説明

積層型トランス

【課題】 各コイルを構成するコイル用導体パターンが積層方向において絶縁体層を介して上下に重なっているので、絶縁体層を介して対向しているコイル用導体パターン間に線間容量が発生する。
【解決手段】 絶縁体層と、絶縁体層上に形成された複数組のコイル用導体パターンとを積層し、絶縁体層間のコイル用導体パターンを各組同士で接続してこれらの積層体内に、共通の巻軸を中心に螺旋状に巻かれた複数個のコイルが形成される。この複数組のコイル用導体パターンは、絶縁体層表面において共通の巻軸を原点に点対称に形成された第1のコイル用導体パターンと第2のコイル用導体パターンからなり、複数組のコイル用導体パターンと絶縁体層が積層された時、第1のコイル用導体パターン、第2のコイル用導体パターンのそれぞれは、絶縁体層の積層方向において、絶縁体層の上下に位置するコイル用導体パターンが互いに対向しない様にその位置をずらして形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁体層と、絶縁体層上に形成された複数組のコイル用導体パターンとを積層し、絶縁体層間のコイル用導体パターンを各組同士で接続してこれらの積層体内に、共通の巻軸を中心に螺旋状に巻かれた複数個のコイルが形成された積層型トランスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の積層型トランスに、図3、図4に示す様に、絶縁体層31A、31Fと、表面にほぼ平行な2本のコイル用導体パターン32、33が形成された絶縁体層31B〜31Eを積層し、絶縁体層間のコイル用導体パターンを各組同士で接続して、積層体内に、共通の巻軸を中心に螺旋状に巻かれ、磁気的に結合した2個のコイルが形成され、各コイルの端部が積層体端面の外部端子41にそれぞれ接続されたものがある(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開昭62-257709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この様な従来の積層型トランスは、各コイルを構成するコイル用導体パターンが積層方向において絶縁体層を介して上下に重なっているので、絶縁体層を介して対向しているコイル用導体パターン間に線間容量が発生し、高周波帯域で用いた場合、特性が劣化するという問題があった。この様な問題を解決するために、コイル用導体パターンの線幅を細くしたり、絶縁体層の厚みを厚くしたり、絶縁体層の誘電率を小さくすることが検討されている。しかしながら、絶縁体層の厚みを厚くすると積層型トランスの形状が大きくなり、コイル用導体パターンの線幅を細くするとコイルの導体抵抗が大きくなって特性が劣化してしまう。
【0005】
本発明は、絶縁体層間のコイル用導体パターン間に発生する線間容量を低減することができる積層型トランスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、絶縁体層と、絶縁体層上に形成された複数組のコイル用導体パターンとを積層し、絶縁体層間のコイル用導体パターンを各組同士で接続してこれらの積層体内に、共通の巻軸を中心に螺旋状に巻かれた複数個のコイルが形成された積層型トランスにおいて、複数組のコイル用導体パターンは、絶縁体層表面において共通の巻軸を原点に点対称に形成された第1のコイル用導体パターンと第2のコイル用導体パターンからなり、複数組のコイル用導体パターンと絶縁体層が積層された時、第1のコイル用導体パターン、第2のコイル用導体パターンのそれぞれは、絶縁体層の積層方向において、絶縁体層を介して上下に位置するコイル用導体パターンが互いに対向しない様にその位置をずらして形成される。
また、本発明は、絶縁体層と、絶縁体層上に形成された複数組のコイル用導体パターンとを積層し、絶縁体層間のコイル用導体パターンを各組同士で接続してこれらの積層体内に、共通の巻軸を中心に螺旋状に巻かれた複数個のコイルが形成された積層型トランスにおいて、複数組のコイル用導体パターンは、絶縁体層表面において共通の巻軸を原点に点対称に形成された第1のコイル用導体パターンと第2のコイル用導体パターンからなり、複数組のコイル用導体パターンと絶縁体層が積層された時、第1のコイル用導体パターン、第2のコイル用導体パターンのそれぞれは、絶縁体層の積層方向において、互いに接続されるコイル用導体パターンが互いに対向しない様にその位置をずらして形成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の積層型トランスは、複数組のコイル用導体パターンが、絶縁体層表面において共通の巻軸を原点に点対称に形成された第1のコイル用導体パターンと第2のコイル用導体パターンからなり、複数組のコイル用導体パターンと絶縁体層が積層された時、第1のコイル用導体パターン、第2のコイル用導体パターンのそれぞれは、絶縁体層の積層方向において、絶縁体層を介して上下に位置するコイル用導体パターンが互いに対向しない様にその位置をずらして形成されるので、絶縁体層間のコイル用導体パターン間に発生する線間容量を低減することができる。
また、本発明の積層型トランスは、複数組のコイル用導体パターンが、絶縁体層表面において共通の巻軸を原点に点対称に形成された第1のコイル用導体パターンと第2のコイル用導体パターンからなり、複数組のコイル用導体パターンと絶縁体層が積層された時、第1のコイル用導体パターン、第2のコイル用導体パターンのそれぞれは、絶縁体層の積層方向において、互いに接続されるコイル用導体パターンが互いに対向しない様にその位置をずらして形成されるので、絶縁体層間のコイル用導体パターン間に発生する線間容量を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の積層型トランスは、絶縁体層と、絶縁体層上に形成された複数組のコイル用導体パターンとを積層し、絶縁体層間のコイル用導体パターンを各組同士で接続してこれらの積層体内に、共通の巻軸を中心に螺旋状に巻かれた複数個のコイルが形成される。この時、複数組のコイル用導体パターンは、絶縁体層表面において共通の巻軸を原点に点対称に形成された第1のコイル用導体パターンと第2のコイル用導体パターンから構成される。この第1のコイル用導体パターンと第2のコイル用導体パターンは、それぞれ絶縁体層の積層方向に隣接して、各組同士で互いに接続されるコイル用導体パターンの両端部以外の部分が絶縁体層を介して対向しない様に絶縁体層上の位置をずらして形成される。また、この時、第1のコイル用導体パターンと第2のコイル用導体パターンは、絶縁体層を介して上下に位置するコイル用導体パターンも互いに対向しない様に絶縁体層上の位置をずらして形成される。そして、絶縁体層間の第1のコイル用導体パターンが螺旋状に接続され、絶縁体層間の第2のコイル用導体パターンが螺旋状に接続される。従って、本発明の積層型トランスは、絶縁体層の積層方向に隣接して、各組同士で互いに接続されるコイル用導体パターンが絶縁体層を介して対向することがなくなると共に、絶縁体層の上下に位置する異なる組のコイル用導体パターンも絶縁体層を介して対向しない様にすることもできる。また、本発明の積層型トランスは、第1のコイル用導体パターンと第2のコイル用導体パターンが絶縁体層表面において共通の巻軸を原点に点対称に形成されるので、共通の巻軸を中心に巻回される2つのコイルのターン数を同じにすることができる。
【実施例】
【0009】
以下、本発明の積層型トランスの実施例を図1、図2を参照して説明する。
図1は本発明の積層型トランスの実施例を示す分解斜視図、図2は本発明の積層型トランスの実施例の斜視図である。
図1において、11A〜11Gは絶縁体層である。
絶縁体層11Aと絶縁体層11Gは、磁性体を用いて形成される。また、絶縁体層11B〜11Fは、誘電体等の非磁性体を用いて形成される。
絶縁体層11Bは、その中央部分に磁性体部14Aが形成される。この絶縁体層11Bの表面には、コイル用導体パターン12Aとコイル用導体パターン13Aが形成される。コイル用導体パターン12Aとコイル用導体パターン13Aは、絶縁体層11Bの磁性体部14Aが形成されていない部分に、共通の巻軸となる磁性体部14Aの中心を原点として互いに点対称になる様に1ターン未満分が形成される。コイル用導体パターン12Aの一端とコイル用導体パターン13Aの一端は、絶縁体層11Bの対向する側面まで引き出される。
絶縁体層11Cは、その中央部分に磁性体部14Bが形成される。この絶縁体層11Cの表面には、コイル用導体パターン12Bとコイル用導体パターン13Bが形成される。コイル用導体パターン12Bとコイル用導体パターン13Bは、絶縁体11Cの磁性体部14Bが形成されていない部分に、磁性体部14Bの中心を原点として互いに点対称になる様に1ターン未満分(図1では1/3ターン分)が形成される。コイル用導体パターン12Bの一端は、他の部分よりも内周側に突出する様に線幅が太く形成され、絶縁体層11Cのスルーホール内の導体を介してコイル用導体パターン12Aの他端に接続される。また、コイル用導体パターン13Bの一端は、他の部分よりも内周側に突出する様に線幅が太く形成され、絶縁体層11Cのスルーホール内の導体を介してコイル用導体パターン13Aの他端に接続される。なお、図1ではコイル用導体パターン12B、13のターン数を1/3ターンとしたため、コイル用導体パターン12Bの他端とコイル用導体パターン13Bの他端は、コイル用導体パターン12Bの一端やコイル用導体パターン13Bの一端よりも内側の位置に磁性体部14Bに近接して配置され、それぞれ磁性体部14Bと反対側に突出する様に他の部分よりも線幅が太く形成される。
絶縁体層11Dは、その中央部分に磁性体部14Cが形成される。この絶縁体層11Dの表面には、コイル用導体パターン12Cとコイル用導体パターン13Cが形成される。コイル用導体パターン12Cとコイル用導体パターン13Cは、絶縁体11Dの磁性体部14Cが形成されていない部分に、磁性体部14Cの中心を原点として互いに点対称になる様に1ターン未満分(図1では1/3ターン分)が形成される。この時、コイル用導体パターン12Cとコイル用導体パターン13Cは、コイル用導体パターン12Bやコイル用導体パターン13Bの内周よりも内側の部分において、その外周がコイル用導体パターン12B、13Bの内周に接する位置からコイル用導体パターン12B、13Bの内周よりもその線幅分内側の位置までの範囲内に位置する様に形成される。また、コイル用導体パターン12Cの両端とコイル用導体パターン13Cの両端は、他の部分よりも外周側に突出する様に線幅が太く形成される。そして、コイル用導体パターン12Cの一端は、絶縁体層11Dのスルーホール内の導体を介してコイル用導体パターン12Bの他端に接続される。また、コイル用導体パターン13Cの一端は、絶縁体層11Dのスルーホール内の導体を介してコイル用導体パターン13Bの他端に接続される。
絶縁体層11Eは、その中央部分に磁性体部14Dが形成される。この絶縁体層11Eの表面には、コイル用導体パターン12Dとコイル用導体パターン13Dが形成される。コイル用導体パターン12Dとコイル用導体パターン13Dは、絶縁体11Eの磁性体部14Dが形成されていない部分に、磁性体部14Dの中心を原点として互いに点対称になる様に1ターン未満分(図1では1/3ターン分)が形成される。この時、コイル用導体パターン12Dとコイル用導体パターン13Dは、コイル用導体パターン12Cやコイル用導体パターン13Cの外周よりも外側の部分において、その内周がコイル用導体パターン12C、13Cの外周に接する位置からコイル用導体パターン12C、13Cの外周よりもその線幅分外側の位置までの範囲内に位置する様に形成される。また、コイル用導体パターン12Dの両端とコイル用導体パターン13Dの両端は、他の部分よりも内周側に突出する様に線幅が太く形成される。そして、コイル用導体パターン12Dの一端は、絶縁体層11Eのスルーホール内の導体を介してコイル用導体パターン12Cの他端に接続される。また、コイル用導体パターン13Dの一端は、絶縁体層11Eのスルーホール内の導体を介してコイル用導体パターン13Cの他端に接続される。
絶縁体層11Fは、その中央部分に磁性体部14Eが形成される。この絶縁体層11Fの表面には、コイル用導体パターン12Eとコイル用導体パターン13Eが形成される。コイル用導体パターン12Eとコイル用導体パターン13Eは、絶縁体層11Bの磁性体部14Aが形成されていない部分に、共通の巻軸となる磁性体部14Eの中心を原点として互いに点対称になる様に1ターン未満分が形成される。コイル用導体パターン12Eの一端は、絶縁体層11Fのスルーホール内の導体を介してコイル用導体パターン12Dの他端に接続される。また、コイル用導体パターン13Eの一端は、絶縁体層11Fのスルーホール内の導体を介してコイル用導体パターン13Dの他端に接続される。この様にコイル用導体パターン12A、コイル用導体パターン12B、コイル用導体パターン12C、コイル用導体パターン12D、コイル用導体パターン12Eを螺旋状に接続して第1のコイルが形成され、コイル用導体パターン13A、コイル用導体パターン13B、コイル用導体パターン13C、コイル用導体パターン13D、コイル用導体パターン13Eを螺旋状に接続して第2のコイルが形成される。
この絶縁体層11Fの上面には、磁性体を用いて形成された絶縁体層11Gが積層される。そして、磁性体を用いて形成された絶縁体層11A、磁性体部14A〜14E、絶縁体層11Fによって積層体内に磁路が形成される。この磁路の磁性体部14A〜14Eの周囲には、磁性体部14A〜14Eを共通の巻軸として第1のコイルと第2のコイルが螺旋状に巻回される。この様に形成された積層体の側面には、図2に示す様に、外部端子21A、21B、21C、21Dが形成される。そして、コイル用導体パターン12Aの一端が外部端子21Aに接続され、コイル用導体パターン12Eの他端が外部端子21Bに接続されることにより、第1のコイルが外部端子21Aと外部端子21B間に接続される。また、コイル用導体パターン13Aの一端が外部端子21Cに接続され、コイル用導体パターン13Eの他端が外部端子21Dに接続されることにより、第2のコイルが外部端子21Cと外部端子21D間に接続される。
この様に形成された積層型トランスは、例えば、コモンモードチョークとして用いられる。
【0010】
以上、本発明の積層型トランスの実施例を述べたが、本発明はこの実施例に限られるものではない。例えば、コイル用導体パターンは、実施例では楕円形状のものを示したが、角形や円形に形成されたものでもよい。また、実施例では1/3ターンのものを示したが、ターン数は1ターン未満で様々のターン数にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の積層型トランスの実施例を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の積層型トランスの実施例の斜視図である。
【図3】従来の積層型トランスの分解斜視図である。
【図4】従来の積層型トランスの斜視図である。
【符号の説明】
【0012】
11A〜11G 絶縁体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体層と、該絶縁体層上に形成された複数組のコイル用導体パターンとを積層し、該絶縁体層間のコイル用導体パターンを各組同士で接続してこれらの積層体内に、共通の巻軸を中心に螺旋状に巻かれた複数個のコイルが形成された積層型トランスにおいて、
該複数組のコイル用導体パターンは、該絶縁体層表面において該共通の巻軸を原点に点対称に形成された第1のコイル用導体パターンと第2のコイル用導体パターンからなり、該複数組のコイル用導体パターンと該絶縁体層が積層された時、第1のコイル用導体パターン、第2のコイル用導体パターンのそれぞれは、絶縁体層の積層方向において、絶縁体層の上下に位置するコイル用導体パターンが互いに対向しない様にその位置をずらして形成されたこと特徴とする積層型トランス。
【請求項2】
絶縁体層と、該絶縁体層上に形成された複数組のコイル用導体パターンとを積層し、該絶縁体層間のコイル用導体パターンを各組同士で接続してこれらの積層体内に、共通の巻軸を中心に螺旋状に巻かれた複数個のコイルが形成された積層型トランスにおいて、
該複数組のコイル用導体パターンは、該絶縁体層表面において該共通の巻軸を原点に点対称に形成された第1のコイル用導体パターンと第2のコイル用導体パターンからなり、該複数組のコイル用導体パターンと該絶縁体層が積層された時、第1のコイル用導体パターン、第2のコイル用導体パターンのそれぞれは、絶縁体層の積層方向において、互いに接続されるコイル用導体パターンが互いに対向しない様にその位置をずらして形成されたことを特徴とする積層型トランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−21453(P2009−21453A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183805(P2007−183805)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000003089)東光株式会社 (243)
【Fターム(参考)】