説明

穀類の保存方法および冷蔵庫

【課題】玄米はヌカ層でコーティングされており、水の浸漬に非常に時間がかかるため、機能性を向上させる発芽段階において微生物の増殖による腐敗や、蒸れたような臭気を発生し、美味しく、衛生的な発芽玄米を作ることができないという課題を有していた。
【解決手段】食品に水分を浸漬させる工程と、その後食品の細胞を破壊する工程と、食品細胞に含まれる酵素を活性化させる工程と、さらに酵素反応を抑制する工程を備えることによって、玄米の細胞内部の酵素反応を最適な条件で効率よく行い、機能性の向上した玄米を食することが可能である。また、脂肪酸化などの美味しさへのマイナス要因となる、生体内酵素反応の促進を抑制することが可能となり、機能性向上および美味しさを維持または向上した玄米を食することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀類の機能性を向上させより美味しく食する為保存方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、人々は普段の食生活から健康管理の保持・促進を心がける傾向にある。特に、日常的に一番多く摂取する、米を始めとする穀類や野菜、果実を健康の保持・促進の為に意識的に摂取し、更には、より栄養価の高い品種を積極的に摂取したいという願望が高い。特に、玄米は、ぬか層が残っているため、白米に比べて栄養価が高く積極的に摂取したいという願望が高い。
【0003】
また、発芽した玄米に多く含まれるγ−アミノ酪酸(GABA)は、脂肪の代謝をよくするイノシトールや中性脂肪の増加を抑制する、血圧を下げるなど多くの効果が実証されており、健康を促進する食品として非常に注目されている。さらに発芽玄米は、玄米と比較すると、食感が柔らかく食べやすいという特徴があり、玄米を一晩40℃前後の温度で加温浸漬させた後に炊飯することが、家庭でも行われている。
【0004】
特許文献1に示すように、玄米を浸漬して発芽させるための容器を抗菌性金属材料でもって構成し、底部及び側面外周にヒータを備えた加熱釜に玄米と水を注ぎいれた内釜を収容し、ヒータによる加熱で発芽を促進させる、家庭用の発芽玄米を簡単に製造することのできる図3のような発芽玄米製造用電気加熱器が知られている。
【特許文献1】特開平10−117713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の発芽玄米製造用電気加熱器では、玄米を水に浸漬させて、ヒータによる加熱で40℃前後の温度を長時間維持しながら発芽を促進させる仕様となっている。玄米はヌカ層でコーティングされており、水の浸漬に非常に時間がかかるため、機能性を向上させる発芽段階において微生物の増殖による腐敗や、蒸れたような臭気を発生し、美味しく、衛生的な発芽玄米を作ることができないという課題を有していた。従って、炊飯後の発芽玄米は、炊飯時の高温加熱によって、浸漬段階で増殖した微生物は死滅しているものの、脂質酸化促進や、発酵に伴う悪臭は取り除くことができず、炊飯米としての美味さは損なわれており、せっかく機能性が向上しているにも関わらず、食が進まないという課題もあった。
【0006】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、玄米を含む穀類を炊飯する前処理として、低温環境下、または短時間で穀類の発芽を促進させること、さらには機能性を向上させることを行う方法である。すなわち、穀類に従来よりも少ない水分を浸漬させた後に、穀類の細胞を破壊し、その後、酵素反応が促進する温度まで加温し従来よりも短い時間で酵素反応を促進した後、酵素反応を抑制することによって、より機能性が高く、かつ美味しさを維持する、穀類の保存方法を提供することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来の課題を解決するために、本発明の保存方法は、穀類を炊飯する前処理の方法であって、前記穀類に水分を浸漬させる浸漬工程と、前記浸漬工程の後に前記穀類の細胞を破壊する破壊工程と、前記破壊工程の後に前記穀類の食品細胞に含まれる酵素を活性化させる活性化工程とを有するものである。
【0008】
また、本発明の保存方法は、穀類を炊飯する前処理の方法であって、前記穀類に水分を浸漬させる浸漬工程と、前記浸漬工程の後に前記穀類の細胞を破壊する破壊工程と、前記破壊工程の後に前記穀類の細胞に含まれる酵素を活性化させる活性化工程と、前記活性化工程の後にさらに酵素反応を抑制する酵素抑制工程とを有する。
【0009】
これによって、玄米を含む穀類の細胞内部の酵素反応を最適な条件で効率よく行い、機能性の向上した穀類を食することが可能である。また、脂肪酸化などの美味しさへのマイナス要因となる、生体内酵素反応の促進を抑制することが可能となり、機能性向上および美味しさを維持または向上した穀類を提供することが可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、機能性向上および美味しさを維持または向上した穀類を提供することが可能となるので、機能性が高く、かつ美味しさを維持する穀類の保存方法を使用者に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
請求項1に記載の発明は、 玄米を炊飯する前処理の方法であって、食品に水分を浸漬させる工程と、その後食品の細胞を破壊する工程と、さらに食品細胞に含まれる酵素を活性化させる手段を持つことを特徴としている。
【0012】
穀類に水分を浸漬させた後に、穀類の組織細胞を破壊することにより、細胞内で水分子との接触表面積が拡大し、すべての細胞に対して水分を供給することができ、胚芽の酵素反応が生じる。そしてさらに、酵素反応を活性化させる工程によって、穀類の発芽反応が促進され、生体内にγ−アミノ酪酸が増加することで、より栄養価を高めることができる。また、オリゴ糖やグルコースを精製する酵素なども活性化し、甘みや旨味が増加することで、美味しさを増すことが可能となる。また、玄米に水分を浸漬させた後に、玄米の組織細胞を破壊することによって、従来玄米は白米と比較して炊飯時に芯まで柔らかくなり難い傾向があるが、火通りが向上し、圧力釜などで炊飯しなくても、炊き上がりが柔らかくなることによって、美味しさも向上する。さらに、酵素反応を抑制する手段を有することによって、カタラーゼ、パーオキシダーゼ、アミラーゼなどの酵素の働きを抑制することから、脂肪酸化やタンパク質の変性などの美味しさへのマイナス要因を抑制し、美味しさを維持することが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、穀類を炊飯する前処理の方法であって、食品に水分を浸漬させる工程と、その後食品の細胞を破壊する工程と、食品細胞に含まれる酵素を活性化させる工程と、さらに酵素反応を抑制する工程をもつことを特徴としている。これによって、穀類に水分を浸漬させた後に、穀類の組織細胞を破壊することにより、細胞内で水分子との接触表面積が拡大し、すべての細胞に対して水分を供給することができ、胚芽の酵素反応が生じる。そしてさらに、酵素反応を活性化させる工程によって、穀類の発芽反応が促進され、生体内にγ−アミノ酪酸が増加することで、より栄養価を高めることができる。さらに、酵素反応を抑制する手段を併せ持つことによって、酵素反応が律速段階になった時点にて反応を抑制することで、酵素反応生成物を効率よく得ることが可能である。
【0014】
請求項3に記載の発明は、細胞を破壊する工程は食品に水分を浸漬させた後に、食品を凍結することを特徴とすることによって、水分浸漬処理後の穀類を凍結することによって、穀類の細胞が破壊するとともに、細胞内部にまで水が供給された後に、加温することによって再び酵素反応の促進を活発化し、内部のでんぷんは糖に、タンパク質は遊離アミノ酸へと分解されることによって、アミノ酸の一種であるγ−アミノ酪酸(GABA)量がさらに増大する効果が得られ、機能性が向上する。
【0015】
請求項4に記載の発明は、 細胞に含まれる酵素を活性化させる工程は、30度から60度の範囲で加温することを特徴としている。これによって、最も酵素活性が高く、温度帯まで加温することによって、迅速に酵素反応を促進させることが可能である。
【0016】
請求項5に記載の発明は、 酵素反応を抑制する工程は、10度以下の温度まで冷却することを特徴としている。これによって、酵素反応スピードを遅延させることによって、酵素反応を抑制する、あるいは酵素反応が過剰に促進することを抑制することが可能となる。すなわち、品質劣化の指標とされる脂肪酸度の増加を防ぎ、さらに菌の増殖による腐敗を抑制することも可能なため、衛生的、かつ味の劣化が生じない。
【0017】
請求項6に記載の発明は、食品に水分を浸漬させる手段と、その後食品の細胞を破壊する工程と、さらに食品細胞に含まれる酵素を活性化させる手段と酵素反応を抑制する手段のいずれかの手段を備え、請求項1から5に記載の方法を用いて、穀類を炊飯する前処理を行いながら穀類を保存する収納区画を備えることを特徴とするものである。これによって、使用者は穀類を収納区画に設置すれば、自動的に穀類の機能性を向上させながら前処理を行うことが可能であり、さらに、品質劣化を抑制し、かつ美味しさを維持した穀類を食することが可能である。
【0018】
以下、本発明の保存庫の実施の形態の一例である家庭用冷蔵庫について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態における冷蔵庫の断面図を示すものである。図2は、本発明の実施の形態における玄米保存設定時の操作方法を示すフローチャートである。さらに、図3、図4は本発明の実施の形態における玄米保存設定時のモデルケースにおける、保存後(取り出し後)のγ―アミノ酪酸(GABA)の含有量、およびグルタミン酸含有量を示すグラフである。
【0020】
また、本実施の形態では穀類を精白されていない状態の米である玄米として説明を行うが、例えば精白されていない状態の穀物であれば同様の思想が適用できる。
【0021】
図1において、本体1は複数の断熱区画に区分されており上部を回転扉式、下部を引出し式とする構成をとってある。容量の大きい貯蔵室から順に記すと、回転扉式の冷蔵室2、引出し式の冷凍室3と、引出し式の野菜室4、冷蔵室2の下部に並べて設けた製氷室5および、引出し式の切り替え室6により構成されている。
【0022】
冷蔵室2は冷蔵保存のために凍らない温度を下限に通常1〜5℃で設定されているが、収納物によって、使用者が自由に上記のような温度設定を切り替えることを可能としている場合もある。また、ワインや根野菜等の保鮮のために、例えば10℃前後の若干高めの温度設定をとする場合もある。冷凍室3は冷凍保存のために通常−22〜−18℃に設定されているが、冷凍保存状態の向上のために、たとえば−30℃以下の温度に設定されることもある。
【0023】
切り替え室6はユーザーの設定により温度設定を変更可能であり、冷凍室温度帯から微凍結温度帯であるパーシャルフリージング、チルド、冷蔵温度帯まで所定の温度設定にすることができ、図示しないスイッチを操作することにより、切り替え室6内の温度設定変更が行われる。さらに、切り替え室6内には食品に水分を浸漬させる手段7が設置されており、玄米を炊飯する前処理として、玄米保存設定を選択した場合は、水分を浸漬させる手段7によって玄米に適度な水分を浸漬した後に、−5℃以下の適当な凍結温度まで冷却され、凍結温度を一定時間保持した後、ヒータ20によって加温されるようにセンサ8によって最適温度制御される。水分を浸漬させる工程では、センサ8によって、初期重量と浸漬後の重量差などから含水率を検知し、最適含水率に到達するまで水分を浸漬させる。水の玄米への浸漬効果を増大させるためには、含水率が20%程度まで達することが望ましい。
【0024】
また、製氷室5は独立の氷保存室であり、図示しない自動製氷装置を備えて、氷を自動的に作製、貯留するものである。氷を保存するために冷凍温度帯であるが、氷の保存が目的であるために冷凍温度帯よりも比較的高い冷凍温度設定も可能である。
【0025】
各断熱区画には、それぞれ断熱扉がガスケット9を介して設けられている。上から冷蔵室回転扉10、切り替え室引出し扉11、製氷室引出し扉12、野菜室引出し扉13、冷凍室引出し扉14である。冷蔵室回転扉10には扉ポケット15が収納スペースとして設けられており、庫内には複数の収納棚16が設けられてある。また冷蔵室2の最下部には樹脂カバーにより区画された貯蔵ケース17が設けてある。
【0026】
以上、これらすべての動作については制御基盤18によって制御されているものとする。
【0027】
以上のように構成された冷蔵庫について、以下その動作、作用を説明する。
【0028】
本実施の形態において、穀類の中でも玄米を炊飯する前処理として切り替え室6の玄米炊飯モードを選択した場合の動作、作用を図2に沿って説明する。
【0029】
切り替え室6の引き出し扉11を開け、玄米を適量投入する。玄米は図示しないが、アルミ製など耐冷凍性の容器に入れ、ラップ包装をしない状態であることが望ましい。切り替え室6の中央付近に設置した後、引き出し扉11を閉じ、図示しない切り替え室6の動作設定スイッチの玄米保存モードを選定し、図示しないスタートボタンを押す。これにより、切り替え室6のセンサ8が投入された玄米の初期重量を検知した後、水分を浸漬させる手段7が動作し、切り替え室6内の湿度は95%以上に加湿される。水分を浸漬させる手段7は、本実施の形態2においては、微細系の水粒子を噴霧することとし、玄米のより内部にまで水が浸透するのに適している。水分を浸漬させる手段7動作中の切り替え室6の温度は、特には限定しないが、0℃以上の凍結しない冷蔵雰囲気であることが望ましい。
【0030】
さらに、水分を浸漬させる手段7による、水分の浸漬工程は、センサ8が初期重量に対する現重量差を検知することにより、含水率が一定以上であると判断すると、動作が停止する。本実施の形態2では、水分を浸漬させる手段7の動作時間を重量検知によって行ったが、一般的に、吸水量の飽和状態はうるち米では20〜30%であることなどを目安に、時間や水分噴霧量で制御してもよく、特には限定しない。また、水分を浸漬させる操作は、手段7のような自動的なものでなく、切り替え室6に玄米を投入する前に、通常米を研ぐ、あるいは水の入った容器に玄米を漬け込むような手動的なものや、水をはった容器に玄米を浸漬させることによって吸水させる方法を用いてもよく、特に限定はしない。手動で行う場合には、図4のフローチャート中の浸漬工程を省き、その後の凍結工程から随時行うものとする。
【0031】
浸漬工程が終了した後は、破壊工程へと移行し冷凍サイクルがオンに制御される冷却工程が開始し、切り替え室6内は0℃以下の最適温度まで到達した後、最適温度に維持される。玄米の内部に浸漬した水分が完全に凍結し、細胞壁が破壊するように、玄米を完全に凍結させることが望ましい。
【0032】
従って、到達温度は−5℃以下であり、理想的には‐20℃付近まで到達しその最適温度を一定時間維持する方が望ましい。本実施の形態が家庭用冷蔵庫であることや、冷却工程はできるだけ緩慢凍結であった方が細胞壁を破壊するのには効果的であることから、−20℃以下の温度で制御することについては望ましくない。
【0033】
破壊工程の一形態である冷却工程の解除は、ここでは限定しないが到達温度から一定時間、あるいは一定時間の冷却工程が終了すると解除されることとする。冷却工程が解除されると、ヒータ20によって加温され、玄米が解凍される。この時さらに玄米内部にまで水が浸漬する傾向にある。
【0034】
ヒータ20による加温工程の解除は、ここでは限定しないが、完全に氷が溶解した0℃以上であることが望ましい。さらに、より発芽を促進させる為には酵素反応が働きやすい、37℃付近の温度帯に加温することが望ましく、これが活性化工程となる。しかしながら、長時間37℃付近の温度を保持すると、発酵臭や菌増殖による腐敗臭も発生することなり、劣化が促進されるため、出来る限り短時間で加温工程を終了し、その後冷却工程を再び作動させ、10℃以下に制御することが望ましい。
【0035】
図3、図4は本発明の実施の形態における玄米保存設定時のモデルケースにおける、保存後(取り出し後)のγ―アミノ酪酸(GABA)の含有量、およびグルタミン酸含有量を示すグラフである。モデルケースとは次のような条件にて玄米を保存した場合である。凍結処理ありのサンプルは、玄米5gに対して水7.5mlを注ぎいれ、10分間静置した後、−20℃の恒温槽で12時間凍結させた後、37℃の恒温槽へ移し入れ8時間保存した。それに対して、破壊工程である凍結処理なしのサンプルは、玄米5gに対して水7.5mlを注ぎいれ、10分間静置した後、37℃の恒温槽へ移しいれ8時間保存した。処理後、それぞれについて、高速液体クロマトグラフィーを用いてγ―アミノ酪酸(GABA)の含有量、およびグルタミン酸含有量を測定した結果、いずれも凍結処理ありのサンプルの方が、GABAおよびグルタミン酸含有量がそれぞれ約14倍、7倍程度多いことがわかった。従って、これらの操作によって、GABAが増加し、さらにはグルタミン酸量が増加することから、栄養価の高い、美味しい玄米が得られることがわかった。
【0036】
次に、上記モデルケースにて処理した玄米を炊飯後に官能評価を行った。破壊工程である冷却工程で到達温度を−20℃の凍結とすることによって、凍結により米粒の部分破壊が生じ、水分の浸漬が促進されることによって、圧力炊飯をしなくても、通常炊飯で、食感も柔らかく美味しさが得られることがわかった。さらに、凍結温度で保存することによって、リノール酸やリノレン酸などの不飽和脂肪酸の酸化などを抑制し、菌などの雑菌の増殖も抑制できることから、美味しさを損なわず、衛生的に保存が可能となる。従って、炊飯前の前処理として1回使用分のみを玄米モードで保存するのではなく、一般的に玄米の購入量は1kgで保存期間1ヶ月程度が多いという傾向にあるので、例えば、購入した玄米1kg程度を一度に切り替え室6に投入し、玄米保存モードで1ヶ月間保存しながら、使いたいときに適量を採取することも可能である。
【0037】
従って、脂肪酸化やタンパク質の変性などの美味しさへのマイナス要因を抑制し、かつ、γ−アミノ酪酸量も増大させ、高機能かつ美味しい玄米を食することを目的とするには、0℃以下、および微凍結まで冷却工程を施すことが望まれる。また、圧力炊飯をしなくても、通常炊飯で食感も柔らかく美味しさが得られ、かつ脂肪酸化やタンパク質の変性などの美味しさへのマイナス要因を抑制することを目的とするには、完全凍結するまで冷却工程を施すことが望まれる。
【0038】
所定温度の維持時間および、所定温度までの到達時間については、ここでは限定しないが、到達温度までの到達時間が長い緩慢凍結の方が、米粒の部分破壊が生じやすく、通常炊飯で食感が柔らかくなることが考えられ、望ましい。
【0039】
さらに、凍結到達温度についても特に限定はしないが、本実施の形態は家庭用冷蔵庫の収納区画であることを考慮すると、−20℃までの温度、もしくは−40℃までの温度であることが望ましい。
【0040】
また、炊飯前の前処理としての操作性を考慮すると、一般的に家庭で玄米を炊飯する場合、一晩の間水に浸漬させることが多いため、約8時間程度で一連の動作が終了することも望ましいが、ここでは特に限定はしない。しかしながら、本発明によると、浸漬と凍結により細胞内表面積が拡大しているため、酵素反応が促進されやすいことから、従来よりもはるかに短時間で機能性を向上することが可能となる。したがって、時間は限定しないが、2時間、3時間、4時間、5時間などタン時間で一連の操作を行うことも考えられる。
【0041】
以上の工程によって、玄米の機能価値を高める適度な生体内酵素反応を促進した後、脂肪酸化などの美味しさへのマイナス要因となる生体内酵素反応の促進を抑制することが可能となり、美味しい機能価値の向上した玄米を食することが可能となる。
【0042】
さらに、浸漬処理後に凍結処理を施すことによって、米粒の部分破壊を生じさせることによって、玄米の食感改善も行うことができ、より柔らかい玄米を炊飯することが可能である。従って、圧力炊飯を行わなくても、柔らかい食感を得ることが可能である。
【0043】
一般的に玄米を白米に混合して食している人が多いが、白米と玄米では浸漬時間や同じ炊飯時間では得られる硬さが異なるため、食べた時に玄米の硬さに違和感を感じる。しかしながら、本実施の形態により玄米の前処理を行うことによって、浸漬処理後に凍結処理を施すことにより、白米と玄米を混合して炊飯しても、食べる時に玄米が従来よりも柔らかく炊けているため、白米に混合していても違和感なく美味しく食べることが可能である。
【0044】
以上、本実施の形態では保存庫を家庭用冷蔵庫として説明したが、本実施の形態によって発明が限定されるものではなく、そのほか農作物の流通過程で使用される保冷車や、業務用冷蔵庫、農業用保存庫などの多くの用途に適用できるものとする。
【0045】
また、このような切り替え室6は冷蔵庫の一区画を構成するものであり、他貯蔵室との位置関係など特に指定するものではない。また、切り替え室6は冷蔵室2や野菜室4や貯蔵ケース17であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明にかかる保存方法は、穀物の機能性向上および美味しさを維持または向上することが可能となることにより、本保存方法を用いた家庭用冷蔵庫以外にも、農作物の流通過程や業務用冷蔵庫、農業用保存庫など多くの用途にも適用できる。また、炊飯器、その他調理機器にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態における冷蔵庫の縦断面図
【図2】本発明の実施の形態における玄米保存設定時の操作方法を示すフローチャート
【図3】本発明の実施の形態における玄米保存設定時のモデルケースにおける、保存後(取り出し後)のγ―アミノ酪酸(GABA)の含有量示すグラフ
【図4】本発明の実施の形態における玄米保存設定時のモデルケースにおける、保存後(取り出し後)のグルタミン酸含有量を示すグラフ
【図5】従来の家庭用の発芽玄米を簡単に製造することのできる発芽玄米製造用電気加熱器の構成を示す図
【符号の説明】
【0048】
1 本体
2 冷蔵室(上段貯蔵室)
3 冷凍室(下段貯蔵室)
4 野菜室(下段貯蔵室)
6 切り替え室
7 水分を浸漬させる手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀類を炊飯する前処理の方法であって、前記穀類に水分を浸漬させる浸漬工程と、前記浸漬工程の後に前記穀類の細胞を破壊する破壊工程と、前記破壊工程の後に前記穀類の食品細胞に含まれる酵素を活性化させる活性化工程とを有する穀類の保存方法。
【請求項2】
穀類を炊飯する前処理の方法であって、前記穀類に水分を浸漬させる浸漬工程と、前記浸漬工程の後に前記穀類の細胞を破壊する破壊工程と、前記破壊工程の後に前記穀類の細胞に含まれる酵素を活性化させる活性化工程と、前記活性化工程の後にさらに酵素反応を抑制する酵素抑制工程とを有する保存方法。
【請求項3】
前記破壊工程は食品に水分を浸漬させた後に食品を凍結させるものである請求項1または2に記載の保存方法。
【請求項4】
前記活性化工程は、30度から60度の範囲で加温するものである請求項1から3のいずれか一項に記載の保存方法。
【請求項5】
前記酵素抑制工程は、10度以下の温度まで冷却する請求項2から4のいずれか一項に記載の保存方法。
【請求項6】
食品に水分を浸漬させる浸漬手段と、前記浸漬工程の後食品の細胞を破壊する破壊工程とを有し、さらに食品細胞に含まれる酵素を活性化させる手段と酵素反応を抑制する手段のいずれかの手段を備え、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法を用いて、穀類を炊飯する前処理を行いながら前記穀類を保存する収納区画を備える請求項1から5のいずれか一項に記載の冷蔵庫。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−88345(P2010−88345A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261441(P2008−261441)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】