説明

穀物茶抽出液の製造方法

【課題】香味と甘みに優れた穀物抽出物を効率よく製造すること。
【解決手段】本発明の穀物茶抽出液の製造方法は、カラム型抽出機内に1種又は2種以上の原料穀物を仕込み、次いで所定量の水蒸気をカラムの一方側から供給して他方側から放出し、次いで熱水を供給して抽出液を抜き出すことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物茶抽出液の製造方法、及び当該方法により得られる穀物茶抽出液を用いた容器詰飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
穀物茶にはビタミンB群、食物繊維、良質のタンパク質が豊富に含まれており、健康飲料として注目されている。また、穀物茶はさっぱりした香味と濃い甘みが特徴であり、嗜好性の高い飲料である。
発酵茶、半発酵茶又は不発酵茶を原料とする茶飲料の場合、茶葉加工中に揉捻工程を経るため、熱水による抽出が容易であるが、穀物を原料として穀物茶を製造する場合には、熱水による抽出が進みにくいため、一般的に細かく粉砕した原料を使用したり、高温で長時間抽出することが多い。しかしながら、穀物原料を微粉砕して使用すると抽出液と抽出残渣の分離が困難になり、一方高温で長時間抽出すると穀物特有の香味及び甘みが失われてしまう。
【0003】
そこで、香気成分の抽出を目的として、麦と水蒸気を接触させて麦の揮発性成分含有凝縮液を得、次いで麦茶残渣を熱水で抽出して抽出液を得、そして該抽出液と揮発性成分含有凝縮液を混合する麦茶エキスの製造法が提案されている(特許文献1)。
しかしながら、揮発性成分凝縮液を得るために長時間にわたって水蒸気に接触させると、麦茶残渣から得られる抽出液のエグ味が増加し、穀物特有の香味が損なわれてしまう。
【特許文献1】特開平2−104265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、香味と甘みに優れた穀物抽出物を効率よく製造する方法及び当該方法により得られる穀物茶抽出液を用いた容器詰飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者は、穀物茶の抽出手段について種々検討したところ、カラム型抽出機内に原料穀物を仕込んだ後、所定量の水蒸気を供給し、その水蒸気を回収するのではなく、その後にカラムに熱水を供給して抽出液を抜き出すことにより、穀物本来の香味及び甘みが豊富で、かつボディ感のある穀物茶抽出液が効率良く得られることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、カラム型抽出機内に1種又は数種の原料穀物を仕込み、次いで所定量の水蒸気をカラムの一方側から供給して他方側から放出し、次いで熱水を供給して抽出液を抜き出す穀物茶抽出液の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、上記の方法で製造した穀物茶抽出液を、希釈することなく又は希釈して得られる容器詰飲料を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、穀物本来の香味及び甘みが豊富で、かつボディ感のある穀物茶抽出液を効率良く製造することが可能である。また、当該穀物抽出液を用いることで、香味、甘み及びボディ感の風味バランスの良好な飲みやすい容器詰飲料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の穀物抽出液の製造にはカラム型抽出機を使用するが、カラム型抽出機としては、カラム内に原料穀物を保持するための保持板と、抽出用水の供給口と、穀物抽出液の抜き出し口とを備えているものが好ましく、更にカラム型抽出機の上方及び下方から抽出用水を供給可能なタイプが好適に使用される。
【0009】
本発明に使用する原料穀物としては、米類(例えば、玄米、発芽玄米等)、麦類(例えば、大麦、ハト麦、小麦等)、豆類(例えば、大豆、黒豆、ソラマメ、インゲン豆、小豆、ささげ、らっかせい、えんどう、りょくとう等)、ソバ類(例えば、ソバ、ダッタンソバ)、雑穀類(例えば、とうもろこし、白ごま、黒ごま、あわ、ひえ、きび等)等の乾燥種子の1種又は2種以上を使用できる。中でも、麦類及び米類から選ばれる1種又は2種以上を使用することが好ましく、大麦、小麦、ハト麦及び玄米から選ばれる1種又は2種以上を使用することが特に好ましい。
また、原料穀物は、焙煎したものでも、α化処理したものであってもよく、更に発芽させたものを用いてもよい。
【0010】
また、本発明においては、風味調整及び健康機能強化のために、他の食物原料を配合してもよい。このような食物原料としては、例えば、生薬系及びハーブ系等の食物が挙げられる。具体的には、モロヘイヤ、ドクダミ、霊芝、明日葉、アマチャヅル、イチョウ葉、ウコン、延命草、柿の葉、ギムネマ・シルベスタ、グアバ、桑、甜、杜仲、ハス、バナバ、ハブ、ビワの葉、マテ、ルイボス、キヌア、大麦若葉、チンピ、カモミール、ハイビスカス、ペパーミント、レモングラス、レモンピール、レモンバーム、ローズヒップ、ローズマリー等が挙げられる。
【0011】
原料穀物を2種以上使用する場合、膨潤度の低い原料穀物から順に保持板上に層状に仕込むことが好ましい。2種以上の原料穀物を層状に仕込むには、例えば、第1の穀物を仕込み、高さが均一になるように第1の穀物の上面を平らにならし、次いで第1の穀物を覆うように第2の穀物を仕込み、高さが均一になるように第2の穀物の上面を平らにならすという操作を繰り返し行う方法が採用される。これにより、穀物本来の香味と甘みが豊富で、ボディ感のある穀物抽出液を得ることができる。
【0012】
原料穀物の合計仕込み量は、穀物抽出液の抽出効率の点から、(カラムの内容積)/(原料穀物の仕込時容積)の比が1.0〜7.0、更に1.0〜3.6、特に1.0〜2.6であることが好ましい。なお、カラムの内容積は、カラム内に保持板が装着されている場合には、原料穀物を仕込むことが可能な範囲とする。
【0013】
本発明においては、カラム内に原料穀物を仕込んだ後、所定量の水蒸気をカラムの一方側から供給して他方側へ放出する。これにより、原料穀物と水蒸気との接触効率が高められるため、比較的少量の水蒸気でも原料穀物を十分に蒸らすことができる。なお、本発明では、原料穀物に含まれる揮発性成分を凝縮回収しない。揮発性成分を凝縮回収しようとすると、水蒸気と原料穀物を長時間接触させることになり、熱履歴により穀物抽出液の甘みが減少してしまう。
【0014】
カラム内への水蒸気の供給はカラム上方からでも、下方からでもよい。
原料穀物を仕込んだカラム内に供給する水蒸気としては、飽和水蒸気や過熱水蒸気を用いることができる。カラム内を減圧することにより、100℃未満の飽和水蒸気を用いることもできる。水蒸気の温度は、穀物抽出液の抽出効率の点から、60〜180℃、更に60〜150℃、特に60〜120℃であることが好ましい。
【0015】
原料穀物1kgあたりの水蒸気供給量は、香味、甘み及びボディ感の風味バランスの点から、0.02〜1.0kg、更に0.04〜0.5kg、特に0.06〜0.3kgであることが好ましい。
【0016】
水蒸気の供給速度は、香味、甘み及びボディ感の風味バランス、製造設備のコスト低減の点から、原料穀物1kgあたり1〜20kg/h、更に1.5〜15kg/h、特に1.8〜10kg/hであることが好ましい。
【0017】
水蒸気を供給する時間は、原料穀物の温度上昇による甘み減少抑制、香味保持の点から、0.5〜15分、更に1〜12分、特に2〜8分であることが好ましい。また、水蒸気供給速度が速い場合には供給時間を短くし、他方供給速度が遅い場合には供給時間を長くすることにより調整してもよい。さらに、供給する水蒸気の温度によって水蒸気供給時間を上記範囲内で適宜調整し、所望の風味のバランスに調製することも可能である。
【0018】
原料穀物に水蒸気を接触させることにより、穀物温度が瞬時に上昇するとともに柔軟になるため、従来の熱水抽出法よりもデンプン、タンパク質、ビタミン群、食物繊維等の抽出効率が高まる。水蒸気供給後の原料穀物は含水率が0〜15質量%となる。過熱水蒸気の場合は含水率が10質量%以下になる。
【0019】
次いで、カラム型抽出機に熱水を供給して、穀物抽出液を抜き出す。
具体的には、熱水をカラム上部又は下部から供給し、供給側とは反対側から穀物抽出液を抜き出す方法が挙げられる。熱水の供給はカラム上部からでも、下部からでもよいが、膨潤した原料穀物の抵抗による閉塞を防ぐため下部から上昇流で供給することが好ましい。
【0020】
熱水の温度は、香味、甘み及びボディ感の風味バランスの点から、30〜98℃、更に50〜95℃、特に70〜90℃が好ましい。
【0021】
熱水の供給と穀物抽出液の抜き出しは、穀物抽出液の甘み減少抑制の点から、水蒸気の供給が終了してから120秒以内、更に100秒以内、特に80秒以内に開始することが好ましい。
穀物抽出液の抽出倍率は、穀物質量に対して3〜60倍、更に5〜30倍とすることが好ましい。これにより、香味、甘み及びボディ感の風味バランスの良好な穀物抽出液を得ることができる。
【0022】
このようにして得られた穀物抽出液は、穀物本来の香味及び甘みが豊富で、かつボディ感があるので、穀物抽出液をそのまま又は希釈して容器詰飲料とすることができる。
【0023】
本発明の容器詰茶飲料には、原料穀物由来の成分にあわせて、酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、ガム、油、ビタミン、アミノ酸、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、pH調整剤、品質安定剤などの添加剤を1種又は2種以上配合してもよい。
【0024】
本発明の容器詰茶飲料のpH(25℃)は3〜7、更に4〜7、特に5〜7とすることが、飲料の安定性の点で好ましい。
【0025】
本発明の穀物抽出液を充填する容器としては、一般の飲料と同様にポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合化した紙容器、瓶等の通常の包装容器が挙げられる。
【0026】
また、本発明の容器詰飲料は、例えば、金属缶のような容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては適用されるべき法規(日本にあっては食品衛生法)に定められた殺菌条件で製造できる。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器などで高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用できる。また無菌下で、充填された容器に別の成分を配合して充填してもよい。さらに、酸性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを中性に戻すことや、中性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを酸性に戻すなどの操作も可能である。
【実施例】
【0027】
実施例1
金属メッシュを備えた内径97mmのカラム型抽出機(カラム内容積3.3L)に、大麦137gを仕込み、高さが均一になるように大麦の上面を平らにならし、次いで大麦を覆うように玄米82gを仕込み、高さが均一になるように玄米の上面を平らにならし、次いで玄米を覆うようにはと麦55gを仕込み、高さが均一になるようにはと麦の上面を平らにならした。次いで、カラム下部から100℃の飽和水蒸気を0.91kg/hで5分間供給した。45秒後にカラム上部から90℃の熱水を0.24L/minで供給しながらカラム下部から抽出液を同じ速度で抜き出した。抽出液量が原料穀物仕込み質量の20倍になったところで抽出を終了し、穀物抽出液を得た。得られた穀物抽出液を3.4倍に希釈して容器詰飲料を調製した。
【0028】
実施例2
実施例1で使用したカラム型抽出機に、大麦103g、玄米62g、はと麦40gを順次仕込み、カラム下部から100℃の飽和水蒸気を0.96kg/hで10分間供給した。60秒後にカラム上部から90℃の熱水を0.24L/minで供給しながらカラム下部から抽出液を同じ速度で抜き出した。抽出液量が原料穀物仕込み質量の20倍になったところで抽出を終了し、穀物抽出液を得た。得られた穀物抽出液を3.4倍に希釈して容器詰飲料を調製した。
【0029】
実施例3
実施例1で使用したカラム型抽出機に、大麦182g、玄米109g、はと麦74gを順次仕込み、カラム下部から100℃の飽和水蒸気を0.84kg/hで1分間供給した。60秒後にカラム上部から90℃の熱水を0.24L/minで供給しながらカラム下部から抽出液を同じ速度で抜き出した。抽出液量が原料穀物仕込み質量の20倍になったところで抽出を終了し、穀物抽出液を得た。得られた穀物抽出液を3.4倍に希釈して容器詰飲料を調製した。
【0030】
実施例4
実施例1で使用したカラム型抽出機に、α化大麦137g及び玄米137gを順次仕込み、カラム下部から100℃の飽和水蒸気を0.81kg/hで10分間供給した。23秒後にカラム上部から90℃の熱水を0.24L/minで供給しながらカラム下部から抽出液を同じ速度で抜き出した。抽出液量が原料穀物仕込み質量の20倍になったところで抽出を終了し、穀物抽出液を得た。得られた穀物抽出液を3.4倍に希釈して容器詰飲料を調製した。
【0031】
実施例5
実施例1で使用したカラム型抽出機に、α化大麦183g及び玄米183gを順次仕込み、カラム下部から100℃の飽和水蒸気を0.70kg/hで3分間供給した。60秒後にカラム上部から90℃の熱水を0.24L/minで供給しながらカラム下部から抽出液を同じ速度で抜き出した。抽出液量が原料穀物仕込み質量の20倍になったところで抽出を終了し、穀物抽出液を得た。得られた穀物抽出液を3.4倍に希釈して容器詰飲料を調製した。
【0032】
比較例1
飽和水蒸気を供給しないこと以外は、実施例1と同じ原料を使用して同条件で抽出を行った。得られた穀物抽出液を3.4倍に希釈して容器詰飲料を調製した。
【0033】
比較例2
飽和水蒸気を供給しないこと以外は、実施例4と同じ原料を使用して同条件で抽出を行った。得られた穀物抽出液を3,4倍に希釈して容器詰飲料を調製した。
【0034】
比較例3
飽和水蒸気を供給しないこと以外は、実施例5と同じ原料を使用して同条件で抽出を行った。得られた穀物抽出液を3.4倍に希釈して容器詰飲料を調製した。
【0035】
官能評価
各容器詰飲料をパネラー4名が飲用し、香味、甘み及びボディ感について下記の基準で評価し、その後協議により最終評価を決定した。その結果を表1に示す。
【0036】
香味、甘味及びボディ感の評価基準
◎:非常に良好
○:良好
△:僅かに良好
×:不良
【0037】
【表1】

【0038】
実施例の穀物抽出液は、従来の熱水抽出法で得られた比較例の穀物抽出液よりも高いBrixが得られた。さらに、実施例の容器詰飲料は、比較例の容器詰飲料に比べて香味、甘み及びボディ感の風味バランスが良好なものであった。特に実施例1及び5においては、水蒸気を短時間で供給し、かつ水蒸気供給量を抑制することで、香味及び甘味が極めて豊富で、かつより一層ボディ感のある容器詰飲料が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラム型抽出機内に1種又は2種以上の原料穀物を仕込み、次いで所定量の水蒸気をカラムの一方側から供給して他方側から放出し、次いで熱水を供給して抽出液を抜き出す穀物茶抽出液の製造方法。
【請求項2】
原料穀物1kgあたりの水蒸気供給量が0.02〜1.0kgである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
水蒸気の供給時間が0.5〜15分である、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
水蒸気の温度が60〜180℃である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
水蒸気の供給が終了してから120秒以内に熱水の供給を開始する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
原料穀物として、大麦、小麦、ハト麦及び玄米から選ばれる1種又は2種以上を使用する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法で製造した穀物茶抽出液を、希釈することなく又は希釈して得られる容器詰飲料。

【公開番号】特開2010−124702(P2010−124702A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299465(P2008−299465)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】