説明

磁気記録媒体

【課題】薄層の磁性層を有し、短波長の記録再生特性に優れる磁気記録媒体を提供することを目的とする。。
【解決手段】 非磁性支持体上に非磁性粉末とカーボンブラックと結合剤とを含む非磁性層と、該非磁性層上に磁性粉末と結合剤とを含む厚さ0.1μm未満の磁性層とを有する磁気記録媒体であって、前記カーボンブラックの平均粒子径に対する前記非磁性層中に含まれる非磁性粉末の平均粒子径の比率をRとしたときに、1≦R≦2.5を満たし、前記非磁性粉末の形状比が1〜2であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量磁気記録媒体に関し、特に記録再生特性に優れた磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の一種である磁気テープは、オーディオテープ、ビデオテープ、コンピュータテープなど様々な用途がある。特に、コンピューター用のデータバックアップテープの分野では、バックアップの対象となるハードディスクの高容量化に伴い、1巻当たり数百GBの記録容量のものが商品化されている。今後、ハードディスクのさらなる高容量化に対応するため、バックアップテープの高容量化は不可欠である。
【0003】
バックアップテープとして使用される磁気テープは、さらなる記録容量の増大に伴って記録波長の短波長化と再生トラックピッチの微小化が進んでおり記録再生時におけるノイズの低減が重要な課題となっている。
【0004】
近年の高容量磁気記録媒体は、短波長記録特性を向上させるために非磁性支持体上に非磁性層を設け、その上に薄層の磁性層を設ける構成として、記録再生時の厚み損失を低減している。
【0005】
ノイズの低減のためには磁性粉末の微粒子化に加えて、磁性層表面の平滑化とともに、磁性層と非磁性層との界面のさらなる平滑化が求められている。
このような課題に対して、例えば特許文献1および2に開示された技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−213379号公報
【特許文献2】特許2566070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、非磁性支持体上に非磁性塗料を塗布、乾燥して非磁性層を形成後、カレンダによる平滑化処理をしてから、放射線照射をして非磁性層を硬化後、この非磁性層の上に磁性塗料を塗布、乾燥して、磁性層を形成している。
【0008】
しかし、この方法では、非磁性層と磁性層との界面が平滑になるものの、非磁性層を塗布して、一旦乾燥させてから磁性層を塗布するので生産性が低下するという問題がある。
特許文献2は、せん断速度が10(1/s)と10(1/s)におけるせん断応力の比率が特定の範囲である非磁性塗料を用いることにより、磁性塗料のチキソトロピー性に近づけて、非磁性層と磁性層との界面を平滑にした磁気記録媒体を開示している。しかし、ここで開示されている磁気記録媒体は磁性層の厚さが0.2μm以上であり、短波長の記録特性は十分とは言えず、また、非磁性層と磁性層との界面も十分平滑になるとは言えなかった。
【0009】
本発明は、薄層の磁性層を有し、短波長の記録再生特性に優れる磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、磁気記録媒体の構成について鋭意検討した結果、磁気記録媒体を下記の構成にすれば、上記目的を達成できることを見出し本発明をなすに到った。
すなわち、非磁性支持体上に1種類の非磁性粉末とカーボンブラックと結合剤とを含む非磁性層と、該非磁性層上に磁性粉末と結合剤とを含む厚さ0.1μm未満の磁性層とを有する磁気記録媒体であって、前記カーボンブラックの平均粒子径に対する、前記非磁性層中に含まれる非磁性粉末の平均粒子径の比率をRとした時に、1≦R≦2.5を満たし、前記非磁性粉末の形状比が1〜2であることを特徴とする。
【0011】
また、非磁性支持体上に複数種類の非磁性粉末とカーボンブラックと結合剤とを含む非磁性層と、該非磁性層上に磁性粉末と結合剤とを含む厚さ0.1μm未満の磁性層とを有する磁気記録媒体であって、前記カーボンブラックの平均粒子径に対する、前記複数種類の非磁性粉末のうち、最大の平均粒子径を有する非磁性粉末の平均粒子径の比率をRとした時に、1≦R≦2.5を満たし、前記最大の平均粒子径を有する非磁性粉末の形状比が1〜2であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、カーボンブラックの平均粒子径に対する、非磁性粉末の平均粒子径の比率をRとした時に、1≦R≦2.5を満たし、前記非磁性粉末の形状比が1〜2となるように制御されている塗料を用いて磁性層を形成するので、塗料の塗布適性や分散安定性が優れ、短波長記録再生特性に優れた磁気記録媒体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
短波長領域でのS/Nの向上のために、磁性粉末の微粒子化が進められている。このため、針状の磁性粉末(メタル磁性粉末など)は束状に、板状の磁性粉末(六方晶バリウムフェライト磁性粉末など)は、積層状に二次凝集したものを十分分散させて磁性塗料を製造する必要がある。この磁性塗料の分散状態により塗料の粘度、チキソトロピー性が変わるので、適切に制御することがこのましい。一般的には、スタック状に凝集し易い微粒子磁性粉末においては、塗料のチキソトロピー性が低下する傾向にある。
【0014】
前述したように、近年の高容量磁気記録媒体は、非磁性支持体上に非磁性層を設け、さらにその上に薄層の磁性層を設ける構成になっている。生産性の向上、コスト低減のために大部分の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に非磁性層形成用塗料(以下、非磁性塗料ともいう)を塗布して非磁性層を形成し、この非磁性層が湿潤状態にある時に、さらに磁性層形成用塗料(以下、磁性塗料ともいう)を塗布して磁性層を形成するウエット・オン・ウエット方法により製造される。この製造方法においては、非磁性層と磁性層との界面が乱れることなく各層を形成することが重要課題とされる。界面が乱れると磁気記録媒体の記録再生特性(S/N等)が低下する要因となる場合がある。
【0015】
このため、磁性塗料および非磁性塗料のレオロジー特性を適切に制御することが好ましい。
【0016】
本発明者らは非磁性層に含ませる非磁性粉末の粒子径、形状、カーボンブラックの粒子径について鋭意検討した結果、これらの材料を下記の構成とすることで、非磁性層、磁性層の形成が良好に行なわれ、記録再生特性の優れた磁気記録媒体が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0017】
すなわち、非磁性層に含まれる非磁性粉末、カーボンブラックにおいては、前記カーボンブラックの平均粒子径に対する、前記非磁性粉末の平均粒子径の比率、すなわち、R=(非磁性粉末の平均粒子径)/(カーボンブラックの平均粒子径)とした時、1≦R≦2.5の関係を満たすと好ましく1≦R≦2の関係を満たすとより好ましい。Rがこの範囲であると好ましいのは、Rが1未満では、非磁性粉末が小さ過ぎて、非磁性塗料のチキソロピー性が大きくなりすぎたり、非磁性層の空隙が少なくなるため、非磁性層のカレンダによる平滑化処理の効果の低下や、非磁性層から磁性層への潤滑剤の供給が不十分となり、Rが2.5を超えると、非磁性粉末が大きすぎて磁性層と非磁性層との界面が乱れ易くなるからである。
【0018】
非磁性層に複数種類の非磁性粉末が含まれる時は、最大の平均粒子径を有する非磁性粉末の平均粒子径を上記関係式に適用することができる。
上記関係式に適用する非磁性粉末の形状比が1〜2であることが好ましい。ここでいう形状比とは非磁性粉末が針状、楕円状、板状のような形状異方性を持つ場合の軸比とか板状比のことを意味し、異方性のある形状の場合の最大径と最小径の比率をいう。形状比がこの範囲であると好ましいのは、形状比が2を超えると、チキソトロピー性が大きくなり過ぎて界面が乱れ易くなる場合があるからである。
【0019】
このような非磁性粉末としては、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物、等の無機質化合物粉末が用いられ、例えばα化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、酸化スズ、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、2硫化モリブデンなどが単独または組合せで使用される。非磁性層には目的に応じて有機粉末を添加することもできる。例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。上記非磁性粉末の平均粒子径は10〜250nmが好ましく、さらにカーボンブラックの平均粒子径との比率は上述の関係式を満たすことが好ましい。
【0020】
非磁性層に含まれる非磁性粉末の粒子形状は、粒上、球状、板状、針状、紡錘状のいずれでもあってもよいが、上述のように形状比が1〜2であることが好ましい。また、非磁性粉末の粒子径は上記Rの満たす範囲であることが好ましい。さらに、平滑で厚みムラの少ない非磁性層を形成するためには、シャープな粒度分布を有する非磁性粉末が好ましく用いられる。なお、本明細書において粉末の平均粒子径や形状比は、透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影した写真(10万倍)中の300個の粉末の粒子径や形状比の数平均値を意味する。
【0021】
導電性及び非磁性塗料のレオロジー特性を制御するために、非磁性層に従来公知のカーボンブラックを含ませる。このようなカーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどが挙げられる。カーボンブラックの平均粒子径は、好ましくは0.01〜0.1μmである。平均粒子径が0.01μm以上であれば、カーボンブラックが良好に分散された磁性層を形成することができる。一方、平均粒子径が0.1μm以下であれば、導電性に優れた非磁性層を形成することができる。
【0022】
非磁性層の結合剤としては、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを用いることができる。熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合樹脂、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂などが挙げられる。また、熱硬化性樹脂としては、具体的には、例えば、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、アルキド系樹脂などが挙げられる。これらの結合剤は、非磁性粉末の分散性を向上し、充填性を上げるために、官能基を有するものが好ましい。このような官能基としては、具体的には、例えば、COOM、SOM、OSOM、P=O(OM)、O−P=O(OM)(Mは水素原子、アルカリ金属塩またはアミン塩)、OH、NR、NR(R,R,R,R及びRは、水素または炭化水素基であり、通常その炭素数が1〜10である)、エポキシ基などが挙げられる。2種以上の樹脂を併用する場合、官能基の極性が一致した樹脂を用いることが好ましく、中でも、SOM基を有する樹脂の組み合わせが好ましい。これらの結合剤の含有量は、非磁性粉末100質量部に対して、好ましくは7〜50質量部であり、より好ましくは10〜35質量部である。特に、塩化ビニル系樹脂5〜30質量部とポリウレタン系樹脂2〜20質量部の併用が好ましい。
【0023】
また、結合剤として上記のような熱硬化性樹脂の代わりに、あるいはこれとともに放射線硬化性樹脂を用いてもよい。放射線硬化性樹脂としては、(メタ)アクリルモノマー、(メタ)アクリルオリゴマーなどが挙げられる。これらの中でも分子内に2個以上の二重結合を有し、且つ二重結合1個当り50〜300の重量平均分子量を有する放射線硬化性樹脂が好ましい。このような放射線硬化性樹脂としては、具体的には、例えば、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ノボラックジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグルコールジ(メタ)アクリレートなどの二官能(メタ)アクリレート;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの三官能(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの四官能以上の(メタ)アクリレート;上記のモノマーをポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタンなどの骨格で分子鎖延長したオリゴマーなどが挙げられる。非磁性層中の放射線硬化性樹脂の含有量は、他の結合剤と放射線硬化性樹脂の合計量に対して、好ましくは5〜30質量%である。
【0024】
更に、上記の結合剤とともに、結合剤中に含まれる官能基等と結合し架橋構造を形成する熱硬化性の架橋剤を併用することが好ましい。架橋剤としては、具体的には、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどのイソシアネート化合物;イソシアネート化合物とトリメチロールプロパンなどの水酸基を複数個有する化合物との反応生成物;イソシアネート化合物の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートが挙げられる。架橋剤の含有量は、結合剤100質量部に対して、好ましくは10〜50質量部である。
【0025】
非磁性層に用いられる潤滑剤としては、従来公知の10〜30の炭素数を有する脂肪酸が挙げられる。脂肪酸は、直鎖型、分岐型、シス・トランス異性体のいずれであってもよいが、潤滑性能に優れる直鎖型が好ましい。このような脂肪酸としては、具体的には、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸などが挙げられる。これらは単独でまたは複数使用してもよい。非磁性層中の脂肪酸の含有量は、非磁性粉末100質量部に対して、好ましくは0.2〜5質量部である。脂肪酸の含有量が0.2質量部以上であれば、非磁性層から磁性層へ脂肪酸を十分に滲出させることができ、低湿環境下での長尺耐久性をより向上することができる。脂肪酸の含有量が5質量部以下であれば、非磁性層の強靭性を確保することができる。
【0026】
非磁性層は、潤滑剤として、上記脂肪酸とともに、従来公知の脂肪酸エステルや脂肪酸アミドを含有してもよい。脂肪酸エステルとしては、具体的には、例えば、オレイン酸n−ブチル、オレイン酸ヘキシル、オレイン酸n−オクチル、オレイン酸2−エチルヘキシル、オレイン酸オレイル、ラウリン酸n−ブチル、ラウリン酸ヘプチル、ミリスチン酸n−ブチル、オレイン酸n−ブトキシエチル、トリメチロールプロパントリオレエート、ステアリン酸n−ブチル、ステアリン酸s−ブチル、ステアリン酸イソアミル、ステアリン酸ブチルセロソルブなどが挙げられる。脂肪酸アミドとしては、具体的には、例えば、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミドなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数使用してもよい。非磁性層中の脂肪酸エステル及び脂肪酸アミドの含有量は、非磁性粉末100質量部に対して、合計で、好ましくは0.2〜10質量部である。これらの含有量が0.2質量部以上であれば、非磁性層から磁性層へ潤滑剤を十分に滲出させることができ、摩擦係数をより低減することができる。潤滑剤の含有量が15質量部以下であれば、非磁性層の強靭性を確保することができる。特に、非磁性粉末100質量部に対して、脂肪酸を0.5〜4質量部、脂肪酸エステルを0.2〜3質量部含有させることが好ましい。
非磁性層は、上記の非磁性粉末、有機酸、結合剤、及び潤滑剤を含有していれば、さらに従来公知の分散剤などの添加剤を含有してもよい。このような分散剤としては、具体的には、例えば、上記脂肪酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属からなる金属石けん:上記脂肪酸エステルのフッ素化物;ポリアルキレンオキサイドアルキルリン酸エステル;レシチン;トリアルキルポリオレフィンオキシ第四級アンモニウム塩(アルキルの炭素数は1〜5個であり、オレフィンはエチレン、プロピレンなど);銅フタロシアニンなどが挙げられる。これらは、単独でまたは複数使用してもよい。分散剤の含有量は、非磁性粉末100質量部に対して、好ましくは0.2〜5質量部である。
【0027】
非磁性層の厚さは、好ましくは0.1〜3μmであり、より好ましくは0.1〜1.2μmである。非磁性層の厚さが0.1μm以上であれば、耐久性の確保に十分な量の潤滑剤を非磁性層に含有させることができる。一方、非磁性層の厚さが3μm以下であれば、磁気記録媒体の全厚が不要に厚くなることが避けられ、体積当りの記録容量を向上させることができる。
【0028】
磁性層に用いられる磁性粉末としては、具体的には、例えば、六方晶系フェライト磁性粉末、強磁性金属鉄系磁性粉末、窒化鉄系磁性粉末などが挙げられる。磁性粉末の平均粒子径は、好ましくは10〜35nmであり、より好ましくは15〜25nmである。平均粒子径が10nm以上であれば、分散性に優れた磁性塗料を調製することができる。一方、平均粒子径が35nm以下であれば、粒子ノイズを低減することができる。なお、磁性粉末の平均粒子径は、針状の場合は平均長軸径を、板状の場合は最も大きな板径を、長軸長と短軸長の比が1〜3.5である球状ないし楕円体状の場合は最大差し渡し径をそれぞれ意味する。
【0029】
磁性層の結合剤としては、従来公知の結合剤を使用することができる。これらの中でも、磁性粉末の分散性及び磁性層の剛性を考慮すれば、非磁性層に用いられる結合剤と同様の結合剤が好ましい。磁性層中の結合剤の含有量は、磁性粉末100質量部に対して、好ましくは7〜50質量部であり、より好ましく10〜35質量部である。特に、塩化ビニル系樹脂とポリウレタン系樹脂を併用する場合、塩化ビニル系樹脂を5〜30質量部、ポリウレタン系樹脂を2〜20質量部使用することが好ましい。また、非磁性層と同様に、結合剤を架橋して磁性層の強度を向上するため、ポリイソシアネートなどの架橋剤を使用することが好ましい。架橋剤の含有量は、結合剤100質量部に対して、好ましくは10〜50質量部である。
【0030】
磁性層は、磁性粉末及び結合剤を含有していれば、研磨剤、潤滑剤、分散剤など公知の添加剤をさらに含有してもよい。特に、耐久性の観点から、研磨剤及び潤滑剤が好ましく用いられる。研磨剤としては、具体的には、例えば、α−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素などが挙げられる。これらは、単独でまたは複数使用してもよい。これらの中でも、6以上のモース硬度を有する研磨剤がより好ましい。研磨剤の平均粒子径は、使用する研磨剤の種類にもよるが、好ましくは10〜200nmである。研磨剤の含有量は、磁性粉末100質量部に対して、好ましくは5〜20質量部であり、より好ましくは8〜18質量部である。潤滑剤としては、非磁性層で用いられる潤滑剤と同様の潤滑剤を使用することができる。これらの中でも、脂肪酸エステルと脂肪酸アミドの併用が好ましい。特に、磁性層に潤滑剤を含有させる場合、磁性層中の磁性粉末、研磨剤などの全粉末の総量100質量部に対して、脂肪酸エステルを0.2〜3質量部、脂肪酸アミドを0.5〜5質量部使用することが好ましい。
【0031】
また、磁性層は、必要により、導電性及び表面潤滑性の向上を目的として、従来公知のカーボンブラックを含有してもよい。このようなカーボンブラックとしては、具体的には、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどが挙げられる。カーボンブラックの平均粒子径は、好ましくは0.01〜0.1μmである。平均粒子径が0.01μm以上であれば、カーボンブラックが良好に分散された磁性層を形成することができる。一方、平均粒子径が0.1μm以下であれば、表面平滑性に優れた磁性層を形成することができる。また、必要により、平均粒子径の異なるカーボンブラックを2種以上用いてもよい。カーボンブラックの含有量は、磁性粉末100質量部に対して、好ましくは0.2〜5質量部であり、より好ましくは0.5〜4質量部である。
【0032】
磁性層の厚さは、短波長記録特性の向上を目的として0.1μm未満であり、好ましくは10〜90nmであり、より好ましくは20〜90nmであり、さらに好ましくは30〜90nmである。上記磁性層の厚さであれば、短波長記録においても自己減磁作用による記録再生時の厚み損失を低減することができる。このため、最短記録波長が0.5μm以下のシステムにおいても、高出力を得ることができる。特に、このような薄層の磁性層では、潤滑剤を多量に含有させておくことができないため、本実施の形態の磁気記録媒体が好適である。
【0033】
磁性層の長手方向の残留磁束密度と磁性層の厚さとの積は、好ましくは0.0018〜0.05μTmであり、より好ましくは0.0036〜0.05μTmであり、さらに好ましくは0.004〜0.05μTmである。前記積が小さすぎると、再生ヘッドとしてMRヘッドが用いられる場合、再生出力が小さくなる傾向がある。一方、前記積が大きすぎると、MRヘッドが飽和して、再生出力が歪みやすくなる。
【0034】
磁性層の表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra)で、好ましくは2.0nm以下である。なお、磁性層の表面平滑性が向上するほど、高出力が得られるが、余りに磁性層の表面が平滑化しすぎると、摩擦係数が高くなり、走行安定性が低下する。このため、磁性層の表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra)で、好ましくは1.0nm以上である。
【0035】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。なお、以下において、「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【実施例】
【0036】
<実施例1>
[非磁性塗料の調製]
表1に示す非磁性塗料成分(1)を回分式ニーダで混練し、混練物を調製した。得られた混練物と、表2に示す非磁性塗料成分(2)とをディスパを用いて撹拌して、混合液を調製した。得られた混合液をサンドミル(滞留時間:60分)で分散して分散液を調製した後、分散液と、表3に示す非磁性塗料成分(3)とをディスパを用いて撹拌し、これをフィルタでろ過して、非磁性塗料を調製した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
[磁性塗料の調製]
表4に示す磁性塗料成分(1)を高速撹拌混合機で高速混合し、得られた混合物を連続式2軸混練機で混練した。次いで、連続式2軸混練機に、表5に示す磁性塗料成分(2)を2段階に分けて加えて混練物を希釈して、スラリーを調製した。このスラリーをサンドミル(滞留時間:45分)で分散した後、得られた分散液と、表6に示す磁性塗料成分(3)とをディスパを用いて撹拌し、これをフィルタでろ過して、磁性塗料を調製した。
【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
【表6】

【0044】
[バックコート層用塗料の調製]
下記表7に示すバックコート層用塗料成分を混合した混合液を、サンドミルで分散処理(滞留時間:45分)した。得られた分散液にポリイソシアネート15部を加え、撹拌し、これをフィルタでろ過して、バックコート層用塗料を調製した。
【0045】
【表7】

【0046】
[評価用磁気テープの作製]
非磁性支持体(ポリエチレンナフタレートフィルム,厚さ:6.1μm)上に、上記の非磁性塗料及び磁性塗料を、乾燥及びカレンダ処理後の厚さがそれぞれ1.5μm及び90nmとなるように、エクストルージョン型コータにて同時重層塗布し、非磁性層及び磁性層を形成した。なお、このとき、ソレノイド磁石を用いて配向磁界(400kA/m)を印加しながら、面内配向処理を行った。
【0047】
次に、上記のバックコート層用塗料を、非磁性支持体の磁性層が形成された面の反対面に、乾燥及びカレンダ処理後の厚さが0.5μmとなるように塗布し、乾燥して、バックコート層を形成した。この非磁性支持体の一面側に非磁性層及び磁性層が、他面側にバックコート層が形成された原反ロールを、7段の金属ロールを有するカレンダ装置でカレンダ処理した(温度:100℃,線圧力:196kN/m)。
得られた原反ロールを70℃で72時間硬化処理し、磁気シートを作製した。この磁気シートを1/2インチ幅に裁断し、LTO規格に準拠したサーボ信号を書き込んで評価用の磁気テープを作製した。
【0048】
<実施例2>
非磁性塗料成分(1)中の硫酸バリウムの平均粒子径を40nmに変更した以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気テープを作製した。
【0049】
<実施例3>
非磁性塗料成分(1)中の硫酸バリウムの平均粒子径を50nmに変更し、非磁性塗料成分(1)中のカーボンブラックの平均粒子径を25nmに変更した以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気テープを作製した。
【0050】
<実施例4>
非磁性塗料成分(1)中の硫酸バリウムを粒状酸化鉄(平均粒子径:100nm)に変更し、非磁性塗料成分(1)中のカーボンブラックの平均粒子径を75nmに変更した以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気テープを作製した。
【0051】
<比較例1>
非磁性塗料成分(1)中の硫酸バリウムの平均粒子径を50nmに変更した以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気テープを作製した。
【0052】
<比較例2>
非磁性塗料成分(1)中の粒状酸化鉄を粒状アルミナ(平均粒子径:200nm)に変更した以外は、実施例4と同様にして評価用の磁気テープを作製した。
【0053】
<比較例3>
非磁性塗料成分(1)中の粒状酸化鉄を硫酸バリウム(平均粒子径:60nm)に変更した以外は、実施例4と同様にして評価用の磁気テープを作製した。
【0054】
<比較例4>
非磁性塗料成分(1)中の粒状酸化鉄を針状酸化鉄(平均粒子径:110nm 針状比:6.1)に変更した以外は、実施例4と同様にして評価用の磁気テープを作製した。
【0055】
<実施例5〜8>
磁性塗料成分(1)の磁性粉末を、バリウムフェライト磁性粉末(Ba−Fe)(σs:50A・m2/kg(50emu/g)、Hc:159kA/m(2000Oe)、平均粒子径(板径):20nm)に変更した以外は、各々実施例1〜4と同様にして評価用の磁気テープを作製した。
【0056】
<比較例5〜8>
磁性塗料成分(1)の磁性粉末を、バリウムフェライト磁性粉末(Ba−Fe)(σs:50A・m2/kg(50emu/g)、Hc:159kA/m(2000Oe)、平均粒子径(板径):20nm)に変更した以外は、各々比較例1〜4と同様にして評価用の磁気テープを作製した。
【0057】
<実施例9〜12>
磁性塗料成分(1)の磁性粉末を、窒化鉄磁性粉末(Y−N−Fe)(Y/Fe:5.5at%、N/Fe:11.9at%、σs:103A・m2/kg(103emu/g)、Hc:211.0kA/m(2650Oe)、平均粒子径:16nm、軸比:1.1)に変更した以外は、各々実施例1〜4と同様にして評価用の磁気テープを作製した。
【0058】
<比較例9〜12>
磁性塗料成分(1)の磁性粉末を、窒化鉄磁性粉末(Y−N−Fe)(Y/Fe:5.5at%、N/Fe:11.9at%、σs:103A・m2/kg(103emu/g)、Hc:211.0kA/m(2650Oe)、平均粒子径:16nm、軸比:1.1)に変更した以外は、各々比較例1〜4と同様にして評価用の磁気テープを作製した。
【0059】
得られた磁気テープを用いて下記の評価を行ない、表8〜10に、その結果を示す。
【0060】
<S/N測定>
日立マクセル社製リニアテープ電特測定装置を用い、これにHP社製LTO3ドライブのヘッドを取り付け、テープ速度1.5m/secで、記録波長390nmの信号を磁気テープに記録し、再生した信号を市販のMRヘッド用Readアンプで増幅した後、アジレントテクノロジー社製スペクトラムアナライザーN9020Aを用いて信号の基本波成分出力(C)とノイズ成分(N)とを測定した。そして、それぞれ比較例1、比較例5、比較例9のS/Nを基準(0dB)として、相対値で評価した。
【0061】
【表8】

【0062】
【表9】

【0063】
【表10】

【0064】
表から明らかなように、本発明の請求項を満たす実施例1〜12は、S/N、が良好で、請求項を満たさない比較例1〜12は、S/Nが不良である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の磁気記録媒体は、高容量で走行特性に優れた磁気記録媒体として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に1種類の非磁性粉末とカーボンブラックと結合剤とを含む非磁性層と、該非磁性層上に磁性粉末と結合剤とを含む厚さ0.1μm未満の磁性層とを有する磁気記録媒体であって、
前記カーボンブラックの平均粒子径に対する、前記非磁性層中に含まれる非磁性粉末の平均粒子径の比率をRとした時に、1≦R≦2.5を満たし、前記非磁性粉末の形状比が1〜2であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
非磁性支持体上に複数種類の非磁性粉末とカーボンブラックと結合剤とを含む非磁性層と、該非磁性層上に磁性粉末と結合剤とを含む厚さ0.1μm未満の磁性層とを有する磁気記録媒体であって、
前記カーボンブラックの平均粒子径に対する、前記複数種類の非磁性粉末のうち、最大の平均粒子径を有する非磁性粉末の平均粒子径の比率をRとした時に、1≦R≦2.5を満たし、前記最大の平均粒子径を有する非磁性粉末の形状比が1〜2であることを特徴とする