説明

磁気記録媒体

【課題】 粒子サイズが非常に小さく、かつ極めて高い保磁力を有し、しかも高密度記録に最適な飽和磁化を有する磁性粉末の表面にアミノ基含有化合物を結合させることにより、優れた短波長特性と同時に化学的に安定な磁気記録媒体を得る。
【解決手段】 非磁性支持体上に磁性粉末と結合剤を含有する磁性層を有する磁気記録媒体において、上記の磁性粉末として平均粒子サイズが5〜50nmの粒状ないし楕円状の磁性粉末の表面にアミノ基含有化合物を含有させることにより、優れた短波長特性と同時に化学的にも極めて安定で高い信頼性を有する磁気記録媒体となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状ないしは楕円状で、その表面にアミノ基含有化合物を結合させた磁性粉末を使用した磁気記録媒体に関し、さらに詳しくは、デジタルビデオテープ、コンピユータ用のバックアップテープなどの超高密度記録に最適な磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗布型磁気記録媒体、つまり、非磁性支持体上に磁性粉末と結合剤を含有する磁性層を有する磁気記録媒体は、記録再生方式がアナログ方式からデジタル方式への移行に伴い、一層の記録密度の向上が要求されている。とくに、高記録密度用のビデオテープやコンピュータ用のバックアップテープなどにおいては、この要求が年々高まってきている。
記録密度の向上に不可欠な短波長記録に対応するためには、記録時の厚み損失を小さくするため、磁性層の厚さを300nm以下、とくに100nm以下に薄膜化するのが効果的である。このような高記録密度媒体に用いられる再生用磁気ヘッドとしては、高出力が得られるMRヘッドが一般に用いられる。
【0003】
また、ノイズ低減のため磁性粉末においては、年々微粒子化がはかられ、現在粒子径が100nm程度の針状のメタル磁性粉末が実用化されている。さらに、短波長記録時の減磁による出力低下を防止するために、年々高保磁力化がはかられ、鉄−コバルト合金化により238.9A/m(3,000Oe)程度の保磁力が実現されている(特許文献1〜3参照)。しかし、針状磁性粒子を用いる磁気記録媒体では保磁力が形状に依存するため、上記粒子径からのさらなる微粒子化は困難になってきている。すなわちさらに微粒子化すると、比表面積が著しく大きくなり、飽和磁化が大きく低下する。そのため、金属または合金磁性粉末の最大の特徴である高飽和磁化のメリットが損なわれる。
そこで、上記針状の磁性粉末とは全く異なる磁性粉末として、希土類−遷移金属系粒状磁性粉末、たとえば、粒状ないし楕円状の希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末を使用した磁気記録媒体が提唱されている(特許文献4参照)。この媒体は磁性粉末の超微粒子化が可能で、かつ高飽和磁化および高保磁力を実現でき、高記録密度化に大きく貢献するものである。
【0004】
また粒子形状が針状でない鉄系磁性粉末として、粒子形状が不定形でFe162 相を主相とした、BET比表面積が10m2 /g程度の窒化鉄系磁性粉末を用いた磁気記録媒体も提案されている(特許文献5参照)。
【0005】
一方Fe162 相を含み粒子サイズが5〜50nmの粒状ないし楕円状の磁性粉末が本発明者らにより提案されており、従来の磁性粉末では得られない優れた短波長特性を示すことが述べられている。この磁性粉末は、さらに磁性粉末中に希類土元素やアルミニウム、シリコンなどを含有させることを特徴としている。(特許文献6参照)
【特許文献1】特開平3−49026号公報(第4頁)
【特許文献2】特開平10−83906号公報(第3頁)
【特許文献3】特開平10−34085号公報(第2頁)
【特許文献4】特開2001−181754号公報(第4頁、第22頁)
【特許文献5】特開2000−277311号公報(第3頁、図4)
【特許文献6】特開2004−273094号公報(第4頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献6記載の磁性粉、すなわちFe162 相を含み粒子サイズが5〜50nmの粒状ないし楕円状の磁性粉末は、従来の磁性粉末では得られない優れた短波長特性を示すことが最大の特徴である。一方このような磁気記録媒体を高記録密度用のビデオテープやコンピュータ用のバックアップテープなどに使用するためには、短波長特性と同時に高い信頼性が要求される。この信頼性の中でも、高温高湿下に磁気記録媒体を保持した場合の信頼性は特に重要である。すなわち磁性粉末に金属、合金あるいは金属化合物を使用した場合、本質的に高温高湿下での劣化は避けられないためである。
【0007】
本発明は、このような事情に照らし、粒子サイズが5〜50nmの粒状ないし楕円状の磁性粉末を用いた磁気記録媒体において、すぐれた短波長記録特性と同時に、化学的にも極めて安定で高い信頼性を有する磁気記録媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような事情に照らしてなされたもので、磁性粉末の平均粒子サイズが5〜50nmの粒状ないし楕円状の粒子形状の磁性粉末で、かつこの磁性粉末の表面にアミノ基含有化合物を結合させることにより、この磁性粉末が本来有する優れた短波長記録特性と同時に、化学的にも極めて安定で高い信頼性を有する磁気記録媒体が得られることを見出した。
ここで、本発明でいう平均粒子サイズ(平均粒子径ともいう)とは、透過電子顕微鏡(TEM)にて倍率25万倍で撮影した写真から粒子サイズを実測して、500個の平均値により求められるものである。また、磁性粉末について粒状ないし楕円状とは、磁性粉末の長軸方向に対する短軸方向の長さの比が1以上2以下のものをいう。
【0009】
このような所定の磁性粉末を用いた磁気記録媒体において、その磁性粉にアミノ基含有化合物を結合させることにより、すぐれた短波長記録特性と同時に化学的にも極めて安定で高い信頼性を有する磁気記録媒体が得られる。この場合のアミノ基含有化合物は磁性層中の磁性粉末に対して0.05〜5.0重量%含有させることが特に有効である。
【0010】
本発明の磁気記録媒体においては、高密度記録特性や短波長記録特性の観点から、磁気特性としては長手方向の保磁力(Hc)が79.6〜318.4kA/m(1,000〜4,000Oe)、長手方向の角形比(Br/Bm)が0.6〜0.9、飽和磁束密度と磁性層厚さとの積(Bm・t)が0.001〜0.1μTmの磁気記録媒体とするのが好ましい。
なお、本発明では、上記のように所定の磁性粉末の耐食性を向上させるためにアミノ基含有化合物を使用するが、このようなアミノ基含有化合物は、現在広く使用されているFe、Fe−Co、Fe−Ni、Fe−Co−Niを主成分とする針状の金属あるいは合金磁性粉末を磁性層に用いた磁気記録媒体において用いることができるが、Fe162 相を少なくとも含む平均粒子サイズが5〜50nmの粒状ないし楕円状の磁性粉末に対しては特に有効である。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明は磁性粉末として平均粒子サイズが5〜50nmの粒状ないし楕円状の磁性粉末を使用し、さらにこの磁性粉末の表面にアミノ基含有化合物を結合させることにより、この磁性粉末が有する優れた短波長記録特性と同時に化学的にも極めて安定で高い信頼性を有する磁気記録媒体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
〈本発明で使用する磁性粉末〉
本発明で使用する平均粒子サイズが5〜50nmの粒状ないし楕円状の磁性粉末は、さらに鉄に対する窒素の含有量が1.0〜20.0原子%であることが好ましく、より好ましくは5.0〜18.0原子%、更に好ましくは8.0〜15.0原子%である。これより窒素の含有量が少なすぎると、Fe162 相の形成量が少なく、保磁力増加の効果が小さくなり、多すぎると、非磁性窒化物が形成されやすく、保磁力増加の効果が小さくなり、また飽和磁化が過度に低下する恐れがあるからである。
【0013】
この磁性粉末は、鉄に対して希土類元素を0.05〜20.0原子%添加することが好ましい。希土類元素の量が少なすぎると、希土類元素による分散性の向上効果が小さくなり、また還元時の粒子形状維持効果が小さくなる。また、多すぎると、添加した希土類元素のうち、未反応の部分が多くなり、分散、塗布工程の障害となるばかりでなく、保磁力や飽和磁化の過度な低下が生じやすい。この希土類元素としては、イットリウム、イッテルビウム、セシウム、プラセオジウム、ランタン、ユーロピウム、ネオジウムなどが挙げられる。これらのうち、イットリウム、サマリウムまたはネオジウムは、とくに還元時の粒子形状の維持効果が大きいことから、これらの元素の中から、その少なくとも1種を選択使用するのが望ましい。またさらに、希土類元素のみならず、ホウ素、シリコン、アルミニウム、リンを添加すると、形状保持効果と同時に分散性の向上をはかれることがわかった。これらは、希土類元素に比べて安価であることから、コスト的にも有利であり、希土類元素と組み合わせて使用することがより好ましい。
〈本発明で使用するアミノ基含有化合物〉
またアミノ基含有化合物の結合量は、磁性粉末に対して0.05〜5.0量%が好ましく、より好ましくは0.1〜3.0重量%である。この結合量が少ないと化学的安定性向上の効果が少なく、多すぎると塗料粘度が高くなリ過ぎて塗布適性が悪くなる傾向がある。このアミノ基含有化合物としては飽和環状化合物が特に好ましく、一般式C2nで表されるシクロアルカンにアミノ基が結合した構造のものが好ましい。またアミノ基の他にさらにカルボキシル基など他の官能基が結合していても構わない。本発明で使用できるアミノ基含有化合物としては、具体的には例えば、シクロヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン炭酸塩、シクロヘキシルアミン塩酸塩、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩、シクロヘキシルアミン亜硝酸塩、アリルシクロヘキシルアミン、N−(3−アミノプロピル)シクロヘキシルアミン、N−メチルシクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N−ジエチルシクロヘキシルアミン、N,Nジメチルシクロヘキシルアミン、N−エチルシクロヘキシルアミン、1−エチルシクロヘキシルアミン、N−イソプロピルシクロヘキシルアミン、2−メルカプトベンゾチアゾールシクロヘキシルアミン、N−ニトロソジシクロヘキシルアミン、またはこれらの塩類(塩としてはシクロヘキシルアミン系で記した炭酸塩、塩酸塩、臭化水素塩、亜硝酸塩など)が挙げられる。
以上のような磁性粉末を用いた磁気記録媒体とすることにより、すぐれた短波長記録特性と同時に化学的にも極めて安定で高い信頼性を有する磁気記録媒体となる。
【0014】
このように磁性粉末にアミノ基含有化合物を結合させることにより化学的安定性が大幅に向上する理由については必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。すなわちアミノ基を通して磁性粉末とバインダの官能基との架橋が促進され、磁性層中で磁性粉とバインダとの強固な結合が形成される結果、水分や酸素の侵入を防いでいると考えられる。またアミノ基そのものがアルカリ性であるために、水分が浸入した場合でも、磁性粉の周囲がアルカリ性になる結果、水分による劣化を防止できると考えられる。
このようにアミノ基を通してのバインダの強固な結合と磁性粉周辺のアルカリ化により、本質的に安定である窒化鉄系磁性粉末を用いた磁気記録媒体をさらに化学的に安定化し、実用的に優れた磁気記録媒体とすることができる。
〈磁気記録媒体の製造方法〉
以下に本発明の窒化鉄系磁性粉末の製造方法と、この磁性粉末にアミノ基含有化合物を結合させる方法について説明する。
出発原料には、鉄系酸化物または水酸化物を使用する。たとえばヘマタイト、マグネタイト、ゲータイトなどが挙げられる。平均粒子サイズとしては、とくに限定されないが、通常5〜80nm、好ましくは5〜50nm、より好ましくは5〜30nmとするのがよい。粒子サイズが小さすぎると、還元処理時に粒子間焼結が生じやすく、また大きすぎると、還元処理が不均質となりやすく、粒子径や磁気特性の制御が困難となる。
【0015】
この出発原料に対して、希土類元素を被着させることができる。この場合、通常は、アルカリまたは酸の水溶液中に出発原料を分散させ、これに希土類元素の塩を溶解させ、中和反応などにより、出発原料粉末に希土類元素を含む水酸化物や水和物を沈殿析出させるようにすればよい。
【0016】
また、シリコン、ホウ素、アルミニウム、リンなどの元素で構成された化合物を溶解させ、これに原料粉末を浸漬して、原料粉末に対して、ホウ素、シリコン、アルミニウム、リンを被着させてもよい。これらの被着処理を効率良く行うため、還元剤、pH緩衝剤、粒径制御剤などの添加剤を混入させてもよい。これらの被着処理として、希土類元素とホウ素、シリコン、アルミニウム、リンを同時にあるいは交互に被着させるようにしてもよい。また希土類元素やシリコン、アルミニウムなどの元素は、出発原料粉末に被着することもできるが、出発原料合成時に同時に添加し、後述する加熱処理時に磁性粉表面に析出させることもできる。さらに出発原料合成時に添加することと、原料合成後に被着することを組み合わせることもできる。
【0017】
このような原料を水素気流中で加熱還元する。還元ガスはとくに限定されず、水素ガス以外に、一酸化炭素ガスなどの還元性ガスを使用してもよい。
還元温度としては、300〜600℃とするのが望ましい。還元温度が300℃より低くなると、還元反応が十分進まなくなり、また、600℃を超えると、粉末粒子の焼結が起こりやすくなり、いずれも好ましくない。
【0018】
このような加熱還元処理後、窒化処理を施すことにより、本発明の鉄と窒素を構成元素とする磁性粉末が得られる。窒化処理としては、アンモニアを含むガスを用いて行うのが望ましい。アンモニアガス単体のほかに、水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガスなどをキャリアーガスとした混合ガスを使用してもよい。窒素ガスは安価なため、特に好ましい。
【0019】
窒化処理温度は、100〜300℃とするのがよい。窒化処理温度が低すぎると、窒化が十分進まず、保磁力増加の効果が少ない。高すぎると、窒化が過剰に促進され、Fe4 NやFe3 N相などの割合が増加し、保磁力がむしろ低下し、さらに飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。
このような窒化処理にあたり、得られる磁性粉末中の鉄に対する窒素の含有量が1.0〜20.0原子%となるように、窒化処理の条件を選択することが望ましい。上記窒素の量が少なすぎると、Fe162 の生成量が少ないため、保磁力向上の効果が少なくなる。また上記窒素の量が多すぎると、Fe4 NやFe3 N相などが形成されやすくなり、保磁力がむしろ低下し、さらに飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。
【0020】
上記の窒化鉄系磁性粉末は、従来の形状磁気異方性のみに基づく針状磁性粉末とは異なり、大きな結晶磁気異方性を有し、粒状形状とした場合でも、一方向に大きな保磁力を発現すると考えられる。
【0021】
この磁性材料を平均粒子サイズが5〜50nmの微粒子とすると、磁気ヘッドでの記録・消去が可能な範囲内で高い保磁力と適度な飽和磁化を示し、薄層領域の塗布型磁気記録媒体としてすぐれた電磁変換特性を付与する。このように、本発明の磁性粉末は、飽和磁化、保磁力、粒子サイズ、粒子形状のすべてが薄層磁性層を得るのに本質的に適したものである。
【0022】
本発明に使用するアミノ基含有化合物としては、例えば一般式C2nで表される環状飽和炭化水素に官能基としてアミノ基が結合したものが好ましい。またこのアミノ基の他にさらにカルボキシル基など他の官能基が結合していても構わない。
このアミノ基含有化合物の磁性粉末表面への結合方法は特に限定されるものではないが、適当量のアミノ基含有化合物を溶解した溶媒中に磁性粉末入れてボールミル等を用いて分散させ、この分散体を乾燥させて溶媒を除去することにより、アミノ基含有化合物を結合させた磁性粉末を得ることができる。あるいはアミノ基含有化合物を溶解した溶媒中で磁性粉末を分散させた後、溶媒を除去することなく磁気記録媒体の構成要素である結合剤などを添加して磁性塗料とすることもできる。この時のアミノ基含有化合物の結合量としては、磁性粉末に対して0.05〜5.0重量%とするが好ましく、より好ましくは0.1〜3.0重量%である。この量が少ないと化学的安定性向上の効果が少なく、多すぎると塗料粘度が高くなリ過ぎて塗布適性が悪くなる傾向がある。
【0023】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体と、この非磁性支持体の一方の面に形成された磁性層と、非磁性支持体の他方の面に形成されたバックコート層とからなる構成とするのが好ましい。これらの構成要素は特に限定されるものではなく、通常磁気記録媒体として使用されているものを使用することができる。これらの構成要素に使用される磁性粉末以外の結合剤、溶剤や研磨材などの素材や各構成要素の作製方法についても特に限定されるものではなく、通常使用されている素材や作製方法を使用できる。
【0024】
以下の実施例において述べる本発明の磁気記録媒体の作製方法は、非磁性支持体上に直接磁性層を形成する、いわゆる単層媒体であるが、非磁性支持体上に下塗層を形成し、この下塗層上に磁性層を形成するいわゆる重層媒体にも適用できることは言うまでもない。
【実施例1】
【0025】
以下、本発明の実施例を記載して、より具体的に説明する。
(A)窒化鉄系磁性粉末の製造
表面にイットリウムとアルミニウムの酸化物層を形成したほぼ球状に近い平均粒子サイズが20nmのマグネタイト粒子を出発原料とした。この原料のイットリウムとアルミニウムの含有量は鉄に対して、それぞれ1.2原子%と9.8原子%であった。この原料粒子を水素気流中450℃で2時間加熱還元して、イットリウムとアルミニウムを含有する鉄系磁性粉末を得た。次に、水素ガスを流した状態で約1時間かけて150℃まで降温した。150℃に到達した状態でガスをアンモニアガスに切り替え、温度を150℃に保った状態で30時間窒化処理を行った。その後、アンモニアガスを流した状態で150℃から90℃まで降温し、90℃でアンモニアガスから酸素と窒素の混合ガスに切り替え、8時間安定化処理を行った。
【0026】
ついで、混合ガスを流した状態で90℃から40℃まで降温し、40℃で約10時間保持したのち、空気中に取り出してイットリウムとアルミニウムを含有する窒化鉄系磁性粉末を作製した。この磁性粉末はX線回折より、Fe162 を主相とする磁性粉末であることを確認した。
【0027】
さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、ほぼ球状の粒子で平均粒子サイズが18nmであることがわかった。また、この磁性粉末について、1,270kA/m(16kOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は135.2Am2 /kg(105.8emu/g)、保磁力は219.7kA/m(2,760エルステッド)であった。
【0028】
(B)磁性粉末表面へのアミノ基含有化合物の結合
上述したイットリウムとアルミニウム含有−窒化鉄系磁性粉末100重量部に対して、アミノ基含有化合物(城北化学製、商品名;JV−C)を1.0重量部結合させた。まずアミノ基含有化合物を2重量部のメタノール中に溶解した。次にさらに溶媒としてトルエン200重量部を加え、このアミノ基含有化合物溶液中に磁性粉末100重量部を入れ、フリッチェ社製の遊星型ボールミルにより、ジルコニアビーズを用いて1時間分散した。この処理により、溶媒中に溶解していたアミノ基含有化合物が磁性粉末表面に結合させた。
【0029】
次にトルエンを乾燥除去してアミノ基含有化合物を結合させた磁性粉末を得た。
【0030】
(C)磁性塗料の作製
上記(B)で作製したアミノ基含有化合物を結合させた磁性粉末を用いて、下記の組成の磁性塗料を作製した。磁性塗料の作製にはフリッチェ社製の遊星型ボールミルにより、ジルコニアビーズを用いて10時間分散させた。
アミノ基含有化合物を結合磁性粉末 80重量部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合樹脂 10重量部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 6重量部
(含有−SO3 Na基:1.0×10-4当量/g)
メチルエチルケトン 133重量部
トルエン 100重量部
その後、ポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製の「コロネートL」)を4重量部添加し、さらに15分間分散させて磁性塗料を作製した。
【0031】
この磁性塗料を、非磁性支持体である厚さ20μmのPETフイルム上に、強さが318.4kA/m(4,000エルステッド)の磁界を印加しながら乾燥後の厚さが約2μmとなるように塗布して磁性塗膜を作製した。
【実施例2】
【0032】
実施例1において、アミノ基含有化合物の添加量を1.0重量部から0.5重量部に変更した以外は、実施例1と同様に磁性塗膜を作製した。
【0033】
(比較例1)
実施例1において、アミノ基含有化合物を添加しないで磁性塗膜を作製した以外は、実施例1と同様に磁性塗膜を作製した。
【0034】
(比較例2)
実施例1において、アミノ基含有化合物の添加量を1.0重量部から5.5重量部に変更した以外は、実施例1と同様に磁性塗膜を作製した。
【0035】
上記の実施例1〜3および比較例1の各磁性塗膜について、磁気特性として、長手方向の保磁力、角形比および飽和磁束密度を測定した。また化学的安定性の評価として、この磁性塗膜を温度が60℃、相対湿度が90%の条件下で1週間保持した時の磁気特性の変化を調べた。なお測定には、磁性塗膜を約1cm四方にカットし、このカットサンプルの保持前後の変化を調べた。保磁力と角形比は絶対値で、また飽和磁束密度は保持前の値に対する相対値で示した。結果を表1に示す。
【0036】
なお比較例2の磁性塗膜に関しては、温度が60℃、相対湿度が90%の条件下で1週間保持すると磁性層表面に防錆剤が染み出してきて、テープ走行性などの面で磁気記録媒体としての基本的な仕様を満たさないと判断されたため、化学的安定性の評価は行わなかった。なお実施例1〜3、比較例1の磁性塗膜に関しては、防錆剤の染み出し等の問題は生じなかった。
【0037】
【表1】

【0038】

上記表1の結果から明らかなように、アミノ基含有化合物を結合させた磁性粉末を使用した磁性塗膜は、温度が60℃、相対湿度が90%の条件下で1週間保持しても磁気特性の変化はほとんどなく、極めて化学的安定性の良好な磁性塗膜であることがわかる。
一方、アミノ基含有化合物を結合させていない磁性粉末を使用した比較例1の磁性塗膜においては、温度が60℃、相対湿度が90%の条件下で1週間保持すると、特に飽和磁束密度が著しく低下する。
以上のように短波長特性において特優れた特性を示すFe162 相を少なくとも含む平均粒子サイズが5〜50nmの粒状ないし楕円状の窒化鉄系の磁性粉末の表面に、アミノ基含有化合物を結合させることにより、この磁性粉末を用いた磁気記録媒体は、すぐれた短波長記録特性と同時に化学的にも極めて安定で高い信頼性を有する磁気記録媒体となることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と、この非磁性支持体の一方の面に塗布形成された、磁性粉末と結合剤とを含有する磁性層とを有し、前記磁性粉の平均粒子サイズが5〜50nmの粒状ないし楕円状の磁性粉末で、前記磁性粉末の表面にアミノ基含有化合物を結合させたことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記磁性粉は、鉄および窒素を少なくとも構成元素とし、かつFe162 相を少なくとも含むことを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁性粉末は、希土類元素、ホウ素、シリコン、アルミニウム、リンの中から選ばれる少なくともひとつの元素を、当該磁性粉末中の鉄に対して0.05〜20.0原子%含有してなる、請求項1または2記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記アミノ基含有化合物の量が前記磁性粉に対して0.05〜5重量%であることを特徴とする、請求項1ないし3記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
アミノ基含有化合物がアミノ基含有飽和環状化合物である、請求項1ないし4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
長手方向の保磁力(Hc)が79.6〜318.4kA/m(1,000〜4,000Oe)、長手方向の角形比(Br/Bm)が0.6〜0.9である請求項1ないし5のいずれかに記載の磁気記録媒体。