説明

移動物体の電位分布計算装置、移動物体の電位分布計算方法、プログラム、及び記録媒体

【課題】計算対象の移動物体に対してその移動物体の各部における電位分布を簡単かつ正確に計算可能な移動物体の電位分布計算装置及び移動物体の電位分布計算方法、並びに、その計算装置または計算方法を実施するためのプログラム及び記録媒体の提供。
【解決手段】転写ローラ等のローラ、及びその雰囲気の計算領域に対して有限個の計算点を配置する。この計算点をローラの回転に応じて移動させ、各計算点の電位φに対する次の連立方程式を解くことにより電位φを計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計算対象の移動物体に対してその移動物体の各部における電位分布を計算するための移動物体の電位分布計算装置及び移動物体の電位分布計算方法、並びに、その計算装置または計算方法を実施するためのプログラム及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置における転写ローラ,クリーニングローラなど、電界中に配設される各種移動物体では、移動物体の内部での伝導電流により電位分布が変化すると共に、移動物体自体の移動による電荷の移動によっても電位分布が変化する。そこで、このような移動物体の各部における電位分布を計算するため、各種方法が提案されている。
【0003】
例えば、移動物体を複数のセルに分割し、各セルに流入または流出する電荷量を計算することによって、回転するローラにおける電位分布を計算する方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003-262617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記方法では、セルを空間に固定し、各セルに流入または流出する電荷量を計算していたため、ローラの回転移動等に伴う電荷の移動を正確にシミュレーションすることができなかった。例えば、ローラ外周のセル数とローラの回転角とが対応しない場合、ローラの回転に伴う電荷の移動量を補間計算する必要があり、数値が拡散して精度が低下する可能性がある。精度を維持する方法としてライス法、修正オイラー法、QUICK法など各種方法が提案されているが、計算が煩雑となる。また、移動物体をセルに分割する場合、各セルの頂点を構成する節点の位置データと共にどの節点とどの節点とが接続されてセルを構成しているかといった情報も必要となり、計算は極めて煩雑となる。
【0005】
そこで、本発明は、計算対象の移動物体に対してその移動物体の各部における電位分布を簡単かつ正確に計算することのできる移動物体の電位分布計算装置及び移動物体の電位分布計算方法、並びに、その計算装置または計算方法を実施するためのプログラム及び記録媒体を提供することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達するためになされた本発明の移動物体の電位分布計算装置は、計算対象の移動物体に対し、離散化した計算点からなる計算点モデルを作成する計算点モデル作成手段と、該計算点モデル作成手段が作成した計算点を、上記移動物体の移動に応じて移動させる計算点移動手段と、上記各計算点の電位を、その計算点の周囲の計算点の電位を平滑化関数で重み付けして平均化した式によってそれぞれ定義する電位定義手段と、該計算点電位定義手段が定義した各計算点の電位を関係式に代入して各計算点の電位を算出する電位算出手段と、を備えたことを特徴としている。
【0007】
このように構成された本発明では、計算点モデル作成手段は、計算対象の移動物体に対して離散化した計算点からなる計算点モデルを作成し、その計算点モデルの各計算点を、計算点移動手段が移動物体の移動に応じて移動させる。また、電位定義手段は、上記各計算点の電位を、その計算点の周囲の計算点の電位を平滑化関数で重み付けして平均化した式によってそれぞれ定義し、電位算出手段は、その定義された各計算点の電位を関係式に代入して各計算点の電位を算出する。
【0008】
このように、本発明では、計算点モデルを作成し、そのモデルを構成する計算点を移動させているので、例えば回転するローラなどの移動物体の電位分布変化を正確にシミュレーションすることができる。しかも、上記計算点モデルはセルを用いたモデルに比べて少ないデータで容易に作成することができる。また、本発明では、各計算点の電位を、その計算点の周囲の計算点の電位を平滑化関数で重み付けして平均化した式によって定義し、その定義された各計算点の電位を関係式に代入して各計算点の電位を算出しているので、各計算点の電位を簡単にかつ正確に算出することができる。従って、本発明によれば、移動物体の電位分布をその移動に応じて簡単かつ正確に計算することができる。
【0009】
なお、本発明の移動物体の電位分布計算装置は、上記電位算出手段が算出した各計算点の電位に基づき、上記各計算点における電界を算出する電界算出手段を、更に備えてもよい。この場合、電界算出手段によって各計算点の電界も算出することができ、算出された電界の値を各種制御に応用することができる。
【0010】
また、本発明の移動物体の電位分布計算装置は、上記平滑化関数における影響範囲を、上記計算点の密度に応じて計算点毎に算出する影響範囲算出手段を、更に備えてもよい。この場合、平滑化関数を用いた平均化に関わる計算点の数のバラツキを抑制し、上記電位の計算精度を一層向上させることができる。
【0011】
また、本発明は、上記計算点モデル作成手段及び計算点移動手段の形態を特に限定するものではないが、上記計算点モデル作成手段は、上記移動物体と接する雰囲気に対しても計算点を作成し、上記計算点移動手段は、上記移動物体上の計算点に対する上記平滑化関数の影響範囲に含まれる上記雰囲気の計算点を、上記移動物体上の計算点と一体に移動させてもよい。
【0012】
上記平滑化関数を用いた定義付けを適切に行うためには、移動物体と接する雰囲気に対しても計算点を作成するのが望ましい。但し、この場合、上記雰囲気の計算点を不動の点として扱うと、移動物体の上記雰囲気との界面近傍に配設された計算点の電位は、移動物体の移動に伴ってなまってしまう。これに対して、計算点モデル作成手段及び計算点移動手段を上記のように構成した場合、移動物体近傍の雰囲気の計算点も移動させることにより、移動物体と雰囲気との界面近傍の電位もなまることなく正確に計算することができる。
【0013】
また、本発明の移動物体の電位分布計算方法は、計算対象の移動物体に対し、離散化した計算点からなる計算点モデルを作成する計算点モデル作成処理と、該計算点モデル作成処理にて作成された計算点を、上記移動物体の移動に応じて移動させる計算点移動処理と、上記各計算点の電位を、その計算点の周囲の計算点の電位を平滑化関数で重み付けして平均化した式によってそれぞれ定義する電位定義処理と、該計算点電位定義処理により定義された各計算点の電位を関係式に代入して各計算点の電位を算出する電位算出処理と、を備えたことを特徴としている。
【0014】
このように構成された本発明では、計算点モデル作成処理にて、計算対象の移動物体に対して離散化した計算点からなる計算点モデルが作成され、その計算点モデルの各計算点が、計算点移動処理にて移動物体の移動に応じて移動される。また、電位定義処理では、上記各計算点の電位が、その計算点の周囲の計算点の電位を平滑化関数で重み付けして平均化した式によってそれぞれ定義され、電位算出処理では、その定義された各計算点の電位を関係式に代入して各計算点の電位が算出される。
【0015】
このように、本発明では、計算点モデルを作成し、そのモデルを構成する計算点を移動させることができるので、例えば回転するローラなどの移動物体の電位分布変化を正確にシミュレーションすることができる。しかも、上記計算点モデルはセルを用いたモデルに比べて少ないデータで容易に作成することができる。また、本発明では、各計算点の電位は、その計算点の周囲の計算点の電位を平滑化関数で重み付けして平均化した式によって定義され、その定義された各計算点の電位を関係式に代入して各計算点の電位が算出されるので、各計算点の電位を簡単にかつ正確に算出することができる。従って、本発明によれば、移動物体の電位分布をその移動に応じて簡単かつ正確に計算することができる。
【0016】
なお、本発明の移動物体の電位分布計算方法は、上記電位算出処理により算出された各計算点の電位に基づき、上記各計算点における電界を算出する電界算出処理を、更に備えてもよい。この場合、電界算出処理によって各計算点の電界も算出することができ、算出された電界の値を各種制御に応用することができる。
【0017】
また、本発明の移動物体の電位分布計算方法は、上記平滑化関数における影響範囲を、上記計算点の密度に応じて計算点毎に算出する影響範囲算出処理を、更に備えてもよい。この場合、平滑化関数を用いた平均化に関わる計算点の数のバラツキを抑制し、上記電位の計算精度を一層向上させることができる。
【0018】
また、本発明は、上記計算点モデル作成処理及び計算点移動処理の形態を特に限定するものではないが、上記計算点モデル作成処理では、上記移動物体と接する雰囲気に対しても計算点を作成し、上記計算点移動処理では、上記移動物体上の計算点に対する上記平滑化関数の影響範囲に含まれる上記雰囲気の計算点を、上記移動物体上の計算点と一体に移動させてもよい。
【0019】
上記平滑化関数を用いた定義付けを適切に行うためには、移動物体と接する雰囲気に対しても計算点を作成するのが望ましい。但し、この場合、上記雰囲気の計算点を不動の点として扱うと、移動物体の上記雰囲気との界面近傍に配設された計算点の電位は、移動物体の移動に伴ってなまってしまう。これに対して、計算点モデル作成処理及び計算点移動処理を上記のように構成した場合、移動物体近傍の雰囲気の計算点も移動させることにより、移動物体と雰囲気との界面近傍の電位もなまることなく正確に計算することができる。
【0020】
また、上記計算点モデル作成処理では、電位の変化が大きいと予想される場所ほど密度が高くなるように計算点を作成してもよい。この場合、電位の変化が少ないところは計算点を疎にすることにより、計算の精度を低下させることなく処理を簡略化することができる。
【0021】
また、本発明のプログラムは上記いずれかの発明を構成する各処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであることを特徴としている。このため、本発明のプログラムをコンピュータに実行させれば、上記いずれかの発明の移動物体の電位分布計算装置を容易に構成することができ、上記いずれかの発明の移動物体の電位分布計算方法を容易に実施することができる。
【0022】
また、本発明の記録媒体は、上記発明のプログラムが、コンピュータによって読み取り可能に記録されたことを特徴としている。このため、本発明の記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータに実行させれば、上記いずれかの発明の移動物体の電位分布計算装置を容易に構成することができ、上記いずれかの発明の移動物体の電位分布計算方法を容易に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明の実施例について、図面を参照して説明する。図1は、本発明が適用された移動物体の電位分布計算装置としてのパーソナルコンピュータ1の構成を概略的に表す説明図である。本実施の形態の移動物体の電位分布分析方法を実行するための電位分析処理のプログラムは、このパーソナルコンピュータ1のハードディスク装置(HDD)34に格納されている。パーソナルコンピュータ1は、このハードディスク装置34の他、CPU31,ROM32,RAM33を備えた本体3に、ディスプレイ5、キーボード7、マウス9等が接続された一般的な構成を有している。
【0024】
先ず、本実施の形態の電位分析処理の原理について、図2のようにローラ10に電極20がエアギャップを介して近接して配置された場合を例に説明する。なお、ローラ10は金属などの導体(ほぼ全体が等電位)からなるシャフト11に、導電性ゴムなどの導電性材料からなるローラ本体12が被覆されたものを想定し、シャフト11を中心に回転可能に構成されているものとする。また、電極20は、ローラ本体12の表面を、回転角にして約90degの範囲に亘って被覆しているものとする。
【0025】
この場合、回転しているローラ10のシャフト11と電極20との間に電圧を印加したときの電位分布φは、無限遠を0とした境界条件とそのときの電荷の密度分布ρが与えられたとき、次に示す電位の方程式(0.1)を解くことによって計算できる。
【0026】
【数1】

【0027】
このとき、ローラ本体12の電気伝導度σとその場の電界E(=−▽φ)とによって流れる電流による電荷移動をJc 、速度vで回転するローラ10の回転による電荷移動をJv とすると、全体としての電荷移動Jは次のように表される。
【0028】
【数2】

【0029】
また、電荷は保存されるので、次に示す電荷保存の式が成立する。
【0030】
【数3】

【0031】
従って、上記式(0.1),(0.4),(0.5)を電位φについて解けば、電位分布,電界分布を計算することができる。本実施の形態では、平滑化関数Wを用いた重み付けを行い、位置rの電位φ(r)の近似値を次式によってあらわすものとする。
【0032】
【数4】

【0033】
なお、平滑化関数Wとしては、以下の特性を有する種々の周知のものが使用できる。
【0034】
【数5】

【0035】
このような近似を行った場合、φ(r)のグラジエント及びラプラシアンは、次式によって近似して表される。
【0036】
【数6】

【0037】
これら(1.1)〜(1.4)の式を用いた近似法は、天体の運動シミュレーションで用いられているSPH法として知られている(例えば、J.J.Monaghan “Somoothed Particle Hydrodynamics”, Annu. Rev. Astron. Astrophys,30 543-574(1992)参照)。
【0038】
また、本実施の形態では、図3に示すようにローラ本体12及びそのローラ本体12と接する雰囲気に有限個の計算点を配置し、各計算点における電位φを計算する。このため、上記式(1.1),(1.3),(1.4)は、下記の式(1.5),(1.7),(1.8)により離散化して表すことができる。なお、下記の式(1.6)は、式(1.5)におけるnの定義式である。
【0039】
【数7】

【0040】
また、▽・(ε▽φ)は、
【0041】
【数8】

【0042】
と表すことができるので、その式(1.9)に上記式(1.8)を代入することにより、電位の方程式(0.1)は、次のように表すことができる。
【0043】
【数9】

【0044】
この式(1.10)に境界の電位と電荷の分布、及び誘電率を与えることにより、計算点毎の電位φの連立方程式が得られる。この連立方程式を解くことにより、各計算点の電位φが計算できる。
【0045】
また、電荷保存の式(0.5)も、▽・(σ▽φ)=−dρ/dtと表せることと、
【0046】
【数10】

【0047】
と表せることとを利用して、次のように表すことができる。
【0048】
【数11】

【0049】
上記連立方程式(1.10)から得られた各計算点の電位φと、与えられている電気伝導度とから、各計算点の電荷ρの変化分が計算できる。時間の進行に従って、電荷ρの変化分を公知のオイラー法、ルンゲックッタ法などを用いて積分することにより、各計算点の電荷ρを計算することができる。
【0050】
なお、平滑化関数Wとしては、例えば、
【0051】
【数12】

【0052】
を用いることができる。この場合、その微分は、
【0053】
【数13】

【0054】
となる。また、計算点の密度が不均一である場合、影響範囲hは、計算点密度の関数として、次式によって表してもよい。なお、dimは次元、kは精度に応じて与えるパラメータである。
【0055】
【数14】

【0056】
続いて、パーソナルコンピュータ1にて実行される具体的な電位分析処理について説明する。この電位分析処理では、処理に先立ち、キーボード7などを介して図4に例示するようなデータが入力される。本実施の形態では、ローラ10の雰囲気にも計算点を配置するため、境界(Boundary)の半径も入力データにおいて設定されている。また、本実施の形態では、シャフト11(Shuft)及び境界の電位を−2000V、電極20(Electrode)の電位を0Vとした。
【0057】
このようなデータが入力された後、キーボード7またはマウス9を介して所定のコマンドが入力されると、CPU31は、ハードディスク装置34に記録されたプログラムに基づき、図5のフローチャートに示す処理を実行する。
【0058】
図5に示すように、処理が開始されると、先ずS1(Sはステップを表す:以下同様)にて、計算領域に計算点が配置され、上記入力データに基づいて各計算点における誘電率,電気伝導度が設定される。なお、計算点の配置は、電位の変化が大きくなると予測されるシャフト11,ローラ本体12,及び雰囲気の界面近傍でピッチが細かくなるように、適宜ピッチを指定することにより周知のプログラムを用いてなされる。また、マウス9からの入力に応じて1個ずつ計算点の配置がなされてもよい。このように、電位の変化が少ないと予測されるところは計算点を疎にすることにより、計算の精度を低下させることなく処理を簡略化することができる。
【0059】
続くS3では、各計算点の電荷ρを0に設定し、各計算点の影響範囲hをその計算点から最も近い計算点までの距離の係数倍に設定するなどの初期化がなされ、更に、上記入力データに基づいて境界の電位が設定される。また、このS3では、式(1.6)により初期の計算点密度が計算される。
【0060】
続いて、S5にて時刻t0 に0がセットされ、S7にて、電位φを未知数にした前述の連立方程式(式(1.10))が作成される。なお、このとき境界の計算点についてはρが未知数とされる。続くS9では、その連立方程式を解いて電位φが計算され、更に、S11にて、電位φの計算値がRAM33に設定された結果ファイルに保存される。
【0061】
続くS13では、tn がtn-1 +Δtにセットされ、S15にて終了時間に達したか否かが判断される。なお、このΔt及び終了時間も、入力データに基づいて設定されている。終了時間に達していない場合は(S15:N)、処理はS17へ移行し、式(1.12)に基づいて各計算点の電荷ρが計算される。
【0062】
続くS19では、計算点が移動され、それに応じて影響範囲hも調整される。すなわち、ローラ10に配置された計算点が、上記Δtの間のローラ10の回転角に応じて移動され、その移動によって計算点密度が変化した場合は、移動後の計算点密度に応じた影響範囲hが再設定される。なお、本実施の形態では、ローラ10の表面から2hまでの範囲に配置された雰囲気中の計算点も、ローラ10の回転に伴って同様に回転するものとして計算する。
【0063】
すなわち、平滑化関数Wを用いて定義されたφの値に影響を与える2h以内の範囲(式(1.1),(1.13)参照)の計算点も、ローラ10の回転に伴って同様に回転するものとして計算するのである。また、上記のように移動後の計算点密度に応じて影響範囲hを再設定することにより、平滑化関数をW用いた平均化に関わる計算点の数のバラツキを抑制し、計算精度を一層向上させることができる。
【0064】
続いて、S21,S23にて、前述のS7,S9と同様に電位φが計算され、更に、続くS25にて、式(1.7)により電界が計算される。続くS27では、電位,電荷,電界の上記計算値が保存され、処理は前述のS13へ移行する。以下、S13〜S27の処理が繰り返し実行され、時間をΔtずつ進めながら電位,電荷,電界の計算が繰り返される。そして、終了時間に達すると(S15:N)、処理が終了する。
【0065】
図6は、この電位分析処理による計算結果の一例を表す説明図である。図6(A)は、ローラ10を回転させた場合のローラ10の表面電位の計算結果である。図6(A)に示すように、開始直後には電極20と対向している面(180〜270deg)のみが高電位であるが、時間が経つに連れて電位が平均化され、電極20に差し掛かる位置に電極20の電位に近づく電位のピークが、電極20から離れる位置に電極20の電位から離れる電位のピークが、それぞれ現れることが分かった。
【0066】
図6(B)は、ローラ10が停止している場合の計算結果である。図6(B)に示すように、開始直後には電極20と対向している面(180〜270deg)のみが高電位であるが、時間が経つに連れて電位が平均化されることが分かった。
【0067】
このように、本実施の形態では、モデルを構成する計算点を移動させることができるので、回転するローラ10の電位分布変化を正確にシミュレーションすることができる。しかも、上記計算点モデルはセルを用いたモデルに比べて少ないデータで容易に作成することができる。従って、本実施の形態では、ローラ10の電位分布φをその回転に応じて簡単かつ正確に計算することができる。
【0068】
また、本実施の形態では、前述のように、ローラ10の表面近傍に配置された雰囲気中の計算点も移動させたが、次に、その必要性について説明する。図7に示すように、2層の導電性を有した誘電体層に、直流電圧を印加したモデルを考える。なお、−側を第1層、+側を第2層とし、それぞれの物性を表1に示すように設定した。また、印加電圧は1000Vとした。
【0069】
【表1】

【0070】
このモデルに対し、上記電位分析処理により電位の変化を計算したところ、図8(A)に示すような変化を示すことが分かった。また、このときの電荷の変化は、図8(B)に示すようになった。理論的には、電荷は、誘電率,電気伝導度が異なる界面でのみ蓄積されるが、この例で分かるように、界面では、電界及び電荷が影響範囲hに応じて幾分広がって計算される。よって、先のローラ10の回転のように界面で速度差を持つ場合、広がった電荷をもつ計算点を含めて移動させることが望ましい。また、上記雰囲気の計算点を全て不動の点として扱うと、ローラ10の表面に配置された計算点の電位φはローラ10の回転に伴ってなまってしまうが、上記雰囲気の計算点も移動させることにより、ローラ10の表面の電位φもなまることなく正確に計算することができる。
【0071】
なお、ローラ10の表面近傍の計算点を移動させる代わりに、その計算点の電荷をローラ10上の計算点に足し込んで、ローラ10の表面近傍における計算点の電荷は0としてもよく、この場合も同様の効果が得られる。
【0072】
以上説明した上記実施の形態において、S1が計算点モデル作成処理に、S19の処理のうち計算点を移動させる処理が計算点移動処理に、S7,S21の処理のうち平滑化関数Wの計算処理が電位定義処理に、S7,S21の処理の残りの部分及びS9,S23の処理が電位算出処理に、S25の処理が電界計算処理に、S19の処理のうち影響範囲hの調整処理が影響範囲算出処理に、それぞれ相当する。また、上記各処理のプログラムを記憶したハードディスク装置34の記憶領域、及び、そのプログラムを実行するCPU31が、それぞれ、計算点モデル作成手段,計算点移動手段,電位定義手段,電位算出手段,電界計算手段,または影響範囲算出手段に相当する。
【0073】
また、本発明は上記実施の形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、本発明の記録媒体としては、上記実施の形態のようなハードディスク装置、或いはROM,RAM等の素子に限定されず、フレキシブルディスク,コンパクトディスク,インターネット上のウェブサーバ等であってもよい。
【0074】
また、図9,図10に示すように、計算点の移動処理と電荷の計算処理とを並行して実行することにより、処理速度を向上させることも考えられる。図9は、上記電位分析処理の変形例のメインルーチンを表すフローチャートであり、図10は、その変形例における並列処理ルーチンとしての移動計算ルーチンを表すフローチャートである。
【0075】
図9に示すメインルーチンは、図5のフローチャートとほぼ同様であるので、異なる点のみ説明する。この処理では、計算点の移動及び影響範囲hの調整を行うS19の処理を省略し、S15とS17との間にS16を、S17とS21との間にS18を、それぞれ挿入した点において異なる。
【0076】
すなわち、S15にて終了時間に達していない(N)と判断された場合は、処理はS16へ移行し、移動計算ルーチンが起動される。続くS17では、前述のように全計算点に対して電荷ρが計算され、S18では、移動計算ルーチンにより計算された移動後の計算点及び影響範囲hが読み込まれる。S21では、S18にて読み込まれた計算点及び影響範囲hに応じて連立方程式が作成され、以下、上記実施の形態と同様の処理がなされる。
【0077】
図10に示す移動計算ルーチンは、S16の処理により起動されると、図9の処理と並行して実行される。この処理では、先ずS91にて、上記実施の形態のS19と同様に計算点が移動され、それに応じて影響範囲hが調整される。続くS93では、上記移動後の計算点及び影響範囲hがRAM33の所定領域に保存され、処理が終了する。前述のS18では、このように保存された計算点及び影響範囲hが読み込まれるのである。このように、計算点の移動処理と電荷の計算処理とを並行して実行することにより、処理速度を一層向上させることができる。
【0078】
更に、本発明は、図2に示したようなモデルに限らず、電子写真方式の画像形成装置における転写ローラ,クリーニングローラ,現像ローラなどの各種ローラにおける電位分析に応用することができ、ローラ以外の各種移動物体における電位分析にも応用することができる。また、上記実施の形態では、電流による電荷移動と物体の移動による電荷移動のみを考慮しているが(式(0.4)参照)、放電による電荷移動なども併せて考慮して電位分析を行ってもよい。更に、ローラ10が弾性変形する場合は、その弾性変形も考慮して計算点の移動処理を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明が適用されたパーソナルコンピュータの構成を表す説明図である。
【図2】本実施の形態で電位分析処理がなされたモデルを表す説明図である。
【図3】そのモデルに配置された計算点の一例を表す説明図である。
【図4】本実施の形態の電位分析処理における入力データの一例を表す説明図である。
【図5】本実施の形態の電位分析処理を表すフローチャートである。
【図6】その電位分析処理の計算結果の一例を表す説明図である。
【図7】雰囲気中の計算点を移動させる必要性を説明するためのモデルを表す説明図である。
【図8】そのモデルに対する計算結果の一例を表す説明図である。
【図9】上記電位分析処理の変形例のメインルーチンを表すフローチャートである。
【図10】その変形例における移動計算ルーチンを表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0080】
1…パーソナルコンピュータ 3…本体 5…ディスプレイ
7…キーボード 9…マウス 10…ローラ
11…シャフト 12…ローラ本体 20…電極
34…ハードディスク装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計算対象の移動物体に対し、離散化した計算点からなる計算点モデルを作成する計算点モデル作成手段と、
該計算点モデル作成手段が作成した計算点を、上記移動物体の移動に応じて移動させる計算点移動手段と、
上記各計算点の電位を、その計算点の周囲の計算点の電位を平滑化関数で重み付けして平均化した式によってそれぞれ定義する電位定義手段と、
該計算点電位定義手段が定義した各計算点の電位を関係式に代入して各計算点の電位を算出する電位算出手段と、
を備えたことを特徴とする移動物体の電位分布計算装置。
【請求項2】
上記電位算出手段が算出した各計算点の電位に基づき、上記各計算点における電界を算出する電界算出手段を、
更に備えたことを特徴とする請求項1記載の移動物体の電位分布計算装置。
【請求項3】
上記平滑化関数における影響範囲を、上記計算点の密度に応じて計算点毎に算出する影響範囲算出手段を、
更に備えたことを特徴とする請求項1または2記載の移動物体の電位分布計算装置。
【請求項4】
上記計算点モデル作成手段は、上記移動物体と接する雰囲気に対しても計算点を作成し、
上記計算点移動手段は、上記移動物体上の計算点に対する上記平滑化関数の影響範囲に含まれる上記雰囲気の計算点を、上記移動物体上の計算点と一体に移動させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の移動物体の電位分布計算装置。
【請求項5】
計算対象の移動物体に対し、離散化した計算点からなる計算点モデルを作成する計算点モデル作成処理と、
該計算点モデル作成処理にて作成された計算点を、上記移動物体の移動に応じて移動させる計算点移動処理と、
上記各計算点の電位を、その計算点の周囲の計算点の電位を平滑化関数で重み付けして平均化した式によってそれぞれ定義する電位定義処理と、
該計算点電位定義処理により定義された各計算点の電位を関係式に代入して各計算点の電位を算出する電位算出処理と、
を備えたことを特徴とする移動物体の電位分布計算方法。
【請求項6】
上記電位算出処理により算出された各計算点の電位に基づき、上記各計算点における電界を算出する電界算出処理を、
更に備えたことを特徴とする請求項5記載の移動物体の電位分布計算方法。
【請求項7】
上記平滑化関数における影響範囲を、上記計算点の密度に応じて計算点毎に算出する影響範囲算出処理を、
更に備えたことを特徴とする請求項5または6記載の移動物体の電位分布計算方法。
【請求項8】
上記計算点モデル作成処理では、上記移動物体の雰囲気に対しても計算点を作成し、
上記計算点移動処理では、上記移動物体上の計算点に対する上記平滑化関数の影響範囲に含まれる上記雰囲気の計算点を、上記移動物体上の計算点と一体に移動させることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の移動物体の電位分布計算方法。
【請求項9】
上記計算点モデル作成処理では、電位の変化が大きいと予想される場所ほど密度が高くなるように計算点を作成することを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の移動物体の電位分布計算方法。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれかに記載の各処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項11】
請求項10記載のプログラムが、コンピュータによって読み取り可能に記録されたことを特徴とする記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−300607(P2006−300607A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119865(P2005−119865)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】