説明

磁気誘導断層撮影のための方法及びデバイス

本発明は関心対象の画像を再構築するための方法とデバイスとに関する。本発明によれば、当該デバイスは一次磁場を発生させるための複数の送信コイル102、同103、同115、同116と、複数の測定コイル121、同122、同129、同136と、複数の送信コイルの中から第1のペアの送信コイル102、同116を選択し且つ励起するための手段150と、を有し、第1のペアの送信コイルによって発生した一次磁場が、複数の測定コイル121、同129の中の少なくとも一つの測定コイルが在る場所で最小化されるよう、第1のペアの送信コイル102、同116が選択され且つ励起される。測定コイルが在る場所で一次磁場を最小化することによって、デバイスは測定コイルのダイナミック・レンジを減じることができ、結果として磁気誘導断層撮影システムに対するハードウェアの設計が簡略化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気誘導断層撮影、特に磁気誘導断層撮影における測定コイルのダイナミック・レンジを減じる方法とデバイスとに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気誘導断層撮影(MIT)は、産業用撮像及び医学用撮像でのアプリケーションを有する非侵襲で非接触の撮像技術である。他の電子撮像技術とは対照的に、MITは撮像用のセンサが関心対象と直接接触することを必要としない。関心対象の内部にある受動的な電気特性、例えば導電性σの空間分布を再構築するために、MITが用いられる。
【0003】
従来技術の特許出願である国際特許公開公報WO 2007072343は、対象物の電磁特性を研究するための磁気誘導断層撮影システムを開示している。当該システムは、対象物に渦電流を誘起させる一次磁場を発生するよう適応された一つ以上の磁場発生コイルと、前記渦電流の結果として発生した二次磁場を検出するよう適応された一つ以上のセンサコイルと、一方では一つ以上の磁場発生コイル並びに/又は一つ以上のセンサコイル、及び他方では研究される対象物との間の相対的な動きを提供するための手段と、を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
対象物の電磁特性を正確に測定するために克服されなければならない多くの技術的な課題がある。MITシステムでは送信コイルを流れる交番電流が、交番する一次磁場を生成する。この磁場が導電性材料を通過したとき、渦電流が誘起される。これらの渦電流は二次交番磁場を生じ、同磁場は一次磁場に比べて非常に小さい。目的とする測定の再構築は、二次磁場により誘起された電圧に基づいて測定コイルで行われる。残念なことに、非常に大きな一次磁場が同時に存在し、非常に高い比例した電圧を誘起する。したがって、二次磁場に関する小さな電圧を充分な精度で抽出することを可能にするために、全体の誘起電圧が極めて高い精度(振幅及び位相)で測定されなければならない。これが、強い一次磁場の存在によって生じる測定チャレンジの第1の態様である。
【0005】
磁気誘導断層撮影システムが複数の送信コイルと複数の測定コイルとを有する場合、(励起状態にある)送信コイルの隣にある測定コイルと、最も遠くにある測定コイルとの間の一次磁場の大きな空間的な相違に起因して、非常に高いダイナミック・レンジを備えた測定システムが必要とされる。これが、測定チャレンジの第2の態様である。
【0006】
本発明の目的は、磁気誘導断層撮影用の改善されたコイル配置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、関心対象の画像を再構築するためのデバイスが提供され、当該デバイスは、
− 一次磁場を発生するための複数の送信コイルと、
− 複数の測定コイルと、
− 複数の送信コイルの中から第1のペアの送信コイルを選択し且つ励起するための手段と、を有し、
当該第1のペアの送信コイルによって発生した一次磁場が、複数の測定コイルの中の少なくとも一つの測定コイルが在る場所で最小化されるよう、第1のペアの送信コイルが選択され且つ励起される。
【0008】
測定コイルが在る場所で一次磁場を最小化することによって、デバイスは測定コイルのダイナミック・レンジを減じることができ、結果として磁気誘導断層撮影システム用のハードウェアの設計が簡略化される。
【0009】
実施例では前記手段は更に、複数の送信コイルの中から第2のペアの送信コイルを選択し且つ励起するよう構成され、第2のペアの送信コイルによって発生した一次磁場が、少なくとも一つの第1の測定コイルが在る場所で最小化されるよう、第2のペアの送信コイルが選択され且つ励起される。
【0010】
複数のペアの送信コイルを順番に又は共に同時に選択し且つ励起することによって、更なる画像再構築用に、一組の測定データが同じ測定コイルによって得られることが可能である。
【0011】
別の実施例では、各々のコイルに等しい振幅で且つ反対方向の交番電流を同時に印加することによって、第1のペアの送信コイル又は第2のペアの送信コイルが励起される。この態様で、第1のペアの送信コイル及び/又は第2のペアの送信コイルによって発生した一次磁場は、少なくとも一つの第1の測定コイルが在る場所では理論上ゼロであり、結果として測定精度が改善される。
【0012】
更なる実施例では、複数の送信コイルと複数の測定コイルとが環状のアレイに配置される。この配置の長所は、当該送信コイルの対称性に起因して、送信コイルのペアが選択されるのが容易だということである。
【0013】
本発明の第2の態様によれば、関心対象の画像を再構成する方法が提供され、当該方法は、
− 複数の送信コイルの中から第1のペアの送信コイルを選択するステップと、
− 関心対象に印加される一次磁場を第1のペアの送信コイルによって発生させるステップと、
− 少なくとも一つの測定コイルによる画像再構成のために、一次磁場に応答して関心対象によって発生した二次磁場により誘起された電気信号を測定するステップと、を含み、
第1のペアの送信コイルによって発生した一次磁場が、少なくとも一つの測定コイルが在る場所で最小化されるよう、第1のペアの送信コイルが選択され且つ励起される。
【0014】
本発明の詳細な説明及と他の態様とが以下に与えられている。
【0015】
本発明の上記の目的並びに特徴、及び他の目的並びに特徴が、添付の図面に関して考慮され、以下の詳細な説明からより明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図l】本発明によるデバイスの実施例を示す。
【図2】本発明による一次磁場の概観図を示す。
【図3】本発明による方法のフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
全ての図を通じて、同じ参照番号が類似のパーツを意味するために使われている。
【0018】
図1は、本発明によるデバイスの実施例を示す。
【0019】
図1を参照すると、関心対象の画像を再構成するデバイスは、一次磁場を発生させるための複数の送信コイル102、同103、同115、同116を有する。
【0020】
当該デバイスは更に、画像再構成のために、一次磁場に応答して関心対象によって発生した二次磁場により誘起された電気信号を測定するための複数の測定コイル121、同129を有する。
【0021】
詳細には、一つ以上の送信コイルが交番電流を出力した場合、同電流は渦電流を関心対象内に誘起させる一次磁場を生成する。何らかの導電性の物質又はヒト組織のこともある関心対象(図1には示されていない)は、通常、コイルの配置により形成された測定領域に置かれている。渦電流は、測定コイル中に電気信号を誘起させる二次磁場を生成する。
【0022】
デバイスは更に、複数の送信コイルの中から第1のペアの送信コイル102、同116を選択し且つ励起するための手段150を有し、当該第1のペアの送信コイルによって発生した一次磁場が、複数の測定コイルの中の少なくとも一つの測定コイル121、同129が在る場所で最小化されるよう、第1のペアの送信コイルが選択され且つ励起される。本発明の説明において励起手段は、一次磁場を生成するために、交番電流を複数の送信コイルへと切り替えて供給する役目をする。
【0023】
複数の送信コイルと複数の測定コイルとが異なるアレイに配置されることができることを理解されたい。
【0024】
複数の送信コイルと複数の測定コイルとが環状のアレイに配置されることは好都合である。特に、複数の送信コイルと複数の測定コイルとが対になって配置されることができ、チューブ状の容器100の内壁の周りに位置していることができる。
【0025】
送信コイルと測定コイルとを環状のアレイに配置することの長所は、励起用の送信コイルのペアが、コイルの対称性に起因して容易に選択されることができる点である。
【0026】
別の実施例では、第2のペアの送信コイル102、同115が、測定コイル121、同129が在る場所で最小化された一次磁場を発生するよう、類似の態様で選択され且つ励起されることができる。
【0027】
第1のペアの送信コイルと第2のペアの送信コイルとが順番に又は同時に励起されることができることが理解されよう。表1は、コイルの構成が16個の送信コイル及び16個の測定コイルを有し、送信コイルと測定コイルとが環状のアレイに配置されている場合、励起するための典型的なコイルの組合せを与える。表1においてLe1、同Le2は送信コイルを意味しており、Lm1、同Lm2は測定コイルを意味している。
【表1】

【0028】
異なるペアの送信コイルを順番に又は共に選択し且つ励起することによって、複数の測定データを画像再構成のために得ることが可能である。
【0029】
図2は、本発明による一次磁場の概観図を示す。
【0030】
図2を参照すると、コイルの構成は16対の送信コイルと測定コイルとを有し、これらが環状のアレイに配置され、チューブ状の容器100の内壁に周りに位置している。図2では数字のペアX/Yにおいて、数字Xは送信コイルを意味し数字Yは測定コイルを意味している。
【0031】
送信コイル102及び同116が同じ振幅で且つ反対方向の交番電流を印加することによって同時に励起された場合、当該送信コイル102及び同116は、断層撮影の壁に対して垂直で、反対方向の磁場をもつ磁場を発生する。破線により示される曲線が一次磁束の分布を示し、矢印A及び矢印Bは当該磁束の向きを示し、黒い楕円は、結果として生じる一次磁束が消失するエリアを示す。
【0032】
図2から、測定コイル121は送信コイル102及び送信コイル116に隣接し且つ両者の間にあることが観察され、一方、測定コイル129は送信コイル102及び送信コイル116から最も離れて配置されていることが観察される。しかしながら、本発明により提供される励起方式によれば、測定コイル121及び同129が在る場所に結果として生じる磁束、例えば一次磁場は、完全に対称的なコイル配置及びコイル媒体に対しては理論的にゼロである。実際にはゼロよりも大きいかもしれないが、一つのコイルが従来の磁気誘導断層撮影デバイスの励起に用いられる場合よりも大きいことはなく、結果として、測定コイルが必要とするダイナミック・レンジを減じる。
【0033】
図3は本発明による方法のフロー図である。
【0034】
本発明によれば、当該方法は、複数の送信コイル101、同102、同103、...同116、の中から第1のペアの送信コイル102、同116を選択し且つ励起するステップ310と、関心対象に印加される一次磁場を、当該第1のペアの送信コイル102、同116によって発生させるステップ320と、前記一次磁場に応答して関心対象によって発生した二次磁場により誘起される画像再構成用の電気信号を、少なくとも一つの測定コイル121、同129によって測定するステップ330と、を含む。
【0035】
一実施例では、本方法は更に、複数の送信コイルの中から第2のペアの送信コイル103、同115を選択し且つ励起するステップ340を含み、第2のペアの送信コイルによって発生した一次磁場が、少なくとも一つの第1の測定コイル121、同129が在る場所で最小化されるよう、当該第2のペアの送信コイルが選択され且つ励起される。コイルの選択は、コンピュータプログラムによって都合よく実行されることができる。
【0036】
一実施例では、第1のペアの送信コイル又は第2のペアの送信コイルが、振幅が等しく且つ反対方向の交番電流を各々のコイルに同時に出力することにより励起される。この態様で、第1のペアの送信コイル及び/又は第2のペアの送信コイルによって発生する一次磁場は、少なくとも一つの測定コイルが在る場所では理論上はゼロである。
【0037】
一実施例では、本方法は更に、コイル配置の対称性に起因して送信コイル及び測定コイルの容易な選択を可能にする、複数の送信コイルと複数の測定コイルとを環状のアレイに配置するステップを含む。
【0038】
複数の送信コイルと複数の測定コイルとが対になって配置され、チューブ状の容器100の内壁の周りに位置することは長所である。
【0039】
上に記した実施例が本発明を限定するよりはむしろ例示していること、及び当業者が添付の請求項の範囲から逸脱することなく代替実施例を設計できるであろうことに留意されたい。請求項中において、括弧の間に置かれた如何なる参照符号も当該請求項を限定するものとして解釈されてはならない。単語「有する」が、請求項又は明細書に記載されていないエレメント又はステップの存在を排除することはない。エレメントに先行する単語「a」又は「an」が、複数の斯様なエレメントの存在を排除することはない。複数のユニットを列挙している装置の請求項において、これらのユニットの幾つかがハードウェア又はソフトウェアの全く同一のアイテムにより実施されることができる。第1の、第2の、第3の、等の単語の使用が何らかの順序を示すことはない。これらの単語は、名前として解釈されるべきである。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
関心対象の画像を再構成するためのデバイスであって、
− 一次磁場を発生させるための複数の送信コイルと、
− 複数の測定コイルと、
− 前記複数の送信コイルの中から第1のペアの送信コイルを選択し且つ励起するための手段と、
を有し、
前記第1のペアの送信コイルは、前記第1のペアの送信コイルによって発生させられた前記一次磁場が、前記複数の測定コイルの中の少なくとも一つの測定コイルの位置において最小化される態様で、選択され且つ励起されることを特徴とする、デバイス。
【請求項2】
前記手段が更に、前記複数の送信コイルの中から第2のペアの送信コイルを選択し且つ励起するよう配置され、前記第2のペアの送信コイルは、当該第2のペアの送信コイルによって発生させられた一次磁場が、少なくとも一つの前記第1の測定コイルの位置において最小化される態様で、選択され且つ励起されることを特徴とする、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記第1のペアの送信コイル又は前記第2のペアの送信コイルが、等しい振幅且つ反対方向の交番電流を各々のコイルに同時に供給することにより励起されることを特徴とする、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記複数の送信コイルと前記複数の測定コイルとが、環状のアレイに配置されることを特徴とする、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記複数の送信コイルと前記複数の測定コイルとが、対に配置されるとともにチューブ状の容器の内壁の周りに位置されることを特徴とする、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
関心対象の画像を再構成する方法であって、
− 複数の送信コイルの中から第1のペアの送信コイルを選択し且つ励起するステップと、
− 前記関心対象に印加されるべき一次磁場を、前記第1のペアの送信コイルによって発生させるステップと、
− 画像再構成のために、前記一次磁場に応答して前記関心対象により発生した二次磁場によって誘導される電気信号を、少なくとも一つの測定コイルによって測定するステップと、
を含み、
前記第1のペアの送信コイルは、前記第1のペアの送信コイルによって発生させられた前記一次磁場が、前記少なくとも一つの測定コイルの位置において最小化される態様で、選択され且つ励起されることを特徴とする、方法。
【請求項7】
前記複数の送信コイルの中から第2のペアの送信コイルを選択し且つ励起するステップを更に含むことを特徴とする請求項6に記載の方法であって、当該第2のペアの送信コイルは、当該第2のペアの送信コイルによって発生させられた前記一次磁場が、前記少なくとも一つの第1の測定コイルの位置において最小化される態様で、選択され且つ励起されることを特徴とする、方法。
【請求項8】
前記第1のペアの送信コイル又は前記第2のペアの送信コイルが、等しい振幅且つ反対方向の交番電流を各々のコイルに同時に供給することにより励起されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記複数の送信コイルと前記複数の測定コイルとを環状のアレイに配置するステップを更に含むことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記複数の送信コイルと前記複数の測定コイルとを対に配置するとともにチューブ状の容器の内壁の周りに配置するステップを更に含むことを特徴とする、請求項9に記載のデバイス。

【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−517851(P2012−517851A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549705(P2011−549705)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【国際出願番号】PCT/IB2010/050422
【国際公開番号】WO2010/092503
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】