説明

神経変性障害の治療におけるcaspaseI−依存性サイトカインの阻害剤

本発明は、慢性神経変性障害、特に、進行性筋萎縮症(PMA)を治療、予防または改善することを必要とする被検体に対して、caspase I-依存性サイトカインの特異的阻害剤を投与することを含む、そのような治療、予防または改善のための方法に関する。同様に、神経変性障害、特に、PMAを治療、予防または改善するためのcaspase I-依存性サイトカインの特異的阻害剤が、本明細書中に開示される。さらに、本発明は、神経変性障害の医学的または薬学的介入における、caspase I-依存性サイトカインの(1または複数の)特異的阻害剤の使用を提供する。特に、阻害されるべきサイトカインは、インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-18(IL-18)、インターロイキン-33およびインターフェロンγ(IFN-γ;インターフェロン-ガンマ)からなる群から選択され、そして最も好ましくは、本発明の文脈において利用されるべき阻害剤は、アナキンラなどの、ヒトインターロイキン-1受容体アンタゴニスト(IL-1Ra)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性神経変性障害、特に進行性筋萎縮症(PMA)を治療、予防または改善することを必要とする被検体に対して、caspase I-依存性サイトカインの特異的阻害剤を投与することを含む、そのような治療、予防または改善のための方法に関する。同様に、神経変性障害、特に進行性筋萎縮症(PMA)を治療、予防または改善するためのcaspase I-依存性サイトカインの特異的阻害剤が、本明細書中において開示される。さらに、本発明は、神経変性障害の医学的または薬学的介入における、caspase I-依存性サイトカインの(1または複数の)特異的阻害剤の使用を提供する。特に、阻害されるべきサイトカインは、インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-18(IL-18)、インターロイキン-33およびインターフェロンγ(IFN-γ;インターフェロン-ガンマ)からなる群から選択され、および最も好ましくは本発明の文脈において使用されるべき阻害剤は、アナキンラなどのヒトインターロイキン-1受容体アンタゴニスト(IL-1Ra)である。
【背景技術】
【0002】
いくつかの文献が、本明細書の文章中で引用される。本明細書中で引用される文献のそれぞれは(何らかの製造者の仕様書、指示書などを含め)、参照により本明細書により援用される。
【0003】
神経変性障害は、しばしば慢性症状であり、下位運動ニューロン疾患、特に、進行性筋萎縮症(PMA)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病、またはハンチントン病の様なものである。しかし、神経変性障害は、虚血および頭部損傷または脊髄損傷などの急性の症状も含む。慢性症状および急性症状の両方ともにおいて、炎症性プロセスおよび対応する炎症性因子(サイトカインなど)が提案された。さらに、特定の自己免疫障害は、重症筋無力症または多発性硬化症などの炎症性構成要素と関連していた。神経炎症のメカニズムは、特に、神経細胞の場合に、いくつかのin vitroモデルにおいて研究されたが、ニューロン障害における、および特に、慢性神経変性におけるサイトカインの役割は、依然として理解されていない。
【0004】
アルツハイマー病において、炎症性構成成分が認識され、そして1990年代初めから、認知症の予防または改善において、非-ステロイド性抗-炎症性薬(NSAIDS)などの抗-炎症性薬を使用することが提案された。アルツハイマー病は、神経原線維のもつれ、特に、海馬の錐体神経細胞におけるもの、および大部分がアミロイド沈着物の高密度コアおよび汎発性(defused)ハローを含有する多数のアミロイドプラークにより特徴づけられる。細胞外老人斑は、“アミロイドβ”、“A-ベータ”、“Aβ4”、“β-A4”または“Aβ”と呼ばれる、大量の主として繊維状のペプチドを含有する。このアミロイドβは、“アルツハイマー前駆体タンパク質/β-アミロイド前駆体タンパク質”(APP)に由来する。コリン作動性アゴニストおよびインターロイキン1が、アルツハイマーベータ/A4アミロイドタンパク質前駆体のプロセッシングおよび分泌を制御し(Buxbaum (1992), PNAS 89, 10075を参照)、そして培養中においてIL-1およびIL-6とベータ-アミロイド生成との相互調節が存在する(Del Bo (1995), Neuroscience Letters 188, 70を参照)ことが、当該技術分野において知られている。さらに、A-ベータが、IFN-ガンマおよびIL-1などの炎症性サイトカインの放出を刺激する可能性があることが報告された(Lindberg (2005) J. Mol. Neuroscience 27, 1)。
【0005】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、罹患患者の進行性麻痺を引き起こす、神経変性性疾患である。ALSは、運動調節の喪失および除神経筋の変性を引き起こす上位および下位運動ニューロン損傷により特徴づけられる。その他の症候には、会話、呼吸、および嚥下の困難、痙性、筋痙攣および筋衰弱が含まれてもよい。ALSは、1年間に100,000人あたり1〜2件の新しい症例の発生がある、最も一般的な神経筋疾患の一つである。一般的には最初の診断から5年以内に死亡に至るが、ALSと診断された患者の約10%が10年またはそれ以上生存する。家族性変異および散発性変異を含む様々なタイプのALSが同定され、家族性ALSは全ての症例の10%までを占める。罹患ニューロンは、十分に解明されていない機構により、アポトーシスを引き起こして死ぬ。しかし、ウィルス感染、神経毒や重金属への曝露、または酵素異常などの遺伝的因子などの環境因子が役割を果たしている可能性があることが示唆された。特に、家族性ALSのある形態は、スーパーオキシドジスムターゼ酵素SOD1における変異と連鎖した;Cleveland (2001) Nat. Rev Neurobiol. 2:806を参照。SODは、スーパーオキシドアニオンを水および過酸化水素へと変換する酵素の偏在的ファミリーである;Fridovich (1975) Annu Rev Biochem 44:147-159を参照。SOD1における多数の変異が、ALSを引き起こし(Rosen (1993) Nature 364:362)そして異なる変異体(mtSOD1)が様々なレベルの酵素活性を有することから、表現型は機能欠損によるものではないことが示唆される;Gurney (1994) Science 264:1772-1775およびWong (1995) Neuron 14:1105-1116を参照。トランスジェニックヒトmtSOD1を発現するマウスは後肢麻痺を発症しそして若年齢で死亡することからALSを想起させるが、野生型SODを発現するマウスまたはSOD1欠損動物においてはそのような症状を発症しない;Gurney (1994)、上述、およびWong (1995)、上述を参照。しかしながら、SOD1変異と神経細胞死との間の病因学的関連性は、まだ解明されていない。トランスジェニックヒトmtSOD1を発現するマウスは、現在のところ、ALSについての最良の動物モデルを示す。ALSについての有効な治療法は存在していない。現在のところ、リルゾールは、ALSの治療のための唯一のFDA承認医薬である。リルゾールは、NMDA受容体を拮抗する(アンタゴナイズする)ことにより、そして損傷ニューロンと関連するナトリウムチャンネルをブロッキングすることにより、グルタミン酸シグナル伝達を減少させると考えられている;Song (1997) J. Pharmacol Exp Ther 282:707-714を参照。リルゾールは、この疾患の進行を遅らせることができるが、患者の症状を実質的に改善する手段は何も報告されていない。さらに、リルゾール治療は、肝臓毒性、好中球減少症、吐き気、および倦怠感を含む副作用と関連する(Wagner (1997) Ann Pharmacother 31:738-744)。
【0006】
いくらかの研究者が、caspase 1およびcaspase 3がALSにおける機能的役割を果たしている可能性があると推測した。従って、Zhu((2002) Nature 417, 74)は、ミノサイクリンがチトクロームcの放出を阻害し、そしてマウスモデルにおけるALSの進行を遅らせ、それによりミノサイクリンがcaspase-I転写およびcaspase-3転写の阻害剤であると提案した。同様に、Friedlanderらは、インターロイキン-1ベータ-変換酵素(ICE、caspase I)がプロテアーゼのようにALSの特定のマウスモデルにおける疾患の進行に影響を及ぼす可能性があると、推測した;Friedlander and colleagues (1997), Nature 388, page 31を参照。Li((2000) Science 288, 335)においては、caspaseの全般的阻害が、ALSにおける保護的作用を有する可能性があることもまた、示唆している。
【0007】
Kim((2006) Annals of Neurology 60, 716)は、体液性の異常、すなわち、脊髄における変異SOD 1からの、IL-1ベータ、IL-6、IL-12および血管内皮増殖因子(VEGF)の増加、の、これら全てのサイトカインに対する中和抗体の組合せを使用する“カクテルアプローチ”による修正を提案する。運動ニューロンを保護することができる、ALSにおける炎症の治療への唯一のそして単なる組合せアプローチと考えられる。
【0008】
さらに、Schultzberg((2007), Phys. Behav. 92, 121)においても述べられているように、神経保護の目的で神経系におけるサイトカインの役割、特に抗-炎症手段または抗-サイトカイン手段を使用することの可能性は、まだ全く解明されていない。さらに、例えば、caspaseの阻害が重篤で望まれない副作用を引き起こすため、サイトカイン系および経路の幅広い阻害剤を使用することの重大な否定的側面(down-site)が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Buxbaum (1992), PNAS 89, 10075
【非特許文献2】Del Bo (1995), Neuroscience Letters 188, 70
【非特許文献3】Lindberg (2005) J. Mol. Neuroscience 27, 1
【非特許文献4】Cleveland (2001) Nat. Rev Neurobiol. 2:806
【非特許文献5】Fridovich (1975) Annu Rev Biochem 44:147-159
【非特許文献6】Rosen (1993) Nature 364:362
【非特許文献7】Gurney (1994) Science 264:1772-1775
【非特許文献8】Wong (1995) Neuron 14:1105-1116
【非特許文献9】Song (1997) J. Pharmacol Exp Ther 282:707-714
【非特許文献10】Wagner (1997) Ann Pharmacother 31:738-744
【非特許文献11】Zhu (2002) Nature 417, 74
【非特許文献12】Friedlander and colleagues (1997), Nature 388, page 31
【非特許文献13】Li (2000) Science 288, 335
【非特許文献14】Kim (2006) Annals of Neurology 60, 716
【非特許文献15】Schultzberg (2007), Phys. Behav. 92, 121
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の裏付けとな技術的課題は、下位運動ニューロン疾患、特に、進行性筋萎縮症(PMA)、ALS、アルツハイマー病、パーキンソン病、またはハンチントン病などの慢性神経変性障害を患うヒト患者の医学的状態を改善する手段および方法を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
技術的課題は、請求の範囲において特徴づけられそして本明細書の以下に記載される態様により解決される。
【0012】
従って、本発明は、慢性神経変性障害を治療、予防または改善するための方法に関し、この方法は、そのような治療、予防または改善を必要とする被検体に対して、caspase I-依存性サイトカインの特異的阻害剤を投与することを含む。神経変性障害を治療、予防または改善するためのcaspase I-依存性サイトカインの特異的阻害剤もまた提供され、そしてさらなる態様において、本発明は、下位運動ニューロン疾患、特に、PMA、ALS、アルツハイマー病、パーキンソン病、またはハンチントン病などの慢性神経変性障害の医学的および薬学的介入における、caspase I-依存性サイトカインの特異的阻害剤の使用に関する。具体的な好ましい態様において、治療すべき慢性神経変性障害はPMAであり、そして使用すべきcaspase I-依存性サイトカインの特異的阻害剤はインターロイキン-1(IL-1)の阻害剤である。
【0013】
さらに、caspase I-依存性サイトカインのさらなる阻害剤の医学的糸口もまた本発明の要旨中に記載されており、その場合に特異的に阻害されるそのサイトカインが、インターロイキン-1ベータ(IL-1ベータ)、インターロイキン-1アルファ(IL-1アルファ)、インターロイキン-18(IL-18)、インターロイキン-33(IL-33)およびインターフェロンガンマ(IFN-ガンマ)からなる群から選択される。しかしながら、添付する科学的データおよび対応する図面において示されるように、最も好ましい態様において、慢性的神経変性障害、特に、筋萎縮性側索硬化症(ALS)が、アナキンラ(Kinerert(登録商標))などのIL-1(アルファおよび/またはベータ)特異的阻害剤により治療される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、SOD1欠損が、CASPASE 1活性化を低下することを示す図である。
【図2】図2は、SOD1欠損が、IL-1ベータ(IL-1β)およびIL-18の成熟を低下することを示す図である。
【図3】図3は、CASPASE-1非依存性サイトカインの分泌が、SOD1 NULL(SOD1-KO)マクロファージにおいて影響を受けないことを示す図である。
【図4】図4は、Sod1 null(SOD1-KO)マウスが、Caspase-1依存性サイトカインの産生の減少を示す図である。
【図5】図5は、CASPASE-1非依存性サイトカインの産生が、SOD1 NULLマウスにおいて影響を受けないことを示す図である。
【図6】図6は、Sod1 nullマウスが、LPS-誘導性敗血症性ショックに対してより耐性であることを示す図である。
【図7】図7は、IL-1ベータ(IL-1β)の分泌およびCASPASE-1の活性化が、変異型ヒトG93A-SOD1トランスジェニックマウス由来のミクログリアおよび星状細胞において増加することを示す図である。
【図8】図8は、IL-1βが、ALS発症機序に寄与することを示す図である。
【図9】図9は、変異型SOD1トランスジェニックマウスのIL-1RNを用いた処理により、mtSOD1マウスの中央値生存が増加し、そして疾患の進行が緩和されることを示す図である。
【図10】図10は、ALS患者由来の単球およびマクロファージが、CASPASE-1刺激に対して過反応性であることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に従ってそして添付する図面および科学的結果に示されるように、個別のcaspase-I依存性サイトカインの(1または複数の)個別のそして特異的な阻害剤を、慢性的神経変性障害の改善およびそれによる治療においてうまく使用することができることが、驚くべきことに見出された。本明細書中において示されるように、インターロイキン1(IL-1アルファおよび/またはベータ)の特異的なそして個別の阻害剤、すなわちペプチド阻害剤アナキンラ(Kineret(登録商標))を、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療において使用することができる。この知見は、慢性的神経変性障害、特に、ALS、がcaspase経路の初期酵素を標的とする幅広い阻害剤の作用(sue)によってのみ、対応することができることが提示された先行技術における教示とは、顕著に対照的である。例えば、caspase-1およびcaspase-3の幅広い阻害剤(これらの初期酵素さえも直接的には阻害しないミノサイクリンなど)が、神経変性における神経保護の媒介のために使用されることが教示された;Zhu(2002、上述)を参照。さらに、ミノサイクリンは、caspase-1およびcaspase-3だけではなく、一酸化窒素合成酵素およびp38マイトジェン-活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)の誘導型も阻害することに注目すべきである;同様に、Zhu(2002、上述)を参照。同様に、Friedlander(1997、上述)は、ICE阻害剤(すなわち、caspase-1の阻害剤)がALSの治療において価値のあるものである可能性があることを、提示した。caspaseがALSのトランスジェニックマウスモデル(SODマウス;トランスジェニックSOD1 G93Aマウス)における神経変性において役割を果たしているため、Liら(2000)は、幅広いcaspase阻害が、ALSにおける保護的役割を有している可能性があることを示唆する。より重要なことは、最近でさえも、Kimら(2006;上述)はこれらのSODマウスを利用し、そしてIL-6、IL-12およびVEGFの抗体阻害剤の組合せアプローチのみをALSの治療において使用することができることを教示した。従って、そして先行技術とは対照的に、本発明は、caspase-1経路における単一の後期の酵素の個別の阻害剤を、慢性的神経変性障害の、そして特にALSの、改善および治療の成功のために使用することができることについての証拠および証明を、初めて提示する。
【0016】
本明細書中において示されるように、本発明の特定の態様において、IL-1受容体アンタゴニスト(IL1-RN;IL-1 Ra;IL1-Li)“Kineret(登録商標)”/アナキンラは、神経変性障害ALSの治療、予防および/または改善において使用される。特定の態様において、治療されるべきこのALSは、しばしばSOD変異と相関している、家族型のALS(FALS)である。
【0017】
“Kineret(登録商標)”/アナキンラは、当該技術分野において周知であり、そして関節リウマチの治療における安全な薬物として、FDA-承認を受けている。“Kineret(登録商標)”/アナキンラは、組換えヒトIL-1受容体アンタゴニストであり(例えば、Bresniham (1998), Art Rheum 43, 1001またはCampion (1996), Art. Rheum 39, 1092を参照)、そして天然ヒトIL-1Raとはそのアミノ末端に一つのメチオニン残基が付加されている点で異なる。それは、153アミノ酸からなり、そして17.3 kDの分子量を有する。本発明が上市されている“Kineret(登録商標)”/アナキンラを使用することに限定されず、caspase 1-依存性サイトカインのさらなる特異的阻害剤、特に、IL-1(受容体)アンタゴニストをも使用することができることが、当業者には明確である。例えば、そのアミノ酸配列の特定の位置において、保存的または非-保存的置換および/または変化を含む、“Kineret(登録商標)”/アナキンラとの相同性ペプチドもまた、使用することができる。具体的な“Kineret(登録商標)”/アナキンラのペプチド/タンパク質のさらなる機能的誘導体、生物学的同等物、および機能的変異体もまた、これらの化合物がIL-1の生物学的機能を阻害することができる限りにおいて、本発明の文脈において使用することができる。従って、本発明は、“Kineret(登録商標)”/アナキンラだけでなく、その生物学的同等物の医薬用途および製薬学的用途に限定されない。“Kineret(登録商標)”/アナキンラならびに生物学的同等物、すなわち、さらなるIL-1阻害剤タンパク質が、当該技術分野において公知であり、そしてとりわけ、WO89/11540、WO92/16221、WO95/34326、US 5,075,222(B1)またはUS 6,599,873(B1)に記載される。例えば、本発明の文脈において、そしてALSの医学的介入における特定の均等物において使用されるIL-1阻害剤/アンタゴニストは、単球-由来IL-1阻害剤であるIL-1阻害剤である(“Kineret(登録商標)”/アナキンラおよびその生物学的同等物、機能的変異体および誘導体など)。当業者は、とりわけUS 6,599,873(B1)、US 5,075,222(B1)、WO89/11540、WO92/16221、またはWO 93/21946、WO94/06457、WO 95/34326において示されたように、そのような阻害剤を調製することができ、それにより特に、WO92/16221およびWO95/34326は、例えば、可溶型IL1-受容体アンタゴニストのペグ化版などのIL1-受容体に対する修飾された生物学的同等物を提供する。US 6,599,873(B1)、US 5,075,222(B1)、WO89/11540、WO92/16221、またはWO95/34326において、組換え法による好ましい製造方法もまた、提供される。
【0018】
好ましいIL-1アンタゴニスト/阻害剤の、すなわち、アナキンラのコード配列ならびにアミノ酸配列は、当該技術分野において公知であり、そしてNCBI遺伝子バンクにおいてアクセッション番号CS182221(遺伝子配列)として入手可能である。
【0019】
対応するコード配列は、ここで、SEQ ID NO: 1:
1 catatgcgac cgtccggccg taagagctcc aaaatgcagg ctttccgtat ctgggacgtt
61 aaccagaaaa ccttctacct gcgcaacaac cagctggttg ctggctacct gcagggtccg
121 aacgttaacc tggaagaaaa aatcgacgtt gtaccgatcg aaccgcacgc tctgttcctg
181 ggtatccacg gtggtaaaat gtgcctgagc tgcgtgaaat ctggtgacga aactcgtctg
241 cagctggaag cagttaacat cactgacctg agcgaaaacc gcaaacagga caaacgtttc
301 gcattcatcc gctctgacag cggcccgacc accagcttcg aatctgctgc ttgcccgggt
361 tggttcctgt gcactgctat ggaagctgac cagccggtaa gcctgaccaa catgccggac
421 gaaggcgtga tggtaaccaa attctacttc caggaagacg aataatggga agctt(SEQ ID NO: 1)
として提供され、そして本発明に従って使用されるIL-1アンタゴニストを示す一つのアミノ酸配列が、1文字コードでの以下のSEQ ID NO: 2:
MRPSGRKSSK MQAFRIWDVN QKTFYLRNNQ LVAGYLQGPN VNLEEKIDVV PIEPHALFLG IHGGKMCLSC VKSGDETRLQ LEAVNITDLS ENRKQDKRFA FIRSDSGPTT SFESAACPGW FLCTAMEADQ PVSLTNMPDE GVMVTKFYFQ EDE(SEQ ID NO: 2)
において示される。
【0020】
従って、本発明もまた、“Kineret(登録商標)”/アナキンラなどの、IL-1(受容体)アンタゴニストの修飾型およびIL-1(受容体)アンタゴニストの生物学的同等物に関する。添付する科学的データは、当業者がそのような“Kineret(登録商標)”/アナキンラの変異体、生物学的同等物、または誘導体が依然として機能的であるか否かを試験する方法についての実施例を提供する。
【0021】
IL-1阻害試験は、当該技術分野において公知であり、そしてとりわけNF-kB受容体遺伝子アッセイ(Zhang et al. J Biol Chem vol. 279 2004)を含む。
【0022】
caspase I-依存性サイトカインのその他の特異的阻害剤もまた、当該技術分野において周知であり、そしてインターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-18(IL-18)、インターロイキン-33(IL-33)および/またはインターフェロンガンマ(IFN-ガンマ)に対する中和抗体または抗体誘導体またはそれらのフラグメント;インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-18(IL-18)またはインターフェロンガンマ(IFN-ガンマ)をコードする核酸分子と特異的に相互作用するアンチセンスオリゴヌクレオチド;インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-33(IL-33)、インターロイキン-18(IL-18)またはインターフェロンガンマ(IFN-ガンマ)に対するsiRNAまたはRNAi;機能性のインターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-33(IL-33)、インターロイキン-18(IL-18)またはインターフェロンガンマ(IFN-ガンマ)コードする核酸分子と特異的に相互作用するリボザイム;インターロイキン-1(IL-1)アンタゴニスト、インターロイキン-18(IL-18)アンタゴニストおよびインターフェロンガンマ(IFN-ガンマ)アンタゴニスト;からなる群から選択される化合物が含まれていてもよいが、これらには限定されない。IL-1、IL-18またはIFN-ガンマのアンタゴニストは、特に、(1または複数の)対応する受容体アンタゴニストであってもよい。
【0023】
用語caspase 1-依存性サイトカイン(IL-1、IL-33、IL-33またはIFN-ガンマなど、そして特に、IL-1)の“阻害剤”または“アンタゴニスト”は、当該技術分野において公知であり、当業者により容易に理解される。本発明に従って、用語“阻害剤”/“アンタゴニスト”は、本明細書中の以下において記載される、分子または物質または化合物または組成物または薬剤またはそれらのいずれかの組合せを意味し、それらは本明細書中に記載される天然のサイトカイン作用およびより具体的にはIL-1の受容体-媒介性活性を、阻害および/または減少させることができる。用語“阻害剤”は、本件出願中において使用する場合、用語“アンタゴニスト”と互換性である。用語“阻害剤”は、とりわけ、Mutschler, (“Arzneimittelwirkungen” (1986), Wissenschaftliche Verlagsgesellschaft mbH, Stuttgart, Germany)中に記載される様な、競合的アンタゴニスト、非-競合的アンタゴニスト、機能的アンタゴニストおよび化学的アンタゴニストを含む。本発明による用語“部分的阻害剤”は、とりわけ非-競合的メカニズムを通じて、アゴニストの作用を不完全にブロックすることができる、分子または物質または化合物または組成物または薬剤またはこれらのいずれかの組合せを意味する。阻害剤は、部分的な、好ましくは完全な停止を引き起こす様式でcaspase1-依存性サイトカイン(特に、IL-1)の生合成を変化、相互作用、修飾、および/または阻害させるか、またはサイトカインの生物学的機能を変化、相互作用、修飾、および/または阻害させることが好ましい。その停止は、可逆的または不可逆的のいずれであってもよい。本発明により使用される阻害剤は、生物学的阻害剤によるもの(例えば、IL-1の阻害のための“Kineret(登録商標)”/アナキンラなど);IL-18の阻害のためのIL-18結合分子によるもの(IL-18 bpまたはTadakinig-アルファ;例えば、WO 99/09063を参照);IFN-Nの阻害のための可溶性IFN-ガンマ受容体によるもの(とりわけ、Michiels (1998), J. Biochem Cell Biol. 30, 505に記載されるもの)であってもよく、または低分子などの化学的阻害剤であってもよい。
【0024】
当業者は、本明細書中に記載される方法のいずれかに従って同定されおよび/または特徴付けされ、そして特にIL-1などのcaspase-1依存性サイトカインの阻害剤である、試験化合物の阻害性作用および/または特徴を評価するため、本発明の化合物および方法を容易に使用することができる。
【0025】
用語“試験化合物”または“試験される化合物”は、特にIL-1などのcaspase-1依存性サイトカインの阻害剤の推定阻害剤として、本発明の1またはそれ以上のスクリーニング方法により試験される、分子または物質または化合物または組成物または薬剤またはそれらのいずれかの組合せのことをいう。試験化合物は、いずれかの化学物質、例えば無機化学物質、有機化学物質、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、またはそれらの組合せ、または本明細書中に記載されるいずれかの化合物、組成物または薬剤であってもよい。本発明の文脈において使用される場合の用語“試験化合物”は、用語“試験分子”、“試験物質”、“タンパク質候補物”、“候補物”または上述した用語と互換的であることを理解すべきである。
【0026】
従って、本明細書中の以下において記載される小型ペプチドまたはペプチド-様分子は、caspase-1依存性サイトカイン、例えば特にIL-1などの阻害剤の(1または複数の)阻害剤についてのスクリーニング方法において使用されると予想される。そのような小型ペプチドまたはペプチド-様分子は、タンパク質の活性部位に結合しそして占有して、それにより触媒部位を物質に対してアクセスできないようにし、その結果、正常な生物学的活性を阻害する。さらに、いずれかの生物学的または化学的な(1または複数の)組成物または(1または複数の)物質は、caspase-1依存性サイトカインの阻害剤、例えば特にIL-1の阻害剤、として予想することができる。阻害剤の阻害性機能は、当該技術分野において公知の方法により、そして本明細書中に記載される方法により、測定することができる。そのような方法は、相互作用アッセイ、例えば免疫沈降アッセイ、ELISA、RIA、および特異的阻害アッセイ、例えば添付の実施例において提供されるアッセイ(例えば、酵素in vitroアッセイ)および遺伝子発現についての阻害アッセイ等、を含む。本件出願の文脈において、細胞がcaspase-1依存性サイトカインの阻害剤、例えば特にIL-1の阻害剤、を発現することが予想される。そのような細胞は、例えば、IL-1の発現を行うことができる、例えば、腹膜マクロファージである。caspase-1依存性サイトカインに対する受容体、例えばIL-1受容体、を発現する細胞は、例えば、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、好中球等を含む。
【0027】
さらに、caspase-1依存性サイトカインの阻害剤の機能性についての公知の試験システムは、例えば、マクロファージおよび好中球の活性化後およびマウスにおけるショックの誘導後の、サイトカイン放出のELISA解析が含まれる。
【0028】
同様に、好ましい潜在的候補物分子またはIL-1とIL-1受容体との相互作用の構成要素を接触させる場合に使用される分子の候補混合物は、とりわけ、天然に存在しおよび/または合成的に、組換え的におよび/または化学的に生成される、化学的起源または生物学的起源のものである、物質、化合物、または組成物であってもよい。
【0029】
合成化合物ライブラリは、Maybridge Chemical Co.(Trevillet, Cornwall, UK)、Comgenex(Princeton, N.J.)、Brandon Associates(Merrimack, N.H.)、およびMicrosource(New Milford, Conn.)から商業的に入手可能である。稀少な化学的ライブラリは、Aldrich(Milwaukee, Wis.)から入手可能である。あるいは、細菌抽出物、真菌抽出物、植物抽出物、および動物抽出物の形態での天然化合物のライブラリは、例えば、Pan Laboratories(Bothell, Wash.)またはMycoSearch(N.C.)から入手可能であり、または容易に産生可能である。さらに、天然に作製されたライブラリおよび化合物、そして合成的に作製されたライブラリおよび化合物は、従来技術の化学的手段、物理的手段、および生化学的手段を通じて、容易に修飾される。
【0030】
さらに、化学的ライブラリの生成は、当該技術分野において周知である。例えば、コンビナトリアルケミストリーを使用して、本明細書中で記載されるアッセイにおいてスクリーニングされる化合物のライブラリを生成する。コンビナトリアル化学物質ライブラリは、多数の化学的“ビルディングブロック”試薬を組み合わせることによる、化学的合成または生物学的合成のいずれかにより生成された多様な化学的化合物の集合物である。例えば、ポリペプチドライブラリなどの直鎖コンビナトリアル化学物質ライブラリは、全ての可能性のある組合せでアミノ酸を組み合わせて、所望の長さのペプチドを得ることにより、形成される。理論的には、数百万もの化合物を、化学的ビルディングブロックのそのようなコンビナトリアルミキシングを通じて、合成することができる。例えば、あるコメンテーターは、100個の互換的な化学的ビルディングブロックの体系的なコンビナトリアルミキシングの結果、1億個の四量体化合物または100億個の五量体化合物の理論的な合成を生じることを観察した(Gallop, Journal of Medicinal Chemistry, Vol. 37, No. 9,1233-1250 (1994))。天然生成物ライブラリを含む当業者に公知のその他の化学的ライブラリもまた、使用することができる。いったん生成された後は、コンビナトリアルライブラリを、所望の生物学的特性を有する化合物についてスクリーニングする。例えば、薬剤として有用である可能性があるか、または薬剤を開発するために有用である可能性がある化合物は、本明細書中で記載されるように同定され、発現され、そして精製される標的タンパク質に対して結合する能力を有する可能性がある。
【0031】
本発明の文脈において、化合物のライブラリをスクリーニングして、標的遺伝子産物の阻害剤、ここではcaspase-1依存性サイトカインの阻害剤、例えば特にIL-1の阻害剤として機能する化合物を同定する。最初に、低分子ライブラリを、当該技術分野において周知のコンビナトリアルライブラリ形成の方法を使用して生成する。U.S.特許番号5,463,564および5,574,656は、2種のそのような教示である。次いで、ライブラリ化合物をスクリーニングして、所望の構造的および機能的特性を有する化合物を同定する。U.S.特許番号5,684,711は、ライブラリをスクリーニングするための方法を検討する。スクリーニングプロセスを示すため、標的細胞または遺伝子産物とライブラリの化学的化合物とを組合せ、そして互いに相互作用させる。標識された基質を、インキュベーションに添加する。基質上の標識は、検出可能シグナルが代謝された基質分子から放出される様なものである。このシグナルの放出により、コンビナトリアルライブラリ化合物の標的酵素の酵素活性に対する作用をコンビナトリアルライブラリ化合物の不在下で放出されるシグナルと比較することにより、その作用を測定することを可能にする。各ライブラリ化合物の特徴は、細胞/酵素に対する活性を示す化合物を解析することができ、そして同定された様々な化合物に共通する特徴を分離しそしてライブラリの将来的な反復に組み合わせることができる様に、コードされる。いったん化合物のライブラリをスクリーニングしたら、その後のライブラリを、それらの化学的ビルディングブロックを使用して生成し、それは最初のスクリーニングラウンドにおいて示される特徴を有して、標的細胞/酵素に対する活性を有する。この方法を使用して、候補化合物のその後の反復は、酵素に対して高い特異性を有する阻害剤群を見出すことができるまで、標的細胞/酵素の機能を阻害するために必要とされるますます多くの構造的特徴および機能的特徴を有する。次いで、これらの化合物を、哺乳動物などの動物において使用するための抗生物質としてのそれらの安全性および効率について、さらに試験することができる。この特定のスクリーニング方法は、単なる例示であることは、容易に認識されるであろう。その他の方法は、当業者に周知である。例えば、標的タンパク質の生化学的機能が公知である場合、より多くの天然に存在する標的について、多様なスクリーニング技術が知られている。
【0032】
好ましくは、典型的には、候補薬剤は、有機分子であり、好ましくは50ダルトンより大きくそして約2,500ダルトン未満の、好ましくは約750ダルトン未満の、より好ましくは約350ダルトン未満の分子量を有する小型有機化合物であるが、候補薬剤は、多数の化学的クラスを包含する。
【0033】
候補薬剤はまた、タンパク質との構造的相互作用、特に水素結合に必要とされる官能基を含んでいてもよく、そして典型的には候補薬剤には、少なくともアミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基、またはカルボキシル基、好ましくは少なくとも2つの官能化学的基が含まれる。候補薬剤はしばしば、炭素環式構造またはヘテロ環式構造および/または1またはそれ以上の上述した官能基により置換された芳香族構造またはポリ-芳香族構造を含む。
【0034】
候補薬剤の例示的なクラスには、ヘテロ環、ペプチド、糖類、ステロイド、などが含まれていてもよい。化合物を修飾して、効率、安定性、薬剤適合性などを向上させることができる。薬剤の構造的同定を使用して、追加薬剤を同定し、生成しまたはスクリーニングすることができる。例えば、ペプチド薬剤が同定される場合、それらを様々な方法で修飾して、例えばD-アミノ酸、特にD-アラニンなどの非天然アミノ酸を使用して、アミノ末端またはカルボキシ末端を官能化することにより、例えば、アミノ基についてはアシル化またはアルキル化、そしてカルボキシ末端についてはエステル化またはアミド化(amidification)などすることにより、それらの安定性を高めることができる。その他の安定化方法には、カプセル化、例えば、リポソーム中へのカプセル化などが含まれていてもよい。。
【0035】
上述したように、候補薬剤はまた、ペプチド、アミノ酸、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、核酸、およびそれらの誘導体、構造類似体、または組合せを含む生体分子中に見出される。候補薬剤は、合成化合物または天然化合物のライブラリを含む多様な供給源から得られる。例えば、無作為化オリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含む、多様な有機化合物および生体分子の無作為のそして指向性の合成のために、多数の手段を利用可能である。あるいは、微生物抽出物、真菌抽出物、植物抽出物、および動物抽出物の形態の天然化合物のライブラリが、利用可能でありそして容易に作製される。さらに、天然のライブラリおよび化合物または合成的に作製されたライブラリおよび化合物を、従来からの化学的手段、物理的手段、および生化学的手段を通じて容易に修飾し、そしてそれらを使用してコンビナトリアルライブラリを作製することができる。公知の薬理学的物質を、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化などの、指向的化学的修飾または無作為的化学的修飾に供して、構造的類似体を製造することができる。
【0036】
caspase-1依存性サイトカインの、特にIL-1の、生合成または生物学的機能の阻害剤のスクリーニングのための開始時点として使用されるその他の候補化合物は、アプタマー、アプタザイム、RNAi、shRNA、RNAザイム、リボザイム、アンチセンスDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA、中和抗体、アフィボディ、トリネクチン、またはアンチカリンである。
【0037】
当業者には、IL-1、IL-33、IL-18および/またはIFN-ガンマなどのcaspase-1依存性サイトカインの有用な阻害剤について、既に知られている。例えば、公知のインターロイキン-18(IL-18)アンタゴニストは、インターロイキン-18結合タンパク質(Tadakinig-アルファ)である。インターフェロンガンマ(IFN-ガンマ)の公知の阻害剤/アンタゴニストは、可溶性IFN-ガンマ受容体(とりわけ、Michiels (1998), J. Biocehm Cell Biol. 30, 505中に記載されるもの)であってもよい。
【0038】
同様に、インターロイキン-1(IL-1)アンタゴニスト/阻害剤は、当該技術分野において公知であり、そして例えば、IL-1 TRAP(Economides et al., nat med 2003)、CDP 484(Braddock et al. Nat Rev drug discovery 3, 2004)、可溶性IL-1受容体アクセサリータンパク質(sIL-1RAcP;Smeets et al. Arthritis rheum 48, 2003)、およびデコイ受容体IL-1RII(Neumann et al. J Immunol 165, 2000)を含む。本発明の文脈において最も好ましいIL-1アンタゴニスト/阻害剤は、特に、下位運動ニューロン疾患(進行性筋萎縮症または脊髄性筋萎縮症など)またはALSの治療においては、“Kineret(登録商標)”/アナキンラである。
【0039】
しかしながら、本発明の文脈において、caspase-1依存性サイトカインの、特にIL-1の、本明細書中で記載される阻害剤/アンタゴニストもまた、ハンチントン病、アルツハイマー病、またはパーキンソン病などの慢性的神経変性障害の治療において使用されることが予想される。
【0040】
本明細書中において使用される場合、用語“下位運動ニューロン疾患”は、下位運動ニューロンが臨床的に影響を受ける(例えば、変性されまたは損傷される)疾患のことをいう。進行性筋萎縮症(PMA)などのLMNDの散発性型において、下位運動ニューロンの上述の変性または破壊は、最初の延髄サイン(bulbar signs)から四肢遠位部または四肢近位部の関係まで多様な症候を引き起こす。同様に、脊髄性筋萎縮症(SMA)またはケネディ症候群等の遺伝型のLMNDの治療が、本発明の文脈において予想される。従って、本発明の特に好ましい態様において、進行性筋萎縮症(PMA)、脊髄性筋萎縮症(SMA)および球脊髄性筋萎縮症(Kennedy's disease)などの下位運動ニューロン疾患が、治療され、予防され、および/または改善される。
【0041】
用語“進行性筋萎縮症(PMA)”は、本発明の文脈において、もっぱら下位運動ニューロンのみが衰退する進行性神経疾患のことをいい、萎縮と線維束性攣縮とを引き起こす。ALSとは対照的に、PMAは急速に進行するわけではない。ALSにおいて、全ての運動ニューロンに影響する可能性があり、そして進行は遅い場合も速い場合もある。繰り返すが、ALSとは対照的に、PMAにおいては、痙性、活発な反射、またはバビンスキー兆候などの上位運動ニューロン困難は存在しない。さらに、PMAにおいては、Lewy小体様ヒアリン封入体またはBunina-小体などの封入体(Matsumoto, Clin Neuropathol. 1996 15(1), 41-6)が、下位運動ニューロンに限定的に見出され、一方ALSにおいては、これらの封入体もまた、脳幹中に生じる。これらの封入体は、好ましくは、H&E染色および免疫組織化学などの標準的な組織学的アッセイにより検出される。ALSおよびPMAを患う患者ごとに、平均生存率は異なる。ALSについての典型的な生存率は、最初の診断からおよそ2〜5年である。PMAにおいては、生存は、5〜10年のオーダーである。PMA患者は、ALS患者に影響する可能性がある認知変化を患わない。
【0042】
当該技術分野において、2種のPMAサブタイプが存在すると考えられており、一方は斑状の分配を伴うもの、そしてもう一方は脚部への分配を伴うものである。最初のケースにおいて、進行は予測不可能なものであり、一方後者においては、脚部から腕部までの進行の間に長い潜伏期があり、その後再び延髄領域まで進行する。
【0043】
PMAを患う患者は、ALS患者よりも長く生存することが知られている。いくつかの症例において、PMA患者の症候は、身体の腕部または脚部以外の部分に広がるまでの長期間のあいだは、腕部または脚部に限定されている場合がある。本発明において、驚くべきことに、caspase I-依存性サイトカインの特異的阻害剤を用いて、特に、IL-1RN(Anakinra/Kineret(登録商標))を用いて、PMA患者を効果的に治療することができることを、見出した。本発明の文脈において、PMA患者は、ALS患者と比較して、IL-1RNに対してより良好な応答作用をしめす。理論に束縛される訳ではなく、PMA患者におけるより良好な応答は、PMA患者が、ALS患者と比べて、ゆっくりとした疾患の進行を示すという事実に基づいている可能性がある。
【0044】
さらなる利点として、IL-1RNは、好ましくは、末梢的に注射され、従って、ALSの場合と比較して、PMAを罹患するニューロンに対してよりアクセスしやすい。従って、IL-1RNの末梢的注射もまた、PMA患者におけるIL-1RNに対する応答を実際に上昇させる。ALSにおいて、多数の罹患ニューロンが、血液脳関門の向こう側にあり、そして従って、IL-1RNに対してアクセスできない。
【0045】
上述したように、LMNDの遺伝型もまた、本発明に従って、caspase I-依存性サイトカインの特異的阻害剤を使用して治療し、予防し、および/または改善することができる。脊髄性筋萎縮症(SMA)およびケネディー症候群などのLMNDの例示的な遺伝型を、以下に記載する。
【0046】
脊髄性筋萎縮症(SMA)は、筋肉運動に影響を与える遺伝性疾患である。これは前角の信号伝達細胞に衰退を引き起こす。下位運動ニューロン活性の喪失は、筋肉の弱化および萎縮を引き起こす。SMAは、発症する年齢および症候の重症度に基づいて、4つの型に分類される。I型、II型、およびIII型は、幼少期に発症する。IV型は、成人になってから開始するSMAであり、通常は35歳以上に開始する症候を伴う。
【0047】
SMA I型 - Werdnig-Hoffman疾患としても知られているが、SMA I型は、最も重症型の疾患である。それは、出生前(いくらかの母親は、妊娠の最後の月に胎児の動きが減少することに気付く)から、生後6ヶ月までに発症する可能性がある。患者は、座ることが全くできず、そして2歳よりも前に呼吸機能不全で死亡する。SMA II型 - これは、中間型の疾患であり、そして生後6〜18ヶ月までに発症する。患者は、立つことが全くできず、平均余命(life expectancy)は短くなる。SMA III型 - クーゲルバーグ・ウェランダー(Kugelberg-Welander)病としても知られており、最も症状が軽い小児期型の疾患である。それは、生後18ヶ月〜17歳の間に発症する。機能的喪失は、徐々に顕れ、そして非常に様々である。平均余命は正常である場合がある。SMA IV型 - これは、成人期に始まるSMAであり、そしてI型、II型およびIII型と比べて通常はより穏やかな型の疾患である。男性においてのみ生じるSMAの成人型 - ケネディー症候群または球脊髄性筋萎縮症(spinal-bulbar muscular atrophy)と呼ばれる - も存在する。ケネディー症候群は、10代〜70代までの男性が罹患する可能性があるが、通常、20〜40歳の間に発症する。
【0048】
SMAは、欠陥遺伝子により生じると考えられている。小児期SMA(I型、II型およびIII型)は全て、常染色体劣性疾患である。約40人に1人が、欠陥遺伝子を保有する。小児期に開始するSMAは稀であり、100,000人に4人の子供が罹患する。成人期に開始するSMAはさらに稀であり、300,000人に約1人が罹患する。SMAは、男性、特に37ヶ月から18歳までの間に疾患を発症する男性、においてより一般的ではあるが、男性も女性も両方ともが罹患する可能性がある。SMA I型〜III型は、染色体5q11.2-13.3に4つの遺伝子:SMN遺伝子、NAIP遺伝子、p44遺伝子、およびH4F5遺伝子、をマッピングした。
【0049】
ケネディー症候群は、進行が遅い、X-連鎖遺伝的遅発性近位球脊髄性筋萎縮症(spinal and bulbar muscular atrophy)である。この疾患は、アンドロゲン受容体遺伝子の第1エクソン中にCAGトリヌクレオチドリピートが展開し、結果として(ハンチントン病と同様に)凝集する傾向があるポリグルタミンの展開を伴うタンパク質が生成されることにより引き起こされると考えられている。これらの凝集物の多くは、ユビキチン陽性である。上述したように、ハンチントン病もまた、caspase I-依存性サイトカインの特異的阻害剤を用いて、特に、IL-1RNを用いて、本発明により治療することができる。
【0050】
本発明において記載される好ましい医学的介入は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)および特に、家族性筋萎縮性側索硬化症(FALS)の治療、予防および/または改善である。この家族性筋萎縮性側索硬化症(FALS)は、Cu/Znスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)の変異/改変体と連鎖する可能性がある。
【0051】
本発明の文脈において、caspase 1-依存性サイトカインの特異的阻害剤/アンタゴニスト、特にIL-1の阻害剤を用いて治療される患者は、ヒトの患者であることが理解される。しかし、本発明は、ヒトの医学的介入には限定されない。
【0052】
さらに、caspase1-依存性サイトカインの特異的阻害剤/アンタゴニスト、特に本明細書中で記載されるIL-1の阻害剤を、同時治療(co-therapy)アプローチにおいて使用することができることは、本発明の範囲内である。例えば、特異的IL-1阻害剤/アンタゴニスト(ここではIL-1受容体アンタゴニスト)の例としての“Kineret(登録商標)”/アナキンラを、アセチルシステインなどの抗酸化剤、またはリルゾール、デキストロメトルファン(Dexotromethorpan)、ラモトリギン、ガバペンチン、トピラメート、ニモジピン、またはベラパミルなどの抗興奮毒性剤と組み合わせて使用することができることが、予想される。同様に、栄養素(例えば、BDNF、IGF-1、CNTF)を、そのような同時治療(co-therapy)アプローチにおいて使用することができる。
【0053】
本発明を添付の図面および図面レジェンドおよび結果を参照して詳細に記載する前に、本発明は、特定の方法、プロトコル、細胞、動物モデル、試薬など本明細書中に記載されたものに限定されないことが理解されるべきである。というのも、これらは変更される可能性があるためである。本明細書中で使用される用語は、特定の態様を記載することのみを目的としたものであり、そして添付する請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図したものではないこともまた、理解されるべきである。異なる定義がされていない限り、本明細書中で使用される全ての技術的用語および科学的用語は、当業者により一般的に理解されるのと同一の意味を有する。
【0054】
好ましくは、本明細書中で使用される用語は、“A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations)”, Leuenberger, H.G.W, Nagel, B. and Kolbl, H. eds.(1995), Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerland中に記載される様に定義される。
【0055】
本明細書およびそれに続く請求の範囲を通じて、文脈において異なることが要求されていない限り、用語“含む”およびその変形は、言及される整数または工程または複数の整数や複数の工程のグループが含まれることを意味すると理解されるが、それ以外の整数や工程または整数や工程のグループを排除することを意味するとは理解されない。
【0056】
本明細書中および添付の請求の範囲中で使用される場合、単数形(“a”、“an”、および“the”)には、文脈において異なることが明確に示されていない限り、複数の参照物が含まれることに注意すべきである。このように、例えば、単数形の“試薬”の言及には、またはそれ以上のそのような異なる試薬が含まれ、そして単数形の“方法”の言及には、修飾することができるかまたは本明細書中に記載する方法に置換することができる、当業者に撮って公知の対応する複数の工程および複数の方法についての言及もまた含まれる。
【0057】
図面は以下の内容を示す:
図1 SOD1欠損は、CASPASE 1活性化を低下させる
腹膜野生型マクロファージおよび腹膜sod1 null(SOD1-KO)マクロファージを、500 ng/ml LPSを用いて3時間プライミングし、その後2 mM ATPを用いてパルス負荷した。細胞溶解液を、caspase-1のp10サブユニットに対する抗体を用いてイムノブロットした。sod1 null(SOD1-KO)マクロファージにおいて、活性サブユニットp10を30分間の活性化の後検出することができないため、caspase-1活性化は低下する。60分後の次のバンドは、野生型と比較してずっと弱い。
【0058】
図2 SOD1欠損は、IL-1ベータ(IL-1β)およびIL-18の成熟を低下させる
(A)腹膜野生型マクロファージおよび腹膜sod1 null(SOD1-KO)マクロファージを、500 ng/mL LPSを用いて3時間プライミングし、その後2 mM ATPを用いてパルス負荷した。(A)細胞上清中への成熟IL-1ベータ(IL-1β)の分泌を、ELISAにより調べた。(B)腹膜野生型マクロファージおよび腹膜SOD1-KOマクロファージを、2 mM ATPを用いて刺激した。細胞上清への成熟IL-18の分泌を、ELISAにより調べた。バーは、平均±平均の標準誤差(s.e.m.)を示す。IL-1ベータ(IL-1β)およびIL-18の分泌は、WTと比較して、sod1null(SOD1-KO)マクロファージにおいて強力に低下する。このことは、図1において示されたcaspase-1の切断が低下されたためである。
【0059】
図3 CASPASE-1非依存性サイトカインの分泌は、SOD1 NULL(SOD1-KO)マクロファージにおいて影響を受けない
(A、B)腹膜マクロファージを、500 ng/ml LPSの存在下にて培養した。caspase-1非依存性サイトカインである腫瘍壊死因子(TNF)(A)およびIL-6(B)の上清への分泌を、ELISAにより調べた。TNFおよびIL-6の両方の分泌は、sod1 null(SOD1-KO)マクロファージにおいて影響を受けない。バーは、平均±s.e.mを示す。この図は、図2において示されるIL-1ベータ(IL-1β)およびIL-18に対する効果が、caspase-1依存性サイトカインに対して特異的であることを示す。
【0060】
図4 Sod1 null(SOD1-KO)マウスは、Caspase-1依存性サイトカインの産生の減少を示す
(図4.1 A、B、C)
齢を適合させたメスの野生型マウスおよびsod1 null(SOD1-KO)マウスに、腹腔内で、E. coli LPS(15 mg/kg)を注射した。IL-18(A)、IL-1β(B)およびIFN-γ(C)の血清レベルを、抗原チャレンジ後、2時間(A)および6時間(B、C)に調べた。線は、平均血清レベルを示す。3種全てのサイトカインの血清レベルは、野生型対照と比較して、SOD1-KOマウスにおいて実質的に低下した。これらの結果は、腹膜マクロファージから以前に提示されたデータと一貫している(図2)。caspase-1依存性サイトカインであるIL-1ベータ(IL-β)およびIL-18の分泌は、caspase-1の活性の低下により、低下する(図1)。IFN-ガンマ(IFN-γ)分泌は、それがIFN-ガンマ誘導性因子であるIL-18の存在に依存しているため、低下する。
【0061】
(図4.2 A、B、C)
齢を適合させたメスの野生型マウスおよびSOD1-KOマウスに、腹腔内で、E. coli LPS(15 mg/kg)を注射した。IL-1β(A)、IL-18(B)およびIFN-γ(C)の血清レベルを、抗原チャレンジ後、2、6および12時間に調べた。線は、平均血清レベルを示す。3種全てのサイトカインの血清レベルは、野生型対照と比較して、SOD1-KOマウスにおいて顕著に低下した。これらの結果は、腹膜マクロファージから以前に提示されたデータと一貫している(図2)。Caspase-1依存性サイトカインであるIL-1βおよびIL-18の分泌は、caspase-1の活性化の低下により、低下する(図1)。IFN-γ分泌は、それがIFN-γ誘導性因子であるIL-18の存在に依存しているため、低下する(*、P<0.01;**、P<0.001;***、P<0.0001;NS、有意差なし)。
【0062】
図5 CASPASE-1非依存性サイトカインの産生は、SOD1 NULLマウスにおいて影響を受けない
(A、B、C) 齢を適合させたメスの野生型マウス、sod1 null(SOD1-KO)マウスに、腹腔内で、E. coli LPS(15 mg/kg)を注射した。TNF(A)、IL-6(B)およびIL-12p70(C)の血清レベルを、抗原チャレンジ後、2時間(A、C)または6時間(B)に調べた。線は、平均血清レベルを示す。sod1 null(SOD1-KO)マウスにおけるこれらのcaspase-1非依存性サイトカインの分泌は、野生型対照と比較して、相違しない。このことは、SOD1-KOマウスにおけるcaspase-1依存性サイトカインの分泌の特異的な低下を示す(図4)。
【0063】
図6 Sod1 nullマウスは、LPS-誘導性敗血症性ショックに対してより耐性である
齢を適合させたメスの野生型マウスおよびsod1 null(SOD1-KO)マウスに、腹腔内で、E. coli LPS(15 mg/kg)を注射した。野生型マウス(n=10)およびsod1 null(SOD1-KO)マウス(n=9)の生存をモニタリングした。SOD1 null(SOD1-KO)マウスは、LPS-誘導性敗血症性ショックに対して、野生型対照と比較して、顕著に耐性が高い(P=0,0041;ログランク検定)。これらのデータは、caspase-1またはcaspase-1依存性サイトカインの阻害は、敗血症性ショックについての潜在的な治療法であることを示す。
【0064】
図7 IL-1ベータ(IL-1β)の分泌およびCASPASE-1の活性化が、変異型ヒトG93A-SOD1トランスジェニックマウス由来のミクログリアおよび星状細胞において増加する
ミクログリアおよび星状細胞を、野生型マウスおよび変異ヒトG93A SOD1トランスジェニックマウス(mtSOD1)の新生仔(新生児)マウス脳から単離した。(A)ミクログリアおよび星状細胞を500 ng/mL LPSを用いて3時間プライミングし、その後2 mM ATPまたは5μMナイジェリシンを用いてそれぞれパルス負荷した。成熟IL-1ベータ(IL-1β)の細胞上清中への分泌を、刺激の30分後および60分後にELISAにより調べた。バーは、平均±s.e.mを示す。mtSOD1マウス由来のミクログリアは、野生型対照と比較して、ATPまたはナイジェリシンを用いて刺激した後に、IL-1ベータ(IL-1β)の分泌の増加を示す。野生型動物およびmtSOD1動物由来の星状細胞は、ATPを用いて刺激した場合に、IL-1ベータ(IL-1β)分泌の相違を示さない。対照的に、mtSOD1星状細胞は、ナイジェリシンを用いて刺激した後、野生型星状細胞よりも、かなり多くのIL-1ベータ(IL-1β)を分泌する。
【0065】
(B)野生型星状細胞およびmtSOD1星状細胞を、500 ng/mL LPSを用いて3時間プライミングし、その後5μMナイジェリシンを用いて30分または60分パルス負荷した。細胞溶解液を、caspase-1のp10サブユニットに対する抗体を用いてイムノブロットした。caspase-1の活性サブユニットであるp10は、ナイジェリシンを用いて刺激した後に、mtSOD1星状細胞中でのみ検出することができる。
【0066】
総合すれば、これらの実験は、mtSOD1マウス由来の星状細胞およびミクログリアは、野生型対照細胞と比較して、caspase-1刺激に対して過反応性であることを示す。
【0067】
図8 IL-1βは、ALS発症機序に寄与する
(A〜D)MtSOD1トランスジェニックマウスを、CASP1-欠損マウス(n=24)(A)、IL-1β-欠損マウス(n=21)(B)、IL-18-欠損マウス(n=24)(C)、およびIL-1β/IL-18-二重-欠損マウス(n=25)(D)と交配し、次世代の生存をモニタリングし、そしてmtSOD1マウス(n=25)と比較した。(A)MtSOD1×CASP-1-KO動物は、mtSOD1動物よりも顕著に長く生存する(中央値生存mtSOD1×CASP1-KO=162日;中央値生存mtSOD1=153日;P<0.0001;ログランク検定)。このことは、caspase-1が、ALSの発症機序に寄与することを示す。(B)MtSOD1×IL-1β-KO動物は、mtSOD1動物よりも顕著に長く生存する(中央値生存mtSOD1×IL-1β-KO=159日;中央値生存mtSOD1=153日;P=0.0006;ログランク検定)。このことは、IL-1βが、ALSの発病プロセスに寄与することを示す。(C)MtSOD1×IL-18-KO動物は、mtSOD1マウスよりも長く生存するわけではない(中央値生存mtSOD1×IL-18-KO=154日;中央値生存mtSOD1=153日;P=0.9265;ログランク検定)。このことは、IL-18が、ALSの発症機序に寄与しないことを示す。(D)MtSOD1×IL-1β/IL-18-DKO動物は、mtSOD1マウスよりも顕著に長く生存する(中央値生存mtSOD1×IL-1β/IL-18-DKO=157日;中央値生存mtSOD1=153日;P=0.0061;ログランク検定)。これらのデータは、caspase-1がALSの発症機序に影響を及ぼすこと、そしてcaspase-1依存性サイトカインIL-1βにより媒介されることを示す。
【0068】
図9 変異型SOD1トランスジェニックマウスのIL-1RNを用いた処理により、mtSOD1マウスの中央値生存が増加し、そして疾患の進行が緩和される
(A、B)70日齢から始めて、mtSOD1マウスに、150 mg/kgのIL-1RN(Kineret(登録商標)/Anakinra)(n=21)、75 mg/kgのIL-1RN(n=23)のいずれか、またはプラセボ(担体のみ)(n=19)を、腹腔内に毎日注射した。処置は、動物が死亡するまで継続した。(A)動物の生存をモニタリングした。IL-1RN処置動物は、プラセボ処置対照よりも顕著に長く生存した(中央値生存:プラセボ=152日;150 mg/kg IL-1RN=160日(P=0.0036;ログランク検定);75 mg/kg IL1RN=159日(P=0.0145;ログランク検定))。(B)1週間に1回、ワイヤハンギングテストを使用して、各マウスの運動ニューロンパフォーマンスを分析した。バーは、平均±s.e.mを示す。IL-1RNを用いた処置により、疾患の進行が遅くなり、そしてワイヤハンギングテストにより評価する場合、第17週(P=0.0123;両側スチューデントt-テスト)および第18週(P=0.0095;両側スチューデントt-テスト)において、運動パフォーマンスが顕著に改善する。これらの結果は、IL-1RN処置により、mtSOD1マウスにおいて、ALS疾患の進行が遅くなることを示している。疾患の発病は処置によって影響を受けないが(B)、一方生存は長くなり(A)、そして疾患の症候は軽減された(B)。
【0069】
図10 ALS患者由来の単球およびマクロファージは、CASPASE-1刺激に対して過反応性である
末梢血単球(A、C)およびマクロファージ(B、D)を、SOD1遺伝子に変異を有する2人のALS患者の血液および2人の健康な対照の血液から単離した。細胞を、LPS(500 ng/ ml)により3時間プライミングし、その後caspase-1活性化剤(ATP、ナイジェリシン)を用いて刺激した。IL-1ベータ(IL-1β)分泌を、60分後にELISAにより調べ(A、B)、そして細胞死を120分後のLDH放出により評価した(C、D)。ALS患者の単球およびマクロファージの両方とも、健康対照よりも、細胞上清中でより高いレベルの成熟IL-1ベータ(IL-1β)およびLDHを示し、このことはcaspase-1刺激に対して過反応性であることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性神経変性障害の治療、予防または改善を必要とする被検体に対して、caspase I-依存性サイトカインの特異的阻害剤を投与することを含む、慢性神経変性障害を治療、予防または改善するための方法。
【請求項2】
神経変性障害を治療、予防または改善するための、caspase I-依存性サイトカインの特異的阻害剤。
【請求項3】
神経変性障害を治療、予防または改善するための医薬組成物の製造における、caspase I-依存性サイトカインの特異的阻害剤の使用。
【請求項4】
caspase I-依存性サイトカインが、インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-18(IL-18)、インターロイキン-33(IL-33)、およびインターフェロン-γ(IFN-γ)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法、請求項2に記載のcaspase I-依存性サイトカインの特異的阻害剤、または請求項3に記載の使用。
【請求項5】
インターロイキン-1(IL-1)がIL-1αおよび/またはIL-1βである、請求項4に記載の方法、caspase I-依存性サイトカインの特異的阻害剤、または使用。
【請求項6】
caspase I-依存性サイトカインの特異的阻害剤が、インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-33(IL-33)、インターロイキン-18(IL-18)および/またはインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)に対する中和抗体または抗体誘導体またはそれらのフラグメント;インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-18(IL-18)、インターロイキン-33(IL-33)またはインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)をコードする核酸分子と特異的に相互作用するアンチセンスオリゴヌクレオチド;インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-18(IL-18)またはインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)に対するsiRNAまたはRNAi;機能的インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-33(IL-33)、インターロイキン-18(IL-18)またはインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)をコードする核酸分子と特異的に相互作用するリボザイム;インターロイキン-1(IL-1)受容体アンタゴニスト、インターロイキン-18(IL-18)受容体アンタゴニストおよびインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)受容体アンタゴニスト;からなる群から選択される、請求項1、4または5に記載の方法、請求項2、4または5に記載のcaspase I-依存性サイトカインの特異的阻害剤、または請求項3、4または5に記載の使用。
【請求項7】
インターロイキン-18(IL-18)アンタゴニストがインターロイキン-18結合タンパク質(Tadakinig-α)である、請求項6に記載の方法、caspase I-依存性サイトカインの阻害剤、または使用。
【請求項8】
インターフェロンγ(IFN-γ)アンタゴニストが可溶性IFN-ガンマ受容体である、請求項6に記載の方法、caspase I-依存性サイトカインの阻害剤、または使用。
【請求項9】
インターロイキン-1(IL-1)アンタゴニストがアナキンラ、IL-1 TRAP、およびCDP 484からなる群から選択される、請求項6に記載の方法、caspase I-依存性サイトカインの阻害剤、または使用。
【請求項10】
受容体アンタゴニストがタンパク質性アンタゴニストまたはペプチド性のアンタゴニストである、請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法、caspase I-依存性サイトカインの阻害剤、または使用。
【請求項11】
受容体アンタゴニストがインターロイキン-1受容体アンタゴニストである、請求項10に記載の方法、caspase I-依存性サイトカインの阻害剤、または使用。
【請求項12】
受容体アンタゴニストがヒトインターロイキン-1受容体アンタゴニストである、請求項11に記載の方法、caspase I-依存性サイトカインの阻害剤、または使用。
【請求項13】
ヒトインターロイキン-1受容体アンタゴニストがアナキンラ(Kineret(登録商標))である、請求項11に記載の方法、caspase I-依存性サイトカインの阻害剤、または使用。
【請求項14】
神経変性障害が、下位運動ニューロン疾患、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病、パーキンソン病、およびハンチントン病からなる群から選択される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法、caspase I-依存性サイトカインの阻害剤、または使用。
【請求項15】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)が家族性筋萎縮性側索硬化症(FALS)である、請求項14に記載の方法、caspase I-依存性サイトカインの阻害剤、または使用。
【請求項16】
家族性筋萎縮性側索硬化症(FALS)がCu/Znスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)の突然変異/変異と連鎖する、請求項15に記載の方法、caspase I-依存性サイトカインの阻害剤、または使用。
【請求項17】
下位運動ニューロン疾患が、進行性筋萎縮症(PMA)、脊髄性筋萎縮症(SMA)および球脊髄性筋萎縮症(Kennedy's disease)からなる群から選択される、請求項14に記載の方法、caspase I-依存性サイトカインの阻害剤、または使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−500748(P2011−500748A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530347(P2010−530347)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009039
【国際公開番号】WO2009/053098
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(598165611)マックス−プランク−ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・ヴィッセンシャフテン・エー・ファオ (4)
【Fターム(参考)】