説明

積層構造体、並びにその亀裂検知方法及び亀裂検知構造

【課題】亀裂の進展を促進させる荷重を除いた無負荷環境下であっても亀裂を検知可能とする。
【解決手段】互いに積層されたコア層2及び表層4の界面領域に、亀裂の進展を促進させる荷重が作用しているときに亀裂先端に生じ得る応力を分担することによって該亀裂の進展を抑制するクラックアレスタ5が設けられ、クラックアレスタ5に、定常時と歪み負荷時とで異なる反射光スペクトルを出力する光ファイバ11と、クラックアレスタ5が分担する応力により塑性変形可能であって亀裂の進展を促進させる荷重が除かれた後にもその塑性変形が残留変形として残って光ファイバ11A,11Bに歪みを生じさせ得る可塑性部材9とが埋め込まれる。亀裂の進展を促進させる荷重が除かれた後に、光ファイバ11が出力する反射光スペクトルC,Pを解析し、解析された反射光スペクトルC,Pの形状に基づいて、クラックアレスタ5と亀裂先端との間の距離を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は互いに積層されたコア層及び表層を接合してなる積層構造体の界面亀裂を検知するための方法及び構造と、当該構造を備えた積層構造体とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、航空機の構造部材などに適用する材料として、所謂フォームコアサンドイッチ構造体(以下、便宜的に「FCS構造体」と略記する)が注目されている(例えば非特許文献1参照)。FCS構造体は、発泡合成樹脂製のコア層を繊維強化複合材料製の表層で挟み込んでなり、軽量で比剛性及び比強度が高く、断熱性及び成形性に優れるといった様々な長所を有する。その一方、FCS構造体に損傷が生じた場合には、その部位を起点とする亀裂がコア層の接合界面近くに発生しやすい。更に何らかの要因でFCS構造体に荷重が作用すると、その荷重に基づいてコア層の亀裂先端に高応力領域が生じ、亀裂が接合界面に沿って進展していくおそれがある。
【0003】
FCS構造体の実用に際してはこの亀裂進展の抑制が重要な技術的課題の一つとなり、これを解決すべく、表層とコア層との間にクラックアレスタを設けることが提案されている(例えば特許文献1及び非特許文献2,3参照)。これによれば、FCS構造体に荷重が作用しても、その荷重に基づき生じる応力がクラックアレスタによって分担される。その結果、亀裂先端における高応力領域の緩和がもたらされ、亀裂の進展が抑制される。
【0004】
また、実用に供したFCS構造体の信頼性を維持するには、亀裂に対する処置を適切且つ即座に行えるよう亀裂の発生箇所や進展程度を非破壊で容易に検知可能であることが望ましい。そこで本願発明者は既に、クラックアレスタ内に埋め込んだ2つのFBGセンサを利用した亀裂の検知方法を発明している(例えば特許文献2参照)。
【0005】
クラックアレスタに2つのFBGセンサを互いに離隔して埋め込むと、亀裂に近い側に埋め込まれているFBGセンサには、クラックアレスタに分担される応力によって光ファイバ軸と垂直方向に非軸対称の歪みが生じる。かかる歪みが生じると、FBGセンサの反射光スペクトルのピークが複屈折効果により2つに分かれる(例えば非特許文献4参照)。また、2つのピークの波長差は歪みが大きいときほど大きくなる。他方、亀裂から遠い側では応力が生じにくく、そこに埋め込まれているFBGセンサの反射光スペクトルは健全時のものとほとんど変わりがない。これら2つの反射光スペクトルを参照することにより、亀裂がクラックアレスタに対して何れの側で発生し、その進展がどの程度かを非破壊で検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−282046号公報
【特許文献2】特開2009−51368号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】F. Aviles et al., Experimental Study of Debonded Sandwich Panels under Compressive Loading, Journal of Sandwich Structures and Materials, Vol. 8, No. 1, 7-31 (2006)
【非特許文献2】J. Jakobsen et al., New peel stopper concept for sandwich structures, Composites Science and Technology, Vol. 67, No. 15-16, 3378-3385 (2007)
【非特許文献3】Y. Hirose et al., Suppression of interfacial crack for foam core sandwich panel with crack arrester, Adv. Composite Mater., Vol. 16, No. 1, 11-30 (2007)
【非特許文献4】R.Gafsi et al., Analysis of induced-birefringence effects on fiber Bragg gratings, Optical Fiber Technology, Vol. 6, No. 3, 299-323 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した従来の亀裂の検知方法は、亀裂の進展を促進させるような荷重がFCS構造体に作用するとクラックアレスタに応力が生じることに着目し、この荷重作用時の応力に基づいてFBGセンサが発揮する複屈折効果を利用するものである。しかし、FCS構造体から荷重を除いた無負荷環境下では、クラックアレスタの応力が低下してFBGセンサの複屈折効果が解消する。このため、実際に亀裂の進展があったとしても、2つのFBGセンサの反射光スペクトルは何れも健全時のものと同様となり、亀裂の位置の情報が失われてしまう。
【0009】
よって、従来の方法によれば、無負荷環境下で亀裂を検知することが非常に難しくなる。例えば航空機にFCS構造体を適用した場合に亀裂の検知を試みるには、陸上で駐機している航空機に飛行中と同程度の大きな空力荷重を作用させるか、飛行中のFBGセンサの出力を逐次記録するため機内に専用のデータロガーを搭載する必要が生じる。前者の手法は非現実的であり、後者の手法によれば、機内スペースの圧迫や航空機全体の重量増加や航空機のコスト増加を招くこととなり、特に小型航空機にFCS構造体を適用することが難しくなる。
【0010】
そこで本発明は、無負荷環境下においても非破壊で容易に亀裂を検知可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明に係る積層構造体の亀裂検知方法は、互いに積層されたコア層及び表層を接合してなる積層構造体の前記コア層に発生した亀裂を検知するための方法であって、前記積層構造体が、亀裂の進展を促進させる荷重が作用しているときに亀裂先端に生じ得る応力を分担することによって該亀裂の進展を抑制するクラックアレスタと、前記クラックアレスタに埋め込まれ、定常時と歪み負荷時とで異なる反射光スペクトルを出力する光ファイバと、前記クラックアレスタに埋め込まれ、前記クラックアレスタが分担する応力により塑性変形可能な可塑性部材とを備え、亀裂の進展を促進させる荷重が作用するときに前記可塑性部材を塑性変形させ、前記亀裂の進展を促進させる荷重が除かれた後に、前記可塑性部材の残留変形により歪みが生じ得る前記光ファイバが出力する反射光スペクトルを解析し、解析された前記反射光スペクトルの形状に基づいて、前記クラックアレスタと前記亀裂先端との間の距離を測定する、ことを特徴としている。
【0012】
これにより、亀裂の進展によりクラックアレスタが分担した応力に基づいて可塑性部材が塑性変形した後に、該亀裂の進展を促進させる荷重が除かれてクラックアレスタに応力が生じない状態となっても、可塑性部材の残留変形により光ファイバの歪みが保持され、光ファイバからは歪みのない定常時と異なる反射光スペクトルが出力される。よって、無負荷環境下においても当該反射光スペクトルを参照することによって、亀裂の進展を検知することができるようになる。
【0013】
本発明に係る積層構造体の亀裂検知構造は、互いに積層されたコア層及び表層を接合してなる積層構造体の亀裂検知構造であって、前記コア層と前記表層との界面領域に設けられ、前記コア層に発生した亀裂先端に生じ得る応力を分担することによって該亀裂の進展を抑制するクラックアレスタと、前記クラックアレスタに埋め込まれ、定常時と歪み負荷時とで異なる反射光スペクトルを出力する光ファイバと、前記クラックアレスタに埋め込まれた可塑性部材と、を備え、前記可塑性部材は前記クラックアレスタが分担する応力により塑性変形可能であり、塑性変形した前記可塑性部材による残留応力に基づいて前記光ファイバに歪みが生じ得る構成としたことを特徴としている。また、本発明に係る積層構造体は、互いに積層されたコア層及び表層を接合してなり、上記亀裂検知構造を備えることを特徴としている。
【0014】
このような構成とすることにより、上記同様にして、亀裂の進展によりクラックアレスタが分担した応力に基づいて可塑性部材が塑性変形した後に、該亀裂の進展を促進させる荷重が除かれても、光ファイバからは歪みのない定常時と異なる反射光スペクトルが出力される。よって、無負荷環境下においても亀裂を検知することができるようになる。
【0015】
前記クラックアレスタは亀裂の進展経路を横切るようにして直線状に延在しており、前記光ファイバ及び前記可塑性部材は、前記クラックアレスタの延在方向と平行に延設されていることが好ましい。これにより、可塑性部材は、自身が埋め込まれるクラックアレスタによって抑制され得る亀裂がどの経路で進展したとしても、該亀裂の進展を促進させる荷重に基づいて塑性変形するようになる。光ファイバは、この塑性変形の残留応力に基づいて定常時と異なる反射光スペクトルを出力するようになるため、亀裂の進展を広範囲で検知することができるようになる。
【0016】
一対の前記光ファイバが、前記クラックアレスタの前記表層に沿う両端部に分かれて埋め込まれていると共に、前記可塑性部材が前記光ファイバの各々に対応して設けられていることが好ましい。これにより、クラックアレスタの両側で生じる亀裂の進展を検知することができる。
【0017】
前記可塑性部材が鉛製であってもよく、これにより上記作用効果を奏する積層構造体を実現可能となる。
【0018】
また、前記コア層が発泡合成樹脂材料からなり、前記表層が繊維強化複合材料からなっていてもよい。これにより、FPC構造体のコア層の亀裂を無負荷環境下において検知することができるようになり、FPC構造体を航空機等の構造部材として利用した際に、その構造部材の信頼性を維持することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、無負荷環境下においても非破壊で容易に亀裂を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係るフォームコアサンドイッチ構造体の分解斜視断面図である。
【図2】図1に示すフォームコアサンドイッチ構造体における亀裂検出の原理を説明するための概念図であり、(a)がフォームコアサンドイッチ構造体の亀裂進展中に荷重がかかった状態を示す概念図、(b)が除荷された状態を示す概念図である。
【図3】本発明の実施形態に係るフォームコアサンドイッチ構造体のFEMモデルを示す図である。
【図4】図3に示すFEMモデルによる解析結果を示す図であり、(a)が亀裂先端とクラックアレスタ間の距離が20mmである場合、(b)が当該距離が10mmである場合、(c)が当該距離が0mmである場合を夫々示す図である。
【図5】図4に示す解析結果の検証試験の結果を示す図であり、(a)が亀裂先端とクラックアレスタ間の距離が20mmである場合、(b)が当該距離が10mmである場合、(c)が当該距離が0mmである場合を夫々示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、これら添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図1に示すフォームコアサンドイッチ構造体1(以下「FCS構造体1」という)は、コア層2の表面3のそれぞれに表層4を積層接着してなる。コア層2は例えばポリエーテルイミドやポリメタクリルイミド等の発泡合成樹脂材料からなり、表層4は繊維強化複合材料(以下「FRP」という)からなる。FRPは、直径約10μmの強化繊維が張架された基材に例えばエポキシ樹脂等のマトリクス樹脂を含浸してなり、強化繊維としては炭素繊維やガラス繊維が用いられる。かかる構成のFCS構造体1は断熱性及び成形性に優れ、軽量且つ高剛性及び高強度であり、その機械的特性から航空機の機体や高速鉄道車両の構体等の構造部材に好適に利用され得る。
【0022】
FCS構造体1に荷重が作用すると、表層4はコア層2よりも強度が高いことから、コア層2と表層4の接合界面の周辺領域に生ずる応力によってコア層2に亀裂が発生する場合がある。亀裂が発生するとその先端部位に応力集中が発生して亀裂が接合界面に沿って進展するおそれがある。そこで、このFCS構造体1には亀裂進展を抑制するための複数のクラックアレスタ5が設けられている。図示例では複数のクラックアレスタ5が、FCS構造体1の縦横方向(XY方向)に格子状に張り巡らされた場合を示しているが、予測し得る亀裂の進展方向に対し略直交する方向に延びるよう設けられていればよく、縦、横又はこれに傾斜する一方向に対し略平行に並ぶようにして設けられていてもよい。
【0023】
図2には、横方向(X方向)の亀裂進展を抑制すべく縦方向(Y方向)に延びるようにして設けられたクラックアレスタ5の断面が示されている。図2に示すように、各クラックアレスタ5は、例えば断面半円弧状の樋部6の内部にFRPからなる複数の棒状部材(図示せず)を敷き詰めることにより製作され、結果半円筒状に形成される。かかるクラックアレスタ5が、コア層2の表面3に予め形成された溝内に嵌め込まれ、コア層2と表層4との間に設置される。クラックアレスタ5の外周面のうち、断面円弧状の曲面部はコア層2の溝の内面に沿って配置され、断面弦状の平面部はコア層2の表面3と面一となり表層4と接合される。
【0024】
更にこのFCS構造体1は、亀裂の発生箇所や進展程度を検知するための構造として、クラックアレスタ5と共に、FBG(Fiber Bragg Grating;ファイバ・ブラッグ・グレーティング)センサ8及び可塑性部材9を有する。これらFBGセンサ8及び可塑性部材9はクラックアレスタ5内に埋め込まれるようにして設けられている。
【0025】
より具体的には、一対のFBGセンサ8A,8B及び一対の可塑性部材9A,9Bがそれぞれ、クラックアレスタ5内において、表層4付近の両端部10A,10Bに分かれて設けられている。ここでいう両端部10A,10Bとは、クラックアレスタ5の長手方向に直交する方向(X方向)、即ちクラックアレスタ5によって抑制される亀裂の進展方向(X方向)において、互いに離れた端部同士である。なお、この説明では、図2の左側を一端部10A、右側を他端部10Bとし、一端部10Aに設けられたFBGセンサ8、可塑性部材9及びこれらに関連する構成には参照符号に添え字A(例えば8A,11A等)を付し、他端部10Bのそれには添え字B(例えば8B,11B等)を付し、両端部10A,10Bで共通する構成には特に添え字を付さないものとしている。
【0026】
FBGセンサ8はグレーティング部を有する複数の光ファイバ11と、図示しない光スペクトルアナライザとを備えている。光ファイバ11にはLEDなどを用いた広帯域光源から光が入射するようになっており、光スペクトルアナライザは光ファイバ11のグレーティング部で反射された反射光を解析し、スペクトルに関する情報を生成する。この情報は図示しないコンピュータに出力され、当該コンピュータは入力した情報に基づいて2つの光ファイバ11A,11Bからの反射光スペクトルを参照し、表層4及びコア層2間の亀裂の発生位置を測定することができる。
【0027】
光ファイバ11は、例えばコア外径が8.5μm〜10μm、クラッド外径が40μm〜125μm程度の通信用シングルモード光ファイバによって実現される。グレーティング部は、光ファイバ11のコアの屈折率を軸方向に周期的に変化させたブラッグ格子である。また、グレーティング部は、長さが例えば約10mm、周期が例えば約530nmであり、光ファイバ11の延在方向に50mm〜300mm程度の間隔をあけて形成される。なお、当該間隔の具体的数値はこれに限られず、亀裂の発生位置を検出しようとする対象構造物は部位に応じて、要求される検出位置にグレーティング部が配置されるよう任意に選ばれる。
【0028】
可塑性部材9は光ファイバ8の付近に配置されている。可塑性部材9は、クラックアレスタ5に分担応力が生じたときにその応力によって永久変形(塑性変形)可能な部材であれば、どのようなものであってもよく、本実施形態では鉛からなる線材が適用されている。鉛はかかる塑性変形を生じさせる上で好適な材料であるが、その他にもマグネシウム合金などを好適に適用することができる。また、線材とすることにより、可塑性部材9をクラックアレスタ5の長手方向の全体に亘って埋め込むことが可能となる。但し、可塑性部材9は少なくとも光ファイバ11のグレーティング部に隣接して配置されていればよい。
【0029】
次に、図2(a)及び図2(b)を参照しながら、上記のようにクラックアレスタ5にFBGセンサ8及び可塑性部材9を埋め込んだ場合における、亀裂の検知方法の原理を説明する。図2(a)は亀裂を進展させるような荷重が作用している状態、図2(b)はその後この荷重が除かれた状態を示しており、これら図では縦方向(Y方向)に延びるクラックアレスタ5に対して横方向(X方向)の一方側(図1左側)から亀裂が進展する場合を例示する。
【0030】
図2(a)を参照し、亀裂を進展させるような荷重が作用すると、クラックアレスタ5に応力が生じるが、この応力は、亀裂の進展方向に関し、亀裂に近い側であるほど大きくなる。このため、亀裂の進展方向の上流側となる一端部10Aに配置された光ファイバ11Aには、この応力に基づいて非軸対称な歪みが発生し、そのコア内には直交する2つの主応力方向に対して夫々異なる屈折率が生じる。この歪み負荷時には、偏光面となる2つのグレーティング部は異なる波長の独立した光を反射することとなり、その反射光のスペクトルは、実線Bに示すように、2つのピークに分離して顕著な双方性を示す。なお、図2(a)の点線Aは、亀裂が生じていない状態で荷重が作用した場合における、光ファイバ11Aの反射光のスペクトルを示したものである。他方、亀裂の進展方向の下流側となる他端部10Bに配置された光ファイバ11Bには、上記のような歪みが発生しない。よって、光ファイバ11Bの反射光のスペクトルには、1つのピークが現れる(実線P参照)。
【0031】
そして、一端部10Aに配置された可塑性部材9Aは、クラックアレスタ5に生ずる応力に基づいて塑性変形する。これに対し、他端部10Bに配置された可塑性部材9Bは変形せずにもとの形状を維持する。
【0032】
図2(b)を参照し、その後に荷重が除かれると、クラックアレスタ5に生じていた応力も除かれる。他端部10Bに関しては、荷重の作用時においても光ファイバ11Bの歪み及び可塑性部材の変形が見られなかったことから、除荷の前後で光ファイバ11Bの反射光のスペクトルにも変化が見られない(実線P参照)。これに対し、一端部10Aに関しては、可塑性部材9Aの塑性変形が残留変形として残り、この残留変形の影響によりクラックアレスタ5内には可塑性部材9Aの付近において応力が生じている状態が保持される。この残留応力に基づいて、一端部10Aに配置された光ファイバ11Aは、非軸対称の歪みを生じた状態を保持する。この残留歪みのため、光ファイバ11Aの反射光のスペクトルは、荷重作用時と比べると顕著ではないものの、2つのピークに分離する(点線B、実線C参照)。
【0033】
そして、FGBセンサ8はこれら2つの光ファイバ11A,11BのスペクトルC,Pに関する情報をコンピュータに出力する。ここで、これら2つのスペクトルC,Pの形状は、グレーティング部と亀裂先端との位置関係に依存するグレーティング部の3次元応力状態と直接的に関係付けられる。例えば、スペクトルCのような場合、2つの分離したピークの間隔は直交するX,Y主応力方向の垂直応力差と比例し、これをグレーティング部と亀裂先端との間の距離の関数とすることができる。また、スペクトルPのような場合、例えばスペクトルの半値幅(ピーク値の1/2値を与える波長の間隔)をグレーティング部と亀裂先端との間の距離の関数とすることができる。コンピュータには、入力した情報の解析のためにかかる関数が予め設定され、当該関数を利用してグレーティング部と亀裂先端との間の距離を測定することができる。
【0034】
このように本実施形態においては、クラックアレスタ5に可塑性部材9を埋め込んだことにより、亀裂の進展を促進させる荷重が除かれても、光ファイバ11に非軸対称の残留歪みを生じさせることができるようになっている。したがって、無負荷環境下においても、当該反射光スペクトルを参照することによって、亀裂を非破壊で容易に検知することができるようになる。
【0035】
クラックアレスタ5は亀裂の進展経路を横切るようにして直線状に延在しており、光ファイバ11及び可塑性部材9は、クラックアレスタ5の延在方向と平行に延設されている。このため、クラックアレスタ5の両側で生じる亀裂の進展を検知することができる。また、一対の光ファイバ11A,11Bは、クラックアレスタ5の表層4に沿う両端部10A,10Bに分かれて埋め込まれている。これにより、可塑性部材9A,9Bは、自身が埋め込まれるクラックアレスタ5により抑制され得る亀裂がどの経路に沿って進展したとしても、該亀裂の進展を促進させる荷重に基づいて塑性変形するようになる。光ファイバ11A,11Bは、この可塑性部材9A,9Bの残留変形に基づいて定常時と異なる反射光のスペクトルを出力するようになるため、亀裂の進展を広範囲で検知することができるようになる。
【0036】
図2では、可塑性部材9Aの断面形状を円形とし、荷重作用時に可塑性部材9Aの断面形状が楕円状に変形するものとしており、可塑性部材9Aが径方向に部分的に圧縮して部分的に伸張する様子を示している。そして、光ファイバ11Aは、可塑性部材9Aの付近において、当該変形後の可塑性部材9Aの楕円長軸の延長線上に配置されており、可塑性部材9Aの残留歪みの影響による応力が光ファイバ11Aに作用し易くなっている。このように、可塑性部材9の残留歪みの影響を大きく受ける場所に光ファイバ11Aの光ファイバを配置しておくことにより、除荷後の光ファイバ11Aの反射光のスペクトルのピーク分離をより顕著なものとすることができ、無負荷環境下での測定精度が向上する。
【0037】
但し、図2は、亀裂の検知方法の原理説明の便宜上、本発明の実施形態を概念的に示したものであり、実構造においては、可塑性部材9の残留歪みには、永久歪みに加えて熱残留歪みの影響もある。つまり、本発明に係る積層構造体は、図2の例示に限定されるものではなく、光ファイバ11及び可塑性部材9は、クラックアレスタ5内において荷重再配分により高応力が生じる部分に埋め込まれていればよい。この観点から、光ファイバ11及び可塑性部材9をクラックアレスタ5に対し亀裂が進展する方向における両端部10A,10Bに離れて配置するのは有利となる。より詳細な埋め込み位置については、有限要素解析等によって、光ファイバ11及び可塑性部材9に生じる歪み変動を十分に明らかにした後に、具体的に決定されるとよい。
【0038】
図3は、クラックアレスタ5にFBGセンサ8及び可塑性部材9を埋め込んだFCS構造体1のFEMモデルを示す図である。図3に示すように、当該FEMモデルでは、長さ:200mm、厚さ:38mmのFCS構造体1に、半径10mmの半円形断面のクラックアレスタ5が設けられ、このクラックアレスタ5の両端部に光ファイバ11A,11B及び可塑性部材9A,9Bが埋め込まれている。可塑性部材9A,9Bには直径1mmの鉛線が適用されている。そして、亀裂が図3左側から進展していくものとし、その亀裂の先端位置とクラックアレスタ5との間の距離Lを3パターンで異ならせる。亀裂の先端位置の各パターンにおいて、100Nの荷重を作用させた状態と、その荷重を除いた後の状態とで2つの光ファイバ11A,11Bの反射光のスペクトルを算出する。
【0039】
図4はFEMモデルによる算出結果を示している。図4(a)は、距離Lが20mmである場合における2つの光ファイバ11A,11Bの反射光のスペクトルをそれぞれ示すグラフである。図4(b)は距離Lが10mmの場合、図4(c)は距離Lが0mmの場合を夫々示している。図4(a)〜(c)の各々において、紙面の左側には亀裂の進展方向の上流側となる一端部10Aに配置された光ファイバ11Aの反射光のスペクトルが示され、右側には亀裂の進展方向の下流側となる他端部10Bに配置された光ファイバ11Bの反射光のスペクトルが示されている。また、縦軸に表すスペクトルの強度は、埋め込み前のセンサの初期スペクトル最大強度を1として無次元化されており、横軸には所定の波長を基準とした偏差が表されている。
【0040】
図4(a)〜(c)に示すように、光ファイバ11Aにおいては、荷重作用時に、亀裂先端がクラックアレスタ5に近づくに従って、主歪みの差が大きくなり複屈折効果が生じてスペクトルのピークの間隔が大きくなっていることがわかる。また、荷重除荷後には可塑性部材9Aの塑性変形により、ピークの間隔が狭くなっている。これに対し、クラックアレスタに配分される応力の影響が少ない光ファイバ11Bにおいては、除荷後もピーク間隔はほとんど変わらない。この現象により、荷重作用時の履歴が残ることになり、荷重除荷後においても亀裂先端がクラックアレスタ5の端部に接近したことを検知することができる。また、ピーク間隔に応じてクラックアレスタ5と亀裂先端との間の距離を測定することができることがわかる。
【0041】
図5は図4に示した解析結果を検証するために行った試験の結果を示している。図5(a)は亀裂先端とクラックアレスタとの間の距離Lが20mmの場合、図5(b)はLが10mmの場合、図5(c)はLが0mmの場合を夫々示している。検証試験は代表的な負荷形態である開口変位を与える負荷形態、所謂モードI型負荷形態で行った。図5に示す無次元化した反射光スペクトルの強度から、光ファイバ11Aでは、亀裂先端がクラックアレスタ5に近づくに従って、除荷後のスペクトル強度のピーク値の間隔が狭くなっていることがわかる。他方、光ファイバ11Bにおいては、荷重作用時と荷重除荷後でピーク値の間隔にほとんど変化が見られない。このことは、亀裂先端がクラックアレスタ5に近づくに従って、一端部10Aに配置した可塑性部材9Aのみに塑性変形が生じてその履歴が除荷後も残留したことを示しており、図4に示した解析結果と同様の結果となっている。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記構成は本発明の範囲内において適宜変更可能である。なお、上記実施形態では、本発明に係る積層体構造として、発泡合成樹脂材料からなるコア層と、繊維強化複合材料からなる表層とからなるフォームコアサンドイッチ構造体を例示したが、その他の材料からなる積層構造体であっても本発明を応用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、亀裂の進展を促進させる荷重を除いた無負荷環境下においても非破壊で容易に亀裂を検知することができるという作用効果を奏し、フォームコアサンドイッチ構造体に好適に適用することができ、そのフォームコアサンドイッチ構造体を航空機等の構造部材に利用すると有益となる。
【符号の説明】
【0044】
1 フォームコアサンドイッチ構造体
2 コア層
3 表面
4 表層
5 クラックアレスタ
8 FBGセンサ
9 可塑性材料
11 光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに積層されたコア層及び表層を接合してなる積層構造体の前記コア層に発生した亀裂を検知するための方法であって、
前記積層構造体が、亀裂の進展を促進させる荷重が作用しているときに亀裂先端に生じ得る応力を分担することによって該亀裂の進展を抑制するクラックアレスタと、前記クラックアレスタに埋め込まれ、定常時と歪み負荷時とで異なる反射光スペクトルを出力する光ファイバと、前記クラックアレスタに埋め込まれ、前記クラックアレスタが分担する応力により塑性変形可能な可塑性部材とを備え、
亀裂の進展を促進させる荷重が作用するときに前記可塑性部材を塑性変形させ、
前記亀裂の進展を促進させる荷重が除かれた後に、前記可塑性部材の残留変形により歪みが生じ得る前記光ファイバが出力する反射光スペクトルを解析し、
解析された前記反射光スペクトルの形状に基づいて、前記クラックアレスタと前記亀裂先端との間の距離を測定する、ことを特徴とする積層構造体の亀裂検知方法。
【請求項2】
互いに積層されたコア層及び表層を接合してなる積層構造体の亀裂検知構造であって、
前記コア層と前記表層との界面領域に設けられ、前記コア層に発生した亀裂先端に生じ得る応力を分担することによって該亀裂の進展を抑制するクラックアレスタと、
前記クラックアレスタに埋め込まれ、定常時と歪み負荷時とで異なる反射光スペクトルを出力する光ファイバと、
前記クラックアレスタに埋め込まれた可塑性部材と、を備え、
前記可塑性部材は前記クラックアレスタが分担する応力により塑性変形可能であり、塑性変形した前記可塑性部材による残留応力に基づいて前記光ファイバに歪みが生じ得る構成としたことを特徴とする積層構造体の亀裂検知構造。
【請求項3】
前記クラックアレスタは亀裂の進展経路を横切るようにして直線状に延在しており、
前記光ファイバ及び前記可塑性部材は、前記クラックアレスタの延在方向と平行に延設されていることを特徴とする請求項2に記載の積層構造体の亀裂検知構造。
【請求項4】
一対の前記光ファイバが、前記クラックアレスタの前記表層に沿う両端部に分かれて埋め込まれていると共に、前記可塑性部材が前記光ファイバの各々に対応して設けられていることを特徴とする請求項2又は3に記載の積層構造体の亀裂検知構造。
【請求項5】
前記可塑性部材が鉛製であることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の積層構造体の亀裂検知構造。
【請求項6】
前記コア層が発泡合成樹脂材料からなり、前記表層が繊維強化複合材料からなることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の積層構造体の亀裂検知構造。
【請求項7】
互いに積層されたコア層及び表層を接合してなり、請求項2乃至6のいずれか1項に記載の亀裂検知構造を備えることを特徴とする積層構造体。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−57032(P2011−57032A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207257(P2009−207257)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月10日 社団法人日本材料学会発行の「JCOM−38講演論文集」に発表
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)