説明

神経細胞への遺伝子送達方法

【課題】神経細胞への遺伝子送達方法の提供。
【解決手段】本発明は、標的細胞から離れた部位にベクターを投与することにより標的神経細胞にバキュロウイルス(baculorivus)ベクターを送達するための軸索輸送の使用に関する。このような送達は、神経経路の追跡を可能とし、さらにバキュロウイルス(baculorivus)ベクターは、対象における神経疾患の治療のために、別のやり方では容易に接近可能ではない標的神経に治療遺伝子を送達するのに用い得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、神経細胞への遺伝子送達方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
バキュロウイルスAuto grapha californica核多角体病ウイルスの哺乳動物細胞発現ベクターとしての使用は、次世代の遺伝子治療ビヒクルとして前途有望な新興ストラテジーと近年考えられている(Ghosh et aL, 2002; Kost and Condreay, 2002)。増殖性および非増殖性の、静止哺乳動物細胞の両方において広い向性を示すバキュロウイルスは、脊椎動物細胞内で複製せず、皆無かそれに近い顕微鏡的に観察可能な細胞毒性を引き起こす。バキュロウイルスベクター媒介遺伝子導入は、神経系において研究されている。第一報は、CMVプロモーターを含むバキュロウイルスベクターによる、インビトロおよびインビボでの神経細胞の効率的な形質導入を記載している(Sarkis et al., 2000)。ヒト胎児脳の初代細胞培養において、神経上皮、神経芽細胞、およびグリア細胞を感染させることができた。成体ヌードマウスを用いたインビボ研究において、ほんのわずかなニューロンのみを伴う主にアストロサイトが、脳に注入されたバキュロウイルスベクターを形質導入したことを実証した。脳におけるバキュロウイルス媒介遺伝子発現の細胞型特異性を検証する目的の他の研究において(Lehtolainen et al., 2002)、脈絡叢(choroids plexus)の立方上皮細胞は、ラット脳におけるウイルスの主要な標的細胞であると同定され、中程度の遺伝子発現が内皮細胞で検出されたが、ニューロンおよびアストロサイトを含む他のタイプの脳細胞ではごく限られているまたは少しの発現も見出されなかった。
【0003】
神経系における主要な機能細胞はニューロンであり、シグナルの受容、伝導および伝達におけるシステムの基本的な役目を果たすタイプの細胞である。これらの細胞の治療的保護は、神経疾患の分子治療の主な目標の一つである。例としては、パーキンソン病におけるドーパミン作動性黒質線条体ニューロン(Duvoisin, 1992)、アルツハイマー病における前脳基底核コリン作動性ニューロン(Gomez-Isla et al., 1996)および筋萎縮性側索硬化症における脊髄運動ニューロンの保護が挙げられる。我々は以前に、導入遺伝子発現を推進するように、強力な神経特異的プロモーター、CMV E/PDGFに適応する組換えバキュロウイルスベクターを開発した(同時係属米国出願第10/407,009号に記載されているCMVI E/PDGF)。脳内への注入後、バキュロウイルスベクターは、ニューロンを形質導入し、注入部位に近接するニューロンにおける導入遺伝子発現を調節することができた。相対的に高レベルの持続性導入遺伝子発現が、少なくとも4週間存続し、CMVプロモーターのみを含むバキュロウイルスベクターによりもたらされる3日間よりもずっと長い。
【0004】
ある神経疾患において影響を受けたニューロンの広い解剖学的分布および他のものにおける相対的に接近不可能な神経の配置は、該疾患の有効な遺伝子治療の障害をもたらす。いくつかのウイルスベクターは、天然の軸索輸送の過程を利用することによりこの問題を乗り越えることができる。この過程は、細胞外物質のエンドサイトーシスから始まる。軸索のエンドサイトーシスの場合、軸索終末は物質を取り込むための入口として用いられる。取り込まれた物質は、次いで細胞体へと軸索原形質内を輸送される。このような方法で取り込まれそして輸送されることのできるウイルスは、アデノウイルス(BilangBleuel et al., 1997; Hermens et al., 1997; Choi-Lundberg et al., 1998; Soudais et al., 2001; Peltekian et al., 2002)、アデノ随伴ウイルス(AAV、Kaspar et al., 2002)およびヘルペスウイルス(HSV、Breakefield and DeLuca, 1991; Jin et al., 1996)が挙げられる。アデノウイルスおよびHSVは、バキュロウイルスよりもずっと強い免疫および炎症反応を導き出す。アデノウイルスまたはHSVの単独脳内注入は、脳における濃度依存的炎症反応をもたらし、脱髄を招く(McMenamin et al., 1998; Lawrence et al., 1999)。標的細胞染色体(chromosoe)に組み込むことのできるAAVベクターは、一貫して免疫応答を誘導することができないということにより特徴付けられる。しかしながら、それらの遺伝子送達ベクターとしての適用は、小さなウイルスベクターの挿入サイズおよび製造の難しさによりどうも妨げられる(Joose and Chirmule, 2003)。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要旨)
一形態において、本発明は、中枢神経系の標的神経細胞を同定し、該標的神経細胞から離れた中枢神経系の部位を同定し、そしてベクターをそこでベクターが軸索輸送により神経細胞に送達される該部位に投与することを含む、対象の神経細胞にバキュロウイルスベクターを送達するための方法を提供する。
【0006】
別の形態において本発明は、疾患により影響を受けた標的神経細胞を同定し、該標的神経細胞から離れた中枢神経系の部位を同定し、そしてプロモーターに機能可能に連結された治療遺伝子を含むバキュロウイルスベクターをそこでバキュロウイルスベクターが軸索輸送により標的神経細胞に送達される該部位に投与することを含む、対象における神経疾患を治療するための方法を提供する。
【0007】
さらに別の形態において、本発明は、検出用のバキュロウイルスを対象の中枢神経系の部位に投与し、ウイルスの輸送経路を検出することを含む、神経経路を追跡するための方法を提供する。
【0008】
本発明の他の局面及び特徴は、添付の図面と合わせて以下の本発明の特定の実施態様の記載を検討すれば、当業者に明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(詳細な説明)
【0010】
本発明者らは、組換えバキュロウイルスベクターは、軸索輸送により神経細胞体に移動することができ、それが投射ニューロンにおける導入遺伝子発現をもたらすということを初めて実証した。ラット線条体内へのCy3標識バキュロウイルスベクターの定位固定注入の後、バキュロウイルスベクターの逆行性軸索輸送が、皮質線条体系経路および黒質線条体経路に沿って観察された。硝子体内注入後、網膜、視神経、外側膝状体、上丘から一次視覚皮質への視覚系の既知の連絡において、ウイルス粒子の順行性軸索輸送および経シナプス輸送が観察された。PCR分析は、投射野から採取した組織サンプルにおいて輸送されたウイルスDNAの存在を確認した。ニューロン−特異的プロモーターを含む組換えバキュロウイルスベクターを用いて、導入遺伝子発現は、注入部位より遠位の神経細胞において検出可能であった。
【0011】
軸索輸送の神経遺伝子導入への使用は、ウイルスベクターが神経回路の末端部のニューロンを標的化するのを可能にする。より接近可能な脳領域の注入部位に用いることにより、このアプローチは、CNS構造の奥深くのニューロン集団を標的とすることができまたは注入操作により引き起こされる感応性領域の損傷を最小限にすることができる。線条体は、このアプローチをテストするのに用いられている一般的な領域の1つである。線条体に投射している3つの主な脳領域がある:大脳皮質、黒質(subtantia nigra)、および視床の髄板内核。黒質のドーパミン作動性ニューロンは、線条体の広い領域に投射している長い軸索を有しており、アデノウイルス(Ghadge et al., 1995; Peltekian et al., 2002)、AAV(Kaspar et al., 2002)およびHSV(Jin et aI., 1996)を含む多くのウイルスベクターの逆行性輸送の研究に用いられている。本発明者らは、バキュロウイルスベクターを用いて、黒質で発現している導入遺伝子は、なお極めて有意ではあるものの、大脳皮質でのものと比べて相対的に低く、これらの2つの脳領域におけるニューロン量の差異のためらしいということを見出した。
【0012】
視覚系は、求心性および遠心性の非相互的な連絡の両方を持つ詳細に明らかにされた感覚経路である(Peters, 1985)。げっ歯類において、網膜からのたいていの投射は、対側性に視床、上丘(SC)、および視床下部のいくつかの構造へと伸びている(Millhouse, 1977)。視床内において、背側外側膝状核(dLGN)を含むいくつかの特異的視床核は、一次網膜受容(retinorecipient)領域である。dLGNから、神経投射は一次および二次視覚皮質(領域17および18)へと中継されている(Hughes, 1977; Caviness, Jr. and Frost, 1983)。ニューロンは、視覚皮質から、側頭、前頭、および腹外側眼窩皮質ならびに基底核などの多くの他の皮質および皮質下への領域へとさらに投射している。網膜と視覚皮質の間のこれらの連絡は、それゆえ経ニューロン性輸送の解析に有用である。網膜におけるニューロン−特異的プロモーター下の導入遺伝子発現は、ウイルスは網膜のニューロンとグリアの両方に入っていたものの、バキュロウイルスベクターの硝子体内注入の後で神経節細胞に限局していた。さらに、バキュロウイルス(baculoviru)の眼内接種は、視覚に関連する構造に沿ってのニューロンの逐次的な感染となり、これはウイルスがいくつかのシナプスを通過することができることを示す。
【0013】
バキュロウイルスベクターはしたがって、例えば、容易に接近可能でない中枢神経系の領域にあるまたは中枢神経系の様々な領域に広く分布しており複数の局所注入が必要であるという理由で、容易には局所的に注入され得ない任意の標的神経細胞へ送達され得る。このような標的神経細胞から離れた中枢神経系における部位を同定し、該部位にベクターを投与することにより、ベクターは軸索輸送により標的神経細胞に送達され得る。
【0014】
「神経細胞」および「ニューロン」なる語は、本明細書において互換的に用いられるが、当分野の通常の意味に従って、任意の神経系の伝導細胞をいい、典型的に細胞体、いくつかの樹状突起および軸索を含む。該語は、文脈上明確に別の指示がない場合は、複数または細胞の集団と同様に単細胞も含む。
【0015】
当業者によく知られているように、多くの神経細胞は、注入により接近可能な中枢神経系の領域に投射している長い軸索を有する。従って、標的神経細胞なる語は、本明細書において、そこにベクターが経シナプス輸送により送達され得る他の神経細胞と同様に、注入により接近可能なその軸索から離れたこのような神経細胞の細胞体も含む。部位は、該部位に注入されたベクターが経シナプス輸送により投射神経細胞または他の神経細胞の細胞体に入る前に軸索輸送により輸送されるのであれば、標的神経細胞から「遠隔」である。対照的に、もしベクターが局所注入の領域内および領域周囲の神経細胞へいかなる軸索輸送もなしに送達され得るのならば、局所注入の部位はこれらの神経細胞からは離れていない。当業者は、ベクターが軸索輸送により標的神経細胞へと送達されるように、所望の標的神経細胞、および注入により接近可能でありかつ標的神経細胞から離れている投与部位を容易に同定することができる。このような標的神経細胞およびそれらの投与の遠隔部位の例は、網膜の遠隔部位からまたは硝子体内への注入により接近可能な一次および二次視覚皮質と同様に、視神経の標的神経細胞、背側外側膝状核および上丘のような視床の網膜受容(retinorecipient)領域が挙げられる。大脳皮質および黒質の、それぞれ、皮質線条体系経路および黒質線条体(nigrostiatal)経路上の標的神経細胞は、線条体の遠隔部位での注入により接近可能である。標的細胞およびこのような細胞にアクセスし得る遠隔部位のさらなる例は、様々な神経解剖学アトラスおよび教科書、例えば、Atlas of Functional Neuroanatomy, W. J. Hendleman, CRC Press, 2000; Neuroanatomy: A Functional Atlas of Parts and Pathways, R. Poritsky, Hanley & Belfus, 1992; Functional Neuroanatomy; A. K. Afifi and R. A. Bergman, McGraw-Hill, 1998; Functional Systems: 3D Reconstructions with correlated Neuroimaging, H-J Kretschmann and W. Weinrich, Thieme, 1998; and Neuroanatomy: An Atlas of Structures, Sections and Systems 5th Ed., D. E. Haines, Lippincott, Williams & Wilkins, 2002を参照することにより決定できる。
【0016】
バキュロウイルスはよく知られておりそして特徴付けられており、そしてAutographa Californicaの使用を含む哺乳動物の遺伝子導入のためのバキュロウイルスベクターは公知である(例えば、Sakis et al PNAS 97 (26)参照)。当業者は、本発明で使用するための任意の適切なバキュロウイルスベクターを容易に構築することができる。バキュロウイルスベクターは、そのゲノムが、CMVプロモーターまたは以下に述べるような任意の機能可能に連結されたプロモーター/エンハンサーのようなニューロン特異的プロモーターまたはウイルスプロモーターに機能可能に連結された導入遺伝子を発現するように改変されている組換えバキュロウイルスであり得る。バキュロウイルスは、PCRおよび分子クローニング技術のような当業者に公知の標準的な技術を用いてそのように改変され得る。例えば、バキュロウイルスは、Bac-To-BacTM Baculovirus Expression system(Gibco BRL, Life Technologies, USA)などの市販のクローニングおよび発現系を用いて容易に改変することができる。
【0017】
「遺伝子」なる語は、その通常の定義に従って、機能可能に連結された核酸配列の群を意味するように用いられる。「導入遺伝子」なる語は、外来性である遺伝子をいい、そのようにして、例えば、バキュロウイルスによる導入遺伝子の発現と言えばバキュロウイルスゲノムに対し外来性である遺伝子の発現をいい、そして治療遺伝子を含む。
【0018】
「治療遺伝子」または「治療的導入遺伝子」なる語は、本明細書において、その発現が所望の結果、例えば、神経疾患の治療、予防または寛解をもたらす任意の遺伝子を広く表すことを目的とする。
【0019】
好ましくは、遺伝子は治療遺伝子であり、疾病予防または治療に関わる遺伝子産物またはタンパク質をコードする遺伝子、あるいは疾病予防または治療に関わる細胞調節効果を有する遺伝子などの臨床有用性を有する任意の遺伝子が含まれる。遺伝子産物は、対象における欠陥または欠損遺伝子産物、タンパク質、または細胞調節効果と置き換わっているべきであり、それにより対象の疾病または状態の予防または治療を可能としている。治療遺伝子には、成長因子遺伝子(線維芽細胞成長因子遺伝子ファミリー、神経成長因子遺伝子ファミリーおよびインスリン様成長因子遺伝子の遺伝子を含む)、および抗アポトーシス性遺伝子(bcl−2遺伝子ファミリーの遺伝子を含む)が挙げられる。
【0020】
脳卒中、癲癇、頭部および脊髄損傷、パーキンソン病、ハンティングトン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、ならびに多くの神経遺伝疾患のような神経性の疾病は、個体に壊滅的影響を与え、慢性的なケアおよび生産性の損失に関連する高い社会的費用をもたらす。これらの疾病の共通点は、神経細胞の欠損である。上述の疾患の多くは、1またはそれ以上の遺伝子の不在、機能不全または無効性に関連しており、通常の治療手段によく反応しない。治療遺伝子の送達および発現を含む中枢神経系(CNS)への遺伝子の移入は、したがって、これらの疾患の治療への可能性のあるアプローチと見なされている。このアプローチは、神経変性を回復させ、食い止めまたは予防するために、神経栄養因子、抗アポトーシス性タンパク質、抗酸化分子および他の治療因子の発現レベルを調節し得る。遺伝子治療はまた、CNS悪性腫瘍の治療に対する大きな期待も提供する。
【0021】
例えば、パーキンソン病に対しては2つの主要な遺伝子治療ストラテジーがある。最初のアプローチは、継続性の神経変性の進行を遅くするまたは食い止めるための、BDNF(脳由来神経栄養因子)、GDNF(グリア由来神経栄養因子)、およびbcl−2のような抗アポトーシス性遺伝子などの栄養因子または保護タンパク質をコードしている遺伝子の移入である。2番目のアプローチは、部分的に変性したシステムの機能を増強するための、例えば、線条体のDA(ドーパミン)レベルおよび調子を回復するためのTH(チロシン水酸化酵素)、GTPCH(GTP-シクロヒドロラーゼ )、およびAADA(芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼ(decorboxylase))といった代謝酵素の神経伝達物質−合成をコードしている遺伝子の移入である。
【0022】
ハンティングトン病に対して、遺伝子治療のためのアプローチは、1)変異IT15遺伝子の発現を阻害するアンチセンスストラテジー、および2)尾状核、被殻(putaman)および大脳皮質におけるGABA作動性変性を維持する保護的ストラテジーが挙げられる。NGF、CNTF(繊毛様神経栄養因子(ciliary neurothropic factor))は、ハンティングトン病の実験動物モデルにおいて保護的効果を提供することが示されている。
【0023】
体内で最も洗練された器官であるというCNSの独自の特性は、CNS内での成功した遺伝子治療に対するいくつかの障害をもたらす。これらの特性は、最終分化したニューロンの性質および治療遺伝子でそれらを効率的に形質移入することの困難と同様に、頭蓋および血液脳関門の物的バリアによるCNSへの制限されたアクセスを含む。さらに、CNS内で見られる細胞タイプは非常に多種多様であり、その多くは生理的機能に重要であり、どんな種類の変化に対しても高い感応性がある。これは、特定のタイプのCNS細胞に制限されるCNS遺伝子治療の開発を要し、従って所望の細胞における治療効果を確実にし、非標的CNS細胞における遺伝子発現により引き起こされる副作用を制限する。
【0024】
異なる実施態様において、治療遺伝子配列に機能可能に連結されたプロモーターを含むバキュロウイルスベクターが、投与の部位より遠位の神経細胞に送達され得る。プロモーターは、CMVまたは神経特異的プロモーターのような強力なウイルスプロモーターであり得る。選択した細胞タイプにおける特異的遺伝子発現は、神経細胞特異的プロモーターを用いることにより達成され得る。
【0025】
神経特異的プロモーターは、ニューロンまたは神経細胞内で機能可能に連結された配列の転写を活性化するように機能し、実質的に他の細胞タイプ内では機能しない任意のヌクレオチド配列であり得る。プロモーターは、もしこれらの細胞タイプのいずれにおいても機能可能に連結された配列の転写のレベルが細胞の生理的機能に影響を及ぼさないくらい十分に低ければ、実質的に転写を活性化しない。
【0026】
神経細胞特異的プロモーターは、シナプシンI、ニューロン−特異的エノラーゼ、ニューロフィラメント−LおよびニューロペプチドYなどの神経遺伝子に対するプロモーターならびに特定のタイプの神経細胞に特異的なプロモーターが挙げられ得る。例えば、チロシン水酸化酵素遺伝子プロモーター(4.8kb 5' UTR)はカテコールアミン作動性およびCNSニューロンに特異的であり、ドーパミン−b−ヒドロキシラーゼ遺伝子プロモーターはアドレナリン作動性およびノルアドレナリン作動性(noradrenegic)ニューロンに特異的であり、そしてL7プルキンエ細胞タンパク質プロモーターは網膜杆体双極ニューロンに特異的である。これらのそして他の神経細胞特異的プロモーターとして、D1Aドーパミン受容体遺伝子プロモーター、ヒトヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼプロモーター、SCG10プロモーター、Tα1α−チューブリンプロモーター、アルドラーゼCプロモーター、ベータ−チューブリン遺伝子プロモーター、GnRH遺伝子エンハンサーおよびプロモーター、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65遺伝子プロモーター、ベータ−ガラクトシドアルファ1,2−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子プロモーター、神経ニコチン性アセチルコリン受容体ベータ3遺伝子プロモーター、GABA(A)受容体デルタサブユニット遺伝子プロモーター、ニューロン−特異的FE65遺伝子プロモーター、N型カルシウムチャネルアルファ1Bサブユニット遺伝子プロモーターならびに微小管結合タンパク質1B遺伝子プロモーターが挙げられ、Harrington CA, Lewis EJ, Krzemien D, Chikaraishi DM. Identification and cell type specificity of the tyrosine hydroxylase gene promoter. 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【0027】
プロモーターは、機能可能に連結された配列の神経細胞特異的発現を活性化することができる少なくとも1つのヌクレオチド配列を含み、いくつかの実施態様において該ヌクレオチド配列は、プロモーターとして作用する配列に必要な転写因子のための最小限の結合部位を保有するであろう。いくつかの実施態様において、ベクターは、そのそれぞれが転写活性を活性化するのに有効な同じ配列の複数の複製または2以上の異なるヌクレオチド配列を含む。用いられ得る様々なプロモーターに対して、転写因子結合部位は、上述のように当分野で既知の方法を用いて当業者に知られるまたは同定されるであろう。好ましいプロモーター/エンハンサー構築物は、標準的な発現アッセイにより容易に決定できるであろう。
【0028】
血小板由来成長因子β鎖(PDGFβ)プロモーター(Sasahara M, Fries JW, Raines EW, Gown AM, Westrum LE, Frosch MP, Bonthron DT, Ross R, Collins T. PDGFβ-chain in neurons of the central nervous system, posterior pituitary, and in a transgenic model. Cell 1991; 64: 217-227)は、ドーパミン作動性ニューロンを含むCNS神経細胞に特異的であることが示されており、一実施態様では、神経細胞特異的プロモーターはPDGFβプロモーターである。具体的な実施態様において、神経特異的プロモーターはヒトPDGFβプロモーターである。
【0029】
場合によっては(in some instrances)、神経特異的プロモーターの転写活性は弱いものであり得、治療遺伝子配列の発現の理想的なレベルに満たない。様々な実施態様において、神経特異的プロモーターはエンハンサーに機能可能に連結され得る。「エンハンサー」は、機能可能に連結されたプロモーターの転写活性を、そして神経細胞特異的プロモーターの場合は、プロモーターの神経細胞特異的転写活性を増加させることのできるヌクレオチド配列である。
【0030】
配列が機能的な関係に置かれる場合、第一の核酸配列は第二の核酸配列と機能可能に連結されている。例えば、プロモーターがコード配列の転写を活性化するのであれば、コード配列はプロモーターに機能可能に連結される。同様に、エンハンサーが機能可能に連結された配列の神経細胞特異的転写を増加する場合、神経細胞特異的プロモーターおよび異種性エンハンサーは機能可能に連結される。エンハンサーは、プロモーターから離れると機能し得るので、エンハンサーは神経細胞特異的プロモーターに機能可能に連結され得るが、近接し得ない。しかしながら、一般的に機能可能に連結された配列は、近接している。
【0031】
異なる実施態様において、エンハンサーは異種性エンハンサーであり得、天然では神経細胞特異的プロモーターに機能可能に連結されておらず、そしてそのように機能可能に連結された場合、神経細胞特異的プロモーターの神経細胞特異的転写活性を増加させるヌクレオチド配列を意味する。転写活性を増加させるというのは、実施例に記載されているようなレポーター遺伝子構築物を用いることを含む標準的な転写アッセイにおいて検出され得るような、神経細胞特異的プロモーター単独で観察される転写レベルと比較しての機能可能に連結された配列の転写レベルにおける任意の検出可能な増加をいうことを意味している。
【0032】
エンハンサーは、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター(Gorman CM, Merlino GT, Willingham MC, Pastan I, Howard BH. The Rous sarcoma virus long terminal repeat is a strong promoter when introduced into a variety of eukaryotic cells by DNA-mediated transfection. Proc Natl Acad Sci U S A 1982; 79:6777-6781)、SV40プロモーター(Ghosh PK, Lebowitz P, Frisque RJ, Gluzman Y. Identification of a promoter component involved in positioning the 5' termini of simian virus 40 early mRNAs. Proc Natl Acad Sci U S A 1981; 78:100-104)、CMV前初期(IE)遺伝子エンハンサー(CMVEエンハンサー)を含むCMVエンハンサーまたはプロモーター(Boshart M, Weber F, Jahn G, Dorsch-Hasler K, Fleckenstein B, Schaffner W. A very strong enhancer is located upstream of an immediate early gene of human cytomegalovirus. Cell 1985; 41:521-530; Niwa H, Yamamura H, Miyazaki J. Efficient selection for high-expression transfectants with a novel eukaryotic vector. Gene 1991; 108: 193-200;米国特許第5,849,522号および5,168,062号もまた参照)のような、公知の強力なウイルスエンハンサーまたはプロモーター要素であり得る。
【0033】
本発明の一実施態様において、CMVEエンハンサーは、PDGFβプロモーターの上流に機能可能に連結されている。さらなる実施態様において、CMVEエンハンサーは、PDGFβプロモーターの上流に機能可能に連結されており、そして2つの配列は近接している。
【0034】
公知のプロモーターおよびエンハンサー配列のアレル変異体および誘導体を含む、機能可能に連結され得るニューロン特異的プロモーターおよびエンハンサーのさらなる実施態様は、米国出願第10/407,009号に記載されており、参考として本明細書に完全に援用される。
【0035】
様々な実施態様において、このような変異体および誘導体は、既知のエンハンサーおよびプロモーター配列と中程度またはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする(hybiridizes)ので、実質的に相同であり得る。中程度のストリンジェント条件下でのフィルターバウンド(filter-bound)配列とのハイブリダイゼーションは、例えば、0.5 M NaHP04、7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、1 mM EDTA中65℃で、および0.2×SSC/0.1% SDS中42℃での洗浄で行われ得る(Ausubel, et al. (eds), 1989, Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, Green Publishing Associates, Inc., and John Wiley & Sons, Inc., New York, at p. 2.10.3参照)。また、ストリンジェントな条件下でのフィルターバウンド(filter-bound)配列とのハイブリダイゼーションは、例えば、0.5 M NaHP04、7% SDS、1 mM EDTA中65℃で、および0.1×SSC/0.1% SDS中68℃での洗浄で行われ得る(Ausubel, et al. (eds), 1989、上述、参照)。ハイブリダイゼーションの条件は、興味の配列により既知の方法に従って改変され得る(Tijssen, 1993, Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology-- Hybridization with Nucleic Acid Probes, Part I, Chapter 2 "Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays", Elsevier, New York)。一般的に、ストリンジェントな条件は、確定したイオン強度およびpHで特異的配列に対する熱的融点より約5℃低く選択される。ストリンジェントなハイブリダイゼーションは、例えば5倍のSSCおよび50%ホルムアミド中42セルシウス(Celcius)度で、および0.1.倍SSCからなる洗浄緩衝液中65セルシウス(Celcius)度での洗浄であり得る。ストリンジェントなハイブリダイゼーションの洗浄は、例えば少なくとも15分間、30分間、45分間、60分間、75分間、90分間、105分間または120分間であり得る。
【0036】
配列間の相同性の程度は、配列が至適にアラインした場合、同一性の割合としても表され得、配列間の完全一致の発生率を意味する。同一性の比較のための至適な配列のアラインメントは、Smith and Waterman, 1981, Adv. Appl. Math 2: 482の局所相同性アルゴリズム、Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443の相同性アラインメントアルゴリズム、Pearson and Lipman, 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 2444の類似性を検索する方法、およびこれらのアルゴリズムのコンピューター実行(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, Madison, WI, U.S.A.のGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTAなど)などの様々なアルゴリズムを用いて行われ得る。配列アラインメントはまた、BLASTアルゴリズムを用いて実行され得、Altschul et al., 1990, J. Mol. Biol. 215: 403-10(既報のデフォルトの設定を用いて)に記載されている。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(インターネットを介してhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/で)を介して入手可能であり得る。様々な実施態様において、変異体および誘導体は、このようなアルゴリズムを用いての決定を基にして、50%より大きい、80%〜100%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%同一であり得る。
【0037】
バキュロウイルスベクターは、任意の脊椎動物対象に送達され得る。一実施態様では、対象はヒトである。
【0038】
ベクター投与の部位から離れた中枢神経の特定の領域にある標的神経細胞へバキュロウイルスを送達するために、当分野で既知の標準的な方法および実施例に記載されるような方法を用いて、ベクターは対象に投与され得る。例えば、ベクターは、遠隔またはバキュロウイルスの軸索輸送では接近不可能な部位のニューロンへあるいは皮質または脊髄へベクターを送達するために、例えば、線条体内のような接近可能な部位に投与され得る。バキュロウイルスは順行性および逆行性に輸送され得るので、接近可能な部位は、同じ神経経路上の標的細胞の上流または下流に位置し得る。
【0039】
好ましくはバキュロウイルスは注入により投与され、定位固定注入および眼の硝子体への注入ならびに損傷した脊髄の再生のための皮質または脊髄注入を含む。ヒト患者に対しては、定位フレームベースが頭蓋内に固定化され、高分解能MRIを用いて脳が定位フレームベースとともに撮像され得る。適切な定位ソフトウェアを用いて、像はベクターDNAの標的化注入のための定位フレームに適した3次元座標に変換され得る。
【0040】
バキュロウイルスは、例えば、標的細胞における治療遺伝子の発現といった所望の結果を達成するのに十分な量投与される。
【0041】
患者に投与する場合、バキュロウイルスは、所望の結果を達成するのに有効な量でおよび投与量でおよび十分な期間投与される。例えば、バキュロウイルスは、その産生物が神経疾病または疾患を軽減する、改善する、緩和する、寛解する、安定化する、拡大を予防する、進行を遅くするまたは遅延するあるいは治癒するために機能する治療遺伝子を送達するのに必要な含量および投与量で投与され得る。
【0042】
患者に投与される有効量は、バキュロウイルスの薬力学的特性、投与の形態、対象の年齢、健康状態および体重、疾患または疾病状態の性質および程度、治療の頻度およびもしあれば併用の治療のタイプ、ならびにウイルスの毒性および力価などの多くの要素により変化し得る。
【0043】
当業者であれば、上記要素に基づき適切な量を決定することができる。バキュロウイルスは、最初に適切な量で投与され得、患者の臨床反応により必要に応じ調整され得る。バキュロウイルスの有効量は、経験的および安全に投与され得るバキュロウイルスの最大量に応じて決定され得る。バキュロウイルスは脊椎動物において細胞毒性が皆無かそれに近いので、大量投与が許容されるであろう。しかしながら、投与されるバキュロウイルスの量は、所望の結果を生じる最小量であるべきである。
【0044】
様々な実施態様において、約10 プラーク形成単位(「pfu」)の用量がヒト患者に投与される。他の実施態様において、約10〜約10pfu、約10〜約10pfu、約10〜約10pfu、約10〜約10pfu、または約10〜約10pfuが、単回投与で投与され得る。
【0045】
バキュロウイルスの有効量は、最初の治療レジメンの効果に応じて、繰り返し与えられ得る。投与は、典型的にはなんらかの反応を監視している間、定期的に与えられる。選択した投与スケジュールおよび経路により、前述のものよりもより低いまたはより高い投与量が与えられ得ることは、当業者により認識されるであろう。
【0046】
投与を助けるために、ウイルスは医薬組成物中の成分として製剤化され得る。組成物は、ルーチン的に薬学的に許容され得る濃度の塩、緩衝剤、防腐剤および様々な適合性の担体を含み得る。全ての送達の形態について、組換えバキュロウイルスは生理食塩水中に製剤化され得る。
【0047】
薬学的に許容され得る希釈剤の割合および独自性は、選択した投与の経路、生ウイルスとの適合性および標準的な薬務により決定される。一般的に、医薬組成物は、生ウイルスの生物学的特性を有意に損なわないであろう成分と製剤化されるであろう。好ましいビヒクルおよび希釈剤は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences(Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pa., USA 1985)に記載されている。
【0048】
組換えバキュロウイルスの溶液は、生理的に適切な緩衝液中に調製され得る。通常の貯蔵および使用の状態下で、これらの製剤は、微生物の増殖を妨げるための防腐剤を含むが、それは生ウイルスを不活性化しないであろう。当業者は、適切な製剤の作製方法を知り得るであろう。適切な製剤の選択と調製のための通常の手順および成分は、例えば、1999年に出版されたRemington's Pharmaceutical SciencesおよびThe United States Pharmacopeia: The National Formulary(USP 24 NF19)に記載されている。
【0049】
注射剤用途に適している医薬組成物の形態は、滅菌水溶液または分散媒および滅菌注射剤溶液または分散媒の即時調製用の滅菌パウダーが挙げられ、ここで滅菌なる語は投与される生バキュロウイルス自体には及ばない。すべての場合において形態は滅菌されるべきであり、容易に注射針通過可能に存在する程度の液体であるべきである。
【0050】
CNSの遠隔または接近不可能な領域にあるニューロンへの治療遺伝子の送達は、神経疾患または疾病の治療を可能とする。例えば、本発明の方法を用いて、治療遺伝子送達のために黒質のドーパミン作動性ニューロンは、パーキンソン病の治療のために標的とされ得る(Bilang-Bleuel et al., 1997)。同様に、本発明の方法を用いて、治療的導入遺伝子発現は、単回局所注入ではうまく達し得なかった大脳皮質の様々な領域に広く分布したニューロンで達成され得、したがってハンティングトン病において影響を受けたニューロンの皮質線条体淡蒼球系の神経保護を可能とする(HD, Mittoux et al., 2002)。
【0051】
一形態において本発明は、対象における神経疾患を治療するための方法を提供し、疾患により影響を受けたCNSの標的神経細胞を同定し、標的神経細胞から離れたCANの部位を同定しそして神経特異的プロモーターに機能可能に連結された治療遺伝子を含むバキュロウイルスベクターをそこでバキュロウイルスベクターが軸索輸送により神経細胞に送達される該部位に投与することを含む。本発明はまた、神経疾患の治療のためのおよびこのような治療のための薬剤の製造における、バキュロウイルスベクターのこのような使用を提供する。
【0052】
神経疾患を「治療する」とは、臨床結果を含む有益または所望の結果を得るためのアプローチを言う。有益なまたは所望の臨床結果には、検出可能であろうと検出不可能であろうと、1以上の症状または状態の軽減または寛解、疾病の程度の縮小、疾病の状態の安定化、疾病の進展の予防、疾病の拡大の予防、疾病の進行の遅延または緩徐化、疾病発症の遅延または緩徐化、疾病状態の寛解または緩和、および緩解(部分的であろうと全体であろうと)を含み得るが、これらに限定されない。「治療する」はまた、治療なしで期待されるのを超えて患者の生存を延ばすことを意味し得る。「治療する」はまた、疾病の進行を阻害する、疾病の進行を一時的に遅くすることを意味し得るが、より好ましくは、疾病の進行を永久に食い止めることを含む。特異的疾病状態を改善するものの、もし治療が治療された患者に対して治療により生じたいかなる利益をも超える副作用をもたらすのであれば、結果は有益または望ましいものではないかもしれないことは当業者に理解されるであろう。
【0053】
神経疾患は、脳卒中、虚血、癲癇、頭部および脊髄損傷または傷害、パーキンソン病、ハンティングトン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症あるいは神経遺伝疾患であり得るが、これらに限定されない。
【0054】
「疾患に影響を受けた神経細胞」は、神経疾患に関連する、神経疾患の一因となるまたは神経疾患により引き起こされる欠損または機能不全を有し、神経細胞内での治療遺伝子の発現により治療され得る任意の神経細胞をいう。
【0055】
HSVおよび仮性狂犬病ウイルス(psuedorabies virus)のようなあるウイルスは、経シナプス的に輸送され得、経ニューロン性トレーサーとしてうまく用いられている(Babic et al., 1994; Blessing et al., 1994; Norgren, Jr. and Lehman, 1998)。最近のバキュロウイルスの効率的な経シナプス的輸送の発見のおかげで、このようなウイルスは、感覚と運動(motory)経路の両方を追跡するための強力な神経トレーサーとして作用する可能性がある。順行性軸索輸送が逆行性輸送よりも相対的に遅くそして効率が悪くなる傾向がある他の経ニューロン性トレーサーウイルスと比べて(Mclean et al., 1989; Card et al., 1990; Card et al., 1991; Vann and Atherton, 1991; Norgren, Jr. et al., 1992; Blessing et al., 1994; Sun et al., 1996)、バキュロウイルスは、順行性と逆行性の両方で軸索原形質内にあっという間に広がる。例えば、ラットにおいて2日以内に組換えバキュロウイルスが線条体から大脳皮質へとおよび網膜から一次視覚皮質へと輸送されたのが観察された。しかしながら、バキュロウイルス軸索輸送の双方向性故、バキュロウイルスは往復式の経路を追跡するのには適していないであろう。
【0056】
したがって、一実施態様では、神経経路を追跡するための方法であって、対象に検出用のバキュロウイルスを対象の中枢神経系の部位に投与しおよびバキュロウイルスの輸送経路を検出することを含む方法が提供される。
【0057】
バキュロウイルスは、対象のCNSに注入された場合に検出され得るように当分野で既知の任意の方法での検出に用いられ得る。例えば、バキュロウイルスは、例えばコートタンパク質に、例えば、標識を付着または結合することにより、ウイルス粒子の表面上が検出可能なマーカーで標識され得る。また、バキュロウイルスは、例えば、ウイルスアセンブリーの間の、ウイルス粒子内への標的分子の組み込みにより標識され得る。付着した標識は、蛍光色素分子、放射標識、放射線不透過物質、発光ナノ結晶量子ドットまたは核磁気共鳴画像法の助けとなる物質であり得る。
【0058】
放射標識は当分野で既知であり、Tc−99m、I−123、I−125、In−111、In−113m、Ga−67、または他のガンマ放射体のようなよく知られている医療用放射性核種が挙げられる。放射線不透過物質もまた既知であり、ヨウ素化合物、バリウム化合物、ガリウム化合物、タリウム化合物などが挙げられる。放射線不透過物質の具体例は、バリウム、ジアトリゾエート、エチオダイズド油、クエン酸ガリウム、イオカルム酸、イオセタム酸、ヨーダミド、ヨージパミド、ヨードキサム酸、イオグラミド(iogulamide)、イオヘキソール、イオパミドール、イオパノ酸、イオプロセム酸、イオセファム酸、イオセル酸、イオスラミドメグルミン、イオスメト酸、イオタスル、イオテトル酸、イオタラム酸、イオトロクス酸、イオキサグル酸、イオキソトリゾ酸、イポダート、メグルミン、メトリザミド;メトリゾエート、プロピリオドン、および塩化第一タリウムが挙げられる。磁気共鳴により検出され得るまたは磁気共鳴の効果を高める物質には、ガドリニウム、銅、鉄、およびクロムが挙げられ、通常の有機金属キレーターの形態で調製され得、それは次いでバキュロウイルスと複合化され得る。
【0059】
バキュロウイルスは、ニューロン特異的プロモーターの制御下に検出され得るタンパク質、例えば蛍光タンパク質、をコードする遺伝子を発現するように遺伝的に改変することにより、検出に用いられ得る。例えば、バキュロウイルスは、実施例に記載しているように、CMV E/PDGFプロモーターの制御下で緑色蛍光タンパク質を発現するように改変され得る。
【0060】
バキュロウイルスは、診断的画像の視覚化のためのものを含む検出のためのいかなる従来の方法を用いても検出され得、用いた特定の検出可能なシステムによって決まるであろう。例えば、蛍光タンパク質を発現するように遺伝的に改変されたバキュロウイルスは、蛍光デジタル画像顕微鏡を用いて検出され得る。他の方法には、コンピュータ断層撮影法(CT)、陽電子放射断層法(PET)のような全身スキャン、核磁気共鳴画像法(MRI)、および超音波検査法が挙げられる。当業者は、特定の検出可能なマーカーを検出するための適切な方法を決定することができるであろう。
【0061】
バキュロウイルスは、バキュロウイルスが神経経路に沿って輸送され、必要であれば、検出可能な産物の発現が可能となるように、対象にウイルスを投与した後適切な時間間隔で検出または視覚化され得る。例えば、可視化は、対象への蛍光タンパク質を発現するように遺伝子的に改変したバキュロウイルスの投与後2から20日の間のどこかで起り得る。
【実施例】
【0062】
(実施例)
我々は、バキュロウイルスベクターが軸索内を輸送され得るかどうか、つまり注入部位から遠隔の領域での遺伝子発現を媒介しているかどうかを調べた。皮質線条体系経路および黒質線条体経路での検討に続く線条体内注入ならびに視覚経路における硝子体注入を、それぞれ逆行性および順行性軸索輸送を研究するために用いた。ニューロン−特異的CMV E/PDGFプロモーターに適応する組換えバキュロウイルスベクターを、神経細胞体における遺伝子発現を容易にするために用いた。
【0063】
材料と方法
組換えウイルスベクターの産生:組換えバキュロウイルスを、Bac-To-BacTM Baculovirus Expression system(Gibco BRL, Life Technologies, USA)のマニュアルに従って構築した。CMV E/PDGF、CMV、またはPDGFプロモーター下にルシフェラーゼcDNAを、トランスファープラスミドpFastBac1TMに挿入した。各プロモーターをNotlとXbalの間に挿入し、ルシフェラーゼcDNAをXholとHindIIIの間でpFASTBac1に挿入した。組換えバキュロウイルスベクターを、標準的な方法(O'Reilly et al., 1992)に従ってSf9昆虫細胞内で増殖した。昆虫細胞培養培地から出芽したウイルスを、0.2 μm孔径フィルターを通して濾過し、25,000 gで60分間の超遠心分離により濃縮した。ウイルスペレットをリン酸緩衝食塩水(PBS)に再懸濁し、感染力価をSf9細胞上でのプラーク測定法により測定した。
【0064】
バキュロウイルスのCy3標識:精製ウイルスを、カルボシアニン色素Cy3(Amersham)で標識した。標識されるバキュロウイルスストックを、炭酸ナトリウム重炭酸ナトリウム緩衝液、pH 9.3で2×1010 粒子/mlの濃度に調整した。Cy3試薬を、1 mlの0.1 M炭酸ナトリウム、pH 9.3で前もって再構成した(1 mgのタンパク質を最終モル色素/タンパク質比が4から12の間で標識するように)。100 μlのウイルス調合液を、200 μlのCy3再構成物と混合するのに用いた。室温で30分間後、28,000 gで30分間遠心分離することにより標識ウイルスを精製した。ウイルスペレットを、未反応のCy3を除去するために1×PBSで2回洗浄し、1×PBS中に再懸濁した。精製ウイルスを単回使用バイアルに等分し、使用の前迄4℃で保存した。
【0065】
動物:成体雄性Wistarラット(体重250-320 g)を、本研究に用いた。全ての動物の取り扱いおよび管理において、世界保健機関(World Heath Organization)により規定された(1985)およびシンガポール国立大学の実験動物施設(Laboratory Animal Center, National University of Singapore)で採択された動物実験に関する国際原則に従った。
【0066】
インビボ注入法:線条体内注入のために、ラットをペントバルビタールナトリウム(60mg/kg体重)の腹腔内注入により麻酔し、0にセットしたノーズバーを伴う定位固定器具に置いた(線条体注入のため)。ウイルス粒子を、3注入点で[座標(十字縫合および硬膜から):前部 (A)、+1.5 mm、側部 (L)、+2.0 mm、腹側部 (V)、-5.0 mm;A、+0.5 mm、L、+3 mm、V、-5.0mmおよびA、-0.3 mm、L、+3 mm、V、-5.0mm]または1点で[A、+0.5 mm、L、+3 mm、V、- 5.0 mm]線条体内に別々および両側性に注入した。各注入に対して、注入値は、5×106pfuまたは1×107 ウイルス粒子を含む5 μlまたは10 μlであった。注入速度は0.5 μl/分であり、針を、各注入の終わりにゆっくりと引き抜く前に5分間そのままにしておいた。硝子体内注入では、動物を前述と同じ方法で麻酔した。No.30の穴径を有する針を伴うシリンジを強膜を経て鋸状縁(ora seratta)の後方の硝子体に穿通し、次いで10 μlの硝子体をゆっくりと吸い取った。その後、10 μlのウイルス粒子(107 pfu)を次にゆっくりと後眼房内に注入し戻した。
【0067】
ルシフェラーゼアッセイ:ルシフェラーゼ活性アッセイのために、ウイルス感染ラットを、深麻酔の後に0.1 M PBS(pH 7.4)での心臓内灌流により感染2日後に屠殺した。組織サンプルを採取し、処理まで-80℃で保存した。PBS緩衝液(50 mg組織あたり100 μl PBS)を添加した後、各サンプルを氷上で10秒間超音波処理によりホモジナイズし、次いで微量遠心機で13,000 rpmで4℃で遠心分離した。室温で10 μlの上清を、Promega製のアッセイキットを利用するルシフェラーゼ活性アッセイに用いた。測定を、シングルウェルルミノメーター(Berthold Lumat LB 9501)で10秒間行った。
【0068】
組織サンプル由来のウイルスゲノムのPCR検出:ウイルス感染ラットを、深麻酔の後に0.1 M PBS(pH 7.4)での心臓内灌流により感染2日後に屠殺した。組織サンプルを採取および乳棒で細かく刻むことによりホモジナイズし、ウイルスゲノムをDNeasyTM Tissue Kit(Qiagen)の標準プロトコルに従って抽出した。およそ400塩基対の配列を標的としたプライマーは、生来のウイルスゲノムと挿入したレポーター遺伝子の両方に渡って重複していた。PCRプライマーを以下に記載する:
5'プライマー:5'-AT TGC TCA ACA GTA TGG GCA-3'(配列番号:1)
3'プライマー:5'-CGA AGA AGG AGA ATA GGG TTG-3'(配列番号:2)
【0069】
増幅サイクルは、94℃7分、1サイクル;94℃、45秒、52℃30秒、72℃、30秒、36サイクルおよび72℃で7分間での1最終伸展サイクルからなった。全過程のコンタミネーションを排除するために、ウイルス感染なしの正常ラット脳を同時に操作した。
【0070】
免疫組織化学的解析:Cy3標識または非標識バキュロウイルスでの線条体内または硝子体内注入の2日後、ラットを屠殺した(n=2)。深麻酔の後、全てのラットを、まずO.1M PBS(pH7.4)溶液で、次いで0.1 M PBS(pH 7.4)中の4% パラホルムアルデヒドで灌流した。灌流後、脳または眼球を取り除き、20% スクロースを含む0.1 M PBS中に移す前に2-4時間同じ固定液中で後固定し、そして4℃で一晩維持した。各脳の凍結冠状切片を30 μmの厚さに切り、O.1M PBS中で保存した。Flee-floating切片を、0.2% Triton X-100を含むpH 7.4の0.1M PBSで20分洗浄し、次いでPBS中の5%正常ヤギ血清で1時間ブロックした。各眼球の凍結矢状切片を30 μmの厚さに切り、ゼラチンコートスライド上にマウントした。
【0071】
切片を次いで、一次抗体ポリクローナル抗ルシフェラーゼ(Promega;1:150希釈)およびニューロン−特異的核タンパク質(NeuN)に対するモノクローナル(Chemicon International, USA;1:500希釈)と一晩インキュベートした。切片を0.1 M PBSで洗浄し、さらにTritcにより複合化した抗ウサギIgG(Sigma-Aldrich, Inc., USA;1:100希釈)およびFitcにより複合化した抗マウスIgG(Sigma-Aldrich;1:100希釈)と1時間インキュベートした。インキュベート後、切片をPBSで3回洗浄した。次にそれらをゼラチンコートスライド上に採取し、DAKO蛍光封入剤でマウントし、カバーガラスで覆った。コントロール切片を、一次抗体なしでインキュベートした。
【0072】
Cy3標識ウイルスを、インビボでのウイルス内部移行を現すために用いた。この群のために、切片をニューロン−特異的核タンパク質(NeuN)に対するモノクローナル(Chemicon International, USA;1:500希釈)またはグリア線維性酸性タンパク質に対するモノクローナル(GFAP, Chemicon)と一晩のみインキュベートした。切片を0.1 M PBSで洗浄し、さらにFitcにより複合化した抗マウスIgG(Sigma-Aldrich;1:100希釈)と1時間インキュベートした。次いで切片を上述と同様に処理した。
【0073】
共焦点走査顕微鏡での二重標識の可視化:切片を、Carl Zeiss LSM410 共焦点レーザー顕微鏡で検証した。各切片を、最初にFitcフルオレセインの検出のために488 nmレーザー線および発光フィルターBP 510-525で; Tritcフルオレセインの検出のために、543 nmレーザー線、および発光フィルターLP 570でスキャンした。
【0074】
結果
線条体内注入:初めに、考えうるベクターの逆行性軸索輸送を検証するためにCy3標識バキュロウイルスベクターを用いた。Cy3標識ベクターを、1×109 プラーク形成単位(pfu)に濃縮したウイルス粒子と共に定位固定装置によりWista ラットの線条体に注入した。皮質線条体系経路および黒質線条体経路に沿って組織切片を採取し、線条体および大脳皮質におけるニューロンを現すために神経核タンパク質(NeuN、神経特異的マーカー)に対する抗体または黒質におけるドーパミン作動性ニューロンを現すためにチロシン水酸化酵素(TH、ドーパミン作動性ニューロン特異的マーカー)に対する抗体を用いて免疫染色した。Cy3はウイルスのエンベロープタンパク質と複合化したので、組織中に露呈した蛍光(fluorescin)は、ウイルスカプシドと一緒に輸送されたウイルス粒子を示すこととなる。
【0075】
図1は、線条体、大脳皮質および黒質の共焦点像を示す。線条体において、Cy3シグナルがNeuN-ポジティブまたはネガティブ細胞の両方で検出されたが、それは神経および非神経細胞の両方へのウイルス粒子の移行を示している。大脳皮質および黒質において、Cy3シグナルは、NeuNあるいはTHシグナルのいずれかと厳密に共局在化しており、それはウイルス粒子が、線条体に注入された後、軸索終末に移行しそして大脳皮質および黒質に位置している投射ニューロンの細胞体へと軸索原形質内を移動するということを示唆している。これは、注入した線条体から離れた大脳皮質および黒質においてバキュロウイルスゲノムを検出したPCR分析により支持された(図2)。
【0076】
投射ニューロンでの遺伝子転移の可能性を検証するために、ニューロン−特異的CMV E/PDGFプロモーターウイルスCMVプロモーターにより御せられるルシフェラーゼレポーター遺伝子の発現を検証した。ルシフェラーゼ活性を、5×106pfuの組換えバキュロウイルスの注入2日後に測定した。ルシフェラーゼ活性は、注入した線条体においてのみならず、遠位の黒質および大脳皮質領域においても検出可能であった(図3)。3部分からの全ルシフェラーゼ活性の90%以上が大脳皮質において検出され、約1%が黒質であった。
【0077】
ルシフェラーゼ発現を伴う細胞のタイプを測定するため、さらなる実験を、免疫組織学的染色を用いて行った。線条体において、ルシフェラーゼシグナルを、NeuNポジティブおよびネガティブ細胞の両方で検出した(図4)。図5に示すように、ルシフェラーゼレポーター遺伝子の発現は、大脳皮質のNeuN-ポジティブニューロンかそれとも黒質のTH-ポジティブニューロンのいずれかに厳密に共局在化していた。大脳皮質において、ルシフェラーゼシグナルは、深部層に位置し、線条体の被殻にその長い軸索を投射することが知られている細胞群である大型錐体ニューロンで主に検出された(図5)。大脳皮質の表層において、顆粒介在ニューロン形態の形質導入細胞はほとんどなかった(図5)。
【0078】
黒質におけるルシフェラーゼ発現は、その絶対値はなお極めて有意であったが、大脳皮質におけるものと比べて相対的に低かった。これらの2つの脳領域におけるニューロン量の差異を考慮すると、導入遺伝子発現レベルにおける差異は予想外ではない。
【0079】
硝子体内注入:考えうるバキュロウイルスの順行性軸索輸送を調べるために、Cy3標識ベクターを、網膜神経節細胞(retina ganglio cells)(RGCs)を形質導入するためにラット硝子体に注入した。これらのニューロンは、外側膝状体(LGB)および上丘(SC)に投射しておりそこに位置している介在ニューロンとシナプスを形成している長い軸索を有している。LGBから、介在ニューロンの軸索は、脳の深部白質を経て扇形に広がり視放線を形成しており、それは最後に脳の後部の一次視覚皮質内で終結するであろう。
【0080】
109 pfuの標識バキュロウイルスベクターの硝子体内注入の後、ウイルス粒子は、視覚系の異なる部分、網膜、視神経、LGB、SCから一次視覚皮質まで、共焦点顕微鏡下で観察可能であった。網膜において、ウイルス粒子をNeuN-ポジティブおよびネガティブ細胞の両方で検出した(図6および図7)。標識粒子は、視神経でたやすく検出され、神経の矢状切片に沿って分布しており、それはRGCsの軸索に沿ったウイルスの順行性移動を示している。Cy3シグナルは、LGBおよびSCのNeuN-ポジティブニューロン内に厳密に位置しており、シナプス後ニューロンへのウイルス粒子の経シナプス輸送の可能性を示している。シナプス間隙を越えてのウイルスベクターの輸送の仮説は、一次視覚皮質の三次ニューロンにおけるCy3シグナルの検出により強く支持された。視覚系の異なる部位から採取したサンプルにおけるウイルスゲノムのPCR分析は、バキュロウイルスベクターの順行性輸送および経シナプス輸送に対する別の証拠を提供した(図8)。
【0081】
投射された、シナプス後ニューロンにおける遺伝子転移のためにバキュロウイルスを用いる可能性を、次いでニューロン−特異的CMV E/PDGFプロモーターの制御下のルシフェラーゼレポーター遺伝子ベクターを用いて研究した。1×107pfuの組換えバキュロウイルスの硝子体内注入の後、ルシフェラーゼ活性を視覚回路の全ての部分で検出し、最も高い導入遺伝子発現は網膜であり、LGNおよび一次視覚皮質が続いた(図9)。SCは最低のルシフェラーゼ発現を示し、これはラットにおいてRGCsからのごく少しの量の軸索がこの領域に投射しているという事実と一致している(http://thalamus.wustl.edu/course/およびhttp://psych.athabascau.ca/html/Psych402/Biotutorials/)。免疫組織学的染色により明らかになったように、ルシフェラーゼ発現は、視覚系のどの部分を検証したかを問わずニューロンにのみ限局していた(図10)。LGBにおいて形質導入したニューロンの大半は、大型ニューロン細胞、大型神経節細胞からの入力を受けるLGBの大型M細胞のようであった。
【0082】
げっ歯類において、網膜からのたいていの投射は対側性に視床へ、上丘(SC)へおよび視床下部のいくつかの構造へと伸びている。視床内において、背側外側膝状核(dLGN)を含むいくつかの特異的視床核は、一次網膜受容(retinorecipient)領域である。dLGNから、神経投射は一次および二次視覚皮質(領域17および18)に中継されている。ニューロンはさらに視覚皮質から、側頭、前頭、および腹外側眼窩皮質ならびに基底核などの多くの他の皮質および皮質下領域に投射している。これらの網膜と視覚皮質との間の連絡は、したがって経ニューロン性輸送を解析するのに有用である。ここで、我々は、Cy3標識を通じて明らかになったように、ウイルスは網膜のニューロンとグリアの両方に入ったが、ニューロン−特異的プロモーターを用いて、網膜における導入遺伝子の発現は組換えバキュロウイルスベクターの硝子体内注入後神経節細胞に限局されることを見出した。本研究は、さらに、バキュロウイルスの眼内接種が、視覚に関連する構造に沿ってのニューロンの逐次的な感染を引き起こすことを示し、これはいくつかのシナプスを通過するためのウイルスの能力の証拠を提供する。
【0083】
当業者に理解され得るように、本明細書中に記載された例示的な実施態様に対する多数の改変が可能である。むしろ、本発明は、特許請求の範囲により規定された本発明の範囲内の全てのこのような改変を包含することを意図する。
【0084】
本明細書で言及した全ての文書は、言及することにより完全に援用される。
【0085】
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【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、線条体内注入後のラット脳におけるCy3標識バキュロウイルスベクターの取り込みおよび輸送を示す、線条体、黒質および大脳皮質の共焦点像である。スケールバーは、線条体および黒質の像については50μmならびに大脳皮質については100μmを表す;
【図2】図2は、線条体内注入後のバキュロウイルスDNAのPCR分析の像である。レーン1、100bpラダー;レーン2およびレーン4、ネガティブコントロールとして無注入および1×PBSの擬似注入;レーン3、ポジティブコントロールとして精製ウイルス;レーン5、6および7、それぞれ大脳皮質、黒質および線条体から採取した組織サンプル;
【図3】図3は、CMVプロモーターのみまたはCMVエンハンサー(enchancer)/PDGF(CMV E/PDGF)プロモーターを有するバキュロウイルスベクターの線条体内注入後のルシフェラーゼレポーター遺伝子活性の定量的測定の結果を図解する;
【図4】図4は、CMV E/PDGFを有するバキュロウイルスベクターの注入後の線条体におけるルシフェラーゼ発現の共焦点像を示す。サンプルは、ニューロンを現すためにニューロン−特異的核タンパク質(NeuN)に対しておよびルシフェラーゼポジティブ細胞を現すためにルシフェラーゼ(Luc)に対して二重免疫染色した;
【図5】図5は、CMV E/PDGFを有するバキュロウイルスベクターの線条体内注入後の末端領域におけるルシフェラーゼ発現の共焦点像を表す。A−C:SNにおける形質導入細胞を現すためのルシフェラーゼに対する、およびドーパミン作動性ニューロンを現すためのチロシン水酸化酵素(TH)に対する二重免疫染色;D−L:大脳皮質における形質導入ニューロンを現すための、ルシフェラーゼタンパク質に対する、およびニューロン−特異的核タンパク質(NeuN)に対する二重免疫染色;D−F、大脳皮質の低倍率像;G−I、大脳皮質における形質導入錐体ニューロンを現す高倍率像;J−L、領域における非形質導入顆粒細胞を現す高倍率。スケールバーは、A−Cについては80μm、D−Fについては40μmおよびG−Lについては20μmを表す;
【図6】図6および図7は、硝子体内注入後のCy3標識バキュロウイルスベクターの取り込みおよび輸送の共焦点像を表す。GCL、神経節細胞層;INL、内顆粒層。
【図7】図6および図7は、硝子体内注入後のCy3標識バキュロウイルスベクターの取り込みおよび輸送の共焦点像を表す。GCL、神経節細胞層;INL、内顆粒層。
【図8】図8は、硝子体内注入後のバキュロウイルスDNAのPCR分析の像である。レーン1、100bpラダー;レーン2およびレーン4、ネガティブコントロールとして無注入および1×PBSの偽注入;レーン3、ポジティブコントロールとして精製ウイルス;レーン5、6、7、8、および9、それぞれ網膜、視神経、外側膝状核、上丘、および一次視覚皮質から採取した組織サンプル;
【図9】図9は、硝子体内注入後のルシフェラーゼレポーター遺伝子活性の定量的測定の結果を図解する;
【図10】図10は、硝子体内注入後のニューロンにおけるルシフェラーゼ発現を示す共焦点像を表す。二重免疫染色は、形質導入細胞を現すためにルシフェラーゼに対する、およびニューロンを現すためにニューロン−特異的核タンパク質(NeuN)に対する抗体を用いて行った。スケールバーは、A−Fについては40μm、G−Iについては80μmを表す;I:網膜 ;II:外側膝状体;III:上丘(Superior culliculus);IV:一次視覚皮質。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の神経細胞にバキュロウイルスベクターを送達する方法であって、標的神経細胞を同定し、標的神経細胞から離れた中枢神経系の部位を同定しおよびベクターをそこでベクターが軸索輸送により標的神経細胞に送達される該部位に投与することを含む方法。
【請求項2】
ベクターがプロモーターに機能可能に連結されたコード配列を含む、請求項1の方法。
【請求項3】
プロモーターがウイルスプロモーターである、請求項2の方法。
【請求項4】
プロモーターがCMVプロモーターである、請求項3の方法。
【請求項5】
プロモーターが神経細胞特異的プロモーターである、請求項2の方法。
【請求項6】
神経細胞特異的プロモーターがエンハンサーに機能可能に連結されている、請求項5の方法。
【請求項7】
エンハンサーがプロモーターの神経細胞特異的転写活性を増加する異種性エンハンサーである、請求項6の方法。
【請求項8】
神経細胞特異的プロモーターがPDGFβプロモーターであり、エンハンサーがCMV Eエンハンサーである、請求項7の方法。
【請求項9】
ベクターが注入により投与される、請求項8の方法。
【請求項10】
約10〜約10pfuのバキュロウイルスが投与される、請求項9の方法。
【請求項11】
軸索輸送が順行性輸送、逆行性輸送または経シナプス輸送によるものである、請求項10の方法。
【請求項12】
対象における神経疾患を治療するための方法であって、疾患により影響を受けた標的神経細胞を同定し、標的神経細胞から離れた中枢神経系の部位を同定しおよびプロモーターに機能可能に連結された治療遺伝子を含むバキュロウイルスベクターをそこでバキュロウイルスベクターが軸索輸送により神経細胞に送達される該部位に投与することを含む方法。
【請求項13】
プロモーターがウイルスプロモーターである、請求項12の方法。
【請求項14】
プロモーターがCMVプロモーターである、請求項13の方法。
【請求項15】
プロモーターが神経細胞特異的プロモーターである、請求項12の方法。
【請求項16】
神経細胞特異的プロモーターがエンハンサーに機能可能に連結されている、請求項15の方法。
【請求項17】
神経特異的プロモーターがPDGFβプロモーターであり、エンハンサーがCMV Eエンハンサーである、請求項16の方法。
【請求項18】
ベクターが注入により投与される、請求項17の方法。
【請求項19】
バキュロウイルスが定位固定注入により投与される、請求項18の方法。
【請求項20】
約10〜約10pfuのバキュロウイルスが投与される、請求項19の方法。
【請求項21】
バキュロウイルスが順行性輸送、逆行性輸送または経シナプス輸送により輸送される、請求項20の方法。
【請求項22】
神経疾患が脳卒中、虚血、癲癇、頭部および脊髄損傷、パーキンソン病、ハンティングトン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症または神経遺伝疾患である、請求項21の方法。
【請求項23】
神経疾患がパーキンソン病である、請求項22の方法。
【請求項24】
神経細胞が黒質(substania nigra)のドーパミン作動性ニューロンである、請求項23の方法。
【請求項25】
神経疾患がハンティングトン病(Hunginton's disease)である、請求項22の方法。
【請求項26】
神経細胞が皮質線条体淡蒼球系ニューロンである、請求項25の方法。
【請求項27】
神経経路を追跡するための方法であって、検出用のバキュロウイルスを対象の中枢神経系の部位に投与しおよびウイルスの輸送経路を検出することを含む方法。
【請求項28】
ウイルスの表面が検出可能なマーカーで標識されている、請求項27の方法。
【請求項29】
検出可能なマーカーがCy3である、請求項28の方法。
【請求項30】
バキュロウイルスがプロモーターに機能可能に連結された遺伝子を含み、該遺伝子が検出され得るタンパク質をコードしている、請求項29の方法。
【請求項31】
プロモーターがウイルスプロモーターである、請求項30の方法。
【請求項32】
ウイルスプロモーターがCMVプロモーターである、請求項31の方法。
【請求項33】
プロモーターが神経細胞特異的プロモーターである、請求項30の方法。
【請求項34】
神経細胞特異的プロモーターがエンハンサーに機能可能に連結されている、請求項33の方法。
【請求項35】
神経特異的プロモーターがPDGFβプロモーターであり、エンハンサーがCMV Eエンハンサーである、請求項34の方法。
【請求項36】
タンパク質が蛍光タンパク質である、請求項35の方法。
【請求項37】
バキュロウイルスが注入により投与される、請求項29の方法。
【請求項38】
バキュロウイルスが直接注入、定位固定注入または硝子体内注入により投与される、請求項37の方法。
【請求項39】
約10〜約10pfuのバキュロウイルスが投与される、請求項38の方法。
【請求項40】
バキュロウイルスが順行性輸送、逆行性輸送または経シナプス輸送により輸送される、請求項40の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−532639(P2007−532639A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−508306(P2007−508306)
【出願日】平成16年4月14日(2004.4.14)
【国際出願番号】PCT/SG2004/000089
【国際公開番号】WO2005/100577
【国際公開日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(506205103)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (26)
【氏名又は名称原語表記】AGENCY FOR SCIENCE,TECHNOLOGY AND RESEARCH
【Fターム(参考)】