説明

積層フィルムおよびそれを用いた成型用シート

【課題】
本発明によれば、離型性、印刷性に優れ、更には、コーティング、押出ラミネートなどの工程を含まずに製造可能な積層フィルムを提供する。
【解決手段】
芳香族ポリエステル樹脂を主成分とするポリエステル層(A層)の少なくとも片面に、ポリオレフィン樹脂を主成分とするポリオレフィン層(B層)を積層してなる積層フィルムであって、
フィルム全体におけるB層の積層比が、B層/フィルム全体=0.05〜0.5であり、
A層とB層との層間密着力が、1N/25mm以上30N/25mm以下である積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリエステル樹脂を主成分とするポリエステル層の少なくとも片面に、ポリオレフィン樹脂を主成分とするポリオレフィン層を積層してなる積層フィルムであって、さらに詳細には、離型性、成型性、印刷性に優れた積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
離型性を有するフィルムは、各種表面保護フィルム、および転写箔などで幅広く用いられている。表面保護フィルムは、主として樹脂部品、金属製品、ガラス製品等の被着体へ貼付して使用し、これらの輸送、保管や加工時の傷付きまたは異物混入を防ぐ役割を果たしている。これらの表面保護フィルムは、保護フィルムとして使用している間は被着体との適度な密着性が、製品使用時には保護フィルムを容易に取り外せるような適度な離型性が求められており、被着体が立体的な形状を持つ成形体等の保護の場合は、密着性、離型性に加えて表面保護フィルムの成型性が求められる。
【0003】
また、転写箔とは、フィルムの片面に、転写させる層(例えば、クリア層/加飾層/接着層)を積層して構成されているものであり、転写させる層の転写性を高めるために、フィルムには離型性が必要となる。転写箔の転写方法としては、転写装置を用いて加熱ロールで被転写物に転写する、いわゆるホットスタンピング方法や、射出成形機金型内に転写箔をセットした後、樹脂を射出成形し、成形と同時に転写し、冷却後金型より成形品を取り出すインモールド転写、さらには樹脂成形品、金属製品、ガラス製品等の被着体へ成型転写させる方法などが一般的に知られている。これらの転写方法では、成型と転写を同時に行えるため、複雑な絵柄の付与に非常に有用であり、自動車内外装部品、家電部材、電子機器、建材分野、包装容器などに使用されるプラスチック成形品で広く使用されている。
【0004】
このように、各種表面保護フィルム、および転写箔などに用いられるフィルムとしては、取り扱い性、形状保持性の点からポリエステルフィルムが好ましく用いられるが、ポリエステルフィルムは離型性に乏しく、離型性を付与させる必要がある。離型性を付与させる方法としては、例えば、離型性の良好な樹脂(ポリオレフィン系樹脂など)をポリエステル樹脂にアロイ、もしくは積層により組み合わせる方法が挙げられる。
【0005】
離形性の良好な樹脂をポリエステル樹脂に積層する方法としては、ポリオレフィン系樹脂をポリエステルフィルムにコーティングする方法(特許文献1)、ポリエステルフィルムなどの基材フィルム上にポリオレフィン系樹脂を押出ラミネートにより積層させる方法(特許文献2、3)、ポリエステル系樹脂とポリオレフィン系樹脂をブレンドして共押出する方法(特許文献4)などが開示されており、各種フィルムの離型性向上が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−138668号公報
【特許文献2】特開平12−037827号公報
【特許文献3】特開平07−148899号公報
【特許文献4】特開2009−132806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、基材フィルムにポリオレフィン系樹脂をコーティング後、熱を加えてコーティングの溶媒を乾燥させる必要があるため、基材フィルムとして耐熱性の低いフィルムを用いた場合、乾燥時の予熱に耐えられず熱変形してしまうため、耐熱性の低いフィルムへの適用が困難であった。
【0008】
また、特許文献2、3についても、基材フィルムの耐熱性が低い場合、押出ラミネートの際に溶融押出したポリオレフィン系樹脂の温度に耐えられず熱変形してしまうことから、耐熱性の低いフィルムへの適用が困難であった。
【0009】
一方、特許文献4については、ポリエステル系樹脂とポリオレフィン系樹脂をドライブレンドした後に押出成形でシートを作製するため、耐熱性の低いフィルムにも適用可能であるが、表層中のポリオレフィン系樹脂含有量が少ないため、離型性が不十分であった。
【0010】
本発明は、これらの問題を鑑み、離型性、印刷性に優れ、更には、コーティング、押出ラミネートなどの工程を含まずに製造可能な積層フィルムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
(1)芳香族ポリエステル樹脂を主成分とするポリエステル層(A層)の少なくとも片面に、ポリオレフィン樹脂を主成分とするポリオレフィン層(B層)を積層してなる積層フィルムであって、
フィルム全体におけるB層の積層比が、B層/フィルム全体=0.05〜0.5であり、
A層とB層との層間密着力が、1N/25mm以上30N/25mm以下である積層フィルム。
(2)前記B層のポリオレフィン樹脂として変性ポリオレフィン樹脂を含み、
ポリオレフィン層(B層)全体を100質量%に対して、該変性ポリオレフィン樹脂を5質量%以上95質量%以下含む(1)に記載の積層フィルム。
(3)前記変性ポリオレフィン樹脂が、不飽和ジカルボン酸による変性ポリオレフィン樹脂であることを特徴とする、(2)に記載の積層フィルム。
(4)窒素雰囲気下、測定開始温度25℃、昇温速度10℃/分、到達温度300℃の条件でB層の熱質量測定(TG)を行った際、B層の275℃での熱質量減少率が3質量%以下である(1)に記載の積層ポリエステルフィルム。
(5)100℃での破断伸度が300%以上である(1)〜(4)のいずれかに記載の積層フィルム。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の積層フィルムからなる成型用シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、離型性、印刷性に優れた積層フィルムをコーティング、押出ラミネートなどの工程を含まずに得ることができる。より具体的には、離型性については、被転写体との離型性に優れるため離型工程での剥離痕が発生しにくい。また、印刷性については、印刷インクに含有される溶剤、特に酢酸エチル、メチルエチルケトンなどに対しての耐溶剤性に優れるため、各種印刷インクを用いることができる。本発明の積層フィルムは、インモールド転写などの加飾工法で転写箔として好適に用いられ、自動車内外装部品、家電部材、電子機器、建材分野、包装容器などの用途で好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、離型性、印刷性に優れ、更には、コーティング、押出ラミネートなどの工程を含まずに製造可能な積層フィルムについて鋭意検討した結果、芳香族ポリエステル樹脂を主成分とするポリエステル層(A層)の少なくとも片面に、ポリオレフィン樹脂を主成分とするポリオレフィン層(B層)を積層してなる積層フィルムであって、フィルム全体におけるB層の積層比が、B層/フィルム全体=0.05〜0.5であり、A層とB層との層間密着力が1N/25mm以上30N/25mm以下である積層フィルムとすることで、かかる課題を一気に解決することを究明したものである。
以下、本発明の積層フィルムについて具体的に説明する。
【0014】
(芳香族ポリエステル樹脂)
本発明の積層フィルムは、耐熱性、取り扱い性の点から、芳香族ポリエステル樹脂を主成分とするポリエステル層(A層)を有することが必要である。ここで、ポリエステル層(A層)の主成分である芳香族ポリエステルとは、ジカルボン酸成分とグリコール成分とで基本的に構成されるポリエステルであり、芳香族ジカルボン酸成分および/又は芳香族グリコール成分を含むポリエステルである。
【0015】
かかるジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホンジカルボン酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、パラオキシ安息香酸などのオキシカルボン酸などを挙げることができる。また、ジカルボン酸エステル誘導体としては上記ジカルボン酸化合物のエステル化物、たとえばテレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸2−ヒドロキシエチルメチルエステル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、ダイマー酸ジメチルなどを挙げることができるが、取扱い性の点で、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸が好ましく使用される。
【0016】
また、グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジヒドロキシ化合物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、スピログリコールなどの脂環族ジヒドロキシ化合物、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどの芳香族ジヒドロキシ化合物などが挙げられるが、取扱い性の点で、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましく使用される。
【0017】
前述の通り、これらのポリエステルのうち、本発明の積層フィルム中のポリエステル層(A層)は、芳香族ポリエステル樹脂を主成分とすることが必要であるが、ここで芳香族ポリエステル樹脂を主成分とするとは、ポリエステル層(A層)全体100質量%において、50質量%以上100質量%以下が芳香族ポリエステル樹脂であることを指す。
【0018】
本発明の積層フィルムのA層の主成分として用いられる芳香族ポリエステルは、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリヘキサメチレンテレフタレート(PHT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレンナフタレート(PPN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)などが挙げられる。また、これらの共重合樹脂も好ましく用いられ、特に、1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合PET、スピログリコール共重合PET、ネオペンチルグリコール共重合PET、イソフタル酸共重合PET、2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合PETが取り扱い性の点から好ましく用いられる。これらの芳香族ポリエステルは、単独で用いてもよいし、2種類以上の芳香族ポリエステルを混合して用いても構わない。
【0019】
2種類以上の芳香族ポリエステルを混合して使用する方法としては、例えば、2種類以上の芳香族ポリエステルのポリマーペレットを配合して押出機に供給し、押出機内で混練して任意の成分構成の芳香族ポリエステルを得る方法(ドライブレンド法)、2種類以上のモノマーを用いて重合することによって任意の成分の芳香族ポリエステルを得る方法(共重合法)、ドライブレンド法と共重合法を組み合わせた方法といったような公知の方法によって得ることができる。ポリマーの製造コスト、生産性および耐熱性の観点より、ドライブレンド法を用いることが好ましい。
【0020】
(芳香族ポリエステル製造時の反応触媒、着色防止剤)
本発明の積層フィルムの原料となる芳香族ポリエステルを製造する際には、従来から用いられている反応触媒および着色防止剤を使用することができる。反応触媒としては、例えばアルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物等を用いることができる。着色防止剤としては、例えばリン化合物等を用いることができる。好ましくは、芳香族ポリエステルの製造が完結する以前の任意の段階において、反応触媒としてアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物またはチタン化合物を添加することが好ましい。反応触媒を添加する方法としては、例えば、反応触媒の粉体をそのまま添加する方法や、ポリエステルの出発原料であるグリコ−ル成分中に反応触媒を溶解させて添加する方法等を用いることができる。
【0021】
また、前記アンチモン化合物としては、特に限定されないが、例えば、三酸化アンチモンなどのアンチモン酸化物、酢酸アンチモンなどを用いることができる。
【0022】
また、前記チタン化合物としては、特に限定されないが、テトラエチルチタネート、テトラブチルチタネートなどのアルキルチタネート化合物、またチタンと珪素、ジルコニウムおよびアルミニウムから選ばれる元素との複合酸化物などが好ましく使用できる。
【0023】
(芳香族ポリエステルの粘度)
本発明の積層フィルムの芳香族ポリエステルを主成分とするポリエステル層(A層)に用いられる芳香族ポリエステルの固有粘度は、0.5〜1.3dl/gの範囲にあるものを使用することが好ましい。さらに好ましくは0.55〜1.2dl/g、特に好ましくは0.6〜1.1dl/gの範囲である。固有粘度が0.5dl/g未満であると、積層フィルムの成形性が低下する場合がある。また、固有粘度が1.3dl/gを越えると、生産性が低下したり、積層フィルム中のポリエステル層(A層)の厚み斑が顕著となり、結果として積層フィルムにも厚み斑が生じる場合がある。また、本発明の積層フィルム中のポリエステル層(A層)が、積層した構成をとる場合(例えば、主成分の芳香族ポリエステルが異なる樹脂である層を積層した構成など)は、A層中の各層で使用される各ポリエステルが、上記0.5〜1.3dl/gの粘度条件を満たすことが好ましい(つまり、A層中の各層を、A1層、A2層、・・・、とすると、これらの層が各々A層としての要件を満たしており、さらにA1層、A2層・・・の全ての層が、各々上記0.5〜1.3dl/gの粘度条件を満たすことが好ましい)。
【0024】
(ポリオレフィン(B層)の熱質量減少率)
本発明の積層フィルムのポリオレフィン層(B層)は、窒素雰囲気下、測定開始温度25℃、昇温速度10℃/分、到達温度300℃の条件で熱質量測定(TG)を行った際に、B層の275℃での熱質量減少率が3質量%以下であることが好ましい。B層の275℃での熱質量減少率が3質量%より大きいと、耐熱性に劣り、押し出し時にガス、ゲル状欠点が発生し、品位が低下してしまう場合がある。より好ましくは、B層の275℃での熱質量減少率が2質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。B層の275℃での熱質量減少率を3質量%以下とする方法としては、特に限定されないが、B層中の変性ポリオレフィン樹脂の含有量、変性ポリオレフィン樹脂の酸価などを後述する好ましい範囲に制御する方法を挙げることができる。また、使用する変性ポリオレフィン樹脂として上記条件での275℃での熱質量減少率が3質量%以下、好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1質量%以下のものを選択することが好ましい。
【0025】
なお、ポリオレフィン層(B層)の275℃での熱質量減少率は、小さい程好ましく、特に下限はないが、現実的には0.01質量%程度が下限と考えられる。
【0026】
(ポリオレフィン樹脂)
本発明の積層フィルム中のポリオレフィン層(B層)は、ポリオレフィン樹脂を主成分とすることが必要である。ここでポリオレフィン樹脂を主成分とするとは、ポリオレフィン層(B層)全体100質量%において、50質量%以上100質量%以下がポリオレフィン樹脂であることを指す。
【0027】
本発明の積層フィルム中のポリオレフィン層(B層)には、芳香族ポリエステル樹脂を主成分とするポリエステル層(A層)との密着性向上を目的として、変性ポリオレフィン樹脂を含有することが好ましい。
【0028】
本発明の積層フィルムのB層のポリオレフィン樹脂を構成するポリオレフィン樹脂としては、具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン−α・オレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、メチルペンテンポリマー等のポリオレフィン系樹脂を用いることができる。
【0029】
また、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1などのα−オレフィンモノマーからなる重合体、該α−オレフィンモノマーからなるランダム共重合体、該α−オレフィンモノマーからなるブロック共重合体なども使用することができる。
【0030】
このようなα−オレフィンモノマーからなるランダム共重合体としては、例えば、プロピレン共重合体では、プロピレンと上記α−オレフィンモノマー中からプロピレンを除く、1種以上のα−オレフィンモノマーとのランダムに共重合されたポリマーであって、公知の方法によりプロピレンを除く1種以上のα−オレフィンモノマーを2〜15質量%の範囲で共重合したポリプロピレンである。
【0031】
また、前述のα−オレフィンモノマーからなるブロック共重合体としては、例えば、プロピレン・エチレン・ブロック共重合体では、99〜70質量%の範囲のプロピレンと1〜30質量%の範囲のエチレン及び/又はα−オレフィンとからなる共重合体部分と1〜30質量%の範囲のプロピレンと99〜70質量%の範囲のエチレンとからなる共重合体部分とがブロック的に共重合したものを使用することができる。それぞれの共重合成分組成、各ブロックの分子量などは重合段階で制御できる。一般には、特開昭59−115312号に示されるように2段以上の重合方法によって得ることができる。例えば、プロピレン・ブロック共重合体の融点は145〜165℃の範囲である。融点は99〜70質量%の範囲のプロピレンと1〜30質量%の範囲のエチレン及び/又はα−オレフィンとからなる共重合体部分のプロピレン成分量で変化させることができる。また、プロピレン・エチレン・ブロック共重合体中のエチレン量及び/又はα−オレフィン成分の量は、フィルムの耐衝撃性の点で5〜20質量%が好ましく、より好ましくは5〜15質量%である。
本発明において、ポリオレフィン樹脂の製造方法は、特に限定されものではなく、公知の方法を用いることができ、例えば、ポリプロピレン樹脂においては、ラジカル重合、チーグラー・ナッタ触媒を用いた配位重合、アニオン重合、メタロセン触媒を用いた配位重合などいずれの方法でも用いることができる。
【0032】
(ポリオレフィン樹脂のMFR、粘度)
本発明の積層フィルムのポリオレフィン層(B層)の主成分であるポリオレフィン樹脂は、JIS−K7210(1999)に則って230℃、荷重2.16kgの条件下で測定したメルトフローレート(MFR)が、1〜100g/10分であることが好ましく、2〜80g/10分であることがより好ましく、4〜60g/10分であることがさらに好ましい。ポリオレフィン樹脂のMFRが1〜100g/10分の範囲であれば適当な結晶性を有し、本発明の積層フィルムの寸法安定性、耐湿性、表面平滑性が良好となる。また、芳香族ポリエステル樹脂を主成分とするポリエステル層(A層)との均一積層性、層間密着性の観点からは、MFRは10〜40g/10分であることが特に好ましい。ポリオレフィン樹脂のMFRが1g/10分より小さいと、溶融粘度が高すぎて押出性が低下しやすくなる。また、ポリオレフィン樹脂のMFRが100g/10分を超えると結晶性が高すぎるため、製膜性が大幅に低下したり、積層フィルムの機械特性が大きく低下したりすることがある。また、B層の結晶化が進みすぎ、粗面化することで印刷精度の低下の恐れがある。
【0033】
また、ポリオレフィン樹脂の極限粘度[η]は、適当な結晶性を有する点から1.4〜3.2dl/gが好ましく、さらに好ましくは1.6〜2.4dl/gである。[η]が1.4dl/gより小さくなると結晶性が高すぎるため、積層フィルムの脆化を招く懸念があり、3.2dl/gを超えると結晶性が著しく下がり、積層フィルムの耐熱性が低下する場合がある。
【0034】
(ポリオレフィン樹脂の融点)
本発明の積層フィルムのポリオレフィン層(B層)の主成分であるポリオレフィン樹脂は、インク乾燥温度での耐熱性や成形性の点から融点が100〜170℃の範囲が好ましく、より好ましくは120〜165℃、さらに好ましくは130℃〜160℃である。ポリオレフィンの融点が100℃より低い場合、積層フィルムの耐熱性が不十分な場合があり、ポリオレフィンの融点が170℃を超える場合、積層フィルムの押し出し性が低下する場合がある。
【0035】
(変性ポリオレフィン樹脂の含有量)
本発明の積層フィルムは、密着性、耐熱性の観点から、B層のポリオレフィン樹脂として変性ポリオレフィン樹脂を含み、該変性ポリオレフィン樹脂が、ポリオレフィン層(B層)全体100質量%に対して、該変性ポリオレフィン樹脂を5質量%以上95質量%以下含むことが好ましい。変性ポリオレフィン樹脂が、B層の全体100質量%において5質量以上であると、層間密着性向上効果が大きくなるため好ましい。また、変性ポリオレフィン樹脂が、B層の全体100質量%において95質量%以下とすることで耐熱性の低下を防ぎ、B層の275℃の熱質量減少率を3質量%以下とすることができ、押出時にガス、ゲル状物の発生が抑制されるために好ましい。
【0036】
B層の275℃の熱質量減少率を3質量%以下とするためには、変性ポリオレフィン樹脂が、ポリオレフィン層(B層)全体100質量%に対して80質量%以下であればより好ましく、60質量%以下であれば最も好ましい。また、層間密着性の観点からは、変性ポリオレフィン樹脂が、ポリオレフィン層(B層)全体100質量%に対して10質量%以上含有されていることが好ましく、20質量%以上であれば最も好ましい。なお、B層の主成分であるポリオレフィン樹脂としては、変性ポリオレフィン樹脂とその他のポリオレフィン樹脂を併用することも可能である。
【0037】
(変性ポリオレフィン樹脂)
本発明における変性ポリオレフィン樹脂とは、ポリオレフィン樹脂の片末端、両末端及び内部の少なくともいずれかに一つ以上の極性基を含有するポリオレフィン樹脂のことを指す。ここで、極性基とは、酸素原子、窒素原子など電気陰性度の大きな原子を含む官能基であり、具体的には、アミド基、カルボキシル基、ヒドロキシル基などの官能基、およびそれら官能基を含む置換基である。
【0038】
かかる変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メチルメタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体などのような極性基を含有するポリオレフィン系共重合樹脂や、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン−α・オレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、その他α−オレフィンモノマーからなるランダム共重合体、ブロック共重合体等のポリオレフィン系樹脂を、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマル酸その他の不飽和カルボン酸による変性、もしくは樹脂の酸化分解により変性させた変性ポリオレフィン系樹脂を使用することができる。
【0039】
なお、α−オレフィンモノマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1などが挙げられ、このようなα−オレフィンモノマーからなるランダム共重合体としては、例えば、プロピレン共重合体では、プロピレンと上記α−オレフィンモノマー中からプロピレンを除く、1種以上のα−オレフィンモノマーとのランダムに共重合されたポリマーであって、公知の方法によりプロピレンを除く1種以上のα−オレフィンモノマーを2〜15質量%の範囲で共重合したポリプロピレンである。
【0040】
これらの変性ポリオレフィン樹脂としては、不飽和ジカルボン酸による変性、もしくは樹脂の酸化分解により変性されたポリオレフィン樹脂であることが好ましく、不飽和ジカルボン酸により変性された変性ポリオレフィン樹脂がより好ましい。具体的には低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン−α・オレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、その他α−オレフィンモノマーからなるランダム共重合体、ブロック共重合体等のポリオレフィン系樹脂を、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸で変性した変性ポリオレフィン樹脂であることが、ポリエステル層(A層)との層間密着性の点から好ましい。不飽和ジカルボン酸としては、無水マレイン酸が特に好ましく、つまりポリオレフィン樹脂を無水マレイン酸で変性した変性ポリオレフィン樹脂が特に好ましい。
【0041】
このような不飽和ジカルボン酸による変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、三洋化成製“ユーメックス”、三井化学製“アドマー”、三菱化学製“モディック”、アルケマ製“オレバック”、“ロタダー、東洋化成製“トーヨータック”などの各種樹脂が挙げられる。また、樹脂の酸化分解により変性された変性ポリオレフィン樹脂としては、三洋化成製“ビスコール”、“サンワックス”などが挙げられる。
【0042】
(変性ポリオレフィン樹脂の酸価)
本発明の積層フィルム中の、ポリオレフィン層(B層)の主成分であるポリオレフィン樹脂として含有される変性ポリオレフィン樹脂の酸価は、0.5〜20であることが好ましい。耐熱性、ポリエステル層(A層)との密着性との観点から、0.5〜15であることが好ましく、1〜10であれば最も好ましい。変性ポリオレフィン樹脂の酸価が0.5以上であると、ポリエステル層(A層)とポリオレフィン層(B層)との層間密着性向上効果が発現するため好ましい。また、変性ポリオレフィン樹脂の酸価を20以下とすることで、変性ポリオレフィン樹脂の耐熱性の低下を防ぎ、B層の275℃の熱質量減少率を3質量%以下とすることができ、押出時に変性ポリオレフィン樹脂の分解を抑制したり、ゲル状物の発生を抑制したりできるために好ましい。なお、ここでの酸価はJIS K0070(1992年式)による値である。
【0043】
(添加剤)
本発明の積層フィルムの各層には、必要に応じて添加剤、例えば、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、粘着性付与剤、ポリシロキサンなどの消泡剤、顔料または染料などの着色剤を適量含有することができる。
【0044】
本発明の積層フィルムに用いられる耐電防止剤としては特に限定されないが、アニオン系、カチオン系、非イオン系、両性などの各種公知の帯電防止剤を用いることが可能である。中でも特に耐熱性などの点からはアニオン系帯電防止剤であるアルキルスルホン酸ナトリウムまたはアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0045】
また、本発明の積層フィルムに用いられる酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などの各種公知のものを用いることができる。これらの化合物は、複数の化合物を混合して用いてもよい。
【0046】
(積層フィルムの厚み、積層比)
本発明の積層フィルムの厚みは、生産安定性、成型性、寸法安定性の観点から、10〜600μmであることが好ましい。より好ましくは50〜400μm、特に好ましくは100〜300μmである。積層フィルムの厚みが10μmより薄いと、生産安定性、寸法安定性が低下してしまう場合があるため好ましくない。また、積層フィルムの厚みが600μmを超えると、取扱性や成型性の悪化を引き起こす場合がある。
【0047】
また、フィルム全体におけるB層の積層(厚み)比は、印刷性、形状保持性、成型性を良好にする点から、B層/フィルム全体=0.05〜0.5であることが必要である。より好ましくは、B層/フィルム全体=0.08〜0.4が好ましく、B層/フィルム全体=0.1〜0.3であればより好ましい。なお、B層/フィルム全体=0.05〜0.5とは、B層1層当たりの厚みとフィルム全体の厚みとの比率である。つまり、A層の両面にB層を有する場合は、2層存在するB層がそれぞれB層/フィルム全体=0.05〜0.5を見たすことが重要であり、0.08〜0.4であることが好ましく、0.1〜0.3であることがより好ましい。B層/フィルム全体が0.05より小さくなるとB層の厚みが薄すぎるために耐薬品性が不十分となり、印刷性や転写性が低下する場合がある。一方、B層/フィルム全体が0.5より大きくなるとB層の厚みが厚すぎるために、形状保持性が不十分な場合がある。
【0048】
(積層フィルムの層間密着性)
本発明の積層フィルムは、成型後の層間剥離を抑制するために、ポリエステル層(A層)とポリオレフィン層(B層)との層間密着力が1N/25mm以上30N/25mm以下であることが必要である。A層とB層との層間密着力が1(N/25mm)未満であれば、本発明の積層フィルムを成型した後に、A層/B層の界面で剥離が発生してしまう場合がある。また、層間密着力は実質30N/25mmあれば実用上問題なく、それより大きくしようとすると、経済性が低下してしまう場合がある。さらに好ましい層間密着力は2(N/25mm)以上25(N/25mm)以下であり、3(N/25mm)以上20(N/25mm)以下であれば最も好ましい。特に、形状の厳しい用途へ使用する際には4(N/25mm)以上であるとさらに好ましい。
【0049】
ここで言う、層間密着力とは、A層/B層界面で強制的に剥離を発生させ、その後、引張試験などで剥離時にかかる荷重を測定し、そのときの値(剥離強度)のことを指す。具体的には、B層側に支持体となる貼り合わせ用フィルム貼り合わせる。ここで使用する貼り合わせ用フィルムは特に限定されないが、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルムなどが挙げられる。
【0050】
貼り合わせたサンプルを25mm幅に切り出し、速度300mm/分で180°ピール試験を行った際の、ピール強度をA層とB層との層間密着力(N/25mm)とする。
【0051】
本発明の積層フィルムのポリエステル層(A層)とポリオレフィン層(B層)との層間密着力を1N/25mm以上30N/25mm以下とする方法は、上述したポリオレフィン樹脂のメルトフローレート、変性ポリオレフィン樹脂濃度、変性ポリオレフィン樹脂の酸価などにより制御することができる。
【0052】
A層とB層との層間密着力を1N/25mm以上30N/25mm以下に制御するために好適に用いられる、ポリオレフィン層(B層)の主成分であるポリオレフィン樹脂としては、JIS−K7210(1999)に則って230℃、荷重2.16kgの条件下で測定したメルトフローレート(MFR)が、10〜40g/10分でポリオレフィン樹脂であることが好ましい。また、B層の主成分のポリオレフィン樹脂として変性ポリオレフィン樹脂を含み、ポリオレフィン層(B層)全体を100質量%とした際に、該変性ポリオレフィン樹脂を5質量%以上95質量%以下含むことも、前述の層間密着力を制御するために好ましいが、特に、密着性の観点からは変性ポリオレフィン樹脂をB層全体100質量%中に20質量%以上60質量%以下含有する態様であることが好ましい。さらに、これらの変性ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン−α・オレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、その他α−オレフィンモノマーからなるランダム共重合体、ブロック共重合体等のポリオレフィン系樹脂を、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸で変性した変性ポリオレフィン樹脂であることが好ましく、不飽和ジカルボン酸としては、無水マレイン酸が特に好ましい。 また、変性ポリオレフィン樹脂の酸価は、1〜20であれば最も好ましい。
【0053】
またA層とB層との層間密着力を1N/25mm以上30N/25mm以下に制御するためには、積層フィルムのフィルム厚みを厚くする方法も有効である。層間密着性を向上させるためにはフィルム厚みは50μm以上とすることが好ましく、100μm以上であればさらに好ましい。深絞り成型に対応するためには、200μm以上であればさらに好ましい。
【0054】
また、ポリエステル層(A層)の主成分である芳香族ポリエステル樹脂に、金属イオンをもつポリエステルを含有することにより、ポリオレフィン層(B層)中の変性ポリオレフィンとの相互作用により、層間密着性を向上させ、層間密着力を1N/25mm以上30N/25mm以下に制御することができる。例えば、押出安定性、成型性の観点から、ポリエステル層(A層)の主成分である芳香族ポリエステル樹脂として、スルホン酸アルカリ金属塩を有する残基を0.1〜20モル%含むポリエステルを含有することが好ましい態様である。生産性、経済性、フィルムの取扱性の観点からはスルホン酸アルカリ金属塩を有する残基としては、0.1〜15モル%含有することが好ましく、密着性の観点から、1〜15モル%含有することが好ましい。ここで、スルホン酸アルカリ金属塩を有する残基としては、エステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物、たとえば、5−スルホイソフタル酸、4−スルホイソフタル酸、2−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸などのジカルボン酸や、2 − スルホ安息香酸などのようなモノカルボン酸などのアルカリ金属塩およびこれらのエステル形成誘導体などを挙げることができる。これらの中でも、取扱性などの点で5 − スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩を用いることが好ましい。
【0055】
(表面自由エネルギー)
本発明の積層フィルムのポリオレフィン層(B層)の表面自由エネルギーは、離型性、ハンドリング性の点から、25〜40mN/mであることが好ましい。好ましくは27〜38mN/m、より好ましくは29〜36mN/mである。ポリオレフィン層(B層)の表面自由エネルギーが25mN/mより低くなった場合、本発明の積層フィルムを、転写箔等に用いる際に、クリア層などをポリオレフィン層(B層)上に積層するのが困難な場合がある。また、ポリオレフィン層(B層)の表面自由エネルギーが40mN/mを超える場合、ポリオレフィン層(B層)とクリア層との離型性が不十分な場合がある。
【0056】
本発明の積層フィルムのポリオレフィン層(B層)の表面自由エネルギーを25〜40mN/mの範囲にするための方法としては、ポリオレフィン層(B層)の主成分であるポリオレフィン樹脂の一つとして変性ポリオレフィン樹脂を使用し、さらに該変性ポリオレフィン樹脂の種類、含有量を変える方法、ポリオレフィン層(B層)に、表面自由エネルギーの高くなる樹脂(例えば、ポリエステル樹脂など)を添加する方法が挙げられる。
【0057】
(破断伸度、応力)
本発明の積層フィルムは、100℃での破断伸度が300%以上であることが好ましい。本発明の積層フィルムは、表面保護フィルムや、転写箔などに用いられるが、本発明の積層フィルムを基材フィルム(被着フィルム)に積層した構成で成型させたり、射出成形と同時に積層フィルムを成型させて、転写させる方法、樹脂成形品、金属製品、ガラス製品等の被着体へフィルム成型と同時に転写させる方法などが好ましく用いられる。本発明の積層フィルムは、耐熱性の低い転写層、被着体へも対応できるために、100℃付近で成型されることが好ましく、その際、複雑な追従させるために破断伸度が300%以上であることが好ましい。より好ましくは、100℃での破断伸度は400%以上であり、500%以上であれば最も好ましい。さらに、破断伸度が1000%以上となると超深絞り成型にも対応できるので非常に好ましい。また、寸法安定性の観点から破断伸度は1500%以下であることが好ましい。
【0058】
100℃での破断伸度が300%未満の場合、成型追従性に劣り、複雑形状な部材へ対応できない場合がある。
【0059】
本発明の積層フィルムの100℃での破断伸度を300%以上とする方法としては特に限定されないが、積層フィルムを無延伸フィルムとすることは非常に好ましい。また、一軸以上に延伸する場合には、延伸倍率として4倍以下、より好ましくは3倍以下、最も好ましくは2倍以下とすることが好ましい。
【0060】
また、積層フィルムの100℃での破断伸度を300%以上とする方法として、ポリエステル層(A層)の主成分である芳香族ポリエステルとして、少なくとも2種類以上のジカルボン酸成分および/または、2種類以上のグリコール成分を含むことも好ましい態様である。ここで、好ましく用いられるジカルボン酸成分および、グリコール成分としては、(芳香族ポリエステル樹脂)の項で述べたとおりであるが、ジカルボン酸成分としては、押出安定性、耐熱性、経済性、成型性の観点から、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸の中から少なくとも2種類以上含むことが好ましい。また、グリコール成分として、重合時に副生されるジエチレングリコールは除き、押出安定性、耐熱性、経済性、成型性の観点からエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコポリエチレングリコール、スピログリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましく使用される。
【0061】
本発明の積層フィルムは、成型性の観点から、100℃におけるF100値が、0.5〜10MPaであることが好ましい。100℃でのF100値が0.5MPa未満の場合、寸法安定性が低下してしまう場合があるため好ましくない。また、100℃でのF100値が10MPaより大きくなると、成型時の応力が高く、深い形状が再現できない場合があるため好ましくない。100℃におけるF100値を低くする方法としては、上述した破断伸度を300%以上とする方法に加え、ポリオレフィン層(B層)の厚みを薄くする方法、B層に用いるポリオレフィンを共重合ポリオレフィンとする方法、MFRを高くする方法などが好ましく用いられる。
【0062】
ここで、100℃における破断伸度、F100値とは、試験長20mmの矩形型に切り出したフィルムサンプルを100℃に設定した恒温層中で60秒間の予熱後、200mm/分のひずみ速度で引張試験を行った際、フィルムが破断したときの伸度を破断伸度、100%伸長時の応力をF100値である。
【0063】
(積層フィルムの構成)
本発明の積層フィルムは、ポリエステル層(A層)の少なくとも片面に、ポリオレフィン層(B層)が積層されている構成であれば特に限定されず、ポリエステル層(A層)の片面にポリオレフィン層(B層)を有していても、ポリエステル層(A層)の両面にポリオレフィン層(B層)を有していても構わない。また、本発明の積層フィルムは、A層の少なくとも片面にB層を積層してなるが、A層とB層の間には、A層、B層以外の層を含まない態様、つまりA層とB層が直接積層された態様であることが、生産性、コストの点で好ましい。
【0064】
(積層フィルムの製造方法)
本発明の積層フィルムは、公知の方法によって製造することができるが、フィルムの取扱性、生産性、製造コストなどの面で共押出法が好ましく用いられる。なお共押出法によって製造することにより、本発明の積層フィルムについてA層とB層が直接積層された態様とすることが容易に可能となる。
【0065】
共押出法は、ポリエステル層(A層)、ポリオレフィン層(B層)を構成する各樹脂を複数の押出機から一つのダイに供給し、同時に押出して積層フィルムを製造する方法であり、Tダイ法とインフレーション法がある。本発明の積層フィルムはTダイ法およびインフレーション法のいずれによっても製造できるが、生産性の面から、Tダイ法が好ましく用いられる。
【0066】
Tダイ法としては、シングルマニホールドダイを用いるラミナーフロー方式、マルチマニホールドダイを用いるダイ内積層方式、デュアルスロットダイを用いるダイ外積層方式などが代表的な方法である。本発明の積層フィルムは、いずれの方式によっても製造できるが、幅方向への積層厚みのムラが小さく、生産性が良い点より、ラミナーフロー方式およびダイ内積層方式を好ましく用いることができる。また、ポリエステル層(A層)とポリオレフィン層(B層)を積層させる場合に各層の粘度差が大きいときは、ダイ内積層方式を特に好ましく用いることができる。
【0067】
Tダイ法によって製造する場合、ダイスから共押出した多層シートをキャストドラムに引き取ることにより、本発明の積層フィルムを製造することができる。
【0068】
(成型用シート)
本発明の積層フィルムは成型用シートとして好適に使用される。本発明の積層フィルムは、深絞り転写箔フィルムに要求される成型性と印刷性の両方を満足する積層フィルムであり、さらに、例えば特開2004−188708号のような従来の貼り合わせフィルムに比べてコストに優れる積層フィルムである。これらの理由より、本発明の積層フィルムは、成型用シートであって、さらにその中でも形状の複雑な部品表面、例えば自動車内外装部品、家電部材、電子機器、建材分野、包装容器などの成型転写箔シートとして好ましく用いる事ができる。
【0069】
成型転写箔シートの構成としては、特に限定されないが、本発明の積層フィルムに加飾層を積層した構成であることが好ましい。ここで、加飾層は、着色、柄模様、木目調、金属調、パール調などの装飾を付加させるための層である。転写後の成型部材(被着体)の耐傷性、耐候性、意匠性の観点からは、さらにクリア層を積層することが好ましい。この場合、クリア層は積層フィルム側に積層することが好ましい。また、転写後の成型部材(被着体)と加飾層との密着性の観点から、接着層を積層することが好ましい。この場合、接着層は、被着体側に積層することが好ましい。つまり、好ましい態様として、本発明の積層フィルム/クリア層/加飾層/接着層という構成が挙げられる。なお、本発明の積層フィルムがB層を片面のみに有する態様の場合には、クリア層はB層上に形成されることが好ましい。
【0070】
ここで、クリア層として使用される樹脂は、高透明樹脂であれば特に限定されないが、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂共重合体などが好ましく使用される。耐傷性の観点から、熱硬化樹脂、紫外線硬化樹脂、熱線硬化樹脂が好ましく用いられる。また、クリア層には耐候性を向上させるために、紫外線吸収剤、紫外線反射剤を添加しても構わない。
【0071】
また、クリア層は、耐傷性、意匠性の観点から、厚みが10〜100μmであることが好ましく、15〜80μmであればさらに好ましく、20〜60μmであれば最も好ましい。
クリア層の形成方法としては、直接形成させる方法、キャリアフィルムへ一旦形成させ、転写させる方法などが挙げられる。クリア層形成させた後の乾燥温度が高温にする必要がある場合は、一旦キャリアフィルムへ形成させ、その後、転写させる方法が好ましく用いられる。クリア層の形成方法としては、ローラー塗装法、刷毛塗装法、スプレー塗装法、浸漬塗装法の他、グラビアコーター、ダイコーター、コンマコーター、バーコーター、ナイフコーターを用いた方法が挙げられる。
【0072】
加飾層の形成方法としては特に限定されないが、例えば、コート、印刷、金属蒸着などによって形成することができる。コートする場合は、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法を用いることができる。また、印刷する場合は、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法を用いることが出来る。このとき使用される樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂共重合体などが好ましく使用される。使用される着色剤としては特に限定されないが、分散性などを考慮して、染料、無機顔料、有機顔料などから適宜選択される。
【0073】
コート、印刷により形成される加飾層の厚みとしては、成型後の色調保持性、意匠性の観点から観点から、10〜100μmであることが好ましく、15〜80μmであればさらに好ましく、20〜60μmであれば最も好ましい。
【0074】
また、加飾層の形成方法が金属蒸着の場合、蒸着簿膜の作製方法としては特に限定されないが、真空蒸着法、EB蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などを用いることができる。なお、ポリエステルフィルムと蒸着層との密着性を向上させるために、蒸着面をあらかじめコロナ放電処理やアンカーコート剤を塗布するなどの方法により前処理しておくことが望ましい。使用される金属としては成形追従性の点から融点が150〜400℃である金属化合物を蒸着して使用することが好ましい。該融点範囲の金属を使用することで、ポリエステルフィルムが成形可能温度領域で、蒸着した金属層も成形加工が可能であり、成形による蒸着層欠点の発生を抑制しやすくなるので好ましい。より好ましい金属化合物の融点としては150〜300℃である。融点が150〜400℃である金属化合物としては特に限定されるものではないが、インジウム(157℃)やスズ(232℃)が好ましく、特にインジウムを好ましく用いることができる。加飾層の積層厚みは、0.001〜100μmであることが好ましく、0.01〜80μmであればさらに好ましく、0.02〜60μmであれば最も好ましい。
【0075】
成形樹脂への接着性を付与する目的で設ける接着層の素材としては、感熱タイプあるいは感圧タイプを用いることができる。射出成形樹脂、樹脂成形体へ転写させる場合は、樹脂に合わせて、接着層を設計することができる。アクリル系樹脂の場合はアクリル系樹脂、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを用いる事が好ましい。成形樹脂がポリプロピレン系樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン系樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂、環化ゴム、クマロンインデン系樹脂を用いる事が好ましい。
【0076】
接着層の形成方法は種々の方法を用いられ、例えばロールコート法、グラビアコート法、コンマコート法などのコート法、また、例えばグラビア印刷法、スクリーン印刷などの印刷法が用いられる。
【0077】
本発明の積層フィルムを用いた成型用シートを使用して加飾させる被着体としては、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン、アクリル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル・スチレン、ポリアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンなどといった樹脂や、金属部材などが用いられる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例に沿って本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。なお、諸特性は以下の方法により測定した。
【0079】
(1)フィルム厚みおよび層厚み
積層フィルムの全体厚みを測定する際は、ダイヤルゲージを用いて、フィルムから切り出した試料の任意の場所5ヶ所の厚みを測定し、平均値を求めた。
【0080】
また、積層フィルムの各層の層厚みを測定する際は、ライカマイクロシステムズ(株)製金属顕微鏡LeicaDMLMを用いて、フィルムの断面を倍率100倍の条件で透過光を写真撮影し、積層フィルムの各層の層厚みについて、各層ごとに任意の5ヶ所を測定し、その平均値を各層の層厚みとした。
【0081】
(2)ポリエステル層(A層)とポリオレフィン層(B層)との層間密着力
フィルム表面(B層側)に、日東電工CSシステム社製の粘着テープ“ダンプロン エースNo.3200”を、ラミネーターにより貼り合わせた(ニップ条件:0.3MPa、10m/min)。貼り合わせフィルムを150mm×25mmの大きさにサンプリングし、サンプル端部からA層とB層間で強制剥離を行った。その後、引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT−100)を用いて、初期引張チャック間距離100mm、引張速度を300mm/分で180°剥離試験を行い、伸び50%〜100%の荷重の平均を層間密着力とした。
【0082】
(3)100℃での100%伸長時の応力、および100℃での破断伸度
積層フィルムを長手方向および幅方向に長さ100mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT−100)を用いて、初期引張チャック間距離20mmとし、引張速度を200mm/分としてフィルムの長手方向と幅方向にそれぞれ引張試験を行った。測定は予め100℃に設定した恒温層中にフィルムサンプルをセットし、60秒間の予熱の後で引張試験を行った。サンプルが100%伸長したとき(チャック間距離が40mmとなったとき)にフィルムにかかる荷重を読み取り、試験前の試料の断面積(フィルム厚み×10mm)で除した値を求め、100%伸長時の応力(F100値)とした。
【0083】
また、同様の測定条件で長手方向と幅方向にそれぞれ引張試験を行い、サンプルが破断したときの伸度の長手方向と幅方向の平均値を100℃での破断伸度とした。
なお、測定は応力、破断伸度ともに各サンプル、各方向に5回ずつ行い、その平均値で評価を行った。
【0084】
(4)ポリオレフィン層(B層)の275℃での熱質量減少率
本発明の積層フィルムのポリオレフィン層(B層)を削りとり、サンプルを秤量し、島津製作所製熱重量分析装置(TGA−50)を用いて、窒素雰囲気下、測定開始温度25℃、昇温速度10℃/分、到達温度300℃の条件で熱質量測定(TG)を行った。測定開始温度(25℃)での質量を100とし、275℃での熱質量減少率を求めた。
【0085】
(5)表面自由エネルギー
測定液として、水、エチレングリコ−ル、ホルムアミド、及びヨウ化メチレンの4種類の液体を用い、協和界面化学(株)製接触角計CA−D型を用いて、各液体のフィルム表面に対する静的接触角を求めた。各々の液体について得られた接触角と測定液の表面張力の各成分を下式にそれぞれ代入し4つの式からなる連立方程式をγSd ,γSp,γShについて解いた。
【0086】
(γSdγLd )1/2 + (γSp γLp)1/2 +(γSh γLh )
1/2 =γL(1+COS θ)/2
但し、γS =γSd +γSp +γSh
γL =γLd +γLp +γLh
γS 、γSd 、γSp 、γSh はそれぞれフィルム表面の表面自由エネルギー、分散力成分、極性力成分、水素結合成分を、またγL 、γLd 、γLp、γLhは用いた測定液のそれぞれ表面自由エネルギー、分散力成分、極性力成分、水素結合成分を表わすものとる。ここで、用いた各液体の表面張力は、Panzer(J.Panzer,J.Colloid Interface Sci.,44,142(1973)によって提案された値を用いた。
【0087】
(6)品位
A4サイズにサンプリングしたフィルムを、3波長蛍光灯下で透過にて目視で観察を行い、長径が50μm以上の異物の個数をカウントし、A4サイズ当たりの異物の個数を以下の基準にて評価を行った。
A:異物が全くカウントされなかった。
B:異物の個数が1個以上5個未満であった。
C:異物の個数が5個以上10個未満であった。
D:異物の個数が10個以上であった。
【0088】
(7)耐溶剤性
ポリオレフィン層(B層)表面に酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエン、エタノールを各々3ml滴下させて6時間放置した後、溶剤をきれいに拭き取って、表面状態を下記の評価基準の通り目視で観察し判定した。AとBであれば合格レベルである。
A:すべての溶剤に対して、白化、収縮、変形、溶剤の痕跡が認められないもの。
B:いずれかの溶剤に対して、比較的軽い白化、収縮、変形が認められるもの。
C:いずれかの溶剤に対して、白化、収縮、変形が認められるもの。
【0089】
(8)成型性
400℃の遠赤外線ヒーターを用いて、表面温度が100℃の温度になるように加熱し、50℃に加熱した金型(底面直径50mm)に沿って真空成型を行った。金型に沿って成形できた状態を成形度合い(絞り比:成形高さ/底面直径)を用いて以下の基準で評価した。A〜Cであれば合格レベルである。
A:絞り比1.0以上で成形できた。
B:絞り比0.9以上1.0未満で成形できた。
C:絞り比0.8以上0.9未満で成形できた。
D:追従性が低く、絞り比0.8の形に成形できなかった。
【0090】
(9)形状保持性
(8)で成型した成型体を金型から取り外した際の形状保持性について、以下の基準で評価した。AまたはBであれば合格レベルである。
A:金型の形状を保持できた。
B:若干、形状が崩れたが、問題ないレベルであった。
C:金型の形状が保持できなかった。
【0091】
(10)離型性
後述の各実施例に記載の条件で成型用転写箔シートを作製後、長手方向および幅方向に長さ100mm×幅25mmの矩形に切り出しサンプルとした。サンプルのポリオレフィン層(B層)とトップコート層の一部を剥離させた後、引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT−100)を用いて、積層フィルム側、トップコート層側をそれぞれチャックに挟んだ後剥離試験を行い、剥離時の荷重の平均値を求め、以下の規準で判定した。
【0092】
なお、初期チャック間距離100mm、引張速度300mm/分、室温下とし、フィルムの長手方向と幅方向にそれぞれ試験を行った。なお、測定は各サンプル、各方向に5回ずつ行い、その平均値で評価を行った。S〜Bが合格である。
S:0N/25mm以上0.2N/25mm未満
A:0.2N/25mm以上0.5N/25mm未満
B:0.5N/25mm以上1.0N/25mm未満
C:1.0N/25mm以上
D:ポリエステル層(A層)とポリオレフィン層(B層)間で層間剥離が発生
(11)成型後の層間剥離性
(8)で成型した成型体を金型から取り外した後、成型部をカッターにてカットし、カット端部のフィルム両面に日東電工CSシステム社製の粘着テープ“ダンプロン エースNo.3200”貼り合わせ、強制剥離を行い、下記の通り評価を行った。S〜Cであれば合格レベルである。
S:剥離が全く発生しなかった。
A:強制剥離を5回以上繰り返すと、端部で一部剥離は発生するが、フィルム切れが起こり、それ以上の剥離は発生しなかった。
B: 強制剥離5回未満で、端部が一部剥離したが、フィルム切れが起こり、それ以上の剥離は発生しなかった。
C:強制剥離5回未満で、端部が一部剥離したが、剥離抵抗が非常に強かった。
D:抵抗なく剥離が発生した。
【0093】
(12)固有粘度
オルトクロロフェノール中、25℃で測定した溶液粘度から[式]により計算することができる。
固有粘度: ηsp /C=[η]+K[η]2 ・C ・・・[式]
ここで、ηsp =(溶液粘度/溶媒粘度)−1、Cは溶媒100mlあたりの溶解ポリマー質量(1.2g/100ml)、Kはハギンス定数(0.343とした)である。また、溶液粘度および溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定することができる。
【0094】
(13)酸価
JIS K0070(1992年式)に沿って、樹脂をキシレンに加熱溶解した後、フェノールフタレインを指示薬としてKOH溶液により滴定して求めることができる。

実施例および比較例には、以下のポリエステル、ポリオレフィン、および酸変性ポリオレフィンを使用した。
【0095】
(ポリエステルA)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が100モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が99モル%、ジエチレングリコール成分が1モル%であるポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.65)。
【0096】
(ポリエステルB)
1,4−シクロヘキサンジメタノールがグリコール成分に対し33mol%共重合された共重合ポリエステル(イーストマン・ケミカル社製GN001)を、シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレートとして使用した(固有粘度0.75)。
【0097】
(ポリエステルC)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が82.5モル%、イソフタル成分が17.5モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が99モル%、ジエチレングリコール成分が1モル%であるイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.7)。
【0098】
(ポリエステルD)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸が95モル%、5−ナトリウムイソフタル酸成分が5モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が99モル%、ジエチレングリコール成分が1モル%である5−ナトリウムイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.67)。
【0099】
(ポリエステルE)
ジカルボン酸成分としてテレフタル成分が100モル%、グリコール成分として1,4−ブタンジオール成分が100モル%であるポリブチレンテレフタレート樹脂(固有粘度1.22)。
【0100】
(ポリプロピレンA)
プライムポリマー製“Y−2045GP”(MFR=24、エチレン基4質量%含有)を用いた。
【0101】
(ポリプロピレンB)
住友化学製“R101”(MFR=19)を用いた。
【0102】
(ポリプロピレンC)
住友化学製“Z101A”(MFR=22)を用いた。
【0103】
(変性ポリプロピレンA)
三井化学製“アドマーQE800”を用いた。
※(4)法での275℃熱質量減少率:0.02%
(変性ポリプロピレンB)
アルケマ製“オレバックCA100”を用いた。
※(4)法での275℃熱質量減少率:0.54%
(変性ポリプロピレンC)
三洋化成(株)社製“ユーメックス1010”を用いた。
※(4)法での275℃熱質量減少率:2.2%
(変性ポリプロピレンD)
三洋化成(株)社製“ユーメックス1001”を用いた。
※(4)法での275℃熱重量減少率:1.3%
(実施例1)
ポリエステルAを(層A)、ベント式二軸押出機(L/D=36)に供給して275℃で溶融させた後に、真空ベント部2ヶ所を通過させた。次いで、樹脂を濾過精度30μmのリーフディスクフィルターを通過させた後、マルチマニホールド式ダイに供給した。
【0104】
また、ポリオレフィンA、変性ポリオレフィンAを表の割合で混合し(層B)、ベント式二軸押出機(L/D=36)に供給した。供給された樹脂を270℃で溶融させた後に、真空ベント部2ヶ所を通過させた。次いで、樹脂を、濾過精度30μmのリーフディスクフィルターを通過させた後、マルチマニホールド式ダイに供給した。
【0105】
ダイ内にてそれぞれの樹脂がマニホールドを通過した後、2種の樹脂をB層/A層/B層となるように積層し、スリット状のダイからシート状に押出した。押出されたシートの両端部に針状エッジピニング装置を用いて静電印加を行い、キャスティングドラムに密着させて、冷却固化し、フィルムの全厚みが100μmの本発明の積層フィルムを得た。
【0106】
得られた積層フィルムを用いて、前述の評価を行った。
【0107】
次に、積層フィルムの一方のB層上にクリア層、加飾層および接着層をこの順に形成し、転写箔である本発明の成型用シートを得た。
【0108】
クリア層としては、紫外線硬化型アクリル系樹脂(BASFジャパン社製“LAROMER”(登録商標)LR8983)を用いて、厚さ60μmの層を形成した。
【0109】
加飾層としては、ポリウレタン系樹脂グラビアインキ(大日精化工業(株)社製“ハイラミック”(登録商標)、主要溶剤:トルエン/メチルエチルケトン/イソプロピルアルコール、インキ:723B黄/701R白)を用いて、厚さ50μmの層を形成した。
【0110】
接着層としては、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)共重合樹脂フィルム(オカモト(株)社製ABSフィルム“ハイフレックス”(登録商標))を用いて、厚さ50μmの層を形成した。
【0111】
このようにして得られた転写箔を用いて、(10)離型性の評価を行った。
【0112】
次に、得られた転写箔を、真空成型機を用い、400℃の遠赤外線ヒーターを用いて、表面温度が100℃の温度になるように加熱し、50℃に加熱した金型(底面直径50mm:絞り比:0.8)に沿って真空成型を行った。この際、接着層が内側の最表層になるように成型を行った。
【0113】
続いて、280℃に加熱したアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)共重合樹脂(東レ(株)社製ABS樹脂“トヨラック”(登録商標)930)を前記成型体に注入した。ABSが冷却固化後、成型体にABS共重合樹脂を注入した成形物を金型から取り出し、波長365nmの紫外線を用いて、成形物のクリア層を硬化させた。その後、積層フィルム/クリア層間で剥離を行い、加飾成形体を得た。
【0114】
(実施例2〜9、11〜15、19、20)
積層フィルムの組成を表のように変えた以外は、実施例1と同様にして本発明の積層フィルムを得、同様の評価を行った。さらに、実施例1と同様にして転写箔を得、同様の評価を行った。本例で作成した転写箔は離型性、成形性とも良好であった。
【0115】
(実施例10)
積層フィルムの構成をA層/B層の2層にした以外は、実施例1と同様にし、本発明の積層フィルムを得、同様の評価を行った。さらに、実施例1と同様にして転写箔を得、同様の評価を行った。
【0116】
(実施例16〜18)
積層フィルムの組成と、フィルム厚みを表のように変えた以外は、実施例1と同様にして本発明の積層フィルムを得、同様の評価を行った。さらに、実施例1と同様にして転写箔を得、同様の評価を行った。
【0117】
(実施例21、22)
積層フィルムの組成と、積層比を表のように変えた以外は、実施例1と同様にして本発明の積層フィルムを得、同様の評価を行った。さらに、実施例1と同様にして転写箔を得、同様の評価を行った。
【0118】
(比較例1)
積層フィルムの組成を表のように変えた以外は、実施例1と同様にした。本例で作成した積層フィルムはポリオレフィン層(B層)と芳香族ポリエステル層(A層)の層間密着性が低いものであった。
【0119】
(比較例2)
積層フィルムの積層比を表のように変えた以外は、実施例3と同様にした。本例で作成した積層フィルムはA層とB層との積層比が、B層/フィルム全体=0.5より大きいため、形状保持性が不充分であった。
【0120】
(比較例3)
積層フィルムの積層比を表のように変えた以外は、実施例3と同様にした。本例で作成した積層フィルムはA層とB層との積層比が、B層/フィルム全体=0.05未満のため、耐溶剤性が不充分であった。
【0121】
(比較例4)
ポリエステルAを(層A)、ベント式二軸押出機(L/D=36)に供給して275℃で溶融させた後に、真空ベント部2ヶ所を通過させた。次いで、樹脂を濾過精度30μmのリーフディスクフィルターを通過させた後、スリット状のダイからシート状に押出した。押出されたシートの両端部に針状エッジピニング装置を用いて静電印加を行い、キャスティングドラムに密着させて、冷却固化し、フィルムの全厚みが100μmのフィルムを得た。得られたフィルムはポリオレフィン層(B層)を積層していないため、耐溶剤性、離型性が不充分であった。
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

【0124】
【表3】

【0125】
【表4】

【0126】
【表5】

【0127】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明によれば、離型性、印刷性に優れた積層フィルムをコーティング、押出ラミネートなどの工程を含まずに得ることができる。より具体的には、離型性については、被転写体との離型性に優れるため離型工程での剥離痕が発生しにくい。また、印刷性については、印刷インクに含有される溶剤、特に酢酸エチル、メチルエチルケトンなどに対しての耐溶剤性に優れるため、各種印刷インクを用いることができる。本発明の積層フィルムは、インモールド転写などの加飾工法で転写箔として好適に用いられ、自動車内外装部品、家電部材、電子機器、建材分野、包装容器などの用途で好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステル樹脂を主成分とするポリエステル層(A層)の少なくとも片面に、ポリオレフィン樹脂を主成分とするポリオレフィン層(B層)を積層してなる積層フィルムであって、
フィルム全体におけるB層の積層比が、B層/フィルム全体=0.05〜0.5であり、
A層とB層との層間密着力が、1N/25mm以上30N/25mm以下である積層フィルム。
【請求項2】
前記B層のポリオレフィン樹脂として変性ポリオレフィン樹脂を含み、
ポリオレフィン層(B層)全体100質量%に対して、該変性ポリオレフィン樹脂を5質量%以上95質量%以下含む請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記変性ポリオレフィン樹脂が、不飽和ジカルボン酸による変性ポリオレフィン樹脂であることを特徴とする、請求項2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
窒素雰囲気下、測定開始温度25℃、昇温速度10℃/分、到達温度300℃の条件でB層の熱質量測定(TG)を行った際、B層の275℃での熱質量減少率が3質量%以下である請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項5】
100℃での破断伸度が300%以上である請求項1〜4のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の積層フィルムからなる成型用シート。