説明

稀少金属の製造方法

【課題】メカノケミカル反応を利用し、稀少金属を効率よく、製造できる実用化可能な方法を提供する。
【解決手段】稀少金属酸化物粉末を、珪素粉末とメカノケミカル的に反応させ、稀少金属と酸化珪素を得る。稀少金属酸化物としては、インジウム、錫及びアンチモン等の酸化物が使用でき、稀少金属酸化物粉末と珪素粉末の反応は、機械的に攪拌処理しながら、実施すればよく、この反応は、大気圧下で実施されてもよく、廃液晶パネル等から稀少金属を回収するのにも有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、稀少金属酸化物を用いた稀少金属の製造方法に関するものであり、特に、廃液晶パネル等の基盤に使用されている透明電極に含まれるような稀少金属をメカノケミカル的に効率よく回収するのに有効な方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば液晶パネルやプラズマディスプレイパネルの製造工程に於いて廃棄される廃液晶パネル、または、これらパネルを応用した製品、情報表示装置や映像表示装置等は、解体して廃棄処分されるが、その透明電極には、貴重な稀少金属が含まれている。
【0003】
そこで、廃液晶パネル等を再利用できるように処理する方法が種々検討されている。特許文献1には、廃液晶パネルのガラス板を矩形状に切断し、このガラス板を液晶パネルから取り外し、液晶を露出させ、ガラス基板に付着している液晶を、掻き取って回収し、そこに含まれる稀少金属などの回収を可能とすることが開示される。しかし、ここには、稀少金属の回収法は具体的に開示されておらず、また、一定形状に切断されたガラス板から液晶を掻き取るという工程は、手数の掛るものであった。
【0004】
別途、金属インジウムを回収する方法として、特許文献2には、酸化インジウム錫(I.T.O)ターゲット屑などを粉砕し、この粉体を塩酸、硫酸または硝酸等の酸で溶解し、その後、溶解液のpHをアルカリで中和し、その濾液を熟成させた後、硫化水素ガスを吹き込み、金属イオンを硫化物として析出除去した後、得られた液を電解元液として、インジウムメタルを電解採取するという方法が開示されている。この方法は、強酸や硫化水素という扱い難い薬品を使用する必要があり、また処理工程も複雑であり実用化し難いものであった。
【0005】
また、特許文献3にも、インジウムと錫を含有する物質から金属インジウムを回収する方法が開示されるが、ここでも、インジウムと錫の合金を塩酸、硫酸または塩酸と硫酸の混酸に加熱溶解するものであり、扱い難いものであった。
【0006】
そこで、強酸を使用しない方法として、非特許文献1に、I.T.Oから粉砕によるメカノケミカル反応を利用して稀少金属のインジウムを回収する方法を開発したという記事があるが、この方法は、室温で実施でき、しかも強酸を使用しないため、扱い易いものであるが、稀少金属であるリチウムを含む窒化リチウムを使用するため、安全性及び経済的に問題があった。
【特許文献1】特許第3589937号公報
【特許文献2】特開2006−206990号公報
【特許文献3】特開2007−9274号公報
【非特許文献1】平成19年7月26日付「河北新報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、非特許文献1に開示されるようなメカノケミカル反応を利用し、稀少金属を効率よく、製造又は回収することができる実用化可能な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、特定の雰囲気下で、稀少金属酸化物粉末を珪素粉末と反応させて、稀少金属と珪素粉末を得ることができることを見出し、特願2008−206867号として特許出願したが、その後、稀少金属酸化物粉末と珪素粉末のメカノケミカル反応を、酸素を含む雰囲気下でも、有効に実施できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、稀少金属酸化物粉末を、珪素粉末と攪拌しながらメカノケミカル反応させて、稀少金属と酸化珪素を得るものであり、稀少金属酸化物としては、インジウム、錫又はアンチモンの酸化物が使用できるものであるが、本発明におけるメカノケミカル反応は、酸素を含む雰囲気下で実施されても、酸素を含まない雰囲気(窒素、アンモニア、炭酸ガスなどの雰囲気)下で実施されてもよいが、空気雰囲気下で実施するのが経済的である。
【0010】
なお、稀少金属酸化物粉末と珪素粉末の反応は、ボールミル等で攪拌処理しながら実施するものであるが、この反応は、大気圧(約1気圧、約0.1MPa)で実施されても、加圧又は減圧下で実施されてもよい。ただし、減圧下で実施する場合は、0.01MPa以下であってもよいが、通常、0.01MPa〜0.1MPa程度の減圧であるのが好ましい。
【0011】
稀少金属酸化物は、廃液晶パネルの基盤などのカレット状粉砕物を、塩酸に溶解し、塩化物として沈殿させ、これを、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸ナトリウムからなる群から選ばれる塩類を含むアルカリ水溶液で中和し、得られた希少金属水酸化物又は炭酸化物を、乾燥・焼成して得ることができ、本発明は、廃液晶パネルからの稀少金属の回収に非常に有用なものとなる。
【0012】
すなわち、廃液晶パネル等(例えば、廃液晶パネル、廃プラズマディスプレイパネル及び廃太陽電池等)の基盤に使用されている透明電極に含まれる稀少金属を回収するものとして、切断、破砕された前記基盤上に形成された透明電極膜を、塩酸及び硝酸混合溶液に溶解した後、アルカリ溶液にて中和して透明電極膜の成分である金属を、塩化物、水酸化物、炭酸塩として回収し、稀少金属化合物の析出後、焼成することによって金属酸化物として回収し、得られた金属酸化物と珪素を共に大気圧下で攪拌処理し、稀少金属酸化物を稀少金属として析出させることができるのである。
【0013】
この方法では、廃液晶パネル等(廃液晶パネル、廃プラズマディスプレイパネル及び廃太陽電池等)を、パネル切断工程、切断された廃パネルの粉砕工程(カレット状に粉砕)、必要に応じて粉砕されたパネルから有機物を除去する工程、粉砕されたカレット状の基盤から基盤上に形成されている薄膜材料を化学薬品で溶解処理する工程を備えるものであり、基板上に形成された薄膜材料を純度良く、また効率的に回収できる。
【0014】
なお、本発明では、空気雰囲気下における攪拌処理により、稀少金属を析出させた後、その処理槽に水を加えて水洗処理した後に、稀少金属を回収するのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法では、稀少金属酸化物を用いて、熱及び特段の化学薬品を使用することなく直接的に稀少金属(インジウム等)を経済的に且つ高純度で製造することができる。かかる本発明の方法は、稀少金属を含む廃棄物から稀少金属を回収するのにも有効であり、例えば、廃液晶パネルの処理方法に適用すると、基板材料(ガラス)は金属薄膜が付着していないものとなり、珪石代替材料として再利用することができる。
従って、本発明を利用することで、殆んど廃棄物を出さないリサイクルが可能となり、理想的な廃パネルの処理方法等の提供が可能となる。
なお、本発明で使用する珪素(Si)は、半導体製造工程で不良となった廃シリコンウエハやシリコンインゴット製造工程での廃製品を利用できるため、本発明の方法は、非常に環境に優しい効率のよい方法と言える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の方法の一例を示すフローチャートである。
【図2】図2は、本発明の実施例における粉末のX線回折(XRD)図であり、(A)はIn2O3 + Siのメカノケミカル反応処理前の測定結果、(B)はメカノケミカル反応処理後の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一形態について図1に基づいて説明すれば以下の通りである。
<S1>前処理工程
廃液晶パネル等(例えば液晶パネルの製造工場において廃棄される廃液晶パネル、液晶表示装置の組立工場にて廃棄され分解処理して排出される廃液晶パネル、及び市場にて廃棄された製品を解体処理して排出される廃液晶パネル等)について、基盤材料以外のプラスチック部材や金属部材、有機フィルム等を除外する。
<S2>パネル切断工程
上記前処理された基盤を切断する。
<S3>粉砕工程
切断された基盤をカレット状に粉砕する。
<S4>酸による薄膜溶解と中和、焼成
塩酸及び硝酸混液でガラス基板上に形成されている薄膜を除去し、基板上に形成されていた透明電極に含まれる稀少金属を前記混液中に溶解した後、アルカリ溶液にて中和し、得られた希少金属水酸化物や炭酸化物を焼成して、稀少金属酸化物とする。
<S5>メカノケミカル反応
上記希少金属酸化物を含むカレット状の基盤材料を、反応槽中、空気雰囲気下で、珪素(純度99.9%)と反応させる。この反応は、1気圧(0.10MPa)で攪拌しながら実施されるのがよい。この反応で、稀少金属酸化物は稀少金属(例えばインジウム)として、また珪素は酸化珪素として析出する。
<S6>洗浄・分離
上記反応生成物を50℃の10%KOH水溶液に入れ、2時間攪拌しながら処理することにより、酸化珪素を溶解処理する。この処理によって、インジウム(固体)と酸化珪素のKOH水溶液(KSiO)にして、固液分離し、生成したインジウムを回収する。
<S7>検査
生成したインジウムの純度検査を実施する。
【0018】
液晶パネルの製造工程において廃棄される廃液晶パネルから、先ず基盤材料以外のプラスチック材料、金属部材、有機フィルム等を除外し、その後基盤を切断し、切断した基盤をカレット状に粉砕し、このカレット状の基盤材料(透明電極材料が付着している)を、塩酸を主体とした酸に溶解し、塩化物として沈澱させ、これにアルカリ水溶液(NaOH、NH4OH、Na2CO3)を注入して中和させて、水酸化物或は炭酸化物として安定化させる。
なお、この際、(化学反応式1〜4)に示す化学反応が発生していると考えられる。

(化学反応式1)In2O3 + 6HCl――> 2InCl3 +3H2O
(化学反応式2)InCl3 +3NaOH――>In(OH)3 +3NaCl
(化学反応式3)InCl3 +3NH4OH――>In(OH)3 +3NH4Cl
(化学反応式4)InCl3 +3Na2CO3――>In2(CO)3 +6NaCl

得られた沈澱物、水酸化インジウムIn(OH)3及び炭酸インジウムIn2(CO)3は、乾燥・焼成(600℃〜700℃で2時間)することにより、酸化インジウム(In2O3)として安定な形態で保管する。
【0019】
本発明で、稀少金属を回収する方法は、先ず、空気雰囲気下で密封容器内に、所定の金属を含む金属酸化物から成る化合物の粉末と、珪素(Si)の粉末と、粉砕用ボールとを封入する。封入した後、密封容器を所定時間、所定の速度で回転させて化合物の粉末と珪素の粉末とを混合して粉砕する。これにより所定の金属を含有する混合粉末を生成することが出来る。この生成された混合粉末をKOH水溶液を用いて酸化珪素を溶解処理することにより、インジウム(固体)と酸化珪素のKOH水溶液を、固液分離し、生成した所定の金属インジウムを回収することができる。
【0020】
この様に、本発明の実施の形態の金属回収方法は、空気雰囲気下での粉砕操作という簡便な方法で且つ高品質の金属を効率良く回収することが出来る。所定の金属を粉末として
回収出来る為、取扱が容易である。又、原料に機械的エネルギーを与えて化学反応を促進するメカノケミカル反応を利用したものであり、反応が密封系で、反応に際して特段加熱する必要が無い。この様に非加熱であるため温度制御や安全装備等が不要であり、装置を小型化することができ、工業的な実施が容易である。
【実施例1】
【0021】
本発明の実施の形態の金属回収方法を利用して、空気雰囲気下で、酸化インジウムからインジウムを回収する試験を行った。ジルコニア製の密封型ミルポットにジルコニア製粉砕用ボール24個と、酸化インジウム粉末2gと、珪素粉末0.61gとを充填し、ステンレススチール製のオーバーポットにより完全に密封した。次いで、粉砕装置により、密封容器を700rpmで、3時間回転させボール衝突を誘起させた。こうして生成された粉末をX線回折(XRD)で分析したところ、図2に示すように、インジウムを含んでいることが確認された(メカノケミカル反応処理後の(B)のチャートではIn2O3 及び Siの回折像は確認できず、金属Inの回折像のみが観察された)。
【0022】
このインジウム含有粉末と純水とを、粉砕用ボールと共に密封容器に充填し、粉砕装置により、300rpmで10分間回転させて水洗処理を行った。こうして生成された粉末は微細なインジウム粉末と酸化珪素粉末であるので、所定の金属のみを分離回収した。この際(化学反応式5)に示す化学反応が発生していると考えられる。

(化学反応式5) 2InO +3Si → 4In + 3SiO2

上式のメカノケミカル反応では、化学反応の前後でのギブスの自由エネルギーの変化が、−906 KJ/molと負になる化学反応になっている。
【0023】
このように、化学反応の前後でのギブスの自由エネルギーの変化が負になる金属であれば、本発明の実施の形態の金属の回収方法により金属を回収することが出来る。その事例として次の化学反応式6及び7を掲げる。

(化学反応式6) 2SnO2 +2Si → 2SiO2 +2Sn; ΔG°f=−674KJ/mol
(化学反応式7) 2Sb2O3 +3Si → 3SiO2 + 4Sb ΔG°f=−2,823KJ/mol
【0024】
なお、透明導電膜(Indium Tin oxide)はInO:SnO2=9:1で構成されるが、これからインジウムを回収する方法としては、塩酸溶液に溶解し、インジウムと錫が混じった回収液に水酸化ナトリウムを添加して、pH2でSn(OH)2を沈殿させ、更に水酸化ナトリウムを添加してpH4〜5程度にて、In(OH)3を沈殿させ、これらを分離焼成して、In(OH)3をIn2O3とし、これを実施例1と同様の方法で、空気雰囲気下で珪素粉末と反応させ、インジウムを回収するという方法が適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
稀少金属酸化物粉末を、珪素粉末と攪拌しながらメカノケミカル反応させて、稀少金属と酸化珪素を得るものであり、前記稀少金属がインジウム、錫又はアンチモンであることを特徴とする稀少金属の製造方法。
【請求項2】
前記メカノケミカル反応を、酸素を含む雰囲気で実施する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記雰囲気が、空気である請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記メカノケミカル反応を大気圧下で実施する請求項1〜3いずれか1項の製造方法。
【請求項5】
上記反応生成物をKOH水溶液で処理し、酸化珪素をKOH水溶液として、稀少金属と酸化珪素を固液分離する請求項1〜4いずれか1項の製造方法。
【請求項6】
前記稀少金属酸化物が、廃液晶パネル、廃プラズマディスプレイパネル及び廃太陽電池の基盤のカレット状粉砕物を、塩酸に溶解し、前記稀少金属を塩化物として沈殿させ、これを、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸ナトリウムからなる群から選ばれる塩類を含むアルカリ水溶液で中和し、得られた希少金属水酸化物又は炭酸化物を、乾燥・焼成して得られたものである請求項1〜5いずれか1項の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−222641(P2010−222641A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71251(P2009−71251)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(507330578)株式会社ダイトク (7)
【Fターム(参考)】