説明

磁気記録媒体

【課題】保護層が薄くても、走行耐久性を満足し、かつ長期保存における耐蝕性に有効な磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】非磁性支持体1上に磁性層2と、カーボンを主体とした保護層3と、極性基を有する潤滑剤からなる潤滑層4とを有する金属薄膜型の磁気記録媒体100であって、保護層3は、金属が0.5at%〜50at%含有されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非磁性支持体上に金属磁性薄膜と保護層とが形成された、いわゆる金属薄膜型の磁気記録媒体に関するものであり、特に、カーボン保護層の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、磁気記録媒体としては、非磁性支持体上に酸化物磁性粉末あるいは合金磁性粉末等の粉末磁性材料を、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等の有機結合剤中に分散させた磁性塗料を塗布、乾燥させて作製される、いわゆる塗布型の磁気記録媒体が広く知られている。
【0003】
これに対して、高密度記録化への要求から、金属あるいはCo−Ni等の合金からなる強磁性材料を、真空薄膜形成手段(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等)によって非磁性支持体上に直接被着せしめて強磁性金属薄膜よりなる磁性層を有する磁気記録媒体が実用化されている。
【0004】
このような、いわゆる金属磁性薄膜型の磁気記録媒体は、保磁力、残留磁化、角形比等に優れ、短波長での電磁変換特性に優れるばかりでなく、磁性層の厚みをきわめて薄く形成できるため、記録減磁や再生時の厚み損失が小さいこと、磁性層中に非磁性材である結合剤を混入する必要がないため、磁性材料の充填密度を高め、大きな磁化を得ることができる等、数々の利点を有している。
【0005】
さらに、この種の磁気記録媒体の電磁変換特性を向上させ、より大きな出力を得ることができるようにするため、図2に示すような蒸着装置100などによる斜方蒸着法が提案され、現在の蒸着磁気テープの主流となっている。この蒸着磁気テープは、高画質VTR用、デジタルVTR用、データストレージ用等の磁気テープとして実用化されている。
【0006】
ところで、これらの磁気記録媒体では、磁性層表面に硬質の保護層を形成し、これによって、磁気ヘッド等との摺動に対する耐久性を確保している。この硬質の保護層としては、カーボン膜、石英(SiO2)膜、ジルコニア(ZrO2)膜等が挙げられ、なかでもダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜は、硬度が高く、保護効果に優れることから、蒸着テープ保護層の主流になっている。このようなDLC膜を成膜する方法には、スパッタリング法やCVD法がある。
【0007】
スパッタリング法では、電場や磁場を利用してAr等の不活性ガスを電離(プラズマ化)させ、生じたアルゴンイオンを加速してターゲットに衝突させる。その結果、アルゴンイオンの運動エネルギーによってターゲットの原子がはじき出され、そのはじき出された原子が、ターゲットと対向する基板上に堆積することで薄膜が成膜される。
【0008】
CVD法(化学気相成長法)は、電場や磁場を用いて発生させたプラズマのエネルギーを利用して、原料ガスに分解、合成等の化学反応を起こさせ、この化学反応の結果生じた反応生成物を基体上に堆積させることで薄膜を成膜する方法である。
【0009】
一般に、磁気記録媒体の電磁変換特性は、「出力」と「媒体ノイズ」の差分である“CNR”で評価され、高出力かつ低ノイズ状態が好ましい。このうち、高出力化のためには、金属磁性薄膜と、記録ヘッドや再生ヘッドの距離(スペーシング)を小さくすることが非常に重要である。スペーシングによる記録再生の損失は「スペーシング損失」と呼ばれ、次式(式1)のように示される。記録密度向上のために記録再生における波長を短くするほど、スペーシング損失は顕著になる。
【0010】
(スペーシング損失)[dB]=(スペーシング損失係数)×(スペーシング)÷(記録再生波長) ・・・ (式1)
【0011】
蒸着磁気テープにおけるスペーシング損失係数は、発明者らの検討において90〜130程度であることが明らかになっており、仮にAIT(Advanced Intelligent Tape)フォーマットのうち、AIT3の最短波長0.286μmの場合、計算ではつぎのような出力変化が予想される。
・2nmのスペーシングで0.6〜0.9dB
・4nmのスペーシングで1.3〜1.8dB
・6nmのスペーシングで1.9〜2.7dB
【0012】
したがってスペーシングを抑制することは、高出力化のための有効な手段であり、また高CNR化に対しても有効な手段である。
【0013】
蒸着磁気テープでは、磁性層表面に硬質のカーボン保護層を形成し、これによって、磁気ヘッド等との摺動に対する耐久性を確保しており、スペーシング損失の観点からは、薄いほど好ましい。しかしながら、保護層が薄い場合、充分な摺動耐久性が確保できない。薄層保護層の場合、摺動によって低摩擦・高強度なカーボン保護層が摩耗し、高摩擦で強度の低い磁性層が露出するまでの時間(摺動回数)が早まることが原因である。また、保護層を薄層化すると、表面被覆率の低下、ガス透過の増大などの理由により、腐蝕ガスに対する耐蝕性が劣化することも、長期間保存を要求されるデータストレージ用途などにとっては大きな課題である。
【0014】
前記問題のうち腐食問題に対しては、磁性層上に耐食性保護層と耐久性保護層とを積層形成して、その改善を図る技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。これにより、磁性層である金属磁性薄膜の腐食は抑制されエラーレートを改善することが可能となるが、スペーシング損失に関してはその改善は十分とはいえなかった。
【0015】
【特許文献1】特開平5−234059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はこのような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、保護層が薄く、その膜厚が14nm以下であっても、走行耐久性を満足し、かつ長期保存における耐蝕性に有効な磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決するために提供する本発明は、非磁性支持体上に磁性層と、カーボンを主体とした保護層と、極性基を有する潤滑剤からなる潤滑層とを有する金属薄膜型の磁気記録媒体であって、前記保護層は、金属が0.5at%〜50at%含有されてなることを特徴とする磁気記録媒体である。
【0018】
ここで、前記非磁性金属は、Ti、W、Cuいずれかの単金属またはこれらの金属群から選ばれる1または2以上の金属を含む合金からなることが好ましい。
【0019】
また、前記保護層の膜厚が2〜14nmであることが好適である。
【0020】
また、前記磁性層の膜厚が20〜300nmであることが好ましい。
【0021】
また、前記潤滑層は、フッ素を含む潤滑剤が塗布されてなることが好適である。
【0022】
また、前記非磁性支持体の磁性層形成面とは反対面にバックコート層を有するとよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の磁気記録媒体によれば、カーボンを主体とする保護層に所定の金属を含有させることで、潤滑層を構成する潤滑剤、例えばフッ素系潤滑剤の保持効果が高まり、繰り返し摺動によるフッ素系潤滑剤の減少・枯渇が抑制され、シャトル摺動耐久性が向上する。これにより、保護層を薄くすることが可能になり、より高記録密度に対応した磁気記録媒体の提供が可能になる。また、保護層に腐蝕しにくい貴金属を含有させることで磁性層の腐蝕を抑制した磁気記録媒体の提供が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明に係る磁気記録媒体の構成について説明する。
図1に本発明により作成された磁気記録媒体の略式断面図を示す。
この磁気記録媒体100は、長尺形状の非磁性支持体1の一主面に、真空薄膜形成技術により作製した磁性層2を有し、磁性層2上にカーボンを主体とする保護層3が形成され、保護層3上に極性基を有する潤滑剤からなる潤滑層4が形成された構成を有するものである。以下、詳細に説明する。
【0025】
非磁性支持体1としては、従来より金属磁性薄膜型の磁気記録媒体で用いられているものがいずれも使用可能である。例えば、ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルローストリアセテート等のセルロース誘導体、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等の高分子物質が使用可能である。また、これら非磁性支持体上には、磁性薄膜を形成するのに先立ち、易接着化、表面性改良、着色、帯電防止、耐磨耗性付与等の目的で表面処理や前処理を行うようにしてもよい。
【0026】
磁性層2を形成する金属磁性材料としては、通常の蒸着テープに使用されるものであれば如何なるものであってもよいが、例示すればFe、Co、Niなどの強磁性金属、Fe−Co、Co−Ni、Co−Cr、Co−Cr−Ta、Co−Cr−Pt、Co−Ni−Pt、Fe−Co−Ni、Fe−Co−B、Fe−Ni−B、Fe−Co−Ni−Cr等の強磁性合金が挙げられる。
【0027】
磁性層2は、真空中で金属磁性材料を加熱蒸発させ、非磁性支持体1に蒸着させる真空蒸着法や、金属磁性材料の蒸発を放電中で行うイオンプレーティング法、アルゴンを主成分とする雰囲気中でグロー放電を起こし、アルゴンイオンでターゲット表面の原子を叩き出すスパッタ法などのいわゆるPVD技術によって形成された薄膜であり、その膜厚は20nm〜300nmであることが好ましい。
【0028】
なお、磁性層2は上記方法によって成膜される金属磁性薄膜の単層膜であってもよいし多層膜であってもよい。さらには、非磁性支持体1と磁性層2との間、さらには磁性層2が多層膜の場合には、各層間の付着力向上、並びに抗磁力の制御等のため、下地層、又は、中間層を設けてもよい。また、例えば磁性層表面近傍が耐蝕性改善等のために酸化物となっていてもよい。
【0029】
図2に磁性層2の成膜を行う蒸着装置200の一例の概略構成図を示す。本実施例においては、図2の蒸着装置200において、10-2Paに排気した蒸着室202内で、ルツボ210内に配した金属磁性材料211であるコバルト塊を、電子銃212からの電子ビームで加熱溶解して、幅620mmの非磁性支持体1に、コバルト金属磁性薄膜を蒸着した。この蒸着装置200においては、排気口203から排気されて真空状態となされた真空槽201内に、送りロール204と巻取りロール205とが設けられており、これらの間に非磁性支持体1が順次走行するようになされている。
【0030】
これら送りロール204と巻取りロール205との間に、上記非磁性支持体1が走行する中途部には、冷却キャン206が設けられている。この冷却キャン206には、冷却装置が設けられ、非磁性支持体1の温度上昇による熱変形などを抑制している。
【0031】
非磁性支持体1は、送りロール204から順次送り出され、さらに上記冷却キャン206の周面を通過し、巻取りロール205に巻取られていくようになされている。尚、上記送りロール204と冷却キャン206との間及び冷却キャン206と巻取りロール205との問にはそれぞれガイドロール207、208が配設され、上記送りロール204から冷却キャン206及び該冷却キャン206から巻取りロール205にわたって走行する非磁性支持体1に所定のテンションをかけ、該非磁性支持体1が円滑に走行するようになされている。
【0032】
蒸着室202は隔壁209によって隔てられており、ルツボ210から蒸発した金属粒子や反射、散乱する電子ビームの流入を抑制している。上記冷却キャン206の下方にルツボ210が設けられ、このルツボ210に金属磁性材料211が充填されている。このルツボ210は、冷却キャン206の幅と略同一の幅を有してなる。
【0033】
一方、蒸着装置200の側壁部には、上記ルツボ210内に充填された金属磁性材料211を加熱蒸発させるための電子銃212が取り付けられる。この電子銃212は、当該電子銃212より放出される電子ビームが上記ルツボ210内の金属磁性材料211に照射されるような位置に配設される。そして、この電子線によって蒸発した金属磁性材料211が上記冷却キャン206の周面を定速走行する非磁性支持体1上に磁性層2として被着形成されるようになっている。
【0034】
また、上記冷却キャン206とルツボ210との間であって、冷却キャン206の近傍には、シャッタ213が配設されている。このシャッタ213は、上記冷却キャン206の周面を定速走行する非磁性支持体1の所定領域を覆う形で形成され、このシャッタ213により上記蒸発せしめられた金属磁性材料211が上記非磁性支持体1に対して所定の角度範囲で斜めに蒸着されるようになっている。さらに、このような蒸着に際し、上記蒸着装置200側壁部を貫通して設けられる酸素ガス導入口214を介して非磁性支持体1の表面に酸素ガスが供給され、磁気特性、耐久性及び耐蝕性の向上が図られている。蒸着の入射角は、非磁性支持体1の法線方向から90度〜45度までとし、非磁性支持体1の送り速度を変化させ、蒸着層の厚さを制御する。また、蒸着中は磁気特性を制御するために、酸素ガス導入管214から酸素ガスを導入しながら成膜を行う。
【0035】
保護層3は、カーボンを主体とし、金属が0.5at%以上、50at%以下含有されてなるものである。この保護層3の膜厚は、2〜14nmであることが好ましい。
【0036】
保護層3に含有される金属は、例えば、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zn、Ge、Zr、Nb、Mo、Sn、Ta、W、Pb、Biの単金属またはこれらの金属群から選ばれる1または2以上の金属を含む合金が挙げられる。あるいは、耐食性向上の観点から、Cu、Ag、Au、Ptの単金属またはこれらの金属群から選ばれる1または2以上の金属を含む合金が挙げられる。また、これらのうち、Ti、W、Cuいずれかの単金属またはこれらの金属群から選ばれる1または2以上の金属を含む合金からなることが好ましく、非磁性金属であることがより好ましい。
【0037】
以下、保護層3を作成するためのスパッタリング装置(図3)とCVD(化学気相成長法)装置(図4)の説明をするが、保護層成膜装置はこれに限定されるものではない。
【0038】
図3に保護層3の成膜装置として、マグネトロンスパッタ装置300の略式構成図を示す。
この装置300においては、頭部に設けられた排気口303によって内部が高真空状態となされた真空槽301内に、定速回転する送りロール304と、巻取りロール305とが設けられ、これら送りロール304から巻取りロール305に、非磁性支持体1の上に磁性層が蒸着された被処理体501が、順次走行するようになされている。
【0039】
これら送りロール304から巻取りロール305側に被処理体501が走行する中途部には、キャン306が設けられている。このキャン306は、被処理体501を図中下方に引き出すように設けられ、図中の時計回り方向に定速回転する構成で示してある。また、これら送りロール304から巻取りロール305側に被処理体501が走行する中途部には、ガイドロール307やガイドロール308が配設され、被処理体501に所定のテンションをかけ、被処理体501が円滑に走行するようになされている。
【0040】
成膜室302は隔壁309によって隔てられており、スパッタリングの際の飛散粒子の抑制やガス圧力を制御している。
【0041】
冷却キャン306と対向する位置には、ターゲット310が設けられている。ターゲット310は、前記金属を含有したカーボンからなるものであり、例えば、Ti、W、Cu等の少なくとも1種類の金属を混合した、あるいは当該金属チップとして埋め込んだカーボンターゲットが用いられる。これらターゲット310は、カソード電極を構成するバッキングプレート311に支持されている。そして、バッキングプレート311の裏面には、磁場を形成するマグネット312が配設されている。このマグネトロンスパッタ装置300において、金属が含有されたカーボン保護層3を成膜する場合には、成膜室302内を約1×10−4〔Pa〕程度に減圧した後、ガス導入管314からArガスを導入して真空度を例えば約0.5〔Pa〕とする。
【0042】
そして、ガス導入管314からArガスを導入するとともに、冷却キャン306をアノード、バッキングプレート311をカソードとして、電源313を用いて約600Vの電圧を印加し、約40Aの電流が流れる状態を保持する。そして、この電圧の印加により、Arガスがプラズマ化し、電離されたイオンがターゲット310に衝突することにより、ターゲットからカーボンと金属原子がはじき出される。
【0043】
このとき、バッキングプレート311の裏面に配置されたマグネット312より、ターゲット310近傍には、磁場が形成されるので、電離されたイオンは、ターゲット310の近傍に集中されることとなる。そして、これらのターゲット310からはじき出された原子は、冷却キャン306の外周面に沿って走行する被処理体501に付着する。このようにして、金属が含有されたカーボン保護層3が成膜された被処理体502は、巻き取りロール305に巻き取られる。
【0044】
ターゲットには、保護層として成膜後に希望の濃度比率になるよう、カーボンターゲット上に金属のチップを配置してもよいし、初めからカーボンに金属を混入させたものを用いてもよい。
【0045】
図4に保護層3の成膜装置として、プラズマCVD装置400の略式構成図を示す。
この装置400においては、頭部に設けられた排気口403によって内部が高真空状態となされた真空槽401内に、定速回転する送りロール404と、巻取りロール405とが設けられ、これら送りロール404から巻取りロール405に、非磁性支持体1の上に磁性層が蒸着された被処理体501が、順次走行するようになされている。
【0046】
これら送りロール404から巻取りロール405側に被処理体501が走行する中途部には、キャン406が設けられている。このキャン406は、被処理体501を図中下方に引き出すように設けられ、図中の時計回り方向に定速回転する構成で示してある。また、これら送りロール404から巻取りロール405側に被処理体501が走行する中途部には、ガイドロール407,408が配設され、被処理体501に所定のテンションをかけ、被処理体501が円滑に走行するようになされている。
【0047】
成膜室402内には、上記キャン406の下方にパイレックス(登録商標)ガラス,プラスチック等よりなる反応管410が設けられている。この反応管410は、一方の端部が成膜室402の底部を貫通しており、このガス導入管411から成膜ガスが当該反応管410内に導入されるようになっている。また、この反応管410内の中途部には、金属メッシュ等よりなる電極413が取り付けられている。この電極413は、外部に配設された電源412と接続されており、0〜3000Vの電圧が印加されるようになっている。
【0048】
このCVD装置では、この電極413に電圧が印加されることで、当該電極413とキャン406との間にグロー放電が生じる。そして、反応管410内に導入された成膜ガスは、この生じたグロー放電によって分解し、被処理体501上に被着され、保護層3が形成される。
【0049】
保護層3の形成に適用する成膜ガスとしては炭化水素系、ケトン系、アルコール系など、従来公知の材料をいずれも使用できる。また、プラズマ生成時には炭素化合物の分解を促進するためのガスとして、Ar、Hなどが導入されていてもよい。その他、ダイヤモンドライクカーボンの膜硬度、耐蝕性の向上を図るため、カーボンが窒素、フッ素と反応した状態でもよく、ダイヤモンドライクカーボン膜は単層であっても多層であってもよい。また、プラズマ生成時には炭素化合物の他、N、CHF、CH等のガスを単独あるいは適宜混合した状態で成膜することもできる。
【0050】
上記カーボン系ガスに対し、下記に示すような原料を用いて金属含有ガスをカーボン系ガスと混合させ、これを用いてCVDすることで金属が含有された保護層3が成膜される。
【0051】
金属含有ガスを生成する原料として、TiClやWFのハロゲン系金属材料、さらにCa(DPM)、Ca(DPM)、Ti(Oi―Pr)(DPM)、Ti(Ot―Am)(TMOD)、TiO(DPM)、Cr(DPM)、Mn(DPM)、Zn(DPM)、Zr(DPM)、Zr(DIBM)、Nb(OEt)(DPM)、Ta(OEt)(DPM)、Pb(DPM)、Bi(O―Tol)、Cu(DPM)、Cu(IBPM)、Cu(DIBM)などが使用できるが、これに限定されるものではない。
【0052】
金属が含有された保護層3は厚く形成しすぎるとスペーシングによる損失が増加し、薄すぎると耐久性、耐蝕性が低下するため、2nm〜14nmの厚さに形成することが好ましい。
【0053】
潤滑層4は、ガイドロール、回転ドラム、ヘッド等との摩擦を低減させるために、極性基を有する潤滑剤が保護層3上に塗布されてなるものである。潤滑剤としては、従来公知の材料を用いることができるが、特にフッ素系の潤滑剤であることが好ましい。
【0054】
本発明の磁気記録媒体100においては、必要に応じて非磁性支持体1の磁性層2の形成面側とは反対側に厚さ0.1〜0.7μmのバックコート層5を形成してもよい。この場合、バックコート層5形成用材料としては、非磁性顔料、樹脂結合剤等、従来公知の材料を適宜用いることができる。また、本発明の磁気記録媒体100は、ヘリカル・スキャン記録再生システムに用いられることを想定しているが、このシステムに限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
次に、本発明の磁気記録媒体100について、具体的な例を挙げて説明するが、本発明の磁気記録媒体は、以下の例に限定されるものではない。
<実施例1>
(1)サンプル作製
図1に示した磁気記録媒体100の非磁性支持体1として、厚さ6μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意し、この非磁性支持体1上に磁性層2を図2に示した蒸着装置200を用いて以下の条件で作成した。
(蒸着条件)
・成膜材料:Co100wt%
・入射角:45°〜90°
・導入ガス:酸素ガス
・磁性層の膜厚:150nm
【0056】
次に、以下の条件により図4に示したプラズマCVD装置400を用いて金属が含有された保護層3を形成した。
(CVD条件)
・導入ガス:エチレン/アルゴン/TiCl混合ガス
・TiCl流量:2sccm
・反応管内圧力:30Pa
・投入電圧:+1.2kV
・保護層の膜厚:8nm
【0057】
次に、フッ素系潤滑剤を用いて潤滑剤層4を形成し、カーボン系のバックコート層5を形成し、最後に8mm幅に裁断してテープ状の磁気記録媒体100のサンプルを得た。
【0058】
(2)サンプル評価
得られたサンプルについて、以下の評価を行った。
(i)保護層中の金属含有量
保護層3中の金属の含有量を、X線光電子分光分析装置(ESCA、SHIMAZU製)により測定した。具体的には、カーボン(炭素)100%の標準試料における光電子の検出強度(A)と、含有金属(例えばTi)100%の標準試料における光電子の検出強度(B)を測定しておき、測定対象サンプルの光電子の検出強度(炭素:a、Ti:b)から、炭素存在比率(a/A)、Ti存在比率(b/B)をそれぞれ求めることによって測定対象サンプルの相対的な保護層中の金属含有量を算出した。
【0059】
(ii)シャトル耐久性(シャトル回数)
サンプルの摺動耐久性評価のため、恒温槽内の雰囲気を温度25℃、相対湿度50%に制御して、この恒温槽内で市販のAIT3デッキ(ソニー株式会社製;商品名SDX―700C)を用い、繰り返し摺動(シャトル)を行った。再生出力が初期出力から3dB落ちた時点を摺動終了回数とした。なお、シャトル耐久性の判断だが、およそシャトル回数30000パスを超えれば製品として問題無いレベル、50000パスを超えればさらに保護膜を薄くできる可能性があるため、次世代の製品に有望なレベルである。
【0060】
(iii)インダクティブヘッド再生の電磁変換特性
市販のAIT3デッキ(ソニー株式会社製;商品名SDX―700C)を使用し、各サンプル磁気テープに、記録波長0.286μmで、情報信号を記録した後、インダクティブヘッドにより再生し、出力レベルとCNRを測定した。なお、CNRレベルは、後述する比較例1の磁気テープをリファレンス(基準値(±0dB))とした場合、リファレンスに比較して−1.5dB以下であると、実用上充分な記録再生特性が得られない。
【0061】
(iv)摺動による潤滑剤の残存量
まず作成した初期状態のサンプルの潤滑剤量をX線光電子分光分析装置(ESCA、SHIMAZU製)を用いて測定し、このテープをφ2mmのSUSピンに90゜の角度で巻きつけ、10gfの荷重で繰り返し行き来させる摩擦摺動試験を1000パス実施した。
摩擦試験終了後、再度テープの潤滑剤量をX線光電子分光分析装置(ESCA、SHIMAZU製)を用いて測定し、次の式により潤滑剤の残存量を求めた。
(残存量)(%)=(摺動後の潤滑剤量) ÷ (初期状態の潤滑剤量)
【0062】
<実施例2〜9>
実施例1において、TiCl流量をそれぞれ4sccm(実施例2),8sccm(実施例3),20sccm(実施例4),40sccm(実施例5),80sccm(実施例6),120sccm(実施例7),160sccm(実施例8),200sccm(実施例9)とし、それ以外は実施例1と同様にして磁気記録媒体100のサンプルを得た。
【0063】
<比較例1〜4>
実施例1において、TiCl流量をそれぞれ0sccm(比較例1)、1sccm(比較例2)、240sccm(比較例3)、280sccm(比較例4)とし、それ以外は実施例1と同様にして磁気記録媒体のサンプルを得た。
【0064】
<比較例5,6>
比較例1において、保護層の膜厚をそれぞれ4nm(比較例5)、6nm(比較例6)とし、それ以外は比較例1と同様にして磁気記録媒体のサンプルを得た。
【0065】
以上のサンプルの評価結果を表1に示す。なお、摺動による潤滑剤の残存量は、実施例4、比較例1について測定した。
【0066】
【表1】

【0067】
(保護層膜厚の影響)
<実施例10〜15>
実施例4において、保護層3の膜厚がそれぞれ2nm(実施例10),4nm(実施例11),6nm(実施例12),10nm(実施例13),12nm(実施例14),14nm(実施例15)となるように成膜速度を変化させて、それ以外は実施例4と同様にして磁気記録媒体100のサンプルを得た。
【0068】
<比較例7,8>
実施例4において、保護層3の膜厚がそれぞれ1nm(比較例7),16nm(比較例8)となるように成膜速度を変化させて、それ以外は実施例4と同様にして磁気記録媒体のサンプルを得た。
【0069】
以上のサンプルについて、保護層中の金属含有量、シャトル耐久性(シャトル回数)、インダクティブヘッド再生の電磁変換特性を評価した結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
(磁性層膜厚の影響)
<実施例16〜21>
実施例4において、磁性層2の膜厚をそれぞれ20nm(実施例16)、35nm(実施例17)、50nm(実施例18)、100nm(実施例19)、150nm(実施例20)、200nm(実施例21)、300nm(実施例21)となるように蒸着成膜速度を変化させ、それ以外は実施例4と同様にして磁気記録媒体100のサンプルを得た。
【0072】
<比較例9,10>
実施例4において、磁性層2の膜厚をそれぞれ15nm(比較例9)、400nm(比較例10)となるように蒸着成膜速度を変化させ、それ以外は実施例4と同様にして磁気記録媒体のサンプルを得た。
【0073】
以上のサンプルについて、保護層中の金属含有量、シャトル耐久性(シャトル回数)、インダクティブヘッド再生の電磁変換特性、異方性磁気抵抗効果型ヘッド(AMRヘッド)再生の電磁変換特性を評価した。なお、AMRヘッド再生の電磁変換特性の評価は次のように行った。
(AMRヘッド再生の電磁変換特性)
市販のデジタルビデオカメラレコーダー「MicroMV」(ソニー株式会社製;商品名DCR−IP7)用のAMRヘッドをAIT3デッキ(ソニー株式会社製;商品名SDX−700C)に搭載させ、各サンプル磁気テープに、記録波長0.22μmで、情報信号を記録した後、AMRヘッドにより再生し、出力レベルとCNRを測定した。ここで、CNRレベルは、比較例1の磁気テープをリファレンス(基準値(±0dB))とした場合、リファレンスに比較して−1.5dB以下であると、実用上充分な記録再生特性が得られない。また、インダクティブヘッドと、AMRヘッドやGMRヘッドなどの磁気抵抗効果を利用したヘッドは、最適な磁性層厚み範囲が異なっており、両方の再生ヘッドで優れたCNRを満たす必要はない。
【0074】
以上の評価結果を表3に示す
【0075】
【表3】

【0076】
次に、スパッタリング法により含有金属をCu,Ti,W,Ti−Wにして保護層3を成膜した場合の実施例を以下に示す。
<実施例22>
図1に示した磁気記録媒体100の非磁性支持体1として、厚さ6μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意し、この非磁性支持体1上に磁性層2を図2に示した蒸着装置200を用いて以下の条件で作成した。
(蒸着条件)
・成膜材料:Co100wt%
・入射角:45°〜90°
・導入ガス:酸素ガス
・磁性層の膜厚:150nm
【0077】
次に、以下の条件により図3に示したマグネトロンスパッタ装置300を用いて金属が含有された保護層3を形成した。ここで、ターゲットは矩形のカーボンターゲットの表面に縦5mm×横5mm×厚さ1mmの金属からなるチップを所定個数埋め込んだものを使用した。
(スパッタリング条件)
・導入ガス:アルゴン
・ターゲット:カーボン+Cuチップ
・・Cuチップ数:2個
・投入電圧:500V
・カーボン保護層の膜厚:8nm
【0078】
次に、フッ素系潤滑剤を用いて潤滑剤層4を形成し、カーボン系のバックコート層5を形成し、最後に8mm幅に裁断してテープ状の磁気記録媒体100のサンプルを得た。
【0079】
<実施例23〜30>
実施例22において、カーボンターゲットに埋め込むCuチップ数をそれぞれ4個(実施例23)、8個(実施例24)、20個(実施例25)、40個(実施例26)、80個(実施例27)、120個(実施例28)、160個(実施例29)、200個(実施例30)とし、それ以外は実施例22と同様にして磁気記録媒体100のサンプルを得た。
【0080】
<比較例11〜14>
実施例22において、カーボンターゲットに埋め込むCuチップ数をそれぞれ0個(比較例11)、1個(比較例12)、240個(比較例13)、280個(比較例14)とし、それ以外は実施例22と同様にして磁気記録媒体のサンプルを得た。
【0081】
<実施例31>
実施例22において、カーボンターゲットに埋め込むチップをTiチップ(縦5mm×横5mm×厚さ1mm)とし、該Tiチップ数を30個として、それ以外は実施例22と同様にして磁気記録媒体100のサンプルを得た。
【0082】
<実施例32>
実施例22において、カーボンターゲットに埋め込むチップをWチップ(縦5mm×横5mm×厚さ1mm)とし、該Wチップ数を50個として、それ以外は実施例22と同様にして磁気記録媒体100のサンプルを得た。
【0083】
<実施例33>
実施例22において、カーボンターゲットに埋め込むチップをTiWチップ(縦5mm×横5mm×厚さ1mm)とし、該TiWチップ数を40個として、それ以外は実施例22と同様にして磁気記録媒体100のサンプルを得た。
【0084】
以上のサンプルについて、保護層中の金属含有量、シャトル耐久性(シャトル回数)、インダクティブヘッド再生の電磁変換特性、SO耐食性を評価した。なお、SO耐食性の評価は実施例22〜30、比較例11〜14について次のように行った。
(SO耐食性)
SOガス環境の磁化劣化評価として、ガス試験装置(SOガス濃度=0.5ppm、30℃・80%RH)の環境で、50時間保存したサンプルの磁化量変化を測定した。VSMを用いてサンプルの飽和磁化を測定し、以下の式(式2)を用いて磁化劣化率を算出した。式2においてSOガス環境保存後のCo磁性層の磁化量が半分に減少すれば磁化劣化率50%、保存後の磁化率がゼロまで減少すれば磁化劣化率は100%になる。ここでは、磁化劣化率が20%未満のものを良好と評価し、20%以上のものを不可と評価した。
(磁化劣化率φs)(%)=((保存前の磁化量)−(保存後の磁化量))/(保存前の磁化量) ・・・ (式2)
【0085】
以上の評価結果を表4に示す
【0086】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に係る磁気記録媒体の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の磁気記録媒体の製造に用いる蒸着装置の構成を示す概略図である。
【図3】本発明の磁気記録媒体の製造に用いるマグネトロンスパッタ装置の構成を示す概略図である。
【図4】本発明の磁気記録媒体の製造に用いるプラズマCVD装置の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0088】
1・・・非磁性支持体、2・・・磁性層、3・・・保護層、4・・・潤滑層、5・・・バックコート層、100・・・磁気記録媒体、200・・・蒸着装置、201,301,401・・・真空槽、202・・・蒸着室、203,303,403・・・排気口、204,304,404・・・送りロール、205,305,405・・・巻取りロール、206,306,406・・・冷却キャン、207,208,307,308,407,408・・・ガイドロール、209,309,409・・・隔壁、210・・・ルツボ、211・・・金属磁性材料、212・・・電子銃、213・・・シャッター、214・・・酸素ガス導入管、300・・・マグネトロンスパッタ装置、302,402・・・成膜室、310・・・ターゲット、311・・・バッキングプレート、312・・・マグネット、313,412・・・電源、314,411・・・ガス導入管、400・・・プラズマCVD装置、410・・・反応管、413・・・放電電極、501,502・・・被処理体、502

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に磁性層と、カーボンを主体とした保護層と、極性基を有する潤滑剤からなる潤滑層とを有する金属薄膜型の磁気記録媒体であって、
前記保護層は、金属が0.5at%〜50at%含有されてなることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記金属は、Ti、W、Cuいずれかの単金属またはこれらの金属群から選ばれる1または2以上の金属を含む合金からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記保護層の膜厚が2〜14nmであることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記磁性層の膜厚が20〜300nmであることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記潤滑層は、フッ素を含む潤滑剤が塗布されてなることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記非磁性支持体の磁性層形成面とは反対面にバックコート層を有することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−33996(P2008−33996A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204217(P2006−204217)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】