空気プラズマを用いた殺菌方法
【課題】比較的安いコストで、野菜類又は果物類等の被殺菌物の品質を損ねることなく、充分に被殺菌物の殺菌を行うことができる、プラズマ照射による殺菌方法を提供する。
【解決手段】野菜類又は果物類等の被殺菌物に対して、空気プラズマを照射するプラズマ照射工程を行って、被殺菌物を殺菌する。
【解決手段】野菜類又は果物類等の被殺菌物に対して、空気プラズマを照射するプラズマ照射工程を行って、被殺菌物を殺菌する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被殺菌物、特に野菜類や果物類等の食品に対して、空気プラズマの照射によって殺菌を行う方法に係わる。また、殺菌だけでなく、乾燥や洗浄をも行う方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
即席食品の具材等の乾燥方法として、現在採用されている代表的な方法に、凍結乾燥法(FD)と熱風乾燥法(AD)とがある。
【0003】
凍結乾燥法(FD)は、具材の栄養価の損失が少なく、水や湯での復元性に優れ、蛋白質を多く含んだ素材や香味野菜の乾燥に多く採用されている。
しかし、生の野菜、特に外国産の野菜の場合、微生物による汚染が激しく、1g当たり10万個から100万個以上の微生物で汚染されている。これらの微生物の多くは、細菌の胞子で増殖し、加熱しても死滅しにくく、充分な殺菌処理を施さなければ、加工食品の腐敗の原因となり、特に乾燥野菜類の殺菌は食品衛生上非常に重要である。
【0004】
このため、多くの乾燥野菜類は、熱風乾燥法(AD)により乾燥処理がなされている。
しかし、この熱風乾燥法でも、殺菌には充分な加熱温度と処理時間が必要となる。そのため、香りや色や栄養価等、野菜類の品質を損ねることになる。
【0005】
従って、充分に殺菌を行うと共に、野菜類の品質を損ねることのない殺菌・乾燥方法が望まれている。
【0006】
そこで、本願の発明者等は、先に、食品等に酸素プラズマを照射することにより、殺菌を行うことを提案している(特許文献1参照。)。
酸素プラズマを照射することにより、食品等の素材の品質を損ねることなく、素材表面に付着する微生物等の細菌類を殺菌及び除去することができる。
また、酸素ガスを使用することにより、特殊なガスを使用してプラズマを発生させる場合と比較すると、処理のコストを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−333824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、野菜類に酸素プラズマを照射すると、ある程度水分が放散してしまうため、しおれてしまう。
そのため、プラズマ照射後の野菜類を、シャキッとした歯ごたえのある状態とするためには、水分を供給する必要がある。
水分を供給するには、例えば、充分な量の水に氷を入れて冷水を作り、その中にレモン汁を垂らして、プラズマ照射時間とほぼ同じ時間(30分程度)浸漬して、その後冷水から引き上げる。
従って、歯ごたえのある状態とするために、製品として出荷する前に水分を供給する工程を行う必要が生じて、製品の製造コストを増大させる要因となる。
【0009】
酸素プラズマや窒素プラズマを照射する場合には、プラズマの原料として酸素ガスや窒素ガスが必要となるため、その分の原料コストがかかる。
さらにまた、凍結乾燥法(FD)及び熱風乾燥法(AD)は、いずれも、乾燥処理に多大なコストを要する。
【0010】
上述した問題の解決のために、本発明においては、比較的安いコストで、野菜類又は果物類等の被殺菌物の品質を損ねることなく、充分に被殺菌物の殺菌を行うことができる、プラズマ照射による殺菌方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のプラズマ照射による殺菌方法は、被殺菌物に対して、空気プラズマを照射するプラズマ照射工程を行って、被殺菌物を殺菌するものである。
【0012】
本発明の殺菌方法のプラズマ照射工程において、さらに、被殺菌物を撹拌しながら空気プラズマを照射することも可能である。
本発明の殺菌方法において、被殺菌物を食品とすること、さらに、被殺菌物を野菜類又は果物類を含む食品とすることも可能である。
本発明の殺菌方法において、さらに、プラズマ照射工程の前の減圧工程及びプラズマ照射工程で、被殺菌物を乾燥させることも可能である。
本発明の殺菌方法において、さらに、プラズマ照射工程の際に、被殺菌物(野菜類又は果物類を含む食品)の表面に親水性の官能基を導入して、プラズマ照射工程の後に被殺菌物を洗浄する工程を行うことも可能である。
【0013】
上述の本発明の殺菌方法によれば、空気プラズマを照射することにより、比較的低温で、空気プラズマによる殺菌作用を発生させることが可能になる。
【0014】
また、本発明の殺菌方法によれば、空気プラズマの照射により、食品等の被殺菌物の表面に、親水性の官能基(例えば、ニトロ基や第2アミド基)を導入することが可能になる。これにより、被殺菌物を水に戻したときにシャキッとした歯ごたえのある状態に復元することや、被殺菌物を洗浄したときの菌の排水効果を高めたりすることが、可能になる。
特に、プラズマ照射工程において野菜類又は果物類を含む食品の表面に親水性の官能基を導入して、プラズマ照射工程の後に被殺菌物を洗浄する工程を行った場合には、親水性の官能基の導入によって菌の排水効果が高められているので、洗浄工程で効率よく菌を排出して除菌を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
上述の本発明によれば、比較的低温で殺菌作用を発生させることが可能になり、被照射物の品質を損ねることなく、充分に殺菌を行うことができる。
また、本発明によれば、空気プラズマを使用するので、特殊な物質のプラズマや酸素プラズマや窒素プラズマを使用する場合と比較して、プラズマ原料のコストを大幅に低減することができ、比較的安いコストで被照射物の殺菌を行うことができる。
特に、被殺菌物が食品である場合には、香りや色や栄養価等の品質を保ったままで、充分に殺菌を行うことが可能になる。
【0016】
また、プラズマ照射工程において、さらに、被殺菌物を撹拌しながら空気プラズマを照射するようにした場合には、殺菌の効率を向上させることができる。
【0017】
また、プラズマ照射工程の前の減圧工程及びプラズマ照射工程において、被殺菌物を乾燥させるようにした場合には、殺菌だけでなく、被殺菌物の乾燥も行うことができる。
【0018】
また、プラズマ照射工程において野菜類又は果物類を含む食品の表面に親水性の官能基を導入して、プラズマ照射工程の後に被殺菌物を洗浄する工程を行った場合には、殺菌だけでなく、被殺菌物の除菌も、効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の殺菌方法を行うためのプラズマ照射装置の一形態の概略構成図である。
【図2】(a)〜(c)野菜群1の生食ミックス野菜及びカイワレ大根のプラズマ照射による変化を示す写真である。
【図3】(a)〜(c)野菜群2の乾燥ラーメン用具材のプラズマ照射による変化を示す写真である。
【図4】空気プラズマ照射後の野菜群3の野菜の状態を示す写真である。
【図5】(a)〜(e)図4の各野菜を水に浸して戻した状態を示す写真である。
【図6】生食ミックス野菜(野菜サラダ)の培養結果を示す写真である。
【図7】カイワレ大根の培養結果を示す写真である。
【図8】乾燥ラーメン用具材の培養結果を示す写真である。
【図9】乾燥こねぎの培養結果を示す写真である。
【図10】撹拌型低温プラズマ装置の写真である。
【図11】ひじきのオリジナルの試料のFT−IRによる同定結果である。
【図12】ひじきの空気プラズマを照射した試料のFT−IRによる同定結果である。
【図13】ひじきのオリジナルの試料のXPSサーベイ測定による原子の同定結果である。
【図14】ひじきの空気プラズマを照射した試料のXPSサーベイ測定による原子の同定結果である。
【図15】ひじきの洗浄回数による菌のコロニー数の変化を示す図である。
【図16】銀イオン水を緩衝させたひじきの培地写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
本発明では、空気プラズマを被殺菌物(例えば、野菜類や果物類を含む食品、スパイス等)に照射することにより、殺菌を行う。
【0021】
空気プラズマは、プラズマ発生装置の内部を所定の真空状態に減圧した後に、空気を導入することにより、発生させることができる。
このとき、70℃以下の低温の状態で、空気プラズマを発生させることができる。
【0022】
空気プラズマの発生前の減圧により、野菜類や果物類からある程度の脱水を行うことができ、その後低温の状態で空気プラズマを発生させて空気プラズマを照射することにより殺菌と脱水を行うことができる。即ち、本発明の殺菌方法では、プラズマ照射工程の前の減圧工程及びプラズマ照射工程において、被照射物の乾燥を行うことも可能である。
例えば、減圧のみを60分間行ってある程度脱水させて、続いて30分間空気プラズマを照射して殺菌と脱水を行う。
低温の状態で空気プラズマを照射することにより、加熱による野菜類や果物類等の被殺菌物の品質の損傷を防いで、かつ充分に殺菌することができる。
空気プラズマの照射により、野菜類や果物類等の被殺菌物の表面に付着する細菌を極力減らすことができる。
【0023】
前記特許文献1に記載されている、酸素プラズマを照射する殺菌方法では、オゾン(O3)とヒドロキシルラジカル(・OH)の酸化力により、細菌類が死滅するものと考えられる。
また、窒素プラズマを照射する殺菌方法では窒素ラジカル等の作用によって、細菌類が死滅するものと考えられる。
【0024】
これに対して、本発明では、空気プラズマを照射することから、空気に含まれる酸素と窒素とにより、オゾンやヒドロキシルラジカルの他に、一酸化窒素(NO)ラジカルやそれとスーパーオキシドアニオンラジカル(・O2−)との反応によって発生する、強い酸化力のパーオキシナイトライト(ONOO−)ラジカルによって、細菌類が死滅するものと考えられる。
従って、本発明によれば、空気プラズマを照射することにより、酸素プラズマだけを照射する場合や、窒素プラズマだけを照射する場合と比較して、殺菌効果を高めることができる。
また、本発明によれば、プラズマ原料(前駆体)として空気を使用するので、酸素プラズマだけを照射する場合や、窒素プラズマだけを照射する場合と比較して、プラズマ原料が安価であり、プラズマ照射による殺菌のコストを大幅に低減することができる。
【0025】
さらにまた、本発明によれば、空気プラズマを照射することにより、食品等の有機物を含む被照射物の表面に、親水性の官能基(例えば、ニトロ基や第2アミド基)を導入することが可能になる。
これにより、プラズマ照射後の食品等の被照射物を水に戻したときに、新鮮なぱりぱりとした歯ごたえのある状態に復元することが可能になると考えられる。
また、親水性の官能基によって、被殺菌物を洗浄したときの菌の排水効果を高めることも可能になる。
【0026】
本発明の殺菌方法において、さらに、プラズマ照射工程で被照射物を撹拌することにより、殺菌の効率を高めることができ、殺菌時間を短縮することが可能になる。
平板上に被照射物を載せて、被照射物の表面にプラズマ照射をする場合には、照射ムラや照射量の制限がある。
これに対して、被照射物を撹拌することにより、プラズマの照射面を制限せず、殺菌の効率の向上により、少ない照射量で殺菌を行うことが可能になる。
【0027】
野菜類や果物類は、その性状によっては、包丁等で切ったり、皮をむいたり、葉を小分けしたりすることにより、適切な大きさとする方が好ましい。これにより、さらに効率良く殺菌を行うことができる。
例えば、キャベツ等の葉菜類は、葉と葉の隙間にも菌が存在することがあるため、丸ごとよりも葉ごとに小分けした方が、効率良く殺菌することができる。
【0028】
胡椒や胡麻等のスパイス類では、一般生菌よりも好熱性菌(芽胞菌)の付着の方が問題になることが多い。
好熱性菌(芽胞菌)を殺菌するには、一般生菌を殺菌する場合と比較して、高い温度条件で殺菌処理を行う必要があったため、殺菌処理によりスパイスの香りが欠乏してしまう問題があった。
そのため、低温で好熱性菌(芽胞菌)を殺菌できる方法が、香辛料業界において切望されている。
これに対して、本発明の殺菌方法によって、スパイス類を殺菌することにより、70℃以下の低温で好熱性菌(芽胞菌)を殺菌することが可能になるため、スパイスの香りを損ねることなく殺菌を行うことができる。
【0029】
また、ぜんまいやひじき、キノコ等のように、多孔質の食品は、食品の内部に菌が生息しやすくなり、食品の内部ほど菌の生存率が高くなる。
従来は、多孔質の食品については、洗浄回数を多くしたり、ボイル加熱処理を行ったりすることにより、殺菌が行われており、効率的ではない。
これに対して、本発明の殺菌方法を適用することにより、空気プラズマを照射して、多孔質の食品の表面に親水性の官能基を導入することができる。これにより、洗浄したときの菌の排水効果を高めることが可能になると考えられ、プラズマ照射後の被照射物を水等で洗浄することによって、多くの菌を除去することが可能になる。
なお、食品の表面に親水性の官能基を導入するには、ドライ状態の食品に対して、空気プラズマを照射する方が効果的である。
【0030】
本発明の殺菌方法によって殺菌を行うことにより、例えば、みかんやオレンジ等の柑橘類の実を包む袋状の皮や、ブドウ等の皮を、取り除かなくても皮ごと食することも可能になると考えられる。
【0031】
病院食においては、食中毒防止の観点から、生野菜類はそのまま使用せずに、加熱殺菌を行っていることが多い。
これに対して、本発明方法を適用して、充分に殺菌がなされるように、空気プラズマの照射条件を設定することにより、病院食として生野菜類や果物類を提供することも、可能になると考えられる。
【0032】
そして、本発明の殺菌方法では、プラズマ照射により殺菌を行うので、放射線照射や薬品を使用して殺菌を行った場合のような、放射性物質や薬品の残留がなく、また、対象物の変質を生じることがないため、人体に無害である。
また、プラズマ照射により殺菌を行った食品は、水や湯での吸水復元性に優れており、従来の乾燥・殺菌を行った食品と比較して、香りや色や栄養価が増強される。
【0033】
本発明の殺菌方法において、さらに被殺菌物の乾燥をも行うようにした場合には、1工程処理で殺菌及び乾燥を行うことも可能になるため、凍結乾燥法や熱風乾燥法等の従来の方法と比較して、大幅に処理コストを低減することができる。
【0034】
さらにまた、本発明によるプラズマ照射法で殺菌・乾燥させた食品は、従来のFD法やAD法により殺菌・乾燥させた食品と比較して、完全な乾燥状態ではないが、細菌が充分死滅状態になっているため、長期間腐食しない、という特長を有する。
即ち、本発明により、長期保存が可能であり、殺菌された食品を、製造することが可能になる。
【0035】
本発明の殺菌方法を行うための、プラズマ照射装置の一形態の概略構成図を、図1に示す。
本装置は、プラズマ反応管炉5を使用して、本発明方法に係るプラズマ照射工程を行う。
このプラズマ反応管炉5は、プラズマを発生させる反応管から成り、この反応管の周囲には、銅パイプ4が巻きつけられている。反応管は、例えば、石英管により構成する。
このプラズマ反応管炉5は、外部誘導型の低圧低温プラズマ炉である。そのため、プラズマ反応管炉5の内部に電極がなく、安定した前駆体のプラズマを、大きい容積にわたって均一に得ることができ、3次元的なプラズマ照射ができる、という特徴を有する。
また、このプラズマ反応管炉5は、石英管から成るので、プラズマを発生させたときにプラズマガスと反応することがなく、プラズマガスが石英を透過して、内部作動ガスに直接作用する特徴がある。
プラズマ照射装置の通常の使用形態では、ガスプラズマを発生させるためのガスボンベが、プラズマ反応管炉5に接続されているが、本発明では、空気プラズマを発生させるために、ガスボンベの代わりに大気中の空気を吸入する空気吸入装置6をプラズマ反応管炉5に接続する。
本装置は、高周波加熱を行うための高周波を供給する、高周波電源3を備えている。この高周波電源3から、電磁誘導コイル4の銅パイプに、高周波電力を供給して、プラズマ反応管炉5に対して、高周波誘導加熱を行うことができる。
本装置は、高周波電源3及び銅パイプ4内に送り込む冷却水を供給するために、水タンク1及び揚水ポンプ2を備えている。水タンク1では、内部の水が一定温度に保持される。揚水ポンプ2により、銅パイプ4の内部に冷却水を循環させることができる。
危険な反応排ガスを捕獲するためのトラップ部として、プラズマ反応管炉5の後段に、液体窒素トラップ7及び消石灰入りトラップ8が接続されている。
その後段に、真空排気装置として、真空度を測定するためのピラニー真空計9、真空ポンプ10を備えている。真空ポンプ10としては、例えば、油回転ポンプを用いる。真空ポンプ10によってプラズマ反応管炉5の内部の真空引きを行うことにより、低温でプラズマを発生させることができる。
さらに後段には、真空ポンプ10からの排気ガスを処理するために、強制吸引を行う電気吸引機11と、スクラバー(排気ガス洗浄装置)12とが設けられている。
【0036】
そして、本発明の殺菌方法により、図1に示すプラズマ照射装置を使用して、例えば以下に説明するようにして、殺菌を行うことができる。
まず、被殺菌物(例えば、野菜類又は果物類)を、プラズマ反応管炉5内に入れる。
次に、真空ポンプ10を使用して、プラズマ反応管炉5内を真空排気する。
所定の初期真空状態に達した後に、荒引き状態で、空気吸入装置6を通じて、プラズマ反応管炉5内へ空気を導入する。
所定の真空度に達したときに、銅パイプ4に高周波電源3から高周波電力を供給して、プラズマ反応管炉5内に空気ガスプラズマを発生させる。
空気ガスプラズマ中に活性種が生成され、この活性種が励起したオゾン、ヒドロキシルラジカル、一酸化窒素ラジカル、パーオキシナイトライトラジカル等の複合作用により、被殺菌物の殺菌を行うことができる。また、条件によっては、被殺菌物の乾燥も併せて行うことができる。
最後に、殺菌を行った被殺菌物を、プラズマ反応管炉5の両端部に取り付けた扉を開けて取り出し、殺菌処理を終了する。
【0037】
本発明方法を行うためのプラズマ照射装置は、図1に示した装置構成に限定されるものではない。
図1に示した装置構成は、実験的なものであり、比較的少量の対象物にプラズマ照射を行う場合に適した構成である。
被殺菌物を大量に殺菌する場合には、大量処理に適した装置構成とすれば良い。
【実施例】
【0038】
図1に示した装置を使用して、実際に、野菜類の殺菌・乾燥を行った。
プラズマ反応管炉5は、石英製で、外径300mm、内径290mm、長さ1000mmの寸法として、透明な石英管から内部を容易に見ることが可能な構成とした。直径6mmの銅パイプ4を用いて、石英製の反応管炉5の周囲に38回巻き付けた。
また、高周波電源3から、高周波を発振させるように設定した。
【0039】
<野菜群1>
野菜群1として、市販されている、裁断された生食ミックス野菜(キャベツ、コーン、ブロッコリー、人参、水菜、大根、サニーレタス、紫キャベツ)と、市販されているカイワレ大根の根の部分を切り落としたものとを用意した。
【0040】
これら野菜群1の生食ミックス野菜及びカイワレ大根について、プラズマ照射による変化を、図2に示す。図2中、(a)はプラズマ照射前、(b)は空気プラズマ照射中、(c)は30分間の空気プラズマ照射終了後炉から取り出した状況の、写真である。
図2(c)から、プラズマ照射後の試料、特に、カイワレ大根は脱水され、しおれていることがわかる。
【0041】
<野菜群2>
野菜群2として、市販されている、FD法(凍結乾燥法)による乾燥ラーメン用具材を用意した。その内訳は、わかめ(中国産)、にんじん(フランス産)、コーン(米国産)、昆布(北海道産)、わけぎ(中国産)、並びに、こねぎ(中国産)である。
【0042】
これら野菜群2の乾燥ラーメン用具材について、プラズマ照射による変化を、図3に示す。図3中、(a)はプラズマ照射前、(b)は空気プラズマ照射中、(c)は30分間の空気プラズマ照射終了後炉から取り出した状況の、写真である。
図3(c)から、プラズマ照射後の具材は、目視では照射前とほとんど変化が認められなかった。
【0043】
<野菜群3>
野菜群3として、白ねぎ(輪切り)、白ねぎ(斜め切り)、きぬさや、キャベツフレーク、ほうれん草、サラダ菜を用意した。
【0044】
これら野菜群3のそれぞれの野菜を、1枚の石英板の上に並べて置いて、図1に示したプラズマ照射装置のプラズマ反応管炉5内に入れて、60分間真空状態に曝した後に、30分間空気プラズマを照射した。
空気プラズマ照射後の野菜群3の野菜の状態を、図4の写真に示す。
図4に示すように、空気プラズマの照射によって、乾燥状態となっている。
【0045】
さらに、この乾燥状態となった野菜を、水に浸して戻した。
この戻した状態の各野菜を、図5の写真に示す。図5の(a)は白ねぎ、(b)はきぬさや、(c)はほうれん草、(d)はキャベツフレーク、(e)はサラダ菜である。
図5の各写真からわかるように、大きさや色が照射前の状態にほぼ復元している。
また、写真からはわからないが、香りも照射前の状態にほぼ復元していた。
【0046】
図4及び図5に示した乾燥野菜は、従来のFD法やAD法によるものと比べて完全な乾燥状態ではないが、細菌が充分死滅状態になっているため、長期間腐食しない。
【0047】
(野菜類の菌培養試験)
野菜類について、菌培養試験を行い、プラズマ照射による滅菌の効果を調べた。
まず、図2及び図3に示した、野菜群1及び野菜群2のプラズマ照射後の具材を、(1)生食ミックス野菜、(2)カイワレ大根、(3)乾燥ラーメン用具材、(4)乾燥こねぎ、の4種類に分けた。
そして、4種類の具材について、それぞれ、プラズマ照射を行わないオリジナル(生の状態)の試料、酸素プラズマ照射を行った試料、空気プラズマ照射を行った試料、の3通りの試料を作製した。酸素プラズマ照射及び空気プラズマ照射は、照射時間を30分に統一した。
【0048】
続いて、得られた各試料を、100mlの蒸留水の入ったサンプルバッグ(滅菌済み)に入れて、1分間撹拌した後に、各具材表面に付着する細菌を蒸留水中に放出させた。この液を、検査液とした。
得られた検査液から1mlを採って、ペトリフィルム上に蒔き、インキュベータにて培養した。培養条件は、インキュベータ内温度35℃、二酸化炭素濃度5%、培養時間48時間とした。
【0049】
以下、4種類の具材のそれぞれについて、培養した結果を順次説明する。
(1)生食ミックス野菜(野菜サラダ)の培養結果を、図6の写真に示す。図6において、上がオリジナル(非照射)の試料、左のAirが空気プラズマ照射の試料、右のO2が酸素プラズマ照射の試料である。この写真では、一般生菌のコロニー(赤い斑点)状況を示しており、以下の他の具材の場合も同様である。
図6の写真からわかるように、オリジナルの場合にはコロニー数が約800個あるのに対して、空気プラズマを照射すると34個に減り、酸素プラズマの場合は約65個に減った。
即ち、空気プラズマの方が酸素プラズマよりも強い殺菌力を示している。
【0050】
(2)カイワレ大根の培養結果を、図7の写真に示す。試料の配置は、図6と同様である。
図7の写真から、オリジナルの場合はコロニー数が約1425個と多いのに対して、空気プラズマを照射すると93個に減り、酸素プラズマの場合は約189個に減った。空気プラズマや酸素プラズマを照射した場合は、明らかにコロニー数が減っているのが確認できる。
【0051】
(3)乾燥ラーメン用具材の培養結果を、図8の写真に示す。試料の配置は、図6〜図7と同様である。
図8から、オリジナルの場合にはコロニー数が13個であるのに対して、空気プラズマや酸素プラズマを照射した場合には、その半分以下にコロニーが減少していることがわかる。
【0052】
(4)乾燥こねぎの培養結果を、図9の写真に示す。試料の配置は、図6〜図8と同様である。
図9から、オリジナルの場合でもコロニー数は2個程度で少ないが、空気プラズマや酸素プラズマを照射した場合には0個にさらに減少している。
【0053】
以上4種類の野菜群の菌培養試験の結果を、表1にまとめて示す。
【0054】
【表1】
【0055】
以上の結果が示すように、本発明方法の空気プラズマ照射による細菌の殺菌効果が、明白に現れている。
【0056】
(スパイス類の殺菌効果)
続いて、本発明の殺菌方法による、スパイス類(黒胡椒、黒胡麻)に付着する菌の殺菌効果について調べた。
【0057】
<黒胡椒の殺菌>
まず、黒胡椒を用意して、プラズマを照射していないオリジナルの状態の試料と、空気プラズマを照射した試料とを作製した。
空気プラズマを照射した試料は、照射時間を0.5時間とした試料(No.1)と、照射時間を4時間とした試料(No.2,No.3)とを作製した。
各試料について、黒胡椒に付着する好熱性菌を寒天培地法によって検査した。
各試料の空気プラズマの照射条件及び好熱性菌の生存数(g当たり)を、表2にまとめて示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表2より、オリジナルでは、約30000/gの菌が生存していたが、アノード電圧3kVにて空気プラズマを30分照射した場合、約15000/gの半分のオーダーに死滅した。また、4時間照射した場合、菌数は20〜60/g程度まで大幅に減衰し、低温プラズマによる殺菌効果が示された。
従って、照射時間を増やしていくことにより、好熱性菌(芽胞菌)の殺菌効果を向上することができることがわかる。
なお、照射時間が4時間では、まだ効率的な殺菌手法とは言えないので、より短い照射時間で大きい殺菌効果が得られるように、照射条件を工夫する余地がある。
【0060】
<黒胡麻の殺菌>
次に、ミャンマー産黒胡麻を用意して、撹拌型低温プラズマ装置を用いて、殺菌を行った。
使用した撹拌型低温プラズマ照射装置の写真を、図10に示す。
図10に示す装置は、撹拌型反応炉として、直径250mm、長さ250mmの円筒型石英管を使用しており、冷却水が循環するセラミック製羽根が反応炉の中心部に設けられており、モータによって羽根を動かすことにより最大60rpmまで撹拌可能な構成となっている。
装置の概要は、図1に示した石英管反応炉を小型化し、その炉内に、撹拌用羽根を取り付けた構成である。
なお、図10の写真では、内部の様相を確認できるように、便宜上、直径6mmの電極管コイルを10巻き分取り外した状態となっている。
【0061】
そして、図10に示す装置の撹拌型反応炉内に、ミャンマー産黒胡麻2kgを挿入して、撹拌速度は60rpmで一定として、撹拌しながらプラズマを黒胡麻に2時間照射した。
プラズマガスの種類を、水素、水素+窒素、水素+酸素、水素+空気、空気の5通りとして、それぞれの試料について、プラズマ処理前のオリジナルの状態と、プラズマ処理後の状態から、一般生菌を採取して、前述した野菜類に対する試験方法と同様にして、菌培養試験を行った。
各試料のプラズマガス(殺菌条件)と菌培養試験との結果を、表3に示す。また、オリジナルの状態でのコロニー数とプラズマ処理後のコロニー数との差、即ち、コロニーの減少数をオリジナルのコロニー数で割った、減少割合(%)を算出して、「殺菌効果」として、表3に併せて示す。
【0062】
【表3】
【0063】
表3より、空気プラズマを照射した場合が、最も殺菌効果が大きいことがわかる。空気プラズマを照射した場合のD値は約2時間となる。このD値とは、殺菌の性能(死滅時間)を表す指標であり、オリジナルの菌数に対して1/10に減衰する時間である。例えば、オリジナルの菌数が500CFU/mlの場合、それが1/10の50CFU/mlに到達する時間を指す。ここで、CFUはcolony forming unitの略で、文字通り菌の集落数を意味する。
なお、黒胡麻を撹拌しないで、空気プラズマのその他の照射条件は同様にして、黒胡麻の殺菌を行ったところ、D値は4時間程度であった。即ち、黒胡麻を撹拌しながら殺菌することにより、撹拌しない場合の約半分にD値を低減することが可能になる。
【0064】
(多孔質食品の殺菌)
続いて、本発明の殺菌方法による、多孔質食品の殺菌効果を調べた。
多孔質食品として、ぜんまい(中国産)とひじき(韓国産)を用意して、それぞれの食材について、オリジナルの試料と、空気プラズマを2時間照射した試料とを作製した。
そして、滅菌処理済のストマッカー袋(菌の分離抽出用袋)に、PBS溶液(リン酸緩衝液)90ml入れて、さらに10gの食品試料を添加する。なお、PBSは、操作中に外部から多少の異物(落下菌)が入り込んでも致命的な影響が生じないように、pHを一定に保つ役割として用いている。
次に、ストマッキング処理(機械処理による30秒の菌の分離抽出処理)により、菌を食品から離脱させて、これを原液(10の0乗の希釈液)とした。
さらに、細菌学的検査上、原則として菌数が一平板に30〜300CFU/ml以内でないとデータの信頼性が乏しくなるため、その範囲にヒットされるように原液に対して希釈を行った。希釈方法は、PBS溶液9mlに原液1mlを混合させて、10の1乗の希釈液を作製し、さらにその混合液1mlを新たなPBS溶液9mlに混合させ、10の2乗の希釈液を作製し、以下同様にして、10の3乗の希釈液から10の7乗の希釈液までを作製した。
それぞれの希釈液について、各種の菌(一般生菌、大腸菌群、耐熱細菌、真菌)の数を検査した。検査結果を表4及び表5に示す。表4はぜんまいの場合を示し、表5はひじきの場合を示している。
【0065】
【表4】
【表5】
【0066】
表4及び表5より、プラズマを照射した試料のほうが、菌数が増加する傾向にあった。
また、低温プラズマの表面殺菌のみの効果では、内部の菌の滅菌が難しいことがわかった。
【0067】
ここで、表4及び表5に示した検査結果において、プラズマ照射試料の菌数が増加した理由を解明するために、さらに実験を行った。
まず、オリジナルの試料と空気プラズマを2時間照射した試料との質量を測定して、質量の変化を調べた。
測定結果として、プラズマ照射前後のひじきの質量と、乾燥量とを、表6に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
表6の結果より、プラズマ照射前後の乾燥量は、わずか0.35gであり、全体質量に対して微減であることが判った。
【0070】
次に、水の吸収量差の影響、即ちプラズマ照射によるひじき表面への親水基の結合による水の吸収影響について調べた。
オリジナルの試料と空気プラズマを2時間照射した試料とについて、精製水300mlに10gの試料を45分間浸水させた後の水の吸収量を測定した。45分間の浸水時間は、使用した乾燥ひじきの水による戻り時間である。
測定結果を、表7に示す。
【0071】
【表7】
【0072】
表7より、空気プラズマ照射を行うことによって、26mlも水の吸収量が増加することがわかる。
このことから、空気プラズマの照射によって、ひじきの表面の状態が変化していると考えられる。
【0073】
次に、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)によって、オリジナル及び空気プラズマを照射したひじきの各試料について、ひじきの表面の官能基を同定した。
同定結果を、図11及び図12に示す。図11はオリジナルの試料の同定結果を示し、図12は空気プラズマを照射した試料の同定結果を示している。
【0074】
図12の結果より、空気プラズマを照射したひじき試料において、(−NHCO)の第2アミド基(1300cm−1)と−NO2のニトロ基(890cm−1)の増大が確認できた。即ち、これらの官能基によって、水素結合による吸水効果が増加することがわかる。
【0075】
次に、プラズマ照射前後のひじきの各試料における原子の存在量を、XPS(X線光電子分光)法によって定量した。
ひじきのオリジナルの試料のXPSサーベイ測定による原子の同定結果を、図13に示す。ひじきの空気プラズマを2時間照射した試料のXPSサーベイ測定による原子の同定結果を、図14に示す。
また、図13及び図14のXPSマルチ測定による原子の割合を算出して、表8に示す。
【0076】
【表8】
【0077】
図13及び図14、表8の各結果より、空気プラズマの照射後はひじきに含まれる酸素成分が10%、窒素原子が0.53%増加していることがわかった。
FT−IRによるひじき表面の官能基の同定結果と共に考えると、ニトロ基には酸素原子が含まれていることにより、ひじき多孔質内部にニトロ基が結合し、菌の排水効果が良好となったことが裏付けられた。
【0078】
次に、プラズマ照射前後のひじきの各試料の洗浄回数による菌の排水効果について調べた。
ひじきの各試料に、流水下にて10分間の洗浄を与えて、この状態をRun1とした。
そして、Run1の状態の試料に、同様の条件で再度洗浄を与えて、この状態をRun2とした。
さらに、Run2の状態の試料に、同様の条件で再度洗浄を与えて、この状態をRun3とした。
Run1,Run2,Run3のそれぞれの状態の試料について、ペトリフィルム法による細菌学的検査によって、菌数を調べた。具体的には、洗浄処理後の試料10gを用いて、前述したと同様のストマッキング処理によって各試料から原液1mlを抽出し、この原液をペトリフィルム培地(3M社製の一般生菌専用培地)上に接種させて、菌培養試験を行い、菌数を調べた。培養条件は、インキュベータ室温37℃、5%CO2雰囲気、培養時間48時間とした。
培養後にペトリフィルム上に発現する赤い斑点(菌の集落:コロニー)を計数し、1ml当たりのコロニー数を算出した。この結果を、図15に示す。
【0079】
図15に示す結果から、オリジナルの試料を10分間精製水に浸水・吸収させたRun1の状態の時の菌の洗浄排出量は、620コロニーであり、Run2では74コロニーと大幅に減衰する。しかし、Run3においては、123コロニーと増加する傾向にあった。
これは、洗浄する毎に、より内部に水が浸透し易くなり、吸水時間が増加することで、内部の菌が動き易くなり、結果としてより多く排出されたためである。
これに対し、空気を前駆体とするプラズマを照射した試料では、Run1において2805コロニーが排出された。オリジナルと比較すると、約4.5倍である。即ち、初回に大半の菌が排出され、Run2では71コロニー、Run3では24コロニーとなり、菌の洗浄排出量は減少している。
【0080】
ここで、オリジナルとプラズマ照射試料のRun1〜Run3における合計菌数で見ると、オリジナル試料は、817コロニーで、プラズマ照射試料は2900コロニーの3.5倍の菌の排水効果が認められた。
即ち、従来の洗浄排水工程では内部の菌を効率良く洗浄できないのに対して、本発明の空気プラズマ照射による殺菌方法を行うことによって、初期に大量の菌を排出できることがわかる。
【0081】
次に、銀イオン液による、ひじきに付着する一般生菌の殺菌効果を検証した。
前述したひじきを、濃度100ppmの銀イオン溶液で30秒ほど緩衝させた。
この結果として、銀イオン水を緩衝させたひじきの培地写真を、図16に示す。
図16の写真より、銀イオン溶液で緩衝させたことにより、ひじき中の一般性菌と好熱性菌が完全滅菌されたことがわかる。
【0082】
次に、ウェット状態での空気プラズマ照射による殺菌効果を検証した。
前述したひじきに対して、水を含んだ状態で空気プラズマを2時間照射して、プラズマ照射前後の各試料の表面に付着した菌の菌培養試験を行った。菌培養試験では、前述したように10の2乗の希釈液(1/100)を作製して、培養後の一般生菌のコロニー数を計測した。この結果を、表9に示す。
【0083】
【表9】
【0084】
表9より、水を含んだひじきに空気プラズマを照射した場合には、オリジナルと空気プラズマを照射した試料とで、殺菌効果の大きな差異は得られなかった。
即ち、ドライ状態におけるひじき表面への親水基の結合とのその後の水洗浄が、除菌に(被プラズマ照射体からの菌の排出)重要な役割を果たしていることがわかった。
【0085】
以上説明した実施例により、以下に挙げる知見が得られた。
(1)市販されている生食野菜表面に付着している一般生菌は、本発明による空気プラズマ照射によって、1/20以下に死滅、減少させることができた。
(2)プラズマ照射条件が同じ場合、空気プラズマの方が、酸素プラズマや窒素プラズマよりも、殺菌効果が高くなる。
(3)本発明の空気プラズマ照射により、食品の表面に親水性の官能基を導入することができるため、水や湯での復元力に優れた食品を得ることが可能になる。また、未処理のオリジナルの食品と比較して、香りや色を増強することも可能になる。
(4)本発明の空気プラズマ照射により、スパイス等に付着する好熱性菌(芽胞菌)も、低温で殺菌することが可能になる。また、照射時間を増やすことにより、好熱性菌(芽胞菌)の残存量を低減することができる。
(5)被殺菌物を撹拌しながら殺菌することにより、撹拌しない場合と比較してD値を低減することができる。黒胡麻の場合、D値を半分程度に低減することができた。
(6)本発明の空気プラズマ照射により、食品の表面に親水性の官能基を導入することができるため、洗浄時の菌の排水効果を高めることができる。
(7)多孔質食品であるひじきを銀イオン水によって緩衝させた場合、完全滅菌できることがわかった。
(8)食品の表面に親水性の官能基を導入するには、ドライ状態の食品に対して、空気プラズマを照射する方が効果的である。
【0086】
本発明は、上述の実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【符号の説明】
【0087】
1 水タンク、2 揚水ポンプ、4 銅パイプ、5 プラズマ反応管炉、6 空気吸入装置、10 真空ポンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、被殺菌物、特に野菜類や果物類等の食品に対して、空気プラズマの照射によって殺菌を行う方法に係わる。また、殺菌だけでなく、乾燥や洗浄をも行う方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
即席食品の具材等の乾燥方法として、現在採用されている代表的な方法に、凍結乾燥法(FD)と熱風乾燥法(AD)とがある。
【0003】
凍結乾燥法(FD)は、具材の栄養価の損失が少なく、水や湯での復元性に優れ、蛋白質を多く含んだ素材や香味野菜の乾燥に多く採用されている。
しかし、生の野菜、特に外国産の野菜の場合、微生物による汚染が激しく、1g当たり10万個から100万個以上の微生物で汚染されている。これらの微生物の多くは、細菌の胞子で増殖し、加熱しても死滅しにくく、充分な殺菌処理を施さなければ、加工食品の腐敗の原因となり、特に乾燥野菜類の殺菌は食品衛生上非常に重要である。
【0004】
このため、多くの乾燥野菜類は、熱風乾燥法(AD)により乾燥処理がなされている。
しかし、この熱風乾燥法でも、殺菌には充分な加熱温度と処理時間が必要となる。そのため、香りや色や栄養価等、野菜類の品質を損ねることになる。
【0005】
従って、充分に殺菌を行うと共に、野菜類の品質を損ねることのない殺菌・乾燥方法が望まれている。
【0006】
そこで、本願の発明者等は、先に、食品等に酸素プラズマを照射することにより、殺菌を行うことを提案している(特許文献1参照。)。
酸素プラズマを照射することにより、食品等の素材の品質を損ねることなく、素材表面に付着する微生物等の細菌類を殺菌及び除去することができる。
また、酸素ガスを使用することにより、特殊なガスを使用してプラズマを発生させる場合と比較すると、処理のコストを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−333824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、野菜類に酸素プラズマを照射すると、ある程度水分が放散してしまうため、しおれてしまう。
そのため、プラズマ照射後の野菜類を、シャキッとした歯ごたえのある状態とするためには、水分を供給する必要がある。
水分を供給するには、例えば、充分な量の水に氷を入れて冷水を作り、その中にレモン汁を垂らして、プラズマ照射時間とほぼ同じ時間(30分程度)浸漬して、その後冷水から引き上げる。
従って、歯ごたえのある状態とするために、製品として出荷する前に水分を供給する工程を行う必要が生じて、製品の製造コストを増大させる要因となる。
【0009】
酸素プラズマや窒素プラズマを照射する場合には、プラズマの原料として酸素ガスや窒素ガスが必要となるため、その分の原料コストがかかる。
さらにまた、凍結乾燥法(FD)及び熱風乾燥法(AD)は、いずれも、乾燥処理に多大なコストを要する。
【0010】
上述した問題の解決のために、本発明においては、比較的安いコストで、野菜類又は果物類等の被殺菌物の品質を損ねることなく、充分に被殺菌物の殺菌を行うことができる、プラズマ照射による殺菌方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のプラズマ照射による殺菌方法は、被殺菌物に対して、空気プラズマを照射するプラズマ照射工程を行って、被殺菌物を殺菌するものである。
【0012】
本発明の殺菌方法のプラズマ照射工程において、さらに、被殺菌物を撹拌しながら空気プラズマを照射することも可能である。
本発明の殺菌方法において、被殺菌物を食品とすること、さらに、被殺菌物を野菜類又は果物類を含む食品とすることも可能である。
本発明の殺菌方法において、さらに、プラズマ照射工程の前の減圧工程及びプラズマ照射工程で、被殺菌物を乾燥させることも可能である。
本発明の殺菌方法において、さらに、プラズマ照射工程の際に、被殺菌物(野菜類又は果物類を含む食品)の表面に親水性の官能基を導入して、プラズマ照射工程の後に被殺菌物を洗浄する工程を行うことも可能である。
【0013】
上述の本発明の殺菌方法によれば、空気プラズマを照射することにより、比較的低温で、空気プラズマによる殺菌作用を発生させることが可能になる。
【0014】
また、本発明の殺菌方法によれば、空気プラズマの照射により、食品等の被殺菌物の表面に、親水性の官能基(例えば、ニトロ基や第2アミド基)を導入することが可能になる。これにより、被殺菌物を水に戻したときにシャキッとした歯ごたえのある状態に復元することや、被殺菌物を洗浄したときの菌の排水効果を高めたりすることが、可能になる。
特に、プラズマ照射工程において野菜類又は果物類を含む食品の表面に親水性の官能基を導入して、プラズマ照射工程の後に被殺菌物を洗浄する工程を行った場合には、親水性の官能基の導入によって菌の排水効果が高められているので、洗浄工程で効率よく菌を排出して除菌を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
上述の本発明によれば、比較的低温で殺菌作用を発生させることが可能になり、被照射物の品質を損ねることなく、充分に殺菌を行うことができる。
また、本発明によれば、空気プラズマを使用するので、特殊な物質のプラズマや酸素プラズマや窒素プラズマを使用する場合と比較して、プラズマ原料のコストを大幅に低減することができ、比較的安いコストで被照射物の殺菌を行うことができる。
特に、被殺菌物が食品である場合には、香りや色や栄養価等の品質を保ったままで、充分に殺菌を行うことが可能になる。
【0016】
また、プラズマ照射工程において、さらに、被殺菌物を撹拌しながら空気プラズマを照射するようにした場合には、殺菌の効率を向上させることができる。
【0017】
また、プラズマ照射工程の前の減圧工程及びプラズマ照射工程において、被殺菌物を乾燥させるようにした場合には、殺菌だけでなく、被殺菌物の乾燥も行うことができる。
【0018】
また、プラズマ照射工程において野菜類又は果物類を含む食品の表面に親水性の官能基を導入して、プラズマ照射工程の後に被殺菌物を洗浄する工程を行った場合には、殺菌だけでなく、被殺菌物の除菌も、効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の殺菌方法を行うためのプラズマ照射装置の一形態の概略構成図である。
【図2】(a)〜(c)野菜群1の生食ミックス野菜及びカイワレ大根のプラズマ照射による変化を示す写真である。
【図3】(a)〜(c)野菜群2の乾燥ラーメン用具材のプラズマ照射による変化を示す写真である。
【図4】空気プラズマ照射後の野菜群3の野菜の状態を示す写真である。
【図5】(a)〜(e)図4の各野菜を水に浸して戻した状態を示す写真である。
【図6】生食ミックス野菜(野菜サラダ)の培養結果を示す写真である。
【図7】カイワレ大根の培養結果を示す写真である。
【図8】乾燥ラーメン用具材の培養結果を示す写真である。
【図9】乾燥こねぎの培養結果を示す写真である。
【図10】撹拌型低温プラズマ装置の写真である。
【図11】ひじきのオリジナルの試料のFT−IRによる同定結果である。
【図12】ひじきの空気プラズマを照射した試料のFT−IRによる同定結果である。
【図13】ひじきのオリジナルの試料のXPSサーベイ測定による原子の同定結果である。
【図14】ひじきの空気プラズマを照射した試料のXPSサーベイ測定による原子の同定結果である。
【図15】ひじきの洗浄回数による菌のコロニー数の変化を示す図である。
【図16】銀イオン水を緩衝させたひじきの培地写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
本発明では、空気プラズマを被殺菌物(例えば、野菜類や果物類を含む食品、スパイス等)に照射することにより、殺菌を行う。
【0021】
空気プラズマは、プラズマ発生装置の内部を所定の真空状態に減圧した後に、空気を導入することにより、発生させることができる。
このとき、70℃以下の低温の状態で、空気プラズマを発生させることができる。
【0022】
空気プラズマの発生前の減圧により、野菜類や果物類からある程度の脱水を行うことができ、その後低温の状態で空気プラズマを発生させて空気プラズマを照射することにより殺菌と脱水を行うことができる。即ち、本発明の殺菌方法では、プラズマ照射工程の前の減圧工程及びプラズマ照射工程において、被照射物の乾燥を行うことも可能である。
例えば、減圧のみを60分間行ってある程度脱水させて、続いて30分間空気プラズマを照射して殺菌と脱水を行う。
低温の状態で空気プラズマを照射することにより、加熱による野菜類や果物類等の被殺菌物の品質の損傷を防いで、かつ充分に殺菌することができる。
空気プラズマの照射により、野菜類や果物類等の被殺菌物の表面に付着する細菌を極力減らすことができる。
【0023】
前記特許文献1に記載されている、酸素プラズマを照射する殺菌方法では、オゾン(O3)とヒドロキシルラジカル(・OH)の酸化力により、細菌類が死滅するものと考えられる。
また、窒素プラズマを照射する殺菌方法では窒素ラジカル等の作用によって、細菌類が死滅するものと考えられる。
【0024】
これに対して、本発明では、空気プラズマを照射することから、空気に含まれる酸素と窒素とにより、オゾンやヒドロキシルラジカルの他に、一酸化窒素(NO)ラジカルやそれとスーパーオキシドアニオンラジカル(・O2−)との反応によって発生する、強い酸化力のパーオキシナイトライト(ONOO−)ラジカルによって、細菌類が死滅するものと考えられる。
従って、本発明によれば、空気プラズマを照射することにより、酸素プラズマだけを照射する場合や、窒素プラズマだけを照射する場合と比較して、殺菌効果を高めることができる。
また、本発明によれば、プラズマ原料(前駆体)として空気を使用するので、酸素プラズマだけを照射する場合や、窒素プラズマだけを照射する場合と比較して、プラズマ原料が安価であり、プラズマ照射による殺菌のコストを大幅に低減することができる。
【0025】
さらにまた、本発明によれば、空気プラズマを照射することにより、食品等の有機物を含む被照射物の表面に、親水性の官能基(例えば、ニトロ基や第2アミド基)を導入することが可能になる。
これにより、プラズマ照射後の食品等の被照射物を水に戻したときに、新鮮なぱりぱりとした歯ごたえのある状態に復元することが可能になると考えられる。
また、親水性の官能基によって、被殺菌物を洗浄したときの菌の排水効果を高めることも可能になる。
【0026】
本発明の殺菌方法において、さらに、プラズマ照射工程で被照射物を撹拌することにより、殺菌の効率を高めることができ、殺菌時間を短縮することが可能になる。
平板上に被照射物を載せて、被照射物の表面にプラズマ照射をする場合には、照射ムラや照射量の制限がある。
これに対して、被照射物を撹拌することにより、プラズマの照射面を制限せず、殺菌の効率の向上により、少ない照射量で殺菌を行うことが可能になる。
【0027】
野菜類や果物類は、その性状によっては、包丁等で切ったり、皮をむいたり、葉を小分けしたりすることにより、適切な大きさとする方が好ましい。これにより、さらに効率良く殺菌を行うことができる。
例えば、キャベツ等の葉菜類は、葉と葉の隙間にも菌が存在することがあるため、丸ごとよりも葉ごとに小分けした方が、効率良く殺菌することができる。
【0028】
胡椒や胡麻等のスパイス類では、一般生菌よりも好熱性菌(芽胞菌)の付着の方が問題になることが多い。
好熱性菌(芽胞菌)を殺菌するには、一般生菌を殺菌する場合と比較して、高い温度条件で殺菌処理を行う必要があったため、殺菌処理によりスパイスの香りが欠乏してしまう問題があった。
そのため、低温で好熱性菌(芽胞菌)を殺菌できる方法が、香辛料業界において切望されている。
これに対して、本発明の殺菌方法によって、スパイス類を殺菌することにより、70℃以下の低温で好熱性菌(芽胞菌)を殺菌することが可能になるため、スパイスの香りを損ねることなく殺菌を行うことができる。
【0029】
また、ぜんまいやひじき、キノコ等のように、多孔質の食品は、食品の内部に菌が生息しやすくなり、食品の内部ほど菌の生存率が高くなる。
従来は、多孔質の食品については、洗浄回数を多くしたり、ボイル加熱処理を行ったりすることにより、殺菌が行われており、効率的ではない。
これに対して、本発明の殺菌方法を適用することにより、空気プラズマを照射して、多孔質の食品の表面に親水性の官能基を導入することができる。これにより、洗浄したときの菌の排水効果を高めることが可能になると考えられ、プラズマ照射後の被照射物を水等で洗浄することによって、多くの菌を除去することが可能になる。
なお、食品の表面に親水性の官能基を導入するには、ドライ状態の食品に対して、空気プラズマを照射する方が効果的である。
【0030】
本発明の殺菌方法によって殺菌を行うことにより、例えば、みかんやオレンジ等の柑橘類の実を包む袋状の皮や、ブドウ等の皮を、取り除かなくても皮ごと食することも可能になると考えられる。
【0031】
病院食においては、食中毒防止の観点から、生野菜類はそのまま使用せずに、加熱殺菌を行っていることが多い。
これに対して、本発明方法を適用して、充分に殺菌がなされるように、空気プラズマの照射条件を設定することにより、病院食として生野菜類や果物類を提供することも、可能になると考えられる。
【0032】
そして、本発明の殺菌方法では、プラズマ照射により殺菌を行うので、放射線照射や薬品を使用して殺菌を行った場合のような、放射性物質や薬品の残留がなく、また、対象物の変質を生じることがないため、人体に無害である。
また、プラズマ照射により殺菌を行った食品は、水や湯での吸水復元性に優れており、従来の乾燥・殺菌を行った食品と比較して、香りや色や栄養価が増強される。
【0033】
本発明の殺菌方法において、さらに被殺菌物の乾燥をも行うようにした場合には、1工程処理で殺菌及び乾燥を行うことも可能になるため、凍結乾燥法や熱風乾燥法等の従来の方法と比較して、大幅に処理コストを低減することができる。
【0034】
さらにまた、本発明によるプラズマ照射法で殺菌・乾燥させた食品は、従来のFD法やAD法により殺菌・乾燥させた食品と比較して、完全な乾燥状態ではないが、細菌が充分死滅状態になっているため、長期間腐食しない、という特長を有する。
即ち、本発明により、長期保存が可能であり、殺菌された食品を、製造することが可能になる。
【0035】
本発明の殺菌方法を行うための、プラズマ照射装置の一形態の概略構成図を、図1に示す。
本装置は、プラズマ反応管炉5を使用して、本発明方法に係るプラズマ照射工程を行う。
このプラズマ反応管炉5は、プラズマを発生させる反応管から成り、この反応管の周囲には、銅パイプ4が巻きつけられている。反応管は、例えば、石英管により構成する。
このプラズマ反応管炉5は、外部誘導型の低圧低温プラズマ炉である。そのため、プラズマ反応管炉5の内部に電極がなく、安定した前駆体のプラズマを、大きい容積にわたって均一に得ることができ、3次元的なプラズマ照射ができる、という特徴を有する。
また、このプラズマ反応管炉5は、石英管から成るので、プラズマを発生させたときにプラズマガスと反応することがなく、プラズマガスが石英を透過して、内部作動ガスに直接作用する特徴がある。
プラズマ照射装置の通常の使用形態では、ガスプラズマを発生させるためのガスボンベが、プラズマ反応管炉5に接続されているが、本発明では、空気プラズマを発生させるために、ガスボンベの代わりに大気中の空気を吸入する空気吸入装置6をプラズマ反応管炉5に接続する。
本装置は、高周波加熱を行うための高周波を供給する、高周波電源3を備えている。この高周波電源3から、電磁誘導コイル4の銅パイプに、高周波電力を供給して、プラズマ反応管炉5に対して、高周波誘導加熱を行うことができる。
本装置は、高周波電源3及び銅パイプ4内に送り込む冷却水を供給するために、水タンク1及び揚水ポンプ2を備えている。水タンク1では、内部の水が一定温度に保持される。揚水ポンプ2により、銅パイプ4の内部に冷却水を循環させることができる。
危険な反応排ガスを捕獲するためのトラップ部として、プラズマ反応管炉5の後段に、液体窒素トラップ7及び消石灰入りトラップ8が接続されている。
その後段に、真空排気装置として、真空度を測定するためのピラニー真空計9、真空ポンプ10を備えている。真空ポンプ10としては、例えば、油回転ポンプを用いる。真空ポンプ10によってプラズマ反応管炉5の内部の真空引きを行うことにより、低温でプラズマを発生させることができる。
さらに後段には、真空ポンプ10からの排気ガスを処理するために、強制吸引を行う電気吸引機11と、スクラバー(排気ガス洗浄装置)12とが設けられている。
【0036】
そして、本発明の殺菌方法により、図1に示すプラズマ照射装置を使用して、例えば以下に説明するようにして、殺菌を行うことができる。
まず、被殺菌物(例えば、野菜類又は果物類)を、プラズマ反応管炉5内に入れる。
次に、真空ポンプ10を使用して、プラズマ反応管炉5内を真空排気する。
所定の初期真空状態に達した後に、荒引き状態で、空気吸入装置6を通じて、プラズマ反応管炉5内へ空気を導入する。
所定の真空度に達したときに、銅パイプ4に高周波電源3から高周波電力を供給して、プラズマ反応管炉5内に空気ガスプラズマを発生させる。
空気ガスプラズマ中に活性種が生成され、この活性種が励起したオゾン、ヒドロキシルラジカル、一酸化窒素ラジカル、パーオキシナイトライトラジカル等の複合作用により、被殺菌物の殺菌を行うことができる。また、条件によっては、被殺菌物の乾燥も併せて行うことができる。
最後に、殺菌を行った被殺菌物を、プラズマ反応管炉5の両端部に取り付けた扉を開けて取り出し、殺菌処理を終了する。
【0037】
本発明方法を行うためのプラズマ照射装置は、図1に示した装置構成に限定されるものではない。
図1に示した装置構成は、実験的なものであり、比較的少量の対象物にプラズマ照射を行う場合に適した構成である。
被殺菌物を大量に殺菌する場合には、大量処理に適した装置構成とすれば良い。
【実施例】
【0038】
図1に示した装置を使用して、実際に、野菜類の殺菌・乾燥を行った。
プラズマ反応管炉5は、石英製で、外径300mm、内径290mm、長さ1000mmの寸法として、透明な石英管から内部を容易に見ることが可能な構成とした。直径6mmの銅パイプ4を用いて、石英製の反応管炉5の周囲に38回巻き付けた。
また、高周波電源3から、高周波を発振させるように設定した。
【0039】
<野菜群1>
野菜群1として、市販されている、裁断された生食ミックス野菜(キャベツ、コーン、ブロッコリー、人参、水菜、大根、サニーレタス、紫キャベツ)と、市販されているカイワレ大根の根の部分を切り落としたものとを用意した。
【0040】
これら野菜群1の生食ミックス野菜及びカイワレ大根について、プラズマ照射による変化を、図2に示す。図2中、(a)はプラズマ照射前、(b)は空気プラズマ照射中、(c)は30分間の空気プラズマ照射終了後炉から取り出した状況の、写真である。
図2(c)から、プラズマ照射後の試料、特に、カイワレ大根は脱水され、しおれていることがわかる。
【0041】
<野菜群2>
野菜群2として、市販されている、FD法(凍結乾燥法)による乾燥ラーメン用具材を用意した。その内訳は、わかめ(中国産)、にんじん(フランス産)、コーン(米国産)、昆布(北海道産)、わけぎ(中国産)、並びに、こねぎ(中国産)である。
【0042】
これら野菜群2の乾燥ラーメン用具材について、プラズマ照射による変化を、図3に示す。図3中、(a)はプラズマ照射前、(b)は空気プラズマ照射中、(c)は30分間の空気プラズマ照射終了後炉から取り出した状況の、写真である。
図3(c)から、プラズマ照射後の具材は、目視では照射前とほとんど変化が認められなかった。
【0043】
<野菜群3>
野菜群3として、白ねぎ(輪切り)、白ねぎ(斜め切り)、きぬさや、キャベツフレーク、ほうれん草、サラダ菜を用意した。
【0044】
これら野菜群3のそれぞれの野菜を、1枚の石英板の上に並べて置いて、図1に示したプラズマ照射装置のプラズマ反応管炉5内に入れて、60分間真空状態に曝した後に、30分間空気プラズマを照射した。
空気プラズマ照射後の野菜群3の野菜の状態を、図4の写真に示す。
図4に示すように、空気プラズマの照射によって、乾燥状態となっている。
【0045】
さらに、この乾燥状態となった野菜を、水に浸して戻した。
この戻した状態の各野菜を、図5の写真に示す。図5の(a)は白ねぎ、(b)はきぬさや、(c)はほうれん草、(d)はキャベツフレーク、(e)はサラダ菜である。
図5の各写真からわかるように、大きさや色が照射前の状態にほぼ復元している。
また、写真からはわからないが、香りも照射前の状態にほぼ復元していた。
【0046】
図4及び図5に示した乾燥野菜は、従来のFD法やAD法によるものと比べて完全な乾燥状態ではないが、細菌が充分死滅状態になっているため、長期間腐食しない。
【0047】
(野菜類の菌培養試験)
野菜類について、菌培養試験を行い、プラズマ照射による滅菌の効果を調べた。
まず、図2及び図3に示した、野菜群1及び野菜群2のプラズマ照射後の具材を、(1)生食ミックス野菜、(2)カイワレ大根、(3)乾燥ラーメン用具材、(4)乾燥こねぎ、の4種類に分けた。
そして、4種類の具材について、それぞれ、プラズマ照射を行わないオリジナル(生の状態)の試料、酸素プラズマ照射を行った試料、空気プラズマ照射を行った試料、の3通りの試料を作製した。酸素プラズマ照射及び空気プラズマ照射は、照射時間を30分に統一した。
【0048】
続いて、得られた各試料を、100mlの蒸留水の入ったサンプルバッグ(滅菌済み)に入れて、1分間撹拌した後に、各具材表面に付着する細菌を蒸留水中に放出させた。この液を、検査液とした。
得られた検査液から1mlを採って、ペトリフィルム上に蒔き、インキュベータにて培養した。培養条件は、インキュベータ内温度35℃、二酸化炭素濃度5%、培養時間48時間とした。
【0049】
以下、4種類の具材のそれぞれについて、培養した結果を順次説明する。
(1)生食ミックス野菜(野菜サラダ)の培養結果を、図6の写真に示す。図6において、上がオリジナル(非照射)の試料、左のAirが空気プラズマ照射の試料、右のO2が酸素プラズマ照射の試料である。この写真では、一般生菌のコロニー(赤い斑点)状況を示しており、以下の他の具材の場合も同様である。
図6の写真からわかるように、オリジナルの場合にはコロニー数が約800個あるのに対して、空気プラズマを照射すると34個に減り、酸素プラズマの場合は約65個に減った。
即ち、空気プラズマの方が酸素プラズマよりも強い殺菌力を示している。
【0050】
(2)カイワレ大根の培養結果を、図7の写真に示す。試料の配置は、図6と同様である。
図7の写真から、オリジナルの場合はコロニー数が約1425個と多いのに対して、空気プラズマを照射すると93個に減り、酸素プラズマの場合は約189個に減った。空気プラズマや酸素プラズマを照射した場合は、明らかにコロニー数が減っているのが確認できる。
【0051】
(3)乾燥ラーメン用具材の培養結果を、図8の写真に示す。試料の配置は、図6〜図7と同様である。
図8から、オリジナルの場合にはコロニー数が13個であるのに対して、空気プラズマや酸素プラズマを照射した場合には、その半分以下にコロニーが減少していることがわかる。
【0052】
(4)乾燥こねぎの培養結果を、図9の写真に示す。試料の配置は、図6〜図8と同様である。
図9から、オリジナルの場合でもコロニー数は2個程度で少ないが、空気プラズマや酸素プラズマを照射した場合には0個にさらに減少している。
【0053】
以上4種類の野菜群の菌培養試験の結果を、表1にまとめて示す。
【0054】
【表1】
【0055】
以上の結果が示すように、本発明方法の空気プラズマ照射による細菌の殺菌効果が、明白に現れている。
【0056】
(スパイス類の殺菌効果)
続いて、本発明の殺菌方法による、スパイス類(黒胡椒、黒胡麻)に付着する菌の殺菌効果について調べた。
【0057】
<黒胡椒の殺菌>
まず、黒胡椒を用意して、プラズマを照射していないオリジナルの状態の試料と、空気プラズマを照射した試料とを作製した。
空気プラズマを照射した試料は、照射時間を0.5時間とした試料(No.1)と、照射時間を4時間とした試料(No.2,No.3)とを作製した。
各試料について、黒胡椒に付着する好熱性菌を寒天培地法によって検査した。
各試料の空気プラズマの照射条件及び好熱性菌の生存数(g当たり)を、表2にまとめて示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表2より、オリジナルでは、約30000/gの菌が生存していたが、アノード電圧3kVにて空気プラズマを30分照射した場合、約15000/gの半分のオーダーに死滅した。また、4時間照射した場合、菌数は20〜60/g程度まで大幅に減衰し、低温プラズマによる殺菌効果が示された。
従って、照射時間を増やしていくことにより、好熱性菌(芽胞菌)の殺菌効果を向上することができることがわかる。
なお、照射時間が4時間では、まだ効率的な殺菌手法とは言えないので、より短い照射時間で大きい殺菌効果が得られるように、照射条件を工夫する余地がある。
【0060】
<黒胡麻の殺菌>
次に、ミャンマー産黒胡麻を用意して、撹拌型低温プラズマ装置を用いて、殺菌を行った。
使用した撹拌型低温プラズマ照射装置の写真を、図10に示す。
図10に示す装置は、撹拌型反応炉として、直径250mm、長さ250mmの円筒型石英管を使用しており、冷却水が循環するセラミック製羽根が反応炉の中心部に設けられており、モータによって羽根を動かすことにより最大60rpmまで撹拌可能な構成となっている。
装置の概要は、図1に示した石英管反応炉を小型化し、その炉内に、撹拌用羽根を取り付けた構成である。
なお、図10の写真では、内部の様相を確認できるように、便宜上、直径6mmの電極管コイルを10巻き分取り外した状態となっている。
【0061】
そして、図10に示す装置の撹拌型反応炉内に、ミャンマー産黒胡麻2kgを挿入して、撹拌速度は60rpmで一定として、撹拌しながらプラズマを黒胡麻に2時間照射した。
プラズマガスの種類を、水素、水素+窒素、水素+酸素、水素+空気、空気の5通りとして、それぞれの試料について、プラズマ処理前のオリジナルの状態と、プラズマ処理後の状態から、一般生菌を採取して、前述した野菜類に対する試験方法と同様にして、菌培養試験を行った。
各試料のプラズマガス(殺菌条件)と菌培養試験との結果を、表3に示す。また、オリジナルの状態でのコロニー数とプラズマ処理後のコロニー数との差、即ち、コロニーの減少数をオリジナルのコロニー数で割った、減少割合(%)を算出して、「殺菌効果」として、表3に併せて示す。
【0062】
【表3】
【0063】
表3より、空気プラズマを照射した場合が、最も殺菌効果が大きいことがわかる。空気プラズマを照射した場合のD値は約2時間となる。このD値とは、殺菌の性能(死滅時間)を表す指標であり、オリジナルの菌数に対して1/10に減衰する時間である。例えば、オリジナルの菌数が500CFU/mlの場合、それが1/10の50CFU/mlに到達する時間を指す。ここで、CFUはcolony forming unitの略で、文字通り菌の集落数を意味する。
なお、黒胡麻を撹拌しないで、空気プラズマのその他の照射条件は同様にして、黒胡麻の殺菌を行ったところ、D値は4時間程度であった。即ち、黒胡麻を撹拌しながら殺菌することにより、撹拌しない場合の約半分にD値を低減することが可能になる。
【0064】
(多孔質食品の殺菌)
続いて、本発明の殺菌方法による、多孔質食品の殺菌効果を調べた。
多孔質食品として、ぜんまい(中国産)とひじき(韓国産)を用意して、それぞれの食材について、オリジナルの試料と、空気プラズマを2時間照射した試料とを作製した。
そして、滅菌処理済のストマッカー袋(菌の分離抽出用袋)に、PBS溶液(リン酸緩衝液)90ml入れて、さらに10gの食品試料を添加する。なお、PBSは、操作中に外部から多少の異物(落下菌)が入り込んでも致命的な影響が生じないように、pHを一定に保つ役割として用いている。
次に、ストマッキング処理(機械処理による30秒の菌の分離抽出処理)により、菌を食品から離脱させて、これを原液(10の0乗の希釈液)とした。
さらに、細菌学的検査上、原則として菌数が一平板に30〜300CFU/ml以内でないとデータの信頼性が乏しくなるため、その範囲にヒットされるように原液に対して希釈を行った。希釈方法は、PBS溶液9mlに原液1mlを混合させて、10の1乗の希釈液を作製し、さらにその混合液1mlを新たなPBS溶液9mlに混合させ、10の2乗の希釈液を作製し、以下同様にして、10の3乗の希釈液から10の7乗の希釈液までを作製した。
それぞれの希釈液について、各種の菌(一般生菌、大腸菌群、耐熱細菌、真菌)の数を検査した。検査結果を表4及び表5に示す。表4はぜんまいの場合を示し、表5はひじきの場合を示している。
【0065】
【表4】
【表5】
【0066】
表4及び表5より、プラズマを照射した試料のほうが、菌数が増加する傾向にあった。
また、低温プラズマの表面殺菌のみの効果では、内部の菌の滅菌が難しいことがわかった。
【0067】
ここで、表4及び表5に示した検査結果において、プラズマ照射試料の菌数が増加した理由を解明するために、さらに実験を行った。
まず、オリジナルの試料と空気プラズマを2時間照射した試料との質量を測定して、質量の変化を調べた。
測定結果として、プラズマ照射前後のひじきの質量と、乾燥量とを、表6に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
表6の結果より、プラズマ照射前後の乾燥量は、わずか0.35gであり、全体質量に対して微減であることが判った。
【0070】
次に、水の吸収量差の影響、即ちプラズマ照射によるひじき表面への親水基の結合による水の吸収影響について調べた。
オリジナルの試料と空気プラズマを2時間照射した試料とについて、精製水300mlに10gの試料を45分間浸水させた後の水の吸収量を測定した。45分間の浸水時間は、使用した乾燥ひじきの水による戻り時間である。
測定結果を、表7に示す。
【0071】
【表7】
【0072】
表7より、空気プラズマ照射を行うことによって、26mlも水の吸収量が増加することがわかる。
このことから、空気プラズマの照射によって、ひじきの表面の状態が変化していると考えられる。
【0073】
次に、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)によって、オリジナル及び空気プラズマを照射したひじきの各試料について、ひじきの表面の官能基を同定した。
同定結果を、図11及び図12に示す。図11はオリジナルの試料の同定結果を示し、図12は空気プラズマを照射した試料の同定結果を示している。
【0074】
図12の結果より、空気プラズマを照射したひじき試料において、(−NHCO)の第2アミド基(1300cm−1)と−NO2のニトロ基(890cm−1)の増大が確認できた。即ち、これらの官能基によって、水素結合による吸水効果が増加することがわかる。
【0075】
次に、プラズマ照射前後のひじきの各試料における原子の存在量を、XPS(X線光電子分光)法によって定量した。
ひじきのオリジナルの試料のXPSサーベイ測定による原子の同定結果を、図13に示す。ひじきの空気プラズマを2時間照射した試料のXPSサーベイ測定による原子の同定結果を、図14に示す。
また、図13及び図14のXPSマルチ測定による原子の割合を算出して、表8に示す。
【0076】
【表8】
【0077】
図13及び図14、表8の各結果より、空気プラズマの照射後はひじきに含まれる酸素成分が10%、窒素原子が0.53%増加していることがわかった。
FT−IRによるひじき表面の官能基の同定結果と共に考えると、ニトロ基には酸素原子が含まれていることにより、ひじき多孔質内部にニトロ基が結合し、菌の排水効果が良好となったことが裏付けられた。
【0078】
次に、プラズマ照射前後のひじきの各試料の洗浄回数による菌の排水効果について調べた。
ひじきの各試料に、流水下にて10分間の洗浄を与えて、この状態をRun1とした。
そして、Run1の状態の試料に、同様の条件で再度洗浄を与えて、この状態をRun2とした。
さらに、Run2の状態の試料に、同様の条件で再度洗浄を与えて、この状態をRun3とした。
Run1,Run2,Run3のそれぞれの状態の試料について、ペトリフィルム法による細菌学的検査によって、菌数を調べた。具体的には、洗浄処理後の試料10gを用いて、前述したと同様のストマッキング処理によって各試料から原液1mlを抽出し、この原液をペトリフィルム培地(3M社製の一般生菌専用培地)上に接種させて、菌培養試験を行い、菌数を調べた。培養条件は、インキュベータ室温37℃、5%CO2雰囲気、培養時間48時間とした。
培養後にペトリフィルム上に発現する赤い斑点(菌の集落:コロニー)を計数し、1ml当たりのコロニー数を算出した。この結果を、図15に示す。
【0079】
図15に示す結果から、オリジナルの試料を10分間精製水に浸水・吸収させたRun1の状態の時の菌の洗浄排出量は、620コロニーであり、Run2では74コロニーと大幅に減衰する。しかし、Run3においては、123コロニーと増加する傾向にあった。
これは、洗浄する毎に、より内部に水が浸透し易くなり、吸水時間が増加することで、内部の菌が動き易くなり、結果としてより多く排出されたためである。
これに対し、空気を前駆体とするプラズマを照射した試料では、Run1において2805コロニーが排出された。オリジナルと比較すると、約4.5倍である。即ち、初回に大半の菌が排出され、Run2では71コロニー、Run3では24コロニーとなり、菌の洗浄排出量は減少している。
【0080】
ここで、オリジナルとプラズマ照射試料のRun1〜Run3における合計菌数で見ると、オリジナル試料は、817コロニーで、プラズマ照射試料は2900コロニーの3.5倍の菌の排水効果が認められた。
即ち、従来の洗浄排水工程では内部の菌を効率良く洗浄できないのに対して、本発明の空気プラズマ照射による殺菌方法を行うことによって、初期に大量の菌を排出できることがわかる。
【0081】
次に、銀イオン液による、ひじきに付着する一般生菌の殺菌効果を検証した。
前述したひじきを、濃度100ppmの銀イオン溶液で30秒ほど緩衝させた。
この結果として、銀イオン水を緩衝させたひじきの培地写真を、図16に示す。
図16の写真より、銀イオン溶液で緩衝させたことにより、ひじき中の一般性菌と好熱性菌が完全滅菌されたことがわかる。
【0082】
次に、ウェット状態での空気プラズマ照射による殺菌効果を検証した。
前述したひじきに対して、水を含んだ状態で空気プラズマを2時間照射して、プラズマ照射前後の各試料の表面に付着した菌の菌培養試験を行った。菌培養試験では、前述したように10の2乗の希釈液(1/100)を作製して、培養後の一般生菌のコロニー数を計測した。この結果を、表9に示す。
【0083】
【表9】
【0084】
表9より、水を含んだひじきに空気プラズマを照射した場合には、オリジナルと空気プラズマを照射した試料とで、殺菌効果の大きな差異は得られなかった。
即ち、ドライ状態におけるひじき表面への親水基の結合とのその後の水洗浄が、除菌に(被プラズマ照射体からの菌の排出)重要な役割を果たしていることがわかった。
【0085】
以上説明した実施例により、以下に挙げる知見が得られた。
(1)市販されている生食野菜表面に付着している一般生菌は、本発明による空気プラズマ照射によって、1/20以下に死滅、減少させることができた。
(2)プラズマ照射条件が同じ場合、空気プラズマの方が、酸素プラズマや窒素プラズマよりも、殺菌効果が高くなる。
(3)本発明の空気プラズマ照射により、食品の表面に親水性の官能基を導入することができるため、水や湯での復元力に優れた食品を得ることが可能になる。また、未処理のオリジナルの食品と比較して、香りや色を増強することも可能になる。
(4)本発明の空気プラズマ照射により、スパイス等に付着する好熱性菌(芽胞菌)も、低温で殺菌することが可能になる。また、照射時間を増やすことにより、好熱性菌(芽胞菌)の残存量を低減することができる。
(5)被殺菌物を撹拌しながら殺菌することにより、撹拌しない場合と比較してD値を低減することができる。黒胡麻の場合、D値を半分程度に低減することができた。
(6)本発明の空気プラズマ照射により、食品の表面に親水性の官能基を導入することができるため、洗浄時の菌の排水効果を高めることができる。
(7)多孔質食品であるひじきを銀イオン水によって緩衝させた場合、完全滅菌できることがわかった。
(8)食品の表面に親水性の官能基を導入するには、ドライ状態の食品に対して、空気プラズマを照射する方が効果的である。
【0086】
本発明は、上述の実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【符号の説明】
【0087】
1 水タンク、2 揚水ポンプ、4 銅パイプ、5 プラズマ反応管炉、6 空気吸入装置、10 真空ポンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被殺菌物に対して空気プラズマを照射するプラズマ照射工程を行って、
前記被殺菌物を殺菌する
殺菌方法。
【請求項2】
前記プラズマ照射工程において、前記被殺菌物を撹拌しながら、前記空気プラズマを照射する、請求項1に記載の殺菌方法。
【請求項3】
前記被殺菌物が食品である請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の殺菌方法。
【請求項4】
前記被殺菌物が野菜類又は果物類を含む食品である請求項3に記載の殺菌方法。
【請求項5】
前記プラズマ照射工程の前の減圧工程及び前記プラズマ照射工程において、前記被殺菌物を乾燥させる、請求項1に記載の殺菌方法。
【請求項6】
前記プラズマ照射工程の際に、被殺菌物の表面に親水性の官能基を導入し、
前記プラズマ照射工程の後に、被殺菌物を洗浄する工程を行う、請求項4に記載の殺菌方法。
【請求項1】
被殺菌物に対して空気プラズマを照射するプラズマ照射工程を行って、
前記被殺菌物を殺菌する
殺菌方法。
【請求項2】
前記プラズマ照射工程において、前記被殺菌物を撹拌しながら、前記空気プラズマを照射する、請求項1に記載の殺菌方法。
【請求項3】
前記被殺菌物が食品である請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の殺菌方法。
【請求項4】
前記被殺菌物が野菜類又は果物類を含む食品である請求項3に記載の殺菌方法。
【請求項5】
前記プラズマ照射工程の前の減圧工程及び前記プラズマ照射工程において、前記被殺菌物を乾燥させる、請求項1に記載の殺菌方法。
【請求項6】
前記プラズマ照射工程の際に、被殺菌物の表面に親水性の官能基を導入し、
前記プラズマ照射工程の後に、被殺菌物を洗浄する工程を行う、請求項4に記載の殺菌方法。
【図1】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図16】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図16】
【公開番号】特開2010−187648(P2010−187648A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38558(P2009−38558)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】
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