神経細胞の誘導除去のための方法およびシステム
本発明は、神経細胞、特に、非増殖細胞(例えば、希突起膠細胞およびシュワン細胞)の誘導除去のための方法およびシステムに関する。上記方法およびシステムは、脱髄状態の表現型の形質もしくは特徴を示すように特異的に誘導され得る動物モデルを含む。本明細書で開示される方法およびシステムは、髄鞘再生を促進するもしくは脱髄状態の表現型の形質もしくは特徴の逆転を促進する化合物もしくは薬剤を同定することによって、薬物スクリーニングに有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府支援の研究に対する陳述
本発明は、国立衛生研究所により授与されたNS027336およびNS034939の下、政府支援により成された。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
関連出願
本願は、2009年9月2日に出願された米国仮特許出願61/275,839の利益を主張し、この米国仮特許出願は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0003】
(背景)
ニューロンの脱髄は、神経系におけるミエリンの減少によって特徴付けられる有害な状態である。ミエリンは、中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)に極めて重要な成分であり、それはニューロンの軸索を覆い、ミエリン鞘として公知の絶縁層を形成する。上記ミエリン鞘の存在は、上記軸索を下って伝達する電位の形態で神経シグナルの速度および完全性を増強する。ミエリン鞘の喪失は、感覚、運動および他のタイプの機能に重大な障害をもたらす。なぜなら、神経シグナルがその標的に余りにも遅く到達するか、非同期的に(例えば、ある神経における一部の軸索が、他のものより早く伝導する場合)到達するか、間欠的に(例えば、伝導が、高周波数においてのみ損なわれる場合)到達するか、もしくは全く到達しないかのいずれかであるからである。
【0004】
神経組織は、ニューロンおよび支持細胞もしくはグリア細胞を含む。グリア細胞は、哺乳動物の脳において約10〜1倍だけニューロンより数が勝る。グリア細胞は、4つのタイプに分けられ得る:星状細胞、希突起膠細胞、シュワン細胞およびミクログリア細胞。上記ミエリン鞘は、あるタイプのグリア細胞(すなわち、CNSにおける希突起膠細胞およびPNSにおけるシュワン細胞)の形質膜もしくは細胞膜によって形成される。髄鞘形成希突起膠細胞は、脱髄病変において同定されてきた。このことは、脱髄した軸索が、新たに合成された髄鞘で修復され得ることを示している。
【0005】
ニューロンの脱髄は、非常に多くの遺伝性および後天性の上記CNSおよびPNSの障害において現れている。これら障害としては、多発性硬化症(MS)、進行性多病巣性白質脳症(PML)、脳脊髄炎、橋中央ミエリン溶解(CPM)、抗MAG疾患、白質ジストロフィー、副腎脳白質ジストロフィー(ALD)、アレキサンダー病、キャナバン病、クラッベ病、異染性白質ジストロフィー(MLD)、ペリツェウス・メルツバッヘル病、レフサム病、コケイン症候群、Van der Knapp症候群、およびツェルヴェガー症候群、ギラン・バレー症候群(GBS)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)、および多巣性運動ニューロパチー(multifocual motor neuropathy)(MMN)が挙げられる。これら障害の大多数に関しては、治癒しないかもしくは有効な治療がわずかしかない。
【0006】
多発性硬化症は、上記中枢神経系の一般的な脱髄疾患である。上記疾患は、代表的には、再発および軽快によって臨床的に特徴付けられ、最終的には、慢性的な障害をもたらす。多発性硬化症のより初期の相は、通常は、ミエリン鞘に対する自己免疫の炎症性の攻撃によって特徴付けられ、麻痺、協調の欠如、感覚障害および視覚障害をもたらす。上記疾患のその後の慢性的な進行相は、代表的には、上記ミエリン鞘の活発な変性および上記脱髄病変の不適切な髄鞘再生(remyelination)に起因する(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。
【0007】
希突起膠細胞は、脱髄障害の主要な標的細胞であり、これら障害からの回復には希突起膠細胞による正常なミエリンの再生が必要であると考えられている。しかし、髄鞘再生は、しばしば、不十分なプロセスであり、このプロセスは、顕著な障害および/もしくは死をもたらす。証拠から、髄鞘再生の主要な細胞機構は、発生的髄鞘形成(developmental myelination)とは異なり得ることが示唆されている(非特許文献1;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8)。従って、理解されている髄鞘再生は、ミエリン修復の原因、影響および改善選択肢を同定する重要な局面のうちの1つである。実際に、MS研究における大きな挑戦は、髄鞘再生失敗の原因を理解すること、およびその結果を改善する方法を考案することである。近年において、いくつかの系統の証拠から、MSにおける脱髄した病変は、希突起膠細胞前駆細胞(OPC)において欠損しておらず、むしろ、髄鞘再生の失敗は、希突起膠細胞の不十分な再配置(repopulation)と関連することが示唆された(非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11)。
【0008】
現在では、髄鞘再生した軸索を同定する能力は、このような軸索のミエリン鞘が、例えば、同定のための電子顕微鏡(EM)分析の使用を介して、より薄くなる傾向にあるという前提に基づいている。インビボでの髄鞘再生の慣用的な分析には、特に、実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)(ここで上記脱髄および髄鞘再生は、1つの特定の位置に正確に位置させることはできない)のような状況においては、EM分析は、極端に骨が折れるかつ高価であり得る。
【0009】
従って、ニューロンの髄鞘再生の分子的基礎の同定および解明を促進するために、神経細胞(例えば、髄鞘形成細胞)の誘導除去(inducible ablation)のための方法およびシステムが未だにかなり必要である。例えば、非免疫ベースの方法を使用して、神経細胞の誘導除去のための方法およびシステムが必要である。動物モデルの使用を介するような方法およびシステムは、髄鞘再生の分子的基礎を解明するために使用され得るのみならず、髄鞘再生を促進するのに有効な生物学的に活性な薬剤を開発するためにも使用され得る。上記動物モデルはまた、脱髄障害の表現型特徴を研究し、これら表現型を逆転する生物学的に活性な薬剤を同定するための大いに必要とされているシステムを提供し得る。本発明は、これら必要性を満たし、関連する利点もまた提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Franklin,Nat.Rev.Neurosci.3:705−714(2002)
【非特許文献2】Bruckら,J.Neurol.Sci.206:181−185(2003)
【非特許文献3】Compstonら,Lancet 359:1221−1231(2002)
【非特許文献4】Balabanovら,Nat.Neurosci.8:262−264(2005)
【非特許文献5】Farhadiら,J.Neurosci.23:10214−10223(2003)
【非特許文献6】Ruffiniら,Am.J.Pathol.165:2167−2175(2004)
【非特許文献7】Arnettら,Science 306:2111−2115(2004)
【非特許文献8】Stidworhtyら,Brain 127:1928−1941(2004)
【非特許文献9】Changら,J.Neurosci.20:6404−6412(2000)
【非特許文献10】Lucchinettiら,Brain 122:2279−2295(1999)
【非特許文献11】Maedaら,Ann.Neurol.49:776−785(2001)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
(要旨)
本発明は、細胞の時間および組織特異的誘導除去のための方法およびシステムを提供する。一局面において、本発明は、第1の異種配列の発現を制御することであり、ここで上記発現は、組織特異的プロモーターによって制御され、発現は、誘導因子の添加によってブロックが解除される(unblocked)まで、ブロックされる。このことは、上記組織特異的プロモーターへの転写的接近およびタンパク質(これは、次いで、細胞死を誘導するタンパク質をコードする第2の異種配列の発現を誘導し得る)をコードする第1の異種配列の発現を可能にする。このような協調したシステムは、時間および位置での遺伝子発現の制御を可能にして細胞死をもたらす。一局面において、細胞は、神経細胞(例えば、髄鞘形成細胞)である。非ヒトトランスジェニック動物は、a)グリア細胞特異的プロモーターに作動可能に連結された第1の異種ヌクレオチド配列であって、ここで上記第1の異種ヌクレオチド配列は、第1の異種タンパク質をコードし、上記第1の異種ヌクレオチド配列は、上記動物において安定して発現される、第1の異種ヌクレオチド配列;およびb)第2の異種タンパク質をコードする第2の異種ヌクレオチド配列であって、ここで上記第2の異種タンパク質は、上記第1の異種タンパク質の活性化の際に発現され、非増殖グリア細胞の死滅を誘導し、ここで上記第1の異種タンパク質の初期活性化は、上記動物において上記非増殖グリア細胞の死滅を誘導し、上記動物において脱髄を生じ、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を生じ、そして上記1種以上の表現型変化は、上記第1の異種タンパク質の初期活性化の後に逆転される、第2の異種ヌクレオチド配列を含む、動物である。いくつかの実施形態において、上記動物は、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、およびサルからなる群より選択される動物)である。例えば、上記動物は、少なくとも約5週齢、約4〜6ヶ月齢、もしくは6ヶ月齢を超えるマウスであり得る。上記非増殖グリア細胞は、上記中枢神経系(CNS)、末梢神経系(PNS)、もしくはその両方に存在し得る。いくつかの実施形態において、上記非増殖グリア細胞の死滅は、上記CNS、PNS、もしくはその両方の脱髄を生じる。
【0012】
いくつかの実施形態において、本発明の非ヒトトランスジェニック動物は、そのゲノムの中に、グリア細胞特異的プロモーターに作動可能に連結された第1の異種ヌクレオチド配列(ここで上記第1の異種ヌクレオチド配列は、第1の異種タンパク質をコードし、上記第1の異種タンパク質の活性は、誘導性である)を含む。上記活性(例えば、組換え)は、外因性薬剤によって誘導され得る。上記第1の異種タンパク質は、リコンビナーゼ(例えば、Creリコンビナーゼもしくはその改変体)であり得る。いくつかの実施形態において、上記改変体は、融合タンパク質(例えば、Creリコンビナーゼおよびエストロゲンレセプターの変異したリガンド結合ドメインの融合物)である。このような実施形態において、上記外因性薬剤は、タモキシフェンもしくはそのアナログ(例えば、上記融合タンパク質が、CreERTもしくはCreERT2である場合)であり得る。いくつかの実施形態において、上記外因性薬剤は、1回より多く上記動物に投与される。さらに他の実施形態において、リポポリサッカリド(LPS)は、上記第1の異種タンパク質の活性化の前に、もしくはそれと同時に、もしくはその後に、または上記外因性薬剤の投与後に、上記動物に投与される。上記外因性薬剤、上記LPS、もしくはその両方は、例えば、CNSもしくはPNSに対して、局所にもしくは腹腔内に投与され得る。例えば、上記外因性薬剤、LPS、もしくはその両方の局所への投与は、上記脳、視神経、もしくは脊髄に対するものであり得る。
【0013】
いくつかの実施形態において、本発明の非ヒトトランスジェニック動物は、そのゲノムの中に、グリア細胞特異的プロモーターに作動可能に連結された第1の異種ヌクレオチド配列を含む。例えば、上記プロモーターは、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、希突起膠細胞特異的タンパク質(OSP)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、もしくはプロテイン2(P2)を含むが、これらに限定されない群より選択される遺伝子のプロモーターであり得る。所望される場合、特定の実施形態において、上記プロモーターは、PLP、MBP、およびCNPからなる群より選択される遺伝子のプロモーターである。
【0014】
別の局面において、本発明の非ヒトトランスジェニック動物は、第2の異種タンパク質をコードする第2の異種ヌクレオチド配列を含み、ここで上記第2の異種タンパク質は、上記第1の異種タンパク質の活性化の際に非増殖グリア細胞の死滅を誘導する。いくつかの実施形態において、上記第2の異種タンパク質は、細胞死を誘導する。上記第2の異種タンパク質は、外毒素(例えば、ジフテリア毒素もしくはそのサブユニット)であり得る。例えば、上記第2の異種タンパク質は、ジフテリア毒素のAサブユニット(DT−A)であり得る。上記第2の異種タンパク質は、増殖グリア細胞(例えば、希突起膠細胞前駆細胞もしくは星状細胞)、または非増殖グリア細胞(例えば、成熟した希突起膠細胞もしくは髄鞘形成シュワン細胞)の両方の死滅を誘導し得る。
【0015】
いくつかの実施形態において、本発明の非ヒトトランスジェニック動物における上記非増殖グリア細胞の死滅は、脱髄をもたらし、脱髄状態(例えば、多発性硬化症(MS))に特徴的な1種以上の表現型変化を生じる。上記1種以上の表現型変化は、不安定歩行、後肢麻痺、振せん、体重減少、失調、もしくはその任意の組み合わせであり得る。いくつかの実施形態において、脱髄状態に特徴的な上記1種以上の表現型変化は、運動制御の低下、平衡の低下、もしくはCNS伝導の低下である。いくつかの実施形態において、上記運動制御もしくは平衡は、ロータロッド行動アッセイ、もしくは姿勢および歩行力学の空間的および時間的指標を提供する任意の他のアッセイ(例えば、DigiGaitトレッドミルによる)によって測定され、CNS伝導は、脊髄体性感覚誘発電位によって測定される。
【0016】
本発明のさらに他の局面において、脱髄状態に特徴的な上記1種以上の表現型変化は、上記第1の異種タンパク質の最初の活性化が、上記動物における脱髄(例えば、上記CNS、PNS、もしくはその両方において)生じた後に逆転される。いくつかの実施形態において、上記1種以上の表現型変化は、上記第1の異種タンパク質を活性化してから、約35日間以降に逆転される。さらに他の実施形態において、上記1種以上の表現型変化は、上記第1の異種タンパク質を活性化してから、約70日間以降に逆転される。
【0017】
また、本発明の非ヒトトランスジェニック動物の細胞が、本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、上記細胞は、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞である。上記細胞は、増殖細胞もしくは非増殖細胞であり得る。
【0018】
本発明はまた、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化の逆転を促進する生物学的に活性な薬剤を選択する方法を提供し、上記方法は、a)本発明の非ヒトトランスジェニック動物において上記第1の異種タンパク質を活性化する工程;b)候補薬剤を上記動物に投与する工程;c)上記動物における脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を決定する工程;およびd)上記1種以上の表現型変化が上記候補薬剤を投与しないコントロール動物と比較してより迅速に逆転される場合に、上記薬剤を選択する工程を包含する。脱髄状態(例えば、MS)に特徴的な1種以上の表現型変化は、不安定歩行、後肢麻痺、振せん、体重減少、失調、もしくはその任意の組み合わせであり得る。いくつかの実施形態において、上記1種以上の表現型変化は、運動制御の低下、平衡の低下、もしくはCNS伝導の低下である。いくつかの実施形態において、上記運動制御もしくは平衡は、ロータロッド行動アッセイ、もしくは姿勢および歩行力学の空間的および時間的指標を提供する任意の他のアッセイによって(例えば、DigiGaitトレッドミルによって)測定され、CNS伝導は、脊髄体性感覚誘発電位によって測定される。
【0019】
また、髄鞘再生を促進する生物学的に活性な薬剤を選択する方法が本明細書で提供され、上記方法は、:a)本発明の非ヒトトランスジェニック動物において上記第1の異種タンパク質を活性化する工程;b)候補薬剤を上記動物に投与する工程;c)上記動物において髄鞘再生を決定する工程;およびd)上記動物が上記候補薬剤を投与しないコントロール非トランスジェニック動物と比較して髄鞘再生の増大を示す場合、上記薬剤を選択する工程を包含する。いくつかの実施形態において、上記髄鞘再生は、髄鞘形成した軸索によって、希突起膠細胞の細胞マーカーの発現によって、もしくはこれらの組み合わせによって特徴付けられる。上記希突起膠細胞の細胞マーカーは、CC1、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、プロテイン2(P2)、ガラクトセレブロシド(GalC)、スルファチドおよびプロテオリピドタンパク質(PLP)からなる群より選択され得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、PLP/CreERT対立遺伝子を有するマウスと交配し、PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスを生じる、ROSA26−eGFP−DTA対立遺伝子を含むマウスの模式図を示す。LoxPに挟まれた(floxed)領域のCre媒介性削除は、上記PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスにおいてタモキシフェンで誘導され、DTA発現を生じる。
【図2】図2は、PCR結果を図示し、この結果により、図1に示されるプライマーP1およびP2を使用して、タモキシフェン処置したPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの脳におけるDTAメッセージの発現が確認される。DTAの誘導発現がない成体PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス(コントロール);およびタモキシフェンによってDNA発現が誘導された成体PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス(それぞれ、mut−D7、mut−D14、およびmut−D21(1回目のタモキシフェン注射(dpi)の7日間後、14日間後、および21日間後の上記タモキシフェン処置マウスを表す))を示す。
【図3】図3は、PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAタモキシフェン処置マウスにおける細胞死出現を図示する。(A)TUNEL陽性細胞核(矢印)の数の増加が、コントロールと比較して、5dpiにおいて上記PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAタモキシフェン処置マウスの脳梁領域において見いだされた。(B)同じ領域から、カスパーゼ−3の活性型(矢印)について陽性染色された細胞の数の増加が示された。このことは、希突起膠細胞の死滅が、Cre組換えがこれら細胞において生じたすぐあとに起こることを示す。細胞核を、DAPIで対比染色した。
【図4】図4は、上記タモキシフェン処置したPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス 21dpiのCNSにおける少数の希突起膠細胞を図示する。小脳(上側パネル)および脊髄(下側パネル)におけるCC−1染色は、コントロールマウスと比較して、上記マウス21dpi(mut−D21)において低下している。
【図5】図5は、希突起膠細胞の細胞喪失が、21dpiまでのタモキシフェン処置マウス PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス(mut−D7、mut−D14、およびmut−D21(それぞれ、上記タモキシフェン処置マウスの7dpi、14dpi、および21dpiを示す))の大部分のCNS領域において最大であることを図示するグラフを示す。
【図6】図6は、コントロールマウスと比較して、7dpi、14dpi、もしくは21dpiのタモキシフェン処置マウスPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAにおける希突起膠細胞の細胞喪失より先に起こる(A)Plpおよび(B)MbpのmRNAレベルの劇的な低下を図示するグラフを示す。
【図7】図7は、コントロールマウスと比較した、(A)脊髄のトルイジンブルー染色(上側のパネル)および電子顕微鏡検査(EM,下側のパネル)、ならびに(B)脳におけるMAGおよびMBPのタンパク質発現によって示されるとおり、CNSミエリンにおける希突起膠細胞の細胞喪失の影響が、タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの21dpiにおいて最小であることを図示する。(A)における矢印は、上記タモキシフェン処置 PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの21dpiにおけるミエリン鞘ラメラの分離によって生成される白質の空胞を指す。
【図8】図8は、70dpiまでにタモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの(A)脳幹、(B)小脳、(C)頚髄灰白質、および(D)視神経における、ほぼ正常への希突起膠細胞の細胞数が回復したことを図示する。CC−1陽性細胞の定量化により、希突起膠細胞数が、21dpiにおいて、タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスにおいて有意に低下し、次いで、35dpiでは全ての領域において僅かに増加し、70dpiでは、いたるところでコントロールに匹敵する値に達したことが示された(n=4,*p<0.013,**p<0.006,両側t検定)。グラフA〜Dは、平均値±標準偏差を示す(灰色=コントロールマウス、黒=タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス)。
【図9】図9は、図8に図示されるように、希突起膠細胞の細胞数に類似した変化を示す、上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス(「変異体」)の脳における(A)Plp mRNAレベルの発現および(B)MbpのmRNAレベルの発現を図示する。
【図10】図10は、コントロールと比較して、PIの21日間、PIの35日間、およびPIの70日間においてタモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスのCNSにおけるミエリン欠損の進行および修復を図示する(mut−D21、mut−D35、およびmut−D70(それぞれ、上記タモキシフェン処置マウスの21、35、および70dpiを表す))。
【図11】図11は、上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスのCNSミエリンにおける損傷が70dpiまでに修復されることを図示する。DTAの誘導発現がないPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス(本明細書においてDTAと省略される)(コントロール);およびタモキシフェンによるDTA発現が誘導されたPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス(DTA−21dpi、DTA−35dpi、およびDTA−70dpi(それぞれ、1回目のタモキシフェン注射をして21日間後、35日間後、および70日間後の上記タモキシフェン処置マウスを表す))が示される。
【図12】図12は、タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスのCNSにおけるミクログリア活性化の増大を図示する。(A)上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの35dpiの小脳(CB)におけるCD11bマーカーは、脱髄と相関する。(B〜E)総CNS細胞を、個々の同腹仔コントロールおよび35dpiのタモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス(n=8)の脳および脊髄から単離した。上記細胞を計数し、フローサイトメトリー分析(CD45+細胞の存在について生細胞をゲーティングし、かつCD11b+細胞の存在についてCD45lo集団に対してCD45hiをゲーティングする)を介して分析した。代表的同腹仔コントロールマウスからのフロープロット(B)、およびタモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス(DTA)からのフロープロット(C)を、示す。CD45hi細胞およびCD45lo細胞の総数(D)、ならびにCD45lo/CD11b+細胞の総数(E)を、コントロール 対 DTA動物にして示す(データは、1群あたり8匹のマウスの細胞数の平均値±S.E.M.として表わした。**p<0.001(D)、**p<0.004(E)。スケールバー:100μm(A))。
【図13】図13は、成体希突起膠細胞前駆細胞(OPCs)の数が、脳幹および小脳におけるPDGFRα陽性細胞によって示されるように、タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの35dpiにおいて増加することを図示する。
【図14】図14は、上記ロータロッド行動アッセイ(これは、上記マウスの運動協調および平衡の評価を提供する)を使用する、タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス(「変異体」)における運動機能の欠陥およびその後の回復の定量的評価を示す。
【図15】図15は、CNS伝導特性を測定するために使用される脊髄体性感覚誘発電位(SEP)の模式図を示す。SEPを、足首において脛骨神経を刺激することによって、下部腰椎(L4−L5)および中位胸椎(T5−T6)の椎骨レベルから記録する。T5−%6とL4−L5のSEPピーク潜時との間の差異(ΔLat)を、上記CNS伝導性の評価として使用する。
【図16】図16は、35dpiおよび70dpiのコントロールマウスおよびDTAマウスから記録したSEP波形を図示する。各SEP線は、足首における脛骨神経の刺激後に、上記下部腰椎レベルもしくは中位胸椎レベルから記録された25〜30の誘発応答の平均を表す。SEP誘発は、21dpiのDTAマウスにおいて可能でなかった。このことは、上記PNSおよびCNSの両方に生じているミエリンもしくはニューロンの機能不全におそらく起因する。
【図17】図17は、上記SEPパラメーター(ピーク潜時(Lat)およびΔ潜時(ΔLat,上記T5〜T6とL4〜L5のピーク潜時の間の差異)、および振幅(Amp))の統計分析を図示する。35dpiのDTAマウスにおいて、ピーク潜時は延長し、Δ潜時は増大する一方で、振幅は減少する。このことは、これらマウスのPNSおよびCNSの両方における重度の伝導欠陥を示す。70〜77dpiにおいて、DTAマウスにおいて観察される振幅は、コントロールに匹敵する値に達するが、35dpiの値と比較すると改善したものの、ピーク潜時における軽度の欠陥が残っている。グラフは、平均値±S.E.M.を示す。35dpiに関しては、n=7〜8、*p<0.005、**p<0.0001。70〜77dpiに関しては、n=6〜7、*p<0.03;**p<0.008。
【図18】図18は、PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAタモキシフェン処置マウスの視神経におけるミエリン欠陥および軸索欠陥の定量化を図示する。(A)上記視神経のEM分析から、56dpiのPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAタモキシフェン処置マウス(「DTA」)において観察可能な広範囲なミエリン喪失は、70dpiまでに修復されることが明らかにされ、70dpiの時点で、多くの軸索が、薄く髄鞘形成していることが分かった。(B)髄鞘形成していない軸索の数は、両方の時点で、PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAタモキシフェン処置マウス(「DTA」)において有意に高かったが、56dpiと比較して、70dpiにおける髄鞘形成していない軸索は、約70%低かった(**p<1.30×10−5,n=3)。(C)上記視神経における髄鞘形成した軸索のg比および軸索直径を比較する線形回帰分析から、コントロール(灰色の点,n=3)と比較して、70dpiのPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAタモキシフェン処置マウス(「DTA」)(黒点,n=3)における軸索の全てのサイズに関して、より薄いミエリンが示された。(D)PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAタモキシフェン処置マウス(「DTA」)の視神経における軸索の総数は、21dpiおよび70dpiにおけるコントロール値に類似であることが分かった(p>0.27,n=3)。BおよびDのグラフは、平均値±S.Dを示す。スケールバー:2μm(A)。
【図19】図19は、脱髄状態(例えば、多発性硬化症)および髄鞘再生に特徴的な表現型の進行のタイムラインを図示する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施形態の詳細な説明)
本開示全体を通じて、種々の刊行物、特許および公開特許明細書が、特定している引用によって参照される。これら刊行物、特許および公開特許明細書の開示は、本発明が属する分野の技術分野をさらに記載するために、本開示の中に参考として本明細書によって援用される。
【0022】
(一般的技術)
本発明の実施は、別段示されなければ、免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ゲノミクスおよび組換えDNAの従来技術を使用するが、これら技術は、当該分野の技術範囲内である。Sambrook,Fritsch and Maniatis,MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL,3rd edition(2001);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(F.M.Ausubel,ら eds.,(1987));the series METHODS IN ENZYMOLOGY(Academic Press,Inc.): PCR 2: A PRACTICAL APPROACH(M.J.MacPherson, B.D.Hames and G.R.Taylor eds.(1995)),Harlow and Lane,eds.(1988) ANTIBODIES, A LABORATORY MANUAL、およびANIMAL CELL CULTURE(R.I.Freshney,ed.(1987));B.K.C.Lo, ANTIBODY ENGINEERING: METHODS AND PROTOCOLS(2003);B.C.Chen, PCR CLONING PROTOCOLS(2010)を参照のこと。
【0023】
(定義)
本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、単数形「1つの、ある(a)」、「1つの、ある(an)」および「上記、この、その(the)」は、文脈が別のことを明らかに示さなければ、複数形への言及を含む。例えば、用語「1つの細胞、ある細胞(a cell)」は、複数の細胞(その混合物を含む)を含む。
【0024】
用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」および「オリゴヌクレオチド」は、交換可能に使用される。それらは、任意の長さのヌクレオチド(デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチド、またはこれらのアナログ)のポリマー形態に言及する。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造を有し得、任意の機能(既知もしくは未知)を発揮し得る。以下は、ポリヌクレオチドの非限定的例である:遺伝子もしくは遺伝子フラグメントのコード領域もしくは非コード領域、連鎖分析から規定される複数の遺伝子座(単数の遺伝子座)、エキソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分枝状ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブ、およびプライマー。ポリヌクレオチドは、改変されたヌクレオチド(例えば、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログ)を含み得る。存在する場合、上記ヌクレオチド構造物に対する改変は、上記ポリマーのアセンブリ前もしくはアセンブリ後に付与され得る。上記ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分によって中断され得る。ポリヌクレオチドは、重合後に(例えば、標識成分との結合体化によって)さらに改変され得る。
【0025】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は本明細書において交換可能に使用され、それは、任意の長さのアミノ酸のポリマーに言及する。上記ポリマーは、直鎖状であっても分枝状であってもよいし、改変アミノ酸を含んでいてもよいし、そして非アミノ酸によって中断されていてもよい。上記用語はまた、改変されたアミノ酸ポリマーを包含する;例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、もしくは任意の他の操作(例えば、標識成分との結合体化)。本明細書で使用される場合、用語「アミノ酸」とは、天然および/または非天然もしくは合成のアミノ酸(グリシン、およびD光学異性体もしくはL光学異性体の両方、ならびにアミノ酸アナログおよびペプチド模倣物を含む)のいずれかに言及する。
【0026】
用語「異種」とは、それが比較される実体の残りとは遺伝子型が異なる実体に由来することを意味する。用語「異種」とは、ポリヌクレオチドもしくはポリペプチドに適用される場合、それが比較される実体の残りのものとは遺伝子型が異なる実体に、上記ポリヌクレオチドもしくはポリペプチドが由来することを意味する。例えば、ヌクレオチド配列もしくはタンパク質に適用される場合、それが比較される実体の残りのものとは遺伝子型的が異なる実体に、上記ヌクレオチド配列もしくはタンパク質が由来することを意味する。
【0027】
本明細書で使用される場合、「発現」とは、ポリヌクレオチドがmRNAへと転写されるプロセスおよび/または上記転写されたmRNA(「転写物」ともいわれる)がその後、ペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質へと翻訳されるプロセスに言及する。上記転写物および上記コードされるポリペプチドは、まとめて「遺伝子生成物」といわれる。上記ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、発現は、真核生物細胞における上記mRNAのスプライシングを含み得る。
【0028】
用語「髄鞘再生している」もしくは「髄鞘再生」とは、髄鞘形成を修復するもしくは発生的でない髄鞘形成を修復することに言及する。
【0029】
「被験体」、「個体」もしくは「患者」は、本明細書において交換可能に使用され、これらは、脊椎動物、好ましくは、哺乳動物、より好ましくは、ヒトに言及する。哺乳動物としては、マウス、サル、ヒト、家畜、競技用の動物、およびペットが挙げられるが、これらに限定されない。インビボで得られた生物学的実体もしくはインビトロで培養された生物学的実体の組織、細胞およびそれらの子孫もまた、包含される。
【0030】
本明細書に記載される動物モデルもしくは細胞培養アッセイにおいて使用される「生物学的に活性な薬剤」とは、生物学的もしくは化学的な化合物(例えば、単純なもしくは複雑な有機もしくは無機の分子、ペプチド、ペプチド模倣物、タンパク質(例えば、抗体)、リポソーム、低分子干渉RNA、もしくはポリヌクレオチド(例えば、アンチセンス))からなる群より選択され得る。さらに、複雑な有機もしくは無機の分子を含むこのような薬剤は、化合物の不均質混合物(例えば、粗製のもしくは精製した植物抽出物)を含み得る。
【0031】
「プロモーターエレメント」とは、このような配列に連結される遺伝子の転写を促進する調節配列である。上記調節配列は、エンハンサー配列もしくはその機能的部分を含み得る。
【0032】
「コントロール」とは、比較目的で実験に使用される補助的な被験体、細胞もしくはサンプルである。
【0033】
「loxPに挟まれた」DNA領域とは、2個のlox部位(改変体lox部位を含む)が隣り合っているDNAの領域に言及し、上記DNA領域は、転写終結因子(例えば、停止シグナル)を含む。上記DNA領域は、代表的には、遺伝子を含む。例えば、上記「loxPに挟まれた」DNAは、マーカー(例えば、eGFP)であり得る。
【0034】
「停止信号構築物(stoplight construct)」とは、loxPに挟まれ、第2の遺伝子にさらに作動可能に連結された第1の遺伝子を含む遺伝子構築物に言及する。上記「停止信号構築物」は、「停止信号カセット」とも言及され得、必要に応じて、プロモーター配列に作動可能に連結され得る。従って、上記第1のloxPに挟まれた遺伝子がリコンビナーゼ(例えば、Cre)媒介性組換えを介して除去される場合、上記第2の遺伝子は、発現される。例えば、上記第1のloxPに挟まれた遺伝子は、毒素(例えば、DTA)をコードする第2の遺伝子に作動可能に連結された蛍光マーカータンパク質(例えば、eGFP)であり得る。上記第2の遺伝子(例えば、DTA)の発現は、上記第1の領域および停止シグナルを含む上記loxPに挟まれた領域が原因で阻害される。上記loxPに挟まれたeGFPおよび停止シグナルが組換えを介して除去される場合、上記第2の遺伝子であるDTAは、転写され発現され得る。
【0035】
「脱髄状態に特徴的な表現型」とは、軸索の分析も、髄鞘形成細胞の分析も、他の分子の分析や細胞の分析(例えば、軸索の電子顕微鏡検査、免疫組織化学、または神経細胞(例えば、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞)の遺伝子発現もしくはタンパク質発現を決定すること)もなしで確認し得る、脱髄状態に特徴的な表現型に言及する。例えば、脱髄状態に特徴的な表現型変化は、運動制御、平衡、もしくはCNS伝導における低下であり得、これらは、ロータロッド行動アッセイもしくは脊髄体性感覚誘発電位のような手段によって測定され得る。脱髄状態に特徴的な他の表現型としては、不安定歩行、後肢麻痺、振せん、体重減少、失調、もしくはその任意の組み合わせのような表現型が挙げられる。
【0036】
(トランスジェニック動物)
本発明は、神経細胞の誘導除去のための方法およびシステムを提供する。上記モデルシステムは、髄鞘再生の機構の解明、ならびに髄鞘再生を促進するための治療的ストラテジーの開発において有用である。一局面において、上記システムもしくは動物モデルは、非増殖グリア細胞の選択的除去を示すように誘導され得る非ヒトトランスジェニック動物である。いくつかの実施形態において、非増殖グリア細胞の特異的除去は、上記動物において脱髄を生じる。
【0037】
脱髄は、神経系(例えば、中枢神経系もしくは末梢神経系)における髄鞘形成された軸索の減少によって、または髄鞘形成細胞のマーカーのレベルの低下によって、特徴付けられ得る。本明細書で使用される場合、髄鞘形成細胞とは、上記神経系において軸索を絶縁するミエリンを生成し得る細胞をいう。例示的な髄鞘形成細胞は、中枢神経系においてミエリンの生成を担う希突起膠細胞、および末梢神経系においてミエリンの生成を担うシュワン細胞である。形態的には、ニューロンの脱髄は、上記中枢神経系における希突起膠細胞もしくは上記末梢神経系におけるシュワン細胞の喪失によって特徴付けられ得る。ニューロンの脱髄はまた、上記神経系における髄鞘形成された軸索の減少によって、または希突起膠細胞もしくはシュワン細胞、CC1、マーカーのレベルの低下によって決定され得る。希突起膠細胞もしくはシュワン細胞の例示的なマーカータンパク質としては、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、プロテイン2(P2)、ガラクトセレブロシド(GalC)、スルファチドおよびプロテオリピドタンパク質(PLP)が挙げられるが、これらに限定されない。よって、本発明の方法によって同定される候補薬剤は、ニューロンの脱髄の有害な形態的特性を阻害し得る物質を包含する。
【0038】
脱髄はまた、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を示す動物によって特徴付けられ得る。脱髄状態に特徴的な表現型変化は、運動制御、平衡、もしくはCNS伝導の減少であり得、これらは、ロータロッド行動アッセイもしくは脊髄体性感覚誘発電位のような手段によって測定され得る。脱髄状態に特徴的な他の表現型変化としては、不安定歩行、後肢麻痺、振せん、体重減少、失調、もしくはその任意の組み合わせのような表現型が挙げられる。
【0039】
本明細書で開示されるトランスジェニック動物は、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を示し得、ここで上記1種以上の表現型変化が逆転される。例えば、上記非増殖グリア細胞の選択的除去の誘導後に、上記動物は、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を示し、そして上記動物は、脱髄状態に特徴的な上記1種以上の表現型変化の逆転を示し得る。いくつかの実施形態において、上記逆転は、完全な逆転であり得、ここで上記動物が、野生型動物、もしくは同じ遺伝的バックグラウンドを有するが、非増殖グリア細胞の選択的除去を示すようには誘導されない動物が示す表現型を示すように、上記動物は脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化から回復する。他の実施形態において、表現型の逆転とは、上記表現型が改善する場合のことである。例えば、時点Aにおいて、動物が、振せんを示し始める;時点Bにおいて、上記動物は、振せんが増大している;そして時点Cにおいて、上記動物は、時点Aと同様な表現型を示し、時点Bと比較すると、表現型が改善している。別の例において、表現型の逆転は、機能(例えば、運動機能もしくはCNS伝導)の完全な喪失が存在する場合のことであって、逆転とは機能の獲得(例えば、運動機能もしくはCNS伝導の獲得)のことであり得る。上記獲得は、機能におけるわずかな改善であり得る。いくつかの実施形態において、上記逆転は、例えば、野生型動物もしくは同じ遺伝的バックグラウンドを有するが、非増殖グリア細胞の選択的除去を示すように誘導されない動物と同じレベルへの完全な機能の再獲得であり得る。
【0040】
非増殖グリア細胞の選択的除去を示すように誘導され得る上記非ヒトトランスジェニック動物は、第1の異種タンパク質をコードする第1の異種ヌクレオチド配列および第2の異種タンパク質をコードする第2の異種ヌクレオチド配列を含む。上記第1の異種タンパク質の活性(例えば、その発現および転写事象の調節)は、誘導性であり得る。上記第1の異種タンパク質の活性のこの誘導はまた、本明細書において、このようなタンパク質の「活性化」といわれる。いくつかの実施形態において、上記第1の異種タンパク質は、リコンビナーゼであり、その組換え活性は、誘導性である。いくつかの実施形態において、上記リコンビナーゼは、Creリコンビナーゼであり、これは、同族認識配列、loxP配列(すなわち、loxP部位)を認識する。認識配列は、当該分野で公知であり、タンパク質分子、DNA分子、もしくはRNA分子(例えば、制限エンドヌクレアーゼ、改変メチラーゼ、もしくはリコンビナーゼ)が、認識および結合する特定のDNA配列を表す。例えば、上記Creリコンビナーゼの認識配列は、loxPであり、これは、8塩基対のコア配列に隣接している2個の13塩基対の逆方向反復(上記リコンビナーゼ結合部位として働く)から構成される34塩基対配列である(Sauer,Curr.Opin.Biotech.5:521−527(1994)を参照のこと)。認識配列の他の例は、リコンビナーゼ酵素λインテグラーゼによって認識されるattB、attP、attL、およびattR配列である。attBは、2個の9塩基対のコアタイプInt結合部位および7塩基対の重複領域を含む約25塩基対配列である。attPは、コアタイプInt結合部位およびアームタイプInt結合部位、ならびに補助タンパク質であるIHF、FIS、およびXisのための部位を含む約240塩基対の配列である(Landy,Curr.Opin.Biotech.3:699−707(1993)を参照のこと)。このような部位はまた、当該分野で公知の方法および生成物(例えば、Hartleyら,米国特許出願公開第20060035269号による開示で開示される)を利用する組換えを高めるために、本発明に従って操作され得る。
【0041】
上記Creリコンビナーゼは、野生型であっても上記野生型の改変体であってもよい。いくつかの実施形態において、上記Creリコンビナーゼの活性は、上記トランスジェニック動物(もしくはトランスジェニック細胞)において誘導性である。改変体Creリコンビナーゼは、組換え部位に対して広い特異性を有する。具体的には、上記改変体は、上記loxP配列以外の配列と、野生型Creリコンビナーゼが活性である他のlox部位配列との間の組換えを媒介する。一般に、上記開示されるCre改変体は、野生型Creが作用し得るlox部位(野生型lox部位といわれる)の間、野生型Creによっては効率的に利用されない改変体lox部位(改変体lox部位といわれる)の間、および野生型lox部位と改変体lox部位との間での効率的な組換えを媒介する。例えば、上記Cre改変体は、Creリコンビナーゼ(もしくは他の類似のリコンビナーゼ(例えば、FLP))が使用され得る任意の方法もしくは技術において使用され得る。さらに、上記Cre改変体は、異なる代替の組換えが行われることを可能にする。なぜなら、上記Cre改変体は、野生型lox部位と改変体lox部位との間の遙かにより効率的な組換えを可能にするからである。このような代替の組換えの制御は、異なる逐次的組換えを達成して、野生型Creリコンビナーゼで可能ではない結果を達成するために使用され得る。改変体Creリコンビナーゼは、当該分野で公知である(例えば、米国特許第6,890,726号(これは、その全体が本明細書に参考として援用される)の開示において開示される)。
【0042】
いくつかの実施形態において、上記第1の異種配列は、外因性薬剤によって誘導される場合に活性であるように操作されるリコンビナーゼをコードする。Cre活性の誘導性は、制御され得る。いくつかの実施形態において、上記Creタンパク質は、上記Creリコンビナーゼと、プロゲステロンレセプター(例えば、Kellendonkら,J.Mol.Biol.285:175−182(1999))もしくはエストロゲンレセプター(例えば、Feilら,Proc.Natl.Acad.Sci.93:10887−10890(1996);Feilら,Biochem.Biophsys.Res.Commun.237:752−757(1997))のリガンド結合ドメインの変異したバージョンとの融合物であり得、上記活性は、外因性薬剤によって誘導され得る。例えば、後者の融合物は、上記Cre融合物(CreERTもしくはCreERT2)を生じ、ここで上記組換え活性は、上記Creタンパク質の局在化を通じてリガンドによって制御される。リガンドの非存在下で、CreERT(もしくはCreERT2)は、細胞質性である。しかし、合成ステロイドホルモン(タモキシフェンもしくはその改変体またはアナログ(例えば、4−ヒドロキシ(OH)−タモキシフェン))の投与後に、上記CreERT(もしくはCreERT2)タンパク質は、該タンパク質が機能する核内に移行する(すなわち、タモキシフェン誘導性)。他の実施形態において、他の誘導性システムが使用され得る(例えば、Tet−OnおよびTet−Offシステム(Clontech Laboratories,Inc)発現系(ここで誘導は、抗生物質(例えば、テトラサイクリン)の添加を介して起こる))。
【0043】
上記第1の異種配列は、上記非ヒトトランスジェニック動物において安定して発現され得る。例えば、上記第1の異種配列は、上記トランスジェニック動物のゲノムへと(例えば、内因性プロモーターに対する制御下にあることによって)組み込まれるリコンビナーゼをコードする。上記第1の異種配列は、グリア細胞特異的プロモーター(例えば、内因性グリア細胞特異的プロモーター)に作動可能に連結され得る。上記プロモーターは、星状膠細胞、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞に対して特異的であり得る。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、成熟した、分化している、もしくは非増殖グリア細胞(例えば、成熟した希突起膠細胞もしくはシュワン細胞)において高度に発現される遺伝子に対するものである。上記プロモーターは、髄鞘形成細胞において高度に発現される遺伝子に対するものであり得る。上記プロモーターは、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、希突起膠細胞特異的タンパク質(OSP)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、プロテイン2(P2)に対するものであり得る。いくつかの実施形態において、上記第1の異種配列は、増殖希突起膠細胞前駆体に特異的なプロモーター(例えば、血小板由来増殖因子αレセプター(PDGFRα)、星状細胞に特異的なプロモーター(例えば、グリア線維酸性タンパク質遺伝子(glial fibrillary acidic gene)(GFAP))、またはニューロンに特異的なプロモーター(例えば、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、チロシンヒドロキシラーゼ、およびBSF1)に作動可能に連結され得る。従って、上記第1の異種タンパク質(例えば、リコンビナーゼ)の発現および活性は、細胞特異的であり得る。
【0044】
本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物において、上記第1の異種タンパク質の活性は、例えば、停止シグナルを除去し、上記第2の異種タンパク質(例えば、毒素)の発現を可能にするように組換えを誘導することによって、上記第2の異種タンパク質の発現を誘導し得る。次いで、上記第2の異種タンパク質(もしくは毒素)の発現は、細胞死を誘導し得る。上記第1の異種タンパク質(例えば、リコンビナーゼ)の発現および活性は細胞特異的であり得るので、上記第1の異種タンパク質の活性は、細胞特異的様式において上記第2の異種タンパク質の発現を誘導し得る。例えば、上記第2の異種配列は、上記第2の異種タンパク質(これは、細胞死を誘導する)をコードし得、その発現および得られた細胞死は、細胞タイプ特異的であり得る。例えば、上記第2の異種タンパク質の発現は、神経細胞(例えば、グリア細胞)において特異的であり得る。いくつかの実施形態において、上記第2の異種タンパク質の発現は、希突起膠細胞、シュワン細胞、もしくは星状細胞の上記細胞特異的死滅、もしくは細胞特異的除去を誘導し得る。いくつかの実施形態において、上記グリア細胞は、非増殖グリア細胞(例えば、上記CNS、PNS、もしくはその両方における)であり、ここで上記非増殖グリア細胞の死滅は、上記CNS、PNS、もしくはその両方において脱髄を生じる。
【0045】
記載されるように、上記第2の異種配列は、毒素もしくは外毒素をコードし得る。例えば、上記毒素は、ジフテリア毒素もしくはそのサブユニット(例えば、そのAサブユニット)であり得る。いくつかの実施形態において、上記第2の異種配列の発現は、転写に対する終結シグナルもしくは停止シグナルを含むloxPに挟まれた上流領域が原因で抑制される。従って、上記停止シグナルを含む上記loxPに挟まれた上流領域が、例えば、組換え(例えば、Creリコンビナーゼ(例えば、上記第1の異種配列によってコードされ、外因性薬剤によって活性化されるCreERTもしくはCreERT2)によって除去される場合、上記第2の異種配列は、転写され得、上記タンパク質が発現され得る。
【0046】
別の実施形態において、同じ異種配列が、毒素もしくは外毒素をコードし、細胞特異的プロモーターを含む。例えば、上記毒素は、ジフテリア毒素もしくはそのサブユニット(例えば、そのAサブユニット)であり得る。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、pdual発現ベクター系(Strategene)におけるように、ブロックされているが、誘導因子の添加の後にいったん放出される上流のエンハンサー領域を含み、毒素もしくは外毒素をコードする上記異種配列を発現する。
【0047】
いくつかの実施形態において、上記loxPに挟まれた領域は、1種以上のマーカー(例えば、蛍光タンパク質マーカーもしくは薬物耐性マーカー)を含む。本発明において使用され得るマーカー遺伝子の非網羅的な例としては、造礁サンゴ蛍光タンパク質(RCFP)、HcRed1、AmCyan1、AsRed2、mRFP1、DsRed1、クラゲ蛍光タンパク質(FP)改変体、赤色蛍光タンパク質、緑色蛍光タンパク質(GFP)、青色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、GFP変異体H9、GFP H9−40、eGFP、テトラメチルローダミン、Lissamine、テキサスレッド、EBFP、ECFP、EYFP、Citrine、Kaede、Azami Green、Midori Cyan、Kusabira Orangeおよびナフトフルオレセイン、もしくはこれらの増強された機能改変体が挙げられる。蛍光団タンパク質マーカーをコードする多くの遺伝子が、当該分野で公知であり、これらは、本明細書中で使用することができる(例えば、ウェブサイト:<cgr.harvard.edu/thornlab/gfps.htm>を参照のこと)。より高い強度の光を発するかもしくは波長シフトを示す蛍光タンパク質の変異バージョンはまた、本発明の組成物および方法において利用され得る;このような改変体は、当該分野で公知であり、市販されている(例えば、Clontech Catalogue,2005を参照のこと)。
【0048】
さらに他の実施形態において、上記毒素をコードする上記第2の異種配列は、グリア細胞特異的プロモーター(例えば、内因性グリア細胞特異的プロモーター)に作動可能に連結される。上記プロモーターは、星状膠細胞、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞に対して特異的であり得る。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、成熟した、分化している、もしくは非増殖グリア細胞(例えば、成熟した希突起膠細胞もしくはシュワン細胞)において高度に発現されている遺伝子に対するものである。上記プロモーターは、髄鞘形成細胞において高度に発現されている遺伝子に対するものである。上記プロモーターは、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、希突起膠細胞特異的タンパク質(OSP)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、もしくはプロテイン2(P2)に対するものであり得る。いくつかの実施形態において、上記第2の異種配列は、増殖希突起膠細胞前駆体に対して特異的なプロモーター(例えば、血小板由来増殖因子αレセプター(PDGFRα))、星状細胞に特異的なプロモーター(例えば、グリア線維酸性タンパク質遺伝子(GFAP))、もしくはニューロンに特異的なプロモーター(例えば、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、チロシンヒドロキシラーゼ、およびBSF1)に作動可能に連結される。
【0049】
いくつかの実施形態において、上記第2の異種配列は、停止信号カセット(例えば、図1に示される)の成分であり、ここで上記loxPに挟まれた領域は、eGFPを含み、上記第2の異種配列は、DTAをコードする。上記停止信号カセットは、トランスジェニックマウスのゲノムへと(例えば、ROSA26遺伝子座へと)安定に組み込まれ得る(例えば、図1を参照のこと)。第1の異種ヌクレオチド配列および第2の異種ヌクレオチド配列をそのゲノムの中に含むトランスジェニック動物は、上記第1の異種配列を含む第1の動物を上記第2の異種配列(例えば、図1に示される)を含む第2の動物と交配することによって、作製され得る。ROSA26遺伝子座へと組み込まれたDTAの上流でloxPに挟まれたeGFPを有する停止信号カセットを含む(ROSA26−eGFP−DTA)トランスジェニック動物を、内因性PLPプロモーターの制御下にCreERTを含むトランスジェニック動物(PLP/CreERT)と交配する。このことから、上記停止信号カセットおよび上記内因性PLPプロモーターの制御下にあるCreERTを含む動物(PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTA)が生じ得る。DTAは、転写終結シグナル(例えば、停止コドン)を含む上記loxPに挟まれた領域としては発現されない。しかし、タモキシフェンで処置されると、CreERTは活性化され、上記loxPに挟まれた領域は組換えられ、上記転写終結シグナルが除去され、DTAが、転写および発現され得る。さらに、CreERT活性は、誘導性であるので、DTA発現は、時間制御様式で、ならびに細胞特異的様式でもたらされ得、特異的な細胞タイプの特異的除去、もしくは細胞死を生じる。例えば、上記PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスにおいて、上記マウスがタモキシフェンで処置される場合、PLP発現細胞の特異的除去が存在する。上記除去のタイミングは、上記タモキシフェンの投与を介して制御され得る。
【0050】
上記トランスジェニック動物(例えば、上記ROSA26−eGFP−DTA動物および上記PLP/CreERT動物)は、当該分野で公知の遺伝子標的化技術を利用して設計され得る(例えば、Ivanovaら,Genesis,43:129−135(2005);Doerflingerら,Genesis 35:63−72(2003)を参照のこと)。遺伝子標的化は、標的化された内因性配列と相同な外因性DNA配列との相同組換えによって、染色体遺伝子座の指向された改変を表す。遺伝子標的化の異なるタイプの間で区別が行われる。従って、遺伝子標的化は、1または数個の内因性遺伝子の発現を改変する(通常は増大させる)か、または外因性遺伝子によって内因性遺伝子を置換するか、または外因性遺伝子を、活性なままである上記特定の内因性遺伝子の遺伝子発現を調節するエレメントの制御下に配置するために、使用され得る。この場合、遺伝子標的化は、「ノックイン」(KI)といわれる。あるいは、遺伝子標的化は、1または数個の遺伝子の発現を低下もしくは除去するために使用され得、このタイプの遺伝子標的化は、「ノックアウト」(KO)もしくは「ノックダウン」(KD)といわれる(例えば、Bolkeyら,Ann.Rev.Genet.23:199−225(1989)を参照のこと)。
【0051】
本発明に従うトランスジェニック細胞を生成する方法は、当業者に周知である。哺乳動物細胞をトランスフェクトするための種々の技術が、記載されてきた(Gordon.,Intl.Rev.Cytol.115:171−229(1989))。例えば、本明細書で開示され、上記トランスジェニック動物を生成するために使用される導入遺伝子は、直線状もしくは非直線状のベクターに、またはベクターフラグメントの形態で含まれ得、標準的な方法(例えば、核へのマイクロインジェクション(米国特許第4,873,191号)、リン酸カルシウムを用いた沈殿によるトランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション(Lo,Mol.Cell.Biol.3:1803−1814(1983))、熱ショック、カチオン性ポリマー(PEG、ポリブレン、DEAE−デキストランなど)での形質転換、ウイルス感染(Van der Puttenら,Proc.Natl.Acad.Sci USA 82,6148−6152(1985))、精子(Lavitranoら,Cell 57:717−723(1989)))によって、宿主細胞へと導入され得る。
【0052】
トランスジェニック動物は、哺乳動物の接合子の前核(例えば、雄性前核)へ遺伝子構築物を挿入することによって操作され得、これにより、安定なゲノム組み込みが天然に生じることを可能にする。次いで、上記接合子は、受容する子宮へと移され得、満期まで生育が可能となる。マウスが使用され得るものの、他の種(例えば、ラット、ウサギおよび他の非ヒト動物)もまた、前核挿入のための潜在的な候補である。上記接合子をトランスジェニックにする上記遺伝子構築物は、利用されるべき内因性遺伝子(例えば、PDGFαレセプター遺伝子)を標的とする遺伝子構築物を含み、この遺伝子は、変異され得、そして/もしくは所望のエレメント(例えば、外因性プロモーター/エンハンサーエレメントおよび/もしくは目的の遺伝子)を含むようにさらに改変され得る。
【0053】
異種DNAはまた、同様に、受精した哺乳動物の卵子へと導入され得る。例えば、全能性もしくは多能性幹細胞は、マイクロインジェクション、リン酸カルシウム媒介性沈殿、リポソーム融合、レトロウイルス感染もしくは他の手段によって、形質転換され得る。次いで、上記形質転換された細胞は、胚へと導入され、次いで、上記胚は、トランスジェニック動物へと発生する。一実施形態において、発生中の胚は、所望の導入遺伝子を含むウイルスベクターに感染させられ、その結果、上記導入遺伝子を発現する上記トランスジェニック動物が、上記感染した胚から作られ得る。別の実施形態において、所望の導入遺伝子は、好ましくは、単一の細胞ステージにおいて、上記胚の前核もしくは細胞質に同時に注入され、上記胚は、成熟したトランスジェニック動物へと発生することが可能となる。トランスジェニック動物を作るためのこれらおよび他の変形方法は、当該分野で十分に確立されており、よって、本明細書で詳述しない。例えば、米国特許第5,175,385号および同第5,175,384号を参照のこと。
【0054】
本明細書で開示される発明の1つ以上の局面において、所望の導入遺伝子は、単一コピーとしてもしくはコンカテマー(concatamer)(例えば、ヘッドトゥーヘッドタンデムもしくはヘッドトゥーテールタンデム)で組み込まれ得る。上記所望の導入遺伝子はまた、特定の組織もしくは細胞タイプ(好ましくは、上記中枢神経系内の細胞)へと選択的に導入され得、活性化され得る。このような細胞タイプ特異的活性化に必要とされる調節配列は、目的の特定の細胞タイプに依存し、それは当業者に明らかである。好ましくは、上記標的とされる細胞タイプは、上記神経系(上記中枢神経系および末梢神経系を含む)に位置する。
【0055】
上記のように、トランスジェニック動物は、2つのタイプに大きく分けられ得る:「ノックアウト」および「ノックイン」。「ノックアウト」は、上記標的遺伝子の機能の低下を生じる導入遺伝子配列の導入を介して、好ましくは、標的遺伝子発現が、微々たるものであるかもしくは検出不能であるように、上記標的遺伝子において改変を有する。「ノックイン」は、例えば、上記標的遺伝子のさらなるコピーの導入によって、もしくは上記標的遺伝子の内因性コピーの発現の増大を提供する調節配列を作動的に挿入することによって、標的遺伝子の発現の増大をもたらす宿主細胞ゲノムにおける改変を有するトランスジェニック動物である。上記ノックイントランスジェニック動物もしくはノックアウトトランスジェニック動物は、上記標的遺伝子に対してヘテロ接合性であってもよいし、ホモ接合性であってもよい。ノックアウトおよびノックインの両方が、「バイジェニック(bigenic)」であり得る。バイジェニック動物は、少なくとも2つの改変されている宿主細胞遺伝子を有する。あるバイジェニック動物は、神経細胞特異的リコンビナーゼをコードする導入遺伝子および神経細胞特異的マーカー遺伝子をコードする別の導入遺伝子配列を有する。本発明のトランスジェニック動物は、大きく、ノックインとして分類され得る。
【0056】
本明細書で開示されるトランスジェニック動物としては、哺乳動物(例えば、霊長類および齧歯類)が挙げられるが、これらに限定されない。非限定的な例としては、ラット、マウス、モルモット、ネコ、イヌ、ウサギ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ラマ、およびサルが挙げられる。一実施形態において、上記動物は齧歯類である。さらに別の実施形態において、上記動物はマウス(例えば、若年もしくは老年のマウス)である。例えば、上記マウスは、少なくとも約5週齢、6週齢、7週齢、8週齢、9週齢、10週齢、11週齢、もしくは12週齢であり得る。上記マウスは、約3〜8週齢の間、約5〜7週齢の間、もしくは約6〜8週齢の間であり得る。いくつかの実施形態において、上記マウスは、少なくとも約4〜6週齢のマウスである。いくつかの実施形態において、上記マウスは、成体であり、6ヶ月齢より加齢している。いくつかの実施形態において、上記マウスは、加齢マウスもしくは老齢マウスである。上記マウスは、少なくとも約7ヶ月齢、8ヶ月齢、9ヶ月齢、10ヶ月齢、11ヶ月齢、12ヶ月齢、15ヶ月齢、18ヶ月齢、21ヶ月齢、もしくは24ヶ月齢であり得る。いくつかの実施形態において、上記マウスは、約5〜7ヶ月例の間、6〜9ヶ月齢の間もしくは9〜12ヶ月齢の間である。別の実施形態において、上記動物は、サル種に由来する。さらに別の実施形態において、上記動物は、マーモセットのサルであり、これは、神経疾患を試験することにおいて利用され得る(例えば、Eslamboi,Brain Res.Bull.68:140−149(2005);Kirikら,Proc.Natl.Acad.Sci.100:2884−2889(2004))。本明細書で開示されるトランスジェニック動物としてはまた、非哺乳動物(例えば、魚類、鳥類、および昆虫類)が挙げられ得るが、これらに限定されない。非限定的な例としては、ゼブラフィッシュ、ニワトリおよびハエが挙げられる。
【0057】
本明細書で開示されるトランスジェニック動物は、髄鞘再生をアッセイするにあたって利用され得るシステムを提供する。このようなモデル系は、髄鞘再生の機構の解明への洞察、ならびに髄鞘再生を促進するための治療ストラテジーの開発を提供する。上記のように、上記トランスジェニック動物は、第1の異種タンパク質(これは、続いて、細胞死を誘導する第2の異種タンパク質の発現を誘導する)の活性化を誘導することによって、細胞特異的様式で細胞を除去するように時間的に制御され得る。上記細胞死は、上記第1の異種タンパク質の発現が、細胞タイプ特異的プロモーターもしくは調節配列(特に、上記中枢神経系もしくは末梢神経系における発現に利用可能であるもの)の制御下にあり得るので、細胞タイプ特異的であり得る。
【0058】
例えば、上記第1の異種タンパク質の発現は、神経細胞タイプ特異的プロモーターの制御下にあり得る(例えば、米国特許出願公開第2003/0110524号に開示される);ウェブサイト<chinook.uoregon.edu/promoters.html>もまた参照のこと。上記転写調節配列としては、以下のタンパク質をコードする遺伝子から選択される転写調節配列が挙げられるが、これらに限定されない:上記PDGFRα、プロテオリピドタンパク質(PLP)、上記グリア線維酸性タンパク質遺伝子(GFAP)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、希突起膠細胞特異的タンパク質(OSP)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)および微小管関連タンパク質1B(MAP1B)、Thy1.2、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、プロテイン2(P2)、チロシンヒドロキシラーゼ、BSF1、ドパミン3−ヒドロキシラーゼ、セロトニン2レセプター、コリン・アセチルトランスフェラーゼ、ガラクトセレブロシド(GalC)、ならびにスルファチド。
【0059】
いくつかの実施形態において、上記調節配列もしくはプロモーターは、グリア細胞(例えば、星状膠細胞、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞)に対して特異的である。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、成熟した、分化している、もしくは非増殖グリア細胞(例えば、成熟した希突起膠細胞もしくはシュワン細胞)において高度に発現されるかもしくは特異的に発現される遺伝子に対するものである。上記プロモーターは、髄鞘形成細胞において高度に発現されるかもしくは特異的に発現される遺伝子に対するものであり得る。いくつかの実施形態において、上記プロモーターもしくは調節配列は、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、希突起膠細胞特異的タンパク質(OSP)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、もしくはプロテイン2(P2)であるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、PLP、MBP、およびCNPに対するものである。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、増殖希突起膠細胞前駆体に対して特異的な遺伝子(例えば、血小板由来増殖因子αレセプター(PDGFRα)に対するもの、星状細胞に特異的なプロモーター(例えば、グリア線維酸性タンパク質遺伝子(glial fibrillary acidic gene)(GFAP))、もしくはニューロンに対して特異的なプロモーター(例えば、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、チロシンヒドロキシラーゼ、およびBSF1)である。
【0060】
いくつかの実施形態において、上記第1の異種配列は、Creリコンビナーゼ(例えば、CreERT2もしくはCreERT2)をコードし、前述のプロモーターもしくは調節配列の制御下にある。
【0061】
いくつかの実施形態において、上記調節配列は、発現を高める(すなわち、プロモーター強度を増大させる)ように変化させられ得るかもしくは改変され得る。例えば、エンハンサー機能を含むイントロン配列は、プロモーター機能を増大させるために利用され得る。上記ミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)遺伝子は、エンハンサーエレメントとして機能するイントロン配列を包含する。この調節エレメント/領域ASE(アンチサイレンサー/エンハンサーの)は、エキソン1 DNAの約1kb下流に位置し、ほぼ100bpを包含する。Mengら,J.Neurosci.Res.82:346−356(2005)を参照のこと。
【0062】
よって、上記第1の異種タンパク質(例えば、Creリコンビナーゼ(例えば、CreERT2もしくはCreERT2))は、特異的細胞タイプにおいて発現および活性化され得、同じ特異的細胞タイプにおいて、上記第2の異種タンパク質(例えば、毒素)の発現を誘導し得る。例えば、上記Creリコンビナーゼ(例えば、CreERT2もしくはCreERT2)は、希突起膠細胞特異的プロモーターもしくは調節配列の制御下もしくは調節下にあることによって、希突起膠細胞において発現される。上記Creリコンビナーゼ(recombainse)が、タモキシフェンによって活性化される場合、上記第2の異種タンパク質(例えば、毒素(例えば、DTA))の発現は、希突起膠細胞において誘導される。次いで、上記毒素は、上記希突起膠細胞の細胞死を促進し得る。あるいは、上記Creリコンビナーゼ(例えば、CreERT2もしくはCreERT2)は、シュワン細胞特異的プロモーターもしくは調節配列の制御下もしくは調節下にあることによって、シュワン細胞において発現され得る。上記Creリコンビナーゼは、タモキシフェンによって活性化され得、これは、シュワン細胞において上記毒素の発現を誘導し、上記シュワン細胞の細胞死を引き起こす。上記髄鞘形成細胞(例えば、希突起膠細胞、シュワン細胞、もしくはその両方)の細胞死は、上記動物のCNS、PNS、もしくはその両方において、脱髄を生じ得る。
【0063】
上記第1の異種タンパク質はまた、時間的様式で活性化され得、従って、得られた除去もしくは細胞死は、時間的に制御され得る。例えば、上記第1の異種タンパク質は、非増殖細胞(例えば、成熟したもしくは分化した、神経細胞)において活性化され得る。いくつかの実施形態において、上記第1の異種タンパク質の活性化は、成熟した、もしくは増殖していない、上記CNS、PNS、もしくはその両方の細胞にあり、上記第2の異種タンパク質の発現およびその後の、上記成熟したもしくは非増殖細胞の細胞死を生じる。いくつかの実施形態において、上記除去は、非増殖髄鞘形成細胞(例えば、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞)の除去である。上記活性化は、外因性薬剤(例えば、上記第1の異種タンパク質を活性化する上記外因性薬剤の投与)によって時間的に制御され得る。上記外因性薬剤は、上記グリア細胞が、増殖ステージもしくは非増殖ステージにある場合に、上記動物へと投与され得る。例えば、上記外因性薬剤は、上記シュワン細胞もしくは希突起膠細胞が、増殖ステージにある場合に、上記動物に投与され得る。いくつかの実施形態において、上記外因性薬剤は、上記シュワン細胞もしくは希突起膠細胞が、成熟したもしくは増殖していない場合に、上記動物に投与される。例えば、マウスにおいて、上記外因性薬剤は、上記マウスが、少なくとも約5週齢、6週齢、7週齢、8週齢、9週齢、10週齢、11週齢、もしくは12週齢である場合に、投与される。いくつかの実施形態において、上記マウスは、上記マウスが、約3〜8週齢の間、約5〜7週齢の間、もしくは約6〜8週齢の間である場合に、上記外因性薬剤で処置される。いくつかの実施形態において、上記マウスは、少なくとも約4〜6ヶ月齢である。さらに他の実施形態において、上記マウスは、少なくとも約7ヶ月齢、8ヶ月齢、9ヶ月齢、10ヶ月齢、11ヶ月齢、12ヶ月齢、15ヶ月齢、18ヶ月齢、21ヶ月齢、もしくは24ヶ月齢であり得る。いくつかの実施形態において、上記マウスは、約5〜7ヶ月齢の間、6〜9ヶ月齢の間、もしくは9〜12ヶ月齢の間である。
【0064】
一局面において、本発明は、第1の異種配列の発現を制御することであり、ここで上記発現は、組織特異的プロモーターによって制御され、発現は、誘導因子の添加によって解除されるまでブロックされており、これにより、上記組織特異的プロモーターへの転写的アクセスが可能となり、そして細胞死を誘導するタンパク質をコードする第2の異種配列の発現を誘導し得るタンパク質をコードする第1の異種配列の発現が可能となる。このような協調したシステムは、細胞死をもたらす遺伝子発現の時間および位置の制御を可能にする。
【0065】
いくつかの実施形態において、上記トランスジェニック動物は、誘導性Creリコンビナーゼ(例えば、CreERT)をコードする第1の異種配列を含み、これは、内因性の細胞特異的プロモーターの制御下にある。上記動物は、毒素(例えば、DTA)をコードする第2の異種配列をさらに含み、これは、転写終結シグナル(例えば、停止コドン)を含むloxPに挟まれた領域の下流にある。上記動物は、希突起膠細胞においてCreERTを発現するが、理論に縛られずに、上記CreERTは、上記核内へ移行すること、および組換えを実行することができない。結果として、上記動物は、DTAを発現しない。しかし、タモキシフェンで処置すると、CreERTが活性化され、上記転写終結シグナルを含む上記loxPに挟まれた領域は除去され、DTAが、転写および発現され得、このことから、細胞死が誘導される。
【0066】
いくつかの実施形態において、上記トランスジェニック動物は、内因性グリア細胞特異的プロモーター(例えば、PLP)の制御下にある誘導性Creリコンビナーゼ(例えば、CreERT)をコードする第1の異種配列を含む。上記動物は、毒素(例えば、DTA)をコードする第2の異種配列をさらに含み、これは、転写終結シグナル(例えば、停止コドン)を含むloxPに挟まれた領域の下流にある。上記動物は、希突起膠細胞においてCreERTを発現するが、理論に縛られずに、上記CreERTは、上記核内へ移行すること、および組換えを実行することができない。結果として、上記動物は、DTAを発現しない。しかし、タモキシフェンで処置すると、CreERTが活性化され、上記転写終結シグナルを含む上記loxPに挟まれた領域は除去され、DTAは、転写および発現され得る。これにより、上記CreERTを発現する細胞(例えば、希突起膠細胞)において細胞死が誘導される。
【0067】
従って、タモキシフェンでの処置は、上記希突起膠細胞の除去のタイミングを調節するために、時間的に制御され得る。上記タモキシフェンもしくはそのアナログは、上記動物の発生のそのいずれかのステージにおいて、上記動物に投与され得る。上記タモキシフェンもしくはそのアナログは、1回もしくは1回より多く、発生の1つ以上のステージにおいて、上記動物に投与され得る。例えば、上記タモキシフェンは、上記グリア細胞が成熟している場合(例えば、上記希突起膠細胞もしくはシュワン細胞が成熟しているかもしくは増殖していない場合)に上記動物に投与され得る。いくつかの実施形態において、上記動物はマウスであり、上記タモキシフェンもしくはそのアナログは、上記マウスが少なくとも約5週齢、6週齢、7週齢、8週齢、9週齢、10週齢、11週齢、もしくは12週齢である場合に、投与される。いくつかの実施形態において、上記マウスは、上記マウスが約3〜8週齢の間、約5〜7週齢の間、もしくは約6〜8週齢の間である場合に、タモキシフェンもしくはそのアナログで処置される。いくつかの実施形態において、上記マウスは、上記マウスが少なくとも約6ヶ月齢である場合にタモキシフェンもしくはそのアナログで処置される。さらに他の実施形態において、上記マウスは、上記マウスが少なくとも約7ヶ月齢、8ヶ月齢、9ヶ月齢、10ヶ月齢、11ヶ月齢、12ヶ月齢、15ヶ月齢、18ヶ月齢、21ヶ月齢、もしくは24ヶ月齢である場合に、タモキシフェンもしくはそのアナログで処置される。いくつかの実施形態において、上記マウスは、上記マウスが約5〜7ヶ月齢の間、6〜9ヶ月齢の間もしくは9〜12ヶ月齢の間である場合に、タモキシフェンもしくはそのアナログで処置される。いくつかの実施形態において、上記動物はマウスであり、上記タモキシフェンもしくはそのアナログは、上記マウスが成体マウスである場合に投与される。
【0068】
本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物におけるグリア細胞(例えば、非増殖グリア細胞(例えば、成熟した希突起膠細胞もしくはシュワン細胞))の除去もしくは細胞死は、上記動物において脱髄を生じ得る。いくつかの実施形態において、上記非ヒトトランスジェニック動物は、生きたままである。いくつかの実施形態において、上記脱髄は、上記動物において脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を生じる。いくつかの実施形態において、上記動物における脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化は、逆転される。本明細書に記載されるように、脱髄状態に特徴的な表現型は、軸索の分析も、髄鞘形成細胞の分析も、他の分子分析もしくは細胞分析(例えば、軸索の電子顕微鏡検査または神経細胞(例えば、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞)の遺伝子発現の決定)もなく確認され得る、脱髄状態に特徴的な表現型に言及する。例えば、脱髄状態に特徴的な表現型変化は、運動制御、平衡、もしくはCNS伝導の低下であり得、これらは、ロータロッド行動アッセイもしくは脊髄体性感覚誘発電位のような手段によって測定され得る。脱髄状態に特徴的な他の表現型としては、不安定歩行、後肢麻痺、振せん、死滅、体重減少、失調、もしくはその任意の組み合わせのような表現型が挙げられる。上記表現型は、以下からなる群より選択される脱髄障害に特徴的であり得る:進行性多病巣性白質脳症(PML)、脳脊髄炎、橋中央ミエリン溶解(central pontine myelolysis)(CPM)、抗MAG疾患、白質ジストロフィー:副腎脳白質ジストロフィー(ALD)、アレキサンダー病、キャナバン病、クラッベ病、異染性白質ジストロフィー(MLD)、ペリツェウス・メルツバッヘル病、レフサム病、コケイン症候群、Van der Knapp症候群、およびツェルヴェガー症候群、ギラン・バレー症候群(GBS)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)、多巣性運動ニューロパチー(multifocual motor neuropathy)(MMN)、アルツハイマー病もしくは進行性核上性麻痺(progressive supernuclear palsy)。
【0069】
いくつかの実施形態において、本明細書で開示される動物(例えば、マウス)は、マウスのグリア細胞(好ましくは、成熟したもしくは非増殖グリア細胞(例えば、希突起膠細胞、シュワン細胞、もしくはその両方)において特異的に発現されている上記誘導性Creが最初に活性化された後に、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を示す。いくつかの実施形態において、上記動物は、上記最初の活性化および上記1種以上の表現型変化を示した後に、これら表現型変化のうちの1種以上の逆転をさらに示す。例えば、髄鞘形成細胞において誘導性Creリコンビナーゼを発現しかつDTAをコードする異種配列をさらに含み、loxPに挟まれた終結シグナルがDTAをコードする上記配列の上流にある動物において、上記動物は、タモキシフェンで処置され、このタモキシフェンは、上記髄鞘形成細胞が細胞死を受けるように誘導する。上記動物は、脱髄(例えば、ミエリン鞘変性および識別可能な白質に富む領域における空砲形成)を示す。さらに、上記動物は、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化(例えば、運動制御の低下、平衡の低下、CNS伝導の低下、不安定歩行、後肢麻痺、振せん、体重減少、失調、もしくはその任意の組み合わせ)を示し、これら変化は、コントロール動物(例えば、野生型動物もしくは同じ遺伝的バックグラウンドを有するが、タモキシフェンの投与もタモキシフェンでの処置もされていない動物)と比較され得る。所定の期間の後に、上記動物は、上記1種以上の表現型の逆転(例えば、運動制御の増大、平衡の増大、CNS伝導の改善、不安定歩行の低下、後肢麻痺の低下、振せんの低下、体重増加、失調の低下、もしくはその任意の組み合わせ)を示す。
【0070】
いくつかの実施形態において、上記逆転は、完全な逆転であり得、ここで上記動物は、上記動物が、野生型動物もしくは同じ遺伝的バックグラウンドを有するが、非増殖グリア細胞の選択的除去を示すように誘導されない動物)が示す表現型を示すように、脱髄状態に特徴的な上記1種以上の表現型変化から回復する。他の実施形態において、表現型の逆転は、上記表現型が改善する場合のことである。例えば、時点Aにおいて、動物は振せんを示し始める;時点Bにおいて、上記動物は、振せんが増大している;そして時点Cにおいて、上記動物は、時点Aのときの表現型と類似の表現型を示すが、時点Aのときの表現型は、時点Cと比較すると、より良好な表現型である。別の例において、表現型の逆転は、機能(例えば、運動機能もしくはCNS伝導)の完全な喪失がある場合のことであり得、逆転とは機能の獲得(例えば、運動機能もしくはCNS伝導の獲得)のことである。上記獲得は、機能における僅かな改善であり得る。いくつかの実施形態において、上記逆転は、完全な機能を(例えば、野生型動物もしくは同じ遺伝的バックグラウンドを有するが非増殖グリア細胞の選択的除去を示すように誘導されない動物と同じレベルの機能へと)再獲得することであり得る。
【0071】
いくつかの実施形態において、上記動物は、上記第1の異種タンパク質の最初の活性化から(例えば、上記動物における上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化してからもしくは上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤を投与してから)約14日間以降、約21日間以降、約35日間以降、約40日間以降、約42日間以降、約45日間以降、約48日間以降、約50日間以降、約55日間以降、約60日間以降、約65日間以降、約70日間以降、約75日間以降、約80日間以降、もしくは約90日間以降に、脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型の逆転を示す。いくつかの実施形態において、上記動物は、上記第1の異種タンパク質の最初の活性化から(例えば、上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化してから)約35日間以降、もしくは約70日間以降に、脱髄障害に特徴的な上記1種以上の表現型の逆転を示す。他の実施形態において、上記逆転は、上記第1の異種タンパク質の最初の活性化から(例えば、上記動物における上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化してからもしくは上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤を投与してから)の約2週間後、3週間後、4週間後、5週間後、6週間後、7週間後、8週間後、9週間後、10週間後、11週間後、12週間後、13週間後、14週間後、15週間後、もしくは16週間後に始まる。他の実施形態において、上記逆転は、上記第1の異種タンパク質の最初の活性化後(例えば、上記動物における上記誘導性Creリコンビナーゼの活性化後もしくは上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤の投与後)の約2〜12週間の間、約3〜12週間の間、約4〜12週間の間、約5〜12週間の間、約5〜11週間の間、もしくは約6〜11週間の間に始まる。いくつかの実施形態において、上記逆転は、完全な逆転であり得、上記動物は、脱髄状態に特徴的な上記1種以上の表現型変化から回復し、その結果、上記動物が、野生型動物もしくは同じ遺伝的バックグラウンドを有するが、非増殖グリア細胞の選択的除去を示すようには誘導されない動物が示す表現型を示す。他の実施形態において、表現型の逆転は、上記表現型が改善する場合のことである。
【0072】
一実施形態において、脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型(例えば、ロータロッドアッセイに基づく平衡の低下もしくは運動制御の低下)を示すマウスは、タモキシフェンの投与後約42日間で上記表現型における逆転を示す(例えば、図14を参照のこと)。ここで上記逆転は、コントロール動物の運動制御までの改善とはいかずとも、運動制御の改善が本質的になしから、運動制御の一部獲得までの改善のことである。さらに別の実施形態において、上記マウスは、脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型(例えば、感覚誘発電位によって決定される場合のCNS伝導の低下)を示し、このマウスはタモキシフェンの投与後約77日間で上記表現型において逆転を示す(例えば、図16を参照のこと)。ここで上記逆転は、コントロール動物のCNS伝導に等しくないにしても、CNS伝導を本質的に有さないから、CNS伝導を有するまでへの改善のことである。
【0073】
本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物は、上記第1の異種タンパク質を活性化する外因性薬剤で1回より多く処置され得る。例えば、誘導性Creリコンビナーゼ(例えば、CreERT)をコードする第1の異種配列および毒素(例えば、DTA)をコードする第2の異種配列を含み、上記第2の異種配列は、転写終結シグナルを含むloxPに挟まれた領域の下流にあるトランスジェニック動物(好ましくは、マウス)は、タモキシフェンもしくはそのアナログの第1の処置が与えられ、続いて、1回、2回、3回、4回、5回以上のさらなるタモキシフェンでの処置が与えられる。いくつかの実施形態において、上記外因性薬剤のその後の投与は、上記脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型の逆転の後である。例えば、タモキシフェンでの最初の処置後に脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型を示すマウスは、脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型の逆転後に、タモキシフェンでの2回目の処置が施される。
【0074】
上記異種タンパク質を活性化するために上記外因性薬剤を投与する複数回のサイクルが想定され得る。ここでi)外因性薬剤の投与、ii)脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型の提示、およびiii)上記1種以上の表現型の逆転の1回のサイクルが、i)、ii)、およびiii)の別の完全なサイクルまたはこれらの部分的なサイクル(例えば、i)とii)、もしくはi)のみ)に続くことができる。例えば、外因性薬剤の投与の1回のサイクルの後に、脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型の提示、上記1種以上の表現型の逆転、第2回の外因性薬剤の投与、脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型の提示、および上記1種以上の表現型の逆転、第3回の上記外因性薬剤の投与が、行われ得る。上記最初の投与後の上記外因性薬剤の引き続く投与(例えば、2回目、3回目、4回目、5回目、もしくはこれを超える投与)は、上記外因性薬剤の最初の、以前の、もしくはその後の量と比較して、より多量の、等しい、もしくはより低量の上記外因性薬剤の投与であり得る。
【0075】
上記第1の異種タンパク質(すなわち、誘導性Creリコンビナーゼ)を活性化する上記外因性薬剤の引き続く投与は、上記外因性薬剤の最初に投与してからもしくは上記第1の異種タンパク質(すなわち、誘導性Creリコンビナーゼ)を最初に活性化してから約14日間以降、約21日間以降、約35日間以降、約40日間以降、約42日間以降、約45日間以降、約48日間以降、約50日間以降、約55日間以降、約60日間以降、約65日間以降、約70日間以降、約75日間以降、約80日間以降、もしくは約90日間以降である。いくつかの実施形態において、上記第1の異種タンパク質(すなわち、誘導性Creリコンビナーゼ)を活性化する上記外因性薬剤の上記ひき続く投与は、上記第1の異種タンパク質の最初の活性化から(例えば、上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化してから)約70日間後である。他の実施形態において、上記第1の異種タンパク質(すなわち、誘導性Creリコンビナーゼ)を活性化する上記外因性薬剤の上記ひき続く投与は、上記第1の異種タンパク質の最初の活性化から(例えば、上記動物における上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化してからもしくは上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤を投与してから)約2週間後、3週間後、4週間後、5週間後、6週間後、7週間後、8週間後、9週間後、10週間後、11週間後、12週間後、13週間後、14週間後、15週間後、もしくは16週間後である。
【0076】
さらに他の実施形態において、本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物は、第1の異種タンパク質(例えば、誘導性Creリコンビナーゼ)の活性化を誘導する外因性薬剤で処置され得、免疫応答誘導因子、もしくは炎症誘導因子(例えば、内毒素)がさらに投与され得る。いくつかの実施形態において、上記非ヒトトランスジェニック動物は、異種タンパク質の活性化を誘導する外因性薬剤および内毒素(例えば、リポポリサッカリド(LPS))が投与される。上記LPSは、上記異種タンパク質を活性化する上記外因性薬剤(すなわち、タモキシフェンもしくはそのアナログ)の投与の前に、同時に、もしくは後に、投与され得る。LPSの1回より多くの投与はまた、本明細書で企図される。例えば、タモキシフェンの各投与に対して、LPSの投与もまた、上記非ヒトトランスジェニック動物に与えられる。
【0077】
いくつかの実施形態において、誘導性Creリコンビナーゼ(例えば、CreERT)をコードする第1の異種配列および毒素(例えば、DTA)をコードする第2の異種配列を含み、上記第2の異種配列が転写終結シグナルを含むloxPに挟まれた領域の下流にあるトランスジェニック動物(好ましくは、マウス)は、タモキシフェンもしくはそのアナログの第1の処置、続いて、LPSの投与が与えられ得る。いくつかの実施形態において、上記LPSでのその後の投与は、動物が脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型を示すより前である。例えば、上記LPSは、上記第1の異種タンパク質の最初の活性化後(例えば、上記動物における上記誘導性Creリコンビナーゼの活性化後もしくは上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤を投与後)約7日かそれ未満、約14日かそれ未満、約21日かそれ未満、約35日かそれ未満、約40日かそれ未満、約42日かそれ未満、約45日かそれ未満、約48日かそれ未満、約50日かそれ未満、約55日かそれ未満、約60日かそれ未満、約65日かそれ未満、約70日かそれ未満、約75日かそれ未満、約80日かそれ未満、もしくは約90日かそれ未満に投与され得る。他の実施形態において、上記LPSの投与は、上記第1の異種タンパク質の最初の活性化から(例えば、上記動物における上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化してからもしくは上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤を投与してから)約2週間後、3週間後、4週間後、5週間後、6週間後、7週間後、8週間後、9週間後、10週間後、11週間後、12週間後、13週間後、14週間後、15週間後、もしくは16週間後である。
【0078】
非ヒトトランスジェニック動物において第1の異種タンパク質の活性化を誘導するための上記外因性薬剤(例えば、誘導性Creリコンビナーゼの活性化のためのタモキシフェンもしくはそのアナログ)は、当該分野で公知の任意の手段によって投与され得る。これら手段としては、経口経路もしくは非経口経路(静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与、経皮投与、および気道(エアロゾル)投与が挙げられる)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、第1の異種タンパク質の活性化を誘導するための上記外因性薬剤の1用量より多くの用量は、本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物に投与される。上記1用量以上の用量は、同じ手段もしくは異なる手段によって投与され得る。
【0079】
第1の異種タンパク質の活性化を誘導するための上記外因性薬剤の投与に加えて、免疫応答誘導因子(例えば、LPS)の1用量以上の用量が投与され得る。上記免疫応答誘導因子(例えば、LPS)は、当該分野で公知の任意の手段によって投与され得、これら手段としては、経口経路もしくは非経口経路(静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与、経皮投与、および気道(エアロゾル)投与が挙げられる)が挙げられるが、これらに限定されない。上記免疫応答誘導因子(例えば、LPS)の投与は、第1の異種タンパク質の活性化を誘導するための上記外因性薬剤(すなわち、タモキシフェンもしくはそのアナログ)の投与と同じ手段もしくは異なる手段によって投与され得る。
【0080】
いくつかの実施形態において、免疫応答誘導因子(例えば、LPS)の1用量を超える用量は、本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物に投与され得る。上記1用量以上の用量は、LPSの他の用量を投与するために使用される同じ手段もしくは異なる手段によって投与され得る。上記外因性薬剤(例えば、タモキシフェンもしくはそのアナログ)は、単一組成物において上記免疫応答誘導因子(例えば、LPS)と一緒に、非ヒトトランスジェニック動物に投与され得る。あるいは、それらは、実質的に同時に、逐次的に、その日中にもしくは処置期間中に所定の間隔で、異なる頻度で、または同じもしくは異なる投与経路を使用して、投与され得る。上記外因性薬剤(例えば、タモキシフェンもしくはそのアナログ)、および上記免疫応答誘導因子(例えば、LPS)は、同じ手段もしくは異なる手段によって、上記非ヒトトランスジェニック動物に投与され得る。
【0081】
非ヒトトランスジェニック動物において第1の異種タンパク質の活性化を誘導するための上記外因性薬剤(例えば、誘導性Creリコンビナーゼの活性化のためのタモキシフェンもしくはそのアナログ)は、局所にもしくは全身に投与され得る。上記免疫応答誘導因子(例えば、LPS)はまた、局所にもしくは全身に投与され得る。局所投与は、上記CNS、PNS、または上記CNSもしくはPNSの特定の領域に対するものであり得る。例えば、上記投与は、具体的には、脳、脊髄、もしくは視神経に対するものであり得る。
【0082】
いくつかの実施形態において、免疫応答誘導因子(例えば、LPS)が投与される上記動物はまた、炎症マーカー(例えば、顆粒球/好中球抗原4/7、T細胞抗原CD3、IBA1、および測定されるCD11bが挙げられるが、これらに限定されない)の発現を有し得る。
【0083】
(スクリーニングアッセイ)
本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物および方法は、具体的な有用性を提供する。本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物および方法は、髄鞘再生の機構を解明するために、ならびに髄鞘再生を促進するための治療ストラテジーの開発に有用である。これは、脱髄状態に関連するヒト疾患(例えば、先に記載されたもの)の研究に対する現実世界での適用を提供する。また、他の多発性硬化症動物モデルと比較すると、本明細書に記載されるマウスは、薬物開発の間の標的バリデーションに一層の適用性がある。なぜなら、上記脱髄および髄鞘再生事象は、再現性が高く、それらは別個の位置において異なる時点で起こり、両者とも定量的行動表示と明らかに関連するからである。さらに、このモデル系は、髄鞘再生電位における加齢に関連する低下に寄与する要素(factor)であって、これが、被験体が脱髄状態に罹患している先に列挙された疾患に存在する要素の調査を可能にするはずである。最後に、髄鞘形成を調節する薬剤をスクリーニングするための本明細書に記載される方法は、髄鞘形成のエンハンサーおよびインヒビターの両方の同定に適用され得る。なぜなら両方とも、髄鞘形成障害のための治療剤を開発するために価値のある標的であり得るからである。
【0084】
一局面において、上記非ヒトトランスジェニック動物は、髄鞘再生を促進するかもしくは脱髄を阻害する薬剤もしくは生物学的に活性な薬剤の候補薬剤をスクリーニングするために使用される。いくつかの実施形態において、薬剤を選択するための方法は、上記非ヒトトランスジェニック動物において上記第1の異種タンパク質(例えば、誘導性Creリコンビナーゼ)活性化する工程、上記動物に候補薬剤を投与する工程、上記動物における脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を決定する工程;および上記候補薬剤を投与していないコントロール動物と比較して、上記1種以上の表現型変化がより迅速に逆転される場合に、上記薬剤を選択する工程を包含する。他の実施形態において、髄鞘再生を促進する薬剤を選択する方法は、本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物において上記第1の異種タンパク質(例えば、誘導性Creリコンビナーゼ)を活性化する工程、上記動物に候補薬剤を投与する工程、上記動物において髄鞘再生を決定する工程;および上記候補薬剤を投与していないコントロール非トランスジェニック動物と比較して、上記動物が髄鞘再生の増大を示す場合に、上記薬剤を選択する工程を包含する。
【0085】
一局面において、上記非ヒトトランスジェニック動物は、非増殖グリア細胞もしくは増殖グリア細胞の選択的除去を示すように誘導され得る。いくつかの実施形態において、上記動物は、非増殖グリア細胞を特異的に除去するように誘導される。上記グリア細胞除去の誘導は、上記動物において脱髄を生じ、上記動物は、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を示し得、ここで上記1種以上の表現型変化は、上記最初の誘導の後に逆転される。
【0086】
いくつかの実施形態において、上記動物はマウスであり、上記マウスは、そのゲノム内に、誘導性Creリコンビナーゼ(例えば、CreERTもしくはCreERT2)をコードし、神経細胞に特異的なプロモーターもしくは調節領域(例えば、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞に特異的なプロモーター)に作動可能に連結された第1の異種配列を含む。上記マウスはまた、DTAをコードする第2の異種配列を含み、ここでDTAは、上記誘導性Creリコンビナーゼが外因性薬剤(例えば、タモキシフェンもしくはそのアナログ)によって活性化される場合に発現される。次いで、上記DTAの発現は、細胞死を誘導し得る。DTAの発現は、神経細胞において特異的な上記Creリコンビナーゼの発現に起因して、細胞特異的(例えば、神経細胞(例えば、グリア細胞)において特異的)であり得る。従って、DTAの発現は、希突起膠細胞、シュワン細胞、もしくは星状細胞の上記細胞特異的死滅、もしくは細胞特異的除去を誘導し得る。いくつかの実施形態において、上記グリア細胞は、非増殖グリア細胞(例えば、上記CNS、PNS、もしくはその両方にある)であり、ここで上記非増殖グリア細胞の死滅は、上記CNS、PNS、もしくはその両方において脱髄を生じる。いくつかの実施形態において、誘導性Creリコンビナーゼの誘導は、成熟した希突起膠細胞の細胞死を生じる。
【0087】
候補薬剤の投与は、上記Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤(すなわち、CreERTもしくはCreERT2の活性化のためのタモキシフェンもしくはそのアナログ)の投与のような上記誘導性Creリコンビナーゼの誘導の前、誘導と同時もしくは誘導の後であり得る。いくつかの実施形態において、上記候補薬剤は、上記誘導性Creリコンビナーゼの誘導後(例えば、上記Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤(すなわち、CreERTもしくはCreERT2の活性化のためのタモキシフェンもしくはそのアナログ)の投与後)に、上記動物に投与される。
【0088】
上記候補薬剤は、当該分野で公知の任意の手段によって投与され得、これら手段としては、経口経路もしくは非経口経路(静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与、経皮投与、および気道(エアロゾル)投与が挙げられる)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記候補薬剤の1用量を超える用量は、本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物に投与される。他の実施形態において、1種以上の候補薬剤が投与され得る。上記1用量以上の用量、もしくは1種以上の候補薬剤は、同じ手段もしくは異なる手段によって投与され得る。さらに、上記動物はまた、上記外因性薬剤の1用量以上の用量が投与され得る。第1の異種タンパク質の活性化を誘導するための上記外因性薬剤の1用量以上の用量の投与に加えて、免疫応答誘導因子(例えば、LPS)の1用量以上の用量はまた、上記候補薬剤の投与の前に、投与と同時に、もしくは投与の後に、上記動物に投与され得る。上記候補薬剤は、誘導性Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤(すなわち、タモキシフェンもしくはそのアナログ)、および必要に応じて、上記免疫応答誘導因子(すなわち、LPS)と一緒に、単一組成物において非ヒトトランスジェニック動物に投与され得る。あるいは、上記候補薬剤は、実質的に同時に、逐次的に、その日中もしくは処置期間の間の所定の間隔で、異なる頻度で、または誘導性Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤、および必要に応じて、LPSと同じもしくは異なる投与経路を使用することによって投与され得る。上記候補薬剤、ならびに上記外因性薬剤、および必要に応じてLPSは、局所にもしくは全身に投与され得る。局所投与は、上記CNS、PNS、または上記CNSもしくはPNSの特定の領域に対するものであり得る。例えば、上記投与は、具体的には、上記脳、脊髄、もしくは視神経に対するものであり得る。
【0089】
いくつかの実施形態において、候補薬剤(例えば、単一用量もしくは複数用量)の投与は、脱髄状態に特徴的な上記1種以上の表現型変化(例えば、不安定歩行、後肢麻痺、振せん、運動制御の低下、平衡の低下、CNS伝導の低下、もしくはその任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない)の提示の前に、提示と同時に、もしくは提示の後に行われ得る。次いで、薬剤は、上記候補薬剤を投与していないコントロール動物と比較して、上記1種以上の表現型変化がより迅速に逆転される場合に選択され得る。例えば、上記Creリコンビナーゼを活性化してからもしくは上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化する外因性薬剤を投与してから約35日間以降に上記脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型の逆転を示す動物において、薬剤は、上記候補薬剤を投与した動物が、約35日間未満で脱髄障害に特徴的な上記1種以上の表現型の逆転を示す場合に選択され得る。
【0090】
他の実施形態において、上記Creリコンビナーゼを活性化してからもしくは上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化する外因性薬剤を投与してから約70日間以降に脱髄障害に特徴的な上記1種以上の表現型の逆転を示す動物において、薬剤は、上記候補薬剤を投与した動物が脱髄障害に特徴的な上記1種以上の表現型の逆転を約70日間未満で示す場合に選択され得る。例えば、成熟した希突起膠細胞において発現される上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化するためにタモキシフェンを投与したマウスは、ロータロッドアッセイで潜時の低下を示し(例えば、図14を参照のこと)、タモキシフェン投与後の42日目後に回復し始める。比較すると、候補薬剤を投与したマウスは、タモキシフェン投与後の約42日かそれ未満に回復を始める。いくつかの実施形態において、上記薬剤は、上記薬剤を投与した動物において脱髄障害に特徴的な上記1種以上の表現型の逆転が、上記薬剤を投与していない動物における脱髄障害に特徴的な上記1種以上の表現型の逆転のための時間の約1/2、1/3、1/4、1/5、1/6、1/7、1/8、1/9、1/10、1/11、1/12、1/14、1/21、1/28、1/35、1/42、1/49、1/56、1/63、1/70、もしくは1/77以下である場合に選択される。いくつかの実施形態において、検出および分析(例えば、ビデオテープ収録、体重測定、ロータロッドアッセイ、SEPアッセイ、視覚的観察が挙げられるが、これらに限定されない)は、種々の時点で行われ、試験薬剤の投与は、上記アッセイの過程の間に、ならびに異なる投与レジメンを使用して、反復され得る。
【0091】
いくつかの実施形態において、薬剤は、動物における脱髄障害に特徴的な上記1種以上の表現型の逆転が、上記薬剤を投与していない動物におけるものより早いもしくは迅速であることで選択される。上記候補薬剤を投与していない上記コントロール動物は、代表的には、上記候補薬剤を投与した上記動物と同じ遺伝的バックグラウンドを有し、その第1の異種タンパク質(すなわち、誘導性Creリコンビナーゼ)が活性化されている。他の実施形態において、薬剤は、上記候補薬剤を投与した上記動物が、上記候補薬剤を投与していないコントロール動物と比較して、より低い程度まで(例えば、より低い重篤度、より低い程度、もしくは示さない)脱髄状態に特徴的な上記1種以上の表現型変化を示す場合に選択され、ここで両方の動物は、活性化された誘導性Creリコンビナーゼを有する。他の実施形態において、薬剤は、上記候補薬剤を投与した上記動物が、上記候補薬剤を投与していないコントロール動物と比較して、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化の提示において遅延を有する場合に選択される。
【0092】
さらに他の実施形態において、薬剤は、上記薬剤を投与した上記動物が、上記薬剤を投与していないコントロール非トランスジェニック動物と比較して、髄鞘再生の増大を示す場合に選択される。例えば、本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物における非増殖髄鞘形成細胞における上記誘導性Creリコンビナーゼの活性化後に、上記動物は、上記細胞においてDTAを発現し、これは、細胞死を誘導し、上記動物において脱髄を生じる。上記脱髄状態は、上記神経系(例えば、上記中枢神経系もしくは末梢神経系)における髄鞘形成した軸索の減少によって、または髄鞘形成細胞(例えば、希突起膠細胞およびシュワン細胞)のマーカーのレベルの低下によって、特徴付けられ得る。形態的には、ニューロンの脱髄は、上記中枢神経系における希突起膠細胞もしくは上記末梢神経系におけるシュワン細胞の喪失によって特徴付けられ得る。上記ニューロンの脱髄はまた、上記神経系における髄鞘形成した軸索の減少によって、もしくは希突起膠細胞マーカーもしくはシュワン細胞マーカーのレベルの低下によって、決定され得る。希突起膠細胞もしくはシュワン細胞の例示的マーカータンパク質としては、CC1、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、プロテイン2(P2)、ガラクトセレブロシド(GalC)、スルファチドおよびプロテオリピドタンパク質(PLP)が挙げられるが、これらに限定されない。よって、本発明の方法によって同定される上記候補薬剤は、ニューロンの脱髄の有害な形態的特性を阻害し得る物質を包含する。
【0093】
従って、いくつかの実施形態において、上記髄鞘再生は、髄鞘形成した軸索によって特徴付けられる。例えば、髄鞘形成した軸索は、当該分野で公知の任意の手段を使用して(例えば、電子顕微鏡検査によって)、検出され得る。他の実施形態において、髄鞘再生は、星状細胞もしくはミクログリア細胞のマーカーの発現によって特徴付けられ得る(例えば、ミクログリア細胞マーカーの発現の低下は、ミクログリア細胞の低下を表す)。いくつかの実施形態において、髄鞘再生は、1種以上の希突起膠細胞の細胞マーカーの発現によって特徴付けられる。例えば、候補薬剤で処置された動物の1種以上の髄鞘再生特異的マーカータンパク質の発現は、コントロール動物もしくは参照動物に対して比較され得る。タンパク質レベルを検出するのに適した多種多様な標識は、当該分野で公知である。非限定的な例としては、放射性同位体、酵素、コロイド性金属、蛍光化合物、生物発光化合物、および化学発光化合物が挙げられる。他の実施形態において、上記マーカーのRNAレベルもしくはmRNAレベルは、例えば、PCR、RT−PCR、もしくは当該分野で公知の他の手段によって検出される。上記希突起膠細胞の細胞マーカーは、CC1、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、プロテイン2(P2)、ガラクトセレブロシド(GalC)、スルファチドおよびプロテオリピドタンパク質(PLP)からなる群から選択され得るが、これらに限定されない。
【0094】
さらに他の実施形態において、髄鞘再生特異的マーカータンパク質の発現(例えば、タンパク質レベルもしくはmRNAレベルを測定する)は、上記試験動物およびコントロール動物もしくは参照動物において、候補薬剤が髄鞘再生阻害活性もしくは髄鞘再生低下活性を有するか否かを決定することで、測定される。このような薬剤は、髄鞘再生インヒビターもしくは髄鞘再生毒素として分類され得る。
【0095】
本明細書で開示される場合、髄鞘再生は、マーカー遺伝子/遺伝子生成物(例えば、上記中枢神経系もしくは末梢神経系において)の上記細胞特異的発現において増大を観察することによって、確認され得る。上記マーカータンパク質の蛍光は、小動物において蛍光を検出するための当該分野で公知のインビトロ方法もしくはインビボ方法を使用して、検出され得る。インビボ蛍光は、関連分野において入手可能なデバイスを利用して、検出および/もしくは定量化され得る。視覚化、画像化もしくは検出は、侵襲性の技術、最小限に侵襲性の技術もしくは非侵襲性の技術を介して行われ得る。代表的には、顕微鏡検査技術は、上記トランスジェニック動物から、生細胞から、もしくはインビボ画像化技術を介して得られる細胞/組織からの蛍光を検出もしくは画像化するために利用される。
【0096】
発光、蛍光もしくは生体発光シグナルは、種々の自動化および/もしくはハイスループット機器システム(蛍光マルチウェルプレートリーダー、蛍光活性化セルソーター(FACS)および上記シグナルの空間的分解を提供する自動化された細胞ベースの画像化システムが挙げられる)のうちのいずれかで容易に検出され定量化される。種々の機器システムが、HCS(ハイコンテントスクリーニング)(Cellomics、Amersham、TTP、Q3DM、Evotec、Universal ImagingおよびZeissによって開発された自動化蛍光画像化システムおよび自動化顕微鏡検査システムが挙げられる)を自動化するために開発されてきた。蛍光退色後蛍光回復法(Fluorescence recovery after photobleaching)(FRAP)および経時的蛍光顕微鏡検査法(time lapse fluorescence microscopy)はまた、生細胞におけるタンパク質移行性を研究するために使用されてきた。
【0097】
蛍光の可視化(例えば、蛍光タンパク質をコードするマーカー遺伝子)は、動物から得られる細胞/組織サンプルを(例えば、切片化および共焦点顕微鏡を使用した画像化を介して)検査すること、生細胞を検査することもしくはインビボで蛍光を検出することのいずれかを介して、顕微鏡検査技術を用いて行われ得る。可視化技術としては、当該分野で公知の共焦点顕微鏡法もしくは光学スキャニング技術(photo−optical scanning techniques)の利用が挙げられるが、これらに限定されない。一般に、近赤外線での発光波長を有する蛍光標識は、散乱および自己蛍光の両方(これらは、バックグラウンドノイズを増加させる)が、波長が長くなるにつれて低下するので、深部組織画像化がより容易にできる。インビボ画像化の例は、当該分野で公知である(例えば、Mansfieldら,J.Biomed.Opt.10:41207(2005);Zhangら,Drug Met.Disp.31:1054−1064(2003);Flusbergら,Nat.Meth.2:941−950(2005);Mehtaら,Curr Opin Neurobiol.14:617−628(2004);Jungら,J.Neurophysiol.92:3121−3133(2004);米国特許第6977733号および同第6839586号(これらの各開示は、本明細書に参考として援用される)に開示される)。
【0098】
さらに、脱髄/髄鞘再生現象は、当該分野で公知の免疫組織化学的手段もしくはタンパク質分析によって観察され得る。例えば、上記試験動物の脳の切片は、希突起膠細胞マーカーを特異的に認識する抗体で染色され得る。別の局面において、希突起膠細胞マーカーの発現レベルは、イムノブロッティング、ハイブリダイゼーション手段、および増幅手順、ならびに当該分野で十分確立されている任意の他の方法によって定量化され得る(例えば、Mukouyamaら,Proc.Natl.Acad.Sci.103:1551−1556(2006);Zhangら,前出;Girardら,J.Neurosci.25:7924−7933(2005);ならびに米国特許第6,909,031号;同第6,891,081号;同第6,903,244号;同第6,905,823号;同第6,781,029号;および同第6,753,456号(これら各々の開示は、本明細書に参考として援用される))。
【0099】
別の局面において、上記中枢神経系もしくは末梢神経系に由来する細胞/組織は、摘出され得、タンパク質に関して加工処理され得、例えば、組織は、ホモジナイズされ、タンパク質は、SDS−10% ポリアクリルアミドゲル上で分離され、次いで、ニトロセルロース膜に転写されて、マーカータンパク質を検出する。蛍光タンパク質レベルは、一次抗体/抗血清(例えば、特定のマーカータンパク質に対して得られたヤギポリクローナル;BD Gentest,Woburn, MA)およびペルオキシダーゼ結合体化2次抗体ウサギ抗ヤギIgG(Sigma−Aldrich)を利用して、検出され得る。化学発光は、組織サンプル中の蛍光マーカータンパク質のレベルを検出および決定するために、当該分野で入手可能な標準試薬を使用して検出される。
【0100】
本発明の別の局面において、本明細書で開示されるトランスジェニック動物は、細胞/組織培養物の供給源であり得る。例えば、本明細書で開示される動物の細胞は、遺伝子もしくは遺伝子生成物の発現の比較、またはコントロール細胞(コントロール動物から得られた細胞)に対して試験神経細胞(例えば、トランスジェニックの希突起膠細胞もしくはシュワン細胞)における上記遺伝子生成物の活性を提供するための、細胞ベースのアッセイのために使用され得る。上記細胞は、増殖細胞もしくは非増殖細胞(例えば、成熟したもしくは分化した希突起膠細胞もしくはシュワン細胞)であり得る。上記試験神経細胞は、上記CNSもしくはPNS、または上記トランスジェニック動物の細胞から得られる細胞培養物、その子孫、および上記供給源から調製される切片もしくはスメア、あるいは例えば、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞またはそれらの前駆体を含む脳の任意の他のサンプルから単離され得る。所望される場合、他の神経細胞タイプ(例えば、ニューロン、ミクログリア細胞、および星状細胞)を実質的に含まない富化された細胞培養物を使用することが選択され得る。成熟した希突起膠細胞およびシュワン細胞を単離、生成もしくは維持するための種々の方法が、当該分野で公知であり(Baerwaldら,J.Neurosci.Res.52:230−239(1998);Leviら,J Neurosci.Meth.68:21−26(1998))、それらは本明細書で例示される。
【0101】
また、選択される候補薬剤、もしくは生物学的に活性な薬剤が本明細書において提供され、これらとしては、生物学的もしくは化学的な化合物(例えば、単純なもしくは複雑な有機分子もしくは無機分子、ペプチド、ペプチド模倣物、タンパク質(例えば、抗体)、リポソーム、低分子干渉RNA、またはポリヌクレオチド(例えば、アンチセンス)が挙げられ得るが、これらに限定されない。非常に多くの整理された化合物が、合成され得(例えば、ポリマー(例えば、ポリペプチドおよびポリヌクレオチド)、および種々のコア構造物に基づく合成有機化合物)、これらはまた、本明細書で企図される。さらに、種々の天然の供給源が、スクリーニングのための化合物を提供し得る(例えば、植物もしくは動物の抽出物など)。常に明示的に示されている訳ではないが、上記活性な薬剤が単独で、または本発明のスクリーニング方法によって同定される薬剤と同じ生物学的活性もしくは異なる生物学的活性を有する別の調節因子と組み合わせて使用され得ることは、理解されるべきである。
【0102】
本明細書で開示される1つ以上の方法においてアッセイされる候補薬剤(例えば、治療剤/薬物)は、異なる時点で比較して、ならびに参照もしくはコントロールと比較して、上記薬物に応じた全体的な差異があるか否かを決定するために、上記モデル系(例えば、本明細書で開示されるトランスジェニック動物)において使用され得る。マーカーの発現を検出および定量化することによって、上記トランスジェニック動物は、候補薬剤が髄鞘再生を調節するか否か、およびそれがどの程度までかを決定するために使用され得る。当然のことながら、当業者は、前述が、本明細書で開示されるモデル系を利用するための一例に過ぎないことを認識する。
【0103】
従って、候補治療剤/薬物が、本発明の1つ以上の方法においてアッセイされている場合、上記候補治療剤/薬物は、異なる時点で比較して、ならびに参照もしくはコントロールと比較して、上記薬物に応じて全体的に差異があるか否かが決定され得る。まとめると、グリア細胞(例えば、前駆体希突起膠細胞)の単一の亜集団において差次的に発現されるマーカーの発現を検出および定量化することによって、前述の例における上記トランスジェニック動物は、種々のデータを得るために使用される。上記データとしては、髄鞘再生が傷害後に起こっているか否か、および候補薬剤がこのような髄鞘再生を調整するか否か、およびそれがどの程度までかということ、が挙げられる。当然のことながら、当業者は、前述が、本発明の髄鞘再生モデル系を利用するための一例に過ぎないことを認識する。
【0104】
(薬学的組成物)
本明細書で開示される1つ以上の方法は、脱髄を阻害するかもしくは髄鞘再生を促進することによって、脱髄の処置においてその後実施され得る生物学的に活性な薬剤を選択するために利用され得る。髄鞘再生を調節するに有効な上記選択された生物学的に活性な薬剤は、ニューロンの脱髄障害を処置するための医薬の調製のために使用され得る。特定の実施形態において、本明細書で言及される脱髄障害は、多発性硬化症である。他の実施形態において、上記脱髄障害は、進行性多病巣性白質脳症(PML)、脳脊髄炎、橋中央ミエリン溶解(CPM)、抗MAG疾患、白質ジストロフィー:副腎脳白質ジストロフィー(ALD)、アレキサンダー病、キャナバン病、クラッベ病、異染性白質ジストロフィー(MLD)、ペリツェウス・メルツバッヘル病、レフサム病、コケイン症候群、Van der Knapp症候群、およびツェルヴェガー症候群、ギラン・バレー症候群(GBS)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)、および多巣性運動ニューロパチー(MMN)からなる群より選択される。
【0105】
一局面において、同定され/選択される生物学的に活性な本発明の薬剤は、病原体(例えば、細菌およびウイルス)に罹患したニューロンの脱髄を処置するために投与され得る。別の局面において、上記選択された薬剤は、例えば、橋中央ミエリン溶解およびビタミン欠乏症における場合のように、毒性物質によってもしくは毒性の代謝生成物の身体への蓄積によって引き起こされるニューロンの脱髄を処置するために使用され得る。なお別の局面において、上記薬剤は、物理的傷害(例えば、脊髄損傷)によって引き起こされる脱髄を処置するために使用され得る。さらになお別の局面において、上記薬剤は、遺伝的特性を有する障害において現れる脱髄、遺伝的障害(白質ジストロフィー、副腎脳白質ジストロフィー、変性性多系統萎縮症(degenerative multi−system atrophy)、ビンスワンガー脳症、上記中枢神経系における腫瘍、および多発性硬化症が挙げられるが、これらに限定されない)を処置するために投与され得る。
【0106】
同定され/選択される生物学的に活性な本発明の薬剤はまた、以下が挙げられるが、これらに限定されない目的の他の生成物とともに、それより前に、もしくはその後に送達され得る:増殖因子、サイトカイン、神経増殖因子、アンチセンスRNA、siRNA、免疫抑制剤、抗炎症剤、抗増殖剤、抗遊走剤、抗線維症剤、抗アポトーシス剤、抗体、抗血栓剤、抗血小板剤、IIbIIIIa因子(IIbIIIIa agent)、脈管形成因子、抗脈管形成因子、抗ウイルス剤、神経増殖因子、NGFファミリーのタンパク質、NGF、β−NGF、ニューロトロフィン−3前駆物質(NT−3)、HDNF、神経増殖因子2(NGF−2)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−5(NT−5)、、ニューロトロフィン−4(NT−4)、もしくはこれらの前駆体および組み合わせ。
【0107】
種々の送達系は公知であり、生物学的に活性な薬剤を投与するために使用され得る(例えば、リポソームへの被包化、微粒子、マイクロカプセル、組換え細胞による発現、レセプター媒介性エンドサイトーシス(例えば、Wu and Wu,J.Biol.Chem.262:4429−4432(1987)を参照のこと)、レトロウイルスベクターもしくは他のベクターの一部としての治療用核酸の構築など)。送達法としては、動脈内経路、筋肉内経路、静脈内経路、鼻内経路、および経口経路が挙げられるが、これらに限定されない。具体的実施形態において、処置の必要な領域に局所的に本発明の薬学的組成物を投与することは望ましいことであり得る;このことは、例示であって、限定ではなく、手術の間の局所的注入によって、注射によって、もしくはカテーテルの手段によって達成され得る。特定の実施形態において、上記薬剤は、被験体の神経系(好ましくは、上記中枢神経系)に送達される。別の実施形態において、上記薬剤は、髄鞘再生を受けている神経組織に投与される。
【0108】
上記選択される薬剤の投与は、1用量において、処置の過程全体を通じて連続して、もしくは間欠的に、行われ得る。投与の最も有効な手段および投薬量を決定するための方法は、当業者に周知であり、治療のために使用される組成物、治療の目的、処置されている標的細胞、および処置されている被験体とともに変動する。単回投与もしくは複数回投与は、処置している医師によって選択される用量レベルおよびパターンで行われ得る。
【0109】
本発明の薬学的組成物の調製は、薬学的調製物を調製するために一般に受容された手順に従って行われる。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences 18th Edition(1990),E.W.Martin ed.,Mack Publishing Co.,PAを参照のこと。意図された使用および投与様式に依存して、薬学的組成物の調製において上記活性成分をさらに加工処理することは、望ましいことであり得る。適切な加工処理は、適切な無毒性の妨害しない成分と混合する工程、滅菌する工程、用量単位に分割する工程、および送達デバイスに封入する工程を包含し得る。
【0110】
経口投与、鼻内投与もしくは局所投与のための薬学的組成物は、固体形態、半固体形態もしくは液体形態で供給されうる(錠、カプセル、粉末、液体、および懸濁物が挙げられる)。注射用の組成物は、液体溶液もしくは懸濁物として、エマルジョンとして、または注射前に液体中に溶解もしくは懸濁するのに適した固体形態として、供給されうる。気道を介した投与のために、一部の組成物は、適切なエアロゾル生成デバイス(aerosolizer device)とともに使用される場合、固体、粉末、もしくはエアロゾルを提供するものである。
【0111】
液体の薬学的に受容可能な組成物は、例えば、液体賦形剤(例えば、水、食塩水、水性デキストロース、グリセロール、もしくはエタノール)中に、本明細書で具現化されたポリペプチドを溶解もしくは分散させることによって調製されうる。上記組成物はまた、他の医療用薬剤、薬学的作用物質、アジュバント、キャリア、および補助物質(例えば、湿潤剤もしくは乳化剤)、およびpH緩衝化剤を含み得る。
【実施例】
【0112】
(実施例1:PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの生成およびCreリコンビナーゼ活性の誘導)
ROSA26−eGFP−DTA対立遺伝子(Ivanovaら,Genesis 43:129−135(2005))を含み、eGFP遺伝子およびNeo遺伝子を含む上流のloxPに挟まれたDNA配列領域の存在に起因して、機能的に不活性な形態にあるジフテリア毒素A鎖(DT−A)の遺伝子を有するマウスを、PLP/CreERT対立遺伝子(Doerflingerら,Genesis,35:63−72(2003))を有し、希突起膠細胞において上記Creリコンビナーゼのタモキシフェン関連バージョンを発現するマウスと交配した。上記交配から、複合ヘテロ接合性PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスを生じ、ここで上記loxPに挟まれた領域のCre媒介性除去は、上記PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスにおいてタモキシフェンで誘導され、その結果、DTA発現を生じる(図1)。
【0113】
5〜7週齢において、上記マウスに、1日あたり1mgのタモキシフェンを5〜7日間にわたって、腹腔内に(IP)投与した。上記タモキシフェン処置マウスの脳におけるDTAの発現を、PCRによって確認した。そのP1プライマー(5’−AAACTCTTCGCGGTCTTTC−3’)およびP2プライマー(5’−CTTAACGCTTTCGCCTGTTC’3’)を使用し、その結合部位を図1に示す。組換えを行なうと、上記P1およびP2プライマーは、図2に示されるように、約650bp(DTA)生成物を増幅する。そのコントロールレーンは、DTAの誘導発現がない上記ROSA26−eGFP−DTAマウスからのPCR結果および1回目のタモキシフェンを注射してから(dpi)7日間の後、14日間の後および21日間の後に処置された上記タモキシフェン処置マウスの結果(それぞれ、レーンmut−D7、mut−D14、およびmut−D21に示される)を示す。理論に拘束されないが、DTA発現の最終的な減少は、細胞死および細胞の欠如に起因し得る。
【0114】
(実施例2:タモキシフェン処置マウスの脱髄および表現型の特徴)
上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスを、希突起膠細胞の喪失を検出するために特徴付けた。上記希突起膠細胞の細胞喪失を決定するために、その脳幹、小脳、脳梁、皮質、頸髄(灰白質および白質)におけるCC−1染色を行い、上記タモキシフェン処置マウスPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの7dpi、14dpiおよび21dpiにおいて定量した(図5)。希突起膠細胞の細胞喪失は、21dpiまでに上記タモキシフェン処置マウスPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの大部分のCNS領域において最大であった(例えば、図4、図5を参照のこと)。
【0115】
以下のプライマーでのRT−PCRを行った:
マウスPLPセンスプライマー: CACTTACAACTTCGCCGTCCT
マウスPLPアンチセンスプライマー: GGGAGTTTCTATGGGAGCTCAGA
マウスPLPプローブ: AACTCATGGGCCGAGGCACCAA
マウスMBPセンスプライマー: GCTCCCTGCCCCAGAAGT
マウスMBPアンチセンスプライマー: TGTCACAATGTTCTTGAAGAAATGG
マウスMBPプローブ: AGCACGGCCGGACCCAAGATG
マウスGAPDHセンスプライマー: CTCAACTACATGGTCTACATGTTCCA
マウスGAPDHアンチセンスプライマー: CCATTCTCGGCCTTGACTGT
マウスGAPDHプローブ: TGACTCCACTCACGGCAAATTCAACG。
【0116】
上記結果から、コントロールマウスと比較して、7dpi、14dpi、もしくは21dpiの上記タモキシフェン処置マウスPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスにおいて希突起膠細胞の細胞喪失より先に、Plp mRNAレベルおよびMbp mRNAレベルの劇的な低下が示された(図6)。
【0117】
CNS髄鞘形成を、脊髄の電子顕微鏡検査(EM)およびトルイジンブルー染色、ならびに脳におけるMAGおよびMBPのタンパク質発現のウェスタンブロッティングによって、決定した。希突起膠細胞の細胞喪失の影響は、上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの21dpiにおいて最小であった(図7)。しかし、14dpiにおいて、上記マウスは、脱髄状態に特徴的な表現型を示した。上記マウスは、振せんおよび失調性の非協調歩行を示した。21dpiまでに、一部のマウスは、非常に虚弱になり、死に至った。
【0118】
生き残った上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの21dpiは、SEP応答を何ら示さなかった。SEP記録は、35dpiおよび70〜77dpiのDTAマウスにおいて可能であった(図16および図17)。上記SEP応答を決定するために、コントロールマウスおよびタモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスを、Avertin(登録商標)の腹腔内注射で麻酔し、刺激電極を、3種の異なる坐骨神経レベルのうちの1つの皮下に導入した:(1)足首、(2)膝窩、もしくは(3)根部に直接。アース電極を、上記神経の刺激の際には尾部にあてがい、記録を、下部腰椎もしくは中位胸椎レベルから行った。上記2種のレベルから記録した感覚誘発電位(SEP)の開始潜時の差異(ΔL)を、上記CNSにおける伝導の概算値として計算した。
【0119】
35dpiおよびさらに42日間のPIにおいて、上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスは、ロータロッド上で動作することができなかった(図14)。上記マウスは、加速モード(5rpmから65rpmまで)で回転している上記ロッド上で5分間の試験期間の間、該マウスが自身を維持する時間(潜時)に関して試験された。上記潜時を、各マウスに関して、1日4回のセッションを、1週間に1回、連続7週間にわたって行うことによってモニターした。
【0120】
また、35dpiにおいて、上記マウスは、失調の増大および振せんの増大を示し、上記マウスの小脳、脳幹、脊髄、および視神経のトルイジンブルー染色から、上記CNS全体にわたって大量の希突起膠細胞の喪失が明らかになり、別個の白質に富む領域においてミエリン鞘変性および空砲形成を生じた(図10)。35dpiにおける頸髄−腹側白質のEMから、脱髄もまた実証された(図11)。ミクログリア活性化(上記小脳におけるミクログリアのCD11b染色によって示されるように)はまた、35dpiにおいて脱髄と相関した(図12)。
【0121】
(実施例3:髄鞘再生および脱髄に特徴的な表現型の逆転)
驚くべきことに、上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスは、髄鞘再生することができ、髄鞘再生に特徴的な上記表現型の逆転を示した。上記動物は、顕著な表現型回復を示した。実施例2に記載されるように、上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスは、35dpiおよびさらには42dpiにおいて上記ロータロッド上で動作することができなかった。しかし、上記マウスは、42dpi後および77dpiまでに彼らの運動機能を再獲得しはじめ、上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの潜時は、最終的には、上記コントロールマウスの潜時にほぼ近づいた(図14)。上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスは、21dpiにおいてSEP応答を何ら有さず、Δ潜時(ΔLat(上記T5〜T6ピーク潜時とL4〜L5ピーク潜時の間の差異))が、コントロールより僅かに低くかつ振幅(Amp)が正常である場合、70dpiまでにSEP応答を有した(図17)。
【0122】
予測外なことには、上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスにおいて、希突起膠細胞が除去された領域が再び補充され、修復されていた。上記希突起膠細胞の細胞数は、CC1免疫染色によって示されるように、35dpiまでに増加しており、70dpiまでにさらに増加した(図8)。Mbp mRNA発現およびPlp mRNA発現のRT−PCR分析は、類似の傾向を示し、ここで70dpiまでに、上記レベルは、コントロールマウスよりさらに高かった(図9)。上記マウスの小脳、脳幹、脊髄、および視神経のトルイジンブルー染色から、70dpiにおいて髄鞘再生もまた明らかになり(図10)、同様に、頸髄−腹側白質のEMもまた、髄鞘再生を示した(図11)。ミクログリア活性化はまた、減少し、それは髄鞘再生と相関した(図12)。さらに、希突起膠細胞前駆細胞(OPC)はまた、上記脳幹および小脳においてPDGFRα陽性細胞によって測定される場合、上記コントロールマウスと比較して、増加していた(図13)。
【0123】
上記脱髄および脱髄障害に特徴的な表現型の提示、ならびに上記予測外の髄鞘再生および上記表現型の逆転のまとめを、図19に示す。
【0124】
(実施例4:PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスにおけるタモキシフェンの滴定)
PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスに、種々のレジメンの種々の量のタモキシフェンもしくは4−ヒドロキシタモキシフェン(4−OHT)を投与して、脱髄の範囲および脱髄障害に特徴的な表現型変化を評価する。約1〜7mgの範囲に及ぶ4−OHTの用量を、異なるマウス群にIP投与する。3〜7連続日にわたる1日約1回の投与レジメンをまた、異なるマウス群に対して様々にする。上記異なるマウス群はまた、若年マウス(5〜6週齢)および老齢マウス(6〜9ヶ月齢)を含む。
【0125】
上記マウスを、CC1免疫染色、CD11b染色、EM、トルイジンブルー染色、MbpおよびPlp遺伝子発現、ロータロッドアッセイ、上記トレッドミルDigiGaitアッセイによる歩行の分析、ならびにSEPアッセイによって特徴付ける。免疫組織化学もまた行う。表現型変化の程度(例えば、臨床症状の重篤度がより低いこと、臨床症状を示すのにより長い時間がかかること、もしくは回復時間がより早いこと)は、実施例1に記載されるレジメンと比較して、より低い投与量もしくはより短い投与時間で予測される。より低い投与量を上記マウスに用いると、マウスの死亡のパーセンテージもより低くなり得る。老齢マウスに対する若年マウスの上記効果および任意の差異(例えば、回復の時間もしくは回復の程度)もまた、分析する。
【0126】
(実施例5:PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスへのタモキシフェンの脳内注射)
上記PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスにおいて局所化した脱髄を誘導するために、タモキシフェンを、定位注入によって上記マウスへと注射する。定位装置を、上記タモキシフェン溶液を、カニューレを通して前もって選択した位置に送達するための注射プローブを移植するために使用する。この位置は、マウスの脳地図からの座標によって規定される。約10〜100μg/日を、1〜3日間にわたって、上記マウスに継続して投与する。
【0127】
上記脳内注射を、若年マウス(5〜6週齢)および老齢マウス(6〜9ヶ月齢)において行う。上記マウスを、CC1免疫染色、CD11b染色、EM、トルイジンブルー染色、MbpおよびPlpの遺伝子発現、ロータロッドアッセイ、上記トレッドミルDigiGaitアッセイによる歩行の分析、ならびにSEPアッセイによって特徴付ける。免疫組織化学もまた行う。老齢マウスに対する若年マウスへの作用および任意の差異(例えば、回復の時間もしくは回復の程度)を分析する。
【0128】
(実施例6:PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの反復した脱髄および髄鞘再生)
上記マウスの髄鞘再生能力および表現型逆転能力を決定するために、タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAの若年マウス(5〜6週齢)および老齢マウス(6〜9ヶ月齢)を回復させた(実施例3に記載されるように)か、もしくは回復させた後に、実施例4において決定されるような量もしくは用量のタモキシフェンをIPにより投与した。1つのマウス群において、タモキシフェンの2回目の注射は、PIの120日間後である。
【0129】
上記マウスを、CC1免疫染色、CD11b染色、EM、トルイジンブルー染色、MbpおよびPlpの遺伝子発現、ロータロッドアッセイ、上記トレッドミルDigiGaitアッセイによる歩行の分析、ならびにSEPアッセイによって特徴付ける。免疫組織化学染色もまた、行う。上記結果をまた、タモキシフェンで1回だけ処置したマウスと比較して、回復時間がより長いか否か、回復がそれほど強くないのか否か、もしくは脱髄および表現型が、1回処置したマウスと比較してより重篤であるのか否かを決定する。上記老齢マウスに対する若年マウスへの作用および任意の差異(例えば、回復の時間もしくは回復の程度)もまた、分析する。
【0130】
同じ実験を反復する。ここでLPSと同様にタモキシフェンを局所に投与(実施例5を参照のことのこと)する。
【0131】
(実施例7:PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスへのLPSおよびタモキシフェンの投与)
上記PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAの若年マウス(5〜6週齢)および老齢マウス(6〜9ヶ月齢)に、タモキシフェン(実施例1に記載されるか、または実施例4において決定されるような量もしくは用量)をIPで投与する。単一用量のLPS、200μgを、7dpiおよび14dpiにおいて、または上記動物が脱髄障害に特徴的な表現型を示す前に7dpiもしくは14dpiで開始して、7連続日にわたって1日用量10μgを注射することによって、IP投与する。
【0132】
上記マウスを、CC1免疫染色、CD11b染色、EM、トルイジンブルー染色、MbpおよびPlpの遺伝子発現、ロータロッドアッセイ、上記トレッドミルDigiGaitアッセイによる歩行の分析、ならびにSEPアッセイによって特徴付ける。免疫組織化学もまた、行う。上記脳への免疫細胞のインフラックスもまた、以下のマーカーを検査することによって決定する:顆粒球/好中球抗原4/7、T細胞抗原CD3、およびIBA1。LPSで処置したマウスへの作用および任意の差異(例えば、回復の時間もしくは回復の程度)を、タモキシフェンを投与したが、LPSで処置しなかったマウスのそれと比較する。LPSで処置したマウスは、より早い回復時間を有し得る。老齢マウスに対して若年マウスへの上記作用および任意の差異(例えば、回復の時間もしくは回復の程度)もまた、分析する。
【0133】
同じ実験を反復する。ここでLPSと同様にタモキシフェンを局所に投与(実施例5を参照のことのこと)する。同じ実験をまた行う。ここでタモキシフェンを複数回投与し(実施例6を参照のことのこと)、ここでLPSも、タモキシフェンの各投与に対して投与する。
【0134】
(実施例8:PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスにおける血液脳関門の完全性)
上記PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAの若年マウス(5〜6週齢)および老齢マウス(6〜9ヶ月齢)に、タモキシフェン(実施例1に記載されるかもしくは実施例4において決定されるような量もしくは用量)をIPで投与する。血液脳関門(BBB)の完全性を試験するために、エバンブルー色素を、屠殺する48時間前に、マウスにIP注射する(2%,4ml/kg体重)。上記青色色素の分布を、脳実質において分析して、上記BBBの完全性を決定する。
【0135】
(実施例9:生物学的に活性な薬剤のスクリーニング)
上記PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスに、タモキシフェン(実施例1に記載されるように、または実施例4において決定されるような量もしくは投与量)をIPで投与する。候補薬剤を、上記動物が脱髄障害の表現型の特徴を示す前に、PIの14日後に上記マウスにIPで投与する。
【0136】
上記マウスを、種々の時点でのロータロッドアッセイおよび上記トレッドミルDigiGaitアッセイによる歩行の分析によって特徴付ける。上記薬剤は、上記マウスが、タモキシフェンを投与するが上記候補薬剤を投与しないPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスより早くその運動制御を回復する場合に、治療剤としてのさらなる開発のために選択される。
【0137】
本発明は、上記の実施形態に限定されないが、添付の特許請求の範囲の範囲内での改変が可能である。当業者は、慣用的な実験のみを使用して、本明細書に記載される本発明の具体的実施形態の多くの等価物を認識するかあるいは確認し得る。多くのバリエーション、変化、および置換は、いまや本発明から逸脱することなく当業者に想起される。本明細書に記載される実施形態に対する種々の代替物は、本発明を実施するにあたって使用され得ることが理解されるべきである。以下の特許請求の範囲は、発明の範囲を規定し、これら請求項の範囲内の方法および構造物、ならびにこれらの等価物が、特許請求の範囲によって網羅されることが意図される。
【技術分野】
【0001】
政府支援の研究に対する陳述
本発明は、国立衛生研究所により授与されたNS027336およびNS034939の下、政府支援により成された。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
関連出願
本願は、2009年9月2日に出願された米国仮特許出願61/275,839の利益を主張し、この米国仮特許出願は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0003】
(背景)
ニューロンの脱髄は、神経系におけるミエリンの減少によって特徴付けられる有害な状態である。ミエリンは、中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)に極めて重要な成分であり、それはニューロンの軸索を覆い、ミエリン鞘として公知の絶縁層を形成する。上記ミエリン鞘の存在は、上記軸索を下って伝達する電位の形態で神経シグナルの速度および完全性を増強する。ミエリン鞘の喪失は、感覚、運動および他のタイプの機能に重大な障害をもたらす。なぜなら、神経シグナルがその標的に余りにも遅く到達するか、非同期的に(例えば、ある神経における一部の軸索が、他のものより早く伝導する場合)到達するか、間欠的に(例えば、伝導が、高周波数においてのみ損なわれる場合)到達するか、もしくは全く到達しないかのいずれかであるからである。
【0004】
神経組織は、ニューロンおよび支持細胞もしくはグリア細胞を含む。グリア細胞は、哺乳動物の脳において約10〜1倍だけニューロンより数が勝る。グリア細胞は、4つのタイプに分けられ得る:星状細胞、希突起膠細胞、シュワン細胞およびミクログリア細胞。上記ミエリン鞘は、あるタイプのグリア細胞(すなわち、CNSにおける希突起膠細胞およびPNSにおけるシュワン細胞)の形質膜もしくは細胞膜によって形成される。髄鞘形成希突起膠細胞は、脱髄病変において同定されてきた。このことは、脱髄した軸索が、新たに合成された髄鞘で修復され得ることを示している。
【0005】
ニューロンの脱髄は、非常に多くの遺伝性および後天性の上記CNSおよびPNSの障害において現れている。これら障害としては、多発性硬化症(MS)、進行性多病巣性白質脳症(PML)、脳脊髄炎、橋中央ミエリン溶解(CPM)、抗MAG疾患、白質ジストロフィー、副腎脳白質ジストロフィー(ALD)、アレキサンダー病、キャナバン病、クラッベ病、異染性白質ジストロフィー(MLD)、ペリツェウス・メルツバッヘル病、レフサム病、コケイン症候群、Van der Knapp症候群、およびツェルヴェガー症候群、ギラン・バレー症候群(GBS)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)、および多巣性運動ニューロパチー(multifocual motor neuropathy)(MMN)が挙げられる。これら障害の大多数に関しては、治癒しないかもしくは有効な治療がわずかしかない。
【0006】
多発性硬化症は、上記中枢神経系の一般的な脱髄疾患である。上記疾患は、代表的には、再発および軽快によって臨床的に特徴付けられ、最終的には、慢性的な障害をもたらす。多発性硬化症のより初期の相は、通常は、ミエリン鞘に対する自己免疫の炎症性の攻撃によって特徴付けられ、麻痺、協調の欠如、感覚障害および視覚障害をもたらす。上記疾患のその後の慢性的な進行相は、代表的には、上記ミエリン鞘の活発な変性および上記脱髄病変の不適切な髄鞘再生(remyelination)に起因する(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。
【0007】
希突起膠細胞は、脱髄障害の主要な標的細胞であり、これら障害からの回復には希突起膠細胞による正常なミエリンの再生が必要であると考えられている。しかし、髄鞘再生は、しばしば、不十分なプロセスであり、このプロセスは、顕著な障害および/もしくは死をもたらす。証拠から、髄鞘再生の主要な細胞機構は、発生的髄鞘形成(developmental myelination)とは異なり得ることが示唆されている(非特許文献1;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8)。従って、理解されている髄鞘再生は、ミエリン修復の原因、影響および改善選択肢を同定する重要な局面のうちの1つである。実際に、MS研究における大きな挑戦は、髄鞘再生失敗の原因を理解すること、およびその結果を改善する方法を考案することである。近年において、いくつかの系統の証拠から、MSにおける脱髄した病変は、希突起膠細胞前駆細胞(OPC)において欠損しておらず、むしろ、髄鞘再生の失敗は、希突起膠細胞の不十分な再配置(repopulation)と関連することが示唆された(非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11)。
【0008】
現在では、髄鞘再生した軸索を同定する能力は、このような軸索のミエリン鞘が、例えば、同定のための電子顕微鏡(EM)分析の使用を介して、より薄くなる傾向にあるという前提に基づいている。インビボでの髄鞘再生の慣用的な分析には、特に、実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)(ここで上記脱髄および髄鞘再生は、1つの特定の位置に正確に位置させることはできない)のような状況においては、EM分析は、極端に骨が折れるかつ高価であり得る。
【0009】
従って、ニューロンの髄鞘再生の分子的基礎の同定および解明を促進するために、神経細胞(例えば、髄鞘形成細胞)の誘導除去(inducible ablation)のための方法およびシステムが未だにかなり必要である。例えば、非免疫ベースの方法を使用して、神経細胞の誘導除去のための方法およびシステムが必要である。動物モデルの使用を介するような方法およびシステムは、髄鞘再生の分子的基礎を解明するために使用され得るのみならず、髄鞘再生を促進するのに有効な生物学的に活性な薬剤を開発するためにも使用され得る。上記動物モデルはまた、脱髄障害の表現型特徴を研究し、これら表現型を逆転する生物学的に活性な薬剤を同定するための大いに必要とされているシステムを提供し得る。本発明は、これら必要性を満たし、関連する利点もまた提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Franklin,Nat.Rev.Neurosci.3:705−714(2002)
【非特許文献2】Bruckら,J.Neurol.Sci.206:181−185(2003)
【非特許文献3】Compstonら,Lancet 359:1221−1231(2002)
【非特許文献4】Balabanovら,Nat.Neurosci.8:262−264(2005)
【非特許文献5】Farhadiら,J.Neurosci.23:10214−10223(2003)
【非特許文献6】Ruffiniら,Am.J.Pathol.165:2167−2175(2004)
【非特許文献7】Arnettら,Science 306:2111−2115(2004)
【非特許文献8】Stidworhtyら,Brain 127:1928−1941(2004)
【非特許文献9】Changら,J.Neurosci.20:6404−6412(2000)
【非特許文献10】Lucchinettiら,Brain 122:2279−2295(1999)
【非特許文献11】Maedaら,Ann.Neurol.49:776−785(2001)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
(要旨)
本発明は、細胞の時間および組織特異的誘導除去のための方法およびシステムを提供する。一局面において、本発明は、第1の異種配列の発現を制御することであり、ここで上記発現は、組織特異的プロモーターによって制御され、発現は、誘導因子の添加によってブロックが解除される(unblocked)まで、ブロックされる。このことは、上記組織特異的プロモーターへの転写的接近およびタンパク質(これは、次いで、細胞死を誘導するタンパク質をコードする第2の異種配列の発現を誘導し得る)をコードする第1の異種配列の発現を可能にする。このような協調したシステムは、時間および位置での遺伝子発現の制御を可能にして細胞死をもたらす。一局面において、細胞は、神経細胞(例えば、髄鞘形成細胞)である。非ヒトトランスジェニック動物は、a)グリア細胞特異的プロモーターに作動可能に連結された第1の異種ヌクレオチド配列であって、ここで上記第1の異種ヌクレオチド配列は、第1の異種タンパク質をコードし、上記第1の異種ヌクレオチド配列は、上記動物において安定して発現される、第1の異種ヌクレオチド配列;およびb)第2の異種タンパク質をコードする第2の異種ヌクレオチド配列であって、ここで上記第2の異種タンパク質は、上記第1の異種タンパク質の活性化の際に発現され、非増殖グリア細胞の死滅を誘導し、ここで上記第1の異種タンパク質の初期活性化は、上記動物において上記非増殖グリア細胞の死滅を誘導し、上記動物において脱髄を生じ、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を生じ、そして上記1種以上の表現型変化は、上記第1の異種タンパク質の初期活性化の後に逆転される、第2の異種ヌクレオチド配列を含む、動物である。いくつかの実施形態において、上記動物は、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、およびサルからなる群より選択される動物)である。例えば、上記動物は、少なくとも約5週齢、約4〜6ヶ月齢、もしくは6ヶ月齢を超えるマウスであり得る。上記非増殖グリア細胞は、上記中枢神経系(CNS)、末梢神経系(PNS)、もしくはその両方に存在し得る。いくつかの実施形態において、上記非増殖グリア細胞の死滅は、上記CNS、PNS、もしくはその両方の脱髄を生じる。
【0012】
いくつかの実施形態において、本発明の非ヒトトランスジェニック動物は、そのゲノムの中に、グリア細胞特異的プロモーターに作動可能に連結された第1の異種ヌクレオチド配列(ここで上記第1の異種ヌクレオチド配列は、第1の異種タンパク質をコードし、上記第1の異種タンパク質の活性は、誘導性である)を含む。上記活性(例えば、組換え)は、外因性薬剤によって誘導され得る。上記第1の異種タンパク質は、リコンビナーゼ(例えば、Creリコンビナーゼもしくはその改変体)であり得る。いくつかの実施形態において、上記改変体は、融合タンパク質(例えば、Creリコンビナーゼおよびエストロゲンレセプターの変異したリガンド結合ドメインの融合物)である。このような実施形態において、上記外因性薬剤は、タモキシフェンもしくはそのアナログ(例えば、上記融合タンパク質が、CreERTもしくはCreERT2である場合)であり得る。いくつかの実施形態において、上記外因性薬剤は、1回より多く上記動物に投与される。さらに他の実施形態において、リポポリサッカリド(LPS)は、上記第1の異種タンパク質の活性化の前に、もしくはそれと同時に、もしくはその後に、または上記外因性薬剤の投与後に、上記動物に投与される。上記外因性薬剤、上記LPS、もしくはその両方は、例えば、CNSもしくはPNSに対して、局所にもしくは腹腔内に投与され得る。例えば、上記外因性薬剤、LPS、もしくはその両方の局所への投与は、上記脳、視神経、もしくは脊髄に対するものであり得る。
【0013】
いくつかの実施形態において、本発明の非ヒトトランスジェニック動物は、そのゲノムの中に、グリア細胞特異的プロモーターに作動可能に連結された第1の異種ヌクレオチド配列を含む。例えば、上記プロモーターは、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、希突起膠細胞特異的タンパク質(OSP)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、もしくはプロテイン2(P2)を含むが、これらに限定されない群より選択される遺伝子のプロモーターであり得る。所望される場合、特定の実施形態において、上記プロモーターは、PLP、MBP、およびCNPからなる群より選択される遺伝子のプロモーターである。
【0014】
別の局面において、本発明の非ヒトトランスジェニック動物は、第2の異種タンパク質をコードする第2の異種ヌクレオチド配列を含み、ここで上記第2の異種タンパク質は、上記第1の異種タンパク質の活性化の際に非増殖グリア細胞の死滅を誘導する。いくつかの実施形態において、上記第2の異種タンパク質は、細胞死を誘導する。上記第2の異種タンパク質は、外毒素(例えば、ジフテリア毒素もしくはそのサブユニット)であり得る。例えば、上記第2の異種タンパク質は、ジフテリア毒素のAサブユニット(DT−A)であり得る。上記第2の異種タンパク質は、増殖グリア細胞(例えば、希突起膠細胞前駆細胞もしくは星状細胞)、または非増殖グリア細胞(例えば、成熟した希突起膠細胞もしくは髄鞘形成シュワン細胞)の両方の死滅を誘導し得る。
【0015】
いくつかの実施形態において、本発明の非ヒトトランスジェニック動物における上記非増殖グリア細胞の死滅は、脱髄をもたらし、脱髄状態(例えば、多発性硬化症(MS))に特徴的な1種以上の表現型変化を生じる。上記1種以上の表現型変化は、不安定歩行、後肢麻痺、振せん、体重減少、失調、もしくはその任意の組み合わせであり得る。いくつかの実施形態において、脱髄状態に特徴的な上記1種以上の表現型変化は、運動制御の低下、平衡の低下、もしくはCNS伝導の低下である。いくつかの実施形態において、上記運動制御もしくは平衡は、ロータロッド行動アッセイ、もしくは姿勢および歩行力学の空間的および時間的指標を提供する任意の他のアッセイ(例えば、DigiGaitトレッドミルによる)によって測定され、CNS伝導は、脊髄体性感覚誘発電位によって測定される。
【0016】
本発明のさらに他の局面において、脱髄状態に特徴的な上記1種以上の表現型変化は、上記第1の異種タンパク質の最初の活性化が、上記動物における脱髄(例えば、上記CNS、PNS、もしくはその両方において)生じた後に逆転される。いくつかの実施形態において、上記1種以上の表現型変化は、上記第1の異種タンパク質を活性化してから、約35日間以降に逆転される。さらに他の実施形態において、上記1種以上の表現型変化は、上記第1の異種タンパク質を活性化してから、約70日間以降に逆転される。
【0017】
また、本発明の非ヒトトランスジェニック動物の細胞が、本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、上記細胞は、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞である。上記細胞は、増殖細胞もしくは非増殖細胞であり得る。
【0018】
本発明はまた、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化の逆転を促進する生物学的に活性な薬剤を選択する方法を提供し、上記方法は、a)本発明の非ヒトトランスジェニック動物において上記第1の異種タンパク質を活性化する工程;b)候補薬剤を上記動物に投与する工程;c)上記動物における脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を決定する工程;およびd)上記1種以上の表現型変化が上記候補薬剤を投与しないコントロール動物と比較してより迅速に逆転される場合に、上記薬剤を選択する工程を包含する。脱髄状態(例えば、MS)に特徴的な1種以上の表現型変化は、不安定歩行、後肢麻痺、振せん、体重減少、失調、もしくはその任意の組み合わせであり得る。いくつかの実施形態において、上記1種以上の表現型変化は、運動制御の低下、平衡の低下、もしくはCNS伝導の低下である。いくつかの実施形態において、上記運動制御もしくは平衡は、ロータロッド行動アッセイ、もしくは姿勢および歩行力学の空間的および時間的指標を提供する任意の他のアッセイによって(例えば、DigiGaitトレッドミルによって)測定され、CNS伝導は、脊髄体性感覚誘発電位によって測定される。
【0019】
また、髄鞘再生を促進する生物学的に活性な薬剤を選択する方法が本明細書で提供され、上記方法は、:a)本発明の非ヒトトランスジェニック動物において上記第1の異種タンパク質を活性化する工程;b)候補薬剤を上記動物に投与する工程;c)上記動物において髄鞘再生を決定する工程;およびd)上記動物が上記候補薬剤を投与しないコントロール非トランスジェニック動物と比較して髄鞘再生の増大を示す場合、上記薬剤を選択する工程を包含する。いくつかの実施形態において、上記髄鞘再生は、髄鞘形成した軸索によって、希突起膠細胞の細胞マーカーの発現によって、もしくはこれらの組み合わせによって特徴付けられる。上記希突起膠細胞の細胞マーカーは、CC1、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、プロテイン2(P2)、ガラクトセレブロシド(GalC)、スルファチドおよびプロテオリピドタンパク質(PLP)からなる群より選択され得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、PLP/CreERT対立遺伝子を有するマウスと交配し、PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスを生じる、ROSA26−eGFP−DTA対立遺伝子を含むマウスの模式図を示す。LoxPに挟まれた(floxed)領域のCre媒介性削除は、上記PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスにおいてタモキシフェンで誘導され、DTA発現を生じる。
【図2】図2は、PCR結果を図示し、この結果により、図1に示されるプライマーP1およびP2を使用して、タモキシフェン処置したPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの脳におけるDTAメッセージの発現が確認される。DTAの誘導発現がない成体PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス(コントロール);およびタモキシフェンによってDNA発現が誘導された成体PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス(それぞれ、mut−D7、mut−D14、およびmut−D21(1回目のタモキシフェン注射(dpi)の7日間後、14日間後、および21日間後の上記タモキシフェン処置マウスを表す))を示す。
【図3】図3は、PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAタモキシフェン処置マウスにおける細胞死出現を図示する。(A)TUNEL陽性細胞核(矢印)の数の増加が、コントロールと比較して、5dpiにおいて上記PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAタモキシフェン処置マウスの脳梁領域において見いだされた。(B)同じ領域から、カスパーゼ−3の活性型(矢印)について陽性染色された細胞の数の増加が示された。このことは、希突起膠細胞の死滅が、Cre組換えがこれら細胞において生じたすぐあとに起こることを示す。細胞核を、DAPIで対比染色した。
【図4】図4は、上記タモキシフェン処置したPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス 21dpiのCNSにおける少数の希突起膠細胞を図示する。小脳(上側パネル)および脊髄(下側パネル)におけるCC−1染色は、コントロールマウスと比較して、上記マウス21dpi(mut−D21)において低下している。
【図5】図5は、希突起膠細胞の細胞喪失が、21dpiまでのタモキシフェン処置マウス PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス(mut−D7、mut−D14、およびmut−D21(それぞれ、上記タモキシフェン処置マウスの7dpi、14dpi、および21dpiを示す))の大部分のCNS領域において最大であることを図示するグラフを示す。
【図6】図6は、コントロールマウスと比較して、7dpi、14dpi、もしくは21dpiのタモキシフェン処置マウスPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAにおける希突起膠細胞の細胞喪失より先に起こる(A)Plpおよび(B)MbpのmRNAレベルの劇的な低下を図示するグラフを示す。
【図7】図7は、コントロールマウスと比較した、(A)脊髄のトルイジンブルー染色(上側のパネル)および電子顕微鏡検査(EM,下側のパネル)、ならびに(B)脳におけるMAGおよびMBPのタンパク質発現によって示されるとおり、CNSミエリンにおける希突起膠細胞の細胞喪失の影響が、タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの21dpiにおいて最小であることを図示する。(A)における矢印は、上記タモキシフェン処置 PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの21dpiにおけるミエリン鞘ラメラの分離によって生成される白質の空胞を指す。
【図8】図8は、70dpiまでにタモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの(A)脳幹、(B)小脳、(C)頚髄灰白質、および(D)視神経における、ほぼ正常への希突起膠細胞の細胞数が回復したことを図示する。CC−1陽性細胞の定量化により、希突起膠細胞数が、21dpiにおいて、タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスにおいて有意に低下し、次いで、35dpiでは全ての領域において僅かに増加し、70dpiでは、いたるところでコントロールに匹敵する値に達したことが示された(n=4,*p<0.013,**p<0.006,両側t検定)。グラフA〜Dは、平均値±標準偏差を示す(灰色=コントロールマウス、黒=タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス)。
【図9】図9は、図8に図示されるように、希突起膠細胞の細胞数に類似した変化を示す、上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス(「変異体」)の脳における(A)Plp mRNAレベルの発現および(B)MbpのmRNAレベルの発現を図示する。
【図10】図10は、コントロールと比較して、PIの21日間、PIの35日間、およびPIの70日間においてタモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスのCNSにおけるミエリン欠損の進行および修復を図示する(mut−D21、mut−D35、およびmut−D70(それぞれ、上記タモキシフェン処置マウスの21、35、および70dpiを表す))。
【図11】図11は、上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスのCNSミエリンにおける損傷が70dpiまでに修復されることを図示する。DTAの誘導発現がないPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス(本明細書においてDTAと省略される)(コントロール);およびタモキシフェンによるDTA発現が誘導されたPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス(DTA−21dpi、DTA−35dpi、およびDTA−70dpi(それぞれ、1回目のタモキシフェン注射をして21日間後、35日間後、および70日間後の上記タモキシフェン処置マウスを表す))が示される。
【図12】図12は、タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスのCNSにおけるミクログリア活性化の増大を図示する。(A)上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの35dpiの小脳(CB)におけるCD11bマーカーは、脱髄と相関する。(B〜E)総CNS細胞を、個々の同腹仔コントロールおよび35dpiのタモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス(n=8)の脳および脊髄から単離した。上記細胞を計数し、フローサイトメトリー分析(CD45+細胞の存在について生細胞をゲーティングし、かつCD11b+細胞の存在についてCD45lo集団に対してCD45hiをゲーティングする)を介して分析した。代表的同腹仔コントロールマウスからのフロープロット(B)、およびタモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス(DTA)からのフロープロット(C)を、示す。CD45hi細胞およびCD45lo細胞の総数(D)、ならびにCD45lo/CD11b+細胞の総数(E)を、コントロール 対 DTA動物にして示す(データは、1群あたり8匹のマウスの細胞数の平均値±S.E.M.として表わした。**p<0.001(D)、**p<0.004(E)。スケールバー:100μm(A))。
【図13】図13は、成体希突起膠細胞前駆細胞(OPCs)の数が、脳幹および小脳におけるPDGFRα陽性細胞によって示されるように、タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの35dpiにおいて増加することを図示する。
【図14】図14は、上記ロータロッド行動アッセイ(これは、上記マウスの運動協調および平衡の評価を提供する)を使用する、タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウス(「変異体」)における運動機能の欠陥およびその後の回復の定量的評価を示す。
【図15】図15は、CNS伝導特性を測定するために使用される脊髄体性感覚誘発電位(SEP)の模式図を示す。SEPを、足首において脛骨神経を刺激することによって、下部腰椎(L4−L5)および中位胸椎(T5−T6)の椎骨レベルから記録する。T5−%6とL4−L5のSEPピーク潜時との間の差異(ΔLat)を、上記CNS伝導性の評価として使用する。
【図16】図16は、35dpiおよび70dpiのコントロールマウスおよびDTAマウスから記録したSEP波形を図示する。各SEP線は、足首における脛骨神経の刺激後に、上記下部腰椎レベルもしくは中位胸椎レベルから記録された25〜30の誘発応答の平均を表す。SEP誘発は、21dpiのDTAマウスにおいて可能でなかった。このことは、上記PNSおよびCNSの両方に生じているミエリンもしくはニューロンの機能不全におそらく起因する。
【図17】図17は、上記SEPパラメーター(ピーク潜時(Lat)およびΔ潜時(ΔLat,上記T5〜T6とL4〜L5のピーク潜時の間の差異)、および振幅(Amp))の統計分析を図示する。35dpiのDTAマウスにおいて、ピーク潜時は延長し、Δ潜時は増大する一方で、振幅は減少する。このことは、これらマウスのPNSおよびCNSの両方における重度の伝導欠陥を示す。70〜77dpiにおいて、DTAマウスにおいて観察される振幅は、コントロールに匹敵する値に達するが、35dpiの値と比較すると改善したものの、ピーク潜時における軽度の欠陥が残っている。グラフは、平均値±S.E.M.を示す。35dpiに関しては、n=7〜8、*p<0.005、**p<0.0001。70〜77dpiに関しては、n=6〜7、*p<0.03;**p<0.008。
【図18】図18は、PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAタモキシフェン処置マウスの視神経におけるミエリン欠陥および軸索欠陥の定量化を図示する。(A)上記視神経のEM分析から、56dpiのPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAタモキシフェン処置マウス(「DTA」)において観察可能な広範囲なミエリン喪失は、70dpiまでに修復されることが明らかにされ、70dpiの時点で、多くの軸索が、薄く髄鞘形成していることが分かった。(B)髄鞘形成していない軸索の数は、両方の時点で、PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAタモキシフェン処置マウス(「DTA」)において有意に高かったが、56dpiと比較して、70dpiにおける髄鞘形成していない軸索は、約70%低かった(**p<1.30×10−5,n=3)。(C)上記視神経における髄鞘形成した軸索のg比および軸索直径を比較する線形回帰分析から、コントロール(灰色の点,n=3)と比較して、70dpiのPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAタモキシフェン処置マウス(「DTA」)(黒点,n=3)における軸索の全てのサイズに関して、より薄いミエリンが示された。(D)PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAタモキシフェン処置マウス(「DTA」)の視神経における軸索の総数は、21dpiおよび70dpiにおけるコントロール値に類似であることが分かった(p>0.27,n=3)。BおよびDのグラフは、平均値±S.Dを示す。スケールバー:2μm(A)。
【図19】図19は、脱髄状態(例えば、多発性硬化症)および髄鞘再生に特徴的な表現型の進行のタイムラインを図示する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施形態の詳細な説明)
本開示全体を通じて、種々の刊行物、特許および公開特許明細書が、特定している引用によって参照される。これら刊行物、特許および公開特許明細書の開示は、本発明が属する分野の技術分野をさらに記載するために、本開示の中に参考として本明細書によって援用される。
【0022】
(一般的技術)
本発明の実施は、別段示されなければ、免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ゲノミクスおよび組換えDNAの従来技術を使用するが、これら技術は、当該分野の技術範囲内である。Sambrook,Fritsch and Maniatis,MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL,3rd edition(2001);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(F.M.Ausubel,ら eds.,(1987));the series METHODS IN ENZYMOLOGY(Academic Press,Inc.): PCR 2: A PRACTICAL APPROACH(M.J.MacPherson, B.D.Hames and G.R.Taylor eds.(1995)),Harlow and Lane,eds.(1988) ANTIBODIES, A LABORATORY MANUAL、およびANIMAL CELL CULTURE(R.I.Freshney,ed.(1987));B.K.C.Lo, ANTIBODY ENGINEERING: METHODS AND PROTOCOLS(2003);B.C.Chen, PCR CLONING PROTOCOLS(2010)を参照のこと。
【0023】
(定義)
本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、単数形「1つの、ある(a)」、「1つの、ある(an)」および「上記、この、その(the)」は、文脈が別のことを明らかに示さなければ、複数形への言及を含む。例えば、用語「1つの細胞、ある細胞(a cell)」は、複数の細胞(その混合物を含む)を含む。
【0024】
用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」および「オリゴヌクレオチド」は、交換可能に使用される。それらは、任意の長さのヌクレオチド(デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチド、またはこれらのアナログ)のポリマー形態に言及する。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造を有し得、任意の機能(既知もしくは未知)を発揮し得る。以下は、ポリヌクレオチドの非限定的例である:遺伝子もしくは遺伝子フラグメントのコード領域もしくは非コード領域、連鎖分析から規定される複数の遺伝子座(単数の遺伝子座)、エキソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分枝状ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブ、およびプライマー。ポリヌクレオチドは、改変されたヌクレオチド(例えば、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログ)を含み得る。存在する場合、上記ヌクレオチド構造物に対する改変は、上記ポリマーのアセンブリ前もしくはアセンブリ後に付与され得る。上記ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分によって中断され得る。ポリヌクレオチドは、重合後に(例えば、標識成分との結合体化によって)さらに改変され得る。
【0025】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は本明細書において交換可能に使用され、それは、任意の長さのアミノ酸のポリマーに言及する。上記ポリマーは、直鎖状であっても分枝状であってもよいし、改変アミノ酸を含んでいてもよいし、そして非アミノ酸によって中断されていてもよい。上記用語はまた、改変されたアミノ酸ポリマーを包含する;例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、もしくは任意の他の操作(例えば、標識成分との結合体化)。本明細書で使用される場合、用語「アミノ酸」とは、天然および/または非天然もしくは合成のアミノ酸(グリシン、およびD光学異性体もしくはL光学異性体の両方、ならびにアミノ酸アナログおよびペプチド模倣物を含む)のいずれかに言及する。
【0026】
用語「異種」とは、それが比較される実体の残りとは遺伝子型が異なる実体に由来することを意味する。用語「異種」とは、ポリヌクレオチドもしくはポリペプチドに適用される場合、それが比較される実体の残りのものとは遺伝子型が異なる実体に、上記ポリヌクレオチドもしくはポリペプチドが由来することを意味する。例えば、ヌクレオチド配列もしくはタンパク質に適用される場合、それが比較される実体の残りのものとは遺伝子型的が異なる実体に、上記ヌクレオチド配列もしくはタンパク質が由来することを意味する。
【0027】
本明細書で使用される場合、「発現」とは、ポリヌクレオチドがmRNAへと転写されるプロセスおよび/または上記転写されたmRNA(「転写物」ともいわれる)がその後、ペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質へと翻訳されるプロセスに言及する。上記転写物および上記コードされるポリペプチドは、まとめて「遺伝子生成物」といわれる。上記ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、発現は、真核生物細胞における上記mRNAのスプライシングを含み得る。
【0028】
用語「髄鞘再生している」もしくは「髄鞘再生」とは、髄鞘形成を修復するもしくは発生的でない髄鞘形成を修復することに言及する。
【0029】
「被験体」、「個体」もしくは「患者」は、本明細書において交換可能に使用され、これらは、脊椎動物、好ましくは、哺乳動物、より好ましくは、ヒトに言及する。哺乳動物としては、マウス、サル、ヒト、家畜、競技用の動物、およびペットが挙げられるが、これらに限定されない。インビボで得られた生物学的実体もしくはインビトロで培養された生物学的実体の組織、細胞およびそれらの子孫もまた、包含される。
【0030】
本明細書に記載される動物モデルもしくは細胞培養アッセイにおいて使用される「生物学的に活性な薬剤」とは、生物学的もしくは化学的な化合物(例えば、単純なもしくは複雑な有機もしくは無機の分子、ペプチド、ペプチド模倣物、タンパク質(例えば、抗体)、リポソーム、低分子干渉RNA、もしくはポリヌクレオチド(例えば、アンチセンス))からなる群より選択され得る。さらに、複雑な有機もしくは無機の分子を含むこのような薬剤は、化合物の不均質混合物(例えば、粗製のもしくは精製した植物抽出物)を含み得る。
【0031】
「プロモーターエレメント」とは、このような配列に連結される遺伝子の転写を促進する調節配列である。上記調節配列は、エンハンサー配列もしくはその機能的部分を含み得る。
【0032】
「コントロール」とは、比較目的で実験に使用される補助的な被験体、細胞もしくはサンプルである。
【0033】
「loxPに挟まれた」DNA領域とは、2個のlox部位(改変体lox部位を含む)が隣り合っているDNAの領域に言及し、上記DNA領域は、転写終結因子(例えば、停止シグナル)を含む。上記DNA領域は、代表的には、遺伝子を含む。例えば、上記「loxPに挟まれた」DNAは、マーカー(例えば、eGFP)であり得る。
【0034】
「停止信号構築物(stoplight construct)」とは、loxPに挟まれ、第2の遺伝子にさらに作動可能に連結された第1の遺伝子を含む遺伝子構築物に言及する。上記「停止信号構築物」は、「停止信号カセット」とも言及され得、必要に応じて、プロモーター配列に作動可能に連結され得る。従って、上記第1のloxPに挟まれた遺伝子がリコンビナーゼ(例えば、Cre)媒介性組換えを介して除去される場合、上記第2の遺伝子は、発現される。例えば、上記第1のloxPに挟まれた遺伝子は、毒素(例えば、DTA)をコードする第2の遺伝子に作動可能に連結された蛍光マーカータンパク質(例えば、eGFP)であり得る。上記第2の遺伝子(例えば、DTA)の発現は、上記第1の領域および停止シグナルを含む上記loxPに挟まれた領域が原因で阻害される。上記loxPに挟まれたeGFPおよび停止シグナルが組換えを介して除去される場合、上記第2の遺伝子であるDTAは、転写され発現され得る。
【0035】
「脱髄状態に特徴的な表現型」とは、軸索の分析も、髄鞘形成細胞の分析も、他の分子の分析や細胞の分析(例えば、軸索の電子顕微鏡検査、免疫組織化学、または神経細胞(例えば、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞)の遺伝子発現もしくはタンパク質発現を決定すること)もなしで確認し得る、脱髄状態に特徴的な表現型に言及する。例えば、脱髄状態に特徴的な表現型変化は、運動制御、平衡、もしくはCNS伝導における低下であり得、これらは、ロータロッド行動アッセイもしくは脊髄体性感覚誘発電位のような手段によって測定され得る。脱髄状態に特徴的な他の表現型としては、不安定歩行、後肢麻痺、振せん、体重減少、失調、もしくはその任意の組み合わせのような表現型が挙げられる。
【0036】
(トランスジェニック動物)
本発明は、神経細胞の誘導除去のための方法およびシステムを提供する。上記モデルシステムは、髄鞘再生の機構の解明、ならびに髄鞘再生を促進するための治療的ストラテジーの開発において有用である。一局面において、上記システムもしくは動物モデルは、非増殖グリア細胞の選択的除去を示すように誘導され得る非ヒトトランスジェニック動物である。いくつかの実施形態において、非増殖グリア細胞の特異的除去は、上記動物において脱髄を生じる。
【0037】
脱髄は、神経系(例えば、中枢神経系もしくは末梢神経系)における髄鞘形成された軸索の減少によって、または髄鞘形成細胞のマーカーのレベルの低下によって、特徴付けられ得る。本明細書で使用される場合、髄鞘形成細胞とは、上記神経系において軸索を絶縁するミエリンを生成し得る細胞をいう。例示的な髄鞘形成細胞は、中枢神経系においてミエリンの生成を担う希突起膠細胞、および末梢神経系においてミエリンの生成を担うシュワン細胞である。形態的には、ニューロンの脱髄は、上記中枢神経系における希突起膠細胞もしくは上記末梢神経系におけるシュワン細胞の喪失によって特徴付けられ得る。ニューロンの脱髄はまた、上記神経系における髄鞘形成された軸索の減少によって、または希突起膠細胞もしくはシュワン細胞、CC1、マーカーのレベルの低下によって決定され得る。希突起膠細胞もしくはシュワン細胞の例示的なマーカータンパク質としては、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、プロテイン2(P2)、ガラクトセレブロシド(GalC)、スルファチドおよびプロテオリピドタンパク質(PLP)が挙げられるが、これらに限定されない。よって、本発明の方法によって同定される候補薬剤は、ニューロンの脱髄の有害な形態的特性を阻害し得る物質を包含する。
【0038】
脱髄はまた、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を示す動物によって特徴付けられ得る。脱髄状態に特徴的な表現型変化は、運動制御、平衡、もしくはCNS伝導の減少であり得、これらは、ロータロッド行動アッセイもしくは脊髄体性感覚誘発電位のような手段によって測定され得る。脱髄状態に特徴的な他の表現型変化としては、不安定歩行、後肢麻痺、振せん、体重減少、失調、もしくはその任意の組み合わせのような表現型が挙げられる。
【0039】
本明細書で開示されるトランスジェニック動物は、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を示し得、ここで上記1種以上の表現型変化が逆転される。例えば、上記非増殖グリア細胞の選択的除去の誘導後に、上記動物は、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を示し、そして上記動物は、脱髄状態に特徴的な上記1種以上の表現型変化の逆転を示し得る。いくつかの実施形態において、上記逆転は、完全な逆転であり得、ここで上記動物が、野生型動物、もしくは同じ遺伝的バックグラウンドを有するが、非増殖グリア細胞の選択的除去を示すようには誘導されない動物が示す表現型を示すように、上記動物は脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化から回復する。他の実施形態において、表現型の逆転とは、上記表現型が改善する場合のことである。例えば、時点Aにおいて、動物が、振せんを示し始める;時点Bにおいて、上記動物は、振せんが増大している;そして時点Cにおいて、上記動物は、時点Aと同様な表現型を示し、時点Bと比較すると、表現型が改善している。別の例において、表現型の逆転は、機能(例えば、運動機能もしくはCNS伝導)の完全な喪失が存在する場合のことであって、逆転とは機能の獲得(例えば、運動機能もしくはCNS伝導の獲得)のことであり得る。上記獲得は、機能におけるわずかな改善であり得る。いくつかの実施形態において、上記逆転は、例えば、野生型動物もしくは同じ遺伝的バックグラウンドを有するが、非増殖グリア細胞の選択的除去を示すように誘導されない動物と同じレベルへの完全な機能の再獲得であり得る。
【0040】
非増殖グリア細胞の選択的除去を示すように誘導され得る上記非ヒトトランスジェニック動物は、第1の異種タンパク質をコードする第1の異種ヌクレオチド配列および第2の異種タンパク質をコードする第2の異種ヌクレオチド配列を含む。上記第1の異種タンパク質の活性(例えば、その発現および転写事象の調節)は、誘導性であり得る。上記第1の異種タンパク質の活性のこの誘導はまた、本明細書において、このようなタンパク質の「活性化」といわれる。いくつかの実施形態において、上記第1の異種タンパク質は、リコンビナーゼであり、その組換え活性は、誘導性である。いくつかの実施形態において、上記リコンビナーゼは、Creリコンビナーゼであり、これは、同族認識配列、loxP配列(すなわち、loxP部位)を認識する。認識配列は、当該分野で公知であり、タンパク質分子、DNA分子、もしくはRNA分子(例えば、制限エンドヌクレアーゼ、改変メチラーゼ、もしくはリコンビナーゼ)が、認識および結合する特定のDNA配列を表す。例えば、上記Creリコンビナーゼの認識配列は、loxPであり、これは、8塩基対のコア配列に隣接している2個の13塩基対の逆方向反復(上記リコンビナーゼ結合部位として働く)から構成される34塩基対配列である(Sauer,Curr.Opin.Biotech.5:521−527(1994)を参照のこと)。認識配列の他の例は、リコンビナーゼ酵素λインテグラーゼによって認識されるattB、attP、attL、およびattR配列である。attBは、2個の9塩基対のコアタイプInt結合部位および7塩基対の重複領域を含む約25塩基対配列である。attPは、コアタイプInt結合部位およびアームタイプInt結合部位、ならびに補助タンパク質であるIHF、FIS、およびXisのための部位を含む約240塩基対の配列である(Landy,Curr.Opin.Biotech.3:699−707(1993)を参照のこと)。このような部位はまた、当該分野で公知の方法および生成物(例えば、Hartleyら,米国特許出願公開第20060035269号による開示で開示される)を利用する組換えを高めるために、本発明に従って操作され得る。
【0041】
上記Creリコンビナーゼは、野生型であっても上記野生型の改変体であってもよい。いくつかの実施形態において、上記Creリコンビナーゼの活性は、上記トランスジェニック動物(もしくはトランスジェニック細胞)において誘導性である。改変体Creリコンビナーゼは、組換え部位に対して広い特異性を有する。具体的には、上記改変体は、上記loxP配列以外の配列と、野生型Creリコンビナーゼが活性である他のlox部位配列との間の組換えを媒介する。一般に、上記開示されるCre改変体は、野生型Creが作用し得るlox部位(野生型lox部位といわれる)の間、野生型Creによっては効率的に利用されない改変体lox部位(改変体lox部位といわれる)の間、および野生型lox部位と改変体lox部位との間での効率的な組換えを媒介する。例えば、上記Cre改変体は、Creリコンビナーゼ(もしくは他の類似のリコンビナーゼ(例えば、FLP))が使用され得る任意の方法もしくは技術において使用され得る。さらに、上記Cre改変体は、異なる代替の組換えが行われることを可能にする。なぜなら、上記Cre改変体は、野生型lox部位と改変体lox部位との間の遙かにより効率的な組換えを可能にするからである。このような代替の組換えの制御は、異なる逐次的組換えを達成して、野生型Creリコンビナーゼで可能ではない結果を達成するために使用され得る。改変体Creリコンビナーゼは、当該分野で公知である(例えば、米国特許第6,890,726号(これは、その全体が本明細書に参考として援用される)の開示において開示される)。
【0042】
いくつかの実施形態において、上記第1の異種配列は、外因性薬剤によって誘導される場合に活性であるように操作されるリコンビナーゼをコードする。Cre活性の誘導性は、制御され得る。いくつかの実施形態において、上記Creタンパク質は、上記Creリコンビナーゼと、プロゲステロンレセプター(例えば、Kellendonkら,J.Mol.Biol.285:175−182(1999))もしくはエストロゲンレセプター(例えば、Feilら,Proc.Natl.Acad.Sci.93:10887−10890(1996);Feilら,Biochem.Biophsys.Res.Commun.237:752−757(1997))のリガンド結合ドメインの変異したバージョンとの融合物であり得、上記活性は、外因性薬剤によって誘導され得る。例えば、後者の融合物は、上記Cre融合物(CreERTもしくはCreERT2)を生じ、ここで上記組換え活性は、上記Creタンパク質の局在化を通じてリガンドによって制御される。リガンドの非存在下で、CreERT(もしくはCreERT2)は、細胞質性である。しかし、合成ステロイドホルモン(タモキシフェンもしくはその改変体またはアナログ(例えば、4−ヒドロキシ(OH)−タモキシフェン))の投与後に、上記CreERT(もしくはCreERT2)タンパク質は、該タンパク質が機能する核内に移行する(すなわち、タモキシフェン誘導性)。他の実施形態において、他の誘導性システムが使用され得る(例えば、Tet−OnおよびTet−Offシステム(Clontech Laboratories,Inc)発現系(ここで誘導は、抗生物質(例えば、テトラサイクリン)の添加を介して起こる))。
【0043】
上記第1の異種配列は、上記非ヒトトランスジェニック動物において安定して発現され得る。例えば、上記第1の異種配列は、上記トランスジェニック動物のゲノムへと(例えば、内因性プロモーターに対する制御下にあることによって)組み込まれるリコンビナーゼをコードする。上記第1の異種配列は、グリア細胞特異的プロモーター(例えば、内因性グリア細胞特異的プロモーター)に作動可能に連結され得る。上記プロモーターは、星状膠細胞、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞に対して特異的であり得る。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、成熟した、分化している、もしくは非増殖グリア細胞(例えば、成熟した希突起膠細胞もしくはシュワン細胞)において高度に発現される遺伝子に対するものである。上記プロモーターは、髄鞘形成細胞において高度に発現される遺伝子に対するものであり得る。上記プロモーターは、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、希突起膠細胞特異的タンパク質(OSP)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、プロテイン2(P2)に対するものであり得る。いくつかの実施形態において、上記第1の異種配列は、増殖希突起膠細胞前駆体に特異的なプロモーター(例えば、血小板由来増殖因子αレセプター(PDGFRα)、星状細胞に特異的なプロモーター(例えば、グリア線維酸性タンパク質遺伝子(glial fibrillary acidic gene)(GFAP))、またはニューロンに特異的なプロモーター(例えば、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、チロシンヒドロキシラーゼ、およびBSF1)に作動可能に連結され得る。従って、上記第1の異種タンパク質(例えば、リコンビナーゼ)の発現および活性は、細胞特異的であり得る。
【0044】
本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物において、上記第1の異種タンパク質の活性は、例えば、停止シグナルを除去し、上記第2の異種タンパク質(例えば、毒素)の発現を可能にするように組換えを誘導することによって、上記第2の異種タンパク質の発現を誘導し得る。次いで、上記第2の異種タンパク質(もしくは毒素)の発現は、細胞死を誘導し得る。上記第1の異種タンパク質(例えば、リコンビナーゼ)の発現および活性は細胞特異的であり得るので、上記第1の異種タンパク質の活性は、細胞特異的様式において上記第2の異種タンパク質の発現を誘導し得る。例えば、上記第2の異種配列は、上記第2の異種タンパク質(これは、細胞死を誘導する)をコードし得、その発現および得られた細胞死は、細胞タイプ特異的であり得る。例えば、上記第2の異種タンパク質の発現は、神経細胞(例えば、グリア細胞)において特異的であり得る。いくつかの実施形態において、上記第2の異種タンパク質の発現は、希突起膠細胞、シュワン細胞、もしくは星状細胞の上記細胞特異的死滅、もしくは細胞特異的除去を誘導し得る。いくつかの実施形態において、上記グリア細胞は、非増殖グリア細胞(例えば、上記CNS、PNS、もしくはその両方における)であり、ここで上記非増殖グリア細胞の死滅は、上記CNS、PNS、もしくはその両方において脱髄を生じる。
【0045】
記載されるように、上記第2の異種配列は、毒素もしくは外毒素をコードし得る。例えば、上記毒素は、ジフテリア毒素もしくはそのサブユニット(例えば、そのAサブユニット)であり得る。いくつかの実施形態において、上記第2の異種配列の発現は、転写に対する終結シグナルもしくは停止シグナルを含むloxPに挟まれた上流領域が原因で抑制される。従って、上記停止シグナルを含む上記loxPに挟まれた上流領域が、例えば、組換え(例えば、Creリコンビナーゼ(例えば、上記第1の異種配列によってコードされ、外因性薬剤によって活性化されるCreERTもしくはCreERT2)によって除去される場合、上記第2の異種配列は、転写され得、上記タンパク質が発現され得る。
【0046】
別の実施形態において、同じ異種配列が、毒素もしくは外毒素をコードし、細胞特異的プロモーターを含む。例えば、上記毒素は、ジフテリア毒素もしくはそのサブユニット(例えば、そのAサブユニット)であり得る。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、pdual発現ベクター系(Strategene)におけるように、ブロックされているが、誘導因子の添加の後にいったん放出される上流のエンハンサー領域を含み、毒素もしくは外毒素をコードする上記異種配列を発現する。
【0047】
いくつかの実施形態において、上記loxPに挟まれた領域は、1種以上のマーカー(例えば、蛍光タンパク質マーカーもしくは薬物耐性マーカー)を含む。本発明において使用され得るマーカー遺伝子の非網羅的な例としては、造礁サンゴ蛍光タンパク質(RCFP)、HcRed1、AmCyan1、AsRed2、mRFP1、DsRed1、クラゲ蛍光タンパク質(FP)改変体、赤色蛍光タンパク質、緑色蛍光タンパク質(GFP)、青色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、GFP変異体H9、GFP H9−40、eGFP、テトラメチルローダミン、Lissamine、テキサスレッド、EBFP、ECFP、EYFP、Citrine、Kaede、Azami Green、Midori Cyan、Kusabira Orangeおよびナフトフルオレセイン、もしくはこれらの増強された機能改変体が挙げられる。蛍光団タンパク質マーカーをコードする多くの遺伝子が、当該分野で公知であり、これらは、本明細書中で使用することができる(例えば、ウェブサイト:<cgr.harvard.edu/thornlab/gfps.htm>を参照のこと)。より高い強度の光を発するかもしくは波長シフトを示す蛍光タンパク質の変異バージョンはまた、本発明の組成物および方法において利用され得る;このような改変体は、当該分野で公知であり、市販されている(例えば、Clontech Catalogue,2005を参照のこと)。
【0048】
さらに他の実施形態において、上記毒素をコードする上記第2の異種配列は、グリア細胞特異的プロモーター(例えば、内因性グリア細胞特異的プロモーター)に作動可能に連結される。上記プロモーターは、星状膠細胞、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞に対して特異的であり得る。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、成熟した、分化している、もしくは非増殖グリア細胞(例えば、成熟した希突起膠細胞もしくはシュワン細胞)において高度に発現されている遺伝子に対するものである。上記プロモーターは、髄鞘形成細胞において高度に発現されている遺伝子に対するものである。上記プロモーターは、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、希突起膠細胞特異的タンパク質(OSP)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、もしくはプロテイン2(P2)に対するものであり得る。いくつかの実施形態において、上記第2の異種配列は、増殖希突起膠細胞前駆体に対して特異的なプロモーター(例えば、血小板由来増殖因子αレセプター(PDGFRα))、星状細胞に特異的なプロモーター(例えば、グリア線維酸性タンパク質遺伝子(GFAP))、もしくはニューロンに特異的なプロモーター(例えば、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、チロシンヒドロキシラーゼ、およびBSF1)に作動可能に連結される。
【0049】
いくつかの実施形態において、上記第2の異種配列は、停止信号カセット(例えば、図1に示される)の成分であり、ここで上記loxPに挟まれた領域は、eGFPを含み、上記第2の異種配列は、DTAをコードする。上記停止信号カセットは、トランスジェニックマウスのゲノムへと(例えば、ROSA26遺伝子座へと)安定に組み込まれ得る(例えば、図1を参照のこと)。第1の異種ヌクレオチド配列および第2の異種ヌクレオチド配列をそのゲノムの中に含むトランスジェニック動物は、上記第1の異種配列を含む第1の動物を上記第2の異種配列(例えば、図1に示される)を含む第2の動物と交配することによって、作製され得る。ROSA26遺伝子座へと組み込まれたDTAの上流でloxPに挟まれたeGFPを有する停止信号カセットを含む(ROSA26−eGFP−DTA)トランスジェニック動物を、内因性PLPプロモーターの制御下にCreERTを含むトランスジェニック動物(PLP/CreERT)と交配する。このことから、上記停止信号カセットおよび上記内因性PLPプロモーターの制御下にあるCreERTを含む動物(PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTA)が生じ得る。DTAは、転写終結シグナル(例えば、停止コドン)を含む上記loxPに挟まれた領域としては発現されない。しかし、タモキシフェンで処置されると、CreERTは活性化され、上記loxPに挟まれた領域は組換えられ、上記転写終結シグナルが除去され、DTAが、転写および発現され得る。さらに、CreERT活性は、誘導性であるので、DTA発現は、時間制御様式で、ならびに細胞特異的様式でもたらされ得、特異的な細胞タイプの特異的除去、もしくは細胞死を生じる。例えば、上記PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスにおいて、上記マウスがタモキシフェンで処置される場合、PLP発現細胞の特異的除去が存在する。上記除去のタイミングは、上記タモキシフェンの投与を介して制御され得る。
【0050】
上記トランスジェニック動物(例えば、上記ROSA26−eGFP−DTA動物および上記PLP/CreERT動物)は、当該分野で公知の遺伝子標的化技術を利用して設計され得る(例えば、Ivanovaら,Genesis,43:129−135(2005);Doerflingerら,Genesis 35:63−72(2003)を参照のこと)。遺伝子標的化は、標的化された内因性配列と相同な外因性DNA配列との相同組換えによって、染色体遺伝子座の指向された改変を表す。遺伝子標的化の異なるタイプの間で区別が行われる。従って、遺伝子標的化は、1または数個の内因性遺伝子の発現を改変する(通常は増大させる)か、または外因性遺伝子によって内因性遺伝子を置換するか、または外因性遺伝子を、活性なままである上記特定の内因性遺伝子の遺伝子発現を調節するエレメントの制御下に配置するために、使用され得る。この場合、遺伝子標的化は、「ノックイン」(KI)といわれる。あるいは、遺伝子標的化は、1または数個の遺伝子の発現を低下もしくは除去するために使用され得、このタイプの遺伝子標的化は、「ノックアウト」(KO)もしくは「ノックダウン」(KD)といわれる(例えば、Bolkeyら,Ann.Rev.Genet.23:199−225(1989)を参照のこと)。
【0051】
本発明に従うトランスジェニック細胞を生成する方法は、当業者に周知である。哺乳動物細胞をトランスフェクトするための種々の技術が、記載されてきた(Gordon.,Intl.Rev.Cytol.115:171−229(1989))。例えば、本明細書で開示され、上記トランスジェニック動物を生成するために使用される導入遺伝子は、直線状もしくは非直線状のベクターに、またはベクターフラグメントの形態で含まれ得、標準的な方法(例えば、核へのマイクロインジェクション(米国特許第4,873,191号)、リン酸カルシウムを用いた沈殿によるトランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション(Lo,Mol.Cell.Biol.3:1803−1814(1983))、熱ショック、カチオン性ポリマー(PEG、ポリブレン、DEAE−デキストランなど)での形質転換、ウイルス感染(Van der Puttenら,Proc.Natl.Acad.Sci USA 82,6148−6152(1985))、精子(Lavitranoら,Cell 57:717−723(1989)))によって、宿主細胞へと導入され得る。
【0052】
トランスジェニック動物は、哺乳動物の接合子の前核(例えば、雄性前核)へ遺伝子構築物を挿入することによって操作され得、これにより、安定なゲノム組み込みが天然に生じることを可能にする。次いで、上記接合子は、受容する子宮へと移され得、満期まで生育が可能となる。マウスが使用され得るものの、他の種(例えば、ラット、ウサギおよび他の非ヒト動物)もまた、前核挿入のための潜在的な候補である。上記接合子をトランスジェニックにする上記遺伝子構築物は、利用されるべき内因性遺伝子(例えば、PDGFαレセプター遺伝子)を標的とする遺伝子構築物を含み、この遺伝子は、変異され得、そして/もしくは所望のエレメント(例えば、外因性プロモーター/エンハンサーエレメントおよび/もしくは目的の遺伝子)を含むようにさらに改変され得る。
【0053】
異種DNAはまた、同様に、受精した哺乳動物の卵子へと導入され得る。例えば、全能性もしくは多能性幹細胞は、マイクロインジェクション、リン酸カルシウム媒介性沈殿、リポソーム融合、レトロウイルス感染もしくは他の手段によって、形質転換され得る。次いで、上記形質転換された細胞は、胚へと導入され、次いで、上記胚は、トランスジェニック動物へと発生する。一実施形態において、発生中の胚は、所望の導入遺伝子を含むウイルスベクターに感染させられ、その結果、上記導入遺伝子を発現する上記トランスジェニック動物が、上記感染した胚から作られ得る。別の実施形態において、所望の導入遺伝子は、好ましくは、単一の細胞ステージにおいて、上記胚の前核もしくは細胞質に同時に注入され、上記胚は、成熟したトランスジェニック動物へと発生することが可能となる。トランスジェニック動物を作るためのこれらおよび他の変形方法は、当該分野で十分に確立されており、よって、本明細書で詳述しない。例えば、米国特許第5,175,385号および同第5,175,384号を参照のこと。
【0054】
本明細書で開示される発明の1つ以上の局面において、所望の導入遺伝子は、単一コピーとしてもしくはコンカテマー(concatamer)(例えば、ヘッドトゥーヘッドタンデムもしくはヘッドトゥーテールタンデム)で組み込まれ得る。上記所望の導入遺伝子はまた、特定の組織もしくは細胞タイプ(好ましくは、上記中枢神経系内の細胞)へと選択的に導入され得、活性化され得る。このような細胞タイプ特異的活性化に必要とされる調節配列は、目的の特定の細胞タイプに依存し、それは当業者に明らかである。好ましくは、上記標的とされる細胞タイプは、上記神経系(上記中枢神経系および末梢神経系を含む)に位置する。
【0055】
上記のように、トランスジェニック動物は、2つのタイプに大きく分けられ得る:「ノックアウト」および「ノックイン」。「ノックアウト」は、上記標的遺伝子の機能の低下を生じる導入遺伝子配列の導入を介して、好ましくは、標的遺伝子発現が、微々たるものであるかもしくは検出不能であるように、上記標的遺伝子において改変を有する。「ノックイン」は、例えば、上記標的遺伝子のさらなるコピーの導入によって、もしくは上記標的遺伝子の内因性コピーの発現の増大を提供する調節配列を作動的に挿入することによって、標的遺伝子の発現の増大をもたらす宿主細胞ゲノムにおける改変を有するトランスジェニック動物である。上記ノックイントランスジェニック動物もしくはノックアウトトランスジェニック動物は、上記標的遺伝子に対してヘテロ接合性であってもよいし、ホモ接合性であってもよい。ノックアウトおよびノックインの両方が、「バイジェニック(bigenic)」であり得る。バイジェニック動物は、少なくとも2つの改変されている宿主細胞遺伝子を有する。あるバイジェニック動物は、神経細胞特異的リコンビナーゼをコードする導入遺伝子および神経細胞特異的マーカー遺伝子をコードする別の導入遺伝子配列を有する。本発明のトランスジェニック動物は、大きく、ノックインとして分類され得る。
【0056】
本明細書で開示されるトランスジェニック動物としては、哺乳動物(例えば、霊長類および齧歯類)が挙げられるが、これらに限定されない。非限定的な例としては、ラット、マウス、モルモット、ネコ、イヌ、ウサギ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ラマ、およびサルが挙げられる。一実施形態において、上記動物は齧歯類である。さらに別の実施形態において、上記動物はマウス(例えば、若年もしくは老年のマウス)である。例えば、上記マウスは、少なくとも約5週齢、6週齢、7週齢、8週齢、9週齢、10週齢、11週齢、もしくは12週齢であり得る。上記マウスは、約3〜8週齢の間、約5〜7週齢の間、もしくは約6〜8週齢の間であり得る。いくつかの実施形態において、上記マウスは、少なくとも約4〜6週齢のマウスである。いくつかの実施形態において、上記マウスは、成体であり、6ヶ月齢より加齢している。いくつかの実施形態において、上記マウスは、加齢マウスもしくは老齢マウスである。上記マウスは、少なくとも約7ヶ月齢、8ヶ月齢、9ヶ月齢、10ヶ月齢、11ヶ月齢、12ヶ月齢、15ヶ月齢、18ヶ月齢、21ヶ月齢、もしくは24ヶ月齢であり得る。いくつかの実施形態において、上記マウスは、約5〜7ヶ月例の間、6〜9ヶ月齢の間もしくは9〜12ヶ月齢の間である。別の実施形態において、上記動物は、サル種に由来する。さらに別の実施形態において、上記動物は、マーモセットのサルであり、これは、神経疾患を試験することにおいて利用され得る(例えば、Eslamboi,Brain Res.Bull.68:140−149(2005);Kirikら,Proc.Natl.Acad.Sci.100:2884−2889(2004))。本明細書で開示されるトランスジェニック動物としてはまた、非哺乳動物(例えば、魚類、鳥類、および昆虫類)が挙げられ得るが、これらに限定されない。非限定的な例としては、ゼブラフィッシュ、ニワトリおよびハエが挙げられる。
【0057】
本明細書で開示されるトランスジェニック動物は、髄鞘再生をアッセイするにあたって利用され得るシステムを提供する。このようなモデル系は、髄鞘再生の機構の解明への洞察、ならびに髄鞘再生を促進するための治療ストラテジーの開発を提供する。上記のように、上記トランスジェニック動物は、第1の異種タンパク質(これは、続いて、細胞死を誘導する第2の異種タンパク質の発現を誘導する)の活性化を誘導することによって、細胞特異的様式で細胞を除去するように時間的に制御され得る。上記細胞死は、上記第1の異種タンパク質の発現が、細胞タイプ特異的プロモーターもしくは調節配列(特に、上記中枢神経系もしくは末梢神経系における発現に利用可能であるもの)の制御下にあり得るので、細胞タイプ特異的であり得る。
【0058】
例えば、上記第1の異種タンパク質の発現は、神経細胞タイプ特異的プロモーターの制御下にあり得る(例えば、米国特許出願公開第2003/0110524号に開示される);ウェブサイト<chinook.uoregon.edu/promoters.html>もまた参照のこと。上記転写調節配列としては、以下のタンパク質をコードする遺伝子から選択される転写調節配列が挙げられるが、これらに限定されない:上記PDGFRα、プロテオリピドタンパク質(PLP)、上記グリア線維酸性タンパク質遺伝子(GFAP)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、希突起膠細胞特異的タンパク質(OSP)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)および微小管関連タンパク質1B(MAP1B)、Thy1.2、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、プロテイン2(P2)、チロシンヒドロキシラーゼ、BSF1、ドパミン3−ヒドロキシラーゼ、セロトニン2レセプター、コリン・アセチルトランスフェラーゼ、ガラクトセレブロシド(GalC)、ならびにスルファチド。
【0059】
いくつかの実施形態において、上記調節配列もしくはプロモーターは、グリア細胞(例えば、星状膠細胞、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞)に対して特異的である。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、成熟した、分化している、もしくは非増殖グリア細胞(例えば、成熟した希突起膠細胞もしくはシュワン細胞)において高度に発現されるかもしくは特異的に発現される遺伝子に対するものである。上記プロモーターは、髄鞘形成細胞において高度に発現されるかもしくは特異的に発現される遺伝子に対するものであり得る。いくつかの実施形態において、上記プロモーターもしくは調節配列は、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、希突起膠細胞特異的タンパク質(OSP)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、もしくはプロテイン2(P2)であるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、PLP、MBP、およびCNPに対するものである。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、増殖希突起膠細胞前駆体に対して特異的な遺伝子(例えば、血小板由来増殖因子αレセプター(PDGFRα)に対するもの、星状細胞に特異的なプロモーター(例えば、グリア線維酸性タンパク質遺伝子(glial fibrillary acidic gene)(GFAP))、もしくはニューロンに対して特異的なプロモーター(例えば、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、チロシンヒドロキシラーゼ、およびBSF1)である。
【0060】
いくつかの実施形態において、上記第1の異種配列は、Creリコンビナーゼ(例えば、CreERT2もしくはCreERT2)をコードし、前述のプロモーターもしくは調節配列の制御下にある。
【0061】
いくつかの実施形態において、上記調節配列は、発現を高める(すなわち、プロモーター強度を増大させる)ように変化させられ得るかもしくは改変され得る。例えば、エンハンサー機能を含むイントロン配列は、プロモーター機能を増大させるために利用され得る。上記ミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)遺伝子は、エンハンサーエレメントとして機能するイントロン配列を包含する。この調節エレメント/領域ASE(アンチサイレンサー/エンハンサーの)は、エキソン1 DNAの約1kb下流に位置し、ほぼ100bpを包含する。Mengら,J.Neurosci.Res.82:346−356(2005)を参照のこと。
【0062】
よって、上記第1の異種タンパク質(例えば、Creリコンビナーゼ(例えば、CreERT2もしくはCreERT2))は、特異的細胞タイプにおいて発現および活性化され得、同じ特異的細胞タイプにおいて、上記第2の異種タンパク質(例えば、毒素)の発現を誘導し得る。例えば、上記Creリコンビナーゼ(例えば、CreERT2もしくはCreERT2)は、希突起膠細胞特異的プロモーターもしくは調節配列の制御下もしくは調節下にあることによって、希突起膠細胞において発現される。上記Creリコンビナーゼ(recombainse)が、タモキシフェンによって活性化される場合、上記第2の異種タンパク質(例えば、毒素(例えば、DTA))の発現は、希突起膠細胞において誘導される。次いで、上記毒素は、上記希突起膠細胞の細胞死を促進し得る。あるいは、上記Creリコンビナーゼ(例えば、CreERT2もしくはCreERT2)は、シュワン細胞特異的プロモーターもしくは調節配列の制御下もしくは調節下にあることによって、シュワン細胞において発現され得る。上記Creリコンビナーゼは、タモキシフェンによって活性化され得、これは、シュワン細胞において上記毒素の発現を誘導し、上記シュワン細胞の細胞死を引き起こす。上記髄鞘形成細胞(例えば、希突起膠細胞、シュワン細胞、もしくはその両方)の細胞死は、上記動物のCNS、PNS、もしくはその両方において、脱髄を生じ得る。
【0063】
上記第1の異種タンパク質はまた、時間的様式で活性化され得、従って、得られた除去もしくは細胞死は、時間的に制御され得る。例えば、上記第1の異種タンパク質は、非増殖細胞(例えば、成熟したもしくは分化した、神経細胞)において活性化され得る。いくつかの実施形態において、上記第1の異種タンパク質の活性化は、成熟した、もしくは増殖していない、上記CNS、PNS、もしくはその両方の細胞にあり、上記第2の異種タンパク質の発現およびその後の、上記成熟したもしくは非増殖細胞の細胞死を生じる。いくつかの実施形態において、上記除去は、非増殖髄鞘形成細胞(例えば、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞)の除去である。上記活性化は、外因性薬剤(例えば、上記第1の異種タンパク質を活性化する上記外因性薬剤の投与)によって時間的に制御され得る。上記外因性薬剤は、上記グリア細胞が、増殖ステージもしくは非増殖ステージにある場合に、上記動物へと投与され得る。例えば、上記外因性薬剤は、上記シュワン細胞もしくは希突起膠細胞が、増殖ステージにある場合に、上記動物に投与され得る。いくつかの実施形態において、上記外因性薬剤は、上記シュワン細胞もしくは希突起膠細胞が、成熟したもしくは増殖していない場合に、上記動物に投与される。例えば、マウスにおいて、上記外因性薬剤は、上記マウスが、少なくとも約5週齢、6週齢、7週齢、8週齢、9週齢、10週齢、11週齢、もしくは12週齢である場合に、投与される。いくつかの実施形態において、上記マウスは、上記マウスが、約3〜8週齢の間、約5〜7週齢の間、もしくは約6〜8週齢の間である場合に、上記外因性薬剤で処置される。いくつかの実施形態において、上記マウスは、少なくとも約4〜6ヶ月齢である。さらに他の実施形態において、上記マウスは、少なくとも約7ヶ月齢、8ヶ月齢、9ヶ月齢、10ヶ月齢、11ヶ月齢、12ヶ月齢、15ヶ月齢、18ヶ月齢、21ヶ月齢、もしくは24ヶ月齢であり得る。いくつかの実施形態において、上記マウスは、約5〜7ヶ月齢の間、6〜9ヶ月齢の間、もしくは9〜12ヶ月齢の間である。
【0064】
一局面において、本発明は、第1の異種配列の発現を制御することであり、ここで上記発現は、組織特異的プロモーターによって制御され、発現は、誘導因子の添加によって解除されるまでブロックされており、これにより、上記組織特異的プロモーターへの転写的アクセスが可能となり、そして細胞死を誘導するタンパク質をコードする第2の異種配列の発現を誘導し得るタンパク質をコードする第1の異種配列の発現が可能となる。このような協調したシステムは、細胞死をもたらす遺伝子発現の時間および位置の制御を可能にする。
【0065】
いくつかの実施形態において、上記トランスジェニック動物は、誘導性Creリコンビナーゼ(例えば、CreERT)をコードする第1の異種配列を含み、これは、内因性の細胞特異的プロモーターの制御下にある。上記動物は、毒素(例えば、DTA)をコードする第2の異種配列をさらに含み、これは、転写終結シグナル(例えば、停止コドン)を含むloxPに挟まれた領域の下流にある。上記動物は、希突起膠細胞においてCreERTを発現するが、理論に縛られずに、上記CreERTは、上記核内へ移行すること、および組換えを実行することができない。結果として、上記動物は、DTAを発現しない。しかし、タモキシフェンで処置すると、CreERTが活性化され、上記転写終結シグナルを含む上記loxPに挟まれた領域は除去され、DTAが、転写および発現され得、このことから、細胞死が誘導される。
【0066】
いくつかの実施形態において、上記トランスジェニック動物は、内因性グリア細胞特異的プロモーター(例えば、PLP)の制御下にある誘導性Creリコンビナーゼ(例えば、CreERT)をコードする第1の異種配列を含む。上記動物は、毒素(例えば、DTA)をコードする第2の異種配列をさらに含み、これは、転写終結シグナル(例えば、停止コドン)を含むloxPに挟まれた領域の下流にある。上記動物は、希突起膠細胞においてCreERTを発現するが、理論に縛られずに、上記CreERTは、上記核内へ移行すること、および組換えを実行することができない。結果として、上記動物は、DTAを発現しない。しかし、タモキシフェンで処置すると、CreERTが活性化され、上記転写終結シグナルを含む上記loxPに挟まれた領域は除去され、DTAは、転写および発現され得る。これにより、上記CreERTを発現する細胞(例えば、希突起膠細胞)において細胞死が誘導される。
【0067】
従って、タモキシフェンでの処置は、上記希突起膠細胞の除去のタイミングを調節するために、時間的に制御され得る。上記タモキシフェンもしくはそのアナログは、上記動物の発生のそのいずれかのステージにおいて、上記動物に投与され得る。上記タモキシフェンもしくはそのアナログは、1回もしくは1回より多く、発生の1つ以上のステージにおいて、上記動物に投与され得る。例えば、上記タモキシフェンは、上記グリア細胞が成熟している場合(例えば、上記希突起膠細胞もしくはシュワン細胞が成熟しているかもしくは増殖していない場合)に上記動物に投与され得る。いくつかの実施形態において、上記動物はマウスであり、上記タモキシフェンもしくはそのアナログは、上記マウスが少なくとも約5週齢、6週齢、7週齢、8週齢、9週齢、10週齢、11週齢、もしくは12週齢である場合に、投与される。いくつかの実施形態において、上記マウスは、上記マウスが約3〜8週齢の間、約5〜7週齢の間、もしくは約6〜8週齢の間である場合に、タモキシフェンもしくはそのアナログで処置される。いくつかの実施形態において、上記マウスは、上記マウスが少なくとも約6ヶ月齢である場合にタモキシフェンもしくはそのアナログで処置される。さらに他の実施形態において、上記マウスは、上記マウスが少なくとも約7ヶ月齢、8ヶ月齢、9ヶ月齢、10ヶ月齢、11ヶ月齢、12ヶ月齢、15ヶ月齢、18ヶ月齢、21ヶ月齢、もしくは24ヶ月齢である場合に、タモキシフェンもしくはそのアナログで処置される。いくつかの実施形態において、上記マウスは、上記マウスが約5〜7ヶ月齢の間、6〜9ヶ月齢の間もしくは9〜12ヶ月齢の間である場合に、タモキシフェンもしくはそのアナログで処置される。いくつかの実施形態において、上記動物はマウスであり、上記タモキシフェンもしくはそのアナログは、上記マウスが成体マウスである場合に投与される。
【0068】
本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物におけるグリア細胞(例えば、非増殖グリア細胞(例えば、成熟した希突起膠細胞もしくはシュワン細胞))の除去もしくは細胞死は、上記動物において脱髄を生じ得る。いくつかの実施形態において、上記非ヒトトランスジェニック動物は、生きたままである。いくつかの実施形態において、上記脱髄は、上記動物において脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を生じる。いくつかの実施形態において、上記動物における脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化は、逆転される。本明細書に記載されるように、脱髄状態に特徴的な表現型は、軸索の分析も、髄鞘形成細胞の分析も、他の分子分析もしくは細胞分析(例えば、軸索の電子顕微鏡検査または神経細胞(例えば、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞)の遺伝子発現の決定)もなく確認され得る、脱髄状態に特徴的な表現型に言及する。例えば、脱髄状態に特徴的な表現型変化は、運動制御、平衡、もしくはCNS伝導の低下であり得、これらは、ロータロッド行動アッセイもしくは脊髄体性感覚誘発電位のような手段によって測定され得る。脱髄状態に特徴的な他の表現型としては、不安定歩行、後肢麻痺、振せん、死滅、体重減少、失調、もしくはその任意の組み合わせのような表現型が挙げられる。上記表現型は、以下からなる群より選択される脱髄障害に特徴的であり得る:進行性多病巣性白質脳症(PML)、脳脊髄炎、橋中央ミエリン溶解(central pontine myelolysis)(CPM)、抗MAG疾患、白質ジストロフィー:副腎脳白質ジストロフィー(ALD)、アレキサンダー病、キャナバン病、クラッベ病、異染性白質ジストロフィー(MLD)、ペリツェウス・メルツバッヘル病、レフサム病、コケイン症候群、Van der Knapp症候群、およびツェルヴェガー症候群、ギラン・バレー症候群(GBS)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)、多巣性運動ニューロパチー(multifocual motor neuropathy)(MMN)、アルツハイマー病もしくは進行性核上性麻痺(progressive supernuclear palsy)。
【0069】
いくつかの実施形態において、本明細書で開示される動物(例えば、マウス)は、マウスのグリア細胞(好ましくは、成熟したもしくは非増殖グリア細胞(例えば、希突起膠細胞、シュワン細胞、もしくはその両方)において特異的に発現されている上記誘導性Creが最初に活性化された後に、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を示す。いくつかの実施形態において、上記動物は、上記最初の活性化および上記1種以上の表現型変化を示した後に、これら表現型変化のうちの1種以上の逆転をさらに示す。例えば、髄鞘形成細胞において誘導性Creリコンビナーゼを発現しかつDTAをコードする異種配列をさらに含み、loxPに挟まれた終結シグナルがDTAをコードする上記配列の上流にある動物において、上記動物は、タモキシフェンで処置され、このタモキシフェンは、上記髄鞘形成細胞が細胞死を受けるように誘導する。上記動物は、脱髄(例えば、ミエリン鞘変性および識別可能な白質に富む領域における空砲形成)を示す。さらに、上記動物は、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化(例えば、運動制御の低下、平衡の低下、CNS伝導の低下、不安定歩行、後肢麻痺、振せん、体重減少、失調、もしくはその任意の組み合わせ)を示し、これら変化は、コントロール動物(例えば、野生型動物もしくは同じ遺伝的バックグラウンドを有するが、タモキシフェンの投与もタモキシフェンでの処置もされていない動物)と比較され得る。所定の期間の後に、上記動物は、上記1種以上の表現型の逆転(例えば、運動制御の増大、平衡の増大、CNS伝導の改善、不安定歩行の低下、後肢麻痺の低下、振せんの低下、体重増加、失調の低下、もしくはその任意の組み合わせ)を示す。
【0070】
いくつかの実施形態において、上記逆転は、完全な逆転であり得、ここで上記動物は、上記動物が、野生型動物もしくは同じ遺伝的バックグラウンドを有するが、非増殖グリア細胞の選択的除去を示すように誘導されない動物)が示す表現型を示すように、脱髄状態に特徴的な上記1種以上の表現型変化から回復する。他の実施形態において、表現型の逆転は、上記表現型が改善する場合のことである。例えば、時点Aにおいて、動物は振せんを示し始める;時点Bにおいて、上記動物は、振せんが増大している;そして時点Cにおいて、上記動物は、時点Aのときの表現型と類似の表現型を示すが、時点Aのときの表現型は、時点Cと比較すると、より良好な表現型である。別の例において、表現型の逆転は、機能(例えば、運動機能もしくはCNS伝導)の完全な喪失がある場合のことであり得、逆転とは機能の獲得(例えば、運動機能もしくはCNS伝導の獲得)のことである。上記獲得は、機能における僅かな改善であり得る。いくつかの実施形態において、上記逆転は、完全な機能を(例えば、野生型動物もしくは同じ遺伝的バックグラウンドを有するが非増殖グリア細胞の選択的除去を示すように誘導されない動物と同じレベルの機能へと)再獲得することであり得る。
【0071】
いくつかの実施形態において、上記動物は、上記第1の異種タンパク質の最初の活性化から(例えば、上記動物における上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化してからもしくは上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤を投与してから)約14日間以降、約21日間以降、約35日間以降、約40日間以降、約42日間以降、約45日間以降、約48日間以降、約50日間以降、約55日間以降、約60日間以降、約65日間以降、約70日間以降、約75日間以降、約80日間以降、もしくは約90日間以降に、脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型の逆転を示す。いくつかの実施形態において、上記動物は、上記第1の異種タンパク質の最初の活性化から(例えば、上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化してから)約35日間以降、もしくは約70日間以降に、脱髄障害に特徴的な上記1種以上の表現型の逆転を示す。他の実施形態において、上記逆転は、上記第1の異種タンパク質の最初の活性化から(例えば、上記動物における上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化してからもしくは上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤を投与してから)の約2週間後、3週間後、4週間後、5週間後、6週間後、7週間後、8週間後、9週間後、10週間後、11週間後、12週間後、13週間後、14週間後、15週間後、もしくは16週間後に始まる。他の実施形態において、上記逆転は、上記第1の異種タンパク質の最初の活性化後(例えば、上記動物における上記誘導性Creリコンビナーゼの活性化後もしくは上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤の投与後)の約2〜12週間の間、約3〜12週間の間、約4〜12週間の間、約5〜12週間の間、約5〜11週間の間、もしくは約6〜11週間の間に始まる。いくつかの実施形態において、上記逆転は、完全な逆転であり得、上記動物は、脱髄状態に特徴的な上記1種以上の表現型変化から回復し、その結果、上記動物が、野生型動物もしくは同じ遺伝的バックグラウンドを有するが、非増殖グリア細胞の選択的除去を示すようには誘導されない動物が示す表現型を示す。他の実施形態において、表現型の逆転は、上記表現型が改善する場合のことである。
【0072】
一実施形態において、脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型(例えば、ロータロッドアッセイに基づく平衡の低下もしくは運動制御の低下)を示すマウスは、タモキシフェンの投与後約42日間で上記表現型における逆転を示す(例えば、図14を参照のこと)。ここで上記逆転は、コントロール動物の運動制御までの改善とはいかずとも、運動制御の改善が本質的になしから、運動制御の一部獲得までの改善のことである。さらに別の実施形態において、上記マウスは、脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型(例えば、感覚誘発電位によって決定される場合のCNS伝導の低下)を示し、このマウスはタモキシフェンの投与後約77日間で上記表現型において逆転を示す(例えば、図16を参照のこと)。ここで上記逆転は、コントロール動物のCNS伝導に等しくないにしても、CNS伝導を本質的に有さないから、CNS伝導を有するまでへの改善のことである。
【0073】
本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物は、上記第1の異種タンパク質を活性化する外因性薬剤で1回より多く処置され得る。例えば、誘導性Creリコンビナーゼ(例えば、CreERT)をコードする第1の異種配列および毒素(例えば、DTA)をコードする第2の異種配列を含み、上記第2の異種配列は、転写終結シグナルを含むloxPに挟まれた領域の下流にあるトランスジェニック動物(好ましくは、マウス)は、タモキシフェンもしくはそのアナログの第1の処置が与えられ、続いて、1回、2回、3回、4回、5回以上のさらなるタモキシフェンでの処置が与えられる。いくつかの実施形態において、上記外因性薬剤のその後の投与は、上記脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型の逆転の後である。例えば、タモキシフェンでの最初の処置後に脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型を示すマウスは、脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型の逆転後に、タモキシフェンでの2回目の処置が施される。
【0074】
上記異種タンパク質を活性化するために上記外因性薬剤を投与する複数回のサイクルが想定され得る。ここでi)外因性薬剤の投与、ii)脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型の提示、およびiii)上記1種以上の表現型の逆転の1回のサイクルが、i)、ii)、およびiii)の別の完全なサイクルまたはこれらの部分的なサイクル(例えば、i)とii)、もしくはi)のみ)に続くことができる。例えば、外因性薬剤の投与の1回のサイクルの後に、脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型の提示、上記1種以上の表現型の逆転、第2回の外因性薬剤の投与、脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型の提示、および上記1種以上の表現型の逆転、第3回の上記外因性薬剤の投与が、行われ得る。上記最初の投与後の上記外因性薬剤の引き続く投与(例えば、2回目、3回目、4回目、5回目、もしくはこれを超える投与)は、上記外因性薬剤の最初の、以前の、もしくはその後の量と比較して、より多量の、等しい、もしくはより低量の上記外因性薬剤の投与であり得る。
【0075】
上記第1の異種タンパク質(すなわち、誘導性Creリコンビナーゼ)を活性化する上記外因性薬剤の引き続く投与は、上記外因性薬剤の最初に投与してからもしくは上記第1の異種タンパク質(すなわち、誘導性Creリコンビナーゼ)を最初に活性化してから約14日間以降、約21日間以降、約35日間以降、約40日間以降、約42日間以降、約45日間以降、約48日間以降、約50日間以降、約55日間以降、約60日間以降、約65日間以降、約70日間以降、約75日間以降、約80日間以降、もしくは約90日間以降である。いくつかの実施形態において、上記第1の異種タンパク質(すなわち、誘導性Creリコンビナーゼ)を活性化する上記外因性薬剤の上記ひき続く投与は、上記第1の異種タンパク質の最初の活性化から(例えば、上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化してから)約70日間後である。他の実施形態において、上記第1の異種タンパク質(すなわち、誘導性Creリコンビナーゼ)を活性化する上記外因性薬剤の上記ひき続く投与は、上記第1の異種タンパク質の最初の活性化から(例えば、上記動物における上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化してからもしくは上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤を投与してから)約2週間後、3週間後、4週間後、5週間後、6週間後、7週間後、8週間後、9週間後、10週間後、11週間後、12週間後、13週間後、14週間後、15週間後、もしくは16週間後である。
【0076】
さらに他の実施形態において、本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物は、第1の異種タンパク質(例えば、誘導性Creリコンビナーゼ)の活性化を誘導する外因性薬剤で処置され得、免疫応答誘導因子、もしくは炎症誘導因子(例えば、内毒素)がさらに投与され得る。いくつかの実施形態において、上記非ヒトトランスジェニック動物は、異種タンパク質の活性化を誘導する外因性薬剤および内毒素(例えば、リポポリサッカリド(LPS))が投与される。上記LPSは、上記異種タンパク質を活性化する上記外因性薬剤(すなわち、タモキシフェンもしくはそのアナログ)の投与の前に、同時に、もしくは後に、投与され得る。LPSの1回より多くの投与はまた、本明細書で企図される。例えば、タモキシフェンの各投与に対して、LPSの投与もまた、上記非ヒトトランスジェニック動物に与えられる。
【0077】
いくつかの実施形態において、誘導性Creリコンビナーゼ(例えば、CreERT)をコードする第1の異種配列および毒素(例えば、DTA)をコードする第2の異種配列を含み、上記第2の異種配列が転写終結シグナルを含むloxPに挟まれた領域の下流にあるトランスジェニック動物(好ましくは、マウス)は、タモキシフェンもしくはそのアナログの第1の処置、続いて、LPSの投与が与えられ得る。いくつかの実施形態において、上記LPSでのその後の投与は、動物が脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型を示すより前である。例えば、上記LPSは、上記第1の異種タンパク質の最初の活性化後(例えば、上記動物における上記誘導性Creリコンビナーゼの活性化後もしくは上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤を投与後)約7日かそれ未満、約14日かそれ未満、約21日かそれ未満、約35日かそれ未満、約40日かそれ未満、約42日かそれ未満、約45日かそれ未満、約48日かそれ未満、約50日かそれ未満、約55日かそれ未満、約60日かそれ未満、約65日かそれ未満、約70日かそれ未満、約75日かそれ未満、約80日かそれ未満、もしくは約90日かそれ未満に投与され得る。他の実施形態において、上記LPSの投与は、上記第1の異種タンパク質の最初の活性化から(例えば、上記動物における上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化してからもしくは上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤を投与してから)約2週間後、3週間後、4週間後、5週間後、6週間後、7週間後、8週間後、9週間後、10週間後、11週間後、12週間後、13週間後、14週間後、15週間後、もしくは16週間後である。
【0078】
非ヒトトランスジェニック動物において第1の異種タンパク質の活性化を誘導するための上記外因性薬剤(例えば、誘導性Creリコンビナーゼの活性化のためのタモキシフェンもしくはそのアナログ)は、当該分野で公知の任意の手段によって投与され得る。これら手段としては、経口経路もしくは非経口経路(静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与、経皮投与、および気道(エアロゾル)投与が挙げられる)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、第1の異種タンパク質の活性化を誘導するための上記外因性薬剤の1用量より多くの用量は、本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物に投与される。上記1用量以上の用量は、同じ手段もしくは異なる手段によって投与され得る。
【0079】
第1の異種タンパク質の活性化を誘導するための上記外因性薬剤の投与に加えて、免疫応答誘導因子(例えば、LPS)の1用量以上の用量が投与され得る。上記免疫応答誘導因子(例えば、LPS)は、当該分野で公知の任意の手段によって投与され得、これら手段としては、経口経路もしくは非経口経路(静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与、経皮投与、および気道(エアロゾル)投与が挙げられる)が挙げられるが、これらに限定されない。上記免疫応答誘導因子(例えば、LPS)の投与は、第1の異種タンパク質の活性化を誘導するための上記外因性薬剤(すなわち、タモキシフェンもしくはそのアナログ)の投与と同じ手段もしくは異なる手段によって投与され得る。
【0080】
いくつかの実施形態において、免疫応答誘導因子(例えば、LPS)の1用量を超える用量は、本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物に投与され得る。上記1用量以上の用量は、LPSの他の用量を投与するために使用される同じ手段もしくは異なる手段によって投与され得る。上記外因性薬剤(例えば、タモキシフェンもしくはそのアナログ)は、単一組成物において上記免疫応答誘導因子(例えば、LPS)と一緒に、非ヒトトランスジェニック動物に投与され得る。あるいは、それらは、実質的に同時に、逐次的に、その日中にもしくは処置期間中に所定の間隔で、異なる頻度で、または同じもしくは異なる投与経路を使用して、投与され得る。上記外因性薬剤(例えば、タモキシフェンもしくはそのアナログ)、および上記免疫応答誘導因子(例えば、LPS)は、同じ手段もしくは異なる手段によって、上記非ヒトトランスジェニック動物に投与され得る。
【0081】
非ヒトトランスジェニック動物において第1の異種タンパク質の活性化を誘導するための上記外因性薬剤(例えば、誘導性Creリコンビナーゼの活性化のためのタモキシフェンもしくはそのアナログ)は、局所にもしくは全身に投与され得る。上記免疫応答誘導因子(例えば、LPS)はまた、局所にもしくは全身に投与され得る。局所投与は、上記CNS、PNS、または上記CNSもしくはPNSの特定の領域に対するものであり得る。例えば、上記投与は、具体的には、脳、脊髄、もしくは視神経に対するものであり得る。
【0082】
いくつかの実施形態において、免疫応答誘導因子(例えば、LPS)が投与される上記動物はまた、炎症マーカー(例えば、顆粒球/好中球抗原4/7、T細胞抗原CD3、IBA1、および測定されるCD11bが挙げられるが、これらに限定されない)の発現を有し得る。
【0083】
(スクリーニングアッセイ)
本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物および方法は、具体的な有用性を提供する。本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物および方法は、髄鞘再生の機構を解明するために、ならびに髄鞘再生を促進するための治療ストラテジーの開発に有用である。これは、脱髄状態に関連するヒト疾患(例えば、先に記載されたもの)の研究に対する現実世界での適用を提供する。また、他の多発性硬化症動物モデルと比較すると、本明細書に記載されるマウスは、薬物開発の間の標的バリデーションに一層の適用性がある。なぜなら、上記脱髄および髄鞘再生事象は、再現性が高く、それらは別個の位置において異なる時点で起こり、両者とも定量的行動表示と明らかに関連するからである。さらに、このモデル系は、髄鞘再生電位における加齢に関連する低下に寄与する要素(factor)であって、これが、被験体が脱髄状態に罹患している先に列挙された疾患に存在する要素の調査を可能にするはずである。最後に、髄鞘形成を調節する薬剤をスクリーニングするための本明細書に記載される方法は、髄鞘形成のエンハンサーおよびインヒビターの両方の同定に適用され得る。なぜなら両方とも、髄鞘形成障害のための治療剤を開発するために価値のある標的であり得るからである。
【0084】
一局面において、上記非ヒトトランスジェニック動物は、髄鞘再生を促進するかもしくは脱髄を阻害する薬剤もしくは生物学的に活性な薬剤の候補薬剤をスクリーニングするために使用される。いくつかの実施形態において、薬剤を選択するための方法は、上記非ヒトトランスジェニック動物において上記第1の異種タンパク質(例えば、誘導性Creリコンビナーゼ)活性化する工程、上記動物に候補薬剤を投与する工程、上記動物における脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を決定する工程;および上記候補薬剤を投与していないコントロール動物と比較して、上記1種以上の表現型変化がより迅速に逆転される場合に、上記薬剤を選択する工程を包含する。他の実施形態において、髄鞘再生を促進する薬剤を選択する方法は、本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物において上記第1の異種タンパク質(例えば、誘導性Creリコンビナーゼ)を活性化する工程、上記動物に候補薬剤を投与する工程、上記動物において髄鞘再生を決定する工程;および上記候補薬剤を投与していないコントロール非トランスジェニック動物と比較して、上記動物が髄鞘再生の増大を示す場合に、上記薬剤を選択する工程を包含する。
【0085】
一局面において、上記非ヒトトランスジェニック動物は、非増殖グリア細胞もしくは増殖グリア細胞の選択的除去を示すように誘導され得る。いくつかの実施形態において、上記動物は、非増殖グリア細胞を特異的に除去するように誘導される。上記グリア細胞除去の誘導は、上記動物において脱髄を生じ、上記動物は、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を示し得、ここで上記1種以上の表現型変化は、上記最初の誘導の後に逆転される。
【0086】
いくつかの実施形態において、上記動物はマウスであり、上記マウスは、そのゲノム内に、誘導性Creリコンビナーゼ(例えば、CreERTもしくはCreERT2)をコードし、神経細胞に特異的なプロモーターもしくは調節領域(例えば、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞に特異的なプロモーター)に作動可能に連結された第1の異種配列を含む。上記マウスはまた、DTAをコードする第2の異種配列を含み、ここでDTAは、上記誘導性Creリコンビナーゼが外因性薬剤(例えば、タモキシフェンもしくはそのアナログ)によって活性化される場合に発現される。次いで、上記DTAの発現は、細胞死を誘導し得る。DTAの発現は、神経細胞において特異的な上記Creリコンビナーゼの発現に起因して、細胞特異的(例えば、神経細胞(例えば、グリア細胞)において特異的)であり得る。従って、DTAの発現は、希突起膠細胞、シュワン細胞、もしくは星状細胞の上記細胞特異的死滅、もしくは細胞特異的除去を誘導し得る。いくつかの実施形態において、上記グリア細胞は、非増殖グリア細胞(例えば、上記CNS、PNS、もしくはその両方にある)であり、ここで上記非増殖グリア細胞の死滅は、上記CNS、PNS、もしくはその両方において脱髄を生じる。いくつかの実施形態において、誘導性Creリコンビナーゼの誘導は、成熟した希突起膠細胞の細胞死を生じる。
【0087】
候補薬剤の投与は、上記Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤(すなわち、CreERTもしくはCreERT2の活性化のためのタモキシフェンもしくはそのアナログ)の投与のような上記誘導性Creリコンビナーゼの誘導の前、誘導と同時もしくは誘導の後であり得る。いくつかの実施形態において、上記候補薬剤は、上記誘導性Creリコンビナーゼの誘導後(例えば、上記Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤(すなわち、CreERTもしくはCreERT2の活性化のためのタモキシフェンもしくはそのアナログ)の投与後)に、上記動物に投与される。
【0088】
上記候補薬剤は、当該分野で公知の任意の手段によって投与され得、これら手段としては、経口経路もしくは非経口経路(静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与、経皮投与、および気道(エアロゾル)投与が挙げられる)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記候補薬剤の1用量を超える用量は、本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物に投与される。他の実施形態において、1種以上の候補薬剤が投与され得る。上記1用量以上の用量、もしくは1種以上の候補薬剤は、同じ手段もしくは異なる手段によって投与され得る。さらに、上記動物はまた、上記外因性薬剤の1用量以上の用量が投与され得る。第1の異種タンパク質の活性化を誘導するための上記外因性薬剤の1用量以上の用量の投与に加えて、免疫応答誘導因子(例えば、LPS)の1用量以上の用量はまた、上記候補薬剤の投与の前に、投与と同時に、もしくは投与の後に、上記動物に投与され得る。上記候補薬剤は、誘導性Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤(すなわち、タモキシフェンもしくはそのアナログ)、および必要に応じて、上記免疫応答誘導因子(すなわち、LPS)と一緒に、単一組成物において非ヒトトランスジェニック動物に投与され得る。あるいは、上記候補薬剤は、実質的に同時に、逐次的に、その日中もしくは処置期間の間の所定の間隔で、異なる頻度で、または誘導性Creリコンビナーゼを活性化する上記外因性薬剤、および必要に応じて、LPSと同じもしくは異なる投与経路を使用することによって投与され得る。上記候補薬剤、ならびに上記外因性薬剤、および必要に応じてLPSは、局所にもしくは全身に投与され得る。局所投与は、上記CNS、PNS、または上記CNSもしくはPNSの特定の領域に対するものであり得る。例えば、上記投与は、具体的には、上記脳、脊髄、もしくは視神経に対するものであり得る。
【0089】
いくつかの実施形態において、候補薬剤(例えば、単一用量もしくは複数用量)の投与は、脱髄状態に特徴的な上記1種以上の表現型変化(例えば、不安定歩行、後肢麻痺、振せん、運動制御の低下、平衡の低下、CNS伝導の低下、もしくはその任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない)の提示の前に、提示と同時に、もしくは提示の後に行われ得る。次いで、薬剤は、上記候補薬剤を投与していないコントロール動物と比較して、上記1種以上の表現型変化がより迅速に逆転される場合に選択され得る。例えば、上記Creリコンビナーゼを活性化してからもしくは上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化する外因性薬剤を投与してから約35日間以降に上記脱髄障害に特徴的な1種以上の表現型の逆転を示す動物において、薬剤は、上記候補薬剤を投与した動物が、約35日間未満で脱髄障害に特徴的な上記1種以上の表現型の逆転を示す場合に選択され得る。
【0090】
他の実施形態において、上記Creリコンビナーゼを活性化してからもしくは上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化する外因性薬剤を投与してから約70日間以降に脱髄障害に特徴的な上記1種以上の表現型の逆転を示す動物において、薬剤は、上記候補薬剤を投与した動物が脱髄障害に特徴的な上記1種以上の表現型の逆転を約70日間未満で示す場合に選択され得る。例えば、成熟した希突起膠細胞において発現される上記誘導性Creリコンビナーゼを活性化するためにタモキシフェンを投与したマウスは、ロータロッドアッセイで潜時の低下を示し(例えば、図14を参照のこと)、タモキシフェン投与後の42日目後に回復し始める。比較すると、候補薬剤を投与したマウスは、タモキシフェン投与後の約42日かそれ未満に回復を始める。いくつかの実施形態において、上記薬剤は、上記薬剤を投与した動物において脱髄障害に特徴的な上記1種以上の表現型の逆転が、上記薬剤を投与していない動物における脱髄障害に特徴的な上記1種以上の表現型の逆転のための時間の約1/2、1/3、1/4、1/5、1/6、1/7、1/8、1/9、1/10、1/11、1/12、1/14、1/21、1/28、1/35、1/42、1/49、1/56、1/63、1/70、もしくは1/77以下である場合に選択される。いくつかの実施形態において、検出および分析(例えば、ビデオテープ収録、体重測定、ロータロッドアッセイ、SEPアッセイ、視覚的観察が挙げられるが、これらに限定されない)は、種々の時点で行われ、試験薬剤の投与は、上記アッセイの過程の間に、ならびに異なる投与レジメンを使用して、反復され得る。
【0091】
いくつかの実施形態において、薬剤は、動物における脱髄障害に特徴的な上記1種以上の表現型の逆転が、上記薬剤を投与していない動物におけるものより早いもしくは迅速であることで選択される。上記候補薬剤を投与していない上記コントロール動物は、代表的には、上記候補薬剤を投与した上記動物と同じ遺伝的バックグラウンドを有し、その第1の異種タンパク質(すなわち、誘導性Creリコンビナーゼ)が活性化されている。他の実施形態において、薬剤は、上記候補薬剤を投与した上記動物が、上記候補薬剤を投与していないコントロール動物と比較して、より低い程度まで(例えば、より低い重篤度、より低い程度、もしくは示さない)脱髄状態に特徴的な上記1種以上の表現型変化を示す場合に選択され、ここで両方の動物は、活性化された誘導性Creリコンビナーゼを有する。他の実施形態において、薬剤は、上記候補薬剤を投与した上記動物が、上記候補薬剤を投与していないコントロール動物と比較して、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化の提示において遅延を有する場合に選択される。
【0092】
さらに他の実施形態において、薬剤は、上記薬剤を投与した上記動物が、上記薬剤を投与していないコントロール非トランスジェニック動物と比較して、髄鞘再生の増大を示す場合に選択される。例えば、本明細書で開示される非ヒトトランスジェニック動物における非増殖髄鞘形成細胞における上記誘導性Creリコンビナーゼの活性化後に、上記動物は、上記細胞においてDTAを発現し、これは、細胞死を誘導し、上記動物において脱髄を生じる。上記脱髄状態は、上記神経系(例えば、上記中枢神経系もしくは末梢神経系)における髄鞘形成した軸索の減少によって、または髄鞘形成細胞(例えば、希突起膠細胞およびシュワン細胞)のマーカーのレベルの低下によって、特徴付けられ得る。形態的には、ニューロンの脱髄は、上記中枢神経系における希突起膠細胞もしくは上記末梢神経系におけるシュワン細胞の喪失によって特徴付けられ得る。上記ニューロンの脱髄はまた、上記神経系における髄鞘形成した軸索の減少によって、もしくは希突起膠細胞マーカーもしくはシュワン細胞マーカーのレベルの低下によって、決定され得る。希突起膠細胞もしくはシュワン細胞の例示的マーカータンパク質としては、CC1、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、プロテイン2(P2)、ガラクトセレブロシド(GalC)、スルファチドおよびプロテオリピドタンパク質(PLP)が挙げられるが、これらに限定されない。よって、本発明の方法によって同定される上記候補薬剤は、ニューロンの脱髄の有害な形態的特性を阻害し得る物質を包含する。
【0093】
従って、いくつかの実施形態において、上記髄鞘再生は、髄鞘形成した軸索によって特徴付けられる。例えば、髄鞘形成した軸索は、当該分野で公知の任意の手段を使用して(例えば、電子顕微鏡検査によって)、検出され得る。他の実施形態において、髄鞘再生は、星状細胞もしくはミクログリア細胞のマーカーの発現によって特徴付けられ得る(例えば、ミクログリア細胞マーカーの発現の低下は、ミクログリア細胞の低下を表す)。いくつかの実施形態において、髄鞘再生は、1種以上の希突起膠細胞の細胞マーカーの発現によって特徴付けられる。例えば、候補薬剤で処置された動物の1種以上の髄鞘再生特異的マーカータンパク質の発現は、コントロール動物もしくは参照動物に対して比較され得る。タンパク質レベルを検出するのに適した多種多様な標識は、当該分野で公知である。非限定的な例としては、放射性同位体、酵素、コロイド性金属、蛍光化合物、生物発光化合物、および化学発光化合物が挙げられる。他の実施形態において、上記マーカーのRNAレベルもしくはmRNAレベルは、例えば、PCR、RT−PCR、もしくは当該分野で公知の他の手段によって検出される。上記希突起膠細胞の細胞マーカーは、CC1、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、プロテイン2(P2)、ガラクトセレブロシド(GalC)、スルファチドおよびプロテオリピドタンパク質(PLP)からなる群から選択され得るが、これらに限定されない。
【0094】
さらに他の実施形態において、髄鞘再生特異的マーカータンパク質の発現(例えば、タンパク質レベルもしくはmRNAレベルを測定する)は、上記試験動物およびコントロール動物もしくは参照動物において、候補薬剤が髄鞘再生阻害活性もしくは髄鞘再生低下活性を有するか否かを決定することで、測定される。このような薬剤は、髄鞘再生インヒビターもしくは髄鞘再生毒素として分類され得る。
【0095】
本明細書で開示される場合、髄鞘再生は、マーカー遺伝子/遺伝子生成物(例えば、上記中枢神経系もしくは末梢神経系において)の上記細胞特異的発現において増大を観察することによって、確認され得る。上記マーカータンパク質の蛍光は、小動物において蛍光を検出するための当該分野で公知のインビトロ方法もしくはインビボ方法を使用して、検出され得る。インビボ蛍光は、関連分野において入手可能なデバイスを利用して、検出および/もしくは定量化され得る。視覚化、画像化もしくは検出は、侵襲性の技術、最小限に侵襲性の技術もしくは非侵襲性の技術を介して行われ得る。代表的には、顕微鏡検査技術は、上記トランスジェニック動物から、生細胞から、もしくはインビボ画像化技術を介して得られる細胞/組織からの蛍光を検出もしくは画像化するために利用される。
【0096】
発光、蛍光もしくは生体発光シグナルは、種々の自動化および/もしくはハイスループット機器システム(蛍光マルチウェルプレートリーダー、蛍光活性化セルソーター(FACS)および上記シグナルの空間的分解を提供する自動化された細胞ベースの画像化システムが挙げられる)のうちのいずれかで容易に検出され定量化される。種々の機器システムが、HCS(ハイコンテントスクリーニング)(Cellomics、Amersham、TTP、Q3DM、Evotec、Universal ImagingおよびZeissによって開発された自動化蛍光画像化システムおよび自動化顕微鏡検査システムが挙げられる)を自動化するために開発されてきた。蛍光退色後蛍光回復法(Fluorescence recovery after photobleaching)(FRAP)および経時的蛍光顕微鏡検査法(time lapse fluorescence microscopy)はまた、生細胞におけるタンパク質移行性を研究するために使用されてきた。
【0097】
蛍光の可視化(例えば、蛍光タンパク質をコードするマーカー遺伝子)は、動物から得られる細胞/組織サンプルを(例えば、切片化および共焦点顕微鏡を使用した画像化を介して)検査すること、生細胞を検査することもしくはインビボで蛍光を検出することのいずれかを介して、顕微鏡検査技術を用いて行われ得る。可視化技術としては、当該分野で公知の共焦点顕微鏡法もしくは光学スキャニング技術(photo−optical scanning techniques)の利用が挙げられるが、これらに限定されない。一般に、近赤外線での発光波長を有する蛍光標識は、散乱および自己蛍光の両方(これらは、バックグラウンドノイズを増加させる)が、波長が長くなるにつれて低下するので、深部組織画像化がより容易にできる。インビボ画像化の例は、当該分野で公知である(例えば、Mansfieldら,J.Biomed.Opt.10:41207(2005);Zhangら,Drug Met.Disp.31:1054−1064(2003);Flusbergら,Nat.Meth.2:941−950(2005);Mehtaら,Curr Opin Neurobiol.14:617−628(2004);Jungら,J.Neurophysiol.92:3121−3133(2004);米国特許第6977733号および同第6839586号(これらの各開示は、本明細書に参考として援用される)に開示される)。
【0098】
さらに、脱髄/髄鞘再生現象は、当該分野で公知の免疫組織化学的手段もしくはタンパク質分析によって観察され得る。例えば、上記試験動物の脳の切片は、希突起膠細胞マーカーを特異的に認識する抗体で染色され得る。別の局面において、希突起膠細胞マーカーの発現レベルは、イムノブロッティング、ハイブリダイゼーション手段、および増幅手順、ならびに当該分野で十分確立されている任意の他の方法によって定量化され得る(例えば、Mukouyamaら,Proc.Natl.Acad.Sci.103:1551−1556(2006);Zhangら,前出;Girardら,J.Neurosci.25:7924−7933(2005);ならびに米国特許第6,909,031号;同第6,891,081号;同第6,903,244号;同第6,905,823号;同第6,781,029号;および同第6,753,456号(これら各々の開示は、本明細書に参考として援用される))。
【0099】
別の局面において、上記中枢神経系もしくは末梢神経系に由来する細胞/組織は、摘出され得、タンパク質に関して加工処理され得、例えば、組織は、ホモジナイズされ、タンパク質は、SDS−10% ポリアクリルアミドゲル上で分離され、次いで、ニトロセルロース膜に転写されて、マーカータンパク質を検出する。蛍光タンパク質レベルは、一次抗体/抗血清(例えば、特定のマーカータンパク質に対して得られたヤギポリクローナル;BD Gentest,Woburn, MA)およびペルオキシダーゼ結合体化2次抗体ウサギ抗ヤギIgG(Sigma−Aldrich)を利用して、検出され得る。化学発光は、組織サンプル中の蛍光マーカータンパク質のレベルを検出および決定するために、当該分野で入手可能な標準試薬を使用して検出される。
【0100】
本発明の別の局面において、本明細書で開示されるトランスジェニック動物は、細胞/組織培養物の供給源であり得る。例えば、本明細書で開示される動物の細胞は、遺伝子もしくは遺伝子生成物の発現の比較、またはコントロール細胞(コントロール動物から得られた細胞)に対して試験神経細胞(例えば、トランスジェニックの希突起膠細胞もしくはシュワン細胞)における上記遺伝子生成物の活性を提供するための、細胞ベースのアッセイのために使用され得る。上記細胞は、増殖細胞もしくは非増殖細胞(例えば、成熟したもしくは分化した希突起膠細胞もしくはシュワン細胞)であり得る。上記試験神経細胞は、上記CNSもしくはPNS、または上記トランスジェニック動物の細胞から得られる細胞培養物、その子孫、および上記供給源から調製される切片もしくはスメア、あるいは例えば、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞またはそれらの前駆体を含む脳の任意の他のサンプルから単離され得る。所望される場合、他の神経細胞タイプ(例えば、ニューロン、ミクログリア細胞、および星状細胞)を実質的に含まない富化された細胞培養物を使用することが選択され得る。成熟した希突起膠細胞およびシュワン細胞を単離、生成もしくは維持するための種々の方法が、当該分野で公知であり(Baerwaldら,J.Neurosci.Res.52:230−239(1998);Leviら,J Neurosci.Meth.68:21−26(1998))、それらは本明細書で例示される。
【0101】
また、選択される候補薬剤、もしくは生物学的に活性な薬剤が本明細書において提供され、これらとしては、生物学的もしくは化学的な化合物(例えば、単純なもしくは複雑な有機分子もしくは無機分子、ペプチド、ペプチド模倣物、タンパク質(例えば、抗体)、リポソーム、低分子干渉RNA、またはポリヌクレオチド(例えば、アンチセンス)が挙げられ得るが、これらに限定されない。非常に多くの整理された化合物が、合成され得(例えば、ポリマー(例えば、ポリペプチドおよびポリヌクレオチド)、および種々のコア構造物に基づく合成有機化合物)、これらはまた、本明細書で企図される。さらに、種々の天然の供給源が、スクリーニングのための化合物を提供し得る(例えば、植物もしくは動物の抽出物など)。常に明示的に示されている訳ではないが、上記活性な薬剤が単独で、または本発明のスクリーニング方法によって同定される薬剤と同じ生物学的活性もしくは異なる生物学的活性を有する別の調節因子と組み合わせて使用され得ることは、理解されるべきである。
【0102】
本明細書で開示される1つ以上の方法においてアッセイされる候補薬剤(例えば、治療剤/薬物)は、異なる時点で比較して、ならびに参照もしくはコントロールと比較して、上記薬物に応じた全体的な差異があるか否かを決定するために、上記モデル系(例えば、本明細書で開示されるトランスジェニック動物)において使用され得る。マーカーの発現を検出および定量化することによって、上記トランスジェニック動物は、候補薬剤が髄鞘再生を調節するか否か、およびそれがどの程度までかを決定するために使用され得る。当然のことながら、当業者は、前述が、本明細書で開示されるモデル系を利用するための一例に過ぎないことを認識する。
【0103】
従って、候補治療剤/薬物が、本発明の1つ以上の方法においてアッセイされている場合、上記候補治療剤/薬物は、異なる時点で比較して、ならびに参照もしくはコントロールと比較して、上記薬物に応じて全体的に差異があるか否かが決定され得る。まとめると、グリア細胞(例えば、前駆体希突起膠細胞)の単一の亜集団において差次的に発現されるマーカーの発現を検出および定量化することによって、前述の例における上記トランスジェニック動物は、種々のデータを得るために使用される。上記データとしては、髄鞘再生が傷害後に起こっているか否か、および候補薬剤がこのような髄鞘再生を調整するか否か、およびそれがどの程度までかということ、が挙げられる。当然のことながら、当業者は、前述が、本発明の髄鞘再生モデル系を利用するための一例に過ぎないことを認識する。
【0104】
(薬学的組成物)
本明細書で開示される1つ以上の方法は、脱髄を阻害するかもしくは髄鞘再生を促進することによって、脱髄の処置においてその後実施され得る生物学的に活性な薬剤を選択するために利用され得る。髄鞘再生を調節するに有効な上記選択された生物学的に活性な薬剤は、ニューロンの脱髄障害を処置するための医薬の調製のために使用され得る。特定の実施形態において、本明細書で言及される脱髄障害は、多発性硬化症である。他の実施形態において、上記脱髄障害は、進行性多病巣性白質脳症(PML)、脳脊髄炎、橋中央ミエリン溶解(CPM)、抗MAG疾患、白質ジストロフィー:副腎脳白質ジストロフィー(ALD)、アレキサンダー病、キャナバン病、クラッベ病、異染性白質ジストロフィー(MLD)、ペリツェウス・メルツバッヘル病、レフサム病、コケイン症候群、Van der Knapp症候群、およびツェルヴェガー症候群、ギラン・バレー症候群(GBS)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)、および多巣性運動ニューロパチー(MMN)からなる群より選択される。
【0105】
一局面において、同定され/選択される生物学的に活性な本発明の薬剤は、病原体(例えば、細菌およびウイルス)に罹患したニューロンの脱髄を処置するために投与され得る。別の局面において、上記選択された薬剤は、例えば、橋中央ミエリン溶解およびビタミン欠乏症における場合のように、毒性物質によってもしくは毒性の代謝生成物の身体への蓄積によって引き起こされるニューロンの脱髄を処置するために使用され得る。なお別の局面において、上記薬剤は、物理的傷害(例えば、脊髄損傷)によって引き起こされる脱髄を処置するために使用され得る。さらになお別の局面において、上記薬剤は、遺伝的特性を有する障害において現れる脱髄、遺伝的障害(白質ジストロフィー、副腎脳白質ジストロフィー、変性性多系統萎縮症(degenerative multi−system atrophy)、ビンスワンガー脳症、上記中枢神経系における腫瘍、および多発性硬化症が挙げられるが、これらに限定されない)を処置するために投与され得る。
【0106】
同定され/選択される生物学的に活性な本発明の薬剤はまた、以下が挙げられるが、これらに限定されない目的の他の生成物とともに、それより前に、もしくはその後に送達され得る:増殖因子、サイトカイン、神経増殖因子、アンチセンスRNA、siRNA、免疫抑制剤、抗炎症剤、抗増殖剤、抗遊走剤、抗線維症剤、抗アポトーシス剤、抗体、抗血栓剤、抗血小板剤、IIbIIIIa因子(IIbIIIIa agent)、脈管形成因子、抗脈管形成因子、抗ウイルス剤、神経増殖因子、NGFファミリーのタンパク質、NGF、β−NGF、ニューロトロフィン−3前駆物質(NT−3)、HDNF、神経増殖因子2(NGF−2)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−5(NT−5)、、ニューロトロフィン−4(NT−4)、もしくはこれらの前駆体および組み合わせ。
【0107】
種々の送達系は公知であり、生物学的に活性な薬剤を投与するために使用され得る(例えば、リポソームへの被包化、微粒子、マイクロカプセル、組換え細胞による発現、レセプター媒介性エンドサイトーシス(例えば、Wu and Wu,J.Biol.Chem.262:4429−4432(1987)を参照のこと)、レトロウイルスベクターもしくは他のベクターの一部としての治療用核酸の構築など)。送達法としては、動脈内経路、筋肉内経路、静脈内経路、鼻内経路、および経口経路が挙げられるが、これらに限定されない。具体的実施形態において、処置の必要な領域に局所的に本発明の薬学的組成物を投与することは望ましいことであり得る;このことは、例示であって、限定ではなく、手術の間の局所的注入によって、注射によって、もしくはカテーテルの手段によって達成され得る。特定の実施形態において、上記薬剤は、被験体の神経系(好ましくは、上記中枢神経系)に送達される。別の実施形態において、上記薬剤は、髄鞘再生を受けている神経組織に投与される。
【0108】
上記選択される薬剤の投与は、1用量において、処置の過程全体を通じて連続して、もしくは間欠的に、行われ得る。投与の最も有効な手段および投薬量を決定するための方法は、当業者に周知であり、治療のために使用される組成物、治療の目的、処置されている標的細胞、および処置されている被験体とともに変動する。単回投与もしくは複数回投与は、処置している医師によって選択される用量レベルおよびパターンで行われ得る。
【0109】
本発明の薬学的組成物の調製は、薬学的調製物を調製するために一般に受容された手順に従って行われる。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences 18th Edition(1990),E.W.Martin ed.,Mack Publishing Co.,PAを参照のこと。意図された使用および投与様式に依存して、薬学的組成物の調製において上記活性成分をさらに加工処理することは、望ましいことであり得る。適切な加工処理は、適切な無毒性の妨害しない成分と混合する工程、滅菌する工程、用量単位に分割する工程、および送達デバイスに封入する工程を包含し得る。
【0110】
経口投与、鼻内投与もしくは局所投与のための薬学的組成物は、固体形態、半固体形態もしくは液体形態で供給されうる(錠、カプセル、粉末、液体、および懸濁物が挙げられる)。注射用の組成物は、液体溶液もしくは懸濁物として、エマルジョンとして、または注射前に液体中に溶解もしくは懸濁するのに適した固体形態として、供給されうる。気道を介した投与のために、一部の組成物は、適切なエアロゾル生成デバイス(aerosolizer device)とともに使用される場合、固体、粉末、もしくはエアロゾルを提供するものである。
【0111】
液体の薬学的に受容可能な組成物は、例えば、液体賦形剤(例えば、水、食塩水、水性デキストロース、グリセロール、もしくはエタノール)中に、本明細書で具現化されたポリペプチドを溶解もしくは分散させることによって調製されうる。上記組成物はまた、他の医療用薬剤、薬学的作用物質、アジュバント、キャリア、および補助物質(例えば、湿潤剤もしくは乳化剤)、およびpH緩衝化剤を含み得る。
【実施例】
【0112】
(実施例1:PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの生成およびCreリコンビナーゼ活性の誘導)
ROSA26−eGFP−DTA対立遺伝子(Ivanovaら,Genesis 43:129−135(2005))を含み、eGFP遺伝子およびNeo遺伝子を含む上流のloxPに挟まれたDNA配列領域の存在に起因して、機能的に不活性な形態にあるジフテリア毒素A鎖(DT−A)の遺伝子を有するマウスを、PLP/CreERT対立遺伝子(Doerflingerら,Genesis,35:63−72(2003))を有し、希突起膠細胞において上記Creリコンビナーゼのタモキシフェン関連バージョンを発現するマウスと交配した。上記交配から、複合ヘテロ接合性PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスを生じ、ここで上記loxPに挟まれた領域のCre媒介性除去は、上記PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスにおいてタモキシフェンで誘導され、その結果、DTA発現を生じる(図1)。
【0113】
5〜7週齢において、上記マウスに、1日あたり1mgのタモキシフェンを5〜7日間にわたって、腹腔内に(IP)投与した。上記タモキシフェン処置マウスの脳におけるDTAの発現を、PCRによって確認した。そのP1プライマー(5’−AAACTCTTCGCGGTCTTTC−3’)およびP2プライマー(5’−CTTAACGCTTTCGCCTGTTC’3’)を使用し、その結合部位を図1に示す。組換えを行なうと、上記P1およびP2プライマーは、図2に示されるように、約650bp(DTA)生成物を増幅する。そのコントロールレーンは、DTAの誘導発現がない上記ROSA26−eGFP−DTAマウスからのPCR結果および1回目のタモキシフェンを注射してから(dpi)7日間の後、14日間の後および21日間の後に処置された上記タモキシフェン処置マウスの結果(それぞれ、レーンmut−D7、mut−D14、およびmut−D21に示される)を示す。理論に拘束されないが、DTA発現の最終的な減少は、細胞死および細胞の欠如に起因し得る。
【0114】
(実施例2:タモキシフェン処置マウスの脱髄および表現型の特徴)
上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスを、希突起膠細胞の喪失を検出するために特徴付けた。上記希突起膠細胞の細胞喪失を決定するために、その脳幹、小脳、脳梁、皮質、頸髄(灰白質および白質)におけるCC−1染色を行い、上記タモキシフェン処置マウスPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの7dpi、14dpiおよび21dpiにおいて定量した(図5)。希突起膠細胞の細胞喪失は、21dpiまでに上記タモキシフェン処置マウスPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの大部分のCNS領域において最大であった(例えば、図4、図5を参照のこと)。
【0115】
以下のプライマーでのRT−PCRを行った:
マウスPLPセンスプライマー: CACTTACAACTTCGCCGTCCT
マウスPLPアンチセンスプライマー: GGGAGTTTCTATGGGAGCTCAGA
マウスPLPプローブ: AACTCATGGGCCGAGGCACCAA
マウスMBPセンスプライマー: GCTCCCTGCCCCAGAAGT
マウスMBPアンチセンスプライマー: TGTCACAATGTTCTTGAAGAAATGG
マウスMBPプローブ: AGCACGGCCGGACCCAAGATG
マウスGAPDHセンスプライマー: CTCAACTACATGGTCTACATGTTCCA
マウスGAPDHアンチセンスプライマー: CCATTCTCGGCCTTGACTGT
マウスGAPDHプローブ: TGACTCCACTCACGGCAAATTCAACG。
【0116】
上記結果から、コントロールマウスと比較して、7dpi、14dpi、もしくは21dpiの上記タモキシフェン処置マウスPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスにおいて希突起膠細胞の細胞喪失より先に、Plp mRNAレベルおよびMbp mRNAレベルの劇的な低下が示された(図6)。
【0117】
CNS髄鞘形成を、脊髄の電子顕微鏡検査(EM)およびトルイジンブルー染色、ならびに脳におけるMAGおよびMBPのタンパク質発現のウェスタンブロッティングによって、決定した。希突起膠細胞の細胞喪失の影響は、上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの21dpiにおいて最小であった(図7)。しかし、14dpiにおいて、上記マウスは、脱髄状態に特徴的な表現型を示した。上記マウスは、振せんおよび失調性の非協調歩行を示した。21dpiまでに、一部のマウスは、非常に虚弱になり、死に至った。
【0118】
生き残った上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの21dpiは、SEP応答を何ら示さなかった。SEP記録は、35dpiおよび70〜77dpiのDTAマウスにおいて可能であった(図16および図17)。上記SEP応答を決定するために、コントロールマウスおよびタモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスを、Avertin(登録商標)の腹腔内注射で麻酔し、刺激電極を、3種の異なる坐骨神経レベルのうちの1つの皮下に導入した:(1)足首、(2)膝窩、もしくは(3)根部に直接。アース電極を、上記神経の刺激の際には尾部にあてがい、記録を、下部腰椎もしくは中位胸椎レベルから行った。上記2種のレベルから記録した感覚誘発電位(SEP)の開始潜時の差異(ΔL)を、上記CNSにおける伝導の概算値として計算した。
【0119】
35dpiおよびさらに42日間のPIにおいて、上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスは、ロータロッド上で動作することができなかった(図14)。上記マウスは、加速モード(5rpmから65rpmまで)で回転している上記ロッド上で5分間の試験期間の間、該マウスが自身を維持する時間(潜時)に関して試験された。上記潜時を、各マウスに関して、1日4回のセッションを、1週間に1回、連続7週間にわたって行うことによってモニターした。
【0120】
また、35dpiにおいて、上記マウスは、失調の増大および振せんの増大を示し、上記マウスの小脳、脳幹、脊髄、および視神経のトルイジンブルー染色から、上記CNS全体にわたって大量の希突起膠細胞の喪失が明らかになり、別個の白質に富む領域においてミエリン鞘変性および空砲形成を生じた(図10)。35dpiにおける頸髄−腹側白質のEMから、脱髄もまた実証された(図11)。ミクログリア活性化(上記小脳におけるミクログリアのCD11b染色によって示されるように)はまた、35dpiにおいて脱髄と相関した(図12)。
【0121】
(実施例3:髄鞘再生および脱髄に特徴的な表現型の逆転)
驚くべきことに、上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスは、髄鞘再生することができ、髄鞘再生に特徴的な上記表現型の逆転を示した。上記動物は、顕著な表現型回復を示した。実施例2に記載されるように、上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスは、35dpiおよびさらには42dpiにおいて上記ロータロッド上で動作することができなかった。しかし、上記マウスは、42dpi後および77dpiまでに彼らの運動機能を再獲得しはじめ、上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの潜時は、最終的には、上記コントロールマウスの潜時にほぼ近づいた(図14)。上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスは、21dpiにおいてSEP応答を何ら有さず、Δ潜時(ΔLat(上記T5〜T6ピーク潜時とL4〜L5ピーク潜時の間の差異))が、コントロールより僅かに低くかつ振幅(Amp)が正常である場合、70dpiまでにSEP応答を有した(図17)。
【0122】
予測外なことには、上記タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスにおいて、希突起膠細胞が除去された領域が再び補充され、修復されていた。上記希突起膠細胞の細胞数は、CC1免疫染色によって示されるように、35dpiまでに増加しており、70dpiまでにさらに増加した(図8)。Mbp mRNA発現およびPlp mRNA発現のRT−PCR分析は、類似の傾向を示し、ここで70dpiまでに、上記レベルは、コントロールマウスよりさらに高かった(図9)。上記マウスの小脳、脳幹、脊髄、および視神経のトルイジンブルー染色から、70dpiにおいて髄鞘再生もまた明らかになり(図10)、同様に、頸髄−腹側白質のEMもまた、髄鞘再生を示した(図11)。ミクログリア活性化はまた、減少し、それは髄鞘再生と相関した(図12)。さらに、希突起膠細胞前駆細胞(OPC)はまた、上記脳幹および小脳においてPDGFRα陽性細胞によって測定される場合、上記コントロールマウスと比較して、増加していた(図13)。
【0123】
上記脱髄および脱髄障害に特徴的な表現型の提示、ならびに上記予測外の髄鞘再生および上記表現型の逆転のまとめを、図19に示す。
【0124】
(実施例4:PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスにおけるタモキシフェンの滴定)
PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスに、種々のレジメンの種々の量のタモキシフェンもしくは4−ヒドロキシタモキシフェン(4−OHT)を投与して、脱髄の範囲および脱髄障害に特徴的な表現型変化を評価する。約1〜7mgの範囲に及ぶ4−OHTの用量を、異なるマウス群にIP投与する。3〜7連続日にわたる1日約1回の投与レジメンをまた、異なるマウス群に対して様々にする。上記異なるマウス群はまた、若年マウス(5〜6週齢)および老齢マウス(6〜9ヶ月齢)を含む。
【0125】
上記マウスを、CC1免疫染色、CD11b染色、EM、トルイジンブルー染色、MbpおよびPlp遺伝子発現、ロータロッドアッセイ、上記トレッドミルDigiGaitアッセイによる歩行の分析、ならびにSEPアッセイによって特徴付ける。免疫組織化学もまた行う。表現型変化の程度(例えば、臨床症状の重篤度がより低いこと、臨床症状を示すのにより長い時間がかかること、もしくは回復時間がより早いこと)は、実施例1に記載されるレジメンと比較して、より低い投与量もしくはより短い投与時間で予測される。より低い投与量を上記マウスに用いると、マウスの死亡のパーセンテージもより低くなり得る。老齢マウスに対する若年マウスの上記効果および任意の差異(例えば、回復の時間もしくは回復の程度)もまた、分析する。
【0126】
(実施例5:PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスへのタモキシフェンの脳内注射)
上記PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスにおいて局所化した脱髄を誘導するために、タモキシフェンを、定位注入によって上記マウスへと注射する。定位装置を、上記タモキシフェン溶液を、カニューレを通して前もって選択した位置に送達するための注射プローブを移植するために使用する。この位置は、マウスの脳地図からの座標によって規定される。約10〜100μg/日を、1〜3日間にわたって、上記マウスに継続して投与する。
【0127】
上記脳内注射を、若年マウス(5〜6週齢)および老齢マウス(6〜9ヶ月齢)において行う。上記マウスを、CC1免疫染色、CD11b染色、EM、トルイジンブルー染色、MbpおよびPlpの遺伝子発現、ロータロッドアッセイ、上記トレッドミルDigiGaitアッセイによる歩行の分析、ならびにSEPアッセイによって特徴付ける。免疫組織化学もまた行う。老齢マウスに対する若年マウスへの作用および任意の差異(例えば、回復の時間もしくは回復の程度)を分析する。
【0128】
(実施例6:PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスの反復した脱髄および髄鞘再生)
上記マウスの髄鞘再生能力および表現型逆転能力を決定するために、タモキシフェン処置PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAの若年マウス(5〜6週齢)および老齢マウス(6〜9ヶ月齢)を回復させた(実施例3に記載されるように)か、もしくは回復させた後に、実施例4において決定されるような量もしくは用量のタモキシフェンをIPにより投与した。1つのマウス群において、タモキシフェンの2回目の注射は、PIの120日間後である。
【0129】
上記マウスを、CC1免疫染色、CD11b染色、EM、トルイジンブルー染色、MbpおよびPlpの遺伝子発現、ロータロッドアッセイ、上記トレッドミルDigiGaitアッセイによる歩行の分析、ならびにSEPアッセイによって特徴付ける。免疫組織化学染色もまた、行う。上記結果をまた、タモキシフェンで1回だけ処置したマウスと比較して、回復時間がより長いか否か、回復がそれほど強くないのか否か、もしくは脱髄および表現型が、1回処置したマウスと比較してより重篤であるのか否かを決定する。上記老齢マウスに対する若年マウスへの作用および任意の差異(例えば、回復の時間もしくは回復の程度)もまた、分析する。
【0130】
同じ実験を反復する。ここでLPSと同様にタモキシフェンを局所に投与(実施例5を参照のことのこと)する。
【0131】
(実施例7:PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスへのLPSおよびタモキシフェンの投与)
上記PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAの若年マウス(5〜6週齢)および老齢マウス(6〜9ヶ月齢)に、タモキシフェン(実施例1に記載されるか、または実施例4において決定されるような量もしくは用量)をIPで投与する。単一用量のLPS、200μgを、7dpiおよび14dpiにおいて、または上記動物が脱髄障害に特徴的な表現型を示す前に7dpiもしくは14dpiで開始して、7連続日にわたって1日用量10μgを注射することによって、IP投与する。
【0132】
上記マウスを、CC1免疫染色、CD11b染色、EM、トルイジンブルー染色、MbpおよびPlpの遺伝子発現、ロータロッドアッセイ、上記トレッドミルDigiGaitアッセイによる歩行の分析、ならびにSEPアッセイによって特徴付ける。免疫組織化学もまた、行う。上記脳への免疫細胞のインフラックスもまた、以下のマーカーを検査することによって決定する:顆粒球/好中球抗原4/7、T細胞抗原CD3、およびIBA1。LPSで処置したマウスへの作用および任意の差異(例えば、回復の時間もしくは回復の程度)を、タモキシフェンを投与したが、LPSで処置しなかったマウスのそれと比較する。LPSで処置したマウスは、より早い回復時間を有し得る。老齢マウスに対して若年マウスへの上記作用および任意の差異(例えば、回復の時間もしくは回復の程度)もまた、分析する。
【0133】
同じ実験を反復する。ここでLPSと同様にタモキシフェンを局所に投与(実施例5を参照のことのこと)する。同じ実験をまた行う。ここでタモキシフェンを複数回投与し(実施例6を参照のことのこと)、ここでLPSも、タモキシフェンの各投与に対して投与する。
【0134】
(実施例8:PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスにおける血液脳関門の完全性)
上記PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAの若年マウス(5〜6週齢)および老齢マウス(6〜9ヶ月齢)に、タモキシフェン(実施例1に記載されるかもしくは実施例4において決定されるような量もしくは用量)をIPで投与する。血液脳関門(BBB)の完全性を試験するために、エバンブルー色素を、屠殺する48時間前に、マウスにIP注射する(2%,4ml/kg体重)。上記青色色素の分布を、脳実質において分析して、上記BBBの完全性を決定する。
【0135】
(実施例9:生物学的に活性な薬剤のスクリーニング)
上記PLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスに、タモキシフェン(実施例1に記載されるように、または実施例4において決定されるような量もしくは投与量)をIPで投与する。候補薬剤を、上記動物が脱髄障害の表現型の特徴を示す前に、PIの14日後に上記マウスにIPで投与する。
【0136】
上記マウスを、種々の時点でのロータロッドアッセイおよび上記トレッドミルDigiGaitアッセイによる歩行の分析によって特徴付ける。上記薬剤は、上記マウスが、タモキシフェンを投与するが上記候補薬剤を投与しないPLP/CreERT;ROSA26−eGFP−DTAマウスより早くその運動制御を回復する場合に、治療剤としてのさらなる開発のために選択される。
【0137】
本発明は、上記の実施形態に限定されないが、添付の特許請求の範囲の範囲内での改変が可能である。当業者は、慣用的な実験のみを使用して、本明細書に記載される本発明の具体的実施形態の多くの等価物を認識するかあるいは確認し得る。多くのバリエーション、変化、および置換は、いまや本発明から逸脱することなく当業者に想起される。本明細書に記載される実施形態に対する種々の代替物は、本発明を実施するにあたって使用され得ることが理解されるべきである。以下の特許請求の範囲は、発明の範囲を規定し、これら請求項の範囲内の方法および構造物、ならびにこれらの等価物が、特許請求の範囲によって網羅されることが意図される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ヒトトランスジェニック動物であって、該動物は、
a)グリア細胞特異的プロモーターに作動可能に連結された第1の異種ヌクレオチド配列であって、ここで
該第1の異種ヌクレオチド配列は、第1の異種タンパク質をコードし、該第1の異種ヌクレオチド配列は、該動物において安定して発現される、第1の異種ヌクレオチド配列;
b)第2の異種タンパク質をコードする第2の異種ヌクレオチド配列であって、ここで
該第2の異種タンパク質は、該第1の異種タンパク質の活性化に際して発現され、非増殖グリア細胞の死滅を誘導し、
該第1の異種タンパク質の最初の活性化は、該動物において該非増殖グリア細胞の死滅を誘導し、該動物において脱髄を生じ、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を生じ;そして
該1種以上の表現型変化は、該第1の異種タンパク質の最初の活性化後に逆転される、第2の異種ヌクレオチド配列;
を含む、非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項2】
前記動物は、哺乳動物である、請求項1に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項3】
前記動物は、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、およびサルからなる群より選択される、請求項1または2に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項4】
前記動物は、マウスである、請求項1〜3のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項5】
前記マウスは、少なくとも約5週齢である、請求項4に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項6】
前記マウスは、少なくとも約4〜6ヶ月齢である、請求項4に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項7】
前記マウスは、成体である、請求項4に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項8】
前記非増殖グリア細胞は、中枢神経系(CNS)に存在する、請求項1〜7のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項9】
前記非増殖グリア細胞は、末梢神経系(PNS)に存在する、請求項1〜8のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項10】
前記第1の異種タンパク質の活性化は、誘導性である、請求項1〜9のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項11】
前記活性化は、外因性薬剤によって誘導される、請求項1〜10のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項12】
前記活性化は、組換えである、請求項1〜11のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項13】
前記第1の異種タンパク質は、リコンビナーゼである、請求項1〜12のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項14】
前記リコンビナーゼは、Creリコンビナーゼもしくはその改変体である、請求項13に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項15】
前記改変体は、融合タンパク質である、請求項14に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項16】
前記融合タンパク質は、Creリコンビナーゼおよびエストロゲンレセプターの変異したリガンド結合ドメインの融合タンパク質である、請求項15に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項17】
前記外因性薬剤は、タモキシフェンもしくはそのアナログである、請求項11に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項18】
前記融合タンパク質は、CreERTもしくはCreERT2である、請求項15に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項19】
前記グリア細胞特異的プロモーターは、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、希突起膠細胞特異的タンパク質(OSP)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、もしくはプロテイン2(P2)からなる群より選択される遺伝子のプロモーターである、請求項1〜18のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項20】
前記グリア細胞特異的プロモーターは、PLP、MBP、およびCNPからなる群より選択される遺伝子のプロモーターである、請求項1〜18のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項21】
前記第2の異種タンパク質は、細胞死を誘導する、請求項1〜20のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項22】
前記第2の異種タンパク質は、外毒素である、請求項1〜20のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項23】
前記外毒素は、ジフテリア毒素もしくはそのサブユニットである、請求項22に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項24】
前記ジフテリア毒素サブユニットは、Aサブユニットである、請求項23に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項25】
前記非増殖グリア細胞は、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞である、請求項1〜24のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項26】
脱髄状態に特徴的な前記1種以上の表現型変化は、不安定歩行、後肢麻痺、振せん、体重減少、失調、およびその任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項1〜25のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項27】
脱髄状態に特徴的な前記1種以上の表現型変化は、運動制御の低下、平衡の低下、およびCNS伝導の低下からなる群より選択される、請求項1〜25のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項28】
前記運動制御もしくは平衡は、ロータロッド行動アッセイ、もしくは姿勢および歩行力学の空間的および時間的指標を提供する任意の他のアッセイによって測定される、請求項27に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項29】
前記CNS伝導は、脊髄体性感覚誘発電位によって測定される、請求項27に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項30】
前記1種以上の表現型変化は、前記第1の異種タンパク質の前記活性化の約35日間以降に逆転される、請求項1〜29のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項31】
前記1種以上の表現型変化は、前記第1の異種タンパク質の前記活性化の約70日間以降に逆転される、請求項1〜29のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項32】
請求項1の記載の非ヒトトランスジェニック動物の細胞であって、ここで該細胞は、
a)グリア細胞特異的プロモーターに作動可能に連結された第1の異種ヌクレオチド配列であって、ここで該第1の異種ヌクレオチド配列は、第1の異種タンパク質をコードし、該第1の異種核酸は、該細胞において安定して発現される、第1の異種ヌクレオチド配列;および
b)第2の異種タンパク質をコードする第2の異種ヌクレオチド配列であって、ここで該第2の異種タンパク質は、該第1の異種タンパク質の活性化の際に発現され、該第1の異種タンパク質の活性化の際に該細胞の死滅を誘導する、第2の異種ヌクレオチド配列、
を含む、細胞。
【請求項33】
前記細胞は、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞である、請求項32に記載の細胞。
【請求項34】
前記細胞は、増殖細胞である、請求項32に記載の細胞。
【請求項35】
前記細胞は、非増殖細胞である、請求項32に記載の細胞。
【請求項36】
脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化の逆転を促進する薬剤を選択する方法であって、該方法は、
a)請求項1に記載の非ヒトトランスジェニック動物において前記第1の異種タンパク質を活性化する工程;
b)候補薬剤を該動物に投与する工程;
c)該動物において脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を決定する工程;および
d)該1種以上の表現型変化が、該候補薬剤を投与しないコントロール動物と比較してより迅速に逆転される場合に、該薬剤を選択する工程、
を包含する、方法。
【請求項37】
脱髄状態に特徴的な前記1種以上の表現型変化は、不安定歩行、後肢麻痺、振せん、およびその任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
脱髄状態に特徴的な前記1種以上の表現型変化は、運動制御の低下、平衡の低下、およびCNS伝導の低下からなる群より選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記運動制御もしくは平衡は、ロータロッド行動アッセイ、もしくは姿勢および歩行力学の空間的および時間的指標を提供する任意の他のアッセイによって測定される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記CNS伝導は、脊髄体性感覚誘発電位によって測定される、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記薬剤は、前記1種以上の表現型変化が前記第1の異種タンパク質の活性化後の約70日間未満に逆転される場合に選択される、請求項36〜40のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
前記薬剤は、前記1種以上の表現型変化が前記第1の異種タンパク質の活性化後の約35日間未満の逆転される場合に選択される、請求項36〜40のいずれかに記載の方法。
【請求項43】
髄鞘再生を促進する薬剤を選択する方法であって、該方法は、
a)請求項1に記載の非ヒトトランスジェニック動物において前記第1の異種タンパク質を活性化する工程;
b)候補薬剤を該動物に投与する工程;
c)該動物において髄鞘再生を決定する工程;および
d)該動物が該候補薬剤を投与していないコントロール非トランスジェニック動物と比較して、髄鞘再生の増大を示す場合に該薬剤を選択する工程、
を包含する、方法。
【請求項44】
髄鞘再生は、有髄軸索によって特徴付けられる、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
髄鞘再生は、希突起膠細胞の細胞マーカーの発現によって特徴付けられる、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記希突起膠細胞の細胞マーカーは、CC1、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、プロテイン2(P2)、ガラクトセレブロシド(GalC)、スルファチドおよびプロテオリピドタンパク質(PLP)からなる群より選択される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記動物は、哺乳動物である、請求項36〜46のいずれかに記載の方法。
【請求項48】
前記動物は、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、およびサルからなる群より選択される、請求項36〜46のいずれかに記載の方法。
【請求項49】
前記動物は、マウスである、請求項36〜46のいずれかに記載の方法。
【請求項50】
前記マウスは、少なくとも約5週齢である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記マウスは、少なくとも約4〜6ヶ月齢である、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記マウスは、成体である、請求項49に記載の方法。
【請求項53】
前記工程a)における活性化する工程は、外因性薬剤によるものである、請求項36または46に記載の方法。
【請求項54】
前記外因性薬剤は、1回より多く前記動物に投与される、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記外因性薬剤は、注射によってもしくは経口的に投与される、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
前記外因性薬剤は、局所に投与される、請求項53に記載の方法。
【請求項57】
前記外因性薬剤は、タモキシフェンもしくはそのアナログである、請求項53に記載の方法。
【請求項58】
前記第1の異種タンパク質は、リコンビナーゼである、請求項36〜57のいずれかに記載の方法。
【請求項59】
前記リコンビナーゼは、Creリコンビナーゼもしくはその改変体である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記改変体は、融合タンパク質である、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記融合タンパク質は、Creリコンビナーゼおよびエストロゲンレセプターの変異したリガンド結合ドメインの融合タンパク質である、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記融合タンパク質は、CreERTもしくはCreERT2である、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
リポポリサッカリド(LPS)は、前記動物に投与される、請求項36〜62のいずれかに記載の方法。
【請求項64】
前記LPSは、前記第1の異種タンパク質の活性化の前にもしくは活性化と同時に投与される、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記LPSは、前記第1の異種タンパク質の活性化の後に投与される、請求項63に記載の方法。
【請求項66】
前記LPSは、局所にもしくは腹腔内に投与される、請求項63〜65のいずれかに記載の方法。
【請求項67】
前記局所投与は、CNSもしくはPNSに対するものである、請求項56または66に記載の方法。
【請求項68】
前記局所投与は、脳に対するものである、請求項56または66のいずれかに記載の方法。
【請求項69】
前記局所投与は、脊髄に対するものである、請求項56または66のいずれかに記載の方法。
【請求項70】
前記局所投与は、視神経に対するものである、請求項56または66に記載の方法。
【請求項1】
非ヒトトランスジェニック動物であって、該動物は、
a)グリア細胞特異的プロモーターに作動可能に連結された第1の異種ヌクレオチド配列であって、ここで
該第1の異種ヌクレオチド配列は、第1の異種タンパク質をコードし、該第1の異種ヌクレオチド配列は、該動物において安定して発現される、第1の異種ヌクレオチド配列;
b)第2の異種タンパク質をコードする第2の異種ヌクレオチド配列であって、ここで
該第2の異種タンパク質は、該第1の異種タンパク質の活性化に際して発現され、非増殖グリア細胞の死滅を誘導し、
該第1の異種タンパク質の最初の活性化は、該動物において該非増殖グリア細胞の死滅を誘導し、該動物において脱髄を生じ、脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を生じ;そして
該1種以上の表現型変化は、該第1の異種タンパク質の最初の活性化後に逆転される、第2の異種ヌクレオチド配列;
を含む、非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項2】
前記動物は、哺乳動物である、請求項1に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項3】
前記動物は、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、およびサルからなる群より選択される、請求項1または2に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項4】
前記動物は、マウスである、請求項1〜3のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項5】
前記マウスは、少なくとも約5週齢である、請求項4に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項6】
前記マウスは、少なくとも約4〜6ヶ月齢である、請求項4に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項7】
前記マウスは、成体である、請求項4に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項8】
前記非増殖グリア細胞は、中枢神経系(CNS)に存在する、請求項1〜7のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項9】
前記非増殖グリア細胞は、末梢神経系(PNS)に存在する、請求項1〜8のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項10】
前記第1の異種タンパク質の活性化は、誘導性である、請求項1〜9のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項11】
前記活性化は、外因性薬剤によって誘導される、請求項1〜10のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項12】
前記活性化は、組換えである、請求項1〜11のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項13】
前記第1の異種タンパク質は、リコンビナーゼである、請求項1〜12のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項14】
前記リコンビナーゼは、Creリコンビナーゼもしくはその改変体である、請求項13に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項15】
前記改変体は、融合タンパク質である、請求項14に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項16】
前記融合タンパク質は、Creリコンビナーゼおよびエストロゲンレセプターの変異したリガンド結合ドメインの融合タンパク質である、請求項15に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項17】
前記外因性薬剤は、タモキシフェンもしくはそのアナログである、請求項11に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項18】
前記融合タンパク質は、CreERTもしくはCreERT2である、請求項15に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項19】
前記グリア細胞特異的プロモーターは、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、希突起膠細胞特異的タンパク質(OSP)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、もしくはプロテイン2(P2)からなる群より選択される遺伝子のプロモーターである、請求項1〜18のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項20】
前記グリア細胞特異的プロモーターは、PLP、MBP、およびCNPからなる群より選択される遺伝子のプロモーターである、請求項1〜18のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項21】
前記第2の異種タンパク質は、細胞死を誘導する、請求項1〜20のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項22】
前記第2の異種タンパク質は、外毒素である、請求項1〜20のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項23】
前記外毒素は、ジフテリア毒素もしくはそのサブユニットである、請求項22に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項24】
前記ジフテリア毒素サブユニットは、Aサブユニットである、請求項23に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項25】
前記非増殖グリア細胞は、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞である、請求項1〜24のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項26】
脱髄状態に特徴的な前記1種以上の表現型変化は、不安定歩行、後肢麻痺、振せん、体重減少、失調、およびその任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項1〜25のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項27】
脱髄状態に特徴的な前記1種以上の表現型変化は、運動制御の低下、平衡の低下、およびCNS伝導の低下からなる群より選択される、請求項1〜25のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項28】
前記運動制御もしくは平衡は、ロータロッド行動アッセイ、もしくは姿勢および歩行力学の空間的および時間的指標を提供する任意の他のアッセイによって測定される、請求項27に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項29】
前記CNS伝導は、脊髄体性感覚誘発電位によって測定される、請求項27に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項30】
前記1種以上の表現型変化は、前記第1の異種タンパク質の前記活性化の約35日間以降に逆転される、請求項1〜29のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項31】
前記1種以上の表現型変化は、前記第1の異種タンパク質の前記活性化の約70日間以降に逆転される、請求項1〜29のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項32】
請求項1の記載の非ヒトトランスジェニック動物の細胞であって、ここで該細胞は、
a)グリア細胞特異的プロモーターに作動可能に連結された第1の異種ヌクレオチド配列であって、ここで該第1の異種ヌクレオチド配列は、第1の異種タンパク質をコードし、該第1の異種核酸は、該細胞において安定して発現される、第1の異種ヌクレオチド配列;および
b)第2の異種タンパク質をコードする第2の異種ヌクレオチド配列であって、ここで該第2の異種タンパク質は、該第1の異種タンパク質の活性化の際に発現され、該第1の異種タンパク質の活性化の際に該細胞の死滅を誘導する、第2の異種ヌクレオチド配列、
を含む、細胞。
【請求項33】
前記細胞は、希突起膠細胞もしくはシュワン細胞である、請求項32に記載の細胞。
【請求項34】
前記細胞は、増殖細胞である、請求項32に記載の細胞。
【請求項35】
前記細胞は、非増殖細胞である、請求項32に記載の細胞。
【請求項36】
脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化の逆転を促進する薬剤を選択する方法であって、該方法は、
a)請求項1に記載の非ヒトトランスジェニック動物において前記第1の異種タンパク質を活性化する工程;
b)候補薬剤を該動物に投与する工程;
c)該動物において脱髄状態に特徴的な1種以上の表現型変化を決定する工程;および
d)該1種以上の表現型変化が、該候補薬剤を投与しないコントロール動物と比較してより迅速に逆転される場合に、該薬剤を選択する工程、
を包含する、方法。
【請求項37】
脱髄状態に特徴的な前記1種以上の表現型変化は、不安定歩行、後肢麻痺、振せん、およびその任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
脱髄状態に特徴的な前記1種以上の表現型変化は、運動制御の低下、平衡の低下、およびCNS伝導の低下からなる群より選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記運動制御もしくは平衡は、ロータロッド行動アッセイ、もしくは姿勢および歩行力学の空間的および時間的指標を提供する任意の他のアッセイによって測定される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記CNS伝導は、脊髄体性感覚誘発電位によって測定される、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記薬剤は、前記1種以上の表現型変化が前記第1の異種タンパク質の活性化後の約70日間未満に逆転される場合に選択される、請求項36〜40のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
前記薬剤は、前記1種以上の表現型変化が前記第1の異種タンパク質の活性化後の約35日間未満の逆転される場合に選択される、請求項36〜40のいずれかに記載の方法。
【請求項43】
髄鞘再生を促進する薬剤を選択する方法であって、該方法は、
a)請求項1に記載の非ヒトトランスジェニック動物において前記第1の異種タンパク質を活性化する工程;
b)候補薬剤を該動物に投与する工程;
c)該動物において髄鞘再生を決定する工程;および
d)該動物が該候補薬剤を投与していないコントロール非トランスジェニック動物と比較して、髄鞘再生の増大を示す場合に該薬剤を選択する工程、
を包含する、方法。
【請求項44】
髄鞘再生は、有髄軸索によって特徴付けられる、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
髄鞘再生は、希突起膠細胞の細胞マーカーの発現によって特徴付けられる、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記希突起膠細胞の細胞マーカーは、CC1、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、セラミドガラクトシルトランスフェラーゼ(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、希突起膠細胞−ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)、末梢ミエリンタンパク質22(PMP22)、プロテイン2(P2)、ガラクトセレブロシド(GalC)、スルファチドおよびプロテオリピドタンパク質(PLP)からなる群より選択される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記動物は、哺乳動物である、請求項36〜46のいずれかに記載の方法。
【請求項48】
前記動物は、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、およびサルからなる群より選択される、請求項36〜46のいずれかに記載の方法。
【請求項49】
前記動物は、マウスである、請求項36〜46のいずれかに記載の方法。
【請求項50】
前記マウスは、少なくとも約5週齢である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記マウスは、少なくとも約4〜6ヶ月齢である、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記マウスは、成体である、請求項49に記載の方法。
【請求項53】
前記工程a)における活性化する工程は、外因性薬剤によるものである、請求項36または46に記載の方法。
【請求項54】
前記外因性薬剤は、1回より多く前記動物に投与される、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記外因性薬剤は、注射によってもしくは経口的に投与される、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
前記外因性薬剤は、局所に投与される、請求項53に記載の方法。
【請求項57】
前記外因性薬剤は、タモキシフェンもしくはそのアナログである、請求項53に記載の方法。
【請求項58】
前記第1の異種タンパク質は、リコンビナーゼである、請求項36〜57のいずれかに記載の方法。
【請求項59】
前記リコンビナーゼは、Creリコンビナーゼもしくはその改変体である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記改変体は、融合タンパク質である、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記融合タンパク質は、Creリコンビナーゼおよびエストロゲンレセプターの変異したリガンド結合ドメインの融合タンパク質である、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記融合タンパク質は、CreERTもしくはCreERT2である、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
リポポリサッカリド(LPS)は、前記動物に投与される、請求項36〜62のいずれかに記載の方法。
【請求項64】
前記LPSは、前記第1の異種タンパク質の活性化の前にもしくは活性化と同時に投与される、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記LPSは、前記第1の異種タンパク質の活性化の後に投与される、請求項63に記載の方法。
【請求項66】
前記LPSは、局所にもしくは腹腔内に投与される、請求項63〜65のいずれかに記載の方法。
【請求項67】
前記局所投与は、CNSもしくはPNSに対するものである、請求項56または66に記載の方法。
【請求項68】
前記局所投与は、脳に対するものである、請求項56または66のいずれかに記載の方法。
【請求項69】
前記局所投与は、脊髄に対するものである、請求項56または66のいずれかに記載の方法。
【請求項70】
前記局所投与は、視神経に対するものである、請求項56または66に記載の方法。
【図19】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2013−503645(P2013−503645A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528073(P2012−528073)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/047761
【国際公開番号】WO2011/028969
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(399019892)ザ・ユニバーシティ・オブ・シカゴ (9)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF CHICAGO
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/047761
【国際公開番号】WO2011/028969
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(399019892)ザ・ユニバーシティ・オブ・シカゴ (9)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF CHICAGO
【Fターム(参考)】
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