移動体追跡装置及び移動体追跡方法
【課題】 移動体と特徴量とを適切に対応付ける確率を高め、移動体を追跡できる確率を高める。
【解決手段】 移動体追跡装置は、観測領域内に移動体が存在するか否かを計測する計測装置12と、計測装置で計測された計測結果から特徴量を抽出する特徴量抽出部16と、抽出された特徴量と当該仮説内の移動体とを対応付けることで複数の新たな仮説を確率的に作成する対応付け部17と、対応付け部により作成された新たな仮説のそれぞれについて、当該新たな仮説内の移動体について追跡する移動体追跡部22を有している。計測装置12による計測、特徴量抽出部16による処理、対応付け部17による処理、移動体追跡部16による処理を所定の周期で繰り返すことで、観測領域内を移動する移動体を追跡する。
【解決手段】 移動体追跡装置は、観測領域内に移動体が存在するか否かを計測する計測装置12と、計測装置で計測された計測結果から特徴量を抽出する特徴量抽出部16と、抽出された特徴量と当該仮説内の移動体とを対応付けることで複数の新たな仮説を確率的に作成する対応付け部17と、対応付け部により作成された新たな仮説のそれぞれについて、当該新たな仮説内の移動体について追跡する移動体追跡部22を有している。計測装置12による計測、特徴量抽出部16による処理、対応付け部17による処理、移動体追跡部16による処理を所定の周期で繰り返すことで、観測領域内を移動する移動体を追跡する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、観測領域内を移動する1又は複数の移動体を追跡するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ・レンジ・ファインダ(LRF)等の計測装置による計測を周期的に行うことによって、観測領域内を移動する移動体を追跡する技術が開発されている(例えば、非特許文献1)。この技術では、まず、計測装置による計測を行い、その計測結果から移動体となり得る特徴量(例えば、位置情報)を抽出する。次に、抽出された特徴量と追跡中の移動体との対応付けを行う。抽出された特徴量と追跡中の移動体とが対応付けられた場合は、抽出された特徴量(例えば、位置情報)により追跡中の移動体の状態量(例えば、位置,速度等)を推定する。これによって、観測領域内を移動する移動体の追跡が行われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】中村克行、趙卉菁、柴崎亮介、坂本圭司、大鋸朋生、鈴川尚穀、「複数のレーザレンジスキャナを用いた歩行者トラッキングとその信頼性評価」,電子情報通信学会論文誌.D−II,情報−システム,II−パターン処理
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の従来技術では、通常、抽出された特徴量と追跡中の移動体との距離に基づいて1種類の対応付けのみを行う。例えば、追跡中の移動体が複数存在している場合、抽出された特徴量は、その特徴量に最も近い移動体にのみ対応付けられる。そして、その特徴量に基づいて、対応付けられた移動体の追跡が行われる。このため、特徴量の近傍に複数の移動体が存在する場合やノイズが混入する場合等においては、移動体と特徴量との対応付けを誤ることがあり、このような場合、移動体の追跡ができなくなるという問題を有していた。
【0005】
本願は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、移動体と特徴量とを適切に対応付ける確率を高め、移動体を追跡できる確率を高めることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の移動体追跡装置は、観測領域内を移動する1又は複数の移動体を追跡する。この移動体追跡装置は、計測装置と、移動体情報記憶部と、特徴量抽出部と、対応付け部と、移動体追跡部と、移動体情報更新部を有する。計測装置は、観測領域内に移動体が存在するか否かを計測する。移動体情報記憶部は、複数の仮説(可能性のある特徴量と移動体の対応付け)のそれぞれについて、当該仮説内で追跡対象となる移動体の状態情報を記憶する。特徴量抽出部は、計測装置で計測された計測結果から特徴量を抽出する。対応付け部は、移動体情報記憶部に記憶されている複数の仮説のそれぞれについて、特徴量抽出部で抽出された特徴量と当該仮説内の移動体との対応付け処理を行う。移動体追跡部は、対応付け部により対応付け処理が行われた仮説のそれぞれについて、当該仮説内の移動体について追跡する。移動体情報更新部は、移動体追跡部の追跡結果を用いて、移動体情報記憶部に記憶される仮説を更新する。そして、計測装置による計測、特徴量抽出部による処理、対応付け部による処理、移動体追跡部による処理及び移動体情報更新部による処理を所定の周期で繰り返すことで、観測領域内を移動する移動体を追跡する。
【0007】
この移動体追跡装置では、複数の仮説を有し、仮説毎に、計測装置の計測結果から抽出された特徴量と、追跡対象である移動体とを対応付ける。このため、1の仮説において対応付けに誤りが生じても、他の仮説では正しく対応付けられる場合が生じる。その結果、従来技術と比較して、移動体を追跡できる確率を高めることができる。
【0008】
上記の移動体追跡部は、複数の仮説のそれぞれについて仮説の重みを算出することができる。そして、移動体情報更新部は、移動体追跡部で算出された仮説の重みを用いて、移動体情報記憶部に記憶される仮説を更新するようにしてもよい。このような構成によると、観測の尤度と事前確率等を用いて仮説の重み(対応付け確率)が算出することができ、移動体情報記憶部に記憶される仮説の更新を適切に行うことができる。
【0009】
また、上記の対応付け部は、特徴量抽出部で抽出された特徴量を、所定の確率で新規な移動体として仮説に追加してもよい。また、仮説内の移動体の中で抽出された特徴量と対応付けられなかったものがある場合、その移動体が特徴量と対応付けられなかった経過時間に基づいて、その移動体を仮説内から削除してもよい。このような構成によると、追跡対象とすべき移動体が適切に仮説に追加され、また、追跡対象とすべきでない移動体が適切に仮説から削除される。このため、追跡すべき移動体を適切に追跡することができる。
【0010】
上記の場合、経過時間が当該移動体に対して予め設定された消滅時間を越えたときに、当該移動体が削除されるように構成することができる。そして、その消滅時間は、予め定められた「消滅時間−消滅確率」の関係となるように移動体毎に設定されていてもよい。また、上記の対応付け部は、特徴量抽出部で抽出された特徴量を所定の確率でノイズとして削除してもよい。このような構成によると、ノイズに対するロバスト性が向上し、計測装置で計測される計測結果にノイズが多く含まれる場合であっても、移動体を追跡することができる。
【0011】
また、本願は、観測領域内を移動する1又は複数の移動体を追跡する移動体追跡方法を開示する。この方法は、観測領域内に移動体が存在するか否かを計測する計測工程と、計測工程で計測された計測結果から特徴量を抽出する抽出工程と、直前の周期で更新された複数の仮説のそれぞれについて、抽出工程で抽出された特徴量と当該仮説内の移動体との対応付け処理を行う対応付け工程と、対応付け工程で対応付け処理が行われた仮説のそれぞれについて、当該新たな仮説内の移動体について追跡処理を行う追跡工程と、追跡工程の追跡結果を用いて仮説を更新する更新工程と、を有している。そして、計測工程、抽出工程、対応付け工程、追跡工程及び更新工程を所定の周期で繰り返し実行することで、観測領域内を移動する移動体を追跡する。
この方法によっても、抽出された特徴量と追跡対象である移動体との対応付けが適切に行われる確率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施例の移動体追跡装置の全体構成を示すブロック図。
【図2a】移動体追跡装置の処理手順を示すフローチャート。
【図2b】図2aのステップS20の移動体数を決定する処理の手順を示すフローチャート。
【図3】レーザレンジファインダの計測結果から抽出された特徴量の一例を示す図。
【図4】移動体情報記憶部に記憶される仮説の内容を説明するための図。
【図5a】対応付け部の処理を説明するための具体例(その1)。
【図5b】対応付け部の処理を説明するための具体例(その2)。
【図6】対応付け確率の算出手順を説明するための図。
【図7】移動体の消滅時刻と消滅確率を説明するグラフ。
【図8】対応付け部の処理を説明するための図。
【図9】作成された仮説毎に追跡処理を行っていることを示す図。
【図10】具体例1に用いた観測値を示す図。
【図11】従来技術に係る方法(最近傍法+カルマンフィルタ)によって、図10に示す観測値を処理した結果を示す図。
【図12】本実施例に係る方法によって、図10に示す観測値を処理した結果を示す図。
【図13】具体例2において、移動体追跡装置を設置した環境を説明するための図。
【図14】図13に示す環境で観測した観測値を示す図。
【図15】本実施例に係る方法によって、図13に示す観測値を処理した結果を示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(実施例) 図1に示すように、本実施例の移動体追跡装置10は、複数のレーザレンジファインダ(以下、LRFという)12a,12b・・12nと、LRF12a,12b・・12nに接続されている演算装置14と、演算装置14に接続されている移動体情報記憶部28及びモニタ26を備えている。
【0014】
LRF12a〜12n(以下、LRF12と表示することがある)は、2次元走査型の距離計測センサである。LRF12は、レーザ発光部を回転させ、レーザ発光部から照射されるレーザ光が横切る平面(計測面)上に存在する物体(移動体)との距離を測定する。具体的には、LRF12は、照射したレーザ光の反射光を検出し、レーザ光を照射してから反射光を検出するまでの時間で物体(移動体)との距離を計測する。レーザ光を照射する平面(計測面)は一定とされ、レーザ光を照射する方向は設定された角度範囲内を一定の角速度で変化する。従って、LRF12は、計測面内の設定された角度範囲を所定の角度間隔で距離計測を行う。LRF12としては、例えば、SICK社製のLMS200や、北陽電機株式会社製のUTM−30LXを用いることができる。
【0015】
図1から明らかなように、本実施例では、複数のLRF12a〜12nにより計測が行われる。各LRF12a〜12nの計測面は、略同一平面上となるように調整されている。また、各LRF12a〜12nの計測周期も同期が図られている。複数のLRF12a〜12nによって計測を行うことで、所望の観測領域を漏れなく計測することができる。なお、各LRF12a〜12nで計測された計測結果は、演算装置14によって統合され、処理される。
【0016】
演算装置14は、LRF12a〜12nの出力に基づいて、観測領域内を移動する移動体(例えば、人、自転車等)を検出し、その検出した移動体を追跡する処理を実行する。演算装置14は、例えば、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータによって構成することができる。演算装置14は、その機能として、特徴量抽出部16と、対応付け部17と、移動体追跡部22と、移動体情報更新部24を備えている。
【0017】
特徴量抽出部16は、LRF12a〜12nの出力結果(計測結果)から特徴量を抽出する。対応付け部17は、追跡対象決定部18と対応付け決定部20とを備えている。追跡対象決定部18は、LRF12a〜12nの出力結果から追跡対象とする新規な移動体を設定する処理と、追跡対象となっている移動体の追跡対象からの削除処理を実行する。対応付け決定部20は、特徴量抽出部16で抽出された特徴量と、追跡対象である移動体との対応付けを行う。移動体追跡部22は、対応付け決定部20で対応付けられた特徴量を用いて、その特徴量と対応付けられた移動体の追跡処理を行う。移動体情報更新部24は、移動体追跡部22の追跡結果を用いて、移動体の状態を記憶する仮説を更新する処理を行う。上述した演算装置14の各部16,17,22,24の処理については後で詳述する。
【0018】
演算装置14で得られた演算結果は、移動体情報記憶部28に記憶され、あるいは、モニタ26に出力される。移動体情報記憶部28には、追跡対象となる移動体の状態情報(位置,速度等)が記憶される。移動体情報記憶部28に記憶される移動体の状態情報は、移動体追跡部22の追跡結果に基づいて更新される。
【0019】
ここで、本実施例の移動体追跡装置10では、複数の仮説1,・・,Nが作成され、仮説毎に追跡対象である1又は複数の移動体(i=1〜T)が設定されている。このため、移動体情報記憶部28には、仮説毎に、その仮説内の移動体の状態情報(位置、速度等)が記憶されている。具体的には、図4に示すように、1つの仮説34は、追跡対象となる移動体36a〜36e毎に、その移動体36a〜36eの状態情報(位置情報,速度情報等)を記憶している。位置情報には、移動体の平均位置及び位置の共分散行列が含まれている。速度情報には、移動体の平均速度、方向及び速度の共分散行列が含まれている。仮説1,2,・・,Nを式で表すと、下記の式となる。ここで、mi,kは、時刻kにおける移動体iの位置、速度の平均を表す。Pi,kは、時刻kにおける移動体iの位置、速度の共分散行列を表す。wkは、時刻kにおける仮説の重みを表す。
【0020】
【数1】
【0021】
次に、上述した移動体追跡装置10で行われる処理を、図2aのフローチャートに従って説明する。移動体追跡装置10は、所定の周期で、図2aに示すステップS12〜S32の処理を繰り返し実行する。これによって、観測領域内にある移動体(物体)の検出と、検出された移動体の追跡が行われる。
【0022】
図2aに示すように、移動体追跡装置10は、まず、LRF12a〜12nを1走査することで、計測面内に存在する物体(移動体となり得る候補)までの距離を計測する(ステップS12)。すなわち、計測面内に物体が存在する場合は、その物体から反射されたレーザ光をLRF12a〜12nで検出し、LRF12a〜12nからその物体までの距離を計測する。一方、計測面内に物体が存在しない場合は、物体から反射光が反射されず、LRF12が反射光を検出することはない。LRF12a〜12nで計測された距離データは演算装置14に入力される。なお、LRF12a〜12nは同期して計測するため、LRF12a〜12nの計測結果は、同一時点における観測領域内の物体の位置情報となる。
【0023】
次に、演算装置14は、ステップS12でLRF12a〜12nにより計測されたデータから、移動体候補となる特徴量を抽出する(ステップS14)。LRF12a〜12nにより計測されたデータから特徴量を抽出する方法としては、公知の種々の方法を用いることができる。例えば、LRF12a〜12nの設置位置が変化しない場合は、LRF12a〜12nで計測される壁や柱などの背景の位置は変化しないため、背景差分をとることによって特徴量(移動体候補)を抽出することができる。一方、LRF12a〜12nを車両等に搭載する場合は、LRF12a〜12nで計測される背景が一定とならないため、隣接する計測点間の距離を利用する「Local Minima法」などを用いて特徴量を抽出することができる。なお、LRF12a〜12nで計測されたデータから抽出された特徴量は、LRF12a〜12nの位置関係に従って統合される。図3に、LRF12a〜12nから入力されたデータから抽出された特徴量の一例を示している。図3より明らかなように、観測領域30内から複数の特徴量32が抽出されている。なお、特徴量32は、観測領域30内の位置情報(x、y)として表される。
【0024】
次に、演算装置14は、ステップS14で抽出された1又は複数の特徴量から1つの特徴量を選択し(ステップS16)、移動体情報記憶部28に記憶されている複数の仮説1,・・,Nの中から1つの仮説を選択する(ステップS18)。次いで、演算装置14は、ステップS18で選択された仮説内で追跡対象となる移動体の数を決定する処理を行う(ステップS20)。既に説明したように、本実施例では、複数の仮説が作成され、各仮説に基づいて移動体の追跡処理が行われる。仮説内には、追跡されていた移動体が観測されなくなることもあれば、新規な移動体が観測されることもある。このため、まず、演算装置14は、仮説内で追跡対象となる移動体の数を決定する処理(図2b)を行う。
【0025】
図2bに示すように、演算装置14は、まず、ステップS16で選択した仮説に登録された移動体のうち、その状態が更新されていない移動体が存在するか否かを判断する(ステップS34)。すなわち、その仮説に登録されている移動体の中で、直前の周期の処理で特徴量と対応付けられていればNOと判断し、特徴量と対応付けられていなければYESと判断する。全ての移動体が特徴量と対応付けられている場合(ステップS34でNO)は、ステップS40に進む。
【0026】
一方、特徴量と対応付けられていない移動体が存在する場合(ステップS34でYES)は、演算装置14は、その移動体が特徴量と対応付けられなくなってからの経過時間が、その移動体に設定された消滅時間を経過したか否かを判断する(ステップS36)。すなわち、本実施例では、仮説に登録された移動体が特徴量と対応付けられないと、その時点からの経過時間を計測する。そして、経過時間が予め設定された消滅時間を越えると、その移動体を仮説から消滅させる。したがって、ステップS36では、その移動体の経過時間が、その移動体に設定された消滅時間を越えたか否かを判断する。これによって、特徴量と対応付けられない移動体が、長時間に亘って仮説内に存在することが防止される。なお、移動体を消滅させる方法としては、上記のような方法に限られない。例えば、移動体が特徴量と対応付けられていない時間を累積し、累積時間が消滅時間を越えたときに、移動体を削除してもよい。
【0027】
移動体の経過時間が消滅時間を経過していない場合(ステップS36でNO)は、演算装置14は、ステップS40に進む。一方、移動体の経過時間が消滅時間を経過している場合(ステップS36でYES)は、演算装置14は、その移動体を仮説から削除し(ステップS38)、ステップS40に進む。これによって、仮説内から、追跡する必要がない移動体が削除される。
【0028】
ステップS40では、演算装置14は、ステップS18で選択した仮説に、新規な移動体を登録するか否かを決定する(ステップS40)。すなわち、図2aのステップS14で抽出された特徴量は、仮説内に登録されている移動体である可能性もあるし、新規な移動体である可能性もある。そこで、演算装置14は、予め定められた確率で仮説内に新規な移動体を追加することを決定し、その追加した移動体とステップS16で選択された特徴量とを対応付ける。これによって、仮説内で追跡対象となる移動体の数が確定する。本実施例では、仮説内に確率的に新規な移動体を追加するため、複数の仮説のうちいくつかでは、ステップS16で選択された特徴量が新規な移動体として登録されるが、それ以外の仮説では新規な移動体としては登録されない。このため、新規な移動体とすることが誤っていても、それが問題となることはない。なお、仮説内への新規な移動体の追加は、観測された特徴量を限度に行うことが好ましい。すなわち、仮説内の移動体の数が、ステップS14で抽出された特徴量の数を超えないことが好ましい。したがって、仮説に3つの移動体が既に登録されている場合において、抽出された特徴量が3つのときは、新たな移動体は追加しないことが好ましい。これによって、仮説内の移動体数が多くなり過ぎることを防止することができる。
【0029】
次に、演算装置14は、図2aのステップS22に戻って、ステップS20(詳細には、図2bのステップS40)の処理において、仮説内に新規な移動体を追加したか否かを判断する(ステップS22)。新規な移動体を追加している場合(ステップS22でYES)は、ステップS16で選択した特徴量と新規な移動体とが対応付けられているため、ステップS26に進む。新規な移動体を追加していない場合(ステップS22でNO)は、演算装置14は、ステップS16で選択された特徴量と、ステップS18で選択した仮説内の移動体とを対応付ける処理を実施する(ステップS24)。例えば、図5aに示すように、選択した仮説(時刻t(1周期前))に3つの移動体36a〜36cが記憶されており、時刻(t+1)で3つの特徴量32a〜32cが抽出された場合、例えば、特徴量32aは、移動体36a〜36cのそれぞれと対応付けることができる。このため、特徴量32aを移動体36a〜36cのいずれかと対応付ける。なお、本実施例では、複数の仮説1,2・・Nを設定するため、特徴量32aが移動体36a〜36cのいずれかにのみ対応付けられることはなく、移動体36a〜36cのそれぞれに対応付けられる。したがって、複数の仮説1,2・・Nには、3つの移動体36a〜36cと3つの特徴量32a〜32cとを組合せて作られる6通りの仮説が存在することとなる。なお、仮説に記憶されている移動体(時刻t)と抽出された特徴量(時刻t+1)とが対応付けられないことが明らかな場合(例えば、移動体の位置(時刻t)と移動速度から時刻t+1で特徴量の位置に移動することが不可能な場合等)は、そのような組合せについては対応付けないようにしてもよい。また、後述するように、本実施例では、ステップS14で抽出した特徴量は、所定の確率でノイズとして削除される。このため、ノイズとして削除された場合は、その特徴量と移動体とが対応付けられることはない。
【0030】
次に、演算装置14は、ステップS20で新規に登録された移動体、又は、ステップS24で対応付けられた移動体に対して追跡処理を行う(ステップS24)。すなわち、ステップS20で新規に登録された移動体に対しては、観測された現在の位置情報(ステップS16で選択された特徴量の位置情報)を用いて、移動体の現在の状態(位置、速度等)を推定する。また、ステップS24で対応付けられた移動体に対しては、直前の周期のその移動体の状態(位置、速度等)と、観測された現在の位置情報(ステップS16で選択された特徴量の位置情報)を用いて、移動体の現在の状態(位置、速度等)を推定する。この追跡処理によって、移動体の位置及び速度の平均と、移動体の位置及び速度の共分散行列と、移動体と特徴量との対応付けの尤度(いわゆる、観測の尤度)が算出される。移動体と特徴量との対応付けの尤度は、仮説の重みを算出する際に用いられる。このような移動体の追跡処理には、例えば、カルマンフィルタ等(Kalman Filter, Extended Kalman Filter, Unscented Kalman Filter)を用いることができる。
【0031】
次いで、演算装置14は、全ての仮説1,2,・・,Nに対して、ステップS20〜S26の処理を行っているか否かを判断する(ステップS28)。全ての仮説1,2,・・,Nに対して処理を行っていない場合(ステップS28でNO)は、ステップS18に戻って、ステップS18からの処理を繰り返す。これによって、全ての仮説1,2,・・,Nにおいて、ステップS16で選択された特徴量と移動体との対応付けが行われ、その移動体の追跡処理が行われる。これによって、対応付けが行われた移動体の現在の状態(位置、速度等)が推定され、その移動体と特徴量との対応付けの尤度が算出される。
【0032】
一方、全ての仮説1,2,・・,Nに対して処理を行っている場合(ステップS28でYES)は、演算装置14は、ステップS14で抽出された全ての特徴量について、ステップS18〜ステップS28の処理を行っているか否かを判断する(ステップS30)。全ての特徴量について処理を行っていない場合(ステップS30でNO)は、ステップS16に戻って、ステップS16からの処理を繰り返す。これによって、ステップS14で抽出された全ての特徴量のそれぞれに対して、全ての仮説1,2,・・,Nにおいて移動体との対応付けが行われ、その移動体の追跡処理が行われる(図9参照)。これによって、全ての仮説1,2,・・,Nにおいて、その仮説内で対応付けられた移動体と特徴量との対応付けの尤度が算出される。仮説の重みは、その仮説内で対応付けられた移動体と特徴量との対応付けの尤度の積によって表すことができる。例えば、例えば、図5aに示す例において、移動体36a〜36cのそれぞれが特徴量32a〜32cのいずれかと対応付けられている場合、移動体36a〜36cと特徴量32a〜32cの組合せは3組となる。したがって、移動体と特徴量との対応付けの尤度は3つ算出され、それらの積が仮説の重み(本明細書では、対応付け確率ともいう)となる。
【0033】
一方、全ての特徴量について処理を行っている場合(ステップS30でYES)、演算装置14は、算出された各仮説1,2,・・Nの重みに基づいて、仮説1,2,・・,Nのリサンプリングを行う(ステップS32)。すなわち、上述した処理によって、全ての仮説1,2,・・,Nのそれぞれについて重みwが算出されている。このため、演算装置14は、重みwの高い仮説を多く選択する一方で、重みwの低い仮説を少なく選択して、新たな仮説1,2,・・,Nを作成する。そして、新たな仮説1,2,・・Nに、移動体情報記憶部28に記憶されている仮説1,2,・・Nを更新(書き換え)する。例えば、仮説が4個であり、仮説1の重みが0.5、仮説2の重みが0.3、仮説3の重みが0.1、仮説4の重みが0.1となる場合は、仮説1を新たな仮説1,2として2個作成し、仮説2を新たな仮説3として1個作成し、仮説3又は仮説4を新たな仮説4として1個作成する。そして、新たに作成した仮説1〜4を、移動体情報記憶部28に記憶する。このような処理としては、particle filterを用いることができる。
【0034】
ステップS32の処理が終了すると、演算装置14は、次の周期の処理が開始されるまで待機する。以下、ステップS12からステップS32までの処理が繰り返し実行されることで、移動体の追跡が行われる。上記の説明から明らかなように、ステップS12からステップS32までの処理を繰り返すことで、重みの高い仮説が多く選択されて残り、重みの低い仮説が順次消滅してゆくこととなる。すなわち、移動体と特徴量との対応付けの尤度が低く、算出される重み(対応付け確率)が低い仮説は時間の経過と共に消滅してゆき、移動体と特徴量との対応付けの尤度が高く、算出される重み(対応付け確率)が高い仮説のみが残ることとなる。
【0035】
なお、モニタ26には、移動体情報記憶部28に記憶されている各仮説の追跡結果が表示される。モニタ26に追跡結果を表示する際は、重み(対応付け確率)の最も高い仮説の追跡結果から順に表示することができる。
【0036】
ここで、上述した演算装置14の処理を、図5a〜図8を参照して具体的に説明する。まず、図5aに示す例を考える。図中、移動体36a〜36cから伸びる矢印は、時刻tにおける移動体36a〜36cの速度ベクトルである。図5aに示す例では、選択した仮説(時刻t)には3つの移動体36a〜36cが記憶されており、時刻(t+1)で3つの特徴量32a〜32cが抽出されている。ここでは、移動体36a〜36cが特徴量32a〜32cのいずれかに対応するものとする。このため、移動体36a〜36cと特徴量32a〜32cの組合せは6通りとなり、この6つの組合せ(時刻t+1)について重み(対応付け確率)が算出されることとなる。
【0037】
まず、移動体36a(時刻t)と特徴量32a〜32c(時刻t+1)の対応付けの尤度について考える。時刻tにおける移動体36aの速度ベクトルは、図中の移動体36aから伸びる矢印であり、この矢印は特徴量32c(時刻t+1)に向かって伸びている。このため、移動体36aと特徴量32cが対応する尤度pacが最も高く、移動体36aと特徴量32bが対応する尤度pabは尤度pacよりも低く、また、移動体36aと特徴量32aとが対応する尤度paaは尤度pabより低いと算出できる(すなわち、pac>pab>paa)。同様に、時刻tにおける移動体36bの位置と速度ベクトルから、移動体36bと特徴量32a〜32cとが対応付けられる尤度pba,pbb,pbcが算出される(pbb>pba=pbc)。同様に、時刻tにおける移動体36cの位置と速度ベクトルから、移動体36cと特徴量32a〜32cとが対応付けられる尤度pca,pcb,pccが算出される(pca>pcb>pcc)。したがって、これらの尤度を用いて、移動体36a〜36cと特徴量32a〜32cとを組合せて作成される仮説の重み(対応付け確率)を算出することができる。例えば、(移動体36a−特徴量32c,移動体36b−特徴量32b,移動体36c−特徴量32a)である仮説の重み(対応付け確率)は、pac×pbb×pcaとなる。このように、時刻tにおける移動体36a〜36cの位置と速度ベクトルを考慮することで、各仮説の重み(対応付け確率)を適切に算出することができる。
【0038】
なお、仮説の重み(対応付け確率)は、移動体36a〜36cと特徴量32a〜32cの対応付けの尤度だけではなく、他の要素を考慮して算出することが好ましい。特徴量32a〜32cがノイズである確率や、新規な移動体から抽出されたものである確率を考慮するためである。そこで、特徴量が移動体と対応付けられる事前確率pxを考慮し、仮説の重み(対応付け確率)を、(移動体と特徴量との対応付けに係る尤度)×(事前確率px)で算出してもよい。
【0039】
次に、図5bに示す例を考える。図5bに示す例でも、選択した仮説(時刻t)には3つの移動体36a〜36cが記憶されており、時刻(t+1)で3つの特徴量32d〜32fが抽出されている。ここで、特徴量32d〜32fのうち特徴量32fはノイズであったとする。このため、図5bに示す例において、上述した図5aと同様に、移動体36a〜36cと特徴量32d〜32fとを組合せて仮説を作成すると、作成された仮説は全て誤りということとなる。このため、上述したように本実施例では、抽出(観測)された特徴量32d〜32fのそれぞれは予め設定された確率でノイズであるする。例えば、特徴量32fがノイズである場合は、3つの移動体36a〜36cと2つの特徴量32d,32eとを組合せて仮説を作成する。この場合、3つの移動体36a〜36cのうち1つは、対応する特徴量がないものとされる。したがって、作成される仮説は、例えば、(移動体36a−特徴量32e,移動体36b−なし,移動体36c−特徴量32d,特徴量32f−ノイズ)となる。この仮説において、特徴量32fがノイズである確率pnは、LRF12a〜12nの検出精度に基づいて適宜決めることができる。
【0040】
図6は、移動体36a〜36dと特徴量32との対応付けの例を示している。図6に示す例では、移動体36a〜36dは、時刻tにおいて、位置(図中の実線の○)と、速度ベクトル(図中の矢印)と、位置の共分散行列(図中の点線の楕円)を有している。そして、各移動体36a〜36dと特徴量32との対応付けの尤度は、移動体36a〜36dの位置、速度ベクトル、位置の共分散行列を利用して求められている。図より明らかなように、移動体36bと特徴量32との距離は、移動体36aと特徴量32との距離よりも短く、また、移動体36bの速度ベクトルも移動体36aの速度ベクトルも特徴量32に向かう方向となっている。したがって、位置の共分散行列を考慮しない場合、移動体36aと特徴量32とを対応付ける尤度より、移動体36bと特徴量32とを対応付ける尤度の方が高いと判断されることとなる。一方、図6に示すように、本実施例では位置の共分散行列を考慮するため、移動体36bと比較して、移動体36aは特徴量32の近傍に存在する確率が高くなる。したがって、移動体36aが特徴量32に対応付けられる尤度が0.5とされ、移動体36bが特徴量32と対応付けられる尤度が0.3とされる。なお、図6に示す例では、移動体36cが特徴量と対応付けられる尤度は0.1とされ、移動体36dと特徴量32が対応付けられる尤度は0.06とされる。また、特徴量32がノイズに対応付けられる尤度は0.04となっている。
【0041】
なお、上述したように本実施例では、演算装置14は、抽出された特徴量を、所定の確率で新規の移動体として仮説に追加すると共に、その新規な移動体に消滅時間を設定する。消滅時間は、移動体を消滅させるか否かを決めるためのパラメータであり、図7に示す確率密度でランダムに付与される。したがって、追跡対象として10個の移動体が追加された場合、3個の移動体には約0.5秒の消滅時間が与えられることとなる。このように、消滅時間をランダムな確率で与えているのは、特徴量を新規な移動体として登録するのを確率に基づいて行うことと対応させるためである。これによって、移動体の追加と消滅が適切な確率で生じ、適切な数の追加対象とすることができる。
【0042】
上述した演算装置14の処理をまとめると、図8に示すようになる。すなわち、LRF12a〜12nの計測結果30に基づいて、演算装置14は、複数の仮説1,2、・・Nを作成する。仮説1,2,・・Nのそれぞれは、登録されている移動体の数や、それら移動体と特徴量との対応付けが相違している。
【0043】
上述した説明から明らかなように、本実施例の移動体追跡装置10では、追跡対象である移動体と抽出された特徴量とを組合せて複数の仮説が作成され、それら複数の仮説のそれぞれについて追跡処理が実行される。このため、適切な対応付けが行われる可能性を高めることができ、移動体の追跡精度を向上することができる。また、複数の仮説を作成するため、一部の仮説で誤った対応付けをしていたとしても、他の仮説では適切な対応付けをしている場合がある。このため、トラッキングのロバスト性を向上することができる。
【0044】
また、本実施例の移動体追跡装置10では、作成される複数の仮説のうち、直前の周期までの移動体の追跡状態(例えば、位置、速度、方向等)、移動体の共分散行列等を考慮して対応付け尤度が算出され、対応付け尤度が高い仮説が残るようになっている。このため、必要な仮説(すなわち、適切な対応付けをしている可能性の高い仮説)は残しながら、それ以外の仮説を減らすことができる。
【0045】
また、本実施例の移動体追跡装置10では、抽出された特徴量を所定の確率でノイズに対応付け、また、所定の確率で新規な移動体として登録する。このため、LRF12a〜12nの計測結果にノイズが含まれる場合であっても、適切な対応付けが行われる可能性を高めることができる。その結果、ノイズに対するロバスト性を向上することができる。
【0046】
(具体例1) 次に、上述した本実施例に係る移動体追跡方法によって、移動体の追跡を行った具体例1を説明する。具体例1では、追跡対象として2つの移動体を用い、一方がsin(t)で変化し、他方が‐sin(t)で変化するものとした。また、観測周期は0.005秒とした。図10は、処理対象とした観測値を示している。図中、実線で示されているのは真値であり、×印は観測値である。観測値の30%は壊れた観測として一様に分布させ、観測値の35%は一方の移動体からの観測(ただし、ガウス雑音を重畳)とし、観測値の35%は他方の移動体からの観測(ただし、ガウス雑音を重畳)とした。図11は従来法による追跡結果を示している。従来法では、移動体と特徴量とを距離によって対応付け(いわゆる、最近傍法)し、カルマンフィルタで追跡を行った。図11から明らかなように、従来法では、図中Aの時点までは真値を追跡できているが、その後は真値を追跡できていない。図12は、本実施例に係る方法による追跡結果を示している。図12より明らかなように、本実施例に係る方法では、2つの移動体の真値を追跡できた。
【0047】
(具体例2) 次に、上述した移動体追跡装置10によって、移動体の追跡を行った他の具体例2を説明する。図13に示すように、具体例2では、交差点の手前のAに移動体追跡装置10を設置し、交差点を移動する歩行者の追跡を行った。図13には、歩行者の初期位置と速度ベクトルが示されている。推定した歩行者の状態は、位置(x,y)と速度(vx,vy)とした。図14は、移動体追跡装置10によって観測された観測値を示している。図14に示すように、観測値にはノイズが含まれ、また、オクルージョンによって観測できなかった部分が存在している。図15にトラッキング結果を示している。図15より明らかなように、ノイズ及びオクルージョンが存在しても、歩行者の追跡ができている。
【0048】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0049】
例えば、上述した実施例では、移動体追跡装置10を所定の位置に設置(固定)する例について説明したが、本願の技術はこのような例に限られない。例えば、上述した移動体追跡装置10を車両や自律移動型ロボットに搭載し、進行方向に存在する移動障害物(例えば、自転車、歩行者等)を検出して追跡するようにしてもよい。
【0050】
また、上述した実施例では、特徴量を計測する装置としてLRFを用いたが、本願の技術はこのような形態に限られない。例えば、特徴量を計測する装置として、物体の形状を撮影する画像撮影装置としてもよい。画像撮影装置を用いた場合、歩行者の顔や体等の形状特徴量を計測し、その形状特徴量を用いて移動体(歩行者等)の追跡を行うこととなる。また、異なる種類の計測装置を用いて特徴量を計測してもよい。例えば、LRFと画像撮影装置の両者を用いて特徴量を計測してもよい。また、特徴量を計測する計測装置は1台であってもよいし、複数台としてもよい。観測したい観測領域の特性(大きさ、形状等)に応じて適宜設定することができる。
【0051】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は、複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0052】
10:移動体追跡装置
12:LRF
14:演算装置
16:特徴量抽出部
17:対応付け部
18:追跡対象決定部
20:対応付け決定部
22:移動体追跡部
24:移動体情報更新部
26:モニタ
28:移動体情報記憶部
【技術分野】
【0001】
本願は、観測領域内を移動する1又は複数の移動体を追跡するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ・レンジ・ファインダ(LRF)等の計測装置による計測を周期的に行うことによって、観測領域内を移動する移動体を追跡する技術が開発されている(例えば、非特許文献1)。この技術では、まず、計測装置による計測を行い、その計測結果から移動体となり得る特徴量(例えば、位置情報)を抽出する。次に、抽出された特徴量と追跡中の移動体との対応付けを行う。抽出された特徴量と追跡中の移動体とが対応付けられた場合は、抽出された特徴量(例えば、位置情報)により追跡中の移動体の状態量(例えば、位置,速度等)を推定する。これによって、観測領域内を移動する移動体の追跡が行われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】中村克行、趙卉菁、柴崎亮介、坂本圭司、大鋸朋生、鈴川尚穀、「複数のレーザレンジスキャナを用いた歩行者トラッキングとその信頼性評価」,電子情報通信学会論文誌.D−II,情報−システム,II−パターン処理
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の従来技術では、通常、抽出された特徴量と追跡中の移動体との距離に基づいて1種類の対応付けのみを行う。例えば、追跡中の移動体が複数存在している場合、抽出された特徴量は、その特徴量に最も近い移動体にのみ対応付けられる。そして、その特徴量に基づいて、対応付けられた移動体の追跡が行われる。このため、特徴量の近傍に複数の移動体が存在する場合やノイズが混入する場合等においては、移動体と特徴量との対応付けを誤ることがあり、このような場合、移動体の追跡ができなくなるという問題を有していた。
【0005】
本願は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、移動体と特徴量とを適切に対応付ける確率を高め、移動体を追跡できる確率を高めることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の移動体追跡装置は、観測領域内を移動する1又は複数の移動体を追跡する。この移動体追跡装置は、計測装置と、移動体情報記憶部と、特徴量抽出部と、対応付け部と、移動体追跡部と、移動体情報更新部を有する。計測装置は、観測領域内に移動体が存在するか否かを計測する。移動体情報記憶部は、複数の仮説(可能性のある特徴量と移動体の対応付け)のそれぞれについて、当該仮説内で追跡対象となる移動体の状態情報を記憶する。特徴量抽出部は、計測装置で計測された計測結果から特徴量を抽出する。対応付け部は、移動体情報記憶部に記憶されている複数の仮説のそれぞれについて、特徴量抽出部で抽出された特徴量と当該仮説内の移動体との対応付け処理を行う。移動体追跡部は、対応付け部により対応付け処理が行われた仮説のそれぞれについて、当該仮説内の移動体について追跡する。移動体情報更新部は、移動体追跡部の追跡結果を用いて、移動体情報記憶部に記憶される仮説を更新する。そして、計測装置による計測、特徴量抽出部による処理、対応付け部による処理、移動体追跡部による処理及び移動体情報更新部による処理を所定の周期で繰り返すことで、観測領域内を移動する移動体を追跡する。
【0007】
この移動体追跡装置では、複数の仮説を有し、仮説毎に、計測装置の計測結果から抽出された特徴量と、追跡対象である移動体とを対応付ける。このため、1の仮説において対応付けに誤りが生じても、他の仮説では正しく対応付けられる場合が生じる。その結果、従来技術と比較して、移動体を追跡できる確率を高めることができる。
【0008】
上記の移動体追跡部は、複数の仮説のそれぞれについて仮説の重みを算出することができる。そして、移動体情報更新部は、移動体追跡部で算出された仮説の重みを用いて、移動体情報記憶部に記憶される仮説を更新するようにしてもよい。このような構成によると、観測の尤度と事前確率等を用いて仮説の重み(対応付け確率)が算出することができ、移動体情報記憶部に記憶される仮説の更新を適切に行うことができる。
【0009】
また、上記の対応付け部は、特徴量抽出部で抽出された特徴量を、所定の確率で新規な移動体として仮説に追加してもよい。また、仮説内の移動体の中で抽出された特徴量と対応付けられなかったものがある場合、その移動体が特徴量と対応付けられなかった経過時間に基づいて、その移動体を仮説内から削除してもよい。このような構成によると、追跡対象とすべき移動体が適切に仮説に追加され、また、追跡対象とすべきでない移動体が適切に仮説から削除される。このため、追跡すべき移動体を適切に追跡することができる。
【0010】
上記の場合、経過時間が当該移動体に対して予め設定された消滅時間を越えたときに、当該移動体が削除されるように構成することができる。そして、その消滅時間は、予め定められた「消滅時間−消滅確率」の関係となるように移動体毎に設定されていてもよい。また、上記の対応付け部は、特徴量抽出部で抽出された特徴量を所定の確率でノイズとして削除してもよい。このような構成によると、ノイズに対するロバスト性が向上し、計測装置で計測される計測結果にノイズが多く含まれる場合であっても、移動体を追跡することができる。
【0011】
また、本願は、観測領域内を移動する1又は複数の移動体を追跡する移動体追跡方法を開示する。この方法は、観測領域内に移動体が存在するか否かを計測する計測工程と、計測工程で計測された計測結果から特徴量を抽出する抽出工程と、直前の周期で更新された複数の仮説のそれぞれについて、抽出工程で抽出された特徴量と当該仮説内の移動体との対応付け処理を行う対応付け工程と、対応付け工程で対応付け処理が行われた仮説のそれぞれについて、当該新たな仮説内の移動体について追跡処理を行う追跡工程と、追跡工程の追跡結果を用いて仮説を更新する更新工程と、を有している。そして、計測工程、抽出工程、対応付け工程、追跡工程及び更新工程を所定の周期で繰り返し実行することで、観測領域内を移動する移動体を追跡する。
この方法によっても、抽出された特徴量と追跡対象である移動体との対応付けが適切に行われる確率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施例の移動体追跡装置の全体構成を示すブロック図。
【図2a】移動体追跡装置の処理手順を示すフローチャート。
【図2b】図2aのステップS20の移動体数を決定する処理の手順を示すフローチャート。
【図3】レーザレンジファインダの計測結果から抽出された特徴量の一例を示す図。
【図4】移動体情報記憶部に記憶される仮説の内容を説明するための図。
【図5a】対応付け部の処理を説明するための具体例(その1)。
【図5b】対応付け部の処理を説明するための具体例(その2)。
【図6】対応付け確率の算出手順を説明するための図。
【図7】移動体の消滅時刻と消滅確率を説明するグラフ。
【図8】対応付け部の処理を説明するための図。
【図9】作成された仮説毎に追跡処理を行っていることを示す図。
【図10】具体例1に用いた観測値を示す図。
【図11】従来技術に係る方法(最近傍法+カルマンフィルタ)によって、図10に示す観測値を処理した結果を示す図。
【図12】本実施例に係る方法によって、図10に示す観測値を処理した結果を示す図。
【図13】具体例2において、移動体追跡装置を設置した環境を説明するための図。
【図14】図13に示す環境で観測した観測値を示す図。
【図15】本実施例に係る方法によって、図13に示す観測値を処理した結果を示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(実施例) 図1に示すように、本実施例の移動体追跡装置10は、複数のレーザレンジファインダ(以下、LRFという)12a,12b・・12nと、LRF12a,12b・・12nに接続されている演算装置14と、演算装置14に接続されている移動体情報記憶部28及びモニタ26を備えている。
【0014】
LRF12a〜12n(以下、LRF12と表示することがある)は、2次元走査型の距離計測センサである。LRF12は、レーザ発光部を回転させ、レーザ発光部から照射されるレーザ光が横切る平面(計測面)上に存在する物体(移動体)との距離を測定する。具体的には、LRF12は、照射したレーザ光の反射光を検出し、レーザ光を照射してから反射光を検出するまでの時間で物体(移動体)との距離を計測する。レーザ光を照射する平面(計測面)は一定とされ、レーザ光を照射する方向は設定された角度範囲内を一定の角速度で変化する。従って、LRF12は、計測面内の設定された角度範囲を所定の角度間隔で距離計測を行う。LRF12としては、例えば、SICK社製のLMS200や、北陽電機株式会社製のUTM−30LXを用いることができる。
【0015】
図1から明らかなように、本実施例では、複数のLRF12a〜12nにより計測が行われる。各LRF12a〜12nの計測面は、略同一平面上となるように調整されている。また、各LRF12a〜12nの計測周期も同期が図られている。複数のLRF12a〜12nによって計測を行うことで、所望の観測領域を漏れなく計測することができる。なお、各LRF12a〜12nで計測された計測結果は、演算装置14によって統合され、処理される。
【0016】
演算装置14は、LRF12a〜12nの出力に基づいて、観測領域内を移動する移動体(例えば、人、自転車等)を検出し、その検出した移動体を追跡する処理を実行する。演算装置14は、例えば、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータによって構成することができる。演算装置14は、その機能として、特徴量抽出部16と、対応付け部17と、移動体追跡部22と、移動体情報更新部24を備えている。
【0017】
特徴量抽出部16は、LRF12a〜12nの出力結果(計測結果)から特徴量を抽出する。対応付け部17は、追跡対象決定部18と対応付け決定部20とを備えている。追跡対象決定部18は、LRF12a〜12nの出力結果から追跡対象とする新規な移動体を設定する処理と、追跡対象となっている移動体の追跡対象からの削除処理を実行する。対応付け決定部20は、特徴量抽出部16で抽出された特徴量と、追跡対象である移動体との対応付けを行う。移動体追跡部22は、対応付け決定部20で対応付けられた特徴量を用いて、その特徴量と対応付けられた移動体の追跡処理を行う。移動体情報更新部24は、移動体追跡部22の追跡結果を用いて、移動体の状態を記憶する仮説を更新する処理を行う。上述した演算装置14の各部16,17,22,24の処理については後で詳述する。
【0018】
演算装置14で得られた演算結果は、移動体情報記憶部28に記憶され、あるいは、モニタ26に出力される。移動体情報記憶部28には、追跡対象となる移動体の状態情報(位置,速度等)が記憶される。移動体情報記憶部28に記憶される移動体の状態情報は、移動体追跡部22の追跡結果に基づいて更新される。
【0019】
ここで、本実施例の移動体追跡装置10では、複数の仮説1,・・,Nが作成され、仮説毎に追跡対象である1又は複数の移動体(i=1〜T)が設定されている。このため、移動体情報記憶部28には、仮説毎に、その仮説内の移動体の状態情報(位置、速度等)が記憶されている。具体的には、図4に示すように、1つの仮説34は、追跡対象となる移動体36a〜36e毎に、その移動体36a〜36eの状態情報(位置情報,速度情報等)を記憶している。位置情報には、移動体の平均位置及び位置の共分散行列が含まれている。速度情報には、移動体の平均速度、方向及び速度の共分散行列が含まれている。仮説1,2,・・,Nを式で表すと、下記の式となる。ここで、mi,kは、時刻kにおける移動体iの位置、速度の平均を表す。Pi,kは、時刻kにおける移動体iの位置、速度の共分散行列を表す。wkは、時刻kにおける仮説の重みを表す。
【0020】
【数1】
【0021】
次に、上述した移動体追跡装置10で行われる処理を、図2aのフローチャートに従って説明する。移動体追跡装置10は、所定の周期で、図2aに示すステップS12〜S32の処理を繰り返し実行する。これによって、観測領域内にある移動体(物体)の検出と、検出された移動体の追跡が行われる。
【0022】
図2aに示すように、移動体追跡装置10は、まず、LRF12a〜12nを1走査することで、計測面内に存在する物体(移動体となり得る候補)までの距離を計測する(ステップS12)。すなわち、計測面内に物体が存在する場合は、その物体から反射されたレーザ光をLRF12a〜12nで検出し、LRF12a〜12nからその物体までの距離を計測する。一方、計測面内に物体が存在しない場合は、物体から反射光が反射されず、LRF12が反射光を検出することはない。LRF12a〜12nで計測された距離データは演算装置14に入力される。なお、LRF12a〜12nは同期して計測するため、LRF12a〜12nの計測結果は、同一時点における観測領域内の物体の位置情報となる。
【0023】
次に、演算装置14は、ステップS12でLRF12a〜12nにより計測されたデータから、移動体候補となる特徴量を抽出する(ステップS14)。LRF12a〜12nにより計測されたデータから特徴量を抽出する方法としては、公知の種々の方法を用いることができる。例えば、LRF12a〜12nの設置位置が変化しない場合は、LRF12a〜12nで計測される壁や柱などの背景の位置は変化しないため、背景差分をとることによって特徴量(移動体候補)を抽出することができる。一方、LRF12a〜12nを車両等に搭載する場合は、LRF12a〜12nで計測される背景が一定とならないため、隣接する計測点間の距離を利用する「Local Minima法」などを用いて特徴量を抽出することができる。なお、LRF12a〜12nで計測されたデータから抽出された特徴量は、LRF12a〜12nの位置関係に従って統合される。図3に、LRF12a〜12nから入力されたデータから抽出された特徴量の一例を示している。図3より明らかなように、観測領域30内から複数の特徴量32が抽出されている。なお、特徴量32は、観測領域30内の位置情報(x、y)として表される。
【0024】
次に、演算装置14は、ステップS14で抽出された1又は複数の特徴量から1つの特徴量を選択し(ステップS16)、移動体情報記憶部28に記憶されている複数の仮説1,・・,Nの中から1つの仮説を選択する(ステップS18)。次いで、演算装置14は、ステップS18で選択された仮説内で追跡対象となる移動体の数を決定する処理を行う(ステップS20)。既に説明したように、本実施例では、複数の仮説が作成され、各仮説に基づいて移動体の追跡処理が行われる。仮説内には、追跡されていた移動体が観測されなくなることもあれば、新規な移動体が観測されることもある。このため、まず、演算装置14は、仮説内で追跡対象となる移動体の数を決定する処理(図2b)を行う。
【0025】
図2bに示すように、演算装置14は、まず、ステップS16で選択した仮説に登録された移動体のうち、その状態が更新されていない移動体が存在するか否かを判断する(ステップS34)。すなわち、その仮説に登録されている移動体の中で、直前の周期の処理で特徴量と対応付けられていればNOと判断し、特徴量と対応付けられていなければYESと判断する。全ての移動体が特徴量と対応付けられている場合(ステップS34でNO)は、ステップS40に進む。
【0026】
一方、特徴量と対応付けられていない移動体が存在する場合(ステップS34でYES)は、演算装置14は、その移動体が特徴量と対応付けられなくなってからの経過時間が、その移動体に設定された消滅時間を経過したか否かを判断する(ステップS36)。すなわち、本実施例では、仮説に登録された移動体が特徴量と対応付けられないと、その時点からの経過時間を計測する。そして、経過時間が予め設定された消滅時間を越えると、その移動体を仮説から消滅させる。したがって、ステップS36では、その移動体の経過時間が、その移動体に設定された消滅時間を越えたか否かを判断する。これによって、特徴量と対応付けられない移動体が、長時間に亘って仮説内に存在することが防止される。なお、移動体を消滅させる方法としては、上記のような方法に限られない。例えば、移動体が特徴量と対応付けられていない時間を累積し、累積時間が消滅時間を越えたときに、移動体を削除してもよい。
【0027】
移動体の経過時間が消滅時間を経過していない場合(ステップS36でNO)は、演算装置14は、ステップS40に進む。一方、移動体の経過時間が消滅時間を経過している場合(ステップS36でYES)は、演算装置14は、その移動体を仮説から削除し(ステップS38)、ステップS40に進む。これによって、仮説内から、追跡する必要がない移動体が削除される。
【0028】
ステップS40では、演算装置14は、ステップS18で選択した仮説に、新規な移動体を登録するか否かを決定する(ステップS40)。すなわち、図2aのステップS14で抽出された特徴量は、仮説内に登録されている移動体である可能性もあるし、新規な移動体である可能性もある。そこで、演算装置14は、予め定められた確率で仮説内に新規な移動体を追加することを決定し、その追加した移動体とステップS16で選択された特徴量とを対応付ける。これによって、仮説内で追跡対象となる移動体の数が確定する。本実施例では、仮説内に確率的に新規な移動体を追加するため、複数の仮説のうちいくつかでは、ステップS16で選択された特徴量が新規な移動体として登録されるが、それ以外の仮説では新規な移動体としては登録されない。このため、新規な移動体とすることが誤っていても、それが問題となることはない。なお、仮説内への新規な移動体の追加は、観測された特徴量を限度に行うことが好ましい。すなわち、仮説内の移動体の数が、ステップS14で抽出された特徴量の数を超えないことが好ましい。したがって、仮説に3つの移動体が既に登録されている場合において、抽出された特徴量が3つのときは、新たな移動体は追加しないことが好ましい。これによって、仮説内の移動体数が多くなり過ぎることを防止することができる。
【0029】
次に、演算装置14は、図2aのステップS22に戻って、ステップS20(詳細には、図2bのステップS40)の処理において、仮説内に新規な移動体を追加したか否かを判断する(ステップS22)。新規な移動体を追加している場合(ステップS22でYES)は、ステップS16で選択した特徴量と新規な移動体とが対応付けられているため、ステップS26に進む。新規な移動体を追加していない場合(ステップS22でNO)は、演算装置14は、ステップS16で選択された特徴量と、ステップS18で選択した仮説内の移動体とを対応付ける処理を実施する(ステップS24)。例えば、図5aに示すように、選択した仮説(時刻t(1周期前))に3つの移動体36a〜36cが記憶されており、時刻(t+1)で3つの特徴量32a〜32cが抽出された場合、例えば、特徴量32aは、移動体36a〜36cのそれぞれと対応付けることができる。このため、特徴量32aを移動体36a〜36cのいずれかと対応付ける。なお、本実施例では、複数の仮説1,2・・Nを設定するため、特徴量32aが移動体36a〜36cのいずれかにのみ対応付けられることはなく、移動体36a〜36cのそれぞれに対応付けられる。したがって、複数の仮説1,2・・Nには、3つの移動体36a〜36cと3つの特徴量32a〜32cとを組合せて作られる6通りの仮説が存在することとなる。なお、仮説に記憶されている移動体(時刻t)と抽出された特徴量(時刻t+1)とが対応付けられないことが明らかな場合(例えば、移動体の位置(時刻t)と移動速度から時刻t+1で特徴量の位置に移動することが不可能な場合等)は、そのような組合せについては対応付けないようにしてもよい。また、後述するように、本実施例では、ステップS14で抽出した特徴量は、所定の確率でノイズとして削除される。このため、ノイズとして削除された場合は、その特徴量と移動体とが対応付けられることはない。
【0030】
次に、演算装置14は、ステップS20で新規に登録された移動体、又は、ステップS24で対応付けられた移動体に対して追跡処理を行う(ステップS24)。すなわち、ステップS20で新規に登録された移動体に対しては、観測された現在の位置情報(ステップS16で選択された特徴量の位置情報)を用いて、移動体の現在の状態(位置、速度等)を推定する。また、ステップS24で対応付けられた移動体に対しては、直前の周期のその移動体の状態(位置、速度等)と、観測された現在の位置情報(ステップS16で選択された特徴量の位置情報)を用いて、移動体の現在の状態(位置、速度等)を推定する。この追跡処理によって、移動体の位置及び速度の平均と、移動体の位置及び速度の共分散行列と、移動体と特徴量との対応付けの尤度(いわゆる、観測の尤度)が算出される。移動体と特徴量との対応付けの尤度は、仮説の重みを算出する際に用いられる。このような移動体の追跡処理には、例えば、カルマンフィルタ等(Kalman Filter, Extended Kalman Filter, Unscented Kalman Filter)を用いることができる。
【0031】
次いで、演算装置14は、全ての仮説1,2,・・,Nに対して、ステップS20〜S26の処理を行っているか否かを判断する(ステップS28)。全ての仮説1,2,・・,Nに対して処理を行っていない場合(ステップS28でNO)は、ステップS18に戻って、ステップS18からの処理を繰り返す。これによって、全ての仮説1,2,・・,Nにおいて、ステップS16で選択された特徴量と移動体との対応付けが行われ、その移動体の追跡処理が行われる。これによって、対応付けが行われた移動体の現在の状態(位置、速度等)が推定され、その移動体と特徴量との対応付けの尤度が算出される。
【0032】
一方、全ての仮説1,2,・・,Nに対して処理を行っている場合(ステップS28でYES)は、演算装置14は、ステップS14で抽出された全ての特徴量について、ステップS18〜ステップS28の処理を行っているか否かを判断する(ステップS30)。全ての特徴量について処理を行っていない場合(ステップS30でNO)は、ステップS16に戻って、ステップS16からの処理を繰り返す。これによって、ステップS14で抽出された全ての特徴量のそれぞれに対して、全ての仮説1,2,・・,Nにおいて移動体との対応付けが行われ、その移動体の追跡処理が行われる(図9参照)。これによって、全ての仮説1,2,・・,Nにおいて、その仮説内で対応付けられた移動体と特徴量との対応付けの尤度が算出される。仮説の重みは、その仮説内で対応付けられた移動体と特徴量との対応付けの尤度の積によって表すことができる。例えば、例えば、図5aに示す例において、移動体36a〜36cのそれぞれが特徴量32a〜32cのいずれかと対応付けられている場合、移動体36a〜36cと特徴量32a〜32cの組合せは3組となる。したがって、移動体と特徴量との対応付けの尤度は3つ算出され、それらの積が仮説の重み(本明細書では、対応付け確率ともいう)となる。
【0033】
一方、全ての特徴量について処理を行っている場合(ステップS30でYES)、演算装置14は、算出された各仮説1,2,・・Nの重みに基づいて、仮説1,2,・・,Nのリサンプリングを行う(ステップS32)。すなわち、上述した処理によって、全ての仮説1,2,・・,Nのそれぞれについて重みwが算出されている。このため、演算装置14は、重みwの高い仮説を多く選択する一方で、重みwの低い仮説を少なく選択して、新たな仮説1,2,・・,Nを作成する。そして、新たな仮説1,2,・・Nに、移動体情報記憶部28に記憶されている仮説1,2,・・Nを更新(書き換え)する。例えば、仮説が4個であり、仮説1の重みが0.5、仮説2の重みが0.3、仮説3の重みが0.1、仮説4の重みが0.1となる場合は、仮説1を新たな仮説1,2として2個作成し、仮説2を新たな仮説3として1個作成し、仮説3又は仮説4を新たな仮説4として1個作成する。そして、新たに作成した仮説1〜4を、移動体情報記憶部28に記憶する。このような処理としては、particle filterを用いることができる。
【0034】
ステップS32の処理が終了すると、演算装置14は、次の周期の処理が開始されるまで待機する。以下、ステップS12からステップS32までの処理が繰り返し実行されることで、移動体の追跡が行われる。上記の説明から明らかなように、ステップS12からステップS32までの処理を繰り返すことで、重みの高い仮説が多く選択されて残り、重みの低い仮説が順次消滅してゆくこととなる。すなわち、移動体と特徴量との対応付けの尤度が低く、算出される重み(対応付け確率)が低い仮説は時間の経過と共に消滅してゆき、移動体と特徴量との対応付けの尤度が高く、算出される重み(対応付け確率)が高い仮説のみが残ることとなる。
【0035】
なお、モニタ26には、移動体情報記憶部28に記憶されている各仮説の追跡結果が表示される。モニタ26に追跡結果を表示する際は、重み(対応付け確率)の最も高い仮説の追跡結果から順に表示することができる。
【0036】
ここで、上述した演算装置14の処理を、図5a〜図8を参照して具体的に説明する。まず、図5aに示す例を考える。図中、移動体36a〜36cから伸びる矢印は、時刻tにおける移動体36a〜36cの速度ベクトルである。図5aに示す例では、選択した仮説(時刻t)には3つの移動体36a〜36cが記憶されており、時刻(t+1)で3つの特徴量32a〜32cが抽出されている。ここでは、移動体36a〜36cが特徴量32a〜32cのいずれかに対応するものとする。このため、移動体36a〜36cと特徴量32a〜32cの組合せは6通りとなり、この6つの組合せ(時刻t+1)について重み(対応付け確率)が算出されることとなる。
【0037】
まず、移動体36a(時刻t)と特徴量32a〜32c(時刻t+1)の対応付けの尤度について考える。時刻tにおける移動体36aの速度ベクトルは、図中の移動体36aから伸びる矢印であり、この矢印は特徴量32c(時刻t+1)に向かって伸びている。このため、移動体36aと特徴量32cが対応する尤度pacが最も高く、移動体36aと特徴量32bが対応する尤度pabは尤度pacよりも低く、また、移動体36aと特徴量32aとが対応する尤度paaは尤度pabより低いと算出できる(すなわち、pac>pab>paa)。同様に、時刻tにおける移動体36bの位置と速度ベクトルから、移動体36bと特徴量32a〜32cとが対応付けられる尤度pba,pbb,pbcが算出される(pbb>pba=pbc)。同様に、時刻tにおける移動体36cの位置と速度ベクトルから、移動体36cと特徴量32a〜32cとが対応付けられる尤度pca,pcb,pccが算出される(pca>pcb>pcc)。したがって、これらの尤度を用いて、移動体36a〜36cと特徴量32a〜32cとを組合せて作成される仮説の重み(対応付け確率)を算出することができる。例えば、(移動体36a−特徴量32c,移動体36b−特徴量32b,移動体36c−特徴量32a)である仮説の重み(対応付け確率)は、pac×pbb×pcaとなる。このように、時刻tにおける移動体36a〜36cの位置と速度ベクトルを考慮することで、各仮説の重み(対応付け確率)を適切に算出することができる。
【0038】
なお、仮説の重み(対応付け確率)は、移動体36a〜36cと特徴量32a〜32cの対応付けの尤度だけではなく、他の要素を考慮して算出することが好ましい。特徴量32a〜32cがノイズである確率や、新規な移動体から抽出されたものである確率を考慮するためである。そこで、特徴量が移動体と対応付けられる事前確率pxを考慮し、仮説の重み(対応付け確率)を、(移動体と特徴量との対応付けに係る尤度)×(事前確率px)で算出してもよい。
【0039】
次に、図5bに示す例を考える。図5bに示す例でも、選択した仮説(時刻t)には3つの移動体36a〜36cが記憶されており、時刻(t+1)で3つの特徴量32d〜32fが抽出されている。ここで、特徴量32d〜32fのうち特徴量32fはノイズであったとする。このため、図5bに示す例において、上述した図5aと同様に、移動体36a〜36cと特徴量32d〜32fとを組合せて仮説を作成すると、作成された仮説は全て誤りということとなる。このため、上述したように本実施例では、抽出(観測)された特徴量32d〜32fのそれぞれは予め設定された確率でノイズであるする。例えば、特徴量32fがノイズである場合は、3つの移動体36a〜36cと2つの特徴量32d,32eとを組合せて仮説を作成する。この場合、3つの移動体36a〜36cのうち1つは、対応する特徴量がないものとされる。したがって、作成される仮説は、例えば、(移動体36a−特徴量32e,移動体36b−なし,移動体36c−特徴量32d,特徴量32f−ノイズ)となる。この仮説において、特徴量32fがノイズである確率pnは、LRF12a〜12nの検出精度に基づいて適宜決めることができる。
【0040】
図6は、移動体36a〜36dと特徴量32との対応付けの例を示している。図6に示す例では、移動体36a〜36dは、時刻tにおいて、位置(図中の実線の○)と、速度ベクトル(図中の矢印)と、位置の共分散行列(図中の点線の楕円)を有している。そして、各移動体36a〜36dと特徴量32との対応付けの尤度は、移動体36a〜36dの位置、速度ベクトル、位置の共分散行列を利用して求められている。図より明らかなように、移動体36bと特徴量32との距離は、移動体36aと特徴量32との距離よりも短く、また、移動体36bの速度ベクトルも移動体36aの速度ベクトルも特徴量32に向かう方向となっている。したがって、位置の共分散行列を考慮しない場合、移動体36aと特徴量32とを対応付ける尤度より、移動体36bと特徴量32とを対応付ける尤度の方が高いと判断されることとなる。一方、図6に示すように、本実施例では位置の共分散行列を考慮するため、移動体36bと比較して、移動体36aは特徴量32の近傍に存在する確率が高くなる。したがって、移動体36aが特徴量32に対応付けられる尤度が0.5とされ、移動体36bが特徴量32と対応付けられる尤度が0.3とされる。なお、図6に示す例では、移動体36cが特徴量と対応付けられる尤度は0.1とされ、移動体36dと特徴量32が対応付けられる尤度は0.06とされる。また、特徴量32がノイズに対応付けられる尤度は0.04となっている。
【0041】
なお、上述したように本実施例では、演算装置14は、抽出された特徴量を、所定の確率で新規の移動体として仮説に追加すると共に、その新規な移動体に消滅時間を設定する。消滅時間は、移動体を消滅させるか否かを決めるためのパラメータであり、図7に示す確率密度でランダムに付与される。したがって、追跡対象として10個の移動体が追加された場合、3個の移動体には約0.5秒の消滅時間が与えられることとなる。このように、消滅時間をランダムな確率で与えているのは、特徴量を新規な移動体として登録するのを確率に基づいて行うことと対応させるためである。これによって、移動体の追加と消滅が適切な確率で生じ、適切な数の追加対象とすることができる。
【0042】
上述した演算装置14の処理をまとめると、図8に示すようになる。すなわち、LRF12a〜12nの計測結果30に基づいて、演算装置14は、複数の仮説1,2、・・Nを作成する。仮説1,2,・・Nのそれぞれは、登録されている移動体の数や、それら移動体と特徴量との対応付けが相違している。
【0043】
上述した説明から明らかなように、本実施例の移動体追跡装置10では、追跡対象である移動体と抽出された特徴量とを組合せて複数の仮説が作成され、それら複数の仮説のそれぞれについて追跡処理が実行される。このため、適切な対応付けが行われる可能性を高めることができ、移動体の追跡精度を向上することができる。また、複数の仮説を作成するため、一部の仮説で誤った対応付けをしていたとしても、他の仮説では適切な対応付けをしている場合がある。このため、トラッキングのロバスト性を向上することができる。
【0044】
また、本実施例の移動体追跡装置10では、作成される複数の仮説のうち、直前の周期までの移動体の追跡状態(例えば、位置、速度、方向等)、移動体の共分散行列等を考慮して対応付け尤度が算出され、対応付け尤度が高い仮説が残るようになっている。このため、必要な仮説(すなわち、適切な対応付けをしている可能性の高い仮説)は残しながら、それ以外の仮説を減らすことができる。
【0045】
また、本実施例の移動体追跡装置10では、抽出された特徴量を所定の確率でノイズに対応付け、また、所定の確率で新規な移動体として登録する。このため、LRF12a〜12nの計測結果にノイズが含まれる場合であっても、適切な対応付けが行われる可能性を高めることができる。その結果、ノイズに対するロバスト性を向上することができる。
【0046】
(具体例1) 次に、上述した本実施例に係る移動体追跡方法によって、移動体の追跡を行った具体例1を説明する。具体例1では、追跡対象として2つの移動体を用い、一方がsin(t)で変化し、他方が‐sin(t)で変化するものとした。また、観測周期は0.005秒とした。図10は、処理対象とした観測値を示している。図中、実線で示されているのは真値であり、×印は観測値である。観測値の30%は壊れた観測として一様に分布させ、観測値の35%は一方の移動体からの観測(ただし、ガウス雑音を重畳)とし、観測値の35%は他方の移動体からの観測(ただし、ガウス雑音を重畳)とした。図11は従来法による追跡結果を示している。従来法では、移動体と特徴量とを距離によって対応付け(いわゆる、最近傍法)し、カルマンフィルタで追跡を行った。図11から明らかなように、従来法では、図中Aの時点までは真値を追跡できているが、その後は真値を追跡できていない。図12は、本実施例に係る方法による追跡結果を示している。図12より明らかなように、本実施例に係る方法では、2つの移動体の真値を追跡できた。
【0047】
(具体例2) 次に、上述した移動体追跡装置10によって、移動体の追跡を行った他の具体例2を説明する。図13に示すように、具体例2では、交差点の手前のAに移動体追跡装置10を設置し、交差点を移動する歩行者の追跡を行った。図13には、歩行者の初期位置と速度ベクトルが示されている。推定した歩行者の状態は、位置(x,y)と速度(vx,vy)とした。図14は、移動体追跡装置10によって観測された観測値を示している。図14に示すように、観測値にはノイズが含まれ、また、オクルージョンによって観測できなかった部分が存在している。図15にトラッキング結果を示している。図15より明らかなように、ノイズ及びオクルージョンが存在しても、歩行者の追跡ができている。
【0048】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0049】
例えば、上述した実施例では、移動体追跡装置10を所定の位置に設置(固定)する例について説明したが、本願の技術はこのような例に限られない。例えば、上述した移動体追跡装置10を車両や自律移動型ロボットに搭載し、進行方向に存在する移動障害物(例えば、自転車、歩行者等)を検出して追跡するようにしてもよい。
【0050】
また、上述した実施例では、特徴量を計測する装置としてLRFを用いたが、本願の技術はこのような形態に限られない。例えば、特徴量を計測する装置として、物体の形状を撮影する画像撮影装置としてもよい。画像撮影装置を用いた場合、歩行者の顔や体等の形状特徴量を計測し、その形状特徴量を用いて移動体(歩行者等)の追跡を行うこととなる。また、異なる種類の計測装置を用いて特徴量を計測してもよい。例えば、LRFと画像撮影装置の両者を用いて特徴量を計測してもよい。また、特徴量を計測する計測装置は1台であってもよいし、複数台としてもよい。観測したい観測領域の特性(大きさ、形状等)に応じて適宜設定することができる。
【0051】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は、複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0052】
10:移動体追跡装置
12:LRF
14:演算装置
16:特徴量抽出部
17:対応付け部
18:追跡対象決定部
20:対応付け決定部
22:移動体追跡部
24:移動体情報更新部
26:モニタ
28:移動体情報記憶部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測領域内を移動する1又は複数の移動体を追跡する移動体追跡装置であり、
観測領域内に移動体が存在するか否かを計測する計測装置と、
複数の仮説のそれぞれについて、当該仮説内で追跡対象となる移動体の状態情報を記憶する移動体情報記憶部と、
計測装置で計測された計測結果から特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
移動体情報記憶部に記憶されている複数の仮説のそれぞれについて、特徴量抽出部で抽出された特徴量と当該仮説内の移動体との対応付け処理を行う対応付け部と、
対応付け部により対応付け処理が行われた仮説のそれぞれについて、当該仮説内の移動体について追跡処理を行う移動体追跡部と、
移動体追跡部の追跡結果を用いて、移動体情報記憶部に記憶される仮説を更新する移動体情報更新部と、を有しており、
計測装置による計測、特徴量抽出部による処理、対応付け部による処理、移動体追跡部による処理及び移動体情報更新部による処理を所定の周期で繰り返すことで、観測領域内を移動する移動体を追跡する、移動体追跡装置。
【請求項2】
移動体追跡部は、複数の仮説のそれぞれについて仮説の重みを算出し、
移動体情報更新部は、移動体追跡部で算出された仮説の重みを用いて、移動体情報記憶部に記憶される仮説を更新する、請求項1に記載の移動体追跡装置。
【請求項3】
対応付け部は、
特徴量抽出部で抽出された特徴量を、所定の確率で新規な移動体として仮説に追加すると共に、
仮説内の移動体の中で抽出された特徴量と対応付けられなかったものがある場合に、その移動体が特徴量と対応付けられなかった経過時間に基づいて、その移動体を仮説内から削除する、請求項1又は2に記載の移動体追跡装置。
【請求項4】
前記経過時間が当該移動体に対して予め設定された消滅時間を越えたときに、当該移動体が削除されるようになっており、
前記消滅時間は、予め定められた「消滅時間−消滅確率」の関係となるように移動体毎に設定されている、請求項3に記載の移動体追跡装置。
【請求項5】
対応付け部は、特徴量抽出部で抽出された特徴量を、所定の確率でノイズとして削除する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の移動体追跡装置。
【請求項6】
観測領域内を移動する1又は複数の移動体を追跡する移動体追跡方法であり、
観測領域内に移動体が存在するか否かを計測する計測工程と、
計測工程で計測された計測結果から特徴量を抽出する抽出工程と、
直前の周期で更新された複数の仮説のそれぞれについて、抽出工程で抽出された特徴量と当該仮説内の移動体との対応付け処理を行う対応付け工程と、
対応付け工程で対応付け処理が行われた仮説のそれぞれについて、当該仮説内の移動体について追跡処理を行う追跡工程と、
追跡工程の追跡結果を用いて仮説を更新する更新工程と、を有しており、
計測工程、抽出工程、対応付け工程、追跡工程及び更新工程を所定の周期で繰り返し実行することで、観測領域内を移動する移動体を追跡する、移動体追跡方法。
【請求項1】
観測領域内を移動する1又は複数の移動体を追跡する移動体追跡装置であり、
観測領域内に移動体が存在するか否かを計測する計測装置と、
複数の仮説のそれぞれについて、当該仮説内で追跡対象となる移動体の状態情報を記憶する移動体情報記憶部と、
計測装置で計測された計測結果から特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
移動体情報記憶部に記憶されている複数の仮説のそれぞれについて、特徴量抽出部で抽出された特徴量と当該仮説内の移動体との対応付け処理を行う対応付け部と、
対応付け部により対応付け処理が行われた仮説のそれぞれについて、当該仮説内の移動体について追跡処理を行う移動体追跡部と、
移動体追跡部の追跡結果を用いて、移動体情報記憶部に記憶される仮説を更新する移動体情報更新部と、を有しており、
計測装置による計測、特徴量抽出部による処理、対応付け部による処理、移動体追跡部による処理及び移動体情報更新部による処理を所定の周期で繰り返すことで、観測領域内を移動する移動体を追跡する、移動体追跡装置。
【請求項2】
移動体追跡部は、複数の仮説のそれぞれについて仮説の重みを算出し、
移動体情報更新部は、移動体追跡部で算出された仮説の重みを用いて、移動体情報記憶部に記憶される仮説を更新する、請求項1に記載の移動体追跡装置。
【請求項3】
対応付け部は、
特徴量抽出部で抽出された特徴量を、所定の確率で新規な移動体として仮説に追加すると共に、
仮説内の移動体の中で抽出された特徴量と対応付けられなかったものがある場合に、その移動体が特徴量と対応付けられなかった経過時間に基づいて、その移動体を仮説内から削除する、請求項1又は2に記載の移動体追跡装置。
【請求項4】
前記経過時間が当該移動体に対して予め設定された消滅時間を越えたときに、当該移動体が削除されるようになっており、
前記消滅時間は、予め定められた「消滅時間−消滅確率」の関係となるように移動体毎に設定されている、請求項3に記載の移動体追跡装置。
【請求項5】
対応付け部は、特徴量抽出部で抽出された特徴量を、所定の確率でノイズとして削除する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の移動体追跡装置。
【請求項6】
観測領域内を移動する1又は複数の移動体を追跡する移動体追跡方法であり、
観測領域内に移動体が存在するか否かを計測する計測工程と、
計測工程で計測された計測結果から特徴量を抽出する抽出工程と、
直前の周期で更新された複数の仮説のそれぞれについて、抽出工程で抽出された特徴量と当該仮説内の移動体との対応付け処理を行う対応付け工程と、
対応付け工程で対応付け処理が行われた仮説のそれぞれについて、当該仮説内の移動体について追跡処理を行う追跡工程と、
追跡工程の追跡結果を用いて仮説を更新する更新工程と、を有しており、
計測工程、抽出工程、対応付け工程、追跡工程及び更新工程を所定の周期で繰り返し実行することで、観測領域内を移動する移動体を追跡する、移動体追跡方法。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−225752(P2012−225752A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93195(P2011−93195)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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