説明

移動形態判別方法および移動形態判別装置、ならびに消費カロリー算出方法

【課題】自動車や電車などの乗り物による移動と被験者の身体活動による移動との判別も含めた移動形態の判別を、簡易な計算で精度良く行う移動形態判別方法を提案すること。
【解決手段】予め、各種の移動形態で移動する被験者に3軸加速度センサを取り付けて、移動中の3軸加速度センサの合計ベクトルAtに対する鉛直方向成分Azの比率rzのデータを、各移動形態ごとに少なくとも数百点ずつ収集しておく。未知の移動形態を判別するときには、移動中の3軸加速度センサの出力から算出した判別対象のデータrzと、各移動形態に対応するデータ群との間のマハラノビス汎距離を算出して、最も距離が小さいデータ群の移動形態で移動していると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者が、平地、坂道等を、歩行、ジョギング、自転車等の人力での移動手段を用いる等の各種の移動形態で移動する際に、その移動形態を精度良く判別することのできる移動形態判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被験者が移動する際の消費カロリーを算出する方法として、平地歩行だけでなく、坂道歩行や山登り、階段の上り下りなどの移動時の運動形態(移動形態)を考慮して算出するものが提案されている。特許文献1では、被験者に取り付けた3軸加速度計の測定値のベクトル和から力積を計算し、予め求めておいた運動形態別の直線状相関データに基づき、力積および被験者の体重から消費カロリーを算出している。このとき、3軸加速度計の測定波形と、予め測定しておいた各種の運動形態における典型的波形とを比較し、所定の誤差範囲内で波形が一致したときに、その一致した波形の運動形態で運動しているものと判定して、消費カロリーの算出に用いる相関データを決定することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−258870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で提案されている運動形態の判別方法は、加速度センサのみで運動形態を判別できるものの、判定時に波形の一致度を計算しなければならず、複雑な計算処理が必要である。よって、処理能力の高い計算装置や容量の大きい記憶装置が必要になってしまい、廉価な携帯型装置で実施するのには適さないという問題点があった。
【0005】
また、加速度センサは、被験者が自動車や電車などの乗り物に乗っているときも加速度を検出してしまうので、歩行などの被験者の身体活動による移動と乗り物による移動とを区別できなければ、消費カロリーの算出値が実態と大きく食い違ってしまう。しかしながら、特許文献1には、被験者の身体活動による移動を行ったときの測定波形と自動車や電車で移動したときの測定波形とを判別する方法は提案されていなかった。
【0006】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、加速度センサの出力に基づき被験者の移動形態を判別する移動形態判別方法において、自動車や電車などの乗り物による移動と被験者の身体活動による移動との判別も含めた各種の移動形態の判別を、簡易な計算で精度良く行う方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の移動形態判別方法は、
予め、被験者に取り付けた3軸加速度センサの出力値に基づき、前記被験者が移動しているときの3軸方向の加速度の合計ベクトルに対する、当該3軸方向の加速度のうちの少なくとも1つの軸方向成分の比率のデータを、前記被験者の移動形態の種類ごとに所定数以上集めた複数の移動形態別データ群を準備しておき、
前記被験者が判定対象の移動形態で移動しているときの、当該被験者に取り付けた3軸加速度センサの出力値に基づき、前記比率のデータを算出し、
当該算出した前記比率のデータと、各移動形態別データ群との統計的距離を算出し、
当該統計的距離が最も小さい前記移動形態別データ群の移動形態が、前記判定対象の移動形態であると判定することを特徴としている。
【0008】
本発明者等は、予め、被験者に取り付けた3軸加速度センサの出力値に基づき、被験者が移動しているときの3軸方向の加速度の合計ベクトルに対する、当該3軸方向の加速度のうちの少なくとも1つの軸方向成分を含む所定の軸方向成分の比率のデータを、移動形態の種類ごとに十分な数だけ集めておけば、これらのデータ群を用いた統計的手法(判定対象のデータと予め用意したデータ群との統計的距離を算出する方法)により、未知の移動形態で移動している被験者に取り付けた3軸加速度センサの出力値から算出されたデータ(判定対象の比率のデータ)が、どの移動形態のデータ群に最も近いかを簡易な計算で判別でき、未知の移動形態の種類を精度良く判別できることを見出した。
【0009】
また、本発明者等は、前記統計的距離として、前記合計ベクトルと前記比率を直交する2軸とする2次元空間におけるマハラノビス汎距離を用いた場合に、簡易な計算で精度の良い判別結果が得られることを見出した。マハラノビス汎距離は、各データ群について、平均値および分散共分散行列の逆行列を予め計算しておくことにより、簡易な計算で算出することができる。よって、処理能力の低い計算装置や容量の小さい記憶装置のみを備える簡易な携帯型装置においても実行可能である。
【0010】
更に、本発明者等は、前記3軸加速度センサにより、鉛直方向、前記被験者の前後方向、および前記被験者の左右方向の加速度を検出し、前記所定の軸方向成分として鉛直方向成分を用いることにより、最も精度の良い判別結果が得られることを見出した。
【0011】
そして、本発明者等は、前記複数の移動形態別データ群として、歩行、ランニング、自転車、自動車、電車の各移動形態に対応するデータ群を準備したときに、これらの移動形態の判別を、精度良く行うことができることを見出した。
【0012】
本発明において、前記被験者が静止状態のときに、前記被験者に取り付けた前記3軸加速度センサの出力値を検出し、当該静止状態での出力値に基づいて、前記被験者が移動しているときの前記3軸加速度センサの出力値を補正してもよい。このようにすれば、3軸加速度計が正しい姿勢で被験者に取り付けられていないときでも、姿勢のずれを検出して出力値を補正することができる。
【0013】
このとき、前記3軸加速度センサの出力値の検出および各軸方向の加速度の算出は、以下のように行うことができる。すなわち、前記3軸加速度センサの出力値を一定のサンプリング周期で検出し、当該検出を予め定めた単位時間(T1)に亘って行う毎に、当該単位時間(T1)における各サンプリングデータ(x、y、z)の平均値(mx、my、mz)を算出すると共に、各サンプリングデータ(x、y、z)と前記平均値(mx、my、mz)との差分の絶対値を前記単位時間(T1)に亘って累積した累積差分(ax=Σ|x−mx|、ay=Σ|y−my|、az=Σ|z−mz|)を算出し、前記累積差分(ax、ay、az)を予め定めた単位時間(T2)に亘って累積した累積値(Σax、Σay、Σaz)を、前記3軸方向の加速度の各軸方向成分の大きさ(Ax、Ay、Az)として前記単位時間(T2)毎に算出する。
【0014】
また、前記データ群を、前記被験者の属性グループ毎に収集しておき、各被験者の属性に対応する前記移動形態別データ群を用いて、前記統計的距離を算出すれば、より精度良く判別を行うことができる。この属性グループは、例えば、被験者の性別、年齢、身長、体重、筋力などの各種の属性で区分したグループとすればよい。
【0015】
ここで、3軸加速度センサを取り付けた被験者の移動形態の判別を、上記の移動形態判別方法によって所定時間毎に行い、判別結果の時系列の変化が不自然であるか否かを、予め設定した判定基準に基づいて判定し、不自然であると判定した場合には、前記判別結果を補正することが望ましい。例えば、短時間だけ突発的に移動手段が変化した場合には、誤判別が発生した可能性が高いので、判別結果を補正することが望ましい。
【0016】
次に、本発明の移動形態判別装置は、
3軸加速度センサと、
当該3軸加速度センサの出力値に基づき、上記の移動形態判別方法によって、前記3軸加速度センサが取り付けられている被験者の移動形態を判別する判別処理部と、を有することを特徴としている。
【0017】
次に、本発明の消費カロリー算出方法は、
予め、被験者の移動形態の種類ごとに、当該被験者に取り付けた3軸加速度センサによって検出した3軸方向の加速度の合計ベクトルと、当該被験者の消費カロリーとの相関関係を求めておき、
上記の移動形態判別方法によって判別した被験者の移動形態に対応する前記相関関係に基づき、当該被験者の消費カロリーを算出することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明の移動形態判別方法によれば、予め、被験者に取り付けた3軸加速度センサの出力値に基づき、被験者が移動しているときの3軸方向の加速度の合計ベクトルに対する、当該3軸方向の加速度のうちの少なくとも1つの軸方向成分を含む所定の軸方向成分の比率のデータを、移動形態の種類ごとに十分な数だけ集めておく。そして、これらのデータ群を用いた統計的手法(判定対象のデータと予め用意したデータ群との統計的距離を算出する方法)により、未知の移動形態で移動している被験者に取り付けた3軸加速度センサの出力値から算出されたデータが、どの移動形態のデータ群に最も近いかを簡易な計算で判別でき、この判別結果によって、未知の移動形態の種類を精度良く判別できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】各移動形態におけるデータ群の分布を示すグラフである。
【図2】マハラノビス汎距離によるデータの判別方法の説明図である。
【図3】3軸加速度センサを内蔵する移動形態判別機能付き消費カロリー測定装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明による移動形態判別方法の実施の形態を説明する。
【0021】
本実施形態では、被験者に取り付けた3軸加速度センサの出力値に基づいて、被験者の移動形態を判別している。具体的には、3軸方向の加速度の合計ベクトルAtに対する、当該3軸方向の加速度のうちの鉛直方向成分Azの比率rzを算出して、この比率rzによって、被験者の移動形態を判別する。3軸加速度センサの出力値から比率rzを算出するときの具体的な算出方法としては、以下に説明する方法を用いている。
【0022】
まず、3軸加速度センサの出力値を一定のサンプリング周期で検出して、単位時間T1(本実施形態では、1秒)におけるサンプリングデータ(x、y、z)の平均値(mx、my、mz)を、mx=Σx/n、my=Σy/n、mz=Σz/n(n:単位時間T1におけるサンプリング回数)により算出する。
【0023】
次に、この平均値(mx、my、mz)と、各サンプリングデータ(x、y、z)との差分の絶対値を単位時間T1に亘って累積した累積差分(ax、ay、az)を、ax=Σ|x−mx|、ay=Σ|y−my|、az=Σ|z−mz|により算出する。
【0024】
続いて、この単位時間T1ごとに算出される累積差分(ax、ay、az)を、単位時間T2(本実施形態では、1分)に亘って累積した累積値(Σax、Σay、Σaz)を算出する。そして、算出した累積値(Σax、Σay、Σaz)を3軸方向の各加速度ベクトル(Ax、Ay、Az)の大きさとする。これにより、合計ベクトルAtが、At=(Ax+Ay+Az0.5により算出され、鉛直方向成分Azの比率rzが、rz=Az/Atにより算出される。
【0025】
本実施形態では、予め、3軸加速度センサを取り付けた被験者を様々な移動形態で移動させて、様々な移動形態で移動しているときの上記比率rzのデータを、移動形態ごとに十分なサンプル数だけ集めて、判別用のデータ群を移動形態ごとに準備しておく。
【0026】
図1は、各移動形態に対応するデータ群(移動形態別データ群)の分布を示すグラフである。図1の横軸は合計ベクトルAtであり、図1の縦軸は比率rzである。この図に示すように、移動形態が「歩行」のときのデータ群1(符号●)はグラフの中央部分に集中して分布しており、移動形態が「ランニング」のときのデータ群2(符号□)はグラフの右上に集中して分布している。また、移動形態が「自転車」のときのデータ群3(符号▲)はグラフのやや左寄りの上部に集中して分布しており、移動形態が「電車」のときのデータ群4(符号×)はグラフの左端下寄りに分布している。そして、移動形態が「自動車」のときのデータ群5(符号◆)は、「電車」と「歩行」との間に分布している。
【0027】
図1に示す各移動形態のデータ群1〜5は、それぞれ数百点程度のデータから構成されている。具体的には、「歩行」については約900点、「ランニング」については約730点、「自転車」については約300点、「自動車」については約320点、「電車」については約390点のデータから構成されている。データの収集数は、達成すべき判別率(正しい判別結果が得られる確率)に応じて、適宜設定すればよい。
【0028】
本実施形態では、各移動形態別データ群について、それぞれ、平均値、分散、共分散、および分散共分散行列の逆行列を予め計算しておく。これらの値は、3軸加速度センサを取り付けた被験者が未知の移動形態での移動を行い、この移動中の3軸加速度センサの出力値に基づいて新たな比率rzのデータを算出したときに、このデータrzと各データ群との統計的距離、具体的にはマハラノビス汎距離(データ群の平均値からの距離を分散で正規化した値)を算出するためのものである。
【0029】
図2は、マハラノビス汎距離によるデータの判別方法の説明図である。横軸xを合計ベクトルAtとし、縦軸yを鉛直成分の比率rzとした2次元空間におけるマハラノビス汎距離Dは、式(1)によって算出される。図2に示すように、2つの移動形態A、Bのそれぞれについてデータ群が存在した場合、未知の移動形態のデータは、2つのデータ群とのマハラノビス汎距離の大小によって、どちらのデータ群に属するかを判別できる。
【0030】

【0031】
本実施形態では、各移動形態別データ群が、横軸を合計ベクトルAtとし、縦軸を鉛直成分の比率rzとする平面上において互いに分離した集団になることに着目し、統計的距離を用いて未知のデータがどのデータ群に属するかを判別し、この判別結果に基づいて未知の移動形態を判別している。すなわち、被験者に取り付けた3軸加速度センサの出力値に基づき、未知の移動形態についてのデータrz(判定対象の移動形態を示すデータ)を算出したら、このデータrzと各移動形態別データ群とのマハラノビス汎距離を、予め算出しておいた平均値、分散、共分散、および分散共分散行列の逆行列を用いて、式(1)によって算出する。そして、算出したマハラノビス汎距離を比較して、どのデータ群との間の距離が最も小さいかを判定する。そして、最も距離が小さいデータ群の移動形態が、この未知の移動形態であると判定する。
【0032】
図1に示す境界線6aは「歩行」のデータ群1と、「ランニング」のデータ群2とのマハラノビス汎距離が等しいラインである。同様に、境界線6b〜6eは、隣接するデータ群同士の間でマハラノビス汎距離が等しいラインである。これらの境界線6a〜6eは、本実施形態の移動形態判別方法における判別境界線となっている。
【0033】
本発明者等は、収集した各移動形態別データ群を構成する全データについて、上記のマハラノビス汎距離を用いた判別方法による移動形態の判別を試みた。その結果、正しい判別結果が得られた割合は、「歩行」のデータについては100%、「ランニング」のデータについては99.7%、「自転車」のデータについては95.3%、「自動車」のデータについては93.5%、「電車」のデータについては89.4%であった。このように、本実施形態の方法によれば、十分に精度の良い判別が可能であることを確認している。
【0034】
図3は、3軸加速度センサを内蔵する移動形態判別機能付き消費カロリー測定装置の説明図である。本実施形態の移動形態判別方法は、3軸加速度センサ7を内蔵している携帯型の消費カロリー測定装置8(移動形態判別装置)などの判別処理部9に判別プログラムとして組み込んでおき、この消費カロリー測定装置8を取り付けた被験者10が移動しているときにその移動形態を随時判別し、この判別結果に基づいて、消費カロリーの算出を行うために用いることができる。
【0035】
この場合には、予め、移動形態毎に、上記の判別用の移動形態別データ群1〜5とのマハラノビス汎距離を算出するために必要なデータを準備して判別処理部9に記憶させておき、且つ、各移動形態ごとに、3軸方向の加速度の合計ベクトルと、当該被験者の消費カロリーとの相関関係を求めておき、消費カロリー算出プログラムと共に、消費カロリー測定装置8に記憶させておく。そして、判別された移動形態に対応する相関関係を用いて、消費カロリーを算出すればよい。
【0036】
なお、本発明の移動形態判別方法は、消費カロリーを算出せずに単に移動形態のみを計測して記録する行動記録装置や、歩行やランニングによる歩数のみを計測して記録する歩数計などの各種の装置に適用することができる。
【0037】
(改変例)
(1)上記実施形態では、5種類の移動形態を判別対象としていたが、これら以外にも、「ジョギング」「エレベーター」「エスカレーター」「オートバイ」「航空機」「船舶」などの各種の移動形態についても十分な数のデータを集めておき、判別を行うことができる。また、「自動車」については「自家用車」と「バス」に分けてデータを収集し、「電車」については「急行」と「普通(鈍行)」に分けてデータを収集することにより、これらを判別するようにしてもよい。
【0038】
(2)上記実施形態では、合計ベクトルAtに対する鉛直方向成分Azの比率rzを判別用のパラメータとして用いたが、判別対象の移動形態の種類などに応じて、異なるパラメータを用いることも考えられる。すなわち、合計ベクトルAtに対する前後方向成分Axの比率rx、あるいは、左右方向成分Ayの比率ryを用いても良い。また、3軸方向成分Ax、Ay、Azのうちの2つの成分の合計ベクトルの比率(rxy、rxz、ryz)などを用いても良い。あるいは、複数のパラメータを用いて判別を行っても良い。例えば、比率rx、ry、rzをそれぞれ合計ベクトルAtと直交する軸方向とした多次元空間上におけるデータ群の分布を想定し、この多次元空間上におけるデータ群と各データとの統計的距離を算出して、判別を行っても良い。
【0039】
(3)上記実施形態では、判別用の統計的距離としてマハラノビス汎距離を用いたが、判別対象の移動形態や用いる判別対象値(上記実施形態ではrz)などに応じて、異なる統計的距離を用いてもよい。例えば、ユークリッド平方距離、標準化ユークリッド距離、ミンコフスキー距離などの公知の統計的距離を用いても良い。
【0040】
(4)判定対象の移動形態に高度変化を伴うものを含める場合には、3軸加速度センサの出力値に気圧センサの出力値を組み合わせて、判別を行うことも考えられる。すなわち、気圧センサの出力値を3軸加速度センサの出力値と同様にサンプリングして、被験者の上昇高度あるいは下降高度を算出し、この高度変化に基づいて移動形態を判別することができる。あるいは、高度変化に基づく酸素消費量の変化を消費カロリーの算出式に組み込んでおいて、消費カロリーの測定値に反映させてもよい。
【0041】
(5)被験者を性別、年齢、身長、体重、筋力などの属性によってグループ分けして、上記の移動形態別データ群を属性グループ毎に収集しておけば、より精度の良い判別が可能である。この場合、予め、3軸加速度センサを取り付ける被験者の属性を、移動形態の判別を行う処理装置(例えば、携帯型の消費カロリー測定装置)に入力できるようにしておけば、設定に応じて、被験者に適したデータ群を用いて判別を行うことができる。
【0042】
(6)上記の移動形態判別方法による判別は、確率は少ないものの、誤判別が発生するおそれがある。そこで、判別結果の時系列の変化が不自然でないかを判定して、不自然であった場合にはその判別結果を補正することにより、更に判別精度を向上させることができる。例えば、短時間だけ移動形態が全く異なるものに突発的に変化したとき、例えば、「歩行」から「自動車」にごく短時間だけ変化してすぐ元に戻った場合には、その部分が誤判定であった可能性が高い。そこで、このような場合には、突発的な「自動車」との判定結果の部分を、その前後と同じ「歩行」に補正することが望ましい。あるいは、「自動車」から「電車」に急に乗り物が変化するなどのように、不自然な変化があった場合には、その前後の時系列の変化に基づき、不自然な部分を補正することが望ましい。
【0043】
(7)被験者に取り付けた3軸加速度センサの鉛直軸が正しく鉛直方向を向いていない場合を想定し、3軸加速度センサによる計測中、あるいは計測開始直前に、正しい鉛直軸の方向を検出して、この検出結果を用いて、以後の3軸加速度センサの出力値を補正することが望ましい。正しい鉛直軸の方向を検出するには、一旦3軸加速度センサを取り付けた被験者を静止状態として、重力加速度のみが作用している状態で3軸加速度センサの出力値を検出する。そして、この出力値を用いて、移動しているときの3軸加速度センサの出力値を補正し、正しい鉛直方向成分比率rzを算出することができる。あるいは、静止状態で検出した3軸加速度センサの出力値に基づいて各軸の傾きを把握し、最も重力方向に対する傾きが小さい軸方向の加速度成分を、鉛直方向成分として扱ってもよい。
【0044】
(8)本実施形態の移動形態判別方法を用いて、例えば「歩行」などの特定の移動形態だけを他の移動形態と判別するようにしてもよい。これにより、自動で精度の良い歩数計測が可能となる。また、「歩行」と「ランニング」を判別することで、「歩行」による歩数と「ランニング」による歩数を、自動で精度良く判別することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 「歩行」のデータ群
2 「ランニング」のデータ群
3 「自転車」のデータ群
4 「電車」のデータ群
5 「自動車」のデータ群
6a〜6e 判別ライン
7 3軸加速度センサ
8 消費カロリー測定装置
9 判別処理部
10 被験者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め、被験者に取り付けた3軸加速度センサの出力値に基づき、前記被験者が移動しているときの3軸方向の加速度の合計ベクトルに対する、当該3軸方向の加速度のうちの少なくとも1つの軸方向成分の比率のデータを、前記被験者の移動形態の種類ごとに所定数以上集めた複数の移動形態別データ群を準備しておき、
前記被験者が判定対象の移動形態で移動しているときの、当該被験者に取り付けた3軸加速度センサの出力値に基づき、前記比率のデータを算出し、
当該算出した前記比率のデータと、各移動形態別データ群との統計的距離を算出し、
当該統計的距離が最も小さい前記移動形態別データ群の移動形態が、前記判定対象の移動形態であると判定することを特徴とする移動形態判別方法。
【請求項2】
請求項1に記載の移動形態判別方法において、
前記統計的距離として、前記合計ベクトルと前記比率を直交する2軸とする2次元空間におけるマハラノビス汎距離を用いることを特徴とする移動形態判別方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の移動形態判別方法において、
前記3軸加速度センサにより、鉛直方向、前記被験者の前後方向、および前記被験者の左右方向の加速度を検出し、
前記少なくとも1つの軸方向成分の比率は、鉛直方向成分の比率であることを特徴とする移動形態判別方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかの項に記載の移動形態判別方法において、
前記複数の移動形態別データ群は、少なくとも、歩行、ランニング、自転車、自動車、電車の各移動形態に対応するデータ群を含むことを特徴とする移動形態判別方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかの項に記載の移動形態判別方法において、
前記被験者が静止状態のときに、前記被験者に取り付けた前記3軸加速度センサの出力値を検出し、
当該静止状態での出力値に基づいて、前記被験者が移動しているときの前記3軸加速度センサの出力値を補正することを特徴とする移動形態判別方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかの項に記載の移動形態判別方法において、
前記3軸加速度センサの出力値を一定のサンプリング周期で検出し、
当該検出を予め定めた単位時間(T1)に亘って行う毎に、当該単位時間(T1)における各サンプリングデータ(x、y、z)の平均値(mx、my、mz)を算出すると共に、各サンプリングデータ(x、y、z)と前記平均値(mx、my、mz)との差分の絶対値を前記単位時間(T1)に亘って累積した累積差分(ax=Σ|x−mx|、ay=Σ|y−my|、az=Σ|z−mz|)を算出し、
前記累積差分(ax、ay、az)を予め定めた単位時間(T2)に亘って累積した累積値(Σax、Σay、Σaz)を、前記3軸方向の加速度の各軸方向成分の大きさ(Ax、Ay、Az)として前記単位時間(T2)毎に算出することを特徴とする移動形態判別方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかの項に記載の移動形態判別方法において、
前記移動形態別データ群を、前記被験者の属性グループ毎に収集しておき、
各被験者の属性に対応する前記移動形態別データ群を用いて、前記統計的距離を算出することを特徴とする移動形態判別方法。
【請求項8】
3軸加速度センサを取り付けた被験者の移動形態の判別を、請求項1ないし7のいずれかの項に記載の移動形態判別方法によって所定時間毎に行い、
判別結果の時系列の変化が不自然であるか否かを、予め設定した判定基準に基づいて判定し、
不自然であると判定した場合には、前記判別結果を補正することを特徴とする移動形態判別方法。
【請求項9】
3軸加速度センサと、
当該3軸加速度センサの出力値に基づき、請求項1ないし8のいずれかの項に記載の移動形態判別方法によって、前記3軸加速度センサが取り付けられている被験者の移動形態を判別する判別処理部と、を有することを特徴とする移動形態判別装置。
【請求項10】
予め、被験者の移動形態の種類ごとに、当該被験者に取り付けた3軸加速度センサによって検出した3軸方向の加速度の合計ベクトルと、当該被験者の消費カロリーとの相関関係を求めておき、
請求項1ないし8のいずれかの項に記載の移動形態判別方法によって判別した被験者の移動形態に対応する前記相関関係に基づき、当該被験者の消費カロリーを算出することを特徴とする消費カロリー算出方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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