説明

積層光学素子

【課題】2つの異なる光学材料を界面で積層した積層光学素子の密着強度を高くする。
【解決手段】積層光学素子10は、熱可塑性樹脂12と紫外線硬化型樹脂14とが界面で積層されていて、界面には、薄膜16が形成されている領域と形成されていない領域とが存在している。薄膜が形成された領域では、樹脂材料の互いの有機成分の移行を阻止すると共に、薄膜が形成されていない領域では、樹脂材料の互いの有機成分が移行して溶融することによって、密着強度の高い積層光学素子が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材となる第1の光学材料の表面に第2の光学材料を積層した積層光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、球面ガラスレンズの上に樹脂層を接合して表面形状を非球面に加工したり、異種の樹脂同士を接合した積層光学素子が実用化されている。
例えば、特許文献1には、屈折率の異なる2つの樹脂材料を積層して、その界面にはバリア層を挟んで、マイクロレンズパターンが形成されたマイクロレンズ基板が開示されている。
【0003】
そして、このバリア層は、樹脂材料を直接積層することにより、樹脂材料の有機成分が界面で互いに移行して、樹脂材料の屈折率が変化して所望の光学特性が得られなくなるのを防止するために形成されている。
【0004】
また、特許文献2には、屈折率の異なる2つの樹脂材料を積層して、ブレーズ形状が形成された回折光学素子が開示されている。そして、樹脂材料を直接積層することによる有機成分の溶融を防止するために、溶融しにくい特性を有する樹脂材料を選択している。
【0005】
さらに、特許文献3には、屈折率の異なる2つの樹脂材料を積層して、その界面には密着強度を高くするための透過性薄膜を挟んで、ブレーズ形状やバイナリー形状のような凹凸パターンを形成した回折光学素子が開示されている。
【特許文献1】特開2001−51103号公報
【特許文献2】特開2001−100026号公報
【特許文献3】特開2004−13081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に開示された積層光学素子では、温度又は湿度等の外部環境が変化したときに、積層された樹脂層の応力が変化することによって、樹脂層とバリア層との界面、あるいは樹脂層の界面で、割れ、ひび、剥がれ等が発生するおそれがある。
【0007】
また、特許文献3に開示された積層光学素子では、薄膜だけで2つの樹脂層を強固に密着させることは難しい。
本発明は斯かる課題を解決するためになされたもので、2つの異なる光学材料同士を界面で積層した密着強度の高い積層光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、
樹脂よりなる第1の光学材料と樹脂よりなる第2の光学材料とが界面で積層された積層光学素子において、
前記界面には、薄膜が形成されている領域と形成されていない領域とが存在することを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の積層光学素子において、
前記薄膜が形成されている領域では、前記第1の光学材料と前記第2の光学材料の有機成分が移行せず、前記薄膜が形成されていない領域では、前記有機成分が移行していることを特徴とする。
【0010】
ここで、有機成分の移行とは、有機成分が互いに混ざり合って溶融することをいう。以下同じ。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の積層光学素子において、
前記薄膜が形成されている領域は、前記積層光学素子の前記界面での光学有効径を含んでいることを特徴とする。
【0011】
ここで、光学有効径とは、光学設計上の光学機能を有する光学面上の領域の直径である。以下同じ。
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の積層光学素子において、
前記積層光学素子の前記界面での光学有効径をE、前記第1の光学材料の外径をD、前記第2の光学材料の外径をH、前記薄膜が形成されている領域の径をR、とすると
D≧H>R>E
の関係を有することを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の積層光学素子において、
前記薄膜が形成されていない領域での前記第1の光学材料と前記第2の光学材料の密着強度が、前記薄膜と前記第1の光学材料との密着強度、又は前記薄膜と前記第2の光学材
料との密着強度の少なくとも一方よりも高いことを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の積層光学素子において、
前記第1の光学材料は熱可塑性樹脂であり、前記第2の光学材料は紫外線硬化型樹脂であることを特徴とする。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の積層光学素子において、
前記第2の光学材料は重合性組成物で形成されていることを特徴とする。
請求項8に係る発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の積層光学素子において、
前記界面は非球面若しくは自由曲面であることを特徴とする。
【0015】
請求項9に係る発明は、請求項1〜8のいずれかに記載の積層光学素子において、
前記界面は不連続な光学面であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、2つの異なる光学材料同士を界面で積層した密着強度の高い積層光学素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
[積層光学素子の説明]
図1は、本実施形態の一例としての積層光学素子10を形成する工程を示す図である。また、図2は、成形された積層光学素子10の断面図を示す。
【0018】
積層光学素子10の成形において、まず、第1の光学材料としての熱可塑性樹脂12の表面に、薄膜16を形成する。次に、第2の光学材料としての液状の紫外線硬化型樹脂(例えば、液状の重合性組成物)14’を滴下して固化させる。
【0019】
この場合、所定の成形面41aを有する上型41を光軸(O−O軸)方向に押圧して所定位置で停止させる。こうして、紫外線硬化型樹脂14’を所定形状に成形する。次いで、熱可塑性樹脂12の下方に配置された紫外線照射装置42の紫外線ランプ42aから紫外線硬化型樹脂14’に下方から紫外線を照射する。
【0020】
この結果、紫外線硬化型樹脂14’は硬化し、図2に示すように、熱可塑性樹脂12の表面に、薄膜16を挟んで、薄い紫外線硬化型樹脂14が積層された積層光学素子10が得られる。
[第1実施形態]
図3は、第1実施形態の積層光学素子10を示す図であり、図4は、その要部拡大を示す図である。
【0021】
積層光学素子10は、第1の光学材料としての熱可塑性樹脂12と第2の光学材料としての紫外線硬化型樹脂14とを積層して形成されている。
ここで、熱可塑性樹脂12と紫外線硬化型樹脂14は、溶解しやすい特性を持つ樹脂で
ある。ところで、物質の溶解度を表す物理的な指標として、SP値(Solubility Parameter)が知られている。このSP値とは、溶解度パラメータ又は溶解性パラメータと呼ばれるもので、物質がどれだけ溶剤などに溶けやすいかということを数値化したものである(単位は(cal/cm1/2)。
【0022】
物質と溶剤においてこのSP値が近いほど(SP値の差が小さいほど)、溶解度が大となり、物質は溶剤によく溶けることが経験的に知られている。また、物質を溶剤に溶解させる場合と同様に、SP値の差が小さい2つの樹脂材料を積層した場合でも、積層界面で2つの樹脂材料に含まれる有機成分が移行して、互いに溶融する現象が起こることが知られている(特許文献1参照)。
【0023】
このような熱可塑性樹脂としては、例えば、パンライト(登録商標、帝人化成(株)製)、ユーロピン(登録商標、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)、OKP4(大阪ガスケミカル(株)製)、エスチレン(登録商標、新日鐵化学(株)製)等がある。また、紫外線硬化型樹脂としては、例えば、UV−1000(三菱化学(株)製)、EA−F5005(大阪ガスケミカル(株)製)等がある。
【0024】
また、これらの樹脂材料のSP値は、蒸発熱や屈折率等の物理的特性の実測値に基づいて計算する方法や、分子構造式から計算する方法の他、いくつかの方法が知られている。 本実施形態では、いずれの方法で求めたSP値を用いても、同じ方法で求めた熱可塑性樹脂と紫外線硬化型樹脂のSP値の差が、略2.0(cal/cm1/2以下であることが好ましい。
【0025】
また、薄膜16の薄膜材料は、例えば、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)、二酸化珪素(SiO)、硫化亜鉛(ZnS)、窒化物系セラミック等、あるいは少なくともカルバゾール骨格を有する物質を含む硬化性樹脂、パリキシレン樹脂のうち少なくとも1種類を含む薄膜材料が好ましい。
【0026】
なお、この薄膜16は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、又は化学蒸着法等により形成することができる。また、薄膜の平均膜厚は特に制限されないが、有機成分の移行が阻止できる範囲で、略0.1μm以下が好ましい。
【0027】
また、界面での光学有効径をE、熱可塑性樹脂12の外径をD、紫外線硬化型樹脂14の外径をH、薄膜が形成されている領域の径をRとすると、
D≧H>R>E
の関係を有している。
【0028】
ここで、光学有効径とは、光学設計上の光学機能を有する光学面上の領域の直径である。
薄膜16が形成されている領域の径Rは、界面での光学有効径Eよりも大きく、かつ、紫外線硬化型樹脂14の外径Hよりも小さい。すなわち、少なくとも界面での光学有効径E内には薄膜16が形成されており、界面での光学有効径Eの外側と熱可塑性樹脂12の外径D、または紫外線硬化型樹脂14の外径Hの間の領域には、薄膜16が形成されていない領域が存在することになる。
【0029】
なお、熱可塑性樹脂12と紫外線硬化型樹脂14との界面は、非球面若しくは自由曲面となっている。
ここで、薄膜16が形成されていない領域の界面では、熱可塑性樹脂12と紫外線硬化型樹脂14のSP値の差が小さいために、互いの有機成分が移行して溶融することになる。一方、薄膜16が形成されている領域の界面では、薄膜16によって互いの有機成分の移行が阻止されて、溶融しないことになる。
【0030】
すなわち、薄膜16が形成されている領域の界面では、屈折率の変化等による光学特性の変化が発生しないため、その領域を光学面として使用することができる。一方、薄膜16が形成されていない領域では、樹脂材料が互いに溶融することにより、強固に密着されることになる。
【0031】
この溶融による密着強度は、薄膜16と熱可塑性樹脂12との密着強度、又は薄膜16と紫外線硬化型樹脂14との密着強度よりも高くなる。その結果、温度又は湿度等の外部環境の変化に強く、落下時等の高い耐衝撃性も兼ね備えた積層光学素子が得られる。
【0032】
また、2つの樹脂材料の有機成分の移行を阻止する目的を優先させて、界面に形成される薄膜16の薄膜材料を選択できる。そのため、薄膜16の膜設計の自由度を確保することができる。もちろん、2つの樹脂材料との密着強度を高くするような薄膜材料を選択して薄膜16を形成すれば、さらに密着強度を高くすることができる。
【0033】
なお、本実施形態では、紫外線硬化型樹脂14の積層により光学素子を形成した場合について説明したが、熱硬化型樹脂その他のエネルギー硬化型の樹脂を用いてもよい。
[第2実施形態]
図5は、第2実施形態の積層光学素子20の拡大断面図である。
【0034】
本実施形態においては、積層光学素子20は、第1の光学材料としての熱可塑性樹脂22と、第2の光学材料としての紫外線硬化型樹脂24との界面に不連続な光学面としての微細な凹凸面28が形成された回折光学素子である。
【0035】
また、本実施形態においては、第1実施形態と同様に、積層する2つの光学材料である熱可塑性樹脂22及び紫外線硬化型樹脂24は、第1実施形態と同様に、いずれも溶融しやすい特性を持つ樹脂である。
【0036】
光学面の微細な凹凸面28としては、例えばブレーズ形状(鋸歯状の凹凸形状)やフレネルゾーンプレート形状(輪帯状の凹凸形状)等が考えられる。もしも、界面において、このような光学面の微細な形状パターンが溶融してしまうと、光学素子としての所望の光学機能を有さなくなる。
【0037】
すなわち、この場合には、微細な凹凸面28を回折光学素子として使うことができなくなる。
そこで、本実施形態では、積層光学素子20の微細な凹凸面28のうち、光学有効径Eを含む領域に薄膜26を形成することで、有機成分の移行を阻止した。
【0038】
本実施形態によれば、積層光学素子20は、薄膜26が形成されている領域Rの外周部には薄膜26が形成されていない領域がある。すなわち、薄膜26が形成されている領域Rでは、樹脂材料同士の有機成分の移行が阻止されると共に、薄膜26が形成されていない領域では、互いの有機成分が移行して樹脂が溶解し、密着強度が高くなる。
【0039】
本実施形態によれば、界面に不連続な光学面が形成されているために、樹脂材料同士の密着強度が低下しやすい積層光学素子であっても、高い密着強度が得られる。
[第3実施形態]
図6は、第3実施形態の積層光学素子30の拡大断面図である。
【0040】
本実施形態においては、積層光学素子30は、第1の光学材料としての熱可塑性樹脂32と、第2の光学材料としての紫外線硬化型樹脂34との界面に不連続な光学面としてのマイクロレンズ面38が形成されている。このマイクロレンズ面38には、多数の凸状の球面レンズ又は非球面レンズが2次元的に隣接して形成されている。
【0041】
本実施形態では、積層光学素子30のマイクロレンズ面38のうち、光学有効径Eを含む領域には薄膜36が形成されている。すなわち、多数の凸状のレンズが形成された光学有効径E内の界面上に、一様に薄膜36が形成されている。
【0042】
また、第1実施形態及び第2実施形態と同様に、薄膜36が形成されている領域Rの外周部には薄膜36が形成されていない領域がある。この領域では、有機成分の移行により樹脂が溶融している。この結果、この領域では、樹脂層が強固に密着される。一方、薄膜36が形成されている領域の界面では、樹脂材料同士の有機成分の移行が阻止されている。
【0043】
本実施形態によれば、薄膜36が形成されている領域Rでは、マイクロレンズ面としての所望の光学機能が確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】基材となる光学材料の表面に樹脂層を形成する工程を示す図である。
【図2】積層光学素子の断面を示す図である。
【図3】第1実施形態の積層光学素子を示す図である。
【図4】同上の要部拡大を示す図である。
【図5】第2実施形態の積層光学素子の拡大断面図である。
【図6】第3実施形態の積層光学素子の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0045】
10 積層光学素子
12 熱可塑性樹脂
14 紫外線硬化型樹脂
14’ 紫外線硬化型樹脂
16 薄膜
20 積層光学素子
22 熱可塑性樹脂
24 紫外線硬化型樹脂
26 薄膜
28 凹凸面
30 積層光学素子
32 熱可塑性樹脂
34 紫外線硬化型樹脂
36 薄膜
38 マイクロレンズ面
41 上型
41a 成形面
42 紫外線照射装置
42a 紫外線ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂よりなる第1の光学材料と樹脂よりなる第2の光学材料とが界面で積層された積層光学素子において、
前記界面には、薄膜が形成されている領域と形成されていない領域とが存在する
ことを特徴とする積層光学素子。
【請求項2】
前記薄膜が形成されている領域では、前記第1の光学材料と前記第2の光学材料の有機成分が移行せず、前記薄膜が形成されていない領域では、前記有機成分が移行していることを特徴とする請求項1に記載の積層光学素子。
【請求項3】
前記薄膜が形成されている領域は、前記積層光学素子の前記界面での光学有効径を含んでいることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層光学素子。
【請求項4】
前記積層光学素子の前記界面での光学有効径をE、前記第1の光学材料の外径をD、前記第2の光学材料の外径をH、前記薄膜が形成されている領域の径をR、とすると
D≧H>R>E
の関係を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層光学素子。
【請求項5】
前記薄膜が形成されていない領域での前記第1の光学材料と前記第2の光学材料の密着強度が、前記薄膜と前記第1の光学材料との密着強度、又は前記薄膜と前記第2の光学材料との密着強度の少なくとも一方よりも高いことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の積層光学素子。
【請求項6】
前記第1の光学材料は熱可塑性樹脂であり、前記第2の光学材料は紫外線硬化型樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の積層光学素子。
【請求項7】
前記第2の光学材料は重合性組成物で形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の積層光学素子。
【請求項8】
前記界面は非球面若しくは自由曲面である
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の積層光学素子。
【請求項9】
前記界面は不連続な光学面である
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の積層光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−192754(P2009−192754A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32536(P2008−32536)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】