説明

積層多孔質フィルム

【課題】耐熱性及びイオン透過性(透気性)に優れ、かつ、軽量で、調整し易い、非水電解液二次電池用セパレータに適した、積層多孔質フィルムを提供する。
【解決手段】ポリオレフィンを主成分とする多孔質ポリオレフィン層と無機フィラーを主成分とする耐熱層とを含む積層多孔質フィルムであって、
前記耐熱層に含まれる無機フィラーが、モード径が0.2μm以上0.6μm以下であり、かつ、(D95−D5)/D50が3.0以上10.0以下の無機フィラーであることを特徴とする積層多孔質フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層多孔質フィルムに関する。更に詳しくは非水電解液二次電池セパレータとして好適な積層多孔質フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池、特にリチウム二次電池は、エネルギー密度が高いのでパーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末などに用いる電池として広く使用されている。
【0003】
これらのリチウム二次電池に代表される非水電解液二次電池は、エネルギー密度が高く、電池の破損あるいは電池を用いている機器の破損等の事故により内部短絡・外部短絡が生じた場合には、大電流が流れて激しく発熱する。そのため、非水電解液二次電池には一定以上の発熱を防止し、高い安全性を確保することが求められている。
かかる安全性の確保手段として、非水電解液二次電池の事故等による異常発熱の際に、セパレータにより、正−負極間のイオンの通過を遮断して、さらなる発熱を防止するシャットダウン機能を持たせる方法が一般的であり、例えば、セパレータとして異常発熱時に溶融するポリオレフィンを主成分とする多孔質ポリオレフィン層を用いる方法が挙げられる。
すなわち、該セパレータを用いた電池は、異常発熱時に多孔膜が溶融・無孔化し、イオンの通過を遮断し、さらなる発熱を抑制することができる。
【0004】
シャットダウン機能を有する多孔質ポリオレフィン層からなるセパレータは、約80〜180℃で溶融・無孔化することで、電池の異常発熱時にイオンの通過を遮断(シャットダウン)することにより、更なる発熱を抑制する。しかしながら、発熱が激しい場合などには、多孔質ポリオレフィン層からなるセパレータに、収縮や破膜等が生じ、正極と負極が直接接触して、短絡を起こすおそれがあることから、種々の改良が試みられている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3756815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で開示されたセパレータでは、発熱を抑制するため、多孔質ポリオレフィン層等の熱可塑性樹脂層からなるセパレータ表面に、シリカなどの無機微粒子(無機フィラー)からなる耐熱性を有する多孔質層が形成されている。この多孔質層(耐熱層)は、高熱が発生してセパレータにおける多孔質ポリオレフィン層が溶融しても、形状を維持しているため、正極と負極が直接接触することを防止する機能を有する。
【0007】
このようなセパレータは高温での形状安定性に富み、また安全性の高い非水電解液二次電池を与えることができる。しかしながら、多孔質ポリオレフィン層上に、無機フィラーからなる耐熱層を設ける形態となるため、次の問題があった。
すなわち、該形態において、耐熱層が緻密になりやすく、耐熱層のイオン透過性(透気性)は十分でないことが多くなり、該セパレータを用いてなる非水電解液二次電池の負荷特性が不十分になる傾向があった。また、比較的密度の高い無機フィラーの使用により、耐熱層1μm当たりの目付が大きくなる結果、電池重量の増加につながる他、無機フィラーが凝集しやすいことから、耐熱層を形成するために無機フィラーを含む塗工液を多孔質ポリオレフィン層へ塗工する際に、スジ引きを生じることなく安定塗工することが困難であった。
【0008】
かかる状況下、本発明の目的は、耐熱性及びイオン透過性(透気性)に優れ、かつ、軽量で、調整し易い、非水電解液二次電池用セパレータに適した、積層多孔質フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> ポリオレフィンを主成分とする多孔質ポリオレフィン層と無機フィラーを主成分とする耐熱層とを含む積層多孔質フィルムであって、
前記耐熱層に含まれる無機フィラーが、モード径が0.2μm以上0.6μm以下であり、かつ、(D95−D5)/D50が3.0以上10.0以下の無機フィラーである積層多孔質フィルム。
<2> 前記無機フィラーが、アルミナである前記<1>記載の積層多孔質フィルム。
<3>前記<1>または<2>に記載の積層多孔質フィルムを用いてなるセパレータ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安定的に作製することが可能であり、熱安定性及びイオン透過性(透気性)に優れ、かつ、軽量な積層多孔質フィルムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明は、ポリオレフィンを主成分とする多孔質ポリオレフィン層((以下、単に「多孔質ポリオレフィン層」又は「A層」と称す場合がある)と無機フィラーを主成分とする耐熱層(以下、単に「耐熱層」又は「B層」と称す場合がある。)とを含む積層多孔質フィルムであって、前記耐熱層に含まれる無機フィラーは、モード径が0.2μm以上0.6μm以下であり、かつ、(D95−D5)/D50が3.0以上10.0以下の無機フィラーである積層多孔質フィルムに関する。
ここで、モード径とはレーザー回折式における粒度分布において面積%での出現比率が最も大きい粒子径をいう。D5、D50及びD95はそれぞれ、レーザー回折式に粒度分布における粒度分布の累積グラフにおける5面積%、50面積%及び95面積%での粒子径を表す。
【0013】
本発明の積層多孔質フィルムは、A層の片面又は両面にB層が積層されてなる形態を有する。片面に積層される態様では積層工程が簡略化できる点で好ましく、また、両面に積層する場合は作製した積層多孔質フィルムがカールしにくくなり、ハンドリングの点で好ましい。
なお、A層は、電池の事故発生時の異常発熱時に、溶融して無孔化することにより、セパレータにシャットダウンの機能を付与する。B層は、シャットダウンが生じる高温における耐熱性を有しており、セパレータに形状安定性の機能を付与する。
【0014】
本発明の積層多孔質フィルムは、B層に上記粒度規定を具備する無機フィラーが含有されることにより、B層の単位膜厚当たりの目付、透気度がそれぞれ減少することから、イオン透過性に優れると共に、軽量化の点で優れている。また、B層を形成する塗工液中の上記無機フィラー粒度を規定することにより、A層への塗工安定性が良好になる。
ここで、「(B層の)単位膜厚当たり目付(透気度)」とは、「(B層の)一定面積における膜厚当たり」を意味し、B層の面積一定のもとで測定した目付(透気度)を、B層の厚みで除すことで算出できる。
なお、具体的なB層の単位膜厚当たり目付(透気度)の算出方法は、後述の実施例の項にて記載する。
【0015】
本発明の積層多孔質フィルム全体(A層+B層)の厚みは、通常、5〜80μmであり、好ましくは、5〜50μmであり、特に好ましくは6〜35μmである。積層多孔質フィルム全体の厚みが5μm未満では破膜しやすくなる。また、厚みが厚すぎると、非水二次電池のセパレータとして用いたときに電池の電気容量が小さくなる傾向にある。
【0016】
また、本発明の積層多孔質フィルム全体の空隙率は、通常、30〜85体積%であり、好ましくは35〜80体積%である。
また、本発明の積層多孔質フィルムの透気度は、ガーレ値で50〜2000秒/100ccが好ましく、50〜1000秒/100ccがより好ましい。
このような範囲の透気度であると、本発明の積層多孔質フィルムをセパレータとして用いて非水二次電池を製造した場合、十分なイオン透過性を示し、電池として高い負荷特性が得られる。
【0017】
シャットダウンが生じる高温における、積層多孔質フィルムの加熱形状維持率としてはMD方向又はTD方向のうちの小さい方の値が、好ましくは95%以上であり、より好ましくは97%以上である。ここで、MD方向とは、シート成形時の長尺方向、TD方向とはシート成形時の幅方向のことをいう。加熱形状維持率が95%未満であると、積層多孔質フィルムをセパレータとして用いた際に、シャットダウンが生じる高温において積層多孔質フィルムの熱収縮により、正−負極間で短絡を起こし、結果的にシャットダウン機能が不十分となるおそれがある。なお、シャットダウンが生じる高温とは80〜180℃の温度であり、通常は130〜150℃程度である。
【0018】
なお、本発明の積層多孔質フィルムには、多孔質ポリオレフィン層と耐熱層以外の、例えば、接着膜、保護膜等の多孔膜が本発明の目的を損なわない範囲で含まれていてもよい。
【0019】
以下、本発明の積層多孔質フィルムを構成する多孔質ポリオレフィン層(A層)及び耐熱層(B層)、並びに積層多孔質フィルムの製造方法について詳細に説明する。
【0020】
<多孔質ポリオレフィン層(A層)>
A層は、その内部に連結した細孔を有す構造を有し、一方の面から他方の面に気体や液体が透過可能であるポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムである。
【0021】
A層におけるポリオレフィン成分の割合は、A層全体の50体積%以上であることを必須とし、90体積%以上であることが好ましく、95体積%以上であることがより好ましい。
【0022】
A層のポリオレフィン成分には、重量平均分子量が5×105〜15×106の高分子量成分が含まれていることが好ましい。特にA層のポリオレフィン成分として重量平均分子量100万以上のポリオレフィン成分が含まれると、A層、さらにはA層を含む積層多孔質フィルム全体の強度が高くなるため好ましい。
【0023】
ポリオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンなどを重合した高分子量の単独重合体又は共重合体が挙げられる。これらの中でもエチレンを主体とする重量平均分子量100万以上の高分子量ポリエチレンが好ましい。
【0024】
A層の透気度は、通常、ガーレ値で30〜500秒/100ccの範囲であり、好ましくは、50〜300秒/100ccの範囲である。
A層が、上記範囲の透気度を有すると、セパレータとして用いた際に、十分なイオン透過性を得ることができる。
【0025】
A層の空隙率は、電解液の保持量を高めると共に、確実にシャットダウン機能を得ることができる点で、20〜80体積%が好ましく、30〜75体積%がより好ましい。
【0026】
A層の孔径は、本発明の積層多孔質フィルムを電池のセパレータとした際に、十分なイオン透過性が得られ、また、正極や負極への粒子の入り込みを防止することができる点で、3μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。
【0027】
A層の膜厚は、積層多孔質フィルムの積層数を勘案して適宜決定される。
特にA層を基材として用い、A層の片面あるいは両面にB層を形成する場合においては、A層の膜厚は、4〜40μmが好ましく、7〜30μmがより好ましい。
【0028】
A層の目付としては、積層多孔質フィルムの強度、膜厚、ハンドリング性及び重量、さらには、電池のセパレータとして用いた場合の電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができる点で、通常、4〜20g/m2であり、5〜12g/m2が好ましい。
【0029】
A層の製造方法は特に限定されるものではなく、例えば特開平7−29563号公報に記載されたように、熱可塑性樹脂に可塑剤を加えてフィルム成形した後、該可塑剤を適当な溶媒で除去する方法や、特開平7−304110号公報に記載されたように、公知の方法により製造した熱可塑性樹脂からなるフィルムを用い、該フィルムの構造的に弱い非晶部分を選択的に延伸して微細孔を形成する方法が挙げられる。
例えば、A層が、超高分子量ポリエチレン及び重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂から形成されてなる場合には、製造コストの観点から、以下に示すような方法により製造することが好ましい。
(1)超高分子量ポリエチレン100重量部と、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィン5〜200重量部と、炭酸カルシウム等の無機充填剤100〜400重量部とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程
(2)前記ポリオレフィン樹脂組成物を用いてシートを成形する工程
(3)工程(2)で得られたシート中から無機充填剤を除去する工程
(4)工程(3)で得られたシートを延伸してA層を得る工程
なお、A層については上記記載の特性を有する市販品を用いることができる。
【0030】
<耐熱層(B層)>
B層は、無機フィラーを主成分とする耐熱層である。なお、無機フィラーの接着には通常、後述するバインダー樹脂が用いられる。
B層において、無機フィラーの含有量は、B層全体の50体積%以上であることを必須とし、無機フィラー同士の接触により形成される空隙が、他の構成成分により閉塞されることが少なくなり、イオン透過性を良好に保つことができ、目付量が多くなりすぎない点、80体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましい。
【0031】
B層に含まれる上記無機フィラーは、モード径が0.2μm以上0.6μm以下であり、かつ、(D95−D5)/D50が3.0以上10.0以下であることを必須とする。
B層を形成するに際し、無機フィラーは、バインダー樹脂と共に溶媒に分散された塗工液として使用され、その塗工性には特に無機フィラーのモード径が影響する。塗工液を調整したときの沈降を抑制することが可能である点で、無機フィラーのモード径の上限は0.6μm以下、好ましくは0.5μm以下であり、また、粒子径が小さすぎる場合には、粒子間の凝集力が強くなりすぎて分散性が低下することから、無機フィラーのモード径の下限は、0.2μm以上、好ましくは、0.3μm以上である。
【0032】
一方、(D95−D5)/D50が、3.0以上10.0以下のとき、無機フィラーは最密充填構造から適度に外れた耐熱層を構築するため、空隙率が増加し、適度なイオン透過性(通気性)を保ちつつ、単位厚み当たりの目付量の減少をもたらし、結果としてイオン透過性に優れ、軽量な非水電解液二次電池に適したセパレータを与えることができる。(D95−D5)/D50が、3.0未満では、無機フィラーの粒子径が均一に近くなりすぎて、最密充填構造に近い構造になりやすく、結果として空隙率の低下をもたらし、延いてはイオン透過性の低下、単位厚み当たりの目付量の増加等をもたらすことになる。そのため、本発明の積層多孔質フィルムをセパレータに適用する場合に好ましくない。
【0033】
B層の透気度は、単位厚み当たりの透気度で、1sec/100cc・μm以上10sec/100cc・μm以下であることが好ましい。単位厚み当たりの透気度が1sec/100cc・μmより低い場合には、実質的に空隙率が高くなって、膜構造が粗になっていることを意味し、結果として膜強度が低下して、特に高温での形状安定性が不十分になるおそれがある。一方、単位厚み当たりの透気度が10sec/100cc・μmを超えると、セパレータとして用いたときに、十分なイオン透過性を得ることができないため好ましくない。
【0034】
また、B層の単位厚み当たりの目付は、2.0g/m2・μm以下であることが好ましい。単位厚み当たりの目付が、2.0g/m2・μmを超えると、積層多孔質フィルム全体の重量が増加しすぎてセパレータとしての使用に適さなくなる。
【0035】
本発明において使用されるフィラーとしては、充填材と一般的に呼ばれる無機フィラーを用いることができる。無機フィラーとして、具体的には、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、ハイドロタルサイト、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、窒化チタン、アルミナ(酸化アルミニウム)、窒化アルミニウム、マイカ、ゼオライト、ガラス等の無機物からなるフィラーが挙げられる。なお、無機フィラーは、単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。
無機フィラーの中でも、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト等の無機酸化物フィラーが好ましく、特にアルミナ、シリカ、酸化マグネシウム及び酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、この中でもアルミナが好ましい。
アルミナには、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ等の多くの結晶形が存在するが、いずれも好適に使用することができる。この中でも、α−アルミナが熱的・化学的安定性が特に高いため、最も好ましい。
無機フィラーの形状は、対象となる無機物の製造方法や塗工液作製の際の分散条件によって、球形、長円形、短形、瓢箪形等の形状や、特定の形状を有さない不定形など、様々なものが存在するが、上記に記した粒度であればいずれも使用することができる。
【0036】
フィラーの平均粒径は、3μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。フィラーの形状としては、球状、瓢箪状が挙げられる。なお。フィラーの平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて、25個ずつ粒子を任意に抽出して、それぞれにつき粒径(直径)を測定して、25個の粒径の平均値として算出する方法や、BET比表面積を測定し、球状近似することで平均粒径を算出する方法がある。なお、SEMによる平均粒径算出時は、フィラーの形状が球状以外の場合は、フィラーにおける最大長を示す方向の長さをその粒径とする。なお、B層には粒径や比表面積が異なる2種以上のフィラーを同時に含ませてもよい。
【0037】
B層の膜厚は、積層多孔質フィルムの積層数を勘案して適宜決定される。
特にA層を基材として用い、A層の片面あるいは両面にB層を形成する場合においては、B層の膜厚(両面の場合は合計値)は、通常0.1μm以上20μm以下であり、好ましくは2μm以上15μm以下の範囲である。
B層の膜厚が大きすぎると、セパレータとして用いた時に、非水電解液二次電池の負荷特性が低下するおそれがあり、薄すぎると、事故等により該電池の発熱が生じたときにポリオレフィンの多孔膜の熱収縮に抗しきれずセパレータが収縮するおそれがある。
【0038】
B層にはフィラー以外に、B層を構成するフィラー同士、フィラーとA層とを結着させるために、バインダー樹脂が含まれる。かかるバインダー樹脂としては、電池の電解液に不溶であり、またその電池の使用範囲で電気化学的に安定である樹脂が好ましい。
例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレンなどの含フッ素樹脂、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体やエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などの含フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリ酢酸ビニルなどのゴム類、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルアミド、ポリエステルなどの融点やガラス転移温度が180℃以上の樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸等の水溶性ポリマーが挙げられる。
これらの中でも、セルロースエーテル、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸等の水溶性ポリマーは、溶媒として水を用いることができ、プロセスや環境負荷の点で好ましく、特にセルロースエーテルが好ましく用いられる。
セルロースエーテルとして具体的には、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、シアンエチルセルロース、オキシエチルセルロース等が挙げられ、化学的な安定性に優れたCMC、HECが好ましく、特にCMCが好ましい。
【0039】
<積層多孔質フィルムの製造方法>
本発明の積層多孔質フィルムの製造方法は、上述の積層多孔質フィルムが得ることができれば特に限定されず、フィラーやバインダー樹脂を含む塗工液をA層の上に直接塗布し溶媒(分散媒)を除去する方法;塗工液を適当な支持体の上に塗布し、溶媒(分散媒)を除去して形成したB層をA層と圧着させた後に支持体を剥がす方法;塗工液を適当な支持体の上に塗布し次いでA層と圧着させ支持体から剥がした後に溶媒(分散媒)を除去する方法;塗工液中にA層を浸漬し、ディップコーディングを行った後に溶媒(分散媒)を除去する方法;等が挙げられる。なお、支持体としては、樹脂製のフィルム、金属製のベルト、ドラム等を用いることができる。
また、A層の両面にB層を積層する場合においては、片面にB層を形成させた後に他面にB層を積層する逐次積層方法や、A層の両面に同時にB層を形成させる同時積層方法が挙げられる。
【0040】
B層を形成するに際し、前記の無機フィラーやバインダー樹脂は、溶媒に分散された塗工液として使用される。フィラーやバインダー樹脂を分散させる溶媒(分散媒)としては、フィラーやバインダー樹脂が均一かつ安定に溶解又は分散させることができる溶媒であればよい。具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、トルエン、キシレン、ヘキサン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどを挙げることができる。
【0041】
フィラーやバインダー樹脂を分散させて塗工液を得る方法としては、所望のB層を得るに必要な分散液特性が得られる方法であればよく、例えば、機械攪拌法、超音波分散法、高圧分散法、メディア分散法などを挙げることができる。また、該塗工液には、本発明の目的を損なわない範囲でフィラー及びバインダー樹脂以外の成分として、分散剤、可塑剤、pH調製剤などを、本発明の目的を損なわない範囲で含んでいてもよい。
【0042】
塗工液をA層または支持体に塗布する方法としては、必要な目付や塗工面積を実現しうる方法であれば特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクターブレードコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法などが挙げられる。
【0043】
溶媒(分散媒)の除去方法は、乾燥による方法が一般的である。乾燥方法としては、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥などいかなる方法でもよい。また、塗工液の溶媒(分散媒)を他の溶媒に置換してから乾燥を行ってもよい。
好適な溶媒(分散媒)の除去方法を例示すると、塗工液の溶媒(分散媒)に溶解し、かつ、塗工液に含まれるバインダー樹脂を溶解しない他の溶媒(以下、溶媒X)を使用し、塗工液が塗布されたA層あるいは支持体を浸漬し、A層あるいは支持体の上の膜状の塗工液から溶媒(分散媒)を溶媒Xで置換した後に、溶媒Xを蒸発させる方法が挙げられる。この方法では、効率よく溶媒(分散媒)を除去することができる。
なお、塗工液が塗布されたA層から、塗工液の溶媒(分散媒)あるいは溶媒Xを除去する際に加熱を行う場合には、A層の細孔が収縮して透気度が低下することを回避するために、A層の透気度が低下しない温度で行うことが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
実施例及び比較例の積層多孔質フィルムの物性等は以下の方法で測定した。
(1)厚み測定(単位:μm)
フィルムの厚みは、JIS規格(K7130−1992)に従い、測定した。
(2)目付(単位:g/m2
得られた積層多孔質フィルムのサンプルを一辺の長さ8cmの正方形に切り、重量W(g)を測定した。目付(g/m2)=W/(0.08×0.08)で算出した。無機フィラーを主成分とする耐熱層(B層)の目付は、積層多孔質フィルムの目付から多孔質ポリオレフィン層(A層)の目付を差し引いた上で算出した。
(3)B層の単位膜厚当たりの目付(単位:g/m2・μm)
無機フィラーを主成分とする耐熱層(B層)の単位膜厚当たりの目付(M)は、次式により算出した。
M(g/m2・μm)=(積層多孔質フィルムの目付−A層の目付)/B層の厚み
(4)透気度(単位:sec/100cc)
積層多孔質フィルムの透気度は、JIS P8117に基づいて、株式会社東洋精機製作所製のデジタルタイマー式ガーレ式デンソメータで測定した。
(5)B層の単位膜厚当たりの透気度(単位:sec/100cc・μm)
無機フィラーを主成分とする耐熱層(B層)の単位膜厚当たりの透気度(T)は、次式により算出した。
T(sec/100cc・μm)=(積層多孔質フィルムの透気度−A層の透気度)/B層の厚み
(6)モード径、D5、D50、95
無機フィラーを含む塗工液を水に希釈し、レーザー回折式粒度分布測定装置(Sald2200)で測定した。なお、モード径とはレーザー回折式における粒度分布において面積%での出現比率が最も大きい粒子径であり、D5、D50及びD95はそれぞれ、レーザー回折式に粒度分布における粒度分布の累積グラフにおける5面積%、50面積%及び95面積%での粒子径を表す。
(7)加熱形状維持率(単位:%)
積層多孔質フィルムを8cm×8cmに切り出し、外周に1cm間隔をとるように該フィルム中に6cm×6cmの正方形からなる標線を記載し、MD、TD両方向での加熱前寸法(L1)を測定した。その後、フィルムを紙に挟みこみ固定した状態で、150℃のオーブンにて60分間加熱した。放冷後、フィルムを取り出し、MD、TD両方向の加熱後寸法(L2)を測定し、次式により、MD、TDの加熱形状維持率を算出した。
加熱形状維持率(%)=(L2/L1)×100
【0046】
「実施例1」
(1)塗工液の調製
実施例1の塗工液は以下の手順で作製した。
まず、媒体として、33重量%エタノール水溶液にカルボキシメチルセルロース(CMC、第一工業製薬株式会社製セロゲン4H)を溶解させてCMC溶液を得た(CMC濃度:0.60重量%対CMC溶液)。
次いで、CMC換算で100重量部のCMC溶液に対して、以下のフィラー(a1)を500重量部、フィラー(b1)を3000重量部を添加、混合して、APV社ゴーリンホモジナイザー(15MR−8TA型)を用いた高圧分散条件(60MPa)にて3回処理することにより、塗工液1を調整した。
・フィラー(a1):住友化学株式会社製AKP−G008
平均粒径:0.024μm
比表面積 :70m2/g
粒子形状 :略球状
・フィラー(b1):住友化学株式会社製AKP−3000
平均粒径:0.54μm
比表面積:4.3m2/g
粒子形状:瓢箪型

(2)多孔質ポリエチレン(PE)層の作製
超高分子量ポリエチレン粉末(340M、三井化学株式会社製)70重量%及び重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精蝋株式会社製)30重量%と、該超高分子量ポリエチレン粉末及びポリエチレンワックスの合計量100重量部に対して、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を0.4重量%、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)0.1重量%、ステアリン酸ナトリウム1.3重量%を加え、さらに全体積に対して38体積%になるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃の一対のロールにて圧延しシートを作製した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることにより、シートに含まれる炭酸カルシウムを除去し、続いてTDに延伸することにより、以下の性状の多孔質PE層<A1>を得た。
・多孔質PE層<A1>
膜厚:14.1μm
目付:6.5g/m2
透気度:104sec/100cc

(3)積層多孔質フィルムの作製
グラビア塗工機を用いて、基材として、多孔質PE層<A1>の片面に上記塗工液1を塗布・乾燥し、耐熱層(B層)1μm当たりの目付が1.1g/m2、B層1μm当たりの透気度が3.5sec/100ccである積層多孔質フィルムを作製した。
【0047】
「実施例2」
(1)塗工液の調製
上記実施例1の(1)塗工液の調整操作において添加されたフィラー(b1)を、以下のフィラー(b2)にした以外は塗工液1と同様の操作を行うことにより、塗工液2を調整した。
・フィラー(b2):住友化学株式会社製スミコランダムAA−03
平均粒径:0.42μm
比表面積 :4.8m2/g
粒子形状 :略球状

(2)多孔質ポリエチレン(PE)層の作製
上記実施例1の(2)多孔質PE層の作製操作に準じ、以下の性状の多孔質PE層<A2>を得た。
・多孔質PE層<A2>
膜厚:16.1μm
目付:6.8g/m2
透気度:110sec/100cc

(3)積層多孔質フィルムの作製
グラビア塗工機を用いて、基材として、多孔質PE層<A2>の片面に上記塗工液2を塗布・乾燥し、耐熱層(B層)1μm当たりの目付が1.7g/m2、B層1μm当たりの透気度が6.4sec/100ccである積層多孔質フィルムを作製した。
【0048】
「実施例3」
(1)塗工液の調製
上記実施例1の(1)塗工液の調整操作において、添加されたフィラー(b1)のみとし、CMC溶液100重量部に対して、添加量を3500重量部を添加した以外は塗工液1と同様の操作を行うことにより、塗工液3を調整した。

(2)多孔質ポリエチレン(PE)層の作製
上記実施例1の(2)多孔質PE層の作製操作に準じ、以下の性状の多孔質PE層<A3>を得た。
・多孔質PE層<A3>
膜厚:14.7μm
目付:6.8g/m2
透気度:107sec/100cc

(3)積層多孔質フィルムの作製
グラビア塗工機を用いて、基材として、多孔質PE層<A3>の片面に上記塗工液3を塗布・乾燥し、耐熱層(B層)1μm当たりの目付が1.7g/m2、B層1μm当たりの透気度が7.3sec/100ccである積層多孔質フィルムを作製した。
【0049】
「実施例4」
(1)多孔質ポリエチレン(PE)層の作製
上記実施例1の(2)多孔質PE層の作製操作に準じ、以下の性状の多孔質PE層<A4>を得た。
・多孔質PE層<A4>
膜厚:14.6μm
目付:6.8g/m2
透気度:104sec/100cc

(2)積層多孔質フィルムの作製
グラビア塗工機を用いて、基材として、多孔質PE層<A4>の両面に上記実施例1で用いた塗工液1を塗布・乾燥し、耐熱層(B層)1μm当たりの目付が1.5g/m2、B層1μm当たりの透気度が4.1sec/100ccである積層多孔質フィルムを作製した。
なお、実施例4の積層多孔質フィルムにおいて、B層の厚みは多孔質PE層の両面に塗工したB層の合計であり、耐熱層(B層)1μm当たりの目付は、前記B層の合計を基準として算出した値である。
【0050】
「実施例5」
(1)塗工液の調製
上記実施例2の(1)塗工液の調整操作において、フィラー(a1)及びフィラー(b2)の添加量を、フィラー(a1)を1000重量部、フィラー(b2)を500重量部とした以外は塗工液2と同様の操作を行うことにより、塗工液4を調整した。

(2)多孔質ポリエチレン(PE)層の作製
上記実施例1の(2)多孔質PE層の作製操作に準じ、以下の性状の多孔質PE層<A5>を得た。
・多孔質PE層<A5>
膜厚:12.5μm
目付:6.3g/m2
透気度:128sec/100cc

(3)積層多孔質フィルムの作製
グラビア塗工機を用いて、基材として、多孔質PE層<A5>の両面に塗工液4を塗布・乾燥し、耐熱層(B層)1μm当たりの目付が0.7g/m2、B層1μm当たりの透気度が4.9sec/100ccである積層多孔質フィルムを作製した。
なお、実施例5の積層多孔質フィルムにおいて、B層の厚みは多孔質PE層の両面に塗工したB層の合計であり、耐熱層(B層)1μm当たりの目付は、前記B層の合計を基準として算出した値である。
【0051】
「比較例1」
(1)塗工液の調製
上記実施例2の(1)塗工液の調整操作において、フィラー添加、混合後の分散をアシザワファインテック社製ビーズミル(LMZ−2)を使用し、条件(周速:8m/sec、ビーズ径:0.8mm、スクリーン目開き:0.3mm、流速:1.5L/min、3pass)で行った以外は、塗工液2と同様の操作を行うことにより、塗工液5を調整した。
(2)積層多孔質フィルムの作製
塗工液5を、多孔質PE層<A2>に実施例2と同様の方法にて塗工・乾燥処理を行ったが、塗工液5中の粒径の大きなフィラーの影響により、塗工面にスジが入り、均一な積層多孔質フィルムは得られなかった。
【0052】
「比較例2」
(1)塗工液の調製
上記実施例1の(1)塗工液の調整操作において、フィラー(a1)のみを1000重量部添加し、フィラー(b1)を添加しなかったこと以外は塗工液1と同様の操作を行うことにより、塗工液6を調整した。
(2)積層多孔質フィルムの作製
塗工液6を、多孔質PE層<A5>に実施例5と同様の方法にて塗工・乾燥処理を行ったが、粉落ちが激しく、多孔質PE層<A5>と密着性のあるB層は得られなかった。
これは、表面積の大きな微粒アルミナからなるフィラー(a1)の影響により、フィラー同士や多孔質PE層との結着に寄与するCMC量が相対的に少なくなるためと考えられる。
【0053】
「比較例3」
(1)塗工液の調製
上記実施例2の(1)塗工液の調整操作において、フィラー(b2)のみ添加した以外は塗工液2と同様の操作を行うことにより、塗工液7を調整した。

(2)多孔質ポリエチレン(PE)層の作製
上記実施例1の(2)多孔質PE層の作製操作に準じ、以下の性状の多孔質PE層<A6>を得た。
・多孔質PE層<A6>
膜厚:15.2μm
目付:7.3g/m2
透気度:114sec/100cc

(3)積層多孔質フィルムの作製
グラビア塗工機を用いて、基材として、多孔質PE層<A6>の片面に塗工液7を塗布・乾燥し、耐熱層(B層)1μm当たりの目付が12.7g/m2、B層1μm当たりの透気度が2.1sec/100ccである積層多孔質フィルムを作製した。
【0054】
上記で得られた塗工液1〜7の物性を表1、積層多孔質フィルムの物性を表2にまとめて示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、安定的に作製することが可能であり、熱安定性及びイオン透過性(透気性)に優れ、かつ、軽量な積層多孔質フィルムが提供される。積層多孔質フィルムをセパレータとして用いた非水電解液二次電池は、事故により電池が激しく発熱してもセパレータが正極と負極が直接接触することを防止し、かつポリオレフィンの多孔膜の迅速な無孔化による絶縁性の維持により安全性の高い非水電解液二次電池となるので、本発明は工業的に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンを主成分とする多孔質ポリオレフィン層と無機フィラーを主成分とする耐熱層とを含む積層多孔質フィルムであって、
前記耐熱層に含まれる無機フィラーが、モード径が0.2μm以上0.6μm以下であり、かつ、(D95−D5)/D50が3.0以上10.0以下の無機フィラーであることを特徴とする積層多孔質フィルム。
【請求項2】
前記無機フィラーが、アルミナである請求項1に記載の積層多孔質フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の積層多孔質フィルムを用いてなるセパレータ。

【公開番号】特開2013−14017(P2013−14017A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146448(P2011−146448)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】