説明

移動通信システム及び下り初期送信電力制御方法

【課題】 伝搬状況が良い場合には下り無線同期が確立するまでの初期送信電力制御区間を短くすること。
【解決手段】 BTS102は、MS101から通知されるランピング回数をRNC103に送って伝搬状況及びMS101が同期確立時に用いる初期送信電力値を取得し、取得した前記伝搬状況が良好である場合は、MS101の送信開始電力値が高くなるように、MS101の送信電力値を漸増させ前記初期送信電力値に到達するように制御するパラメータである増加回数、増加幅及び増加周期の一部又は全部を少な目に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動通信システム及び下り初期送信電力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図11は、従来の移動通信システムの構成例を示すブロック図である。なお、図11では、主に下り初期送信電力制御に関わる構成が示されている。図11に示す移動通信システム1100は、移動局(MS)1101と、各セルないしは各セクタにおいて移動局(MS)1101が無線接続される無線基地局装置(BTS)1102と、各BTS1101が有線接続される上位装置である基地局制御装置(RNC)1103とを備えている。
【0003】
移動局(MS)1101は、アンテナ1111が接続される無線部1112と、RACH(ランダムアクセスチャネル)送信部1113と、BCH(報知チャネル)受信部1114と、受信SIR(希望波対干渉波比)算出部1115とを備えている。
【0004】
無線部1112は、アンテナ1111が受信したギガヘルツ帯の下り無線信号をベースバンド帯の信号にダウンコンバートし、搬送波に乗せられた情報(ベースバンドIQ信号)を取り出し、BCH受信部1114に与える。BCH受信部1114は、無線部1112から受け取るベースバンドIQ信号に含まれている下り共通チャネルであるBCHを逆拡散・復調し、受信SIR算出部1115に与える。
【0005】
受信SIR算出部1115は、BCHの受信強度としてSIR値を算出し、RACH送信部1113に与える。RACH送信部1113は、受信SIR算出部1115から受け取った受信SIR値を上り共通チャネルであるRACHに挿入し、そのRACHを変調・拡散し、ベースバンドIQ信号として無線部1112に与える。無線部1112は、RACH送信部1113から受け取ったベースバンドIQ信号を乗せた搬送波をギガヘルツ帯の無線信号にアップコンバートし、アンテナ1111を励振して上りリンクに送出する。
【0006】
また、無線基地局装置(BTS)1102は、アンテナ1121が接続される無線部1122と、RACH受信部1123と、RACH復号部1124と、BCH送信部1125と、DPCH(下り個別チャネル)符号部1126と、DPCH送信部1127とを備えている。
【0007】
無線部1122は、アンテナ1121が受信したギガヘルツ帯の上り無線信号をベースバンド帯の信号にダウンコンバートし、搬送波に乗せられた情報(ベースバンドIQ信号)を取り出し、RACH受信部1123に与える。RACH受信部1123は、無線部1122から受け取るベースバンドIQ信号に含まれている上り共通チャネルであるRACHを逆拡散・復調し、RACH復号部1124に与える。RACH復号部1124は、RACH受信部1123から受け取ったRACHの信号を復号し、有線伝送路1104を介して基地局制御装置(RNC)1103に送出する。
【0008】
BCH送信部1125は、有線伝送路1104を介して基地局制御装置(RNC)1103ら受け取ったBCHを変調・拡散し、ベースバンドIQ信号として無線部1122に与える。無線部1122は、BCH送信部1125から受け取ったベースバンドIQ信号を乗せた搬送波をギガヘルツ帯の無線信号にアップコンバートし、アンテナ1121を励振して下りリンクに送出する。
【0009】
DPCH符号部1126は、有線伝送路1104を介して基地局制御装置(RNC)1103から受け取ったDPCHを符号化してDPCH送信部1127に与える。DPCH送信部1127は、DPCH符号部1126から受け取った符号化DPCHを変調・拡散し、ベースバンドIQ信号として無線部1122に与える。無線部1122は、DPCH送信部1127から受け取ったベースバンドIQ信号を乗せた搬送波をギガヘルツ帯の無線信号にアップコンバートし、アンテナ1121を励振して下りリンクに送出する。
【0010】
また、基地局制御装置(RNC)1103は、MS受信SIR検出部1131と、伝搬状況判定部1132と、DPCH初期送信電力値決定部1133と、呼制御データ伝送部1134とを備えている。
【0011】
MS受信SIR検出部1131は、RACH復号部1124から受け取った情報から受信SIR値を取り出し、伝搬状況判定部1132に与える。伝搬状況判定部1132は、MS受信SIR検出部1131から受け取った受信SIR値から伝搬状況を判定し、判定結果をDPCH初期送信電力値決定部1133に与え、また有線伝送路1104を介して無線基地局装置(BTS)1102に送出する。DPCH初期送信電力値決定部1133は、伝搬状況判定部1132が判定した伝搬状況に基づき初期送信電力値を決定し、有線伝送路1104を介して無線基地局装置(BTS)1102に送出する。一方、呼制御データ伝送部1134は、無線基地局装置(BTS)1102と交換局との間での通話情報等の呼制御データの有線伝送を実現する。
【0012】
次に、図11と図12を参照して従来の下り初期送信電力制御方法について説明する。なお図12は、従来の下り初期送信電力制御手順を説明する図である。MS1101は、ユーザから接続要求が入力すると、セルサーチによる下り無線リンクの確立動作を行う。下り無線リンクが確立すると、次いでMS1101は、BTS1102との上り無線リンクを確立するため、通信開始時に、RACHを用いて上り無線リンクへのランダムアクセス制御を実行する。
【0013】
このランダムアクセス制御は、次のような手順で実行される。[手順1]RACHは、1つ以上のプリアンブル部とそれに後続するメッセージ部とで構成されるが、MS1101は、まず、プリアンブル部のみのRACHを送信する。[手順2]BTS1102は、プリアンブル部の受信を検出できると、プリアンブル部を検出できたことを示すAICH(同期検出表示チャネル)を送信する。[手順3]MS1101は、AICHを受信できると、BTS1102ではメッセージ部の拡散符号及び受信タイミングが検出できると判断して、受信SIR値を挿入したメッセージ部を含むRACHを送信する。以上は、伝搬状況が良好な場合である。
【0014】
伝搬状況が悪い場合には、手順3においてMS1101は、AICHを受信できない場合がある。また、手順2においてBTS1102がプリアンブル部を受信できず、AICHを送信しない場合も、MS1101は、AICHを受信できない。そこで、[手順4]MS1101は、AICHを受信できるまで、手順1に示すプリアンブル部のみのRACHを再送信することを繰り返す。MS1101は、これによって、AICHを受信できると、[手順3]を実行する。
【0015】
この手順4でのプリアンブル部のみのRACHの再送動作では、MS1101は、AICHを受信できるまで、複数回(ランピング回数)送信電力を前回送信したときの送信電力にパワーランピングのステップ幅だけ増大し、繰り返し送信する。なお、パワーランピング幅とランピング回数は、MS1101に予め定められているパラメータである。
【0016】
以上説明した手順1〜手順4によるランダムアクセス制御が行われている区間が図12に示す未送信区間1201である。BTS1102は、MS1101からメッセージ部を含むRACHを受信すると、初期送信電力制御を開始する。
【0017】
即ち、BTS1102は、MS1101からのメッセージ部に含まれている受信SIR値を復号してRNC1103に通知する。RNC1103は、MS1101からの受信SIR値を元にMS1101とBTS1102との間の無線伝搬状況を判定し、下り初期送信電力値(変動値)を決定する。RNC1103では、下り初期送信電力値が高いと、他のMSへの干渉となるので、出来るだけ低い電力で下り無線同期を確立させるとの観点から、下り初期送信電力値を決定する。
【0018】
BTS1102は、RNC1103が決定した下り初期送信電力値(変動値)を基準に、定められた増加回数(固定値)と増加幅(固定値)とを用いて下り初期送信開始電力値を算出し、MS1101に送信する。BTS1102は、下り初期送信開始電力値の送信後は、下り初期送信電力値に到達するまで、増加回数(固定値)と増加幅(固定値)と増加周期(固定値)とを用いてMS1101の送信電力を増加させる制御を繰り返す。
【0019】
以上が図12に示す初期送信電力制御区間1202での動作であり、その後無線同期確立区間1203に移行する。RNC1103が決定した下り初期送信電力値を下り初期送信開始電力値として送信すれば、その決定した下り初期送信電力値付近で無線同期を確立できることが想定されるが、従来では、図12に示すように、送信開始時はある程度低めの電力値で制御し、緩やかに送信電力を増加させる制御を行っている。
【0020】
図12に示すように、伝搬環境が悪い場合は、MS1101が受信し易い状態にするため、下り初期送信電力値と送信開始電力値とは共に高めに設定される。一方、伝搬環境が良い場合は、下り初期送信電力値と送信開始電力値とは共に低めに設定される。これは、伝搬状態が良い分、電力を低めにしてもMS1101が受信可能であることによる。そして、初期送信電力制御区間は、何れの場合も、固定期間である。これは、下り初期送信電力の変化分を下り送信開始電力値に反映するための措置である。
【特許文献1】国際公開第98/048528号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従来の下り初期送信電力制御方法では、伝搬状況が良い場合でも、初期送信電力制御区間は、伝搬状況が悪い場合と同じ制御区間を要するので、下り無線同期が確立するまでの時間が長くなるという問題がある。
【0022】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、伝搬状況が良い場合には下り無線同期が確立するまでの初期送信電力制御区間を短くすることのできる移動通信システム及び下り初期送信電力制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
かかる課題を解決するため、本発明に係る移動通信システムは、セルサーチを行った移動局と無線基地局との間で同期確立ができるまでの期間において下り初期送信電力制御を行う移動通信システムにおいて、前記無線基地局は、無線受信したランダムアクセスチャネルに含まれる前記移動局が挿入した伝搬環境に関する情報を上位の制御装置に有線伝送して伝搬状況及び前記移動局が同期確立時に用いる初期送信電力値を取得する手段と、取得した前記伝搬状況に基づき初期送信電力制御パラメータである増加回数、増加幅及び増加周期の各値を決定する手段と、取得した前記初期送信電力値と決定した前記初期送信電力制御パラメータの各値とに基づき前記移動局の送信開始電力値を決定する手段と、下り個別チャネルを用いて、まず前記送信開始電力値を無線送信し、その後、前記初期送信電力制御パラメータの各値に基づき前記移動局の送信電力値を漸増させ前記初期送信電力値に到達するように制御する手段とを具備する構成を採る。
【0024】
また、本発明に係る下り初期送信電力制御方法は、セルサーチを行った移動局と無線基地局との間で同期確立ができるまでの期間において下り初期送信電力制御を行う移動通信システムにおいて、前記無線基地局は、無線受信したランダムアクセスチャネルに含まれる前記移動局が挿入した伝搬環境に関する情報を上位の制御装置に有線伝送して伝搬状況及び前記移動局が同期確立時に用いる初期送信電力値を取得する工程と、取得した前記伝搬状況に基づき初期送信電力制御パラメータである増加回数、増加幅及び増加周期の各値を決定する工程と、取得した前記初期送信電力値と決定した前記初期送信電力制御パラメータの各値とに基づき前記移動局の送信開始電力値を決定する工程と、下り個別チャネルを用いて、まず前記送信開始電力値を無線送信し、その後、前記初期送信電力制御パラメータの各値に基づき前記移動局の送信電力値を漸増させ前記初期送信電力値に到達するように制御する工程とを具備するようにした。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、伝搬状況が良い場合には下り無線同期が確立するまでの初期送信電力制御区間を短くすることができるので、下り無線同期確立に至るまでの時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1に係る移動通信システムの構成を示すブロック図である。なお、図1では、図11(従来例)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号が付されている。ここでは、本実施の形態1に関わる部分を中心に説明する。
【0028】
図1に示すように、本実施の形態1に係る移動通信システム100は、移動局(MS)101と、無線基地局装置(BTS)102と、基地局制御装置(RNC)103とを備えている。
【0029】
移動局(MS)101では、図11(従来例)に示した移動局(MS)1101において、BCH受信部1114と受信SIR算出部1115に代えて、AICH受信部111とランダムアクセス判定部112とランピング回数報知部113とが設けられている。
【0030】
AICH受信部111は、無線部1112から受け取るベースバンドIQ信号に含まれている下り共通チャネルであるAICHを逆拡散・復調し、ランダムアクセス判定部112に与える。ランダムアクセス判定部112は、AICH受信部111からAICHを受け取ると、RACH送信部1113でのプリアンブル部のみのRACH送信を停止させ、メッセージを含むRACHの送信を開始させる。ランピング回数報知部113は、ランダムアクセス判定部112がAICH受信を判定した場合にRACH送信部1113に対して無線基地局装置(BTS)102に報知するランピング回数を出力する。RACH送信部1113は、メッセージにランピング回数を含ませたRACHを送信する。
【0031】
また、無線基地局装置(BTS)102では、図11(従来例)に示した無線基地局装置(BTS)1102において、BCH送信部1125に代えて、AICH送信部121が設けられ、送信開始電力値決定部122が追加されている。
【0032】
AICH送信部121は、RACH受信部1123からプリアンブル部を受け取ると、上り共通チャネルであるAICHを変調・拡散し、ベースバンドIQ信号として無線部1122に与える。送信開始電力値決定部122は、有線伝送路1104を介して基地局制御装置(RNC)103から受け取った初期送信電力値と伝搬状況とに基づき、送信開始電力値と初期送信電力制御パラメータ(増加回数、増加幅、増加周期)とを決定し、決定した送信開始電力値をDPCH送信部1127に与える。
【0033】
また、基地局制御装置(RNC)103では、図11(従来例)に示した基地局制御装置(RNC)1103において、MS受信SIR検出部1131に代えて、ランピング回数受信部131が設けられている。また、伝搬状況判定部1132に代えて伝搬状況判定部132が設けられている。
【0034】
ランピング回数受信部131は、有線伝送路1104を介してRACH復号部1124から受け取った情報からランピング回数を取り出し、伝搬状況判定部132に与える。伝搬状況判定部132は、ランピング回数受信部131から受け取ったランピング回数から伝搬状況を判定し、判定結果をDPCH初期送信電力値決定部1133に与え、また有線伝送路1104を介して無線基地局装置(BTS)102の送信開始電力値決定部122に送出する。
【0035】
次に、図1〜図7を参照して、本実施の形態1による下り初期送信電力制御方法について説明する。なお、図2は、図1に示す移動局が通信開始時に行うランダムアクセス制御動作を説明するフローチャートである。図3は、図1に示す無線基地局装置のRACH受信動作を説明するフローチャートである。図4は、図1に示す無線基地局装置が受信したRACHに基づき図1に示す基地局制御装置が伝搬状況に応じた初期送信電力値を決定する動作の一例を説明する図である。図5は、図1に示す無線基地局装置が行う下り個別チャネルを用いた初期送信電力制御動作を説明するフローチャートである。図6は、図1に示す無線基地局装置が伝搬状況に応じて送信開始電力値を増減させる動作の一例を説明する図である。図7は、図1に示す移動通信システムにて実施される下り初期送信電力制御手順を説明する図である。ここで、図2、図3及び図5の説明では、手順を示すステップを「ST」と略記して使用する。
【0036】
図2において、MS101は、セルサーチを完了すると(ST201:Yes)、RACH送信部1113がプリアンブル部のみのRACHを無線送信し(ST202)、ランダムアクセス判定部112がAICHの受信成功有無を調べる(ST203)。AICHの受信ができない場合(ST203:No)は、ランダムアクセス判定部112がプリアンブル部のみのRACHの送信電力値を増加させるパワーランピングを行い(ST204)、ランピング回数報知部113がランピング回数をインクリメントし(ST205)、RACH送信部1113が、再度、プリアンブル部のみのRACHを無線送信し(ST202)、ランダムアクセス判定部112がAICHの受信成功有無を調べる(ST203)。
【0037】
ST202→ST203:No→ST204→ST205→ST202の繰り返し動作の結果、AICHの受信ができると(ST203:Yes)、ランダムアクセス判定部112は、RACH送信部1113にプリアンブル部のみのRACHの送信を停止させ、ランピング回数報知部113からランピング回数を取得させ(ST206)、それをメッセージ部に挿入したRACHを無線送信させる(ST207)。
【0038】
図3において、BTS102は、プリアンブル部のみのRACHの受信有無を監視し(ST301)、プリアンブル部のみのRACHを受信できると(ST301:Yes)、AICHを無線送信する(ST302)。次いで、メッセージ部を含むRACHを受信すると(ST303)、それを復号してRNC103に有線伝送する(ST304)。
【0039】
RNC103では、図1において、ランピング回数受信部131がランピング回数を復号データから取り出し、伝搬状況判定部132がランピング回数によって伝搬状況の良否を判断し、DPCH初期送信電力値決定部1133が伝搬状況に依存した初期送信電力値を決定する(図4参照)。判断した伝搬状況及び決定した初期送信電力値は、BTS102の送信開始電力値決定部122に有線伝送される。
【0040】
図4では、「ランピング回数」と、判断する「伝搬状況」と、決定する「初期送信電力値」との関係例が示されている。例えば、図4に示すように、ランピング回数=1では、伝搬状況はかなり良好と判断され、初期送信電力値は伝搬状況が悪い場合よりも6dB減少した値に決定される。また、ランピング回数=2では、伝搬状況は良好と判断され、初期送信電力値は伝搬状況が悪い場合よりも3dB減少した値に決定される。また、ランピング回数=3では、伝搬状況は普通と判断され、初期送信電力値は従来例よりも1dB減少した値に決定される。そして、ランピング回数が4以上では、伝搬状況は悪いと判断され、初期送信電力値は±0dBの値に決定される。
【0041】
BTS102では、図5に示す手順で初期送信電力制御が実行される。図5において、BTS102の送信開始電力値決定部122では、RNC103から伝搬状況(かなり良好、良好、普通、悪い)と初期送信電力制御パラメータ(増加回数、増加幅、増加周期)とを取得すると(ST501、ST502)、RNC103が決定した伝搬状況(かなり良好、良好、普通、悪い)に依存した初期送信電力制御パラメータ(増加回数、増加幅、増加周期)の値を例えば図6に示すように決定する(ST503)。
【0042】
そして、送信開始電力値決定部122では、RNC103から取得する初期送信電力値(ST504)に、ST503にて決定した初期送信電力制御パラメータ(増加回数、増加幅、増加周期)の値を適用して、例えば図6に示すように、RNC103が決定した伝搬状況(かなり良好、良好、普通、悪い)に依存した送信開始電力値を算出する(ST505)。
【0043】
図6ではRNC103が決定した伝搬状況(かなり良好、良好、普通、悪い)と送信開始電力値決定部122が決定する増加回数(送信開始電力)との関係例が示されている。なお、図6では、増加幅は、1dBとしている。図6に示すように、伝搬状況が「かなり良好」である場合は、例えば、増加回数=6回減少と決定し、送信開始電力=6dB増加と算出する。伝搬状況が「良好」である場合は、増加回数=3回減少と決定し、送信開始電力=3dB増加と算出する。伝搬状況が「普通」である場合は、増加回数=1回減少と決定し、送信開始電力=1dB増加と算出する。そして、伝搬状況が「悪い」である場合は、増加回数及び送信開始電力は従来例と同様の値(±0dB)に決定される。
【0044】
図5に戻って、送信開始電力値決定部122が上記のように算出した送信開始電力値はDPCH送信部1127にて下り個別チャネルであるDPCHに乗せられてMS101宛てに無線送信され、下り初期送信電力制御が開始される(ST506)。
【0045】
下り初期送信電力制御では、決定した増加回数、増加幅、増加周期の値を用いて、MS101の送信電力値が初期送信電力値に到達するまで、MS101の送信電力を増加させることが繰り返される(ST507→ST508:No→ST507)。MS101の送信電力値が初期送信電力値に到達すると(ST508:Yes)、無線同期確立の処理に移行する。本実施の形態での下り初期送信電力制御は、図7に示すようになる。
【0046】
図7に示すように、伝搬環境が良い場合には、初期送信電力値は、従来例(図12)と同様に値(a)だけ低くなるが、送信開始電力値は、従来例(図12)よりも値(b)だけ高くなり、初期送信電力制御区間702は、従来例(図12)よりも区間(c)だけ短くなる。
【0047】
このように、本実施の形態1によれば、伝搬状況によって初期送信電力値を増減させるだけでなく、初期送信電力制御による電力増加方法を変化させるようにしたので、伝搬状況が良いと判断できる場合においては、初期送信電力制御区間を短縮できる。これによって、下り無線同期確立までに時間を短縮することが可能となり、スムーズな移動通信サービスが実現可能となる。
【0048】
(実施の形態2)
図8は本発明の実施の形態2に係る移動通信システムの構成を示すブロック図である。なお、図8では、図11(従来例)や図1(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号が付されている。ここでは、本実施の形態2に関わる部分を中心に説明する。
【0049】
図8に示すように、本実施の形態2に係る移動通信システム800は、移動局(MS)801と、無線基地局装置(BTS)802と、基地局制御装置(RNC)803とを備えている。
【0050】
移動局(MS)801は、図11(従来例)に示した移動局(MS)1101と同様の構成である。無線基地局装置(BTS)802では、図11(従来例)に示した無線基地局装置(BTS)1102において、図1に示した送信開始電力値決定部122が追加されている。基地局制御装置(RNC)803では、図11(従来例)に示した基地局制御装置(RNC)1103において、伝搬状況判定部1132に代えて伝搬状況判定部831が設けられ、基準SIR保持部832が追加されている。
【0051】
基準SIR保持部832には、伝搬状況判定部831がMS受信SIR検出部1131からの受信SIR値と比較して伝搬状況を判定する基準となるSIR値が保持されている。
【0052】
次に、図8〜図10を参照して、本実施の形態2による下り初期送信電力制御方法について説明する。なお、図9は、図8に示す無線基地局装置が受信したRACHに基づき図8に示す基地局制御装置が伝搬状況に応じた初期送信電力値を決定する動作の一例を説明する図である。図10は、図8に示す無線基地局装置が伝搬状況に応じて送信開始電力値を増減させる動作の一例を説明する図である。
【0053】
MS801は、BTS802からAICHを受信できると、測定したBCHの受信SIR値を乗せたRACHを無線送信する。BTS802は、無線受信したRACHの情報を復号してRNC803に有線伝送する。
【0054】
RNC803では、MS受信SIR検出部1131が復号データから受信SIR値を検出する。伝搬状況判定部831は、MS受信SIR検出部1131からの受信SIR値と基準SIR保持部832が保持する基準SIR値と比較して伝搬状況を判定する。DPCH初期送信電力値決定部1133は、伝搬状況判定部831が判定した伝搬状況に応じた初期送信電力値を決定し、BTS802の送信開始電力値決定部122に対して有線伝送する。
【0055】
図9では、「BCH受信SIR値」と、判断する「伝搬状況」と、決定する「初期送信電力値」との関係例が示されている。例えば、図9に示すように、受信SIR値が基準SIR値に対して2dB以上高い場合は、伝搬状況は「かなり良好」と判定され、初期送信電力値は伝搬状況が悪い場合よりも6dB減少した値に決定される。受信SIR値が基準SIR値に対して1dB以上高い場合は、伝搬状況は「良好」と判定され、初期送信電力値は伝搬状況が悪い場合よりも3dB減少した値に決定される。受信SIR値が基準SIR値に対して1dB未満である場合は、伝搬状況は「普通」と判定され、初期送信電力値は伝搬状況が悪い場合よりも1dB減少した値に決定される。受信SIR値が基準SIR値に対して0.5dB未満である場合は、伝搬状況は「悪い」と判定され、初期送信電力値は±0dBの値に決定される。
【0056】
BTS802の送信開始電力値決定部122では、RNC803から伝搬状況(かなり良好、良好、普通、悪い)及び初期送信電力値を取得すると、伝搬状況(かなり良好、良好、普通、悪い)に依存した初期送信電力制御パラメータ(増加回数、増加幅、増加周期)の値を例えば図10に示すように決定する。
【0057】
図10では、RNC803が決定した伝搬状況(かなり良好、良好、普通、悪い)と送信開始電力値決定部122が決定する増加回数(送信開始電力)との関係例が示されている。なお、図10では、増加幅は、1dBとしている。図10に示すように、伝搬状況が「かなり良好」である場合は、例えば、増加回数=6回減少と決定し、送信開始電力=6dB増加と算出する。伝搬状況が「良好」である場合は、増加回数=3回減少と決定し、送信開始電力=3dB増加と算出する。伝搬状況が「普通」である場合は、増加回数=1回減少と決定し、送信開始電力=1dB増加と算出する。そして、伝搬状況が「悪い」である場合は、増加回数及び送信開始電力は従来例と同様の値(±0dB)に決定される。
【0058】
送信開始電力値決定部122が上記のように算出した送信開始電力値はDPCH送信部1127にて下り個別チャネルであるDPCHに乗せられてMS801宛てに無線送信され、下り初期送信電力制御が開始される。
【0059】
このように、本実施の形態2によれば、実施の形態1と同様に、伝搬状況によって初期送信電力値を増減させるだけでなく、初期送信電力制御による電力増加方法を変化させるようにしたので、伝搬状況が良いと判断できる場合においては、初期送信電力制御区間を短縮できる。これによって、下り無線同期確立までに時間を短縮することが可能となり、スムーズな移動通信サービスが実現可能となる。
【0060】
なお、実施の形態1ではランピング回数を用いて、実施の形態2では受信SIR値と基準SIRとの比較結果を用いて、伝搬状況を判断するようにしたが、その他、例えば上り共通チャネルであるRACHの受信強度SIRを測定し、その受信SIR値を用いて伝搬状況を判定し、下り初期送信電力制御に反映するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、伝搬状況が良好な場合に初期送信電力制御区間を短縮するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態1に係る移動通信システムの構成を示すブロック図
【図2】図1に示す移動局が通信開始時に行うランダムアクセス制御動作を説明するフローチャート
【図3】図1に示す無線基地局装置のRACH受信動作を説明するフローチャート
【図4】図1に示す無線基地局装置が受信したRACHに基づき図1に示す基地局制御装置が伝搬状況に応じた初期送信電力値を決定する動作の一例を説明する図
【図5】図1に示す無線基地局装置が行う下り個別チャネルを用いた初期送信電力制御動作を説明するフローチャート
【図6】図1に示す無線基地局装置が伝搬状況に応じて送信開始電力値を増減させる動作の一例を説明する図
【図7】図1に示す移動通信システムにて実施される下り初期送信電力制御手順を説明する図
【図8】本発明の実施の形態2に係る移動通信システムの構成を示すブロック図
【図9】図8に示す無線基地局装置が受信したRACHに基づき図8に示す基地局制御装置が伝搬状況に応じた初期送信電力値を決定する動作の一例を説明する図
【図10】図8に示す無線基地局装置が伝搬状況に応じて送信開始電力値を増減させる動作の一例を説明する図
【図11】従来の移動通信システムの構成例を示すブロック図
【図12】図11に示す従来の移動通信システムにて実施される下り初期送信電力制御手順を説明する図
【符号の説明】
【0063】
100、800 移動通信システム
101、801 移動局(MS)
102、802 無線基地局装置(BTS)
103、803 基地局制御装置(RNC)
111 AICH受信部
112 ランダムアクセス判定部
113 ランピング回数報知部
121 AICH送信部
122 送信開始電力値決定部
131 ランピング回数受信部
132、831 伝搬状況判定部
832 基準SIR保持部
1111、1121 アンテナ
1112、1122 無線部
1113 RACH送信部
1123 RACH受信部
1124 RACH復号部
1125 BCH送信部
1126 DPCH符号部
1127 DPCH送信部
1131 MS受信SIR検出部
1133 DPCH初期送信電力値決定部
1134 呼制御データ伝送部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルサーチを行った移動局と無線基地局との間で同期確立ができるまでの期間において下り初期送信電力制御を行う移動通信システムにおいて、前記無線基地局は、無線受信したランダムアクセスチャネルに含まれる前記移動局が挿入した伝搬環境に関する情報を上位の制御装置に有線伝送して伝搬状況及び前記移動局が同期確立時に用いる初期送信電力値を取得する手段と、取得した前記伝搬状況に基づき初期送信電力制御パラメータである増加回数、増加幅及び増加周期の各値を決定する手段と、取得した前記初期送信電力値と決定した前記初期送信電力制御パラメータの各値とに基づき前記移動局の送信開始電力値を決定する手段と、下り個別チャネルを用いて、まず前記送信開始電力値を無線送信し、その後、前記初期送信電力制御パラメータの各値に基づき前記移動局の送信電力値を漸増させ前記初期送信電力値に到達するように制御する手段と、を具備することを特徴とする移動通信システム。
【請求項2】
前記無線基地局は、取得した前記伝搬状況が良好である程、前記送信開始電力値が高くなるように前記増加回数、増加幅及び増加周期の一部又は全部を少なく設定することを特徴とする請求項1記載の移動通信システム。
【請求項3】
前記移動局が通知する前記伝搬環境に関する情報は、前記無線基地局が送信する同期検出表示チャネルの受信ができるまでに行ったパワーランピングの回数をカウントしたランピング回数であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の移動通信システム。
【請求項4】
前記移動局が通知する伝搬環境に関する情報は、所定の下り共通チャネルにて測定した受信強度であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の移動通信システム。
【請求項5】
セルサーチを行った移動局と無線基地局との間で同期確立ができるまでの期間において下り初期送信電力制御を行う移動通信システムにおいて、前記無線基地局は、無線受信したランダムアクセスチャネルに含まれる前記移動局が挿入した伝搬環境に関する情報を上位の制御装置に有線伝送して伝搬状況及び前記移動局が同期確立時に用いる初期送信電力値を取得する工程と、取得した前記伝搬状況に基づき初期送信電力制御パラメータである増加回数、増加幅及び増加周期の各値を決定する工程と、取得した前記初期送信電力値と決定した前記初期送信電力制御パラメータの各値とに基づき前記移動局の送信開始電力値を決定する工程と、下り個別チャネルを用いて、まず前記送信開始電力値を無線送信し、その後、前記初期送信電力制御パラメータの各値に基づき前記移動局の送信電力値を漸増させ前記初期送信電力値に到達するように制御する工程と、を具備することを特徴とする下り初期送信電力制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate