説明

積層フィルムないしシート、およびその製造方法

【解決手段】厚みが0.001〜50mmの高分子材料フィルムないしシートと、その片面または両面に、モノないしテトラメチルシランガス、好ましくはトリメチルシランガスを1〜100重量%含有する原料ガスから形成された、厚み1nm〜1×105nmのメチルシラン類反応生成物の被膜とからなる積層構造を含んでなることを特徴とする積層フィルムないしシート、およびその製造方法。
【効果】本発明によれば、表面硬度が高くガスバリヤー性に優れた硬質バリヤーフィルムないしシート、表面硬度が高く低誘電率を保ったままの硬質低誘電性フィルムないしシート、表面硬度が高く帯電防止性能に優れた硬質帯電防止フィルムないしシート、表面硬度が高くUVおよび/またはIRの遮断性能に優れたUVおよび/またはIRカット硬質フィルムないしシートなどの用途に好適な積層フィルムないしシート、およびその製造方法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の技術分野】本発明は、積層フィルムないしシート、およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、情報電子分野、半導体分野、食品分野、医療分野、産業機械分野または建築土木分野等で利用することができる積層フィルムないしシート、およびその製造方法に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】従来から、情報電子分野、半導体分野、食品分野、医療分野、産業機械分野または建築土木分野等において、製品内部への酸素や水分等の進入を防止する目的で、また包装する食品や医療品等の劣化や変質を防止する目的で、多種多様のガスバリヤーフィルムが用いられている。
【0003】たとえば、情報電子分野では、太陽電池パネルの長寿命化が必要であり、太陽電池パネルは、その表面に、紫外線や酸素の透過の遮断を目的としてエチレン・ビニルアルコール共重合体樹脂(EVOH)フィルムが貼り合わせて用いられ、また透湿を防ぐことを目的としてポリフッ化ビニル樹脂(PVF)フィルムが貼り合わせて用いられている。また、ディスプレイ分野では、タッチパネルやEL電極において広く使われている酸化インジウム錫(ITO)透明導電性フィルムの表面に、内部素子の劣化防止を目的としてガスバリヤーフィルムが貼り合わせられたり、さらには表面硬度の保持を目的として後処理によるハードコート化が行われている。この場合、透明性とガスバリヤー性を満たすため、SiN膜やSiON膜の検討がなされている。SiN(窒化シリコン膜)は樹脂との密着力が弱く可撓性に問題があることが実験的に確かめられている。また、窒化膜で水素が添加された場合、アンモニアが使用中に発生する虞があり問題である。
【0004】一方、食品分野においても、包装する食品の劣化や変質を防ぎ、長期保存時の品質の安定化および食品流通時の利便性向上を目的として、様々なガスバリヤーフィルムやガスコントロールフィルムが数多くに用いられており、塩化ビニルフィルム(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)フィルム、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)フィルム、二軸延伸ポリビニルアルコール(PVA)フィルム、ポリアクリロニトリル(PAN)フィルム、ナイロン樹脂フィルム、シリカ蒸着フィルム、アルミナ蒸着フィルム、アルミ蒸着フィルム、アルミニウム薄膜、さらには、これらの多層フィルム、共押出フィルム、貼り合わせフィルム、塗工フィルム、コーティングフィルム等が実用化されている。これらの食品包装用ガスバリヤーフィルムにおいても、近年、話題となっている環境への配慮が強く要望されており、従来広く一般的に使用されてきたポリ塩化ビニリデン(PVDC)フィルムから、より環境への影響の少ないポリオレフィン(PO)系フィルムやシリカ蒸着ポリオレフィン系フィルム、ポリオレフィン系樹脂の多層フィルム等への切替と、よりガスバリアー性能を向上させるために、新しいコート剤等の研究開発が行われている。
【0005】しかしながら、これらのガスバリヤーフィルムを以てしても、近年注目されている次世代薄膜型太陽電池の保護フィルムを目的とした場合や、次世代ディスプレイとして期待されている有機ELディスプレイ、ペーパーディスプレイの内部素子の劣化を防ぐには不十分であり、これらの情報電子機器に適用する場合には、そのガスバリヤー層の硬度についても不充分であった。そのために、別途ハードコート層を積層導入したり、保護フィルムをガスバリヤーフィルム表面に貼り合わせたりする必要があった。また、このようなハードコート処理をガスバリヤーフィルム表面に施しても、フレキシブル太陽電池やフレキシブルペーパーのように自由自在に変形する製品では、ハードコート層やガスバリヤー層でのひび割れや剥離の発生が問題となっていた。そのため、フィルム硬度やガスバリヤー性能を向上させるためにはハードコート層を厚くする必要があるが、ひび割れや剥離の発生を防止するためにはハードコート層を薄く、しかも強くする必要がある。したがって、このような相反する要求から製品設計上の制約を受けることが多くなっていた。
【0006】また、フィルムの低誘電率化の要求に対しても、SiN膜の誘電率εrが7であるのに対し、SiC膜のεrが5未満であり、a−SiOC:Hでεrが2.9という膜が得られており、要求に応えることが可能である。このような状況から、新たな高性能ガスバリヤーフィルムの開発が期待されており、特に、表面硬度とガスバリヤー性能を併せ持つ硬質ガスバリヤーフィルムないしシートが求められている。また、近年においては、その製品の物理化学的な性能のみならず、使用される環境に対応した製品であることが求められており、製造プロセスが省エネルギー型であり、製品を廃棄した際に環境に悪影響を及ばさないように環境保全に配慮した積層フィルムないしシートが求められていた。
【0007】本発明者らは、このような産業界の状況に鑑み、産業界が特に切望する次世代の情報電子機器等に対応できる高性能のガスバリヤーフィルムを開発するために、鋭意検討し、本発明を完成するに至った。本発明者らは、その開発を進めるに当たって、開発した技術が情報電子分野のみならず、既にガスバリヤーフィルムないしシートが用いられている半導体分野、食品分野、医療分野、産業機械分野、建築土木分野等でも、同様な理由から高性能のガスバリヤー性フィルムの開発が期待されており、これらの分野においても共通の技術として適用でき、広く使用することが可能なフィルムないしシートを得ることをも目的として開発を進め、本発明を完成するに至った。
【0008】
【発明の目的】本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、硬質の表面硬度と高いガスバリヤー性能を有する、好ましくは透明な積層フィルムないしシート(硬質ガスバリヤーフィルムないしシート、硬質フィルムないしシート)およびその製造方法を提供することを目的としている。、また、本発明は、表面が硬質で高いガスバリヤー性能を有し、かつ、低い誘電率を保つ、好ましくは透明な積層フィルムないしシート(硬質低誘電性フィルムないしシート)およびその製造方法を提供することを目的としている。
【0009】さらに、本発明は、表面が硬質で高いガスバリヤー性能を有し、かつ、高い帯電防止性能を有する、好ましくは透明な積層フィルムないしシート(硬質帯電防止フィルムないしシート)およびその製造方法を提供することを目的としている。さらにまた、本発明は、紫外線および/または赤外線カット硬質フィルムないしシートおよびその製造方法を提供することを目的としている。
【0010】
【発明の概要】本発明に係る積層フィルムないしシートは、厚みが0.001〜50mmの高分子材料フィルムないしシート(A)と、該フィルムないしシート(A)の片面または両面に、一般式Si(CH3n4-n (式中、nは1〜4の整数である。)で表わされるメチルシラン類のガスを1〜100重量%含有する原料ガスから形成された、厚み1nm〜1×105nmのメチルシラン類反応生成物の被膜(B)とからなる積層構造を含んでなることを特徴としている。
【0011】すなわち、この積層フィルムないしシートは、被膜(B)および/または高分子材料フィルムないしシート(A)の表面に、さらに他の被膜が1層または2層以上形成されていてもよい。前記メチルシラン類反応生成物の被膜(B)は、前記原料ガスの放電分解により生成した反応ガスが更に反応して、前記フィルムないしシート(A)の片面または両面に形成されている。
【0012】本発明に係る硬質ガスバリヤーフィルムないしシート、硬質フィルムないしシート、および硬質低誘電性フィルムないしシートは、上記の、本発明に係る積層フィルムないしシートからなることを特徴としている。本発明に係る硬質帯電防止フィルムないしシートは、ジボラン、ホスフィンといったドーパントガスを含む原料ガスを用いて形成されたメチルシラン類反応生成物の被膜(B)を有する、本発明に係る積層フィルムないしシートからなることを特徴としている。
【0013】本発明に係る紫外線および/または赤外線カット硬質フィルムないしシートは、上記の、本発明に係る積層フィルムないしシートからなることを特徴としている。本発明に係る積層フィルムないしシートの製造方法は、一般式 Si(CH3n4-n (式中、nは1〜4の整数である。)で表わされるメチルシラン類のガスを1〜100重量%含有する原料ガスを放電分解することにより、生成した反応ガスを更に反応させて、高分子材料フィルムないしシート(A)の片面または両面に、メチルシラン類反応生成物からなる厚み1nm〜1×105 nmのメチルシラン類反応生成物の被膜(B)を形成することを特徴としている。
【0014】本発明に係る積層フィルムないしシート、およびその製造方法においては、前記高分子材料フィルムないしシート(A)の片面または両面は、表面処理が施されていてもよい。また、前記高分子材料フィルムないしシート(A)は、光学的に透明ないし半透明で、かつ少なくとも炭素原子、酸素原子および水素原子からなる有機高分子化合物を50ないし100重量%含む熱可塑性プラスチック材料であることが望ましい。
【0015】前記メチルシラン類としてはトリメチルシランが好ましい。前記原料ガスが、トリメチルシランガスのみであってもよいし、また、トリメチルシランガスを1重量%以上かつ100重量%未満の量で含み、さらに、メチルシラン類ガス以外のシランガスおよび/または希釈ガスを99重量%以下で0重量%を超える量で含む混合ガスであってもよい。
【0016】前記原料ガスが、さらにドーパントガスを含んでいてもよい。原料ガス中にドーパントガスを含ませることにより、被膜(B)に導電性を付与することができる。前記メチルシラン類反応生成物の被膜(B)の平均組成式は、通常は、a-Six:Cy:Hz(式中、xは、0.999以下で0より大きい数値であり、yは、0.9以下で0.001より大きい数値であり、zは、0以上0.6以下の数値であり、x+y+z=1である。)で表わされる。
【0017】
【発明の具体的説明】以下、本発明に係る積層フィルムないしシート、およびその製造方法について具体的に説明する。本発明に係る積層フィルムないしシートは、高分子材料フィルムないしシート(A)の片面または両面に、メチルシラン類を含有する原料ガスを用いて、メチルシラン類反応生成物の被膜(B)が形成されている。
【0018】高分子材料フィルムないしシート(A)本発明で用いられる高分子材料フィルムないしシート(A)は、その厚みが0.001〜50mmの範囲内にある。その厚みは、積層フィルムないしシートの用途によって、その好ましい範囲が異なり、たとえば、食品包装材用途の場合には、減容化を図り廃棄物量を少なくする必要があるため、その厚みは0.01mm〜0.3mm程度が好ましく、包装する内容物によって適宜選択することができる。また、軽量化や小型化が必要な有機ELディスプレイやペーパーディスプレイ等に代表される情報電子機器用途の場合には、軽薄短小ではあるが、ある程度の構造上の強度が必要であることから、その厚みは0.05〜2mm程度が好ましい。その他、産業機器、半導体装置、真空装置、輸送機器、特殊容器または建築材料等にも応用が考えられる。これらの用途では、一般的に強度が要求されるため、特に限定されるものではないが、薄いものでは、厚み1mm程度から、厚いもので50mm程度まで必要になってくる。
【0019】また、高分子材料フィルムないしシート(A)の表面は、通常の用途であれば平滑な平面がよいが、光閉じ込めが必要な場合には、1nm〜10μm(=1×104nm)の高さの、四面体構造、三角柱、四角柱、六角柱、円柱、だ円柱、三角錐、四角錘、半円錘、ランダム形状等の凹凸形状を付与してもよく、他素材との粘着性を改良するために、1nm〜10μmのエンボス加工を施してもよい。
【0020】本発明で用いられる高分子材料フィルムないしシートとしては、有機高分子化合物、中でも、光学的に透明ないし半透明、好ましくは透明であり、かつ少なくとも炭素原子、酸素原子および水素原子から構成された有機高分子化合物を50ないし100重量%含む熱可塑性プラスチック材料であることが望ましい。このような高分子材料フィルムないしシート(A)を形成する有機高分子化合物としては、たとえば低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(HMWPE)、ポリエチレンホモポリマー、ポリエチレンコポリマー、ポリプロピレン−ポリエチレンブロックコポリマー、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマー、ポリメチルペンテン、環状オレフィンコポリマー等のポリオレフィン樹脂類;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂類;ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVCD)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル樹脂(PFA)等のビニル樹脂類;ポリ塩化ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)等の透明樹脂類;ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリアラミド、ポリアリレート(PAR)、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)等のエンジニアリングプラスチックス樹脂類;微生物由来ポリエステル、微生物由来多糖類、微生物由来セルロース、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、脂肪族ポリエステル、キチン質キトサン質由来多糖類、N−アセチルグルコサミンポリマー、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリヒドロキシブチレート、変性PVA、さらには、有機天然高分子素材(たとえば、でん粉、木粉、大豆またはトウモロコシなどに由来するもの)等の生分解樹脂類などの樹脂が挙げられる。
【0021】これらの樹脂は、1種単独で用いることができるし、また、2種以上組み合わせて樹脂混合あるいは樹脂アロイ化した高分子材料として用いることもできる。本発明においては、上記有機高分子化合物に、必要に応じて、フィラー(複合材)、強化材、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、難燃剤、安定剤等の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で、配合することができる。
【0022】上記フィラー(複合材)としては、具体的には、鉄、銅、銀、金、ニッケル、ステンレス、アルミニウム、鉛等の金属粉;カーボンブラック、ケッチェンブラック、グラファイト等の炭素粉;黒鉛、中空炭素、カーボンナノチューブ類、フラーレン類、フェノール焼成物、ガラス粉、ガラスフレーク、ガラスビーズ、中空ガラス、タルク、マイカ、カオリン、ウオラストナイト、モンモリロナイト;ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、セリア、酸化鉄、酸化チタン、マグネシア等の酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化アンチモン等の水酸化物;二硫化モリブデン、二硫化タングステン、硫化亜鉛等の硫化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化硼素等の窒化物;炭化珪素、炭化チタン等の炭化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛等の炭酸塩;チタン酸カリ、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛等のチタン酸塩;燐酸カルシウム、燐酸鉄等の燐酸塩;バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、ニッケルフェライト、サマリウムコバルト等のフェライト化合物などの無機素材が挙げられる。
【0023】また、上記強化材としては、具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、炭化珪素ウィスカー、窒化珪素ウィスカー、チタン酸カリウムウイスカー、ゾノトライト、石膏、ドーソナイト、ゼピオライト等の繊維素材などが挙げられる。上記の紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、難燃剤および安定剤としては、上記のような有機高分子化合物に、従来より通常添加されている公知の添加剤を使用することができる。
【0024】本発明で用いられる高分子材料フィルムないしシート(A)は、たとえば、上記の1種または2種以上の有機高分子化合物および必要に応じ上記のフィラー、強化剤等の添加剤を混合、配合、またはコンポジット(ナノコンポジットも含める)した高分子材料を、Tダイ法、インフレーション法、キャスト法、流延法、射出成形法、射出圧縮成形法、トランスファー成形法、圧縮成形法、その他の一般的なフィルム成形またはシート成形加工法により、製膜成形または成形加工することにより得ることができる。
【0025】これらの方法により得られる高分子材料フィルムないしシートとしては、無延伸フィルム、無延伸シート、一軸延伸フィルム、一軸延伸シート、二軸延伸フィルム、二軸延伸シート、インフレーションフィルム、多層フィルム、共押出フィルム、キャストフィルム、ラミネートフィルム、コーティングフィルム、押出成形シート、射出成形板、プレス成形板、貼合わせフィルム、塗工フィルム、塗工シートなどが挙げられる。
【0026】上記のようにして得られた高分子材料フィルムないしシート表面には、必要に応じて、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂、ウレア樹脂等のアンカー剤やアンダーコート剤による処理を施すことができ、また、シリカ、アルミナ、チタニア、セリア、DLCコート(ダイヤモンドライクカーボンコート)、Kコート(ポリ塩化ビニリデンコート)、チタン、TiC、TiN、TiCN、W2C、フッ素、リン、各種ポリマーコート等の表面コーティングを施すこともできる。また、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、スズ(Sn)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)等の金属蒸着薄膜を形成することも可能であるが、環境保全を配慮すると、金属蒸着薄膜は無い方が好ましい。
【0027】また、高分子材料フィルムないしシート(A)は、表面処理、たとえばコロナ放電処理、火炎処理、クロム酸処理等の従来公知の表面処理が施されていてもよい。このような表面処理を行なうことにより、高分子材料フィルムないしシート(B)とメチルシラン類反応生成物からなる被膜(C)との界面接着性を向上させることができるため、一般的には、表面処理が施されていることが好ましい。
【0028】メチルシラン類反応生成物の被膜(B)本発明に係る積層フィルムないしシートは、上記の高分子材料フィルムないしシートの片面または両面に、メチルシラン類反応生成物の被膜(B)が形成されている。まず、この被膜(B)形成に用いられる、メチルシラン類を含有する原料ガスについて説明する。
【0029】[原料ガス]本発明で用いられる原料ガスは、主原料ガスとして下記の一般式で表わされるメチルシラン類のガスを、原料ガス全体の1〜100重量%占めている。
Si(CH3n4-n(式中のnは1〜4の整数である。)
上記式で表わされるメチルシラン類としては、具体的には、モノメチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシランが挙げられる。中でも、室温で気体であり、メチル基を多く有するトリメチルシランが好ましい。
【0030】これらのメチルシラン類は、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。すなわち、原料ガスとして、たとえばトリメチルシランガスのみを用いることができる。また、モノメチルシラン、ジメチルシラン、テトラメチルシランのガスを原料ガスとして用いる場合には、特にトリメチルシランを併用することが好ましい。トリメチルシランガスを使用した場合には、ガスバリヤー性に優れ、かつ表面硬度の高い、無着色の積層フィルムないしシートが得られるので、工業的にみて有用である。
【0031】本発明で用いられる原料ガスは、トリメチルシランガスを1重量%以上かつ100重量%未満の量で含み、さらに、メチルシラン類ガス以外のシランガスおよび/または希釈ガスを99重量%以下で0重量%を超える量で含む混合ガスであってもよい。メチルシラン類ガス以外のシランガスは、下記の一般式で表わされるシランのガスである。
【0032】Sim2m+2(式中のmは1〜3の整数である。)
この式で表わされるシランとしては、具体的には、モノシラン、ジシラン、トリシランが挙げられる。また、希釈ガスとしては、具体的には、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)等の不活性ガス;水素、酸素、窒素、メタン(CH4)、エタン(C26)、プロパン(C38)等の補助的なガス;塩素(Cl2 )、ゲルマン、四弗化珪素等の表面硬度の調整を目的として使用される半導体ガス、ボロン、リンを含むジボラン(B26)、ホスフィン(PH3)等の導電性の付与を目的として使用されるドーパントガスなどが挙げられる。
【0033】これらメチルシラン類ガス以外のガス成分およびトリメチルシランガス以外のメチルシラン類ガスの種類とその混合ガス組成は、フィルムないしシートの原料として用いる高分子材料や、積層フィルムないしシートの用途によって適宜選択されるが、メチルシラン類ガス以外のガス成分については、原料ガスに使用しても使用しなくてもよい場合がある。
【0034】本発明においては、少なくとも、上記メチルシラン類好ましくはトリメチルシランを1〜100重量%含有する原料ガスを用いることにより、ガスバリヤー性に優れ、かつ表面硬度の高い積層フィルムないしシートを得ることができる。
[被膜(B)]本発明に係る積層フィルムないしシートを構成する被膜(B)は、上記原料ガスから形成されたメチルシラン類反応生成物の薄膜であり、その薄膜の厚みは、1nm〜1×105nmであり、積層フィルムないしシートの用途によっても異なるが、一般的には、好ましくは1nm〜103nm、さらに好ましくは5nm〜500nmであることが望ましい。薄膜の厚みが上記範囲内にあると、高い表面硬度と優れたガスバリヤー性を有し、しかも、可撓性に優れる積層フィルムないしシートが得られる。
【0035】このメチルシラン類反応生成物からなる被膜(B)の平均組成式は、通常、下記の式で表わされる。
a-Six:Cy:Hzこの組成式において、xは、0.999以下で0より大きい数値であり、yは、0.9以下で0.001より大きい数値であり、zは、0以上0.6以下の数値であり、x+y+z=1である。また、a-は、非晶質(アモルファス)であることを意味している。また、時として、生成条件によっては、微結晶が混入しているケースもあり得ることは言うまでもないことである。
【0036】積層フィルムないしシート本発明に係る積層フィルムないしシートは、上記の高分子材料フィルムないしシート(A)と、その片面または両面に形成された上記メチルシラン類反応生成物の被膜(B)とからなる2層または3層の積層構造を含んでおり、3層以上または4層以上の積層フィルムないしシートであってもよい。すなわち、この被膜(B)の表面に他の被膜が形成されていてもよく、また、高分子材料フィルムないしシート(A)の表面に他の被膜が形成されていてもよい。これらの他の被膜は、積層フィルムないしシートの用途、使用目的、その要求される物性等により適宜決定される。
【0037】本発明に係る積層フィルムないしシートは、被膜(B)におけるSi原子間およびSi−C原子間の化学結合が極めて強いため表面硬度が高く、また、その被膜(B)層には疎水性のメチル基が密に充填されているため、水分子等の分極した分子や電気陰性度の高い分子の透過が妨げられ、ガスバリヤー性能が高くなる。また、高分子材料フィルムないしシート(A)の少なくとも片面に形成された被膜(B)の厚み1nm〜1×105nmという薄膜であっても、本発明に係る積層フィルムないしシートは、その変形が生じても、その応力が化学結合部分に分散するために、巨視的なひび割れや剥離を生じ難いという効果を有する。すなわち、本発明に係る積層フィルムないしシートは、従来品よりも性能の高い硬質バリヤーフィルムないしシートとして好適に用いることができる。
【0038】また、本発明に係る積層フィルムないしシートは、後述するように、これまで知られているガスバリヤーフィルムないしシートと異なり、低温度、低エネルギーでプラズマを発生させて厚みの薄い被膜(B)の製膜を可能にしていることから、プロセス的に省エネルギーであり、しかも、この被膜(B)は高性能で表面硬度が高いため、高分子材料フィルムないしシート(A)自体の厚みについても薄膜化が可能であり、結果的に産業廃棄物量を減少化させることができる。したがって、本発明に係る積層フィルムないしシートは、産業上のもう一つの課題である環境に及ぼす悪影響の少ない積層フィルムないしシートとして位置づけることができる。
【0039】次に、上記の、本発明に係る積層フィルムないしシートの製造方法について説明する。
積層フィルムないしシートの製造方法本発明に係る積層フィルムないしシートは、上記メチルシラン類のガスを1〜100重量%含有する原料ガスを放電分解することにより、生成した反応ガスを更に反応させて、上記高分子材料フィルムないしシート(A)の片面または両面に、メチルシラン類反応生成物からなる厚み1nm〜1×105 nmのメチルシラン類反応生成物の被膜(B)を形成する。
【0040】上記放電分解を起こさせる方法としては、従来公知のプラズマCVD(PCVD)法、プラズマ重合法、プラズマスパッタ法、DC放電法などが挙げられ、プラズマCVD法が好ましい。プラズマCVD(PCVD)としては、たとえば第48回応用物理学関係連合講演会予稿集、講演番号30a−ZT−6(2001.3.明治大学)の第953頁に記載されている大気圧プラズマCVD法などが挙げられる。
【0041】このように、本発明に係る積層フィルムないしシートの製造方法では、従来の積層フィルムないしシートの製造方法と比較して、低温度、低エネルギーでプラズマを発生させて前記組成式 a-Six:Cy:Hz で表わされる被膜(B)の製膜が可能であり、製造工程が簡易である。しかも、上記製造方法によって得られた積層フィルムないしシートは、ガスバリヤー性に優れ、かつ表面硬度が高く、さらに他の優れた性能たとえば低誘電性、帯電防止性能を有する積層フィルムないしシートとして得ることができる。
【0042】積層フィルムないしシートの用途本発明に係る積層フィルムないしシートの用途としては、1)硬質ガスバリヤーフィルムないしシート、2)硬質低誘電性フィルムないしシート、3)硬質帯電防止フィルムないしシート、4)紫外線(UV)および/または赤外線(IR)カット硬質フィルムないしシートなどが挙げられる。
【0043】本発明に係る硬質ガスバリヤーフィルムないしシートは、具体的には、包装用材料、情報電子デバイス用基板カバーシート、IC保護シート、タッチパネルシート、LCDシート、有機EL用ガスバリヤーフィルム、電子ペーパー用保護フィルム等の用途に用いることができる。本発明に係る硬質低誘電性フィルムないしシートは、具体的には、半導体回路製造のための基材、フレキシブル回路基材、高周波回路基材、半導体製造装置用保護フィルム等に用いることができる。
【0044】このような硬質低誘電フィルムおよびシートは、上述の「積層フィルムないしシートの製造方法」に従って製造され、具体的には、メチルシランガスとしてトリメチルシランを用い、高分子材料フィルムおよびシートとして、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(HMWPE)、ポリエチレンホモポリマー、ポリエチレンコポリマー、ポリプロピレン−ポリエチレンブロックコポリマー、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマー、ポリメチルペンテン、環状オレフィンコポリマー(COC)等のポリオレフィン樹脂類、ポリイミド樹脂等を用いて製造される。この場合、フィルムないしシート(A)の原料として高分子材料の種類を選択することにより、耐熱性能を広範囲にわたって選択することができる。
【0045】本発明に係る硬質帯電防止フィルムおよびシートは、具体的には、半導体回路の半導体膜、タッチパネルシート、LCD基板シートの用途に用いることができる。このような硬質帯電防止フィルムないしシートは、上述の「積層フィルムおよびシートの製造方法」に従って製造され、具体的には、薄膜にボロンおよびリンといった、ドーパントガスを0.1〜10000ppmといった極微量混入させることで、導電性を付与することができる。また、この場合、ドーパントがボロンの場合はp型、リンの場合はn型の半導体膜を得ることができ、薄膜形成時のドーパントを切り替えることにより、pn接合を形成することも可能である。また、この場合、光センサーとしての用途も考えられる。
【0046】本発明に係る紫外線(UV)カット硬質フィルムないしシートは、具体的には、LCD保護シート、太陽電池保護シート、太陽電池劣化抑制フィルムなどの用途に用いることができる。本発明に係る赤外線(IR)カット硬質フィルムないしシートは、具体的には、有機EL発光素子から出るIRカットなどの用途に用いることができる。
【0047】本発明に係る紫外線(UV)および赤外線(IR)カット硬質フィルムないしシートは、具体的には、LCD、有機EL、薄膜デバイスなどの用途に用いることができる。このような紫外線(UV)カット硬質フィルムおよびシートは、上述の「積層フィルムおよびシートの製造方法」に従って製造され、具体的には、メチルシラン類としてトリメチルシランを含有するガスを使用し、上記条件から作られる薄膜は、UVカット膜としての特性が期待される。また、目的に合った希釈ガスを用いることで、任意の光学ギャップを有する薄膜が得られる。薄膜の光学バンドギャップ(TAUC'Sプロット法による測定)としては、Eopt=2〜3eVといった、比較的な透明な薄膜が容易に得られる。また、反対に、膜厚1〜100nmといった、比較的、薄い膜厚でも、波長λ<400nmのUV光において、透過率をT<10%とすることが可能である。この場合、高分子材料フィルムおよびシートの耐候性を向上する。また、赤外線吸収剤を添加することで、赤外線(IR)カット硬質フィルムおよびシートとして、また、紫外線(UV)および/または赤外線(IR)カット硬質フィルムおよびシートを製造することができる。
【0048】またさらに、本発明に係る積層フィルムないしシートのその他の用途として、通常のハードコートポリカーボネートシートまたはポリメチルメタアクリレート樹脂シートのようなプラスチックシートよりも、耐久性が良く光透過性が良好なため、建築分野でのウインドーフィルム、採光板、エクステリア、透明遮音板、透明パーティション等に使用することも考えられる。
【0049】このような用途に用いられる積層フィルムないしシートは、上述の「積層フィルムおよびシートの製造方法」に従って製造され、具体的には、メチルシラン類としてトリメチルシランを含有するガスを使用し、高分子材料フィルムまたはシートとして、ポリエチレンテレフタレート(PET)、環状ポリオレフィンコポリマー(COC)、ポリカーボネート(PC)等の透明高分子材料フィルムまたはシートが用いられる。上記のその他の用途に用いられる積層フィルムおよびシートは、その光学特性や耐候性が良好であるため、表面硬度の良好な光学フィルムまたはシートとして用いることができる。また、フタロシアニン、銅フタロシアニン、ナフタロシアニン金属錯体系色素、ニトロソ有機顔料、ジチオール・ニッケル錯体系色素、インドアニリン金属錯体色素、分子間型CT色素、インジゴカルミンレーキ、ブリリアントグリーンレーキ、マラカイトグリーンレーキ、フタロシアニングリーン等の顔料・色素・赤外線吸収剤等を添加しておくことで、赤外線吸収フィルムおよびシートとして、屋外で使用される建築材料としての用途も考えられる。
【0050】
【発明の効果】本発明によれば、表面硬度が高くガスバリヤー性に優れた硬質バリヤーフィルムないしシート、表面硬度が高く低誘電率を保ったままの硬質低誘電性フィルムないしシート、表面硬度が高く帯電防止性能に優れた硬質帯電防止フィルムないしシート、表面硬度が高く紫外線および/または赤外線の遮断性能に優れた紫外線(UV)および/または赤外線(IR)カット硬質フィルムないしシートなどの用途に好適な積層フィルムないしシート、およびその製造方法を提供することができる。
【0051】本発明に係る積層フィルムないしシートは、情報電子分野、半導体分野、食品分野、医療分野、産業機械分野、建築土木分野等における用途に好適である。
【0052】
【実施例】以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
【参考例1】サイズ5×5cm角、膜厚0.5mmのガラス基板[品番:7059(コーニング社製)]上に、プラズマ重合装置を用いて、印加電力5W、製膜温度80℃、製膜速度1nm/秒の条件で、供給ガス濃度が、トリメチルシランガス濃度50重量%、モノシランガス濃度5重量%、水素ガス濃度45重量%にほぼ維持されるようにガスを供給し、薄膜をガラス基板の片側表面に、約200nmの厚みを有するa−SiC:H薄膜を得た。この光学バンドギャップをTAUC’Sプロット法により測定したところ、屈折率nは2.2、光学バンドギャップEopt は2.8eVであった。暗導電率σd は、1012 S/cm未満と低く、測定限界以下の値であった。また、光導電率σp は、擬似太陽光(AM−15)、100mW/cm2 の光量下で、2×109 S/cmであった。
【0054】
【参考例2】参考例1で用いた原料ガスに、さらに、全体原料ガス比で、1ppmのジボラン(B26)ガスを追加し、ガラス基板の片側表面に、約200nmの厚みを有するp型a−SiC:H薄膜を得た。この光学ギャップを測定したところ、屈折率nは2.2、光学バンドギャップEopt は2.8eVであった。暗導電率σdは3×1011S/cmと上昇した。また、光導電率σp は、擬似太陽光(AM−1.5)、100mW/cm2 の光量下で、1×109 S/cmであった。
【0055】
【実施例1】環状オレフィンコポリマー樹脂[三井化学(株)製、商品名:アペル、銘柄APL6011T]を、公知の押出成形機によりTダイ成形加工(サーモプラスチック社製押出成形機:φ30mm、成形温度230〜250℃、引取ロール温度80℃)して、幅20cm、厚み1mmのシートを得た。このシートを目視により観察したところ、シート表面には条痕はなく、内部の発泡もみられず、透明で欠陥の無いシートが得られた。引張り強さ(ASTM D638)を測定したところ、900kg/cm2 であった。
【0056】このシートをプラズマ重合装置(プラズマ印加電力500W、製膜温度80℃、製膜速度1nm/秒、シート送り速度50m/H)内において、供給ガス濃度が、トリメチルシランガス濃度50重量%、モノシランガス濃度5重量%、水素ガス濃度45重量%にほぼ維持されるようにガスを供給し、薄膜を高分子材料シート片側表面に積層コートし、厚み20±5nmの硬質ガスバリヤーシートを得た。JIS Z0208に準拠し、温度40℃、湿度90%の条件下で、このシートの透湿度(g/m2・24hr)を求め、1/厚さ(mm)で除して、透湿係数(g・mm/m2・24hr)を求めたところ、0.05であった。また、このシートは、後述の比較例1のシートに比べ、表面硬度が高くなっていた。このシートを手で折り曲げてみても表面にクラック等のひび割れは生じず、無色透明なシートのままであった。
【0057】
【比較例1】環状オレフィンコポリマー樹脂[三井化学(株)製、商品名:アペル、銘柄APL6011T]を、公知の押出成形機によりTダイ成形加工(サーモプラスチック社製押出成形機:φ30mm、成形温度230〜250℃、引取ロール温度80℃)して、幅20cm、厚み1mmのシートを得た。このシートを目視により観察したところ、シート表面には条痕はなく、内部の発泡もみられず、透明で欠陥の無いシートが得られた。
【0058】このシートの引張り強さ(ASTM D638)を測定したところ、900kg/cm2 であった。また、JIS Z0208に準拠し、温度40℃、湿度90%の条件下で、このシートの透湿度(g/m2・24hr)を求め、1/厚さ(mm)で除して、透湿係数(g・mm/m2・24hr)を求めたところ、0.09であった。
【0059】
【実施例2】超高分子量ポリエチレン[135℃デカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]:16.5dl/g、MFR(ASTM D 1238,190℃、荷重2.16kg):0.01g/10分未満、融点:136℃、嵩密度:0.45g/cm3 の粉末樹脂、三井化学(株)製、商品名:ハイゼックスミリオン240M]を、インフレーション成形機(スクリュー外径30mmφ、スクリュー長さ(L/D)34、フライトピッチ20mm一定、スクリュー圧縮比1.8、アダプター長さ200mm、チューブダイ長さ550mm、チューブダイ長さ(L/D)25、ダイ出口アウターダイ内径22mmφ、ダイ出口マンドレル外径18mmφ、S1/S2=1.4、S2/S3=1.57(S1:チューブダイ入口部の樹脂流路の断面積、S2:チューブダイ中間接合部の樹脂流路の断面積、S3:チューブダイ出口の樹脂流路の断面積)、スクリュー内部およびチューブダイマンドレル内部に延在してなる6mmφの気体流通路、冷却リング内径66mmφ、安定板、ピンチロールおよび製品巻取機を具備)を用い、押出機、アダプター(AD)、ダイ基部(D1)およびダイ端部(D2)の設定温度を各々280℃、270℃、180℃および150℃にし、スクリュー回転数を15rpmに設定し、ピンチロールで1.2m/分の速度でフィルムを引取りながら、スクリュー内部およびチューブダイのマンドレル内部に延在してなる6mmφの気体流通路から圧搾空気を吹き込んでチューブを冷却リング内径66mmφに接触する大きさに膨らませて(膨比=3)折り幅104mm、厚み200μmからなる超高分子ポリエチレンインフレーションフィルムを得た。
【0060】このフィルムの表面に残る油脂分をイソプロピルアルコール(IPA)/水系クリーニング材で洗浄しフィルムを乾燥(60℃)して、このフィルムを大気圧プラズマ重合装置(プラズマ印加電力500W、製膜温度80℃、製膜速度1nm/秒、シート送り速度50m/H)内において、供給ガス濃度が、トリメチルシランガス濃度50重量%、モノシランガス濃度5重量%、水素ガス濃度45重量%にほぼ維持されるようにガスを供給し、薄膜を高分子材料フィルムの片側表面に積層コートし、膜厚20±5nmの硬質低誘電性フィルムを得た。このフィルムの誘電率(ASTM D150)を測定すると106Hzの領域で2.3であった。
【0061】
【比較例2】超高分子量ポリエチレン[135℃デカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]:16.5dl/g、MFR(ASTM D 1238,190℃、荷重2.16kg):0.01g/10分未満、融点:136℃、嵩密度:0.45g/cm3 の粉末樹脂、商品名:ハイゼックスミリオン240M、三井化学(株)製)]を、インフレーション成形機(スクリュー外径30mmφ、スクリュー長さ(L/D)34、フライトピッチ20mm一定、スクリュー圧縮比1.8、アダプター長さ200mm、チューブダイ長さ550mm、チューブダイ長さ(L/D)25、ダイ出口アウターダイ内径22mmφ、ダイ出口マンドレル外径18mmφ、S1/S2=1.4、S2/S3=1.57、スクリュー内部およびチューブダイマンドレル内部に延在してなる6mmφの気体流通路、冷却リング内径66mmφ、安定板、ピンチロールおよび製品巻取機を具備)を用い、押出機、アダプター(AD)、ダイ基部(D1)およびダイ端部(D2)の設定温度を各々280℃、270℃、180℃および150℃にし、スクリュー回転数を15rpmに設定し、ピンチロールで1.2m/分の速度でフィルムを引取りながら、スクリュー内部およびチューブダイのマンドレル内部に延在してなる6mmφの気体流通路から圧搾空気を吹き込んでチューブを冷却リング内径66mmφに接触する大きさに膨らませて(膨比=3)折り幅104mm、厚み200μmからなる超高分子ポリエチレンインフレーションフィルムを得た。このフィルムの表面に残る油脂分をIPA/水系クリーニング材で洗浄し乾燥(60℃)して、比較用の超高分子量ポリエチレン樹脂製のフィルムを得た。このフィルムの誘電率(ASTM D150)を測定すると、106Hzの領域で2.3であった。
【0062】実施例1では、比較例1の環状オレフィンコポリマー樹脂単体シートに比べて、ガスバリヤー性が向上し、表面硬度の高い硬質ガスバリヤーシートが得られた。また、実施例2では、比較例2の超高分子量ポリエチレン樹脂単体フィルムと同様な誘電率を示し、かつ表面硬度の高い硬質低誘電性フィルムが得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】厚みが0.001〜50mmの高分子材料フィルムないしシート(A)と、該フィルムないしシート(A)の片面または両面に、一般式Si(CH3n4-n (式中、nは1〜4の整数である。)で表わされるメチルシラン類のガスを1〜100重量%含有する原料ガスから形成された、厚み1nm〜1×105nmのメチルシラン類反応生成物の被膜(B)とからなる積層構造を含んでなることを特徴とする積層フィルムないしシート。
【請求項2】前記高分子材料フィルムないしシート(A)の片面または両面に、表面処理が施されていることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルムないしシート。
【請求項3】前記高分子材料フィルムないしシート(A)が、光学的に透明ないし半透明で、かつ少なくとも炭素原子、酸素原子および水素原子からなる有機高分子化合物を50ないし100重量%含む熱可塑性プラスチック材料であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層フィルムないしシート。
【請求項4】前記メチルシラン類反応生成物の被膜(B)が、前記原料ガスの放電分解により生成した反応ガスが更に反応して、前記フィルムないしシート(A)の片面または両面に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層フィルムないしシート。
【請求項5】前記メチルシラン類がトリメチルシランであることを特徴とする請求項1または4に記載の積層フィルムないしシート。
【請求項6】前記原料ガスが、トリメチルシランガスのみであることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルムないしシート。
【請求項7】前記原料ガスが、トリメチルシランガスを1重量%以上かつ100重量%未満の量で含み、さらに、メチルシラン類ガス以外のシランガスおよび/または希釈ガスを99重量%以下で0重量%を超える量で含む混合ガスであることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルムないしシート。
【請求項8】前記原料ガスが、さらにドーパントガスを含んでいることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルムないしシート。
【請求項9】前記メチルシラン類反応生成物の被膜(B)の平均組成式が、a-Six:Cy:Hz(式中、xは、0.999以下で0より大きい数値であり、yは、0.9以下で0.001より大きい数値であり、zは、0以上0.6以下の数値であり、x+y+z=1である。)で表わされることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の積層フィルムないしシート。
【請求項10】請求項1〜9のいずれかに記載の積層フィルムないしシートからなることを特徴とする硬質ガスバリヤーフィルムないしシート。
【請求項11】請求項1〜9のいずれかに記載の積層フィルムないしシートからなることを特徴とする硬質フィルムないしシート。
【請求項12】請求項1〜9のいずれかに記載の積層フィルムないしシートからなることを特徴とする硬質低誘電性フィルムないしシート。
【請求項13】請求項8に記載の積層フィルムないしシートからなることを特徴とする硬質帯電防止フィルムないしシート。
【請求項14】請求項1〜9のいずれかに記載の積層フィルムないしシートからなることを特徴とする紫外線および/または赤外線カット硬質フィルムないしシート。
【請求項15】一般式 Si(CH3n4-n (式中、nは1〜4の整数である。)で表わされるメチルシラン類のガスを1〜100重量%含有する原料ガスを放電分解することにより、生成した反応ガスを更に反応させて、請求項1〜3のいずれかに記載の高分子材料フィルムないしシート(A)の片面または両面に、メチルシラン類反応生成物からなる厚み1nm〜1×105 nmのメチルシラン類反応生成物の被膜(B)を形成することを特徴とする積層フィルムないしシートの製造方法。
【請求項16】前記メチルシラン類がトリメチルシランであることを特徴とする請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】前記原料ガスが、トリメチルシランガスのみであることを特徴とする請求項15に記載の製造方法。
【請求項18】前記原料ガスが、トリメチルシランガスを1重量%以上かつ100重量%未満の量で含み、さらに、メチルシラン類ガス以外のシランガスおよび/または希釈ガスを99重量%以下で0重量%を超える量で含む混合ガスであることを特徴とする請求項15に記載の製造方法。
【請求項19】前記原料ガスが、さらにドーパントガスを含んでいることを特徴とする請求項15に記載の製造方法。
【請求項20】前記メチルシラン類反応生成物の被膜(B)の平均組成式が、a-Six:Cy:Hz(式中、xは、0.999以下で0より大きい数値であり、yは、0.9以下で0.001より大きい数値であり、zは、0以上0.6以下の数値であり、x+y+z=1である。)で表わされることを特徴とする請求項15〜19のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2003−11284(P2003−11284A)
【公開日】平成15年1月15日(2003.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−203414(P2001−203414)
【出願日】平成13年7月4日(2001.7.4)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】