空中花粉量の予測方法および空中花粉量の評価システム
【課題】花粉の発生源である林から大気中に放出される花粉放出量を高精度に推定する。
【解決手段】関心地域の大気中における空中花粉濃度の測定値と、花粉の移流拡散モデルを基に花粉輸送をシミュレーション予測した計算値と比較して、それらが一致するように非線形最適化アルゴリズムによって花粉放出量を高精度に推定するステップと、推定された花粉放出量と、関心地域の風向、風速、気温、湿度などの気象データを、ニューラルネットワークに対する入力値としてニューラルネットワークの学習を実施するステップと、ニューラルネットワークを用いて、関心地域当日の風向、風速、気温、湿度などの気象データを入力値として第二の花粉放出量を推定するステップを含み、第二の花粉放出量と、関心地域当日の気象データと、関心地域の植生分布データとを入力値として、移流拡散モデルを基に関心地域の空中花粉量を推定することを特徴とする。
【解決手段】関心地域の大気中における空中花粉濃度の測定値と、花粉の移流拡散モデルを基に花粉輸送をシミュレーション予測した計算値と比較して、それらが一致するように非線形最適化アルゴリズムによって花粉放出量を高精度に推定するステップと、推定された花粉放出量と、関心地域の風向、風速、気温、湿度などの気象データを、ニューラルネットワークに対する入力値としてニューラルネットワークの学習を実施するステップと、ニューラルネットワークを用いて、関心地域当日の風向、風速、気温、湿度などの気象データを入力値として第二の花粉放出量を推定するステップを含み、第二の花粉放出量と、関心地域当日の気象データと、関心地域の植生分布データとを入力値として、移流拡散モデルを基に関心地域の空中花粉量を推定することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空中花粉濃度を予測することのできる空中花粉量の予測方法および空中花粉量の評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
花粉症は、花粉を抗原とするアレルギー疾患である。我が国の総森林面積の7割程度を占める全国各地のスギ林は、例年春季に花粉を多量に放出し、これを原因として全人口の2割に迫る国民が花粉症を同時期に発症し、いまや、花粉症は国民病と称されるに至っている。花粉症克服対策としては、未だ特効薬などの根本的治療法は開発されておらず、日常対策としては、花粉を体内に取り込まないことが最も有効とされている。したがって、空中花粉量の正確な予報は、マスク着用や薬の服用などの日常の花粉症対策を支援する。
【0003】
しかしながら、従来の花粉予測は、ダーラム法(非特許文献1)と呼ばれる空中花粉の採集器によって捕集した花粉を人手による花粉観察によって計測された花粉量(単位面積あたりの花粉数)に基づいて、気象予報士などの特定技能者が気象予報データを参考にして、実施されている。現在の公共放送・インターネット等のメディアによる花粉情報のほとんどは、この気象予報士の経験予測によるものであり、予測結果の時間的・空間的分解能において非常に乏しいと言える。
【0004】
また、流体力学を用いた移流拡散モデルを基礎とする計算式に基づいた花粉飛散予測も行われているが、その科学計算の予測精度の検証も十分でない。この従来方法では、花粉発生源(スギ林)での毎日の花粉放出量を予測する方法として、スギの雄花の生長・開花の植物生理をモデル化する実験式が用いられてきたが(非特許文献2、 非特許文献3)、スギ花粉の放出量はスギの品種・樹齢などの属性に依存するため、このような実験式の汎用性はなく、精度も十分でない問題があった。
【0005】
さらに、本発明者は過去において、飛散する花粉量のマクロ的な状態の変化、地域分布、各個人毎に異なる花粉量と花粉症状のワントゥワン情報を提供する方法(特許文献1)、空気中花粉量の予測における空間的および時間的精度を高めるために、データ処理方法にニューラルネットワークモデルを採用したもの(特許文献2)、局所的な地域別に花粉の影響を評価し、中長期的な生活環境の改善にも役立つ評価方法を提供するもの(特許文献3)などがあるが、いずれも改良の余地が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−157511号公報
【特許文献2】特開2004−258815号公報
【特許文献3】特開2004−271313号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】佐橋紀男、高橋裕一、村山貢司:「スギ花粉のすべて」メディカル・ジャーナル社(1995)
【非特許文献2】川島茂人:「スギ花粉の発生と拡散過程のモデル化」日本花粉学会誌37,11−21(1991)
【非特許文献3】神田学、張翔雲、鵜野伊津志、川島茂人、平野元久:「地域気象モデルによる花粉飛散の数値シミュレーション」日本気象学会誌「天気」49,4,267−277(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、花粉の発生源である林から大気中に放出される花粉放出量を高精度に推定することにある。また、他の目的とするところは、最も確からしく推定された花粉放出量と、気象データを入力値として、ニューラルネットワークの学習を実施することにより、当日の気象データから当日の花粉放出量を推定するニューラルネットワークを構成することにある。さらに、別の目的は、学習したニューラルネットワークを用いて、当日の気象予報データを入力値として当日の花粉放出量を高精度に推定し、次に、その推定された花粉放出量と気象データと植生データを入力値として、移流拡散モデルを基に、花粉飛散を推定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明(請求項1)では、大気中に放出され、その大気中を移流、拡散して輸送される花粉に関し、関心地域の大気中における空中花粉濃度の測定値と、花粉の移流拡散モデルを基に花粉輸送をシミュレーション予測して計算された関心地域の空中花粉濃度の計算値とを比較し、空中花粉濃度の測定値と計算値とができるだけ一致するように非線形最適化アルゴリズムによって求められる、大気中に放出される最も確からしい花粉放出量を高精度に推定することを特徴とする。この構成によれば、時系列で得られる空中花粉濃度の測定データと気象データを用いて、花粉の移流拡散モデルと非線形最小二乗法のアルゴリズムにより、スギ花粉発生源での花粉放出量を高精度に評価することが可能になる。
【0010】
また、前記目的を達成するために、本発明(請求項2)では、前記推定された花粉放出量と、風向、風速、気温、湿度などの関心地域の気象データを、ニューラルネットワークに対する入力値として、ニューラルネットワークの学習を実施することにより、関心地域当日の気象データから花粉放出量を推定するニューラルネットワークを構成することを特徴とする。この構成によれば、時系列で得られる気象データと、前記最適化して推定された花粉放出量を用いることにより、当日の気象データから花粉放出量を推定するように、ニューラルネットワークの学習を実行することが可能になる。
【0011】
また、前記目的を達成するために、本発明(請求項3)では、前記学習により構成されたニューラルネットワークを用いて、関心地域当日の風向、風速、気温、湿度などの気象予報データを入力値として花粉放出量を推定し、次に、その推定された花粉放出量と前記気象データと関心地域の植生分布データを入力値として、移流拡散モデルを基に、関心地域の空中花粉量を推定することを特徴とする。この構成によれば、時系列で得られる気象データにより、林での未来の期日の花粉放出量を推定することができ、この未来の期日の花粉放出量と気象データとスギ林の植生データを入力値として移流拡散モデルを用いることにより、未来の期日の関心地域の空中花粉濃度を予測することが可能になる。
【0012】
さらに、本発明は、大気中に放出され、その大気中を移流、拡散して輸送される花粉に関し、関心地域の大気中における空中花粉濃度の測定値と、花粉の移流拡散モデルを基に花粉輸送をシミュレーション予測して計算された関心地域の空中花粉濃度の計算値とを比較して、前記測定値と前記計算値とができるだけ一致するように非線形最適化アルゴリズムによって求められる、大気中に放出される最も確からしい花粉放出量を高精度に推定するステップと、前記推定された花粉放出量と、関心地域の風向、風速、気温、湿度などの気象データを、ニューラルネットワークに対する入力値として該ニューラルネットワークの学習を実施するステップと、前記ニューラルネットワークを用いて、関心地域当日の風向、風速、気温、湿度などの気象データを入力値として第二の花粉放出量を推定するステップを含み、第二の花粉放出量と、関心地域当日の気象データと、関心地域の植生分布データとを入力値として、移流拡散モデルを基に関心地域の空中花粉量を推定することを特徴とする空中花粉量の予測方法に関する。この方法によれば、非線形最適化アルゴリズムやニューラルネットワークを駆使し植生分布データを考慮して予測するので、非常に高精度に空中花粉量の予測をすることができるのである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、時間ごとに変化する花粉飛散の状況を高い精度で予測できる。
【0014】
このうち、請求項1記載の発明によれば、関心地域でのスギ花粉の大気中における空中花粉濃度の測定値と、花粉の移流拡散モデルを基に計算された空中花粉濃度の計算値に対し非線形最適化アルゴリズムを適用することにより、スギ林での花粉放出量を高い精度で評価できる。
【0015】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記によって最適化して推定された花粉放出量と時系列で得られる気象データを用いることにより、ニューラルネットワークの学習を実行することが可能になり、花粉放出量をより高い精度で評価できる。
【0016】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、請求項2に記載の発明よって時系列で得られる気象予報データにより、スギ林での未来の期日の花粉放出量を推定することができ、次に、この未来の期日の花粉放出量と気象予報データとスギ林の植生データを、入力値として移流拡散モデルを用いることにより、未来の期日の関心地域の空中花粉濃度を予測することが可能になる。
【0017】
従って、本発明の空中花粉量の評価システムは、非線形最適化アルゴリズムやニューラルネットワークの学習、植生分布データのそれぞれのシステム単独でも精度の高い評価が可能であり、これらを総合した本発明の予測方法は非常に高精度に空中花粉量の予測ができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、空中花粉量評価システムの構成図である。
【図2】図2は、ニューラルネットワークのモデル図である。
【図3】図3は、空中花粉量評価システムの情報処理機能を示す図である。
【図4】図4は、2005年3月20日の郡上市における空中花粉濃度(最適化前)を示す図である。
【図5】図5は、2005年3月20日の郡上市における空中花粉濃度(最適化途中1)を示す図である。
【図6】図6は、2005年3月20日の郡上市における空中花粉濃度(最適化途中2)を示す図である。
【図7】図7は、2005年3月20日の郡上市における空中花粉濃度(最適化終了後)を示す図である。
【図8】図8は、従来の花粉放出量を求めるモデル図である。
【図9】図9は、本発明による花粉放出モデルと、従来の花粉放出モデルによる空中花粉濃度の計算結果並びに実際の観測データの比較を示す図である。
【図10】図10は、階層型ニューラルネットワークモデルを示すモデル図である。
【図11】図11は、2005年3月27日の花粉放出量を用いた学習結果を示す図である。
【図12】図12は、2005年3月30日の花粉放出量を用いた学習結果を示す図である。
【図13】図13は、2005年3月20日の花粉放出量を示す図である。
【図14】図14は、2005年3月25日の花粉放出量を示す図である。
【図15】図15は、2005年3月20日の郡上市における「花粉放出量」「気象データ」「植生データ」を入力値とし、移流拡散モデルに基づいて空中花粉濃度を予報した結果および実測値を比較する図である。
【図16】図16は、2005年3月25日の大垣市における「花粉放出量」「気象データ」「植生データ」を入力値とし、移流拡散モデルに基づいて空中花粉濃度を予報した結果および実測値を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、これらの実施例は単に本発明を例示するものであり何等本発明の範囲を制限するものではない。
【0020】
図1は本実施形態の空中花粉量の評価方法が適用される空中花粉量評価システムの構成を示す。この空中花粉量評価システム1は、花粉予報計算機11、入力データの処理装置12、花粉放出量の推定装置13、ニューラルネットワークの学習装置14、ニューラルネットワークによる空中花粉量予測装置15から構成される。また、花粉データ計算機21、および気象データ計算機22は、花粉予報計算機11に空中花粉濃度測定データおよび気象データを送信する計算機である。また、データ受信計算機31は、花粉予報計算機11が出力する花粉予報値に基づく花粉情報を受信する装置である。
【0021】
花粉予報計算機11は、入力データの処理装置12を制御することにより、花粉データ計算機21および関心地域の風向、風速、気温、湿度などの気象データ計算機22が送信する空中花粉測定データおよび気象データを受信して蓄積する機能、および蓄積したデータを花粉放出量の推定装置13、ニューラルネットワークの学習装置14、およびニューラルネットワークによる空中花粉量予測装置15に送信する機能を有する。前記空中花粉測定データは、具体的にはパーティクルカウンタなどにより関心地域の浮遊花粉粒子を実測した大気中の花粉濃度(個/立方m)を意味する。また、花粉予報計算機11は、ニューラルネットワークによる空中花粉量予測装置15が出力するデータを蓄積する機能、および蓄積したデータをデータ受信計算機31に送信する機能を有する。
【0022】
花粉放出量の推定装置13は、前記の空中花粉濃度測定データ、気象データ、および(例えばスギ、ヒノキなどの各植物群の樹齢、本数、面積などの)植生分布データを入力値として、花粉発生源である主として山間に植生する林から空中に放出される花粉放出量を推定する機能を有する。
【0023】
ニューラルネットワークの学習装置14は、花粉放出量の推定装置13によって推定された花粉放出量と気象データを入力値として、気象データと、最適化された花粉放出量をニューラルネットワークの学習機能によって関連付ける機能を有する。
【0024】
ニューラルネットワークは、図2に示すように、脳の情報処理機能を工学的にモデル化したシステムであり、ニューロンと呼ばれる神経細胞に対応する素子(ユニット)を多数結合した構造を有している。ニューラルネットワークは、ある入力値からある決まった出力値を出力するように、ニューラルネットワークを調整して最適化する、「学習」と呼ぶ機能を有する。例えば、文字認識や音声認識などのパターン認識にニューラルネットワークは応用され、実用的には、車両のナンバープレートの番号認識に応用されている。
【0025】
ニューラルネットワークによる空中花粉量予測装置15は、ニューラルネットワークの学習装置14によって生成された学習によって最適化されたニューラルネットワーク、すなわち、気象データから花粉放出量の時系列変化を予測することを学習したニューラルネットワークを用いて、ある気象データから推定した花粉放出量と気象データを入力値として、例えば、将来の3日後までの1時間ごとの関心地域の空中花粉量の時系列データを出力する機能を有する。
【0026】
図3は、花粉放出量の推定装置13、ニューラルネットワークによる花粉放出量の学習装置14、およびニューラルネットワークによる空中花粉量予測装置15の各装置の情報処理の流れを示す。
【0027】
花粉放出量の推定装置13は、花粉の発生源(例えばスギ林)から放出された花粉が、関心地域にどのように輸送されるかを扱うことのできる花粉飛散の移流拡散モデルを用い、スギ林植生分布データと、予め仮定した花粉放出量の時系列データを入力値として関心地域に輸送された空中花粉の濃度の時系列データを計算する。次に、その空中花粉濃度の時系列データの計算値と花粉データ計算機21から送信された、空中花粉濃度の時系列データの測定値を比較し、両者ができるだけ一致するように、最小二乗法による最適化アルゴリズムにしたがって、花粉発生源における花粉放出量を調整する。この調整のための計算は繰り返し実行され、空中花粉濃度の時系列データの計算値と測定値との差を表現する量が決められた数値に達したら、すなわち、花粉濃度の時系列データの計算値と測定値の残差平方和が、決められた数値以下になったら、その繰り返し計算を停止する。このようにして、調整された花粉放出量が、最適化された花粉放出量となる。
【0028】
花粉放出量の推定装置13の機能を確認するために、具体的な計算事例を示す。図4から図6は2005年3月20日に岐阜県郡上市において観測された空中花粉濃度の時系列データと、花粉放出量の推定装置13の花粉飛散の移流拡散モデルと、上記の観測された空中花粉濃度の時系列データと移流拡散モデルによって計算される空中花粉濃度の計算値とをできるだけ一致するようにする非線形最小二乗法によって実行される、空中花粉濃度の計算値の最適化の進行の様子を示す。図4では、予め仮定した花粉放出量を入力値として計算された、郡上市における空中花粉濃度の計算値と観測値が示されている。図4の最適化計算の実行前では、観測値と計算値とは一致していない。これに対し、図5、図6と最適化計算を繰り返すことにより、観測値と計算値の両者は次第に一致するようになり、図7において、両者の値の残差平方和が所定の値以下となった時点で最適化計算の繰り返しを停止する。以上図4から図7で説明したように、花粉放出量の推定装置13の最適化機能により、空中花粉量の観測値と計算値ができるだけ一致するように、非線形最適化アルゴリズムにしたがって、予め仮定した花粉放出量に修正を加えて調整する。これによって、最適化した花粉放出量を求めることが可能になることが示された。
【0029】
これに対して、従来の空中花粉量の評価方法では、図8に示すような、従来の花粉放出モデルにしたがって関心地域の空中花粉濃度を計算する。図8の従来の花粉放出モデルでは、花粉放出前の、所定の期日の平均気温と平均風速をパラメータとした実験式を用いている(非特許文献2、非特許文献3)。図9は2005年3月20日の郡上市における本発明による計算値と観測値と、従来方法による計算値を示す。本発明による計算値は、午前と午後に現れる2つのピークを再現しており、本実施例により、本発明によれば、より精度の高い花粉放出量が推定されたことが示される。
【0030】
ニューラルネットワークによる花粉放出量の学習装置14は、風向、風速、気温などの気象データを入力値として、最も確からしい花粉放出量を推定するように学習する機能を有する。図10は本発明に用いる階層型ニューラルネットワークの模式図を示す。ニューラルネットワークの学習機能では、入力に対して望ましい出力が得られるようにニューラルネットワークの調整(最適化)が実行される。図10の階層型ニューラルネットワークでは、誤差逆伝播法と呼ばれる方法によってそのニューラルネットワークの調整が行われる。誤差逆伝播法による学習過程では、図10に示すように、出力層でのニューラルネットワークの出力信号と教師信号(参照信号)との誤差を入力層の方向に伝達させることによりニューラルネットワークの調整が達成される。本発明の実施例では、教師信号として、花粉放出量の推定装置13が出力する最適化された花粉放出量を用いる。
【0031】
ニューラルネットワークによる花粉放出量の学習装置14の機能を確認するために具体的な計算事例を示す。この計算事例で用いる、ニューラルネットワークに対する教師信号として、2005年3月27日と2005年3月30日における本発明によって推定された花粉放出量を用いる。ここで、この両日における花粉放出量は、花粉放出量の推定装置13の最適化機能によって推定されたものである。図10の入力値として、この両日の気象観測値(気温、湿度、風向、風速)を用いた。図11と図12は上記の両日における教師信号となる最適化された花粉放出量と、岐阜県の37箇所のアメダス地点の気象データを用いて学習した後のニューラルネットワークの出力値を示す。この出力値と教師信号はよく一致しており、花粉放出量の学習装置14の学習機能は正常に動作することが示された。
【0032】
ニューラルネットワークと移流拡散モデルによる空中花粉量予測装置15は、ニューラルネットワークの学習装置14によって生成された、気象データから花粉放出量の時系列変化を予測することを学習したニューラルネットワークを用いて、ある気象データから推定された花粉放出量と、気象予報値データ、スギ林植生分布データを、移流拡散モデルに対する入力値として、例えば、将来の3日後までの1時間ごとの関心地域の花粉予測値の時系列データを出力する機能を有する。
【0033】
ニューラルネットワークと移流拡散モデルによる空中花粉量予測装置15の機能を確認するために、具体的な計算事例を示す。まず、関心のある予報日の気象予報値データから、ニューラルネットワークによる花粉放出量の学習装置14によって構成されたニューラルネットワークを用いて予報日の花粉放出量を求める。図13と図14は2005年3月20日と2005年3月25日の気象データを用いて求められた両日における花粉放出量である。次に、図13と図14の花粉放出量と、上記の両日の気象観測値、スギ林植生データを入力値として、移流拡散モデルに基づいて関心地域の空中花粉濃度を求める。図15と図16は上記両日における郡上市と大垣市における空中花粉濃度の計算値と観測値を示す。この計算結果から、本発明によって推定された花粉放出量により関心地域の花粉飛散傾向をよく再現することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の花粉量予測システムは、非線形最適化アルゴリズム、ニューラルネットワークの構築、植生分布データの利用などを通して正確に花粉飛散の予測が可能であるため、花粉の少ない地域と花粉の多い地域などを的確に知ることができ、例えば携帯電話などを通じて各ユーザに情報提供することで、例えばビジネスや旅行などをより快適に行うことができる。
【符号の説明】
【0035】
1 評価システム
11 花粉予報計算機
12 入力データの処理装置
13 花粉放出量の推定装置
14 ニューラルネットワークの学習装置
15 ニューラルネットワークによる花粉予報装置
21 花粉データ計算機
22 気象データ計算機
31 データ受信計算機
【技術分野】
【0001】
本発明は、空中花粉濃度を予測することのできる空中花粉量の予測方法および空中花粉量の評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
花粉症は、花粉を抗原とするアレルギー疾患である。我が国の総森林面積の7割程度を占める全国各地のスギ林は、例年春季に花粉を多量に放出し、これを原因として全人口の2割に迫る国民が花粉症を同時期に発症し、いまや、花粉症は国民病と称されるに至っている。花粉症克服対策としては、未だ特効薬などの根本的治療法は開発されておらず、日常対策としては、花粉を体内に取り込まないことが最も有効とされている。したがって、空中花粉量の正確な予報は、マスク着用や薬の服用などの日常の花粉症対策を支援する。
【0003】
しかしながら、従来の花粉予測は、ダーラム法(非特許文献1)と呼ばれる空中花粉の採集器によって捕集した花粉を人手による花粉観察によって計測された花粉量(単位面積あたりの花粉数)に基づいて、気象予報士などの特定技能者が気象予報データを参考にして、実施されている。現在の公共放送・インターネット等のメディアによる花粉情報のほとんどは、この気象予報士の経験予測によるものであり、予測結果の時間的・空間的分解能において非常に乏しいと言える。
【0004】
また、流体力学を用いた移流拡散モデルを基礎とする計算式に基づいた花粉飛散予測も行われているが、その科学計算の予測精度の検証も十分でない。この従来方法では、花粉発生源(スギ林)での毎日の花粉放出量を予測する方法として、スギの雄花の生長・開花の植物生理をモデル化する実験式が用いられてきたが(非特許文献2、 非特許文献3)、スギ花粉の放出量はスギの品種・樹齢などの属性に依存するため、このような実験式の汎用性はなく、精度も十分でない問題があった。
【0005】
さらに、本発明者は過去において、飛散する花粉量のマクロ的な状態の変化、地域分布、各個人毎に異なる花粉量と花粉症状のワントゥワン情報を提供する方法(特許文献1)、空気中花粉量の予測における空間的および時間的精度を高めるために、データ処理方法にニューラルネットワークモデルを採用したもの(特許文献2)、局所的な地域別に花粉の影響を評価し、中長期的な生活環境の改善にも役立つ評価方法を提供するもの(特許文献3)などがあるが、いずれも改良の余地が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−157511号公報
【特許文献2】特開2004−258815号公報
【特許文献3】特開2004−271313号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】佐橋紀男、高橋裕一、村山貢司:「スギ花粉のすべて」メディカル・ジャーナル社(1995)
【非特許文献2】川島茂人:「スギ花粉の発生と拡散過程のモデル化」日本花粉学会誌37,11−21(1991)
【非特許文献3】神田学、張翔雲、鵜野伊津志、川島茂人、平野元久:「地域気象モデルによる花粉飛散の数値シミュレーション」日本気象学会誌「天気」49,4,267−277(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、花粉の発生源である林から大気中に放出される花粉放出量を高精度に推定することにある。また、他の目的とするところは、最も確からしく推定された花粉放出量と、気象データを入力値として、ニューラルネットワークの学習を実施することにより、当日の気象データから当日の花粉放出量を推定するニューラルネットワークを構成することにある。さらに、別の目的は、学習したニューラルネットワークを用いて、当日の気象予報データを入力値として当日の花粉放出量を高精度に推定し、次に、その推定された花粉放出量と気象データと植生データを入力値として、移流拡散モデルを基に、花粉飛散を推定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明(請求項1)では、大気中に放出され、その大気中を移流、拡散して輸送される花粉に関し、関心地域の大気中における空中花粉濃度の測定値と、花粉の移流拡散モデルを基に花粉輸送をシミュレーション予測して計算された関心地域の空中花粉濃度の計算値とを比較し、空中花粉濃度の測定値と計算値とができるだけ一致するように非線形最適化アルゴリズムによって求められる、大気中に放出される最も確からしい花粉放出量を高精度に推定することを特徴とする。この構成によれば、時系列で得られる空中花粉濃度の測定データと気象データを用いて、花粉の移流拡散モデルと非線形最小二乗法のアルゴリズムにより、スギ花粉発生源での花粉放出量を高精度に評価することが可能になる。
【0010】
また、前記目的を達成するために、本発明(請求項2)では、前記推定された花粉放出量と、風向、風速、気温、湿度などの関心地域の気象データを、ニューラルネットワークに対する入力値として、ニューラルネットワークの学習を実施することにより、関心地域当日の気象データから花粉放出量を推定するニューラルネットワークを構成することを特徴とする。この構成によれば、時系列で得られる気象データと、前記最適化して推定された花粉放出量を用いることにより、当日の気象データから花粉放出量を推定するように、ニューラルネットワークの学習を実行することが可能になる。
【0011】
また、前記目的を達成するために、本発明(請求項3)では、前記学習により構成されたニューラルネットワークを用いて、関心地域当日の風向、風速、気温、湿度などの気象予報データを入力値として花粉放出量を推定し、次に、その推定された花粉放出量と前記気象データと関心地域の植生分布データを入力値として、移流拡散モデルを基に、関心地域の空中花粉量を推定することを特徴とする。この構成によれば、時系列で得られる気象データにより、林での未来の期日の花粉放出量を推定することができ、この未来の期日の花粉放出量と気象データとスギ林の植生データを入力値として移流拡散モデルを用いることにより、未来の期日の関心地域の空中花粉濃度を予測することが可能になる。
【0012】
さらに、本発明は、大気中に放出され、その大気中を移流、拡散して輸送される花粉に関し、関心地域の大気中における空中花粉濃度の測定値と、花粉の移流拡散モデルを基に花粉輸送をシミュレーション予測して計算された関心地域の空中花粉濃度の計算値とを比較して、前記測定値と前記計算値とができるだけ一致するように非線形最適化アルゴリズムによって求められる、大気中に放出される最も確からしい花粉放出量を高精度に推定するステップと、前記推定された花粉放出量と、関心地域の風向、風速、気温、湿度などの気象データを、ニューラルネットワークに対する入力値として該ニューラルネットワークの学習を実施するステップと、前記ニューラルネットワークを用いて、関心地域当日の風向、風速、気温、湿度などの気象データを入力値として第二の花粉放出量を推定するステップを含み、第二の花粉放出量と、関心地域当日の気象データと、関心地域の植生分布データとを入力値として、移流拡散モデルを基に関心地域の空中花粉量を推定することを特徴とする空中花粉量の予測方法に関する。この方法によれば、非線形最適化アルゴリズムやニューラルネットワークを駆使し植生分布データを考慮して予測するので、非常に高精度に空中花粉量の予測をすることができるのである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、時間ごとに変化する花粉飛散の状況を高い精度で予測できる。
【0014】
このうち、請求項1記載の発明によれば、関心地域でのスギ花粉の大気中における空中花粉濃度の測定値と、花粉の移流拡散モデルを基に計算された空中花粉濃度の計算値に対し非線形最適化アルゴリズムを適用することにより、スギ林での花粉放出量を高い精度で評価できる。
【0015】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記によって最適化して推定された花粉放出量と時系列で得られる気象データを用いることにより、ニューラルネットワークの学習を実行することが可能になり、花粉放出量をより高い精度で評価できる。
【0016】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、請求項2に記載の発明よって時系列で得られる気象予報データにより、スギ林での未来の期日の花粉放出量を推定することができ、次に、この未来の期日の花粉放出量と気象予報データとスギ林の植生データを、入力値として移流拡散モデルを用いることにより、未来の期日の関心地域の空中花粉濃度を予測することが可能になる。
【0017】
従って、本発明の空中花粉量の評価システムは、非線形最適化アルゴリズムやニューラルネットワークの学習、植生分布データのそれぞれのシステム単独でも精度の高い評価が可能であり、これらを総合した本発明の予測方法は非常に高精度に空中花粉量の予測ができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、空中花粉量評価システムの構成図である。
【図2】図2は、ニューラルネットワークのモデル図である。
【図3】図3は、空中花粉量評価システムの情報処理機能を示す図である。
【図4】図4は、2005年3月20日の郡上市における空中花粉濃度(最適化前)を示す図である。
【図5】図5は、2005年3月20日の郡上市における空中花粉濃度(最適化途中1)を示す図である。
【図6】図6は、2005年3月20日の郡上市における空中花粉濃度(最適化途中2)を示す図である。
【図7】図7は、2005年3月20日の郡上市における空中花粉濃度(最適化終了後)を示す図である。
【図8】図8は、従来の花粉放出量を求めるモデル図である。
【図9】図9は、本発明による花粉放出モデルと、従来の花粉放出モデルによる空中花粉濃度の計算結果並びに実際の観測データの比較を示す図である。
【図10】図10は、階層型ニューラルネットワークモデルを示すモデル図である。
【図11】図11は、2005年3月27日の花粉放出量を用いた学習結果を示す図である。
【図12】図12は、2005年3月30日の花粉放出量を用いた学習結果を示す図である。
【図13】図13は、2005年3月20日の花粉放出量を示す図である。
【図14】図14は、2005年3月25日の花粉放出量を示す図である。
【図15】図15は、2005年3月20日の郡上市における「花粉放出量」「気象データ」「植生データ」を入力値とし、移流拡散モデルに基づいて空中花粉濃度を予報した結果および実測値を比較する図である。
【図16】図16は、2005年3月25日の大垣市における「花粉放出量」「気象データ」「植生データ」を入力値とし、移流拡散モデルに基づいて空中花粉濃度を予報した結果および実測値を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、これらの実施例は単に本発明を例示するものであり何等本発明の範囲を制限するものではない。
【0020】
図1は本実施形態の空中花粉量の評価方法が適用される空中花粉量評価システムの構成を示す。この空中花粉量評価システム1は、花粉予報計算機11、入力データの処理装置12、花粉放出量の推定装置13、ニューラルネットワークの学習装置14、ニューラルネットワークによる空中花粉量予測装置15から構成される。また、花粉データ計算機21、および気象データ計算機22は、花粉予報計算機11に空中花粉濃度測定データおよび気象データを送信する計算機である。また、データ受信計算機31は、花粉予報計算機11が出力する花粉予報値に基づく花粉情報を受信する装置である。
【0021】
花粉予報計算機11は、入力データの処理装置12を制御することにより、花粉データ計算機21および関心地域の風向、風速、気温、湿度などの気象データ計算機22が送信する空中花粉測定データおよび気象データを受信して蓄積する機能、および蓄積したデータを花粉放出量の推定装置13、ニューラルネットワークの学習装置14、およびニューラルネットワークによる空中花粉量予測装置15に送信する機能を有する。前記空中花粉測定データは、具体的にはパーティクルカウンタなどにより関心地域の浮遊花粉粒子を実測した大気中の花粉濃度(個/立方m)を意味する。また、花粉予報計算機11は、ニューラルネットワークによる空中花粉量予測装置15が出力するデータを蓄積する機能、および蓄積したデータをデータ受信計算機31に送信する機能を有する。
【0022】
花粉放出量の推定装置13は、前記の空中花粉濃度測定データ、気象データ、および(例えばスギ、ヒノキなどの各植物群の樹齢、本数、面積などの)植生分布データを入力値として、花粉発生源である主として山間に植生する林から空中に放出される花粉放出量を推定する機能を有する。
【0023】
ニューラルネットワークの学習装置14は、花粉放出量の推定装置13によって推定された花粉放出量と気象データを入力値として、気象データと、最適化された花粉放出量をニューラルネットワークの学習機能によって関連付ける機能を有する。
【0024】
ニューラルネットワークは、図2に示すように、脳の情報処理機能を工学的にモデル化したシステムであり、ニューロンと呼ばれる神経細胞に対応する素子(ユニット)を多数結合した構造を有している。ニューラルネットワークは、ある入力値からある決まった出力値を出力するように、ニューラルネットワークを調整して最適化する、「学習」と呼ぶ機能を有する。例えば、文字認識や音声認識などのパターン認識にニューラルネットワークは応用され、実用的には、車両のナンバープレートの番号認識に応用されている。
【0025】
ニューラルネットワークによる空中花粉量予測装置15は、ニューラルネットワークの学習装置14によって生成された学習によって最適化されたニューラルネットワーク、すなわち、気象データから花粉放出量の時系列変化を予測することを学習したニューラルネットワークを用いて、ある気象データから推定した花粉放出量と気象データを入力値として、例えば、将来の3日後までの1時間ごとの関心地域の空中花粉量の時系列データを出力する機能を有する。
【0026】
図3は、花粉放出量の推定装置13、ニューラルネットワークによる花粉放出量の学習装置14、およびニューラルネットワークによる空中花粉量予測装置15の各装置の情報処理の流れを示す。
【0027】
花粉放出量の推定装置13は、花粉の発生源(例えばスギ林)から放出された花粉が、関心地域にどのように輸送されるかを扱うことのできる花粉飛散の移流拡散モデルを用い、スギ林植生分布データと、予め仮定した花粉放出量の時系列データを入力値として関心地域に輸送された空中花粉の濃度の時系列データを計算する。次に、その空中花粉濃度の時系列データの計算値と花粉データ計算機21から送信された、空中花粉濃度の時系列データの測定値を比較し、両者ができるだけ一致するように、最小二乗法による最適化アルゴリズムにしたがって、花粉発生源における花粉放出量を調整する。この調整のための計算は繰り返し実行され、空中花粉濃度の時系列データの計算値と測定値との差を表現する量が決められた数値に達したら、すなわち、花粉濃度の時系列データの計算値と測定値の残差平方和が、決められた数値以下になったら、その繰り返し計算を停止する。このようにして、調整された花粉放出量が、最適化された花粉放出量となる。
【0028】
花粉放出量の推定装置13の機能を確認するために、具体的な計算事例を示す。図4から図6は2005年3月20日に岐阜県郡上市において観測された空中花粉濃度の時系列データと、花粉放出量の推定装置13の花粉飛散の移流拡散モデルと、上記の観測された空中花粉濃度の時系列データと移流拡散モデルによって計算される空中花粉濃度の計算値とをできるだけ一致するようにする非線形最小二乗法によって実行される、空中花粉濃度の計算値の最適化の進行の様子を示す。図4では、予め仮定した花粉放出量を入力値として計算された、郡上市における空中花粉濃度の計算値と観測値が示されている。図4の最適化計算の実行前では、観測値と計算値とは一致していない。これに対し、図5、図6と最適化計算を繰り返すことにより、観測値と計算値の両者は次第に一致するようになり、図7において、両者の値の残差平方和が所定の値以下となった時点で最適化計算の繰り返しを停止する。以上図4から図7で説明したように、花粉放出量の推定装置13の最適化機能により、空中花粉量の観測値と計算値ができるだけ一致するように、非線形最適化アルゴリズムにしたがって、予め仮定した花粉放出量に修正を加えて調整する。これによって、最適化した花粉放出量を求めることが可能になることが示された。
【0029】
これに対して、従来の空中花粉量の評価方法では、図8に示すような、従来の花粉放出モデルにしたがって関心地域の空中花粉濃度を計算する。図8の従来の花粉放出モデルでは、花粉放出前の、所定の期日の平均気温と平均風速をパラメータとした実験式を用いている(非特許文献2、非特許文献3)。図9は2005年3月20日の郡上市における本発明による計算値と観測値と、従来方法による計算値を示す。本発明による計算値は、午前と午後に現れる2つのピークを再現しており、本実施例により、本発明によれば、より精度の高い花粉放出量が推定されたことが示される。
【0030】
ニューラルネットワークによる花粉放出量の学習装置14は、風向、風速、気温などの気象データを入力値として、最も確からしい花粉放出量を推定するように学習する機能を有する。図10は本発明に用いる階層型ニューラルネットワークの模式図を示す。ニューラルネットワークの学習機能では、入力に対して望ましい出力が得られるようにニューラルネットワークの調整(最適化)が実行される。図10の階層型ニューラルネットワークでは、誤差逆伝播法と呼ばれる方法によってそのニューラルネットワークの調整が行われる。誤差逆伝播法による学習過程では、図10に示すように、出力層でのニューラルネットワークの出力信号と教師信号(参照信号)との誤差を入力層の方向に伝達させることによりニューラルネットワークの調整が達成される。本発明の実施例では、教師信号として、花粉放出量の推定装置13が出力する最適化された花粉放出量を用いる。
【0031】
ニューラルネットワークによる花粉放出量の学習装置14の機能を確認するために具体的な計算事例を示す。この計算事例で用いる、ニューラルネットワークに対する教師信号として、2005年3月27日と2005年3月30日における本発明によって推定された花粉放出量を用いる。ここで、この両日における花粉放出量は、花粉放出量の推定装置13の最適化機能によって推定されたものである。図10の入力値として、この両日の気象観測値(気温、湿度、風向、風速)を用いた。図11と図12は上記の両日における教師信号となる最適化された花粉放出量と、岐阜県の37箇所のアメダス地点の気象データを用いて学習した後のニューラルネットワークの出力値を示す。この出力値と教師信号はよく一致しており、花粉放出量の学習装置14の学習機能は正常に動作することが示された。
【0032】
ニューラルネットワークと移流拡散モデルによる空中花粉量予測装置15は、ニューラルネットワークの学習装置14によって生成された、気象データから花粉放出量の時系列変化を予測することを学習したニューラルネットワークを用いて、ある気象データから推定された花粉放出量と、気象予報値データ、スギ林植生分布データを、移流拡散モデルに対する入力値として、例えば、将来の3日後までの1時間ごとの関心地域の花粉予測値の時系列データを出力する機能を有する。
【0033】
ニューラルネットワークと移流拡散モデルによる空中花粉量予測装置15の機能を確認するために、具体的な計算事例を示す。まず、関心のある予報日の気象予報値データから、ニューラルネットワークによる花粉放出量の学習装置14によって構成されたニューラルネットワークを用いて予報日の花粉放出量を求める。図13と図14は2005年3月20日と2005年3月25日の気象データを用いて求められた両日における花粉放出量である。次に、図13と図14の花粉放出量と、上記の両日の気象観測値、スギ林植生データを入力値として、移流拡散モデルに基づいて関心地域の空中花粉濃度を求める。図15と図16は上記両日における郡上市と大垣市における空中花粉濃度の計算値と観測値を示す。この計算結果から、本発明によって推定された花粉放出量により関心地域の花粉飛散傾向をよく再現することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の花粉量予測システムは、非線形最適化アルゴリズム、ニューラルネットワークの構築、植生分布データの利用などを通して正確に花粉飛散の予測が可能であるため、花粉の少ない地域と花粉の多い地域などを的確に知ることができ、例えば携帯電話などを通じて各ユーザに情報提供することで、例えばビジネスや旅行などをより快適に行うことができる。
【符号の説明】
【0035】
1 評価システム
11 花粉予報計算機
12 入力データの処理装置
13 花粉放出量の推定装置
14 ニューラルネットワークの学習装置
15 ニューラルネットワークによる花粉予報装置
21 花粉データ計算機
22 気象データ計算機
31 データ受信計算機
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中に放出され、その大気中を移流、拡散して輸送される花粉に関し、関心地域の大気中における空中花粉濃度の測定値と、花粉の移流拡散モデルを基に花粉輸送をシミュレーション予測して計算された関心地域の空中花粉濃度の計算値とを比較し、空中花粉濃度の測定値と計算値とができるだけ一致するように非線形最適化アルゴリズムによって求められる、大気中に放出される最も確からしい花粉放出量を高精度に推定することを特徴とする、空中花粉量の評価システム。
【請求項2】
前記推定された花粉放出量と、風向、風速、気温、湿度などの関心地域の気象データを、ニューラルネットワークに対する入力値として、ニューラルネットワークの学習を実施することにより、関心地域当日の気象データから花粉放出量を推定するニューラルネットワークを構成し花粉放出量を推定することを特徴とする、請求項1記載の空中花粉量の評価システム。
【請求項3】
前記ニューラルネットワークを用いて、関心地域当日の風向、風速、気温、湿度などの気象データを入力値として花粉放出量を推定し、次に、その推定された花粉放出量と前記気象データと関心地域の植生分布データを入力値として、移流拡散モデルを基に、関心地域の空中花粉量を推定することを特徴とする、請求項2記載の空中花粉量の評価システム。
【請求項4】
大気中に放出され、その大気中を移流、拡散して輸送される花粉に関し、
関心地域の大気中における空中花粉濃度の測定値と、花粉の移流拡散モデルを基に花粉輸送をシミュレーション予測して計算された関心地域の空中花粉濃度の計算値とを比較して、前記測定値と前記計算値とができるだけ一致するように非線形最適化アルゴリズムによって求められる、大気中に放出される最も確からしい花粉放出量を高精度に推定するステップと、
前記推定された花粉放出量と、関心地域の風向、風速、気温、湿度などの気象データを、ニューラルネットワークに対する入力値として該ニューラルネットワークの学習を実施するステップと、
前記ニューラルネットワークを用いて、関心地域当日の風向、風速、気温、湿度などの気象データを入力値として第二の花粉放出量を推定するステップを含み、
第二の花粉放出量と、関心地域当日の気象データと、関心地域の植生分布データとを入力値として、移流拡散モデルを基に関心地域の空中花粉量を推定することを特徴とする空中花粉量の予測方法。
【請求項1】
大気中に放出され、その大気中を移流、拡散して輸送される花粉に関し、関心地域の大気中における空中花粉濃度の測定値と、花粉の移流拡散モデルを基に花粉輸送をシミュレーション予測して計算された関心地域の空中花粉濃度の計算値とを比較し、空中花粉濃度の測定値と計算値とができるだけ一致するように非線形最適化アルゴリズムによって求められる、大気中に放出される最も確からしい花粉放出量を高精度に推定することを特徴とする、空中花粉量の評価システム。
【請求項2】
前記推定された花粉放出量と、風向、風速、気温、湿度などの関心地域の気象データを、ニューラルネットワークに対する入力値として、ニューラルネットワークの学習を実施することにより、関心地域当日の気象データから花粉放出量を推定するニューラルネットワークを構成し花粉放出量を推定することを特徴とする、請求項1記載の空中花粉量の評価システム。
【請求項3】
前記ニューラルネットワークを用いて、関心地域当日の風向、風速、気温、湿度などの気象データを入力値として花粉放出量を推定し、次に、その推定された花粉放出量と前記気象データと関心地域の植生分布データを入力値として、移流拡散モデルを基に、関心地域の空中花粉量を推定することを特徴とする、請求項2記載の空中花粉量の評価システム。
【請求項4】
大気中に放出され、その大気中を移流、拡散して輸送される花粉に関し、
関心地域の大気中における空中花粉濃度の測定値と、花粉の移流拡散モデルを基に花粉輸送をシミュレーション予測して計算された関心地域の空中花粉濃度の計算値とを比較して、前記測定値と前記計算値とができるだけ一致するように非線形最適化アルゴリズムによって求められる、大気中に放出される最も確からしい花粉放出量を高精度に推定するステップと、
前記推定された花粉放出量と、関心地域の風向、風速、気温、湿度などの気象データを、ニューラルネットワークに対する入力値として該ニューラルネットワークの学習を実施するステップと、
前記ニューラルネットワークを用いて、関心地域当日の風向、風速、気温、湿度などの気象データを入力値として第二の花粉放出量を推定するステップを含み、
第二の花粉放出量と、関心地域当日の気象データと、関心地域の植生分布データとを入力値として、移流拡散モデルを基に関心地域の空中花粉量を推定することを特徴とする空中花粉量の予測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−98189(P2012−98189A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246910(P2010−246910)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
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