説明

示差熱分析装置

【課題】被測定試料Sと基準試料Rとの温度差を直接の測定対象とする示差熱分析の際、被測定試料Sと基準試料Rとを載せる試料台4の試料載置箇所の温度のバラツキを小さくする。
【解決手段】被測定試料Sと基準試料Rとを載せる試料台4の試料載置箇所の複数箇所の平均温度を測定するために、試料載置箇所の裏面に接合する円形の裏面側熱電対用金属板であるクロメル板5、クロメル板6の中心部に円形の開口部5a、6aを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定試料と基準試料とを加熱炉内において同じ条件下で加熱したとき、両試料間に生じる温度差から被測定試料の熱的性質を解析する示差熱分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
示差熱分析(DTA)においては、一般に、被測定試料と基準試料とを、あらかじめ設定されている昇温プログラムに従って加熱し、その加熱過程において両試料間の刻々の温度差を検出して、被測定試料の各種物性や相転移、化学反応などの解析を行う。
【0003】
上記熱分析を行うための従来の示差熱分析装置の概略構成は図2に示すとおりである。
図2において、(a)は正面図(断面図)を、(b)は上面図を、そして(c)はセンサ部41の下面図を示している。図2に示す示差熱分析装置は、被測定試料Sと基準試料Rの温度差を測定するセンサ部41と、センサ部41を収納する加熱炉42および炉蓋43と、その加熱炉42を加熱するヒータ(図示せず)により構成される。
【0004】
センサ部41は、被測定試料Sと基準試料Rを載せるそれぞれの碗状の部分を有し、且つコンスタンタン材で構成された試料台44と、前記碗状の試料台部44aおよび44bの裏面に複数箇所スポット溶接されたクロメル板45および46と、試料台44にスポット溶接されたコンスタンタン線47と、クロメル板45および46にスポット溶接されたクロメル線48および49により構成される。コンスタンタン材の試料台部44aとクロメル板45の複数箇所のスポット溶接点が熱電対温度計を構成することにより、試料台部44aの複数箇所の平均温度が測定される。試料台部44bについても同様である。なお、特許文献1には、「示差熱流検出器を加熱炉の底板上に熱緩衝板を介して固定することにより、熱流束の安定に有害な熱的振動を濾波する手段」が開示されている。
【0005】
前記碗状の試料台部44aとクロメル板45および試料台部44bとクロメル板46は熱電対を兼ねており、試料台部44aおよび44bの温度を検出する。被測定試料Sおよび基準試料Rは、試料容器50に収容された状態で、試料台部44aおよび44bに載せられる。なお、センサ部41の試料台44は加熱炉42の底板部42aにロウ付けされている。またセンサ部41からの信号は加熱炉42を経由して外部に取り出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−33411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
示差熱分析においては、被測定試料Sと基準試料Rとを可能な限り同一の熱的環境に置き、温度を変化させたときの両者間の温度差を直接の測定対象とするが、試料そのものの温度を測定することは困難であるため、試料台の試料載置箇所の温度をもって試料温度とみなす。
【0008】
したがって、従来は、測定温度と試料実温度との乖離を小さくするため、試料台44の上面と試料容器50の底面を密着させ接触熱抵抗を極力小さくしている。さらに、試料容器50を載置する試料台44の試料載置箇所においては温度のバラツキが必ず存在するが、その温度のばらつきを小さくすることが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、被測定試料と基準試料とを載置する試料台と、前記試料台上の前記被測定試料と前記基準試料との温度差を検出する検出手段を有するセンサ部と、前記センサ部を収容して加熱する加熱炉を備えた示差熱分析装置において、前記センサ部は、試料台側熱電対金属板と前記試料台側熱電対金属板と熱電対を形成する円形の裏面側熱電対用金属板を備え、前記裏面側熱電対用金属板は、中心部に円形の開口部を有し、前記試料台側熱電対金属板の試料載置箇所の裏面に複数箇所で接合されるものである。
【発明の効果】
【0010】
従来例においては、試料容器設置箇所の平均温度を求めるために、試料容器設置箇所の裏面にその試料容器設置箇所を取り囲むように複数個の熱電対が設置される。
【0011】
しかし、あらかじめ設定されている昇温プログラムに従って加熱した場合、試料容器設置箇所の裏面に接合された円形の裏面側熱電対用金属板の熱容量が大きいため、熱伝達経路に温度勾配が生じ、温度上昇の遅れが発生して温度のバラツキが大きくなる。
【0012】
前記課題に対する解決手段によって、試料容器設置箇所の裏面に接合された円形の裏面側熱電対用金属板に開口部を設けることにより熱容量を小さくし、結果的に熱伝達経路の温度勾配が小さくなり、温度上昇の応答性を高め、温度のバラツキが小さくなる。ちなみに、シミュレーション計算では、外径Dの裏面側熱電対用金属板に約1/2Dの抜き穴を設けた場合、裏面側熱電対用金属板上での温度のバラツキは約20%減少した。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態である示差熱分析装置の概略的な構成図である。図1において、(a)は正面図(断面図)、(b)は上面図、(c)はセンサ部1の下面図を示している。
【図2】従来の示差熱分析装置の概略的な構成図である。図2において、(a)は正面図(断面図)、(b)は上面図、(c)はセンサ部41の下面図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態である示差熱分析装置の概略構成を図1に示す。また、図1(a)に正面図(断面図)を、図1(b)に上面図を、図1(c)にセンサ部1の下面図を示す。図1に示す示差熱分析装置は、被測定試料Sと基準試料Rの温度差を測定するセンサ部1と、センサ部1を収納する加熱炉2および炉蓋3と、その加熱炉2を加熱するヒータ(図示せず)により構成される。
【0015】
センサ部1は、コンスタンタン材で作られた試料台4と、試料台4の裏面に接合されるクロメル板5および6と、熱電対温度計を形成するコンスタンタン線7およびクロメル線8、9により構成されている。
【0016】
試料台4は、被測定試料Sと基準試料Rを載置するためにそれぞれ碗状の試料台部4aおよび4bを有し、その裏面には、中心部に開口部5aおよび6aを有するドーナツ形状のクロメル板5および6が複数箇所スポット溶接されていて、その溶接の各点が熱電対温度計を形成する。その熱電対における出力信号を外部に取り出すために、試料台4にはコンスタンタン線7が、クロメル板5および6にはクロメル線8および9がスポット溶接されている。例えば、熱電対を形成する溶接点がn個ある場合、n個の溶接点の出力信号の平均値が出力される。これは丁度n個の乾電池を並列接続した場合と同じである。
【0017】
前記碗状の試料台部4aとクロメル板5および試料台部4bとクロメル板6は熱電対を兼ねており、試料台部4aおよび4bの温度を検出する。被測定試料Sおよび基準試料Rは、試料容器10に収容した状態で、試料台部4aおよび4bに載せられる。センサ部1の試料台4は加熱炉2の底板部2aに全周ロウ付けされているため、熱は外周部から伝導により試料台4を経由して試料容器10に伝達される。またセンサ部1からの信号は加熱炉2を経由して外部に取り出される。
【0018】
クロメル板5および6に開口部を設ける目的は、クロメル板5および6の熱容量を小さくすることであり、結果的に熱伝達経路の温度勾配を小さくし、温度上昇の応答性を高め、温度のばらつきを小さくすることである。ちなみに、シミュレーション計算では、外径Dのクロメル板に約1/2Dの抜き穴を設けた場合、クロメル板上での温度のバラツキは約20%減少した。しかしながら、クロメル板5および6を試料台部4aおよび4bの裏面に接合する複数箇所のスポット溶接作業が複雑になったり、多大な作業時間が必要になる程度まで軽量化し、熱容量を小さくすることは望ましくない。
【0019】
熱電対として、熱電対材料は前記コンスタンタンとクロメルの組み合わせに限定されない。
【符号の説明】
【0020】
1、41 センサ部
2、42 加熱炉
2a、42a 底板部
3、43 炉蓋
4、44 試料台
4a、4b、44a、44b 試料台部
5、6 クロメル板
5a、6a 開口部
7、47、 コンスタンタン線
8、9、48、49、 クロメル線
10、50 試料容器
45、46 クロメル板
S 被測定試料
R 基準試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定試料と基準試料とを載置する試料台と、前記試料台上の前記被測定試料と前記基準試料との温度差を検出する検出手段を有するセンサ部と、前記センサ部を収容して加熱する加熱炉を備えた示差熱分析装置において、前記センサ部は、試料台側熱電対金属板と前記試料台側熱電対金属板と熱電対を形成する円形の裏面側熱電対用金属板を備え、前記裏面側熱電対用金属板は、中心部に円形の開口部を有し、前記試料台側熱電対金属板の試料載置箇所の裏面に複数箇所で接合されることを特徴とする示差熱分析装置。

【図1】
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【図2】
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