移動体異常検知システムおよび移動体
【課題】個体差の影響を低減した上で複数個体間の計測データの比較から異常を検知する移動体異常検知システムを提供する。また異常検知の際に発生する誤検知と見過しを低減し、さらに異常の程度を提示する移動体異常検知システムを提供する。
【解決手段】複数個体の回転速度を個体ごとに計測する回転速度センサと、前記音声センサの計測データを入力として各個体の異常を検知する異常検知装置において、各個体の計測データを処理して個体差を低減する入力信号処理手段と、計測データを検知対象データ、別個体データに振り分けるデータ入力切替部と、別個体データと検知対象データから各個体の異常判定を行う異常判定部とを備える。
【解決手段】複数個体の回転速度を個体ごとに計測する回転速度センサと、前記音声センサの計測データを入力として各個体の異常を検知する異常検知装置において、各個体の計測データを処理して個体差を低減する入力信号処理手段と、計測データを検知対象データ、別個体データに振り分けるデータ入力切替部と、別個体データと検知対象データから各個体の異常判定を行う異常判定部とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の状態を監視する状態監視装置を有する移動体異常検知システムに関し、特に鉄道車両の異常検知に関する移動体異常検知システムおよび移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体の異常を検知するシステムに関して、移動体の状態データを取得し、故障発生時(故障:機器が通常の状態と異なる状態)にデータを解析して異常を検出(異常:機器の故障によりシステムとして望まれない状態、機器を停止するなどして回復が必要)するシステムが広く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、鉄道車両の台車について異常がない正常時と想定される異常時の音をマイクロホンで測定し、測定した音を周波数解析により時系列の周波数成分に変換し、変換した周波数成分のデータをクラスタリング処理によって正常と異常にカテゴリ分類し、未知の入力データが前記クラスタリング処理によってどのカテゴリに分類されるか、あるいは新規のカテゴリに分類されることによって、未知の入力データの異常検知を行う鉄道車両台車異常検知システムを提供している。
【0004】
また特許文献2では、複数の鉄道車両の台車に加速度検出手段を設けて、これらの加速度検出手段が検出する加速度信号を相対比較し、いずれかの信号が他の加速度信号に対して所定値以上に大きな値となった場合に異常が発生したと判断する鉄道車両走行時の異常検知方法を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−256153号公報
【特許文献2】特開2000−6807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に挙げたシステムによれば、異常判定を行う際、事前に正常時、異常時の区別がついたデータを用いて判定するため、軽微な異常であっても過去のデータとの差異があれば検出可能である。
しかし、例えば保守点検によって潤滑油を交換することによって部品、あるいは部品間の物理的性質が変化するときや部品自体を交換したとき等、検知対象の状態が変化した場合に対する異常検知については、特に考慮されていない。
従って、このような場合、事前のデータに対して未知の入力データは異なるカテゴリを示すことになり、機器が正常であっても異常と検知する(誤検知)可能性がある。
【0007】
また、前記特許文献2に挙げた異常検知方法によれば、台車などの走行装置に異常が発生した場合、車両を安全に停止することができる効果を奏するが、複数の検知対象の個体差よりも正常異常間の差が小さいような異常発生時に対する異常検知については、特に考慮されていない。
従って、このような場合、機器が異常であっても正常と検知(見過し)する可能性がある。
【0008】
本発明は、係る課題に対して鑑みなされたものであり、その目的は、部品交換などにより検知対象の状態が変化した場合や複数の検知対象の個体差よりも正常異常間の差が小さいような場合に対しても異常有無を判断することが可能である移動体異常検知システムおよび移動体を提供することにある。
例えば、具体的には、本発明の第1の目的は、個体差の影響を低減し得た上で異常を検知する移動体異常検知システムおよび移動体を提供することにある。
【0009】
また、本発明の第2の目的は、異常検知の際に発生する前述したような誤検知と見過しを低減し、さらに異常の程度を提示することが可能な移動体異常検知システムおよび移動体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記第1の目的を達成するために、本発明の移動体異常検知システムおよび移動体は、例えば、移動体の異常検知対象とする複数個体の音声を個体ごとに計測する音声センサと、複数個体の回転速度を個体ごとに計測する回転速度センサの計測データを入力として各個体の異常を検知する異常検知装置を備え、前記異常検知装置は、各個体の計測データを処理して個体差を低減する入力信号処理手段と、計測データを検知対象データ、別個体データに振り分けるデータ入力切替部と、別個体データと検知対象データから各個体の異常判定を行う異常判定部とを備える。
【0011】
前記第2の目的を達成するために、本発明の移動体異常検知システムおよび移動体では、例えば、移動体の各個体に備える各種計測装置と各個体の計測装置からの計測データを入力として個体の異常を検知する異常検知装置を備え、前記異常検知装置は、各個体の計測装置からの計測データを処理する入力信号処理手段と、各入力信号処理手段の出力データを学習用データ、検知対象データ、別個体データの少なくともいずれか一つに振り分けるデータ入力切替部と、学習用データと検知対象データから各個体の異常判定を行う第1の異常判定部と、別個体データと検知対象データから各個体の異常判定を行う第2の異常判定部と、前記第1の異常判定部と第2の異常判定部の異常判定結果から異常程度を判定する異常程度判定部とを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、各個体の異常の誤検知、見過しを低減することができ、また異常の程度が判定可能となる。これにより、移動体のオペレータは異常の程度に応じて移動体の運転継続をするか否かの判断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の移動体異常検知システムのシステム構成図である。
【図2】図2は、本発明の異常検知装置の機能ブロック図である。
【図3】図3は、異常検知装置内で蓄積、検知対象とする状態データ列のデータ構成図である。
【図4】図4は、異常検知装置内で蓄積、検知対象とする状態データ列のイメージ図である。
【図5】図5は、第1の異常判定部の機能ブロック図である。
【図6】図6は、第1の異常判定部の内部出力となるカテゴリベクトルデータのデータ構成図である。
【図7】図7は、第1の異常判定部の内部出力となるカテゴリベクトルデータのイメージ図である。
【図8】図8は、第1の異常判定部の外部出力となる異常検知結果のデータ構成を示す図である。
【図9】図9は、第1の異常判定部の外部出力となる異常検知結果のイメージを示す図である。
【図10】図10は、第2の異常判定部の機能ブロック図である。
【図11】図11は、個体差によるカテゴリ分布の差異が発生しない閾値を設定したときのカテゴリ出現分布のイメージを示す図である。
【図12】図12は、異常程度判定部の処理フローチャートを示す図である。
【図13】図13は、第2の異常判定部の外部出力となる異常検知結果のデータ構成例を示す図である。
【図14】図14は、本発明で扱う異常の定義を示す図である。
【図15】図15は、異常程度判定部で用いる異常程度判定論理と異常程度判定テーブルを示す図である。
【図16】図16は、本発明の移動体異常検知システムを用いた移動体の表示部の画面例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による移動体異常検知システムの実施の形態を、図面を参照して説明する。以下の実施例では、移動体として鉄道車両を用いたシステムについて述べる。
【実施例1】
【0015】
まず、本発明の移動体異常検知システムについて説明する。図1は本発明の移動体異常検知システムのシステム構成を表した図である。
【0016】
同図において、輪軸101,102,103,104は、鉄道車両100の台車(図示せず)に取付けられている。回転速度センサ(速度発電機)105は、各輪軸の回転速度を計測する速度センサである。音声センサ(マイク)106は、輪軸101、102および輪軸103、104が取付けられている台車および台車に設置された各種機器の音を測定するものである。異常検知装置107は、回転速度センサ105から得られる回転速度と、音声センサ106から得られる測定音を処理し、各輪軸および台車などの異常などを検知するものである。
【0017】
回転速度センサ105および音声センサ106は、車両100の各輪軸101,102,103,104に設置され、異常検知装置107は、各輪軸の回転速度センサ105および音声センサ106と電気的に接続し、該両センサによる各輪軸の回転速度や測定音を収集し、該収集した回転速度や測定音などから車両(台車、輪軸など)の異常有無を検知する。ここで、回転速度を各輪軸で個別に収集するのは、各輪軸には車輪半径の個体差やすべりの有無によって回転速度が異なるためである。
なお、各輪軸の前記回転速度が小さい場合、または、各輪軸の個体差やすべりの有無を考慮しなくてよいと判断される場合は、各輪軸ではなく任意の輪軸にのみ回転速度センサ105を備えてもよい。
【0018】
音声センサ106は、輪軸102、103および輪軸103、104と同期して回転する回転機器(例えば、軸受け、ギアボックス内の歯車、継ぎ手、モータ等)および輪軸を設置した台車の測定音を個別に収集する。
また、各輪軸101,102,103,104の回転速度を測定する複数の回転速度センサ105を備えることにより、音声センサ106による測定音を回転速度センサ105による回転速度でリサンプリングするなどして、各輪軸の個体差となる回転速度による測定音のピーク周波数帯のズレを低減可能となり、輪軸間で測定音に基づくデータを比較することによる異常発生の有無を検知可能となる。
【0019】
異常検知装置107は、各輪軸周辺の測定音を元に異常発生の有無を検知し、異常発生時にはその発生箇所を各軸単位で特定する。
なお、本発明では一つの鉄道車両100に対して一つの異常検知装置107を設置する構成としたが、鉄道車両100を含む編成全体を対象として、複数の台車の輪軸の回転速度、測定音を取得して処理する異常検知システムを構成してもよい。
【0020】
次に、図2を用いて、図1に示した異常検知装置の詳細を説明する。図2は、異常検知装置107の全体構成を表した機能ブロック図である。
【0021】
同図において、異常検知装置107は、複数の輪軸101〜104に対向して設置された回転速度センサ105および音声センサ106からの回転速度および測定音が入力される入力信号処理手段201,202,203,204、と、該複数の入力信号処理手段を切り替えるデータ入力切替部208と、学習用データ(過去蓄積データ)が格納される学習用データ(過去蓄積データ)部209と、検知対象データが格納される検知対象データ部210と、別個体データが格納される別固体データ部211と、各データ部のデータに基づいて異常判定を行う第1の異常判定部205および第2の異常判定部206と、第1、第2の異常判定部の判定データを基に異常程度を判定する異常程度判定部207と、異常程度判定部207の判定データに基づき異常発生場所や異常程度などを表示する表示部212を備えている。つまり、異常検知装置107は、各輪軸の測定音、回転速度のデータ入力に対して、異常発生箇所と異常程度を表すデータを出力する装置である。
【0022】
入力信号処理手段201,202,203,204は、それぞれ輪軸101,102,103,104に対応し、該輪軸101,102,103,104の回転速度センサおよび音声センサに接続されている。入力信号処理手段201〜入力信号処理手段204は、対象とする輪軸が異なるのみであり、それらの処理は同一であるため、ここでは入力信号処理手段201を例に説明する。
【0023】
入力信号処理手段201は、図1で説明した音声センサ106および回転速度センサ105の測定音および回転速度を入力とする。これらの測定音および回転速度とも時系列データである。入力信号処理手段201は、測定音を回転速度でリサンプリングする。具体的には、1回転あるいは1回転を分割した時刻で測定音をサンプリングする。
次に、サンプリングした測定音をあらかじめ定めたデータ数分を収集して周波数解析を施す。周波数解析には、周知のウェーブレット変換や短時間フーリエ変換技術を用いればよい。入力信号処理手段201における前記一連の操作は、一般的に次数比分析と呼ばれており、次数比分析によって時系列の測定音は、図3に示すような状態データ列になる。
【0024】
図3は、状態データ列のデータ構成を示す図であり、該図により状態データ列のデータ構成について説明する。状態データ列は、図示の如く、輪軸を特定する個体IDと、時刻、速度、成分1、成分2・・・成分Nからなる。ここで、時刻はサンプリングを行った測定音の代表時刻であり、例えば周波数解析に投入した最初の時刻を用いる。速度は回転速度を表し、成分は回転速度を基準とする次数における測定音の強さを表す。また、次数とは周波数を回転速度の周波数で割った無次元数であり、次数=1で回転速度の周波数と等しいことを表す。
状態データ列は、図4に示されるイメージ図のようなデータとして入力信号処理手段201の出力となる。
【0025】
データ入力切替部208は、入力信号処理手段201〜入力信号処理手段204が出力した各個体の状態データ列を、検知対象、学習期間の指定によって切り替える。ここで、検知対象は、異常検知判定を行う対象の個体(輪軸)を表す。学習期間は測定音を異常判定の学習用に用いる期間であり、外部装置による入力あるいは設定値として与える。
異常検知装置107は、接続した全ての輪軸が全て対象となるように順番に処理する。
【0026】
状態データ列は、前記検知対象と個体ID、前記学習期間と時刻によって学習用データ部209、検知対象データ部210、別個体データ部211の少なくとも一つに登録するかを判定される。例えば、検知対象が個体IDに等しくかつ学習期間に含まれるデータは、学習用データ部209に書き込み登録され、検知対象が個体IDに等しくかつ学習期間に含まれないデータは、検知対象データ部210に書き込み登録される。検知対象が個体IDと異なる場合は、別固体データ部211に振り分ける。
データ入力切替部208は、リアルタイム処理によって逐次状態データを振り分けてもよいが、この場合一つの入力状態データ列に対して全ての検知対象について上記の振り分け処理を行う。または、状態データ列を一時的にメモリ等の記憶媒体に保存し、前記記憶媒体中のデータを検知対象ごとに読み出して上記の振り分け処理を行ってもよい。
【0027】
第1の異常判定部205は、学習用データ部209の学習用データに対して検知対象データ部210の検知対象データの異常判定処理を行い、検知対象が異常であるか否かを判定する。詳細は図5を用いて後述する。
第2の異常判定部206は、別固体データ部211の別固体データに対して検知対象データの異常判定処理を行い、検知対象が異常であるか否かを判定する。詳細は図10を用いて後述する。
【0028】
異常程度判定部207は、第1の異常判定部205と、第2の異常判定部206の出力データである異常判定結果に基づき異常の程度を判定し、その判定結果を表示部212に出力する。詳細は図12を用いて後述する。
【0029】
表示部212は、異常程度判定部207からの出力データに基づき異常程度、異常部位を表示する。詳細は図16を用いて後述する。
以上述べた本発明の異常検知装置によれば、異常の発生部位だけでなく、異常の程度も出力可能となる。
【0030】
図5は、第1の異常判定部205の一構成例を機能的に表したブロック図である。同図において、第1の異常判定部205は、学習用データ209および検知対象データ210に対して、学習部406(クラスタリング処理手段)と、中間出力であるカテゴリベクトルデータ部407と、検知部408と、第1の異常検知結果出力部409を備えており、第1の異常検知結果出力部409から検知対象データの異常判定結果を、異常検知結果として出力する構成となっている。
【0031】
学習部406は、学習用データ部209からの学習用データが過去の蓄積データであれば、学習期間終了時点でバッチ処理を行う。学習用データ部209からの学習用データが学習期間内にリアルタイムに与えられればデータ投入時の逐次行うリアル処理としてもよい。
いずれの場合においても学習部406は、学習用データ部209の学習用データ入力に対してクラスタリング処理を行い、クラスターに分割してカテゴリベクトルデータを出力し、カテゴリベクトルデータ部407に供給する。
【0032】
ここで、クラスタリング処理は、一般に知られる適応共鳴理論等を用いればよい。クラスター分割のための類似性の判定には上記いずれの場合にしても学習時のデータ間の類似度の評価値を算出し、その評価値があらかじめ定めた閾値を越えるか否かによってカテゴリ分類するか否かを決定する。
【0033】
図6は、クラスタリング処理された結果であるカテゴリベクトルデータ(カテゴリベクトルデータ部407に入力されるデータ)の書式を示したものである。カテゴリベクトルデータは、図示の如く、類似するクラスターで分類したカテゴリ(番号で表記)と、そのカテゴリの特徴を現す代表ベクトルの成分を持つ。代表ベクトルの持ち方は、前記した各種クラスタリング処理に順ずるものとし、カテゴリに含まれる学習用データのベクトル成分の平均等を取る。
【0034】
図7はカテゴリ分類のイメージを示した図であり、例として代表的(ベクトルの支配的)な成分を縦軸、横軸にとって学習用データのカテゴリ分類を示したものである。この図に示すように類似した成分をもったデータをカテゴリとして表す。
【0035】
再び図5に戻り、検知部408について説明する。検知部408は、検知対象データ部210からの検知対象データを入力とし、学習結果であるカテゴリベクトルデータ部407のデータを参照して、検知対象データが正常か異常かを判定する。検知部408では、検知対象データがカテゴリベクトルデータに含まれる各カテゴリとの類似性を判定し、類似性が高いデータを学習時にも存在したデータを正常(学習時は機器が正常であることが保障されていることを前提とする)とし、存在しないデータを異常として扱う。
【0036】
類似性の判定には、適応共鳴理論等に用いられる判定に順ずるが、いずれの場合にしても学習時のカテゴリに対する検知対象データの類似度の評価値を算出し、その評価値があらかじめ定めた閾値を越えるか否かにより正常・異常を判定する。
このときの閾値は、学習部406と共通の値を設定する。異常と判定されたデータに関しては、新たに代表ベクトルを与えて新たなカテゴリを生成する。
【0037】
以降に処理する検知対象データでは、カテゴリベクトルデータに加えて新たに追加した前記新カテゴリについても前記の類似性判定処理を行い、新カテゴリと類似性が高いと判定されたデータは異常となる。
【0038】
図8は、第1の異常検知結果部409の異常検知結果の書式を表したものである。
同図において、時刻は検知対象データの時系列データがもつ時刻、カテゴリは検知部408が最も類似しているとして付与したカテゴリ、正常or異常は検知部408の異常判定結果である。
【0039】
図9は、学習用データのカテゴリと検知対象データのカテゴリを時系列で示したものであり、横軸が時刻、縦軸がカテゴリを表している。
また学習用データのカテゴリを黒丸印、検知対象データのカテゴリを黒三角印として表現している。図に示すように学習時に含まれるカテゴリは正常、検知時に新規生成されたカテゴリを異常としている。
【0040】
以上、図5〜図9を用いて説明した第1の異常判定部205の処理により、検知対象データは過去に学習した同じ個体に対する類似性判定を行うことにより、個体が正常か異常かの判定が行える。
【0041】
図10は、図2の第2の異常判定部206の構成例を表した機能ブロック図である。同図において、第2の異常判定部206は、別個体データ部211の別固体データおよび検知対象データ部210の検知対象データに対して、学習部(クラスタリング処理手段)706と、中間出力であるカテゴリベクトルデータ部707と、検知部708と、第2の異常検知結果部709を備えており、第2の異常検知結果出力部709から検知対象データの異常判定結果を、異常検知結果として出力する構成となっている。すなわち、第2の異常判定部206は、正常時の個体差を上回る違いが検知対象データに出現したか否かを検知し、出現した場合には異常と判定する。
【0042】
学習部706は、図5の学習部406の処理と同一のロジックを備える。ただし、学習の入力となるデータが別個体データである点、クラスター分割のための閾値が、学習部406と異なる。
一般的に機器には、個体差があり、その違いが個体ごとのデータに現れてくる。よって学習部706で設定する閾値は、正常時の個体差では各個体を表すカテゴリの出現分布に差はない。
すなわちクラスター分割の際に生成される同一カテゴリに含まれるデータが別個体由来であるように設定する。
【0043】
図11は、上記の閾値によって別個体データをカテゴリ分類した際のイメージを示す図である。
縦軸、横軸は図9と同様それぞれ時刻、カテゴリ、黒丸印が個体1の正常データのカテゴリ、黒三角印が個体2の正常データのカテゴリを表す。
【0044】
図9では、すべてのカテゴリが個体1、個体2のデータを含んでおり、この場合「閾値は個体差を区別しない」と定義する。実際のデータでは、個体差を完全に区別しないケースは限られるため、例えば個体1のデータのカテゴリに、他のどの個体のデータも含まない場合がある。
【0045】
この場合、前記カテゴリに含まれるデータが個体1の全データのX%以下(X<<100、例として1%など)でも「閾値は個体差を区別しない」と定義してもよい。
閾値の算出にあたっては事前に正常とわかっている複数個体のデータを取得して、バッチ処理で学習部706を起動してカテゴリベクトルデータを出力し、「閾値は個体差を区別しない」を満たすための閾値をあらかじめ検討するなどして定めればよい。
【0046】
再び図10に戻り、カテゴリベクトルデータ部707のカテゴリベクトルデータについて説明する。
カテゴリベクトルデータは元のデータが学習データから別個体データとなったデータ上の違いのみであるため、その書式についての説明は省略する。
【0047】
次に、検知部708について説明する。検知部708は、図5の検知部408と同一のロジックを備えるが、閾値が検知部408とは異なり、学習部707と閾値と共通の値を利用する。
【0048】
以上、図10、図11を用いて説明した第2の異常判定部206の処理をもって、検知対象データは別個体に対する類似性判定を行うことにより、個体が正常か異常かの判定を行う。
仮に別個体中に異常が発生した場合、カテゴリベクトルデータには異常のカテゴリが含まれることとなるが、検知対象の個体が正常であれば正常、異常であっても別個体と同様(同種)の異常であれば正常判定、別個体とはまた別の第二の異常であれば異常判定となる。
ここで別個体が同時に同種の異常を起こすことは確率的に考えにくく発生しない、と前提を置けば、上記のように異常が正常に埋没するケースは起こらない、としてもよい。
【0049】
図13は、第2の異常検知結果部709のデータ構成について示した図である。基本的な構成は、第1の異常検知結果部409と同様であるが、上記に示したように個体によって別個の異常を検知することが可能となるため、別個の異常には通番を付与して管理し、識別可能な書式を定義する。
【0050】
以上、図2で示したシステム構成、図5、図10で示した異常判定部を備えることにより、別々の機能を持つ異常判定部が入力データ、パラメータ(類似度の閾値)を変更するのみで、同一のアルゴリズムをもったソフトウェアが利用可能となる。
このため、本発明のシステム構成によれば、メモリやストレージのリソース、ソフトウェアの開発・保守工数が低減可能と成り得る。
【0051】
図12は、図2の異常程度判定部207の処理フローチャートを示したものである。以下、処理の流れに従い説明する。
【0052】
同図のステップ(以下Sと省略する)801において、システムは、メモリ中から第1の異常判定部205の異常判定結果1を読み込む。読み込み対象となるのは検知対象データの異常判定結果1であり、複数の時系列ベクトルデータである。
【0053】
S802において、システムは、学習用データ(学習用データ部209の出力データ)に含まれるデータ数をカウントし、データ数がシステムのあらかじめ定める規定数を以上の場合には処理はS803に進み、それ以外の場合はS804に進む。
ここで定めた規定数は、あらかじめ定めた学習時間に相当するデータ数、あるいはあらかじめ定めた区間の距離に相当するデータ数を設定してもよい。あるいはあらかじめ定めた区間への進入から脱出分のデータの連続的な取得を分岐条件としてもよい。いずれの場合においても、統計的に十分とされるデータ数が得られることがS803に進む条件となる。
【0054】
S803において、システムは、読み込んだ異常判定結果1の異常カテゴリ数をカウントする。
次にシステムは、全異常判定結果1のデータ数に対する異常カテゴリ数の割合を算出し、前記異常カテゴリ数の割合があらかじめ定めた値(例えば70%等)以上ならばシステムはS805に処理を進める。それ以外はS806に処理を進める。
【0055】
S804において、システムは、判定結果1として「結果なし」を返す。
S805において、システムは、判定結果1として「正常」を返す。
S806において、システムは、判定結果1として「異常」を返す。
S807において、システムは、S804〜S806で定めた判定結果1をメモリ等電子媒体に一時保存する。
【0056】
上記S804〜S807の処理を行うことによって、学習データすなわち過去の個体の状態に対する検知対象の状態の異常判定が完了する。
【0057】
S808において、システムは、メモリ中から異常判定結果2を読み込む。読み込み対象となるのは別個体データの異常判定結果2であり、複数の時系列ベクトルデータである。
S809において、S803と同様に、システムは、読み込んだ異常判定結果2の異常カテゴリ数をカウントし、あらかじめ規定した割合以上ならば処理をS810に進める。それ以外はS811に進める。
【0058】
S810において、システムは、判定結果2として「正常」を返す。
S811において、システムは、判定結果2として「異常」を返す。
S812において、システムは、判定結果2をメモリ等電子媒体に一時保存する。
【0059】
上記S810〜S812の処理を行うことによって、学習データすなわち別の個体の状態に対する検知対象の状態の異常判定が完了する。
【0060】
S813において、システムは、判定結果1、判定結果2を同時に読み込み、異常程度判定テーブルに従い、異常の程度を算出する。異常程度判定テーブルの導出論理、テーブルの詳細は図13、図9を用いて後述する。
S814において、異常判定テーブルにしたがって算出した異常程度を出力する。
以上の処理フローによって、異常程度判定部207は検知対象の異常程度を出力する。
【0061】
図14は、本発明で扱う異常の定義を模式的に表したものであり、類似度を正常、異常の評価軸として各種状態の定義と第1の異常判定部205の閾値、第2の異常判定部206の閾値を表している。
なお、同図における状態1301は、同一固体間で差なし、状態1302は、軽微な故障の兆候(軽故障)、状態1303は、別固体の固体差、状態1304は、重大な故障の兆候(重故障)を示し、状態1302の類似度と状態1303の類似度が同程度と仮定している。
【0062】
同図において、第1の異常判定部205は、同一個体間の過去と現在を比較して類似度が大きい状態1301と類似度が小さく軽微な故障の兆候を示す状態1302(軽故障と定義)とを識別する方法である。
一方で、第2の異常判定部206は、別個体同士で個体差がある状態1303と別個体同士の個体差よりも大きな差がある状態1304(重故障と定義)とを識別する方法である。
本発明の背景でも説明したように、第1の異常判定部205は、同一個体間の個体差についても識別する感度の高い異常判定部であり、状態1302のような別個体間の比較であればさらにその類似度は小さくなると推定されることから、状態1303についても類似度小と判定することが予想される。
【0063】
すなわち、第1の異常判定部205の閾値の類似度>状態1303の類似度>第2の異常判定部206の閾値の類似度となる。
【0064】
さらに、状態1302の軽故障の定義として第2の異常判定部206の閾値よりも類似度が大きいものと定義すれば、
【0065】
第1の異常判定部205の閾値の類似度>状態1302の類似度(軽故障)>第2の異常判定部206の閾値の類似度>状態1304の類似度(重故障)がなりたつ。すなわち図14に示したベン図1330のような包含関係が成立する。
【0066】
図15は、図14で示した定義上に第1の異常判定部205の判定結果(判定結果1)の包含関係910、第2の異常判定部206の判定結果(判定結果2)の包含関係920について表したものであり、それぞれ実線の集合境界がそれぞれの異常判定部が類似度大として異常判定を行う境界である。
この包含関係を判定結果1の有無(学習用データ数が十分に存在しないときに発生)を加えて、判定結果1、判定結果2の正常、異常に対する異常程度を表したものが、図15に示した異常程度判定テーブル930である。
【0067】
本発明では、異常程度判定テーブル930が二つの判定結果を組み合わせることによって、軽故障と重故障の二つの異常程度が表現可能となっている点が特徴である(テーブル930の左から4番目の軽故障)。
【0068】
すなわち、図15の包含から、判定結果1単独では軽故障と重故障が識別できず、判定結果2の単独では正常と軽故障が識別できないことがわかるが、判定結果1で異常、判定結果2で正常となれば、組み合わせて異常程度は軽故障と判定できる。
また、判定結果1を利用できない状況下であっても、縮退モードとして重故障の判別は可能である。
図12のS813では、上記で示した異常程度判定テーブル930を用いて異常程度を判定したものである。
【0069】
図16は、図2に示す本発明の異常検知装置107による表示部212の画面例を示したものである。
表示部212の画面1001には、例えば、図示の如く、異常発生時刻および経過時刻1002と、異常発生部位のビジュアル表示1003、表示メッセージ1004、1005が表示される。
表示メッセージ1004、1005には、動作モード、異常発生部位、異常程度、移動体のオペレータ向け指示メッセージなどを含んでいる。
また、メッセージ1004は、軽故障時のメッセージで、異常程度から注意喚起を与えている。
メッセージ1005は、重故障時(縮退モード)のメッセージで、異常程度から警告喚起を与えている。
上記で示した表示画面を備えることで、移動体のオペレータは異常程度を理解した上で適切な行動をとることが可能となる。
【符号の説明】
【0070】
100 鉄道車両
101、102,103,104 輪軸
105 回転速度センサ(速度発電機)
106 音声センサ(マイク)
107 異常検知装置
205 異常判定部1
206 異常判定部2
207 異常程度判定部
212 表示部
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の状態を監視する状態監視装置を有する移動体異常検知システムに関し、特に鉄道車両の異常検知に関する移動体異常検知システムおよび移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体の異常を検知するシステムに関して、移動体の状態データを取得し、故障発生時(故障:機器が通常の状態と異なる状態)にデータを解析して異常を検出(異常:機器の故障によりシステムとして望まれない状態、機器を停止するなどして回復が必要)するシステムが広く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、鉄道車両の台車について異常がない正常時と想定される異常時の音をマイクロホンで測定し、測定した音を周波数解析により時系列の周波数成分に変換し、変換した周波数成分のデータをクラスタリング処理によって正常と異常にカテゴリ分類し、未知の入力データが前記クラスタリング処理によってどのカテゴリに分類されるか、あるいは新規のカテゴリに分類されることによって、未知の入力データの異常検知を行う鉄道車両台車異常検知システムを提供している。
【0004】
また特許文献2では、複数の鉄道車両の台車に加速度検出手段を設けて、これらの加速度検出手段が検出する加速度信号を相対比較し、いずれかの信号が他の加速度信号に対して所定値以上に大きな値となった場合に異常が発生したと判断する鉄道車両走行時の異常検知方法を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−256153号公報
【特許文献2】特開2000−6807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に挙げたシステムによれば、異常判定を行う際、事前に正常時、異常時の区別がついたデータを用いて判定するため、軽微な異常であっても過去のデータとの差異があれば検出可能である。
しかし、例えば保守点検によって潤滑油を交換することによって部品、あるいは部品間の物理的性質が変化するときや部品自体を交換したとき等、検知対象の状態が変化した場合に対する異常検知については、特に考慮されていない。
従って、このような場合、事前のデータに対して未知の入力データは異なるカテゴリを示すことになり、機器が正常であっても異常と検知する(誤検知)可能性がある。
【0007】
また、前記特許文献2に挙げた異常検知方法によれば、台車などの走行装置に異常が発生した場合、車両を安全に停止することができる効果を奏するが、複数の検知対象の個体差よりも正常異常間の差が小さいような異常発生時に対する異常検知については、特に考慮されていない。
従って、このような場合、機器が異常であっても正常と検知(見過し)する可能性がある。
【0008】
本発明は、係る課題に対して鑑みなされたものであり、その目的は、部品交換などにより検知対象の状態が変化した場合や複数の検知対象の個体差よりも正常異常間の差が小さいような場合に対しても異常有無を判断することが可能である移動体異常検知システムおよび移動体を提供することにある。
例えば、具体的には、本発明の第1の目的は、個体差の影響を低減し得た上で異常を検知する移動体異常検知システムおよび移動体を提供することにある。
【0009】
また、本発明の第2の目的は、異常検知の際に発生する前述したような誤検知と見過しを低減し、さらに異常の程度を提示することが可能な移動体異常検知システムおよび移動体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記第1の目的を達成するために、本発明の移動体異常検知システムおよび移動体は、例えば、移動体の異常検知対象とする複数個体の音声を個体ごとに計測する音声センサと、複数個体の回転速度を個体ごとに計測する回転速度センサの計測データを入力として各個体の異常を検知する異常検知装置を備え、前記異常検知装置は、各個体の計測データを処理して個体差を低減する入力信号処理手段と、計測データを検知対象データ、別個体データに振り分けるデータ入力切替部と、別個体データと検知対象データから各個体の異常判定を行う異常判定部とを備える。
【0011】
前記第2の目的を達成するために、本発明の移動体異常検知システムおよび移動体では、例えば、移動体の各個体に備える各種計測装置と各個体の計測装置からの計測データを入力として個体の異常を検知する異常検知装置を備え、前記異常検知装置は、各個体の計測装置からの計測データを処理する入力信号処理手段と、各入力信号処理手段の出力データを学習用データ、検知対象データ、別個体データの少なくともいずれか一つに振り分けるデータ入力切替部と、学習用データと検知対象データから各個体の異常判定を行う第1の異常判定部と、別個体データと検知対象データから各個体の異常判定を行う第2の異常判定部と、前記第1の異常判定部と第2の異常判定部の異常判定結果から異常程度を判定する異常程度判定部とを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、各個体の異常の誤検知、見過しを低減することができ、また異常の程度が判定可能となる。これにより、移動体のオペレータは異常の程度に応じて移動体の運転継続をするか否かの判断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の移動体異常検知システムのシステム構成図である。
【図2】図2は、本発明の異常検知装置の機能ブロック図である。
【図3】図3は、異常検知装置内で蓄積、検知対象とする状態データ列のデータ構成図である。
【図4】図4は、異常検知装置内で蓄積、検知対象とする状態データ列のイメージ図である。
【図5】図5は、第1の異常判定部の機能ブロック図である。
【図6】図6は、第1の異常判定部の内部出力となるカテゴリベクトルデータのデータ構成図である。
【図7】図7は、第1の異常判定部の内部出力となるカテゴリベクトルデータのイメージ図である。
【図8】図8は、第1の異常判定部の外部出力となる異常検知結果のデータ構成を示す図である。
【図9】図9は、第1の異常判定部の外部出力となる異常検知結果のイメージを示す図である。
【図10】図10は、第2の異常判定部の機能ブロック図である。
【図11】図11は、個体差によるカテゴリ分布の差異が発生しない閾値を設定したときのカテゴリ出現分布のイメージを示す図である。
【図12】図12は、異常程度判定部の処理フローチャートを示す図である。
【図13】図13は、第2の異常判定部の外部出力となる異常検知結果のデータ構成例を示す図である。
【図14】図14は、本発明で扱う異常の定義を示す図である。
【図15】図15は、異常程度判定部で用いる異常程度判定論理と異常程度判定テーブルを示す図である。
【図16】図16は、本発明の移動体異常検知システムを用いた移動体の表示部の画面例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による移動体異常検知システムの実施の形態を、図面を参照して説明する。以下の実施例では、移動体として鉄道車両を用いたシステムについて述べる。
【実施例1】
【0015】
まず、本発明の移動体異常検知システムについて説明する。図1は本発明の移動体異常検知システムのシステム構成を表した図である。
【0016】
同図において、輪軸101,102,103,104は、鉄道車両100の台車(図示せず)に取付けられている。回転速度センサ(速度発電機)105は、各輪軸の回転速度を計測する速度センサである。音声センサ(マイク)106は、輪軸101、102および輪軸103、104が取付けられている台車および台車に設置された各種機器の音を測定するものである。異常検知装置107は、回転速度センサ105から得られる回転速度と、音声センサ106から得られる測定音を処理し、各輪軸および台車などの異常などを検知するものである。
【0017】
回転速度センサ105および音声センサ106は、車両100の各輪軸101,102,103,104に設置され、異常検知装置107は、各輪軸の回転速度センサ105および音声センサ106と電気的に接続し、該両センサによる各輪軸の回転速度や測定音を収集し、該収集した回転速度や測定音などから車両(台車、輪軸など)の異常有無を検知する。ここで、回転速度を各輪軸で個別に収集するのは、各輪軸には車輪半径の個体差やすべりの有無によって回転速度が異なるためである。
なお、各輪軸の前記回転速度が小さい場合、または、各輪軸の個体差やすべりの有無を考慮しなくてよいと判断される場合は、各輪軸ではなく任意の輪軸にのみ回転速度センサ105を備えてもよい。
【0018】
音声センサ106は、輪軸102、103および輪軸103、104と同期して回転する回転機器(例えば、軸受け、ギアボックス内の歯車、継ぎ手、モータ等)および輪軸を設置した台車の測定音を個別に収集する。
また、各輪軸101,102,103,104の回転速度を測定する複数の回転速度センサ105を備えることにより、音声センサ106による測定音を回転速度センサ105による回転速度でリサンプリングするなどして、各輪軸の個体差となる回転速度による測定音のピーク周波数帯のズレを低減可能となり、輪軸間で測定音に基づくデータを比較することによる異常発生の有無を検知可能となる。
【0019】
異常検知装置107は、各輪軸周辺の測定音を元に異常発生の有無を検知し、異常発生時にはその発生箇所を各軸単位で特定する。
なお、本発明では一つの鉄道車両100に対して一つの異常検知装置107を設置する構成としたが、鉄道車両100を含む編成全体を対象として、複数の台車の輪軸の回転速度、測定音を取得して処理する異常検知システムを構成してもよい。
【0020】
次に、図2を用いて、図1に示した異常検知装置の詳細を説明する。図2は、異常検知装置107の全体構成を表した機能ブロック図である。
【0021】
同図において、異常検知装置107は、複数の輪軸101〜104に対向して設置された回転速度センサ105および音声センサ106からの回転速度および測定音が入力される入力信号処理手段201,202,203,204、と、該複数の入力信号処理手段を切り替えるデータ入力切替部208と、学習用データ(過去蓄積データ)が格納される学習用データ(過去蓄積データ)部209と、検知対象データが格納される検知対象データ部210と、別個体データが格納される別固体データ部211と、各データ部のデータに基づいて異常判定を行う第1の異常判定部205および第2の異常判定部206と、第1、第2の異常判定部の判定データを基に異常程度を判定する異常程度判定部207と、異常程度判定部207の判定データに基づき異常発生場所や異常程度などを表示する表示部212を備えている。つまり、異常検知装置107は、各輪軸の測定音、回転速度のデータ入力に対して、異常発生箇所と異常程度を表すデータを出力する装置である。
【0022】
入力信号処理手段201,202,203,204は、それぞれ輪軸101,102,103,104に対応し、該輪軸101,102,103,104の回転速度センサおよび音声センサに接続されている。入力信号処理手段201〜入力信号処理手段204は、対象とする輪軸が異なるのみであり、それらの処理は同一であるため、ここでは入力信号処理手段201を例に説明する。
【0023】
入力信号処理手段201は、図1で説明した音声センサ106および回転速度センサ105の測定音および回転速度を入力とする。これらの測定音および回転速度とも時系列データである。入力信号処理手段201は、測定音を回転速度でリサンプリングする。具体的には、1回転あるいは1回転を分割した時刻で測定音をサンプリングする。
次に、サンプリングした測定音をあらかじめ定めたデータ数分を収集して周波数解析を施す。周波数解析には、周知のウェーブレット変換や短時間フーリエ変換技術を用いればよい。入力信号処理手段201における前記一連の操作は、一般的に次数比分析と呼ばれており、次数比分析によって時系列の測定音は、図3に示すような状態データ列になる。
【0024】
図3は、状態データ列のデータ構成を示す図であり、該図により状態データ列のデータ構成について説明する。状態データ列は、図示の如く、輪軸を特定する個体IDと、時刻、速度、成分1、成分2・・・成分Nからなる。ここで、時刻はサンプリングを行った測定音の代表時刻であり、例えば周波数解析に投入した最初の時刻を用いる。速度は回転速度を表し、成分は回転速度を基準とする次数における測定音の強さを表す。また、次数とは周波数を回転速度の周波数で割った無次元数であり、次数=1で回転速度の周波数と等しいことを表す。
状態データ列は、図4に示されるイメージ図のようなデータとして入力信号処理手段201の出力となる。
【0025】
データ入力切替部208は、入力信号処理手段201〜入力信号処理手段204が出力した各個体の状態データ列を、検知対象、学習期間の指定によって切り替える。ここで、検知対象は、異常検知判定を行う対象の個体(輪軸)を表す。学習期間は測定音を異常判定の学習用に用いる期間であり、外部装置による入力あるいは設定値として与える。
異常検知装置107は、接続した全ての輪軸が全て対象となるように順番に処理する。
【0026】
状態データ列は、前記検知対象と個体ID、前記学習期間と時刻によって学習用データ部209、検知対象データ部210、別個体データ部211の少なくとも一つに登録するかを判定される。例えば、検知対象が個体IDに等しくかつ学習期間に含まれるデータは、学習用データ部209に書き込み登録され、検知対象が個体IDに等しくかつ学習期間に含まれないデータは、検知対象データ部210に書き込み登録される。検知対象が個体IDと異なる場合は、別固体データ部211に振り分ける。
データ入力切替部208は、リアルタイム処理によって逐次状態データを振り分けてもよいが、この場合一つの入力状態データ列に対して全ての検知対象について上記の振り分け処理を行う。または、状態データ列を一時的にメモリ等の記憶媒体に保存し、前記記憶媒体中のデータを検知対象ごとに読み出して上記の振り分け処理を行ってもよい。
【0027】
第1の異常判定部205は、学習用データ部209の学習用データに対して検知対象データ部210の検知対象データの異常判定処理を行い、検知対象が異常であるか否かを判定する。詳細は図5を用いて後述する。
第2の異常判定部206は、別固体データ部211の別固体データに対して検知対象データの異常判定処理を行い、検知対象が異常であるか否かを判定する。詳細は図10を用いて後述する。
【0028】
異常程度判定部207は、第1の異常判定部205と、第2の異常判定部206の出力データである異常判定結果に基づき異常の程度を判定し、その判定結果を表示部212に出力する。詳細は図12を用いて後述する。
【0029】
表示部212は、異常程度判定部207からの出力データに基づき異常程度、異常部位を表示する。詳細は図16を用いて後述する。
以上述べた本発明の異常検知装置によれば、異常の発生部位だけでなく、異常の程度も出力可能となる。
【0030】
図5は、第1の異常判定部205の一構成例を機能的に表したブロック図である。同図において、第1の異常判定部205は、学習用データ209および検知対象データ210に対して、学習部406(クラスタリング処理手段)と、中間出力であるカテゴリベクトルデータ部407と、検知部408と、第1の異常検知結果出力部409を備えており、第1の異常検知結果出力部409から検知対象データの異常判定結果を、異常検知結果として出力する構成となっている。
【0031】
学習部406は、学習用データ部209からの学習用データが過去の蓄積データであれば、学習期間終了時点でバッチ処理を行う。学習用データ部209からの学習用データが学習期間内にリアルタイムに与えられればデータ投入時の逐次行うリアル処理としてもよい。
いずれの場合においても学習部406は、学習用データ部209の学習用データ入力に対してクラスタリング処理を行い、クラスターに分割してカテゴリベクトルデータを出力し、カテゴリベクトルデータ部407に供給する。
【0032】
ここで、クラスタリング処理は、一般に知られる適応共鳴理論等を用いればよい。クラスター分割のための類似性の判定には上記いずれの場合にしても学習時のデータ間の類似度の評価値を算出し、その評価値があらかじめ定めた閾値を越えるか否かによってカテゴリ分類するか否かを決定する。
【0033】
図6は、クラスタリング処理された結果であるカテゴリベクトルデータ(カテゴリベクトルデータ部407に入力されるデータ)の書式を示したものである。カテゴリベクトルデータは、図示の如く、類似するクラスターで分類したカテゴリ(番号で表記)と、そのカテゴリの特徴を現す代表ベクトルの成分を持つ。代表ベクトルの持ち方は、前記した各種クラスタリング処理に順ずるものとし、カテゴリに含まれる学習用データのベクトル成分の平均等を取る。
【0034】
図7はカテゴリ分類のイメージを示した図であり、例として代表的(ベクトルの支配的)な成分を縦軸、横軸にとって学習用データのカテゴリ分類を示したものである。この図に示すように類似した成分をもったデータをカテゴリとして表す。
【0035】
再び図5に戻り、検知部408について説明する。検知部408は、検知対象データ部210からの検知対象データを入力とし、学習結果であるカテゴリベクトルデータ部407のデータを参照して、検知対象データが正常か異常かを判定する。検知部408では、検知対象データがカテゴリベクトルデータに含まれる各カテゴリとの類似性を判定し、類似性が高いデータを学習時にも存在したデータを正常(学習時は機器が正常であることが保障されていることを前提とする)とし、存在しないデータを異常として扱う。
【0036】
類似性の判定には、適応共鳴理論等に用いられる判定に順ずるが、いずれの場合にしても学習時のカテゴリに対する検知対象データの類似度の評価値を算出し、その評価値があらかじめ定めた閾値を越えるか否かにより正常・異常を判定する。
このときの閾値は、学習部406と共通の値を設定する。異常と判定されたデータに関しては、新たに代表ベクトルを与えて新たなカテゴリを生成する。
【0037】
以降に処理する検知対象データでは、カテゴリベクトルデータに加えて新たに追加した前記新カテゴリについても前記の類似性判定処理を行い、新カテゴリと類似性が高いと判定されたデータは異常となる。
【0038】
図8は、第1の異常検知結果部409の異常検知結果の書式を表したものである。
同図において、時刻は検知対象データの時系列データがもつ時刻、カテゴリは検知部408が最も類似しているとして付与したカテゴリ、正常or異常は検知部408の異常判定結果である。
【0039】
図9は、学習用データのカテゴリと検知対象データのカテゴリを時系列で示したものであり、横軸が時刻、縦軸がカテゴリを表している。
また学習用データのカテゴリを黒丸印、検知対象データのカテゴリを黒三角印として表現している。図に示すように学習時に含まれるカテゴリは正常、検知時に新規生成されたカテゴリを異常としている。
【0040】
以上、図5〜図9を用いて説明した第1の異常判定部205の処理により、検知対象データは過去に学習した同じ個体に対する類似性判定を行うことにより、個体が正常か異常かの判定が行える。
【0041】
図10は、図2の第2の異常判定部206の構成例を表した機能ブロック図である。同図において、第2の異常判定部206は、別個体データ部211の別固体データおよび検知対象データ部210の検知対象データに対して、学習部(クラスタリング処理手段)706と、中間出力であるカテゴリベクトルデータ部707と、検知部708と、第2の異常検知結果部709を備えており、第2の異常検知結果出力部709から検知対象データの異常判定結果を、異常検知結果として出力する構成となっている。すなわち、第2の異常判定部206は、正常時の個体差を上回る違いが検知対象データに出現したか否かを検知し、出現した場合には異常と判定する。
【0042】
学習部706は、図5の学習部406の処理と同一のロジックを備える。ただし、学習の入力となるデータが別個体データである点、クラスター分割のための閾値が、学習部406と異なる。
一般的に機器には、個体差があり、その違いが個体ごとのデータに現れてくる。よって学習部706で設定する閾値は、正常時の個体差では各個体を表すカテゴリの出現分布に差はない。
すなわちクラスター分割の際に生成される同一カテゴリに含まれるデータが別個体由来であるように設定する。
【0043】
図11は、上記の閾値によって別個体データをカテゴリ分類した際のイメージを示す図である。
縦軸、横軸は図9と同様それぞれ時刻、カテゴリ、黒丸印が個体1の正常データのカテゴリ、黒三角印が個体2の正常データのカテゴリを表す。
【0044】
図9では、すべてのカテゴリが個体1、個体2のデータを含んでおり、この場合「閾値は個体差を区別しない」と定義する。実際のデータでは、個体差を完全に区別しないケースは限られるため、例えば個体1のデータのカテゴリに、他のどの個体のデータも含まない場合がある。
【0045】
この場合、前記カテゴリに含まれるデータが個体1の全データのX%以下(X<<100、例として1%など)でも「閾値は個体差を区別しない」と定義してもよい。
閾値の算出にあたっては事前に正常とわかっている複数個体のデータを取得して、バッチ処理で学習部706を起動してカテゴリベクトルデータを出力し、「閾値は個体差を区別しない」を満たすための閾値をあらかじめ検討するなどして定めればよい。
【0046】
再び図10に戻り、カテゴリベクトルデータ部707のカテゴリベクトルデータについて説明する。
カテゴリベクトルデータは元のデータが学習データから別個体データとなったデータ上の違いのみであるため、その書式についての説明は省略する。
【0047】
次に、検知部708について説明する。検知部708は、図5の検知部408と同一のロジックを備えるが、閾値が検知部408とは異なり、学習部707と閾値と共通の値を利用する。
【0048】
以上、図10、図11を用いて説明した第2の異常判定部206の処理をもって、検知対象データは別個体に対する類似性判定を行うことにより、個体が正常か異常かの判定を行う。
仮に別個体中に異常が発生した場合、カテゴリベクトルデータには異常のカテゴリが含まれることとなるが、検知対象の個体が正常であれば正常、異常であっても別個体と同様(同種)の異常であれば正常判定、別個体とはまた別の第二の異常であれば異常判定となる。
ここで別個体が同時に同種の異常を起こすことは確率的に考えにくく発生しない、と前提を置けば、上記のように異常が正常に埋没するケースは起こらない、としてもよい。
【0049】
図13は、第2の異常検知結果部709のデータ構成について示した図である。基本的な構成は、第1の異常検知結果部409と同様であるが、上記に示したように個体によって別個の異常を検知することが可能となるため、別個の異常には通番を付与して管理し、識別可能な書式を定義する。
【0050】
以上、図2で示したシステム構成、図5、図10で示した異常判定部を備えることにより、別々の機能を持つ異常判定部が入力データ、パラメータ(類似度の閾値)を変更するのみで、同一のアルゴリズムをもったソフトウェアが利用可能となる。
このため、本発明のシステム構成によれば、メモリやストレージのリソース、ソフトウェアの開発・保守工数が低減可能と成り得る。
【0051】
図12は、図2の異常程度判定部207の処理フローチャートを示したものである。以下、処理の流れに従い説明する。
【0052】
同図のステップ(以下Sと省略する)801において、システムは、メモリ中から第1の異常判定部205の異常判定結果1を読み込む。読み込み対象となるのは検知対象データの異常判定結果1であり、複数の時系列ベクトルデータである。
【0053】
S802において、システムは、学習用データ(学習用データ部209の出力データ)に含まれるデータ数をカウントし、データ数がシステムのあらかじめ定める規定数を以上の場合には処理はS803に進み、それ以外の場合はS804に進む。
ここで定めた規定数は、あらかじめ定めた学習時間に相当するデータ数、あるいはあらかじめ定めた区間の距離に相当するデータ数を設定してもよい。あるいはあらかじめ定めた区間への進入から脱出分のデータの連続的な取得を分岐条件としてもよい。いずれの場合においても、統計的に十分とされるデータ数が得られることがS803に進む条件となる。
【0054】
S803において、システムは、読み込んだ異常判定結果1の異常カテゴリ数をカウントする。
次にシステムは、全異常判定結果1のデータ数に対する異常カテゴリ数の割合を算出し、前記異常カテゴリ数の割合があらかじめ定めた値(例えば70%等)以上ならばシステムはS805に処理を進める。それ以外はS806に処理を進める。
【0055】
S804において、システムは、判定結果1として「結果なし」を返す。
S805において、システムは、判定結果1として「正常」を返す。
S806において、システムは、判定結果1として「異常」を返す。
S807において、システムは、S804〜S806で定めた判定結果1をメモリ等電子媒体に一時保存する。
【0056】
上記S804〜S807の処理を行うことによって、学習データすなわち過去の個体の状態に対する検知対象の状態の異常判定が完了する。
【0057】
S808において、システムは、メモリ中から異常判定結果2を読み込む。読み込み対象となるのは別個体データの異常判定結果2であり、複数の時系列ベクトルデータである。
S809において、S803と同様に、システムは、読み込んだ異常判定結果2の異常カテゴリ数をカウントし、あらかじめ規定した割合以上ならば処理をS810に進める。それ以外はS811に進める。
【0058】
S810において、システムは、判定結果2として「正常」を返す。
S811において、システムは、判定結果2として「異常」を返す。
S812において、システムは、判定結果2をメモリ等電子媒体に一時保存する。
【0059】
上記S810〜S812の処理を行うことによって、学習データすなわち別の個体の状態に対する検知対象の状態の異常判定が完了する。
【0060】
S813において、システムは、判定結果1、判定結果2を同時に読み込み、異常程度判定テーブルに従い、異常の程度を算出する。異常程度判定テーブルの導出論理、テーブルの詳細は図13、図9を用いて後述する。
S814において、異常判定テーブルにしたがって算出した異常程度を出力する。
以上の処理フローによって、異常程度判定部207は検知対象の異常程度を出力する。
【0061】
図14は、本発明で扱う異常の定義を模式的に表したものであり、類似度を正常、異常の評価軸として各種状態の定義と第1の異常判定部205の閾値、第2の異常判定部206の閾値を表している。
なお、同図における状態1301は、同一固体間で差なし、状態1302は、軽微な故障の兆候(軽故障)、状態1303は、別固体の固体差、状態1304は、重大な故障の兆候(重故障)を示し、状態1302の類似度と状態1303の類似度が同程度と仮定している。
【0062】
同図において、第1の異常判定部205は、同一個体間の過去と現在を比較して類似度が大きい状態1301と類似度が小さく軽微な故障の兆候を示す状態1302(軽故障と定義)とを識別する方法である。
一方で、第2の異常判定部206は、別個体同士で個体差がある状態1303と別個体同士の個体差よりも大きな差がある状態1304(重故障と定義)とを識別する方法である。
本発明の背景でも説明したように、第1の異常判定部205は、同一個体間の個体差についても識別する感度の高い異常判定部であり、状態1302のような別個体間の比較であればさらにその類似度は小さくなると推定されることから、状態1303についても類似度小と判定することが予想される。
【0063】
すなわち、第1の異常判定部205の閾値の類似度>状態1303の類似度>第2の異常判定部206の閾値の類似度となる。
【0064】
さらに、状態1302の軽故障の定義として第2の異常判定部206の閾値よりも類似度が大きいものと定義すれば、
【0065】
第1の異常判定部205の閾値の類似度>状態1302の類似度(軽故障)>第2の異常判定部206の閾値の類似度>状態1304の類似度(重故障)がなりたつ。すなわち図14に示したベン図1330のような包含関係が成立する。
【0066】
図15は、図14で示した定義上に第1の異常判定部205の判定結果(判定結果1)の包含関係910、第2の異常判定部206の判定結果(判定結果2)の包含関係920について表したものであり、それぞれ実線の集合境界がそれぞれの異常判定部が類似度大として異常判定を行う境界である。
この包含関係を判定結果1の有無(学習用データ数が十分に存在しないときに発生)を加えて、判定結果1、判定結果2の正常、異常に対する異常程度を表したものが、図15に示した異常程度判定テーブル930である。
【0067】
本発明では、異常程度判定テーブル930が二つの判定結果を組み合わせることによって、軽故障と重故障の二つの異常程度が表現可能となっている点が特徴である(テーブル930の左から4番目の軽故障)。
【0068】
すなわち、図15の包含から、判定結果1単独では軽故障と重故障が識別できず、判定結果2の単独では正常と軽故障が識別できないことがわかるが、判定結果1で異常、判定結果2で正常となれば、組み合わせて異常程度は軽故障と判定できる。
また、判定結果1を利用できない状況下であっても、縮退モードとして重故障の判別は可能である。
図12のS813では、上記で示した異常程度判定テーブル930を用いて異常程度を判定したものである。
【0069】
図16は、図2に示す本発明の異常検知装置107による表示部212の画面例を示したものである。
表示部212の画面1001には、例えば、図示の如く、異常発生時刻および経過時刻1002と、異常発生部位のビジュアル表示1003、表示メッセージ1004、1005が表示される。
表示メッセージ1004、1005には、動作モード、異常発生部位、異常程度、移動体のオペレータ向け指示メッセージなどを含んでいる。
また、メッセージ1004は、軽故障時のメッセージで、異常程度から注意喚起を与えている。
メッセージ1005は、重故障時(縮退モード)のメッセージで、異常程度から警告喚起を与えている。
上記で示した表示画面を備えることで、移動体のオペレータは異常程度を理解した上で適切な行動をとることが可能となる。
【符号の説明】
【0070】
100 鉄道車両
101、102,103,104 輪軸
105 回転速度センサ(速度発電機)
106 音声センサ(マイク)
107 異常検知装置
205 異常判定部1
206 異常判定部2
207 異常程度判定部
212 表示部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の異常検知対象とする複数個体の音声を個体ごとに計測する音声センサと、複数個体の回転速度を個体ごとに計測する回転速度センサと、前記音声センサ、回転速度センサの計測データを入力として各個体の異常を検知する異常検知装置を備えた移動体異常検知システムにおいて、
前記異常検知装置は、各個体の計測データを処理して個体差を低減する入力信号処理手段と、計測データを検知対象データ、別個体データに振り分けるデータ入力切替部と、別個体データと検知対象データから各個体の異常判定を行う異常判定部とを備えることを特徴とする移動体異常検知システム。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体異常検知システムにおいて、前記異常検知対象の個体は、少なくとも台車、輪軸、台車に設置された回転機器のうちいずれか一つであることを特徴とする移動体異常検知システム。
【請求項3】
移動体の各個体に備える各種計測装置と各個体の計測装置からの計測データを入力として個体の異常を検知する異常検知装置とを備え、
前記異常検知装置は、各個体の計測装置からの計測データを処理する入力信号処理手段と、各入力信号処理手段の出力データを学習用データ、検知対象データ、別個体データの少なくともいずれか一つに振り分けるデータ入力切替部と、学習用データと検知対象データから各個体の異常判定を行う第1の異常判定部と、別個体データと検知対象データから各個体の異常判定を行う第2の異常判定部と、前記第1の異常判定部と前記第2の異常判定部の異常判定結果から異常程度を判定する異常程度判定部とを備えることを特徴とする移動体異常検知システム。
【請求項4】
請求項3記載の移動体異常検知システムにおいて、前記1の異常判定部と前記第2の異常判定部は、同一の論理構造を備えることを特徴とする移動体異常検知システム。
【請求項5】
請求項3記載の移動体異常検知システムにおいて、前記異常程度判定部は、学習データのデータ数に応じて前記第1の異常判定部の利用有無を切り替えて縮退動作を行うことを特徴とする移動体異常検知システム。
【請求項6】
請求項1乃至5記載の移動体異常検知システムにおいて、前記異常検知装置は、異常部位、異常程度を表示する表示部を備えることを特徴とする移動体異常検知システム。
【請求項7】
移動体の異常検知対象とする複数個体の音声を個体ごとに計測する音声センサと、複数個体の回転速度を個体ごとに計測する回転速度センサと、前記音声センサ、回転速度センサの計測データを入力として各個体の異常を検知する異常検知装置を備えた移動体において、
前記各個体の計測データを処理して個体差を低減する入力信号処理手段と、計測データを検知対象データ、別個体データに振り分けるデータ入力切替部と、別個体データと検知対象データから各個体の異常判定を行う異常判定部とを含む前記異常検知装置を設置したことを特徴とする移動体。
【請求項8】
請求項7に記載の移動体において、前記移動体が、鉄道車両であり、前期異常検知対象の個体は、少なくとも台車、輪軸、台車に設置された回転機器のうちいずれか一つであることを特徴とする移動体。
【請求項9】
移動体の各個体に備える各種計測装置と各個体の計測装置からの計測データを入力として個体の異常を検知する異常検知装置とを備えた移動体において、
前記各個体の計測装置からの計測データを処理する入力信号処理手段と、各入力信号処理手段の出力データを学習用データ、検知対象データ、別個体データの少なくともいずれか一つに振り分けるデータ入力切替部と、学習用データと検知対象データから各個体の異常判定を行う第1の異常判定部と、別個体データと検知対象データから各個体の異常判定を行う第2の異常判定部と、前記第1の異常判定部と前記第2の異常判定部の異常判定結果から異常程度を判定する異常程度判定部とを含む前記異常検知装置を設置したことを特徴とする移動体。
【請求項10】
請求項9記載の移動体において、前記1の異常判定部と前記第2の異常判定部は、同一の論理構造を備えることを特徴とする移動体。
【請求項1】
移動体の異常検知対象とする複数個体の音声を個体ごとに計測する音声センサと、複数個体の回転速度を個体ごとに計測する回転速度センサと、前記音声センサ、回転速度センサの計測データを入力として各個体の異常を検知する異常検知装置を備えた移動体異常検知システムにおいて、
前記異常検知装置は、各個体の計測データを処理して個体差を低減する入力信号処理手段と、計測データを検知対象データ、別個体データに振り分けるデータ入力切替部と、別個体データと検知対象データから各個体の異常判定を行う異常判定部とを備えることを特徴とする移動体異常検知システム。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体異常検知システムにおいて、前記異常検知対象の個体は、少なくとも台車、輪軸、台車に設置された回転機器のうちいずれか一つであることを特徴とする移動体異常検知システム。
【請求項3】
移動体の各個体に備える各種計測装置と各個体の計測装置からの計測データを入力として個体の異常を検知する異常検知装置とを備え、
前記異常検知装置は、各個体の計測装置からの計測データを処理する入力信号処理手段と、各入力信号処理手段の出力データを学習用データ、検知対象データ、別個体データの少なくともいずれか一つに振り分けるデータ入力切替部と、学習用データと検知対象データから各個体の異常判定を行う第1の異常判定部と、別個体データと検知対象データから各個体の異常判定を行う第2の異常判定部と、前記第1の異常判定部と前記第2の異常判定部の異常判定結果から異常程度を判定する異常程度判定部とを備えることを特徴とする移動体異常検知システム。
【請求項4】
請求項3記載の移動体異常検知システムにおいて、前記1の異常判定部と前記第2の異常判定部は、同一の論理構造を備えることを特徴とする移動体異常検知システム。
【請求項5】
請求項3記載の移動体異常検知システムにおいて、前記異常程度判定部は、学習データのデータ数に応じて前記第1の異常判定部の利用有無を切り替えて縮退動作を行うことを特徴とする移動体異常検知システム。
【請求項6】
請求項1乃至5記載の移動体異常検知システムにおいて、前記異常検知装置は、異常部位、異常程度を表示する表示部を備えることを特徴とする移動体異常検知システム。
【請求項7】
移動体の異常検知対象とする複数個体の音声を個体ごとに計測する音声センサと、複数個体の回転速度を個体ごとに計測する回転速度センサと、前記音声センサ、回転速度センサの計測データを入力として各個体の異常を検知する異常検知装置を備えた移動体において、
前記各個体の計測データを処理して個体差を低減する入力信号処理手段と、計測データを検知対象データ、別個体データに振り分けるデータ入力切替部と、別個体データと検知対象データから各個体の異常判定を行う異常判定部とを含む前記異常検知装置を設置したことを特徴とする移動体。
【請求項8】
請求項7に記載の移動体において、前記移動体が、鉄道車両であり、前期異常検知対象の個体は、少なくとも台車、輪軸、台車に設置された回転機器のうちいずれか一つであることを特徴とする移動体。
【請求項9】
移動体の各個体に備える各種計測装置と各個体の計測装置からの計測データを入力として個体の異常を検知する異常検知装置とを備えた移動体において、
前記各個体の計測装置からの計測データを処理する入力信号処理手段と、各入力信号処理手段の出力データを学習用データ、検知対象データ、別個体データの少なくともいずれか一つに振り分けるデータ入力切替部と、学習用データと検知対象データから各個体の異常判定を行う第1の異常判定部と、別個体データと検知対象データから各個体の異常判定を行う第2の異常判定部と、前記第1の異常判定部と前記第2の異常判定部の異常判定結果から異常程度を判定する異常程度判定部とを含む前記異常検知装置を設置したことを特徴とする移動体。
【請求項10】
請求項9記載の移動体において、前記1の異常判定部と前記第2の異常判定部は、同一の論理構造を備えることを特徴とする移動体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−58171(P2012−58171A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204013(P2010−204013)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
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