説明

種交差性の判定方法及びその判定方法を使用したアッセイキット

【課題】被験動物種に対する内因性生理活性物質の種交差性の判定を、従来法よりも簡易、かつ、高感度に行うこと。
【解決手段】本発明は、被験動物種に対する内因性生理活性物質の種交差性を判定する判定方法であって、内因性生理活性物質によって転写活性が亢進する転写調節領域の下流に動作可能にレポーター遺伝子が組み込まれたレポータープラスミドを、上記被験動物種を由来とする細胞に導入して形質転換細胞を得る形質転換ステップと、上記形質転換細胞を培養している培地に上記内因性生理活性物質を加え、上記形質転換細胞を上記内因性生理活性物質で刺激する刺激ステップと、上記レポーター遺伝子の転写活性の亢進が認められた場合に、上記内因性生理活性物質は上記被験動物種に交差すると判定し、上記レポーター遺伝子の転写活性の亢進が認められなかった場合に、上記内因性生理活性物質は上記被験動物種に交差しないと判定する判定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種交差性の判定方法及びその判定方法を使用したアッセイキットに関する。
【背景技術】
【0002】
内因性生理活性物質にはしばしば種特異性が認められる。生理活性物質由来の医薬品(以下、バイオ医薬品)の創薬過程においては、この種特異性をできるだけ回避できるような非臨床試験が行われている。例えば、ヒトタンパク質を生体内に発現させたトランスジェニック動物を利用したin vivo薬効・薬理試験や、多種の実験動物を用いた安全性(毒性)試験などが挙げられる。ただし、これらの試験を行うためには膨大な時間を要し、医薬品開発を遅延させる要因になっているとも言える。
【0003】
一方、いくつかの生理活性物質は、その由来と異なる動物種において種交差性を示す。例えば、ヒトインターフェロンは、異種の様々な動物細胞において活性を有することが判明している(非特許文献1及び2)。また、GM‐CSFは、ヒト・マウス間では種交差性を有しないが(非特許文献3)、ヒトGM‐CSFは、イヌ及びネコに対しては種交差性を有し、その個体や抽出細胞が、ヒトGM‐CSFのin vivo試験やin vitro試験に用いられている(非特許文献4及び5)。このような種交差性により、適切な動物種、つまり、被験物質であるバイオ医薬品の候補物質が種交差性を示す動物種を正しく選択すれば、種特異性を持つ被験物質であっても信頼性の高い非臨床試験を行うことが可能となる。
【0004】
また現在、動物用バイオ医薬品は種固有のものが開発されている。しかし、ヒト用天然型インターフェロンα製剤(インターフェロンα林原(登録商標):株式会社林原生物化学研究所)が、動物用製剤(ビムロン(登録商標):バイオベット株式会社)として子牛のロタウイルス感染症に対し適応承認を取得したように、種交差性を有する医薬品も存在する。よって、種交差性を示す動物種を正しく選択すれば、現在認可されている医薬品を、固有種以外に拡大して適用できる可能性が高い。
【0005】
被験物質に対して種交差性を有する動物種とは、被験物質の標的部位の構造を保持した機能性タンパク質を発現しており、被験物質によって、比較対象となる動物種で示される生物反応と同様の反応を示す動物種である。被験物質によって引き起こされる生物反応を検討する手段として、ヒトを含む動物種由来培養細胞を利用したin vitro試験は、in vivo試験と比較し、試験時間の短縮、実験操作の簡便性、動物倫理問題の回避などが期待され、非常に有用である。
【0006】
生物反応を評価する指標としては、被験物質によって誘導される細胞内シグナル伝達経路の活性化や生理的応答が挙げられる。前者を評価するアッセイ方法としては、活性化下流分子を検出するウエスタンブロット法や下流遺伝子発現を測定する定量PCR法などが、後者を評価するアッセイ方法としては、細胞増殖試験、細胞障害試験及び生体異物に対する抗活性評価試験などが従来法として用いられてきた。
【0007】
例えば、特許文献1〜3では、VSウイルスに対する抗ウイルス活性評価試験を用い、ウシ由来インターフェロン調製物が、ウシ細胞に対する活性に比較して、ヒト細胞に対する抗ウイルス活性を明らかに欠如することを報告している。また、非特許文献3では、メチルチアゾールテトラゾリウム(MTT)を用いた細胞増殖試験を用い、ヒト細胞又はマウス細胞に対するGM‐CSF変異体の種交差性を評価している。
【0008】
近年、生物反応を評価する新たなアッセイ方法として、レポーター遺伝子アッセイが提唱された。このアッセイ方法では、被験物質によって発現が誘導される遺伝子の転写調節領域を上流に配したレポーター遺伝子を宿主細胞に導入した形質転換細胞が用いられる。レポーター遺伝子の発現レベルを指標として評価するこのアッセイ方法は、従来法と比較して測定が簡便であり、かつ、感度にも優れている。
【0009】
このアッセイ方法は、生理活性物質の定量や、生理活性物質作動薬及び生理活性物質拮抗薬のスクリーニングに応用されている。特許文献4によると、2’,5’‐オリゴアデニル酸合成酵素遺伝子の転写調節領域とその下流のレポーター遺伝子とを導入した形質転換細胞を用いたレポーター遺伝子アッセイによって、インターフェロンの定量及びインターフェロン様物質又はインターフェロン作用増強物質のスクリーニングが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6‐315385号公報
【特許文献2】特開平8‐187088号公報
【特許文献3】特開平9‐48799号公報
【特許文献4】特開平11‐113569号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Stewart、Interferon system 第2版、1981年、Springer、p.135−145第2版
【非特許文献2】Huら、Journal of Interferon & Cytokine Research、1995年、第15巻、p.231‐124
【非特許文献3】Armenら、Journal of Biological Chemistry、1991年、第266巻、p.13804‐13810
【非特許文献4】Hoggeら、Cancer Gene Therapy、1999年、第6巻、p.26‐36
【非特許文献5】Spragueら、Journal of Comparative Pathology、2005年、第133巻、p.136‐145
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の生物反応評価法を応用した種交差性評価は、実験操作が煩雑で時間を要し、また、感度が低いために得られた知見の信頼性に欠けるという問題点があった。細胞増殖を指標とした場合には、その評価感度は用いる細胞の増殖速度の影響を受ける。ウエスタンブロット法を用いた場合には、細胞の溶解、SDS−PAGE、転写など、煩雑な操作が必要となる上、評価感度は使用する抗体の力価に依存してしまう。定量PCR法による下流遺伝子発現の測定では、上記2種のアッセイ方法と比較して感度は良好であるものの、mRNAの抽出、逆転写PCR法によるcDNA調製など、操作手順が多く時間を要するのが現状である。
【0013】
そこで本発明は、被験動物種に対する内因性生理活性物質の種交差性の判定を、従来法よりも簡易、かつ、高感度に行うことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、内因性生理活性物質の種交差性の評価にレポーターアッセイの手法を応用することにより、従来法よりも簡易、かつ、高感度な判定方法を見出した。
【0015】
すなわち、本発明は、被験動物種に対する内因性生理活性物質の種交差性を判定する判定方法であって、内因性生理活性物質によって転写活性が亢進する転写調節領域の下流に動作可能にレポーター遺伝子が組み込まれたレポータープラスミドを、上記被験動物種を由来とする細胞に導入して形質転換細胞を得る形質転換ステップと、上記形質転換細胞を培養している培地に上記内因性生理活性物質を加え、上記形質転換細胞を上記内因性生理活性物質で刺激する刺激ステップと、上記レポーター遺伝子の転写活性の亢進が認められた場合に、上記内因性生理活性物質は上記被験動物種に交差すると判定し、上記レポーター遺伝子の転写活性の亢進が認められなかった場合に、上記内因性生理活性物質は上記被験動物種に交差しないと判定する判定方法を提供する。
【0016】
上記内因性生理活性物質は、上記被験動物種とは異なる動物種由来であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、内因性生理活性物質と、該内因性生理活性物質によって転写活性が亢進する転写調節領域の下流に動作可能にレポーター遺伝子が組み込まれたレポータープラスミドと、を備え、上記の判定方法を使用する、被験動物種に対する上記内因性生理活性物質の種交差性を判定するためのアッセイキットを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被験動物種に対する内因性生理活性物質の種交差性を判定するにおいて、レポーターアッセイの手法を応用することができ、煩雑な操作過程を必要としていた従来法と比較して、簡易に、かつ、高感度に種交差性を評価することができる。
【0019】
また、本発明は、バイオ医薬品の非臨床試験に適した、被験物質に種交差性を持つ動物種を選択するためのin vitro試験法を提供するものである。
また、本発明は、既存医薬品であるバイオ医薬品の固有種から他動物種への適用可否を予測するためのin vitro試験法を提供するものである。
【0020】
また、本発明での判定方法は定量性を有するため、被験動物種に対する内因性生理活性物質の種交差性を定量的に評価することが可能となる。すなわち、本発明によれば、in vitro試験で得られた結果を、ヒトを含む動物種を用いたin vivo試験へ外挿する際、その試験同士の互換性、例えば、適切な投与量等を事前に予測することができる。
【0021】
さらに、本発明の判定方法を応用すると、生理活性物質様の作動性作用を示す低分子化合物(以下、アゴニスト)及び生理活性物質に対して拮抗性作用を示す低分子化合物(以下、アンタゴニスト)の被験動物種に対する種交差性の評価を行うことできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ヒト、ラット及びマウスインターフェロンα及びβの種交差性をヒト由来FL細胞及びラット由来XC細胞から樹立した、MxA遺伝子安定発現細胞株にて評価したグラフである。グラフの縦軸は、化学発光値(2例の平均値±標準偏差)、横軸は、添加したインターフェロン濃度である。
【図2】図1にて示した化学発光値をもとに作成した、用量・作用曲線である。グラフの縦軸は、最大反応に対するパーセンテージ(2例の平均値)、横軸は、添加したインターフェロン濃度である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のアッセイ方法は、生理活性物質によって発現が誘導される遺伝子の、転写調節領域を上流に配したレポーター遺伝子を、ヒトを含む動物種由来の宿主細胞に導入することによって得られる形質転換細胞を用いたレポーター遺伝子アッセイ方法を応用している。
本発明における、生理活性物質によって発現が誘導される遺伝子の転写調節領域とは、被験物質の特性に適したものであれば特に限定されない。当然、その遺伝子の転写活性化が、被験物質の活性を反映している必要がある。また、該転写調節領域は宿主細胞と由来動物種を同一にすることが好ましいが、異動物種由来の転写調節領域を用いても同等の反応性が担保される場合は、その限りではない。また、転写調節領域の由来動物種としては、ヒトを含む霊長類、げっ歯類、鳥類、牛、犬、馬、猫、山羊、羊、魚類及び豚科の動物を包含し、試験の目的に応じて上記以外の動物種にまで拡張できる。
【0024】
本発明におけるレポーター遺伝子は特に限定されないが、ルシフェラーゼ遺伝子など、感度が高いものが好ましい。
【0025】
本発明における生理活性物質が誘導する遺伝子の転写調節領域及びレポーター遺伝子を含むベクター形態としては、それらに限定されるわけではないが、プラスミド、ファージ及びウイルスが含まれる。
【0026】
本発明における、生理活性物質によって発現が誘導される遺伝子の転写調節領域をコードする遺伝子は、通常の遺伝子組換え技術により構築することができる。例えば、既知のアミノ酸配列及び塩基配列情報等をもとに設計・合成したプライマーやプローブを用い、PCR法やハイブリダイズ法によりcDNAライブラリーをスクリーニングして得ることができる。これらを適当なレポーター遺伝子の上流に配置されるようにベクター組換え及び必要に応じてパッケージングを行うことにより、アッセイに用いるプラスミド、ファージ及びウイルスが構築される。
【0027】
本発明における宿主細胞は特に限定されないが、遺伝子導入効率が良く、かつ安定した増殖を維持できる細胞が好ましい。また、宿主細胞の由来動物種としては、ヒトを含む霊長類、げっ歯類、鳥類、牛、犬、馬、猫、山羊、羊、魚類及び豚科の動物を包含し、試験の目的に応じて上記以外の動物種にまで拡張できる。
【0028】
本発明における形質転換細胞は、通常の技術に基づき作製することができる。安定したアッセイ系構築のために、遺伝子安定発現細胞株の樹立を行うことが好ましい。
【0029】
本発明において、被験物質となる生理活性物質、生理活性物質様物質、アゴニスト及びアンタゴニストは、形質転換細胞に接触させる。また、その由来動物種又は作動・拮抗標的となる生理活性物質の由来動物種として、ヒトを含む霊長類、げっ歯類、鳥類、牛、犬、馬、猫、山羊、羊、魚類及び豚科の動物を包含し、試験の目的に応じて上記以外の動物種にまで拡張できる。
【0030】
本発明において被験物質の薬力学的活性を評価する場合には、レポーター遺伝子の発現レベルを適当な方法で測定する。レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子の場合には、培養後の細胞を溶解した後、ルシフェラーゼ基質を添加し、ルミノメーターを用いて化学発光量を測定することにより、発現レベルを測定できる。
【0031】
本発明における被験物質が生理活性物質自身の場合、その種交差性を評価する対象となる形質転換細胞に、形質転換細胞と同一動物種由来の生理活性物質又は形質転換細胞と異なる動物種由来の被験物質を接触させ、レポーター遺伝子アッセイによってそれぞれの薬力学的活性を測定する。
【0032】
生理活性物質の種交差性評価は、用量反応曲線を作成して行うことが好ましい。形質転換細胞に、同一動物種由来の生理活性物質を接触させたアッセイにおいて、用量反応曲線が作成されることを確認する。その条件下、形質転換細胞と異なる動物種由来の被験物質を接触させたアッセイにおいて、用量反応曲線が作成された場合は種交差性ありと判断され、曲線が作成されない場合は種交差性なしと判断される。
【0033】
生理活性物質の種交差性を定量的に評価するためには、形質転換細胞と同一の動物種由来の生理活性物質を接触させたアッセイにおいて作成された用量反応曲線と、形質転換細胞と異なる動物種由来の被験物質を接触させたアッセイにおいて作成された用量反応曲線とを比較し、相対的に評価する。評価における限定項目としては、最大反応及び50%有効量が代表的なものとして挙げられるが、試験の特性に応じて適宜項目を選択することが可能である。
【0034】
本発明における被験物質が生理活性物質様物質又はアゴニストの場合、その種交差性を評価する対象となる形質転換細胞に、形質転換細胞と同一動物種由来の生理活性物質又は被験物質を接触させ、レポーター遺伝子アッセイによってそれぞれの薬力学的活性を測定する。
【0035】
生理活性物質様物質又はアゴニストの種交差性評価は、用量反応曲線を作成して行うことが好ましい。形質転換細胞に、同一動物種由来の生理活性物質を接触させたアッセイにおいて、用量反応曲線が作成されることを確認する。その条件下、被験物質を接触させたアッセイにおいて、用量反応曲線が作成された場合は種交差性ありと判断され、曲線が作成されない場合は種交差性なしと判断される。
【0036】
生理活性物質様物質又はアゴニストの種交差性を定量的に評価するためには、2種以上の動物種由来形質転換細胞を用いたアッセイを行う。まず1種の形質転換細胞について、形質転換細胞と同一の動物種由来の生理活性物質を接触させたアッセイにおいて作成された用量反応曲線と、被験物質を接触させたアッセイにおいて作成された用量反応曲線とを比較し、生理活性物質に対する被験物質の相対的な薬力学的活性を導出する。さらに、異なる形質転換細胞を用いたアッセイを行い、形質転換細胞と同一の動物種由来の生理活性物質を接触させたアッセイにおいて作成された用量反応曲線と、被験物質を接触させたアッセイにおいて作成された用量反応曲線とを比較し、生理活性物質に対する被験物質の相対的な薬力学的活性を導出する。両相対的薬力学的活性を比較することによって生理活性物質様物質又はアゴニストの種交差性を評価する。評価における限定項目としては、最大反応及び50%有効量が代表的なものとして挙げられるが、試験の特性に応じて適宜項目を選択することが可能である。
【0037】
本発明における被験物質がアンタゴニストの場合、その種交差性を評価する対象となる形質転換細胞に、形質転換細胞と同一動物種由来の生理活性物質を単独で又は被験物質との共存において細胞に接触させ、レポーター遺伝子アッセイによってそれぞれの薬力学的活性を測定する。
【0038】
アンタゴニストの種交差性評価は、用量反応曲線を作成して行うことが好ましい。形質転換細胞に、同一動物種由来の生理活性物質を接触させたアッセイにおいて、用量反応曲線が作成されることを確認する。得られた用量反応曲線と比較し、生理活性物質と被験物質とを共接触させたアッセイにおいて得られた用量反応曲線が被験物質濃度軸方向へシフトした場合は種交差性ありと判断し、シフトしない場合は種交差性なしと判断する。
【0039】
アンタゴニストの種交差性を定量的に評価するためには、2種以上の動物種由来形質転換細胞を用いたアッセイを行う。まず1種の形質転換細胞について、形質転換細胞と同一の動物種由来の生理活性物質を接触させたアッセイにおいて作成された用量反応曲線と、生理活性物質と被験物質とを共接触させたアッセイにおいて得られた用量反応曲線とを比較し、生理活性物質に対する被験物質の薬力学的拮抗活性を導出する。さらに、異なる形質転換細胞を用いたアッセイを行い、形質転換細胞と同一の動物種由来の生理活性物質を接触させたアッセイにおいて作成された用量反応曲線と、生理活性物質と被験物質とを共接触させたアッセイにおいて得られた用量反応曲線とを比較し、生理活性物質に対する被験物質の薬力学的拮抗活性を導出する。両薬力学的拮抗活性を比較することによってアンタゴニストの種交差性を評価する。評価における限定項目としては、50%有効量が代表的なものとして挙げられるが、試験の特性に応じて適宜項目を選択することが可能である。
【実施例】
【0040】
(発現プラスミドの作製)
インターフェロン誘導遺伝子、ヒト由来Myxovirus resistance protein A(MxA)遺伝子の転写調節領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を配置した塩基配列を、ベクターpGL3:Basic(Promega)に組み込み、発現プラスミド(以下、pMxA−Lucと表記する)を作製した。
【0041】
(宿主細胞へのプラスミドの導入)
pMxA−Lucをリポフェクション法によりヒト羊膜由来株化細胞FL(自社保有)及びラット上皮細胞様株化細胞XC(ヒューマンサイエンス研修資源バンク)に遺伝子導入した。
【0042】
(インターフェロンα及びβのMxA遺伝子誘導活性評価)
培養培地を用い、FL細胞及びXC細胞を2.0×10 cells/200 μL/ウェルの条件にて96 ウェル培養プレートに播種し、37℃、5% COにて一晩培養した。翌日、FL細胞にヒトインターフェロンα(スミフェロン(登録商標):大日本住友製薬)又はヒトインターフェロンβ(フエロン(登録商標):東レ)を、XC細胞にラットインターフェロンα又はラットインターフェロンβ(ともにPBL社)を所定の濃度含むよう調製した培養培地に置換し、さらに同条件にて24時間培養した。その後、培養培地を除去し、ルシフェラーゼ基質(Steady−Glo:Promega)を添加した。化学発光値はFusionαによって測定した。インターフェロン未処置細胞播種ウェルと比較し、各インターフェロン処置細胞播種ウェルにて化学発光値の増大が検出され、構築したレポーター遺伝子アッセイ系が有用であることが確認された。
【0043】
(遺伝子安定発現細胞株の樹立)
pMxA−Lucとネオマイシン耐性遺伝子を含むベクターpcDNA3.1(Invitrogen)をリポフェクション法によりFL細胞及びXC細胞に共遺伝子導入した。遺伝子導入に用いるpcDNA3.1の量は、pMxA−Lucの10分の1量とした。ネオマイシン(0.5 mg/mL)を含む細胞培養液を用い、1.0×10 cells /10 mL/培養プレート(直径10 cm)の条件にて播種した。コロニーが形成されるまで37℃、5% COにて培養した。シングルコロニーを回収し、同条件にて培養して、その増殖を確認した。
【0044】
(遺伝子安定発現細胞株を用いたインターフェロンα及びβのMxA遺伝子誘導活性の評価)
培養培地を用い、樹立した遺伝子安定発現FL細胞及びXC細胞を2.0×10 cells/200 μL/ウェルの条件にて96 ウェル培養プレートに播種し、37℃、5% COにて一晩培養した。翌日、ヒトインターフェロンα(スミフェロン)、ラットインターフェロンα、マウスインターフェロンα(ともにPBL社)、ヒトインターフェロンβ(フエロン)、ラットインターフェロンβ(PBL社)又はマウスインターフェロンβ(自社精製)を所定の濃度含むよう調製した培養培地に置換し、さらに同条件にて24時間培養した。その後、培養培地を除去し、ルシフェラーゼ基質(Steady−Glo:Promega)を添加した。化学発光値はFusionαによって測定した(図1)。
【0045】
(用量・反応曲線の解析)
遺伝子安定発現細胞株を用いたインターフェロンα及びβのMxA遺伝子誘導活性評価において得られた化学発光値を用い、GraphPad Prism(version.4.0)解析ソフトによって用量・反応曲線を作成した(図2)。結果、結果、FL細胞においてはマウスインターフェロンα及びラットインターフェロンβの用量・反応曲線が、また、XC細胞においてはヒトインターフェロンα、マウスインターフェロンα及びマウスインターフェロンβの用量・反応曲線が作成可能であり、マウスインターフェロンα及びラットインターフェロンβはヒトに対して、ヒトインターフェロンα、マウスインターフェロンα及びマウスインターフェロンβはラットに対して種交差性を示すことが明らかとなった(図1)。このことから、マウスインターフェロンα及びラットインターフェロンβがヒトに対しても薬力学的活性を持つ可能性が、また、ヒトインターフェロンα、マウスインターフェロンα及びマウスインターフェロンβがラットに対しても薬力学的活性を持つ可能性が示唆された。また、今回評価したインターフェロンのうち、医薬品であるヒトインターフェロンαの非臨床試験に用いる動物種として、ラットの有用性が予測された。
【0046】
(定量的種交差性評価)
作成した用量・反応曲線から、GraphPad Prism解析ソフトによって50%有効量を算出した(表1)。表1は、図2にて作成した用量・作用曲線をもとに算出した、50%有効量(単位:U/mL)である。背景が灰色のセルは、用いた形質転換細胞とインターフェロンが同種である場合の50%有効量である。
【0047】
【表1】

【0048】
XC細胞に対するヒトインターフェロンαの50%有効量とラットインターフェロンαの50%有効量とを比較すると、ヒトインターフェロンαに対するラットの反応性は、ヒトよりも2−3オーダー程度劣ることが明らかとなった。よって、ヒトインターフェロンαの非臨床試験にラットを用いる場合、同等の効果が期待される体重あたりの投与量は、ヒトに対してラットは100−1000倍必要であることが予測された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、バイオ医薬品候補物質の非臨床試験に適した、被験物質に種交差性を持つ動物種を選択するためのin vitro試験法として利用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験動物種に対する内因性生理活性物質の種交差性を判定する判定方法であって、
前記内因性生理活性物質によって転写活性が亢進する転写調節領域の下流に動作可能にレポーター遺伝子が組み込まれたレポータープラスミドを、前記被験動物種を由来とする細胞に導入して形質転換細胞を得る形質転換ステップと、
前記形質転換細胞を培養している培地に前記内因性生理活性物質を加え、前記形質転換細胞を前記内因性生理活性物質で刺激する刺激ステップと、
前記レポーター遺伝子の転写活性の亢進が認められた場合に、前記内因性生理活性物質は前記被験動物種に交差すると判定し、前記レポーター遺伝子の転写活性の亢進が認められなかった場合に、前記内因性生理活性物質は前記被験動物種に交差しないと判定する、
判定方法。
【請求項2】
前記内因性生理活性物質は、前記被験動物種とは異なる動物種由来である、請求項1記載の判定方法。
【請求項3】
内因性生理活性物質と、該内因性生理活性物質によって転写活性が亢進する転写調節領域の下流に動作可能にレポーター遺伝子が組み込まれたレポータープラスミドと、を備え、
請求項1又は2記載の判定方法を使用する、
被験動物種に対する前記内因性生理活性物質の種交差性を判定するためのアッセイキット。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−227030(P2010−227030A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78975(P2009−78975)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】