説明

移動体

【課題】走行スピードが速い状態において移動体の倒立制御に異常事態が発生した場合に、より安全性の高い移動体を提供することを目的とする。
【解決手段】移動体10は、搭乗者が搭乗する車体36と、車体36から上方に伸びる支柱部28と、車体36の走行方向に直交した軸を中心にそれぞれ回転し、直交する方向に沿って車体36の左右両側に配設された第1の車輪および第2の車輪18と、それぞれの車輪18の駆動を制御して車体36の姿勢制御を行う制御部14と、支柱部28に連結された支持部材24と、支持部材24に設けられた接地部22と、を備える。接地部22は、走行面30への接地時、第1及び第2の車輪18より走行方向前方で走行面30に接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の駆動を制御して倒立制御を行う移動体、特に、移動体の倒立制御が不安定になった際に、搭乗者をより安全に保護する移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人間を搭乗させて走行する倒立二輪の移動体が知られており、該移動体の倒立制御が正常に動作している場合は、自律的に安定して倒立走行する。但し、倒立制御が何らかの理由で不安定になった際には、該移動体はバランスを崩し、転倒するおそれがある。
【0003】
特許文献1には、移動体の異常を検知した場合には、補助輪が走行面に向けて付勢され走行面に向けて飛び出す機構が開示されている。これにより、移動体に異常が生じても、補助輪によって車輪を補助することで、移動体を安定した姿勢に保持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−217170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている機構の場合には、補助輪等の補助部材が接地する位置は、比較的に車輪の近傍である。移動体の走行スピードが速い状態においては、姿勢を保持しようとした際には、移動体および搭乗者に生じる慣性力等によって、姿勢を安定的に補助できないことが考えられる。
【0006】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、走行スピードが速い状態において移動体の倒立制御に異常事態が発生した場合に、より安全性の高い移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る移動体は、搭乗者が搭乗する車体と、前記車体から上方に伸びる支柱部と、前記車体の走行方向に直交した軸を中心にそれぞれ回転し、前記直交する方向に沿って前記車体の左右両側に配設された第1の車輪および第2の車輪と、前記それぞれの車輪の駆動を制御して前記車体の姿勢制御を行う制御部と、前記支柱部に連結された支持部材と、前記支持部材に設けられた接地部と、を備える移動体であって、前記接地部は、走行面への接地時、前記第1及び第2の車輪より走行方向前方で走行面に接する。支持部材を支柱部に設置したことにより、支持部材が車輪近傍に設置されていた場合と比較して、支点として考えられる支持部材と、作用点として考えられる車体との距離が長くなるため、移動体を搭乗者ごと支持することが容易になる。
【0008】
また、前記支持部材は前記接地部が走行面と接地する際に走行面から受ける反力に対抗する粘性を有してもよい。これにより、移動体が転倒した際には、移動体を徐々に走行面に近づけることが可能となるため、移動体および搭乗者にかかる衝撃を軽減することが可能である。
【0009】
さらに、前記支柱部は、前記搭乗者が操作する操作バーであってもよい。
【0010】
さらにまた、前記制御部による姿勢制御の異常時、前記接地部は、前記支柱部から前記移動体の走行方向前方に向かって突出させてもよい。これにより、移動体に備え付けられたセンサが異常を検知した場合に、支持部材が支柱部から突出し、走行方向前方への転倒を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、走行スピードが速い状態において移動体の倒立制御に異常事態が発生した場合に、より安全性の高い移動体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る移動体のブロック図。
【図2】実施の形態1に係る移動体の斜視図。
【図3】支持部材展開状態の実施の形態1に係る移動体の斜視図。
【図4】実施の形態1の他のバリエーションに係る移動体の斜視図。
【図5】実施の形態1の他のバリエーションに係る移動体の斜視図。
【図6】実施の形態2に係る移動体の側面図。
【図7】支持部材展開状態の実施の形態2に係る移動体の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面において、同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略される。
【0014】
<発明の実施の形態1>
図1は発明の実施の形態1に係る移動体10のセンサ12、制御部14、車輪駆動部16、第1および第2の車輪18、接地部駆動部20、接地部22ならびに支柱部28のブロック図である。
【0015】
各種センサ12は、例えば、安全監視センサ121、ピッチ角検出センサ122、ロール角検出センサ123およびヨー角検出センサ124を有する。
ピッチ角検出センサ122、ロール角検出センサ123およびヨー角検出センサ124は、たとえば、ジャイロや、回転角度に応じて抵抗値が変化する回転式可変抵抗器の回転軸に対して重量中心が回転軸からずれた剛性の錘を備えたものである。
安全監視センサ121は、例えば、補助輪の飛び出し機構の不具合を常時監視し、移動体10の走行の信頼性を確保するために用いられる。
なお、ピッチ角検出センサ122、ロール角検出センサ123およびヨー角検出センサ124ならびに安全監視センサ121の取り付け位置に制限はない。また、移動体10は、前記センサに限られず、他のセンサを備えていてもよい。
【0016】
制御部14は、搭乗者による体重移動による操作に応じた回転信号を基に、車輪18の回転を制御する。なお、支柱部28は、搭乗者がバランスをとるために把持するだけでなく、本実施の形態の図2のように操作バーであってもよい。つまり、制御部14は、搭乗者による支柱部28への入力による操作に応じた回転信号に基づいて、車輪18の回転を制御してもよい。
また、搭乗者の操作に加えて、ピッチ角検出センサ122、ロール角検出センサ123およびヨー角検出センサ124ならびに安全監視センサ121からの検出信号を基に、車輪駆動部16によって車輪18の回転を制御することが好ましい。
【0017】
また、制御部14は、ピッチ角検出センサ122、ロール角検出センサ123およびヨー角検出センサ124ならびに安全監視センサ121からの検出信号を基に、接地部駆動部20に対して制御信号を出力することが好ましい。
さらに、制御部14は、支柱部28への搭乗者からの入力信号を基に、接地部駆動部20に対して制御信号を出力してもよい。
なお、前記制御部14は、移動体10の速度、加速度、姿勢または車輪の回転等の移動体自身の状態にかかわらず、異常を検出した際には、異常検知の制御信号を接地部駆動部20に出力してもよい。これにより、異常時に自動で接地部22を接地させることが可能である。
なお、異常検知による接地部駆動部20への制御信号が出力される条件としては、非常停止スイッチが押された場合、バッテリ電圧が低下した場合、各センサ12やアクチュエータ202等と制御部14等との通信異常が発生した場合等様々な要因がある。これについては、特許文献1の段落22、23に記載されているため、本出願では省略する。
【0018】
車輪駆動部16は、駆動回路161および162、モータ163および164を有する。駆動回路161および162は、制御装置14からの制御信号を基に駆動信号を生成し、これをモータ163および164に出力する。各モータは駆動信号に従い各車輪18を回転させる。
【0019】
第1および第2の車輪18は、走行方向に直交した回転軸を中心にそれぞれ回転し、前記直交する方向に沿って車体36に配設されている。このような車輪18の配置により、移動体10が一定の場所で方向だけを変えることなども可能となり、病院や家庭などの限られた空間内でもより利用しやすくなる。
【0020】
接地部駆動部20は、接地部駆動回路201およびアクチュエータ202を有する。接地部駆動回路201は、制御部14からの制御信号を基に駆動信号を生成し、これをアクチュエータ202に出力する。
アクチュエータ202は、前記駆動信号の入力があった場合に、接地部22を移動体10の走行面30に向かって駆動させる。
【0021】
接地部22は、キャスターなどの姿勢を補助するための補助輪であってもよいし、制動部材のように移動体10の速度を減速させ、姿勢を補助する部材であってもよい。本実施の形態では、接地部22として制動部材を用いている。制動部材を用いた場合には、移動体10の転倒を防ぐとともに、床面との摩擦接触による制動も可能である。
また、接地部22として、補助輪を用いた場合には、移動体10の転倒を防ぐとともに、3点以上で移動体10を支えて走行できるため、安定した走行が可能である。
さらに、接地部22がゴムやバネなどの弾性体であって、衝撃を吸収できる場合には、移動体10および搭乗者にかかる衝撃を軽減することが可能である。
接地部22は支持部材24によって支柱部28に連結されており、制御部14からの駆動信号によってアクチュエータ202が駆動し、接地部22が接地される。
【0022】
次に図2および図3を用いて接地部22、支持部材24、回転軸26、支柱部28および車体36の構成を説明する。本実施の形態では、接地部22は制動力が期待される材質の部材であるが、これは補助輪などの制動力は期待できないが姿勢制御が可能なものであってもよい。支持部材24および支柱部28は、本実施の形態においては曲線形状であるが、これに限られず、直線形状であってもよい。支柱部28は、図2のようなハンドルを有する操作バーであってもよいし、あるいは、搭乗者が手で把持したり、搭乗者の腕、腰、足などで荷重を加えたりすることで単に搭乗者がバランスを保つための支柱等であってもよい。
【0023】
接地部22は、支持部材24の一端に固定されている。支持部材24の他端は支柱部28の回転軸26に固定されている。接地部22および支持部材24は回転軸26を軸として回転する。支柱部28は車体36から上方に伸びている。
【0024】
本実施の形態では、搭乗者は支柱部28の操作バーに備えられたハンドルを把持して、移動体10の進行方向または速度等の入力を行うことができる。支柱部28から入力された入力信号は制御部14に伝達される。また、支持部材24の駆動についても支柱部28から指示することが可能であってもよい。
【0025】
支柱部28と車体36の位置関係は、前述のように、支柱部28が車体36から上方に向かって伸びているが、支柱部28が車体36の上面に設置されていてもよいし、車体36の側面に設置されていてもよい。車体36の側面に支柱部28が設置されている場合には、支柱部28は弧を描いて、あるいは、折れ曲がって、車体36の上方に伸びる。
【0026】
支持部材24と回転軸26の連結は回転自在に固定されており、支持部材24は移動体10の進退方向に揺動可能である。
この構成により、通常走行時においては、図2のように接地部22および支持部材24等は支柱部28に近接しているが、アクチュエータ202が制御部14からの駆動信号を受信した場合には、図3のように、接地部22が接地する方向に支持部材24を回転させる。これにより、移動体10が倒立制御に異常を来した際には、一対の車輪18および接地部22によって、移動体10の安定が保たれる。
本実施の形態では、車体36から上方に伸びる支柱部28から前方に向けて接地部22が突出する。このため、移動体10が走行方向前方に傾斜して接地部22が接地したとき、移動体10は支柱部28の中間部、つまり回転軸26の位置が支点となり、車体36が作用点、支柱部28の操作バーのハンドル部分が力点となる。支持部材24および接地部22が車輪近傍に配置されていた場合と比較すると、支点から作用点までの長さが長くなり、支点から力点までの長さが短くなる。よって、移動体10を搭乗者ごと支持することが容易になる。
【0027】
また、前記の構成に限られず、図4のように、接地部22および支持部材24は支柱部28の上方で固定されていてもよい。これにより、アクチュエータ202が作動した際には、接地部22および支持部材24の自重による加速度も加わり、短時間で接地可能である。
【0028】
さらに、前記の動作機構に限られず、図5のように、接地部22および支持部材24は支柱部28の内部に収納されていてもよい。これにより、支柱部28に凹凸を作らず、搭乗者が接地部22および支持部材24を気に掛けることなく搭乗することが可能である。
なお、接地部22を展開する際には、前記接地部22にコイルバネ等を用いて付勢してもよい。
【0029】
さらにまた、本実施の形態では移動体10の通常走行時においては、支持部材24が接地部22と支柱部28が近接するように備えられているが、該構成に限られず、通常走行時から、接地部22と支柱部28を離間して備えていてもよい。接地部22と支柱部28が常に離間した状態であることにより、アクチュエータ202、制御部14および駆動信号等にかかわらず、常時移動体10の転倒に備えることが可能である。
【0030】
接地部22は、移動体10が転倒する前に接地し、搭乗者と移動体10を支持する。支持部材24は接地部22が走行面30と接地する際に走行面30から受ける反力に対抗する粘性を有してもよい。これにより、移動体10は徐々に走行面30に近接してき、移動体10および搭乗者に対して、走行面30から与えられる衝撃を軽減することが可能である。
【0031】
なお、車体36は、移動体10の搭乗者が立位姿勢で搭乗可能なステップを備えていても良い。また、搭乗者が座位姿勢で搭乗可能なイスを備えていても良い。搭乗者が立位姿勢で搭乗する場合には、搭乗者は手あるいは腕、腰、足などを使って支柱部28に体重をかけて移動体10と一体となっているため、移動体10が急停車した場合には、進行方向前方へ働く慣性力が移動体10および搭乗者にかかる。また、座位姿勢の場合であっても、搭乗者は手、腕、腰、足あるいはシートベルトを用いて移動体10と一体となっているため、移動体10が急停車した場合には、進行方向前方へ働く慣性力が移動体10および搭乗者にかかる。前記立位姿勢または座位姿勢のどちらの場合であっても、前記慣性力によって、転倒するおそれがあるため、本実施の形態にかかる支柱部28から支持部材24および接地部22を突出させて姿勢制御を行う手段は有効である。
【0032】
<発明の実施の形態2>
実施の形態2について図6および図7を用いて説明する。なお、実施の形態1の移動体10と共通する点については記載を省略する。図6および図7に記載の移動体32には、実施の形態1の移動体10に加えて凸部34が備えられている。
【0033】
移動体32が転倒した際に、接地部22が接地した状態において、凸部34と接地部22によって移動体32は支持される。前記状態において、図7のように、移動体32の車輪18が走行面30と離間するような移動体32の車体前方の位置に凸部34は備えられている。
移動体32の転倒時に車輪18が走行面30から離間することによって、転倒した移動体32に対して与えられるモータ163および164の駆動力遮ることができ、移動体32へ不要な力が加わることを防ぐことが可能である。
なお、凸部34は、図6および図7のような車体36とは別の部材で構成されている必要はなく、車体36の搭乗者が乗るステップ部分が、移動体10の走行方向前方に突出していてもよい。また、常時車体36から突出していなくとも、センサが異常を検知した場合など、状況に応じて突出させてもよい。
【符号の説明】
【0034】
10 ・・・移動体
12 ・・・センサ
121 ・・・安全監視センサ
122 ・・・ピッチ角検出センサ
123 ・・・ロール角検出センサ
124 ・・・ヨー角検出センサ
14 ・・・制御部
16 ・・・車輪駆動部
161 ・・・第1の駆動回路
162 ・・・第2の駆動回路
163 ・・・第1のモータ
164 ・・・第2のモータ
18 ・・・車輪
20 ・・・接地部駆動部
201 ・・・接地部駆動回路
202 ・・・アクチュエータ
22 ・・・接地部
24 ・・・支持部材
26 ・・・回転軸
28 ・・・支柱部
30 ・・・走行面
32 ・・・移動体
34 ・・・凸部
36 ・・・車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭乗者が搭乗する車体と、
前記車体から上方に伸びる支柱部と、
前記車体の走行方向に直交した軸を中心にそれぞれ回転し、前記直交する方向に沿って前記車体の左右両側に配設された第1の車輪および第2の車輪と、
前記それぞれの車輪の駆動を制御して前記車体の姿勢制御を行う制御部と、
前記支柱部に連結された支持部材と、
前記支持部材に設けられた接地部と、
を備える移動体であって、
前記接地部は、走行面への接地時、前記第1及び第2の車輪より走行方向前方で走行面に接する移動体。
【請求項2】
前記支持部材は前記接地部が走行面と接地する際に走行面から受ける反力に対抗する粘性を有する請求項1に記載の移動体。
【請求項3】
前記支柱部は、前記搭乗者が操作する操作バーである請求項1または2に記載の移動体。
【請求項4】
前記接地部は、前記制御部による姿勢制御の異常時、前記支柱部から前記移動体の走行方向前方に向かって突出する請求項1から3のいずれか一項に記載の移動体。
【請求項5】
前記車体から走行方向前方に向けて突出した凸部をさらに備え、
前記凸部は、前記接地部が前記走行面に接地する際に、前記接地部の接地箇所に対して前記第1及び第2の車輪から近距離の前記走行面に接地する構造を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の移動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−31654(P2011−31654A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177381(P2009−177381)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】