説明

磁気記録媒体

【課題】再生出力及び粒子性ノイズに優れた塗布型の磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】非磁性支持体上に、30nm以下の粒径及び20%以下の粒径変動率を有し、且つ10〜60Am/kgの飽和磁化を有する粒状のマグネタイト軟磁性粉末を含有する軟磁性層と、粒状の強磁性粉末を含有し、且つ実質的に垂直方向に磁化容易軸を有する強磁性層とが順に形成された磁気記録媒体。上記磁気記録媒体によれば、記録時の磁界の印加により強磁性層に形成される磁気クラスタサイズを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布型の磁気記録媒体に関する。特に、本発明は、軟磁性層と、前記軟磁性層上に垂直方向に磁化容易軸を有する強磁性層とを備えた塗布型の磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性粉末が結合剤中に分散された磁性層を有する塗布型の磁気記録媒体は、アナログ方式からデジタル方式への記録再生方式の移行に伴い、記録密度の一層の向上が要求されている。特に、高密度デジタルビデオテープやコンピュータバックアップテープなどに用いられる磁気記録媒体においては、この要求が年々高まってきている。
【0003】
このような記録密度の向上にあたり、短波長記録に対応するため、年々磁性粉末の微粒子化が図られており、現在では0.1μm程度の長軸長を有する針状の鉄系金属磁性粉末が実用に供されている。また、短波長記録時の減磁による出力低下を防止するため、年々磁性粉末の高保磁力化が図られてきている。例えば、鉄−コバルト合金化により、199.0kA/m程度の保磁力を有する鉄系金属磁性粉末が実現されている(特許文献1)。しかしながら、これらの針状粒子を用いる磁気記録媒体では保磁力が磁性粉末の形状に依存することから、上記長軸長からの大幅な微粒子化は困難になってきているのが現状である。
【0004】
また、高密度記録化を目的として記録波長を短縮化していった場合、短波長領域においては従来の磁性粉末の飽和磁化や保磁力のレベルでは出力が数分の1程度しか得られないという問題だけでなく、記録再生時の自己減磁損失や磁性層の厚さに起因する厚み損失の影響が大きくなり、十分な分解能が得られないという問題がある。このためコンピュータバックアップテープであるLTO(Linear Tape Open)やDLT(Digital Linear Tape)などでは、磁性層の厚みを低減することを目的として、下層に非磁性層を設け、上層に0.2μm程度の厚さを有する磁性層を設けた重層構成の磁気記録媒体が実用に供されている。
【0005】
一方、上記のような磁気記録媒体は長手方向に磁性粉末を配向させているが、再生出力を向上するため、従来から磁性層の残留磁化の垂直成分が面内成分より大きくなるように垂直方向に磁性粉末を配向させ、磁化容易軸を垂直方向に有する磁性層を設けた磁気記録媒体が提案されている(例えば、特許文献2〜4)。磁性粉末を垂直配向させた磁気記録媒体は記録ビットの境界である磁化遷移領域付近の反磁界が小さく、また自己減磁も小さいため、高出力が得られるというメリットがある。しかしながら、従来の針状の磁性粉末は塗布時の機械配向によって長手方向に配向しやすいことから、磁性粉末を垂直配向させることは困難であり、また垂直配向によって磁性粉末が磁性層表面から突出し、磁性層の表面性が低下しやすい。従って、針状の磁性粉末の長軸長と磁性層の厚さとが同レベルとなるような磁性層厚さの領域では、針状の磁性粉末を垂直配向させることは本質的に適さない。このため、塗布型の磁気記録媒体においてはこれまで磁性粉末を垂直配向させた磁気記録媒体は商品化されていないのが実情である。
【0006】
そこで、本出願人は、低保磁力磁性粉末を含有する低保磁力層と、該低保磁力層上に5〜50nmの粒径を有する粒状の窒化鉄系磁性粉末を垂直配向させた薄層(例えば、150nm以下)の上層磁性層とを備えた磁気記録媒体を先に提案した(特許文献5)。この磁気記録媒体によれば、上層磁性層が高保磁力、高飽和磁化を有する微粒子で粒状の窒化鉄系磁性粉末を含有するため、上層磁性層の厚みが薄い場合でも、表面平滑性に優れた上層磁性層を得ることができ、再生出力に優れた磁気記録媒体を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−49026号公報
【0008】
【特許文献2】特開昭57−183626号公報
【0009】
【特許文献3】特開昭59−167854号公報
【0010】
【特許文献4】特開平2−254621号公報
【0011】
【特許文献5】特開2004−335019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、コンピュータ用データ記録システムには、記録情報の再生を行う際に用いる磁気ヘッドとして、従来の誘導型ヘッドに代わり、磁気抵抗効果型磁気ヘッド(MRヘッド)、異方性磁気抵抗効果型磁気ヘッド(AMRヘッド)、巨大磁気抵抗効果型磁気ヘッド(GMRヘッド)、あるいはトンネル磁気抵抗効果型磁気ヘッド(TMRヘッド)などの高感度の磁気ヘッド(以下、総称してMR系ヘッドという)の適用が検討されてきている。このようなMR系ヘッドを使用したシステムにおいてはシステムに起因するノイズの大幅な低減が可能であることから、磁気記録媒体に由来する媒体ノイズがシステムのSNR(Signal Noise Ratio)を支配する。従って、上記のような垂直記録に好適な磁性粉末を用いた磁気記録媒体も高出力化と同時に、低ノイズ化を図る必要がある。
【0013】
磁気記録媒体に由来する媒体ノイズは主に粒子性ノイズと変調ノイズとに大別される。特許文献5に記載の技術によれば、上記のように粒状の窒化鉄系磁性粉末を垂直配向させているため表面粗さに起因する変調ノイズは低減することはできるが、本発明者等の検討によればこのような粒状の強磁性粉末を使用しても粒子性ノイズの低減は未だ不十分であることが明らかとなった。特に、粒子性ノイズは広い周波数帯域に影響を及ぼし、媒体ノイズの主成分となることから、これを低減することが求められる。
【0014】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、粒状の強磁性粉末を使用して垂直方向に磁化容易軸を有する薄層の強磁性層を設けた塗布型の磁気記録媒体において、再生出力に優れ、粒子性ノイズが低減された磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に、軟磁性層と、5〜150nmの厚さを有する強磁性層とをこの順で備える磁気記録媒体であって、
前記強磁性層は、粒状の強磁性粉末と結合剤とを含有し、且つ実質的に垂直方向に磁化容易軸を有し、
前記軟磁性層は、30nm以下の粒径及び20%以下の粒径変動率を有し、且つ10〜60Am/kgの飽和磁化を有する粒状のマグネタイト軟磁性粉末と、結合剤とを含有する磁気記録媒体である。
【0016】
上記マグネタイト軟磁性粉末は、2〜12kA/mの保磁力を有することが好ましい。
【0017】
また、上記強磁性粉末は、窒化鉄系磁性粉末、及びCo系強磁性粉末からなる群から選ばれる1種が好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、再生出力に優れ、粒子性ノイズが低減された磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施の形態の磁気記録媒体は、粒状の強磁性粉末を含有し、垂直方向に磁化容易軸を有する薄層の強磁性層と、該強磁性層の下に、30nm以下の粒径及び20%以下の粒径変動率を有し、且つ10〜60Am/kgの飽和磁化を有する粒状のマグネタイト軟磁性粉末を含有する軟磁性層とを備える。
【0020】
塗布型の磁気記録媒体において、粒子性ノイズは磁性粉末の充填量で比較すると、記録ビット内に存在する磁性粉末の個数が多くなるほど低くなる。従って、粒子性ノイズを低減するためには、微粒子の磁性粉末を使用して磁性層中の磁性粉末の充填性を向上することが有効である。特許文献5に記載されている窒化鉄系磁性粉末は5〜50nmの粒径を有する微粒子の磁性粉末であるため、上記の点からも好ましい。
【0021】
しかしながら、粒子性ノイズは磁性層中の磁性粉末の物理的な大きさだけに起因するものでなく、信号を記録したときに磁性層に形成される磁気クラスタの大きさにも影響される。すなわち、信号の記録時には磁気ヘッドからの磁界が磁性層に印加されるが、このとき隣接する磁性粉末が磁気的に結合した状態となり、複数の磁性粉末からなる凝集体が1つの磁区、つまり1つの磁化反転する最小単位(磁気クラスタ)として挙動する。そのため、磁界の印加によって形成される磁気クラスタが本来形成されるべき磁区よりも大きくなると、磁性粉末の凝集体として振舞う領域が広がり、その結果、粒子性ノイズが増加することとなる。粒状の強磁性粉末はその形状から高出力化のための垂直配向媒体に好適である一方、従来の針状の強磁性粉末に比べて磁性層中で高充填されやすいため、磁性粉末間に生じる磁気的な相互作用もより大きくなると考えられる。
【0022】
上記観点から、本発明者等は粒状の強磁性粉末を垂直配向させた強磁性層の記録時に形成される磁気クラスタのサイズを低減することを目的として検討を行った結果、強磁性層の下に一定の粒径、粒径変動率、及び飽和磁化を有する粒状のマグネタイト軟磁性粉末を含有する軟磁性層を隣接して形成すれば、粒子性ノイズが格段に低減されることを見出した。この理由は必ずしも明らかではないが、下層の軟磁性層から上層の強磁性層への磁気的な作用により記録時の磁界が印加されたときの強磁性粉末の磁気的な結合が弱められるためと考えられる。
【0023】
本実施の形態において、軟磁性層に用いられるマグネタイト軟磁性粉末の粒径は30nm以下である。小粒径の粒状のマグネタイト軟磁性粉末を使用することにより、マグネタイト軟磁性粉末が高充填された軟磁性層を形成することができ、記録時の磁界が印加されたときの強磁性粉末の磁気的な結合を弱める軟磁性層の磁気的な作用を確保することができる。また、粒径が30nm以下であれば、軟磁性層と強磁性層との間の界面の変動を抑えることができ、高い再生出力を得ることができる。従って、粒径は小さいほど好ましい。ただし、粒径が余りに小さすぎると、所定の飽和磁化及び粒径変動率を有するマグネタイト軟磁性粉末の製造が困難になるという別の問題が生ずる。このため、粒径は2nm以上が好ましく、8nm以上がより好ましい。なお、マグネタイト軟磁性粉末における粒状とは、略球状乃至略楕円体状の形状を意味し、軸比(長軸径/短軸径)が1.0〜2.5の範囲にあるものをいう。また、マグネタイト軟磁性粉末の粒径変動率は20%以下であり、好ましくは19%以下である。粒径変動率が20%より大きい場合、軟磁性層からの磁気的な作用が不均一となるためか、磁気クラスタサイズを低減させる効果が十分に得られない。また、粒径変動率が20%より大きいと、軟磁性層と強磁性層との間の界面の変動が大きくなり、再生出力が低下する。このため、粒径変動率は低い方がより好ましい。ただし、粒径と同様にマグネタイト軟磁性粉末の製造の容易さを考慮すれば、通常、粒径変動率は11%以上である。さらに、マグネタイト軟磁性粉末の飽和磁化は10〜60Am/kgであり、好ましくは15〜55Am/kgである。飽和磁化が10Am/kg未満の場合、軟磁性層からの磁気的な作用が低下し、磁気クラスタサイズを低減させる効果が十分に得られない。また、軟磁性層による記録時の印加磁界の誘導効果が減少し、書き込み能力が低下して、再生出力が低下する。一方、飽和磁化が60Am/kgより高い場合、軟磁性層からの磁気的な作用が大きくなりすぎ、磁気クラスタサイズが増大する。なお、Mn−Znフェライト軟磁性粉末などの粒状のフェライト系軟磁性粉末は上記と同程度の粒径、及び飽和磁化を有するものが製造できるが、この種の軟磁性粉末は粒径が小さくなると粒径変動率が大きくなり、記録時に強磁性層に形成される磁気クラスタサイズ低減の効果が十分に得られない。本明細書において、磁性粉末の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により倍率20万倍で撮影した磁性粉末100個の粒径の平均値である。また、粒径変動率は、100個の粒径の標準偏差と平均値との比(標準偏差/平均値)により求められる値である。さらに、磁性粉末の飽和磁化及び保磁力は、試料振動型磁力計を使用して、25℃下、印加磁界1273.3kA/mで測定したときの基準試料による補正後の値である。磁気記録媒体から粒径、及び粒径変動率を求める場合、走査型電子顕微鏡(SEM)により試料断面を10万倍で観察し、その画像からとらえられる粒子に対して前記磁性粉末の粒径の評価方法と同じ評価方法を用いることにより求めることができる。
【0024】
また、磁気記録媒体から軟磁性層のマグネタイト軟磁性粉末の磁気特性を測定する方法としては、磁気記録媒体のヒステリシスループを用いて、フィッティングによって算出することができる。具体的には、まず、磁気記録媒体のヒステリシスループを、軟磁性層と強磁性層の成分に分解する。ヒステリシスの磁化測定値を磁場で微分すると、2つのピークをもつ曲線になる。ピークは軟磁性層と強磁性層のそれぞれに対応するので、両者をローレンツ曲線でフィッティングすることができる。計算によって求めた2つのローレンツ曲線の和と測定値の各点における自乗平均誤差を求め、この平均値が10%以内になるようにフィッティングを行い、パラメータを算出する。それぞれのフィッティング曲線を積分することによって、軟磁性層と強磁性層それぞれのヒステリシスループを作成することができる。このようにして得られた軟磁性層のヒステリシスループから、飽和磁化及び保磁力を算出することができる。この保磁力が軟磁性粉末の保磁力に対応している。また単位体積あたりの粉末の個数は、断面写真で粉末個数を数えることで算出できる。この単位体積あたりの個数と飽和磁化から、軟磁性粉末の飽和磁化量を算出することができる。
【0025】
マグネタイト軟磁性粉末の保磁力は2〜12kA/mが好ましく、7〜12kA/mがより好ましい。保磁力が高すぎると、軟磁性層から発生する磁束によって分解能が低下し、再生出力が低下する傾向がある。一方、保磁力が低すぎると、常磁性を示し、軟磁性層の作用が減少する傾向がある。
【0026】
上記のようなマグネタイト軟磁性粉末を製造する方法としては、原材料粉末を調合し焼成した後、粉砕して微粒子にする焼成・粉砕法、水溶液中で粒子を生成させる湿式法のいずれであってもよいが、小粒径としてもより小さい粒径変動率を有するマグネタイト軟磁性粉末を製造できることから、湿式法が好ましい。また、湿式法によりマグネタイト軟磁性粉末を製造する場合、鉄イオンを含む水溶液と、塩基と、還元性の水溶性有機液体とを含有する混合液を調製し、前記混合液を加圧下で加熱する製造方法が好ましい。前記鉄イオンとしては、2価の鉄イオン、3価の鉄イオンいずれであってもよいが、3価の鉄イオンがより好ましい。2価の鉄イオンを用いる場合、空気によって2価の鉄イオンが3価の鉄イオンへと容易に酸化されるため脱酸素処理または低酸素条件下での処理などが必要となるが、3価の鉄イオンであれば水溶液中または混合液中で鉄イオンが安定して存在できる。上記の3価の鉄イオンを含む水溶液は、3価の鉄塩を水に溶解することによって調製することができる。このような3価の鉄塩としては、特に限定されるものでないが、塩化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、酢酸鉄、及びアセチルアセトナト鉄錯体からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、これらの中でも塩化鉄がより好ましい。水溶液中の3価の鉄イオンの濃度は、好ましくは0.001〜5mol/l、より好ましくは0.02〜1mol/lである。鉄塩を溶解させる水は、特に限定されるものではないが、イオン交換水、滅菌水、超純水などが好ましい。
【0027】
混合液の調製に用いられる塩基としては、特に限定されるものではないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、及び尿素からなる群から選ばれる1種が好ましく、これらの中でもアンモニア水、及び尿素からなる群から選ばれる1種がより好ましい。塩基の濃度(より具体的には塩基の物質量)は特に限定されないが、好ましくは鉄イオン1モルに対して1〜50モル、より好ましくは3〜10モルである。
【0028】
混合液の調製に用いられる還元性の水溶性有機液体は、水に対して可溶性を有するとともに、加熱工程における加熱条件下で3価の鉄イオンまたはFe(OH)を還元する作用を有する有機液体である。このような還元性の水溶性有機液体としては、ポリオールが好ましい。ポリオールとしては、特に限定されるものではないが、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ヘキサデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、及びテトラエチレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。鉄イオンを含む水溶液と還元性の水溶性有機液体との体積比は、特に限定されるものではないが、好ましくは1:10〜10:1、より好ましくは1:5〜5:1である。
【0029】
混合液を調製する条件は、特に制限はなく、例えば常温(5〜35℃程度)、大気圧下で行うことができる。例えば、鉄イオンを含む水溶液、及び還元性の水溶性有機液体を撹拌混合しながら、これに塩基を滴下供給することによって混合液を調製することができる。
【0030】
混合液の調製にあたっては、水溶性界面活性剤をさらに使用してもよい。水溶性界面活性剤を用いることにより、得られるマグネタイト軟磁性粉末の粒径を制御できるだけでなく、加熱工程に付された後で得られる混合液中に存在するマグネタイト軟磁性粉末の分散性を向上させることができる。このような水溶性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ポリアクリル酸(日本触媒社製,アクアリックHL−415)、Tween20(ナカライテスク社製)、TritonX−100(ナカライテスク社製)などが挙げられる。
【0031】
また、混合液の調製にあたっては非水溶性有機液体をさらに添加して、水性相と油性相の2相からなる混合液を調製してもよい。混合液中で形成されるマグネタイト軟磁性粉末は、一般に水性媒体中で結晶成長するが、2相混合液を加熱した場合、加熱によって水性相中で対流が生じるため、水性相で形成されたマグネタイト軟磁性粉末が油性相に移動する推進力が生じる。このため、形成されたマグネタイト軟磁性粉末が油性相中に安定に分散されるとともに、不純物や不要物が水性相に残存する。これにより、さらに高い結晶性を有するマグネタイト軟磁性粉末を形成することができる。このような非水溶性有機溶媒としては、具体的には、例えば、トルエン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、デカン、オクタン、ベンゼンジエチルエーテルなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して用いてもよい。
【0032】
非水溶性有機液体を添加する場合、非水溶性有機液体に対して可溶性を有する非水溶性界面活性剤をさらに添加することが好ましい。非水溶性界面活性剤を添加することにより、後の加熱によって生成されるマグネタイト軟磁性粉末が水性相から油性相に移動してきた際にマグネタイト軟磁性粉末の表面に非水溶性界面活性剤が被着する。このため、マグネタイト軟磁性粉末が全体として疎水性を帯び、油性相にさらに安定して分散される。このような非水溶性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、デカン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸;オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸;ミリスチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等の脂肪族アミンなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して用いてもよい。非水溶性界面活性剤の量は、非水溶性有機液体の全量に対して、好ましくは1〜90質量%であり、より好ましくは5〜50質量%である。なお、非水溶性界面活性剤は、非水溶性有機溶媒に予め溶解させた形態で使用されてもよい。
【0033】
次に、上記のようにして得られた混合液を加圧下で加熱する。これにより、混合液中のFe(OH)の還元反応が進行し、結晶成長することでFe(OH)からマグネタイト軟磁性粉末が形成される。具体的には、得られた混合液を耐圧容器に仕込んだ後、混合液を昇温させることによって、耐圧容器内を加圧状態にして混合液を加熱する。好ましくは、混合液を目的温度にまで昇温した後、その目的温度を略一定にして一定時間保持する。混合液の温度が低くなりすぎると還元性の水溶性有機液体の反応への寄与が低下し、目的生成物であるマグネタイト軟磁性粉末の形成が困難となる。一方、混合液の温度が高くなりすぎると耐圧容器内の圧力が高くなって爆発などの危険が生じる場合がある。また、混合液の温度を保持する時間が短すぎると磁気特性がより低下したマグネタイト軟磁性粉末が形成されやすい。一方、温度の保持時間が長すぎると粒径変動率がより大きくなって、粒径のバラツキが大きくなる。従って、混合液の温度が150℃〜300℃、好ましくは160〜250℃となるまで混合液を加熱し、その加熱により達成された混合液の温度を1分間〜4時間、好ましくは30分間〜2時間保持する態様が好ましい。なお、耐圧容器内の圧力は、好ましくは0.2〜10MPa、より好ましくは0.3〜7MPaである。
【0034】
加熱手段としては、特に限定されず任意のものを用いることができる。具体的には、例えば、オートクレーブ、恒温槽、マイクロ波照射器などが挙げられる。これらの中でも、マイクロ波照射器が好ましい。マイクロ波の照射は、混合液を速やかに昇温できる点で有利である。マイクロ波の照射は、混合液の温度が目標温度に達するまで継続されるが、目標温度に達した後も、温度を一定に保つために出力を変化させつつ照射を続けることが好ましい。マイクロ波の周波数は、混合液を目標温度(すなわち、好ましくは150〜300℃、より好ましくは160〜250℃)にまで加熱できる範囲であれば、特に制限されない。例えば、2.45GHzの周波数を利用するマイクロ波照射器は低価格であり経済的であるとともに、目標温度に達する時間の短縮化と温度制御との双方を適宜行うことができるので特に好ましい。マイクロ波の出力を可変制御できる装置としては、マイルストーンゼネラル社製のMicroSYNTH(マイクロシンス)が挙げられる。
【0035】
上記のようにして生成されるマグネタイト軟磁性粉末は、洗浄、ろ過、及び乾燥に付すことが好ましい。生成されたマグネタイト軟磁性粉末を洗浄することによって、粒子表面から不純物・不要物を除去できる。洗浄液は、水以外に、エタノールなどのアルコールや水溶性界面活性剤を含む水系溶剤などが挙げられる。乾燥温度は、好ましくは30〜150℃、より好ましくは40〜95℃である。
【0036】
本実施の形態において、軟磁性層中のマグネタイト軟磁性粉末の含率は65〜90質量%が好ましく、70〜85質量%がより好ましい。微粒子のマグネタイト軟磁性粉末を使用することにより高充填の軟磁性層を形成することができる。軟磁性層の厚さは、0.1〜3.5μmが好ましい。上記範囲の厚さであれば、軟磁性層の作用を十分に確保することができるとともに、磁気記録媒体全体の厚みを抑えることができる。なお、本明細書において、膜厚は、走査型電子顕微鏡(倍率:5〜20万倍)で複数個所の磁気記録媒体の断面(50μm長)を観察したときの平均値である。
【0037】
本実施の形態において、強磁性層は粒状の強磁性粉末を含有する。高出力化を目的として磁性層の垂直方向に磁化容易軸を有する塗布型の磁気記録媒体を得るためには、強磁性粉末として異方性のない球状のものを用いるのが理想的である。しかしながら、既述したように、従来の鉄系金属磁性粉末などの針状の強磁性粉末は、保磁力が形状磁気異方性に依存するため、本質的に軸比の小さい粒状の強磁性粉末とすることが困難である。
【0038】
このため、本実施の形態においては、上層の強磁性粉末として異方性の小さい粒状の強磁性粉末、例えば、窒化鉄系磁性粉末やCo系磁性粉末などの略球状乃至略楕円体状の強磁性粉末や、バリウムフェライト系磁性粉末などの板状の強磁性粉末が用いられる。これらの軸比の小さい粒状の強磁性粉末を垂直配向させることにより垂直方向に磁化容易軸を有する強磁性層を得ることができる。強磁性粉末の軸比は2.5以下が好ましく、1.0〜2.0がより好ましい。強磁性粉末の軸比が2.5より大きいと、強磁性粉末が垂直配向されにくくなり、短波長記録において再生出力が低下する。これらの中でも窒化鉄系磁性粉末及びCo系磁性粉末は優れた結晶磁気異方性を有するため、異方性の小さい略球状乃至略楕円体状の形状を有する強磁性粉末であっても、高保磁力を有している。また、結晶磁気異方性により、これらの強磁性粉末を垂直配向させても、磁化容易軸が垂直方向に揃うだけで、強磁性層の表面平滑性が劣化せず、5〜150nmの厚さを有する薄層の強磁性層であっても、高密度記録に適した優れた表面平滑性を有する強磁性層が得られる。なお、上記強磁性粉末における粒状とは、球状、楕円体状、板状等の異方性の小さい形状を意味するものである。
【0039】
上記粒状の強磁性粉末は5〜50nmの粒径を有することが好ましく、8〜30nmの粒径がより好ましく、10〜25nmの粒径がさらに好ましい。このような微粒子の強磁性粉末を用いることにより強磁性層の充填性を向上することができる。なお、強磁性粉末の粒径は、球状の強磁性粉末の場合、直径を、楕円体状の強磁性粉末の場合、長軸径を、板状の強磁性粉末の場合、最も長い板径をそれぞれ意味し、軸比は、楕円体状の強磁性粉末の場合、長軸径/短軸径を、板状の強磁性粉末の場合、板径/板面の最も短い板径を意味する。
【0040】
強磁性粉末のBET比表面積は40〜200m/gが好ましく、50〜200m/g以上がより好ましく、60〜200m/g以上がさらに好ましい。BET比表面積が40m/gより小さいと、保磁力が低下しやすい。BET比表面積が200m/gを超えると、塗料分散性が低下したり、化学的に不安定になったりする場合がある。
【0041】
強磁性粉末の保磁力は119.4〜318.5kA/mが好ましく、飽和磁化は70〜160Am/kgが好ましい。上記のような高保磁力、高飽和磁化の強磁性粉末を用いることにより、短波長記録において高い再生出力を得ることができる。
【0042】
本実施の形態において、強磁性粉末として窒化鉄系磁性粉末を用いる場合、Fe16相を主相として含有する窒化鉄系磁性粉末が好ましい。結晶性の高いFe16相を主相として含有させることにより、保磁力及び飽和磁化を向上することができる。このようなFe16相を主相として含有する粒状の窒化鉄系磁性粉末は、例えば特開2000−277311号公報に記載されている。また、このような窒化鉄系磁性粉末の中でも、鉄に対して窒素を1〜20原子%含有する窒化鉄系磁性粉末が好ましい。窒化鉄系磁性粉末は、鉄の一部が他の遷移金属元素で置換されていてもよい。このような他の遷移金属元素としては、具体的には、例えば、Mn、Zn、Ni、Cu、Coなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数含有されていてもよい。これらの中でも、Co、Niが好ましく、特にCoは飽和磁化を最も向上できるので、好ましい。ただし、Coの含有量は鉄に対して10原子%以下が好ましい。Coの含有量が多くなりすぎると、窒化に長時間を要する傾向がある。また、窒化鉄系磁性粉末は希土類元素を含有してもよい。特に、Fe16相を主相とする窒化鉄を主として含有する内層部分と上記希土類元素を主として含有する外層部分とを有する2層構成の窒化鉄系磁性粉末は、高保磁力でありながら、高い分散性や優れた形状維持性を示すため好ましい。このような希土類元素としては、具体的には、例えば、イットリウム、イッテルビウム、セシウム、プラセオジウム、ランタン、ユーロピウム、ネオジウムなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数含有されていてもよい。これらの中でも、イットリウム、サマリウム、及びネオジウムは還元時の粒子形状の維持効果が大きいため、好ましい。希土類元素の含有量は、鉄に対し総含有量で、0.05〜20原子%が好ましく、0.1〜15原子%がより好ましく、0.5〜10原子%が最も好ましい。希土類元素が少なすぎると、分散性の向上効果が少なくなり、また還元時の粒子形状維持効果が小さくなる。希土類元素が多すぎると、未反応の希土類元素部分が多くなり、分散、塗布工程での障害となったり、保磁力や飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。また、窒化鉄系磁性粉末は、ホウ素、シリコン、アルミニウム、リンを含有してもよい。このような元素を含有することにより、高分散性の窒化鉄系磁性粉末が得られる。これらの元素は、希土類元素に比べて安価であるため、コスト的にも有利である。これらの元素の含有量は、鉄に対し、ホウ素、シリコン、アルミニウム及びリンの総含有量で0.1〜20原子%が好ましい。これらの元素が少なすぎると、形状維持効果が少ない。一方、これらの元素が多すぎると、飽和磁化が低下しやすい。なお、窒化鉄系磁性粉末は、必要により、炭素、カルシウム、マグネシウム、ジルコニウム、バリウム、ストロンチウムなどを含有してもよい。これら元素と希土類元素とを併用することにより、より高い形状維持性と分散性能を得ることができる。
【0043】
窒化鉄系磁性粉末の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば特開2004−273094号公報等に記載の方法により製造することができる。具体的には、出発原料としては、鉄系酸化物または鉄系水酸化物が用いられる。鉄系酸化物、鉄系水酸化物としては、例えば、ヘマタイト、マグネタイト、ゲータイトなどが挙げられる。出発原料の粒径は、特に限定されないが、5〜80nmが好ましく、5〜50nmがより好ましく、5〜30nmがさらに好ましい。粒径が小さすぎると、還元時に粒子間焼結が生じやすい。粒径が大きすぎると、還元処理が不均質となりやすく、得られる窒化鉄系磁性粉末の粒径や磁気特性の制御が困難となる。また、出発原料の軸比は、特に限定されないが、1.0〜3.0が好ましく、1.0〜2.5がより好ましい。
【0044】
上記の出発原料には既述した希土類元素を被着させてもよい。被着処理の方法としては、例えば、アルカリまたは酸の水溶液中に出発原料を分散させ、これに希土類元素の塩を溶解させた後、中和反応などにより出発原料に希土類元素を含む水酸化物や水和物を沈殿析出させる方法が挙げられる。また、上記の出発原料にはホウ素、シリコン、アルミニウム、リンなどの元素を被着させてもよい。これらの元素の被着処理の方法としては、例えば、上記元素を含有する化合物を溶解させた溶液を調製し、この溶液に出発原料を浸漬して、出発原料にホウ素、シリコン、アルミニウム、リンなどを被着させる方法が挙げられる。これらの被着処理を効率良く行うために、溶液には還元剤、pH緩衝剤、粒径制御剤などの添加剤をさらに添加してもよい。さらに、被着処理において、希土類元素と、ホウ素、シリコン、アルミニウム、リンなどの元素とを同時にあるいは交互に出発原料に被着させるようにしてもよい。
【0045】
次に、上記の出発原料を水素気流中で加熱還元する。還元ガスは特に限定されず、水素ガス以外に、一酸化炭素ガスなどの還元性ガスを使用してもよい。還元温度は、300〜600℃が望ましい。還元温度が300℃より低いと、還元反応が十分進まなくなる。還元温度が600℃より高いと、焼結が起こりやすくなる。
【0046】
上記のような加熱還元後、窒化処理を施すことにより、鉄と窒素とを構成元素として有する窒化鉄系磁性粉末が得られる。窒化処理としては、アンモニアを含むガスを用いて行うのが望ましい。また、アンモニアガス単体のほかに、水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガスなどをキャリアーガスとした混合ガスを使用してもよい。窒素ガスは安価なため、特に好ましい。窒化処理温度は100〜300℃が好ましい。窒化処理温度が低すぎると窒化が十分進まず、保磁力増加の効果が少ない。窒化処理温度が高すぎると窒化が過剰に促進され、FeN相やFeN相等の割合が増加し、保磁力がむしろ低下し、さらに飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。窒化処理に際しては、鉄に対する窒素の含有量が1〜20原子%となるように、窒化処理の条件を選択することが望ましい。窒素の量が少なすぎると、Fe16相の生成量が少なくなり、保磁力向上の効果が少なくなる。窒素の量が多すぎると、FeN相やFeN相等が形成されやすくなり、保磁力がむしろ低下し、さらに飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。
【0047】
Co系磁性粉末の製造方法としては、特に限定されるものではないが、従来公知の無電解析出法などが挙げられる。例えば、塩化コバルトなどのコバルト化合物、次亜リン酸ナトリウムなどの還元剤、クエン酸ナトリウムなどの錯化剤、及びゼラチンなどの粒径制御剤を含有する水溶液とアルカリ水溶液とを混合してpH調整し、これに塩化パラジウムなどの反応開始剤を混合した後、これらを反応させることによりCo系磁性粉末を形成することができる。
【0048】
バリウムフェライト系磁性粉末の製造方法としては、特に限定されるものではないが、従来公知のガラス結晶化法などを挙げることができる。例えば、酸化バリウム、酸化鉄、鉄を置換する金属酸化物、及びガラス形成物質として酸化ホウ素などを所望のフェライト組成になるように混合し、該混合物を溶融し、急冷して非晶質体とし、ついで再加熱処理した後、洗浄・粉砕することによりバリウムフェライト系磁性粉末を形成することができる。
【0049】
強磁性層中の粒状の強磁性粉末の含率は、40〜90質量%が好ましく、45〜81質量%がより好ましい。このような高充填の強磁性層とすることにより、粒子性ノイズをさらに低減することができる。
【0050】
本実施の形態において、強磁性層は垂直配向に好適な粒状の強磁性粉末を含有するため、配向処理により強磁性層用塗料に含まれる粒状の強磁性粉末を効率的に磁場配向することができる。このため、角型が0.70〜0.96の高い垂直配向性と、優れた表面平滑性とを両立することができる。特に、本実施の形態によれば、角型が0.92以上の高い垂直配向性を有する強磁性層を形成することもできるため、短波長記録に適した磁気記録媒体を得ることができる。なお、垂直方向の角型は1、すなわち全ての強磁性粉末の磁化容易軸が垂直方向に向いていることが好ましいが、窒化鉄系磁性粉末やCo系磁性粉末などの粒状の強磁性粉末には楕円体状等のある程度の異方性を有する強磁性粉末も含まれるため、塗布時の機械配向により磁化容易軸が垂直方向から斜め方向に傾斜する場合がある。このため、本実施の形態の強磁性層は垂直方向の角型が0.70〜0.96の範囲にある実質的に垂直方向に磁化容易軸を有している。本明細書において、強磁性層の角型は、垂直カー回転角測定装置(外部磁場:127kA/m)用いて測定したときの値である。試料振動型磁力計により角型を測定した場合、薄層の強磁性層を設けた磁気記録媒体では本来の角型よりも高い角型となる。このため、垂直カー回転角を測定することにより垂直方向の角型を正確に測定することができる。このような垂直カー回転角測定装置としては、日本分光株式会社製のK−250、ネオアーク株式会社製のBH−810CPCなどが挙げられる。
【0051】
強磁性層の垂直方向の保磁力は、80〜320kA/mが好ましい。保磁力が上記範囲より小さいと、短波長記録において高出力を得にくくなる傾向がある。保磁力が上記範囲より大きいと、磁気ヘッドで飽和記録するのが難しくなる傾向がある。また、強磁性層の残留磁束密度(Br)と厚さδとの積(Br・δ)は0.001〜0.06μTmが好ましく、0.004〜0.04μTmがより好ましい。上記範囲であれば、MR系ヘッドの飽和が抑えられ、高いSNRを得ることができる。
【0052】
強磁性層の厚さは、短波長記録において厚み損失を低減するために5〜150nmであり、15〜150nmがより好ましい。上記範囲の厚みを有する強磁性層であれば、短波長記録において高い再生出力を得ることができるとともに、熱揺らぎ現象による磁化の劣化を抑えることができる。強磁性層の厚さが5nm未満では、均一な塗布が困難となる傾向がある。
【0053】
強磁性層の平均表面粗さ(Ra)は2.5nm以下が好ましく、1.0〜2.3nmがより好ましい。本実施の形態の磁気記録媒体は、下層に低保磁力の粒状のマグネタイト軟磁性粉末を含有し、上層に高保磁力、高飽和磁化の粒状の強磁性粉末を含有するため、垂直配向処理によっても上記のような非常に平滑な表面を有する強磁性層を得ることができる。このため、強磁性層と磁気ヘッドとのコンタクトが良くなり、高い再生出力が得られる。なお、平均表面粗さは、ZYGO社製の汎用三次元表面構造解析装置「NewView5000」で、走査型白色光干渉法によりScan Length5μm、測定視野350μm×260μmで強磁性層の表面を測定したときの値である。
【0054】
本実施の形態において、非磁性支持体としては、従来から使用されている磁気記録媒体用の非磁性支持体を使用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフオン、アラミド、芳香族ポリアミド等からなる厚さが通常2〜8μm、特に2〜7μmのプラスチックフィルムが好適に用いられる。
【0055】
本実施の形態において、強磁性層及び軟磁性層に使用される結合剤としては、例えば、塩化ビニル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、エポキシ系樹脂、及びポリウレタン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。塩化ビニル系樹脂としては、具体的には、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合樹脂、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂などが挙げられる。これらの中でも、塩化ビニル系樹脂とポリウレタン系樹脂との併用が好ましく、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂とポリウレタン系樹脂との併用がより好ましい。また、これらの結合剤は、粉末の分散性を向上し、充填性を上げるために、官能基を有するものが好ましい。このような官能基としては、具体的には、例えば、COOM、SOM、OSOM、P=O(OM)、O−P=O(OM)(Mは水素原子、アルカリ金属塩またはアミン塩)、OH、NR、NR(R,R,R,R及びRは、水素または炭化水素基であり、通常その炭素数が1〜10である)、エポキシ基などが挙げられる。2種以上の樹脂を併用する場合、官能基の極性が一致した樹脂を用いることが好ましく、中でも、−SOM基を有する樹脂の組み合わせが好ましい。これらの結合剤は、強磁性粉末あるいはマグネタイト軟磁性粉末100質量部に対して、7〜50質量部、好ましくは10〜35質量部の範囲で用いられる。特に、塩化ビニル系樹脂5〜30質量部と、ポリウレタン系樹脂2〜20質量部との併用が好ましい。
【0056】
また、上記の結合剤とともに、結合剤中に含まれる官能基等と結合し架橋構造を形成する熱硬化性の架橋剤を併用することが好ましい。架橋剤としては、具体的には、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のイソシアネート化合物;イソシアネート化合物とトリメチロールプロパン等の水酸基を複数個有する化合物との反応生成物;イソシアネート化合物の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートが挙げられる。架橋剤は、結合剤100質量部に対して、通常10〜50質量部の範囲で用いられる。
【0057】
強磁性層及び軟磁性層は、導電性と表面潤滑性の向上を目的に、カーボンブラック及び潤滑剤を含有することが好ましい。カーボンブラックとしては、具体的には、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどが挙げられる。カーボンブラックの平均粒子径は5〜200nmが好ましく、10〜100nmがより好ましい。強磁性層の場合、カーボンブラックの含有量は、強磁性粉末100質量部に対して、0.2〜5質量部が好ましく、0.5〜4質量部がより好ましい。軟磁性層の場合、カーボンブラックの含有量は、マグネタイト軟磁性粉末100質量部に対して、15〜35質量部が好ましく、20〜30質量部がより好ましい。潤滑剤としては、具体的には、例えば、10〜30の炭素数を有する脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミドなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数使用してもよい。強磁性層の場合、潤滑剤の含有量は、強磁性粉末100質量部に対して、0.2〜3質量部が好ましい。軟磁性層の場合、潤滑剤の含有量は、マグネタイト軟磁性粉末100質量部に対して、0.7〜7質量部が好ましい。
【0058】
また、強磁性層及び軟磁性層は、耐久性、走行性を改善するため、アルミナ、シリカ等の非磁性粉末をさらに含有してもよい。非磁性粉末の含有量は、強磁性粉末あるいはマグネタイト軟磁性粉末100質量部に対して、1〜20質量部が好ましい。
【0059】
強磁性層用塗料及び軟磁性層用塗料の調製にあたっては、従来から磁気記録媒体の製造で使用されている塗料製造方法を使用できる。具体的には、ニーダ等による混練工程と、サンドミル、ピンミル等による一次分散工程との併用が好ましい。また、非磁性支持体上に、強磁性層用塗料及び軟磁性層用塗料を塗布するにあたっては、グラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージヨン塗布等の従来から磁気記録媒体の製造で使用されている塗布方法を使用できる。強磁性層用塗料及び軟磁性層用塗料の塗布は、逐次重層塗布方法、同時重層塗布方法(ウェットオンウェット法)いずれを使用してもよい。
【0060】
また、上記の塗布工程においては、塗料が未乾燥の状態で垂直方向に磁界を印加して、強磁性層の磁化容易軸が実質的に垂直方向になるように配向処理が行なわれる。この配向処理では、ソレノイド磁石、永久磁石等を使用することができる。磁界の強さは、強磁性層の表面粗さの劣化を抑えるため、0.05〜1Tが好ましい。
【0061】
本実施の形態の磁気記録媒体は、表面性の向上や、塗料粘度、テープ剛性等の制御を目的として、非磁性支持体と軟磁性層との間に、非磁性粉末及び結合剤を含有する非磁性層をさらに有してもよい。非磁性層の厚さは、0.1〜3.0μmが好ましく、0.15〜2.5μmがより好ましい。非磁性粉末としては、具体的には、例えば、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウム等の非磁性粉末を使用することができる。これらは単独でまたは複数混合して用いてもよい。また、導電性を付与するため、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラックを用いてもよい。結合剤としては、強磁性層に用いられる結合剤と同様の結合剤を用いることができる。結合剤の含有量は、非磁性粉末100質量部に対して、7〜50質量部が好ましく、10〜35質量部がより好ましい。非磁性層は、軟磁性層及び強磁性層と同時に塗布してもよいし、非磁性層を形成した後に、軟磁性層及び強磁性層を非磁性層上に逐次または同時に塗布してもよい。
【0062】
本実施の形態の磁気記録媒体は、バックコート層をさらに有してもよい。バックコート層の厚さは、0.2〜0.8μmが好ましく、0.3〜0.8μmがより好ましい。バックコート層は、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラックを含有することが好ましい。バックコート層の結合剤としては、強磁性層の結合剤と同様の結合剤を用いることができる。中でも、摩擦係数を低減し走行性を向上するため、セルロース系樹脂とポリウレタン系樹脂とを併用することが好ましい。結合剤の含有量は、粉末100質量部に対して、40〜150質量部が好ましく、50〜120質量部がより好ましい。バックコート層は、軟磁性層及び強磁性層が形成される前に形成されてもよいし、軟磁性層及び強磁性層が形成された後に形成されてもよい。
【0063】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。なお、以下において、「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【実施例】
【0064】
<マグネタイト軟磁性粉末の製造>
[マグネタイト軟磁性粉末(M−1)]
3価の塩化鉄1.3部を水10部に溶解させた。この水溶液にエチレングリコール27部、28質量%のアンモニア水3部、及び水溶性界面活性剤(ポリアクリル酸,分子量:10,000)0.4部を添加し、マグネティックスターラーで撹拌した。
【0065】
得られた混合液を水熱反応用容器に仕込み、マイルストーンゼネラル社製マイクロ波水熱反応装置MicroSYNTHを用いて、マイクロ波による水熱反応処理を行った。加熱にあたっては、マイクロ波の最大出力を1,000Wとし、測定温度に応じて出力を可変制御して10分間かけて220℃まで混合液を昇温させた(容器内圧力:0.8MPa)。その後1時間ほど温度を220℃で維持した後、マイクロ波照射を完全に停止し、混合液を放冷して室温まで混合液を冷却した。冷却後、混合液中に生成した粉末を洗浄、ろ過、及び乾燥に付し、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)を製造した。得られた粉末を粉末X線測定したところ、マグネタイト単相であることが確認された。
【0066】
[マグネタイト軟磁性粉末(M−2)]
マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の製造において、マイクロ波による水熱反応処理の温度を170℃とした以外は、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の製造と同様にして、マグネタイト軟磁性粉末(M−2)を製造した。得られた粉末を粉末X線測定したところ、マグネタイト単相であることが確認された。
【0067】
[マグネタイト軟磁性粉末(M−3)]
マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の製造において、マイクロ波による水熱反応処理の温度を245℃とした以外は、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の製造と同様にして、マグネタイト軟磁性粉末(M−3)を製造した。得られた粉末を粉末X線測定したところ、マグネタイト単相であることが確認された。
【0068】
[マグネタイト軟磁性粉末(M−4)]
マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の製造において、添加する水溶性界面活性剤の量を0.2部とした以外は、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の製造と同様にして、マグネタイト軟磁性粉末(M−4)を製造した。得られた粉末を粉末X線測定したところ、マグネタイト単相であることが確認された。
【0069】
[マグネタイト軟磁性粉末(M−5)]
マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の製造において、マイクロ波による水熱反応処理の時間を45分とした以外は、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の製造と同様にして、マグネタイト軟磁性粉末(M−5)を製造した。得られた粉末を粉末X線測定したところ、マグネタイト単相であることが確認された。
【0070】
[マグネタイト軟磁性粉末(M−6)]
マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の製造において、マイクロ波の最大出力を1,200Wとし、220℃までの昇温時間を8分間とした以外は、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の製造と同様にして、マグネタイト軟磁性粉末(M−6)を製造した。得られた粉末を粉末X線測定したところ、マグネタイト単相であることが確認された。
【0071】
[マグネタイト軟磁性粉末(M−7)]
マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の製造において、マイクロ波による水熱反応処理の時間を2.5時間とした以外は、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の製造と同様にして、マグネタイト軟磁性粉末(M−7)を製造した。得られた粉末を粉末X線測定したところ、マグネタイト単相であることが確認された。
【0072】
[マグネタイト軟磁性粉末(M−8)]
マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の製造において、添加する水溶性界面活性剤の量を0.05部とした以外は、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の製造と同様にして、マグネタイト軟磁性粉末(M−8)を製造した。得られた粉末を粉末X線測定したところ、マグネタイト単相であることが確認された。
【0073】
[マグネタイト軟磁性粉末(M−9)]
マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の製造において、マイクロ波による水熱反応処理の温度を260℃とした以外は、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の製造と同様にして、マグネタイト軟磁性粉末(M−9)を製造した。得られた粉末を粉末X線測定したところ、マグネタイト単相であることが確認された。
【0074】
[マグネタイト軟磁性粉末(M−10)]
マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の製造において、マイクロ波による水熱反応処理の温度を140℃とした以外は、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の製造と同様にして、マグネタイト軟磁性粉末(M−10)を製造した。得られた粉末を粉末X線測定したところ、マグネタイト単相であることが確認された。
【0075】
上記のようにして作製した各マグネタイト軟磁性粉末について、形状、粒径、粒径変動率、飽和磁化、及び保磁力を評価した。表1はこれらの結果を示す。
【0076】
【表1】

【0077】
<窒化鉄系磁性粉末の製造>
116部の硫酸鉄(II)七水塩と547部の硝酸鉄(III)九水塩を1,500部の水に溶解した。上記とは別に、150部の水酸化ナトリウムを1,500部の水に溶解した。上記の2種類の鉄塩の水溶液に水酸化ナトリウムの水溶液を添加し、20分間撹拌して、マグネタイト粒子を生成させた。このマグネタイト粒子をオートクレーブに入れ、200℃で4時間加熱した。水熱処理後、水洗し、乾燥して、粒子サイズが25nmの略球状乃至略楕円体状のマグネタイト粒子を得た。
【0078】
上記のマグネタイト粒子10部を500部の水に、超音波分散機を用いて、30分間分散させた。この分散液に2.5部の硝酸イットリウムを加えて溶解し、30分間撹拌した。上記とは別に、0.8部の水酸化ナトリウムを100部の水に溶解した。この水酸化ナトリウム水溶液を上記の分散液に約30分間かけて滴下し、滴下終了後、さらに1時間撹拌した。この処理により、マグネタイト粒子表面にイットリウムの水酸化物を被着析出させた。これを水洗し、ろ過後、90℃で乾燥して、マグネタイト粒子の表面にイットリウムの水酸化物を被着形成した粉末を得た。
【0079】
上記のマグネタイト粒子の表面にイットリウムの水酸化物を被着形成した粉末を、水素気流中、450℃で2時間加熱還元して、イットリウムを含有する鉄系磁性粉末を得た。次に、水素ガスを流した状態で、約1時間かけて、150℃まで降温した。150℃に到達した状態で、ガスをアンモニアガスに切り替え、温度を150℃に保った状態で、30時間窒化処理を行った。その後、アンモニアガスを流した状態で、150℃から90℃まで降温し、90℃で、アンモニアガスから酸素と窒素の混合ガスに切り替え、2時間安定化処理を行った。ついで、混合ガスを流した状態で、90℃から40℃まで降温し、40℃で約10時間保持したのち、空気中に取り出し、窒化鉄系磁性粉末(N−1)を製造した。
【0080】
上記のようにして得られた窒化鉄系磁性粉末のイットリウムと窒素の鉄に対する含有量を蛍光X線により測定したところ、それぞれ5.3原子%と10.8原子%であった。また、X線回折パターンよりFe16相を示すプロファイルが得られた。さらに、高分解能分析透過型電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、窒化鉄系磁性粉末は略球状の粒子で粒径が20nm、軸比が1.1であることが確認された。また、BET法により求めた比表面積は、53.2m/gであった。この窒化鉄系磁性粉末の磁気特性を測定したところ、飽和磁化は135.2Am/kg、保磁力は226.9kA/mであった。
【0081】
<Co系磁性粉末の製造>
13部のCoCl・6HO、20部のNaPH・HO、30部のCNa・2HO、15部のHBO、及びゼラチン10部を1,000部の水に溶解した。この水溶液を10Nの水酸化ナトリウム水溶液でpH8.3に調整した後、85℃まで昇温した。昇温後、水溶液に1部のPdClを滴下し、45分間反応させた。反応後、水溶液中に形成されたCo系磁性粉末を磁石により回収し、水洗、乾燥して、Co系磁性粉末(C−1)を製造した。
【0082】
上記のようにして得られたCo系磁性粉末を高分解能分析透過型電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、Co系磁性粉末は略球状の粒子で粒径が20nm、軸比が1.1であることが確認された。さらに、BET法により求めた比表面積は、53.2m/gであった。このCo系磁性粉末の磁気特性を測定したところ、飽和磁化は110Am/kg、保磁力は127kA/mであった。
【0083】
<バリウムフェライト磁性粉末の製造>
1モルの塩化第二鉄、1/8モルの塩化バリウム、1/8モルの塩化コバルト、1/40モルの塩化チタン、及び1/40モルの塩化ニッケルを1Lの水に溶解した混合溶液を作製した。この混合溶液を10℃に冷却し、3モルの水酸化ナトリウムを溶解した1Lの水酸化ナトリウム水溶液に加えて撹拌した。この時、水酸化ナトリウム水溶液を10℃に冷却しておき、混合撹拌時の温度を10℃に保ちながら、共沈反応を行った。次いで、得られた懸濁液を室温で1日間熟成した後、沈殿物をオートクレーブ中に入れ、220℃で4時間、加熱反応させてバリウムフェライトのプリカーサを得た。
【0084】
得られたバリウムフェライトプリカーサをpHが8以下になるまで十分に水洗した後、バリウムフェライトプリカーサを含む全体の容量が1Lになるようにバリウムフェライトプリカーサを沈降させた懸濁液を調製した。この懸濁液の上澄液を除去した後、懸濁液中に融剤として500gのNaClを添加して撹拌し、溶解させた。次に、このNaClを溶解したバリウムフェライトプリカーサの懸濁液を面積の広いバットに入れ、乾燥機で100℃に加熱して、水を蒸発させた。
【0085】
次いで、上記のようにして得られたバリウムフェライトプリカーサとNaClとの混合物を解砕し、十分混合したものを坩堝に投入した。そして、この坩堝をまず850℃で20分間加熱して融剤であるNaClを溶解し、次に温度を780℃まで下げ、780℃で約10時間加熱処理し、その後、室温まで冷却した。次に、水洗によりNaClを溶解して除去し、バリウムフェライト磁性粉末(B−1)を取り出した。
【0086】
上記のようにして得られたバリウムフェライト磁性粉末を高分解能分析透過型電子顕微鏡で観察したところ、バリウムフェライト磁性粉末は板状の粒子で、粒径が20nmであることが確認された。また、このバリウムフェライト磁性粉末の磁気特性を測定したところ、飽和磁化は48.2Am/kg、保磁力は180kA/mであった。
【0087】
<磁気記録媒体の作製>
[実施例1]
(非磁性層用塗料の調製)
下記表2の非磁性層用塗料成分をニーダで混練したのち、混練物をサンドミルで分散処理(滞留時間:60分)を行い、これにポリイソシアネート6部を加え、撹拌し、ろ過して、非磁性層用塗料を調製した。
【0088】
【表2】

【0089】
(軟磁性層用塗料の調製)
下記表3の軟磁性層用塗料成分をニーダで混練したのち、混練物をサンドミルで分散処理(滞留時間:60分)を行い、これにポリイソシアネート6部を加え、撹拌し、ろ過して、軟磁性層用塗料を調製した。
【0090】
【表3】

【0091】
(強磁性層用塗料の調製)
下記表4の強磁性層用塗料成分(1)をニーダで混練したのち、混練物をサンドミルで分散処理(滞留時間:60分)を行い、これに下記表5の強磁性層用塗料成分(2)を加え、撹拌し、ろ過して、強磁性層用塗料を調製した。
【0092】
【表4】

【0093】
【表5】

【0094】
(塗布・配向処理)
まず、上記の非磁性層用塗料を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:6μm)の非磁性支持体上に、乾燥及びカレンダ処理後の厚さが2μmとなるように塗布した。
【0095】
次に、形成された非磁性層上に、上記の軟磁性層用塗料及び強磁性層用塗料を、乾燥及びカレンダ処理後の軟磁性層及び強磁性層の厚さがそれぞれ、0.6μm及び150nmとなるように同時重層塗布した。なお、塗布時に、非磁性支持体の厚み方向でN極とS極とが対向するように配置した一対の永久磁石の間に非磁性支持体を搬送させることにより垂直配向処理を行った(磁界強度:0.8T)。
【0096】
(バックコート層の作製)
下記表6のバックコート層用塗料成分を、サンドミルで分散処理(滞留時間:45分)を行い、これにポリイソシアネート8.5部を加え、撹拌し、ろ過して、バックコート層用塗料を調製した。
【0097】
【表6】

【0098】
上記のバックコート層用塗料を、非磁性支持体の磁性層が形成された面の反対面に、乾燥及びカレンダ処理後の厚さが700nmとなるように塗布した。
【0099】
(カレンダ及び裁断処理)
上記のように非磁性支持体の片面に非磁性層、軟磁性層、及び強磁性層を、他面にバックコート層を形成した磁気シートを、5段カレンダ(温度:70℃、線圧:150kg/cm)で鏡面化処理し、これをシートコアに巻いた状態で、60℃,40%RH下、48時間エージングした。その後、磁気シートを1/2インチ幅に裁断し、磁気テープを作製した。
【0100】
[実施例2]
実施例1の軟磁性層用塗料の調製において、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の代わりに、マグネタイト軟磁性粉末(M−2)を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0101】
[実施例3]
実施例1の軟磁性層用塗料の調製において、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の代わりに、マグネタイト軟磁性粉末(M−3)を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0102】
[実施例4]
実施例1の軟磁性層用塗料の調製において、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の代わりに、マグネタイト軟磁性粉末(M−4)を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0103】
[実施例5]
実施例1の軟磁性層用塗料の調製において、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の代わりに、マグネタイト軟磁性粉末(M−5)を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0104】
[実施例6]
実施例1の軟磁性層用塗料の調製において、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の代わりに、マグネタイト軟磁性粉末(M−6)を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0105】
[実施例7]
実施例1の塗布・配向処理において、強磁性層の厚さを15nmとした以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0106】
[実施例8]
実施例1の強磁性層用塗料の調製において、窒化鉄系磁性粉末(N−1)の代わりに、Co系磁性粉末(C−1)を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0107】
[実施例9]
実施例1の軟磁性層用塗料の調製において、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の量を54部とした以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0108】
[実施例10]
実施例1の軟磁性層用塗料の調製において、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の量を134部とした以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0109】
[実施例11]
実施例1の強磁性層用塗料の調製において、強磁性層用塗料成分(1)中の窒化鉄系磁性粉末の量を30部とした以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0110】
[実施例12]
実施例1の強磁性層用塗料の調製において、強磁性層用塗料成分(1)中の窒化鉄系磁性粉末の量を150部とした以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0111】
[実施例13]
実施例1の塗布・配向処理において、磁界強度を0.5Tとした以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0112】
[実施例14]
実施例1の塗布・配向処理において、磁界強度を1.0Tとした以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0113】
[実施例15]
実施例1の強磁性層用塗料の調製において、窒化鉄系磁性粉末(N−1)の代わりに、バリウムフェライト磁性粉末(B−1)を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0114】
[比較例1]
実施例1の軟磁性層用塗料の調製において、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の代わりに、マグネタイト軟磁性粉末(M−7)を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0115】
[比較例2]
実施例1の軟磁性層用塗料の調製において、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の代わりに、マグネタイト軟磁性粉末(M−8)を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0116】
[比較例3]
実施例1の軟磁性層用塗料の調製において、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の代わりに、マグネタイト軟磁性粉末(M−9)を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0117】
[比較例4]
実施例1の軟磁性層用塗料の調製において、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の代わりに、マグネタイト軟磁性粉末(M−10)を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0118】
[比較例5]
実施例1の軟磁性層用塗料の調製において、マグネタイト軟磁性粉末(M−1)の代わりに、Mn−Znフェライト軟磁性粉末(Z−1)(飽和磁化:8Am/kg,保磁力:6kA/m,粒径:12nm,粒径変動率:31%,形状:略球状)を用いた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0119】
以上のようにして作製した実施例及び比較例の各磁気テープについて、強磁性層の垂直方向の角型、及び強磁性層の表面粗さを測定した。また、各磁気テープについて、下記の方法により再生出力、粒子性ノイズ、及び磁気クラスタサイズを評価した。表7及び8はこれらの結果を示す。
【0120】
<再生出力、及び粒子性ノイズ>
電磁変換特性の評価には、記録ヘッドとしてMIG(Metal−In−Gap)ヘッド(トラック幅:12μm,ギャップ長:0.15μm,Bs:1.2T)と、再生ヘッドとしてスピンバルブタイプのGMRヘッド(トラック幅:2.5μm,SH−SH幅:0.15μm)とが装着されたドラムテスターを用いた。このドラムテスターの回転ドラムに磁気テープを巻きつけ、3.4m/sの相対速度で磁気テープを走行させながら、スペクトルアナライザを使用して169kfciの記録密度における再生出力(S)、及びブロードバンドノイズ(N)を測定した。なお、再生出力、及びノイズは比較例5のそれらを基準(100%、及び0dB)とした相対値で評価した。
【0121】
<磁気クラスタサイズ>
電磁変換特性の評価と同様のドラムテスターを用い、磁気テープに記録波長λが10μmの信号を書き込んだ。書き込んだ信号の磁化遷移部分20点の漏れ磁界像を磁気力顕微鏡(デジタルインスツルメント社製,Nano Scope III)を用い、周波数検出法により観察した。観察されたそれぞれの磁化遷移部分の強度を数値化し、中心線に対する標準偏差を求め、これの20点平均を磁気クラスタサイズとした。なお、測定プローブには、コバルトアロイコートを有するプローブ(先端曲率半径:25〜40nm,保磁力:約400Oe,磁気モーメント:約1×10−13emu)を用い、走査範囲は5μm四方、走査速度は5μm/secとした。
【0122】
【表7】

【0123】
【表8】

【0124】
上記表に示すように、8〜30nmの粒径と、11〜18%の粒径変動率とを有し、15〜55Am/kgの飽和磁化を有するマグネタイト軟磁性粉末を含有する軟磁性層を、粒状の強磁性粉末を含有し、垂直方向に磁化容易軸を有する強磁性層の下に形成することにより、記録時の磁気クラスタサイズを低減できることが分かる。このため、これらの実施例の磁気テープは再生出力、及び粒子性ノイズが極めて改善されている。
【0125】
これに対して、軟磁性層がマグネタイト軟磁性粉末を含有しても、粒径や粒径変動率が大きすぎる場合、記録時に形成される磁気クラスタサイズが増大し、粒子性ノイズの低減に効果が少ないことが分かる。また、粒径や粒径変動率が大きい場合、再生出力も低下することが分かる。これは、軟磁性層と強磁性層との界面の変動が大きくなるためと考えられる。マグネタイト軟磁性粉末の飽和磁化が高すぎる場合、同様に磁気クラスタサイズが大きくなり、粒子性ノイズが低減されないことが分かる。一方、マグネタイト軟磁性粉末の飽和磁化が低すぎる場合、粒子性ノイズが低下しているように見えるが、この比較例では再生出力が顕著に低下し、磁気クラスタサイズは大きいことから、再生出力の低下に起因して、粒子性ノイズが見かけ上低下したものと考えられる。なお、Mn−Znフェライト軟磁性粉末は粒径変動率が大きく、この軟磁性粉末を含有する軟磁性層を有する比較例の磁気テープは、マグネタイト軟磁性粉末を含有する軟磁性層を有する実施例の磁気テープに比べて粒子性ノイズが高くなることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に、軟磁性層と、5〜150nmの厚さを有する強磁性層とをこの順で備える磁気記録媒体であって、
前記強磁性層は、粒状の強磁性粉末と結合剤とを含有し、且つ実質的に垂直方向に磁化容易軸を有し、
前記軟磁性層は、30nm以下の粒径及び20%以下の粒径変動率を有し、且つ10〜60Am/kgの飽和磁化を有する粒状のマグネタイト軟磁性粉末と、結合剤とを含有する磁気記録媒体。
【請求項2】
前記マグネタイト軟磁性粉末は、2〜12kA/mの保磁力を有する請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記強磁性粉末は、窒化鉄系磁性粉末、及びCo系強磁性粉末からなる群から選ばれる1種である請求項1または2に記載の磁気記録媒体。