方向に揃えるように機能するため、磁性粒子7bは、非磁性層6と同じようにc軸が垂直方向に延びたhcp構造の結晶構造となるとともに、hcp構造の六角柱の高さ(c軸)方向が磁化容易軸になり、主記録層7が垂直磁気異方性を呈するようになる。
【0045】
このようなグラニュラー構造の主記録層7では、磁性粒子7bのそれぞれが磁化容易軸を揃えて孤立化しているため、主記録層7でのノイズを低減することが可能になる。
また、磁性粒子7bのPt含有率を25at.%以上とすると、主記録層7の結晶磁気異方性定数Kuが低下するので、磁性粒子7bでのPt含有率は25at.%未満とするのが好ましい。
【0046】
さらに、上記のように、スパッタガス中に流量比で0.2%〜2%程度の微量のO2をArガスに添加することにより、主記録層7における磁性粒子7bの孤立化が促進され、電磁変換特性を向上させることが可能になる。
【0047】
ところで、磁性粒子7bの孤立化、つまり各磁性粒子7b同士の間隔の拡大は、主記録層7の下の非磁性層6の表面の凹凸を大きくすることによっても促進することができる。その凹凸を大きくするには、非磁性層6を構成するRu層を、既述のような0.5nm/秒程度の低成長レートで成長させればよい。
【0048】
磁性粒子7bとして、上記のようなCoCrPt合金の粒子の他に、CoとFeとを含むCoFe合金で構成される粒子を採用してもよく、さらに、CoFe合金にCu又は銀(Ag)を添加してもよい。CoFe合金を使用する場合には、主記録層7に熱処理を施し、磁性粒子7bの結晶構造をHCT(Honeycomb Chained Triangle)構造にするのが好ましい。HCT構造は、所定原子がハニカム状に連結した構造である。
【0049】
一方、磁性粒子7bを囲む非磁性材料層7aとして、上記のように酸化シリコンを採用する他に、その他の酸化物、例えばTi、Cr、Ta及びZrのうちのいずれかの酸化物を非磁性材料7aとして用いてもよい。なお、酸化物の代わりに、Si、Ti、Cr、Ta及びZrのうちのいずれかの窒化物を非磁性材料層7aとして使用してもよい。
【0050】
主記録層7の成長に続いて、Arガスをスパッタガスとするスパッタ法により、CoとCrを含む合金層、例えばCo67Cr19Pt104層を主記録層7の上に約6nmの厚さに形成し、このCo67Cr19Pt104層を書き込み補助層8とする。書き込み補助層8の成膜条件は特に限定されないが、本実施形態では、例えば成膜圧力0.3〜0.8Pa、成長レート2nm/秒の条件を採用する。
【0051】
書き込み補助層8を構成するCo67Cr19Pt104層は、その下の主記録層7中の磁性粒子7bと同じ結晶構造のhcp構造を有するので、磁性粒子7bと補助層8との格子マッチングは良好であり、結晶性の良い書き込み補助層8が主記録層7上に成長する。書込補助層8は、主記録層7とともに記録層9を構成する。
なお、上記した第2シード層4、配向制御層5及び非磁性層6は、記録層9と下地層12の間の中間層となる。
【0052】
次に、図1Fに示すように、保護層10を記録層9の上に形成する。保護層10として、例えば、高周波気相成長法(RF−CVD:Radio Frequency-Chemical Vapor Deposition)法によりダイアモンドライクカーボン (DLC:Diamond Like Carbon)層を約4nmの厚さに形成する。DLC層の成長条件は、例えば、反応ガスとしてC22ガスをチャンバ内に導入し、成膜圧力を約4Pa、高周波電力のパワーを1000Wに設定するとともに、反応ガス放出用のシャワーヘッド(不図示)と基材1の間にバイアス電圧200Vを印加する条件とする。
【0053】
以上のような基材1、下地層12、記録層9及び保護層10により、本実施形態に係る磁気記録媒体11の基本構造が構成される。
【0054】
図2は、磁気記録装置において、磁気記録媒体11の上に磁気ヘッド13を配置させた状態の一例を示す断面図であり、磁気ヘッド13は、垂直磁気記録ヘッド14と再生用ヘッド15を有している。
【0055】
垂直磁気記録ヘッド14は、その中央寄り領域で互いの一部が接続される主磁極14aとリターンヨーク14bを有し、さらに、磁気記録媒体11寄りに形成されるそれらの隙間に非接触状態で配置される導電性コイル14cを有している。
【0056】
また、再生用ヘッド15は、リターンヨーク14bから間隔をおいて形成される磁気シールド15aを有するとともに、リターンヨーク14bと磁気シールド15aの間に形成される再生用素子15bを有している。
再生用素子15cとして、例えば、磁気抵抗効果(MR)ヘッド、GMR(Giant MR)ヘッド、TMR(Tunnel MR)ヘッドなどが用いられる。
【0057】
なお、垂直磁気記録ヘッド14は、上記の構造に限られるものではなく、例えば、リターンヨーク14b内に凹部(トレイ)を設け、その凹部に導電性コイル14cを配置する構造、その他の構造を採用してもよい。また、図2では、再生用素子15bを挟むもう一方の磁気シールドの機能をリターンヨーク14bに担わせているが、リターンヨーク14bとは別に形成してもよい。
【0058】
垂直磁気記録ヘッド14による書き込みは、記録信号である電流を導電性コイル14cに流すことにより、端面の面積の小さな主磁極14a内を通る高い磁束密度の記録磁界Hを発生させる。これにより、記録層9の主記録層7において、主磁極14aの直下にある磁区の磁性粒子7bは記録磁界Hと同じ方向に磁化されて、磁気情報が書き込まれる。
【0059】
主磁極14aの直下で主記録層7を垂直方向に貫く記録磁界Hは、軟磁性裏打層3の上側軟磁性裏打層3c内をリターンして記録層9内を逆の垂直方向に貫いて、断面積の大きなリターンヨーク13aに入るというループを描く。ここで、記録層9の上面から記録磁界Hが垂直に入るリターンヨーク13aの端面の面積は主磁極14aに比べて大きいので、その直下の記録層9を貫く磁束密度は低い。
【0060】
また、裏打層3の下側軟磁性裏打層3aにおいて、上側軟磁性裏打層3cを貫通して垂直方向に入る記録磁界Hの一部はリターンしてリターンヨーク13aへ向かうループを描く。また、下側軟磁性裏打層3aと上側軟磁性裏打層3cは磁区制御層3bを介して反強磁性結合をするため、下側軟磁性裏打層3aでは上側軟磁性裏打層3cの面内方向の磁化とは反並行の磁化が生じ、裏打層3aでは外部への漏洩が抑制される。
【0061】
さらに、面内において図の矢印Aの方向に磁気記録媒体11と磁気ヘッド13を相対的に移動させつつ、記録信号に応じた記録磁界Hを発生させることにより、磁気記録媒体11に磁気的な情報が記録される。そのような磁気的な情報は、記録媒体11のトラック方向に連なった複数のビット領域に垂直方向に磁化して書き込まれる、
【0062】
また、磁気記録媒体11に記録された記録信号を再生する際には、磁気記録媒体11と磁気ヘッド13とを、面内において矢印のA方向に相対移動させることで、主記録7に書き込まれた磁気情報により再生用ヘッド15の再生用素子15bの磁化方向を変化させて磁気情報を電気信号に変換して記録信号を読み取る。
【0063】
次に、磁区制御層3bを除く裏打層3の膜厚tとその飽和磁化Bsの積を飽和磁界Hsで割った値、即ちt・Bs/Hs(単位:T・nm/Oe)を変化させたときの電磁変化特性を評価したところ、図3〜図5に示すような結果が得られた。
【0064】
評価に使用した磁気記録媒体11は、記録層7の材料を2種類のものを用意し、さらに、裏打層3の構成を変えること以外については、全て同じ構成とした。裏打層3は、Fe61Co33Zr4Ta2合金からなる上側及び下側軟磁性裏打層3c、3aによりRuの磁区制御層3bを挟んだ積層構造を有している。
【0065】
図3〜図5において、「材料1」、「材料2」は主記録層7の構成材料の違い、具体的には、主記録層7を構成する非磁性材料層7aの材料の違いを示し、「材料1」、「材料2」のうち一方はTiOであり、他方はSiOである。
【0066】
また、図3〜図5において、「Hex1」、「Hex2」は、裏打層3を構成する磁区制御層3bの違い、具体的には、磁区制御層3bを構成するRu層の膜厚の違いを示し、その膜厚の違いにより、上側軟磁性裏打層3cと下側軟磁性裏打層3aの結合力が異なる。
【0067】
図3は、磁気記録媒体11の出力のt・Bs/Hs依存性を示し、その出力は再生用素子15bの出力電圧VF8(単位:μVpp(peak to peak μV))で示されている。
図3によれば、t・Bs/Hsが0.2Tnm/Oe以上で飽和しているが、5%程度の出力低下は信号品質に大きな影響を与えないことを考えると、t・Bs/Hsは0.05Tnm/Oe以上の値で十分な事が分かる。
【0068】
図4は、書き込みと消去を同時に行うオーバーライトO/W2(単位:dB)とt・Bs/Hsの関係を示すオーバーライト特性である。オーバーライトは、記録データの書込み易さを表す指標であり、一般的に−35dB以下の数値であれば十分だと言われている。ここで、オーバーライトを−35dB以下にするには、t・Bs/Hsが0.05Tnm/Oe以上であれば良いことが分かる。
【0069】
図6は、VMM(ビタビ・メトリック・マージン)とt・Bs/Hsの関係を示している。VMMは、記録信号読み取り時の誤り率を表す指標であり、その数値が小さいほど信号品質が良好である。また、VMMは、磁気ヘッドと磁気記録装置の仕様によっても異なるが、その指標としては2.5以下であれば十分高い信号品質で誤り無く記録信号を再生することが可能であり、図5によればt・Bs/Hsが0.05Tnm/Oe以上あればよいことがわかる。
【0070】
以上のことから、t・Bs/Hsの下限値としては0.05以上であれば電磁変換特性としては十分であることがわかる。しかし、磁気記録媒体の量産性を考えると、t・Bs/Hsには上限値があり、その上限値は次のようにして決まってくる。
一般的に、磁気記録媒体11を量産するために基材11上の下地層12、記録層9の成膜には枚葉式のスパッタ装置が使われている。
【0071】
コストを考慮するとスパッタ装置は、1台辺り500枚/時間以上で磁気記録媒体11の製造枚数を確保することが必要になる。これを達成するには、裏打層3を構成する下側又は上側軟磁性裏打層3a,3cの1層あたりの膜厚tは20nm程度が上限となり、これを超えると大幅にコストが高くなってしまう。
【0072】
軟磁性裏打層3に用いる材料で最も飽和磁化Bsが高いものであっても1.8T程度であり、その様な裏打層3の材料20nmの膜で、Ruの磁区制御層3bを挟んだ裏打層3においては、飽和磁界Hsは凡そ500エルステッド(Oe)以上となる。
そこで、磁区制御層3bを除く裏打層3の膜厚tを20nm×2、飽和磁化Bsを1.8T、飽和磁界Hsを凡そ500Oeの数値として、t・Bs/Hsの値を算出すると、t・Bs/Hs=20×2×1.8/500=0.144Tnm/Oeとなり、0.15Tnm/Oeに近い値となる。
【0073】
したがって、製造コストを考慮するとt・Bs/Hsの上限値は、0.15Tnm/Oe程度となる。
以上のことから、裏打層3のt・Bs/Hsの値の範囲は、上述したように0.15T・nm/Oe≧t・Bs/Hs≧0.05T・nm/Oeの関係を満たす条件に設定されることが好ましい。
【0074】
以上のことから、本発明の実施形態によれば、t・Bs/Hsをそのような条件にすることにより、磁気記録媒体11は十分な被ライト性能とR/W(再生/記録)特性を有し、しかも低コストであって高記録密度で高いデータ信号品質を得ることが可能になる。
【0075】
次に、図2に示した磁気記録媒体11と磁気ヘッド13を備えた磁気記録装置の一例について図6を参照して説明する。
図6に示す磁気記録装置100は磁気記録再生装置とも言い、情報機器、例えばコンピュータやテレビジョンなどの録画装置として搭載されるハードディスク装置(HDD)であり、磁気記録媒体11を構成する基材1は上記したようなソリッドな媒体から構成される。
【0076】
ハードディスク装置100の筐体内101内には、スピンドルモータ102、磁気記録媒体11、キャリッジアーム103等が取り付けられている。磁気記録媒体11の中心はスピンドルモータ102の回転軸に固定されて回転及び停止可能に配置されている。また、キャリッジアーム103の先端部にはサスペンション104が接続され、さらにサスペンション104の先端には磁気記録媒体11に対向する磁気ヘッド13が取り付けられている。
【0077】
キャリッジアーム103の後端部は、筐体内101内に配置したボイスコイルモータ(不図示)の駆動により回動可能な支軸105に固定されていて、磁気ヘッド13が磁気記録媒体11の上をトラック幅方向に移動可能になっている。
【0078】
ハードディスク装置100における磁気記録媒体11を構成する裏打層3は、上記と同様に、磁区制御層3bを除いた下側及び上側軟磁性裏打層3a,3cの総膜厚tと、飽和磁化Bsと、飽和磁界Hsの関係を示すt・Bs/Hsが、0.05T・nm/Oe以上であり、0.15T・nm/Oe以下となる構成を有している。
【0079】
なお、磁気記録装置は、ハードディスクドライブ装置100に限定されものではなく、例えば基材1を非磁性の可撓性テープを使用した磁気記録テープのような装置であっても良い。
【0080】
次に、本発明の実施形態について特徴を付記する。
(付記1) 非磁性材料からなる基材と、前記基材の上に形成され、且つ膜厚がt、飽和磁化がBs、飽和磁界がHsの軟磁性層からなり、0.15T・nm/Oe ≧ t・Bs/Hs ≧ 0.05T・nm/Oeとなる関係を有する裏打層と、前記裏打層の上に形成された中間層と、前記中間層の上に形成されて垂直磁気異方性を有する記録層と、前記記録層の上に形成された保護膜とを有することを特徴とする磁気記録媒体。
(付記2) 前記裏打層を構成する前記軟磁性層は、非磁性材料からなる磁区制御層を間に挟んで少なくとも2層から構成されることを特徴とする付記1に記載の磁気記録媒体。
(付記3) 前記磁区制御層は、0.4nm以上で3nm以下の厚さを有することを特徴とする付記2に記載の磁気記録媒体。
(付記4) 前記裏打層を構成する前記軟磁性層は、アモルファス軟磁性材料で構成されていることを特徴とする付記1乃至付記3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(付記5) 前記基材と前記裏打層の間には、前記基材と前記裏打層の密着を高めるシード層が形成されていることを特徴とする付記1乃至付記4のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(付記6) 前記中間層は、前記裏打層の上に形成された配向制御層と、前記配向制御層の上に形成された結晶性の非磁性層とにより構成されていることを特徴とする付記1乃至付記5のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(付記7) 前記配向制御層は、アモルファス材料を前記裏打層の前記軟磁性層に用いることによりfcc構造の結晶構造となる材料から形成されることを特徴とする付記6に記載の磁気記録媒体。
(付記8) 前記非磁性層は、結晶構造がhcp構造を有することを特徴とする付記6又は付記7に記載の磁気記録媒体。
(付記9) 前記記録層は、前記非磁性層の上に形成された主記録層と、前記主記録層の上に形成された書き込み補助層とにより構成され、前記書き込み補助層と前記主記録層はhcp構造の結晶を有することを特徴とする付記6に記載の磁気記録媒体。
(付記10) 前記書き込み補助層は、その下の前記主記録層中の磁性粒子と同じhcp構造の結晶を有することを特徴とする付記9に記載の磁気記録媒体。
(付記11) 前記記録層には、前記非磁性層の面に対して垂直方向に延びたhcp構造の結晶構造を有し且つ前記hcp構造の六角柱のc軸方向が磁化容易軸である材料からなる磁性粒子が含まれていることを特徴とする付記6に記載の磁気記録媒体。
(付記12) 付記1乃至付記11のいずれかに記載の磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体に対向して設けられた磁気ヘッドとを有することを特徴とする磁気記録装置。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1A】図1A〜図1Dは、本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の製造途中の断面図(その1)である。
【図1E】図1E、図1Fは、本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の製造途中の断面図(その2)である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る磁気記録媒体への書き込み動作を説明するための断面図である。
【図3】図3は、磁気記録媒体層の出力のt・Bs/Hs依存性を表す図である。
【図4】図4は、磁気記録媒体層のオーバーライト特性のt・Bs/Hs依存性を表す図である。
【図5】図5は、磁気記録媒体層のVMMのt・Bs/Hs依存性を表す図である。
【図6】図6は、本発明の実施形態に係る磁気記録装置の一例であるハードディスク装置の内部構造を示す平面図である。
【符号の説明】
【0082】
1 非磁性の基板
2 第1シード層
3 裏打層
3a 下側軟磁性裏打層
3b 磁区制御層
3c 上側な磁性裏打層
4 第2シード層
5 配向制御層
6 非磁性層
7 主記録層
7a 非磁性材料層
7b 磁性粒子
8 書き込み補助層
9 記録層
10 保護層
11 磁気記録媒体
12 下地層
13 磁気ヘッド
100 ハードディスク装置(磁気記録装置)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性材料からなる基材と、
前記基材の上に形成され、且つ膜厚がt、飽和磁化がBs、飽和磁界がHsの軟磁性層からなり、0.15T・nm/Oe ≧ t・Bs/Hs ≧ 0.05T・nm/Oeとなる関係を有する裏打層と、
前記裏打層の上に形成された中間層と、
前記中間層の上に形成されて垂直磁気異方性を有する記録層と、
前記記録層の上に形成された保護膜と
を有することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記裏打層を構成する前記軟磁性層は、非磁性材料からなる磁区制御層を間に挟んで少なくとも2層から構成されることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁区制御層は、0.4nm以上で3nm以下の厚さを有することを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体に対向して設けられた磁気ヘッドと
を有することを特徴とする磁気記録装置。

【図1A】
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【図1E】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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