説明

稠密水位観測システム

【課題】河川の流域等の広範囲な水文環境の観測において、多点の水位を計測し、あわせて水象状態を把握する。
【解決手段】多点に設置された複数の水位検知部1と、各水位検知部1からの水位データの収集と、計測器データとを収集し、水位データをもとに設定水位との比較を行い、設定水位と水位データ平均値とを比較し、設定水位を越えた水位の場合に、水象パラメータを算出し、該水象データと水位データ平均値とを出力し、水位データと計測器データとをもとにシステムの作動情報の確認・制御を行う演算制御部13と、各データを出力可能な出力部15と、演算制御部13を介してシステム電源を供給する蓄電池17とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は稠密水位観測システムに係り、河川の流域等の広範囲な水文環境の観測において、多点の水位を計測でき、また水象状態を把握でき、さらにシステムの効率的な運用ができるような機能を備えるスマートセンサ化を図った稠密水位観測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
破堤、溢水、漏水、浸水等による水災害の減災化には、面的、時間的に詳細な大量の水位情報(データ)が必要である。とりわけ、高水時においては、その情報(データ)を時々刻々知ることが重要となる。この点を考慮した従来の観測システムとして、出願人は本提案の前提技術となる稠密水位観測システムを提案している(非特許文献1参照)。
【0003】
稠密水位観測システムは、面的に広く多点に、あわせて時間的にもきめ細かい観測が必要とされている水位観測システムである。このシステムでは、水位を観測するセンシングデバイスとして、圧力ゲージあるいは超音波反射時間等を用いて水位を計測してその信号を出力、記録あるいは通信器を付加した水位計を用い、アナログ信号として出力される水位信号をもとに、デジタル信号化に変換し、所定の通信網を利用したデータの送信を行っている。
【0004】
水位の観測を面的に拡大して行う地点は、自然の中であり、商用電源の利用が不可能な場合が一般的である。従って蓄電池とソーラーパネルあるいは小型の風力発電機等より構成されるオンサイト電源で作動する装置とした。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】株式会社東京建設コンサルタント、“新技術情報提供システム登録:稠密水位観測システム”、[online]、平成22年3月30日、国土交通省、[平成23年9月5日検索]インターネット<http://www.netis.mlit.go.jp/NetisRev/Search/NtDetail1.asp?REG_NO=QS-090039&TabType=2&nt=nt>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した稠密水位観測システムでは、水位を時々刻々知るためには、水位の計測とあわせて必要な距離のデータ伝送が可能な空中線出力を保持した通信装置も連続作動させることとなる。そのために、一定の電源が必要である。また、想定される高水の継続時間は、長い場合は1週間も続き、その期間連続作動を可能とする電源を用意することは、電源設備が過大となるおそれがある。
【0007】
また、自然現象である高水の出現は不確実であり、1年のうちのごく短期間である。しかし、この期間においては、高密度の観測が必要となる。このような水位観測の目的を達成するためには、計測装置、通信装置が低水時においても正常に作動しているか監視することも重要である。また、低水時観測では、間欠時間計測となるため、1年を通じて安定した観測が可能な電力供給が求められている。
【0008】
さらに、稠密水位観測システムにおいて、単に一定時間毎の間欠的時間制御ではなく、水位及び水象の状態を踏まえ、あわせて自己の保有している電源の残容量等をパラメータとして作動を制御することでシステムの高機能化を果たすことが求められている。そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、各種流況時の観測による方法で行って得られた、水象観測をもとにしたとなる水象パラメータのアルゴリズムを搭載し、省電力制御機能を有し、スマートセンサ化を図った稠密水位観測システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、多点に設置された複数の水位検知部と、該各水位検知部からの水位データの収集と、計測器データとを収集し、前記水位データをもとに設定水位との比較を行い、前記設定水位以下の場合に、水位データ平均値を出力し、前記設定水位を越えた水位の場合に、水象パラメータを算出し、該水象データと前記水位データ平均値とを出力し、前記水位データと前記計測器データとをもとにシステムの作動情報の確認・制御を行う演算制御部と、前記水位データ平均値、水象パラメータとを前記演算制御部によって調整されたデータ量で出力可能な出力部と、前記演算制御部を介してシステムに電力供給する電源とを備えたことを特徴とする。
【0010】
前記水象パラメータは、計測対象の水象状態における、前記水位データを統計処理して得られ、該水象パラメータと前記水位データとを用いて前記設定水位の判定を行うことが好ましい。
【0011】
前記電源は、蓄電池であり、該蓄電池の残容量が前記演算制御部に、前記計測器データの一つとして収集されるようにすることが好ましい。
【0012】
前記演算制御部での計測機能の制御パラメータに、前記水位データ、水象パラメータ、蓄電器残容量を含むようにすることが好ましい。
【0013】
前記演算制御部は、スマートセンサ化され、該スマートセンサでシステムの水位データ、水象パラメータ、機能制御を行うようにすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の稠密水位観測システムの構成の関係を示した概略ブロック構成図。
【図2】図1に示した演算・制御部の作動制御内容の概要を示したブロック図。
【図3】演算・制御部の確認・制御フローの概要を示したフローチャート。
【図4】水象パラメータ(標準偏差、log分散)と流速との関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の稠密水位観測システムの実施するための形態として、以下の実施例について添付図面を参照して説明する。
【実施例】
【0016】
図1は、スマートセンサ化を図った本発明の稠密水位観測システムの全体構成を示した模式構成図である。稠密水位観測システムは、同図に示したように、後述するように、水位の計測対象点に設置された水位検出部1からの信号処理を行うA/D変換部11、演算・制御部13、所定の既存電話回線等を利用してインターネット20に接続する出力部15とを備え、スマートセンサとしての機能を有する計測本体部10を備えている。
【0017】
本稠密水位観測システムでは、水位検出部1としての水位センサは、対象となる計測範囲に多点(たとえば50点程度)に配置され、各計測位置からの水位データを収集し、それらのデータ群から所定の情報を得るようになっている。水位センサの仕様としては、本実施例では、半導体圧力センサが使用され、所定の計測間隔(初期値設定)での各点での水位データが計測本体部において収集される。
【0018】
計測本体部10は、水位計測結果(アナログ信号)を変換したディジタル信号からなる水位情報と、計測器内温度、蓄電池残容量とを入力情報として収集し、水位をもとに水象パラメータ(後述する)の算出、以後の計測のための各種計測機能制御(図2参照)を行うことができ、一連の演算、制御をスマートセンサとしての機能を発揮して実現できる。さらに、出力部15は、計測本体部10で所定間隔で計測された水位データを、インターネット20等のネットワーク上の所定のWebサイトにアップロード可能な端末として機能する。これらの装置は、オンサイト電源としての蓄電池17(たとえばバッテリー(DC12V))で稼働できるように設計されている。
【0019】
一方、計測された水位データは、事務所等のパソコン21からインターネット20上の所定のWebサイトにアクセスすることにより、所定のフォーム(様式)に整理された計測情報として得ることができる。必要に応じたデータ加工もダウンロード後に、パソコン21において適宜行える。
【0020】
図2は、スマートセンサとして機能する計測本体部10における演算・制御部13の作動制御の概要を示したブロック図である。図3は、その作動制御フローを示したフローチャートである。両図を参照して、本発明の稠密水位観測システムにおいて、水象情報の判定、機器稼働情報の判定、設定を行うスマートセンサ化手法について説明する。
【0021】
[水象パラメータの算定]
水象パラメータとは、水位計測を行った際の水象状態を判定(推定)するために、水位値を統計処理して得られた数値化データである。主に河川等において、降雨等の高水時水位の情報(データ)を時々刻々と伝達するためには、変化する水位の計測とあわせて、刻々と変化する水象の状態(水位変化、流速、流砂状態、河床状態等)が、数値化データとして把握できるような水象状態の量定情報(水象パラメータ)を得ることが好ましい。そのために、本発明の稠密水位観測システムでは、システムの作動のための制御情報として、水位データによる判定を経て得られた水象情報まで伝達可能な水位計測が行える計測装置としてのスマートセンサ化を図った。この水象パラメータの数値化については、後に表−2,図4を参照して説明する。
【0022】
[計測機能制御項目]
本発明の稠密水位観測システムのように、計測装置を用いて水位計測等を連続的に確実に実現させるためには、たとえば、以下のような要請に応える必要がある。
(1)計測装置作動の電源消費量と放電量を極力少なくすること。
(2)電力消費の大きい通信装置の空中線出力等を極力低くし、かつ送信時間を短くする。
(3)オンサイト発電の利用を考慮する。
(4)充電効率が高く、自己放電の少ない蓄電池の選定と自己放電の最小化を図る。
そこで、本発明では、計測本体部10の演算・制御部13が、その計測機能制御として、図2,表−1に示した項目について設定・変更が行える機能を有するスマートセンサ化を図った。
【0023】
[表1]

【0024】
(計測レベルの判定)
従来の水位計では瞬時値を計測していたが、本発明の稠密水位観測システムでは、当初設定において、1データ/0.1秒で15秒間の計測時間帯に150データを水位計で収集するように設定されている。この水位データ(平均値)と、水象状態を数値化した水象パラメータとを判定要素のパラメータとして、計測レベルの判定、制御変更を行う。たとえば、低水位の場合には水位(平均値)データの送信のみを送信し、水象パラメータは送信しないようにできる。すなわち、水位(平均値)データの送信量の変更、送信データ種類(水位データ、水象パラメータ、装置温度、蓄電池情報)の選択等が適宜行われる。
【0025】
(計測間隔の設定)
本発明の稠密水位観測システムでは、当初設定において、毎正時あるいは10分間隔に設定することができるが、水位計測結果が高水位である場合には計測間隔を細かくしたり、蓄電池充電状況(残容量)の確認により、所定計測時間にわたりデータ出力が可能となるような計測間隔に再設定することもできる。
【0026】
(出力頻度の設定)・(省電源化モードの作動設定)・(外部電源の作動設定)
計測値の出力には大きな電力を必要とするため、水位、水象パラメータを参照するとともに、蓄電池情報(残容量)を把握して、データの出力頻度を設定する。また、計測器内の温度が低温となると、蓄電池の作動効率が低下するため、温度も省電源化の要素として採用する。さらに装置の連続運用を実現するために、メイン電源である蓄電池の残容量等の情報に加え、サブ電源として、太陽電池(ソーラーパネル)等を併用することにより計測機器の連続作動を実現することが好ましい。
【0027】
[稠密水位観測システムの作動フロー]
ここで、本発明の稠密水位観測システムの一実施例としてのシステム作動フローについて、図3を参照して説明する。
水位計測対象位置に、図1に示した水位検出部1を水没設置し、計測器本体10、蓄電池17を、近接した浸水しない陸上位置に据え付け、所定の配線を行い、初期設定を行った後にスイッチオンにより通電する。本実施例では、出力部15としては、インターネット接続可能な携帯電話を用いて、データを所定のサーバにアップさせることでデータ送信を図っている。なお、無線、専用電話回線等によるデータ送信を行うことも可能である(ステップ100)。
【0028】
まず、初期設定の計測間隔を毎正時としておくことにより、24回/日のデータ収集が行われる。そのタイミングは、計測内に内蔵された時計との時刻照合により行われる。正時になると、水位検出部1にて1データ/0.1秒で15秒間の計測が行われ、水位データと機器稼働の制御情報としての関連データの収集を行う(ステップ110,120)。この計測間隔は、10分間隔等の時間刻みでも、時刻を基準としてもどちらでも設定できることはいうまでもない。関連データとしては、計測器内温度、蓄電池残容量等がある。
【0029】
ここで、計測水位の平均値についての判定を行う(ステップ130)。すなわち、該当河川の水位が、通常水位(低水時)であるか、高水時であるかの判定を行う。この判定境界は、対象河川の流域状況によって異なるが、たとえば水深0.5m以下を低水時、0.50mを上回る場合は高水時とする等の判定値を設定しておく。そして、その判定結果に応じて、例えば低水時では、収集した全データ(水位、環境データ等)のうち、水位(平均値)データのみを、出力部15を介してインターネット20の水位監視用Webサイトにアップロード(出力)するとともに、機器電源をスリープ状態として計測待機モードとし、省電源化を図る(ステップ140,150)。出力方法としては、インターネット等のネットワークへのアクセス以外に、光ケーブル等の有線によるデータ転送、携帯電話、衛星電話によるデータ転送を行うことも好ましい。
【0030】
その後、演算・制御部13において、水象パラメータを算定する(ステップ160)。この水象パラメータは、湖沼の状態、河川流域の状態等の水象(例えば流速、水位変化、流砂状態等)の水象状態を、計測水位の統計処理により、所定の対応関係を得たものである。たとえば、表−2は対象となる観測対象での水象状態に対する水象パラメータとして、平均水位、水位の標準偏差(分散でも可)、log分散、最大値、最小値、歪度、尖度等を算定した結果である。このうち、図4各図に示したように、一例として標準偏差、log分散を水象パラメータとして使用することで、制御データとしての有意性を得ることができる。具体的には、本観測システムとしては、前回の計測水位との変動率、水象パラメータを制御データとして使用するために、流域の変化の監視情報として、これらのデータを上記出力方法と同様に出力する(ステップ170)。
【0031】
[表2]

【0032】
さらに、本観測システムの連続運用のために、作動情報の確認・制御を行う(ステップ180)。本発明の稠密水位観測システムでは、これらの演算・制御を計測データの取り扱いから一貫して行うようにスマートセンサ化して点に特徴がある。それぞれの確認制御内容は、図2を参照した内容である。
【0033】
これら確認制御の判定により、出力データの増減等を行うことにより、装置への負荷を軽減し、強いてはシステムのコンパクト化を図るために蓄電池の小型化、外部電源の併用等を実施することが好ましい。
【0034】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0035】
1 水位検出部
10 計測器本体
13 演算・制御部
15 出力部
17 蓄電池
20 インターネット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多点に設置された複数の水位検知部と、
該各水位検知部からの水位データの収集と、計測器データとを収集し、前記水位データをもとに設定水位との比較を行い、
前記設定水位以下の場合に、水位データ平均値を出力し、
前記設定水位を越えた水位の場合に、水象パラメータを算出し、該水象データと前記水位データ平均値とを出力し、
前記水位データと、前記計測器データとをもとにシステムの作動情報の確認・制御を行う演算制御部と、
前記水位データ平均値、水象パラメータとを前記演算制御部によって調整されたデータ量で出力可能な出力部と、
前記演算制御部を介してシステムに電力供給する電源とを備えたことを特徴とする稠密水位観測システム。
【請求項2】
前記水象パラメータは、計測対象の水象状態における、前記水位データを統計処理して得られ、該水象パラメータと前記水位データとを用いて前記設定水位の判定を行うようにした請求項1に記載の稠密水位観測システム。
【請求項3】
前記電源は、蓄電池であり、該蓄電池の残容量が前記演算制御部に、前記計測器データの一つとして収集される請求項1に記載の稠密水位観測システム。
【請求項4】
前記演算制御部での計測機能の制御パラメータに、前記水位データ、水象パラメータ、蓄電器残容量が含まれる請求項1に記載の稠密水位観測システム。
【請求項5】
前記演算制御部は、スマートセンサ化され、該スマートセンサでシステムの水位データ、水象パラメータ、機能制御が行われる請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の稠密水位観測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−108870(P2013−108870A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254790(P2011−254790)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(597052330)株式会社 東京建設コンサルタント (8)
【Fターム(参考)】