説明

移植材とその製造方法

【課題】高温加熱や特別な製造装置を必要とせず、短時間で簡易に生体親和性の高い移植材製造する。
【解決手段】純マグネシウムまたはマグネシウム合金からなる移植材基材を腐食促進材に浸漬して、該移植材基材の表面に水酸化マグネシウム層を形成するステップS1と、水酸化マグネシウム層の表面に付着している腐食促進材を洗浄するステップS2と、アパタイトに対して過飽和となる量のカルシウムイオンとリン酸イオンとを含む溶液に浸漬して、水酸化マグネシウム層の表面にアパタイト層を形成するステップS4と、アパタイト層が形成された移植材基材をタンパク質を含む溶液に浸漬して、アパタイト層にタンパク質を吸着させるステップS5とを含む移植材の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植材とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属等からなる移植物の生体親和性を向上するために移植物の基材表面にアパタイト層をコーティングする技術が知られている(例えば、特許文献1〜特許文献3参照。)。
特許文献1の技術は、プラズマ溶射による方法あるいはアパタイトペーストを被膜する方法である。特許文献2の技術は、レーザやイオンビームを用いる方法である。特許文献3の技術は、基材表面にシリカゲルを結合させた後に疑似体液に浸漬してアパタイト層を形成するものである。
【0003】
【特許文献1】特開2000−129314号公報
【特許文献2】特開平6−285149号公報
【特許文献3】特開平5−103829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術は、基材を1000℃以上に加熱しなければならないという不都合がある。また、特許文献2の技術は、特殊な製造装置が必要となりコストがかかるという不都合がある。また、特許文献3の技術は、上記不都合はないものの、生体親和性に乏しいシリカゲルを用いる必要があり、体内に移植される移植材としては好ましくない。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、生体親和性の高い移植材、および、高温加熱や特別な製造装置を必要とせず、短時間で簡易に上記移植材を製造することができる製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、純マグネシウムまたはマグネシウム合金からなる移植材基材を腐食促進材に浸漬して、該移植材基材の表面に水酸化マグネシウム層を形成するステップと、水酸化マグネシウム層の表面に付着している腐食促進材を洗浄するステップと、アパタイトに対して過飽和となる量のカルシウムイオンとリン酸イオンとを含む溶液に浸漬して、水酸化マグネシウム層の表面にアパタイト層を形成するステップと、前記アパタイト層が形成された移植材基材をタンパク質を含む溶液に浸漬して、前記アパタイト層にタンパク質を吸着させるステップとを含む移植材の製造方法を提供する。
【0007】
本発明によれば、純マグネシウムまたはマグネシウム合金からなる移植材基材を腐食促進材に浸漬することにより、移植材基材の表面の腐食が促進されて水酸化マグネシウム層が形成され、その後、アパタイトに対して過飽和となる量のカルシウムイオンとリン酸イオンとを含む溶液(疑似体液)に浸漬することにより、水酸化マグネシウム層の水酸基を核として表面にアパタイトが析出し、アパタイト層が形成され、さらにその後、タンパク質を含む溶液に浸漬することにより、アパタイト層にタンパク質が吸着される。
【0008】
純マグネシウムやマグネシウム合金は、ステントや骨固定材を初めとする医療応用が検討されているが、そのまま移植したのでは体内での急激な腐食に伴って多量に発生する水素により移植部位に炎症反応が引き起こされる。これに対して、本発明によれば、表面を被覆するアパタイト層によって急激な腐食が防止され、炎症反応の発生を抑制することができる。そして、本発明によれば、珪素原子のような生体親和性の低い物質を含有させることなく、表面にアパタイト層を備えるとともにタンパク質が吸着されて生体親和性の高い移植材を、特別な製造装置を使用することなく、また高温に加熱することなく、簡易に製造することができる。
【0009】
上記発明においては、前記腐食促進材は、塩化物イオン、フッ化物イオンまたはリン酸イオンの少なくとも1つを含有することが好ましい。
また、上記発明においては、前記水酸化マグネシウムを形成するステップが、室温以上の腐食促進材に浸漬することが好ましい。
また、上記発明においては、前記アパタイト層を形成するステップが、10℃〜60℃の範囲の溶液に浸漬することが好ましい。
【0010】
また、上記発明においては、前記タンパク質が、アルブミン、コラーゲン、フィブリンまたはフィブロネクチン等の生体親和性を備える水溶性のタンパク質であることが好ましい。
また、上記発明においては、前記タンパク質を吸着させるステップが、0.3mg/ml以上の濃度のタンパク質を含む溶液に浸漬することとしてもよい。
【0011】
また、上記発明においては、前記タンパク質を吸着させるステップが、10℃〜60℃の温度範囲の溶液に浸漬することとしてもよい。
さらに、上記発明においては、前記タンパク質を吸着させるステップが、pH5.0〜8.0の弱酸性域から中性域の溶液に浸漬することとしてもよい。このようにすることで、タンパク質の吸着量を増加させることができる。
【0012】
また、本発明は、純マグネシウムまたはマグネシウム合金からなる移植材基材の表面に、水酸化マグネシウムからなる中間層を介して、アパタイト層がコーティングされ、該アパタイト層にタンパク質が吸着されている移植材を提供する。
本発明によれば、最表面にコーティングされているアパタイト層によって純マグネシウムまたはマグネシウム合金の急激な腐食が抑制され、水素発生が抑えられるので、移植部位における炎症の発生を抑制することができる。特に、中間層を生体親和性の高い水酸化マグネシウムを採用することで、移植部位に親和させて、体内に異物を残さないようにすることができる。
また、アパタイト層に吸着されたタンパク質によって、生体親和性が増大し、実際の生体組織、例えば、骨組織に近い表面状態を実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温加熱や特別な製造装置を必要とせず、短時間で簡易に製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る移植材1とその製造方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る移植材1は、図1に示されるように、マグネシウム合金からなる移植材基材2の表面に、水酸化マグネシウムからなる中間層3を介してアパタイト層4がコーティングされ、アパタイト層4にタンパク質が吸着されることにより構成されている。
【0015】
本実施形態に係る移植材1は、以下のようにして製造することができる。
すなわち、本実施形態に係る移植材1の製造方法は、図2に示されるように、マグネシウム合金からなる移植材基材2を腐食促進材に浸漬して、該移植材基材2の表面に水酸化マグネシウムからなる中間層3を形成するステップS1と、中間層3の表面に付着している腐食促進材を洗浄するステップS2と、洗浄された移植材基材2を乾燥させるステップS3、アパタイトに対して過飽和となる量のカルシウムイオンとリン酸イオンとを含む溶液(疑似体液)に移植材基材2を浸漬して、中間層3の表面にアパタイト層4を形成するステップS4と、アパタイト層4が形成された移植材基材2をタンパク質を含む溶液に浸漬して、アパタイト層にタンパク質を吸着させるステップS5とを含んでいる。
【0016】
腐食促進材としては、塩化物イオン、フッ素イオンまたはリン酸イオンの少なくとも1種類を含む溶液である。例えば、生理食塩水を挙げることができる。中間層3を形成するステップS1は、室温、例えば、37℃で、例えば、24時間行われる。
このステップS1においては、マグネシウム合金からなる移植材基材2の表面が急速に腐食されるため、多量の水素が発生する。しかしながら、このステップS1は体外において行われるため、炎症が発生する不都合はない。
【0017】
洗浄するステップS2は、例えば、純水で3回洗浄する。洗浄回数は任意でよい。
乾燥させるステップS3は、例えば、自然乾燥で乾燥させる。乾燥方法も、自然乾燥に限られず、強制乾燥させてもよい。
【0018】
アパタイト層4を形成するステップS4は、アパタイトに対して過飽和となる量のカルシウムイオンとリン酸イオンとを含む溶液(疑似体液:SBF)に、中間層3が形成された移植材基材2を浸漬する。このステップS2は、10℃〜60℃の範の温度、例えば、37℃で2週間にわたって行われる。このステップS4においては、移植材基材2の表面を覆う中間層3の水酸基を核として表面にアパタイトが析出し、均一なコーティングとなる。このステップS4の温度および時間は任意に設定してよい。
【0019】
タンパク質を吸着させるステップS5は、水溶性のタンパク質であるアルブミン等の0.3mg/ml以上の濃度の水溶液に、アパタイト層4が形成された移植材基材2を浸漬する。このステップS5は、10℃〜60℃の範の温度、例えば、20℃〜25℃で30時間以上にわたって行われる。
アルブミン水溶液は、pH5.0〜8.0の弱酸性域から中性域の範囲、例えば、pH6.0〜6.5の弱酸性に調整されている。
【0020】
本実施形態に係る移植材1の製造方法によれば、従来のように、高温の処理ステップを経ることなく、特殊な製造装置を使用することなく、生体親和性の乏しいシリカゲルを使用することなく、簡易に生体親和性の高い移植材1を製造することができるという利点がある。
【0021】
また、このようにして製造された移植材1は、移植部位に移植されることにより、体液内に浸漬された状態となっても、内側のマグネシウム合金が、アパタイト層4によって保護されて、急速に腐食することがなく、水素の急激な発生が抑えられて、移植部位の炎症の発生を抑制することができるという利点がある。
この場合に、中間層3である水酸化マグネシウム層も高い生体親和性を有するので、移植後に体内に異物を残さずに済むという利点がある。
【0022】
さらに、本実施形態に係る製造方法により製造された移植材のアパタイト層4は、図3に示されるような従来の結晶構造とは異なり、図4に示されるように、負に帯電するC面が正に帯電するA面と比較して優先的に成長した結晶となっている。このため、タンパク質を吸着させるステップS5においては、正電荷を帯びた生体高分子であるアルブミンを容易に吸着し、安定的に保持することができる。
【0023】
なお、本実施形態においては、アパタイト層4に吸着させるタンパク質として、アルブミンを例示したが、生体親和性を有する水溶性のタンパク質であれば、他の任意のタンパク質を吸着させることにしてもよい。例えば、コラーゲン、フィブリンまたはフィブロネクチン等を吸着させることにしてもよい。
また、移植材基材2をマグネシウム合金により構成したが、これに代えて、純マグネシウム合金により構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る移植材を示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る移植材の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】従来の方法により析出されるアパタイト層の結晶を示す顕微鏡写真である。
【図4】図2の製造方法により移植材基材の表面に形成されたアパタイト層の結晶を示す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0025】
1 移植材
2 移植材基材
3 中間層(水酸化マグネシウム層)
4 アパタイト層
S1 水酸化マグネシウム層を形成するステップ
S2 洗浄するステップ
S4 アパタイト層を形成するステップ
S5 タンパク質を吸着させるステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純マグネシウムまたはマグネシウム合金からなる移植材基材を腐食促進材に浸漬して、該移植材基材の表面に水酸化マグネシウム層を形成するステップと、
水酸化マグネシウム層の表面に付着している腐食促進材を洗浄するステップと、
アパタイトに対して過飽和となる量のカルシウムイオンとリン酸イオンとを含む溶液に浸漬して、水酸化マグネシウム層の表面にアパタイト層を形成するステップと、
前記アパタイト層が形成された移植材基材をタンパク質を含む溶液に浸漬して、前記アパタイト層にタンパク質を吸着させるステップとを含む移植材の製造方法。
【請求項2】
前記腐食促進材は、塩化物イオン、フッ化物イオンまたはリン酸イオンの少なくとも1つを含有する請求項1に記載の移植材の製造方法。
【請求項3】
前記水酸化マグネシウムを形成するステップが、室温以上の腐食促進材に浸漬する請求項1または請求項2に記載の移植材の製造方法。
【請求項4】
前記アパタイト層を形成するステップが、10℃〜60℃の温度範囲の溶液に浸漬する請求項1から請求項3のいずれかに記載の移植材の製造方法。
【請求項5】
前記タンパク質が、アルブミン、コラーゲン、フィブリンまたはフィブロネクチン等の生体親和性を備える水溶性のタンパク質である請求項1から請求項4のいずれかに記載の移植材の製造方法。
【請求項6】
前記タンパク質を吸着させるステップが、0.3mg/ml以上の濃度のタンパク質を含む溶液に浸漬する請求項1から請求項5のいずれかに記載の移植材の製造方法。
【請求項7】
前記タンパク質を吸着させるステップが、10℃〜60℃の温度範囲の溶液に浸漬する請求項1から請求項6のいずれかに記載の移植材の製造方法。
【請求項8】
前記タンパク質を吸着させるステップが、pH5.0〜8.0の弱酸性域から中性域の溶液に浸漬する請求項1から請求項7のいずれかに記載の移植材の製造方法。
【請求項9】
純マグネシウムまたはマグネシウム合金からなる移植材基材の表面に、水酸化マグネシウムからなる中間層を介して、アパタイト層がコーティングされ、さらに該アパタイト層にタンパク質が吸着されている移植材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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