説明

種子処理剤及び植物保護方法

【課題】植物病害に対して優れた防除効力を有する種子処理剤、及び植物病害からの植物保護方法を提供する。
【解決手段】式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物を有効成分として含有する種子処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種子処理剤、及び植物保護方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、殺菌剤の有効成分として、α−置換フェニル酢酸化合物(例えば、特許文献1及び2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第95/27693号パンフレット
【特許文献2】国際公開第96/07633号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、植物病害に対して優れた防除効力を有する種子処理剤、及び植物病害からの植物保護方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、鋭意検討した結果、下記式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物を植物の種子に処理すると、植物を植物病害から保護できることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明は次の通りの構成をとるものである。
〔1〕 式(1)

で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物を有効成分として含有する種子処理剤。
〔2〕 〔1〕の式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物の有効量を植物の種子または球根に処理する植物病害からの植物保護方法。
〔3〕 前記植物が、イネ科植物、マメ科植物、アブラナ科植物、アカザ科植物、アオイ科植物またはナス科植物である〔2〕に記載の植物保護方法。
〔4〕 〔1〕の式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物の有効量が処理された植物の種子または球根。
〔5〕植物病害から植物を保護するための、〔1〕の式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物の種子処理または球根処理への使用。
【0006】
本発明に係る種子処理剤を植物の種子や球根に処理することにより、植物を植物病害から保護することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明に用いる式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物について説明する。式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物の態様としては、以下の通りである。
【0008】
式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物には、不斉炭素原子に基づく光学異性体等の立体異性体、互変異性体等の異性体が存在する。本発明においては、任意の異性体を単独または任意の異性体比で含有して使用することができる。
【0009】
式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物は、本発明においては、光学活性体またはラセミ体を使用することができる。
【0010】
式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物は、溶媒和物(例えば、水和物等)の形態をとることもある。本発明においては、溶媒和物の形態で使用することができる。
【0011】
式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物は、結晶形態及び/または非晶形態の形態をとることもある。本発明においては、任意の形態で使用することができる。
【0012】
式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物は、国際公開第95/27693号パンフレットに記載された化合物である。これらの化合物は、例えば、当該パンフレットに記載された方法によって合成することができる。
【0013】
本発明に係る種子処理剤は、例えば、以下の植物の種子または球根に対して使用することができる。なお、ここで球根とは、鱗茎、球茎、根茎、塊茎、塊根および担根体を意味する。
農作物:トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、ソルガム、ワタ、ダイズ、ピーナッツ、ソバ、テンサイ、ナタネ、ヒマワリ、サトウキビ、タバコ等;
野菜:ナス科野菜(ナス、トマト、ピーマン、トウガラシ、ジャガイモ等)、ウリ科野菜(キュウリ、カボチャ、ズッキーニ、スイカ、メロン、スカッシュ等)、アブラナ科野菜(ダイコン、カブ、セイヨウワサビ、コールラビ、ハクサイ、キャベツ、カラシナ、ブロッコリー、カリフラワー等)、キク科野菜(ゴボウ、シュンギク、アーティチョーク、レタス等)、ユリ科野菜(ネギ、タマネギ、ニンニク、アスパラガス)、セリ科野菜(ニンジン、パセリ、セロリ、アメリカボウフウ等)、アカザ科野菜(ホウレンソウ、フダンソウ等)、シソ科野菜(シソ、ミント、バジル等)、イチゴ、サツマイモ、ヤマノイモ、サトイモ等;
花卉;
観葉植物;
シバ;
果樹:仁果類(リンゴ、セイヨウナシ、ニホンナシ、カリン、マルメロ等)、核果類(モモ、スモモ、ネクタリン、ウメ、オウトウ、アンズ、プルーン等)、カンキツ類(ウンシュウミカン、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ等)、堅果類(クリ、クルミ、ハシバミ、アーモンド、ピスタチオ、カシューナッツ、マカダミアナッツ等)、液果類(ブルーベリー、クランベリー、ブラックベリー、ラズベリー等)、ブドウ、カキ、オリーブ、ビワ、バナナ、コーヒー、ナツメヤシ、ココヤシ等;
果樹以外の樹:チャ、クワ、花木、街路樹(トネリコ、カバノキ、ハナミズキ、ユーカリ、イチョウ、ライラック、カエデ、カシ、ポプラ、ハナズオウ、フウ、プラタナス、ケヤキ、クロベ、モミノキ、ツガ、ネズ、マツ、トウヒ、イチイ)等。
【0014】
上記植物とは、イソキサフルトール等のHPPD阻害剤、イマゼタピル、チフェンスルフロンメチル等のALS阻害剤、EPSP合成酵素阻害剤、グルタミン合成酵素阻害剤、ブロモキシニル、ジカンバ等の除草剤に対する耐性が、古典的な育種法、もしくは遺伝子組換え技術により付与された植物も含まれる。
古典的な育種法により耐性が付与された植物の例として、イマゼタピル等のイミダゾリノン系除草剤耐性のClearfield(登録商標)カノーラ、チフェンスルフロンメチル等のスルホニルウレア系ALS阻害型除草剤耐性のSTSダイズ等がある。また、遺伝子組換え技術により耐性が付与された植物の例として、グリホサートやグルホシネート耐性のトウモロコシ、ダイズ、ワタ、ナタネ品種等があり、RoundupReady(登録商標)、RoundupReady2(登録商標)、及びLibertyLink(登録商標)等の商品名ですでに販売されている。
【0015】
上記植物とは、遺伝子組換え技術を用いて、例えば、バチルス属で知られている選択的毒素等を合成する事が可能となった植物も含まれる。
この様な遺伝子組換え植物で発現される毒素として、バチルス・セレウスやバチルス・ポピリエ由来の殺虫性タンパク;バチルス・チューリンゲンシス由来のCry1Ab、Cry1Ac、Cry1F、Cry1Fa2、Cry2Ab、Cry3A、Cry3Bb1またはCry9C等のδ−エンドトキシン、VIP1、VIP2、VIP3またはVIP3A等の殺虫タンパク;線虫由来の殺虫タンパク;さそり毒素、クモ毒素、ハチ毒素または昆虫特異的神経毒素等動物によって産生される毒素;糸状菌類毒素;植物レクチン;アグルチニン;トリプシン阻害剤、セリンプロテアーゼ阻害剤、パタチン、シスタチン、パパイン阻害剤等のプロテアーゼ阻害剤;リシン、トウモロコシ−RIP、アブリン、ルフィン、サポリン、ブリオジン等のリボゾーム不活性化タンパク(RIP);3−ヒドロキシステロイドオキシダーゼ、エクジステロイド−UDP−グルコシルトランスフェラーゼ、コレステロールオキシダーゼ等のステロイド代謝酵素;エクダイソン阻害剤;HMG-COAリダクターゼ;ナトリウムチャネル、カルシウムチャネル阻害剤等のイオンチャネル阻害剤;幼若ホルモンエステラーゼ;利尿ホルモン受容体;スチルベンシンターゼ;ビベンジルシンターゼ;キチナーゼ;グルカナーゼ等が挙げられる。
またこの様な遺伝子組換え植物で発現される毒素として、Cry1Ab、Cry1Ac、Cry1F、Cry1Fa2、Cry2Ab、Cry3A、Cry3Bb1またはCry9C等のδ−エンドトキシンタンパク、VIP1、VIP2、VIP3またはVIP3A等の殺虫タンパクのハイブリッド毒素、一部を欠損した毒素、修飾された毒素も含まれる。ハイブリッド毒素は組換え技術を用いて、これらタンパクの異なるドメインの新しい組み合わせによって作り出される。一部を欠損した毒素としては、アミノ酸配列の一部を欠損したCry1Abが知られている。修飾された毒素としては、天然型の毒素のアミノ酸の1つまたは複数が置換されている。
これら毒素の例、及びこれら毒素を合成する事ができる組換え植物は、EP-A-0 374 753、WO 93/07278、WO 95/34656、EP-A-0 427 529、EP-A-451 878、WO03/052073等に記載されている。
これらの組換え植物に含まれる毒素は、特に、甲虫目害虫、双翅目害虫、鱗翅目害虫への耐性を植物へ付与する。
【0016】
また、1つもしくは複数の殺虫性の害虫抵抗性遺伝子を含み、1つまたは複数の毒素を発現する遺伝子組換え植物は既に知られており、いくつかのものは市販されている。これら遺伝子組換え植物の例として、YieldGard(登録商標)(Cry1Ab毒素を発現するトウモロコシ品種)、YieldGard Rootworm(登録商標)(Cry3Bb1毒素を発現するトウモロコシ品種)、YieldGard Plus(登録商標)(Cry1Ab毒素とCry3Bb1毒素とを発現するトウモロコシ品種)、Herculex I(登録商標)(Cry1Fa2毒素とグルホシネートへの耐性を付与する為にホスフィノトリシン N−アサチルトランスフェラーゼ(PAT)を発現するトウモロコシ品種)、NuCOTN33B(Cry1Ac毒素を発現するワタ品種)、Bollgard I(登録商標)(Cry1Ac毒素を発現するワタ品種)、Bollgard II(登録商標)(Cry1Ac毒素とCry2Ab毒素とを発現するワタ品種)、VIPCOT(登録商標)(VIP毒素を発現するワタ品種)、NewLeaf(登録商標)(Cry3A毒素を発現するジャガイモ品種)、NatureGard(登録商標)Agrisure(登録商標)GT Advantage(GA21 グリホサート耐性形質)、Agrisure(登録商標) CB Advantage(Bt11コーンボーラー(CB)形質)、Protecta(登録商標)等が挙げられる。
【0017】
上記植物とは、遺伝子組換え技術を用いて、選択的な作用を有する抗病原性物質を産生する能力を付与されたものも含まれる。
抗病原性物質の例として、PRタンパク等が知られている(PRPs、EP-A-0392225)。このような抗病原性物質とそれを産生する遺伝子組換え植物は、EP-A-0392225、WO95/33818、EP-A-0353191等に記載されている。
こうした遺伝子組換え植物で発現される抗病原性物質の例として、例えば、ナトリウムチャネル阻害剤、カルシウムチャネル阻害剤(ウイルスが産生するKP1、KP4、KP6毒素等が知られている。)等のイオンチャネル阻害剤;スチルベンシンターゼ;ビベンジルシンターゼ;キチナーゼ;グルカナーゼ;PRタンパク;ペプチド抗生物質、ヘテロ環を有する抗生物質、植物病害抵抗性に関与するタンパク因子(植物病害抵抗性遺伝子と呼ばれ、WO03/000906に記載されている。)等の微生物が産生する抗病原性物質等が挙げられる。
また、上記植物とは、古典的育種技術または遺伝子組換え技術を用い、先に述べたような除草剤耐性、害虫抵抗性、病害耐性等に関わる形質を2種以上付与された系統、及び同類または異なる性質を有する遺伝子組換え植物同士を掛け合わせることにより親系統が有する2種以上の性質が付与された系統も含まれる。
【0018】
本発明に係る種子処理剤は、例えば、以下の植物病害に有効である。
イネの病害:いもち病(Magnaporthe grisea)、ごま葉枯病(Cochliobolus miyabeanus)、紋枯病(Rhizoctonia solani)、馬鹿苗病(Gibberella fujikuroi)。
コムギの病害:うどんこ病(Erysiphe graminis)、赤かび病(Fusarium graminearum、F. avenacerum、F. culmorum、Microdochium nivale)、さび病(Puccinia striiformis、P. graminis、P. recondita)、紅色雪腐病(Micronectriella nivale)、雪腐小粒菌核病(Typhula sp.)、裸黒穂病(Ustilago tritici)、なまぐさ黒穂病(Tilletia caries)、眼紋病(Pseudocercosporella herpotrichoides)、葉枯病(Mycosphaerella graminicola)、ふ枯病(Stagonospora nodorum)、黄斑病(Pyrenophora tritici-repentis)。
オオムギの病害:うどんこ病(Erysiphe graminis)、赤かび病(Fusarium graminearum、F. avenacerum、F. culmorum、Microdochium nivale)、さび病(Puccinia striiformis、P.graminis、P.hordei)、裸黒穂病(Ustilago nuda)、雲形病(Rhynchosporium secalis)、網斑病(Pyrenophora teres)、斑点病(Cochliobolus sativus)、斑葉病(Pyrenophora graminea)、リゾクトニア属菌による苗立枯れ病(Rhizoctonia solani)。
トウモロコシの病害:黒穂病(Ustilago maydis)、ごま葉枯病(Cochliobolus heterostrophus)、ひょう紋病(Gloeocercospora sorghi)、南方さび病(Puccinia polysora)、グレイリーフスポット病(Cercospora zeae-maydis) 、リゾクトニア属菌による苗立枯れ病(Rhizoctonia solani)。
【0019】
カンキツ類の病害:黒点病(Diaporthe citri)、そうか病(Elsinoe fawcetti)、果実腐敗病(Penicillium digitatum, P. italicum)、フィトフトラ病(Phytophthora parasitica、Phytophthora citrophthora)。
リンゴの病害:モニリア病(Monilinia mali)、腐らん病(Valsa ceratosperma)、うどんこ病(Podosphaera leucotricha)、斑点落葉病(Alternaria alternata apple pathotype)、黒星病(Venturia inaequalis)、炭そ病(Colletotrichum acutatum)、疫病(Phytophtora cactorum)。
ナシの病害:黒星病(Venturia nashicola, V. pirina)、黒斑病(Alternaria alternata Japanese pear pathotype)、赤星病(Gymnosporangium haraeanum)、疫病(Phytophtora cactorum);
モモの病害:灰星病(Monilinia fructicola)、黒星病(Cladosporium carpophilum)、フォモプシス腐敗病(Phomopsis sp.)。
ブドウの病害:黒とう病(Elsinoe ampelina)、晩腐病(Glomerella cingulata)、うどんこ病(Uncinula necator)、さび病(Phakopsora ampelopsidis)、ブラックロット病(Guignardia bidwellii)、べと病(Plasmopara viticola)。
カキの病害:炭そ病(Gloeosporium kaki)、落葉病(Cercospora kaki, Mycosphaerella nawae)。
ウリ類の病害:炭そ病(Colletotrichum lagenarium)、うどんこ病(Sphaerotheca fuliginea)、つる枯病(Mycosphaerella melonis)、つる割病(Fusarium oxysporum)、べと病(Pseudoperonospora cubensis)、疫病(Phytophthora sp.)、苗立枯病(Pythium sp.);
トマトの病害:輪紋病(Alternaria solani)、葉かび病(Cladosporium fulvum)、疫病(Phytophthora infestans)。
ナスの病害:褐紋病(Phomopsis vexans)、うどんこ病(Erysiphe cichoracearum)。
アブラナ科野菜の病害:黒斑病(Alternaria japonica)、白斑病(Cercosporella brassicae)、根こぶ病(Plasmodiophora brassicae)、べと病(Peronospora parasitica)。
ネギの病害:さび病(Puccinia allii)、べと病(Peronospora destructor)。
【0020】
ダイズの病害:紫斑病(Cercospora kikuchii)、黒とう病(Elsinoe glycines)、黒点病(Diaporthe phaseolorum var. sojae)、褐紋病(Septoria glycines)、斑点病(Cercospora sojina)、さび病( Phakopsora pachyrhizi)、茎疫病(Phytophthora sojae)、リゾクトニア属菌による苗立枯れ病(Rhizoctonia solani)。
インゲンの病害:炭そ病(Colletotrichum lindemthianum)。
ラッカセイの病害:黒渋病(Cercospora personata)、褐斑病(Cercospora arachidicola)、白絹病(Sclerotium rolfsii)。
エンドウの病害:うどんこ病(Erysiphe pisi)、根腐病(Fusarium solani f. sp. pisi)。
ジャガイモの病害:夏疫病(Alternaria solani)、疫病(Phytophthora infestans)、緋色腐敗病(Phytophthora erythroseptica)、粉状そうか病(Spongospora subterranean f. sp. subterranea)。
イチゴの病害:うどんこ病(Sphaerotheca humuli)、炭そ病(Glomerella cingulata)。
チャの病害:網もち病(Exobasidium reticulatum)、白星病(Elsinoe leucospila)、輪斑病(Pestalotiopsis sp.)、炭そ病(Colletotrichum theae-sinensis)。
タバコの病害:赤星病(Alternaria longipes)、うどんこ病(Erysiphe cichoracearum)、炭そ病(Colletotrichum tabacum)、べと病(Peronospora tabacina)、疫病(Phytophthora nicotianae)。
ナタネの病害:菌核病(Sclerotinia sclerotiorum)、リゾクトニア属菌による苗立枯れ病(Rhizoctonia solani)。
ワタの病害:リゾクトニア属菌による苗立枯れ病(Rhizoctonia solani)。
テンサイの病害:褐斑病(Cercospora beticola)、葉腐病(Thanatephorus cucumeris)、根腐病(Thanatephorus cucumeris)、黒根病(Aphanomyces cochlioides)。
バラの病害:黒星病(Diplocarpon rosae)、うどんこ病(Sphaerotheca pannosa)、べと病(Peronospora sparsa)。
キク及びキク科野菜の病害:べと病(Bremia lactucae)、褐斑病(Septoria chrysanthemi−indici)、白さび病(Puccinia horiana)。
種々の植物の病害:ピシウム属菌によって引き起こされる病害(Pythium aphanidermatum, Pythium debarianum, Pythium graminicola, Pythium irregulare, Pythium ultimum)、灰色かび病(Botrytis cinerea)、菌核病(Sclerotinia sclerotiorum)。
ダイコンの病害:黒斑病(Alternaria brassicicola)。
シバの病害:ダラースポット病(Sclerotinia homeocarpa)、ブラウンパッチ病、及びラージパッチ病(Rhizoctonia solani)。
バナナの病害:シガトカ病(Mycosphaerella fijiensis、Mycosphaerella musicola)。
ヒマワリの病害:べと病(Plasmopara halstedii)。
Aspergillus属、Penicillium属、Fusarium属、Gibberella属、Tricoderma属、Thielaviopsis属、Rhizopus属、Mucor属、Corticium属、Phoma属、Rhizoctonia属、及びDiplodia属菌等によって引き起こされる、各種植物の種子病害または生育初期の病害。
Polymixa属またはOlpidium属等によって媒介される各種植物のウイルス病。
【0021】
本発明に係る種子処理剤は、上記のうち、特にコーン、ソルガム、イネ、ナタネ、ダイズ、ポテト、シュガービート、ワタに発生する植物病害に対して高い防除効果が期待される。これらの植物に発生する植物病害のうち、特に高い効力が期待される病害としては、リゾクトニア菌による苗立枯れ病、ピシウム菌による病害、フザリウム属菌による病害等が挙げられる。
【0022】
本発明に係る種子処理剤は、式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物のみでもよいが、通常、式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物に、種子処理に適した不活性担体を混合し、必要に応じて界面活性剤やその他の製剤用補助剤を添加して、油剤、乳剤、フロアブル剤、水和剤、顆粒水和剤、粉剤等に製剤化されたものである。これらの種子処理剤において、式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物は、通常0.1〜99質量%、好ましくは0.2〜90質量%の範囲で含まれる。
【0023】
製剤化の際に用いられる固体担体としては、例えば、カオリンクレー、アッタパルジャイトクレー、ベントナイト、モンモリロナイト、酸性白土、パイロフィライト、タルク、珪藻土、方解石等の鉱物、トウモロコシ穂軸粉、クルミ殻粉等の天然有機物、尿素等の合成有機物、炭酸カルシウム、硫酸アンモニウム等の塩類、合成含水酸化珪素等の合成無機物等からなる微粉末あるいは粒状物等が挙げられ、液体担体としては、例えばキシレン、アルキルベンゼン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類、2−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール類、アセトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、ダイズ油、綿実油等の植物油、石油系脂肪族炭化水素類、エステル類、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、及び水が挙げられる。
界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルリン酸エステル塩、リグニンスルホン酸塩、ナフタレンスルホネートホルモアルデヒド重縮合物等の陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルポリオキシプロピレンブロックコポリマ−、ソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤、及びアルキルトリメチルアンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤が挙げられる。
その他の製剤用補助剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、アラビアガム、アルギン酸、及びその塩、CMC(カルボキシメチルセルロ−ス)、ザンサンガム等の多糖類、アルミニウムマグネシウムシリケート、アルミナゾル等の無機物、防腐剤、着色剤、及びPAP(酸性リン酸イソプロピル)、BHT等の安定化剤が挙げられる。
【0024】
本発明において、種子または球根への処理としては、例えば、植物病害から保護しようとする植物の種子または球根に式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物の有効量を処理する方法であって、具体的には、例えば、本発明の種子処理剤の懸濁液を霧状にして種子表面もしくは球根表面に吹きつける吹きつけ処理、本発明の種子処理剤の水和剤、乳剤又はフロアブル剤等に少量の水を加えるか又はそのままで種子もしくは球根に塗付する塗沫処理、本発明の種子処理剤の溶液に一定時間種子を浸漬する浸漬処理、フィルムコート処理、ペレットコート処理が挙げられる。
【0025】
吹きつけ処理及び塗沫処理の場合、乳剤、水和剤、懸濁剤等は水で希釈するか、または希釈せずにそのまま施用され、粉剤等は通常希釈することなくそのまま施用される。式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物の濃度は、通常0.01〜99%、好ましくは0.05〜90%である。種子または球根と処理液との容量比は、種子または球根の容量を1としたとき、通常1:0.0005〜1:0.05、好ましくは1:0.001〜1:0.02であり、施用量は種子または球根1kgに対して、式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物は通常0.001〜20g、好ましくは0.01〜5gの範囲で施用される。
浸漬処理の場合、製剤は通常水で希釈して施用され、式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物の濃度は、通常0.0001%〜99%、好ましくは0.001〜90%である。種子と処理液との容量比は、種子の容量を1としたとき、通常1:1〜1:100、好ましくは1:2〜1:20である。浸漬時間は、通常1分〜48時間であり、浸漬温度は通常0℃〜40℃、好ましくは5℃〜25℃である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を製剤例、処理例、及び試験例にてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の例のみに限定されるものではない。なお、以下の例において、部は特にことわりの無い限り質量部を表す。
【0027】
式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物として、下記式(1a)で示されるカーンインゴールドプレローグ規則によるR型の立体構造を有する(R)−α−メトキシフェニル酢酸化合物(1a)と、式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物のラセミ体(1b)とを使用した。

【0028】
製剤例1
化合物(1a)または化合物(1b)を2.5部、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエ−テル14部、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム6部、及びキシレン83.5部をよく混合することにより各乳剤を得る。
【0029】
製剤例2
化合物(1a)または化合物(1b)を5部、ホワイトカーボンとポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートアンモニウム塩との混合物(重量割合1:1)35部、及び水60部を混合し、湿式粉砕法で微粉砕することにより各フロアブル製剤を得る。
【0030】
製剤例3
化合物(1a)または化合物(1b)を5部、ソルビタントリオレエ−ト1.5部、及びポリビニルアルコ−ル2部を含む水溶液38.5部を混合し、湿式粉砕法で微粉砕した後、この中にキサンタンガム0.05部、及びアルミニウムマグネシウムシリケ−ト0.1部を含む水溶液45部を加え、さらにプロピレングリコ−ル10部を加えて攪拌混合し各フロアブル製剤を得る。
【0031】
製剤例4
化合物(1a)または化合物(1b)を40部、プロピレングリコールを5部(ナカライテスク製)、Soprophor FLKを5部(ローディア日華製)、アンチフォームCエマルションを0.2部(ダウコーニング社製)、プロキセルGXLを0.3部(アーチケミカル製)、及びイオン交換水を49.5部の割合で混合し、原体スラリーを調製する。該スラリー100部に150部のガラスビーズ(Φ=1mm)を投入し、冷却水で冷却しながら、2時間粉砕する。粉砕後、ガラスビーズをろ過により除き、各フロアブル製剤を得る。
【0032】
製剤例5
化合物(1a)または化合物(1b)を50部、NNカオリンクレーを38.5部(竹原化学工業製)、Morwet D425を10部、Morwer EFWを1.5部(アクゾノーベル社製)の割合で混合し、AIプレミックスを得る。当プレミックスをジェットミルで粉砕し、各粉剤を得る。
【0033】
製剤例6
化合物(1a)または化合物(1b)を12.5部、リグニンスルホン酸カルシウム3部、ラウリル硫酸ナトリウム2部、及び合成含水酸化珪素84.5部をよく粉砕混合することにより各水和剤を得る。
【0034】
製剤例7
化合物(1a)または化合物(1b)を1部、カオリンクレー87部、及びタルク12部をよく粉砕混合することにより各粉剤を得る。
【0035】
処理例1
製剤例1に準じて作製した乳剤を、ソルガム乾燥種子100kgに対し、回転式種子処理機(シードドレッサー、Hans-Ulrich Hege GmbH製)を用いて500ml塗沫処理することにより、処理種子を得る。
【0036】
処理例2
製剤例1に準じて作製した乳剤を、シュガービート乾燥種子100kgに対し、回転式種子処理機(シードドレッサー、Hans-Ulrich Hege GmbH製)を用いて500ml塗沫処理することにより、処理種子を得る。
【0037】
処理例3
製剤例2に準じて作製したフロアブル製剤を、ナタネ乾燥種子10kgに対し、回転式種子処理機(シードドレッサー、Hans-Ulrich Hege GmbH製)を用いて50ml塗沫処理することにより、処理種子を得る。
【0038】
処理例4
製剤例2に準じて作製したフロアブル製剤を、ダイズ乾燥種子100kgに対し、回転式種子処理機(シードドレッサー、Hans-Ulrich Hege GmbH製)を用いて500ml塗沫処理することにより、処理種子を得る。
【0039】
処理例5
製剤例3に準じて作製したフロアブル製剤を、トウモロコシ乾燥種子10kgに対し、回転式種子処理機(シードドレッサー、Hans-Ulrich Hege GmbH製)を用いて40ml塗沫処理することにより、処理種子を得る。
【0040】
処理例6
製剤例3に準じて作製したフロアブル製剤を、コムギ乾燥種子100kgに対し、回転式種子処理機(シードドレッサー、Hans-Ulrich Hege GmbH製)を用いて500ml塗沫処理することにより、処理種子を得る。
【0041】
処理例7
製剤例4に準じて作製したフロアブル製剤を10部、ピグメントBPD6135(Sun Chemical製)を10部、及び水を80部混和し、混和物を調製する。該混和物を、イネ乾燥種子10kgに対し、回転式種子処理機(シードドレッサー、Hans-Ulrich Hege GmbH製)を用いて60ml塗沫処理することにより、処理種子を得る。
【0042】
処理例8
製剤例4に準じて作製したフロアブル製剤を5部、ピグメントBPD6135(Sun Chemical製)を5部、水を35部混和し、ジャガイモ塊茎片10kgに対し、回転式種子処理機(シードドレッサー、Hans-Ulrich Hege GmbH製)を用いて70ml塗沫処理することにより、処理種子を得る。
【0043】
処理例9
製剤例5に準じて作製した粉剤を、ワタ乾燥種子10kgに対し、50g粉衣処理することにより、処理種子を得る。
【0044】
処理例10
製剤例2に準じて作成したフロアブル製剤を1部、水を99部混和し、該希釈液3000mlにイネ種子1kgを24時間浸漬することにより、処理種子を得る。
【0045】
試験例1
化合物(1b)のジメチルスルホキシド溶液10μlとエンドウ(矮性赤花絹鞘豌豆)の種子10gを50mlチューブに入れ、混合することによって当該種子表面に化合物(1b)を付着させた後、一晩静置することにより本発明処理種子を得た。プラスチックポットに砂壌土を詰め、該処理種子を播種し、エンドウ根腐病菌(Fusarium solani f. sp. pisi)を培養したフスマ培地を混合した砂壌土で覆土し、適宜潅水しながら22−24℃の温室内で6日間栽培した。エンドウ根腐病菌の胞子懸濁液をエンドウの株元に潅注接種し、さらに6日間栽培し防除効果を調査した。
また、防除価算出のために薬剤無処理における発病度もあわせて調査した。
式1より発病度を算出し、その発病度をもとに、式2を用い防除価を算出した。
その結果を表1に示す。
【0046】
「式1」
発病度=(不出芽種子数及び発病苗数)×100/(総播種数)
【0047】
「式2」
防除価=100×(A−B)/A
A:無処理区の植物の発病度
B:処理区の植物の発病度
【0048】
【表1】

【0049】
試験例2
化合物(1a)のフロアブル製剤、及び化合物(1b)のフロアブル製剤を水で希釈し化合物(1a)または化合物(1b)を含む薬液を調整した。該薬液にイネばか苗病汚染籾(短銀坊主)を24時間浸漬処理した後、籾を薬液より取り出し風乾し、処理種子を得た。該処理種子を12℃下で4日間、続いて30℃下で一晩水に浸漬した。プラスチックポットに砂壌土を詰め、該籾を播種し、26℃の温室内で23日間栽培し防除効果を調査した。
また、防除価算出のために薬剤無処理における発病度もあわせて調査した。
式3より発病度を算出し、その発病度をもとに、式2を用い防除価を算出した。
その結果を表2に示す。
【0050】
「式3」
発病度=(発病苗数)×100/(総苗数)
【0051】
【表2】

【0052】
試験例3
化合物(1a)または化合物(1b)のジメチルスルホキシド溶液10μlとエンドウ(矮性赤花絹鞘豌豆)の種子10gを50mlチューブに入れ、混合することによって当該種子表面に化合物(1a)または化合物(1b)を付着させた後、一晩静置することにより本発明処理種子を得た。プラスチックポットに砂壌土を詰め、該処理種子を播種し、エンドウ根腐病菌(Fusarium solani f. sp. pisi)を培養したフスマ培地を混合した砂壌土で覆土し、適宜潅水しながら22−24℃の温室内で6日間栽培した。エンドウ根腐病菌の胞子懸濁液をエンドウの株元に潅注接種し、さらに6日間栽培し防除効果を調査した。
また、防除価算出のために薬剤無処理における発病度もあわせて調査した。
試験例1と同様に、式1より発病度を算出し、その発病度をもとに、式2を用い防除価を算出した。
さらに、国際公開第95/27693号パンフレットに記載の下記式(A)で示されるラセミ体としてのα−メトキシフェニル酢酸化合物(A)、及び国際公開第96/07633号パンフレットに記載の下記式(B)で示されるラセミ体としてのα−メトキシフェニル酢酸化合物(B)を比較の化合物として使用し、同様の方法により防除効果を調査した。
その結果を表3に示す。


【0053】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0054】
式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物の有効量を植物の種子または球根に処理することにより、植物を植物病害から保護することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)

で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物を有効成分として含有する種子処理剤。
【請求項2】
請求項1の式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物の有効量を植物の種子または球根に処理する植物病害からの植物保護方法。
【請求項3】
前記植物が、イネ科植物、マメ科植物、アブラナ科植物、アカザ科植物、アオイ科植物またはナス科植物である請求項2に記載の植物保護方法。
【請求項4】
請求項1の式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物の有効量が処理された植物の種子または球根。
【請求項5】
植物病害から植物を保護するための、請求項1の式(1)で示されるα−メトキシフェニル酢酸化合物の種子処理または球根処理への使用。

【公開番号】特開2010−95524(P2010−95524A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217503(P2009−217503)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】