説明

穀類の胚乳において組み換え型ヒトリソソーム酵素を生成する方法

植物においてヒトタンパク質を生成する、特に、穀類の胚乳において組み換え型ヒトリソソーム酵素を生成する方法は、ヒトタンパク質を発現させ且つ植物の胚乳に局在させ、最終的に胚芽によって吸収されず、胚乳における大量のヒトタンパク質の存在が種子の生存率及び発芽速度に負の影響を与えないように植物の形質転換をする第1工程を備えている。第1工程において、ヒトタンパク質をコードしている遺伝子の上流の胚乳特異的プロモータ、及び新しく合成されるヒトタンパク質の組織特異的な蓄積のために、ヒトタンパク質を胚乳細胞の内質細網の内腔の中に同時翻訳的な移行をするためのシグナルペプチドを用いる。また、植物の種子の胚乳の中にヒトタンパク質を蓄積する第2工程を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトタンパク質、特に、組み換え型ヒトリソソーム酵素の酸性β−グルコシダーゼ(E.C.3.2.1.45)を植物、具体的に穀類の形質転換及び遺伝子操作により生成する方法に関する。産業用の種子の製造は、胚芽及びアリューロン層の除去により行われ得る、すなわち、種子中の一部には多くの脂質及びタンパク質混入物が含まれるため、本発明において用いる植物種は、Oryza sativa L.(イネ)であることが好ましい。
【0002】
同様の技術は、欠損又は不完全な機能性が病気の状態を引き起こす他のヒトリソソーム酵素の胚乳特異的な発現のためにも用いられ得る。
【背景技術】
【0003】
希少病とは、人口における発生率及び罹患率が低い疾患の異質性の群をいう。それらは慢性的な経過を示し、重篤な結果又は致命的となる。
【0004】
希少病には、リソソーム病が含まれ、この病気は特定のリソソーム酵素又はキャリアタンパク質の不足により起こる。この病気の分類には、ゴーシェ病、糖原病II型、ファブリー病、ニーマンピック病B型及びムコ多糖症I型、II型、IV型等が含まれる。これらの病気に対する治療的アプローチは、欠損した酵素の静脈内投与(酵素補充療法、ERT)である。例えば、ゴーシェ病は、ヒト酸性β−グルコシダーゼを定期的に一生投与されることにより治療され得る。しかしながら、この治療は非常に高額であり、全ての患者に用いることができない。ERTの高いコストは、ヒト又は哺乳動物の細胞の培養による酸性β−グルコシダーゼの生成の困難性により実質的に決定している。
【0005】
遺伝子操作された植物は、植物の栽培が比較的安価な材料とその分野において既に存在する農業基盤とを用いるため、培養技術的及び経済的な観点から、リソソーム酵素、特に、組み換え型酸性β−グルコシダーゼの生成のための代替法に用いられる。
【0006】
WO−A−97/10353号公報(WO’353)において、ヒト酸性β−グルコシダーゼを含むリソソーム酵素の合成は、植物の葉を用いる、特に、タバコ(Nicotiana tabacum L.)のようなバイオマスとなる種の葉を用いることについてのみ報告されている。WO’353は、疑義のある方法が記載されており、その方法において、葉には多くの水分が含まれており(これは所望のタンパク質を分散させる。)、タンパク質混入物、ポリフェノール、ゴム、侵出物及び有毒のアルカロイドが多く存在し、これらが酵素の抽出及び精製の工程を複雑にする。さらに、通常の植物の代謝の改変により引き起こされる植物毒性現象は防ぐことはできず、これらの現象は不意に起こり、考え得る方法により解決できないため、特に問題となる。
【0007】
WO’353において、酸性β−グルコシダーゼの発現は、MeGaプロモータ(障害誘導性のトマトHMG2プロモータに由来する。)又はCaMV 35Sプロモータを含む発現ベクターを用いて、タバコを形質転換させることによって行っている。後者のプロモータは、公知であり、恒常型の遺伝子の転写制御をするための配列として広く用いられている。WO’353において、他の恒常性又は誘導性プロモータが前記の目的と同一の目的のために用いられることは可能であると述べられている。
【0008】
障害誘導性プロモータが関わる限り、WO’353において、それらの使用は、葉に厳しく制限され、酸性β−グルコシダーゼを発現させるために植物に予め傷を付けなければならない。予め傷を付けることは、コストを増大させ、その生成工程の管理をより複雑とし、液胞又は他の細胞コンパートメント内の常在性のタンパク質分解酵素により一部の酵素が分解され、また、細菌及び菌類による傷つけられた材料がひどく汚染されることとなる。
【0009】
WO’353において実質的に考慮された光誘導性プロモータは、透過光照射の欠損及び/又は光合成組織において通常存在する転写因子の欠損により、種子、特に、穀類の種子のような葉肉以外の組織において効果的に遺伝子を発現しない。恒常性プロモータに関しては、全ての例においてCaMV 35Sプロモータ及びその代表的な観点について述べられている。しかしながら、実験において、異質のタンパク質の合成について除外する限り、CaMV 35Sプロモータによる転写効率は種子ではわずかに低いだけである。この結果によると、穀類のような単子葉植物の場合ではより価値があり、このプロモータは葉の組織においても遺伝子発現レベルを高くするためにはあまり適用できない。
【0010】
WO−A−03/073839(WO’839)において、CaMV 35Sプロモータの制御下におけるβ−グルコシダーゼの変異型をコードしている遺伝子は、種子中で特異的な抗体を用いた免疫学的試験において検出できるレベルを発現しなかったことが報告されている。
【0011】
従って、WO’839及びWO’353には、葉肉と異なる組織、具体的に、種子においてヒト酸性β−グルコシダーゼ又は他のリソソーム酵素の生成を行うための方法が実質的に示されていないといえる。
【0012】
さらに、後の実験(Reggi等.2005,Plant Mol Biol 57:101-113)により、タバコの葉におけるβ−グルコシダーゼの生成に関してWO’353が提示する方法では、産業的に用いることができるレベルよりも低い酵素量が得られることが証明された。
【0013】
さらに、WO’353に提示されているように、葉のバイオマスから精製され得る酵素量は、酵素活性として表した場合はより低く、また、特に恒常性プロモータを用いるような葉における発現系では技術的に制約がある。
【0014】
WO’839において、種子中でのリソソーム酵素の生成は可能であり、その方法を用いて達成される発現レベルは産業上で利用するのに十分であると報告されている。さらに、その酵素はアポプラスト(すなわち、やや酸性pHであることを特徴とする細胞外のコンパートメント。)に蓄積されるため、安定した状態で長い間保存され得ることが述べられている。しかしながら、WO’839は、単子葉植物におけるリソソーム酵素、特に酸性β−グルコシダーゼの生成、並びに種子において酸性β−グルコシダーゼのような酵素の組織での発現及び細胞内での局在化に関する問題及び制限を回避する方法、最小化する方法及び克服する方法について提示していない。実際のところ、これらの問題は、無視され又は気にされず、全く論じられていない。
【0015】
実際に、WO’839におけるリソソーム酵素の生成のための発現ベクターの構築の全ての例は、双子葉植物の貯蔵タンパク質プロモータを用いることを提示している。リソソーム酵素の発現に関する例では、酸性β−グルコシダーゼの変異型に制限され、用いられる宿主植物は常にタバコ(Nicotiana tabacum L.)である。WO’839において、形質転換されたタバコ又はその子孫の種子における酸性β−グルコシダーゼの蓄積により起こる植物毒性について示されていないため、提示された方法は、リソソーム酵素、特に、酸性β−グルコシダーゼの生成に関する問題を解決するのに有効であるといっている。
【0016】
しかしながら、後に、WO’839と同一の遺伝子領域を用いて形質転換されたタバコにより産生された種子において行われた実験は、β−グルコシダーゼの蓄積が種子の生存率の重大な変動を決定することを明らかとした。特に、酵素濃度を200U/kg(種子の質量)に予め近づけた状態において(1Uは37℃、pH5.9において1分間に1μmolの4−メチルウンベリフェリル−D−グルコシドを遊離する酵素の量である。)、低い生存率と発芽阻害による生殖異常とがみられる。さらに、500U/kg(種子の質量)程度以上では、種子の生存率は完全に損なわれる。
【0017】
出願人により行われたさらなる実験により、WO’839と同一の遺伝子領域を用いて形質転換されたタバコの種子の生存率は、公知の方法により回復させることはできないことが示された。電子顕微鏡により行われた出願人の実験は、酵素の産業的な生成のために理論上用いることが可能な遺伝子組み換え型系統から得られる子孫が生存することは不可能であることを証明するために、生存不能な種子の組織崩壊及び細胞膜系の崩壊を示した。WO’839の遺伝子を用いて発現したタンパク質の貯蔵領域は、実際にWO’839において考えられていた領域(アポプラスト領域)と一致せず、胚の柔細胞の液胞の内部であることが電子顕微鏡により示された。WO’839と同様に、WO−A−00/04146(WO’146)の特許出願には、ヒトラクトフェリンの発現及び植物の種子中の一般的な酵素活性を有するタンパク質の発現について提示されており、機能的活性酵素の生成、特にリソソーム酵素の生成については全く提示されていない。WO’146において、酵素の効果的な生成工程及び安定性に関する問題について示す事項が提示されておらず、その酵素の構造及び機能は、完全に無視されている。
【0018】
一般に、産業的な酵素量の生成のために必要な植物の系統は、インビトロにおける選り抜きの植物の繁殖により得ることができるが、この方法を用いることは、比較的に短時間で田畑に移植される多くの植物のために必要な生成サイクルを複雑にすることを避けられない。イタリアのヒトβ−グルコシダーゼの需要を満足させるために遺伝子組み換え型タバコの種子を60トン生産する計画のために、少なくとも150ヘクタールの土地を出資すること、また何よりも、インビトロにおける生成、温室順応及び少なくとも900万のタバコの苗の畑への移植が必要とされた。
【0019】
工程管理及び経済的な問題に関して、遺伝子組み換え型の種子を散布する、又は幅の狭い列に播くことにより結果が全く異なることは明らかであり、後者の操作では、生存可能な種子のみを用いて実施でき、より高い植物の密度を達成できるという観点から、標準的なタバコの収穫高と比較して単位面積当たり4倍〜6倍高い種子の生成量を可能とする。直接に種子を播くことにより得られる植物の密度と同様の密度を達成することは、移植によってはあり得ず、生産的な観点から、そのコストを補うには不十分であり、実際に、植物の生産量と単位面積当たりの植物数とは反比例する。マイクロプロパゲーションのコストに関して、それぞれの植物が個々に論じられるべきであり、それぞれのタバコにより生産される種子の量を非常に少ない量(数グラム)に合わせると、リソソーム酵素の生成のための宿主として用いられる植物の利点が非常に減少する。
【0020】
本発明の目的は、植物、特に単子葉植物において、ヒトタンパク質を生成するための工程を行うことであり、特に、穀類の胚乳中で組み換え型のヒトリソソーム酵素を生成することにある。新規に発明した方法は、公知技術における適当な困難性を克服する。特に、本発明によると、種子中において、組織発現及びリソソーム酵素、特にヒト酸性β−グルコシダーゼ及びヒト酸性α−グルコシダーゼの細胞内の局在に有効であり、タンパク質の抽出及び生成を容易化し、植物毒性現象のリスクが除かれ、種子の生存率に影響せず、経済的により用いやすく、生成工程の管理が非常に容易となり、酵素の部分的な分解のリスクが除かれ、細菌及び菌類の混入のレベルが顕著に減少する。
【0021】
出願人は本分野の現状の問題を克服するために、また、前記の目的及び他の目的と利点とを得るために本発明を発案し、試験し、具体化した。
【発明の概要】
【0022】
本発明は、独立項において明らかとされ、また、特徴づけられ、その関連する従属項には、本発明の他の特徴又は主な発明の思想の変形が提示されている。
【0023】
前記の目的に従って、植物においてヒトタンパク質を生成する方法、特に、植物の胚乳において組み替え型ヒトリソソーム酵素を生成する方法は、
ヒトタンパク質を発現させ且つ植物の胚乳に局在させ、最終的に胚芽によって吸収されず、胚乳における大量のヒトタンパク質の存在が種子の生存率及び発芽速度に負の影響を与えないように植物の形質転換を行う第1工程と、
植物の種子の胚乳の中にヒトタンパク質を蓄積する第2工程とを備え、
第1工程において、ヒトタンパク質をコードしている遺伝子の上流の胚乳特異的プロモータ、及び新しく合成されるヒトタンパク質の組織特異的な蓄積のために、ヒトタンパク質を胚乳細胞の内質細網の内腔の中に同時翻訳的な移行をするためのシグナルペプチドを用いる。
【0024】
本発明は、種子の胚に属しない貯蔵組織に異質性のタンパク質が蓄積することを許容する。また、本発明は、種子の胚に属しない貯蔵組織に高い植物毒性及び破壊の可能性があるタンパク質が蓄積されると、発育の最後に自然にアポトーシスが起こることが好ましい。さらに、種子の給水及び発芽の後に強い加水分解活性を受ける非生存組織に植物毒性タンパク質が潜在的に蓄積されることも可能である。
【0025】
これらの潜在的な危険タンパク質は、細胞膜に接触する又は細胞膜を横切ることなく、タンパク質貯蔵液胞又はタンパク質小体に貯蔵され得る。本発明は、タンパク質輸送、安定性、生化学的活性及び治療的利用において潜在的に有害でないならば、役に立たない付加されたアミノ酸の存在により特徴づけられるタンパク質の非標準的な変異体でなく、意図されるアミノ酸配列通りに正確に生成されることを可能とする。その合成されたタンパク質は、タンパク質貯蔵液胞(PSVs)又はタンパク質小体(PBs)を有する胚乳に貯蔵されることが好ましい。PSVs又はPBsから抽出可能なタンパク質は類似しているため、前記の細胞内コンパートメントの1つ又はその他における前記タンパク質の局在は、本発明の有効性には無関係である。
【0026】
本発明の一実施形態は、以下の要素を有する配列を備えている植物の形質転換のための発現ベクターの構築を含む。
(i)天然型又は人工の前記胚乳特異的プロモータ、
(ii)天然型又は人工の5’UTR、
(iii)ヒトタンパク質を胚乳細胞の質内細網の内腔の中に向け、特異的な組織にヒトタンパク質を蓄積することを決定するのに適するシグナルペプチドをコードしている天然型又は人工のヌクレオチド配列、
(iv)ヒトタンパク質の成熟型をコードしている天然型又は人工のヌクレオチド配列、
及び(v)天然型又は人工の3’UTR。
【0027】
また、植物の形質転換のためにこのようなベクターを用いる。
【0028】
発現ベクターのヌクレオチド配列は、SEQ ID No:1に示す配列が好ましい。
【0029】
本発明の一実施形態において、発現ベクターを細菌株に導入し、それを直接又は間接に植物の形質転換のために用いる。
【0030】
前記細菌株は、Escherichia coli、Agrobacterium tumefaciens及びAgrobacterium rhizogenesを含む群に属することが好ましい。形質転換される植物は、穀類であることが好ましい。
【0031】
好ましい一実施形態において、前記細菌株を、イネ(Oryza sativa ssp.aponica, 近交系CR W3)の胚形成するカルスの形質転換のために用いる。好ましい変形例において、ヒトリソソーム酵素は、ヒト酸性β−グルコシダーゼである。他の変形例において、ヒトリソソーム酵素は、ヒト酸性α−グルコシダーゼである。
【0032】
実際に、本発明は、分子量、構造及び機能が酸性β−グルコシダーゼと全く異なるヒト酸性α−グルコシダーゼの前駆体の有意な量の合成、抽出及び精製にも同様に有効である。
【0033】
一実施形態において、本発明は種子の産業的な製造を行う第3工程を含む。
【0034】
一解決法において、産業的な製造は、多くのタンパク質混入物を含む繊維状の構成物、胚芽及びアリューロン層を除去するために、収穫された成熟した種子の籾殻を取り、精白することを含む。
【0035】
さらに、一実施形態において、本発明は、組み換え型ヒトタンパク質の精製を行う第4工程を含む。この精製工程は、疎水性相互作用クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ及びゲル濾過の順に行われることが好ましい。さらに、その精製工程は、以下に記載する実施例に示すものと類似の化学組成、構造及び/又は機能を有するクロマトグラフィ用の樹脂を適用すること、溶出条件を部分的に改変すること、及び検体を樹脂に2度通過させること、例えば、カラムから溶出した分画を再びカラムに通すことを代替的に又は付加的に含んでもよい。本発明における酵素は、100U/kg(種子の質量)以上の量において、また、500U/kg(種子の質量)においてさえも精製される。さらに、精製された酵素は、強い活性を有し、欠損、付加又はアミノ酸の置換がなく、結果として、これらの観点においては、ヒトの天然型の対応物と完全に同等である。さらに、胚乳における酵素の蓄積は、種子の生存率又は発芽速度を変化させない。酵素の生成のために用いられる分子カセットは、子孫への正常な遺伝、及びホモ接合体による遺伝又は他の形質転換系列と交叉することによる遺伝のようなメンデルの法則に従う遺伝のどちらの場合も酵素の生成を増大させるのに有利である。
【0036】
本発明に関する方法は、公知技術とは逆に、遺伝子組み換え型、例えば、産業的に適当な量のヒト酸性β−グルコシダーゼを生産できるイネを得ることを可能とし、このイネは通常の表現型(肉眼及び顕微鏡の両方のレベル)と違いがなく、特に、異常な繁殖又は種子の生存率及び発芽速度の変化がなく、酵素濃度が500U/kg(種子の質量)以上であり、明らかに革新的で且つ有利である。また、この方法は、ヒトの天然型の対応物と比較してアミノ酸配列に変化がないように維持されている完全な活性型として、酵素を抽出及び精製できる。
【0037】
植物の胚乳でヒトタンパク質、特に、組み換え型ヒトリソソーム酵素を発現することを目的とする植物の形質転換をするのに適するヌクレオチド配列は本発明に該当し、そのヌクレオチド配列は、以下の要素を含む。
(i)天然型又は人工の胚乳特異的プロモータ、
(ii)天然型又は人工の5’UTR、
(iii)組み換え型ヒトタンパク質を胚乳細胞の質内細網の内腔の中に向け、特異的な組織にヒトタンパク質を蓄積することを決定するのに適するシグナルペプチドをコードしている天然型又は人工のヌクレオチド配列、
(iv)ヒトタンパク質の成熟型をコードしている天然型又は人工のヌクレオチド配列、
及び(v)天然型又は人工の3’UTR。
【0038】
本発明の一実施形態において、前記(i)のプロモータは、イネのグルテリン4プロモータ(GluB4pro)であり、その配列はSEQ ID No:2に示されている。
【0039】
好ましい一実施形態において、前記(ii)の5’UTRは、LLTCKとして知られているリーダー配列であり、特許出願PCT/EP2007/064590に提示され、SEQ ID No:3に示されている。さらに、一実施形態において、(iii)の要素のヌクレオチド配列は、SEQ ID No:4に示されているPSGluB4の配列であり、質内細網の中にグルテリン4前駆体を向けるためにイネに用いられるシグナルペプチドをコードしている。他の実施形態において、(iv)の要素のヌクレオチド配列は、GCase配列であり、SEQ ID No:5に示されているようにヒト酸性β−グルコシダーゼの成熟型がコードされている。
【0040】
本発明の好ましい実施形態において、(v)の要素の3’UTRはNOSターミネータであり、SEQ ID No:6に示されている配列である。この代わりに、GluB4のターミネータが用いられてもよい。発現カセットの全体のヌクレオチド配列は、典型的には、SEQ ID No:1と同一である。前記の配列と相補的な配列も本発明に該当する。前記の配列又はそれらと相補的な配列のうちの1つ又はそれ以上のヌクレオチドの欠損、挿入、変化及び塩基転換のような変異の過程から派生した配列も本発明に該当する。種子の胚乳に特異的にヒト酸性β−グルコシダーゼの成熟型が合成及び蓄積されるのに適し、SEQ ID No:1に示されている配列と異なるプロモータ、質内細網にタンパク質を向けるための配列並びに翻訳されない5’領域及び3’領域を有する、又はこれらの配列と相補的な配列を有するヒト酸性β−グルコシダーゼの成熟型をコードしている前記の配列の組み合わせは本発明に該当する。
【0041】
ヒトにおいて変異又は多型が存在するためSEQ ID No:1と異なる配列により成熟型酵素をコードしている前記に記載(i)、(ii)、(iii)、(iv)及び(v)の要素の組み合わせ、又はそれらの相補的な配列を有する組み合わせも本発明に該当する。
【0042】
さらに、他のリソソーム酵素の成熟型又は前駆体をコードしている配列を有する前記の(i)、(ii)、(iii)、(iv)及び(v)の要素の組み合わせ、又はそれらの相補的な配列を有する組み合わせも本発明に該当する。
【0043】
さらに、前記の組み合わせにおいて、ヒト酸性α−グルコシダーゼをコードしている場合も本発明に該当する。前記の配列で形質転換された植物が穀類である場合も本発明に該当する。前記のヌクレオチド配列を含み、植物においてヒトタンパク質を発現させる、特に、植物の胚乳においてヒトリソソーム酵素を発現するためのベクターも本発明に該当する。発現ベクターは、典型的にはプラスミドである。
【0044】
好ましい解決法において、ヒトリソソーム酵素はヒト酸性β−グルコシダーゼである。
【0045】
その代わりに、ヒトリソソーム酵素はヒト酸性α−グルコシダーゼであってもよい。
【0046】
タンパク質、特に、ヒトリソソーム酵素を生成するための植物の形質転換のために前記の発現ベクターを用いることも本発明に該当する。
【0047】
前記の発現ベクターを含む細菌株も本発明に該当する。その細菌株は、Escherichia coli、Agrobacterium tumefaciens及びAgrobacterium rhizogenesを含む群から選択されることが好ましい。
【0048】
前記の発現ベクターを用いて形質転換された植物細胞も本発明に該当する。
【0049】
本発明に係る解決法において、それらの細胞は穀類の細胞であり、イネ種(Oryza sativa L)に属することが好ましい。それは、食物として用いることに適さないイネの種類であることが好ましい。そのため、デンプン及びその副産物の抽出及び生成のために産業的に用いることができる糯種イネを用いることも本発明に該当する。
【0050】
その代わりに、細胞が、例えば、トウモロコシ(Zea mays L)、オオムギ(Hordeum vulgare L)及びコムギ(Triticum spp)といったGraminaceaeファミリに属してもよい。
【0051】
前記の発現ベクターを含み、ヒトタンパク質、特に、ヒトリソソーム酵素を発現するために形質転換された植物の種子も本発明に該当する。
【0052】
本発明の解決法において、形質転換された植物の種子は穀類に属し、その形質転換された植物はイネ種であるOryza sativa Lに属することが好ましい。
【0053】
本発明に関して保護される範囲は、ヒトタンパク質、特に、ヒトリソソーム酵素の発現のために、前記の発現ベクターを用いて形質転換された植物を含む。このような植物は穀類であり、イネ種であるOryza sativa Lに属することが好ましい。
【0054】
自家受精若しくは交雑により得られた子孫、又は前記の形質転換された植物から選択された形質転換系統も本発明に該当する。
【0055】
本発明には、治療用に用いるための前記の種子も該当する。さらに、本発明には、ERT用薬剤の生産のために前記の種子を用いることも該当する。特に、ゴーシェ病、糖原病II型、ファブリー病、ニーマンピック病B型及びムコ多糖症I型、II型、IV型といった病気のための酵素補充療法に用いることが該当する。本発明には、酵素補充療法に用いるための前記の種子も該当する。特に、本発明には、ゴーシェ病、糖原病II型、ファブリー病、ニーマンピック病B型及びムコ多糖症I型、II型、IV型といった病気のための酵素補充療法に用いる前記の種子も該当する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
添付した図面に関連する非制限的な例である以下に記載する好ましい実施形態により、本発明の前記の特徴及び他の特徴を明らかとする。
【図1】ヒト酸性β−グルコシダーゼの胚乳特異的な生成のために用いられる最終的な発現ベクターであるpSV2006[GluB4pro/LLTCK/PSGluB4/GCase/NOSter]を示す模式図である。
【図2A】GluB4プロモータの下流のLLTCKリーダー配列の再帰的PCRによる合成の方法を示す模式図である。
【図2B】GCase及びHPT II遺伝子にアニーリングする一対のプライマーを用いて、推定上形質転換された植物から抽出されたゲノムDNAから得られた2本鎖のPCR産物の電気泳動解析の結果を示し、レーン1は1kbラダー(NEB)であり、レーン2は陰性対照(NC)、すなわち、形質転換されていない植物から抽出されたゲノムDNAであり、レーン3は陽性対照(PC)、すなわち、pSV2006[GluB4pro/LLTCK/PSGluB4/GCase/NOSter]ベクターであり、レーン4〜16は検体である。
【図3A】GCaseの形質転換体の種子から抽出試験の過程において得られたタンパク質抽出物に対してSDS−PAGEを行った結果を示し、レーン1〜5は精白したイネの検体から連続的に抽出した抽出物を順次流しており、レーン6及び7は精白する際の廃棄物から連続的に抽出した抽出物である。
【図3B】GCaseの形質転換体の種子から抽出試験の過程において得られたタンパク質抽出物に対してウエスタンブロットを行った結果を示し、レーン1〜5は精白したイネの検体から連続的に抽出した抽出物を順次流しており、レーン6及び7は精白する際の廃棄物から連続的に抽出した抽出物であり、陽性対照(PC)は精製されたイミグルセラーゼの100ngであり、精白したイネに含まれる組み換え型ヒト酸性β−グルコシダーゼのほとんどは、3つの穀類抽出物を用いて回収できることを示している。
【図4A】GCaseの形質転換体の種子から抽出試験の過程において得られたタンパク質抽出物に対してウエスタンブロットを行った結果を示し、レーン1はPrecision Plus Protein stanndardマーカー(BioRad)であり、レーン2は陽性対照(PC、100ngのイミグルセラーゼ)であり、レーン3は陰性対照(NC、近交系CR W3である形質転換していないイネから抽出されたタンパク質)であり、レーン4〜10は異なる主要な形質転換体の種子から抽出されたタンパク質である。
【図4B】GCaseの形質転換植物から抽出された種子のタンパク質の2次元電気泳動の後のウエスタンブロットにより検出されたヒト酸性β−グルコシダーゼの3つのグリコフォームを示す図である。
【図5A】形質転換をしていないイネの種子の薄片の透過型電子顕微鏡(12500倍)により得られた免疫局在を示す図である。
【図5B】GCaseの形質転換体の種子の薄片の透過型電子顕微鏡(12500倍)により得られた免疫局在を示す図であり、タンパク質貯蔵液胞(PSVs)にのみ組み換え型ヒト酸性β−グルコシダーゼの蓄積があることを示している。
【図6A】組み換え型ヒト酸性β−グルコシダーゼを含む溶出ピークを示すHICクロマトグラムの例を示す図である。
【図6B】組み換え型ヒト酸性β−グルコシダーゼを含む溶出ピークを示すIECクロマトグラムの例を示す図である。
【図7】NC(形質転換していない植物)及びGCase形質転換体に関する異なるクロマトグラフィの所定量を用いて行われた4−MUG試験において記録された蛍光強度を示すグラフであり、また、関連するウエスタンブロットの結果であり、EXは生の抽出物であり、Rはフロースルーしたものであり、Eは溶出したものであり、PCは陽性対照(イミグルセラーゼ)であり、IECを用いて、真のGCase活性(E2〜E3)は内在性のGCase様物質(E6)と分けることが可能であることを示している。
【図8A】ゲル濾過を用いて最終の精製工程を行った後の組み換え型ヒト酸性β−グルコシダーゼに対してSDS−PAGEを行った結果を示す図である。
【図8B】図8Aに対応するウエスタンブロットの結果を示す図である。
【図9】HIC及びIECにより精製されたGCase検体のMALDI−TOFによって得られたマススペクトルを示す図である。
【図10】最初に人工的に合成された断片からpUC18に構築されるGAA遺伝子を示す模式図である。
【図11】最終的な発現ベクターであるpSV2006[GluB4pro/LLTCK/GAA/NOSter]を構築するのに用いられた方法を示す模式図である。
【図12】異なるGAA形質転換体から得られた総タンパク質抽出物に対して行われたウエスタンブロットの結果を示し、レーン1のMはPrecision Plus Protein standardマーカー(BioRad)であり、レーン2のNCは形質転換されていない植物から抽出された種子のタンパク質であり、レーン3のPCは100ngのマイオザイムであり、レーン4〜10は異なる主な形質転換体から得られた種子のタンパク質抽出物である。
【図13】抗GAA抗体を用いて成熟型種子の胚乳の金免疫標識法の結果を示す図であり、GAAはタンパク質貯蔵液胞(PSVs)において特異的に検出され、タンパク質小体(PBs)において検出されないことを示している。陰性対照(形質転換されていない植物による種子の生成物)においては何も検出されなかった(データは示さない)。倍率は16000倍である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本発明は、特に、イネ(Oryza sativa L.)の種子の胚乳においてヒト酸性β−グルコシダーゼを生成するための方法であり、この方法は、
ヒトタンパク質を発現させ且つ植物の胚乳に局在させ、最終的に胚芽によって吸収されず、胚乳における大量のヒトタンパク質の存在が種子の生存率及び発芽速度に負の影響を与えないように植物の形質転換を行う第1工程と、
植物の種子の胚乳の中にヒトタンパク質を蓄積する第2工程とを備え、
第1工程において、ヒトタンパク質をコードしている遺伝子の上流の胚乳特異的プロモータ、及び新しく合成されるヒトタンパク質の組織特異的な蓄積のために、ヒトタンパク質を胚乳細胞の内質細網の内腔の中に同時翻訳的な移行をするためのシグナルペプチドを用いる。
【0058】
その植物の形質転換を行う方法において、以下の要素を含む発現ベクターを用いる。
(i)天然型又は人工の胚乳特異的プロモータ、
(ii)天然型又は人工の5’UTR、
(iii)組み換え型ヒトタンパク質を胚乳細胞の質内細網の内腔の中に向け、特異的な組織にヒトタンパク質を蓄積することを決定するのに適するシグナルペプチドをコードしている天然型又は人工のヌクレオチド配列、
(iv)ヒトタンパク質の成熟型をコードしている天然型又は人工のヌクレオチド配列、
及び(v)天然型又は人工の3’UTR。
【0059】
発現ベクターに含まれるヌクレオチド配列は、例えば、SEQ ID No:1に示す配列である。
【0060】
GluB4にコードされたタンパク質は、種子の胚乳の中により均一に分布するため、Graminaceae植物、特に、イネの公知の胚乳特異的なプロモータとして、本発明ではGluB4遺伝子のプロモータ(SEQ ID No:2の配列)を用いることが好ましい。さらに、GluB4プロモータは、GluB4以外のグロブリン、プロラミン又はグルテリン等のイネの胚乳の中における他の貯蔵タンパク質をコードしている遺伝子のプロモータと比較してより高い転写活性を有する。
【0061】
GluB4プロモータは、そのリーダー配列と共に、糯種イネの近交系CR W3(Ente Nazionale Risi, Milanにより選択された。)からPCRにより単離される。天然型のリーダー配列は、より短く、遺伝子発現に正の影響を与えるCAA及びCTの繰り返し配列が欠損しているため、LLTCKとして知られ、国際特許出願PCT/EP2007/064590に提示され、SEQ ID No:3に示されている5’UTR(De Amicis等.2007, Transgenic Res 16:731-738)を代わりに用いる。
【0062】
GluB4pro/LLTCKの配列は、PSGluB4/GCaseと結合される。PSGluB4は、内質細網に入るようにイネグルテリン4前駆体に用いられるシグナルペプチドをコードしている配列である(SEQ ID No:4)。GCaseはヒト酸性β−グルコシダーゼの成熟型をコードしている配列である(SEQ ID No:5)。その成熟型は天然型のシグナルペプチドが欠乏した前駆体タンパク質からなる。
【0063】
クローニング又は配列の結合のために用いられる制限酵素の認識配列の導入により生じる成熟型タンパク質のN末端に異質なアミノ酸が付加されることを防ぐために、PSGluB4配列及び成熟型GCaseをコードしている配列の初めの部分に対応するDNA領域(天然型のHind III制限酵素領域まで)は、人工的に合成される。
【0064】
LLTCKと関連する転写開始コドンの認識を良好にするために、また、稀なコドン又はコドンの中において不都合な構成が起こることを避けるために、計画的に導入された変異により、前記のような合成により生じるPSGluB4の配列は、イネの天然型における配列と同義ではあるが、一致はしない。逆に、GCaseの初めの部分は、ヒトの天然型の配列と変わりないように維持されているため、全体のGCaseの配列は、GenBankの登録No M16328のヌクレオチドの553番目と2046番目との間と正確に一致する。Hind III領域からのGCaseの残存領域をコードする配列と前記の合成配列とを結合した後に、全配列は、先にクローニングされたpSV2006の2成分ベクターであるGluB4pro/LLTCKの3’末端に結合される。pSV2006はpCAMBIA 1300プラスミド(www.cambia.org)から出願人により開発されたものである。ヒト酸性β−グルコシダーゼのコンストラクトのために用いられるポリアデニル化シグナルはNOSter、すなわち、Agrobacterium tumefaciensのノパリンシンターゼ遺伝子のターミネータである。NOSターミネータ配列は、SEQ ID No:6に示されている。
【0065】
最終的なベクターであるpSV2006[GluB4pro/LLTCK/PSGluB4/GCase/NOSter](図1)の構築をし、全ての配列を確認した後に、このベクターは、エレクトロポレーションによりAgrobacterium tumefaciensのEHA105株に導入される。その後、その菌株は胚形成するイネカルス(Oryza sativa ssp.japonica, 近交系CR W3)の形質転換のために用いる。選択的な培地における植物の形質転換及び再分化の全ての工程は正常に完了した。光、温度及び湿度が同一の条件であるチャンバにおいて形質転換及び植物の生長の制御を行った間、異なることは見られなかった。遺伝子組み換え型植物における雌花と雄花との受精及び花の欠損の割合は、近交系CR W3である形質転換していない植物と比較する。全ての初代の形質転換体は、ヒト酸性β−グルコシダーゼの発現のレベルに関係なく、平均95%以上の生存率の種子を生成した。さらに、発芽速度はその種の最大値と同等であった(4日〜6日以内であり、生存する種子のほとんどが一次根及び子葉鞘を発生させている。)。初代の形質転換体と同様に、その子孫も正常に生長し、組み換え型のヒト酸性β−グルコシダーゼを含む種子を生成した。酵素をコードしている遺伝子の存在は、全ての推定上形質転換された植物におけるPCR解析により証明され(図2B)、自家受粉により得られた最も良い初代の形質転換体の子孫を、150以上無作為に採取した。これらの解析において、陰性対照及び陽性対照には、それぞれ形質転換されていないCR W3植物の総DNA及び発現ベクターのミニプレップによる抽出物を用いた。さらに、それぞれ試験されたDNA抽出物の増幅についても、イネの葉緑体のDNA領域に対して設計された特異的なプライマーを用いることにより証明された。概して、イネのゲノムはヒト酸性β−グルコシダーゼをコードしている配列を用いて形質転換され、また、その遺伝子組み換えは、子孫に遺伝していることが証明された。子孫への遺伝は、自家受粉による子孫のみでなく、形質転換された植物と陰性対照又は他の形質転換された植物とを交配することにより生じた子孫においても証明された。ヒト酸性β−グルコシダーゼのメッセンジャーRNAの生成を確かめるために、未成熟型のイネの種子(開花後10日〜15日)を収集し、それを用いて総RNAを抽出した。その後に、以下の操作を行った。
a.PCRによるゲノムDNAの混入物の除去。
b.RT−PCRによるヒト酸性β−グルコシダーゼのメッセンジャーRNAの増幅。
c.RT−PCRによるグルテリン4のメッセンジャーRNAの増幅。
その全ての場合において、現れたGCase遺伝子は正常に発現し、グルテリン4貯蔵タンパク質をコードする遺伝子と同一の発現パターンを示した。期待どおり、陰性対照の総RNAを用いた際は、グルテリン4遺伝子の増幅のみが認められた。
【0066】
また、組み換え型タンパク質を免疫局在化し、透過型電子顕微鏡により観察するために未成熟型の種子を用いた。この観察により、ヒト酸性β−グルコシダーゼが胚乳細胞のタンパク質貯蔵液胞にのみ蓄積されていることを証明された。同一の解析をCR W3の対照の種子に対して行った際には、そのような結果は見られず、これにより、この解析法の多大な有効性と我々が用いた抗GCase抗体の絶対の特異性が証明された。最も良い組み換え型の系統を選択するために、また、組み換え型タンパク質の精製方法を開発するために、有効性と共に、信頼性及び感度が高い蛍光定量的な試験を用いてβ−グルコシダーゼの活性を測定できる可能性を有する前記の特異的抗体の用いた。抽出及び精製工程に関して、プロトコールは、未精製のタンパク質抽出物及び組み換え型酸性β−グルコシダーゼの単離及び精製といった、予備的な製造のために開発された。その精製プロトコールは、疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC)、カチオン交換クロマトグラフィ(IEC)及びゲル濾過(GF)といった3つの連続的な工程からなる。種子の籾殻を取り、精白することは、GCaseの最小の損失で、タンパク質混入物の多くを除去するために絶対的に有利であり、その損失は抽出工程の際にも非常に低くなる。内在性のGCase様酵素の除去は、GCase様の活性により、カチオン交換クロマトグラフィの最後に適用される非連続的な溶出工程によって行われる。このクロマトグラフィは、さらに、サンプルの洗練の役割があるゲル濾過を通るタンパク質混入物を減少させる。
【0067】
SDS−PAGEにおいて、精製されたタンパク質は、基本的にイミグルセラーゼ(Cerezyme, Genzyme Corp.)と同一の移動度を示し、約60kdの分子量を示した。ウエスタンブロットにおいて、精製されたタンパク質は、ウサギにより産生された抗イミグルセラーゼ抗体により強く検出された。精製されたタンパク質は、酵素学的活性、特に、蛍光発生基質である4−メチルウンベリフェリルβ−D−グルコシドを効率的に加水分解することを示し、イミグルセラーゼと同一の動的反応を示した。2次元電気泳動では、通常のSDS−PAGEの後に行われたウエスタンブロットにおいて繰り返し検出された単一のバンドを少なくとも3つのグリコフォームに分けた。さらなる解析では、イネの胚乳において生成される組み換え型のヒト酸性β−グルコシダーゼの完全性を証明し、そのアミノ酸配列とヒトの天然型の対応物のアミノ酸配列との同一性を証明した。N末端のミクロシークエンシングは、そのアミノ酸配列の最初のノナペプチドがヒトの天然型の酸性β−グルコシダーゼのN末端のARPCIPKSFと一致することを証明した。また、MALDI−TOFにより行われたペプチドマスフィンガープリント法により、そのタンパク質のC末端は、完全に保存され、また、5番目のNグリコシル化領域においてはグリカン鎖が見られないといった天然型の酵素と類似である部分が証明された。しかしながら、そのタンパク質の第1〜第4のNグリコシル化領域では、グリカン鎖がみられた。その第1のNグリコシル化領域におけるNグリカンの存在は、タンパク質の酵素学的活性のために必須である。
【実施例】
【0068】
(第1の実施例)GCaseの発現のための分子カセットの構築
以下に、イネにおいてヒト酸性β−グルコシダーゼを胚乳特異的に発現する方法を記載する。同様の方法が他の胚乳特異的なプロモータ及び/又は内質細網の中にタンパク質を向けるための配列の存在により特徴づけられるコンストラクトの変異体を作製するために用いられ得る。
【0069】
グルテリン4プロモータ(GluB4pro)の単離
Oryza sativa(GenBank acc.NoAY427571)のグルテリン4プロモータを単離するために、CR W3のゲノムDNAのPCRを行った。このPCRにおいて、以下のプライマーを用いた。
GluB4pro順方向プライマー:SEQ ID No:7に示している。
GluB4pro逆方向プライマー:SEQ ID No:8に示している。
【0070】
後のクローニングのために、GluB4pro順方向プライマーは、アンプリコンの5’末端にSph I及びEco RI領域を導入するように設計され、同様に、GluB4pro逆方向プライマーは、PCR産物の3’末端にXba I領域を導入するように設計された。
条件:95℃で2分間の後、(95℃で45秒間、63℃で40秒間及び72℃で2分間)のサイクルを40回繰り返し、その後、72℃で5分間とした。
【0071】
これにより増幅された産物は、pGEM-T(Promega)の中に入れクローニングし、完全なシークエンシングを行った。
【0072】
GluB4プロモータにおいて天然型のリーダー配列からLLTCKを有する人工のリーダー配列への置換
イネのグルテリン4プロモータ(GluB4pro)の天然型のリーダー配列を合成されたLLTCKリーダー配列(De Amicis等.2007, Transgenic Res 16:731-738)に置換するために、図2Aの模式図に従って、適当なプライマー(1つの順方向プライマー及び3つの逆方向プライマー)を用いて3度の連続するPCRを行った。第1のPCRにおいては、pGET-T[GluB4pro]プラスミドを鋳型として用い、後の2つのPCRにおいては、先の反応による産物を鋳型とした。順方向プライマー1は、Bfr I領域で始まり、GluB4pro配列の3’末端に接してアニールする。逆方向プライマー1は、リーダー領域の少し上流のGluB4proの3’領域にアニールする。アニールしない部分は、初めのLLTCKの合成に寄与する。逆方向プライマー2は、その後の断片にアニールし、LLTCKリーダー配列の第2の領域の合成を行う。逆方向プライマー3は、LLTCK配列の終結部分を導入し、また、3’末端にXba I領域を有する。PCR反応をAccu Taq(Sigma)DNAポリメラーゼを用いて行い、温度条件は以下のようにして行った。
条件:98℃で2分間の後、(94℃で30秒間、65℃で30秒間、68℃で1分間)のサイクルを第1及び第2のPCRでは15回、第3のPCRでは25回繰り返し、その後、68℃で10分間とした。
【0073】
最終のPCR産物をpGEM-Tの中に入れクローニングし、酵素による切断及びシークエンシングにより確認した。pGluB4proの天然型のリーダー配列を人工のLLTCKリーダー配列に置換するために、Bfr I及びXba Iの制限酵素領域を用いた。ベクターと挿入断片とをT4 DNAリガーゼを用いて結合し、その結果生じたpGEM-T[GluB4/pro/LLTCK]をPCR及び制限酵素による切断により確認した。
【0074】
天然のシグナルペプチドからSPGluB4への置換
イネにおけるGCase発現を増大させるために、グルテリン4のシグナルペプチド(SPGluB4)をコードしているヌクレオチド配列は、イネのコドンを基にして最適化され、ヒト酸性β−グルコシダーゼ(GCase)の成熟型をコードしている配列の前に配置される。その成熟型酵素のN末端に異質のアミノ酸が付加されることを防ぐために、結合される末端に偽の制限酵素領域を付加することを避けた。その問題を解決するために、SPGluB4配列、及び天然型のHind III領域までのGCaseの初めの領域である5’末端にXba I領域を含む人工の断片を生成し、pUC57(Fermentas)の中に入れクローニングした。シークエンシングによる確認の後に、pGEM-T[GCase]、すなわち、GenBank No M16328に提示されたヒト酸性β−グルコシダーゼをコードしている全体の配列を含むプラスミドの中の天然型のシグナルペプチドをコードしている断片の代わりに前記の確認した断片を入れ、クローニングした。挿入断片及びベクターのバックボーンのそれぞれを生成するために、pUC57[SPGluB4]及びpGEM-T[GCase]の両方をXba I及びHind IIIを用いて切断した。pGEM-T[SPGluB4/GCase]を作製するために、これらの部分をT4 DNA ligaseを用いて結合し、制限酵素による切断により確認した。
【0075】
イネにおけるヒト酸性β−グルコシダーゼの発現のための分子カセットの構築
GluB4pro/LLTCK及びSPGluB4/GCaseに対応する領域を、Agrobacterium tumefaciensのNOSポリアデニル化配列を含むpUC18(Pharmacia)由来のプラスミドであるpUC18[NOSter]の中に入れてサブクローニングする2つの工程を行った。この目的のために、それぞれの領域の5’末端及び3’末端に導入された制限酵素による切断領域を用い、すなわち、GluB4pro/LLTCKにはSph I及びXba Iを、SPGluB4/GCaseにはXba I及びSac Iを用いた。
【0076】
pSV2006[GluB4pro/LLTCK/SPGluB4/GCase/NOSter]ベクターの作製
最終的な発現ベクターを得るために、pSV2006(pCAMBIA 1300由来)を用いた。Eco RIによる切断により、pSV2006の本来の発現カセット及びpUC18[GluB4pro/LLTCK/SPGluB4/GCase/NOSter]に含まれるコンストラクトを除去した。最終的な発現ベクター(図1)を得るために、前記処理後のpSV2006と挿入断片とを互いに結合し、そのベクターの特異性を解析した後に、そのベクターをエレクトロポレーションによりAgrobacterium tumefaciensであるEHA 105株の中に導入した。遺伝子操作されたAgrobacterium tumefaciens株を、Oryza sativa ssp.japonicaである近交系CR W3の形質転換のために用いた。
【0077】
(第2の実施例)Agrobacterium tumefaciensを介するイネの形質転換
イネの形質転換は、C.Huge(Rice Research Group, Institute of Plant Science, Leiden University)及びE.Guiderdoni(Biotrop program,Cirad, Montpellier, France)により改変されたHieiのプロトコール(Hiei等,1994)に従って行った。その方法の主な工程を以下に簡単に示す。
【0078】
胚形成のカルスの作製
イネの形質転換は、胚盤由来の胚形成のカルスを用いて行った。胚盤組織からカルスの増殖を誘導するために、イネの種子の籾殻を取り、潜在的な病原体及び雑菌の汚染を除去するために消毒し、無菌の蒸留水により数回洗浄し、無菌の吸い取り紙により乾燥させ、カルス誘導培地(CIM)を含むペトリ皿に移した。そのペトリ皿を28℃の暗所で7日間培養した後に、実生から胚盤を切り取り、それを28℃の暗所で14日間CIMにおいて培養した。その培養の後、カルスの塊を小さな白いカルスを基にして選択した。それらを新しいCIMに移し、形質転換するのに適する胚形成のカルスを生成するために10日間培養した。
【0079】
カルスとAgrobacterium tumefaciensとの共培養
形質転換のためのAgrobacterium tumefaciensの十分な量を得るために、前記の発現ベクターを有する菌株をLB寒天培地において30℃で3日間培養した。Agrobacterium細胞の層を収集し、O.D.600が1.00(約3〜5×10cells/mL)になるまで、それを液体共培養培地(CCML)において再懸濁した。最も良いカルス、すなわち、密であり、白色であり、直径が2mmであるカルスを細菌の懸濁液に浸した。そのカルスを無菌のワットマン紙に吸湿させた後、縁が高いペトリ皿(Sarstedt)で20%の濃度となるように共培養培地(CCMS)に移し、25℃の暗所で3日間培養した。
【0080】
ハイグロマイシン耐性カルスの選択
共培養培地における培養が終了した後に、カルスを選択培地 I(SM I)に移し、28℃の暗所で2週間培養した。その後、カルスを選択培地 II(SM II)に移し、前記と同一の条件でさらに1週間培養した。
【0081】
形質転換されたカルスからの植物の再生
形質転換された植物の再生を適当なホルモン刺激により行った。胚形成のハイグロマイシン耐性カルスを選択し、それを前再生培地(PRM)に移し、縁の高いペトリ皿の中において28℃で1週間培養した。その後、カルスを再生培地(RM)が入った1つのペトリ皿当たり8個〜10個となるように移した。それを明るい場所において28℃で3週間〜4週間置き、植物の再生を起こさせた。植物がカルスから分離するのに十分に生長した後(高さが3cm以上)、それらを25mLの発根培地(ROT)を含む培養管に移した。その培養管は、28℃の明るい場所で約3週間置いた。その再生工程の最後に、泥炭を用いて鉢植えし、金属ハロゲンランプのOsram Powerstar HQI-BT400W/D(明が16時間、暗が8時間の光周期)を用いた条件下で24℃、湿度85%に制限された人工気象室において成熟するように生長させた。
【0082】
(第3の実施例)GCaseコンストラクトを用いて形質転換されたイネの種子からの総タンパク質の抽出
遺伝子組み換え型イネの種子をまずSatake TO-92(Satake Corporation,Japan)を用いて籾殻を取り、精白した。その後、精白したイネの種子を製粉し、生じた粉を抽出緩衝液(50mM 酢酸ナトリウム、350mM NaCl、pH=5.5)の中で均質化した。なお、その際の緩衝液の体積(mL)と粉の重量(g)との比率を10:1.5とした。それを4℃で1時間置いた後、それを14000×gで45分間遠心分離を行った。上清を回収した後、残った沈殿物に対して、前記と同一の方法を用いてさらに2度抽出を行った。精白した種子及び精白の際の廃棄物から得られたタンパク質抽出物に対して、SDS−PAGE(図3A)とウエスタンブロット(図3B)との両方の解析を行った。これらの解析により、組み換え型ヒト酸性β−グルコシダーゼのほとんどが精白した種子に含まれ、3度の連続の抽出により効率良く回収され得ることが証明された。
【0083】
(第4の実施例)GCaseを形質転換した種子の総タンパク質抽出物のウエスタンブロット及び2次元電気泳動
Mini Protean II装置(BioRad)及び厚さが75mmの10%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGE(Laemli, 1970)により、総タンパク質抽出物を分離した。検体を流す前に、検体にβ−メルカプトエタノールを加えずに、検体を100℃で5分間変性させた。SDS−PAGEの後、Trans-Blot SD装置(BioRad)を用いて15Vで30分間、タンパク質をポリフッ化ビニリデン膜(ミリポアのPVDF, Immobilon-P)に転写した。その後、市販のイミグルセラーゼを用いて2羽のウサギに免疫化することにより生成した抗GCaseポリクローナル抗体と、検体とをハイブリダイズした。ハイブリダイズの条件は、ブロッキング液(PBSに7.5% p/v Oxoid skim milkを溶解した。)により1000倍に希釈した抗体を用いて室温で1時間反応させた。PBS Tween 0.1% v/vで洗浄した後、抗ウサギHRP結合2次抗体(SIGMA, 1:10000の希釈倍率)を用いて室温で1時間反応させた。その後、ECL Plus(GE Healthcare)を用いて化学発光させた。陽性のタンパク質バンドの分子量を測定するために、Precision Plus Protein standard(BioRad)をHRP結合Precision Strepactin抗体(BioRad)と共に用いた(図4A)。
【0084】
約200μgの種子の総タンパク質を含む2つの検体を等電点電気泳動法及びSDS−PAGEにより解析した。第1の解析は、PROTEAN IEF focusing system(BioRad)及び非直線的なpH3〜10の範囲における7cmのReady Strip IPG(BioRad)を用いて行った。タンパク質抽出物を、2D Clean-Up kit(GE Healthcare)を用いて沈殿させ、130μLのDeStreak Rehydratation溶液(GE Healthcare)及び0.6% Byolites ampholytes 3-10(BioRad)を用いて再懸濁した。その後の条件は以下のようにする。
工程1:250Vで15分間
工程2:4000Vで2時間
工程3:20000V-hourで約24時間。
【0085】
これらの終わりに、2つの異なる平衡緩衝液を用いて洗浄した。すなわち、平衡緩衝液 I(2% DTT、2% SDS、50mM Tris-HCl、6M 尿素、30% グリセロール及び0.002% ブロモフェノールブルー,pH8.8)で15分間洗浄し、平衡緩衝液 II(2.5% ヨードアセトアミド、2% SDS、50mM Tris-HCl、6M 尿素、30% グリセロール及び0.002% ブロモフェノールブルー,pH8.8)で20分間洗浄した。SDS−PAGEの標準的なプロトコールに従って、検体を2つの分離ゲルにおいて第2の次元に流した。1つの電気泳動ゲルをColloidal Coomassie Blue(0.08% クマシーブルー R-250、1.6% オルト−リン酸、8% 硫酸アンモニウム及び20% メタノール)を用いて染色し、他方のゲルはウエスタンブロットにより解析した(図4B)。これらの全行程は、形質転換していないCR W3の種子から得られたタンパク質検体に対しても並行して行った。
【0086】
(第5の実施例)免疫局在化によるGCase貯蔵領域の決定
乳熱後期の形質転換された種子を収穫し、籾殻を取り、断片が1mmの厚さになるように切断し、0.2%グルタルアルデヒドを用いて室温で1時間固定した。それを0.15Mリン酸緩衝液により洗浄した後、無水エタノールの濃度勾配(25%〜100%)を用いて脱水を行った。脱水した検体をLR White Resin(London Resin Co.)に包埋し、60℃で24時間重合した。それをLKB Nova microtome(Reichter)を用いて切片(厚さ2μm〜3μm)とし、これをニッケルメッシュグリッド(Electron Microscopy Science)に置き、ヤギ標準血清溶液(Aurion)をbuffer C(0.05M Tris-HCl,pH7.6, 0.2% BSA)により1:30の希釈倍率で希釈した溶液に15分間浸した後に、抗GCase1次抗体をbuffer Cにより1:500の希釈倍率で希釈した溶液を用いて室温で1時間ハイブリダイズした。0.1% Tween 20 w/vを含むbuffer B(0.5M Tris-HCl,pH7.6,0.9% NaCl)を用いて数回洗浄した後(6回×5分)、コロイド金が結合した2次抗体(15nm, Aurion)をbuffer E(0.02M Tris-HCl,pH8.2, 0.9% NaCl, 1% BSA)により1:40の希釈倍率で希釈した溶液に切片を室温で1時間浸した。ハイブリダイズの最後に、切片を洗浄した後、酢酸ウラニル及びクエン酸鉛を用いて染色し(Reynolds,1963)、Philips CM 10透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて切片を観察した。
【0087】
その結果は、種子の胚乳のタンパク質貯蔵液胞(PSVs)にのみGCaseが存在することを示し、また、抗GCaseポリクローナル抗体はGCaseを強く且つ鮮明なシグナルにより同定し、有意なバックグラウンドは見られなかった。形質転換されていないイネの種子に対しても同一の解析を行った結果、基質と結合した交差反応領域は見られず、抗GCase抗体の高い特異性が証明された。
【0088】
(第6の実施例)イネの種子から抽出した組み換え型ヒト酸性β−グルコシダーゼの精製
この精製のために、産業的な規模のプロトコールを開発した。そのプロトコールは、疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC)を用いて捕獲する初期段階(図6A)、イオン交換クロマトグラフィ(HIC)を基にする中間段階(図6B)及びゲル濾過を用いて洗練する最終段階を基とする。全てのクロマトグラフィの段階は、AKTA Prime system(GE Healthcare)を用いて行った。
【0089】
疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC)
この段階は、5mLのHiTrap Octyl FF(GE Healthcare)を用いて行った。この段階の最初に、1倍量のローディング緩衝液(50mM酢酸ナトリウム、350mM NaCl及び100mM 硫酸アンモニウム,pH5.5)を用いてカラムを平衡化し、カラムに検体を流す前に、3M硫酸アンモニウム溶液を硫酸アンモニウムの最終濃度が100mMになるように精製させる抽出物に加え、その後に、その抽出物を0.2mmフィルタ(Millipore)に通して濾過した。その検体を1mL/minの流速でカラムに流した。カラムを50mM酢酸ナトリウムを含む3倍量のローディング緩衝液を用いて、ベースラインが平坦となるまで洗浄した。その後、50mM酢酸ナトリウムに含まれる66%エチレングリコールを用いて溶出を行った。この段階の最後に、カラムを20%エタノールを用いて洗浄及び再生化を行った。
【0090】
イオン交換クロマトグラフィ(IEC)
IECのために、カチオン樹脂を含む5mLのHitrap SP FF(GE Healthcare)を用いた。カラムを50mM酢酸ナトリウム(溶液A)により平衡化した後、HICから溶出された分画を溶液Aにより1:1の希釈倍率で希釈し、それをカラムに流した。カラムを洗浄した後、溶液Aの中に1M溶液の15%、20%及び100%に相当するNaCl量を順に増やすことによる断続的な勾配溶出を行った。その後に、カラムを20%エタノールで再生化した。それぞれのクロマトグラフィ操作から回収された所定の分量に対して免疫解析を行い、20%NaClを含む溶液により組み換え型のヒト酸性β−グルコシダーゼを溶出できることを証明した。形質転換されていない種子のタンパク質抽出物から得られた溶出分画に対して酵素活性試験を行うことにより、このクロマトグラフィ段階において、GCase様活性を起こす原因となる内在性の構成物からヒト酸性β−グルコシダーゼが分離したことが示された。特に、20%NaClにおいて、その内在性の構成物はカラムに効率的に保持されていることが示された(図7)。
【0091】
ゲル濾過
ゲル濾過のために、HiPREP 16/60 Sephacryl S-100 High Resolution column(GE Healthcare)及び20mM酢酸ナトリウムと200mM NaClにより構成された溶出緩衝液(pH5.5)を用いた。最初にそのカラムを2倍量の溶出緩衝液を用いて洗浄し、IECにおいて溶出された検体を0.3mL/minの流速で流した。所望のピークをSDS−PAGE及びウエスタンブロットにより解析した(図8A及び図8B)。
【0092】
(第7の実施例)GCaseの酵素活性の測定
組み換え型のヒトGCaseの活性を4−MUG(4−メチルウンベリフェリル β−D−グルコシド, SIGMA)を基質として用いて測定した。反応混合液は、75mMリン酸カリウム緩衝液(ph5.9)、 0.125% w/vタウロコール酸及び3mM 4−MUGを含む。反応は300μLの試験溶液に10μLの検体を入れ、37℃で1時間行った。その反応を0.1Mグリシン−NaOH(ph10.0)を1690μL加えることにより終了させた。酵素活性は、励起波長が365±7nmで且つ放出波長が460±15nmとした蛍光光度計を用いて測定した。1分間当たり1μmoleの基質が酵素により遊離する量を1ユニット(U)として定義した。異なる検体の量は、市販のイミグルセラーゼの公知の量と比較して測定した。蛍光光度の測定により、イネの胚乳で生成されたヒトGCaseは、活性を有し、市販のイミグルセラーゼと同一の動的反応により特徴付けられることが証明された。
【0093】
(第8の実施例)組み換え型GCaseのN末端配列の同定
GCaseのN末端配列の正確さを、タンパク質ミクロシークエンシングにより確認した。このために、酵素の所定の分量をHIC及びIECを用いて精製し、それをSDS−ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動を行い、Trans-Blot Semi-Dry装置を用いてPVDF膜に転写した(転写条件:10mM CAPS緩衝液及び10%メタノール,pH11.0を用い25Vで30分間行った。)。この転写の後に、転写膜を50%メタノールに溶解した0.25%(w/v)クマシーブルーR-250を用いて5分間染色し、水により洗浄し、所望のタンパク質に対応するバンドを可視化するために50%メタノールにより10分間脱染した。ミクロシークエンシングをエドマン分解法(Edman,1950)に従って行った。この解析により、ヒト酸性β−グルコシダーゼの成熟型のN末端配列と完全に一致するノナペプチド(ARPCIPKSF)の存在が示された。従って、イネのグルテリン4シグナルペプチドは小胞体膜により認識され、内部移行段階の際に正確に移行されることが結論づけられた。
【0094】
(第9の実施例)精製GCaseのMALDI−TOF解析
トリプシンによるタンパク質の切断
ゲル電気泳動と、0.25%(w/v)クマシーブルーR-250水溶液、50%メタノール及び10%氷酢酸を用いた染色との後に、組み換え型GCaseに対応するタンパク質のバンドを切り出し、それを300μLの100mM NHHCOと100%アセトニトリル(ACR)とが50:50(v/v)の比である溶液を用いて37℃で洗浄し、すりつぶし、100μLのACNにより脱水した。続いて、ジスルフィド結合を還元するために、そのタンパク質のバンドを20mM DTTを含む100mM NHHCOを50μL用いて56℃で1時間処理し、50mM IAA(ヨードアセトアミド)を含む100mM NHHCOを50μL用いて30分間アルキル化を行った。さらに、そのタンパク質のバンドを300μLの100mM NHHCOを用いて洗浄した後、20mM NHHCOと100% ACNとが50:50(v/v)の比である溶液を300μL用いて洗浄し、100μLのACNを添加し再び脱水した。その後、タンパク質のバンドを100mM NHHCO及び50ng/μL トリプシン(Promega)を含む切断緩衝液を5μL〜10μL用いて再水和し、その30分後に20μLの20mM NHHCOを加えた。それを37℃で一晩の間温置した後、トリプシンによるペプチドを含む緩衝液を移し、2% ギ酸と60% ACNとの溶液(50:50 v/v)を検体に加えることにより、さらにペプチド抽出を行った。2つの抽出物を一緒にプールし、MALDI−TOF解析(Perkin Elmer)のために用いた。
【0095】
C18樹脂によるペプチド精製
トリプシンによる切断物をC18 zip-tip(Millipore)を用いて精製及び脱塩した。そのチップは10μLの100% ACNで4回洗浄し、10μLの0.1% TFA(トリフルオロ酢酸)で3回洗浄した。その活性化させたチップに検体を加え、0.1% TFAで洗浄した後、C18 zip-tipの逆相の樹脂に結合したペプチドを100% ACNと0.1% TFAとが70:30(v/v)の比である溶液を10mL用いて溶出した。
【0096】
MALDI−TOFマス分光法を用いたペプチドマスフィンガープリント法によりタンパク質の同定
MALDI−TOF解析のための検体の調製は、1μLの精製したペプチドに金属の台に置かれた1μLのCHCA樹脂(α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸)濃縮溶液加えることにより行った。この解析(図9)により、第6の実施例において記載した方法を用いて精製されたタンパク質がヒト酸性β−グルコシダーゼと確かに一致することが証明された。特に、この同定は、10−32のスコア及び認識されたペプチドと53%が等しいカバー度を用いて得られた。有意なレベルはスコアが10−6以下で且つカバー度が30%以上の範囲であるため、それらの結果は絶対的な保証となる。興味深いことに、そのタンパク質のN末端及びC末端の両方は、MALDI−TOFにおいて認識されたペプチドの中で見つけられた(全リストである[表1]を参照。)。
【0097】
【表1】

【0098】
(第10の実施例)GAA発現ベクターの作製
本実施例では、ヒト酸性α−グルコシダーゼのイネの胚乳特異的な発現のための方法を記載する。特に、最終的な発現ベクターであるpSV2006[GluB4pro/LLTCK/GAA/NOSter]の調製について示す。このベクターは、前記のpSV2006[GluB4pro/LLTCK/GCase/NOSter]ベクターのGCase遺伝子をGAA遺伝子に置換することにより作製された。
【0099】
ヒト酸性α−グルコシダーゼをコードしている配列(GenBank ACC. No NM 000152)は、イネの胚乳において導入遺伝子の発現レベルを増大させるために改変されており、新規のGAAをコードしている配列は、イネのコドンを基に書き直されている。さらに、天然のGAAシグナルペプチドをPSGluB4と置換し、すなわち、小胞体内腔に組み換え型GCaseを向けるためのものと同一の移行ペプチドを用いた。GAAをコードしている配列は2850bpの長さであるため、3つの断片(A、B及びC)に分けて人工的に合成した。明らかに方向付けられた様式でこれらの断片を構築するために、それらの端部に同義の点変異を生じさせることにより制限酵素領域を導入した。pSV2006の中にGAA遺伝子の全てを入れることを容易にするために、第1の断片の5’末端及び第3の断片の3’末端のそれぞれにXba I領域及びSac I領域を導入した。3つのGAA断片の構築をpUC18ベクターの中で行い(図10)、全配列(SEQ ID No:9)を確認した後、その遺伝子をXba I及びSac Iを用いた切断によりpUC18から切り出し、pSV2006[GluB4pro/LLTCK/GCase/NOSter]の中のGCase遺伝子と置換してクローニングし、最終的な発現ベクターであるpSV2006[GluB4pro/LLTCK/PSGlub4/GAA/NOSter](図11)を得た。
【0100】
(第11の実施例)GAAタンパク質抽出物のウエスタンブロット
すり鉢及びすりこぎを用いて、籾殻を取った5つの種子を350mM NaClを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液の1mL中で轢いた。その後の結果物を氷上で1時間撹拌し、続いて、それを4℃で45分間、15000×gで遠心分離を行った。その後の上清(20μgの可溶性タンパク質)をPrecision Protein Standard(BioRad)と共に10%ポリアクリルアミドゲルに流した。そのゲルをTrans blot SD装置(BioRad)を用いて0.2μmPVDF膜(Millipore)に転写した。その転写膜に7.5%の脱脂粉乳を含むPBS緩衝液(Oxoid)を用いて室温で1時間ブロッキングを行った。洗浄後、凍結乾燥されたαアルグルコシダーゼ(Myozyme, Genzyme Corp)を抗原として用いて生成したウサギポリクローナル抗体の1次抗体を前記のブロッキング緩衝液で1:5000の希釈倍率で希釈し、これに転写膜を室温で1時間浸した。その後、HRP結合2次抗体(Sigma Aldrich)を1:10000の希釈倍率で希釈し、これに転写膜を室温で1時間浸した。最終の洗浄後に、転写膜にECL plus(GE Healthcare Bio-Science)を用いて化学発光させた(図12)。
【0101】
(第12の実施例)イネの胚乳における組み換え型GAAの免疫局在化
この方法は、GCaseコンストラクトを用いて形質転換されたイネの種子について説明した方法とほとんど類似している。
【0102】
簡単に説明すると、開花から約10日〜15日の未成熟なイネの種子を脱水し、LR White Resin(London Resin Co.Ltd.,Hamshire,UK)に包埋した。そのブロックを60℃で24時間重合した。その後、それをultramicrotome LKB Nova(Reichter)を用いて極度に薄い切片とし、免疫局在化のためにニッケルグリッド(Electron Microscopy Science)の上に載せた。その切片を標準ヤギ抗血清(Aurion)をbuffer Cにより1:30の希釈倍率で希釈した溶液に15分間浸し、その後、抗GAA血清(ウエスタンブロット解析において用いたものと同一のもの)をbuffer Cにより1:100の希釈倍率で希釈した溶液に室温で1.5時間浸した。洗浄後、15nmのコロイド金が結合したヤギから作製された抗ウサギ抗体(Aurion)を0.9% NaCl及び1% BSAを含む0.02M Tris-HCl,pH8.2により1:40の希釈倍率で希釈した溶液に切片を1時間浸した。その後、0.1%クエン酸鉛(Reynolds,1963)を用いて切片を染色し、Philips CMIO透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した。同一の操作を形質転換されていないイネ由来の検体においても行った。
【0103】
GCase形質転換の種子の切片において観察されたように、GAA形質転換の種子の胚乳の免疫金標識により組み換え型酵素がタンパク質貯蔵液胞(PSVs)の中に特異的に局在していることが示された(図13)。タンパク質小体又は陰性対照のCR W3において、シグナルは検出されなかった。
【0104】
(第13の実施例)GAAタンパク質抽出物のELISA
ELISAを行う前に、第11の実施例において示したようにウサギから生成された2mLの抗GAA抗血清抗体を、1mLのHitrap rProtein A FFカラム(GE Healthcare)により精製した。その後、以下に示すプロトコールのようにEZ-Link Maleimide activated Horseradish peroxidase kit(Pierce)を用いてホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)を精製されたIgGsに結合させた。100μLのMaleimide conjugation緩衝液を2-MEAの6mgバイアルに加え、その溶液にIgG検体を加え、これを37℃で90分間温置した。室温で平衡化した後、IgG/2-MEA溶液を脱塩カラムに通し、30mLのMaleimide conjugation緩衝液を用いて前平衡化を行った。続いて、Maleimide conjugation緩衝液をカラムに加え、0.5mLの分画を回収した。タンパク質のピークを位置づけるために、それぞれの分画の280nmの吸光度を測定し、還元されたIgGを含む分画をプールし、それを活性化されたHRPのバイアルに加えた。この反応を室温で1時間行った。その後、Maleimide coating緩衝液(PBS及びEDTAを含む。)とsuperdex 200 10/300 GLカラムとを用いてゲル濾過を行った。溶出されたピークを0.85μg/μLの濃度となるまでAmicon Ultra-10(Millipore)により濃縮した。HRPが結合した抗GAA抗体の質をELISAにより試験した。このため、1mg/mLのMyozyme抗原をプレートにコーティングし、ブロッキングした後、そこに異なる希釈倍率で希釈した前記の抗体を加え、37℃で30分間温置した。その後に、TMB基質(3,3',5,5''-テトラメチルベンジジン)を用いて検出を行い、抗原の最も低い検出限界は、HRPが結合した抗GAA抗体を1:1000の希釈倍率で希釈したものを用いた際に得られた。
【0105】
この抗体を以下に示すような未精製のタンパク質抽出物に対してサンドウィッチELISAを行うために用いた。ELISAプレートのマイクロウェルの中に、15ng/μLの精製された抗GAA抗体を100μL加え、4℃で一晩置くことによりコーティングを行った。
【0106】
3%BSAを含むPBSを用いて室温で1時間ブロッキングを行い、PBS 0.1% Tween-20を用いてリンスした後、種子から抽出した総タンパク質(PBS 0.1% Tween-20及び1% BSAにより1:10又は1:100の希釈倍率)を加え、37℃で30分間温置した。その後、3回洗浄し、HRPが結合した抗GAA抗体をPBS 0.1% Tween-20及び1% BSAにより1:40の希釈倍率で希釈したもの加え37℃で30分間温置した。4回洗浄した後、TMB基質を用いて検出した。
【0107】
公知の量の標準Myozymeを用いて行われたELISA試験に基づいて、GAAの初代形質転換体から得られた種子のタンパク質検体は、総可溶性タンパク質の0.5%に相当する平均的なGAA含量を示した。
【0108】
本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の部分又は工程の改変及び/又は付加することは、植物においてヒトタンパク質、特に、前記に記載した穀類の胚乳において組み換え型ヒトリソソーム酵素を生成する方法のために行われてもよいことは明らかである。
【0109】
また、本発明は、特定の実施例を参考に説明したが、植物においてヒトタンパク質を生成する、特に、特許請求の範囲において明らかとした特徴を有する穀類において組み換え型ヒトリソソーム酵素を生成する方法と同等な当業者が必ず達成できると考えられる他の多くの方法は、それに関して特許請求の範囲に定義された保護範囲内となることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトタンパク質、特に、組み換え型ヒトリソソーム酵素を発現させ且つ植物の胚乳に局在させ、最終的に胚芽によって吸収されず、胚乳における大量の前記ヒトタンパク質の存在が種子の生存率及び発芽速度に負の影響を与えないように植物の形質転換を行う第1工程と、
植物の種子の胚乳の中に前記ヒトタンパク質を蓄積する第2工程とを備え、
前記第1工程において、前記ヒトタンパク質をコードしている遺伝子の上流の胚乳特異的プロモータ、及び新しく合成される前記ヒトタンパク質の組織特異的な蓄積のために、前記ヒトタンパク質を胚乳細胞の内質細網の内腔の中に同時翻訳的な移行をするためのシグナルペプチドを用いることを特徴とする植物において前記ヒトタンパク質を生成する、特に、植物の胚乳において前記組み換え型ヒトリソソーム酵素を生成する方法。
【請求項2】
前記ヒトタンパク質は、胚乳のタンパク質貯蔵液胞(PSVs)又はタンパク質小体(PBs)に蓄積されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(i)天然型又は人工の前記胚乳特異的プロモータと、
(ii)天然型又は人工の5’UTRと、
(iii)前記ヒトタンパク質を胚乳細胞の質内細網の内腔の中に向け、特異的な組織に前記ヒトタンパク質を蓄積することを決定するのに適する前記シグナルペプチドをコードしている天然型又は人工のヌクレオチド配列と、
(iv)前記ヒトタンパク質の成熟型をコードしている天然型又は人工のヌクレオチド配列と、
(v)天然型又は人工の3’UTRとを備えている植物の形質転換ための発現ベクターを構築し、
植物の形質転換のために前記発現ベクターを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記発現ベクターのヌクレオチド配列は、SEQ ID No:1に示されている配列であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記発現ベクターを細菌株に導入し、前記細菌株を直接又は間接に植物の形質転換のために用いることを特徴とする請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記細菌株は、Escherichia coli、Agrobacterium tumefaciens及びAgrobacterium rhizogenesを含む群に属することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
形質転換される植物は、穀類であることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか1項に記載する方法。
【請求項8】
前記細菌株をイネ(Oryza sativa ssp.japonica,近交系CR W3)の胚形成のカルスの形質転換のために用いることを特徴とする請求項5〜7のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ヒトリソソーム酵素は、ヒト酸性β−グルコシダーゼであることを特徴とする請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ヒトリソソーム酵素は、ヒト酸性α−グルコシダーゼであることを特徴とする請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
形質転換された植物の種子の産業的な製造を行う第3工程をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜10のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記第3工程は、多くのタンパク質混入物を含む繊維状の構成物、胚芽及びアリューロン層を除去するために、収穫された成熟した種子の籾殻を取り、精白することを含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
組み換え型の前記ヒトタンパク質を精製する第4工程をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜12のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記第4工程は、疎水性相互作用クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ及びゲル濾過を含むことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第4工程は、類似の化学組成、構造及び/又は機能を有するクロマトグラフィ用の樹脂を適用すること、溶出条件を部分的に改変すること、及び検体を樹脂に2度通過させることとを含むことを特徴とする請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
(i)天然型又は人工の胚乳特異的プロモータと、
(ii)天然型又は人工の5’UTRと、
(iii)組み換え型ヒトタンパク質を胚乳細胞の質内細網の内腔の中に向け、特異的な組織に前記ヒトタンパク質を蓄積することを決定するのに適するシグナルペプチドをコードしている天然型又は人工のヌクレオチド配列と、
(iv)前記ヒトタンパク質の成熟型をコードしている天然型又は人工のヌクレオチド配列と、
(v)天然型又は人工の3’UTRとを備え、
植物の胚乳で前記ヒトタンパク質、特に、組み換え型ヒトリソソーム酵素を発現するための植物の形質転換に適するヌクレオチド配列。
【請求項17】
前記(i)のプロモータは、イネのグルテリン4プロモータ(GluB4pro)であることを特徴とする請求項16に記載のヌクレオチド配列。
【請求項18】
前記(ii)の5’UTR領域は、LLTCKであるリーダー配列であることを特徴とする請求項16又は17に記載のヌクレオチド配列。
【請求項19】
前記(iii)のヌクレオチド配列は、質内細網の中にグルテリン4の前駆体を向けるためにイネに用いられるシグナルペプチドをコードしているPSGluB4配列であることを特徴とする請求項16〜18のうちのいずれか1項に記載のヌクレオチド配列。
【請求項20】
前記(iv)のヌクレオチド配列は、ヒト酸性β−グルコシダーゼの成熟型をコードしているGCase配列であることを特徴とする請求項16〜19のうちのいずれか1項に記載のヌクレオチド配列。
【請求項21】
前記(v)の3’UTRは、NOSターミネータ又はGluB4遺伝子のターミネータであることを特徴とする請求項16〜20のうちのいずれか1項に記載のヌクレオチド配列。
【請求項22】
SEQ ID No:1に示す配列である請求項16〜21のうちのいずれか1項に記載のヌクレオチド配列。
【請求項23】
請求項16〜22のうちのいずれか1項に記載のヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列。
【請求項24】
請求項16〜22のうちのいずれか1項に記載の配列、又はそれらと相補的な請求項23に記載の配列のうちの1つ又はそれ以上のヌクレオチドの欠損、挿入、変化及び塩基転換といった変異の過程から派生したヌクレオチド配列。
【請求項25】
種子の胚乳に特異的にヒト酸性β−グルコシダーゼが合成及び蓄積されるのに適し、SEQ ID No:1に示されている配列と異なるプロモータ、質内細網にタンパク質を向けるための配列並びに翻訳されない5’領域及び3’領域を有する、又はこれらの配列と相補的な配列を有するヒト酸性β−グルコシダーゼの成熟型をコードしている請求項16〜22のうちのいずれか1項に記載の配列の組み合わせ。
【請求項26】
ヒトにおいて同義の変異又は多型が存在するためSEQ ID No:1に示されている配列と異なる配列により成熟型の前記ヒトリソソーム酵素をコードしている配列を有する請求項16に記載の前記(i)、(ii)、(iii)、(iv)及び(v)の要素の組み合わせ、又はそれらの相補的な配列の組み合わせ。
【請求項27】
ヒト酸性β−グルコシダーゼと異なるリソソーム酵素の成熟型又は前駆体をコードしている配列を有する請求項16に記載の前記(i)、(ii)、(iii)、(iv)及び(v)の要素の組み合わせ、又はそれらの相補的な配列の組み合わせ。
【請求項28】
前記ヒトリソソーム酵素は、ヒト酸性α−グルコシダーゼである請求項27に記載の組み合わせ。
【請求項29】
形質転換された植物は、穀類であることを特徴とする請求項16〜28に記載の配列。
【請求項30】
請求項16〜29のうちのいずれか1項に記載のヌクレオチド配列を含む、植物において前記ヒトタンパク質を発現する、特に、植物の胚乳において組み換え型の前記ヒトリソソーム酵素を発現するベクター。
【請求項31】
前記ヒトリソソーム酵素は、ヒト酸性β−グルコシダーゼであることを特徴とする請求項30に記載のベクター。
【請求項32】
前記ヒトリソソーム酵素は、ヒト酸性α−グルコシダーゼであることを特徴とする請求項30に記載のベクター。
【請求項33】
プラスミドであることを特徴とする請求項30〜32のうちのいずれか1項に記載のベクター。
【請求項34】
前記ヒトタンパク質、特に、前記ヒトリソソーム酵素の生成のための植物の形質転換のために用いる請求項30〜33のうちのいずれか1項に記載のベクターの用途。
【請求項35】
請求項30〜33のうちのいずれか1項に記載のベクターを含む細菌株。
【請求項36】
Escherichia coli、Agrobacterium tumefaciens及びAgrobacterium rhizogenesを含む群から選択される請求項35に記載の細菌株。
【請求項37】
請求項30〜33のうちのいずれか1項に記載のベクターを用いて形質転換された植物細胞。
【請求項38】
穀類細胞であることを特徴とする請求項37に記載の細胞。
【請求項39】
栽培されたイネ種(Oryza sativa L.)に属する請求項38に記載の細胞。
【請求項40】
トウモロコシ(Zea mays L.)、大麦(Hordeum vulgare L.)及び小麦(Triticum spp.)といったGraminaceaeファミリに属する請求項39に記載の細胞。
【請求項41】
請求項30〜33のうちのいずれか1項に記載のベクターに由来する発現カセットを含むことを特徴とする前記ヒトタンパク質、特に、前記ヒトリソソーム酵素の発現のために形質転換された植物の種子。
【請求項42】
形質転換された植物は、穀類に属することを特徴とする請求項41に記載の種子。
【請求項43】
形質転換された植物は、栽培されたイネ種(Oriza sativa L.)に属することを特徴とする請求項41又は42に記載の種子。
【請求項44】
請求項30〜33のうちのいずれか1項に記載のベクターにより形質転換されたことを特徴とする前記ヒトタンパク質、特に、前記ヒトリソソーム酵素の発現のために形質転換された植物。
【請求項45】
穀類であることを特徴とする請求項44に記載の形質転換された植物。
【請求項46】
栽培されたイネ種(Oriza sativa L.)に属する請求項44又は45に記載の形質転換された植物。
【請求項47】
自家受精、自然若しくは人工の交雑又は請求項44〜46のうちのいずれか1項に記載の形質転換された植物から選択される形質転換系統により得られた子孫。
【請求項48】
治療的用途で用いられる請求項41〜43のうちのいずれか1項に記載の種子。
【請求項49】
酵素補充療法の薬剤の生成のための請求項41〜43のうちのいずれか1項に記載の種子の用途。
【請求項50】
ゴーシェ病、糖原病II型、ファブリー病、ニーマンピック病B型及びムコ多糖症I型、II型、IV型の酵素補充療法のための薬剤の生成のためであることを特徴とする請求項49に記載の種子の用途。
【請求項51】
酵素補充療法に用いるための請求項41〜43のうちのいずれか1項に記載の種子。
【請求項52】
ゴーシェ病、糖原病II型、ファブリー病、ニーマンピック病B型及びムコ多糖症I型、II型、IV型の酵素補充療法に用いるための請求項51に記載の種子。
【請求項53】
添付した図面と関連して、前記に記載している植物においてヒトタンパク質を生成する、特に、穀類の胚乳において組み換え型ヒトリソソーム酵素を生成する方法。


【図1】
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【図2A】
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【図6A】
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【図6B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2011−516036(P2011−516036A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−550185(P2010−550185)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【国際出願番号】PCT/EP2009/052832
【国際公開番号】WO2009/112508
【国際公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(510246127)
【Fターム(参考)】