説明

穴抜きパンチ

【課題】抜きカス上りの無い鋭利な刃先エッジを有する穴抜きパンチを低コストで提供する。
【解決手段】穴抜きパンチ1は、穴抜き加工用のものであって、周縁部が穴抜きパンチ1の刃先エッジ5となっている先端面6を備える。先端面6は、スプリングバックによる径の拡大を抜きカスに生じさせる直円錐台の形状を有しており、平坦部8及びテーパ部9により構成される。例えば、穴抜きパンチ1のパンチ径Aが10.5mmである場合、該直円錐台の下底と母線とのなす角αは15°とされ、該直円錐台の高さhは0.45mmとされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴抜き加工用の穴抜きパンチに関する。
【背景技術】
【0002】
穴抜き加工用のパンチを用いて穴抜き加工を施す際に、パンチが下降して穴抜きが行われた後、パンチが上昇して元の位置に戻るとき、抜きカスもパンチとともに戻る抜きカス上りが発生するおそれがある。この抜きカス上りは、パンチ下面と材料面との間の真空状態による吸着や材料の圧着等の種々の原因によって生じる。抜きカス上りは、製品不良や金型損傷等の原因となるので、抜きカス上りに対する対策が必要となる。
【0003】
抜きカス上りに対する対策の1つとして、抜きカスのスプリングバックを利用して抜きカス上りを防止するようにした技術が知られている。この技術では、穴抜きにより生じた抜きカスの径が、スプリングバックによりダイの径よりも大きくなるようにしている。これによれば、パンチが戻るとき、径がダイよりも大きくなった抜きカスが、ダイとの接触により、パンチから分離される。
【0004】
例えば、特許文献1には、パンチの先端面を凸状の曲面で構成した穴抜き加工用のパンチが記載されている。このパンチによれば、パンチとダイのクリアランスが最良となるようにした場合でも、スプリングバックが生じた抜きカスの径をダイの内径よりも大きくして、抜きカス上りを防止することができるとされている。
【0005】
また、特許文献2には、ピアスポンチの先端に、ピアスポンチの周縁部から凸曲面状に所定の角度で延びた曲面部と、該曲面部の中央に形成された所定の大きさの平坦部とを設けたピアスポンチが記載されている。
【0006】
特許文献2では、抜きカスのスプリングバック効果を最大とするためには、ピアスポンチの先端を球面にすることが最も好ましいが、そうすると、ワークとピアスポンチが曲面で接してしまうため、ポンチが撓み、バリが発生するとされている(同文献の段落0015参照)。これに対し、特許文献2のピアスポンチによれば、上述の平坦部を含む構成により、バリの発生が無く、スプリングバック効果も十分に得られるとされている(同文献の段落0015参照)。
【0007】
また、特許文献2によれば、周縁部から延びる曲線部の周縁部における接線とピアスポンチの軸線に垂直な線とのなす角度を25°とし、平坦部の直径をピアスポンチの直径の50%とすることにより、ワークが水平状態から約20°傾斜した場合でも、曲面部と平坦部の境界であるコーナ部が先にワークに接触して穴抜き加工が行われるので、抜きカスの良好なスプリングバック効果を維持しながらバリの発生を防止することができるとされている(同文献の段落0016、0026参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭57−56521号公報
【特許文献2】特開2011−78998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の特許文献1や2の技術によれば、パンチ先端面の全部又は周縁部を凸曲面で構成しているので、凸曲面の加工にかなりの費用を要する。したがって、パンチの製造コストが高くなる。
【0010】
また、特許文献1や2の技術においては、ワークを切断するための刃先エッジは、パンチ先端面の周縁部により構成される。そして、特許文献1や2の技術によれば、パンチ先端面の全部又は外周側部分を凸曲面に加工する必要があるので、パンチ先端面の周縁部が鋭いエッジとならず、ある程度ダレが生じたものとならざるを得ない。したがって、パンチの刃先エッジが、どうしても鈍いものとなるので、穿断性能の劣化やバリ発生の原因となり易い。
【0011】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題に鑑み、抜きカス上りの無い鋭利な刃先エッジを有する穴抜きパンチを低コストで提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る穴抜きパンチは、穴抜き加工用の穴抜きパンチであって、周縁部が該穴抜きパンチの刃先エッジとなっている先端面を備え、該先端面は、スプリングバックによる径の拡大を抜きカスに生じさせる直円錐台の形状を有することを特徴とする。
【0013】
この構成において、穴抜き加工に際しては、穴抜きパンチが下降して被加工材が穴抜きされたとき、抜きカスの径が、スプリングバックによって、穴抜き直後の径よりも拡大する。その後、穴抜きパンチが上昇するとき、抜きカスは、径が拡大しているので、加工に使用しているダイとの接触により、穴抜きパンチから確実に分離される。したがって、穴抜きパンチとともに抜きカスがダイ上に上昇する抜きカス上りが生じることは無い。
【0014】
本発明によれば、穴抜きパンチの先端面が直円錐台の形状を有するので、従来のように該先端面の全部又は外周側が凸曲面で構成される場合に比べ、該先端面の加工が容易である。したがって、穴抜きパンチの製造コストを削減することができる。
【0015】
また、本発明によれば、穴抜きパンチの先端面の外周側が直円錐面で構成されるので、従来のように該先端面の外周側が凸曲面で構成される場合に比べ、凸曲面の加工に際して該先端面の周縁において不可避的に生じるダレが生じないので、穴抜きパンチの刃先エッジを鋭利なものとすることができる。
【0016】
本発明においては、前記直円錐台の下底と母線とのなす角αは10〜20°であり、該直円錐台の高さhは0.3〜1.0mmであるのが好ましい。これによれば、上述のスプリングバックによる抜きカスの径の拡大効果として、十分なものを得ることができる。また、穴抜きパンチの刃先エッジを十分鋭利なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るパンチの正面図及び下面図である。
【図2】図1の穴抜きパンチの切刃部の正面図である。
【図3】図1の穴抜きパンチにより穴抜き加工を施す様子を示す図である。
【図4】図3の穴抜き加工により生じる抜きカスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る穴抜き加工用の穴抜きパンチを示す。図1(a)は正面図であり、図1(b)は下面図である。この穴抜きパンチ1は、ショルダパンチと呼ばれているものである。穴抜きパンチ1は、図1に示すように、円柱状のシャンク部2と、シャンク部2の基端に設けられた鍔部3と、シャンク部2の先端に設けられた切刃部4とを備える。
【0019】
切刃部4は、シャンク部2よりも小さな径を有する。切刃部4の先端は、周縁部が穴抜きパンチ1の刃先エッジ5を構成する先端面6となっている。穴抜きパンチ1の基端部には、鍔部3の基端面の中心部からシャンク部2の基端部にかけて、位置決め用のノックピンが嵌合するノック穴7が設けられる。穴抜きパンチ1は、鍔部3を含むシャンク部2の基端部分が、図示していないリテーナブロックを介して上型のバックプレートに取り付けられる。
【0020】
図2は、切刃部4部分の正面図である。図2に示すように、穴抜きパンチ1は、先端面6が、穴抜きパンチ1の軸線を中心とする直円錐台の形状を有する。すなわち、先端面6は、該直円錐台の上底により構成される平坦部8と、該直円錐台の側面により構成されるテーパ部9とを有する。そして、該直円錐台の下底の周縁部、すなわちテーパ部9の周縁部が穴抜きパンチ1の刃先エッジ5を構成している。
【0021】
上述の直円錐台は、穴抜き加工により生じる抜きカスが、穴抜き直後にスプリングバックして径の拡大を生じるような形状を有する。例えば、刃先エッジ5の径(該直円錐台の下底の径)であるパンチ径Aが10.5mmである場合、該直円錐台の下底と母線とのなす角αは15°とされ、該直円錐台の高さhは0.45mmとされる。
【0022】
角α等の好ましい値は、被加工材の種類や厚さ、穴抜きパンチ1と使用されるダイとの間のクリアランス等の条件により異なることも考えられる。また、角αが大きすぎると、テーパ部9の周縁部で構成される刃先エッジ5の鋭さが低減するので、好ましくない。また、角αが小さすぎると、スプリングバックにより抜きカスの径が拡大する効果が薄れるので、好ましくない。また、該直円錐台の高さhも、スプリングバックによる抜きカスの径の拡大効果に影響する。
【0023】
これらを考慮した角αの好ましい範囲は10〜20°であり、高さhの好ましい範囲は0.3〜1.0mmである。これらの範囲内であれば、スプリングバックによる抜きカスの径の拡大効果として、十分なものが得られるとともに、刃先エッジ5としても、十分鋭利なものが得られる。
【0024】
図3は、穴抜きパンチ1により穴抜き加工を施す様子を示す。図3のように、使用されるダイ10の切刃部11の深さは、比較的浅い。切刃部11の下端に隣接する部分は、切刃部11の内径であるダイ径Bよりも大きな内径を有する円筒状のカス落下部12となっている。したがって、切刃部11の下端とカス落下部12の上端との間には、段差部13が構成される。なお、穴抜きパンチ1の下死点は、段差部13よりも下方に設定される。
【0025】
穴抜き加工に際しては、まず、図3(a)のように、ダイ10上に被加工材14が配置される。なお、穴抜きが行われる際に、被加工材14は、図示していないダイプレートとストリッパとの間に挟まれてダイ10上に固定される。
【0026】
次に、穴抜きパンチ1が下降され、被加工材14の位置を通過すると、図3(b)のように、被加工材14が穴抜きパンチ1により穴抜きされる。被加工材14の穴抜きされた部分は、抜きカス15となり、穴抜きパンチ1により、段差部13の下方まで押し下げられる。このとき、抜きカス15は、スプリングバックを生じて、径がダイ径Bよりも大きくなる。
【0027】
この後、穴抜きパンチ1は、下死点に達すると、上昇を開始する。このとき、穴抜きパンチ1の先端面6と抜きカス15上面との間の圧着や、油、残留磁気等による吸着により、抜きカス15に上昇方向の力が働くおそれもある。しかし、抜きカス15は、径がダイ径Bよりも大きくなっているので、段差部13により上昇が阻止される。このため、抜きカス15は、図3(c)のように、ダイ10のカス落下部12内で落下し、上昇することはない。
【0028】
図4は、図3の穴抜き加工により生じる抜きカス15の断面図である。図4に示すように、抜きカス15は、穴抜きパンチ1の平坦部8に対応する中央上面16と、テーパ部9に対応する周縁上面17とを有する。図4の断面における中央上面16と左側の周縁上面17とのなす角をβ1とし、中央上面16と右側の周縁上面17とのなす角をβ2とし、抜きカス15の径をdとする。
【0029】
板厚が0.65mmで、引張強度が270MPaの鉄製の被加工材14について、上述図3のように、穴抜きパンチ1及びダイ10を用いた穴抜き加工を実施したところ、カス上りが生じることなく、良好に穿断された抜きカス15のサンプルa〜cを得ることができた。サンプルa〜cのそれぞれについて角β1、β2、及び径dを計測したところ、表1に示すような結果が得られた。
【0030】
ただし、上述の直円錐台の下底と母線とのなす角α(図2)は15°、パンチ径A(刃先エッジ5の径)は10.5mm、ダイ径Bは10.63mm、該直円錐台の高さhは0.45mmであった。なお、表1では、抜きカス15の径dからダイ径Bを減算した値d−Bを併せて示した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から、サンプルa〜cのいずれの場合も、角β1及び角β2が角α(=15°)より小さくなってスプリングバックが生じたことがわかる。また、これにより、各サンプルa〜cの径dは、ダイ径B(=10.63mm)よりも大きくなったことがわかる。
【0033】
以上のように、本実施形態によれば、穴抜きパンチ1の先端面6を、穴抜きパンチ1の軸線を中心とする直円錐台形状の面とし、さらには、該直円錐台の下底と母線のなす角αや、該直円錐台の高さhを適切に設定することにより、抜きカス15の径を、スプリングバックにより適切な径dに拡大することができる。したがって、カス戻りを確実に防止することができる。
【0034】
また、穴抜きパンチ1の刃先エッジ5は、テーパ部9の周縁部で構成されるので、良好な穴抜き加工を行うことができる。すなわち、従来は、パンチ先端面の全部又は周縁側を凸曲面で構成しているので、該凸曲面を曲面加工で形成するときに、パンチ先端面の周縁部に形成される刃先エッジは、ダレが生じて、穿断性能が劣化したものやバリが発生し易いものとならざるを得なかった。これに対し、本実施形態によれば、先端面6の周縁部を直円錐面で構成しているので、刃先エッジ5を鋭利で穿断性能の高いものとすることができる。
【0035】
また、従来のようにパンチ先端面の全部又は周縁側を凸曲面で構成する場合に比べ、本実施形態では、先端面6が直円錐台形状で加工が容易であるため、穴抜きパンチ1の製造コストを低減させることができる。
【0036】
なお、本発明は上述実施形態に限定されない。例えば、上述においては、本発明をショルダパンチに適用した場合について説明したが、本発明はショルダパンチに限らず、他の穴抜き加工用のパンチ、例えばストレートパンチにも適用することができる。また、上述においては、ダイ10として、段差部13及びカス落下部12を有するものを用いているが、この代わりに、テーパ状の内壁を有するもののような他の形態のダイを用いるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1…パンチ、5…刃先エッジ、6…先端面、8…平坦部、9…テーパ部、15…抜きカス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴抜き加工用の穴抜きパンチであって、周縁部が該穴抜きパンチの刃先エッジとなっている先端面を備え、該先端面は、スプリングバックによる径の拡大を抜きカスに生じさせる直円錐台の形状を有することを特徴とする穴抜きパンチ。
【請求項2】
前記直円錐台の下底と母線とのなす角αは10〜20°であり、該直円錐台の高さhは0.3〜1.0mmであることを特徴とする請求項1に記載の穴抜きパンチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−13901(P2013−13901A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146163(P2011−146163)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(505191168)株式会社ミスミ (16)
【Fターム(参考)】