説明

移動式歩行訓練機及び歩行補助機

【課題】訓練者や歩行者がバランスを崩したときの非常制御を確実に行って転倒を未然に防ぐことで、訓練者や歩行者と共に自走移動する歩行機でありながら安全性の高い移動式歩行訓練機及び歩行補助機を提供する。
【解決手段】本体1内に自走装置を備え、訓練者の上肢部を支えた状態で訓練者を本体1内の移動式訓練空間Sに立たせて自走することで歩行訓練を行うものであって、移動式訓練空間S内の訓練者の腰部下方に設けられ、倒れた訓練者を座支することのできる座部2と、倒れた訓練者による座部2の変位/傾斜/被加圧を検知して検知信号を発する検知部3と、検知部3の検知信号に応じて自動走行の停止或いは自動走行内容の変更を行う走行制御部とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、訓練者と共に移動して歩行訓練を行う、移動式の歩行訓練機に関する。また、歩行者の歩行を補助する歩行補助機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歩行機として、本体の下部に、車軸の横行が可変な前輪及び後輪が設けられ、本体に取り付けられた支柱の上部に肘置きが設けられ、肘置き中の左右の肘置き台の外側に、上方に突出した突出部が設けられたものが開示される(例えば、特許文献1参照)。これは、利用者が肘置き台に肘及び前腕部を置いて前部に押し出すことにより、歩行機は前に進むとされ、左右いずれかの突出部を斜め前方に押すと、歩行機は水平方向に回動して、押さえた突出部と反対側の斜め前方に歩行機の正面を向けることができるとされる。
【0003】
他に従来、全方向移動機能を持つ歩行訓練機として、底部に自走動力を備えた四輪の全方向ホイルを取り付け、歩行訓練者が環状金属パイプの支持部によって囲まれている状態で電動式アクチュエータによって全方向移動機能が実現されたものが開示される(例えば、特許文献2参照)。各々の全方向ホイルには、ホイル周囲に亘って2列8個のフリーローラ(自由に回転できるローラ)が設けられ、ホイル軸方向を変えることなく、四輪の各ホイル回転数の調整によって全方向移動を可能としている。また腕と肘を支える支持部が、異なる半径の金属パイプに持たされている。
【特許文献1】特開2005−118154号公報
【特許文献2】特開2003−62022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記前者の歩行機は、車軸方向の変更及び車輪の転動が常に自由回動しうるフリー状態にあるため、訓練者がバランスを崩したときに歩行訓練機内の訓練スペース内に倒れこむことで、歩行訓練機が走行姿勢を保つことができず転倒してしまうといった、訓練機自体の姿勢安定性についての問題を有していた。
【0005】
また、上記後者の自走動力を備えた自走式の歩行訓練機においては、訓練者がバランスを崩したことの検知や制御がうまくいかずに訓練者が歩行訓練機にまきこまれてしまったり転倒してしまうといった、自走運転中の非常時応答についての問題を有していた。
【0006】
そこで本発明は、訓練者や歩行者がバランスを崩したときの非常制御を確実に行って転倒を未然に防ぐことで、訓練者や歩行者と共に自走移動する自走式歩行機でありながら安全性の高い移動式歩行訓練機及び歩行補助機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、下記(1)ないし(7)の手段を講じている。
【0008】
(1)本発明の移動式歩行訓練機は、本体1内に自走装置を備え、訓練者の上肢部を支えた状態で訓練者を本体1内の移動式訓練空間に立たせて自走することで歩行訓練を行うものであって、
移動式訓練空間内の訓練者の腰部下方に設けられ、倒れた訓練者を座支することのできる座部2と、
倒れた訓練者による座部2の変位/傾斜/被加圧を検知して検知信号を発する検知部3と、
検知部3の検知信号に応じて自動走行の停止或いは自動走行内容の変更を行う走行制御部とを具備することを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、バランスを崩して倒れ落ちた訓練者を、座部2状態によって確実に自動検知して機械的に走行制御しうると共に、バランスを崩して倒れ落ちた訓練者を、座支すなわち座った状態で支えることができる。これにより、自動走行中であっても、訓練者が倒れたときの非常時制御を確実に行うことができ、安全性を確保することができる。
【0010】
上記発明において、座部2は、後述の実施例のような吊り下げ支持された座布のほか、鉛直支保棒に下方から支保されたサドル等、任意の形状及び構造とすることができる。また検知部3は、座部2或いは座部2の支持構造に設けられたものでも良い。
【0011】
(2)前記移動式歩行訓練機において、座部2と本体1とをそれぞれ繋ぐ複数本の連結紐4を具備し、座部2は、これら連結紐4によって訓練領域内に吊り下げられ、検知部3は、少なくとも一本の連結紐4に設けられてなることが好ましい。
【0012】
このような吊り下げ式の座部2であれば、吊り下げ支持による変位或いは傾きの自由度によって、訓練者が倒れたときの状態に広く対応することができ、倒れた訓練者を確実に座支しうるとともに、より確実に異常検知することができる。
【0013】
上記発明において検知部3は、後述の実施例のような、連結紐4の上端に設けられたフック状のフックセンサのほか、連結紐4の長さ方向に沿って貼設された引っ張りセンサ、としてもよい。
【0014】
(3)前記いずれかの移動式歩行訓練機において、
訓練者が移動式訓練空間内で両前腕をそれぞれ保持しうるハンドル付きの前腕保持部5と、
前腕保持部5による保持位置を少なくとも前後方向へ調節する保持位置調節手段6とを具備してなり、
保持位置調節手段6によって、訓練者の立ち位置を、移動式訓練空間の平面視図心と重なる範囲に調節しうることが好ましい。
【0015】
なおさらに、座部2の平面視位置が、訓練者を座支したときの座支状態において、訓練機全体の平面視重心位置と重なる範囲にあるものとしても良い。
【0016】
このようなものであれば、倒れた訓練者を座支したときに、訓練機へ偏心荷重がかかることを防ぎ、倒れた訓練者の体重を、訓練機全体の平面視重心位置と重なる平面領域内で支えることができる。そして、訓練者の体重の大部分が一部領域に集中してかかったときにも姿勢が安定する状態を確保することができる。
【0017】
(4)前記いずれかの移動式歩行訓練機において、前腕保持部5が、移動式訓練空間内の訓練者の両側方から前方に亘る肘置き台51と、
肘置き台51の左右それぞれの前部から上方へ突出固定されてその突出上端同士が連結された一体的形状からなる握り部52とを有してなり、
保持位置調節手段6が、少なくとも前記握り部52の突出位置を調節しうるものである請求項1、2、または3のいずれか記載の移動式歩行訓練機。
【0018】
上記握り部52は上方突出による突起物を有しておらず、また左右の突出固定部同士が互いの連結によって一体構成されることが好ましい。
【0019】
このようなものであれば、保持位置調節手段6の突出位置の調節によって、容易に前腕保持位置を変更し、移動式訓練空間における訓練者の体の位置を前記姿勢安定領域内に保持しうる。
【0020】
また左右握り部52の連結によって、握り部52の上方突出した先端部分による事故、例えば、姿勢を崩した訓練者が、握り部52の上方突出した先端部分へ衝突するという事故や、訓練者の衣服等が引っかかって転倒や過大負荷を受けるという事故、先端部分の欠壊による事故等を回避しうる。
【0021】
前記握り部52は、訓練者の前方にて、左右それぞれ斜め上前方へ突出するとともに、その突出上部同士が連結された、正面視倒立U字形状の棒状体からなるものとしても良い。
【0022】
(5)前記いずれかの移動式歩行訓練機において、移動式訓練空間内の訓練者の背面側すなわち本体1の後部に配設され、後倒した訓練者を背支することのできる背支バー8を具備してなり、
この背支バー8はその一部が取外され或いは分離することで、移動式訓練空間の後部を開閉しうることが好ましい。
【0023】
(6)前記いずれか記載の移動式歩行訓練機において、自走装置が、ホイル軸方向を固定した複数の全方向ホイルからなり、全方向ホイルの回転数を制御することで、平面視回転運動による本体1の向きの可変を必ずしも伴わずに平面視全方向移動を行ない得ることが好ましい。
【0024】
(7)また、本発明の歩行補助機は、前記いずれか記載の移動式歩行訓練機において、訓練者を歩行者とし、移動式訓練空間を歩行補助空間とし、歩行訓練を歩行補助としたことを特徴とする。
【0025】
なお上記移動式歩行訓練機や歩行補助機のいずれかは、自走動力の出力(電気出力の場合は例えば出力電圧)、ホイルの回転数、制御電流のデータを用いて、訓練達成度や難易度が高く危険性の高い走行方向等の様々な情報を分析するものとしても良い。更に分析によって得られた情報は表示部92等へ出力したりその後の自走条件にフィードバックしたりしても良い。例えば、検知時の回転数の記録によって移動方向ごとの訓練達成度をデータベース化したり、自走回転数と実際の回転数との差の記録によって移動訓練の困難性をデータベース化したりすることもできる。
【発明の効果】
【0026】
この発明の移動式歩行訓練機は、上述のような構成を有しており、訓練者や歩行者がバランスを崩したときの非常制御を確実に行って転倒を未然に防ぐことで、訓練者や歩行者と共に自走移動する自走式歩行機でありながら安全性の高い移動式歩行訓練機及び歩行補助機を提供するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、この発明の好適な実施形態を、実施例として示す図面を参照して説明する。本発明の実施例の歩行訓練機は、座部2、検知部3、及び連結紐4からなる歩行訓練機補助用の転倒防止具を取り外し可能に備える。図1はこの歩行訓練機補助用の転倒防止具を取り外した状態における、実施例1の歩行訓練機の斜視概観図である。図2、図3、図4、及び図13はそれぞれ、転倒防止具を取りつけた状態における、実施例1の歩行訓練機の側面図、側面図、背面図、及び平面図である。このうち図2と図3はまた、前腕部の短い訓練者、前腕部の長い訓練者による各使用状態を示す説明図であり、図4はまた、背支バー8による後部開閉機構を示す説明図である。
【0028】
歩行訓練機補助用の転倒防止具は、座部2、検知部3、及び連結紐4が組み合わされてなり、訓練者の異常姿勢を検知する検知部3を取り外し可能に備える。図11及び図12は、歩行訓練機補助用の転倒防止具の平面図及び底面図である。図5ないし図10は検知部3の正面図、背面図、右側面図、平面図、底面図、および側面視中央縦断面図である。なお左側面図は右側面図と対称にあらわれる。
【0029】
(本発明の構成)
本発明は、訓練者の上肢部を支えた状態で訓練者を本体1内の移動式訓練空間に立たせて歩行訓練を行う歩行訓練機であって、少なくとも下記の基本的な構成を具備する。
・内部に設けた立位訓練用の移動式訓練空間とともに移動しうる本体1
・本体1内部に備えられ、複数輪のホイルによって本体1を自走させる自走装置
・移動式訓練空間内の訓練者の腰部下方に設けられ、倒れ落ちる訓練者を座支することのできる座部2
・移動式空間内或いはその近傍に設けられ、座部2の変位/傾き/被加圧を検知して検知信号を発する検知部3
・本体1内に設けられ、検知部3の検知信号に応じて自動走行の停止或いは自動走行内容の変更を行う走行制御部
【0030】
さらに実施例においては上記構成に加え、下記構成を具備する。
・座部2の周りに配されて本体1及び座部2をそれぞれ繋ぐ複数本の連結紐4
・訓練者が移動式訓練空間内で両前腕をそれぞれ保持しうるハンドル付きの前腕保持部5
・前腕保持部5による保持位置を少なくとも前後方向へ調節する保持位置調節手段6
・前腕保持部5による保持高さ、あるいは座部2の吊り下げ高さの少なくともいずれかを調節する保持高さ調節手段7
・移動式訓練空間内の訓練者の背面側に配設され、後倒した訓練者を背支することのできる背支バー8
・移動式訓練空間内の訓練者の正面側上部にて訓練者側を向いて配設され、走行内容や非常制御の作動等といった各種情報を表示する表示部92
・移動式訓練空間内の訓練者の正面方向のやや右側上部にて上方を向いて配設され、非常時に押すことで走行を非常停止させる非常停止ボタン94
・移動式訓練空間内の訓練者の正面方向のやや右側下部にて訓練者側を向いて配設され、走行内容や非常制御の作動等といった各種情報を鳴音させるスピーカ95
上記構成によって、座部2の異常を検知して自動的に非常停止などの走行制御を行うことで、自走装置の非常時制御を確実に作動させると共に、倒れこみかけた訓練者を速やかに座支状態へ移行させ、安全性を確保することができる。以下、各構成に付き詳述する。
【0031】
(本体1)
本体1は、前方及び両側方に亘る下方枠11、下方枠11の両前側部から鉛直に立つ保持高さ調節手段77の挿通枠72、挿通枠72の上後部から側方且つ後方へ伸び、その後下方へ折れ曲がって下方枠11の後部に接続する側支パイプ12、挿通枠72の上面部から情報へ伸びると共に後方の側方向へ緩やかに折れ曲がって移動式訓練空間の側部に沿う並行棒となるガイドパイプ61を具備する。下方枠11の四隅は、四輪の全方向ホイルを配備すると共に、各全方向ホイルの周囲にはそれぞれホイルカバー10cで囲ってある。
【0032】
(座部2)
座部2は、サドル状、左右に亘るベンチ状、方形、多角形、楕円形の各種板状体等といった各種の形状の座を、吊り下げ、下方支持、左右或いは前後の少なくともいずれかからの側方支持等といった各種の支持構造によって移動式空間内に設けたものとすることができる。
【0033】
実施例では図11、図12に示すような角丸となった略三角形の布状の座布からなり、正面側及び両側面側へ連結された3本の連結紐4によって、移動式訓練領域S内の平面視図心と重なる位置に吊り下げられる。表面が自由に追従接触することで、様々な訓練者の倒れこみ姿勢に対応し、また連結紐4による三点吊り下げ支持の機構と共に、偏向力を吸収するものとなっている。座部2の平面視位置は、訓練者を座支したときの座支状態において、訓練機全体の平面視重心位置と重なる範囲にある。
【0034】
(連結紐4)
実施例は前部と両側部とで合わせて3本の連結紐4を有する。実施例の3本の連結紐4は、いずれも実施例の略三角形の座布の角部分に縫合された幅広ベルトからなり、長さ調節機構を有すると共に、先端に連結環が輪固定され、連結環に開閉固定式の環フックが固定される(図11、12)。この環フックは、両側部の分が本体1のガイドパイプ61の下部に倒立コ字状に設けた吊り下げパイプに吊り下げられ、前部の分は検知部3のフックセンサの下連結部に設けたフック孔32hに吊り下げられる(図2〜図4)。
【0035】
(検知部3)
検知部3は、規定位置からの圧縮或いは伸長、水平バランスの偏向、変位距離、変位速度ないし加速度といった各種の状態変異の少なくともいずれかを検知するものであればよい。座或いは支持構造に備えて非接触或いは変位/変移センサにより直接検知することができ、或いは移動式空間を囲う本体1内に備えて画像解析、超音波応答により間接検知することができる。座と支持構造との連結部、支持構造と本体1との連結部に介設することで簡便に備えることができる。また検知部3は好ましくは、少なくとも一本の連結紐4に設けられてなる。実施例では、下部が正面側の連結紐4の上端にフック連結され、上部が本体1の係止部への係止によって吊り下げられたフックスイッチからなる。
【0036】
(フックスイッチ)
フックスイッチは、フック31fを上端に有した箱型の上連結部と、フック孔32hを下端に有した箱型の下連結部とが、上下方向へ挿通嵌合されて、上下へ相互変位可能に組み合わされる。組み合わされた状態で、両部品間の変位空間が形成される。変位空間は、上連結部の箱型上面板を底部とし、下連結部の箱型上面板を天井部としてなり、組み合わされた部品相互が離遠変位すると変位空間の高さが低くなり、部品相互が近接変位すると変位空間の高さが高くなる。
【0037】
そして変位空間内には、圧縮作動スイッチ33が上連結部の箱型上面板に固定され、上方からの下連結部の天井部による上方圧縮によって作動する。尚図10には省略しているが、変位空間を上下方向に亘るコイルバネを設けて、変位空間の高さの変動開始条件を、所定値以上の外力がかかったときに制限することができる。これにより例えば2〜30kgfの変動開始の閾値を機械的に設け、微小な外力による誤作動を防ぐことができる。
【0038】
組み合わされた上下各連結部31、32は、水平に貫通された連結ピン34で連結される。連結ピン34は、下連結部32に設けられたピン固定孔と、上連結部31に設けられた変位方向に伸びる長孔からなる変位孔34h内とに挿通する。連結ピン34と変位孔34hとによって、上下各連結部31、32の相対変位方向及び最大変位量を制限する。連結ピン34がピン固定孔にて下連結部に固定されると共に、変位孔内の上下の変位方向へ移動する。
【0039】
上連結部31の箱型の底面板には、圧縮作動スイッチ33の伝送線93挿通用の挿通孔31hが設けられる。
【0040】
(前腕保持部5)
前腕保持部5は、移動式訓練空間内の訓練者の両側方から前方に亘って前後方向へ固定位置調節可能に具備された肘置き台51と、
肘置き台51の左右それぞれの前部から上方へ突出固定されてその突出上端同士が連結された一体的形状からなる握り部52とを有してなる。実施例では挿通構造からなる肘置き固定部を具備する。
【0041】
肘置き固定部は、移動式訓練空間の両側縁にてそれぞれ前後方向に伸びると共に肘置き台51との挿通構造によって肘置き台51を弛緩可能に固定する。
【0042】
上記握り部52は上方突出による突起物を有しておらず、また左右の突出固定部同士が互いの連結によって一体構成されるため、訓練者が寄りかかったときに刺さったり引っかかったりする可能性が低く、安全性に優れる。
【0043】
このようなものであれば、保持位置調節手段6の突出位置の調節によって、容易に前腕保持位置を変更し、移動式訓練空間における訓練者の体の位置を前記姿勢安定領域内に保持しうる。
【0044】
また左右握り部52の連結によって、握り部52の上方突出した先端部分による事故、例えば、姿勢を崩した訓練者が、握り部52の上方突出した先端部分へ衝突するという事故や、訓練者の衣服等が引っかかって転倒や過大負荷を受けるという事故、先端部分の欠壊による事故等を回避しうる。
【0045】
前記握り部52は、訓練者の前方にて、左右それぞれ斜め上前方へ突出するとともに、その突出上部同士が連結された、正面視倒立U字形状の棒状体からなるものとしても良い。
【0046】
肘置き台51は、移動式訓練空間の両側方および前方の三方に亘る平面視略コ字状の水平板であり、前方中央を除く表面には訓練者の前腕との当たりを緩衝させる緩衝板52p51pが貼着固定される。また保持位置調節手段6の挿通枠62が側方それぞれ、前後位置に一つずつ下設固定される。この前後位置にひとつずつ設けれらた挿通枠62を繋ぐようにして、下方弯曲した脇支部が固設される。
【0047】
(背支バー8)
背支バー8は、移動式訓練空間内の訓練者の背面側に配設され、後倒した訓練者を背支することができる。この背支バー8はその一部が取外され或いは分離することで、移動式訓練空間の後部を開閉しうる。具体的には、一端が枢支軸81として片側一方のガイドパイプ61に固定され、他端が連結フック82によって着脱自在に片側他方のガイドパイプ61へ連結される。一端が枢支軸81にて、片側のガイドパイプ61へガイドパイプ61軸を中心として回動可能に固定される。連結フック82はガイドパイプ61の外周形状に沿う嵌合くぼみ形状によって着脱自在となる。
【0048】
(保持位置調節手段6)
保持位置調節手段6は、少なくとも握り部52の突出位置を調節しうるもの、さらにいえば前腕保持部5による保持位置全体を前後方向へ調節するものである。保持位置調節手段6によって、訓練者の立ち位置を、移動式訓練空間Sの中央寄りであって、平面視にて移動式訓練空間Sの図心位置と訓練者の体幹部とが重なる範囲に調節しうる。更に、保持位置調節手段6によって、訓練者の位置を、訓練機全体の平面視重心位置と重なる範囲に調節しうる。訓練者の体幹部が、訓練機全体の平面視重心位置と重なる範囲にあれば、訓練者の体重がかかることによる重心位置の大きな変動を抑えることができる。つまり、正常な訓練姿勢中の訓練者の体幹の位置を、訓練機全体の平面視重心位置と重なる平面領域内に確保することで、倒れこんだ訓練者の体重によって訓練機へ偏心荷重がかかることを防ぎ、訓練機の非常時の転倒を抑制することができる。
【0049】
なお例えば前腕の長い訓練者の場合には前腕保持部5による保持位置を前方に調節し、前腕の短い訓練者の場合には前腕保持部5による保持位置を後方に調節する(図2、図3)。これにより、訓練者の肘の位置を、訓練機全体の側面視重心位置と重なる範囲に調節する。
【0050】
(保持高さ調節手段7)
保持高さ調節手段7は、ガイドパイプ61の訓練空間前方の延伸部分を挿通させて、下方枠11の前両側部の角部から鉛直上方に伸びる左右一対の挿通枠72と、これに挿通されるガイドパイプ61と、ガイドパイプ61の調節後の高さを固定する固定ネジ73とからなる。ガイドパイプ61の上部水平部分を挿通枠72による挿通機構で調節することで、前腕保持部5の高さ、及び座部2の吊り下げ高さを同時に調節することができる。
【0051】
(走行制御について)
検知部3の検知信号が所定の設定時間中連続して送られると、非常時であると判断して走行制御を行なう。例えば0.5〜1秒以上連続で検知信号が送られることを、走行制御指令の条件とする。短時間の接触負荷による検知部3の誤作動による走行制御の誤った作動を回避するためである。
【0052】
走行制御は、実施例では全方向ホイルのホイル軸を、非常停止モーターの作動によって緊急停止させるものである。このほか、電源の強制オフによる緊急停止や、機械的な車輪のロックによる緊急停止を行なうものとしても良い。また移動速度を徐々に下げて緩やかに停止するものとしてもよく、逆の移動方向へわずかに動いて停止するものとしても良い。
【0053】
また所定の設定時間中の連続検知信号に基づき、前記走行制御と共に、各種の非常時制御を行なうものとしている。実施例では前面下方に備えたスピーカ9595からの警報音を鳴動させ、また前面上方に備えた表示部9292へ緊急停止である旨を表示する。
【0054】
他の非常時制御としては、警報光の点灯や点滅、予め設定したサーバーや端末への無線連絡、予め積載或いは設置していたカメラによる画像撮影の動作等が挙げられる。そして本体1の機械的動作として、保持高さ調節手段7の自動作動によって、ガイドパイプ61の保持高さを緩速度で下げることとしてもよい。これにより、ガイドパイプ61に固定された前腕固定具の高さ、及びガイドパイプ61に吊り下げ固定された座部2の吊り下げ高さを下げることで、バランスを崩した訓練者の重心の高さを下げて転倒を防止することができる。
【0055】
(非常時情報のフィードバック)
なお上記移動式歩行訓練機や歩行補助機のいずれかは、自走動力の出力(電気出力の場合は例えば出力電圧)、ホイルの回転数、制御電流のデータを用いて、訓練達成度や難易度が高く危険性の高い走行方向等の様々な情報を分析するものとしても良い。更に分析によって得られた情報は表示部92等へ出力したりその後の自走条件にフィードバックしたりしても良い。例えば、検知時の回転数の記録によって移動方向ごとの訓練達成度をデータベース化したり、自走回転数と実際の回転数との差の記録によって移動訓練の困難性をデータベース化したりすることもできる。
【0056】
(自走装置)
自走装置は、ホイル軸方向を固定された複数たる四輪の全方向ホイルと、全方向ホイルの回転数を制御駆動する駆動機構とからなる。全方向ホイルの回転数を制御することで、回転運動を伴わずに平面視全方向移動を行なうことができる。
【0057】
(全方向ホイル)
それぞれの全方向ホイルは、略水平回動軸で回動可能な2列の互いに固定したホイルフレームからなり、各ホイルフレームの周縁に沿って、複数のフリーローラ10fを自由回転可能に保持する。
【0058】
また、本発明の走行装置は、四輪のオムニホイルを本体1の下部に軸方向を固定して配置する。四輪の軸方向は図13に示すように、平面視にて訓練空間を中心とした斜め四囲方向である。各オムニホイルのホイル軸は電力によって回転制御される。フリーローラ10fは、ホイルフレームの周に沿って固定された軸によって自由回転する樽型の転回体からなる。
【0059】
(使用方法例)
本発明の歩行訓練機は、例えば下肢麻痺者が、下肢の機能回復用に用いるリハビリ用の器具としても使用できる。リハビリにあたっては、訓練者の前腕を前腕保持部5上に載置してハンドルを握らせることで、訓練者を訓練空間内に立たせたまま支える。運動療法は、操作パネルに示した複数の治療コースから選択して行なう(図4、図13)。各治療コースは、動作の回数、速度、移動方向等が予め決められた順位、或いはランダムに出力される。歩行回復訓練は、立位の治療位置にして、患者の回復度合いに応じて、あらかじめ設定された速度、方向の移動訓練により行う。
【0060】
(歩行補助機としての使用)
上記移動式歩行訓練機において、訓練者を歩行者とし、移動式訓練空間を歩行補助空間とし、歩行訓練を歩行補助とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
人間の下肢の訓練機として利用できる他、人間や二足歩行ロボットの歩行補助機として、或いは精密機械の運搬/移動時の緊急支承機としても利用することができる。架台を具備する全方向移動装置、特に滑らかな走行を要する精密部品運搬用或いは歩行訓練用全方向移動体として利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施例1の歩行訓練機において、座部2、検知部3、及び連結紐4を取り外した状態の斜視概観図。
【図2】実施例1の歩行訓練機の、前腕部の短い訓練者による側面視使用状態説明図。
【図3】実施例1の歩行訓練機の、前腕部の長い訓練者による側面視使用状態説明図。
【図4】実施例1の歩行訓練機を示す背面視説明図。
【図5】実施例1の歩行訓練機における検知部3の正面図。
【図6】実施例1の歩行訓練機における検知部3の背面図。
【図7】実施例1の歩行訓練機における検知部3の右側面図(左は対称にあらわれる)。
【図8】実施例1の歩行訓練機における検知部3の平面図。
【図9】実施例1の歩行訓練機における検知部3の底面図。
【図10】図6に示す検知部3の側面視A−A線断面説明図。
【図11】実施例1の歩行訓練機における座部2、検知部3、及び連結紐4の平面図。
【図12】実施例1の歩行訓練機における座部2、検知部3、及び連結紐4の底面図。
【図13】実施例1の歩行訓練機の平面図。
【符号の説明】
【0063】
1 本体
11 下方枠
12 側支パイプ
2 座部
3 検知部(フックスイッチ)
31 上連結部
32 下連結部
4 連結紐
5 前腕保持部
51 肘置き台
51p緩衝板
52 握り部
53 脇支部
6 保持位置調節手段
61ガイドパイプ
62挿通枠
63固定ネジ
7 保持高さ調節手段
72 挿通枠
73 固定ネジ
8 背支バー
91 前板
92 表示部
93 電送線
94 非常停止ボタン
95 スピーカ
10 全方向ホイル
10f フリーローラ
10c ホイルカバー
S 移動式訓練空間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
訓練者の上肢部を支えた状態で訓練者を本体内の移動式訓練空間に立たせて歩行訓練を行う歩行訓練機であって、複数輪のホイルによって本体を自走させる自走装置と、移動式訓練空間内の訓練者の腰部下方に設けられ、倒れ落ちる訓練者を座支することのできる座部と、座部の変位/傾き/被加圧を検知して検知信号を発する検知部と、検知部の検知信号に応じて自動走行の停止或いは自動走行内容の変更を行う走行制御部とを具備することを特徴とする移動式歩行訓練機。
【請求項2】
本体及び座部をそれぞれ繋ぐ複数本の連結紐を具備し、座部は、これら連結紐によって訓練領域内に吊り下げられ、検知部は、少なくとも一本の連結紐に設けられてなる請求項1記載の移動式歩行訓練機。
【請求項3】
訓練者が移動式訓練空間内で両前腕をそれぞれ保持しうるハンドル付きの前腕保持部と、前腕保持部による保持位置を少なくとも前後方向へ調節する保持位置調節手段とを具備してなり、保持位置調節手段によって、訓練者の立ち位置を、移動式訓練空間の平面視図心と重なる範囲に調節しうる請求項1、または2のいずれか記載の移動式歩行訓練機。
【請求項4】
前腕保持部が、移動式訓練空間内の訓練者の両側方から前方に亘る肘置き台と、肘置き台の左右それぞれの前部から上方へ突出固定されてその突出上端同士が連結された一体的形状からなる握り部とを有してなり、保持位置調節手段が、少なくとも前記握り部の突出位置を調節しうるものである請求項1、2、または3のいずれか記載の移動式歩行訓練機。
【請求項5】
移動式訓練空間内の訓練者の背面側に配設され、後倒した訓練者を背支することのできる背支バーを具備してなり、この背支バーはその一部が取外され或いは分離することで、移動式訓練空間の後部を開閉しうる請求項1、2、3または4のいずれか記載の移動式歩行訓練機。
【請求項6】
自走装置が、ホイル軸方向を固定した複数の全方向ホイルからなり、全方向ホイルの回転数を制御することで平面視全方向移動を行ない得る請求項1、2、3、4、または5のいずれか記載の移動式歩行訓練機。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5、または6のいずれか記載の移動式歩行訓練機において、訓練者を歩行者とし、移動式訓練空間を歩行補助空間とし、歩行訓練を歩行補助としたことを特徴とする歩行補助機。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2009−247411(P2009−247411A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95588(P2008−95588)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 博覧会名 第34回国際福祉機器展H.C.R.2007 主催者名 財団法人保健福祉広報協会 開催日 平成19年10月3日から10月5日
【出願人】(304045077)株式会社相愛 (11)