説明

移植片喪失の予防剤、及びそのスクリーニング方法

【課題】移植片喪失の予防剤、及びそのスクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】α−ガラクトシルセラミド等のNKT細胞リガンドを含有してなる、移植片喪失の予防剤が提供される。本発明の予防剤を用いれば、臨床における膵島移植等における移植片喪失を予防することが可能であるので、移植効率の向上に寄与し得る。また、NKT細胞の活性化、CD11b細胞のIFN−γ産生等を抑制し得る化合物を選択することを含む、移植片喪失の予防・治療用化合物のスクリーニング方法が提供される。本発明のスクリーニング方法を用いれば、新たなメカニズムによる早期移植片喪失の予防・治療薬を創出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵島移植時等における移植片喪失の予防剤に関する。更に、本発明は該移植片喪失の予防・治療用化合物のスクリーニング方法等に関する
【背景技術】
【0002】
膵臓の膵島移植は、インスリン依存性糖尿病(insulin−dependent diabetes mellitus:IDDM)の治療のための非常に有望なアプローチである。しかしながら、その手法は多くの理由、特に、移植された膵島の早期移植片拒絶のためのその低効率により、試験的なものに留まっている。IDDMの患者は、早期移植片喪失のために、単独のドナー膵臓からの膵島の移植後には、インスリン非依存性を達成することができない(非特許文献1:Ricordi, C., et. al., 2004, Nat. Rev. Imunol., 4:259-268/非特許文献2:Shapiro, A. M., 2000, N. Engl. J. Med., 343:230-238)。早期膵島喪失は、移植された膵島量の50%にまで起こると見積もられていて(非特許文献3:Ryan, E. A., et. al., 2002, Diabetes, 51:2148-2157)、現在、2−3ドナー膵臓からの繰り返しの移植が、単独の糖尿病のレシピエントの良好な処置のために必要とされる(非特許文献1:Ricordi, C., et. al., 2004, Nat. Rev. Imunol., 4:259-268/非特許文献2:Shapiro, A. M., 2000, N. Engl. J. Med., 343:230-238)。レシピエント肝臓内への移植に引き続き、膵島移植片は門脈の末梢中で塞栓(emboli)として互いにつかえて、対応する領域の虚血性変性を生じる。これが、膵島移植片に対して有害な炎症性サイトカインの放出を生じる自然免疫反応を引き起こし得る。インスリン分泌β細胞は、IFN−γ、TNF−α及びIL−1βの様な炎症誘発性(pro−inflammatory)のサイトカインへの暴露に対して、インビトロで影響を受けやすい(非特許文献4:Rabinovitch, A., 1993., Diabetes Rev., 1: 215-240)。
しかしながら、早期移植片喪失の発症メカニズムは十分には理解されておらず、このメカニズムを解明し、それに基づく早期移植片喪失の有効な予防薬を開発し、膵島移植の効率を上昇させることが切望されている。
ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)は、T細胞受容体(TCR)とNK受容体の2つの抗原レセプターを発現しているリンパ球の一つである。NKT細胞は、当該細胞上のT細胞受容体がCD1(例えばCD1d)分子上に提示されたα−ガラクトシルセラミド(α−GalCer)やイソグロボトリヘキソシルセラミドなどの糖脂質を認識することを特徴とする(非特許文献5:Science, 278, p.1626-1629, 1997/非特許文献6:J Exp Med, 188, p.1521-1528, 1998/非特許文献7:Science, 306, p.1786-1789, 2004)。通常のT細胞とは異なり、NKT細胞上のT細胞受容体のレパートリーは非常に限られている。例えばマウスNKT細胞(Vα14NKT細胞という場合がある)上のT細胞受容体のα鎖は、非多型性のVα14及びJα281遺伝子セグメントによりコードされており(非特許文献8:Proc Natl Acad Sci USA, 83, p.8708-8712, 1986/非特許文献9:Proc Natl Acad Sci USA, 88, p.7518-7522, 1991/非特許文献10:J Exp Med, 180, p.1097-1106, 1994)、β鎖の90%以上はVβ8であり、他にVβ7やVβ2という限られたレパートリーが含まれ得る。また、ヒトNKT細胞上のT細胞受容体は、マウスのVα14と相同性の高い非多型性のVα24、及びVβ8.2に近縁のVβ11の組み合わせであることが知られている。
ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)は、自然及び獲得免疫系の橋渡しをするリンパ球の異なるサブセットに属し、急性反応において重要な役割を果たす。NKT細胞は、活性化後すぐに大量のINF−γを産生し、それが今度は自然免疫系におけるNK細胞及び他の細胞、並びに獲得免疫系におけるCD4Th1細胞及びCD8細胞障害性T細胞を活性化する(非特許文献11:Brigl, M., et. al., 2003, Nat. Immunol., 4: 1230-1237/非特許文献12:Taniguchi, M., 2003, Ann. Rev. Immunol., 21: 483-513/非特許文献13:Taniguchi, M., et al., 2003, Nat. Immunol., 4:1164-1165/非特許文献14:Wilson, S. B., et. al., 2003, Nat. Rev. Immunol, 3: 211-222/非特許文献15:Cui, J., et. al., 1997, Science, 278: 1623-1626)。即ち、Vα14NKT細胞は、多様なバクテリア、ウイルス、カビ、及び細胞内寄生虫に対する最前線防御として役割を果たしている(非特許文献12:Taniguchi, M., 2003, Ann. Rev. Immunol., 21: 483-513/非特許文献14:Wilson, S. B., et. al., 2003, Nat. Rev. Immunol, 3: 211-222)。
α−GalCer処理によるNKT細胞の活性化により、IL−4等のTh2サイトカイン産生が起こり、自己免疫性I型糖尿病の発症及び再発を防ぎ得ることが報告されている(非特許文献15:Nature Medicine, vol.7, number 9, 1057-1062, 2001)。また、繰り返しのα−GalCer曝露により脾臓T細胞からのIFN−γ分泌レベルが減少することが報告されている(非特許文献16:Burdin, N., 1999, Eur. J. Immunol, 29: 2014-2025)。
一方、水酸化アルミニウム(アラム)により沈降させた抗原を免疫のために用いたときに、アラムにより誘導されたIL−4産生Gr−1CD11b細胞が液性応答におけるB細胞抗原プライミングに重要な役割を果たしていることが報告されている(非特許文献17:Jordan, M. B., 2004, Science, 304: 1808-1810)。
しかし、移植片拒絶へのNKT細胞やGr−1CD11b細胞の寄与に関しては知られていない。
【非特許文献1】Ricordi, C., et. al., 2004, Nat. Rev. Imunol., 4:259-268
【非特許文献2】Shapiro, A. M., 2000, N. Engl. J. Med., 343:230-238
【非特許文献3】Ryan, E. A., et. al., 2002, Diabetes, 51:2148-2157
【非特許文献4】Rabinovitch, A., 1993., Diabetes Rev., 1: 215-240)。
【非特許文献5】Science, 278, p.1626-1629, 1997
【非特許文献6】J Exp Med, 188, p.1521-1528, 1998
【非特許文献7】Science, 306, p.1786-1789, 2004
【非特許文献8】Proc Natl Acad Sci USA, 83, p.8708-8712, 1986
【非特許文献9】Proc Natl Acad Sci USA, 88, p.7518-7522, 1991
【非特許文献10】J Exp Med, 180, p.1097-1106, 1994
【非特許文献11】Brigl, M., et. al., 2003, Nat. Immunol., 4: 1230-1237
【非特許文献12】Taniguchi, M., et al., 2003, Ann. Rev. Immunol., 21: 483-513
【非特許文献13】Taniguchi, M., et al., 2003, Nat. Immunol., 4:1164-1165
【非特許文献14】Wilson, S. B., et. al., 2003, Nat. Rev. Immunol., 3: 211-222
【非特許文献15】Cui, J., et. al., 1997, Science, 278: 1623-1626
【非特許文献16】Burdin, N., 1999, Eur. J. Immunol, 29: 2014-2025
【非特許文献17】Jordan, M. B., 2004, Science, 304: 1808-1810
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記事情に鑑み、本発明は、新たなメカニズムに基づく移植片喪失の予防剤、及びそのスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、本発明者らは、マウス膵島移植モデルにおいて、Vα14NKT細胞によって移植後に創生されるIFN−γ産生Gr−1CD11b細胞が、膵臓膵島移植における早期移植片喪失の、必須の構成要素であり、且つ、主要な原因であることを立証した。Vα14NKT欠損(Jα281−/−)マウスは、IFN−γ産生Gr−1CD11b細胞を創生せずに、移植された膵島の早期移植片喪失を生じなかった。Vα14NKT細胞のための特異的リガンドであるα−GalCerの繰り返し投与により、早期移植片拒絶は首尾よく予防され、Gr−1CD11b細胞によるIFN−γ産生の劇的な減少を起こした。
以上の知見に基づき、本発明が完成された。
【0005】
即ち、本発明は以下に関する。
[1]NKT細胞リガンドを含有してなる、移植片喪失の予防剤。
[2]NKT細胞リガンドはα−ガラクトシルセラミドである、上記[1]記載の剤。
[3]移植片喪失は膵島移植に伴うものである、上記[1]記載の剤。
[4]移植片喪失は肝臓内への移植に伴うものである、上記[1]記載の剤。
[5]移植前に2回以上投与されることを特徴とする、上記[1]記載の剤。
[6]NKT細胞の活性化を抑制し得る化合物を選択することを含む、移植片喪失の予防・治療用化合物のスクリーニング方法。
[7]CD11b細胞のIFN−γ産生を抑制し得る化合物を選択することを含む、移植片喪失の予防・治療用化合物のスクリーニング方法。
[8]以下の工程を含む、移植片喪失の予防・治療用化合物のスクリーニング方法:
(A)被検化合物の存在中でNKT細胞及びCD11b細胞を共培養する工程;
(B)共培養物中のNKT細胞を刺激したときのCD11b細胞からのIFN−γ産生を抑制し得る化合物を選択する工程。
[9]移植部位におけるCD11b細胞数の上昇を抑制し得る化合物を選択することを含む、移植片喪失の予防・治療用化合物のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の予防剤を用いれば、臨床における膵島移植等における移植片喪失を予防することが可能であるので、移植効率の向上に寄与し得る。例えば、膵島移植においては、従来、早期移植片喪失のため、一人のレシピエントに対して2〜3人分のドナー膵島を繰り返し移植しなければ、十分な治療効果を達成することができなかったが、本発明の予防剤を用いれば、より少ない数のドナー膵島により同等の治療効果を挙げることができる。
また、本発明のスクリーニング方法を用いれば、新たなメカニズムによる早期移植片喪失の予防・治療薬を創出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(1.移植片喪失の予防剤)
本発明はNKT細胞リガンドを含有してなる、移植片喪失の予防剤を提供するものである。理論には束縛されないが、移植に先立って予めレシピエントにNKT細胞リガンドを投与することにより、レシピエント内のNKT細胞の機能改変(IFN-γ産生能の低下等)が起こり、移植片周囲においてNKT細胞により誘導され得るCD11b細胞(Gr−1CD11b細胞等)等からのIFN-γ放出が強力に抑制され、IFN−γによる移植片の障害が防止される。
【0008】
NKT細胞は、T細胞受容体(TCR)とNK受容体の2つの抗原レセプターを発現しているリンパ球の一つである。NKT細胞は、当該細胞上のT細胞受容体がCD1(例えばCD1d)分子上に提示された下記の「NKT細胞リガンド」を認識する。通常のT細胞とは異なり、NKT細胞上のT細胞受容体のレパートリーは非常に限られている。例えばマウスNKT細胞(Vα14NKT細胞という場合がある)上のT細胞受容体のα鎖は、非多型性のVα14及びJα281遺伝子セグメントによりコードされており(Proc Natl Acad Sci USA, 83, p.8708-8712, 1986; Proc Natl Acad Sci USA, 88, p.7518-7522, 1991; J Exp Med, 180, p.1097-1106, 1994)、β鎖の90%以上はVβ8であり、他にVβ7やVβ2という限られたレパートリーが含まれ得る。また、ヒトNKT細胞上のT細胞受容体は、マウスのVα14と相同性の高い非多型性のVα24、及びVβ8.2に近縁のVβ11の組み合わせであることが知られている。
【0009】
「NKT細胞リガンド」とは、CD1分子上に提示されたときに、NKT細胞上のT細胞受容体により特異的に認識され、NKT細胞を特異的に活性化させ得る化合物をいう。本発明において使用される「NKT細胞リガンド」としては、例えば、α−グリコシルセラミド、イソグロボトリヘキソシルセラミド(Science, 306, p.1786-1789, 2004)、OCH(Nature 413:531, 2001)等を挙げることができる。α−グリコシルセラミドは、ガラクトース、グルコースなどの糖類とセラミドとがα配位にて結合したスフィンゴ糖脂質であり、WO 93/05055、WO94/02168、WO94/09020、WO94/24142、およびWO 98/44928、Science, 278, p.1626-1629, 1997 等に開示されているものを挙げることができる。中でも、(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトピラノシル)−2−ヘキサコサノイルアミノ−1,3,4−オクタデカントリオール(本明細書中、α−ガラクトシルセラミド又はα−GalCerと称する)が好ましい。
【0010】
本明細書中、「NKT細胞リガンド」は、その塩をも含む意味として用いられる。NKT細胞リガンドの塩としては生理学的に許容される酸(例:無機酸、有機酸)や塩基(例:アルカリ金属塩)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが挙げられる。
【0011】
また、本明細書中、「NKT細胞リガンド」は、その溶媒和物(水和物等)をも含む意味として用いられる。
【0012】
本明細書中「移植片喪失」とは、移植後に移植片の一部又は全部が機能喪失又は破壊に陥ることをいう。また、本明細書中「移植片喪失」は、特に移植時の組織の侵傷や梗塞による虚血性変性の結果生じる自然免疫反応や炎症による移植片の機能喪失又は破壊、例えば炎症誘発性サイトカイン(IFN−γ、TNF−α、IL−1β等)による移植片の機能喪失又は破壊をいい、獲得免疫反応による移植片の拒絶を含まない。自然免疫反応とは、個体に生来備わる生態防御反応をいう。獲得免疫反応とは、抗原受容体(T細胞受容体(TCR)、B細胞受容体(BCR)、抗体等)により特異的に認識される抗原を排除する反応をいい、獲得免疫反応による拒絶には、同種異系(allogenic)拒絶、異種異系(xenogenic)拒絶、及び自己免疫疾患における自己組織の拒絶が含まれる。
【0013】
本明細書における「移植片喪失」は、「早期移植片喪失」であり得る。「早期」とは、移植直後、例えば、移植後約3日以内、好ましくは移植後約24時間以内の期間のことをいう。
【0014】
移植片喪失は、任意の組織の移植に伴うものであってよい。該組織としては、例えば、膵島、膵臓、肝臓、心臓、腎臓、骨髄、皮膚、肺、消化管(例:大腸、小腸)、筋肉等を挙げることができる。本発明の予防剤はNKT細胞やCD11b細胞からのIFN−γ産生を強力に抑制するが、膵島(β細胞等を含む)はIFN−γに対する感受性が特に高いので、本発明の予防剤は膵島移植に伴う移植片喪失の予防に極めて有効である。
【0015】
移植に供される組織は、生体から摘出されたままの組織のみならず、該組織を構成し得る細胞、再生医療技術により生体外で幹細胞等から製造された組織(該組織を構成し得る細胞を含む)等をも含み得る。例えば、膵島β細胞はES細胞等からインビトロで製造され得る(Science , 292, 1389-1394, 2001)。
【0016】
移植に供される組織の遺伝子型は、特に限定されないが、通常、同種同系、同種異系又は異種異系であり、好ましくは同種同系又は同種異系である。
【0017】
また、移植片喪失は、生体内の任意の部位への移植に伴うものであってよい。該部位は、移植される組織の種類等を考慮して適宜選択することが可能である。移植片喪失は、例えば、肝臓内、皮下、皮内、腹腔内、静脈内、動脈内、腎被膜下等への移植に伴うものであり得る。特に、肝臓内にはNKT細胞が高頻度に存在しているため、本発明の予防剤は肝臓内への移植に伴う移植片喪失の予防に極めて有効であり得る。
【0018】
本発明の剤は、活性成分としてNKTリガンド単独で、あるいは任意の他の治療のための有効成分との混合物として含有することができる。また、本発明の剤は、有効量の活性成分を薬理学的に許容される一種もしくはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造される。
【0019】
投与経路は、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口または、例えば静脈内等の非経口を挙げることができる。投与形態としては、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、注射剤等がある。経口投与に適当な、例えばシロップ剤のような液体調製物は、水、蔗糖、ソルビット、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油等の油類、p-ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を使用して製造できる。また、錠剤、散剤および顆粒剤等は、乳糖、ブドウ糖、蔗糖、マンニット等の賦形剤、澱粉、アルギン酸ソーダ等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を用いて製造できる。
【0020】
非経口投与に適当な製剤は、好ましくは受容者の血液と等張である活性化合物を含む滅菌水性剤からなる。例えば、注射剤の場合は、塩溶液、ブドウ糖溶液または塩水とブドウ糖溶液の混合物からなる担体等を用いて注射用の溶液を調製する。また、これら非経口剤においても、経口剤で例示した希釈剤、防腐剤、フレーバー類、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、可塑剤等から選択される1種もしくはそれ以上の補助成分を添加することもできる。
【0021】
本発明の予防剤は、移植に先立ちレシピエントに投与される。レシピエントは、任意の哺乳動物であり得る。哺乳動物としては、特に限定されないが、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物;ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜;イヌ、ネコ等のペット;ヒト、サル、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類を挙げることが出来る。
【0022】
本発明の予防剤のレシピエントへの投与回数は、移植片喪失を予防し得る限り特に限定されないが、より強力にNKT細胞の機能改変(IFN-γ産生能の低下等)を誘導し、移植片喪失をより確実に防ぐため、本発明の予防剤は移植前に2回以上、例えば2〜10回、好ましくは2〜5回、レシピエントに投与され得る。本発明の予防剤を移植前に2回以上投与するときの投与間隔は、移植片喪失を予防し得る限り特に限定されないが、例えば1〜30日間隔、好ましくは1〜14日間隔、より好ましくは1〜7日間隔である。投与間隔は一定であることが好ましいが、特に限定されない。また、移植直前の投与から移植時までの期間は、移植片喪失を予防し得る限り特に限定されないが、例えば1〜30日、好ましくは1〜14日である。
【0023】
本発明の予防剤の投与量は、投与形態、患者の年齢、体重、移植する組織の種類、もしくは移植部位等により異なるが、通常経口の場合、1回の投与につき、活性成分量として、5μg/m〜1000g/m、好ましくは50μg/m〜100g/mを投与する。静脈内投与等の非経口投与の場合、1回の投与につき、活性成分量として、1μg/m〜100g/m、好ましくは10μg/m〜10g/mを投与する。しかしながら、これら投与量に関しては、前述の種々の条件により変動する。
【0024】
(2.移植片喪失の予防・治療用化合物のスクリーニング方法)
後述の実施例に示されるように、本発明者らは、移植後にNKT細胞によって誘導されるIFN−γ産生CD11b細胞(Gr−1CD11b細胞等)が移植片喪失の必須の構成要素であり、且つ、主要な原因であることを立証した。また、移植後に移植部位におけるCD11b細胞の数が急増すること等が見出された。これらの知見に基づき、本発明は、以下の移植片喪失の予防・治療用化合物のスクリーニング方法を提供するものである。
【0025】
(スクリーニング方法I)
後述の実施例に示されるように、移植によりNKT細胞が活性化し、炎症性サイトカイン等の多様な遺伝子発現が亢進する。また、Vα14NKT欠損(Jα281−/−)マウスにおいては、野生型マウスと比較して移植片喪失が有意に抑制されている。更に、NKT細胞リガンドの1つであるα−GalCerの繰り返し投与により、NKT細胞からのIFN−γ産生のダウンレギュレーションが起こり、移植片喪失が有意に抑制される。以上のような知見から、NKT細胞の活性化を抑制し得る化合物は、移植片喪失の予防・治療用化合物として有用であることが理解される。従って、本発明はNKT細胞の活性化を抑制し得る化合物を選択することを含む、移植片喪失の予防・治療用化合物のスクリーニング方法(スクリーニング方法I)を提供するものである。
【0026】
スクリーニング方法Iにおいては、通常、まず被検化合物及びNKT細胞が提供される。被検化合物は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
【0027】
NKT細胞は自体公知の方法によって、NKT細胞を含有する上述の哺乳動物の組織(例えば、肝臓、リンパ節、脾臓、末梢血、胸腺、肺等)から、NKT細胞の形質に基づいて単離することが可能である。NKT細胞は、T細胞受容体(TCR)とNK受容体の2つの抗原レセプターを発現しているので、これらの受容体に対する抗体を用いて、T細胞受容体とNK受容体の二重陽性細胞をセルソーター、抗体磁気ビーズ法等により単離することで、NKT細胞を得ることができる。例えばマウスにおいては、NKT細胞はTCRβNK1.1細胞、CD3NK1.1細胞であり得る。また、NKT細胞は、当該細胞上のT細胞受容体がCD1(例えばCD1d)分子上に提示されたα−ガラクトシルセラミド(α−GalCer)やイソグロボトリヘキソシルセラミドなどの糖脂質を認識するので、当該糖脂質がロードされた可溶性のCD1多量体(例えば四量体)が特異的に結合する細胞をセルソーター等により単離することで、NKT細胞を得ることができる(J Exp Med, 192, p.741-754, 2000; J Exp Med, 191, p.1895-1903, 2000)。更に、NKT細胞上のT細胞受容体のレパートリーは非常に限られているので、NKT細胞に特異的なT細胞受容体のレパートリーを特異的に認識する抗体を用いて、セルソーター等により単離することで、NKT細胞を得ることもできる。例えば、ヒトにおいては、NKT細胞はVα24Vβ11細胞であり得る。
【0028】
NKT細胞は、生体中の組織から単離された後に、インビトロで増殖された細胞や、株化された細胞をも含む。NKT細胞は、自体公知の方法によりインビトロで増殖させることが可能であり、例えば、α−ガラクトシルセラミドがパルスされた樹状細胞の存在下で培養されることにより、NKT細胞は増殖する。また、NKT細胞の株化は、自体公知の方法(J Exp Med, 191, p.105-114, 2000)を用いて行うことが可能である。また、NKT細胞は他の細胞(リンパ球等)と混合された状態(単核球画分など)で培養に供されてもよい。
【0029】
次に、被検化合物の存在中で、NKT細胞が活性化される。NKT細胞の活性化は、適切な培養培地中で、NKT細胞の活性化を誘導し得るような物質で刺激することにより行われ得る。該物質としては、上述のNKT細胞リガンド、TLRリガンド(LPS、非メチル化CpG DNA、ペプチドグリカン、マイコバクテリウムボビス、二本鎖RNA、βグルカン等)等を挙げることができる。培養培地としては、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などを挙げることが出来る。培養条件としては、培地のpHは約6〜8であり、培養温度は通常約30〜40℃であり、培養時間は約1〜96時間である。
【0030】
また、被検化合物の存在中でNKT細胞を活性化する代わりに、予め被検化合物で処理されたNKT細胞を活性化してもよい。被検化合物でNKT細胞を処理する際の培養培地、培地のpH、培養温度は上述と同様であるが、培養時間は約1〜30日が好ましい。予め被検化合物で処理されたNKT細胞を活性化させる際の活性化方法、培養培地、培養条件は、被検化合物の存在中でNKT細胞を活性化させる場合と同様である。
【0031】
被検化合物によるNKT細胞の処理は、被検化合物の動物への投与により行われてもよい。動物としては、例えば、上述の非ヒト哺乳動物が挙げられる。被検化合物の投与回数は1回であっても複数回であってもよい。次に、被検化合物が投与された動物から単離されたNKT細胞がインビトロで活性化される。NKT細胞を活性化させる際の活性化方法、培養培地、培養条件は、被検化合物の存在中でNKT細胞を活性化させる場合と同様である。
【0032】
次に、被検化合物の存在中でのNKT細胞の活性化の程度(又は予め被検化合物で処理されたNKT細胞の活性化の程度)が評価される。NKT細胞の活性化の程度は、IFN−γ等のサイトカイン産生、活性化に伴い発現量が変動し得る遺伝子の発現、細胞傷害性等を指標に評価することができる。IFN−γ等のサイトカイン産生は、サイトカインの転写産物(mRNA等)又は翻訳産物(ポリペプチド、タンパク質等)を対象として自体公知の方法により定量できる。例えば、転写産物の発現量は、細胞からtotal RNAを調製し、RT-PCR、ノザンブロッティング等により測定され得る。また、翻訳産物の産生量は、種々の免疫学的手法により測定され得る。例えば、培養上清や細胞からの抽出物中の翻訳産物の量は、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、ウェスタンブロッティング法などにより測定することが出来る。また、細胞中の翻訳産物をフローサイトメトリー等により直接測定することも出来る。
【0033】
NKT細胞の活性化に伴い発現量が変動し得る遺伝子としては、移植により活性化されたNKT細胞において発現量が増大する遺伝子を用いることが好ましい。該遺伝子としては、例えば、AIF1, CXCL2, CXCL7, CXCL9, IL-1β, IL-1ra, リンホトキシンα等の分泌タンパク質関連遺伝子、CCR1, CD244, FcγrIIb, IL-13Rα、MGL1, PIR-B等の受容体関連遺伝子、Hck, MARCKS, PTPRO, RASSF4等のシグナル伝達関連遺伝子、IRF-7, MafB, Runx2, ZFHX1B等の転写調節因子関連遺伝子等を挙げることができる。これらの遺伝子発現は、上述のサイトカイン産生の評価と同様に、遺伝子の転写産物(mRNA等)又は翻訳産物(ポリペプチド、タンパク質等)を対象として自体公知の方法により定量できる。また、複数の遺伝子の発現を網羅的に測定するためにマイクロアレー等を用いることもできる。
【0034】
そして、被検化合物の存在中でのNKT細胞の活性化の程度(又は予め被検化合物で処理されたNKT細胞の活性化の程度)が、被検化合物の不在中でのNKT細胞の活性化の程度(又は被検化合物で処理されていないNKT細胞の活性化の程度)と比較される。活性化の程度の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被検化合物の不在中でのNKT細胞の活性化の程度(又は被検化合物で処理されていないNKT細胞の活性化の程度)の値は、被検化合物の存在中でのNKT細胞の活性化の程度(又は予め被検化合物で処理されたNKT細胞の活性化の程度)の測定に対し、事前に測定した値であっても、同時に測定した値であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した値であることが好ましい。
【0035】
最後に、比較結果に基づいて、NKT細胞の活性化を抑制し得る化合物が選択される。NKT細胞の活性化を抑制し得る化合物は、移植片喪失の予防・治療用化合物として有用である。従って、NKT細胞における活性化を指標として、移植片喪失の予防・治療用の医薬、又は研究用試薬のための候補化合物を選択することが可能となる。
【0036】
(スクリーニング方法II)
後述の実施例に示されるように、移植部位においてCD11b細胞(Gr−1CD11b細胞等)が高レベルのIFN-γを産生しており、かつ主要なIFN-γ細胞である。また、IFN−γマウス−/−においては、野生型マウスと比較して移植片喪失が有意に抑制されている。更に、α−GalCerの繰り返し投与によりCD11b細胞からのIFN−γ産生が抑制され、移植片喪失が予防される。以上のような知見から、CD11b細胞のIFN−γ産生を抑制し得る化合物は、移植片喪失の予防・治療用化合物として有用であることが理解される。従って、本発明はCD11b細胞のIFN−γ産生を抑制し得る化合物を選択することを含む、移植片喪失の予防・治療用化合物のスクリーニング方法(スクリーニング方法II)を提供するものである。
【0037】
スクリーニング方法IIにおいては、まず被検化合物及びCD11b細胞が提供される。被検化合物は、上述のスクリーニング方法Iと同様のものが用いられる。
【0038】
本発明に用いられるCD11b(CD11b陽性)細胞は、更にGr−1(Gr−1陽性)の表現型を有し得る。また、CD11b細胞は、更に、CD11c(CD11c陰性)、CD86(CD86陰性)、MHCクラスII(MHCクラスII陰性)、F4/80+/−(F4/80弱陽性)、及びCD68+/−(CD68弱陽性)からなる群から選択される少なくとも1つ、好ましくは全ての表現型を更に有し得る。CD11b細胞は好中球であり得る。尚、動物種が生来的に保有していないマーカー分子によりCD11b細胞の表現型が定義される場合には、当該表現型は解析から除外されるなど、種差が考慮され得る。
【0039】
本明細書において、細胞の表現型をマーカー分子(細胞表面抗原)発現の有無や強弱で表す場合、特に断りのない限り、当該マーカー分子に対する抗体による特異的結合の有無や強弱で細胞の表現型が表記される。マーカー分子の発現の有無や強弱による細胞の表現型の決定は、通常、当該マーカー分子に対する特異的抗体等を用いたフローサイトメトリー解析等により行われる。マーカー分子の発現が「陽性」とは、該マーカー分子が細胞表面上(或いは細胞内)に発現しており、当該マーカー分子に対する抗体による特異的結合が確認できることをいう。このうち「強陽性」とは、比較対照である他の細胞(又は細胞集団)と比べて、マーカー分子の発現量が相対的に高い、マーカー分子の発現量の高い細胞集団が相対的に多い、マーカー分子を発現している細胞集団の割合が相対的に多いこと等をいう。「弱陽性」とは、比較対照である他の細胞(又は細胞集団)と比べて、マーカー分子の発現量が相対的に低い、マーカー分子の発現量の低い細胞集団が相対的に多い、マーカー分子を発現している細胞集団の割合が相対的に少ないこと等をいう。
【0040】
CD11b細胞の表現型についてF4/80+/−、CD68+/−と表される場合、比較対照の細胞としてマクロファージが意図される。
【0041】
CD11b細胞は自体公知の方法によって、CD11b細胞を含有する上述の哺乳動物の組織(例えば、肝臓、脾臓、リンパ節、末梢血、胸腺等)から、CD11b細胞の表現型に基づいて単離することが可能である。例えば、上述のCD11b細胞の表現型に対応する細胞表面抗原を認識する抗体を用いて、セルソーター、抗体磁気ビーズ法等により単離することができる。
【0042】
CD11b細胞は、生体中の組織から単離された後に、インビトロで増殖された細胞や、株化された細胞をも含む。また、CD11b細胞は他の細胞(リンパ球、NKT細胞等)と混合された状態(単核球画分など)で培養に供されてもよい。
【0043】
次に被検化合物の存在中で、CD11b細胞のIFN−γ産生が誘導される。CD11b細胞からのIFN-γ産生の誘導は、適切な培養培地中で、CD11b細胞のIFN−γ産生を誘導し得るような物質で刺激することにより行われ得る。該物質としては、上述のNKTリガンド、TLRリガンド(LPS、非メチル化CpG DNA、ペプチドグリカン、マイコバクテリウムボビス、二本鎖RNA、βグルカン等)等を挙げることができる。培養培地としては、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などを挙げることが出来る。培養条件としては、培地のpHは約6〜8であり、培養温度は通常約30〜40℃であり、培養時間は約1〜96時間である。
【0044】
次に、被検化合物の存在中でのCD11b細胞のIFN−γ産生が定量される。IFN−γ産生は、スクリーニング方法Iと同様の方法により測定することできる。
【0045】
そして、被検化合物の存在中でのCD11b細胞のIFN−γ産生量が、被検化合物の不在中でのCD11b細胞のIFN−γ産生量と比較される。産生量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被検化合物の不在中でのCD11b細胞におけるIFN−γ産生量は、被検化合物の存在中でのCD11b細胞におけるIFN−γ産生量の測定に対し、事前に測定した産生量であっても、同時に測定した産生量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した産生量であることが好ましい。
【0046】
最後に、比較結果に基づいて、CD11b細胞のIFN−γ産生を抑制し得る化合物が選択される。上述の様に、CD11b細胞のIFN−γ産生を抑制し得る化合物は、移植片喪失の予防・治療用化合物として有用である。従って、CD11b細胞におけるIFN−γ産生を指標として、移植片喪失の予防・治療用の医薬、又は研究用試薬のための候補化合物を選択することが可能となる。
【0047】
尚、本スクリーニング方法はまた、被検化合物の動物への投与により行われ得る。動物としては、例えば、上述の非ヒト哺乳動物が挙げられる。動物を用いて本発明のスクリーニング方法が行われる場合、例えば、インビボで動物中のCD11b細胞のIFN−γ産生を誘導し、該動物へ被験化合物が投与される。動物への被検化合物の投与は、IFN−γ産生誘導の前でも後でもよい。インビボでCD11b細胞のIFN−γ産生を誘導する方法としては、特に限定されないが、例えば、上述のCD11b細胞のIFN−γ産生を誘導し得るような物質の投与や、任意の移植モデル等を挙げることができる。好ましくは、移植モデルが用いられる。移植モデルとしては、自体公知のモデルのいずれをも使用することが可能であり、所望の組織が、非ヒト哺乳動物レシピエントの生体内の任意の部位へ移植される。本スクリーニング方法において選択される「組織」、「生体内の部位」は上述と同様である。好ましくは、膵島が非ヒト哺乳動物レシピエントの肝臓内へ移植される。ここで、移植に供される「組織」はレシピエントと同種同系であることが好ましい。同種異系又は異種異系の組織を移植すると、移植片喪失に係る反応と同時に獲得免疫反応が生じるため、移植片喪失に対する化合物の効果を評価することが困難となる場合があるからである。
【0048】
次に被検化合物が投与された動物におけるCD11b細胞のIFN−γ産生が測定される。移植モデルにおいては、好ましくは、移植部位におけるCD11b細胞のIFN−γ産生が測定される。「移植部位」は、移植された組織自体及びその定着部位を含む。例えば、膵島を肝臓に移植した場合は、「移植部位」は移植された膵島及び肝臓を含む。CD11b細胞のIFN−γ産生を測定する時期は、特に限定されないが、移植後の早い時期(例えば移植の30分〜48時間後)が好ましい。CD11b細胞のIFN−γ産生は、例えば、動物から単核球画分を単離し、該単核球画分中に含まれるCD11b細胞におけるIFN−γ産生をフローサイトメーターなどで測定することにより評価することができる。IFN−γ産生量は、IFN−γCD11b細胞の数(又は割合)や、CD11b細胞への抗IFN−γ抗体の結合量(蛍光強度であり得る)等として決定される。
【0049】
そして、被検化合物が投与された動物におけるCD11b細胞のIFN−γ産生が、被検化合物を投与されていない対動物におけるCD11b細胞のIFN−γ産生と比較され、比較結果に基づいて、CD11b細胞のIFN−γ産生を抑制し得る化合物が選択される。動物を用いたスクリーニング方法は、インビボにおいて所望の効果を奏する化合物を得ることが出来る点で優れている。
【0050】
(スクリーニング方法III)
後述の実施例に示されるように、移植によりNKT細胞が活性化し、炎症性サイトカイン等の多様な遺伝子発現が亢進する。また、Vα14NKT欠損(Jα281−/−)マウス及びIFN−γマウス−/−においては、野生型マウスと比較して移植片喪失が有意に抑制されている。野生型マウスにおいては、移植部位においてCD11b細胞(Gr−1CD11b細胞等)が高レベルのIFN-γを産生しているが、Vα14NKT欠損(Jα281−/−)マウスにおいては、CD11b細胞からのIFN-γ産生が抑制されている。更に、NKT細胞リガンドの1つであるα−GalCerの繰り返し投与により、NKT細胞の機能を改変することにより、CD11b細胞からのIFN−γ産生が抑制され、移植片喪失が予防される。これらの知見から、移植時に活性化されたNKT細胞がCD11b細胞のIFN−γ産生を誘導し、これが移植片喪失の主要な原因であり、この誘導を阻害し得る化合物は、移植片喪失の予防・治療用化合物として有用であることが理解される。従って、本発明は、以下の工程を含む、移植片喪失の予防・治療用化合物のスクリーニング方法(スクリーニング方法III)を提供するものである:
(A)被検化合物の存在中でNKT細胞及びCD11b細胞を共培養する工程;
(B)共培養物中のNKT細胞を刺激したときのCD11b細胞からのIFN−γ産生を抑制し得る化合物を選択する工程。
【0051】
工程(A)では、被検化合物の存在中でNKT細胞及びCD11b細胞を共培養する。被検化合物、NKT細胞及びCD11b細胞は、上述のスクリーニング方法I、IIと同様のものが用いられる。培養培地としては、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などを挙げることが出来る。培養条件としては、培地のpHは約6〜8であり、培養温度は通常約30〜40℃である。
【0052】
工程(B)では、まず、共培養物中のNKT細胞が刺激される。刺激は、上述のNKTリガンド、TLRリガンド(LPS、非メチル化CpG DNA、ペプチドグリカン、マイコバクテリウムボビス、二本鎖RNA、βグルカン等)等を共培養物に添加することにより行われる。この刺激により、NKT細胞が活性化し、更に活性化されたNKT細胞がCD11b細胞からのIFN−γ産生を誘導する。刺激後の培養時間は約1〜約96時間である。
【0053】
次に、被検化合物の存在中でのCD11b細胞のIFN−γ産生が定量される。IFN−γ産生は、スクリーニング方法Iと同様の方法により測定することできる。
【0054】
そして、被検化合物の存在中でのCD11b細胞のIFN−γ産生量が、被検化合物の不在中でのCD11b細胞のIFN−γ産生量と比較される。産生量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被検化合物の不在中でのCD11b細胞におけるIFN−γ産生量は、被検化合物の存在中でのCD11b細胞におけるIFN−γ産生量の測定に対し、事前に測定した産生量であっても、同時に測定した産生量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した産生量であることが好ましい。
【0055】
最後に、比較結果に基づいて、CD11b細胞のIFN−γ産生を抑制し得る化合物が選択される。活性化されたNKT細胞により誘導されるCD11b細胞のIFN−γ産生を阻害し得る化合物は、移植片喪失の予防・治療用化合物として有用である。
【0056】
(スクリーニング方法IV)
後述の実施例に示されるように、移植を行った後に、移植部位におけるCD11b細胞の数が劇的に上昇する。そして、このCD11b細胞が移植部位における主要なIFN−γ産生である。このような知見から、移植部位におけるCD11b細胞の数の上昇を抑制し得る化合物は、移植片喪失の予防・治療用化合物として有用であることが理解される。従って、本発明は、移植部位におけるCD11b細胞数の上昇を抑制し得る化合物を選択することを含む、移植片喪失の予防・治療用化合物のスクリーニング方法(スクリーニング方法IV)を提供するものである。
【0057】
本スクリーニング方法は、上述の非ヒト哺乳動物を用いた移植モデルを使用して行われる。移植モデルとしては、自体公知のモデルのいずれをも使用することが可能であり、所望の組織が、非ヒト哺乳動物レシピエントの生体内の任意の部位へ移植される。本スクリーニング方法において選択される「組織」、「生体内の部位」は上述と同様である。好ましくは、膵島が非ヒト哺乳動物レシピエントの肝臓内へ移植される。ここで、移植に供される「組織」はレシピエントと同種同系であることが好ましい。同種異系又は異種異系の組織を移植すると、移植片喪失に係る反応と同時に獲得免疫反応が生じるため、移植片喪失に対する化合物の効果を評価することが困難となる場合があるからである。
【0058】
被検化合物はレシピエント動物へ投与される。投与時期は移植の前後いずれであってもよい。被検化合物は、スクリーニング方法Iに記載されたものと同様のものを使用することができる。
【0059】
次に被検化合物が投与されたレシピエントの移植部位におけるCD11b細胞数が測定される。CD11b細胞数を測定する時期は、特に限定されないが、移植後の早い時期(例えば移植の30分〜48時間後)が好ましい。CD11b細胞数は、例えば、移植部位から単核球画分を単離し、該単核球画分中に含まれるCD11b細胞数(或いは割合)をフローサイトメーター等で測定することにより評価することができる。
【0060】
そして、被検化合物が投与されたレシピエントの移植部位におけるCD11b細胞数が、被検化合物を投与されていない対照レシピエントの移植部位におけるCD11b細胞数と比較される。細胞数の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。対照レシピエントの移植部位におけるCD11b細胞数は、被検化合物が投与されたレシピエントの移植部位におけるCD11b細胞数の測定に対し、事前に測定した値であっても、同時に測定した値であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した値であることが好ましい。
【0061】
最後に、比較結果に基づいて、移植部位におけるCD11b細胞数の上昇を抑制し得る化合物が選択される。上述の様に、移植部位におけるCD11b細胞数の上昇を抑制し得る化合物は、移植片喪失の予防・治療用化合物として有用である。従って、移植部位におけるCD11b細胞数を指標として、移植片喪失の予防・治療用の医薬、又は研究用試薬のための候補化合物を選択することが可能となる。
【0062】
本発明のスクリーニング方法I〜IVにより得られた化合物は、移植片喪失を予防・治療し得るので、上記本発明の予防剤と同様に、医薬として製剤化することによって、移植片喪失の予防・治療剤とすることができる。
【0063】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
実験材料及び方法
(動物)
マウスはCharles River Japan (神奈川、日本)より購入され、本発明者らの動物施設にて維持された。雄C57BL/6(H−2)マウス及びC57BL/6バックグラウンドのVα14NKT細胞欠損(Jα281−/−)マウス(10−15週齢)が使用された。C57BL/6バックグラウンドのIFN−γ欠損マウスは、東京大学医学部のY.Iwakuma博士より供与された(Tagawa, Y., et. al., 1997, J. Immunol., 159: 1418-1428)。動物保護は、本発明者らの施設のガイドラインに従った。
【0065】
(糖尿病誘導)
糖尿病は、ストレプトゾトシンの静脈内注入によってレシピエントマウス中に誘導された(STZ、180mg/kg、Sigma、St.Louis, MO)(Schein, P. S., et. al., 1968, Diabetes, 17:760-765)。血漿グルコースレベルは、Beckman glucose analyzer(Beckman Instruments Japan, Tokyo, Japan)により測定された。STZ注入後、非絶食血漿グルコースレベルはday2までに400mg/dlを超え、膵島移植の時にはマウスは高血糖のままであった。
【0066】
(膵島単離及び移植)
膵島は、静的なコラゲナーゼ消化と、それに引続くFicoll−Conrayグラディエント中での遠心分離により単離され(Sutton, R., 1986, Transplantation, 42:689-691/Ohtsuka, K., et. al., 1997, Transplantation, 64: 633-639)、門脈を介してSTZ誘導糖尿病マウスの肝臓中へ移植された(Kemp, C. B., et. al., 1973, Nature, 244:447)。非絶食時血漿グルコースレベル及び体重が、移植の前後において、週3回モニターされた。正常血糖は、移植後における、2回連続した200mg/dlより低い非絶食グルコースレベルとして定義された。
【0067】
(α−ガラクトシルセラミド処理)
α−ガラクトシルセラミド(α−GalCer)は、RIKEN RCAIの実験室において合成され、キリンビール株式会社からも供与された(Kawano, T., et. al., 1997, Science, 278: 1626-1629)。マウスへ、α−GalCer(100μg/kg)又はビヒクル(1%(v/v)DMSO、0.025%(w/v)Tween80)を、腹腔内に、1回又は3回(4日インターバルで)注入した。最後の注入から4日後、脾臓細胞がα−GalCer(100ng/ml)又はビヒクルの存在中で培養された。3日間培養上清中のIFN−γ及びIL−4のレベルがELISAにより測定された。
【0068】
(細胞移入)
Percollグラディエント遠心分離により獲得された肝臓単核球が既述のように調製された(Ohtsuka, K., et. al., 1997, Transplantation, 64: 633-639)。
【0069】
(フローサイトメトリー)
フローサイトメトリーのために使用されたモノクローナル抗体(mAbs)、抗マウスFcRγII/III(2.4G2),フルオレッセインイソチオシアネート(FITC)接合抗CD3ε(145−2C11),FITC−抗CD11b(M1/70),アロフィコシアニン(APC)−接合抗IFN−γ(XMG1.2),APC−抗IL−4(11B11),PerCP−接合抗Gr−1(Rb6−8c5),PerCP−Cy5.5−抗Gr−1(86−8C5),FITC−抗CD11b(M1/70),FITC−抗CD11c(HL3),FITC−抗CD86(GL−1),FITC−抗I−A(AF6−120.1),FITC−抗IgG1(A85−1),フィコエリスリン(PE)−接合抗CD11b(M1/70),及びそれらのアイソタイプ適合コントロールは、PharMingen (San Diego,CA)から購入された。FITC−抗F4/80(A3−1)及びFITC−抗CD68(FA−11)はSEROTEC(Oxford, UK)から獲得された。PE−接合α−GalCerロードCD1d(α−GalCer−CD1d)テトラマーは既述のように調製された(Matsuda, J. L., et. al., 2000, J. Exp. Med. 192:741-753)。細胞内染色のために、細胞は抗FcRγII/III及びneutravidin(Molecular Probes,Inc.,Eugene,OR)と共にインキュベートされ、そして表面染色された。細胞は固定され、Cytofix/Cytoperm溶液(PharMingen)中で浸透化され、抗IFN−γ及び抗IL−4 mAbsにより、製造者の指示書に従い染色された。染色された細胞は、FACSCalibur(Becton Dickinson,Mountain View,CA)上で解析され、データはCELLQuest software(Becton Dickinson)により処理された。10000個の生細胞が解析された。
【0070】
(セルソーティング及び移入)
肝単核球が既述の様に調製された(Transplantation, 64, 633-639, 1997)。Gr−1CD11b細胞及びVα14NKT細胞がMofloTM(Dako Cytomation, Glostrup)により、それぞれ、純度≧99%及び≧98%でソートされた。脾臓樹状細胞(DCs)が、抗CD11c結合磁性ビーズ(Myltenyi Biotec)を用いてMACSにより、純度≧95%で精製された。
【0071】
(抗体処理)
Gr−1又はCD11bに対するモノクローナル抗体が、200個の膵島を受けたSTZ糖尿病マウス内へ、移植時に、腹腔内注入された。
【0072】
(組織学)
移植レシピエントからの肝臓及び膵臓がBouin’s溶液中で固定され、光学顕微鏡試験のためにパラフィン中へ処理され、包埋された。切片はヘマトキシリン−エオシン及びアルデヒド−フクシンにより染色された。免疫組織化学解析が、ストレプトアビジン−ビオチン−パーオキシダーゼ複合体法により行われた(Int. J. Cancer., 83, 732-737, 1999)。
【0073】
(遺伝子発現解析)
膵島移植後1時間、2時間、6時間の時点での肝臓Vα14NKT細胞におけるmRNA発現がaffimetlix遺伝子チップにより解析された。また、肝臓Vα14NKT細胞におけるIL−1β mRNAレベルがリアルタイムRT−PCRにより測定された。IL−1βのための結果は、それぞれのHPRT発現により標準化された。
【0074】
(統計学的解析)
Fisher’s extract testが、膵島移植後のストレプトゾトシン誘導糖尿病マウスにおける正常血糖(euglycemia)の割合の統計学的有意性を決定するために使用された。
【0075】
結果及び考察
(Vα14NKT細胞は早期膵島移植片喪失の原因である)
Vα14NKT細胞が膵島移植片不全に関わっている可能性を調べるために、本発明者らは膵島移植の試験系を確立することを試みた。本発明者らは、ストレプトゾトシン(STZ)誘導糖尿病マウスにおける高血糖を改善するために必要とされるドナー膵島の最低限数を試験した。C57BL/6マウスはSTZの静脈内注入の後すぐに高血糖性及び糖尿病性となった(図1A)。STZ誘導糖尿病マウスでは、肝臓内に移植された400個の同種同系膵島が正常血糖を達成するために十分であることが見出された(図1B、左)一方、正常血糖は、単独のマウス膵臓から単離することのできる膵島の数である、200個の同種同系膵島の移植では達成することができなかった(図1C、左)。400個の膵島(n=6)又は200個の膵島(n=10)の移植後の糖尿病野生型マウスにおける正常血糖(euglycemia)の割合の差異は、統計学的に有意であった(P<0.001)。生化学的データに合致して、400個の膵島を受けたマウスにおいて,よく顆粒化された(well−granulated)β細胞を有するそのままの膵島が組織学的にみられたが、一方200個のみの膵島を受けたマウスにおいては、脱顆粒化された(de−granulated)β細胞を有する傷害された膵島が観察された(図1B及びC、右)。
【0076】
本発明者らは、Vα14NKT細胞が早期膵島移植片喪失に関与するかどうか試験した。全ての糖尿病性Jα281−/−マウスは、200個又はたった100個の膵島の移植後11日までに正常血糖となった(図1D及びE、左)。組織学的試験もまた、よく顆粒化された(well−granulated)β細胞を有するそのままの膵島の存在を明瞭に立証し(図1D、右)、Vα14NKT細胞が移植片拒絶(及び移植された膵島の早期移植片喪失)に重要な役割を果たしていることが示唆された。
【0077】
移植された膵島に対するVα14NKT細胞の有害な効果を証明するために、ナイーブな野生型、Jα281−/−、又はIFN−γ欠損マウスから単離された肝臓単核球(5×10個)が、200個の同種同系膵島を受ける糖尿病性のJα281−/−マウスの門脈中に、移植のときに注入された。野生型マウスからの細胞を注入された糖尿病のJα281−/−マウスは、移植後60日間、高血糖のままであった(図1F、左)。一方、Jα281−/−、又はIFN−γ欠損マウスからの細胞を注入された糖尿病のJα281−/−マウスは、正常血糖となった(図1G及びH、左)。組織学的試験もまた、Jα281−/−、又はIFN−γ欠損マウスからの細胞のレシピエントにおいてそのままの膵島が存在し、野生型マウスからの細胞のレシピエントにおいてそうではないことを証明した(図1F、G、H、右)。該結果から、Vα14NKT細胞及びIFN−γが、早期移植片不全(喪失)のための必須の構成要素であることが示唆された。
【0078】
(移植により誘導されたGr−1CD11b細胞は早期移植片喪失のエフェクター細胞である)
膵島移植片不全に関連した細胞変化を明らかにするために、肝単核球が膵島移植後に定期的に単離され、α−GalCerがロードされたCD1d(α−GalCer−CD1d)テトラマーを用いたFACSにより試験された。FACS解析は、α−GalCer−CD1d テトラマーVα14NKT細胞のパーセンテージは、はじめ、0hrでの10.3%から6hrsでの約5%へ減少したが、しかし膵島移植後24時間では19.2%に急上昇したことを示した(図2、左パネル)。この知見は、報告されているように(Int. Immunol., 16, 241-247, 2004:Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100, 10913-10918, 2003:J. Immunol., 171, 4020-4027, 2003)、Vα14NKT細胞の活性化により受容体発現がダウンレギュレートされ、その結果α−GalCer−CD1d テトラマーによってVα14NKT細胞が検出されなくなったことを示唆する。更に、移植後2〜6時間において採取されたVα14NKT細胞は、IFN-γやIL−1βの様な炎症性サイトカインを産生したことから(図2及び図10)、Vα14NKT細胞が移植により活性化されることが示唆された。Vα14NKT細胞の消失に引き続き、Vα14NKT細胞は、既報のように(Int. Immunol., 16, 241-247, 2004:Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100, 10913-10918, 2003:J. Immunol., 171, 4020-4027, 2003)、図2(24hrs)に示すように、早急に増殖した。興味深いことに、高レベルのIFN−γを産生するα−GalCer−CD1d テトラマー細胞の割合が、膵島移植後6時間で0.5%から14.3%へ著しく増加した(図2、左パネル)。α−GalCer−CD1d テトラマー細胞が更にゲートされ、Gr−1及びCD11b発現がIFN−γ産生と関連して解析され、Gr−1CD11b細胞であると決定された(図3)。Gr−1CD11b細胞は、CD11c、CD86、MHCクラスII、F4/80+/−、及びCD68+/−であり(図4)、形態学的に好中球であったことから(図5)、これらの細胞は好中球であることが示唆された。移植された膵島の中へ侵入した好中球(図5)は、エフェクター細胞のようであった。なぜなら、Gr−1又はCD11bに対する抗体の注入により、膵島移植片の拒絶が予防されたからである(図6)。
野生型マウスと著しく対照的に、Jα281−/−マウスにおいてはIFN−γ産生Gr−1CD11b細胞の増加がみられず(図2、左パネル)、膵島移植に引続くVα14NKT細胞の活性化がIFN−γ産生Gr−1CD11b細胞の誘導を引き起こすことが示唆された。Vα14NKT細胞の存在又は不在に関わらず、IL−4産生細胞の有意な増加は認められなかった(図2、右パネル)。
【0079】
α−GalCerの単回注入がGr−1CD11b細胞におけるIFN−γ産生を劇的に増進し(図7)、Vα14NKT細胞がGr−1CD11b細胞を活性化し、IFN−γを産生させることが示唆された。即ち、Gr−1CD11b細胞による増加したIFN−γ産生は、膵島移植により誘導されたVα14NKT細胞の直接的な結果であるようであった。
【0080】
IFN−γ産生Gr−1CD11b細胞と同様に、水酸化アルミニウム(アラム)により沈降させた抗原を免疫のために用いたときに、アラムにより誘導されたIL−4産生Gr−1CD11b細胞がB細胞活性化に重要な役割を果たしている(文献12:Jordan, M. B., 2004, Science, 304: 1808-1810)。これらの2つの集団の、抗原非依存性及び免疫反応における重要性に関する類似性にもかかわらず、IL−4産生Gr−1CD11b細胞は免疫後6日ではっきり現れるが、一方IFN−γ産生Gr−1CD11b細胞は移植後すぐ(6hr)に現れるという事実のような、多くの明らかな差異が言及される。該知見はGr−1CD11b細胞の機能的多様性を示唆する。
【0081】
(Vα14NKT細胞機能の改変による早期移植片喪失の予防)
Vα14NKT細胞は、α−GalCerにより刺激された後すぐに著量のIFN−γを分泌するが、繰り返しのα−GalCer刺激後ではIFN−γを産生することを停止した(図7)。本発明者らは、繰り返しのα−GalCer注入が、Vα14NKT細胞によるIFN−γ産生を改変し、移植片生存性に影響を与え得る可能性をテストするために、膵島移植に対する繰り返しのα−GalCer刺激の効果を調べた。400個の膵島を受けたSTZ誘導糖尿病野生型マウスが、移植の際にビヒクルにより1回処理されたときに、全てのマウスは正常血糖となった(図8A)。400個の膵島を受けた糖尿病野生型マウスが、α−GalCerの単回注入(100μg/kg)により処理されたときに、移植後60日でも正常血糖になったマウスはいなかった(図8B)。対照的に、野生型マウスが、膵島移植より前の糖尿病の誘導の前のday15、11、及び7に、α−GalCer(100μg/kg)により3回処理されていたときには、200個の同種同系膵島のみの移植が、10日以内に、全てのレシピエントマウスにおいて正常血糖を復活させた(図8D)。α−GalCerの替わりにビヒクルで処理されたマウスは、移植60日後、高血糖のままであった(図8C)。これらの結果は、膵島移植より前の繰り返しのα−GalCer注入によりIFN−γ産生のダウンレギュレーションが起こり、これが膵島移植に陽性に影響を与えたことを立証した。
【0082】
(Vα14NKT細胞により引き起こされたGr−1CD11b細胞によるIFN-γ
産生)
そこで、本発明者らは、α−GalCerのGr−1CD11b細胞によるIFN−γの産生への効果を調べた。FACS解析は、膵島移植後直ちにGr−1CD11b細胞が、非移植対照と比較して、増加したことを明らかとした(図9B)。Gr−1CD11b細胞の流入はVα14NKT細胞とは独立であった。なぜなら、Gr−1CD11b細胞の増加は、移植後のJα281−/−マウスにおいても検出されたからである(図9C)。このことは、Gr−1CD11b細胞数が移植により上昇したことを示唆する。しかしながら、Gr−1CD11b細胞によるIFN−γ産生がα−GalCerの単回注入によって劇的に増進されたが(図9D)、α−GalCerの繰り返し注入が与えられたときは、ビヒクル処理コントロール(図9E)と同等のレベルにまで減少した(図9F)。従って、Gr−1CD11b細胞によるIFN-γ産生は、全体としては、Vα14NKT細胞の活性化状態に依存していることが示唆された。
以上より、インビボでの繰り返しのα−GalCer刺激によるVα14NKT細胞機能の改変は、Gr−1CD11b細胞によるIFN−γ産生を操作し、即時の移植片不全及び膵島移植片の早期の喪失を予防し、そして良好な膵島膵臓移植に寄与し得ることが示唆された。
マウスにおけるVα14NKT細胞と同様に、ヒトVα24NKT細胞も活性化により大量のIFN-γを放出する(J. Exp. Med., 186, 109-120, 1997)ことから、ヒトにおける膵島の早期移植片拒絶もVα24NKT細胞により調節されることが示唆される。従って、ヒトVα24NKT細胞によるIFN-γ産生のダウンレギュレーションを標的とした治療法は、臨床における膵島移植片の早期喪失を予防することを助長し、膵臓膵島移植の効率の向上することを助長し得る。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】Vα14NKT細胞が同種同系膵島移植片の早期喪失に重要な役割を果たしていることを示す図である。左パネルにおいて、個々の線は、それぞれの動物の非絶食血漿グルコースレベルを表す。*重篤な糖尿病のため動物が死亡したことを示す。右パネルは、移植から60日後において試験された肝臓中の膵島移植片の顕微鏡写真を示す。HE:ヘマトキシリン−エオシン。AF:アルデヒド−フクシン。原倍率:×100。(A)STZの静脈内注入後のC57BL/6マウスにおける高血糖。(B)400個の膵島を移植されたSTZ誘導糖尿病マウスにおける正常血糖。(C)200個の膵島を移植されたSTZ誘導糖尿病マウスにおける高血糖。(D,E)200個(D)又は100個(E)の膵島を移植されたSTZ誘導糖尿病Jα281−/−マウスにおける正常血糖。(F,G,H)200個の膵島が移植されたSTZ誘導糖尿病Jα281−/−マウスへ野生型(F)、Jα281−/−(G)、IFN−γ欠損(H)マウスからの肝臓単核球細胞(5×10個)を門脈内注入した。
【図2】膵島移植後におけるIFN−γ産生細胞の誘導のためのVα14NKT細胞の必要性を示す図である。図中の数字は、対応する領域中の細胞のパーセンテージを表す。中央のヒストグラムにおいて、ゲートされたCD3 α−GalCer−CD1dテトラマー陽性細胞のIFN-γ産生(実線)が、陰性コントロール(点線)と比較される。
【図3】膵臓移植後6時間におけるIFN−γ産生Gr−1CD11b細胞の誘導を示す図である。図中の数字は、対応する領域中の細胞のパーセンテージを表す。
【図4】Gr−1CD11b細胞の表面表現型を示す図である。表面発現(実線)がコントロール(点線)と比較された。
【図5】移植後6時間の肝臓から単離されたGr−1CD11b細胞の組織学的知見を示す写真である。(i) May-Grunwald-Giemsa染色。原拡大率:×500。(ii, iii, iv) インシュリン(ii)、Gr−1(iii)、及びF4/80(iv)の免疫組織学的染色。矢頭は膵島内へ移植した侵入したGr−1細胞を示す。原拡大率:×400。
【図6】200個の膵島移植及び抗Gr−1又は抗CD11b抗体処理による糖尿病の予防を示す図である。(A)対照抗体(B)抗Gr−1抗体(C)抗体CD11b抗体
【図7】繰り返しのα−GalCer処理後のNKT細胞のサイトカインプロファイルの変化を示す図である。α−GalCer又はビヒクルを単回(黒カラム)、又は3回(白カラム)腹腔内に注入されたマウスから精製された肝臓Vα14NKT細胞が、α−GalCer(100ng/ml)又はビヒクルによりパルスされた樹状細胞とともに培養され、サイトカイン産生がELISAにより測定された。
【図8】繰り返しのα−GalCer処理による同種同系膵島移植片不全の予防効果を示す図である。個々の線は、それぞれの動物の非絶食血漿グルコースレベルを表す。*重篤な糖尿病による動物の死。(A、B)単回α−GalCer刺激による膵島移植片の拒絶。400個の同種同系膵島が、膵島移植の時にビヒクル(A)又はα−GalCer(100μg/kg)(B)の単回腹腔内注入で処理されたSTZ−誘導糖尿病C57BL/6マウス内へ移植された。(C,D)繰り返しのα−GalCer刺激による膵島移植片不全の予防。200個の同種同系膵島が移植されたマウスが、移植の3日前のSTZを注入される前のday15、11及び7に、ビヒクル(C)又はα−GalCer(100μg/kg)で3回処理された。
【図9】Gr−1CD11b細胞によるIFN−γの産生に対するα−GalCer処理の効果を示す図である。図中の数字は対応する領域中の細胞のパーセントを表す。400個又は200個の同種同系膵島の移植6時間後に単離されたナイーブマウス(A)、野生型(B及びD−F)又はJα281−/−(C)の移植レシピエントからの肝臓単核球が解析された。400個の膵島が移植されたマウスへ1回、ビヒクル(B、C)又はα−GalCer(100μg/kg)(D)が注入された。同様に、200個の膵島が移植されたマウスへ、3回、ビヒクル(E)又はα−GalCer(100μg/kg)(F)が、移植の3日前のSTZを静脈内へ注入する前のday15、11、及び7に注入された。
【図10】膵島移植後の肝臓Vα14NKT細胞におけるmRNA発現を示す図である。(A)affimetlix遺伝子チップによるmRNA発現解析結果が示される。ナイーブVα14NKT細胞よりも6倍以上アップレギュレートされた遺伝子が示される。a.b.c.は、それぞれ、膵島移植後1時間、2時間、6時間の時点で細胞を単離したことを示す。(B)肝臓Vα14NKT細胞におけるIL−1β mRNAレベルがリアルタイムRT−PCRにより測定された。IL−1βのための結果は、それぞれのHPRT発現により標準化されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NKT細胞リガンドを含有してなる、移植片喪失の予防剤。
【請求項2】
NKT細胞リガンドはα−ガラクトシルセラミドである、請求項1記載の剤。
【請求項3】
移植片喪失は膵島移植に伴うものである、請求項1記載の剤。
【請求項4】
移植片喪失は肝臓内への移植に伴うものである、請求項1記載の剤。
【請求項5】
移植前に2回以上投与されることを特徴とする、請求項1記載の剤。
【請求項6】
NKT細胞の活性化を抑制し得る化合物を選択することを含む、移植片喪失の予防・治療用化合物のスクリーニング方法。
【請求項7】
CD11b細胞のIFN−γ産生を抑制し得る化合物を選択することを含む、移植片喪失の予防・治療用化合物のスクリーニング方法。
【請求項8】
以下の工程を含む、移植片喪失の予防・治療用化合物のスクリーニング方法:
(A)被検化合物の存在中でNKT細胞及びCD11b細胞を共培養する工程;
(B)共培養物中のNKT細胞を刺激したときのCD11b細胞からのIFN−γ産生を抑制し得る化合物を選択する工程。
【請求項9】
移植部位におけるCD11b細胞数の上昇を抑制し得る化合物を選択することを含む、移植片喪失の予防・治療用化合物のスクリーニング方法。



【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−273842(P2008−273842A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233250(P2005−233250)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【Fターム(参考)】