説明

移動型測定装置

【課題】 簡便な構成によって長時間の測定が可能な汎用性の高い移動型の測定装置を提供すること。特に、水素炎を利用した分析計を用いた測定装置においては、高圧ガスを必要としない燃料ガス源を確保することによって簡便性に優れ安全性の高い移動型測定装置を提供すること。
【解決手段】 測定装置の電力供給手段として水素ガスを燃料とする燃料電池6を用い、燃料電池6の燃料用水素ガスの供給手段として水素吸蔵合金を有する水素供給部7を用いるとともに、分析計(検出部)2の燃料ガスとして水素供給部7から供給される水素ガスを用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動型測定装置に関するもので、特に、装置の電力供給手段として燃料電池を利用した移動型測定装置として有用である。
【背景技術】
【0002】
通常、発生源用測定装置や環境大気用測定装置あるいは自動車排気ガス測定装置などの大気汚染測定装置は、図8に示すように、試料採取点から分析計までの間に試料流体中の除湿や除塵あるいは定流量化などを目的として、フィルタ、切換弁、試料導入管、除湿器、吸引ポンプ、絞り弁、流量計などが設けられたサンプリング系を構成するとともに、測定装置は、試料採取点の近くに固定されて稼動している(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
このような固定型測定装置にあっては、長期間(通常1年以上数年〜10数年)、特定の試料を測定するために、その電力供給手段として商用電源あるいは工場内電源を用い、操作ガスや校正ガスの供給手段として充填圧力1MPa以上の高圧ガス容器を用いることが一般的である。オペレーションガスが必要な測定装置としては、例えば水素炎を利用した検出器を用いて連続的に測定する測定装置を挙げることができ、燃料ガス(高純度水素)および助燃ガス(精製空気)が必要とされ、その供給方法として大型重量の高圧ガス容器を使用している。
【0004】
具体的には、大気中あるいは排気ガス中の未燃または不完全燃焼時に発生する炭化水素の測定装置として、水素炎イオン化検出法(Flame Ionization Detection、以下、該検出法を用いた分析計を「FID分析計」という。)を用いた測定装置が多用されている。水素炎中においてイオン化された炭素の量(つまり、試料中の炭化水素濃度)を、水素炎の周囲に設けられた電極によって電位の変化として取り出し検出するもので、検出感度が高く微量成分の測定が可能であり、直線性に優れ高精度の測定が可能であることから、広い範囲で利用されている。また、同様に、大気中の硫黄酸化物測定用の炎光光度法(Flame Photometric Detection、以下、該検出法を用いた分析計を「FPD分析計」という。)を用いた測定装置があり、水素炎によって発生する特定波長領域の炎光の量(つまり、試料中の硫黄濃度)を光検出器によって検出するもので、検出感度が高く微量成分の測定が可能である。
【0005】
【非特許文献1】日本工業規格「JIS B7982−2002」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のこうした測定装置においては、以下のような課題を克服する必要があった。
【0007】
昨今、例えば、自動車等移動排出源の排気ガス測定については、定点測定だけではなく、一定期間の測定後測定地点を変更しての測定や、車両に搭載して実動状態での排気ガスの連続測定の要請が強くあり、これに対応可能な測定装置の要請があった。このとき、特に車輌搭載型を除き、電力供給源の確保が不可欠であった。
【0008】
また、定置型測定装置はもちろん移動型測定装置についても試料ガス採取点から離れた場所に設置せざるをえない場合も多く、加熱配管系を準備したり容量の大きな吸引ポンプを必要とする。従って、装置の電源として、一般商用電源あるいは計装電力供給源などから供給を受ける必要があることから、いわゆる移動型の測定装置を構成する場合にネックとなっていた。
【0009】
さらに、上記のFID分析計やFPD分析計などを用いた測定装置にあっては、燃料ガスおよび精製空気として高圧ガス容器を必要とすることから、移動式の測定装置としては、車輌搭載型に限定されたり、予め設置可能な特定された場所に移動し高圧ガス容器を別ユニットとして用意するなど限定された条件での測定とならざるをえず、汎用性に欠けるものであった。
【0010】
このとき、燃料ガスおよび精製空気として小容量の高圧ガス容器を用いることも可能であるが、従来のFIDやFPDの特性からは、容量を小さくすると測定可能時間が短くなり、目的とする測定時間を確保することができない場合がある。一方、現状のFIDやFPDの使用条件において、燃料ガスや精製空気の供給流量を下げると、検出感度の低下やいわゆる炭化水素の相対感度の変化などFIDやFPDの所定の特性を確保することが困難になるという問題が生じる。
【0011】
また、水素炎を利用した分析計を用いた測定装置においては、分析計内部での水素炎の状態が検出精度に大きな影響を及ぼすことから、燃料ガスおよび助燃ガスの流量制御、つまり分析計に供給する際の圧力制御は非常に高い精度が要求される。具体的には、燃料ガスおよび助燃ガスともに0.01〜0.1MPa程度で精度よく圧力制御する必要がある。一方、両方のガスともに10MPa以上の高圧ガス容器に封入されるため、分析計内へ0.1MPa以下に減圧して導入する場合においては、減圧機構として二段減圧とすることを余儀なくされていた。
【0012】
そこで、本発明は、こうした問題点を解決し、簡便な構成によって長時間の測定が可能な汎用性の高い移動型の測定装置を提供することが課題となる。特に、水素炎を利用した分析計を用いた測定装置においては、高圧ガスを必要としない燃料ガス源を確保することによって簡便性に優れ安全性の高い移動型測定装置を提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す移動型測定装置によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。なお、ここでいう「移動型測定装置」とは、広く移動可能な測定装置をいい、長期間の定置測定に用いる測定装置で移動可能な装置を含むものである。
【0014】
つまり、本発明は、試料中の特定成分の濃度を、水素炎を利用した分析計を用いて連続的に測定する移動型測定装置であって、該測定装置の電力供給手段として水素ガスを燃料とする燃料電池を用い、該燃料電池の燃料用水素ガスの供給手段として水素吸蔵合金を有する水素供給手段を用いるとともに、前記分析計の燃料ガスとして該水素供給手段から供給される水素ガスを用いることを特徴とする。
【0015】
移動型測定装置においては、装置の電力供給手段として、商業電源あるいは計装用電源などの一般電力供給源からの供給を確保することが困難な場合が多い。一方、昨今非常に変換効率が高くコンパクトな電力供給手段として、各種の燃料電池が開発されている。本発明は、一般電力供給源に代えて、こうした燃料電池を用いることによって、移動型の構成を容易にすることが可能となった。特に、水素ガスを燃料とする燃料電池を用いることによって、アルコール等他の燃料と比較して非常に短時間で高い変換効率を確保することができるとともに、安定性が高く比較的長期間の供給が可能な燃料供給手段を使用することが可能となり、測定装置に対する負荷も少なくすることができる。また、水素ガスは燃料として使用した後においても別途処理をする物質の発生もないことから、二次処理が不要で連続的に使用しても保守を必要とせず、移動型測定装置として現場での作業性も高い点においても優れている。さらに、移動型測定装置とすることよって、より試料採取点に近い場所での測定が可能になり、配管の加熱容量やポンプ容量を低減することによって、一層使用電力の低減を図ることが可能となる。従って、簡便な構成によって長時間の測定が可能な汎用性の高い移動型の測定装置を提供することが可能となった。
【0016】
ここで、燃料としての水素ガスの供給手段の選択が重要となるが、コンパクトで、安定性や保守性に優れた水素吸蔵合金を利用した水素供給手段を用いることによって、移動型測定装置としての機能を損なうことなく、簡便な構成によって長時間の測定が可能な汎用性の高い移動型の測定装置を提供することが可能となった。特に、該水素供給手段は、燃料電池同様駆動部がないことから、測定装置において統一した優れた操作性や保守性を確保することができる点においても優れている。
【0017】
また、FID分析計やFPD分析計などの水素炎を利用した分析計を用いた測定装置にあっては、炭化水素などの特定の物質が水素炎中において固有の反応を示す特性を利用し、選択性の高い測定を行うことができる。このとき、水素炎を形成するためには、上記のように燃料ガスおよび助燃ガスが必要となる。本発明においては、燃料ガスの供給手段として、従来の高圧容器(1MPa以上)に代えて、燃料電池への水素供給手段である水素吸蔵合金の封入されている低圧容器(1MPa未満)からの水素ガスの一部を用いることによって、従来困難であった移動型の測定装置を構成することが可能となった。また、高圧に対する危険性を取り除くことができ安全性を増すことが可能となった。
【0018】
さらに、水素吸蔵合金を有する水素供給手段は、合金の水素選択的吸収機能により超高純度(99.999%以上)でかつ安定した水素ガスを得ることができる。従って、水素炎を利用した検出器において、水素の定圧供給による着火持続可能な圧カ範囲として水素の広範囲なプラトー領域を確保でき、さらに、供給水素ガスの小流量化つまり燃料ガスの長時間使用が可能となる。また、こうした水素選択吸収機能は、燃料ガスにとっては精製機能を有することであり、燃料ガスラインに別途の精製手段を設置する必要がない。以上のように、水素吸蔵合金を小型軽量容器に封入して利用することによって、簡便な構成によって長時間の測定が可能な汎用性の高い移動型測定装置を提供することが可能となる。
【0019】
本発明は、上記移動型測定装置であって、前記水素供給手段の作動時に、前記燃料電池の発熱部から前記水素吸蔵合金の加温用温熱を供給することを特徴とする。
【0020】
水素吸蔵合金を有する水素供給手段は、純度の高い水素を多量に保持し、可逆的に吸蔵と放出が可能である点において優れた機能を有するとともに、供給開始から所定の時間安定的に水素ガスを供給することができる点において優れている。特に、水素吸蔵合金を略一定温度に加温することによって、その供出量を安定な水素ガス放出温度領域とすることができる。一方、燃料電池は、起動して所定量の電力を供給し始めると、例えば70〜100℃程度の高温状態になる。本発明は、こうした温熱を水素吸蔵合金の加温用温熱として供給することによって、移動型測定装置全体のエネルギー効率の向上を図るもので、別途加熱手段を設置する必要がない点においても本測定装置において好適である。
【0021】
本発明は、上記移動型測定装置であって、採取された前記試料を清浄化して検出器に導入する試料処理部の少なくとも一部が、燃料電池の発熱部または発熱部と熱的に接続される部材と、熱交換機能を有することを特徴とする。
【0022】
移動型測定装置であっては、フィルタによる除塵処理や冷却器による除湿処理などによって、採取された試料を清浄化する必要があるとともに、気液分離手段以外の採取流路内での凝縮は回避する必要があることから、通常試料処理流路の一部を凝縮温度以上に加熱処理される。一方、上記のように、燃料電池が所定量の電力を供給し始めると高温状態になる。本発明は、こうした加熱を必要とする試料処理部と燃料電池の発熱部を、直接的にあるいは間接的に熱交換させることによって、別途の加熱手段を用いることなく、両者の機能を確保することが可能となり、エネルギー効率の高いコンパクトな移動型測定装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明を適用することによって、簡便な構成によって汎用性の高い移動型測定装置を提供することが可能となる。併せて低圧での燃料ガスおよび助燃ガスの供給によって、測定装置の安全性あるいは圧力制御の高度化を図り、同時に使用電力の低減および装置のコンパクト化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。本発明に係る移動型測定装置は、装置の電力供給手段として、水素ガスを燃料とする燃料電池を用い、燃料電池の燃料用水素ガスの供給手段として水素吸蔵合金を有する水素供給手段を用いるとともに、分析計の燃料ガスとして該水素供給手段から供給される水素ガスを用いることを特徴とする。
【0025】
<本発明に係る移動型測定装置の基本的な構成(第1構成例)>
図1(A)および(B)は、本発明を利用した装置の具体的な実施形態の1つである移動型自動車排気ガス測定装置(以下「本装置」という)の概要を示す。具体的には、採取した試料の清浄化等の処理を行う試料処理部1と、試料流路1aを介して供給された処理済の試料を、測定する検出部2(分析計に相当)と、これらに電力を供給するコンバータ3と、コンバータ3に電力を供給するインバータ5と、インバータ5に電力を供給する燃料電池6と、燃料電池6の燃料ガス供給手段である水素供給部7とを有する。また、試料処理部1から試料流路1aおよび流路1bを介して検出部2および燃料電池6へ助燃ガスが供給され、水素供給部7から流路1cおよび1dを介して燃料電池6および検出部2に水素ガスが供給される。図2は、これら中央を電力の流れ、左右をガスの流れとして模式的に表している。
【0026】
ここで、図1(A)は、試料処理部1、試料流路1a、検出部2およびコンバータ3を1つの筐体4に収納し、インバータ5、燃料電池6および水素供給部7を別体とした移動型測定装置を例示する。車載型測定装置のように、各部を設置条件に対応したフレキシブルな配置が可能である。図1(B)は、これら全ての構成要素を1つの筐体4に収容した移動型測定装置を例示する。現場に設置し短期間の測定を行う場合などにおいて、移動型測定装置を設置してすぐに稼動することが可能である。図2は、本装置全体について、中央を電力の流れ、左右をガスの流れとして模式的に表している。
【0027】
〔試料処理部1〕
試料は、図3に例示するように、試料採取管11aと一次フィルタ11bからなる試料採取部11から試料導入管12を介して、試料処理部1に導入される。試料処理部1は、試料ガス入口13a、二次フィルタ14aを介してポンプ15aによって吸引された試料は、気液分離器16によって気液分離された後、圧力調整器17aによって定圧化され、絞り弁18aによって定流量化されて、試料ガス出口13b、試料流路1aを介して検出部2に導入される。試料の一部は、気液分離器16から流量センサ19、絞り弁18bおよび排出口13cから放出される。試料採取流量は、測定の応答速度の要求仕様によって異なるが、通常約1L/min程度とし、検出部2へは約100〜500mL/min程度の試料が導入される。
【0028】
〔検出部2〕
検出部2は、試料中の測定成分あるいは試料の性状によって、FID分析計やFPD分析計などの水素炎を利用した分析計を用いることができる。炭化水素や硫黄化合物などの特定の物質が水素炎中において固有の反応を示す特性を利用し、選択性の高い測定を行うことができる。このとき、検出部2に対して、水素供給部7から供給される水素ガスを燃料ガスとして用い、試料処理部1から供給される清浄空気を助燃ガスとして用いることを特徴とする。水素供給部7からの水素ガスの一部を用いることによって、別途水素供給手段を準備する必要がなく、従来困難であった供給移動型の測定装置を構成することが可能となった。
【0029】
検出部2にFID分析計を用いた場合を例として説明すると、FID分析計への燃料ガスは、水素供給部7から供給流路1dを介して供出され、図示しないが、火炎消火時の停止弁および保護用フィルタを介して、圧力調整器によって定圧化され、絞り弁によって定流量化されて、試料と混合して火炎部に導入される。停止弁は、FID分析計の動作時に作動することによって、燃料ガスをFID分析計に所定流量導入することができる。フィルタは、水素供給部7から供出される水素中に含まれる不純物を除去するために設けられるもので、水素吸蔵合金製作時の残留物や水素供給部7を構成する部材表面から発生する微量の炭化水素や硫黄化合物などを粒状活性炭やチャコールフィルタあるいはモレキュラシーブスなどを用いて除去することが好ましい。
【0030】
また、水素供給部7に水素吸蔵合金を用いた場合は、上記のように合金の水素選択的吸収機能により超高純度(99.999%以上)でかつ安定した水素を供給することができる。従って、FID分析計において、水素の定圧供給による着火持続可能な圧カ範囲として水素の広範囲なプラトー領域を確保でき、さらに、供給水素の小流量化つまり燃料ガスの長時間使用が可能となる。さらに、こうした水素選択吸収機能は、燃料ガスにとっては精製機能を有することであり、燃料ガスラインに別途の精製手段を設置する必要がない点においても優れている。さらに、水素吸蔵合金の特性として、後述するように、標準分解温度が50℃程度以下の金属結合型水素化物でAB5系を基本組成とした水素吸蔵合金(MmNi系)を利用することにより、高温に加熱する必要性がなく、ほぼ常温での脱水素反応が可能となったため、本装置を加熱型仕様にすることなく省電力設計とすることが可能となった。また、燃料ガスの供給圧力を1MPa未満の低圧とすることが可能となり、FID分析計に対して0.01〜0.1MPaへの一段減圧が実現可能となった。こうした特徴から、従前の高圧ガス容器に比較し約1/2〜1/10の容積で同一水素量の供給が可能な小型容器を利用することで、測定装置全体のコンパクト化を図ることが可能となった。
【0031】
燃料ガス流量は、検出感度、酸素干渉特性および炭化水素の相対感度という検出器の特性に大きな影響を及ぼすことから、試料中の共存成分や測定対象ガスなどの仕様によって異なるが、通常FID分析計へは、約10〜100mL/min程度が導入される。試料流量や助燃ガス流量との間で調整される。本装置としては、所定の検出器特性を確保しつつ、燃料ガスの流量を最小限に低減することによって、長時間の測定が可能となる。
【0032】
FID分析計の助燃ガスは、水素供給部7から試料流路1aと同様に供出され、図示しないが、フィルタを介してポンプによって吸引された空気を空気精製手段によって主として炭化水素を除去し、圧力調整器によって定圧化され、絞り弁によって定流量化されて、FID分析計に導入される。助燃ガス流量は、共存成分や測定対象ガスなどの仕様によって異なるが、FID分析計へは、通常燃料ガスの完全燃焼量の数倍程度となる、約100〜500mL/min程度が導入される。
【0033】
〔コンバータ3〕
コンバータ3は、試料処理部1および検出部2に電力を供給するユニットで、インバータ5から供給された交流の電力を直流の定格電圧に変換して供給する。同時に電力の安定化を図り、試料処理部1および検出部2の安定性能を確保することが可能となる。定格電圧としては、DC12Vあるいは24Vが一般的である。
【0034】
〔インバータ5〕
インバータ5は、コンバータ3に電力を供給するユニットで、燃料電池6から供給された直流の電力を交流に変換して供給する。コンバータ3との組合せによって、電力の安定化を図り、試料処理部1および検出部2の安定性能を確保することが可能となる。具体的には、図4(A)に例示するようなインバータ(COTEK社製、S300−112)を使用することができる。また、その仕様を下表1に例示する。
【表1】

【0035】
〔燃料電池6〕
燃料電池6は、電源コンセントからの電源ケーブルを利用せずに、移動型測定装置への電力供給源として利用するもので、本装置においては、下表2に示す各式のような反応を利用し、水素(H)を燃料として酸素(O)とともに供給することによって、アルコール等他の燃料と比較して非常に短時間で高い変換効率を確保することができる。
【表2】

【0036】
具体的には、図4(B)に例示するような燃料電池(HORIZON社製、H−100)を使用することができる。また、その仕様を下表3に例示する。なお、燃料電池6としては、上記機種に限定されるものではないことは言うまでもない。
【表3】

【0037】
燃料電池6の助燃ガスは、試料処理部1から供給流路1bを介して供出され、図示しないが、フィルタを介してポンプによって吸引された空気を空気精製手段によって主として炭化水素を除去し、圧力調整器によって定圧化され、絞り弁によって定流量化されて、燃料電池6に導入される。助燃ガス流量は、燃料ガスの流量によって異なるが、通常燃料ガスの完全燃焼量の3〜5倍程度となる、約150〜250mL/min程度が導入される。
【0038】
また、電力供給源として燃料電池6を利用することにより、停電時におけるバックアップ機能が付加されることになり、停電などの緊急時においても、電力に対する安全性と測定に対する継続性を確保することが可能となった。
【0039】
また、本装置においては、採取された試料の清浄化を担う試料処理部の少なくとも一部が、燃料電池6の発熱部または発熱部と熱的に接続される部材と、熱交換機能を有する構成とすることが可能である。つまり、自動車排気ガスなどの試料は、清浄化する必要があるとともに、気液分離手段以外の採取流路内での凝縮は測定誤差や応答遅れなどの悪影響を及ぼすことから、試料処理流路(試料流路1aおよび試料処理部1内の流路を含む)を凝縮温度以上に維持する必要がある。一方、燃料電池6は、起動して所定量の電力を供給し始めると、例えば70〜100℃程度の高温状態になる。従って、試料処理流路と燃料電池6の発熱部または発熱部と熱的に接続される部材を、直接的にあるいは間接的に熱交換させることによって、別途の加熱手段あるいは冷却手段を用いることなく、凝縮温度以上に維持することが可能となる。ここで、発熱部または発熱部と熱的に接続される部材とは、具体的には、例えば図4(B)の場合の熱放出部6aなどが該当する。
【0040】
〔水素供給部7〕
水素供給部7は、検出部2および燃料電池6への燃料ガス供給手段であり、本発明のように移動型測定装置においては、小型軽量水素吸蔵合金容器を利用することが好ましい。これによって、従来までの煩雑性の原因となっていた水素ガスを充填した高圧ガス容器(大型重量容器が多かった)が不要となり、コンパクトで、安定性や保守性に優れた水素供給手段を用いることができる。
【0041】
このとき、水素供給部7として、水素吸蔵合金を有する水素供給手段を用いることが好ましい。水素吸蔵合金を有する水素供給手段は、合金の水素選択的吸収機能により超高純度(99.999%以上)でかつ安定した水素を得ることができる。また、水素吸蔵合金は水素吸蔵合金の仕様によっては、低圧ガス(1MPa未満)としてオペレーションが可能であるため、高圧ガス(1MPa以上)の高圧に対する危険性を回避し、ユーザー側における水素の再充填作業が可能となったことから、移動型測定装置における保守面において優位となる。また、燃料電池6への水素ガスの供給と合せて、その一部をFID分析計などの検出部2の燃料ガスとして用いることによって、移動型測定装置としての機能の向上を図ることが可能となった。
【0042】
ここで、水素吸蔵合金とは、水素に出会うと発熱しながら水素を吸収し、逆に熱を加えると水素を放出する可逆特性を有する合金をいい、具体的には、チタン−鉄系、La−Ni系、マグネシウム−ニッケル系などの合金を挙げることができる。水素吸蔵合金の種類によって、金属結合型水素化物、共有結合型水素化物あるいはイオン結合型水素化物などの金属水素化物を形成し、高圧ガス容器に封入した場合に比較して、約6〜7倍の密度の水素収容能力を有している。従って、水素供給部7の小型化・軽量化を目的とする本発明に係る測定装置に対して非常に有効な手段となる。また、こうした高密度の水素吸蔵特性に加え、水素吸蔵合金には、以下に示すような種々の優れた特性があり、本発明においては、その特性を有効に活かすことによって、優れた機能を実現している。
【0043】
水素吸蔵合金の代表的な組成について表4に示す。
【表4】

【0044】
また、水素吸蔵合金は、その組成や構成によって種々の仕様があるが、本移動型測定装置においては、AB5系の水素吸蔵合金を基本組成とすることが好ましい。つまり、水素吸蔵合金の特性として、標準分解温度が50℃程度以下の金属結合型水素化物でAB5系を基本組成とした水素吸蔵合金(MmNi系)を利用することにより、高温に加熱する必要性がなく、ほぼ常温で水素を供給することが可能となった。
【0045】
ここで、AB5系の水素吸蔵合金とは、Aとして希土類元素、ニオブ、ジルコニウムあるいはミッシュメタルMm(発火合金:希土類元素同士あるいはそれに他元素を添加した合金やZn−Sn系あるいはU−Fe系合金などをいう)などの元素を1としたときに、Bとして触媒効果を持つ遷移元素(Al、Co、Cr、Fe、Mn、Ni、Ti、V、ZnあるいはZrなど)を5含む合金をベースとしたものであり、表1におけるLaNiやMmNiやCaNiなどを挙げることができる。
【0046】
また、本装置においては、水素供給部7の作動時に、燃料電池6の発熱部(図示せず)から水素吸蔵合金の加温用温熱を供給することが好適である。つまり、上記のように、熱可逆的に水素の吸蔵および放出する特性を有する水素吸蔵合金においては、安定的に水素ガスを供給するには、所定の温熱によって水素吸蔵合金を安定的にかつ所定温度以上に維持する必要がある。一方、燃料電池6は、上記のように起動後高温状態になる。従って、水素吸蔵合金の温熱源として燃料電池6の発熱部での熱エネルギーを利用することによって、別途の加熱手段を用いることなく、吸蔵した水素の放出エネルギーを確保することが可能となる。
【0047】
<本発明に係る移動型測定装置の他の構成(第2構成例)>
図5は、本発明に係る移動型測定装置の他の構成として、第1構成例におけるコンバータ3およびインバータ5を省略して、直接燃料電池6からの電力を、検出器2を含む測定装置全体の電力源とする場合を例示する。つまり、燃料電池6からの供給電圧の安定性が高い場合、あるいは検出部2や信号処理部(図示せず)など、安定電源を必要とするユニットの内部に別途安定化電源や電圧安定器などが内蔵されている場合には、こうした移動型測定装置を構成することが可能であり、より装置のコンパクト化を図ることができる。
【0048】
<本発明に係る移動型測定装置の解析評価>
次に上記第1構成例について、以下の2つの項目について解析評価を行った。
(1)燃料電池の助燃ガスとしての純酸素と空気との比較
(2)燃料電池の燃料ガス源としての水素吸蔵合金と高圧容器入りの水素ガスとの比較
検出部は、下表5に示す仕様のFID分析計(堀場製作所製、FV−250)を使用した。
【表5】

なお、FID分析計など検出部における燃料ガスおよび助燃ガスの特性は、使用する分析計の固有値として明確であることから解析評価の対象としなかった。特に、燃料ガスは使用量も少ないことから、測定装置全体の解析において影響は小さい。
【0049】
(1)燃料電池の助燃ガスとしての純酸素と空気との比較
燃料電池の助燃ガスとして、純酸素と空気を用いた場合について、ネルンストの式に基づく起電力E(Electromotive Force)および理論効率η(Theoretical Efficiency)の比較評価を行った。起電力Eおよび理論効率ηは、下式1[(1−1)〜(1−4)]によって算出することができる。
【数1】

【0050】
(1−1)解析条件
下表6に示す条件下において、純酸素と空気のモル分率(Molar Fraction)は、各々1.00および0.21とする。
【表6】

ここで、Δh(Enthalpy)およびΔg(Gibbs Energy)の値は、Yunus A. Cengel,Michel A. Boles著「THERMODYNAMICS Fifth Edition」(p.924)から引用したものである。
【0051】
(1−2)解析結果
解析結果は、下表7に示すように、両者の差異は殆どなかった。
【表7】

つまり、移動型測定装置としては、高圧容器に充填された純酸素を用いる必要がなく、約5〜10kgの軽量化および約10〜20Lの小容積化を図った装置によって、同一の機能や効率を得ることができる。
【0052】
(2)燃料電池の燃料ガス源としての水素吸蔵合金と高圧容器入りの水素ガスとの比較
燃料電池の燃料ガスとして、水素吸蔵合金を用いた水素供給手段と高圧容器に充填された水素ガスを用いた場合について、理論効率ηおよび理論使用期間D(Theoretical Duration)の比較評価を行った。理論効率ηおよび理論使用期間Dは、下式2[(2−1)〜(2−4)]によって算出することができる。
【数2】

【0053】
(2−1)解析条件
下表8に示す条件下において、水素吸蔵合金の水素吸蔵容量を50L、高圧容器入りの水素ガスの容器容量は1Lとし圧力は15MPaとする。
【表8】

ここで、Lv(Lower Heating Value)の値は、Yunus A. Cengel,Michel A. Boles著「THERMODYNAMICS Fifth Edition」(p.925)から引用したものである。nは、1.0[mol]とする。
【0054】
(2−2)解析結果
解析結果は、下表9に示すように、理論効率について両者の差異はなく、理論使用期間について両者の実質的水素ガスの容量差に相当する差異となった。つまり、水素吸蔵合金を用いた水素供給手段が、高圧容器入りの水素ガスに代えて十分に使用可能であることを示している。
【表9】

なお、燃料電池の標準出力電力(Normal Output Power)と燃料流速(Fuel Flow Rate)を指標とした理論効率ηは、図6および図7のようになる。図6は、標準出力電力50Wのときの燃料流速に対する理論効率ηの変化を解析した結果を示し、図7は、燃料流速1.67L/mのときの標準出力電力に対する理論効率ηの変化を解析した結果を示す。
つまり、移動型測定装置としては、使用期間は短くなるが、燃料ガスとして高圧容器に充填された水素ガスを用いる必要がなく、水素吸蔵合金を用いた水素供給手段によって、同一の機能や効率を確保しつつ約10〜20Lの小容積化を図ることができる。
【0055】
(3)まとめ
以上の解析結果から判るように、水素ガスを燃料ガスとするFID分析計などの検出部を搭載した測定装置においては、燃料ガス供給源として水素吸蔵合金を用い、助燃ガスとして空気を用いることによって、従前の高圧容器に充填された燃料ガスや助燃ガスを用いた場合と同等の実効効率や機能を確保することが可能であり、これによって装置の軽量化および小容量化を図り一層移動型測定装置としての機能の向上を図ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上は、試料中の炭化水素測定装置について述べたが、同様の技術は、試料中の硫黄化合物測定用のFPD分析計を用いた炎光光度法測定装置のように、水素炎を利用する測定装置についても適用可能である。また、FID分析計とガスクロマトグラフィ(Gas Chromatography、以下「GC」という。)とを組合せた測定装置についても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る測定装置の基本的な構成(第1構成例)を例示する説明図。
【図2】本発明に係る測定装置の他の構成を模式的に例示する説明図。
【図3】第1構成例における試料処理フローを例示する説明図。
【図4】本発明に係る測定装置に搭載されるインバータおよび燃料電池を概略的に例示する説明図。
【図5】本発明に係る測定装置の他の構成(第2構成例)を例示する説明図。
【図6】本発明に係る測定装置に使用した場合の燃料電池の理論効率の解析例を示す説明図。
【図7】本発明に係る測定装置に使用した場合の燃料電池の理論効率の解析例を示す説明図。
【図8】従来技術に係る測定装置の構成を例示する説明図。
【符号の説明】
【0058】
1 試料処理部
1a 試料流路
1b,1c,1d 流路
2 検出部
3 コンバータ
4 筐体
5 インバータ
6 燃料電池
7 水素供給部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の特定成分の濃度を、水素炎を利用した分析計を用いて連続的に測定する移動型測定装置であって、該測定装置の電力供給手段として水素ガスを燃料とする燃料電池を用い、該燃料電池の燃料用水素ガスの供給手段として水素吸蔵合金を有する水素供給手段を用いるとともに、前記分析計の燃料ガスとして該水素供給手段から供給される水素ガスを用いることを特徴とする移動型測定装置。
【請求項2】
前記水素供給手段の作動時に、前記燃料電池の発熱部から前記水素吸蔵合金の加温用温熱を供給することを特徴とする請求項1記載の移動型測定装置。
【請求項3】
採取された前記試料ガスを清浄化して検出器に導入する試料処理部の少なくとも一部が、燃料電池の発熱部または発熱部と熱的に接続される部材と、熱交換機能を有することを特徴とする請求項1または2記載の移動型測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate