説明

積層体

【目的】 可視光に対して高い透過率を示し、低価格で、容易に製造できる、導電、熱線反射、帯電防止、電磁波遮断、透明断熱等の用途に用いる積層体を提供する。
【構成】 光透過性基材の少なくとも片面に、プラズマ重合膜層、金属薄膜層およびプラズマ重合膜層が、この順序で積層されてなる選択光透過性積層体。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、可視光に対する透過率の改善された、導電性積層体に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、(1)銀、銅、金等の金属薄膜、(2)SnO2 、ITO等の金属酸化物薄膜、あるいは(3)高屈折率誘導体/Ag/高屈折率誘導体の薄膜三層積層体を透明性基板上に形成した積層体は、導電、熱線反射、帯電防止、電磁波遮断、透明断熱等の用途に利用されている。
【0003】しかし、(1)の金属薄膜の場合、金属の特性である高い導電性に基づき良好な導電特性を示し、また、真空蒸着、スパッタリング等の手法で容易に形成することができるが、可視光に対する反射率が高く、高い可視光透過率が要求される用途には利用できない。
【0004】また、(2)の金属酸化物薄膜は、高い可視光透過率が得られるが、導電性が低く、高い導電性が要求される用途には利用できない。また、SnO2 、ITO等の膜を低温で効率よく成膜することは非常に難しく、コストが高いために用途が限定されているのが現状である。
【0005】(3)の三層積層体は、1974年にJ.C.C.FanらによりTiO2 /Ag/TiO2 の積層構造が発表され、選択光透過積層体として既に実用化されており、(1)に比べて可視光透過率が高く、(2)に比べると製造コストが低いという特性を有している。
【0006】この三層積層体に用いる高屈折率誘電体としては、ZnS,TiO2 ,Bi23 などが知られている。これらの薄膜の形成には、RFスパッタリング法、反応性DCスパッタリング法、反応性蒸着法などが用いられるが、これらの成膜法は、装置の初期投資やランニングコストが高い欠点がある。
【0007】そこで、TiO2 などの薄膜を形成する方法として、金属アルコキシドから化学的に形成する方法も提案されているが、この方法を用いて積層体を形成するためには、金属アルコキシドの湿式塗布→乾燥→加熱による金属酸化物の形成→真空系での金属薄膜の形成→金属アルコキシドの湿式塗布→乾燥→加熱による金属酸化物の形成からなるプロセスとなるため、プロセスが複雑で長く、高い生産性、低コスト化を望むのは難しい。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、可視光に対して高い透過率を示す導電性積層体で、低価格で、容易に製造できる新規な積層体を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、光透過性基材(A)の少なくとも片面に、プラズマ重合膜層(B1)、金属薄膜層(C)およびプラズマ重合膜層(B2)が、(A)/(B1)/(C)/(B2)の順に積層されてなる積層体である。
【0010】
【作用】本発明に用いる光透過性基材は、特に限定されるものではないが、光透過性の積層体の基材として用いることから、可視光の透過率が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。光透過性基材は、無機物、有機物の何れでもよい。無機物の基材としては、例えば一般的な石英ガラスなどがあげられる。有機物の基材としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ナイロン等を主成分とするフィルムまたはシートがあげられる。本発明においては、プラズマ重合膜との接着性の観点から、有機基材を用いるのが好ましい。
【0011】プラズマ重合膜の製造に用いるモノマーとしては、ガス状になる殆ど全ての化合物がプラズマ重合可能であり、使用することができるが、室温で気体状または液状の物質が取り扱いが容易であり、好ましい。また、重合速度が早く、成膜速度が大きいことから、アセチレン、エチレン、プロピレン、ベンゼン、スチレン、ナフタレンなどの不飽和炭化水素やチオフェン、ピリジン、ピペリジンなどの複素環化合物が好ましい。
【0012】プラズマ重合膜の膜厚の最適値は、プラズマ重合膜、金属膜および基材の各光学定数によって変化するが、通常100オングストロームから1000オングストロームの間に設定する。
【0013】プラズマ重合の方法としては、プラズマの安定性の観点から高周波電圧の印加による方法が好ましく、周波数は数KHzからMHz、特に好ましくは13.56MHzが用いられる。電極の方式、ベルジャーまたはチャンバーの形状などは特に限定されるものではなく、基材の形状、モノマーの重合特性などにより、適宣選択する。
【0014】プラズマ重合膜(B1)とプラズマ重合膜(B2)とは同じものでも異なるものでもよく、膜厚が異なっていてもよい。
【0015】本発明において形成される金属薄膜層(C)の材料は、特に限定されるものではなく、例えば銀、銅、金、パラジウム、アルミニウム、亜鉛、チタン、クロム、珪素等が挙げられる。
【0016】金属薄膜層(C)の膜厚は、連続的な薄膜が形成されれば特に限定されないが、高い可視光透過率と良好な導電性を有する積層体を得るためには、300オングストローム以下が好ましい。
【0017】金属薄膜の形成方法としては、特に限定されるものではなく、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の公知の方法が用いられる。
【0018】本発明の積層体の各層の積層順序は、二つのプラズマ重合膜層(B1およびB2)が金属薄膜層(C)を挾むよう積層される必要がある。この順序で積層されることにより始めて干渉の効果による反射防止効果が発揮され、可視光に対して高い透過率を示す積層体を得ることが可能となる。また、高い導電性を得るためには、金属薄膜層(C)が必須である。すなわち、積層順序が(A)/(B1)/(C)/(B2)以外の構造では、高い可視光透過率と高い導電性の両方の性能を同時に満たす積層体は得られない。
【0019】本発明の積層体は、プラズマ重合膜(B2)の上に、この積層体を保護する目的で、透明な保護層を形成することができる。このような保護層は、公知の透明性樹脂、例えばアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂などを塗工するか、あるいは、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリエステル等のフィルムをラミネートする方法などにより形成することができる。
【0020】このような本発明の積層体は、可視光積分透過率が65%以上であることが好ましい。なお、ここでいう可視光積分透過率とは、400nm〜700nmの透過率の値を積分して得た値をいう。
【0021】
【実施例】以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。これらの実施例は、図1に示す薄膜形成装置を用いて実施した。
【0022】図において、1はベルジャー内に配設されたコイル状電極であり、リード線を介して高周波電源2に連結されている。モノマーガスは、パイプ3を通じて導入され、流量はマスフロメーター4により調節される。排気は、パイプ5を通じて真空ポンプにより成される。成膜に供する基板は、ベルジャー上部のホルダー6に取り付けられる。7は抵抗蒸着ボード、8は抵抗蒸着用電源、9はEBガン及びその蒸着源、10はEBガン用電源である。
【0023】成膜方法を具体的に述べると、まず、基板(A)をホルダー6に取り付け、10-5Torr以下まで排気した後、モノマーガス単独またはHe、Arなどの不活性ガスをキャリヤーガスとして反応器内に導入し、かつ排気のコンダクタンスを調整して、ベルジャー内を所定の圧力とした。次に、所定の出力の高周波を印加し、基板上にプラズマ重合膜(B1)を形成した。次いで、プラズマ重合膜層(B1)の上に、抵抗蒸着またはEB蒸着のいづれか一方または両方により、金属薄膜(C)を形成した。蒸着膜厚は、ベルジャー上部に取り付けた水晶振動子膜厚計11によりモニターした。次に、金属薄膜(C)層上に、プラズマ重合膜(B2)を成膜し、選択光透過性積層体を作成した。
【0024】各層の膜厚は、ランクテイラーホブソン社製タリステップにより測定した。可視光透過率及び2000nmにおける反射率は、日立分光光度計U−3400により測定し、可視光透過率については、400nmの値から700nmの値までを積分して、積分可視光透過率とした。積層体の表面抵抗は、三菱油化製の表面抵抗計ロレスタにより、四端針測定方式で測定した。
実施例1〜4、比較例1、2図1に示す反応器のホルダー6に、表1に示す基材を取り付け1×10-5Torrまで排気した後、表1に示すモノマーガスを導入し、13.56MHzの高周波を50W印加し、5分間プラズマ重合を行い、表1に示す膜厚のプラズマ重合膜(B1)を得た。次に、1×10-5Torrまで排気した後、実施例1、3、4では抵抗蒸着により、銀まては金薄膜層(C)を120オングストローム形成し、実施例3では、抵抗加熱により銀を、EB加熱により銅を蒸発させて、表1に示す組成の金属薄膜層(C)を120オングストローム形成した。さらに金属薄膜層(C)上に、先と同じ条件で、プラズマ重合膜(B2)を形成し積層体を得た。
【0025】比較例1、2では、基材(A)上に表1に示す組成の金属薄膜層(C)を120オングストローム形成した。これらの積層体の可視光積分透過率と表面抵抗を評価した結果を表1に示した。
【0026】基材(A)上にプラズマ重合膜(B1)、銀を主成分とする金属薄膜層(C)および薄膜プラズマ重合膜(B2)を、(A)/(B1)/(C)/(B2)の順序で積層することにより、可視光線に対して高い透過率を示す導電性積層体が得られた。
【0027】
【表1】


【0028】
【発明の効果】本発明の積層体は、実施例で用いたような簡易な装置を用いて容易に製造することができる。また、この積層体は、導電、熱線反射、帯電防止、電磁波遮断、透明断熱等の用途で、同時に透明性の要求される用途に用いると、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の選択光透過積層体の製造に用いた薄膜形成装置の模式図である。
【符号の説明】
1:コイル状電極
2:高周波電源
3:モノマーガス導入パイプ
4:マスフロメーター
5:排気パイプ
6:ホルダー
7:抵抗抵蒸着ボート
8:抵抗抵蒸着用電源
9:EBガンおよび蒸着源
10:EBガン用電源
11:水晶振動子膜厚計

【特許請求の範囲】
【請求項1】 光透過性基材(A)の少なくとも片面に、プラズマ重合膜層(B1)、金属薄膜層(C)およびプラズマ重合膜層(B2)が、(A)/(B1)/(C)/(B2)の順に積層されてなる積層体。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開平5−98420
【公開日】平成5年(1993)4月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−259301
【出願日】平成3年(1991)10月7日
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)