説明

種籾シートの敷設方法

【課題】 特開2003−274769に記載されている新規な稲作技術において、種籾シートを水田上に敷設する際、田面にくぼみがあったとしても、落水後に、このくぼみに残った水を排水しうる排水溝を堀設する方法を提供する。
【解決手段】 種籾シート1を水田上に敷設するには、水田を走行する田植機11の後端に、種籾シート1がロール状に巻回された種籾シートロール2を装着し、田植機11を前方へ走行させて、種籾シートロール2を巻き戻す。種籾シート1には、種籾シート1の長手方向に種籾8が列をなして播種されてなる複数の種籾列9と、種籾列9,9間を形成している種籾不存在列10とが存在する。種籾シート1が水田に敷設されるとき、少なくとも一列の種籾不存在列10が接する水田の位置に、田植機11に設けられた掘削刃12によって、種籾不存在列10と平行に排水溝を堀設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許文献1において提案した水中浮遊性繊維構造物を、水田に敷設する方法に関し、特に、水中浮遊性繊維構造物に種籾が播種されてなる種籾シートを水田に敷設する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本件出願人は、特許文献1において、従来の稲作技術とは全く異なる新規な稲作技術を提案した。特許文献1に記載された稲作技術は、以下のようなものである。まず、水田に水中浮遊性繊維構造物を敷設する。水中浮遊性繊維構造物としては、一般に綿製不織布が用いられ、また、これは水中浮遊性繊維構造物中に種籾が播種されてなる種籾シートであってもよい。本件では、種籾が水中浮遊性繊維構造物中に播種されてなる種籾シートを用いるので、落水後の水田に種籾シートが敷設されることになる。水田に種籾シートを敷設した後、水田に灌漑し、水田と種籾シートとの間に水を貯留し、種籾シートを水中に浮遊させる。数日後、水田上には雑草類が成長して、雑草類中の単子葉植物の鞘葉から本葉が発生する。一方、種籾シート中の種籾からは出芽し、葉が現れる。この状態となったとき(特に種籾から第三葉が現れたとき)、水田に貯留されていた水を落水する。そうすると、雑草類の本葉は、種籾シートによって圧倒され、しかも種籾シートによって被覆されるので、光合成が行えず、雑草類は枯死する。一方、出芽している種籾の根は、種籾シートが水中に浮遊していたときには、水中に伸びていたものであるが、落水することによって、この根が水田と接して地中に伸び、地中から養分を取って成長する。特許文献1に記載された稲作技術は、以上のようなものであるため、農薬等の除草剤は不要であって、環境に悪影響を及ぼすことがなく、しかも省力化されたものである。
【0003】
しかしながら、この稲作技術の場合、水田の田面にくぼみがあると、以下のような現象が生じ、稲の良好な生育が妨げられるということがあった。すなわち、田面にくぼみがあると、落水後においても、そのくぼみに水が残る。そして、このくぼみ上に種籾シート中の種籾が位置すると、種籾の根が水田の土と接することができず、種籾の根が地中に伸びにくいという欠点があった。種籾の根が地中に伸びないと稲は成長しないし、また仮に、くぼみの水中を介して地中へ伸びて成長したとしても、根の一部が地上に出ている(くぼみの水中へ伸びた根は、くぼみの水が干されると地上に出ることになる)ため、稲の成長時に倒伏しやすくなるということがあった。
【0004】
このような欠点を解決するためには、種籾シートを敷設する前に、田面をできるだけ平らにするという作業が必要になる。田面が完全に平らな状態となっていれば、上記のような欠点は生じないのであるが、田面を完全に平らにすることは困難であり、また、種籾シートの敷設中にくぼみが生じるということもあった。
【0005】
【特許文献1】特開2003−274769
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、田面にくぼみがあったとしても、落水後に、このくぼみに水が残らないような種籾シートの敷設方法を提供することにある。
【0007】
上記した課題を解決するため、本件発明者等は、種籾シートを田植機を用いて敷設する際に、種籾シート中の種籾の播種状態を特定の状態とし、種籾の存在しない箇所に対応する田面に排水溝を設けるという構成を採用したものである。種籾シートの種籾が存在しない箇所には、くぼみがあっても良いし、また、このくぼみに水が残っていても良い。したがって、種籾シートの種籾が存在しない箇所に排水溝を設けて、この排水溝から、排水溝以外のくぼみに残っている水を排水するようにしたのである。よって、排水溝以外のくぼみに水が残ることはなく、このくぼみ上に種籾シートの種籾が位置しても、種籾シートの自重によって、種籾の根は水田の土と接しやすくなり、地中に根を張りやすくなるのである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するため、本発明の構成は以下のようになっている。すなわち、水田を走行する田植機の後端に、種籾シートがロール状に巻回された種籾シートロールを装着し、田植機を前方へ走行させることにより、該種籾シートロールを巻き戻しながら、該水田上に種籾シートを敷設する方法において、該種籾シートは水中浮遊性繊維構造物であって、該種籾シートの長手方向に種籾が列をなして播種されてなる複数の種籾列と、該種籾列間を形成している種籾不存在列とが存在し、該種籾シートが水田に敷設されるとき、少なくとも一列の種籾不存在列が接する水田の位置に、田植機に設けられた掘削刃によって、該種籾不存在列と平行に排水溝を堀設することを特徴とする種籾シートの敷設方法というものである。
【0009】
本発明に係る種籾シート1は、一般に用いられている田植機11を用いて敷設される。種籾シート1は、ロール状に巻回された種籾シートロール2の形状となっている。そして、種籾シートロール2は、公知の田植機11の後端に装着されている。この装着方法は任意であるが、要するに田植機11を前方へ走行させることにより、種籾シートロール2が巻き戻され、水田上に種籾シート1が敷設できればよい。具体的には、図1に示したような装着方法が好ましい。すなわち、公知の田植機11に設けられている苗載せ台14にアーム4a及び4bを介して連結する方法が好ましい。アーム4a及び4bは、田植機11の苗載せ台14の左右両端に取り付けられる。アーム4aの後端には、種籾シートロール2の心棒5を嵌入する受け台6が設けられており、ここに心棒5を嵌入させる。アーム4bの後端は、アーム4aに取り付けられており、アーム4aを支えている。苗載せ台14は、一般的に昇降可能とされているため、この昇降に対応して、アーム4a及び4bを介して、種籾シートロール2も昇降する。種籾シート1を水田上に敷設する際には、苗載せ台14を降下させておき、なるべく、種籾シートロール2が水田面に接するようにする。一方、種籾シート1を切断するときや、田植機11の方向を変えるときは、種籾シートロール2を上昇させ、切断しやすくしたり、方向を変えやすくする。
【0010】
また、図2に示した装着方法が最も好ましい。すなわち、公知の田植機11に設けられている苗載せ台14にアーム4aを介して連結し、このアーム4aを苗載せ台14に溶接等の手段で固定された支持棒4cに当接する方法が好ましい。アーム4a及び支持棒4cは、田植機11の苗載せ台14の左右両端に取り付けられる。アーム4aの後端には、種籾シートロール2の心棒5を嵌入する受け台6が設けられており、ここに心棒5を嵌入させる。苗載せ台14は、一般的に昇降可能とされているため、アーム4aを介して、種籾シートロール2も昇降する。種籾シート1を水田上に敷設する際には、苗載せ台14を降下させておき、なるべく、種籾シートロール2が水田面に接するようにする。種籾シートロール2は、アーム4aと連結されており、このアーム4aは単に支持棒4cに当接されているだけなので、苗載せ台14とアーム4aとの接合部4dを中心にして、図2において左回りに自由に動く。したがって、種籾シートロール2が敷設時に上下動しても、その動きにアーム4aは追随することができ、種籾シート1に過大な引張力等が働くのを防止することができる。このため、田植機11を走行させながら、種籾シート1を敷設しているときに、種籾シート1が破断したり損傷するのを防止しうるのである。なお、種籾シート1を切断するときや、田植機11の方向を変えるときは、種籾シートロール2を上昇させ、切断しやすくしたり、方向を変えやすくすることは、図1の場合と同様である。
【0011】
種籾シート1は、特許文献1に記載されているとおり、水中浮遊性繊維構造物7で構成されている。具体的には、綿繊維よりなる不織布であり、これが水中浮遊性繊維構造物であることは、特許文献1に記載されているとおり、綿繊維表面にコットンワックスなどの油脂類が付着しており、撥水性だからである。本発明においては、この水中浮遊性繊維構造物7中に種籾8が播種されて、種籾シート1となっている。本発明で特徴的なことは、種籾8の播種状態である。すなわち、種籾シート1の長手方向に種籾8が列をなして播種されてなる複数の種籾列9,9・・・と、種籾列9,9・・・間を形成されている種籾不存在列10,10・・・とが存在する。一般的に、種籾不存在列10の幅は、25cm程度が最適である。種籾8は、水中浮遊性繊維構造物7の内部に播種するのが好ましい。具体的には、一枚の水中浮遊性繊維構造物層の上に種籾8を播種し、その上に更にもう一枚の水中浮遊性繊維構造物層を積層し、二枚の水中浮遊性繊維構造物層の間に種籾8を挟着した構造の種籾シート1を用いるのが好ましい。
【0012】
そして、この種籾シート1が、水田上に敷設されるとき、田植機11に設けられた掘削刃12によって排水溝が堀設される。本発明において重要なことは、堀設された排水溝の位置が、種籾不存在列10が田面と接する位置と合致しているということである。これが合致しておらず、種籾列9が田面と接する位置で排水溝が堀設されていると、落水時において種籾8の根が土中に伸びにくくなるため、好ましくない。掘削刃12を設ける箇所は、種籾不存在列10に対応する箇所であれば、田植機11のどの箇所であってもよい。すなわち、図3の種籾不存在列10の位置に対応する田植機11の箇所に、掘削刃12が設けられるのである。掘削刃12は、田植機11に付設されているフロート13の底面(接地面)に設けるのが好ましい。
【0013】
田植機11に設けられるフロート13は、田植機本体の沈下を防止するとともに、水田面の凹凸を均平にする作用を持つものである。したがって、フロート13に掘削刃12を設ければ、一定深さの排水溝を掘削することができるという利点がある。また、一定深さを排水溝を掘削するため、掘削作用に伴う負荷変動が少なく、田植機11の走行性に悪影響を及ぼさないという利点もある。フロート13に掘削刃12を設けるには、例えば、金属製平板を楔形に加工して、楔形の先端が接地するようにして、フロート13に取り付ければよい。そして、田植機11を走行させれば、種籾シート1が敷設されると共に、種籾シート1の種籾不存在列10が田面と接する位置に排水溝が堀設され、しかもこの排水溝は種籾不存在列10と平行して堀設されることになる。
【0014】
また、本発明においては、田植機11に散水装置を搭載しておくのが好ましい。これは、種籾シート1を水田上に敷設した直後において、種籾シート1上に水を散布するためである。種籾シート1に水を散布する理由は、種籾シート1の自重を重くして、或いは種籾シート1と田面とを密着させて、種籾シート1が風によって、捲り上がらないようにするためである。この水を散布する箇所は任意であるが、たとえば、種籾シート1の幅の亙って概ねジグザク状に散布する方法、隣り合う種籾シート1,1の重なり合った箇所にジグザグ状に正確に散布する方法がある。概ねジグザグ状に散布する方法を採用する場合には、例えば、図4に示した散布装置を用いるのがよい。すなわち、送水ホース15と、送水ホース15を揺動自在に導くためのバー16と、送水ホース15の先端に取り付けられた散水ノズル17とを具備し、バー16にはリング18aが通されており、送水ホース15はリング18bに取り付けられており、リング18aと18bとは移動自在に繋がれているものを用いるのがよい。二つのリング18a及び18bを用いる理由は、一つのリング18aでは、振動振幅を大きく取れないからである。また、リング18bには、重量物20を付加するか、又はリング自体重いものを使用して、振幅の周期を安定させるのが好ましい。そして、リング18aが所定の範囲内で揺動するように、バー16には、ストッパー19,19が設けられている。このような散水装置は、田植機11の走行による振動で、リング18aはバー16に沿って、ストッパー19,19間で揺動する。そして、リング18bはリング18aと移動自在に繋がれているため、リング18aの揺動とリング18bの移動の両者により、概ねジグザク状に運動する。このようなジグザク運動をするリング18bに、送水ホース15及び散水ノズル17が取り付けられているので、散水ノズル17は概ねジグザク運動をし、水が種籾シート1上に概ねジグザク状に散布されることになるのである。
【0015】
また、隣り合う種籾シート1,1の重なり合った箇所に、ジグザク状に正確に散布するには、バー16自体を左右に揺動させれば良い。具体的には、図5に示すように、送水ホース15及び散水ノズル17をバー16に紐等で縛って固定する。そして、バー16の一端に、球状ピボット等で連結棒21の一端を固定する。また、連結棒21の他端は、回転体22の周辺に固定する。そして、回転体22を回転させると、バー16は左右に一定振幅で揺動する。この振幅幅を、種籾シート1,1の重なり合いの幅と一致させておけば、この重なり合った箇所に正確に、ジクザグ状に水を散布することができる。
【0016】
本発明に係る種籾シートの敷設方法を用いた稲作技術は、基本的には、特許文献1に記載したとおりである。すなわち、本発明に係る種籾シートの敷設方法を採用して、水田に種籾シートを敷設する。敷設後、水田に灌漑し、水田と種籾シートとの間に水を貯留し、種籾シートを水中に浮遊させる。数日後、水田上には雑草類が成長して、雑草類中の単子葉植物の鞘葉から本葉が発生し、種籾シートからは出芽し葉が現れる。この状態となったときに、水田に貯留されていた水を落水する。後は、適宜、水管理及び追肥を行えば、農薬等の除草剤を用いることなく、稲を良好に成育させることができるのである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る方法を採用すれば、田植機で種籾シートを水田に敷設しながら、種籾の存在しない箇所に排水溝を設けることができる。この排水溝は、水田にくぼみがあり、このくぼみに水が溜まっていた場合、この水を良好にくぼみから排出する。くぼみが排水溝と接していなくても、くぼみの中の水は、土中の毛細管現象によって、排水溝へ排出される。したがって、特許文献1記載の稲作技術において、水田から落水した後において、排水溝以外には水が溜まっている箇所は殆どなく、種籾シート中の種籾の根が、土中に伸びて良好に稲が成長し、米の収穫量が少なくなるのを防止することができる。
【0018】
本発明に係る方法を採用して排水溝を設けた場合と、本発明に係る方法を採用せずに排水溝を設けていない場合とを、愛媛大学農学部作物学研究室で比較した結果、米の収穫量には顕著な差異が生じた。すなわち、排水溝を設けていない場合には、稲の根が一部田面上に存在するため、稲の倒伏がかなりの割合(30.5%)で見られた。一方、排水溝を設けた場合には、稲の倒伏の程度はかなり少なかった(2.0%)。したがって、排水溝を設けた場合、米の収穫量は486kg/10aであったのに対し、排水溝を設けていない場合は、米の収穫量が372kg/10aであり、収穫量に顕著な差異が見られた。
【0019】
以上のとおり、本発明に係る方法は、特許文献1記載の新規な稲作技術に寄与し、米の収穫量を大幅を増やすことができ、農業技術に有益なものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る敷設方法を実施するための装置の一例を示した概略側面図である。
【図2】本発明に係る敷設方法を実施するための装置の他の例を示した概略側面図である。
【図3】本発明に用いる種籾シートの種籾列と種籾不存在列を示すための模式図である。この図において、種籾が目視しうるように示されているが、一般的には、種籾は種籾シートの内部に存在し、目視できないものである。
【図4】本発明に係る敷設方法を実施する際に用いる散水装置の一例を示す模式図である。なお、この散水装置は、図示していない田植機に搭載されるものである。
【図5】本発明に係る敷設方法を実施する際に用いる散水装置の他の例を示す模式図である。なお、この散水装置は、図示していない田植機に搭載されるものである。
【符号の説明】
【0021】
1 種籾シート
2 種籾シートロール
4a,4b 種籾シートロールと苗載せ台とを連結するアーム
5 種籾シートロールの心棒
7 水中浮遊性繊維構造物
8 種籾
9 種籾列
10 種籾不存在列
11 田植機
12 堀設刃
13 田植機のフロート
14 田植機の苗載せ台
15 送水ホース
16 バー
17 散水ノズル
18a,18b リング
19 ストッパー
20 重量物
21 連結棒
22 回転体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水田を走行する田植機の後端に、種籾シートがロール状に巻回された種籾シートロールを装着し、田植機を前方へ走行させることにより、該種籾シートロールを巻き戻しながら、該水田上に種籾シートを敷設する方法において、該種籾シートは水中浮遊性繊維構造物であって、該種籾シートの長手方向に種籾が列をなして播種されてなる複数の種籾列と、該種籾列間を形成している種籾不存在列とが存在し、該種籾シートが水田に敷設されるとき、少なくとも一列の種籾不存在列が接する水田の位置に、田植機に設けられた掘削刃によって、該種籾不存在列と平行に排水溝を堀設することを特徴とする種籾シートの敷設方法。
【請求項2】
水中浮遊性繊維構造物は、綿製不織布である請求項1記載の種籾シートの敷設方法。
【請求項3】
田植機のフロートの接地面に掘削刃が設けられている請求項1記載の種籾シートの敷設方法。
【請求項4】
田植機に備えられた昇降可能な苗載せ台と、種籾シートロールの心棒とが、アームを介して連結されており、該苗載せ台の昇降に対応して、該種籾シートロールも昇降する請求項1記載の種籾シートの敷設方法。
【請求項5】
田植機には、散水装置が搭載されている請求項1記載の種籾シートの敷設方法。
【請求項6】
散水装置は、送水ホースと、該送水ホースを揺動自在に導くためのバーと、該送水ホースの先端に取り付けられた散水ノズルとよりなり、該バーと該送水ホースとは、繋がれた二つのリングの各々と連結しており、該二つのリング相互間は移動自在であることを特徴とする請求項1記載の種籾シートの敷設方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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