説明

積層体とその製造方法

【課題】熱交換器をその筐体にて他の機器に溶接固定する新たな手法を提供する。
【解決手段】熱交換器100は、プレートユニット110を筐体130に収納して備える。プレートユニット110は、プレートの積層体であり多列の流路150を層状に有する。筐体130は、左右のサイドプレート131Sと上面プレート131Uと下面プレート131Dの4枚のプレートを接合して形成されている。そして、筐体130は、筐体端部から距離DLだけ離間した収納領域TSにプレートユニット110を取り囲んで収納した上で、筐体端部側の端部接合領域WAにおいて、サイドプレート131Sと上下面プレートとを溶接にて接合固定し、溶接ラインWLAを有する。この端部接合領域WA以外の残余領域NWAでは、上記各プレートはロウ材にて接合固定している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のプレートを積層して備える積層体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
こうした積層体は、熱交換する熱交換器として多用され、こうした熱交換器は、多列の溝を有するプレートを複数枚積層してその重なり合ったプレート、例えば上下のプレートで閉鎖された溝を流路としてそれぞれのプレートにおいて多列の流路を形成する。そして、熱交換器は、ある層の流路に高温流体を流し、当該ある層の上下の層の流路に低温流体を流すことで、上下の層の流路を通過する流体との間で熱交換を行う(例えば、特許文献1等)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−262489号公報
【特許文献2】特開2007−15873号公報
【0004】
これら特許文献で提案された熱交換器はもとより、一般的な熱交換器にあっては、熱交換のための媒体の導入或いはその取り扱いや機器への装着等の都合から、その外郭としての筐体を備える。こうした熱交換器筐体は、流路を有する熱交換器本体を内部に収納することから、中空の単一パーツとすることは難しく、複数部材、その多くは複数の板材を銀ロウ等のロウ材を用いて接合固定することで形成されている。なお、筐体に収納される熱交換器本体にあっては、流路のシール性の確保と生産性の観点から、複数枚のプレートを積層した上で積層方向に押圧しつつその接合箇所、具体的には溝を形成する凸条の頂上面とプレートとの接合箇所を銀ロウ等のロウ材を用いて接合固定されている。
【0005】
ところで、熱交換器に他の機器、例えば媒体導入機器等に固定する場合には、固定状態の熱交換器と他の機器との機械的な強度を確保するため、通常、溶接による固定手法が用いられている。つまり、熱交換器の端部や熱交換器を収納する筐体の端部端面を他の機器に当接させ、或いは筐体の端部を他の機器の装着口に嵌め込んで、その逆に筐体の端部開口に他の機器を嵌め込んで、他の機器に溶接固定している。
【0006】
このように溶接による固定であれば機械強度は確保できるものの、溶接の際の熱により、溶接箇所の周辺において、熱交換器におけるプレート同士や筐体自体を接合固定しているロウ材の溶融(再溶融)が起きることが危惧される。ロウ材を用いた接合固定を行う際には、一般的に部材、即ち熱交換器や筐体の構成材を押圧して行うことから、その押圧箇所には往々にして応力が残留する。よって、既述したようなロウ材再溶融が起きると、残留応力による変形や接合剥離を招きかねない。なお、筐体のロウ材による接合固定箇所の全域を溶接により接合固定すれば、上記したようなロウ材溶融は起きないが、筐体の溶接接合の際に、筐体内に収納済みの熱交換器本体におけるプレート接合に用いたロウ材を溶融させるため、筐体を溶接接合することは現実的ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した問題点を解決するためになされ、熱交換器やこれを取り囲む筐体を他の構成部材に溶接固定する際の新たな手法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明では、以下の構成を採用した。
【0009】
[適用1:積層体の製造方法]
熱処理を経て他の構成部材に接合される積層体の製造方法であって、
複数のプレートを積層し、第1の熱処理によって前記プレート同士を接合して積層体を形成する第1接合工程と、
前記他の構成部材への接合がなされる接合部を含む所定範囲においては、複数の前記プレートを前記第1の熱処理よりも高い温度の熱処理によって前記プレート同士を接合する第2接合工程とを備える
ことを要旨とする。
【0010】
上記した積層体では、第2接合工程での熱処理箇所と第1接合工程での熱処理箇所とを区分けし、第2接合工程での熱処理箇所については、第1接合工程での第1の熱処理よりも高い温度の第2の熱処理とすると共に、当該箇所を他の構成部材への接合がなされる接合部を含む所定範囲とした。従って、積層体をその接合部において他の構成部材に接合する場合、その熱処理の温度が第1の熱処理の温度より高いとしても、この熱の影響を受ける部分は、第1の熱処理の温度より高い熱処理を既に受けている接合部の周辺部位であることから、他の構成部材接合時の熱処理に伴う不都合は軽減される。例えば、第1接合工程でロウ材を用いた熱処理を行い、第2接合工程では溶接を行い、他の構成部材接合時の熱処理として溶接を行うとした場合、接合部の周辺部位ではロウ材を用いないようにできることから、接合部の周辺部位でのロウ材の再溶融は起きない。よって、積層体をその接合部にて他の構成部材に固定するに際しては、支障なく溶接手法にて積層体を他の構成部材に溶接固定できる。
【0011】
この場合、積層体をその接合部にて他の構成部材に溶接固定する際の熱は、接合部を超えて第1接合工程の熱処理領域まで伝搬するものの、第2接合工程の熱処理領域を所定範囲確保することで、上記伝搬した熱の容量を少なくできる。よって、伝搬した熱による第1接合工程の熱処理領域のロウ材の再溶融を高い実効性で回避できる。
【0012】
上記した積層体の製造方法は、次のような態様とすることができる。例えば、前記第2接合工程における前記熱処理を前記第1接合工程の前記熱処理よりも先に行うようにできる。こうすれば、第1接合工程の熱処理領域でのロウ材を用いた接合固定の際には、第2接合工程の熱処理領域での溶接は既に終わっていることから、当該溶接に伴うロウ材の再溶融は確実に回避できる。
【0013】
また、第2接合工程における熱処理を、プレートの積層方向に積層体を押圧した状況下で行うようにできる。こうすれば、仮に第2接合工程における熱処理の際の熱が第1接合工程の熱処理領域に伝わったとしても、次の利点がある。プレートの積層体はプレート積層方向に押圧されていることから、第1接合工程の熱処理領域においてロウ材にて既に接合固定済み箇所の接合状態および接合固定の状態は押圧により維持される。よって、積層体がプレート積層により流路を形成する場合には、その流路のシール性を維持することができる。
【0014】
[適用2:積層体の他の製造方法]
複数のプレートが積層したプレート積層体を筐体で取り囲んだ積層体の製造方法であって、
前記プレート積層体を準備する準備工程と、
前記筐体を形成するための複数の板材を当接させて前記筐体を形成すると共に、筐体端部から離間した筐体内の収納領域において前記プレート積層体を収納する筐体形成工程と、
前記筐体端部から所定の範囲の端部接合領域においては、前記複数の板材を溶接にて接合固定する端部固定工程と、
前記端部接合領域以外の領域であって前記収納領域を含む残余領域において、前記複数の板材をロウ材を用いて接合固定する残余固定工程とを備える
ことを要旨とする。
【0015】
[適用3:積層体]
溝を有するプレートを複数枚積層し、重なり合うプレートと前記溝とにより形成された流路を備えるプレート積層体を筐体で取り囲んだ積層体であって、
前記プレート積層体は、重なり合ったプレートの間で、前記溝を形成する凸条の頂上面と対向するプレートとをロウ材にて接合固定して前記溝を閉鎖し、該閉鎖した溝を前記流路とし、
前記筐体は、
前記プレート積層体を収納する収納領域を筐体端部から離間して形成する複数の板材を備え、
前記筐体端部から所定の範囲の端部接合領域において前記複数の板材を溶接にて接合固定し、
前記端部接合領域以外の領域であって前記収納領域を含む残余領域において、前記複数の板材をロウ材にて接合固定してなる
ことを要旨とする。
【0016】
上記した積層体では、プレート積層体を筐体で取り囲んだ上で、プレート積層体を筐体端部から離れた収納領域に収納する。そして、このようにプレート積層体を収納した筐体は、この筐体を形成するための複数の板材同士を接合固定するに当たり、筐体端部から所定の範囲の端部接合領域では複数の板材を溶接にて接合固定し、端部接合領域以外の領域であって熱交換器本体の収納領域を含む残余領域では複数の板材をロウ材を用いて接合固定している。つまり、端部接合領域ではロウ材による接合固定がなされていないことから、筐体をその端部において他の構成部材に溶接固定する場合、この溶接時の熱により、端部接合領域におけるロウ材の再溶融は起きない。よって、積層体をその筐体にて他の構成部材に固定するに際しては、支障なく溶接手法にて筐体を他の構成部材に溶接固定できる。
【0017】
この場合、筐体をその端部において他の構成部材に溶接固定する際の熱は、端部接合領域を超えて残余領域まで伝搬するものの、端部接合領域を所定範囲確保することで、上記伝搬した熱の容量を少なくできる。よって、伝搬した熱による残余領域のロウ材の再溶融を高い実効性で回避できる。しかも、残余領域に含まれる収納領域で筐体内に収納されたプレート積層体に上記の伝搬した熱が伝わったとしても、この収納領域は端部接合領域以上に筐体端部から離れているので、その伝播する熱容量はより少ない。このため、このプレート積層体におけるロウ材接合固定箇所のロウ材の再溶融も起き難くできる。
【0018】
こうしたプレート積層体は流路を層状に有する熱交換器として適用でき、その場合にあっては、このプレート積層体(熱交換器)では、多列の溝を有するプレートを積層して、前記多列の溝を形成する凸条の頂上面を対向するプレートに接合させ、この積層済みプレートを押圧して凸条頂上面をプレートに接合させ、ロウ材を用いた熱処理を経て当該ロウ材によりプレートを固定することになる。これにより、多列の溝がそれぞれ閉鎖されて流路となり、流路が層状に形成される。よって、プレート積層体を熱交換器に適用する場合には、溝を有するプレートの熱処理に用いたロウ材の再溶融が起き難くなることから、ロウ材再溶融によるプレート積層体(熱交換器)における流路のシール性の低下といった事態も回避できる。
【0019】
上記した積層体は、次のような態様とすることができる。例えば、前記端部接合領域での溶接による前記複数の板材の接合固定を、前記残余領域でのロウ材を用いた前記複数の板材の接合固定より先に行うようにできる。こうすれば、残余領域でのロウ材を用いた接合固定の際には、端部接合領域での溶接は既に終わっていることから、当該溶接に伴うロウ材の再溶融は確実に回避できる。
【0020】
また、プレート積層体を準備するに当たっては、溝を有するプレートを複数枚積層した積層済みプレートにおける重なり合ったプレートの間で、前記溝を形成する凸条の頂上面と対向するプレートとをロウ材にて接合固定して前記溝を閉鎖し、該閉鎖した溝を前記流路とする前記プレート積層体とし、前記筐体形成工程では、前記プレート積層体を取り囲む左右側壁と上下壁を形成する4枚の板材を用い、前記上下壁の板材を前記左右側壁の板材に挟んだ状態で前記4枚の板材を当接し、前記端部固定工程での溶接を、前記収納領域に収納した前記プレート積層体を前記プレートの積層方向に押圧した状況下で行うようにできる。
【0021】
こうすれば、仮に筐体形成用の板材の接合処理の際の熱が筐体に収納したプレート積層体に伝わったとしても、次の利点がある。プレート積層体はプレート積層方向に押圧されていることから、プレート積層体においてロウ材にて既に接合固定済み箇所、即ち凸条の頂上面とプレートとの接合箇所の接合状態および接合固定の状態は押圧により維持される。よって、プレート積層体における流路のシール性を維持することができる、もしくはシール性の低下を抑制できる。
【0022】
また、筐体固定に際しての上記した残余領域でのロウ材による接合固定に当たり、この残余領域における筐体の板材の接合に用いるロウ材を、プレート積層体の各プレートの接合に使用したロウ材よりも融点の低いロウ材とすることもできる。こうすれば、残余領域における筐体の板材のロウ材を用いた接合の際の熱によりプレート積層体のロウ材に再溶融が起きないので、プレート積層体における流路のシール性の低下を抑制できる。
【0023】
[適用4:積層体の別の製造方法]
複数のプレートが積層したプレート積層体を筐体で取り囲んだ積層体の製造方法であって、
プレート積層体の上下壁を形成するための板材の間であって、該板材端部から離間した箇所に、複数枚の前記プレートを積層して前記溝を形成する凸条の頂上面を対向するプレートに接合させる積層接合工程と、
プレート積層体の両側面壁を形成するための板材を前記積層済みプレートの両側面と前記上下壁の形成用の板材の両側面とに当接させて、前記両側面壁の形成用の板材により前記積層済みプレートと前記上下壁の形成用の板材とを前記プレート積層方向と交差する方向に拘束した状態とし、前記積層済みプレートを取り囲む前記筐体を形成する筐体形成工程と、
前記両側面壁の形成用の板材と前記上下壁の形成用の板材の当接箇所を接合固定する筐体固定工程とを備え、
前記積層接合工程では、前記プレートにおける前記凸条の頂上面にロウ材を介在させた状態で前記プレートを積層し、
前記筐体固定工程において前記接合処理を施す際には、前記板材端部から所定の範囲の端部接合領域において、前記当接済みの前記両側面壁の形成用の板材と前記上下壁の形成用の板材を溶接にて接合固定する端部領域固定と、前記端部接合領域以外の領域であって前記積層済みプレートを含む残余領域において、前記当接済みの前記両側面壁の形成用の板材と前記上下壁の形成用の板材をロウ材を用いて接合固定する残余領域固定とを行い、該残余領域固定を前記上下壁の形成用の板材の間の前記積層済みプレートを積層方向に沿って押圧した状況下で行うことで、前記残余領域固定と同時に、前記積層済みプレートにおける前記頂上面とプレートとを前記介在させたロウ材にて接合固定する
ことを要旨とする。
【0024】
この製造方法によれば、熱交換器として適用できるプレート積層体を筐体の形成・固定と同時に製造できると共に、得られたプレート積層体(熱交換器)をその筐体で他の構成部材に支障なく溶接固定できる。
【0025】
上記した積層体は、次のような態様とすることができる。例えば、前記筐体固定工程では、前記端部領域固定を前記残余領域固定より先に行うと共に、前記積層済みプレートと前記頂上面との間に介在する前記ロウ材の溶融による前記積層済みプレートの積層寸法の縮みに相当する分、前記端部接合領域における前記上下壁の形成用の板材の隔たりを縮めて前記端部領域固定を行う。こうすれば、残余領域でのロウ材を用いた接合固定の際には、端部接合領域での溶接は既に終わっていることから、残余領域でのロウ材を用いた接合固定を、端部接合領域での溶接の影響を受けることなく実行できる。しかも、残余領域固定では、プレート積層体におけるロウ材溶融による積層済みプレートの沈み込みが起きた状態で、それぞれのプレート同士(詳しくは凸条頂上面とプレート)および筐体形成用の板材のロウ材による接合固定がなされるので、この残余領域固定の完了後においては、端部領域固定での溶接固定の対象となる上下壁の板材の端部から残余領域固定でのロウ材による固定の対象となる上下壁の部分に至るまでがほぼ同じ高さとなる。仮に、端部領域固定での溶接固定の対象となる上下壁の板材の端部と、残余領域固定でのロウ材による固定の対象となる上下壁の部分とが同じ板材であるにも拘わらず異なる高さで両側壁の板材と固定されていると、上下壁の板材には不用意な応力が残り、これにより接合固定箇所の剥離が起きることが危惧される。ところが、上記したようにほぼ同じ高さとなるように上下壁の板材は両側壁の板材と固定されているので、こうした接合固定箇所の剥離を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。図1は本発明の実施例としての熱交換器100の概略構成を示す説明図、図2はこの熱交換器100を端部から正面視して示す説明図である。
【0027】
図示するように、熱交換器100は、プレートユニット110を筐体130に収納して備える。プレートユニット110は、プレートの積層体であり、平板な最下層プレート115の上に伝熱プレート116を複数枚積層して備える。そして、このプレートユニット110は、重なり合った上下のプレートの間に流路150を多列に形成し、この多列の流路150を層状に有する。この流路150は、伝熱プレート116が有底の溝117を形成するための凸条118の頂上面を対向するプレートに接合固定して溝を閉鎖することで多列に形成されている。
【0028】
筐体130は、プレートユニット110の両側面に接合する左右のサイドプレート131Sと、プレートユニット110の上下面に接合する上面プレート131Uと下面プレート131Dの4枚のプレートを接合して形成されている。つまり、筐体130は、図1と図2に示すように、左右のサイドプレート131Sで上面プレート131Uと下面プレート131Dを挟んだ状態で、上下面のプレート端面をサイドプレート131Sの上端側と下端側に接合させている。そして、筐体130は、筐体端部から所定の距離DLだけ離間した筐体内の収納領域TSにプレートユニット110を取り囲んで収納している。この場合、上面プレート131Uはプレートユニット110の上面に、下面プレート131Dはプレートユニット110の下面に、左右のサイドプレート131Sはプレートユニット110の側面にそれぞれ接合している。
【0029】
筐体130は、上下左右の各プレートを上記したように接合してその外郭形状が形成されると共に、次のようにして各プレートを固定して備える。つまり、図1に示すように、筐体端部から所定の範囲の端部接合領域WAにおいて、サイドプレート131Sと上面プレート131U、およびサイドプレート131Sと下面プレート131Dとは、溶接にて接合固定されている。よって、筐体130は、端部接合領域WAにおけるプレート当接箇所に溶接ラインWLAを有する。この端部接合領域WA以外の領域であって既述したプレートユニット110の収納領域TSを含む残余領域NWAでは、上記各プレートはロウ材にて接合固定されている。なお、端部接合領域WAは、筐体端部から収納領域TSまでの距離DLより短くなるようにされている。
【0030】
こうした図1と図2に示す完成品としての熱交換器100は、筐体130の端面を図1の別機器TPに接合させた上で、その端面を溶接にて固定されて使用される。そして、プレートユニット110においては、多列の流路150が層状に上下に重なったその上下の層の一方の層の多列の流路150に高温流体を流し、他方の層の多列の流路150に低温流体を流すことで、上下の層の流路を通過する流体の熱交換を行う。本実施例では、伝熱性および耐久性を考慮して、上記の各伝熱プレートを金属製プレート、詳しくはステンレス製のプレートとした。筐体130を構成する4枚の各プレートについても同様である。
【0031】
次に、上記した熱交換器100の製造工程について説明する。図3は熱交換器100の製造工程を示す工程図、図4は熱交換器製造工程におけるプレートユニット収納および筐体形成の様子を示す説明図である。
【0032】
図3に示すように、まず、熱交換器本体としてのプレートユニット110を準備する(ステップS100)。つまり、既に上記した各プレートを積層して接合固定済みのプレートユニット110を準備する、もしくは、最下層プレート115の上に伝熱プレート116を積層し、積層方向から押圧しつつ各プレートを接合固定して、プレートユニット110を作成する。このようにプレートユニット110を作成する場合、プレートユニット110における各プレートの凸条頂上面とプレートの接合箇所は、銀ロウにて接合固定される。既に作成済みのプレートユニット110にあっても同様である。
【0033】
次に、図4に示すように、左右のサイドプレート131Sと上面プレート131Uおよび下面プレート131Dを準備して、下面プレート131Dにおける収納領域TSにプレートユニット110を載置し、上面プレート131Uを下面プレート131Dに対向させ、その上で、左右のサイドプレート131Sを当接させる(ステップS110)。これにより、筐体130の外郭が形成されると共に、筐体へのプレートユニット110の収納がなされる。この場合、サイドプレート131Sと上面プレート131Uの当接箇所とサイドプレート131Sと下面プレート131Dの当接箇所には、銀ロウが塗布される。この銀ロウ塗布範囲は、図1に示す残余領域NWAとなる。この場合、プレートユニット110の左右・上下の周壁にも銀ロウを塗布しておけば、後述の銀ロウを用いた接合処理の際に、プレートユニット110を左右のサイドプレート131Sと上面プレート131Uおよび下面プレート131Dに銀ロウにて接合固定することができる。こうすれば、収納後において、プレートユニット110の位置ズレが起きないようにできる。
【0034】
上面プレート131Uと下面プレート131Dは、その幅がプレートユニット110の幅と一致するよう、左右のサイドプレート131Sは、その高さがプレートユニット110の高さと上下プレートの板厚の和と一致するようにされている。よって、上記した左右・上下のプレートの接合により、プレートユニット110は、その周壁が筐体130の左右・上下のプレートに当接して取り囲まれ、筐体130に収納されることになる。
【0035】
次いで、図示しない治具を用いて左右のサイドプレート131Sと上面プレート131Uと下面プレート131Dを位置ズレしないように保持して、筐体形状の保持を行う(ステップS120)。この状態で、溶接トーチを用いて、図1に示す端部接合領域WAの範囲に亘って、プレート当接箇所を溶接にて固定する(ステップS130)。これにより、端部接合領域WAではプレート当接箇所に溶接ラインWLAが形成される。その後、プレートユニット110を収納済みの筐体130を、筐体形状を保持したまま、塗布済みの銀ロウが溶融する温度環境下に置く接合処理に処する(ステップS140)。これにより、塗布済みの銀ロウの溶融およびその後の冷却を経て、図1に示す残余領域NWAの範囲に亘って、プレート当接箇所は銀ロウにて接合固定される。この場合、ステップS110にて筐体の左右・上下のプレートの当接箇所に銀ロウを予め塗布することに代わり、このステップS140の工程にて、筐体の左右・上下のプレートの当接箇所の筐体外壁に塗布するようにもできる。このように外壁に銀ロウを塗布しても、プレートの当接箇所には溶融した銀ロウが入り込むので、銀ロウによるプレート当接箇所の接合固定を行うことができる。
【0036】
上記のステップS140の接合処理は銀ロウが固化するまでの冷却で完了し、銀ロウ冷却後には、それまで筐体形状の保持のために用いていた図示しない治具を筐体の左右・上下のプレートから退避させて、筐体保持を解除する(ステップS150)。これによりプレートユニット110を筐体130にて収納した熱交換器100の製造工程を終了する。
【0037】
以上説明したように、本実施例では、熱交換器100を製造する上で、まず、筐体130を構成する左右・上下のプレートをプレートユニット110の左右・上下の周壁に当接させ、プレートユニット110を筐体130で取り囲んで収納する(ステップS110)。この場合、プレートユニット110は、筐体端部から離れた収納領域TSに収納されることになる。このようにプレートユニット110を収納した筐体130を構成する左右のサイドプレート131Sと上下の上面プレート131Uと下面プレート131Dを接合固定するに当たっては、左右・上下のプレートを押圧して筐体形状を保持した上で(ステップS120)、まず、筐体端部から所定の範囲の端部接合領域WAでこれらプレートを溶接にて接合固定する(ステップS130)。次に、この端部接合領域WA以外の領域であってプレートユニット110の収納領域TSを含む残余領域NWAで、これらプレートをプレート当接箇所に予め塗布済みのロウ材を用いて接合固定する(ステップS140)。
【0038】
こうして得られた熱交換器100を、その筐体130の端部が図1に示す別機器TPに当接させて当該機器に溶接固定する場合、この溶接時の熱は、筐体130における端部接合領域WAに伝播する。ところが、この溶接時の熱が伝播する端部接合領域WAでは、プレートの接合固定が溶接であるため、銀ロウは存在しない。よって、別機器TPとの溶接に伴う熱による筐体130のプレート接合固定箇所(端部接合領域WA)での銀ロウの再溶融は起きないので、熱交換器100を、その筐体130を介して別機器TPに支障なく溶接固定できる。この結果、別機器TPとこれに固定済みの熱交換器100とは、溶接により強固に固定されて機械強度の高い機械要素となる。
【0039】
この場合、筐体130をその端部において別機器TPに溶接固定する際の熱は、端部接合領域WAを超えて残余領域NWAまで伝搬する。しかしながら、本実施例では、端部接合領域WAを所定範囲確保したので、残余領域NWAまで伝搬する熱の容量を少なくできる。よって、伝搬した熱による残余領域NWAでの銀ロウの再溶融を高い実効性で回避できる。この端部接合領域WAの長さは、筐体130を構成する上下・左右のプレートの材質や厚み等を考慮して、上記した残余領域NWAまでの伝搬熱容量での残余領域NWAの銀ロウの再溶融が起きないように定めればよい。
【0040】
しかも、残余領域NWAに含まれる収納領域TSで筐体内に収納されたプレートユニット110に上記の伝搬した熱が伝わったとしても、筐体端部から距離DLだけ離れた収納領域TSは端部接合領域WA以上に筐体端部から離れているので、収納領域TSに伝播する熱容量はより少なくなる。このため、収納領域TSに収納されたプレートユニット110におけるロウ材接合固定箇所、具体的には各プレートにおける凸条頂上面の銀ロウの再溶融も起き難くできる。よって、ロウ材再溶融によるプレートユニット110における流路150のシール性の低下といった事態もより確実に回避できる。
【0041】
また、本実施例では、端部接合領域WAでの溶接による筐体130の左右・上下の各プレートの接合固定を、残余領域NWAでの銀ロウを用いた上記各プレートの接合固定より先に行った。このため、残余領域NWAでの銀ロウを用いた接合固定の際には、端部接合領域WAでの溶接は既に終わっていることから、当該溶接に伴う銀ロウの再溶融は確実に回避できる。なお、本実施例では、筐体130の左右・上下の各プレートの接合の際にプレート当接箇所に予め銀ロウを塗布しているので、端部接合領域WAでの溶接に伴う銀ロウの溶融は起きるとも言える。しかしながら、端部接合領域WAでの溶接の後に本来の銀ロウによる接合処理(銀ロウ溶融・固化)を行うので、端部接合領域WAでの溶接に伴う銀ロウの溶融が起きていても支障はない。
【0042】
また、本実施例では、筐体130に収納するプレートユニット110を予めその接合箇所(凸条頂上面とプレートの接合箇所)を銀ロウにて接合固定済みのものとしたが、筐体130の左右・上下の各プレートの銀ロウによる接合処理(銀ロウ溶融・固化)を、筐体130の左右のサイドプレート131Sと上下の上面プレート131Uと下面プレート131Dを押圧した状況下、即ちプレートユニット110をプレートの積層方向に押圧した状況下で行った。このため、ステップS130やステップS140でのプレート接合処理に伴う熱がプレートユニット110に伝わったとしても、次の利点がある。つまり、プレートユニット110はプレート積層方向に押圧された状況下で上記の熱を受けるので、プレートユニット110において銀ロウにて既に接合固定済み箇所、即ち凸条頂上面とプレートの接合箇所の接合状態および接合固定の状態は押圧により維持される。よって、プレートユニット110における流路150のシール性を維持することができ好ましい。
【0043】
また、筐体130の左右・上下の各プレートの接合処理に用いるロウ材を、プレートユニット110の伝熱プレート116の接合処理に用いるロウ材(銀ロウ)よりも融点の低いロウ材とすることもできる。こうすれば、プレートユニット110の伝熱プレート116の接合処理に用いたロウ材(銀ロウ)は、筐体130の左右・上下の各プレートのロウ材による接合処理(ロウ材溶融・固化)の際の熱により再溶融しないので、プレートユニット110における流路150のシール性の低下を抑制できる。
【0044】
次に、上記した熱交換器100の他の実施例の製造工程について説明する。図5は熱交換器100の他の実施例の製造工程を示す工程図、図6は熱交換器製造工程におけるプレート積層および筐体形成の様子を示す説明図、図7は熱交換器製造工程におけるプレート押圧の様子を斜視にて示す説明図、図8は熱交換器製造工程におけるプレート押圧の様子を筐体端部側と横断面視にて示す説明図、図9は熱交換器製造工程における端部溶接固定の際のプレート押圧の様子を横断面視にて示す説明図、図10は熱交換器製造工程における端部溶接固定の様子を斜視にて示す説明図、図11は熱交換器製造工程における銀ロウによる固定の際のプレート押圧の様子を筐体端部側と横断面視にて示す説明図である。この実施例では、プレートユニット110の形成を筐体形成と同時に行う点に特徴があるものの、得られる熱交換器100の構成は図1に示したものと変わりはない。
【0045】
図5に示すように、この実施例の製造工程では、筐体130の形成用の上下の下面プレート131Dと上面プレート131Uとの間で、プレートユニット110を構成する各プレートを積層する(ステップS200)。つまり、図6に示すように、下面プレート131Dにおける収納領域TSに、最下層プレート115、伝熱プレート116の順に順次プレートを積層し、最上層の伝熱プレート116に上面プレート131Uを積層する。最下層プレート115と伝熱プレート116および筐体上下の上面プレート131Uと下面プレート131Dは、全て同一の幅とされ、積層後のプレートユニット110、即ち無負荷のプレートユニット110は、筐体左右のサイドプレート131Sよりも高い積層寸法となっている。そして、このサイドプレート131Sの高さ寸法は、積層後のプレートユニット110がそのプレート間に介在する銀ロウの溶融を経て積層高さが縮むプレートの沈み込みを起こす際のその沈み込み量を見越して定められている。このため、完成後の熱交換器100においては、図1に示すように、サイドプレート131Sは、その長手方向において、上面プレート131Uと下面プレート131Dをサイドプレート上下端面とほぼ同じ高さで挟持し、サイドプレート上下端では、サイドプレート上下端面と上下面のプレートとはいわゆる面一となる。なお、最下層プレート115を省略し、下面プレート131Dに伝熱プレート116を直接積層するようにすることもできる。
【0046】
図6に示すように、伝熱プレート116は、多列の溝117を備え、これら溝を形成するため、両サイドと溝間とに凸条118を備える。よって、複数の伝熱プレート116を積層することで、伝熱プレート116の溝117は閉鎖され、既述した流路150となる。この場合、それぞれの伝熱プレート116における凸条118の頂上面と、最下層プレート115の底面の適宜箇所、最上層の伝熱プレート116の上面の適宜箇所には、予め銀ロウが塗布される。或いは、凸条頂上面に銀ロウ塗布済みの伝熱プレート116を準備して、これを積層する。
【0047】
上面プレート131Uと下面プレート131Dは、プレート溶接範囲である既述した端部接合領域WAに相当する分プレート端部から離れた箇所に、幅方向に亘る溝132を有する。この溝132は、端部接合領域WAとその残りの残余領域NWAを区画し、後述するプレート接合に伴う応力を緩和するためのものであるが、その詳細については後述する。
【0048】
このステップS200のプレート積層を経ると、積層された上下のプレートにおいて、上側の伝熱プレート116の凸条118の頂上面は、これに対向する下側のプレート(伝熱プレート116または最下層プレート115)に接合する。この場合、各凸条は、塗布済みの銀ロウを介在させた状態で、プレートに接合する。
【0049】
次いで、筐体左右のサイドプレート131Sを、筐体上下の上面プレート131Uと下面プレート131Dの端面およびプレートユニット110の側面に当接させると共に、筐体左右のサイドプレート131Sと上下の上面プレート131Uと下面プレート131Dを押圧して筐体形状を保持する(ステップS210)。この場合、図7や図8に示すように、筐体上下の上面プレート131Uと下面プレート131Dについては、筐体端部側(即ち、端部接合領域WAの側)はプレスP1にて、プレートユニット110の収納領域TSはプレスP2にて、個別に押圧される。筐体左右のサイドプレート131Sは、後述の接合処理の間に亘って後退しないように、図示しない治具により適宜箇所にて左右から拘束される。これにより、筐体左右のサイドプレート131Sと筐体上下の上面プレート131Uと下面プレート131Dは、プレート積層済みのプレートユニット110を取り囲んで、その周壁に当接し、筐体としての外郭を形成する。サイドプレート131Sの高さ寸法が上記したように銀ロウの溶融を経たプレート沈み込みを見越してあることから、ステップS210の状態では、図7と図8に示すように、上面プレート131Uと下面プレート131Dは、段差を残してサイドプレート131Sの上下端面に当接している。
【0050】
次に、プレスP1により、上面プレート131Uと下面プレート131Dとをそれぞれ押圧する(ステップS220)。これにより、上面プレート131Uと下面プレート131Dは、図9に示すように、溝132の形成箇所にて屈曲して端部接合領域WAにおいて筐体内側に入り込み、サイドプレート131Sの上下端面と面一となる。こうした押圧の際、溝132は、上記の両プレートの屈曲時の応力を緩和するよう働く。
【0051】
ステップS220に続いては、溶接トーチを用いて、図10に示すように、端部接合領域WAの範囲に亘って、プレート当接箇所を溶接にて固定する(ステップS230)。これにより、端部接合領域WAではプレート当接箇所に溶接ラインWLAが形成される。その後、P1によるプレート押圧を継続したまま、プレスP2による上下面プレートの押圧(ステップS240)と、塗布済みの銀ロウが溶融する温度環境下に置く接合処理(ステップS250)とを、この順に或いは同時に行う。
【0052】
このステップS240によるプレート押圧により、プレート間にステップS200にて介在させた銀ロウが押される分のプレートユニット110の沈み込みおよび筐体内側への上面プレート131Uと下面プレート131Dの入り込みが起きる。つまり、プレスP2によるプレート押圧によって、プレートユニット110を構成する各伝熱プレート116は、凸条118の頂上面に介在する銀ロウが押されて頂上面からはみ出た分に相当するだけ沈み込みを起こし、プレートユニット110としても沈み込みを起こす。このプレートユニット110としての沈み込み量は、凸条118で支えられた伝熱プレート116の各プレートでの上記した沈み込みの総和となる。なお、プレートユニット110は、両サイドプレート131Sにて幅方向に拘束された状態で、上記した沈み込みを起こす。そして、上面プレート131Uと下面プレート131Dは、プレートユニット110の上記した沈み込みと共に残余領域NWAにおいて筐体内側に入り込み、サイドプレート131Sの上下端面と面一となる。この押圧による上下のプレートの入り込みの際にあっても、上下の両プレートは溝132の形成箇所にて屈曲し、溝132は、プレート屈曲時の応力を緩和するよう働く。
【0053】
ステップS250での接合処理は、ステップS240でのプレスP2による押圧を受けた状態で行われる。このため、筐体130のプレートの当接箇所、詳しくは残余領域NWAにおける両サイドプレート131Sと上面プレート131Uおよび下面プレート131Dの当接箇所と、プレートユニット110における各伝熱プレート116の凸条118の頂上面の接合箇所は、ステップS250の接合処理の間においてP2による押圧を受け続ける。よって、これら当接・接合箇所では、これら接合面に塗布済みの銀ロウの溶融およびその後の冷却を経て、銀鑞による接合固定がなされる。
【0054】
上記のステップS250の接合処理を経て銀ロウによる接合固定が完了すると、プレスP1およびプレスP2による拘束を解除すると共に、両サイドプレート131Sを後退しないように押圧していた図示しない治具についてもその押圧を解除する(ステップS260)。これにより、筐体形状の保持も解除されて熱交換器製造工程が終了し、最終製品たる熱交換器100が得られる。この熱交換器100は、上下左右の4枚のプレートにて形成された筐体130にて、プレートユニット110を所定の収納領域TSに収納する。
【0055】
以上説明したように、本実施例の製造方法によれば、多列の流路150を層状に有するプレートユニット110を筐体130と同時に製造できる。このため、プレートユニット110の製造のための機械装置や製造ラインを省略できるので、工程集約や工程管理、製造ラインの省スペース化の上で好ましい。また、図5に示す製造工程で得られた熱交換器100にあっても、既述したように別機器TPに筐体端面を接合して当該接合箇所を溶接固定する場合に、別機器TPとの溶接に伴う熱による筐体130のプレート接合固定箇所(端部接合領域WA)での銀ロウの再溶融を回避でき、熱交換器100を、支障なく別機器TPに溶接固定できる。この結果、図5に示す製造工程で得られた熱交換器100と別機器TPとは、溶接により強固に固定されて機械強度の高い機械要素となる。
【0056】
また、本実施例では、筐体130を形成・固定するに当たり、端部接合領域WAでのプレートの溶接固定(ステップS230)を残余領域NWAにおけるプレートの銀ロウによる接合固定(ステップS250)より先に行うと共に、プレスP2での押圧によるプレートユニット110の積層寸法の縮みに相当する分、端部接合領域WAにおける上面プレート131Uと下面プレート131Dの隔たりを縮めて、この上下面のプレートをサイドプレート131Sに溶接固定した。このため、残余領域NWAでの銀ロウを用いた接合固定の際には、端部接合領域WAでの溶接は既に終わっていることから、残余領域NWAでの銀ロウを用いた接合固定を、端部接合領域WAでの溶接の影響を受けることなく実行できる。しかも、残余領域NWAでの銀ロウを用いた接合固定では、プレスP2によるプレートユニット110の押圧により、このプレートユニット110に沈み込みが起きた状態で、それぞれの伝熱プレート116同士(詳しくは凸条頂上面とプレート)および筐体130形成用の上下・左右のプレートの銀ロウによる接合固定がなされる。このため、残余領域NWAでの銀ロウを用いた接合固定の完了後においては、端部接合領域WAから残余領域NWAにかけて、上面プレート131Uと下面プレート131Dをほぼ同じ高さとできる。仮に、上面プレート131Uと下面プレート131Dとが、端部接合領域WAと残余領域NWAにおいて異なる高さで左右のサイドプレート131Sに固定されていると、上面プレート131Uと下面プレート131Dには不用意な応力が残るが、本実施例ではこうした応力の残留を抑制できる。このため、不用意な残留応力により接合固定箇所の剥離と言った事態を有効に回避できる。
【0057】
加えて、本実施例では、上面プレート131Uと下面プレート131Dにおいて端部接合領域WAと残余領域NWAとを溝132にて区画したので、プレスP1による端部接合領域WAの上下面のプレート押圧に際しては、この溝132にて応力を緩和させた。プレスP2による残余領域NWAでの押圧も同様である。よって、接合固定完了後の上面プレート131Uと下面プレート131Dでは、不用意な残留応力に起因する上記した剥離をより一層起き難くでき、好ましい。
【0058】
次に、プレートユニット110を筐体130で取り囲むことなく別機器TPに溶接固定する他の実施例について説明する。図12は他の実施例の熱交換器の概略構成を示す説明図である。図示するように、この実施例では、プレートユニット110そのものが熱交換器となり、複数の伝熱プレート116を積層した上で各プレートを接合固定するに当たり、既述したように端部接合領域WAに亘っては各プレートをその側面において溶接し、他の領域では銀ロウを用いた接合固定を行った。この場合、端部接合領域WAでのプレート側面溶接は、銀ロウを用いた接合より先に行うと共に、プレート側面溶接に際しては、プレートユニット110をそのプレート積層方向から押圧した状況下で行った。
【0059】
この場合、図示しない溶接トーチが流路150に入り込むようにし、端部接合領域WAの範囲の流路150についても凸条118の溶接により形成するようにすることもできる。また、端部接合領域WAの範囲の凸条118については、他の領域の凸条118と同様に頂上面に銀ロウを介在させて接合固定するようにすることもできる。このように端部接合領域WAの範囲の凸条118を銀ロウにて接合する場合であっても、上記したように端部接合領域WAのプレート側面溶接に際して押圧されていることから、溶接による銀ロウ溶融が起きても、プレート側面溶接の後に、端部接合領域WA以外の範囲での凸条118の銀ロウによる接合処理が行われるので、この接合処理の際に、端部接合領域WAの範囲の凸条118においても接合固定されるため特段の支障はない。
【0060】
そして、プレートユニット110そのものが熱交換器とされた場合であっても、この熱交換器を別機器TPに支障なく溶接できる。つまり、別機器TPとの溶接は、別機器TPとプレートユニット110の端面の接合箇所で行われるので、このときの溶接熱源に最も近いプレート側面は、上記したように溶接済みであることから、別機器TPとの溶接の熱により、プレート側面での銀ロウ溶融は起きない。また、別機器TPとの溶接の熱が端部接合領域WAにおけるプレートユニット内部の流路150に伝わったとしても、伝わる熱量は少なくなるので、銀ロウにて接合された凸条118の剥離を抑制できる。或いは、別機器TPとの溶接を、端部接合領域WAにおいてプレートユニット110をプレート積層方向に押圧した状況下で行えば、仮にこの際の溶接の熱により端部接合領域WAにおけるプレートユニット内部の凸条118頂上面の銀ロウが再溶融しても、押圧により接合状態は維持されることから、再溶融後の銀ロウ冷却・固化により、流路150のシール性は確保できる。
【0061】
なお、本発明は上記した実施例や変形例の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様にて実施することが可能である。例えば、上記した実施例ではプレートの積層方向を上下方向としたが、プレートを水平方向に積層して用いる熱交換器についても適用できる。この他、プレートの接合固定に用いるロウ材として銀ロウ以外に種々のものが使用できると共に、予め準備するプレートユニット110については、拡散接合手法にて重なり合うプレート、詳しくは凸条頂上面とプレートとの接合固定を行ったものとすることもできる。
【0062】
また、プレートユニット110およびこれを構成する伝熱プレート116については、方形形状のものについて説明したが、これに限るわけではない。図13は変形例の熱交換器100Aの概略構成を示す説明図である。図示するように、この変形例では、プレートユニット110Aが円柱状の外形を備える都合上、当該ユニットを収納する筐体130Aにあっては、中空の円柱状である。この場合、プレートユニット110Aは、多列の流路150を層状に備え、筐体130Aは、半円弧状の上面プレート131UAと下面プレート131DAとを接合して形成されている。そして、筐体130Aは、端部接合領域WAにおいて上下面プレートは溶接にて接合して当該領域に溶接ラインWLAを有し、残余領域NWAにあっては上下面プレートを銀ロウにて接合固定する。
【0063】
図示する熱交換器100Aにあっても、筐体端部の端部接合領域WAにて上下面のプレートを溶接固定するので、筐体端部を別機器TPに接合して溶接にて固定するに当たり、既述したように、残余領域NWAでの銀ロウによる接合固定に支障をもたらさない。
【0064】
また、プレスP1による端部接合領域WAの押圧の際の応力緩和に寄与するよう上面プレート131Uと下面プレート131Dに溝132を形成したが、これに限られる訳ではない。例えば、上下面プレートを、端部接合領域WAにおいて薄肉とすることもでき、こうすれば、薄肉であるためにプレスP1による端部接合領域WAの押圧の際の屈曲が容易となり、応力残留についても緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施例としての熱交換器100の概略構成を示す説明図である。
【図2】この熱交換器100を端部から正面視して示す説明図である。
【図3】熱交換器100の製造工程を示す工程図である。
【図4】熱交換器製造工程におけるプレートユニット収納および筐体形成の様子を示す説明図である。
【図5】熱交換器100の他の実施例の製造工程を示す工程図である。
【図6】熱交換器製造工程におけるプレート積層および筐体形成の様子を示す説明図である。
【図7】熱交換器製造工程におけるプレート押圧の様子を斜視にて示す説明図である。
【図8】熱交換器製造工程におけるプレート押圧の様子を筐体端部側と横断面視にて示す説明図である。
【図9】熱交換器製造工程における端部溶接固定の際のプレート押圧の様子を横断面視にて示す説明図である。
【図10】熱交換器製造工程における端部溶接固定の様子を斜視にて示す説明図である。
【図11】熱交換器製造工程における銀ロウによる固定の際のプレート押圧の様子を筐体端部側と横断面視にて示す説明図である。
【図12】他の実施例の熱交換器の概略構成を示す説明図である。
【図13】変形例の熱交換器100Aの概略構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0066】
100、100A…熱交換器
110、110A…プレートユニット
115…最下層プレート
116…伝熱プレート
117…溝
118…凸条
130、130A…筐体
131D…下面プレート
131DA…下面プレート
131S…サイドプレート
131U…上面プレート
131UA…上面プレート
132…溝
150…流路
P…油圧源
P1…プレス
P2…プレス
DL…距離
TP…別機器
TS…収納領域
WLA…溶接ライン
WA…端部接合領域
NWA…残余領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理を経て他の構成部材に接合される積層体の製造方法であって、
複数のプレートを積層し、第1の熱処理によって前記プレート同士を接合して積層体を形成する第1接合工程と、
前記他の構成部材への接合がなされる接合部を含む所定範囲においては、複数の前記プレートを前記第1の熱処理よりも高い温度の熱処理によって前記プレート同士を接合する第2接合工程とを備える
ことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記第2接合工程における前記熱処理を前記第1接合工程の前記熱処理よりも先に行う請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の積層体の製造方法であって、
前記第1、第2の接合工程に続く工程として、前記第2接合工程における前記熱処理と同じ熱処理手法にて前記接合部において前記他の構成部材と接合を図る第3接合工程を備える
積層体の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3いずれかに記載の積層体の製造方法であって、
前記第1接合工程における前記熱処理はロウ材を用いた接合処理であり、前記第2接合工程における前記熱処理は溶接による接合処理である
積層体の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の積層体の製造方法であって、
前記第2接合工程での前記溶接を、前記第1接合工程での前記ロウ材を用いた接合処理により接合された前記積層体をプレート積層方向に押圧した状況下で行う
積層体の製造方法。
【請求項6】
複数のプレートが積層したプレート積層体を筐体で取り囲んだ積層体の製造方法であって、
前記プレート積層体を準備する準備工程と、
前記筐体を形成するための複数の板材を当接させて前記筐体を形成すると共に、筐体端部から離間した筐体内の収納領域において前記プレート積層体を収納する筐体形成工程と、
前記筐体端部から所定の範囲の端部接合領域においては、前記複数の板材を溶接にて接合固定する端部固定工程と、
前記端部接合領域以外の領域であって前記収納領域を含む残余領域において、前記複数の板材をロウ材を用いて接合固定する残余固定工程とを備える
積層体の製造方法。
【請求項7】
前記端部固定工程での溶接を、前記残余固定工程でのロウ材を用いた接合固定より先に行う請求項6に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の積層体の製造方法であって、
前記準備工程では、溝を有する複数のプレートを積層し、重なり合ったプレートの間で、前記溝を形成する凸条の頂上面と対向するプレートとをロウ材にて接合固定して前記溝を閉鎖し、該閉鎖した溝を流路とする前記プレート積層体を準備し、
前記筐体形成工程では、前記プレート積層体を取り囲む左右側壁と上下壁を形成する4枚の板材を用い、前記上下壁の板材を前記左右側壁の板材に挟んだ状態で前記4枚の板材を当接し、
前記端部固定工程での溶接を、前記収納領域に収納した前記プレート積層体を前記プレートの積層方向に押圧した状況下で行う
積層体の製造方法。
【請求項9】
複数のプレートが積層したプレート積層体を筐体で取り囲んだ積層体の製造方法であって、
プレート積層体の上下壁を形成するための板材の間であって、該板材端部から離間した箇所に、複数枚の前記プレートを積層して前記溝を形成する凸条の頂上面を対向するプレートに接合させる積層接合工程と、
プレート積層体の両側面壁を形成するための板材を前記積層済みプレートの両側面と前記上下壁の形成用の板材の両側面とに当接させて、前記両側面壁の形成用の板材により前記積層済みプレートと前記上下壁の形成用の板材とを前記プレート積層方向と交差する方向に拘束した状態とし、前記積層済みプレートを取り囲む前記筐体を形成する筐体形成工程と、
前記両側面壁の形成用の板材と前記上下壁の形成用の板材の当接箇所を接合固定する筐体固定工程とを備え、
前記積層接合工程では、前記プレートにおける前記凸条の頂上面にロウ材を介在させた状態で前記プレートを積層し、
前記筐体固定工程において前記接合処理を施す際には、前記板材端部から所定の範囲の端部接合領域において、前記当接済みの前記両側面壁の形成用の板材と前記上下壁の形成用の板材を溶接にて接合固定する端部領域固定と、前記端部接合領域以外の領域であって前記積層済みプレートを含む残余領域において、前記当接済みの前記両側面壁の形成用の板材と前記上下壁の形成用の板材をロウ材を用いて接合固定する残余領域固定とを行い、該残余領域固定を前記上下壁の形成用の板材の間の前記積層済みプレートを積層方向に沿って押圧した状況下で行うことで、前記残余領域固定と同時に、前記積層済みプレートにおける前記頂上面とプレートとを前記介在させたロウ材にて接合固定する
積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の積層体の製造方法であって、
前記筐体固定工程では、前記端部領域固定を前記残余領域固定より先に行うと共に、前記積層済みプレートと前記頂上面との間に介在する前記ロウ材の溶融による前記積層済みプレートの積層寸法の縮みに相当する分、前記端部接合領域における前記上下壁の形成用の板材の隔たりを縮めて前記端部領域固定を行う
積層体の製造方法。
【請求項11】
溝を有するプレートを複数枚積層し、重なり合うプレートと前記溝とにより形成された流路を備えるプレート積層体を筐体で取り囲んだ積層体であって、
前記プレート積層体は、重なり合ったプレートの間で、前記溝を形成する凸条の頂上面と対向するプレートとをロウ材にて接合固定して前記溝を閉鎖し、該閉鎖した溝を前記流路とし、
前記筐体は、
前記プレート積層体を収納する収納領域を筐体端部から離間して形成する複数の板材を備え、
前記筐体端部から所定の範囲の端部接合領域において前記複数の板材を溶接にて接合固定し、
前記端部接合領域以外の領域であって前記収納領域を含む残余領域において、前記複数の板材をロウ材にて接合固定してなる
積層体。
【請求項12】
請求項11に記載の積層体であって、
前記筐体は、前記プレート積層体を両側面と上下面で取り囲む左右側壁と上下壁の4枚の板材を備え、
前記上下壁の板材は、前記左右側壁の板材に挟まれて、前記端部接合領域では前記左右側壁の板材に溶接にて接合固定され、前記残余領域では前記左右側壁の板材にロウ材にて接合固定されている
積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−45629(P2009−45629A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211288(P2007−211288)
【出願日】平成19年8月14日(2007.8.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(591160512)金属技研株式会社 (14)
【Fターム(参考)】