説明

磁気軸受けユニット

【課題】永久磁石の磁束を効率よく利用できる磁気軸受けユニットを提供する。
【解決手段】軸部と受け部は、同極同士が互いに接した状態で保持された複数の永久磁石(10)を含む磁石集合体(20)をそれぞれ備えている。各磁石集合体(20)は、同極同士が互いに接する同極接触面上の磁場方向であって、各磁石集合体の中央から外側に向かう磁場方向に沿って最も強い磁場を発生している。受け部は、2つの磁石集合体同士の反発力によって軸部を支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気を利用した軸受けに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気軸受けとしては、例えば下記の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−153037号公報
【0004】
しかし、従来の磁気軸受けでは、永久磁石の磁束を必ずしも十分効率よく利用できていないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、永久磁石の磁束を効率よく利用できる磁気軸受けを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1] 磁気軸受けユニットであって、
同極同士が互いに接した状態で保持された複数の永久磁石を含む第1の磁石集合体を有する軸部と、
同極同士が互いに接した状態で保持された複数の永久磁石を含む第2の磁石集合体を有する受け部と、
を備え、
各磁石集合体は、同極同士が互いに接する同極接触面上の磁場方向であって、各磁石集合体の中央から外側に向かう磁場方向に沿って最も強い磁場を発生しており、
前記軸部と前記受け部は、前記第1と第2の磁石集合体同士の反発力によって前記受け部が前記軸部を支持するように構成されている、磁気軸受けユニット。
【0008】
この構成によれば、磁石集合体の同極接触面において、磁石集合体の中央から外側に向かう磁場方向に沿って最も強い磁場を発生することができる。従って、永久磁石の磁束を効率よく利用できる磁気軸受けユニットを実現することが可能である。
【0009】
[適用例2] 適用例1記載の磁気軸受けユニットであって、
各磁石集合体は、3個以上の永久磁石を含む、磁気軸受けユニット。
【0010】
この構成によれば、各磁石集合体においてS極の同極接触面とN極の同極接触面が交互に表れるので、これらの同極接触面によるそれぞれの強い磁場を利用して滑らかに軸を支持することが可能である。
【0011】
[適用例3] 適用例1又は2記載の磁気軸受けユニットであって、
各永久磁石は、中空円盤状の形状を有しており、
各磁石集合体は、前記永久磁石を前記同極接触面と垂直な方向に積層した積層体であり、
前記磁気軸受けユニットはラジアル軸受けである、磁気軸受けユニット。
【0012】
[適用例4] 適用例3記載の磁気軸受けユニットであって、
前記軸部と前記受け部の間に磁性オイルが介挿されている、磁気軸受けユニット。
【0013】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、磁気軸受けユニット、それを用いた軸受け装置やアクチュエータ、電子機器、燃料電池使用機器、ロボット、移動体等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
A.磁石集合体の構成:
B.各種の実施例:
C.変形例:
【0015】
A.磁石集合体の構成:
図1(A)〜(E)は、本発明の各種実施例で利用される磁石集合体の概略構成を示す説明図である。図1(A)は、1つの永久磁石10を示している。この磁石10は、上下方向に磁化されている。N極から出る矢印及びS極に入る矢印は、磁力線を示している。図1(B)は、2つの磁石10で構成される永久磁石対10pairを示している。この永久磁石対10pairは、2つの磁石10が、N極同士が互いに接した状態で保持されたものである。この状態で2つの磁石10を保持すると、太い矢印で示されるように、その同極接触面10cから外部に向けた磁場方向MDに沿って、最も強い磁場が発生する。ここで、「同極接触面」とは、互いに接する同極同士の表面で規定される平面を意味している。図1(C)は、永久磁石対10pairの表面磁束密度の分布を示している。なお、磁場方向MDは、同極接触面10c上の方向であって、永久磁石対10pairの中央から外側に向かう方向である。磁石10のサイズが小さい場合には、この磁場方向MDは、永久磁石対10pairの中央から外側に向かう放射状の方向となる。発明者の実験によれば、永久磁石対10pairの磁場方向MDの表面磁束密度は、単一の磁石10の表面磁束密度(すなわち図1(A)の上面の磁束密度)の約2倍に達することが見いだされた。そこで、本発明の各種実施例では、磁場方向MDの強い磁場を利用して、モータや発電機を構成している。なお、N極でなく、S極同士を接するように永久磁石対10pairを構成してもよい。
【0016】
図1(D)は、6つの平板状の永久磁石10を含む磁石集合体20を示している。磁石集合体20の隣接する磁石同士は、N極同士又はS極同士が互いに接した状態で保持されている。図1(E)は、磁石集合体20の表面磁束密度の分布を示している。このグラフから理解できるように、磁石集合体20の周囲(図1(D)の左右位置)では、N極同士の同極接触面10cとS極同士の同極接触面10cとにおいて、それぞれ大きな表面磁束密度が発生している。この例から理解できるように、3個以上の磁石を含む磁石集合体は、N極とS極のそれぞれにおいて大きな磁束密度を発生することが可能である。なお、一般に、磁石集合体20は、互いに同極同士が接した状態で保持されたN個(Nは2以上の整数)の永久磁石で構成することが可能である。
【0017】
B.各種の実施例:
図2(A),(B)は、第1実施例としての磁気軸受けユニットの構成を示す断面図であり、図2(A)は組み立て前の状態を示し、図2(B)は組み立て後の状態を示しているる。この磁気軸受けユニット400aは、軸部410aと受け部420aとで構成されている。軸部410aと受け部420aは、磁石集合体としての永久磁石対10pairをそれぞれ有している。永久磁石対10pairを構成する個々の永久磁石は、中空円盤状の形状をそれぞれ有している。この磁気軸受けユニットは、軸部410aが受け部420aによって回転可能に支持されるラジアル軸受けである。
【0018】
図3(A)は、第1実施例の軸部410bを示す断面図であり、図3(B)はその平面図である。この軸部410aは、軸22と、永久磁石対10pairと、ナット24とで構成されている。永久磁石対10pairは、軸22の回りに配置されており、また、軸22の端部とナット24とによって上下から保持されている。軸22の外周にはナット24と嵌合するねじが形成されている。永久磁石対10pairは、その同極接触面から、軸22の中心から外周にむけて放射状の強い磁場を発生する。なお、軸22としては、モータの回転軸などの任意の回転軸を利用することができる。
【0019】
図4(A)は、第1実施例の受け部420aを示す断面図であり、図4(B)はその平面図である。この受け部420aは、中空円筒状のハウジング32と、永久磁石対10pairと、2つのナット34とで構成されている。永久磁石対10pairは、ハウジング32の外周に配置されており、また、その上下が2つのナット34で保持されている。ハウジング32の外周にはナット34と嵌合するねじが形成されている。永久磁石対10pairは、ハウジング32の外周から中心にむけて放射状の強い磁場を発生する。なお、ハウジング32は、強磁性体でない材料で形成されていることが好ましい。
【0020】
図2(B)からも理解できるように、第1実施例の磁気軸受けユニットでは、軸部410aと受け部420aのそれぞれに永久磁石対10pairが設けられており、かつ、その同極接触面が同一面上に配置されている。従って、これらの2組の永久磁石対10pairの同極接触面における強い磁場を利用して軸を受けることが可能である。
【0021】
図5(A),(B)は、第2実施例としての磁気軸受けユニットの構成を示す断面図である。この磁気軸受けユニット400bの軸部410bと受け部420bは、それぞれ磁石集合体20を有している。各磁石集合体20は、それぞれ6個の永久磁石で構成されている。個々の永久磁石は、中空円盤状の形状をそれぞれ有している。この磁気軸受けユニットも、ラジアル軸受けである。
【0022】
図6(A)は、第2実施例の軸部を示す断面図であり、図6(B)はその平面図である。この軸部410bは、磁石集合体20を軸22とナット24とによって上下から保持した形状を有している。第1実施例の軸部との違いは、磁石集合体を構成する磁石の数が多い点だけである。従って、第2実施例の軸部410bでは、N極の同極接触面とS極の同極接触面とが交互に存在し、それらの同極接触面の面上に沿って交互に逆向きの強い磁場が生じている。
【0023】
図7(A)は、第2実施例の受け部を示す断面図であり、図7(B)はその平面図である。この受け部420bは、中空円筒状のハウジング32の外周に磁石集合体20を配置し、その上下を2つのナット34で保持した形状を有している。第1実施例の受け部との違いは、磁石集合体を構成する磁石の数が多い点だけである。
【0024】
図5(B)からも理解できるように、第2実施例の磁気軸受けユニットでは、軸部410bと受け部420bのそれぞれに6個の磁石で構成される磁石集合体が設けられており、かつ、その同極接触面が同一面上に配置されている。従って、これらの2組の磁石集合体20の同極接触面における強い磁場を利用して軸を受けることが可能である。なお、N極の同極接触面とS極の同極接触面とにおける逆向きの強い磁場を利用するためには、各磁石集合体の磁石は3個以上であることが好ましい。
【0025】
図8は、第2実施例としての軸受け装置の構成を示す断面図である。この軸受け装置は、ロータ40と、ロータ40の上下に設けられた2つの磁気軸受けユニット400cとを備えている。磁気軸受けユニット400cの軸部410cと受け部420cは、第1実施例とほぼ同様の構成を有している。ロータ40の上部と下部には、フランジ42がそれぞれ設けられている。フランジ42は、磁気軸受けユニット400cの軸部410cの軸と連結されている。また、フランジ42と磁気軸受けユニット400cの受け部420cとの間には、ボールベアリング42が介挿されている。なお、上部と下部の受け部420cは、図示しない構造材によって固定されている。
【0026】
この軸受け装置では、2つのボールベアリング42によってロータ40が上下方向に支持されており、また、2つの磁気軸受けユニット400cによってロータ40の回転軸が支持されている。従って、滑らかに回転を支持することが可能である。
【0027】
図9は、第3実施例としての軸受け装置の構成を示す断面図である。この軸受け装置は、ロータ40と、ロータ40の下方に設けられた磁気軸受けユニット400dとを備えている。磁気軸受けユニット400dの軸部410dと受け部420dは、第1実施例とほぼ同様の構成を有している。但し、第3実施例においては、軸部410dと受け部420dとの間の間隙48,52に、潤滑油が充填されている。潤滑油によって、より滑らかに回転を支持することが可能である。なお、ロータ40のフランジ42の下面にはヘリングボーン溝46が形成されており、また、軸の下面にもヘリングボーン溝58が形成されている。良く知られているように、ヘリングボーン溝は、ポンピング作用で動圧を発生させて軸を精度良く支持することが可能である。
【0028】
また、軸部410dの磁石集合体と受け部420dの磁石集合体に挟まれた部分の間隙には、磁性オイル50が介挿されている。磁性オイル50は、磁石の吸引力によって磁石近傍に保持されるので、軸が高速に回転した場合にも十分滑らかに回転を保持することができるという利点がある。
【0029】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0030】
C1.変形例1:
上記実施例では、軸部と受け部の磁石集合体を構成する磁石数が同一であるものとしていたが、磁石数は異なっていてもよい。
【0031】
C2.変形例2:
上記実施例では、磁気軸受けユニットの機械的構成や回路構成の具体例を説明したが、本発明の磁気軸受けユニットの具体的な構成としては、これら以外の任意の構成を採用することが可能である。例えば、上記各実施例ではラジアル軸受けを説明したが、本発明は、スラスト軸受けなどの他の種類の軸受けにも適用可能である。スラスト軸受けを構成する場合には、軸部と受け部の長手方向(軸方向)に沿って同極接触面が延びるように磁石集合体をそれぞれ構成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の各種実施例で利用される磁石集合体の概略構成を示す説明図である。
【図2】第1実施例としての磁気軸受けユニットの構成を示す断面図である。
【図3】第1実施例の磁気軸受けユニットの軸部を示す図である。
【図4】第1実施例の磁気軸受けユニットの受け部を示す図である。
【図5】第2実施例としての磁気軸受けユニットの構成を示す断面図である。
【図6】第2実施例の磁気軸受けユニットの軸部を示す図である。
【図7】第2実施例の磁気軸受けユニットの受け部を示す図である。
【図8】第3実施例としての軸受け装置の構成を示す断面図である。
【図9】第4実施例としての軸受け装置の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0033】
10…永久磁石
10c…同極接触面
10pair…永久磁石対
20…磁石集合体
22…軸
24…ナット
32…ハウジング
34…ナット
40…ロータ
42…フランジ
42…ボールベアリング
46…ヘリングボーン溝
48,52…間隙
50…磁性オイル
58…ヘリングボーン溝
400a〜400d…磁気軸受けユニット
410a〜410d…軸部
420a〜420d…受け部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気軸受けユニットであって、
同極同士が互いに接した状態で保持された複数の永久磁石を含む第1の磁石集合体を有する軸部と、
同極同士が互いに接した状態で保持された複数の永久磁石を含む第2の磁石集合体を有する受け部と、
を備え、
各磁石集合体は、同極同士が互いに接する同極接触面上の磁場方向であって、各磁石集合体の中央から外側に向かう磁場方向に沿って最も強い磁場を発生しており、
前記軸部と前記受け部は、前記第1と第2の磁石集合体同士の反発力によって前記受け部が前記軸部を支持するように構成されている、磁気軸受けユニット。
【請求項2】
請求項1記載の磁気軸受けユニットであって、
各磁石集合体は、3個以上の永久磁石を含む、磁気軸受けユニット。
【請求項3】
請求項1又は2記載の磁気軸受けユニットであって、
各永久磁石は、中空円盤状の形状を有しており、
各磁石集合体は、前記永久磁石を前記同極接触面と垂直な方向に積層した積層体であり、
前記磁気軸受けユニットはラジアル軸受けである、磁気軸受けユニット。
【請求項4】
請求項3記載の磁気軸受けユニットであって、
前記軸部と前記受け部の間に磁性オイルが介挿されている、磁気軸受けユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−97524(P2009−97524A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266628(P2007−266628)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】