説明

磁気記録媒体

【課題】粒子サイズが小さく、かつ高い保磁力を維字した状態で、さらに飽和磁化を向上させた磁性粉末を使用することにより、さらなる高出力化をはかり、すぐれた短波長記録特性を持つ磁気記録媒体を得る。
【解決手段】磁性層に含有させる磁性粉末として、鉄とパラジウムと窒素とを含有し、かつ希土類元素、シリコンおよびアルミニウムの中から選ばれる少なくともひとつの元素を含有し、さらに一般式Fe162 で表される窒化鉄相を少なくとも含む、平均粒子サイズが5〜30nmの球状ないし楕円状の磁性粉末を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばデジタルビデオテープやコンピユータ用のバックアップテープなどに適用される超高密度記録に最適な磁気記録媒体として、鉄、パラジウムおよび窒素を少なくとも磁性体の必須構成元素とする粒状ないしは楕円状の磁性粉末を使用した磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気テープ等の磁気記録媒体においては、記録再生方式がアナログ方式からデジタル方式への移行に伴い、一層の記録密度の向上が要求されており、特に高記録密度用のビデオテープやコンピュータ用のバックアップテープなどにおいては、この要求が年々高まってきている。
【0003】
記録密度の向上に不可欠な短波長記録に対応するためには、磁性層の厚さを300nm以下、とくに100nm以下に薄膜化して、記録時の厚み損失を小さくするのが効果的である。なお、磁性層の厚さを薄膜化すると、その分だけ漏れ磁束が小さくなるため、このような磁性層の厚さが薄い高記録密度媒体に対する再生用の磁気ヘッドとしては、小さな漏れ磁束でも比較的高い出力が得られるMRヘッドが一般に用いられる。
【0004】
また、ノイズを低減させるために、年々、磁性粉末の微粒子化が図られており、現在、粒子径が100nm程度の針状のメタル磁性粉末が実用化されている。さらに、短波長記録時の減磁による出力低下を防止するために、年々、高保磁力化がはかられ、鉄−コバルト合金化により238.9A/m(3000Oe)程度の保磁力が実現されている(特許文献1〜3参照)。しかし、針状磁性粒子を用いる磁気記録媒体において、針状磁性粒子を微粒子化する場合、その針状比を小さくせざるを得ないが、この種の針状磁性粒子を用いる磁気記録媒体においては、その保磁力が針状形状による形状磁気異方性に基づいているため、磁性粒子の針状比を小さくすると、その結果として保磁力が小さくなる致命的な課題がある。
【0005】
一方、粒子形状が針状でない鉄系磁性粉末として、粒子形状が不定形で、Fe162 相を主相としたBET比表面積が10m2 /g程度の窒化鉄系磁性粉末を用いた磁気記録媒体も提案されている(特許文献4参照)。
【0006】
また、磁性粉末の外層部分に希土類元素および/またはシリコン、アルミニウムの中から選ばれる少なくともひとつの元素を含有する一方、内層部分に鉄および窒素を少なくとも構成元素として含有し、かつFe162 相を少なくとも含む平均粒子サイズが5〜50nmの球状ないし楕円状の磁性粉末を用いた磁気記録媒体も提案されている(特許文献5参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平3−49026号公報(第4頁)
【特許文献2】特開平10−83906号公報(第3頁)
【特許文献3】特開平10−340085号公報(第2頁)
【特許文献4】特開2000−277311号公報(第3頁、図4)
【特許文献5】特開2004−273094号公報(第4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献4に記載された窒化鉄系磁性粉末は、同文献の実施例中にBET比表面積が10〜22m2 /gのものが示されていることからもわかるように、その粒子サイズが大きすぎ、低ノイズ化を目的とした高密度磁気記録用には適さない。
【0009】
一方、特許文献5に記載されている窒化鉄系磁性粉末は、高密度記録に必要な微粒子性と高保磁力を兼ね備えている。しかし、Fe162 相を主相とする磁性粉末は、現在主流となっている鉄―コバルト合金系の磁性粉末に比べて飽和磁化が若干小さい欠点がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、粒子サイズが小さく、かつ高い保磁力を維持した状態で、さらに飽和磁化を向上させた磁性粉末を使用することにより、さらなる高出力化をはかり、すぐれた短波長記録特性を持つ磁気記録媒体を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、鋭意検討した結果、Fe162 相を少なくとも含む窒化鉄系磁性粉末において、磁性体を構成する必須元素として、鉄と窒素にさらにパラジウムを含有させ、かつ粒状ないし楕円状の粒子形状として平均粒子サイズが5〜30nmという小さな粒子サイズとしたものが、鉄と窒素のみからなる窒化鉄系磁性粉末よりさらに飽和磁化を高めることができて、この磁性粉末を使用することにより、記録減磁による出力低下の問題のない超薄型磁性層を実現できて、高出力化をはかれ、すぐれた短波長記録特性が得られることがわかった。
【0012】
パラジウムの含有による飽和磁化増大のメカニズムの詳細は不明であるが、Fe162 相の近傍にパラジウムが存在することにより、Fe162 相のエネルギーバンドに何らかの影響を与え、Fe162 が本来有する磁気モーメントをさらに増大させる作用を引き起こしたためと本発明者らは推測している。またパラジウムの存在状態も、Feの一部を置換した状態でFe162 相を形成しているか、あるいはFe162 相と金属パラジウムあるいは酸化パラジウムが共存しているか、あるいはパラジウムの窒化物が形成されていることが考えられる。いずれの状態をとっているかは不明であるが、磁性体を構成する必須元素として鉄、パラジウムおよび窒素を含有し、かつ一般式Fe162 で表される窒化鉄相を少なくとも含有する磁性粉末においては、磁性体の主構成元素として鉄と窒素のみからなるものに比べて高飽和磁化が得られる。このことは本発明者らにより初めて見出されたものである。
【0013】
また、このような窒化鉄系磁性粉末にさらに希土類元素、シリコンおよびアルミニウムの中から選ばれる少なくともひとつの元素を添加することにより、磁性粒子の熱処理工程での形状維持と磁性塗料中の粒子の分散性の向上がはかられ、磁性層のさらなる薄膜化を実現でき、従来の技術では困難であった、極めてすぐれた短波長記録特性を達成できることもわかった。
【0014】
とくに、本発明は、このような磁気記録媒体として、長手方向の保磁力(Hc)が79.6〜318.4kA/m(1000〜4000Oe)、長手方向の角形比(Br/Bm)が0.6〜0.9、飽和磁束密度(Bm)と磁性層厚(t)さとの積(Bm・t)が0.001〜0.1μTmである上記構成の磁気記録媒体を提供できるものである。また、本発明は、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含有する少なくとも1層の下塗り層を有し、磁性層の厚さが300nm以下である上記構成の磁気記録媒体を提供できるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、Fe162 相を少なくとも含む窒化鉄系磁性粉末において、磁性体を構成する必須元素として、鉄と窒素にさらにパラジウムを含有させたことにより、粒状ないし楕円状の粒子形状として平均粒子サイズが5〜30nmという小さな粒子サイズとしたものが、鉄と窒素のみからなる窒化鉄系磁性粉末よりさらに飽和磁化を高めることができる。そして、この磁性粉末を磁性層に含有させたことにより、記録減磁による出力低下の問題のない超薄型磁性層を実現できて、高出力化をはかれ、すぐれた短波長記録特性を持つ磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者らは、従来の形状磁気異方性に基づく磁性粉末とは異なる観点で、磁気特性の向上を目指すべく、各種の磁性粉末を合成し、その形状や磁気異方性を調べた。その結果、鉄、パラジウムおよび窒素を磁性体の必須構成元素とし、かつ一般式Fe162 で表される窒化鉄相を少なくとも含む磁性粉末が微粒子においても高い保磁力と同時に高い飽和磁化を示すことがわかった。
【0017】
本発明の磁気記録媒体において、磁性粉末中の鉄に対するパラジウムの含有量は0.1〜10.0原子%、好ましくは0.2〜8.0原子%、より好ましくは0.5〜5.0原子%である。また窒素の含有量は、鉄に対して1.0〜20.0原子%、好ましくは5.0〜18.0原子%、より好ましくは8.0〜15.0原子%である。パラジウムの含有量がこの範囲のときに、高い飽和磁化が得られる。パラジウムがこの範囲より少ないと飽和磁化向上の効果が少なく、また多すぎると磁性体内部で均一な窒化が困難になり、保磁力が低下する。また窒素の含有量が少なすぎるとFe162 相の形成量が少なく、保磁力増加の効果が少なくなり、多すぎると、非磁性窒化物が形成されやすく、保磁力増加の効果が少なくなり、また飽和磁化も低下しやすくなる。
【0018】
本発明で使用する窒化鉄系磁性粉末は、従来の針状粒子とは異なる、粒状ないし楕円状の形状を有し、その粒子サイズを、微粒子化の要求に対して、平均で5〜30nmの範囲とするのが最適である。粒子サイズが小さすぎると、磁性塗料調製時の分散性が悪くなり、また熱的にも不安定になり、保磁力が経時的に変化しやすい。粒子サイズが大きすぎると、ノイズ増加の原因となるだけでなく、平滑な磁性層面を得にくくなる。なお、平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡(TEM)にて撮影した磁性粉末の写真から粒子サイズを実測し、その300個の平均値により求められる。
【0019】
さらに、この窒化鉄系磁性粉末中に希土類元素、シリコン、アルミニウムの中から選ばれる少なくともひとつの元素を含有し、内層部分に少なくとも一般式一般式Fe162 で表される窒化鉄相を含有させ、磁性粉末表面に希土類元素、シリコン、アルミニウムの中から選ばれる少なくともひとつの元素を存在させることにより、磁性粉末の熱処理工程での形状維持効果のみならず、塗料中での分散性向上への効果があることがわかった。
【0020】
鉄に対する希土類元素の含有量は0.05〜20.0原子%、好ましくは0.1〜15.0原子%、より好ましくは0.5〜10.0原子%である。希土類元素の量が少なすぎると、希土類元素による分散性の向上効果が少なくなり、また還元時の粒子形状維持効果が小さくなる。逆に多すぎると、添加した希土類元素のうち、未反応の部分が多くなり、分散、塗布工程の障害となるばかりでなく、保磁力や飽和磁化の過度な低下が生じやすい。
【0021】
磁性粉末中の鉄に対するアルミニウムあるいはシリコンの総含有量は、0.1〜20.0原子%、好ましくは1.0〜18.0原子%、より好ましくは2.0〜15.0原子%である。アルミニウムあるいはシリコンの総含有量が少なすぎると、還元時の粒子形状維持効果が小さくなり、逆に多すぎると、非磁性成分が多くなる結果、飽和磁化が低下しやすくなる。
【0022】
これらの希土類元素や、アルミニウムあるいはシリコンについては、磁性粉末の内部に存在させてもよいが、高い分散性やすぐれた形状保持性を得るためには、磁性粉末を内層と外層との多層構成として、外層部分に主として存在させることが好ましい。このような希土類元素としては、イットリウム、イッテルビウム、セシウム、プラセオジウム、ランタン、ユーロピウム、ネオジムなどが挙げられる。これらのうち、イットリウム、サマリウムまたはネオジムは、特に還元時の粒子形状の維持効果が大きいことから、これらの元素の中から、その少なくとも1種を選択使用するのが望ましい。
【0023】
このように、鉄、パラジウムおよび窒素を磁性体の必須構成元素とし、かつ一般式Fe162 で表される窒化鉄相を少なくとも含み、鉄に対するパラジウムおよび窒素の含有量を前記範囲に規定した特定粒子サイズの粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉末は、従来に比べ、より微粒子で、かつより高飽和磁化を有することがわかった。また、希土類元素、アルミニウムあるいはシリコンを加えることで、高い分散性が得られ、すぐれた薄層化を実現できることもわかった。このような窒化鉄系磁性粉末は、デジタルビデオテープ、コンピュータ用バックアップテープなどの高密度記録用の磁気記録媒体に特に適した性能を発揮することも判明した。
【0024】
次に、本発明の磁気記媒体で使用する窒化鉄系磁性粉末の製造方法と、更にこの窒化鉄系磁性粉末を使用した磁気記録媒体およびその製造方法について説明する。
【0025】
出発原料には、鉄系酸化物または水酸化物を使用する。たとえばヘマタイト、マグネタイト、ゲータイトなどが挙げられる。その平均粒子サイズは特に限定されないが、通常は5〜30nm、好ましくは8〜25nm、より好ましくは10〜20nmである。粒子サイズが小さすぎると還元処理時に粒子間焼結が生じやすく、逆に大きすぎると還元処理が不均質となりやすく、粒子径や磁気特性の制御が困難となる。
【0026】
アルミニウムあるいはシリコンは、これらの元素で構成された化合物を、上記の鉄系酸化物または水酸化物を作製時に、鉄化合物を同時に溶解させ、これらのアルミニウムあるいはシリコンを取り込んだ状態の鉄系酸化物または水酸化物を作製し、熱処理時にアルミニウムあるいはシリコンを粒子表面に拡散させることが好ましい。あるいはアルミニウムあるいはシリコンで構成された化合物の水溶液中に上記の鉄系酸化物または水酸化物粒子を分散させ、鉄系酸化物または水酸化物粒子表面に、アルミニウムあるいはシリコンの水酸化物を析出させ、その後の熱処理により、酸化物として粒子表面に存在させることができる。
【0027】
希土類元素についても、アルミニウムあるいはシリコンと同様に、鉄系酸化物または水酸化物粒子作製時に希土類元素を取り込んだ状態で作製し、熱処理時に粒子表面に拡散させることもできるし、希土類元素で構成された化合物の水溶液中に鉄系酸化物または水酸化物粒子を分散させ、鉄系酸化物または水酸化物粒子表面に、希土類元素の水酸化物を析出させ、その後の熱処理により、酸化物として粒子表面に存在させることもできる。
【0028】
このような原料を水素気流中で加熱還元する。還元ガスはとくに限定されず、水素ガス以外に、一酸化炭素ガスなどの還元性ガスを使用してもよい。
【0029】
還元温度は、300〜600℃とするのが望ましい。還元温度が300℃より低くなると還元反応が十分進まなくなり、600℃を超えると粉末粒子の焼結が起こりやすくなり、いずれも好ましくない。
【0030】
このような加熱還元処理後、窒化処理を施すことにより、本発明で使用する、鉄と窒素を構成元素とする磁性粉末が得られる。窒化処理としては、アンモニアを含むガスを用いて行うのが望ましい。アンモニアガス単体のほかに、水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガスなどをキャリアーガスとした混合ガスを使用してもよい。窒素ガスは安価なため、とくに好ましい。
【0031】
窒化処理温度は、100〜300℃とするのがよい。窒化処理温度が低すぎると、窒化が十分進まず、保磁力増加の効果が少ない。高すぎると、窒化が過剰に促進され、Fe4 NやFe3 N相などの割合が増加し、保磁力がむしろ低下し、さらに飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。
【0032】
このような窒化処理にあたり、得られる磁性粉末中の鉄に対する窒素の含有量が1.0〜20.0原子%となるように、窒化処理の条件を選択することが望ましい。上記窒素の量が少なすぎると、Fe162 の相の生成量が少なくなり、保磁力向上の効果が少なくなる。また上記窒素の量が多すぎると、Fe4 NやFe3 N相などFe162 以外の相が形成されやすくなり、保磁力がむしろ低下し、さらに飽和磁化の低下を引き起こしやすい。
【0033】
本発明における上記の窒化鉄系磁性粉末は、従来の形状磁気異方性のみに基づく針状磁性粉末とは異なり、大きな結晶磁気異方性を有し、粒状形状とした場合でも、一方向に大きな保磁力を発現する。
【0034】
この磁性材料を平均粒子サイズが5〜30nmの微粒子とすることにより、磁気ヘッドでの記録・消去が可能な範囲内で高い保磁力と適度な飽和磁化を示し、薄層領域(たとえば厚さ300nm以下)の塗布型磁気記録媒体としてすぐれた電磁変換特性を発揮する。このように、本発明の磁性粉末は、飽和磁化、保磁力、粒子サイズ、粒子形状のすべてが薄層磁性層を得るのに本質的に適したものである。
【0035】
本発明の磁気記録媒体は、上記した窒化鉄系磁性粉末と結合剤を溶剤中に分散混合した磁性塗料を、非磁性支持体上に塗布し乾燥して、磁性層を形成することにより作製できる。磁性層の形成に先立ち、非磁性支持体上に酸化鉄、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの非磁性粉末と結合剤を含有する下塗り塗料を塗布し乾燥して、下塗り層を形成し、この上に磁性層を形成してもよい。
【0036】
本発明の磁気記録媒体は、通常、非磁性支持体、磁性層、下塗り層およびバックコート層から構成される。非磁性支持体としては、従来から使用されている磁気記録媒体用の非磁性支持体をいずれも使用できる。たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフオン、アラミド、芳香族ポリアミドなどからなる厚さが常2〜15μm、とくに2〜7μmのプラスチツクフィルムが好ましいものとして用いられる。
【0037】
磁性層の厚さは、長手記録の本質的な課題である減磁による出力低下を避けるために300nm以下の薄層が好ましく、とくに10〜300nmが好ましく、10〜250nmがより好ましく、10〜200nmが最も好ましい。300nmを超えると、厚さ損失により再生出力が小さくなったり、残留磁束密度と厚さの積が大きくなりすぎて、MRヘッドの飽和による再生出力の歪が起こりやすい。10nm未満では、均一な磁性層が得られにくい。本発明においては、磁性粉末が平均粒子サイズ5〜30nmと極めて微粒子の粒状ないし楕円状であるため、従来の針状磁性粉末ではほとんど不可能な極めて薄い磁性層厚さも実現できるようになる。
【0038】
磁気テープの場合、磁性層の長手方向の保磁力は、79.6〜318.4kA/m(1,000〜4,000Oe)、好ましくは119.4〜318.4kA/m(1,500〜4,000Oe)である。79.6kA/m未満では、記録波長を短くすると反磁界減磁で出力低下が起こりやすくなり、また318.4kA/mを超えると、磁気ヘッドによる記録が困難になる。また、長手方向の角形比(Br/Bm)は、通常0.6〜0.9であり、とくに好ましくは0.8〜0.9である。さらに、長手方向の飽和磁束密度と厚さの積は、0.001〜0.1μTm、好ましくは0.0015〜0.05μTmである。0.001μTm未満では、MRヘッドを使用した場合にも再生出力が小さく、0.1μTmを超えると、目的とする短波長領域で高い出力を得にくくなる傾向がある。また、磁性層の平均面粗さRaは1.0〜3.2nmのときにMRヘッドを使用した場合に、MRヘッドとのコンタクトが良くなり、MRヘッドを使用したときの再生出力が高くなり、好ましい。
【0039】
下塗り層は、必須の構成要素ではないが、耐久性の向上を目的として、非磁性支持体と磁性層との間に設けられる。下塗り層の厚さは、0.1〜3.0μmが好ましく、0.15〜2.5μmがより好ましい。0.1μm未満では、磁気テープの耐久性が悪くなる場合があり、3.0μmを超えると、磁気テープの耐久性の向上効果が飽和し、またテープ全厚が厚くなり、1巻当りのテープ長さが短くなり、記憶容量が小さくなる。
【0040】
下塗り層には、塗料粘度やテープ剛性の制御を目的で、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウムなどの非磁性粉末を含ませることができる。また下塗り層には導電性改良の目的でアセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラックを含ませることができる。
【0041】
次に、磁性層や下塗り層に用いる結合剤と潤滑剤について、説明する。
【0042】
下塗り層や磁性層に使用する結合剤としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂などの塩化ビニル系体、ニトロセルロース、エポキシ樹脂などの中から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタン樹脂との組み合わせが好ましく使用される。特に、塩化ビニル系樹脂とポリウレタン樹脂とを併用するのが好ましい。その中でも、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体とポリウレタン樹脂を併用するのが最も好ましい。
【0043】
ポリウレタン樹脂には、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタンなどがある。
【0044】
これらの結合剤は、磁性粉末や非磁性粉末などの固体粉末100重量部に対して、7〜50重量部、好ましくは10〜35重量部の範囲で用いられる。とくに結合剤として、塩化ビニル系樹脂5〜30重量部と、ポリウレタン樹脂2〜20重量部とを、複合して用いるのが好ましい。これらの結合剤とともに、結合剤中に含まれる官能基などと結合させて架橋する熱硬化性の架橋剤を併用するのが望ましい。この架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどや、これらのイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどの水酸基を複数個有するものとの反応生成物、上記イソシアネート類の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートが好ましく用いられる。
【0045】
下塗り層、磁性層に含ませる潤滑剤には、従来公知の脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミドなどがいずれも用いられる。その中でも、炭素数10以上、好ましくは12〜30の脂肪酸と、融点35℃以下、好ましくは10℃以下の脂肪酸エステルとを併用するのが、とくに好ましい。
【0046】
バックコート層は、必須の構成要素ではないが、磁気テープの場合、非磁性支持体の磁性層形成面の反対面にバックコート層を形成するのが望ましい。バックコート層の厚さは、0.2〜0.8μmが好ましく、0.3〜0.8μmがより好ましく、0.3〜0.6μmがさらに好ましい。0.2μm未満では、走行性の向上効果が不十分であり、0.8μmを超えると、テープ全厚が厚くなり、1巻当たりの記憶容量が小さくなる。バックコート層には、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラックを含ませる。
【0047】
磁性塗料、下塗り塗料、バックコート塗料の調製にあたり、溶剤としては、従来から使用されている有機溶剤を使用することができる。たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの炭酸エステル系溶剤、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶剤などを使用できる。その他、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドなどの各種の有機溶剤が用いられる。
【0048】
磁性塗料、下塗り塗料、バックコート塗料の調製にあたり、従来から公知の塗料製造工程を使用でき、とくにニーダなどによる混練工程や一次分散工程を併用するのが好ましい。一次分散工程では、サンドミルを使用すると、磁性粉末などの分散性の改善とともに、表面性状を制御できるので、望ましい。
【0049】
また、非磁性支持体上に、磁性塗料、下塗り塗料、バックコート塗料を塗布する際には、グラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージヨン塗布などの従来から公知の塗布方法が用いられる。下塗り塗料および磁性塗料の塗布方法は、非磁性支持体上に下塗り塗料を塗布し乾燥したのちに磁性塗料を塗布する、逐次重層塗布方法か、下塗り塗料と磁性塗料とを同時に塗布する、同時重層塗布方法(ウェットオンウェット)かのいずれを採用してもよい。
【0050】
塗布時の薄層磁性層のレベリングを考えると、下塗り塗料が湿潤状態のうちに磁性塗料を塗布する、同時重層塗布方式を採用するのが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下において、部とあるのは重量部を意味する。
【0052】
[実施例1]
(A)窒化鉄系磁性粉末の製造
27.8gの硫酸第一鉄・7水和物〔FeSO4 ・7H2 O〕と1.15gの硝酸パラジウム〔Pd(NO32 〕を200ccの水に溶解した。これとは別に150ccの水に8.4gの水酸化ナトリウム〔NaOH〕と0.655gのアルミン酸ナトリウム〔NaAlO3 〕gを溶解した。温度を30℃に保持した状態で、水酸化ナトリウムとアルミン酸ナトリウムの水溶液を攪拌しながら、この水溶液に硫酸第一鉄と硝酸パラジウムの水溶液を、約10分間かけて滴下した。滴下終了後、攪拌しながら、30℃で約8時間加熱した。加熱反応後、pHが7〜8の範囲になるまで水洗し、上澄み液を除去した。
【0053】
次に、この沈殿物の分散体を30℃に保持しながら、0.77gの硝酸イットリウム・6水和物〔Y(NO33 〕を添加し溶解した。これとは別に0.3gの水酸化ナトリウムを30ccの水に溶解し、硝酸イットリウムを溶解した分散液体を攪拌しながら、この水酸化ナトリウムの水溶液を10分かけて滴下した。30℃に保持して、約4時間攪拌した。加熱反応後、pHが7〜8の範囲になるまで水洗し、ろ過、乾燥させた。
【0054】
乳鉢を使って解砕した後、水素気流中400℃で2時間加熱還元して、鉄、パラジウム、アルミニウム、イットリウムからなる磁性粉末を得た。引き続き、水素ガスを流した状態で、約1時間かけて、140℃まで降温した。140℃に到達した状態で、ガスをアンモニアガスに切り替え、温度を140℃に保った状態で、30時間窒化処理を行った。その後、アンモニアガスを流した状態で、150℃から90℃まで降温し、90℃で、アンモニアガスから酸素と窒素の混合ガスに切り替え、2時間安定化処理を行った。ついで、混合ガスを流した状態で、90℃から40℃まで降温し、40℃で約10時間保持したのち、空気中に取り出した。
【0055】
このようにして得られた磁性粉末は、X線回折より一般式Fe162 で表される窒化鉄相を主相として含有する磁性粉末であることがわかった。また窒素およびパラジウムの含有量を含有量を蛍光X線により測定したところ、それぞれ鉄に対して11.2原子%および4.9原子%であった。またアルミニウムおよびイットリウムの含有量は、鉄に対してそれぞれ7.4原子%および1.9原子%であった。
【0056】
さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、ほぼ球状の粒子で平均粒子サイズが17nmであることがわかった。また、BET法により求めた比表面積は、68.8m2 /gであった。また、この磁性粉末について、1,270kA/m(16kOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は98.2Am2 /kg(98.2emu/g)、保磁力は223.7kA/m(2,810エルステッド)であった。
【0057】
(B)磁気テープの作製
下記の下塗り塗料成分をニーダで混練したのち、サンドミルで滞留時間を60分とした分散処理を行い、これにポリイソシアネート6部を加え、撹拌ろ過して、下塗り塗料を調製した。これとは別に、下記の磁性塗料成分(1)をニーダで混練したのち、サンドミルで滞留時間を45分として分散し、これに下記の磁性塗料成分(2)を加え、混合し、磁性塗料を調製した。
【0058】
〈下塗り塗料成分〉
酸化鉄粉末(平均粒径:55nm) 70部
酸化アルミニウム粉末(平均粒径:80nm) 10部
カーボンブラツク(平均粒径:25nm) 20部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルメタクリレート共重合体 10部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 5部
(含有−SO3 Na基:1.0×10-4当量/g)
メチルエチルケトン 130部
トルエン 80部
ミリスチン酸 1部
ステアリン酸ブチル 1.5部
シクロヘキサノン 65部
〈磁性塗料成分(1)〉
上記(A)で製造した窒化鉄系磁性粉末 100部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 8部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 4部
(含有−SO3 Na基:1.0×10-4当量/g)
α−アルミナ(平均粒径:80nm) 10部
カーボンブラツク(平均粒径:25nm) 1.5部
ミリスチン酸 1.5部
メチルエチルケトン 133部
トルエン 100部
〈磁性塗料成分(2)〉
ステアリン酸 1.5部
ポリイソシアネート 4部
(日本ポリウレタン工業社製の「コロネートL」)
シクロヘキサノン 133部
トルエン 33部
【0059】
上記の下塗り塗料を、非磁性支持体である厚さ6μmのポリエチレンナフタレートフィルム(105℃,30分の熱収縮率が縦方向で0.8%、横方向で0.6%)に、乾燥およびカレンダ処理後の下塗り層の厚さが2μmとなるように塗布し、この上にさらに、上記の磁性塗料を、磁場配向処理、乾燥およびカレンダ処理後の磁性層の厚さが120nmとなるように塗布した。
【0060】
つぎに、この非磁性支持体の下塗り層および磁性層の形成面とは反対面側に、バツクコート塗料を、乾燥およびカレンダ処理後のバツクコート層の厚さが700nmとなるように塗布し、乾燥した。バツクコート塗料は、下記のバツクコート塗料成分を、サンドミルで滞留時間45分で分散したのち、ポリイソシアネート8.5部を加え、撹拌ろ過して調製したものである。
【0061】
〈バツクコート塗料成分〉
カーボンブラツク(平均粒径:25nm) 40.5部
カーボンブラツク(平均粒径:370nm) 0.5部
硫酸バリウム 4.0部
ニトロセルロース 28部
ポリウレタン樹脂(−SO3 Na基含有) 20部
シクロヘキサノン 100部
トルエン 100部
メチルエチルケトン 100部
【0062】
このようにして得た磁気シートを、5段カレンダ(温度70℃、線圧150kg/cm)で鏡面化処理し、これをシートコアに巻いた状態で、60℃,40%RH下、48時間エージングした。その後、1/2インチ幅に裁断して磁気テープとした。
【0063】
[実施例2]
実施例1における窒化鉄系磁性粉末の製造において、硝酸パラジウムの添加量を1.15gから0.46gに変更した以外は、実施例1と同様にして窒化鉄系磁性粉末を作製した。この磁性粉末は、X線回折より一般式Fe162 で表される窒化鉄相を主相として含有する磁性粉末であることがわかった。蛍光X線により調べた窒素、パラジウム、アルミニウムおよびイットリウムの含有量は、それぞれ鉄に対して11.4原子%、2.0原子%、7.5原子%および1.9原子%であった。
【0064】
また、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、ほぼ球状の粒子で平均粒子サイズが18nmであることがわかった。BET法により求めた比表面積は、67.2m2 /gであった。この磁性粉末について、1,270kA/m(16kOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は91.5Am2 /kg(91.5emu/g)、保磁力は227.7kA/m(2860Oe)であった。さらにこの磁性粉末を用いて、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0065】
[実施例3]
実施例1における窒化鉄系磁性粉末の製造において、のアルミン酸ナトリウムの添加量を0.655gから0.983gに変更した以外は、実施例1と同様にして窒化鉄系磁性粉末を作製した。この磁性粉末は、X線回折より一般式Fe162 で表される窒化鉄相を主相として含有する磁性粉末であることがわかった。蛍光X線により調べた窒素、パラジウム、アルミニウムおよびイットリウムの含有量は、それぞれ鉄に対して11.3原子%、4.9原子%、11.1原子%および1.9原子%であった。
【0066】
また、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、ほぼ球状の粒子で平均粒子サイズが17nmであることがわかった。BET法により求めた比表面積は、71.5m2 /gであった。この磁性粉末について、1,270kA/m(16kOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は93.1Am2 /kg(93.1emu/g)、保磁力は225.3kA/m(2830Oe)であった。さらにこの磁性粉末を用いて、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0067】
[比較例1]
実施例1における窒化鉄系磁性粉末の製造において、硝酸パラジウムを添加することなく窒化鉄系磁性粉末を作製した。即ち、本発明において見出された飽和磁化を高める上で効果のあるパラジウムを添加することなく、実施例1と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。この磁性粉末もX線回折より一般式Fe162 で表される窒化鉄相を主相として含有する磁性粉末であることがわかった。蛍光X線により調べた窒素、アルミニウムおよびイットリウムの含有量は、それぞれ鉄に対して11.6原子%、7.8原子%および2.0原子%であった。
【0068】
また、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、ほぼ球状の粒子で平均粒子サイズが18nmであることがわかった。また、BET法により求めた比表面積は、62.4m2 /gであった。この磁性粉末について、1270kA/m(16kOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は85.0Am2 /kg(85.0emu/g)、保磁力は221.3kA/m(2780Oe)であった。さらにこの磁性粉末を用いて、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0069】
[比較例2]
実施例3における窒化鉄系磁性粉末の製造において、硝酸パラジウムを添加することなく窒化鉄系磁性粉末を作製した。即ち、アルミニウムを実施例1に比べて1.5倍量添加した実施例3においても、本発明において見出された飽和磁化を高める上で効果のあるパラジウムを添加することなく、実施例3と同様の方法で窒化鉄系磁性粉末を作製した。この磁性粉末もX線回折より一般式Fe162 で表される窒化鉄相を主相として含有する磁性粉末であることがわかった。蛍光X線により調べた窒素、アルミニウムおよびイットリウムの含有量は、それぞれ鉄に対して11.5原子%、11.4原子%および1.9原子%であった。
【0070】
また、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、ほぼ球状の粒子で平均粒子サイズが17nmであることがわかった。BET法により求めた比表面積は、70.1m2 /gであった。この磁性粉末について、1270kA/m(16kOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は82.8Am2 /kg(82.8emu/g)、保磁力は230.1kA/m(2890Oe)であった。さらにこの磁性粉末を用いて、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0071】
表1に、上記の実施例1〜3および比較例1、2の窒化鉄系磁性粉末の特性と、これらの磁性粉末を用いて作製した磁気テープの記録周波数が250kfciでの出力Cと、ノイズに対する出力の比C/Nとを測定した結果をまとめて示す。なおCとC/Nの測定には回転ドラム装置を使用し、記録ヘッドとして、トラック幅が22μm、ギャップ長が0.17μmのMIGヘッドを使用し、再生ヘッドとして、トラック幅が7.5μm、シールド間ギャップ長が0.17μmのMRヘッドを使用した。CおよびC/Nは、比較例1の磁性粉末を使用した磁気テープでの値を0dBとして、相対的な値を示した。
【0072】
【表1】

【0073】
上記表1の結果から明らかなように、パラジウム(Pd)を添加した実施例1〜3の各磁性粉末は、Pdを添加していない比較例1、2の各磁性粉末に比べて、高い飽和磁化を示す。例えば、実施例1と比較例1の磁性粉末を比較すると、Pdを添加した実施例1の磁性粉末は、Pdを添加していない比較例1の磁性粉末よ粒子サイズは小さく、かつ比表面積が大きいにもかかわらず高い飽和磁化を示す。
【0074】
このPdを添加することによる飽和磁化増加の原因の詳細は不明であるが、Fe162 相の近傍にパラジウムが存在することにより、Fe162 相のエネルギーバンド構造に影響を与え、磁気モーメントを増大させるように作用したためと考えている。またパラジウムの存在状態も、Feの一部を置換した状態でFe162 相を形成しているか、あるいはFe162 相と金属パラジウムあるいは酸化パラジウムが共存しているか、あるいはパラジウムの窒化物が形成されていることが考えられる。いずれの状態をとっているかは不明であるが、磁性体を構成する必須元素として鉄、パラジウムおよび窒素を含有し、かつ一般式Fe162 で表される窒化鉄相を少なく含有する磁性粉末において、磁性体の主構成元素として鉄と窒素のみからなるものに比べて高飽和磁化が得られることは本発明者らにより初めて見出されたものである。
【0075】
実施例1〜3の磁性粉末を用いて作製した磁気テープにおいても、磁性粉末の大きな飽和磁化を反映して高い再生出力(C)を示す。実施例の磁性粉末は高い飽和磁化を維持して、粒子サイズは同等もしくは若干小さくなっているため、C/Nにおいても、比較例の磁気テープに比べて高い値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に、磁性粉末と結合剤とを含有した磁性層を有する磁気記録媒体であって、
上記磁性粉末が、鉄とパラジウムと窒素とを含有し、かつ希土類元素、シリコンおよびアルミニウムの中から選ばれる少なくともひとつの元素を含有し、さらに一般式Fe162 で表される窒化鉄相を少なくとも含む、平均粒子サイズが5〜30nmの球状ないし楕円状の磁性粉末であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
磁性粉末は、外層部分に希土類元素、シリコン、アルミニウムの中から選ばれる少なくともひとつの元素を含有し、内層部分に少なくとも一般式Fe162 で表される窒化鉄相を含有する、請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
磁性粉末中の鉄に対するパラジウム及び窒素の含有量が、それぞれ0.1〜10.0原子%及び1.0〜20.0原子%である、請求項1または2記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
希土類元素がイットリウム、サマリウム、の中から選ばれる少なくともひとつの元素であり、かつ磁性粉末中の鉄に対する当該希土類元素の含有量が0.05〜20.0原子%である、請求項1ないし3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
磁性粉末にはシリコンおよびアルミニウムが含まれており、当該磁性粉末中の鉄に対するシリコンおよびアルミニウムの総含有量が0.1〜20.0原子%である、請求項1ないし4のいずれかに記載の磁気記録媒体。