説明

磁気記録媒体

【課題】優れた短波長特性と同時に化学的に安定な磁気記録媒体を実現する。
【解決手段】鉄および窒素を少なくとも構成元素とし、かつFe162 相を少なくとも含む平均粒子サイズが5〜50nmの粒状ないし楕円状の磁性粉を使用した磁気記録媒体において、磁性層に珪素含有化合物(好ましくはシロキサン含有化合物)を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度磁気記録に適した塗布型の磁気記録媒体に関し、具体的には主としてデジタルビデオテープ、コンピュータ用のバックアップテープなどの磁気テープに関する。
【背景技術】
【0002】
非磁性支持体上に磁性粉と結合剤と含有する磁性層を塗布形成してなる塗布型の磁気記録媒体においては、記録再生方式がアナログ方式からデジタル方式への移行に伴い、さらなる記録密度の向上が要求されている。特に、高記録密度用のビデオテープやコンピュータ用のバックアップテープなどにおいては、この要求が、年々、高まってきている。
【0003】
記録密度の向上に不可欠な短波長記録に対応するためには記録時の厚み損失を小さくする必要があり、そのためは磁性層の厚さを300nm以下、とくに100nm以下に薄膜化するのが効果的である。このような高記録密度媒体に記録されたデータや信号を読み出すための再生用磁気ヘッドとしては、従来の磁気誘導型の磁気ヘッド(MIGヘッド)に比べて高出力が得られる磁気抵抗効果型の磁気ヘッド(MRヘッド)が一般に用いられる。
【0004】
一方、ノイズ低減のため、磁気記録媒体に使用される磁性粉においては、年々、微粒子化がはかられ、現在、粒子径が100nm程度の針状のメタル磁性粉が実用化されている。さらに、短波長記録時の減磁による出力低下を防止するために、年々、高保磁力化がはかられ、鉄−コバルト合金化により238.9A/m(3,000Oe)程度の保磁力が実現されている(特許文献1〜3参照)。
【0005】
しかし、針状磁性粒子を用いる磁気記録媒体では、保磁力が形状に依存するため、上記粒子径からのさらなる微粒子化は困難になってきている。すなわち、針状磁性粒子をさらに微粒子化すると、比表面積が著しく大きくなり、飽和磁化が大きく低下する。そのため、金属または合金磁性粉の最大の特徴である高飽和磁化のメリットが損なわれてしまう。
【0006】
そこで、上記針状の磁性粉とは全く異なる磁性粉として、希土類−遷移金属系粒状磁性粉、たとえば、粒状ないし楕円状の希土類−鉄−ホウ素系磁性粉を使用した磁気記録媒体が提唱されている(特許文献4参照)。この媒体は、磁性粉の超微粒子化が可能で、かつ高飽和磁化および高保磁力を実現でき、高記録密度化に大きく貢献するものである。また、粒子形状が針状でない鉄系磁性粉として、粒子形状が不定形で、Fe162 相を主相としたBET比表面積が10m2 /g程度の窒化鉄系磁性粉を用いた磁気記録媒体も提案されている(特許文献5参照)。
【0007】
本発明者らも、磁気記録媒体の高記録密度化に適した磁性粉として、Fe162 相を含む粒子サイズ5〜50nmの粒状ないし楕円状の磁性粉を提案した(特許文献6参照)。この磁性粉は、従来の磁性粉では得られない優れた短波長特性を示し、さらに当該磁性粉中に希類土元素やアルミニウム、シリコンなどを含有させることを特徴としている。
【0008】
【特許文献1】特開平3−49026号公報(第4頁)
【特許文献2】特開平10−83906号公報(第3頁)
【特許文献3】特開平10−340805号公報(第2頁)
【特許文献4】特開2001−181754号公報(第4頁、第22頁)
【特許文献5】特開2000−277311号公報(第3頁、図4)
【特許文献6】特開2004−273094号公報(第4頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
先の特許文献6に記載された、Fe162 相を含み粒子サイズが5〜50nmの粒状ないし楕円状の磁性粉は、従来の磁性粉では得られない優れた短波長特性を示すことが最大の特徴である。一方、このような磁性粉を高記録密度用のビデオテープやコンピュータ用のバックアップテープなどに使用するためには、短波長特性と同時に高い信頼性が要求される。中でも、高温高湿下に磁気記録媒体を保持した場合の信頼性は特に重要である。磁性粉に金属や合金あるいは金属化合物を使用した場合、本質的に高温高湿下での劣化が避けられないためである。
【0010】
本発明は、このような事情に照らし、少なくとも鉄および窒素を構成元素とし且つFe162 相を含む平均粒子サイズが5nm以上50nm以下の粒状ないし楕円状の磁性粉を用いた磁気記録媒体として、優れた短波長記録特性と同時に、化学的にも極めて安定で高い信頼性を有する磁気記録媒体を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成するため、鋭意検討した結果、磁性粉として平均粒子サイズが5〜50nmのFe162 相を少なくとも含む粒状ないし楕円状の窒化鉄系磁性粉を用い、さらに磁性層中に珪素含有化合物を含有させることにより、優れた短波長記録特性と同時に化学的にも極めて安定で高い信頼性を有する磁気記録媒体が得られることを見出した。この場合の珪素含有化合物としては、シロキサンを含有する化合物が特に有効であり、またこの珪素含有化合物を前記磁性粉に対して0.1〜20.0重量%含有させることが有効である。
【0012】
本発明は、このような知見に基づいて完成されたもので、非磁性支持体と、この非磁性支持体の一方の面側に設けられた、磁性粉および結合剤を含有する磁性層とを有し、前記磁性粉が、少なくとも鉄および窒素を構成元素とし且つFe162 相を含む平均粒子サイズが5nm以上50nm以下の粒状ないし楕円状の磁性粉からなる磁気記録媒体において、前記磁性層中に、珪素含有化合物(好ましくはシロキサン含有化合物)を前記磁性粉に対して0.1〜20重量%含有させたことを特徴とする。
【0013】
上記のような構成により、磁気特性としては長手方向の保磁力(Hc)が79.6〜318.4kA/m(1,000〜4,000Oe)、長手方向の角形比(Br/Bm)が0.6〜0.9、飽和磁束密度と磁性層厚さとの積(Bm・t)が0.001〜0.1μTmの磁気記録媒体を実現する。その場合、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉および結合剤を含有した少なくとも1層の下塗層を設けるとともに、磁性層の厚さは300nm以下に設定するのが好ましい。
【0014】
なお、磁性層中の磁性粉の化学的安定性を高めるために、磁性層中に珪素含有化合物を含有させるという手法は、Fe162 相を少なくとも含む平均粒子サイズが5〜50nmの粒状ないし楕円状の磁性粉に対して特に有効であるが、現在広く使用されているFe、Fe−Co、Fe−Ni、Fe−Co−Niを主成分とする針状の金属あるいは合金磁性粉にも適用できることは言うまでもない。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明の磁気記録媒体においては、鉄および窒素を少なくとも構成元素とし、かつFe162 相を少なくとも含む平均粒子サイズが5〜50nmの粒状ないし楕円状の磁性粉を使用し、さらにこの磁性粉を含んだ磁性層中に珪素含有化合物を含有させた。これにより、前記磁性粉が有する優れた短波長記録特性と同時に化学的にも極めて安定で高い信頼性を有する磁気記録媒体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明で使用する磁性粉、すわなちFe162 相を少なくとも含む平均粒子サイズが5〜50nmの粒状ないし楕円状の磁性粉において、鉄に対する窒素の含有量は1.0〜20.0原子%、好ましくは5.0〜18.0原子%、より好ましくは8.0〜15.0原子%である。窒素が少なすぎると、Fe162 相の形成量が少なく、保磁力増加の効果が少なくなり、多すぎると、非磁性窒化物が形成されやすく、保磁力増加の効果が少なくなり、また飽和磁化が過度に低下する。
【0017】
この磁性粉においては、鉄に対して希土類元素を0.05〜20.0原子%添加しておくことが好ましい。希土類元素の量が少なすぎると、希土類元素による分散性の向上効果が少なくなり、また還元時の粒子形状維持効果が小さくなる。逆に多すぎると、添加した希土類元素のうち、未反応の部分が多くなり、分散、塗布工程の障害となるばかりでなく、保磁力や飽和磁化の過度な低下が生じやすい。この希土類元素としては、イットリウム、イッテルビウム、セシウム、プラセオジウム、ランタン、ユーロピウム、ネオジウムなどが挙げられる。これらのうち、イットリウム、サマリウムまたはネオジウムは、とくに還元時の粒子形状の維持効果が大きいことから、これらの元素の中から、その少なくとも1種を選択使用するのが望ましい。また、希土類元素のみならず、ホウ素、シリコン、アルミニウム、リンを添加すると、形状保持効果と同時に分散性の向上をはかれることがわかった。これらは、希土類元素に比べて安価であることから、コスト的にも有利であり、希土類元素と組み合わせて使用することがより好ましい。
【0018】
珪素含有化合物の含有量は、磁性粉に対して0.1〜20.0量%が好ましく、より好ましくは0.2〜15.0重量%、さらに好ましくは0.3〜10.0重量%である。この含有量が少ないと化学的安定性向上の効果が少なく、多すぎると塗料粘度が高くなリ過ぎて塗布適性が悪くなる傾向がある。珪素含有化合物としては環状化合物が特に好ましい。以上のような構成の磁気記録媒体とすることにより、優れた短波長記録特性と同時に化学的にも極めて安定で高い信頼性を有する磁気記録媒体となる。
【0019】
このように所定の磁性粉を含有した磁性層中に珪素含有化合物を添加することにより化学的安定性が大幅に向上する理由については必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。すなわち珪素含有化合物が有するヒドロキシル基が特に磁性粉との結合、結合剤(バインダ)における官能基との架橋を促進し、磁性層中で磁性粉と結合剤との強固な結合が形成される結果、水分や酸素の侵入を防いでいると考えられる。また磁性粉との結合が促進されることから分散性能が向上し、磁性粉が結合剤に個々に結合する結果となり化学的安定性に繋がるものと考えられる。このようにヒドロキシル基を通しての磁性粉と結合剤との強固な結合により、本質的に安定である窒化鉄系磁性粉を用いた磁気記録媒体をさらに化学的に安定化し、実用的に優れた磁気記録媒体とすることができる。
【0020】
次に、本発明で使用する窒化鉄系磁性粉の製造方法と、珪素含有化合物の添加方法について説明する。
【0021】
出発原料には、鉄系酸化物または水酸化物を使用する。たとえばヘマタイト、マグネタイト、ゲータイトなどが挙げられる。平均粒子サイズとしては、とくに限定されないが、通常5〜80nm、好ましくは5〜50nm、より好ましくは5〜30nmとするのがよい。粒子サイズが小さすぎると、還元処理時に粒子間焼結が生じやすく、また大きすぎると、還元処理が不均質となりやすく、粒子径や磁気特性の制御が困難となる。
【0022】
この出発原料に対して、希土類元素を被着させることができる。この場合、通常はアルカリまたは酸の水溶液中に出発原料を分散させ、これに希土類元素の塩を溶解させ、中和反応などにより、出発原料粉末に希土類元素を含む水酸化物や水和物を沈殿析出させるようにすればよい。
【0023】
また、シリコン、ホウ素、アルミニウム、リンなどの元素で構成された化合物を溶解させ、これに原料粉末を浸漬して、原料粉末に対して、ホウ素、シリコン、アルミニウム、リンを被着させるようにしてもよい。これらの被着処理を効率良く行うため、還元剤、pH緩衝剤、粒径制御剤などの添加剤を混入させてもよい。これらの被着処理として、希土類元素とホウ素、シリコン、アルミニウム、リンを同時にあるいは交互に被着させるようにしてもよい。また希土類元素やシリコン、アルミニウムなどの元素は、出発原料粉末に被着することもできるが、出発原料合成時に同時に添加し、後述する加熱処理時に磁性粉表面に析出させることもできる。さらに出発原料合成時に添加することと、原料合成後に被着することを組み合わせることもできる。
【0024】
このような原料を水素気流中で加熱還元する。還元ガスはとくに限定されず、水素ガス以外に、一酸化炭素ガスなどの還元性ガスを使用してもよい。還元温度は、300〜600℃とするのが望ましい。還元温度が300℃より低くなると、還元反応が十分進まなくなり、また600℃を超えると、粉末粒子の焼結が起こりやすくなり、いずれも好ましくない。
【0025】
このような加熱還元処理後、窒化処理を施すことにより、本発明の鉄と窒素を構成元素とする磁性粉が得られる。窒化処理としては、アンモニアを含むガスを用いて行うのが望ましい。アンモニアガス単体のほかに、水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガスなどをキャリアーガスとした混合ガスを使用してもよい。窒素ガスは安価なため、特に好ましい。
【0026】
窒化処理温度は、100〜300℃とするのがよい。窒化処理温度が低すぎると、窒化が十分進まず、保磁力増加の効果が少ない。高すぎると、窒化が過剰に促進され、Fe4 NやFe3 N相などの割合が増加し、保磁力がむしろ低下し、さらに飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。
【0027】
このような窒化処理にあたり、得られる磁性粉中の鉄に対する窒素の含有量が1.0〜20.0原子%となるように、窒化処理の条件を選択することが望ましい。上記窒素の量が少なすぎると、Fe162 の生成量が少ないため、保磁力向上の効果が少なくなる。また上記窒素の量が多すぎると、Fe4 NやFe3 N相などが形成されやすくなり、保磁力がむしろ低下し、さらに飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。
【0028】
本発明における上記の窒化鉄系磁性粉は、従来の形状磁気異方性のみに基づく針状磁性粉とは異なり、大きな結晶磁気異方性を有し、粒状形状とした場合でも、一方向に大きな保磁力を発現すると考えられる。
【0029】
この磁性材料を平均粒子サイズが5〜50nmの微粒子とすると、磁気ヘッドでの記録・消去が可能な範囲内で高い保磁力と適度な飽和磁化を示し、薄層領域の塗布型磁気記録媒体としてすぐれた電磁変換特性を発揮する。このように、本発明で使用する磁性粉は、飽和磁化、保磁力、粒子サイズ、粒子形状のすべてが薄層磁性層を得るのに本質的に適したものである。
【0030】
本発明の主要構成要素の一つである珪素含有化合物としては、例えばSinn (n>4)で表される環状シロキサン化合物が好ましい。珪素含有化合物の添加方法は、特に限定されるものではないが、磁性粉と結合剤をニーダー等を用いての混練時やサンドミル等を用いての分散時、あるいは分散体を溶剤により粘度調整を行うときなどに添加することができる。珪素含有化合物の添加量は、磁性粉に対して0.1〜20.0重量%とするが好ましく、より好ましくは0.2〜15.0重量%、さらに好ましくは0.3〜10.0重量%である。この量が少ないと化学的安定性向上の効果が少なく、多すぎると塗料粘度が高くなリ過ぎて塗布適性が悪くなる傾向がある。
【0031】
本発明の磁気記録媒体は、上記した窒化鉄系磁性粉と結合剤を溶剤中に分散混合し、さらに珪素含有化合物を含有させた磁性塗料を、非磁性支持体上に塗布し乾燥して、磁性層を形成することにより、作製できる。磁性層の形成に先立ち、非磁性支持体上に酸化鉄、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの非磁性粉と結合剤を含有する下塗り塗料を塗布し乾燥して下塗層を形成し、この下塗層の上に磁性層を形成してもよい。
【0032】
本発明の磁気記録媒体の代表例としては、非磁性支持体と、この非磁性支持体の一方の面に設けられた、非磁性粉および結合剤を含有する下塗層と、この下塗層の上に設けられた磁性層と、非磁性支持体の他方の面に設けられた、非磁性粉および結合剤を含有するバックコート層とからなる磁気記録媒体を挙げることができる。この場合、非磁性支持体、非磁性粉、結合剤等の構成要素は特に限定されるものではなく、通常の磁気記録媒体において使用されているものを使用することができる。また、これらの構成要素に使用される磁性粉以外の結合剤、溶剤や研磨材などの素材や各構成要素の作製方法についても特に限定されるものではなく、通常使用されている素材や作製方法を使用できる。
以下の実施例において述べる本発明の磁気記録媒体の作製方法は、非磁性支持体上に直接磁性層を形成する、いわゆる単層媒体であるが、非磁性支持体上に下塗層を形成し、この下塗層上に磁性層を形成するいわゆる重層媒体にも適用できることは言うまでもない。
【実施例1】
【0033】
(A)窒化鉄系磁性粉の製造:
表面にイットリウムとアルミニウムの酸化物層を形成したほぼ球状に近い平均粒子サイズが20nmのマグネタイト粒子を出発原料とした。この原料のイットリウムとアルミニウムの含有量は鉄に対して、それぞれ1.2原子%と9.8原子%であった。この原料粒子を水素気流中450℃で2時間加熱還元して、イットリウムとアルミニウムを含有する鉄系磁性粉を得た。つぎに、水素ガスを流した状態で、約1時間かけて、150℃まで降温した。150℃に到達した状態で、ガスをアンモニアガスに切り替え、温度を150℃に保った状態で、30時間窒化処理を行った。その後、アンモニアガスを流した状態で、150℃から90℃まで降温し、90℃で、アンモニアガスから酸素と窒素の混合ガスに切り替え、2時間安定化処理を行った。
【0034】
ついで、混合ガスを流した状態で、90℃から40℃まで降温し、40℃で約10時間保持したのち、空気中に取り出してイットリウムとアルミニウムを含有する窒化鉄系磁性粉(イットリウム・アルミニウム含有−窒化鉄系磁性粉)を作製した。この磁性粉は、X線回折より、Fe162 を主相とする磁性粉であることを確認した。
【0035】
さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、ほぼ球状の粒子で平均粒子サイズが18nmであることがわかった。また、この磁性粉について、1,270kA/m(16kOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は135.2Am2 /kg(105.8emu/g)、保磁力は219.7kA/m(2,760エルステッド)であった。
【0036】
(B)磁性塗料の作製:
上記(A)で作製したイットリウム・アルミニウム含有−窒化鉄系磁性粉を用いて、下記組成の磁性塗料を作製した。磁性塗料の作製にはフリッチェ社製の遊星型ボールミルにより、ジルコニアビーズを用いて10時間分散させた。
・窒化鉄系磁性粉 80重量部
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合樹脂 10重量部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂 6重量部
(含有−SO3 Na基:1.0×10-4当量/g)
・メチルエチルケトン 133重量部
・トルエン 100重量部
【0037】
次に、この磁性塗料に珪素含有化合物(信越化学工業社製、製品名;LS−8600、名称;1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン)を5.5重量部添加し、さらに2時間分散させた。2時間分散後、ポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製の「コロネートL」)を4重量部添加し、さらに15分間分散させて磁性塗料を作製した。
【0038】
この磁性塗料を、非磁性支持体である厚さ20μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、強さが318.4kA/m(4,000エルステッド)の磁界を印加しながら乾燥後の厚さが約2μmとなるように塗布して磁性塗膜(磁性層)を形成した。こうして、非磁性支持体であるPETフィルム上に所定の磁性層を有する磁気記録媒体を得た。
【実施例2】
【0039】
実施例1において、珪素含有化合物の添加量を5.5重量部から2.8重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして磁気記録媒体を作製した。
【実施例3】
【0040】
実施例1において、珪素含有化合物として、LS−8600に替えて、LS−8620(信越化学工業社製 名称;オクタメチルシクロテトラシロキサン)を5.5重量部添加した以外は、実施例1と同様にして磁気記録媒体を作製した。
【0041】
〈比較例1〉
実施例1において、珪素含有化合物を添加しないで磁性塗膜を作製した以外は、実施例1と同様にして磁気記録媒体を作製した。
【0042】
《特性の評価》
上記の実施例1〜3および比較例1の各磁気記録媒体から約1cm四方の矩形片(表面に磁性塗膜の形成されたPETの小片)をそれぞれ切り出してサンプルとし、これらの磁性塗膜(磁性層)の磁気特性である長手方向の保磁力、角形比および飽和磁束密度を測定した。また、化学的安定性については、各サンプルを、温度が60℃、相対湿度が90%の条件下で1週間保持した時の磁気特性の変化を調べた。
【0043】
その結果を表1に示す。なお、保磁力と角形比は絶対値で、また飽和磁束密度は保持前の値に対する相対値で示した。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示した結果から明らかなように、珪素含有化合物を磁性層中に添加した磁気記録媒体は、温度が60℃、相対湿度が90%の条件下で1週間保持しても磁気特性の変化はほとんど無く、磁性層(磁性塗膜)の化学的安定性が極めて高い。
【0046】
これに対して、珪素含有化合物を添加していない比較例1の磁気記録媒体においては、温度が60℃、相対湿度が90%の条件下で1週間保持すると、特に飽和磁束密度が著しく低下している。
【0047】
以上のように、短波長特性において特優れた特性を示すFe162 相を少なくとも含む平均粒子サイズが5〜50nmの粒状ないし楕円状の窒化鉄系の磁性粉を用い、さらに磁性層中に珪素含有化合物を含有させることにより、優れた短波長記録特性と同時に化学的にも極めて安定で高い信頼性を有する磁気記録媒体が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と、
この非磁性支持体の一方の面側に設けられた、磁性粉および結合剤を含有する磁性層とを有し、
前記磁性粉が、少なくとも鉄および窒素を構成元素とし且つFe162 相を含む平均粒子サイズが5nm以上50nm以下の粒状ないし楕円状の磁性粉からなる磁気記録媒体であって、
前記磁性層には珪素含有化合物が前記磁性粉に対して0.1〜20重量%含有されていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
磁性粉は、希土類元素、ホウ素、シリコン、アルミニウム、リンの中から選ばれる少なくともひとつの元素を当該磁性粉中の鉄に対して0.05〜20.0原子%含有してなる、請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
珪素含有化合物は有機化合物である、請求項1または2記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
珪素含有化合物はシロキサン構造を有する化合物である、請求項1ないし3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
珪素含有化合物は珪素含有環状化合物である、請求項1ないし4のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
長手方向の保磁力(Hc)が79.6〜318.4kA/m(1,000〜4,000Oe)、長手方向の角形比(Br/Bm)が0.6〜0.9である請求項1〜5のいずれかに記載の磁気記録媒体。

【公開番号】特開2008−84420(P2008−84420A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262350(P2006−262350)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【特許番号】特許第4070147号(P4070147)
【特許公報発行日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】