説明

移乗装置及び移乗方法

【課題】移乗時に被介護者が受けるストレスを低減すること。
【解決手段】移乗装置100は、被介護者を支えた状態で被介護者を変位させる可動部が設けられた本体部と、本体部に設けられると共に、本体部側から被介護者側へ引き寄せ可能な着座部21と、を備える。被介護者は、着座部21に着座し、着座姿勢をとることができる。これによって、移乗装置への搭乗中に被介護者が身体的及び精神的なストレスを受けることが抑制される。着座部21は、本体部から離間する方向に沿って伸縮可能なリンク機構(リンク22、リンク23)を介して本体部に連結している。リンク機構は、任意の伸縮状態のときに変位不能に位置決めされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移乗装置及び移乗方法に関する。
【背景技術】
【0002】
他のヒトの介護を必要とする被介護者(例えば、高齢者、病人、障害者等)の中には、寝台と車椅子間を自力で移乗し得ない者がいる。このような者は、介護者の手助けにより、寝台と車椅子間を移乗する。被介護者を移乗させる時、被介護者を持ち上げる必要が生じる場合がある。被介護者を持ち上げることは介護者にとって極めて負荷が大きい。被介護者の介護負担を低減するために従来から移乗装置が開発されている。
【0003】
特許文献1には、台車に背負い部材を設け、背負い部材とリフトベルトとで被介護者を背負い込み、この状態で台車を移動させて被介護者を移動させる移乗装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−8287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
移乗装置は、互いに近接する位置にある寝台と車椅子間の移乗に留まらず、互いに離れた位置にある寝台とトイレの便座間の移乗も行う場合がある。特許文献1の場合、被介護者は、移乗装置が現在地から目的地まで移動する間、継続的に無理な姿勢をとる必要があり、身体的な苦痛に加えて精神的な苦痛も伴うおそれがある。身体の特定部位を圧迫することは血管を圧迫し血流を止めるおそれがある。このような場合、移乗装置に対して被介護者が好感を覚えることは難しい。
【0006】
上述の説明から、移乗時に被介護者が受けるストレスを低減することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る移乗装置は、被介護者を支えた状態で前記被介護者を変位させる可動部が設けられた本体部と、前記本体部に設けられると共に、前記本体部から前記被介護者側へ引き寄せ可能な着座部と、を備える。
【0008】
被介護者は、着座部に着座し、着座姿勢をとることができる。これによって、移乗装置への搭乗中に被介護者が身体的及び精神的なストレスを受けることが抑制される。
【0009】
前記着座部は、前記本体部から離間する方向に沿って伸縮可能なリンク機構を介して前記本体部に連結している、と良い。
【0010】
前記リンク機構は、任意の伸縮状態のときに変位不能に位置決めされる、と良い。
【0011】
前記リンク機構は、前記本体部に一端が軸支された第1リンクと、前記第1リンクの他端に回動可能に係合し、前記着座部が連結した第2リンクと、を備える、と良い。
【0012】
前記第1リンクが回動する平面と前記第2リンクが回動する平面とは互いに交差する関係にある、と良い。
【0013】
前記可動部は、前記被介護者を支持する支持部と、前記本体部に対して前記支持部を変位させるアーム部と、を備える、と良い。
【0014】
前記支持部は、前記被介護者の腕によって抱え込まれる部分を有する、と良い。前記支持部は、前記被介護者の上肢が置かれる部分を有する、と良い。前記支持部は、前記被介護者の脇を支持する部分を有する、と良い。
【0015】
前記支持部は、前記被介護者が着座姿勢のとき、テーブルとして用いることができる、と良い。
【0016】
前記アーム部は、前記本体部に一端が軸支された第1リンクと、前記第1リンクの他端に回動可能に係合した第2リンクと、を備え、前記第1及び第2リンクは、実質的に同一の平面内で回動する、と良い。
【0017】
前記本体部は、前記アーム部の可動範囲に応じた形状を有する、と良い。
【0018】
前記本体部は、移乗装置が空間移動するための少なくとも一組の車輪を有する、と良い。
【0019】
前記本体部からみて左右に回動可能な状態で前記本体部に軸支された一組の延長フレームと、一組の前記延長フレーム夫々に当該延長フレームの先端側で回転可能に取り付けられた一組の車輪と、を更に備える、と良い。
【0020】
介護者が移乗装置を操縦するためのハンドル部が前記本体部に設けられている、と良い。
【0021】
本発明に係る移乗方法は、被介護者を支えた状態で前記被介護者を変位させる可動部が設けられた本体部を有する移乗装置を用いて前記被介護者を移乗する移乗方法であって、前記可動部によって被介護者を支えて持ち上げ、前記可動部によって前記被介護者を持ち下げて、前記本体部側から前記被介護者側へ引き寄せられた着座部に前記被介護者を着座させる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、移乗時に被介護者が受けるストレスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる移乗装置の概略的な斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態にかかる移乗装置の概略的な斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態にかかる移乗装置の概略的な斜視図である。
【図4】本発明の第1実施形態にかかる移乗装置の概略的な斜視図である。
【図5】本発明の第1実施形態にかかる移乗装置の概略的な部分拡大斜視図である。
【図6】本発明の第1実施形態にかかる移乗装置の概略的な上面図である。
【図7】本発明の第1実施形態にかかる移乗装置の概略的な側面図である。
【図8】本発明の第1実施形態にかかる移乗装置の概略的な側面図である。
【図9】本発明の第1実施形態にかかる移乗装置の概略的な側面図である。
【図10】本発明の第1実施形態にかかる椅子部の概略的な斜視図である。
【図11】本発明の第1実施形態にかかる椅子部の概略的な斜視図である。
【図12】本発明の第1実施形態にかかる椅子部の概略的な上面図である。
【図13】本発明の第1実施形態にかかる椅子部の概略的な側面図である。
【図14】本発明の第1実施形態にかかる椅子部の概略的な側面図である。
【図15】本発明の第1実施形態にかかる椅子部の概略的な斜視図である。
【図16】本発明の第1実施形態にかかる椅子部の概略的な斜視図である。
【図17】本発明の第1実施形態にかかる椅子部の概略的な斜視図である。
【図18】本発明の第1実施形態にかかる椅子部の概略的な斜視図である。
【図19】本発明の第1実施形態にかかる椅子部の概略的な斜視図である。
【図20】本発明の第1実施形態にかかる移乗過程を説明するための説明図である。
【図21】本発明の第1実施形態にかかる移乗過程を説明するための説明図である。
【図22】本発明の第1実施形態にかかる移乗過程を説明するための説明図である。
【図23】本発明の第1実施形態にかかる移乗過程を説明するための説明図である。
【図24】本発明の第1実施形態にかかる移乗過程を説明するための説明図である。
【図25】本発明の第1実施形態にかかる移乗装置の使用状態を説明するための説明図である。
【図26】本発明の第1実施形態にかかる移乗装置の使用状態を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各実施の形態は、説明の便宜上、簡略化されている。図面は簡略的なものであるから、図面の記載を根拠として本発明の技術的範囲を狭く解釈してはならない。図面は、もっぱら技術的事項の説明のためのものであり、図面に示された要素の正確な大きさ等は反映していない。同一の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略するものとする。
【0025】
[第1実施形態]
以下、図1乃至図26を参照して、本発明の第1実施形態に係る移乗装置について説明する。
【0026】
図1乃至図4に移乗装置100の概略的な斜視図を示す。図1及び図2に、移乗装置100を前方から斜視した図を示す。図3及び図4に、移乗装置100を後方から斜視した図を示す。なお、移乗装置100の前方を後方として把握し、その後方を前方として把握しても良い。
【0027】
図1乃至図4に示すように、移乗装置100は、ベースフレーム10、車輪11、延長フレーム13、車輪カバー14、補助輪15、収容部16、ハンドル部17、椅子部20、足台25、アーム部30、及びサポート部40を有する。ハンドル部17は、ハンドルフレーム17a〜17cを有する。椅子部20は、着座部21、及びリンク22、23を有する。アーム部30は、リンク31、及びリンク32を有する。サポート部40は、ベース板41、胴サポート部42、脇サポート部43、上肢台44、及び抱持部45を有する。なお、移乗装置100は、延長フレーム13として一組の延長フレーム13a、13bを有し、車輪カバー14として一組の車輪カバー14a、14bを有し、補助輪15として一組の補助輪15a、15bを有する。なお、移乗装置100の本体部は、ベースフレーム10を含んで構成される。可動部は、アーム部30及びサポート部(支持部)40を含んで構成される。リンク機構は、リンク22、リンク23を含んで構成される。
【0028】
移乗装置100は、車輪11、及び補助輪15の回転によって、接地面上を任意に移動することができる。例えば、介護者は、ハンドル部17を把持して、移乗装置100を前方又は後方に移動させる。このようにして、移乗装置100に搭乗した被介護者を移動させることができる。なお、移乗装置100を自律的に移動させても良い。例えば、外部のコントローラから無線伝送される信号に応じて、移乗装置100は、前方又は後方に移動する。
【0029】
移乗装置100は、図1及び図2に示すように、アーム部30、及びサポート部40の姿勢を制御する(図7及び図8を併せて参照のこと)。移乗装置100は、図3及び図4に示すように、被介護者を着座可能とするために移乗装置100の本体側から被介護者側へ引き出される椅子部20を有する。移乗装置100は、サポート部40により被介護者を支持して持ち上げ、持ち上げた被介護者を持ち下げて椅子部20の着座部21に着座させる。これによって、移乗時に被介護者が身体的及び精神的なストレスを受けることを低減することができる。より具体的には、被介護者は、椅子部20の着座部21に着座することにより、サポート部40に対して寄りかかる状態から開放される。被介護者は、サポート部40に寄りかかることで受ける圧迫から開放され、身体的及び精神的なストレスから開放される。また、本実施形態では、移乗装置100が空間移動する際、被介護者は、着座姿勢となり周囲の状況を視認することができる。これによって、被介護者が移乗装置100に搭乗して移動する際に受ける不安を低減することが可能になる。なお、移乗装置100を用いた被介護者の移乗方法については後で説明する。
【0030】
なお、図5に示すように、上肢台44は、平板部44a、及び起立部44bを有する。上肢台44を反転させることによって、図5に示すように、サポート部40をテーブルとして機能させることができる。これによって、被介護者は、椅子部20の着座部21に着座した状態で、平板部44aに食事トレーを置き、食事を取ることができる。被介護者は、移乗装置100に搭乗し、現在地から目的地まで移動した後、そのまま食事を取ることもできる。移乗装置としての本来の使用方法に加えて、移乗装置100を移動手段として活用することにより、移乗回数を低減し、その利便性を効果的に高めることができる。
【0031】
以下、図1乃至図9を参照して、移乗装置100の構成及び機能について詳細に説明する。なお、図6は、移乗装置100の概略上面図である。図7乃至図9は、移乗装置100の概略側面図である。
【0032】
図1乃至図4に示すように、ベースフレーム10上には、ハンドルフレーム17a、17bが立設されている。ハンドルフレーム17aとハンドルフレーム17b間には、ハンドルフレーム17cが架設されている。ベースフレーム10の下面には、回転軸となる車軸の両端に装着された一組の車輪11a、11bが回転可能な状態で取り付けられる。なお、ベースフレーム10の下面には、車輪11の回転軸を支持する支持部が設けられているものとする。
【0033】
ベースフレーム10には、延長フレーム13a、13bの基端が、y軸に沿う軸線を回転軸としてxz平面内で回動可能に取り付けられる。なお、ベースフレーム10には、延長フレーム13a、13bの回転軸を支持する支持部が設けられているものとする。延長フレーム13a、13bの先端には、回転可能な状態で補助輪15a、15bが取り付けられる。なお、延長フレーム13の先端には、補助輪15の回転軸を支持する支持部が設けられているものとする。ベースフレーム10の下面には、足台25が設けられている。足台25は、延長フレーム13a、13bの間に配置され、移乗装置100に搭乗する被介護者の足が置かれる。
【0034】
ベースフレーム10の上面には収容部16aが設けられ、ベースフレーム10の下面には収容部16bが設けられる(図7参照)。収容部16は、金属、樹脂等の成形体であり、ベースフレーム10に対して通常の固定化手段によって固定される。
【0035】
収容部16内には、電源、コンピュータ、駆動源、及び動力伝達系が収納される。電源は、アーム部30の姿勢制御に要する電力を供給する一般的な蓄電池である。コンピュータは、一般的な計算機であり、アーム部30の姿勢を制御する。駆動源は、モータ等の動力源であり、アーム部30の姿勢制御のための動力を供給する。動力伝達系は、駆動源で生じた動力をアーム部30に伝達する。動力伝達系は、例えば、機械要素(ピニオン、ラック等を含む)を含んで構成される。なお、リンク31の作動範囲に応じて、収容部16aはリンク31を挟んで分割されている。すなわち、収容部16には、リンク31に応じた空間16cが形成されている(図1参照)。
【0036】
ベースフレーム10上には、アーム部30が設けられる。ベースフレーム10上には、リンク31の回転軸を支持する支持部が設けられている。リンク31は、ベースフレーム10によって下端が軸支され、xy平面内で回動可能である。リンク31の上端には、リンク32の下端が回動可能に連結している。リンク32の下端は、リンク31の上端に軸着している。リンク32は、リンク31と同様、xy平面内で回動可能である。リンク32の上端には、ベース板41が回動可能に連結している。ベース板41の背面に設けられた延出部は、リンク32の上端に軸着している。ベース板41は、リンク31、32と同様に、xy平面内で回動可能である。
【0037】
椅子部20は、収容部16aの筐体上に固定されている。椅子部20の具体的な構成について後述する。
【0038】
以下、適宜、図1乃至図5を参照しながら、図6乃至図9を参照して説明する。図6に示すように、ベースフレーム10は、xz平面を主面とする平坦な板状部材であり、金属、強化樹脂等が成形されて製造される。ベースフレーム10は、移乗装置100のフレームを形成する。
【0039】
図6に示すように、延長フレーム13a、13bは、x軸方向に延在する長尺な柱状部材である。延長フレーム13aの基部は、y軸に平行な軸線を回転軸としてベースフレーム10に軸着されている。延長フレーム13bの基部も、延長フレーム13aの基部と同様である。延長フレーム13aの先端には、補助輪15aを保護するための車輪カバー14aが設けられている。同様に、延長フレーム13bの先端にも、補助輪15bを保護するための車輪カバー14bが設けられている。
【0040】
図6に示すように、ハンドルフレーム17cは、z軸に沿って延在する長尺な柱状部材である。ハンドルフレーム17cは、溶接、接着等の通常の固定化方法によって、ハンドルフレーム17a、17cの上端側面に固着されている。
【0041】
図7に示すように、ハンドルフレーム17aは、y軸に沿って延在する長尺な柱状部材である。なお、ハンドルフレーム17bも、ハンドルフレーム17aと同様の構成を有する。ハンドルフレーム17a、17bは、金属、強化樹脂等が成形されて製造される。
【0042】
図7に示すように、車輪11aは、z軸に沿う軸線を回転軸とし、xy平面内にて回転する。車輪11bも車輪11aと同様である。補助輪15aは、延長フレーム13aがx軸に平行なとき、z軸に沿う軸線を回転軸とし、xy平面内にて回転する。補助輪15bについても、補助輪15aと同様である。
【0043】
図7及び図8に示すように、リンク31は、軸線AX1を回転軸として、xy平面にて回動する。リンク32は、軸線AX2を回転軸として、xy平面にて回動する。リンク31、32は、中空の部材であり、金属、樹脂等の成形により製造される。リンク31、32内には、配線、機械要素(ネジ等)、駆動装置等が収納される。ベース板41は、軸線AX3を回転軸として、xy平面にて回動する。ベース板41は、中空の板状部材であり、金属、樹脂等の成形により製造される。
【0044】
サポート部40は、上述のように、ベース板41、胴サポート部42、脇サポート部43、上肢台44、及び抱持部45を有する(図1乃至図4参照)。胴サポート部42、脇サポート部43、及び抱持部45は、被介護者のストレス低減のため、被介護者に対向する部分にクッショク性を具備している。なお、胴サポート部42は、被介護者の胴に対応する部分であり、被介護者の胴部分を支持する。脇サポート部43は、被介護者の脇に対応する部分であり、被介護者の脇部分を支持する。上肢台44は、被介護者の上肢に対応する部分であり、被介護者の上肢を支持する。抱持部45は、被介護者の腕により抱え込まれる部分であり、移動時の被介護者の頭部の安定性を向上させる。なお、抱持部45は、被介護者のあごの台座としても機能する。これによって、被介護者の頭部の安定性を効果的に高めることができる。抱持部45を台座部として把握しても良い。
【0045】
図7乃至図9に示すように、ベース板41は、板状部材であり、軸線AX3を回転軸として、xy平面内で回動可能な部材である。ベース板41の前面上には、胴サポート部42が設けられている。ベース板41の上側面側には、上肢台44が設けられている。
【0046】
図7乃至図9に示すように、胴サポート部42は、胴サポート部42a、42bに分割されている。胴サポート部42aは、略平板状の部材であり、ベース板41の前面上に固定されている。胴サポート部42bは、胴サポート部42aの下面に設けられており、ベース板41側へ押し込まれた位置へ変位可能である。胴サポート部42bは、移乗時の被介護者のストレス低減のため、下方に従って次第に薄肉となる。
【0047】
図6に示すように、脇サポート部43は、一組の脇サポート部43a、43bを有する。脇サポート部43aは、胴サポート部42aの左側面に設けられている。脇サポート部43bは、胴サポート部42aの右側面に設けられている。ここでいう左、右という用語は、移乗装置100の本体側から見た場合を想定している。脇サポート部43a、43bは、被介護者の胴幅に応じて、胴サポート部42aから外側方向へ変位可能であり、任意の位置で位置決めされる。
【0048】
図7乃至図9に示すように、脇サポート部43aは、略平板状の部材であり、胴サポート部42aから離間する方向に延在する。脇サポート部43aと胴サポート部42aによって、被介護者の左脇が支持される。脇サポート部43aの先端下部には、安全性の向上のための曲面が形成されている。脇サポート部43bは、脇サポート部43aと同様の構成を有する。ただし、脇サポート部43bと胴サポート部42aによって、被介護者の右脇が支持される。
【0049】
図7乃至図9に示すように、上肢台44は、平板部44a、及び起立部44bを有する平板部材である。上肢台44は、ベース板41に対して着脱可能な状態でベース板41に対して固定されている。例えば、上肢台44は、一般的なロック機構によって、ベース板41に対して着脱可能に固定されている。図8に示す状態を図9に示す状態とすることによって、移乗装置100にテーブルを設けることができる。この場合、例えば、ベッドから移乗装置100に移乗した被介護者は、食事を取るために、移乗装置100から車椅子に更に移乗する必要はなくなる。移乗装置100による被介護者の移乗回数を低減することによって、単に移乗装置として用いること以上の利便性を移乗装置100に具備させることができる。また、被介護者は、椅子部20に着座可能であるため、通常と同様の状態でテーブルを使用することができ、例えば、通常と同様にして食事をとることができる。
【0050】
なお、図8に示す状態から図9に示す状態にする具体的な方法は任意である。たとえば、抱持部45を胴サポート部42aから取り外し、上肢台44をベース板41から取り外し、上肢台44を反転させて、上肢台44をベース板41又は胴サポート部42aに固定しても良い。
【0051】
図7及び図8に示すように、抱持部45は、胴サポート部42aに固定されている。抱持部45は、表面にクッショク性を有する中空部材である。抱持部45は、被介護者の腕に囲まれる部分であると共に、被介護者の頭部のあごが載置される。抱持部45は、被介護者の頭部の安定性を高めると共に、サポート部40から被介護者がずり落ちることを抑制する。抱持部45は、相対的に変位可能な状態で胴サポート部42aに固定されている。
【0052】
図7及び図8に例示的に示すように、移乗装置100は、介護者又は被介護者からの指示に応じて、アーム部30及びサポート部40を駆動して、これらの姿勢(位置)を制御することができる。移乗装置100は、一般的なコンピュータを搭載し、これに対する操縦者の指令の入力に応じて動作する。
【0053】
アーム部30及びサポート部40の姿勢制御の具体的な方法は任意である。例えば、リンク31、リンク32、ベース板41の位置は、移乗装置100が内蔵するコンピュータによって個別に制御される。例えば、次の方法によって、アーム部30及びサポート部40の姿勢を制御しても良い。収容部16a内に、ベースフレーム10に対してリンク31を変位させる駆動力を生じさせる駆動源を設ける。リンク31とリンク32間のジョイント部に、リンク31に対してリンク32を変位させる駆動力を生じさせる駆動源を設ける。リンク32とベース板41間のジョイント部に、リンク32に対してベース板41を変位させる駆動力を生じさせる駆動源を設ける。コンピュータは、各駆動源を制御して、アーム部30、サポート部40の姿勢を制御する。
【0054】
以下、図10乃至図19を参照して、椅子部20について詳述する。図10は、着座部21が引き出された状態の斜視図である。図11は、着座部21が折りたたまれた状態の斜視図である。図12は、着座部21が引き出された状態の上面図である。図13は、着座部21が引き出された状態の側面図である。図14は、着座部21が折りたたまれた状態の側面図である。図15乃至図19は、着座部21の折りたたみ過程を説明するための斜視図である。
【0055】
図10に示すように、椅子部20は、着座部21、リンク22、及びリンク23に加えて、固定板54、軸保持部55、ボルト56、ダンパ57、及びプランジャ58を有する。
【0056】
固定板54は、金属又は強化樹脂等からなる平板部材であり、収容部16aの上面に対して固定される。固定板54は、ボルト、ナットを用いて、移乗装置100に対して取り付けられる。
【0057】
軸保持部55は、軸線AX11を回転軸としてリンク22を回動可能に支持する。軸保持部55には、リンク22を位置決めするためのプランジャ58aが設けられている。プランジャ58aの操作によって、軸保持部55に対してリンク22が位置固定される。軸保持部55には、ダンパ57が設けられている。ダンパ57による復帰作用によって、固定状態から解除されたリンク22は、自動的に初期位置に戻ることができる。
【0058】
リンク22とリンク23とは、軸線AX12を回転軸として回動可能に連結している。なお、ボルト56aとナット(不図示)間の嵌め合いによって、リンク22とリンク23間は互いに連結している。リンク22とリンク23間のジョイント部には、プランジャ58bが設けられている。プランジャ58bの操作によって、リンク22に対してリンク23が位置固定される。
【0059】
リンク23と着座部21とは、軸線AX13を回転軸として回動可能に連結している。なお、ボルト56bとナット(不図示)間の嵌め合いによって、リンク23と着座部21間は互いに連結している。図11に示すように、リンク23と着座部21間のジョイント部には、プランジャ58cが設けられている。プランジャ58cの操作によって、リンク22に対してリンク23が位置固定される。
【0060】
椅子部20は、図10に示す状態から図11に示す状態に折りたたまれる。椅子部20は、図11に示す状態から図10に示すように展開される。椅子部20は、図12に示すように展開された状態で、プランジャ58の操作によって位置固定される。このとき、被介護者が着座部21に確実に着座できるように、着座部21の長手方向は、リンク22、23の延在方向に交差するようにセットされる。
【0061】
椅子部20は、図13に示す展開状態から図14に示す折りたたまれた状態となる。図14から図13へ椅子部20を変形することによって、移乗装置100の本体側から被介護者側へ着座部21を必要に応じて引き寄せることができる。本実施形態では、この構成を採用することによって、サポート部40に寄りかかって被介護者を持ち上げた後、椅子部20を折りたたまれた状態から展開し、被介護者が着座部21に着座できるようにする。これによって、移乗装置100に搭乗した被介護者がストレスを感じることを抑制することができる。また、被介護者が着座姿勢をとることによって、移動時に周囲の状況を視認させ、被介護者に安心感を与えることができる。
【0062】
図15乃至図19を参照して、椅子部20の折りたたみ方法について説明する。なお、椅子部20の展開方法は、折りたたみ方法の説明から自明であり、重複する説明は省略する。
【0063】
図15に示すように、初期状態のとき、椅子部20は展開状態にある。このとき、プランジャ26b、26cを操作して、着座部21及びリンク23が、位置的に固定された状態を解除しておく。
【0064】
次に、着座部21を移乗装置100の本体側へ移動させる。これによって、図16乃至図18に示すように、着座部21及びリンク23は回転移動し、リンク22上に積層された状態となる。なお、着座部21の回転軸は、図10に示した軸線AX13及び軸線AX12である。リンク23の回転軸は、図10に示した軸線AX12である。
【0065】
次に、プランジャ26aを操作して、リンク22の位置固定を解除する。ダンパによる復帰力に応じて、リンク22は、図18から図19に示すように初期位置に移動する。なお、図19に示すように、固定板54に対してリンク22が直立した状態が初期状態としてセットされている。このような過程を経て、椅子部20は、展開状態から折りたたまれた状態に変形する。
【0066】
最後に、図20乃至図24を参照して、ベッド200に寝ている被介護者を移乗装置100に搭乗させる過程について説明する。なお、移乗装置100から移動先又はベッド200に移乗する過程については、次の説明から自明であり、重複する説明は省略する。なお、説明の便宜上、介護者及び被介護者の図示は省略されている。
【0067】
まず、図20から図21に示すように、ベッド200へ移乗装置100を近づける。
【0068】
次に、図21に示す位置にある移乗装置100の足台25に被介護者の足を載せさせる。そして、被介護者をサポート部40に抱きつかせる。なお、被介護者は、ベッド200に着座しているものとする。
【0069】
次に、図22に示すように、アーム部30及びサポート部40を変位させて、サポート部40により支持された状態で被介護者を持ち上げる。
【0070】
次に、図22から図23に示すように、ベッド200から移乗装置100を遠ざけて、椅子部20の展開空間を確保する。
【0071】
次に、図23に示すように、椅子部20を折りたたまれた状態から展開状態へ変形させる。このようにして、着座部21は、移乗装置100の本体側から被介護者側へ引き寄せられる。なお、椅子部20の展開方法は、上述の説明から自明である。
【0072】
次に、図24に示すように、アーム部30及びサポート部40を変位させて、被介護者を着座部21に着座させる。その後、必要に応じて、被介護者が最も安定していると感じる状態まで、アーム部30及びサポート部40を変位させる。また、必要に応じて、図8に示す状態から図9に示す状態に移乗装置100を変形する。
【0073】
なお、移乗装置100は、ベッドの以外の場所を移乗元又は移乗先とすることができる。例えば、図25に示すように、移乗装置100を用いて、被介護者を車椅子201に移乗させることができる。図26に示すように、移乗装置100を用いて、被介護者を便座202に移乗させることができる。このように、移乗装置100による移乗元又は移乗先は任意である。本実施形態では、xz平面で回動可能な延長フレーム13を採用する。これによって、移乗元又は移乗先の横幅に応じて一組の延長フレーム13の間隔を調整し、移乗元又は移乗先に十分に移乗装置100を近接させて、被介護者の移乗をより安全に行うことができる。
【0074】
上述の説明から明らかなように、移乗装置100は、被介護者を着座可能とするための椅子部20を有する。移乗装置100は、サポート部40により被介護者を支持して持ち上げ、持ち上げた被介護者を持ち下げて椅子部20の着座部21に着座させる。
【0075】
被介護者は、椅子部20の着座部21に着座することにより、サポート部40に対して寄りかかる状態から開放される。被介護者は、サポート部40に寄りかかることで受ける圧迫から開放され、身体的及び精神的なストレスから開放される。また、移乗装置100が空間を移動する際、被介護者は、着座姿勢のまま周囲の状況を視認することができる。これによって、被介護者が移乗装置100に搭乗して移動する際に受ける不安を低減することが可能になる。
【0076】
本実施形態では、移乗装置100側から被介護者側へ着座部21を必要に応じて引き寄せることができる。折りたたみ式でない椅子を移乗装置100に設ける場合、これによって被介護者がサポート部40に寄りかかる動作が阻害されるおそれがある。本実施形態では、必要に応じて展開可能な椅子部20を採用する。従って、被介護者がサポート部40に寄りかかる動作が椅子部20によって阻害されることはない。
【0077】
更に、本実施形態では、椅子部20は、移乗装置100の本体部に設けられている。従って、サポート部40に椅子を設ける場合と比較して、より安定した状態で被介護者を着座させることができる。
【0078】
更に、本実施形態では、サポート部40は、胴サポート部42、及び脇サポート部43を有する。これによって、被介護者をより確実にサポートすることができる。一組の脇サポート部43の間隔を調整することによって、被介護者間の胴幅の変動にも対応することができる。
【0079】
更に、本実施形態では、サポート部40は、上肢台44、及び抱持部45を有する。被介護者は、この構成に教示され、抱持部45を両腕で抱え込むように上肢台44に腕を置くことができる。抱持部45によってサポート部40から被介護者がずれ落ちることは効果的に抑制される。
【0080】
更に、本実施形態では、移乗装置100の安定性を向上させるため、ベースフレーム10に軸支された延長フレーム13を備える。本実施形態にかかる延長フレーム13は、回動可能である。従って、移乗装置100が移動元又は移乗先に近接することが延長フレーム13自体によって阻害されることは効果的に抑制される。移乗装置100を移乗先又は移乗元に十分に近づけた状態で、被介護者をサポート部40に寄りかからせることができる。これによって、移乗装置100の安全性を効果的に向上させることができる。
【0081】
更に、本実施形態では、サポート部40は、テーブルとして使用することができる。これによって、被介護者の移乗回数を低減し、移乗装置100の利便性を効果的に高めることができる。
【0082】
なお、本発明は上述の実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。移乗装置100の具体的な装置構成は任意である。椅子部20の具体的な構成は任意である。着座部21と移乗装置100の本体間を接続するリンク機構の具体的な構成は任意である。アーム部30とサポート部40の姿勢制御は、当業者には自明であり、それらの具体的な制御方法は任意である。移乗装置100の組み立て方法は任意である。移乗装置100の大きさは任意である。
【符号の説明】
【0083】
100 移乗装置

10 ベースフレーム
11 車輪
13 延長フレーム
14 車輪カバー
15 補助輪
16 収容部
17 ハンドル部
17a ハンドルフレーム
17b ハンドルフレーム
17c ハンドルフレーム
20 椅子部
21 着座部
22 リンク
23 リンク
25 足台
26 プランジャ
30 アーム部
31 リンク
32 リンク
40 サポート部
41 ベース板
42 胴サポート部
43 脇サポート部
44 上肢台
44a 平板部
44b 起立部
45 抱持部
54 固定板
55 軸保持部
56 ボルト
57 ダンパ
58 プランジャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被介護者を支えた状態で前記被介護者を変位させる可動部が設けられた本体部と、
前記本体部に設けられると共に、前記本体部側から前記被介護者側へ引き寄せ可能な着座部と、
を備える、移乗装置。
【請求項2】
前記着座部は、前記本体部から離間する方向に沿って伸縮可能なリンク機構を介して前記本体部に連結していることを特徴とする請求項1に記載の移乗装置。
【請求項3】
前記リンク機構は、任意の伸縮状態のときに変位不能に位置決めされることを特徴とする請求項2に記載の移乗装置。
【請求項4】
前記リンク機構は、
前記本体部に一端が軸支された第1リンクと、
前記第1リンクの他端に回動可能に係合し、前記着座部が連結した第2リンクと、
を備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の移乗装置。
【請求項5】
前記第1リンクが回動する平面と前記第2リンクが回動する平面とは互いに交差する関係にあることを特徴とする請求項4に記載の移乗装置。
【請求項6】
前記可動部は、
前記被介護者を支持する支持部と、
前記本体部に対して前記支持部を変位させるアーム部と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の移乗装置。
【請求項7】
前記支持部は、前記被介護者の腕によって抱え込まれる部分を有することを特徴とする請求項6に記載の移乗装置。
【請求項8】
前記支持部は、前記被介護者の上肢が置かれる部分を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の移乗装置。
【請求項9】
前記支持部は、前記被介護者の脇を支持する部分を有することを特徴とする請求項6乃至8のいずれか一項に記載の移乗装置。
【請求項10】
前記支持部は、前記被介護者が着座姿勢のとき、テーブルとして用いることができることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか一項に記載の移乗装置。
【請求項11】
前記アーム部は、
前記本体部に一端が軸支された第1リンクと、
前記第1リンクの他端に回動可能に係合した第2リンクと、を備え、
前記第1及び第2リンクは、実質的に同一の平面内で回動することを特徴とする請求項6乃至10のいずれか一項に記載の移乗装置。
【請求項12】
前記本体部は、前記アーム部の可動範囲に応じた形状を有することを特徴とする請求項6乃至11のいずれか一項に記載の移乗装置。
【請求項13】
前記本体部は、移乗装置が空間移動するための少なくとも一組の車輪を有することを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の移乗装置。
【請求項14】
前記本体部からみて左右に回動可能な状態で前記本体部に軸支された一組の延長フレームと、
一組の前記延長フレーム夫々に当該延長フレームの先端側で回転可能に取り付けられた一組の車輪と、
を更に備えることを特徴とする請求項13に記載の移乗装置。
【請求項15】
介護者が移乗装置を操縦するためのハンドル部が前記本体部に設けられていることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか一項に記載の移乗装置。
【請求項16】
被介護者を支えた状態で前記被介護者を変位させる可動部が設けられた本体部を有する移乗装置を用いて前記被介護者を移乗する移乗方法であって、
前記可動部によって被介護者を支えて持ち上げ、
前記可動部によって前記被介護者を持ち下げて、前記本体部側から前記被介護者側へ引き寄せられた着座部に前記被介護者を着座させる、移乗方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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