積層圧電体とその積層圧電体を用いた積層圧電素子およびその積層圧電素子の製造方法
【課題】積層圧電素子の切断加工時において、外部電極の通電不良を生じない積層圧電体とその積層圧電体を用いた積層圧電素子およびその積層圧電素子の製造方法を提供する。
【解決手段】積層圧電体1は、n層(nは2以上の整数)の圧電体5とn−1層の内部電極2を交互に積層した積層圧電体1において、積層圧電体1の端部に、積層方向に形成した溝部8を有する。溝部8を積層圧電体1の端部に形成することによって、積層圧電体1の外周に外部電極を形成して積層圧電素子を作製する工程において、溝部8の内面にまで外部電極を形成させることができる。
【解決手段】積層圧電体1は、n層(nは2以上の整数)の圧電体5とn−1層の内部電極2を交互に積層した積層圧電体1において、積層圧電体1の端部に、積層方向に形成した溝部8を有する。溝部8を積層圧電体1の端部に形成することによって、積層圧電体1の外周に外部電極を形成して積層圧電素子を作製する工程において、溝部8の内面にまで外部電極を形成させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層圧電体および積層圧電素子に係り、さらに詳しくは、積層圧電素子を超音波探触子などに搭載するための加工工程における、外部電極を形成した後の板状の積層圧電素子からアレイ状などの積層圧電素子に切断する切断加工時に、外部電極の通電不良を生じない積層圧電体とその積層圧電体を用いた積層圧電素子およびその積層圧電素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から医用イメージングや産業用非破壊検査などに使用される超音波探触子に用いられる圧電素子には、高感度で広帯域のものが求められている。
ここで、圧電素子の高感度化などを実現する上で障害となる問題の1つに、圧電素子とそれに接続するケーブルやシステムなどとの間における電気信号の伝送損失の問題がある。
【0003】
このうち圧電素子とケーブルとの間におけるいわゆるマッチングの問題は、圧電素子とケーブルとの間のインピーダンスの違いに起因するものであり、かかる問題を解決するために特許文献1に記載されているような積層圧電素子が開発されている。この積層圧電素子は、圧電体と電極を積層させた構造になっていることから、特許文献2の背景技術欄や非特許文献1、2の要約欄にも記載されているように単層の圧電体よりもインピーダンスを下げることができ、高い静電容量を実現することができるからである。
【0004】
本願出願人においてもこの特性に着目し、特許文献3に示すようにアレイ状に加工した後に電気機械結合係数が安定して65%以上を示す積層圧電素子を開発している。
【0005】
また、非特許文献3においては、異なる厚みの圧電体を用いることによって、6dB帯域幅を送信時で12%、受信時で15%向上させることができる積層圧電素子が開示されている。
【0006】
さらに、非特許文献4においては、圧電体と有機高分子体とからなる、いわゆるコンポジット圧電体を積層した積層圧電素子が開示されている。なお、このコンポジット圧電体を積層した積層圧電素子は内部発熱を低減させ、送信パワーを向上させることができることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3280677号
【特許文献2】米国特許第6822374号
【特許文献3】特許第4175535号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】X.MingLu,T.L.Proulx,2005 IEEE Ultrasonics Symposium,P227-230
【非特許文献2】MihaiState,Andrea Grandoni,Lorenzo Spicci,Peter Kerkhof,Peter J. Brands,Frans N. vande Vosse,2009 IEEE International Ultrasonics Symposium Proceedings,P2704-2707
【非特許文献3】MihaiState,Andrea Grandoni,Lorenzo Spicci,Peter Kerkhof,Peter J. Brands,Frans N. vande Vosse,2009 IEEE International Ultrasonics Symposium Proceedings,P2730-2733
【非特許文献4】MichaelJ. Zipparo, Kristin F. Bing,Kathryn R. Nightingale,IEEE Transactionson Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control, vol. 57, no. 9,September 2010,P2076 - 2090
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、このような積層圧電素子は、特許文献2の図3〜8や特許文献3の図1〜5に示すように、圧電体と内部電極とを接着剤などを用いて積層した積層圧電体の外周に外部電極を形成することによって作製されるものである。
そして、このようにして作製した板状の積層圧電素子は、バッキング材や音響整合層が貼り付けられた後、アレイ状などに切断加工されることによって、医用イメージングや産業用非破壊検査などに使用される超音波探触子のセンシング部として利用される。
【0010】
しかし、近年これらの超音波探触子に使用される圧電素子は、画質向上のため、上記切断加工において切断間隔が約0.2mm程度以下のファインピッチ加工が要求されるようになっている。従って、構造が複雑な積層圧電素子においてかかる精密切断加工を行うと、外部電極の剥離や断線が発生し、通電不良が生じるという問題があった。
【0011】
本発明は、前記した問題点に鑑みてなされたものであって、積層圧電素子の切断加工時において、外部電極の通電不良を生じない積層圧電体とその積層圧電体を用いた積層圧電素子およびその積層圧電素子の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するために、本発明の請求項1に係る積層圧電体は、n層(nは2以上の整数)の圧電体とn−1層の内部電極を交互に積層した積層圧電体において、積層圧電体の端部に、積層方向に形成した溝部を有する構成にしてある。
【0013】
本発明の請求項2に係る積層圧電体は、溝部が、少なくとも前記端部における圧電体と内部電極との積層界面に形成されている構成にしてある。
【0014】
本発明の請求項3に係る積層圧電体は、溝部の形状が、積層界面と平行な断面の断面視において略凹状、略U字状、略V字状、略W字状のいずれかである構成にしてある。
【0015】
本発明の請求項4に係る積層圧電素子は、請求項1から請求項3の積層圧電体の端部において、少なくとも溝部の内面に、内部電極と連結し、かつ内部電極同士が電気的に並列に接続するように形成した外部電極を設けた構成にしてある。
【0016】
本発明の請求項5に係る積層圧電素子の製造方法は、n層(nは2以上の整数)の圧電体とn−1層の内部電極とが交互に積層された積層圧電体を作製し、その後積層圧電体の端部に外部電極を形成する工程を有する積層圧電素子の製造方法において、積層圧電体の端部の積層方向に溝部を形成する工程を有する構成にしてある。
【0017】
本発明の請求項6に係る積層圧電素子の製造方法は、n層(nは2以上の整数)の圧電体の表面に電極を形成する第1工程と、電極同士を電極間に接着層が存在するように接着することによって内部電極とする積層体を形成する第2工程と、電極同士を接着して得られる積層体の積層方向の端部に溝部を形成する第3工程と、溝部の内面に外部電極を形成する第4工程とを有する構成にしてある。
【0018】
次に、本発明の積層圧電体について以下に説明する。
【0019】
(積層圧電体)
本発明に用いられる積層圧電体は、圧電体と内部電極を交互に積層した構造になっている。
具体的には、図1に示すように最上層と最下層に圧電体が位置し、圧電体と内部電極とが交互に積層し、合成樹脂や熱融着による接着あるいは同時焼成をすることなどによって作製された構造となっている。
【0020】
さらに内部電極については、圧電体の積層面に無電極部が現れるように積層される。このような配置にて内部電極を積層することによって、後記する積層圧電体の端部に外部電極を形成した際、内部電極が電気的に並列に接続した積層圧電素子を作製することができるのである。
また、本発明の積層圧電素子を使用する超音波探触子の設計や、該超音波探触子の製造時の加工性などに応じて、内部電極および外部電極の構造が決定される。例えば、図1に示すように内部電極の無電極部を、積層圧電体の積層方向における断面視において互い違いに現れるように積層することなどが挙げられる。
【0021】
次に、本発明の積層圧電体を構成する主要部品を説明する。
【0022】
本発明の積層圧電体に用いられる圧電体は、外部から加えられた機械エネルギーを電気エネルギーに変換したり、逆に印加された電気エネルギーを機械エネルギーに変換したりすることができるものであれば、特に材質、種類には限定されない。そして例えば、チタン酸バリウム系セラミックス、チタン酸鉛系セラミックス、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系セラミックス、ニオブ酸鉛系セラミックス、ニオブ酸リチウム単結晶、チタン酸亜鉛酸ニオブ酸鉛(PZNT)単結晶、マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛(PMNT)単結晶、チタン酸ビスマス系セラミックス、メタニオブ酸鉛系セラミックスなどを用いることができる。
【0023】
なお、本発明の積層圧電体に用いられる圧電体には、配置された柱状の圧電セラミックスの間に有機高分子体が充填された、いわゆるコンポジット圧電体を用いることもできる。さらに、配置された柱状の圧電セラミックスの間に充填される有機高分子体については、特許4222467号において本願出願人が発明したような、気泡が分散された有機高分子体を用いることもできる。
【0024】
本発明の積層圧電体に用いられる内部電極としては、金、白金、ニッケル、銀、パラジウム、銅などの金属が挙げられる。また、本発明の積層圧電体における内部電極の形成方法としては、スパッタ法、蒸着法、電解メッキ法、無電解メッキ法などが挙げられる。そして、この中でもコスト面ならびに電極密着性の観点からニッケル、銅などによる無電解メッキ加工法を行うことが好ましい。さらに、無電解メッキ加工を行った後に、必要に応じ、金、銅などを用いた電解メッキなどによる電極形成加工を行うこともできる。
【0025】
圧電体と内部電極の積層化の方法としては、従来からの公知の方法を採用することができる。例えば、まず図2に示すように、積層面に電極を形成した圧電体を複数作製しておき、各圧電体の電極が形成された面同士をエポキシ樹脂系接着剤などによって積層することによって作製する方法が挙げられる。
また図3に示すように、圧電体の積層面の一方に電極の材料である銀−パラジウム合金ペースト、白金ペースト、銅ペーストなどを塗布して積層した後、焼成を行うことで内部電極の形成と積層化を同時に行って作製する方法も挙げることができる。
【0026】
なお、接着剤によって積層化を行う場合には使用した接着剤が積層後には接着層として残ることになる。この接着層の厚さについては特に限定されるものではないが、1μm以上であれば、バッキング材や音響整合層を貼り付けた後にアレイ状などへ切断加工する際に、積層した電極が層間において剥離することをより有効に防止できることから好適である。
【0027】
そして本発明の積層圧電体は、圧電体と内部電極を積層化した後、その端部において積層圧電体の積層方向に溝部を設けることを特徴とする。かかる溝部を積層圧電体の端部に形成することによって、後記する積層圧電体の外周に外部電極を形成して積層圧電素子を作製する工程において、溝部の内面にまで外部電極を形成させることができる。
その結果、積層圧電素子にバッキング材や音響整合層を貼り付けた後、アレイ状などへ切断加工する工程において、切断面近傍の外部電極には切断に伴う欠陥、断線、剥離などが発生した場合でも、該欠陥などが溝部の内面にまで進展することが抑えられるため、溝部の内面は外部電極が形成された状態を維持することができ、よって外部電極の通電不良を防止することができるのである。
【0028】
また、溝部とすれば、幅や深さの自由度が広くなるだけでなく、後記する外部電極を形成する際にも溝の内面に容易に外部電極を形成することができるので好適である。
【0029】
なお、積層圧電体の端部における溝部の形成位置については、少なくとも圧電体と内部電極との積層界面に形成されていれば、積層圧電体の最上層から最下層にまで向かって延びるような溝を設けるような必要はない。但し、後工程であるアレイ状などに切断加工する際の切断部分には溝部を形成しないように留意する必要がある。その理由は、仮に切断加工する際の切断部分に溝部を形成してしまうと、上記したように積層圧電素子にバッキング材や音響整合層を貼り付けた後、アレイ状などへ切断加工する工程において、切断面近傍の外部電極に切断に伴う欠陥、断線、剥離などが発生した際に、溝部に形成した外部電極も併せて欠陥、断線、剥離などを起こしてしまうからである。
【0030】
溝部の具体的な形成方法としては特に限定されないが、圧電体と内部電極とを交互に積層した後に、ダイシングマシーンなどによって、所定の位置に切り込みを入れるように切削加工を行うと、積層圧電体の最上層から最下層にまで向かって延びるような溝部を簡易に形成できるので生産性などの面から好適である。
【0031】
溝部の形状としては、図1おいては積層界面と平行な断面視とした場合において略凹状の形状をしているがこれに限定されるものではなく、積層界面と平行な断面の断面視において略U字状や略V字状や略W字状など各種の形状にすることもできる。
また、溝部の深さや幅についても、実際に使用する積層圧電素子の寸法や積層状態、さらに内部電極の配置状態に応じて適宜決定することができる。
【0032】
さらに積層圧電体の端部においては、溝部に変えて貫通孔を設けることもできる。このような貫通孔を設けることによっても、後記する積層圧電体の外周に外部電極を形成して積層圧電素子を作製する工程において、貫通孔の内面にまで外部電極を形成させることができる。
そして、その後のアレイ状などへの切断加工工程時において、切断面近傍の外部電極においては切断に伴う欠陥、断線、剥離などが発生した場合でも、貫通孔の内面においては外部電極が形成された状態を維持することができ、よって外部電極の通電不良を防止することができる。
【0033】
なお、貫通孔の形状については、積層圧電体の最上層から最下層までを貫通するものであれば特に限定されない。例えば、円筒状や角柱状や円錐状など各種の形状にすることができる。
【0034】
また、貫通孔の深さや幅についても、実際に使用する積層圧電素子の寸法や積層状態、さらに内部電極の配置状態に応じて適宜決定することができる。
【0035】
次に、本発明の積層圧電素子について以下に説明する。
【0036】
(積層圧電素子)
本発明に用いられる積層圧電素子は、前記した端部に溝部や貫通孔を形成した積層圧電体の外周に外部電極を形成することによって作製される。
具体的には図4に示す積層圧電素子の積層方向における断面視のように、積層圧電体の一方の端部に現れる内部電極と他方の端部に現れる内部電極とに、別々の外部電極を形成することによって作製される。なお、この際には、積層圧電素子の最上面および最下面だけでなく、前記した溝部や貫通孔の内面についても外部電極が形成される。そしてこのような形態によって外部電極を形成することで内部電極同士が電気的に並列に接続した積層圧電素子が作製される。
【0037】
次に、本発明の積層圧電素子の製造方法について以下に説明する。
【0038】
(積層圧電素子の製造方法)
本発明の積層圧電素子の製造方法は、積層圧電体の端部において積層方向に溝部や貫通孔を形成する工程を有することを特徴とする。かかる工程を有することによって、板状の積層圧電素子をアレイ状などに切断加工する場合でも、外部電極の通電不良を防止した積層圧電素子を作製することができるのである。
【0039】
なお、積層圧電体の端部において積層方向に溝部や貫通孔を形成する工程については、外部電極を形成する工程の前であれば特に順序は限定されない。例えば、前記したように圧電体と内部電極との積層化の後に行ってもよいし、予め溝部や貫通孔を形成する工程を行い、その後に積層化を行ってもよい。
【0040】
さらに、図2のように積層面に電極を形成した圧電体を複数作製しておき、各圧電体の電極が形成された面同士を接着して積層することで積層圧電体を作製する場合には、主に以下の4つの工程を経て製造することもできる。
第1工程:n層(nは2以上の整数)の圧電体の表面に電極を形成する工程、第2工程:電極同士を電極間に接着層が存在するように接着することによって内部電極とする積層体を形成する工程、第3工程:電極同士を接着して得られる積層体の積層方向の端部に溝部を形成する工程、第4工程:溝部の内面に外部電極を形成する工程。
【発明の効果】
【0041】
本発明の積層圧電体およびその積層圧電体を用いた積層圧電素子によれば、積層圧電体の端部に溝部または貫通孔を設け、その内面に内部電極を電気的に並列に接続するための外部電極を設けているので、板状の積層圧電素子をアレイ状などに切断加工する場合における、積層界面部分の外部電極の欠陥、断線、剥離を有効に防止し、よって外部電極の通電不良を防止することができる。
【0042】
また、溝部の形状を積層界面と平行な断面の断面視において略凹状、略U字状、略V字状、略W字状にすることで、容易に外部電極の通電不良を防止することができる積層圧電体およびその積層圧電体を用いた積層圧電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の積層圧電体を示す模式図である。
【図2】本発明の積層圧電体における圧電体と内部電極の積層方法を示す断面模式図である。
【図3】本発明の積層圧電体における圧電体と内部電極の別の積層方法を示す断面模式図である。
【図4】本発明の積層圧電素子を示す模式図である。
【図5】本発明の積層圧電素子における第1の実施形態の製造工程を示す図である。
【図6】溝部を形成し、その後外部電極を形成した積層圧電素子の端部の側面視における顕微鏡写真である。
【図7】本発明の積層圧電素子における第2の実施形態の製造工程を示す図である。
【図8】本発明の積層圧電素子における第3の実施形態の製造工程を示す図である。
【図9】本発明の積層圧電素子における第4の実施形態の製造工程を示す図である。
【図10】実施例1の積層圧電素子から作製したアレイ状トランスデューサ素子の時間信号波形である。
【図11】実施例1の積層圧電素子から作製したアレイ状トランスデューサ素子のFFTスペクトルである。
【図12】従来の積層圧電体を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
次に、本発明の積層圧電体とその積層圧電体を用いた積層圧電素子を図に基づいて詳しく説明する。なお、以下の実施形態はいずれも圧電体が3層の積層圧電素子についてのものであるがこれに限定されるものではない。
【0045】
(積層圧電素子の第1の実施形態)
まず、本発明の積層圧電素子における第1の実施形態を説明する。図5は本発明の積層圧電素子における第1の実施形態の製造工程を示す図である。以下、図5に基づいて第1の実施形態の積層圧電素子を説明する。
【0046】
まず、図5(a)に示すようにチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)セラミックス粉末などの材料を板状に成形、焼成した後、厚み加工、外形切断加工を行った、所定の形状の圧電体5を用意する。
【0047】
次に、図5(b)に示すように圧電体5の積層面6にニッケルによる無電解メッキ加工および金を用いた電解メッキ加工を行うことによって内部電極2を形成する。
ここで各層の内部電極2は、まずは積層面6全面に内部電極2を形成した後、図5(b)に示すように不要な部分を除去することによって、面積が広い内部電極2aと面積が狭い内部電極2bの2箇所を設け、かつこれら面積が広い内部電極2aと面積が狭い内部電極2bが、積層方向における断面視において互い違いに現れるように形成する。
なお、内部電極が不要な部分を予めマスキングして上記メッキ加工を積層面6全面に施した後にマスキングを除去することによっても、同様の内部電極2a、2bを形成することができる。
【0048】
次に、図5(c)に示すように、内部電極2同士を接着剤などで接着することによって積層圧電体1を作製する。
【0049】
次に、図5(d)に示すように、積層圧電体1の端部7にダイシングマシーンなどによって所定の位置に切り込みを入れるように溝部8を形成する。
ここで、図5(d)では、各端部7に6箇所の溝部8が設けられているが、溝部8の数はこれに限定されるものではなく、実際の製造においては、要求される超音波探触子の性能に従って積層圧電素子のアレイ分割数が設計され、その分割数に応じて64箇所、96箇所、128箇所など多数の溝部8が設けられることになる。
【0050】
また、図6において、実際に溝部を形成し、その後外部電極を形成した積層圧電素子の端部の側面視における顕微鏡写真を示す。なお、図6中の点線は、外部電極を形成して積層圧電素子とし、さらにバッキング材や音響整合層を貼り付けた後に実際にアレイ状に加工切断する際の切断位置9である。
従って、図6からも、段落[0029]に記載したように溝部8はかかる切断位置9を避けるようにして設けなければならないことがわかる。
【0051】
次に、図5(e)に示すように溝部8を設けた積層圧電体1の外周にニッケルによる無電解メッキ加工および金を用いた電解メッキ加工を行うことによって外部電極10を形成する。
【0052】
次に、図5(f)に示すように積層圧電体1の外周に形成された外部電極10の不要な部分を除去することによって、内部電極2aと内部電極2bが電気的に分離された状態でそれぞれ外部電極10aと外部電極10bに連結する。
最後に、上記加工を行った外部電極10aと外部電極10bに直流電圧を印加する分極処理を行うことによって、第1の実施形態の積層圧電素子11を作製する。なお、本実施形態においては積層後に分極処理を行ったが、接着剤などを用いて積層する場合においては、積層前に分極処理を行うことができる。そしてこの場合には、任意の分極方向の圧電体からなる積層圧電素子を得ることができる。
【0053】
(積層圧電素子の第2の実施形態)
次に、本発明の積層圧電素子における第2の実施形態を説明する。図7は本発明の積層圧電素子における第2の実施形態の製造工程を示す図である。以下、図7に基づいて第2の実施形態の積層圧電素子を説明する。
【0054】
まず、図7(a)に示すようにチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)セラミックス粉末やバインダーなどの材料を混練して板状に成形したグリーンシート12を用意する。ここで、この第2の実施形態の積層圧電素子については、後記するようにグリーンシートと塗布した内部電極ペーストとを同時に焼成することによって積層圧電体を形成することになるが、同時焼成を行っただけでは最上層と最下層の圧電体における面精度がでない。そこで、本実施形態においては、犠牲層となるグリーンシート12aを用意し、同時焼成を行った後、かかるグリーンシート12aを研磨除去することによって、最上層と最下層の圧電体の面精度を得るようにしている。
【0055】
次に、図7(b)に示すようにグリーンシート12の一方の積層面6に銀−パラジウム合金ペースト、白金ペースト、銅ペーストなどの内部電極ペースト4をスクリーン印刷法などによって塗装する。
具体的には、予め内部電極を形成しない部分に乳剤を固着させた印刷製版(図示せず)を用いて内部電極ペースト4が塗装される。このような手法を用いて内部電極ペースト4が塗装されることによって、面積が広い内部電極ペースト4aと面積が狭い内部電極ペースト4bの2箇所が設けられ、かつ積層方向における断面視においてこれら面積が広い内部電極ペースト4aと面積が狭い内部電極ペースト4bが互い違いに現れるように形成される。
【0056】
次に、図7(c)に示すように一のグリーンシート12の内部電極ペースト4が塗装された積層面6と他のグリーンシート12の内部電極ペーストが塗装されていない積層面6同士を積層する。また、犠牲層のグリーンシート12aについても積層する。
【0057】
次に、図7(d)に示すように積層されたグリーンシート12と内部電極ペースト4を同時に焼成する。
【0058】
次に、図7(e)に示すように犠牲層の部分を研磨除去することによって、積層圧電体1を作製する。
【0059】
次に、図7(f)に示すように積層圧電体1の端部7に、ダイシングマシーンなどによって所定の位置に切り込みを入れるように溝部8を形成する。
【0060】
次に、図7(g)に示すように溝部8を設けた積層圧電体1の外周にニッケルによる無電解メッキ加工および金を用いた電解メッキ加工を行うことによって外部電極10を形成する。
【0061】
次に、図7(h)に示すように積層圧電体1の外周に形成された外部電極10の不要な部分を除去することによって、内部電極2aと内部電極2bが電気的に分離された状態でそれぞれ外部電極10aと外部電極10bに連結する。
最後に、上記加工を行った外部電極10aと外部電極10bに直流電圧を印加する分極処理を行うことによって、第2の実施形態の積層圧電素子11を作製する。
【0062】
(積層圧電素子の第3の実施形態)
次に、本発明の積層圧電素子における第3の実施形態を説明する。図8は本発明の積層圧電素子における第3の実施形態の製造工程を示す図である。以下、図8に基づいて第3の実施形態の積層圧電素子を説明する。
本発明の第3の実施形態の積層圧電素子11は、図8(d)に示すように、図5(d)に示す第1の実施形態の溝部8の形成工程に替えて、積層圧電体1の端部7に機械加工(メカニカルドリリング)およびレーザー加工によって貫通孔13を設けた以外は第1の実施形態の製造工程と同じようにして作製するものである。
【0063】
(積層圧電素子の第4の実施形態)
次に、本発明の積層圧電素子における第4の実施形態を説明する。図9は本発明の積層圧電素子における第4の実施形態の製造工程を示す図である。以下、図9に基づいて第4の実施形態の積層圧電素子を説明する。
【0064】
まず、図9(a)〜(c)に示すように、所定形状の圧電体5の積層面6に内部電極2を形成した後、内部電極2の不要部分の除去作業を行うことなくそのままの状態で積層して積層圧電体1を作製する。
【0065】
次に、図9(d)に示すように、ダイシングマシーンなどによって積層圧電体1の最上層と最下層から内部電極の不要な部分を切削加工することによって圧電体とともに内部電極の不要な部分を切削除去する。そして、切削除去した部分にエポキシ樹脂等の絶縁樹脂14を充填することにより、図5(c)と同様に、面積が広い内部電極2aと面積が狭い内部電極2bの2箇所を設け、かつこれら面積が広い内部電極2aと面積が狭い内部電極2bが、積層方向における断面視において互い違いに現れるように形成する。
なお、この切削除去の深さについては、積層圧電体1の最上層と最下層から内部電極の不要な部分が除去されることが必要であるが、積層圧電素子となった際の不要振動を低減させるためには、図9(d)に示すように、次層の内部電極を切削しない範囲で、できるだけ深く切削除去をすることが好ましい。
【0066】
次に、図9(e)、(f)に示すように、第1の実施形態における図5(d)、(e)と同様の方法によって、積層圧電体1の端部7への溝部8の形成、積層圧電体1の外周への外部電極10の形成を行う。
【0067】
次に、図9(g)に示すように、積層圧電体1の外周に形成された外部電極10の不要な部分の除去を行う。ここで、本実施形態では、外部電極の不要部として、積層圧電素子の平面視における端部まで除去した構造にしてあるが、このような外部電極の形態は、段落[0020]に記載したように、得ようとする超音波探触子の設計や、該超音波探触子の製造時の加工性などに応じて選択されるものである。
【0068】
最後に図9(h)に示すように、上記加工を行った外部電極10に直流電圧を印加する分極処理を行うことによって、第4の実施形態の積層圧電素子11を作製する。
【0069】
次に、本発明の積層圧電体とその積層圧電体を用いた積層圧電素子を実施例に基づいて詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
まず、ソフト系のチタン酸ジルコン酸鉛系セラミックス(テイカ株式会社製:L−155N、電気機械結合係数k33:77%、比誘電率:5700、キュリー温度:155℃)をダイシングマシーンおよび両面研磨機にて加工して、長さ23mm、幅14mm、厚み0.17mmの寸法の圧電体を得た。
【0071】
次に、得られた圧電体に内部電極を形成する目的で、圧電体の積層面に厚さ0.5μmのニッケル無電解メッキを施し、さらに厚さ0.5μmの金電解メッキを施した。その後、内部電極の不要な部分をダイシングマシーンによって切削除去した。そして内部電極同士をエポキシ系接着剤で接着することによって、圧電体層の数が3層の23mm×14mm×0.51mmの積層圧電体を作製した。
【0072】
次に、ダイシングマシーンにて積層圧電体の両側端部に0.17mmの間隔で切り込みを入れる切削加工を行い、幅0.03mm、深さ0.05mmの溝部128個をそれぞれ形成した。
【0073】
次に、溝部を設けた積層圧電体の外周に、厚さ0.5μmのニッケル無電解メッキを施し、さらに厚さ0.5μmの金電解メッキを施すことによって外部電極を形成した。その後、外部電極の不要な部分をダイシングマシーンによって切削除去した。
【0074】
最後に、加工を行った後の積層圧電素子の両外部電極間に、直流電圧を印加して分極処理することによって、実施例1の積層圧電素子を作製した。
【0075】
(実施例2)
まず、ハード系のチタン酸ジルコン酸鉛系セラミックス粉末(テイカ株式会社製:H−8、電気機械結合係数k33:70%、機械的品質係数:2500、キュリー温度:320℃)とバインダーと、可塑剤と、有機溶媒とを混合して得られたスラリーをフドクターブレード法により成形することで、厚み0.21mmの寸法のグリーンシートを得た。
【0076】
次に、グリーンシートの一方の積層面に銀−パラジウム合金ペーストをスクリーン印刷法により2mg/cm2パターン塗布した。
次に、グリーンシートの銀−パラジウム合金ペーストが塗布された積層面と他のグリーンシートの銀−パラジウム合金ペーストが塗布されていない積層面同士を積層し、その上に、銀−パラジウム合金ペーストを塗布していないグリーンシート1枚を積層し、さらに、犠牲層として、銀−パラジウム合金ペーストを塗布していないグリーンシートを上下に1枚ずつを積層し、熱圧着したものを、脱脂後、焼成した。その後、上下の犠牲層を均等に研磨除去することによって、圧電体層の数が3層の23mm×14mm×0.51mmの積層圧電体を作製した。
そして、その後の工程は実施例1と同様の工程を行うことによって、実施例2の積層圧電素子を作製した。
【0077】
(実施例3)
積層圧電体の端部に機械加工によって、直径0.06mmの貫通孔を形成した以外は実施例1と同様の工程を行うことによって、実施例3の積層圧電素子を作製した。
【0078】
(実施例4)
まず、実施例1と同様の工程を行うことによって、長さ60mm、幅16mm、厚み0.8mmの寸法の板状の圧電体を得た。
【0079】
次に、圧電体の一方の辺に平行にダイシングマシーンにて30μmの幅のブレードを用いて100μmピッチで深さが0.60mmの溝を形成し、70μm×60mm×0.6mmの角柱が複数本直立した圧電体を作製した。
【0080】
次に、この圧電体に形成した溝に、ノルマルヘキサンおよびノルマルペンタンが封入されたアクリロニトリル系共重合樹脂を充填し、160℃で5分間熱処理した後、両面研磨機にて有機高分子体と圧電体の過剰分を取り除いて厚み調整を行うことによって、内部に気泡が分散したアクリロニトリル系共重合樹脂の固化体である有機高分子体が充填された、長さ23mm、幅14mm、厚み0.17mmの寸法のコンポジット圧電体を作製した。
そして、その後の工程は実施例1と同様の工程を行うことによって、実施例4の積層圧電素子を作製した。
【0081】
(実施例5)
実施例1と同様にして、ソフト系のチタン酸ジルコン酸鉛系セラミックス(テイカ株式会社製:L−155N、電気機械結合係数k33:77%、比誘電率:5700、キュリー温度:155℃)をダイシングマシーンおよび両面研磨機にて加工して、長さ23mm、幅14mm、厚み0.17mmの寸法の圧電体を得た。
【0082】
次に、得られた圧電体に内部電極を形成する目的で、圧電体の積層面に厚さ0.5μmのニッケル無電解メッキを施し、さらに厚さ0.5μmの金電解メッキを施した。
【0083】
次に、積層面同士をエポキシ系接着剤で接着することによって、圧電体層の数が3層の23mm×14mm×0.51mmの積層圧電体を作製した。
【0084】
次に、内部電極に無電極部を形成する目的で、積層圧電体の両側端部から0.4mmの位置に、ダイシングマシーンを用いて積層方向に向かって切削除去することによって、幅0.2mm、深さ0.32mmの溝を形成し、かかる溝にエポキシ接着剤を充填した。
【0085】
次に、ダイシングマシーンにて積層圧電体の両側端部に0.17mmの間隔で切り込みを入れる切削加工を行い、幅0.03mm、深さ0.05mmの溝部128個をそれぞれ形成した。
【0086】
次に、溝部を設けた積層圧電体の外周に、厚さ0.5μmのニッケル無電解メッキを施し、さらに厚さ0.5μmの金電解メッキを施すことによって外部電極を形成した。その後、外部電極の不要な部分をダイシングマシーンによって切削除去した。
【0087】
最後に、加工を行った後の積層圧電素子の両外部電極間に、直流電圧を印加して分極処理することによって、実施例5の積層圧電素子を作製した。
【0088】
(比較例)
実施例1の溝部を形成する工程を省略した以外は、実施例1と同様の工程を行うことによって、比較例の積層圧電素子を作製した。
【0089】
(不良率の調査)
次に、前記によって得られた実施例1〜5および比較例で得られた積層圧電素子について超音波放射面に音響整合層を、また、超音波放射面と反対の面にバッキング材を取り付け、さらに配線部材を取り付けた。その後ダイシングマシーンを用い、刃厚0.03mmのブレードを3mm/secの送り速度で送ることにより、各溝部の間を0.17mmのピッチで切断して128個のアレイ状トランスデューサ素子を作製した。
そして、得られた各アレイ状トランスデューサ素子の静電容量の測定を行い、断線による静電容量異常が認められたトランスデューサ素子の数(不良数)を調査した。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
その結果、実施例1〜5の積層圧電素子については外部電極の不良率が3%以下であったのに対し、積層圧電素子の端部に溝部や貫通孔を設けていない比較例の積層圧電素子については外部電極の不良率が約26%と実施例1〜5の積層圧電素子に比べ著しく高くなった。
このことからも、本発明の積層圧電体とその積層圧電体を用いた積層圧電素子およびその積層圧電素子の製造方法は、外部電極の不良防止に有効であることがわかった。
【0092】
(時間信号波形とFFTスペクトルの計測)
さらに、実施例1において得られたアレイ状トランスデューサ素子群に、音響レンズを貼り付け、その中でも断線による静電容量異常が認められなかった素子の1つについて、パナメトリクス社製パルサーレシーバー(型式5800PR)により単パルスを印加し、時間信号波形とFFTスペクトルを計測した。
図10に時間信号波形の計測結果を、図11にFFTスペクトルの計測結果をそれぞれ示す。その結果、peak to peak電圧は79.4mV、中心周波数は2.49MHz、6dB帯域幅は88.9%であった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の積層圧電体とその積層圧電体を用いた積層圧電素子およびその積層圧電素子の製造方法は、医療用超音波機器、空中超音波機器、水中超音波機器、固体超音波機器、その他の超音波機器などのセンシング材料に用いることができる。
【符号の説明】
【0094】
1 積層圧電体
2 内部電極
2a 内部電極
2b 内部電極
3 接着層
4 内部電極ペースト
4a 内部電極ペースト
4b 内部電極ペースト
5 圧電体
6 積層面
7 端部
8 溝部
9 切断位置
10 外部電極
10a 外部電極
10b 外部電極
11 積層圧電素子
12 グリーンシート
12a グリーンシート
13 貫通孔
14 絶縁樹脂
【技術分野】
【0001】
本発明は積層圧電体および積層圧電素子に係り、さらに詳しくは、積層圧電素子を超音波探触子などに搭載するための加工工程における、外部電極を形成した後の板状の積層圧電素子からアレイ状などの積層圧電素子に切断する切断加工時に、外部電極の通電不良を生じない積層圧電体とその積層圧電体を用いた積層圧電素子およびその積層圧電素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から医用イメージングや産業用非破壊検査などに使用される超音波探触子に用いられる圧電素子には、高感度で広帯域のものが求められている。
ここで、圧電素子の高感度化などを実現する上で障害となる問題の1つに、圧電素子とそれに接続するケーブルやシステムなどとの間における電気信号の伝送損失の問題がある。
【0003】
このうち圧電素子とケーブルとの間におけるいわゆるマッチングの問題は、圧電素子とケーブルとの間のインピーダンスの違いに起因するものであり、かかる問題を解決するために特許文献1に記載されているような積層圧電素子が開発されている。この積層圧電素子は、圧電体と電極を積層させた構造になっていることから、特許文献2の背景技術欄や非特許文献1、2の要約欄にも記載されているように単層の圧電体よりもインピーダンスを下げることができ、高い静電容量を実現することができるからである。
【0004】
本願出願人においてもこの特性に着目し、特許文献3に示すようにアレイ状に加工した後に電気機械結合係数が安定して65%以上を示す積層圧電素子を開発している。
【0005】
また、非特許文献3においては、異なる厚みの圧電体を用いることによって、6dB帯域幅を送信時で12%、受信時で15%向上させることができる積層圧電素子が開示されている。
【0006】
さらに、非特許文献4においては、圧電体と有機高分子体とからなる、いわゆるコンポジット圧電体を積層した積層圧電素子が開示されている。なお、このコンポジット圧電体を積層した積層圧電素子は内部発熱を低減させ、送信パワーを向上させることができることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3280677号
【特許文献2】米国特許第6822374号
【特許文献3】特許第4175535号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】X.MingLu,T.L.Proulx,2005 IEEE Ultrasonics Symposium,P227-230
【非特許文献2】MihaiState,Andrea Grandoni,Lorenzo Spicci,Peter Kerkhof,Peter J. Brands,Frans N. vande Vosse,2009 IEEE International Ultrasonics Symposium Proceedings,P2704-2707
【非特許文献3】MihaiState,Andrea Grandoni,Lorenzo Spicci,Peter Kerkhof,Peter J. Brands,Frans N. vande Vosse,2009 IEEE International Ultrasonics Symposium Proceedings,P2730-2733
【非特許文献4】MichaelJ. Zipparo, Kristin F. Bing,Kathryn R. Nightingale,IEEE Transactionson Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control, vol. 57, no. 9,September 2010,P2076 - 2090
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、このような積層圧電素子は、特許文献2の図3〜8や特許文献3の図1〜5に示すように、圧電体と内部電極とを接着剤などを用いて積層した積層圧電体の外周に外部電極を形成することによって作製されるものである。
そして、このようにして作製した板状の積層圧電素子は、バッキング材や音響整合層が貼り付けられた後、アレイ状などに切断加工されることによって、医用イメージングや産業用非破壊検査などに使用される超音波探触子のセンシング部として利用される。
【0010】
しかし、近年これらの超音波探触子に使用される圧電素子は、画質向上のため、上記切断加工において切断間隔が約0.2mm程度以下のファインピッチ加工が要求されるようになっている。従って、構造が複雑な積層圧電素子においてかかる精密切断加工を行うと、外部電極の剥離や断線が発生し、通電不良が生じるという問題があった。
【0011】
本発明は、前記した問題点に鑑みてなされたものであって、積層圧電素子の切断加工時において、外部電極の通電不良を生じない積層圧電体とその積層圧電体を用いた積層圧電素子およびその積層圧電素子の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するために、本発明の請求項1に係る積層圧電体は、n層(nは2以上の整数)の圧電体とn−1層の内部電極を交互に積層した積層圧電体において、積層圧電体の端部に、積層方向に形成した溝部を有する構成にしてある。
【0013】
本発明の請求項2に係る積層圧電体は、溝部が、少なくとも前記端部における圧電体と内部電極との積層界面に形成されている構成にしてある。
【0014】
本発明の請求項3に係る積層圧電体は、溝部の形状が、積層界面と平行な断面の断面視において略凹状、略U字状、略V字状、略W字状のいずれかである構成にしてある。
【0015】
本発明の請求項4に係る積層圧電素子は、請求項1から請求項3の積層圧電体の端部において、少なくとも溝部の内面に、内部電極と連結し、かつ内部電極同士が電気的に並列に接続するように形成した外部電極を設けた構成にしてある。
【0016】
本発明の請求項5に係る積層圧電素子の製造方法は、n層(nは2以上の整数)の圧電体とn−1層の内部電極とが交互に積層された積層圧電体を作製し、その後積層圧電体の端部に外部電極を形成する工程を有する積層圧電素子の製造方法において、積層圧電体の端部の積層方向に溝部を形成する工程を有する構成にしてある。
【0017】
本発明の請求項6に係る積層圧電素子の製造方法は、n層(nは2以上の整数)の圧電体の表面に電極を形成する第1工程と、電極同士を電極間に接着層が存在するように接着することによって内部電極とする積層体を形成する第2工程と、電極同士を接着して得られる積層体の積層方向の端部に溝部を形成する第3工程と、溝部の内面に外部電極を形成する第4工程とを有する構成にしてある。
【0018】
次に、本発明の積層圧電体について以下に説明する。
【0019】
(積層圧電体)
本発明に用いられる積層圧電体は、圧電体と内部電極を交互に積層した構造になっている。
具体的には、図1に示すように最上層と最下層に圧電体が位置し、圧電体と内部電極とが交互に積層し、合成樹脂や熱融着による接着あるいは同時焼成をすることなどによって作製された構造となっている。
【0020】
さらに内部電極については、圧電体の積層面に無電極部が現れるように積層される。このような配置にて内部電極を積層することによって、後記する積層圧電体の端部に外部電極を形成した際、内部電極が電気的に並列に接続した積層圧電素子を作製することができるのである。
また、本発明の積層圧電素子を使用する超音波探触子の設計や、該超音波探触子の製造時の加工性などに応じて、内部電極および外部電極の構造が決定される。例えば、図1に示すように内部電極の無電極部を、積層圧電体の積層方向における断面視において互い違いに現れるように積層することなどが挙げられる。
【0021】
次に、本発明の積層圧電体を構成する主要部品を説明する。
【0022】
本発明の積層圧電体に用いられる圧電体は、外部から加えられた機械エネルギーを電気エネルギーに変換したり、逆に印加された電気エネルギーを機械エネルギーに変換したりすることができるものであれば、特に材質、種類には限定されない。そして例えば、チタン酸バリウム系セラミックス、チタン酸鉛系セラミックス、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系セラミックス、ニオブ酸鉛系セラミックス、ニオブ酸リチウム単結晶、チタン酸亜鉛酸ニオブ酸鉛(PZNT)単結晶、マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛(PMNT)単結晶、チタン酸ビスマス系セラミックス、メタニオブ酸鉛系セラミックスなどを用いることができる。
【0023】
なお、本発明の積層圧電体に用いられる圧電体には、配置された柱状の圧電セラミックスの間に有機高分子体が充填された、いわゆるコンポジット圧電体を用いることもできる。さらに、配置された柱状の圧電セラミックスの間に充填される有機高分子体については、特許4222467号において本願出願人が発明したような、気泡が分散された有機高分子体を用いることもできる。
【0024】
本発明の積層圧電体に用いられる内部電極としては、金、白金、ニッケル、銀、パラジウム、銅などの金属が挙げられる。また、本発明の積層圧電体における内部電極の形成方法としては、スパッタ法、蒸着法、電解メッキ法、無電解メッキ法などが挙げられる。そして、この中でもコスト面ならびに電極密着性の観点からニッケル、銅などによる無電解メッキ加工法を行うことが好ましい。さらに、無電解メッキ加工を行った後に、必要に応じ、金、銅などを用いた電解メッキなどによる電極形成加工を行うこともできる。
【0025】
圧電体と内部電極の積層化の方法としては、従来からの公知の方法を採用することができる。例えば、まず図2に示すように、積層面に電極を形成した圧電体を複数作製しておき、各圧電体の電極が形成された面同士をエポキシ樹脂系接着剤などによって積層することによって作製する方法が挙げられる。
また図3に示すように、圧電体の積層面の一方に電極の材料である銀−パラジウム合金ペースト、白金ペースト、銅ペーストなどを塗布して積層した後、焼成を行うことで内部電極の形成と積層化を同時に行って作製する方法も挙げることができる。
【0026】
なお、接着剤によって積層化を行う場合には使用した接着剤が積層後には接着層として残ることになる。この接着層の厚さについては特に限定されるものではないが、1μm以上であれば、バッキング材や音響整合層を貼り付けた後にアレイ状などへ切断加工する際に、積層した電極が層間において剥離することをより有効に防止できることから好適である。
【0027】
そして本発明の積層圧電体は、圧電体と内部電極を積層化した後、その端部において積層圧電体の積層方向に溝部を設けることを特徴とする。かかる溝部を積層圧電体の端部に形成することによって、後記する積層圧電体の外周に外部電極を形成して積層圧電素子を作製する工程において、溝部の内面にまで外部電極を形成させることができる。
その結果、積層圧電素子にバッキング材や音響整合層を貼り付けた後、アレイ状などへ切断加工する工程において、切断面近傍の外部電極には切断に伴う欠陥、断線、剥離などが発生した場合でも、該欠陥などが溝部の内面にまで進展することが抑えられるため、溝部の内面は外部電極が形成された状態を維持することができ、よって外部電極の通電不良を防止することができるのである。
【0028】
また、溝部とすれば、幅や深さの自由度が広くなるだけでなく、後記する外部電極を形成する際にも溝の内面に容易に外部電極を形成することができるので好適である。
【0029】
なお、積層圧電体の端部における溝部の形成位置については、少なくとも圧電体と内部電極との積層界面に形成されていれば、積層圧電体の最上層から最下層にまで向かって延びるような溝を設けるような必要はない。但し、後工程であるアレイ状などに切断加工する際の切断部分には溝部を形成しないように留意する必要がある。その理由は、仮に切断加工する際の切断部分に溝部を形成してしまうと、上記したように積層圧電素子にバッキング材や音響整合層を貼り付けた後、アレイ状などへ切断加工する工程において、切断面近傍の外部電極に切断に伴う欠陥、断線、剥離などが発生した際に、溝部に形成した外部電極も併せて欠陥、断線、剥離などを起こしてしまうからである。
【0030】
溝部の具体的な形成方法としては特に限定されないが、圧電体と内部電極とを交互に積層した後に、ダイシングマシーンなどによって、所定の位置に切り込みを入れるように切削加工を行うと、積層圧電体の最上層から最下層にまで向かって延びるような溝部を簡易に形成できるので生産性などの面から好適である。
【0031】
溝部の形状としては、図1おいては積層界面と平行な断面視とした場合において略凹状の形状をしているがこれに限定されるものではなく、積層界面と平行な断面の断面視において略U字状や略V字状や略W字状など各種の形状にすることもできる。
また、溝部の深さや幅についても、実際に使用する積層圧電素子の寸法や積層状態、さらに内部電極の配置状態に応じて適宜決定することができる。
【0032】
さらに積層圧電体の端部においては、溝部に変えて貫通孔を設けることもできる。このような貫通孔を設けることによっても、後記する積層圧電体の外周に外部電極を形成して積層圧電素子を作製する工程において、貫通孔の内面にまで外部電極を形成させることができる。
そして、その後のアレイ状などへの切断加工工程時において、切断面近傍の外部電極においては切断に伴う欠陥、断線、剥離などが発生した場合でも、貫通孔の内面においては外部電極が形成された状態を維持することができ、よって外部電極の通電不良を防止することができる。
【0033】
なお、貫通孔の形状については、積層圧電体の最上層から最下層までを貫通するものであれば特に限定されない。例えば、円筒状や角柱状や円錐状など各種の形状にすることができる。
【0034】
また、貫通孔の深さや幅についても、実際に使用する積層圧電素子の寸法や積層状態、さらに内部電極の配置状態に応じて適宜決定することができる。
【0035】
次に、本発明の積層圧電素子について以下に説明する。
【0036】
(積層圧電素子)
本発明に用いられる積層圧電素子は、前記した端部に溝部や貫通孔を形成した積層圧電体の外周に外部電極を形成することによって作製される。
具体的には図4に示す積層圧電素子の積層方向における断面視のように、積層圧電体の一方の端部に現れる内部電極と他方の端部に現れる内部電極とに、別々の外部電極を形成することによって作製される。なお、この際には、積層圧電素子の最上面および最下面だけでなく、前記した溝部や貫通孔の内面についても外部電極が形成される。そしてこのような形態によって外部電極を形成することで内部電極同士が電気的に並列に接続した積層圧電素子が作製される。
【0037】
次に、本発明の積層圧電素子の製造方法について以下に説明する。
【0038】
(積層圧電素子の製造方法)
本発明の積層圧電素子の製造方法は、積層圧電体の端部において積層方向に溝部や貫通孔を形成する工程を有することを特徴とする。かかる工程を有することによって、板状の積層圧電素子をアレイ状などに切断加工する場合でも、外部電極の通電不良を防止した積層圧電素子を作製することができるのである。
【0039】
なお、積層圧電体の端部において積層方向に溝部や貫通孔を形成する工程については、外部電極を形成する工程の前であれば特に順序は限定されない。例えば、前記したように圧電体と内部電極との積層化の後に行ってもよいし、予め溝部や貫通孔を形成する工程を行い、その後に積層化を行ってもよい。
【0040】
さらに、図2のように積層面に電極を形成した圧電体を複数作製しておき、各圧電体の電極が形成された面同士を接着して積層することで積層圧電体を作製する場合には、主に以下の4つの工程を経て製造することもできる。
第1工程:n層(nは2以上の整数)の圧電体の表面に電極を形成する工程、第2工程:電極同士を電極間に接着層が存在するように接着することによって内部電極とする積層体を形成する工程、第3工程:電極同士を接着して得られる積層体の積層方向の端部に溝部を形成する工程、第4工程:溝部の内面に外部電極を形成する工程。
【発明の効果】
【0041】
本発明の積層圧電体およびその積層圧電体を用いた積層圧電素子によれば、積層圧電体の端部に溝部または貫通孔を設け、その内面に内部電極を電気的に並列に接続するための外部電極を設けているので、板状の積層圧電素子をアレイ状などに切断加工する場合における、積層界面部分の外部電極の欠陥、断線、剥離を有効に防止し、よって外部電極の通電不良を防止することができる。
【0042】
また、溝部の形状を積層界面と平行な断面の断面視において略凹状、略U字状、略V字状、略W字状にすることで、容易に外部電極の通電不良を防止することができる積層圧電体およびその積層圧電体を用いた積層圧電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の積層圧電体を示す模式図である。
【図2】本発明の積層圧電体における圧電体と内部電極の積層方法を示す断面模式図である。
【図3】本発明の積層圧電体における圧電体と内部電極の別の積層方法を示す断面模式図である。
【図4】本発明の積層圧電素子を示す模式図である。
【図5】本発明の積層圧電素子における第1の実施形態の製造工程を示す図である。
【図6】溝部を形成し、その後外部電極を形成した積層圧電素子の端部の側面視における顕微鏡写真である。
【図7】本発明の積層圧電素子における第2の実施形態の製造工程を示す図である。
【図8】本発明の積層圧電素子における第3の実施形態の製造工程を示す図である。
【図9】本発明の積層圧電素子における第4の実施形態の製造工程を示す図である。
【図10】実施例1の積層圧電素子から作製したアレイ状トランスデューサ素子の時間信号波形である。
【図11】実施例1の積層圧電素子から作製したアレイ状トランスデューサ素子のFFTスペクトルである。
【図12】従来の積層圧電体を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
次に、本発明の積層圧電体とその積層圧電体を用いた積層圧電素子を図に基づいて詳しく説明する。なお、以下の実施形態はいずれも圧電体が3層の積層圧電素子についてのものであるがこれに限定されるものではない。
【0045】
(積層圧電素子の第1の実施形態)
まず、本発明の積層圧電素子における第1の実施形態を説明する。図5は本発明の積層圧電素子における第1の実施形態の製造工程を示す図である。以下、図5に基づいて第1の実施形態の積層圧電素子を説明する。
【0046】
まず、図5(a)に示すようにチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)セラミックス粉末などの材料を板状に成形、焼成した後、厚み加工、外形切断加工を行った、所定の形状の圧電体5を用意する。
【0047】
次に、図5(b)に示すように圧電体5の積層面6にニッケルによる無電解メッキ加工および金を用いた電解メッキ加工を行うことによって内部電極2を形成する。
ここで各層の内部電極2は、まずは積層面6全面に内部電極2を形成した後、図5(b)に示すように不要な部分を除去することによって、面積が広い内部電極2aと面積が狭い内部電極2bの2箇所を設け、かつこれら面積が広い内部電極2aと面積が狭い内部電極2bが、積層方向における断面視において互い違いに現れるように形成する。
なお、内部電極が不要な部分を予めマスキングして上記メッキ加工を積層面6全面に施した後にマスキングを除去することによっても、同様の内部電極2a、2bを形成することができる。
【0048】
次に、図5(c)に示すように、内部電極2同士を接着剤などで接着することによって積層圧電体1を作製する。
【0049】
次に、図5(d)に示すように、積層圧電体1の端部7にダイシングマシーンなどによって所定の位置に切り込みを入れるように溝部8を形成する。
ここで、図5(d)では、各端部7に6箇所の溝部8が設けられているが、溝部8の数はこれに限定されるものではなく、実際の製造においては、要求される超音波探触子の性能に従って積層圧電素子のアレイ分割数が設計され、その分割数に応じて64箇所、96箇所、128箇所など多数の溝部8が設けられることになる。
【0050】
また、図6において、実際に溝部を形成し、その後外部電極を形成した積層圧電素子の端部の側面視における顕微鏡写真を示す。なお、図6中の点線は、外部電極を形成して積層圧電素子とし、さらにバッキング材や音響整合層を貼り付けた後に実際にアレイ状に加工切断する際の切断位置9である。
従って、図6からも、段落[0029]に記載したように溝部8はかかる切断位置9を避けるようにして設けなければならないことがわかる。
【0051】
次に、図5(e)に示すように溝部8を設けた積層圧電体1の外周にニッケルによる無電解メッキ加工および金を用いた電解メッキ加工を行うことによって外部電極10を形成する。
【0052】
次に、図5(f)に示すように積層圧電体1の外周に形成された外部電極10の不要な部分を除去することによって、内部電極2aと内部電極2bが電気的に分離された状態でそれぞれ外部電極10aと外部電極10bに連結する。
最後に、上記加工を行った外部電極10aと外部電極10bに直流電圧を印加する分極処理を行うことによって、第1の実施形態の積層圧電素子11を作製する。なお、本実施形態においては積層後に分極処理を行ったが、接着剤などを用いて積層する場合においては、積層前に分極処理を行うことができる。そしてこの場合には、任意の分極方向の圧電体からなる積層圧電素子を得ることができる。
【0053】
(積層圧電素子の第2の実施形態)
次に、本発明の積層圧電素子における第2の実施形態を説明する。図7は本発明の積層圧電素子における第2の実施形態の製造工程を示す図である。以下、図7に基づいて第2の実施形態の積層圧電素子を説明する。
【0054】
まず、図7(a)に示すようにチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)セラミックス粉末やバインダーなどの材料を混練して板状に成形したグリーンシート12を用意する。ここで、この第2の実施形態の積層圧電素子については、後記するようにグリーンシートと塗布した内部電極ペーストとを同時に焼成することによって積層圧電体を形成することになるが、同時焼成を行っただけでは最上層と最下層の圧電体における面精度がでない。そこで、本実施形態においては、犠牲層となるグリーンシート12aを用意し、同時焼成を行った後、かかるグリーンシート12aを研磨除去することによって、最上層と最下層の圧電体の面精度を得るようにしている。
【0055】
次に、図7(b)に示すようにグリーンシート12の一方の積層面6に銀−パラジウム合金ペースト、白金ペースト、銅ペーストなどの内部電極ペースト4をスクリーン印刷法などによって塗装する。
具体的には、予め内部電極を形成しない部分に乳剤を固着させた印刷製版(図示せず)を用いて内部電極ペースト4が塗装される。このような手法を用いて内部電極ペースト4が塗装されることによって、面積が広い内部電極ペースト4aと面積が狭い内部電極ペースト4bの2箇所が設けられ、かつ積層方向における断面視においてこれら面積が広い内部電極ペースト4aと面積が狭い内部電極ペースト4bが互い違いに現れるように形成される。
【0056】
次に、図7(c)に示すように一のグリーンシート12の内部電極ペースト4が塗装された積層面6と他のグリーンシート12の内部電極ペーストが塗装されていない積層面6同士を積層する。また、犠牲層のグリーンシート12aについても積層する。
【0057】
次に、図7(d)に示すように積層されたグリーンシート12と内部電極ペースト4を同時に焼成する。
【0058】
次に、図7(e)に示すように犠牲層の部分を研磨除去することによって、積層圧電体1を作製する。
【0059】
次に、図7(f)に示すように積層圧電体1の端部7に、ダイシングマシーンなどによって所定の位置に切り込みを入れるように溝部8を形成する。
【0060】
次に、図7(g)に示すように溝部8を設けた積層圧電体1の外周にニッケルによる無電解メッキ加工および金を用いた電解メッキ加工を行うことによって外部電極10を形成する。
【0061】
次に、図7(h)に示すように積層圧電体1の外周に形成された外部電極10の不要な部分を除去することによって、内部電極2aと内部電極2bが電気的に分離された状態でそれぞれ外部電極10aと外部電極10bに連結する。
最後に、上記加工を行った外部電極10aと外部電極10bに直流電圧を印加する分極処理を行うことによって、第2の実施形態の積層圧電素子11を作製する。
【0062】
(積層圧電素子の第3の実施形態)
次に、本発明の積層圧電素子における第3の実施形態を説明する。図8は本発明の積層圧電素子における第3の実施形態の製造工程を示す図である。以下、図8に基づいて第3の実施形態の積層圧電素子を説明する。
本発明の第3の実施形態の積層圧電素子11は、図8(d)に示すように、図5(d)に示す第1の実施形態の溝部8の形成工程に替えて、積層圧電体1の端部7に機械加工(メカニカルドリリング)およびレーザー加工によって貫通孔13を設けた以外は第1の実施形態の製造工程と同じようにして作製するものである。
【0063】
(積層圧電素子の第4の実施形態)
次に、本発明の積層圧電素子における第4の実施形態を説明する。図9は本発明の積層圧電素子における第4の実施形態の製造工程を示す図である。以下、図9に基づいて第4の実施形態の積層圧電素子を説明する。
【0064】
まず、図9(a)〜(c)に示すように、所定形状の圧電体5の積層面6に内部電極2を形成した後、内部電極2の不要部分の除去作業を行うことなくそのままの状態で積層して積層圧電体1を作製する。
【0065】
次に、図9(d)に示すように、ダイシングマシーンなどによって積層圧電体1の最上層と最下層から内部電極の不要な部分を切削加工することによって圧電体とともに内部電極の不要な部分を切削除去する。そして、切削除去した部分にエポキシ樹脂等の絶縁樹脂14を充填することにより、図5(c)と同様に、面積が広い内部電極2aと面積が狭い内部電極2bの2箇所を設け、かつこれら面積が広い内部電極2aと面積が狭い内部電極2bが、積層方向における断面視において互い違いに現れるように形成する。
なお、この切削除去の深さについては、積層圧電体1の最上層と最下層から内部電極の不要な部分が除去されることが必要であるが、積層圧電素子となった際の不要振動を低減させるためには、図9(d)に示すように、次層の内部電極を切削しない範囲で、できるだけ深く切削除去をすることが好ましい。
【0066】
次に、図9(e)、(f)に示すように、第1の実施形態における図5(d)、(e)と同様の方法によって、積層圧電体1の端部7への溝部8の形成、積層圧電体1の外周への外部電極10の形成を行う。
【0067】
次に、図9(g)に示すように、積層圧電体1の外周に形成された外部電極10の不要な部分の除去を行う。ここで、本実施形態では、外部電極の不要部として、積層圧電素子の平面視における端部まで除去した構造にしてあるが、このような外部電極の形態は、段落[0020]に記載したように、得ようとする超音波探触子の設計や、該超音波探触子の製造時の加工性などに応じて選択されるものである。
【0068】
最後に図9(h)に示すように、上記加工を行った外部電極10に直流電圧を印加する分極処理を行うことによって、第4の実施形態の積層圧電素子11を作製する。
【0069】
次に、本発明の積層圧電体とその積層圧電体を用いた積層圧電素子を実施例に基づいて詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
まず、ソフト系のチタン酸ジルコン酸鉛系セラミックス(テイカ株式会社製:L−155N、電気機械結合係数k33:77%、比誘電率:5700、キュリー温度:155℃)をダイシングマシーンおよび両面研磨機にて加工して、長さ23mm、幅14mm、厚み0.17mmの寸法の圧電体を得た。
【0071】
次に、得られた圧電体に内部電極を形成する目的で、圧電体の積層面に厚さ0.5μmのニッケル無電解メッキを施し、さらに厚さ0.5μmの金電解メッキを施した。その後、内部電極の不要な部分をダイシングマシーンによって切削除去した。そして内部電極同士をエポキシ系接着剤で接着することによって、圧電体層の数が3層の23mm×14mm×0.51mmの積層圧電体を作製した。
【0072】
次に、ダイシングマシーンにて積層圧電体の両側端部に0.17mmの間隔で切り込みを入れる切削加工を行い、幅0.03mm、深さ0.05mmの溝部128個をそれぞれ形成した。
【0073】
次に、溝部を設けた積層圧電体の外周に、厚さ0.5μmのニッケル無電解メッキを施し、さらに厚さ0.5μmの金電解メッキを施すことによって外部電極を形成した。その後、外部電極の不要な部分をダイシングマシーンによって切削除去した。
【0074】
最後に、加工を行った後の積層圧電素子の両外部電極間に、直流電圧を印加して分極処理することによって、実施例1の積層圧電素子を作製した。
【0075】
(実施例2)
まず、ハード系のチタン酸ジルコン酸鉛系セラミックス粉末(テイカ株式会社製:H−8、電気機械結合係数k33:70%、機械的品質係数:2500、キュリー温度:320℃)とバインダーと、可塑剤と、有機溶媒とを混合して得られたスラリーをフドクターブレード法により成形することで、厚み0.21mmの寸法のグリーンシートを得た。
【0076】
次に、グリーンシートの一方の積層面に銀−パラジウム合金ペーストをスクリーン印刷法により2mg/cm2パターン塗布した。
次に、グリーンシートの銀−パラジウム合金ペーストが塗布された積層面と他のグリーンシートの銀−パラジウム合金ペーストが塗布されていない積層面同士を積層し、その上に、銀−パラジウム合金ペーストを塗布していないグリーンシート1枚を積層し、さらに、犠牲層として、銀−パラジウム合金ペーストを塗布していないグリーンシートを上下に1枚ずつを積層し、熱圧着したものを、脱脂後、焼成した。その後、上下の犠牲層を均等に研磨除去することによって、圧電体層の数が3層の23mm×14mm×0.51mmの積層圧電体を作製した。
そして、その後の工程は実施例1と同様の工程を行うことによって、実施例2の積層圧電素子を作製した。
【0077】
(実施例3)
積層圧電体の端部に機械加工によって、直径0.06mmの貫通孔を形成した以外は実施例1と同様の工程を行うことによって、実施例3の積層圧電素子を作製した。
【0078】
(実施例4)
まず、実施例1と同様の工程を行うことによって、長さ60mm、幅16mm、厚み0.8mmの寸法の板状の圧電体を得た。
【0079】
次に、圧電体の一方の辺に平行にダイシングマシーンにて30μmの幅のブレードを用いて100μmピッチで深さが0.60mmの溝を形成し、70μm×60mm×0.6mmの角柱が複数本直立した圧電体を作製した。
【0080】
次に、この圧電体に形成した溝に、ノルマルヘキサンおよびノルマルペンタンが封入されたアクリロニトリル系共重合樹脂を充填し、160℃で5分間熱処理した後、両面研磨機にて有機高分子体と圧電体の過剰分を取り除いて厚み調整を行うことによって、内部に気泡が分散したアクリロニトリル系共重合樹脂の固化体である有機高分子体が充填された、長さ23mm、幅14mm、厚み0.17mmの寸法のコンポジット圧電体を作製した。
そして、その後の工程は実施例1と同様の工程を行うことによって、実施例4の積層圧電素子を作製した。
【0081】
(実施例5)
実施例1と同様にして、ソフト系のチタン酸ジルコン酸鉛系セラミックス(テイカ株式会社製:L−155N、電気機械結合係数k33:77%、比誘電率:5700、キュリー温度:155℃)をダイシングマシーンおよび両面研磨機にて加工して、長さ23mm、幅14mm、厚み0.17mmの寸法の圧電体を得た。
【0082】
次に、得られた圧電体に内部電極を形成する目的で、圧電体の積層面に厚さ0.5μmのニッケル無電解メッキを施し、さらに厚さ0.5μmの金電解メッキを施した。
【0083】
次に、積層面同士をエポキシ系接着剤で接着することによって、圧電体層の数が3層の23mm×14mm×0.51mmの積層圧電体を作製した。
【0084】
次に、内部電極に無電極部を形成する目的で、積層圧電体の両側端部から0.4mmの位置に、ダイシングマシーンを用いて積層方向に向かって切削除去することによって、幅0.2mm、深さ0.32mmの溝を形成し、かかる溝にエポキシ接着剤を充填した。
【0085】
次に、ダイシングマシーンにて積層圧電体の両側端部に0.17mmの間隔で切り込みを入れる切削加工を行い、幅0.03mm、深さ0.05mmの溝部128個をそれぞれ形成した。
【0086】
次に、溝部を設けた積層圧電体の外周に、厚さ0.5μmのニッケル無電解メッキを施し、さらに厚さ0.5μmの金電解メッキを施すことによって外部電極を形成した。その後、外部電極の不要な部分をダイシングマシーンによって切削除去した。
【0087】
最後に、加工を行った後の積層圧電素子の両外部電極間に、直流電圧を印加して分極処理することによって、実施例5の積層圧電素子を作製した。
【0088】
(比較例)
実施例1の溝部を形成する工程を省略した以外は、実施例1と同様の工程を行うことによって、比較例の積層圧電素子を作製した。
【0089】
(不良率の調査)
次に、前記によって得られた実施例1〜5および比較例で得られた積層圧電素子について超音波放射面に音響整合層を、また、超音波放射面と反対の面にバッキング材を取り付け、さらに配線部材を取り付けた。その後ダイシングマシーンを用い、刃厚0.03mmのブレードを3mm/secの送り速度で送ることにより、各溝部の間を0.17mmのピッチで切断して128個のアレイ状トランスデューサ素子を作製した。
そして、得られた各アレイ状トランスデューサ素子の静電容量の測定を行い、断線による静電容量異常が認められたトランスデューサ素子の数(不良数)を調査した。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
その結果、実施例1〜5の積層圧電素子については外部電極の不良率が3%以下であったのに対し、積層圧電素子の端部に溝部や貫通孔を設けていない比較例の積層圧電素子については外部電極の不良率が約26%と実施例1〜5の積層圧電素子に比べ著しく高くなった。
このことからも、本発明の積層圧電体とその積層圧電体を用いた積層圧電素子およびその積層圧電素子の製造方法は、外部電極の不良防止に有効であることがわかった。
【0092】
(時間信号波形とFFTスペクトルの計測)
さらに、実施例1において得られたアレイ状トランスデューサ素子群に、音響レンズを貼り付け、その中でも断線による静電容量異常が認められなかった素子の1つについて、パナメトリクス社製パルサーレシーバー(型式5800PR)により単パルスを印加し、時間信号波形とFFTスペクトルを計測した。
図10に時間信号波形の計測結果を、図11にFFTスペクトルの計測結果をそれぞれ示す。その結果、peak to peak電圧は79.4mV、中心周波数は2.49MHz、6dB帯域幅は88.9%であった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の積層圧電体とその積層圧電体を用いた積層圧電素子およびその積層圧電素子の製造方法は、医療用超音波機器、空中超音波機器、水中超音波機器、固体超音波機器、その他の超音波機器などのセンシング材料に用いることができる。
【符号の説明】
【0094】
1 積層圧電体
2 内部電極
2a 内部電極
2b 内部電極
3 接着層
4 内部電極ペースト
4a 内部電極ペースト
4b 内部電極ペースト
5 圧電体
6 積層面
7 端部
8 溝部
9 切断位置
10 外部電極
10a 外部電極
10b 外部電極
11 積層圧電素子
12 グリーンシート
12a グリーンシート
13 貫通孔
14 絶縁樹脂
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n層(nは2以上の整数)の圧電体とn−1層の内部電極を交互に積層した積層圧電体において、
前記積層圧電体の端部に、
積層方向に形成した溝部を有することを特徴とする積層圧電体。
【請求項2】
前記溝部が、
少なくとも前記端部における前記圧電体と前記内部電極との積層界面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層圧電体。
【請求項3】
前記溝部の形状が、
前記積層界面と平行な断面の断面視において略凹状、略U字状、略V字状、略W字状のいずれかであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層圧電体。
【請求項4】
請求項1から請求項3の積層圧電体の前記端部において、
少なくとも前記溝部の内面に、
前記内部電極と連結し、かつ前記内部電極同士が電気的に並列に接続するように形成した外部電極を設けたことを特徴とする積層圧電素子。
【請求項5】
n層(nは2以上の整数)の圧電体とn−1層の内部電極とが交互に積層された積層圧電体を作製し、その後前記積層圧電体の端部に外部電極を形成する工程を有する積層圧電素子の製造方法において、
前記積層圧電体の端部の積層方向に溝部を形成する工程を有することを特徴とする積層圧電素子の製造方法。
【請求項6】
n層(nは2以上の整数)の圧電体の表面に電極を形成する第1工程と、
前記電極同士を電極間に接着層が存在するように接着することによって内部電極とする積層体を形成する第2工程と、
前記電極同士を接着して得られる前記積層体の積層方向の端部に溝部を形成する第3工程と、
前記溝部の内面に外部電極を形成する第4工程とを有することを特徴とする積層圧電素子の製造方法。
【請求項1】
n層(nは2以上の整数)の圧電体とn−1層の内部電極を交互に積層した積層圧電体において、
前記積層圧電体の端部に、
積層方向に形成した溝部を有することを特徴とする積層圧電体。
【請求項2】
前記溝部が、
少なくとも前記端部における前記圧電体と前記内部電極との積層界面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層圧電体。
【請求項3】
前記溝部の形状が、
前記積層界面と平行な断面の断面視において略凹状、略U字状、略V字状、略W字状のいずれかであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層圧電体。
【請求項4】
請求項1から請求項3の積層圧電体の前記端部において、
少なくとも前記溝部の内面に、
前記内部電極と連結し、かつ前記内部電極同士が電気的に並列に接続するように形成した外部電極を設けたことを特徴とする積層圧電素子。
【請求項5】
n層(nは2以上の整数)の圧電体とn−1層の内部電極とが交互に積層された積層圧電体を作製し、その後前記積層圧電体の端部に外部電極を形成する工程を有する積層圧電素子の製造方法において、
前記積層圧電体の端部の積層方向に溝部を形成する工程を有することを特徴とする積層圧電素子の製造方法。
【請求項6】
n層(nは2以上の整数)の圧電体の表面に電極を形成する第1工程と、
前記電極同士を電極間に接着層が存在するように接着することによって内部電極とする積層体を形成する第2工程と、
前記電極同士を接着して得られる前記積層体の積層方向の端部に溝部を形成する第3工程と、
前記溝部の内面に外部電極を形成する第4工程とを有することを特徴とする積層圧電素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−26425(P2013−26425A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159500(P2011−159500)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
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