説明

移植機

【課題】作業機に伝動される作業機動力を、高トルクを必要とする対地作業部(整地ロータ)にも分配可能にする。
【解決手段】走行機体1に連結される作業機7に、植付作業部である植付機構18と、対地作業部である整地ロータ28とを備えると共に、走行機体1から作業機7に伝動される作業機動力を、植付機構18と整地ロータ28とに分配する乗用田植機において、作業機動力の分配位置から植付機構18に至る下流伝動経路に、植付動力用トルクリミッタ36を設けると共に、分配位置の上流伝動経路に、作業機動力用トルクリミッタ11を設け、該作業機動力用トルクリミッタ11の切りトルクを、植付動力用トルクリミッタ36の切りトルクよりも高く設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体に連結される作業機に、植付作業部及び対地作業部を備える乗用田植機などの移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
走行機体に連結される作業機に、植付作業部及び対地作業部を備える移植機が知られている。例えば、走行機体の後部に連結される植付作業機の前部に、整地ロータを備える乗用田植機が普及している。この種の移植機では、植付けと同時に整地ができるので、植付精度や作業効率の向上を図ることができ、特に、機体旋回によって田面が荒れやすい枕地では、整地ロータによる整地効果が顕著であり、植付精度を大幅に改善することができる。
【0003】
植付作業機に対地作業部を設ける場合、対地作業部の動力を走行機体又は植付作業機から取出す必要がある。植付作業機から外部作業機の動力を取出し可能にしたものとしては、特許文献1に記載される移植機があり、この移植機では、植付作業部を駆動させる植付駆動軸上で外部作業機の動力を分配している。
【特許文献1】特開2002−305924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、植付作業部に対する動力伝動系には、過負荷による植付作業部の破損を防止するために、所定のトルクで切り作動するトルクリミッタが設けられているので、特許文献1に記載されるように、植付駆動軸上で外部作業機の動力を分配する場合、トルクリミッタの切りトルクよりも高いトルクを必要とする外部作業機には動力伝動を行うことができず、特に、整地ロータのように対地作業を行う対地作業部に動力伝動を行うことは困難である。尚、対地作業部の必要トルクに合わせて、トルクリミッタの切りトルクを高く設定することも考えられるが、この場合には、過負荷による植付作業部の破損を防止することが困難になる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、走行機体に連結される作業機に、植付作業部と対地作業部とを備えると共に、前記走行機体から前記作業機に伝動される作業機動力を、前記植付作業部と前記対地作業部とに分配する移植機において、前記作業機動力の分配位置から前記植付作業部に至る下流伝動経路に、植付動力用トルクリミッタを設けると共に、前記分配位置の上流伝動経路に、作業機動力用トルクリミッタを設け、該作業機動力用トルクリミッタの切りトルクを、前記植付動力用トルクリミッタの切りトルクよりも高く設定したことを特徴とする。このようにすると、作業機に伝動される作業機動力を、高トルクを必要とする対地作業部にも分配することが可能になる。しかも、植付作業部の上流には、低トルクで切り作動する植付動力用トルクリミッタが設けられるので、過負荷による植付作業部の破損も防止できる。
また、前記作業機動力を、前記作業機の植付動力分配軸上で前記対地作業部と複数の前記植付作業部とに分配すると共に、前記植付動力分配軸から複数の前記植付作業部に至る各下流伝動経路に、それぞれ前記植付動力用トルクリミッタを設けたことを特徴とする。このようにすると、対地作業部の動力を植付動力分配軸から取出すことができるので、伝動構成の簡略化が図れる。
前記作業機動力を、前記作業機の入力ケース内で前記対地作業部と前記植付作業部とに分配すると共に、分配した前記植付作業部の動力を、さらに植付動力分配軸上で複数の前記植付作業部に分配するにあたり、前記入力ケース内の分配位置から前記植付動力分配軸に至る下流伝動経路に前記植付動力用トルクリミッタを設けたことを特徴とする。このようにすると、植付動力用トルクリミッタを植付動力分配軸の下流に設ける場合に比べ、植付動力用トルクリミッタの数を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1は乗用田植機の走行機体であって、該走行機体1は、機体前部に搭載されるエンジン2、エンジン動力を変速するトランスミッション3、トランスミッション3から出力される走行動力で駆動する前輪4及び後輪5などを備えて構成されると共に、機体後部には、昇降リンク機構6を介して作業機7が昇降自在に連結されている。
【0007】
図2に示すように、トランスミッション3は、主変速機構である静油圧式無段変速装置(HST)8を介してエンジン動力を入力し、これを主クラッチ機構9の下流で走行動力と作業機動力とに分岐させる。分岐した作業機動力は、作業機動力変速機構10、作業機動力用トルクリミッタ11及び作業機クラッチ機構12を経由して作業機PTO軸13から出力され、さらに、伝動軸14を介して作業機7に伝動される。
【0008】
図3に示すように、作業機7は、昇降リンク機構6に対してローリング自在に連結される作業機フレーム15、その上方に横送り自在に設けられる苗載台16、作業機フレーム15から後方に延出する複数の植付伝動ケース17、各植付伝動ケース17の後端部に設けられる植付機構(植付作業部)18、植付伝動ケース17の下方に上下揺動自在に設けられるフロート19などを備えて構成されている。
【0009】
作業機フレーム15の後方には、左右方向に沿う植付動力分配軸20が設けられている。この植付動力分配軸20は、各植付伝動ケース17及び入力ケース21を貫通しており、入力ケース21を介して伝動軸14から植付動力を入力すると共に、これを各植付伝動ケース17に内装される条止めクラッチ機構22及びチェン伝動機構23を介して各植付機構18に伝動する。
【0010】
また、植付動力分配軸20の並列位置には、苗載台16の横送り作動を行う横送り軸24が設けられている。横送り軸24は、外周にラセン溝24aを有するスクリュ軸であり、その外周には、ラセン溝24aに噛み合い、かつ、苗載台16の背面に連結されるスライドブロック(図示せず)が嵌合されている。これにより、横送り軸24の回転に応じてスライドブロック(図示せず)が左右方向に往復移動し、苗載台16の横送りが行われる。
【0011】
横送り軸24は、植付動力分配軸20よりも軸長が短く、かつ、植付動力分配軸20の右端側に偏倚して配置されると共に、横送りケース26を介して植付動力分配軸20の右端部から取り出した動力で回転駆動される。本実施形態の横送りケース26は、横送り変速機構27を内装しており、該横送り変速機構27の変速操作に応じて、苗載台16の横送り速度が変更される。
【0012】
上記のように構成される作業機7によれば、伝動軸14を介してトランスミッション3から作業機動力を入力し、この動力によって、苗載台16を横送りしつつ、植付機構18による植付作業が可能になる。植付作業を行う圃場は、予め代掻き作業によって平坦化されており、ここをフロート19が滑走しつつ、植付機構18による苗の植付けが行われることになるが、作業機7は、走行機体1の後方で植付作業を行う関係上、車輪跡などによる田面の荒れによって植付精度が低下する可能性がある。特に、機体旋回が行われる枕地は、車輪跡による田面の荒れが顕著であり、植付精度が低下しやすい箇所である。
【0013】
上記のような問題に対処するために、作業機7の前側には、整地ロータ(対地作業部)28が設けられている。この整地ロータ28は、側面視で後輪5とフロート19との間に配置され、フロート19の前側で整地作業を行う。これにより、車輪跡による田面の荒れなどを改善し、植付精度を高めることができ、特に、枕地において改善効果が顕著である。
【0014】
図1〜図3に示すように、整地ロータ28は、作業機7の左右幅に亘って一連状に形成されるロータ軸29と、該ロータ軸29に一体的に設けられる複数の整地板30とを備えて構成されると共に、整地ロータ用動力取出し部31を介して植付動力分配軸20から取り出し、該動力で整地板30を所定方向に回転させることにより、作業機7の前方で整地作業を行う。
【0015】
整地ロータ用動力取出し部31は、整地ロータ用クラッチ機構32を内装するクラッチケース33と、チェン伝動機構34を内装するチェンケース35とを備えて構成され、植付動力分配軸20の左端部から整地ロータ28の動力を取出す。つまり、横送り軸24を植付動力分配軸20の一端側に偏倚して設ける一方、整地ロータ用動力取出し部31を植付動力分配軸20の他端側に設け、該植付動力分配軸20から整地ロータ用クラッチ機構32を介して整地ロータ28の動力を取出すので、作業機7における左右の重量バランスを崩すことなく、植付動力分配軸20の端部から整地ロータ28の動力を取出すことが可能になる。しかも、植付動力分配軸20から整地ロータ用クラッチ機構32を介して整地ロータ28の動力を取出すので、整地が不要な場合、整地ロータ28を作動させずに植付作業を行うことができる。
【0016】
また、走行機体1から作業機7に伝動される作業機動力を、植付機構18と整地ロータ28とに分配するにあたり、作業機動力の分配位置(本実施形態では、植付動力分配軸20)から植付機構18に至る下流伝動経路に、植付動力用トルクリミッタ36を設けると共に、分配位置の上流伝動経路に、前述の作業機動力用トルクリミッタ11を設け、該作業機動力用トルクリミッタ11の切りトルクを、植付動力用トルクリミッタ36の切りトルクよりも高く設定している。このようにすると、作業機7に伝動される作業機動力を、高トルクを必要とする整地ロータ28にも分配することが可能になるだけでなく、植付機構18の上流に、低トルクで切り作動する植付動力用トルクリミッタ36を配し、過負荷による植付機構18の破損も防止できる。
【0017】
また、本実施形態では、作業機動力を、作業機7の植付動力分配軸20上で整地ロータ28と複数の植付機構18とに分配すると共に、植付動力分配軸20から複数の植付機構18に至る各下流伝動経路に、それぞれ植付動力用トルクリミッタ36を設けている。具体的には、植付機構18の駆動軸18aとチェン伝動機構23との間に植付動力用トルクリミッタ36を介設している。このようにすると、整地ロータ28の動力を植付動力分配軸20から取出すことができるので、伝動構成の簡略化が図れる。
【0018】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、走行機体1に連結される作業機7に、植付作業部である植付機構18と、対地作業部である整地ロータ28とを備えると共に、走行機体1から作業機7に伝動される作業機動力を、植付機構18と整地ロータ28とに分配する乗用田植機において、作業機動力の分配位置から植付機構18に至る下流伝動経路に、植付動力用トルクリミッタ36を設けると共に、分配位置の上流伝動経路に、作業機動力用トルクリミッタ11を設け、該作業機動力用トルクリミッタ11の切りトルクを、植付動力用トルクリミッタ36の切りトルクよりも高く設定したので、作業機7に伝動される作業機動力を、高トルクを必要とする整地ロータ28にも分配することが可能になる。しかも、植付機構18の上流には、低トルクで切り作動する植付動力用トルクリミッタ36が設けられるので、過負荷による植付機構18の破損も防止できる。
【0019】
また、本実施形態では、作業機動力を、作業機7の植付動力分配軸20上で整地ロータ28と複数の植付機構18とに分配すると共に、植付動力分配軸20から複数の植付機構に至る各下流伝動経路に、それぞれ植付動力用トルクリミッタ36を設けているので、整地ロータ28の動力を植付動力分配軸20から取出し、伝動構成の簡略化が図れる。
【0020】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されないことは勿論であって、例えば、図4に示す第二実施形態のように構成してもよい。すなわち、第二実施形態においては、作業機動力を、作業機7の入力ケース37内に設けた作業機動力分配軸38上で整地ロータ28と植付機構18とに分配すると共に、分配した植付機構18の動力を、さらに植付動力分配軸20上で複数の植付機構18に分配するにあたり、入力ケース37内の作業機動力分配軸38から植付動力分配軸20に至る下流伝動経路に植付動力用トルクリミッタ39を設けている。このようにすると、第一実施形態のように植付動力分配軸20の下流経路にそれぞれ植付動力用トルクリミッタ36を設ける場合に比べ、植付動力用トルクリミッタ39の数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一実施形態に係る乗用田植機の全体側面図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る乗用田植機の伝動構成を示す伝動回路図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係る作業機の側面図である。
【図4】本発明の第二実施形態に係る乗用田植機の伝動構成を示す伝動回路図である。
【符号の説明】
【0022】
1 走行機体
7 作業機
11 作業機動力用トルクリミッタ
16 苗載台
17 植付伝動ケース
18 植付機構
20 植付動力分配軸
24 横送り軸
28 整地ロータ
36 植付動力用トルクリミッタ
37 入力ケース
38 作業機動力分配軸
39 植付動力用トルクリミッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体に連結される作業機に、植付作業部と対地作業部とを備えると共に、前記走行機体から前記作業機に伝動される作業機動力を、前記植付作業部と前記対地作業部とに分配する移植機において、前記作業機動力の分配位置から前記植付作業部に至る下流伝動経路に、植付動力用トルクリミッタを設けると共に、前記分配位置の上流伝動経路に、作業機動力用トルクリミッタを設け、該作業機動力用トルクリミッタの切りトルクを、前記植付動力用トルクリミッタの切りトルクよりも高く設定したことを特徴とする移植機。
【請求項2】
前記作業機動力を、前記作業機の植付動力分配軸上で前記対地作業部と複数の前記植付作業部とに分配すると共に、前記植付動力分配軸から複数の前記植付作業部に至る各下流伝動経路に、それぞれ前記植付動力用トルクリミッタを設けたことを特徴とする請求項1記載の移植機。
【請求項3】
前記作業機動力を、前記作業機の入力ケース内で前記対地作業部と前記植付作業部とに分配すると共に、分配した前記植付作業部の動力を、さらに植付動力分配軸上で複数の前記植付作業部に分配するにあたり、前記入力ケース内の分配位置から前記植付動力分配軸に至る下流伝動経路に前記植付動力用トルクリミッタを設けたことを特徴とする請求項1記載の移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−236263(P2007−236263A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62439(P2006−62439)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】