説明

空気二次電池

【課題】空気電池では、充放電時以外でも負極活物質が電解質と寄生反応を起こすために長期間の保存が困難であること、性能が周囲環境に影響を受けやすいこと、充電が不可能であること、および、稼働温度領域が水の融点以上沸点以下に限定されており、また活性酸素種を電力発生源として有効に活用した電池は過去に開発されていなく、これらを満足する空気電池を提供する。
【解決手段】活性酸素種が電解質間を移動することで充電および放電が行われる空気電池であって、活性酸素種を輸送するキャリア6として、非水系の有機分子を用いることを最も主要な特徴とする空気電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電可能な空気電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛空気電池、リチウム空気電池、アルミニウム空気電池、マグネシウム空気電池等を含む空気電池は、高エネルギー密度電池として注目を集めている。一般的な電池では正極活物質が正極電極内に組み込まれているのに対し、空気電池は空気中の酸素を正極(空気極)活物質として利用する。正極活物質が電池の構成物から取り除かれ、また空気中から酸素がほぼ無限に供給されるために、空気電池は他の電池と比較して高いエネルギー密度を実現し得る。例えば、600Wh/kgのエネルギー密度を有するリチウム空気電池が既に存在するが、この値は従来のリチウムイオン電池の約3倍に相当する。従って空気電池は他の電池と比較して稼働時間を著しく向上し、さらに電池の大きさを大幅に縮小できる可能性がある。
【0003】
このような空気電池は、例えば、導電性材料、触媒および結着材を有する空気極層、および空気極の集電を行う空気極集電体を有する空気極と、負極活物質を有する負極層、および負極層の集電を行う負極集電体を有する負極と、空気極と負極の間でイオンを輸送する電解質とを有する。
【0004】
発明者は過去に、電解質中における寄生反応の抑制、湿度を含む周囲環境に依存しない電池特性の実現、充電過程における化合物の不均一な析出の抑制、広い稼働温度領域の実現といった課題を解決する新規な電池として、酸素イオンOが電解質間を移動することで充電および放電が行われる空気電池であって、酸素イオンを輸送するキャリアとして、非水性の有機分子を用いることを最も主要な特徴とする空気電池を提案した(特許文献2)。
【0005】
しかしながら、空気中の酸素Oが酸素イオンOに還元されるまでには複数の反応を経る必要があり、反応機構が複雑になるという課題があった。
【0006】
例えば、酸素分子OがO2−に還元される際に、O、O2−やOなどの活性酸素種が生じる場合がある。
【0007】
一般に、これらの活性酸素種は反応性が高く、不安定な物質であり、ある温度に達すると電池内の電解液と発熱反応を徐々に開始して熱暴走を引き起こす、または、電解液と不可逆反応を開始してサイクル特性に悪影響を及ぼすことが報告されている。
【0008】
そのため、従来の技術では、反応中に発生する活性酸素種は電池特性に悪影響を及ぼすものとして、できる限り発生を抑制すべきものとして認識されていた。例えば、電池内にラジカル捕捉剤を含有させることによりラジカルを早期に捕捉し、熱暴走や不可逆反応を押さえる技術が報告されている(特許文献3)。
【0009】
活性酸素種を二次電池に積極的に活用した技術としては、遷移金属に代 え、活性酸素を酸化還元反応に利用した二次電池が報告されている(特許文献4)。この技術では、正極に活性酸素種を高濃度に包接した構造を有する化合物を用い、負極から正極に輸送される金属イオンまたは金属化合物イオンと活性酸素種とが酸化還元反応することで電力を発生させる。電解質内を移動するのは金属イオンまたは金属化合物イオンであり、活性酸素種が電解質内を移動することで電力を発生させる電池は開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第7282295号
【特許文献2】特開2010ー152078号公報
【特許文献3】特開平10−162809号公報
【特許文献4】特開2010−165615号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Handbook of Batteries, McGrawーhill Professional
【非特許文献2】Ogasawara T et al.,J.Am.Chem.Soc.2006,128(4),pp1390ー1393
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上を踏まえ、本発明では、活性酸素種が電解質間を移動することで充電および放電が行われる空気電池であって、活性酸素種を輸送するキャリアとして、非水性の有機分子を用いることを最も主要な特徴とする空気電池を提案する。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明においては、負極活物質を含有する負極活物質層を有する負極層、および前記負極層の集電を行う負極集電体を有する負極と、空気極触媒を含有する空気極層、および前記空気極層の集電を行う空気極集電体を有する空気極と、前記負極、および前記空気極の間で、O、O2−、O、HOのいずれかの活性酸素種の輸送を行うキャリアを含有する電解質キャリア層を有する電解質とを有する空気電池であって前記電解質キャリア層の数は1層以上であり、前記キャリアは、非水系の有機分子であることを特徴とする空気電池を提供する。
【0014】
本発明によれば、従来の空気電池で用いられる水系電解質と異なり、本発明でキャリアとして用いられる非水系の有機分子は、金属を含む負極活物質に対して不活性であるために、寄生反応が起こらない。また、高い蒸気圧を有する非水系の有機分子をキャリアとして選べば、系からの分子の蒸発を無視できる程度に小さくすることができ、従って湿度を含む周囲環境に影響を受けにくい電池の設計が可能である。さらに、キャリアとして用いられる非水系の有機分子は金属酸化物の溶出を引き起こさないため、充電過程における金属化合物の不均一な析出を防ぐことができ、繰り返し充電が可能となる。また、稼働領域温度が水に依存しないために、水の融点以上沸点以下よりも広い温度領域で稼働する。
【0015】
本発明においては、キャリアは、アルコール類、硫酸塩類、チオ硫酸塩類、アルカリジチオン酸塩類、アルカリ亜ジチオン酸塩類、ポリチオン酸類、チオエーテル類、チオール類、チオレート類、スルホキシド類、スルホン類、アミン類、ウレアーゼ類、アリルアゾ化合物類、複素環化合物類、大環状化合物類、大環状化合物の金属錯体、および、これら化合物の水素原子がハロゲノ基群、ニトロ基群、スルホニル基群に置換された化合物のいずれかであってもよい。
【0016】
本発明においては、キャリアは、アミニウム、トリエチルアミン、ジエチルアミン、トリブチルアミン、ジブチルアミン、アニリン、ニトロアニリン、アミノエタノール、ヒドラジン、アゾベンゼン、ジエチルジアゼン、アジリジン、硫黄アレーン、アゼチジン、チエタン、ジアゼチジン、ジオキセタン、ジチエタン、アゾリジン、チオラン、フォスフォラン、シロラン、アルソラン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、オキサゾリジン、イソキサゾリジン、チアゾリジン、イソチアゾリジン、ジオキサラン、オキサチオラン、ジチオラン、ピペリジン、テトラヒドロフラン、チアン、ピペラジン、モルホリン、ジチアン、ジオキサン、トリオキサン、アゼパン、オキサパン、チエパン、アゾカン、オキセカン、チオカン、2,2,6,6ーテトラメチルピペリジン、アジリン、チイレン、ジアジリン、アゼテ、オキセテ、チエテ、ジオキセテ、ジチエテ、ピロール、フラン、チオフェン、フォスフォール、シロレ、アルソール、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、ピラゾリン、オキサゾール、オキサゾリン、イソキサゾール、イソキサゾリン、チアゾール、チアゾリン、イソチアゾール、イソチアゾリン、トリアゾール、ジチアゾール、フラザン、オキサジアゾール、チアジアゾール、テトラゾール、ピリジン、ピラン、チオピラン、ジアジン、オキサジン、チアジン、ダイオキシン、トリアジン、テトラジン、アゼピン、オキセピン、チエピン、ジアゼピン、チアゼピン、アゾシン、フタロシアニン、ポルフィリン、テトラベンゾポルフィリン、テトラアゾポルフィリン、および、これら化合物の金属錯体、および、これら化合物の水素原子がハロゲノ基群、ニトロ基群、スルホニル基群に置換された化合物のいずれかであってもよい。
【0017】
本発明においては、キャリアは、(NRmnで表されるアンモニウム塩であってもよく、mおよびnは自然数であり、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、炭素数5以上のアルキル基、炭素数5以上ののアルケニル基、フェニル基、ベンジル基、炭素数7以上のアリル基、および、これらの基の少なくとも一つの水素がハロゲノ基、ニトロ基、シアノ基、スルホ基のいずれかで置換されたもののいずれかまたはこれらの組み合わせで表され、Xは、F、Cl、Br、I、OH、Cr、IO、CHCOO、HCOO、N、CCOO、(CFSON、CFSO、CHSO、HSO、FSO、HS、CHSO、CHSO、NHSO、BH、B(CHCHCHCH、BF、B(C、CN、SCN、CS、HNO、HNO、PF、SbF、P、ClO、IO、ReOのいずれかであってもよい。
【0018】
本発明においては、キャリアは、Aで表される物質であってもよく、mおよびnは自然数であり、Aは1−アルキル−3−メチルイミダゾリウム、1−アルキルピリジニウム、N−メチル−N−アルキルピロリジニウム、ピロリジニウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属のいずれかであり、Xは、F、Cl、Br、I、OH、Cr、IO、CHCOO、HCOO、N、CCOO、(CFSON、CFSO、CHSO、HSO、FSO、HS、CHSO、CHSO、NHSO、BH、B(CHCHCHCH、BF、B(C、CN、SCN、CS、HNO、HNO、PF、SbF、P、ClO、IO、ReOのいずれかであってもよい。
【0019】
本発明においては、負極層が、O、O2−、O、HOのいずれかの活性酸素種の輸送を行うキャリアを含有する1層以上の負極キャリア層を含有し、負極集電体は隣接する前記負極キャリア層と前記電解質キャリア層の界面に位置するものであってもよい。
【0020】
本発明においては、負極層が負極キャリア層を含有せず、電解質キャリア層の数が2層以上である場合には、負極活物質層と接する電解質キャリア層以外の、少なくとも1つ以上の電解質キャリア層に含有されるキャリアが、水系溶媒に溶解していてもよい。負極活物質層に接しないキャリア層では、寄生反応は発生しないためである。
【0021】
本発明においては、負極層が2層以上の負極キャリア層を含有する場合、負極活物質層と接する負極キャリア層以外の負極キャリア層のうち、少なくとも1つ以上の層に含有される前記キャリア、および、少なくとも1つ以上の電解質キャリア層に含有されるキャリアが、水系溶媒に溶解していてもよい。負極活物質層に接しないキャリア層では、寄生反応は発生しないためである。
【0022】
本発明においては、少なくとも1つ以上の負極キャリア層、または、少なくとも1つ以上の電解質キャリア層において、キャリアが、唯一の構成物であってもよい。
【0023】
本発明においては、少なくとも1つ以上の負極キャリア層、または、少なくとも1つ以上の電解質キャリア層において、キャリアが、非水系溶媒に溶解していてもよい。
【0024】
本発明においては、少なくとも1つ以上の負極キャリア層、または、少なくとも1つ以上の電解質キャリア層において、キャリアが、イオン液体に溶解していてもよい。
【0025】
本発明においては、少なくとも1つ以上の負極キャリア層、または、少なくとも1つ以上の電解質キャリア層において、キャリアが、多孔性担体に支持されていてもよい。
【0026】
本発明においては、少なくとも1つ以上の負極キャリア層、または、少なくとも1つ以上の電解質キャリア層において、キャリアが、ポリマー分子の側鎖の一部であってもよい。
【0027】
本発明においては、少なくとも1つ以上の負極キャリア層、または、少なくとも1つ以上の電解質キャリア層において、キャリアが、ポリマー分子の主鎖の一部であってもよい。
【0028】
本発明においては、少なくとも1つ以上の負極キャリア層、または、少なくとも1つ以上の電解質キャリア層において、キャリアが、無機粒子の表面において固定化されていてもよい。
【0029】
本発明においては、少なくとも1つ以上の負極キャリア層、または、少なくとも1つ以上の電解質キャリア層において、キャリアが、有機粒子の表面において固定化されていてもよい。
【0030】
本発明においては、少なくとも1つ以上の負極キャリア層、または、少なくとも1つ以上の電解質キャリア層において、キャリアが、酸素イオン透過性セラミック導電体膜または粒子を含有していてもよい。
【0031】
本発明においては、空気極層が、キャリアにより含浸され、材料表面において酸素分子、電子、およびキャリアからなる三相界面を有することが好ましい。三相界面において反応が促進されるためである。
【0032】
本発明においては、負極活物質層が、キャリアにより含浸され、材料表面において負極活物質、電子、およびキャリアからなる三相界面を有することが好ましい。三相界面において反応が促進されるためである。
【0033】
本発明においては、負極活物質が、金属元素を含むことが好ましい。
【0034】
本発明においては、負極活物質が、Li、Na、K、Mg、Ca、Fe、Al、Zn、Sn、In、および、これら金属元素の合金を含むことが好ましい。
【0035】
本発明においては、負極活物質が、粒子状の金属を含んでいてもよい。
【0036】
本発明においては、負極活物質が、多孔性形状を有していてもよい。
【0037】
本発明においては、負極活物質が、撹拌装置により撹拌されてもよい。
【0038】
本発明においては、負極活物質が、水素、一酸化炭素、および、気体炭化水素を含んでいてもよい。
【0039】
本発明においては、空気極触媒が、炭素に支持された、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os、Mn、Ni、および、これら金属元素の合金を含むことが好ましい。
【0040】
本発明においては、空気極が、支持体により支持されており、空気極と前記支持体の間にバネが存在していてもよい。このバネが、空気極の体積変化を調整することができるためである。
【0041】
本発明においては、負極が、折りたたみ可能な支持体により支持されていてもよい。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、従来の空気電池と異なり、活性酸素種が電解質中を移動することで放電が行われる。本発明でキャリアとして用いられる非水系分子は金属を含む負極活物質に対して不活性であるために、寄生反応が起こらない。また、高い蒸気圧を有する非水系分子をキャリアとして選べば、系からの分子の蒸発を無視できる程度に小さくすることができ、従って湿度を含む周囲環境に影響を受けにくい電池の設計が可能である。さらに、キャリアとして用いられる非水系分子は金属酸化物の溶出を引き起こさないため、充電過程における金属化合物の不均一な析出を防ぐことができ、繰り返し充電が可能となる。また、稼働領域温度が水に依存しないために、水の融点以上沸点以下よりも広い温度領域で稼働する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】負極層に負極キャリア層が含まれず、かつ、電解質キャリア層が1層である場合の空気電池の内部機構、および反応機構を示した説明図である。図中の円内は2線により指定された箇所を拡大したものである。
【図2】負極層に負極キャリア層が含まれず、かつ、電解質キャリア層が2層である場合の空気電池の内部機構、および反応機構を示した説明図である。図中の円内は2線により指定された箇所を拡大したものである。
【図3】負極層に負極キャリア層が1層含まれ、かつ、電解質キャリア層が1層である場合の空気電池の内部機構、および反応機構を示した説明図である。図中の円内は2線により指定された箇所を拡大したものである。
【図4】負極層に負極キャリア層が含まれず、かつ、電解質キャリア層が1層である場合の空気電池の組み立て例を示した説明図である。
【図5】負極層に負極キャリア層が含まれず、かつ、電解質キャリア層が2層である場合の空気電池の組み立て例を示した説明図である。
【図6】負極層に負極キャリア層が1つ含まれ、かつ、電解質キャリア層が1層である場合の空気電池の組み立て例を示した説明図である。
【図7】負極層に負極キャリア層が1つ含まれ、かつ、電解質キャリア層が1層である場合の空気電池の別の組み立て例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明は空気極、負極とそれらを隔離する電解質を有する。電解質は、活性酸素種の輸送を行うキャリアを含有する電解質キャリア層を有する。空気極は、酸素を酸化還元する空気極触媒を含有する空気極層、および空気極層の集電を行う空気極集電体を有する。負極は、負極活物質を含有する負極活物質層を有する負極層、および前記負極層の集電を行う負極集電体を有する。
【0045】
電解質が有する電解質キャリア層は1つであっても、2つ以上であってもよい。
【0046】
負極層は、負極活物質を含有する負極活物質層のほかに、活性酸素種の輸送を行うキャリアを含有する1つ以上の負極キャリア層を有していてもよい。すなわち、1つ以上の負極キャリア層が、負極活物質層の空気極側の隣に位置し、かつ、負極集電体が、負極活物質層から最も離れて位置する負極キャリア層と、それと隣り合う電解質キャリア層との界面に位置していてもよい。
【0047】
図1は、負極層に負極キャリア層が含まれず、かつ、電解質キャリア層が1つである場合の空気電池の内部機構、および反応機構を示した説明図である。負極51は、負極活物質8を含有する負極活物質層22を有する負極層1、および負極活物質層22の集電を行う負極集電体4を有する。空気極53は、空気極触媒20を含有する空気極層3、および空気極層3の集電を行う空気極集電体5を有する。空気極53は、水の浸入を抑制するガス拡散メンブレン21を含んでもよい。電解質52は、負極活物質層22と空気極層3の間で活性酸素種の輸送を行うキャリア6を含有する電解質キャリア層2を有する。電解質キャリア層2はキャリア6、キャリア6と活性酸素種が結びついたキャリアイオン7を有する。以下、放電過程での反応について説明する。まず酸素源10から酸素が供給される。電解質52のキャリア6は空気極層3内に一部浸透しており、空気極層3内において、酸素分子、電子および空気極触媒20の境界面が形成される。この境界面では、酸素源10から供給される酸素分子が空気極集電体5から来る電子によって還元され、活性酸素種が生成される。生成された活性酸素種はキャリア6と反応し、キャリアイオン7が生成される。キャリアイオン7は電解質キャリア層2中を負極側へ移動する。負極活物質層22には電解質52のキャリアイオン7が一部浸透しており、負極活物質層22内において、活性酸素種、電子および負極活物質8の境界面が形成される。境界面において、キャリアイオン7は負極活物質8と反応し、キャリア6と負極活物質酸化物9が生成され、電子が放出される。放出された電子は負極集電体4に移動し、外部回路を経由して空気極集電体5に移動する。従って、本実施形式では、負極活物質8が酸化されることにより電力が発生し、反応は負極活物質8が完全に酸化されるまで続く。負極活物質8として金属元素が用いられる場合、物質8の酸化反応はキャリアイオン7に露出している金属の表面から開始し、徐々に中心部へ進行する。
【0048】
図1においては、場合によっては、キャリア6は多孔性担体24に包含されている。あるいは、キャリア6は溶媒23に溶解し、多孔性担体24に包含されている。溶媒23は非水系溶媒およびイオン液体を含む。あるいは、キャリア6は有機ポリマーやシルセスキオキサン等のポリマー材料内に組み込まれている。
【0049】
図2は、負極層に負極キャリア層が含まれず、かつ、電解質キャリア層が2つである場合の空気電池の内部機構、および反応機構を示した説明図である。図中の円内は2線により指定された箇所を拡大したものである。負極51は、負極活物質8を含有する負極活物質層22を有する負極層1、および負極活物質層22の集電を行う負極集電体4を有する。空気極53は、空気極触媒20を含有する空気極層3、および空気極層3の集電を行う空気極集電体5を有する。場合によっては、空気極53は、水の浸入を抑制するガス拡散メンブレン21を含んでもよい。電解質52は、空気極層3から活性酸素種の輸送を行うキャリア6を含有する電解質キャリア層2、および負極活物質層22へ酸素イオンの輸送を行う別のキャリア11を含有する電解質キャリア層13を有する。キャリア11はキャリア6よりも低い酸化還元電位を有する。以下、放電過程での反応について説明する。まず酸素源10から酸素が供給される。電解質52のキャリア6は空気極層3内に一部浸透しており、空気極層3内において、酸素分子、電子および空気極触媒20の境界面が形成される。この境界面では、酸素源10から供給される酸素分子が空気極集電体5から来る電子によって還元され、活性酸素種が生成される。生成された活性酸素種はキャリア6と反応し、キャリアイオン7が生成される。キャリアイオン7は電解質キャリア層2内を負極側へ移動する。キャリアイオン7が電解質キャリア層13との界面に到達すると、キャリアイオン7に結合している活性酸素種がキャリア11に移動し、キャリアイオン7がキャリア6に戻り、キャリア11はキャリアイオン12に変換される。キャリア6は空気極53において再び活性酸素種と反応する。キャリアイオン12は電解質キャリア層13中を負極側へ移動する。負極活物質層22には電解質52のキャリアイオン12が一部浸透しており、負極活物質層22内において、活性酸素種、電子および負極活物質8の境界面が形成される。境界面において、キャリアイオン12は負極活物質8と反応し、キャリア11と負極活物質酸化物9が生成され、電子が放出される。放出された電子は負極集電体4に移動し、外部回路を経由して空気極集電体5に移動する。従って、本実施形式では、負極活物質8が酸化されることにより電力が発生し、反応は負極活物質8が完全に酸化されるまで続く。負極活物質8として金属元素が用いられる場合、金属酸化反応はキャリアイオン12に露出している金属表面から開始し、徐々に中心部へ進行する。
【0050】
図2においては、場合によっては、キャリア6は多孔性担体24に包含されている。あるいは、キャリア6は、溶媒23に溶解し、多孔性担体24に包含されている。溶媒23は、非水系溶媒、およびイオン液体を含む。あるいは、溶媒23には、水系溶媒を用いてもよい。あるいは、キャリア6は、有機ポリマーやシルセスキオキサン等のポリマー材料内に組み込まれている。場合によっては、キャリア11は多孔性担体26に包含されている。あるいは、キャリア11は溶媒25に溶解し、多孔性担体26に包含されている。溶媒25は、非水系溶媒、イオン液体を含む。あるいは、キャリア11は有機ポリマーやシルセスキオキサン等のポリマー材料内に組み込まれている。
【0051】
図2において、電解質キャリア層は3つ以上であってもよい。この場合、電解質キャリア層に含まれるキャリアの酸化還元電位が高いものから順に、空気極側から配置される。すなわち、最も高い酸化還元電位を有するキャリアを有する電解質キャリア層が空気極と隣接し、最も低い酸化還元電位を有するキャリアを有する電解質キャリア層が負極と隣接する。放電過程において、酸素イオンは空気極53から隣接する電解質キャリア層に移動し、その後負極側の隣の層に移動する。同様にキャリアが層内を移動し、最終的に負極活物質8と反応し、負極活物質酸化物9が生成され、電子が放出される。
【0052】
電解質キャリア層が3つ以上の場合、負極活物質層22と隣り合う電解質キャリア層以外の層に含まれるキャリアを溶解する溶媒には、非水系溶媒、イオン液体に加え、水系溶媒を用いてもよい。負極活物質層22に接しないキャリア層では、寄生反応は発生しないためである。
【0053】
図3は、負極層に負極キャリア層が1つ含まれ、かつ、電解質キャリア層が1つである場合の空気電池の内部機構、および反応機構を示した説明図である。図中の円内は2線により指定された箇所を拡大したものである。負極51は、負極活物質8を含有する負極活物質層22、負極活物質層22と電解質キャリア層2の間で酸素イオンの輸送を行うキャリア61を含有する負極キャリア層63、および負極キャリア層63の集電を行う負極集電体4を有する。負極キャリア層63は負極活物質層22と隣接する。負極集電体4は、負極キャリア層63と電解質キャリア層2の界面に位置し、負極活物質層22とは電気的に接続されていない。空気極53は、空気極触媒20を含有する空気極層3、および空気極層3の集電を行う空気極集電体5を有する。場合によっては、空気極53は、水の浸入を抑制するガス拡散メンブレン21を含んでもよい。電解質52は、負極キャリア層63と空気極層3の間で酸素イオンの輸送を行うキャリア6を含有する電解質キャリア層2を有する。以下、放電過程での反応について説明する。まず酸素源10から酸素が供給される。電解質52のキャリア6は空気極層3内に一部浸透しており、空気極層3内において、酸素分子、電子および空気極触媒20の境界面が形成される。この境界面では、酸素源10から供給される酸素分子が空気極集電体5から来る電子によって還元され、活性酸素種が生成される。生成された活性酸素種はキャリア6と反応し、キャリアイオン7が生成される。キャリアイオン7は電解質キャリア層2内を負極側へ移動する。キャリアイオン7が負極キャリア層63との界面に到達すると、キャリアイオン7に結合している酸素イオンがキャリア61に移動し、キャリアイオン7がキャリア6に戻り、キャリア61はキャリア酸化物62に変換され、電子が放出される。放出された電子は負極集電体4に移動し、外部回路を経由して空気極集電体5に移動する。従って、本実施形式では、負極キャリア層63のキャリア61が酸化されることにより電力が発生する。キャリア6は空気極53において再び活性酸素種と反応する。キャリア酸化物62は負極キャリア層63中を負極活物質層22側へ移動する。負極活物質層22には電解質52のキャリア酸化物62が一部浸透しており、負極活物質層22内において、キャリア酸化物62、電子および負極活物質8の境界面が形成される。境界面において、キャリア酸化物62は負極活物質8と反応し、キャリア61と負極活物質酸化物9が生成される。キャリア61は、キャリアイオン7と負極キャリア層63との界面へ戻り、再びキャリアイオン7と反応し、キャリア酸化物62に変換され、電子が放出される。これらの反応は負極活物質8が完全に酸化されるまで続く。負極活物質8として金属元素が用いられる場合、金属酸化反応はキャリア酸化物62に露出している金属表面から開始し、徐々に中心部へ進行する。
【0054】
図3において、負極キャリア層63、および電解質キャリア層2はそれぞれ2つ以上あってもよい。この場合、全ての電解質キャリア層に含まれるキャリアの酸化還元電位は、負極キャリア層に含まれるいずれのキャリアの還元電位よりも高い。電解質キャリア層は、含まれるキャリアの酸化還元電位が高いものから順に、空気極側から配置される。負極キャリア層も同様に、含まれるキャリアの酸化還元電位が高いものから順に、空気極側から配置される。電解質キャリア層の内で、酸化還元電位が最も高いキャリアを有する層は、空気極と隣接する。負極キャリア層の内で、酸化還元電位が最も低いキャリアを有する層は、負極活物質層と隣接する。電解質キャリア層の内で、酸化還元電位が最も低いキャリアを有する層と、負極キャリア層の内で、酸化還元電位が最も高いキャリアを有する層は、互いに隣接する。活性酸素種と反応し電力の発生に寄与するのは、互いに隣接する電解質キャリア層および負極キャリア層に含まれるキャリアである。
【0055】
図3においては、場合によっては、キャリア6は多孔性担体24に包含されている。あるいは、キャリア6は、溶媒23に溶解し、多孔性担体24に包含されている。溶媒23は、非水系溶媒、およびイオン液体を含む。あるいは、溶媒23には、水系溶媒を用いてもよい。負極活物質層に接しないキャリア層では、寄生反応は発生しないためである。あるいは、キャリア6は、有機ポリマーやシルセスキオキサン等のポリマー材料内に組み込まれている。場合によっては、キャリア61は多孔性担体66に包含されている。あるいは、キャリア61は溶媒65に溶解し、多孔性担体66に包含されている。溶媒65は、非水系溶媒、イオン液体を含む。
【0056】
負極キャリア層が2つ以上の場合、負極活物質層と隣り合う負極キャリア層以外の層に含まれるキャリアを溶解する溶媒には、非水系溶媒、イオン液体に加え、水系溶媒を用いてもよい。負極活物質層に接しないキャリア層では、寄生反応は発生しないためである。
【0057】
表面積の大きい負極活物質8を用いることで、負極活物質8とキャリア6、11または61との接触面積を大きくし、負極活物質層22における反応を促進できる場合がある。あるいは、負極活物質8とキャリア6、11または61とを機械的に撹拌することでも反応が促進される場合がある。負極活物質8が酸素イオンにより酸化される反応は発熱反応であるため、負極51を電解質52、および空気極53よりも下部に設置することで熱循環が生じ、これによりキャリア6、11または61が撹拌され、反応が促進される場合がある。場合によっては、キャリア6、11または61は酸素イオンを放出した後に気化され、空気極側に向かって循環する。
【0058】
場合によっては、負極キャリア層62、および電解質キャリア層2、13は、キャリア6、11または61のみから構成される。あるいは、キャリア6、11または61の構成物は多孔性担体内に格納される。あるいは、キャリア6、11または61の構成物はポリマー材料、またはポリマー粒子、または無機粒子に共有結合を含む分子間力により固定される。
【0059】
本発明の空気電池は室温で稼働する。あるいは摂氏30度以上900度以下の高温で稼働する。あるいは摂氏マイナス30度以上30度以下の低温で稼働する。稼働に必要な熱は発熱反応を通した自己放熱と外部熱源の組み合わせにより供給される。外部熱源としては、電池の隣に位置したヒーター、あるいはエンジンからの廃熱等の熱源があり得る。場合によっては、電池の自己放熱のみでも稼働温度領域を維持することも可能である。
【0060】
本発明で利用されるキャリア6、11または61は非水系の有機分子であり、複数の原子価状態を持つことができ、活性酸素種を輸送可能な部位を有する。場合によってキャリア6、11または61はXという化学式で表せる。ここでXはN、C、S、Si、O、P、As、およびAlまたはこれらの混合から選定され、Rは水素、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基またはより分子量の大きなアルキル基、アルケニル基、芳香族基、またはこれらの組み合わせから選定される。jは0から6までの整数であり、kは1から30までの整数である。Xの例としては、アルコール、硫酸塩類、チオ硫酸塩類、アルカリジチオン酸塩類、アルカリ亜ジチオン酸塩類、ポリチオン酸類、チオエーテル類、チオール類、チオレート類、スルホキシド類、スルホン類、アミン類、ウレアーゼ類、アリルアゾ化合物類、複素環化合物類、大環状化合物類、大環状化合物の金属錯体、およびこれらのハロゲン化物がある。アミン類の例としては、アミニウム、トリエチルアミン、ジエチルアミン、トリブチルアミン、ジブチルアミン、アニリン、ニトロアニリン、アミノエタノール、ヒドラジンがある。アリルアゾ化合物類の例としては、アゾベンゼン、またはジエチルジアゼン等のアルキルアゾ化合物がある。複素環化合物類は、窒素、酸素、硫黄、リン、ケイ素、ヒ素またはこれらのヘテロ原子のうちいずれかを含む有機分子であり、環の数は3かそれ以上のものである。複素環化合物類は飽和または不飽和構造を有する。飽和複素環化合物の例としては、アジリジン、硫黄アレーン、アゼチジン、チエタン、ジアゼチジン、ジオキセタン、ジチエタン、アゾリジン、チオラン、フォスフォラン、シロラン、アルソラン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、オキサゾリジン、イソキサゾリジン、チアゾリジン、イソチアゾリジン、ジオキサラン、オキサチオラン、ジチオラン、ピペリジン、テトラヒドロフラン、チアン、ピペラジン、モルホリン、ジチアン、ジオキサン、トリオキサン、アゼパン、オキサパン、チエパン、アゾカン、オキセカン、チオカン、2,2,6,6ーテトラメチルピペリジンがある。不飽和複素環化合物の例としては、アジリン、チイレン、ジアジリン、アゼテ、オキセテ、チエテ、ジオキセテ、ジチエテ、ピロール、フラン、チオフェン、フォスフォール、シロレ、アルソール、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、ピラゾリン、オキサゾール、オキサゾリン、イソキサゾール、イソキサゾリン、チアゾール、チアゾリン、イソチアゾール、イソチアゾリン、トリアゾール、ジチアゾール、フラザン、オキサジアゾール、チアジアゾール、テトラゾール、ピリジン、ピラン、チオピラン、ジアジン、オキサジン、チアジン、ダイオキシン、トリアジン、テトラジン、アゼピン、オキセピン、チエピン、ジアゼピン、チアゼピン、アゾシンがある。これらの化合物に含まれる水素原子は、ハロゲノ基群、ニトロ基群、スルホニル基群に置換されてもよい。大環状化合物の例としては、フタロシアニン、ポルフィリン、テトラベンゾポルフィリン、テトラアゾポルフィリンおよびこれらの金属錯体がある。
【0061】
キャリアは、(NRmnで表されるアンモニウム塩であってもよい。ここに、nおよびmは自然数であり、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、炭素数5以上のアルキル基、炭素数5以上のアルケニル基、フェニル基、ベンジル基、炭素数7以上のアリル基、および、これらの基の少なくとも一つの水素がハロゲノ基、ニトロ基、シアノ基、スルホ基のいずれかで置換されたもののいずれかまたはこれらの組み合わせで表され、Xは、F、Cl、Br、I、OH、Cr、IO、CHCOO、HCOO、N、CCOO、(CFSON、CFSO、CHSO、HSO、FSO、HS、CHSO、CHSO、NHSO、BH、B(CHCHCHCH、BF、B(C、CN、SCN、CS、HNO、HNO、PF、SbF、P、ClO、IO、ReOのいずれかである。具体的な例としては、テトラブチルアンモニウム・ヘキサフルオロリン酸、テトラブチルアンモニウム・p−トルエンスルホナート、テトラブチルアンモニウムヨージド等がある。
【0062】
キャリアは、Anで表される物質であってもよい。ここに、nおよびmは自然数であり、Aは1−アルキル−3−メチルイミダゾリウム、1−アルキルピリジニウム、N−メチル−N−アルキルピロリジニウム、ピロリジニウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属のいずれかであり、Xは、F、Cl、Br、I、OH、Cr、IO、CHCOO、HCOO、N、CCOO、(CFSON、CFSO、CHSO、HSO、FSO、HS、CHSO、CHSO、NHSO、BH、B(CHCHCHCH、BF、B(C、CN、SCN、CS、HNO、HNO、PF、SbF、P、ClO、IO、ReOのいずれかである。具体的な例としては、1−エチル3−メチルイミダゾリウム・1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルホナート、テトラブチルホスホニウム・p−トルエンスルホナート、N−ブチルN−メチルピロリジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1,3−ジメチルイミダゾリウム・メチルスルファート、1−エチル3−メチルイミダゾリウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド等がある。
【0063】
場合によっては、キャリアは有機ポリマーやシルセスキオキサン等のポリマー材料内に組み込まれている。有機ポリマーの材料例としては、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミドがある。シルセスキオキサンは、(R’SiO1.5の化学式で表される化合物である。nは自然数であり、本発明に応用する場合には2よりも大きい値をとる。R’は有機官能基である。シルセスキオキサンのネットワークにおいては、キャリア6、11または61はR’またはその一部を置換する。キャリア6、11または61はこれらのポリマー、またはこれらのポリマーの共重合体に側鎖として結合していてもよい。またはキャリア6、11または61はこれらのポリマー、またはこれらのポリマーの共重合体の骨格に導入されていてもよい。場合によっては、キャリアは炭素、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の無機粒子表面に組み込まれてもよい。粒子径は1nmから1mmの範囲であることが好ましい。場合によっては、キャリア6、11または61は溶媒として機能する。場合によっては、キャリア6、11または61は、イットリウム安定化ジルコニア、サマリウムドープセリア、ガドリニウムドープセリア等の酸素透過性セラミック膜または粒子を含んでもよい。場合によっては、キャリア6、11または61は水素、一酸化炭素、炭化水素気体等の還元性気体を含んでもよい。
【0064】
好ましい空気極集電体5の材料例としては、白金、銀、金、チタン、およびフェライトステンレス鋼がある。好ましい空気極触媒20の材料例としては、炭素、炭素に支持された白金、炭素に支持されたパラジウム、炭素に支持された銀、炭素に支持された金、炭素に支持されたマンガン、炭素に支持されたニッケル、および炭素に支持されないこれらの材料、およびにこれらの金属の合金がある。場合によっては、空気極触媒20は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエチルケトン、およびポリイミド等のポリマーバインダー間に拡散している。場合によっては、空気極触媒20は、カーボンブラック、銀粉末、金粉末、ニッケル粒子、および白金粒子等の導電性充填剤を含んでもよい。空気極53のガス拡散メンブレン21の材料例としては、ポリテトラフルオエチレン多孔質フィルムがある。空気極51の空隙率は、5%から95%、好ましくは10%から70%、さらに好ましくは20%から60%である。空気極51のポア径は、1nmから1mmの範囲にあることが好ましい。
【0065】
好ましい負極集電体4の材料例としては、白金、銀、金、ニッケル合金、およびフェライト鋼等がある。
【0066】
場合によっては、負極活物質8は、金属元素である。負極活物質8に用いられる金属元素の例としては、Li、Na、K等のアルカリ金属、またはMg、Ca等のアルカリ土類金属、またはFe、Al、Zn、Sn、Ig等のその他金属、またはこれら金属元素の合金等がある。場合によっては、負極活物質8には、炭素が用いられる。負極活物質8に用いられる炭素の粒子径は1nmから1mmの範囲であることが好ましい。場合によっては、負極活物質8はポリマーバインダー内に組み込まれている。ポリマーバインダーの例としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエチルケトン、ポリイミド、およびポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミドに支持されたキャリアのポリマー体がある。負極活物質8は、カーボンブラック、銀粉末、金粉末、ニッケル粒子、および白金粒子等の導電性充填剤を含んでもよい。負極51の空隙率は、5%から95%、好ましくは10%から70%、さらに好ましくは20%から60%である。負極51の空隙の一部はキャリア6、11または61を包含している。場合によっては、負極活物質8は、水素、一酸化炭素、またはメタン、エチレン、プロパン等の気体炭化水素であってもよい。
【0067】
図4は、負極層51に負極キャリア層が含まれず、かつ、電解質キャリア層が1つである場合の空気電池の組み立て例を示した説明図である。負極51は負極集電体4を介して、負極ケース35、および負極端子33と電気的に接続されている。負極ケース35は負極端子としても機能する。空気極53は空気極集電体5を介して、空気極ケース36、および空気極端子34と電気的に接続されている。空気極ケース36は空気極端子としても機能する。負極ケース35と空気極ケース36は、絶縁体31により絶縁されている。絶縁体31は内部構成物の漏洩を防ぐガスケットとしても機能する。酸素はガス拡散メンブレン21を通って孔38から電池内に侵入する。バネ37は、空気極53、電解質52と負極51とが電気的に充分接続されるよう圧力を負荷するものである。また、バネ37は、負極活物質8が放電過程で負極51においてその負極活物質酸化物8に変換される際の体積変化を吸収する役割も果たす。
【0068】
図5は、負極層に負極キャリア層が含まれず、かつ、電解質キャリア層が2つである場合の空気電池の組み立て例を示した説明図である。電解質キャリア層が2つあることを除いては、図4と同一の構成である。
【0069】
図6は、負極層に負極キャリア層が1つ含まれ、かつ、電解質キャリア層が1つである場合の空気電池の組み立て例を示した説明図である。負極集電体4が負極キャリア層と電解質キャリア層の界面に存在することを除いては、図5と同一の構成である。
【0070】
図7は、負極活物質を機械的撹拌により撹拌する場合の空気電池の組み立て例を示した説明図である。撹拌機40は空気電池からの電力により稼働する。
【0071】
負極ケース35の好ましい材料例としては、ステンレス鋼、ニッケル合金、フェライトステンレス鋼、およびチタンがある。負極ケース35は剛性の高い缶構造でも、折り畳みおよび引き延ばし可能な構造でもよい。
【0072】
空気極ケース36の好ましい材料例としては、ステンレス鋼、ニッケル合金、フェライトステンレス鋼、およびチタンがある。絶縁体31の好ましい材料例としては、ナイロン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエチレン、およびポリプロピレンがある。
【0073】
バネ37は、プラスチック製のスポンジでも金属コイルバネでもよい。バネ37の好ましいプラスチック材料例としては、ポリウレタン、シリコン、ポリプロピレンがある。バネ37の好ましい金属材料例としては、ステンレス鋼、およびチタンがある。
【0074】
なお、図4、5、6および7は平板構造の空気電池を示しているが、本発明の空気電池は平板形状の電池を積み重ねたもの、またはチューブ形状のものであってもよい。またこれらは組み立て例の一例であり、上述の機構を兼ね備えた、その他の構造を持つ電池の製作も可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 負極層
2、13 電解質キャリア層
3 空気極層
4 負極集電体
5 空気極集電体
6、11、61 キャリア
7、12 キャリアイオン
8 負極活物質
9 負極活物質酸化物
10 酸素源
20 空気極触媒
21 ガス拡散メンブレン
22 負極活物質層
23、25、65 溶媒
24、26、66 多孔性担体
31 絶縁体
33 負極端子
34 空気極端子
35 負極ケース
36 空気極ケース
37 バネ
38 孔
40 撹拌機
51 負極
52 電解質
53 空気極
62 キャリア酸化物
63 負極キャリア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質を含有する負極活物質層を有する負極層、および前記負極層の集電を行う負極集電体を有する負極と、
空気極触媒を含有する空気極層、および前記空気極層の集電を行う空気極集電体を有する空気極と、
前記負極、および前記空気極の間で、O、O2−、O、HOのいずれかの活性酸素種の輸送を行うキャリアを含有する電解質キャリア層を有する電解質と
を有する空気電池であって
前記電解質キャリア層の数は1層以上であり、
前記キャリアは、非水系の有機分子である
ことを特徴とする空気電池。
【請求項2】
前記キャリアは、アルコール類、硫酸塩類、チオ硫酸塩類、アルカリジチオン酸塩類、アルカリ亜ジチオン酸塩類、ポリチオン酸類、チオエーテル類、チオール類、 チオレート類、スルホキシド類、スルホン類、アミン類、ウレアーゼ類、アリルアゾ化合物類、複素環化合物類、大環状化合物類、大環状化合物の金属錯体、および、これら化合物の水素原子がハロゲノ基群、ニトロ基群、スルホニル基群に置換された化合物のいずれかである
ことを特徴とする、請求項1に記載の空気電池。
【請求項3】
前記キャリアは、アミニウム、トリエチルアミン、ジエチルアミン、トリブチルアミン、ジブチルアミン、アニリン、ニトロアニリン、アミノエタノール、ヒドラジン、アゾベンゼン、ジエチルジアゼン、アジリジン、硫黄アレーン、アゼチジン、チエタン、ジアゼチジン、ジオキセタン、ジチエタン、アゾリジン、チオラン、フォスフォラン、シロラン、アルソラン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、オキサゾリジン、イソキサゾリジン、チアゾリジン、イソチアゾリジン、ジオキサラン、オキサチオラン、ジチオラン、ピペリジン、テトラヒドロフラン、チアン、ピペラジン、モルホリン、ジチアン、ジオキサン、トリオキサン、アゼパン、オキサパン、チエパン、アゾカン、オキセカン、チオカン、2,2,6,6ーテトラメチルピペリジン、アジリン、チイレン、ジアジリン、アゼテ、オキセテ、チエテ、ジオキセテ、ジチエテ、ピロール、フラン、チオフェン、フォスフォール、シロレ、アルソール、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、ピラゾリン、オキサゾール、オキサゾリン、イソキサゾール、イソキサゾリン、チアゾール、チアゾリン、イソチアゾール、イソチアゾリン、トリアゾール、ジチアゾール、フラザン、オキサジアゾール、チアジアゾール、テトラゾール、ピリジン、ピラン、チオピラン、ジアジン、オキサジン、チアジン、ダイオキシン、トリアジン、テトラジン、アゼピン、オキセピン、チエピン、ジアゼピン、チアゼピン、アゾシン、フタロシアニン、ポルフィリン、テトラベンゾポルフィリン、テトラアゾポルフィリン、および、これら化合物の金属錯体、および、これら化合物の水素原子がハロゲノ基群、ニトロ基群、スルホニル基群に置換された化合物のいずれかである
ことを特徴とする、請求項2に記載の空気電池。
【請求項4】
前記キャリアが、(NRmnで表されるアンモニウム塩であることを特徴とする、請求項1に記載の空気電池であって、
nおよびmは自然数であり、
Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、炭素数5以上のアルキル基、炭素数7以上のアルケニル基、フェニル基、ベンジル基、炭素数7以上のアリル基、および、これらの基の少なくとも一つの水素がハロゲノ基、ニトロ基、シアノ基、スルホ基のいずれかで置換されたもののいずれかまたはこれらの組み合わせで表され、
Xは、F、Cl、Br、I、OH、Cr、IO、CHCOO、HCOO、N、CCOO、(CFSON、CFSO、CHSO、HSO、FSO、HS、CHSO、CHSO、NHSO、BH、B(CHCHCHCH、BF、B(C、CN、SCN、CS、HNO、HNO、PF、SbF、P、ClO、IO、ReOのいずれかである
ことを特徴とする、請求項1に記載の空気電池。
【請求項5】
前記キャリアが、Anで表される物質であることを特徴とする、請求項1に記載の空気電池であって、
nおよびmは自然数であり、
Aは1−アルキル−3−メチルイミダゾリウム、1−アルキルピリジニウム、N−メチル−N−アルキルピロリジニウム、ピロリジニウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属のいずれかであり、
Xは、F、Cl、Br、I、OH、Cr、IO、CHCOO、HCOO、N、CCOO、(CFSON、CFSO、CHSO、HSO、FSO、HS、CHSO、CHSO、NHSO、BH、B(CHCHCHCH、BF、B(C、CN、SCN、CS、HNO、HNO、PF、SbF、P、ClO、IO、ReOのいずれかである
ことを特徴とする、請求項1に記載の空気電池。
【請求項6】
負極層が、O、O2−、O、HOのいずれかの活性酸素種の輸送を行うキャリアを含有する負極キャリア層を含有する
ことを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の空気電池であって、
前記負極キャリア層の数は1層以上であり、
前記負極集電体は隣接する前記負極キャリア層と前記電解質キャリア層の界面に位置する
ことを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の空気電池。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の空気電池であって、前記電解質キャリア層の数が2層以上である場合に、前記負極活物質層と接する電解質キャリア層以外の、少なくとも1つ以上の電解質キャリア層に含有される前記キャリアが、水系溶媒に溶解していることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の空気電池。
【請求項8】
請求項6に記載の空気電池であって、前記負極キャリア層の数が2層以上である場合に、前記負極活物質層と接する負極キャリア層以外の負極キャリア層のうち、少なくとも1つ以上の層に含有される前記キャリア、および、少なくとも1つ以上の電解質キャリア層に含有される前記キャリアが、水系溶媒に溶解していることを特徴とする、請求項6に記載の空気電池。
【請求項9】
少なくとも1つ以上の前記負極キャリア層、または、少なくとも1つ以上の前記電解質キャリア層において、前記キャリアが、唯一の構成物であることを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の空気電池。
【請求項10】
少なくとも1つ以上の前記負極キャリア層、または、少なくとも1つ以上の前記電解質キャリア層において、前記キャリアが、非水系溶媒に溶解していることを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の空気電池。
【請求項11】
少なくとも1つ以上の前記負極キャリア層、または、少なくとも1つ以上の前記電解質キャリア層において、前記キャリアが、イオン液体に溶解していることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の空気電池。
【請求項12】
少なくとも1つ以上の前記負極キャリア層、または、少なくとも1つ以上の前記電解質キャリア層において、前記キャリアが、多孔性担体に支持されていることを特徴とする、請求項1から11のいずれかに記載の空気電池。
【請求項13】
少なくとも1つ以上の前記負極キャリア層、または、少なくとも1つ以上の前記電解質キャリア層において、前記キャリアが、ポリマー分子の側鎖の一部であることを特徴とする、請求項1から12のいずれかに記載の空気電池。
【請求項14】
少なくとも1つ以上の前記負極キャリア層、または、少なくとも1つ以上の前記電解質キャリア層において、前記キャリアが、ポリマー分子の主鎖の一部であることを特徴とする、請求項1から13のいずれかに記載の空気電池。
【請求項15】
少なくとも1つ以上の前記負極キャリア層、または、少なくとも1つ以上の前記電解質キャリア層において、前記キャリアが、無機粒子の表面において固定化されていることを特徴とする、請求項1から14のいずれかに記載の空気電池。
【請求項16】
少なくとも1つ以上の前記負極キャリア層、または、少なくとも1つ以上の前記電解質キャリア層において、前記キャリアが、有機粒子の表面において固定化されていることを特徴とする、請求項1から15のいずれかに記載の空気電池。
【請求項17】
少なくとも1つ以上の前記負極キャリア層、または、少なくとも1つ以上の前記電解質キャリア層において、前記キャリアが、酸素イオン透過性セラミック導電体膜または粒子を含有することを特徴とする、請求項1から16のいずれかに記載の空気電池。
【請求項18】
前記空気極層が、前記キャリアにより含浸され、材料表面において酸素分子、電子、およびキャリアからなる三相界面を有することを特徴とする、請求項1から17のいずれかに記載の空気電池。
【請求項19】
前記負極活物質層が、前記キャリアにより含浸され、材料表面において負極活物質、電子、およびキャリアからなる三相界面を有することを特徴とする、請求項1から18のいずれかに記載の空気電池。
【請求項20】
前記負極活物質が、金属元素を含むことを特徴とする、請求項1から19のいずれかに記載の空気電池。
【請求項21】
前記負極活物質が、Li、Na、K、Mg、Ca、Fe、Al、Zn、Sn、In、および、これら金属元素の合金を含むことを特徴とする、請求項1から20のいずれかに記載の空気電池。
【請求項22】
前記負極活物質が、粒子状の金属を含むことを特徴とする、請求項1または21のいずれかに記載の空気電池。
【請求項23】
前記負極活物質が、多孔性形状を有することを特徴とする、請求項1から22のいずれかに記載の空気電池。
【請求項24】
前記負極活物質が、撹拌装置により撹拌されることを特徴とする、請求項1から23のいずれかに記載の空気電池。
【請求項25】
前記負極活物質が、水素、一酸化炭素、および、気体炭化水素を含むことを特徴とする、請求項1から24のいずれかに記載の空気電池。
【請求項26】
前記空気極触媒が、炭素に支持された、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os、Mn、Ni、および、これら金属元素の合金を含むことを特徴とする、請求項1から25に記載の空気電池。
【請求項27】
前記空気極が、支持体により支持されており、前記空気極と前記支持体の間にバネが存在することを特徴とする、請求項1から22のいずれかに記載の空気電池であって、前記バネが正極の体積変化を調整することを特徴とする、請求項1から26のいずれかに記載の空気電池。
【請求項28】
前記負極が、折りたたみ可能な支持体により支持されていることを特徴とする、請求項1から27のいずれかに記載の空気電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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