説明

積層体の製造方法

【課題】配向不良(マルチドメイン)がなく、二色比の高い光学異方性を有する積層体を簡易な操作で安定して製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】リオトロピック液晶化合物を含む光学異方層と基材とを備える積層体の製造方法であって、少なくとも一種のリオトロピック液晶化合物と溶媒とを含む溶液を準備する工程(1)と、工程(1)で得られた溶液を表面温度が20℃以下の基材上に塗布し、溶液の塗布層を形成する工程(2)と、工程(2)で得られた塗布層の溶媒を揮発させ、その揮発過程でリオトロピック液晶化合物を配向させて、基材上に光学異方層を形成する工程(3)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光膜や位相差膜として用いられる、光学異方性を有する積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイでは液晶を通過する光線の旋光性や複屈折性を制御するため偏光板や位相差板が用いられている。また有機ELディスプレイでは外光の反射を防止するため円偏光板が使用されている。
【0003】
従来これらの偏光板にはヨウ素や二色性有機色素をポリビニルアルコール等の高分子フィルムに溶解または吸着させ、そのフィルムを一方向に延伸することにより色素等の分子を配向させて得られる偏光子が広く使用されてきた。
【0004】
しかしこのようにして製造される従来の偏光子は、用いる色素や高分子材料によっては耐熱性や耐光性が十分でないことが問題となっていた。また表示パネル製造時における膜の貼り合わせの歩留りが悪いことも問題となっていた。さらに表示パネルの大型化にともない広幅のフィルムの延伸が必要となるため、製膜装置が非常に大型化することも問題となっていた。
【0005】
そのためガラス板や透明フィルムなどの基材上に、液晶相を示す二色性色素を含む溶液を塗布して塗布膜を形成し、基材下地の規制力を利用して二色性色素を配向させることにより偏光膜を製造する方法が検討されている(例えば特許文献1、2)。
【0006】
また塗布時の歪み応力または剪断応力を利用して液晶相を示す二色性色素を配向させることにより偏光膜を製造する方法が検討されている(例えば特許文献3)。
【0007】
しかしこれら公知の塗布方式による偏光膜は性能(二色比、配向の完全性)や製造の安定性や簡易性のうえで必ずしも充分とはいえない。
【0008】
例えば下地の規制力により配向構造を実現させる従来方法は、塗布後の溶液の乾燥時に配向不良(マルチドメイン)が発生するおそれがあり、製造の安定性に問題がある。
【0009】
また塗布時の歪み応力または剪断応力により配向構造を実現させる従来方法は充分な配向を安定して実現させる塗布機構の確立が難しい。
【特許文献1】特開2007−61755号公報
【特許文献2】米国特許第2400877号公報
【特許文献3】特表平8−511109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は配向不良(マルチドメイン)がなく、二色比の高い光学異方性を有する積層体を簡易な操作で安定して製造できる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下に示す製造方法を見出し本発明を完成するにいたった。
【0012】
本発明者らが配向性の高い光学異方層を得るための製造条件について鋭意検討したところ、溶液の塗布層の表面に温風を当てる方法(特許文献1、0058段落)において得られる光学異方層の配向性が不完全である原因は、塗布層の乾燥時間が短かすぎることが原因であることが分かった。
【0013】
すなわち上記の方法では塗布層の乾燥時間が短かすぎるため塗布層中のリオトロピック液晶化合物の配向が十分おこなわれないうちにリオトロピック液晶化合物が固定されてしまう。このように配向性が低下する傾向は、塗布前は液晶相を示さず、溶媒の揮発過程でリオトロピック液晶化合物の濃度が高くなって液晶相を示すようになる溶液に特に顕著である。
【0014】
本発明の積層体の製造方法においては、リオトロピック液晶化合物と溶媒とを含む溶液を基材上に塗布して塗布層を形成し、塗布層の溶媒の揮発過程でリオトロピック液晶化合物を配向させて基材上に光学異方層を形成するが、特に塗布層の溶媒の揮発速度を制御することによりリオトロピック液晶化合物の完全な配向に必要な時間を確保し、配向不良(マルチドメイン)が生じないようにすることを特徴とする。
【0015】
本発明の製造方法によれば、リオトロピック液晶化合物を含む溶液を表面温度が20℃以下の基材上に塗布することにより溶媒の揮発速度が遅くなり、リオトロピック液晶化合物の配向に十分な時間が得られる。その結果配向不良(マルチドメイン)がなく、均一かつ配向性の高い光学異方層を得ることができる。
【0016】
(a)本発明の積層体の製造方法は、少なくとも一種のリオトロピック液晶化合物を含む光学異方層と基材とを備える積層体の製造方法であって、少なくとも一種のリオトロピック液晶化合物と溶媒とを含む溶液を準備する工程(1)と、工程(1)で得られた溶液を表面温度が20℃以下の基材上に塗布し、溶液の塗布層を形成する工程(2)と、工程(2)で得られた塗布層の溶媒を揮発させ、その揮発過程でリオトロピック液晶化合物を配向させて、基材上に光学異方層を形成する工程(3)とを含むことを特徴とする。
【0017】
(b)本発明の積層体の製造方法においては、工程(3)において塗布層が液晶相を示す時間は80秒以上であることを特徴とする。
【0018】
(c)本発明の積層体の製造方法は、工程(1)で準備された溶液が、工程(1)中では液晶性を示さず、工程(2)および工程(3)中で液晶相を示すことを特徴とする。
【0019】
(d)本発明の積層体の製造方法は、工程(1)で準備された溶液が、工程(1)中では液晶性を示さず、工程(2)または工程(3)中で液晶相を示すことを特徴とする。
【0020】
(e)本発明の積層体の製造方法は、工程(1)で準備された溶液のリオトロピック液晶化合物濃度が0.1重量%〜40重量%であることを特徴とする。
【0021】
(f)本発明の積層体の製造方法においては、工程(3)は、塗布層を昇温させながら溶媒を揮発させる工程を含むことを特徴とする。
【0022】
(g)本発明の積層体の製造方法においては、工程(3)は、塗布層が結露しないようにしながら溶媒を揮発させる工程を含むことを特徴とする。
【0023】
(h)本発明の積層体の製造方法においては、光学異方層は波長550nmにおいて吸収二色性を示すことを特徴とする。
【0024】
(i)本発明の積層体の製造方法においては、光学異方層の二色比は、波長550nmにおいて20以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明により配向不良(マルチドメイン)がなく、二色比の高い光学異方性(例えば波長550nmにおいて二色比が20以上、さらに30以上)を有する積層体を簡易な操作で安定して製造できる製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の積層体の製造方法は、少なくとも一種のリオトロピック液晶化合物を含む光学異方層と、基材とを備える積層体の製造方法であって、次の工程(1)〜工程(3)を含む。
【0027】
工程(1)は少なくとも一種のリオトロピック液晶化合物と溶媒とを含む溶液を準備する工程である。
【0028】
工程(2)は工程(1)で得られた溶液を表面温度が20℃以下の基材上に塗布し、基材上に溶液の塗布層を形成する工程である。
【0029】
工程(3)は工程(2)で得られた塗布層の溶媒を揮発させ、その揮発過程でリオトロピック液晶化合物を配向させて、基材上に光学異方層を形成する工程である。
【0030】
本発明の製造方法によれば塗布層が液晶相を示す時間を長くすることができるため、リオトロピック液晶化合物の配向に十分な時間が得られる。その結果配向不良(マルチドメイン)がなく均一かつ配向性の高い光学異方層を得ることができる。
【0031】
本発明の製造方法において、塗布層が液晶相を示す時間は好ましくは80秒以上であり、さらに好ましくは100秒〜250秒である。
【0032】
本発明による光学異方層は、層内の直交する2方向で吸収率、屈折率などの光学的性質に異方性を有する膜であり、なかでも直線偏光膜、円偏光膜、位相差膜としての機能を有するものなどが挙げられる。本発明の積層体は、偏光膜、位相差膜に用いられることが好ましい。
【0033】
[リオトロピック液晶化合物]
本発明に用いられるリオトロピック液晶性化合物は、温度や濃度を変化させることにより、等方相−液晶相の相転移を起す性質を持つ液晶化合物をいう。発現する液晶相には特に制限はなく、ネマチック液晶相、スメクチック液晶相、コレステリック液晶相などが挙げられる。これらの液晶相は偏光顕微鏡で観察される光学模様により確認、識別される。
【0034】
本発明に用いられるリオトロピック液晶化合物の溶媒に対する溶解度は、溶媒100gに対し、好ましくは0.5ミリモル〜100ミリモルであり、さらに好ましくは5ミリモル〜50ミリモルである。
【0035】
本発明に用いられるリオトロピック液晶化合物は、好ましくは水溶性であり、水溶性を付与するため、好ましくは親水性置換基を有する。親水性置換基は、好ましくは、−COOM、−SOM、−POM、−OH、−NHからなる群から選択される少なくとも一種の置換基である。
【0036】
本発明に用いられるリオトロピック液晶化合物は400nm〜780nmの波長域においていずれかの波長の光を吸収する有機化合物である。また、このリオトロピック液晶化合物の配向により得られる光学異方層は波長550nmにおいて吸収二色性を示すことが好ましい。
【0037】
本発明に用いられるリオトロピック液晶化合物としては、通常水溶性の二色性色素が用いられる。
【0038】
本発明に用いられる二色性色素の具体例としては、アゾ系色素、アントラキノン系色素、ペリレン系色素、インダンスロン系色素、イミダゾール系色素、インジゴイド系色素、オキサジン系色素、フタロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、ピラゾロン系色素、スチルベン系色素、ジフェニルメタン系色素、ナフトキノン系色素、メトシアニン系色素、キノフタロン系色素、キサンテン系色素、アリザリン系色素、アクリジン系色素、キノンイミン系色素、チアゾール系色素、メチン系色素、ニトロ系色素、ニトロソ系色素などが挙げられる。
【0039】
これらのなかで好ましくは、アゾ系色素、アントラキノン系色素、ペリレン系色素、インダンスロン系色素およびイミダゾール系色素である。これらは単独もしくは2種以上を混合して用いることができる。黒色の偏光膜を得るためには異なる吸収スペクトルを有する複数種が混用されることが好ましい。
【0040】
またこれらの二色性色素は、好ましくは、スルホン酸基(−SOH)や、カルボキシル基(−COOH)や、それらの塩、窒素系置換基(−NH、−NHR、−NR、−NR(ここでR、R、Rは1価の有機基))を含む有機化合物、特に好ましくはスルホン酸基を含む有機化合物またはその塩である。
【0041】
二色性色素へのスルホン酸基の導入は水への溶解性を向上させるうえで有効である。二色性色素へ導入されるスルホン酸基の数が多いほど水への溶解度は向上する。このスルホン酸基の数は水への溶解度と光学異方層の耐水性との両立を考慮して適宜選択される。
【0042】
さらに、本発明において用いられる二色性色素の具体例としては一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
(クロモゲン)(SOM) … 一般式(1)
(nは1以上の整数、Mはカチオンを示す)。
【0043】
一般式(1)のMとしては、水素イオン、Li、Na、K、Csのような第一族金属のイオン、アンモニウムイオンなどが好ましい。また、クロモゲン部位としては、アゾ誘導体単位、アントラキノン誘導体単位、ペリレン誘導体単位、イミダゾール誘導体単位、および/またはインダンスロン誘導体を含むものが好ましい。
【0044】
上記一般式(1)で表される二色性色素は溶液中に於いてアゾ化合物や多環式化合物構造などのクロモゲンが疎水性部位に、スルホン酸及びその塩が親水性部位となり、両者のバランスによって疎水性部位同士及び親水性部位同士が集まり、全体としてリオトロピック液晶を発現する。
【0045】
一般式(1)で表される二色性色素の具体例としては、下記の式(2)〜式(8)で表される化合物などが例示される。
【0046】
【化1】

式(2)中、Rは水素または塩素であり、Rは水素、アルキル基、ArNHまたはArCONHである。このアルキル基としては炭素数が1〜4のアルキル基が好ましく、中でもメチル基やエチル基がより好ましい。アリール基(Ar)としては置換または無置換のフェニル基が好ましく、中でも無置換または4位を塩素で置換したフェニル基がより好ましい。またMは上記一般式(1)と同様である。
【0047】
【化2】

式(3)〜式(5)において、Aは、式(a)または式(b)で表されるものであり、nは2〜3である。AのRは水素、アルキル基、ハロゲンまたはアルコキシ基、Arは置換または無置換のアリール基を示す。アルキル基としては炭素数が1〜4のアルキル基が好ましく、中でもメチル基やエチル基がより好ましい。ハロゲンは臭素または塩素が好ましい。またアルコキシ基は炭素数が1または2個のアルコキシ基が好ましく、中でもメトキシ基がより好ましい。アリール基としては置換または無置換のフェニル基が好ましく、中でも無置換あるいは4位をメトキシ基、エトキシ基、塩素もしくはブチル基で、または3位をメチル基で置換したフェニル基が好ましい。Mは上記一般式(1)と同様である。
【0048】
【化3】

式(6)においてnは3〜5であり、Mは上記一般式(1)と同様である。
【0049】
【化4】

式(7)においてMは上記一般式(1)と同様である。
【0050】
【化5】

式(8)においてMは上記一般式(1)と同様である。
【0051】
上記化合物における有機化合物へのスルホン酸基の導入(スルホン化)は、例えば、有機化合物に、硫酸、クロロスルホン酸または発煙硫酸を作用させて、核の水素をスルホン基に置換する方法が挙げられる。上記化合物における塩は酸の解離でできる水素原子が、例えば、リチウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、アンモニウムイオンなどの1価のイオンで置換されたものである。
【0052】
本発明に用いられる二色性色素の他の具体例としては特開2006−047966号公報、特開2005‐255846号公報、特開2005−154746号公報、特開2002−090526号公報、特表平8−511109号公報、特表平2004−528603号公報に記載の二色性色素が挙げられる。
【0053】
本発明には市販の二色性色素を用いることもできる。この例としては、C.I. DirectB67、DSCG(INTAL)、RU31.156、Metyl orange、AH6556、Sirius Supra Blown RLL、Benzopurpurin、Copper−tetoracarboxyphthalocyanine、Acid Red 266、Cyanine Dye、Violet 20、Perylenebiscarboximides、Benzopurpurin 4B、Methyleneblue(Basic Blue 9)、Brilliant Yellow、Acid red 18、Acid red 27などが挙げられる。
【0054】
[基材]
本発明に用いられる基材は特に制限はなく、単層のものでもよいし、複数層(例えば配向膜を含む)からなる積層体であってもよい。具体的な基材としてはガラス板や樹脂フィルムが挙げられる。
【0055】
基材の表面はリオトロピック液晶化合物を配向させる異方性を有する。このため基材の表面にはラビングなどによる配向処理がなされた配向膜が形成されていることが好ましい。このような基材としては、例えば、ガラス板にポリイミド膜がコーティングされた基材が挙げられる。このポリイミド膜は公知の方法、例えば、一定方向へのラビングなどの機械的配向処理、光配向処理などの化学的配向処理により配向性が付与される。水溶性液晶化合物(二色性色素)の配向方向を制御するための基材の配向処理については「液晶便覧」(丸善株式会社、平成12年10月30日発行)226頁〜239頁などに記載の公知の方法によることができる。
【0056】
基材のガラス板は、好ましくは液晶セルに用いられるものであり、例えば、無アルカリガラスである。市販のガラス板としては、例えばコーンニグ社製1737、旭硝子社製AN635、NHテクノグラス社製NA−35などが挙げられる。
【0057】
基材として樹脂フィルムが用いられる場合は基材が可撓性を有し得るので、可撓性を要求される用途に好適である。樹脂フィルムの表面がラビングなどにより配向処理されていてもよい。あるいは樹脂フィルムの表面に他の素材からなる配向膜が形成されていてもよい。
【0058】
基材に用いる樹脂フィルムの素材としては、フィルム形成性を有する透明樹脂であればとくに限定されないが、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル酸系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂、トリアセチルセルロース系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が例示される。
【0059】
基材の厚さは用途により定められ得るほかは特に限定されないが、一般的には1μm〜1000μmの範囲である。
【0060】
[工程(1)]
本発明の工程(1)は、少なくとも一種のリオトロピック液晶化合物と溶媒とを含む溶液を準備する工程である。
【0061】
[溶媒]
溶媒としては任意のものを用いることができる。溶媒は好ましくは水系溶媒である。水系溶媒としては水、アルコール類、セロソルブ類が挙げられる。
【0062】
水系溶媒としては水にアルコール類、エーテル類、セロソルブ類、ジメチルスルホオキサイド、ジメチルホルムアミドなどの水溶性の溶剤が添加されていてもよい。またグリセリン、エチレングリコールなどの水溶性の化合物が添加されていてもよい。これらの添加物は水溶性液晶化合物の易溶性や水溶液の乾燥速度を調整するために用いることができる。これらの溶剤の添加量は水溶液中の水100重量部に対して100重量部以下であることが好ましい。
【0063】
[溶液の準備]
溶液の濃度は好ましくは0.1重量%〜40重量%であり、さらに好ましくは1重量%〜10重量%となるように準備される。好ましくは溶液は工程(1)中では液晶性を示さず、工程(2)中、工程(3)中のいずれか、ないし両方で液晶相を示すものである。工程(2)と工程(3)については後述する。
【0064】
このような溶液は、通常、液晶性を示す溶液を希釈して調製される。本発明の溶液、すなわち、工程(1)中では液晶性を示さず、工程(2)中、工程(3)中のいずれか、ないし両方で液晶相を示すものは、工程(1)中でも液晶性を示す溶液より、リオトロピック液晶化合物を長時間、液晶相の状態にすることができるため、結果として、配向不良(マルチドメイン)がなく、かつ、二色比の高い光学異方層が得られやすい。溶液のpHは好ましくはpH6〜8である。
【0065】
また溶液は必要に応じてバインダー樹脂、モノマー、硬化剤、可塑剤、界面活性剤、熱安定剤、光安定剤、滑剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、相溶化剤、増粘剤、レベリング剤、カップリング剤等から選択される添加物を含んでもよい。添加物の添加量は溶液全体量の10重量%以下であることが望ましい。
【0066】
溶液に界面活性剤を添加すると、二色性色素の基材表面へのぬれ性、塗工性を向上させることができる。界面活性剤としては非イオン界面活性剤が好ましい。界面活性剤の添加量は水溶液全体量の5重量%以下であることが好ましい。
【0067】
[工程(2)]
本発明の工程(2)は、工程(1)で得られた溶液を表面温度が20℃以下の基材上に塗布し、溶液の塗布層を形成する工程である。このような冷却した基材(表面温度が20℃以下)により塗布層は塗布直後に冷却される。溶液塗布時における基材の表面温度は、好ましくは4℃〜12℃であり、さらに好ましくは4℃〜6℃である。
【0068】
[塗布]
塗布方法は、適切なコーターを用いた塗布方法が採用される。塗布方法は塗布層を均一に塗布するものであればとくに限定されず、ロッドコート塗布、ロールコーター塗布、フレキソ印刷、スクリーン印刷、カーテンコーター塗布、スプレイコーター塗布、スピンコート塗布等の公知の方法が適宜用いられる。塗布層の厚さは0.01μm〜10μmであることが好ましい。
【0069】
[塗布層]
溶液の塗布層は、溶液を基材表面にシート状に薄く展開した層をいう。塗布層は溶液の塗布直後から乾燥して固化するまでの状態の層であり、ある程度溶媒が揮発していてもよい。塗布層は、例えば、塗布直後の溶媒の総重量を100とした場合に、20を超え100以下の溶媒を含むものである。
【0070】
[工程(3)]
本発明の工程(3)は、工程(2)で得られた溶液の塗布層の溶媒を揮発させ、その揮発過程で、溶液に含まれるリオトロピック液晶化合物を配向させて、基材上に光学異方層を形成する工程である。
【0071】
[揮発]
溶媒の揮発手段は、例えば、自然乾燥や加熱乾燥等が用いられる。工程(3)において、より配向性の高い光学異方層を得るために、塗布層の溶媒を80重量%揮発させることが好ましい。さらには95重量%以上揮発させることが好ましい。溶媒は、基材と塗布層とを含む積層体を冷却したまま揮発させても良いが、結露によって塗布層表面に水滴が付着すると、塗布層中のリオトロピック液晶化合物が水滴に溶解してしまい配向度が低下する場合がある。そこで工程(3)は結露を防止するため塗布層を昇温しながら、塗布層の溶媒を揮発させる工程を含むことが好ましい。
【0072】
[配向]
リオトロピック液晶化合物は溶媒の揮発過程で任意の方法により配向させることができる。例えばリオトロピック液晶化合物は基材として配向処理されたものを用いることにより、配向処理方向と平行または直交する方向に配向させることができる。リオトロピック液晶化合物の配向手段としては、基材の配向処理の他に、磁場、電場等、任意の手段を用いることができる。
【0073】
[積層体]
本発明の製造方法により得られる積層体は少なくとも1種のリオトロピック液晶化合物を含む光学異方層と基材とを備える。積層体は他の層を含んでいてもよい。例えば光学異方層の表面に樹脂からなる保護層が設けられてもよい。あるいは基材の表面や裏面にあらかじめ平滑層や離型層や易接着層などを設けることもできる。
【0074】
[光学異方層]
光学異方層は、好ましくは、波長550nmにおいて吸収二色性を示す。このような光学異方層は、例えば、偏光子として用いられる。光学異方層の二色比は、波長550nmにおいて、好ましくは20以上であり、さらに好ましくは30以上である。
【0075】
なお二色比は分光光度計を用いて直線偏光の測定光を入射させ、光学異方層の配向方向に対し測定光の偏光の電界ベクトルが平行及び直交するようにして透過率を測定することにより、算出することができる。
【0076】
[積層体及び光学異方層の用途]
本発明により得られる積層体及び光学異方層は、光学異方性を活かして各種の光学素子に用いられるが、特に偏光板および位相差板として好適に用いることができる。この場合は、配向した塗布層の二色比が波長550nmにおいて20以上であることが好ましい。30以上であることがさらに好ましい。
【0077】
積層体及び光学異方層の用途は、例えば、パソコンモニター、ノートパソコン、コピー機などのOA機器、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機器などの携帯機器、ビデオカメラ、テレビ、電子レンジなどの家庭用機器、バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオなどの車載用機器、商業店舗用インフォメーション用モニターなどの展示機器、監視用モニターなどの警備機器、介護用モニター、医療用モニターなどの液晶表示装置である。
【0078】
光学異方層は基材から剥離して用いてもよいし、積層体のまま用いてもよい。積層体のまま光学用途に用いる場合、基材は可視光の波長領域で透明なものが好ましい。基材から剥離した場合は、好ましくは他の支持体や光学素子に積層して用いることができる。
【0079】
図1に本発明の実施例と比較例について溶媒揮発過程での相移動の様子を模式的に示す。図1の横軸は塗布層中のリオトロピック液晶化合物の濃度、縦軸は塗布層の温度である。図1に示すようにリオトロピック液晶化合物は濃度が低いと液晶相を示すが、濃度が高くなると結晶相に移動する。また温度が低いと液晶相を示すが、温度が高くなると等方相に移動する。等方相/液晶相/結晶相の境界は破線で示されている。
【0080】
そのため基材にリオトロピック液晶化合物溶液(等方相)の塗布層を形成したのち溶媒を揮発させると、塗布層内のリオトロピック液晶化合物の濃度が高くなるに従い、リオトロピック液晶化合物は等方相→液晶相→結晶相の順に相移動をおこなう。
【0081】
このとき比較例(横軸に平行な直線)のように室温(23℃)で溶液の塗布層を形成すると、塗布層は常に室温であるから液晶相を示す区間はグラフ上のTとなる。比較例では液晶相を示す区間Tの時間が短いため、塗布層中のリオトロピック液晶化合物は配向が十分おこなわれないうちに結晶相に移り固定されてしまう。その結果、配向不良(マルチドメイン)が生じ、均一かつ配向性の高い光学異方層を得ることができない。
【0082】
一方本発明の実施例(斜めの直線)のように冷温室で基材を冷却しておいて溶液の塗布層を形成し、その後基材と塗布層を室温状態に置くと、塗布層は冷却温度から徐々に室温に上昇するため、液晶相を示す区間はグラフ上のTとなる。実施例の液晶相を示す区間Tの時間は、比較例の液晶相を示す区間Tの時間より長いため、この間にリオトロピック液晶化合物の配向が十分におこなわれる。その結果、配向不良(マルチドメイン)がなく、均一かつ配向性の高い光学異方層を得ることができる。
【0083】
本発明において、液晶相を示す区間Tの時間は好ましくは80秒以上であり、さらに好ましくは100秒〜250秒である。
【0084】
本発明において、基材冷却温度は基材の表面温度が20℃以下、好ましくは4℃〜12℃であり、さらに好ましくは4℃〜6℃である。
【0085】
[実施例]
−SOHを有するペリレン系液晶化合物(水溶性)を含む溶液(オプティバ社製 商品名「NO−15」)に水を加え、濃度を7重量%に調製した。
【0086】
次に表面にラビング処理及びコロナ処理(親水化処理)を施したポリマーフィルム(日本ゼオン社製 商品名「ゼオノア」)を、冷温室で表面温度が4.6℃になるまで冷却し、表面温度を上記温度に保持したまま、ポリマーフィルムの表面にワイヤーバー(3番手)を用いて上記の溶液を塗布し、厚み5μmの塗布層を形成した。
【0087】
塗布層形成直後にこの積層体(ポリマーフィルムと塗布層)を室温(23℃)の室内に移し、積層体を昇温しながら(積層体の温度を室温に戻しながら)、塗布層中の溶媒(水分)を、208秒間かけて80重量%揮発させた。塗布直後からこの間に塗布層が液晶相を示した時間は120秒であった。
【0088】
このようにして得られた積層体の光学異方層は、波長550nmにおける二色比が24.8であり、配向不良(マルチドメイン)のない均一なものであった。
【0089】
[比較例]
ポリマーフィルムを冷却せず室温(23℃)のまま溶液を塗布し塗布層を形成した以外は、実施例と同様の方法で積層体を作製した。比較例において塗布層中の溶媒(水分)を80重量%揮発させるまでの時間は147秒であった。また塗布直後からこの間に塗布層が液晶相を示した時間は69秒であった。
【0090】
このようにして得られた比較例の積層体の光学異方層は、波長550nmにおける二色比が21.4であり、配向不良(マルチドメイン)のある不均一なものであった。
【0091】
[実施例、比較例で用いた測定方法]
二色比の測定方法:グラントムソン偏光子を備える分光光度計(日本分光社製 製品名「U−4100」)を用いて、波長550nmの直線偏光の測定光を入射させ、下記のk及びkを求め、下式より算出した。
式 ; 二色比=log(1/k)/log(1/k
式 ; 単体透過率=(k+k)/2
ここでkは最大透過率方向の直線偏光の透過率を表し、kは最大透過率方向に直交する方向の直線偏光の透過率を表す。
【0092】
基材の表面温度の測定方法:熱電対を基材表面に貼り付けて測定した。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】塗布層の溶媒揮発過程での相移動の模式図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種のリオトロピック液晶化合物を含む光学異方層と基材とを備える積層体の製造方法であって
少なくとも一種のリオトロピック液晶化合物と溶媒とを含む溶液を準備する工程(1)と、
前記工程(1)で得られた前記溶液を表面温度が20℃以下の基材上に塗布し、前記溶液の塗布層を形成する工程(2)と、
前記工程(2)で得られた前記塗布層の前記溶媒を揮発させ、その揮発過程で前記リオトロピック液晶化合物を配向させて、前記基材上に光学異方層を形成する工程(3)とを含むことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記工程(3)において前記塗布層が液晶相を示す時間は80秒以上であることを特徴とする請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)で準備された前記溶液が、前記工程(1)中では液晶性を示さず、前記工程(2)および前記工程(3)中で液晶相を示すことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記工程(1)で準備された前記溶液が、前記工程(1)中では液晶性を示さず、前記工程(2)または前記工程(3)中で液晶相を示すことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記工程(1)で準備された前記溶液のリオトロピック液晶化合物濃度が0.1重量%〜40重量%であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記工程(3)は、前記塗布層を昇温させながら前記溶媒を揮発させる工程を含むことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記工程(3)は、前記塗布層が結露しないようにしながら前記溶媒を揮発させる工程を含むことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
前記光学異方層は波長550nmにおいて吸収二色性を示すことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
前記光学異方層の二色比は、波長550nmにおいて20以上であることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載の積層体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−53631(P2009−53631A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222799(P2007−222799)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】